説明

逆F級増幅回路

【課題】出力容量及び出力直列寄生インダクタンスの影響に対して最適化された、超高周波数領域において高効率を実現することができる逆F級増幅回路を提供する。
【解決手段】本発明の逆F級増幅回路は、FET1と、出力負荷回路2とを備えている。出力負荷回路2は、出力負荷回路2の周波数fの入力インピーダンスZin(f)と、FET1の出力容量Coutと出力直列寄生インダクタンスLoutとを用いて下記式:
【数1】


で定義されるアドミッタンスY(f)が、特定の基本波周波数fについて、Y(2f)=0,Y(3f)=∞を満足するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆F級増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの高度に伴い、システム及び端末のキーデバイスである送信電力増幅回路の電力効率への要求は、いっそう厳しくなっている。近年の無線通信システムでは、送信電力制御技術、多値変調方式、及び多チャンネル共通増幅が導入され、更に、携帯端末の多機能化が進展している。このような状況は、送信電力増幅回路における電力効率の更なる向上を必要としている。
【0003】
近年、このような要請に応える増幅回路として、逆F級増幅回路が提案され、多くの機関が研究開発に取り組んでいる。逆F級増幅回路では、一般に、増幅用トランジスタの出力端における電圧波形が正弦半波であり、電流波形が矩形であり、且つ、各時刻において電圧波形及び電流波形の重なりが無いように動作が制御される;ここで、増幅用トランジスタの出力端とは、増幅用トランジスタが電界効果トランジスタ(FET)である場合にはドレインであり、バイポーラトランジスタである場合にはコレクタを意味している。このような動作によれば、理想的には、100%のドレイン効率又はコレクタ効率を実現することができる(例えば、A. Inoue et al, "Analysis of Class-F and Inverse Class-F Amplifiers," IEEE MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., pp. 775-778, Boston, MA, Jun. 2000、及びC. J. Wei, et al., "Analysis and Experimental Waveform Study on Inverse Class-F Mode of Microwave Power FETs", IEEE, MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., pp. 525-528, Boston, MA, June 2000参照)。逆F級増幅回路に類似する回路として、逆F級動作とは逆の電圧波形及び電流波形で動作するF級増幅回路が知られているが、逆F級増幅回路は、F級増幅回路と効率が同程度であり、出力電力においてはより優れているとされている(例えば、Y. Y. Woo, et al. "Analysis and Experiments for High-Efficiency Class-F and inverse Class-F power amplifiers," IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 54, no. 5, pp. 1969-1974, May 2006参照)。
【0004】
一般的には、増幅用トランジスタに接続された出力負荷回路の入力インピーダンスを、奇数次高調波の周波数において短絡に、且つ、偶数次高調波の周波数において開放になるように調節すれば、逆F級動作を実現することができると考えられている。このことを、FETを増幅用トランジスタとして使用する逆F級増幅回路を例にとって説明する。図1は、増幅用トランジスタとしてFETを使用した場合について、理想的なFET特性、及び、逆F級増幅回路が最大出力電力が実現される時のドレイン電圧V及びドレイン電流Iの波形を示す。図1において、VDSはドレインバイアス電圧であり、Vmaxは最大ドレイン電圧であり、Vminは最小ドレイン電圧であり、Imaxは、最大ドレイン電流である。ドレイン電圧Vは、正弦半波であり、ドレイン電流Iは、デューティー50%の矩形波である。このような波形を有するドレイン電圧Vd及びドレイン電流Idのフーリエ級数展開は、下記の通りである:
【数1】

式(1−1)からドレイン電圧Vの奇数次高調波は零であり、式(1−2)から電流Iの偶数次高調波は零であることが理解される。したがって、これらの条件を満足させるためには、奇数次高調波の周波数において入力インピーダンスが短絡であり、且つ、偶数次高調波の周波数において入力インピーダンスが開放になるような回路を出力負荷回路として用いればよいように考えられるかもしれない。
【0005】
しかしながら、この議論は、超高周波数領域においては妥当ではない。非常に高い周波数領域においては、増幅用トランジスタの出力容量成分や、出力直列寄生インダクタンス成分が動作に影響するようになる。これらの成分を考慮せずに、逆F級増幅回路を設計すると、増幅用トランジスタの出力端における信号波形が歪み、非常に高い周波数領域においては所望の特性が得られない。
【0006】
こうした問題は、逆F級動作とは逆の電圧波形及び電流波形で動作するF級増幅回路で指摘されており、寄生容量及び寄生インダクタンスを考慮したF級増幅回路の回路設計法が提案されている(例えば、A.V. Grebennikov, "Circuit Design Technique for High Efficiency Class F Amplifiers", IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 54, no. 5, pp. 1969-1974, May 2006参照)。しかしながら、逆F級増幅回路について、出力容量及び出力直列寄生インダクタンスを考慮して高効率を実現する回路設計手法は、提案されていない。
【非特許文献1】A. Inoue et al, "Analysis of Class-F and Inverse Class-F Amplifiers," IEEE MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., pp. 775-778, Boston, MA, Jun. 2000
【非特許文献2】C. J. Wei, et al., "Analysis and Experimental Waveform Study on Inverse Class-F Mode of Microwave Power FETs", IEEE, MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., pp. 525-528, Boston, MA, June 2000
【非特許文献3】Y. Y. Woo, et al. "Analysis and Experiments for High-Efficiency Class-F and inverse Class-F power amplifiers," IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 54, no. 5, pp. 1969-1974, May 2006
【非特許文献4】A.V. Grebennikov, "Circuit Design Technique for High Efficiency Class F Amplifiers", IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 54, no. 5, pp. 1969-1974, May 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、出力容量及び/又は出力直列寄生インダクタンスの影響に対して最適化された、超高周波数領域において高効率を実現することができる逆F級増幅回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の観点では、逆F級増幅回路が、増幅用トランジスタと、前記増幅用トランジスタの出力端に接続された出力負荷回路とを具備している。前記出力負荷回路は、前記出力負荷回路の周波数fの入力インピーダンスZin(f)と、前記増幅用トランジスタの出力容量Coutと、前記増幅用トランジスタの出力直列寄生インダクタンスLoutとを用いて下記式(2−1):
【数2】

で定義されるアドミッタンスY(f)が、(4πfout)(4πfout)<1を満足するような特定の信号周波数fについて、下記式(2−2)及び(2−3):
Y(2f)=0, ・・・(2−2)
Y(3f)=∞, ・・・(2−3)
を満足するように構成されている。このように構成された逆F級増幅回路では、増幅用トランジスタの(出力端ではなく)等価回路の電流源から出力側を見たインピーダンスに対して、逆F級動作の条件(厳密には、2次高調波及び3次高調波についての逆F級動作の条件)を満足させることができる。従って、超高周波数領域において高効率を実現することができる。
【0009】
一実施形態では、前記出力負荷回路が、前記増幅用トランジスタの出力端に接続された入力端子と、一端が前記入力端子に接続され、他端が第1ノードに接続され、特性インピーダンスがZであり、且つ、長さがlである第1伝送線路と、一端が前記第1ノードに接続され、他端が接地され、且つ、前記信号周波数fに対応する伝播波長λの4分の1の長さを有する第2伝送線路と、一端が前記第1ノードに接続され、他端が第2ノードに接続された、特性インピーダンスがZで、長さがlである第3伝送線路と、前記第2ノードに接続され、前記第2ノードと接地端子との間のインピーダンスが、周波数3fにおいてゼロになる並列回路とを備えている。前記第1伝送線路の長さlと前記第3伝送線路の長さlとは、下記式:
【数3】

を満足するように調節される。これにより、上記式(2−2)、(2−3)を満足させることができる。
【0010】
本発明の他の観点では、逆F級増幅回路が、増幅用トランジスタと、前記増幅用トランジスタの出力端に接続された出力負荷回路とを具備している。前記出力負荷回路は、前記出力負荷回路の周波数fの入力インピーダンスZin(f)と前記増幅用トランジスタの出力容量Coutとを用いて下記式(2−1’):
【数4】

で定義されるアドミッタンスY’(f)が、特定の基本波周波数fについて、下記式(2−2’)及び(2−3’):
Y’(2f)=0, ・・・(2−2’)
Y’(3f)=∞, ・・・(2−3’)
を満足するように構成されている。このような逆F級増幅回路の構成によれば、2次高調波及び3次高調波についての逆F級動作の条件を満足させ、超高周波数領域において高効率を実現することができる。
【0011】
一の実施形態では、前記出力負荷回路が、前記増幅用トランジスタの出力端に接続された入力端子と、一端が前記入力端子に接続され、他端が開放され、特性インピーダンスがZ01であり、且つ、前記信号周波数fに対応する伝播波長λの12分の1の長さを有する第1伝送線路と、一端が前記入力端子に接続され、他端が第1ノードに接続され、特性インピーダンスがZ02であり、且つ、長さがlである第2伝送線路と、前記第1ノードに接続され、前記第1ノードと接地端子との間のインピーダンスが、周波数2nfにおいてゼロになる並列回路とを備えている。前記第2伝送線路の長さlは、下記式:
【数5】

を満足するように調節されている。これにより、上記式(2−2’)、(2−3’)を満足させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力容量及び出力直列寄生インダクタンスの影響が考慮された、超高周波数領域において高効率を実現することができる逆F級増幅回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態の逆F級増幅回路の構成を示す回路図である。第1実施形態の逆F級増幅回路は、FET1と、出力負荷回路2と、出力整合回路3とを備えている。図2では、FET1は、電流源11と、容量値Coutを有する出力容量12と、インダクタンス値Loutを有する出力直列寄生インダクタンス13とからなる等価回路で表されている。出力容量Coutは、主として、FET1のドレイン−ソース間容量で構成される。一方、出力直列寄生インダクタンスLoutは、主として、FET1に接続される信号線(たとえば、ボンディングワイヤ)のインダクタンスで構成される。FET1は、基本波周波数fの信号を出力する。ここで、基本波周波数fは、(4πfout)(4πfout)<1を満足するように選ばれている。以下では、基本波周波数fに対応する伝播波長を伝播波長λと記載する。
【0014】
FET1の出力端(即ち、ドレイン端子)1aは、出力負荷回路2の入力ポート2aに接続されている。後述のように、出力負荷回路2は、逆F級動作の条件(厳密には、2次高調波及び3次高調波についての逆F級動作の条件)を満足させるように構成されている。出力負荷回路2の出力ポート2bは、出力整合回路3を介して、外部負荷4に接続される。出力整合回路3は、基本波周波数f近傍において、出力負荷回路2と外部負荷4との間のインピーダンス整合を実現するために使用される。
【0015】
出力負荷回路2は、第1伝送線路21と、第2伝送線路23と、第3伝送線路24と、並列回路26とを備えている。第1伝送線路21は、入力ポート2aとノード22の間に接続され、その長さはlである。第2伝送線路23は、一端がノード22に接続され、先端接地であり、且つ、伝播波長λの4分の1の長さを有している。第3伝送線路24は、ノード22とノード25の間に接続されており、その長さはlである。ノード25は、出力ポート2bに接続されている。第1伝送線路21、第2伝送線路23、及び第3伝送線路24の特性インピーダンスは、いずれも、Z(典型的には50Ω)である。第1伝送線路21、第2伝送線路23、及び第3伝送線路24としては、様々な伝送線路が使用可能であり、たとえば、マイクロストリップ線路やコプレーナ線路が使用され得る。
【0016】
並列回路26は、3次高調波(すなわち、基本波周波数fの3倍の周波数の信号)について短絡であるように構成される回路である。並列回路26の構成は、様々に変更され得る。図2に示されているように、並列回路26としては、一端がノード25に接続され、他端が接地され、且つ、伝播波長λの6分の1の長さを有する伝送線路27が使用可能である。また、図3に示されているように、一端がノード25に接続され、他端が開放され、且つ、伝播波長λの12分の1の長さを有する伝送線路28が並列回路26として使用されることも可能である。
【0017】
図2及び図3の逆F級増幅回路において、第1伝送線路21の長さlと第3伝送線路24の長さlとは、下記式:
【数6】

を満足するように調節されている。上記式(3−1)、(3−2)を満足させることにより、FET1の電流源11から見たアドミッタンスY(f)を、2次高調波周波数2fについてゼロ、3次高調波周波数3fについては無限大にすることができる。言い換えれば、FET1の等価回路の電流源11から出力側を見たアドミッタンスをY(f)としたとき、基本波周波数fについて、下記の式(3−3)及び(3−4):
Y(2f)=0, ・・・(3−3)
Y(3f)=∞, ・・・(3−4)
を成立させることができる。ここで、FET1の等価回路の電流源11から出力側をみたアドミッタンスY(f)は、下記式(3−5):
【数7】

で表されることに留意されたい。式(3−3)、(3−4)は、2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させることと同義である。
【0018】
以下では、式(3−1)、(3−2)を満足するように、第1伝送線路21の長さlと第3伝送線路24の長さlを調節することにより、2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させることができることについて説明する。
【0019】
図2を参照して、2次高調波周波数2fにおいては、第2伝送線路23が4分の1波長の長さを有しているため、ノード22が第2伝送線路23によって短絡になる。従って、出力負荷回路2は、2次高調波周波数2fにおいて第1伝送線路21の先端が短絡された回路になる。よって、2次高調波周波数2fにおける出力負荷回路2のインピーダンスZin(2f)について、下記式が成立する:
【数8】

式(3−5)と式(3−6)から、2次高調波周波数2fにおけるアドミッタンスY(2f)について、下記式が成立する:
【数9】

したがって、式(3−3)の条件(Y(2f)=0)を成立させるためには、式(3−1)が成立すればよい。即ち、第1伝送線路21の長さlを式(3−1)を満足するように決定すれば、式(3−3)を満足させることができる。
【0020】
一方、3次高調波周波数3fにおいては、第2伝送線路23が4分の1波長の長さを有するためノード22が開放になると共に、ノード25は、6分の1波長の長さを有する先端短絡の伝送線路27によって短絡になる。従って、3次高調波周波数3fにおける出力負荷回路2のインピーダンスZin(3f)について、下記式が成立する:
【数10】

式(3−5)と式(3−8)から、3次高調波周波数3fにおけるアドミッタンスY(3f)について、下記式が成立する:
【数11】

したがって、式(3−4)の条件(Y(3f)=∞)を成立させるためには、式(3−2)が成立すればよい。即ち、第1伝送線路21の長さl、第3伝送線路24の長さlを式(3−2)を満足するように決定すれば、式(3−4)を満足させることができる。
【0021】
このように、式(3−1)、(3−2)を満足するように第1伝送線路21の長さlと第3伝送線路24の長さlを調節することにより、2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させることができる。
【0022】
図2及び図3の回路構成は、全ての高次高調波について理想的な逆F級動作を実現するわけではない;4次以上の高次高調波については、逆F級動作の条件を満足しない。しかしながら、現実には、トランジスタ特性のバラツキ、回路製造バラツキ、及び周波数帯域の狭帯域化などの問題があるため、高次高調波を無視しても大きな影響はない。むしろ、高次高調波に対して逆F級動作の条件を満足させる回路よりも、出力容量Cout及び寄生インダクタンスLoutを考慮しながら2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させる回路を構成する方が実用的であり、且つ、特性の改善を期待できる。このような議論は、信号周波数fが高くなり、出力容量Cout及び寄生インダクタンスLoutの影響が大きくなる場合において、一層に妥当する。
【0023】
より電力効率を向上させるためには、基本波周波数fにおける電流源11から出力側をみたアドミッタンスY(f)を、基本波周波数fにおけるFET1の最適出力アドミタンスYout(f)の複素共役Yout(f)に一致することが好ましい。これにより、電流源11と出力負荷回路2との間のインピーダンス整合を達成することができる。
【0024】
図2、図3の回路構成では、第1伝送線路21、第3伝送線路24の適正な長さは、出力整合回路3の構成に無関係であることに留意されたい。基本波についての出力最適化は、出力整合回路3を適切に構成することによって実現することができる。
【0025】
以上に説明されているように、第1実施形態の回路構成によれば、FET1の等価回路の電流源2から出力側をみたインピーダンスを、2次高調波については開放、3次高調波については短絡にすることができる。したがって、第1実施形態の回路構成によれば、実用性に優れながら、出力容量Cout及び寄生インダクタンスLoutに対して最適化された、高効率の逆F級増幅回路を実現することができる。
【0026】
なお、第1実施形態の回路構成は、出力直列寄生インダクタンスLoutが無視できる場合にも適用可能である。この場合、Loutに0を代入して得られる式を用いて、第1伝送線路21の長さlと第3伝送線路24の長さlを決定すればよい。
【0027】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態の逆F級増幅回路の構成を示す回路図である。第2実施形態では、出力容量Coutが無視できないものの、出力直列寄生インダクタンスLoutが無視できる場合に好適な逆F級増幅回路の他の構成が提示される。第2実施形態の逆F級増幅回路は、FET1と、出力負荷回路5と、出力整合回路3とを備えている。図5では、FET1は、電流源11と、容量値Coutを有する出力容量12とからなる等価回路で表されている。FET1は、基本波周波数fの信号を出力する。
【0028】
FET1の出力端(即ち、ドレイン端子)1aは、出力負荷回路5の入力ポート5aに接続されている。後述のように、出力負荷回路5は、第1実施形態で使用される出力負荷回路2と同様に、逆F級動作の条件(厳密には、2次高調波及び3次高調波についての逆F級動作の条件)を満足させるように構成されている。ただし、第2実施形態で使用される出力負荷回路5は、第1実施形態で使用される出力負荷回路2とは異なる構成を有していることに留意されたい。出力負荷回路5の出力ポート5bは、基本波周波数fに対する出力整合回路3を介して、外部負荷4に接続される。
【0029】
出力負荷回路5は、第1伝送線路51と、第2伝送線路52と、並列回路54とを備えている。第1伝送線路51は、一端が入力ポート5aに接続され、先端が開放されており、特性インピーダンスがZ01であり、且つ、伝播波長λの12分の1の長さを有している。第2伝送線路52は、入力ポート5aとノード53の間に接続されており、特性インピーダンスがZ02であり、且つ、長さlを有している。ノード53は、出力ポート5bに接続されている。
【0030】
並列回路54は、偶数次高調波(すなわち、基本波周波数fの偶数倍の周波数の信号)について短絡であるように構成される回路である。並列回路54の構成は、様々に変更され得る。図4に示されているように、並列回路54としては、一端がノード53に接続され、他端が接地され、且つ、伝播波長λの4分の1の長さを有する伝送線路55が使用可能である。また、図5に示されているように、一端がノード25に接続され、他端が開放され、且つ、伝播波長λの8分の1の長さを有する伝送線路56が並列回路54として使用されることも可能である。
【0031】
図4及び図5の逆F級回路において、第2伝送線路52の長さlは、下記式:
【数12】

を満足するように調節されている。上記式(3−10)を満足させることにより、FET1の電流源11から見たアドミッタンスY’(f)について、式(3−3’)及び(3−4’):
Y’(2f)=0, ・・・(3−3’)
Y’(3f)=∞, ・・・(3−4’)
を成立させる、即ち、2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させることができる。ここで、第2実施形態では、FET1の等価回路の電流源11から出力側をみたアドミッタンスY’(f)は、下記式(3−5’):
【数13】

で表されることに留意されたい。
【0032】
以下では、式(3−10)を満足するように第2伝送線路52の長さlを調節することにより、2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させることができることについて説明する。
【0033】
図4、図5を参照して、2次高調波周波数2fにおいて、ノード53は並列回路54により接地に対して短絡になる。よって、2次高調波周波数2fでは、出力負荷回路5は、先端開放の第1伝送線路51と先端短絡の第2伝送線路52の並列回路として機能する。よって、2次高調波周波数2fにおけるインピーダンスZin(2f)について下記式が成立する:
【数14】

一方、式(3−3’)、式(3−5’)から、2次高調波周波数2fについて下記式が成立する:
【数15】

更に、式(3−11)、(3−12)とtan(π/3)=√3から、
【数16】

を得る。式(3−13)を第2伝送線路52の長さlについて整理することにより、式(3−10)が導出される。即ち、式(3−10)を満足するように第2伝送線路52の長さlを調節することにより、2次高調波について逆F級動作の条件を満足させることができる。
【0034】
一方、3次高調波周波数3fでは、第1伝送線路51が、先端開放であり、且つ、伝播波長λの12分の1の長さを有しているから、入力ポート5aが短絡になる。即ち、式(3−4’)は、第2伝送線路52の長さlに無関係に成立する。
【0035】
このように、式(3−10)を満足するように、第2伝送線路52の長さlを調節することにより、2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させることができる。
【0036】
図4、図5に示された第2実施形態の回路構成は、第1実施形態の回路構成と同様に、全ての高次高調波について理想的な逆F級動作を実現するわけではない。しかしながら、上述されているように、出力容量Coutについて考慮しながら2次高調波及び3次高調波について逆F級動作の条件を満足させる回路は、実用的であり、且つ、特性の改善を期待できる点で好適である。
【0037】
図4、図5の回路構成でも、第2伝送線路52の適正な長さは、出力整合回路3の構成に無関係であることに留意されたい。基本波についての出力最適化は、出力整合回路3を適切に構成することによって実現することができる。
【0038】
以上に説明されているように、第2実施形態の回路構成によれば、FET1の等価回路の電流源2から出力側をみたインピーダンスを、2次高調波については開放、3次高調波については短絡にすることができる。第2実施形態の回路構成によれば、実用性に優れながら、出力容量Coutに対して最適化された、高効率の逆F級増幅回路を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】増幅用トランジスタとしてFETを使用した場合について、理想的なFET特性、並びに、逆F級増幅回路が最大出力電力が実現される時のドレイン電圧V及びドレイン電流Iの波形を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態の逆F級増幅回路の回路構成を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態の逆F級増幅回路の他の回路構成を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態の逆F級増幅回路の回路構成を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態の逆F級増幅回路の他の回路構成を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1:FET
1a:出力端
2:出力負荷回路
2a:入力ポート
2b:出力ポート
3:出力整合回路
4:外部負荷
5:出力負荷回路
5a:入力ポート
5b:出力ポート
11:電流源
12:出力容量
13:出力直列寄生インダクタンス
21:第1伝送線路
22、25:ノード
23:第2伝送線路
24:第3伝送線路
26:並列回路
27、28:伝送線路
51:第1伝送線路
52:第2伝送線路
53:ノード
54:並列回路
55、56:伝送線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅用トランジスタと、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された出力負荷回路
とを具備し、
前記出力負荷回路の周波数fの入力インピーダンスZin(f)と、前記増幅用トランジスタの出力容量Coutと、前記増幅用トランジスタの出力直列寄生インダクタンスLoutとを用いて下記式:
【数1】

で定義されるアドミッタンスY(f)が、(4πfout)(4πfout)<1を満足するような特定の基本波周波数fについて、下記式(2)及び(3):
Y(2f)=0, ・・・(2)
Y(3f)=∞, ・・・(3)
を満足するように前記出力負荷回路が構成されている
逆F級増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載の逆F級増幅回路であって、
前記出力負荷回路が、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された入力端子と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が第1ノードに接続され、特性インピーダンスがZであり、且つ、長さがlである第1伝送線路と、
一端が前記第1ノードに接続され、他端が接地され、且つ、前記基本波周波数fに対応する伝播波長λの4分の1の長さを有する第2伝送線路と、
一端が前記第1ノードに接続され、他端が第2ノードに接続された、特性インピーダンスがZで、長さがlである第3伝送線路と、
前記第2ノードに接続され、前記第2ノードと接地端子との間のインピーダンスが、周波数3fにおいてゼロになる並列回路
とを備えており、
前記第1伝送線路の長さlと前記第3伝送線路の長さlとが、前記式(2)、(3)を満足するように調節された
逆F級増幅回路。
【請求項3】
増幅用トランジスタと、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された出力負荷回路
とを具備し、
前記出力負荷回路が、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された入力端子と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が第1ノードに接続され、特性インピーダンスがZである第1伝送線路と、
一端が前記第1ノードに接続され、他端が接地され、且つ、前記基本波周波数fに対応する伝播波長λの4分の1の長さを有する第2伝送線路と、
一端が前記第1ノードに接続され、他端が第2ノードに接続された、特性インピーダンスがZである第3伝送線路と、
前記第2ノードに接続され、前記第2ノードと接地端子との間のインピーダンスが、周波数3fにおいてゼロになる並列回路
とを備えており、
前記第1伝送線路の長さlと前記第3伝送線路の長さlとが、下記式:
【数2】

を満足するように調節された
逆F級増幅回路。
【請求項4】
請求項3に記載の逆F級増幅回路であって、
前記並列回路は、一端が前記第2ノードに接続され、他端が接地され、且つ、前記伝播波長λの6分の1の長さを有する伝送回路を備える
逆F級増幅回路。
【請求項5】
請求項3に記載の逆F級増幅回路であって、
前記並列回路は、一端が前記第2ノードに接続され、他端が開放され、且つ、前記伝播波長λの12分の1の長さを有する伝送回路を備える
逆F級増幅回路。
【請求項6】
増幅用トランジスタと、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された出力負荷回路
とを具備し、
前記出力負荷回路の周波数fの入力インピーダンスZin(f)と前記増幅用トランジスタの出力容量Coutとを用いて下記式:
【数3】

で定義されるアドミッタンスY’(f)が、特定の基本波周波数fについて、下記式(2’)及び(3’):
Y’(2f)=0, ・・・(2’)
Y’(3f)=∞, ・・・(3’)
を満足するように前記出力負荷回路が構成されている
逆F級増幅回路。
【請求項7】
請求項3に記載の逆F級増幅回路であって、
前記出力負荷回路が、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された入力端子と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が開放され、特性インピーダンスがZ01であり、且つ、前記基本波周波数fに対応する伝播波長λの12分の1の長さを有する第1伝送線路と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が第1ノードに接続され、特性インピーダンスがZ02であり、且つ、長さがLである第2伝送線路と、
前記第1ノードに接続され、前記第1ノードと接地端子との間のインピーダンスが、周波数2fにおいてゼロになる並列回路
とを備え、
前記第2伝送線路の長さlが、前記式(2’)、(3’)を満足するように決定された
逆F級増幅回路。
【請求項8】
増幅用トランジスタと、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された出力負荷回路
とを具備し、
前記出力負荷回路が、
前記増幅用トランジスタの出力端に接続された入力端子と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が開放され、特性インピーダンスがZ01であり、且つ、前記信号周波数fに対応する伝播波長λの12分の1の長さを有する第1伝送線路と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が第1ノードに接続され、特性インピーダンスがZ02である第2伝送線路と、
前記第1ノードに接続され、前記第1ノードと接地端子との間のインピーダンスが、周波数2fにおいてゼロになる並列回路
とを備え、
前記第2伝送線路の長さlが、下記式:
【数4】

を満足するように調節された
逆F級増幅回路。
【請求項9】
請求項8に記載の逆F級増幅回路であって、
前記並列回路は、一端が前記第1ノードに接続され、他端が接地され、且つ、前記伝播波長λの4分の1の長さを有する伝送回路を備える
逆F級増幅回路。
【請求項10】
請求項8に記載の逆F級増幅回路であって、
前記並列回路は、一端が前記第1ノードに接続され、他端が開放され、且つ、前記伝播波長λの8分の1の長さを有する伝送回路を備える
逆F級増幅回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−130472(P2009−130472A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301021(P2007−301021)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】