説明

透明ガスバリア層の製造方法、透明ガスバリア層、透明ガスバリアフィルム、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池

【課題】 単層であってもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有し、さらに、内部応力が非常に低い透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも製造することが可能な、透明ガスバリア層の製造方法を提供する。
【解決手段】 スパッタリング法により透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリア層の製造方法であって、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応ガスとして水素含有ガスを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリア層の製造方法、透明ガスバリア層、透明ガスバリアフィルム、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、電子ペーパー、太陽電池、薄膜リチウムイオン電池等の各種エレクトロニクスデバイスは、近年、軽量化・薄型化が進んでいる。これらデバイスの多くは大気中の水蒸気によって変質して劣化することがわかっている。
【0003】
従来、これらデバイスにはその支持基板としてガラス基板が用いられてきたが、軽量性、耐衝撃性、屈曲性等の各種特性に優れるという理由により、ガラス基板に代えて樹脂基板の使用が検討されている。樹脂基板は、一般には、ガラス等の無機材料から形成された基板と比較して、水蒸気等のガス透過性が著しく大きいという性質をもつ。したがって、上記用途においては、樹脂基板のガスバリア性を、その光透過性を維持しつつ向上させることが要求される。
【0004】
ところで、エレクトロニクスデバイスのガスバリア性は、食品包装でのそれに比べ、桁違いに高いレベルが要求されている。ガスバリア性は、例えば水蒸気透過速度(Water Vapor Transmission Rate 以下WVTR)で表される。従来の食品パッケージ用途でのWVTRの値は1〜10g・m−2・day−1程度であるのに対し、例えば薄膜シリコン太陽電池や化合物薄膜系太陽電池用途の基板に必要なWVTRは0.01g・m−2・day−1以下、さらには有機EL用途の基板に必要なそれは1×10−5g・m−2・day−1以下と考えられている。このような非常に高いガスバリア性の要求に対し、樹脂基板上にガスバリア層を形成させる方法が、種々提案されている。
【0005】
例えば、無機層とポリマー層とを交互に複数層積層させてハイブリッド化することによりガスバリア性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、異なる材料の層を異なるプロセスにより形成するため、生産効率やコストの観点からは好ましいものとはいえない。また、十分なガスバリア性を得るためには積層の数を増やしたり、各層を厚く形成する必要があり、そのために製造効率が低下するという問題があった。また、無機層とポリマー層との密着性が低く、経時劣化や屈曲による劣化が起こりやすいという問題もあった。
【0006】
一方、高温に加熱することなく単層でガスバリア効果を得る手段として、炭化シリコンをスパッタした薄膜を形成することが提案されている。炭化シリコン薄膜は光吸収が大きいため着色が生じるが、スパッタ時に窒素や酸素を加えることで光透過性が付与できるとされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2996516号公報
【特許文献2】特開2004−151528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によると、スパッタ時に窒素を加えることで、ガスバリア性は向上するが光透過性の低い層が形成され、また、酸素を加えることで、光透過性は向上するが、ガスバリア性が低下するという問題が見出された。すなわち、ガスバリア性と光透過性とは、ガスバリア層形成条件においてトレードオフの関係にある。さらに、上記のような窒素を含有する層は内部応力が非常に高く、基板がポリマーフィルム等の柔らかい有機物からなる場合、層にクラックが生じ、ガスバリア性に影響を及ぼす。
【0009】
そこで、本発明は、単層であってもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有し、さらに、内部応力が非常に低い透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも製造することが可能な、透明ガスバリア層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法は、スパッタリング法により透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリア層の製造方法であって、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応ガスとして水素含有ガスを用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の透明ガスバリア層は、前記本発明の透明ガスバリア層の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0012】
本発明のガスバリアフィルムは、前記本発明のガスバリア層を透明基材フィルム上に形成したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記積層体の少なくとも一部がガスバリア層で被覆されており、前記ガスバリア層が、前記本発明の透明ガスバリア層であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法によれば、単層であってもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有し、さらに、内部応力が非常に低い透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも製造することができる。また、本発明の透明ガスバリア層は、前記本発明の製造方法により製造されたものであるから、光透過性およびガスバリア性がともに優れ、かつ、内部応力も低い。そして、本発明の透明ガスバリアフィルムは、前記本発明の透明ガスバリア層を透明基材フィルム上に形成したものであるから、光透過性およびガスバリア性に優れている。本発明の透明ガスバリアフィルムは、ガスバリア層が単層である場合に限られず、複数層を積層していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の透明ガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の透明ガスバリア層をバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記反応ガスが、さらに窒素を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記炭化金属が炭化アルミニウムであり、前記炭化半金属が炭化シリコンであることが好ましい。
【0020】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記ターゲットが、さらに、金属および半金属の少なくとも1種を含み、前記金属および前記半金属が、単体、混合物または合金であってもよい。
【0021】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、前記スパッタリング法が、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の透明ガスバリア層の製造方法において、透明基材フィルム上に、透明ガスバリア層を形成してもよい。
【0023】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることが好ましい。
【0024】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0025】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法では、反応ガスとして水素含有ガスを用いることによりスパッタ雰囲気内で形成される水素原子が、ガスバリア層の化学構造に作用し、形成するガスバリア層は透明になり、さらに、ガスバリア層内の応力が緩和される。さらに、窒素を導入することでガスバリア層のバリア性、透明性が向上する。また、反応ガスとして、アンモニアガスのように、水素と窒素との化合物のガスを用いてもよく、この場合も同様の効果が得られる。水素と窒素との化合物のガスを用いる場合、スパッタ雰囲気内で、前記化合物のガスから水素および窒素が解離され、ガスバリア層に窒素が導入されるとともに、水素が前記作用を行うと考えられるが、本発明はこの推測によって限定されるものではない。
【0026】
前記効果は反応ガスにおける窒素と水素との混合比率(流量比)によらず発現されるが、窒素の混合比(流量比)が水素のそれ以上であるとより良好な特性を発現することができ、好ましい。窒素と水素との混合比率は、窒素/水素=0.3〜3.0であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜2.0である。
【0027】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法は、スパッタリング法によるものであり、ターゲットとしては、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むものを用いる。前記炭化金属としては炭化アルミニウムが好ましく、前記炭化半金属としては炭化シリコンが好ましい。これらの材料は、透明ガスバリア層内におけるネットワーク構造(網目状の構造)を緻密に形成することが可能であり、透明ガスバリア層のガスバリア性の向上の点で好ましい。また、他の炭化金属および炭化半金属に比べ、透明ガスバリア層形成時の内部応力が高くない点でも好ましい。
【0028】
また、前記ターゲットが、さらに、金属および半金属の少なくとも1種を含んでいてもよい。前記金属および半金属は、単体、混合物または合金であってもよい。前記混合物は、複数種類の金属の混合物、複数種類の半金属の混合物、金属と半金属との混合物、単体と合金との混合物のいずれであってもよく、制限されない。前記金属および半金属の少なくとも1種を含む前記ターゲットを用いると、層形成速度を速くすることができ、製造の効率化を図ることが可能となる。また、例えば、炭化シリコンとシリコンとの混合ターゲットの場合、炭化窒化シリコンと窒化シリコンの成分を有する層が得られ、良好なガスバリア性が得られる。前記金属および半金属から選択される少なくとも1種を含む単体、混合物または合金の混合比率は、80重量%以下であることが好ましい。前記混合比率を80重量%以下とすることで、例えば、ターゲット内において粒界での割れの発生を防ぐことができ、スパッタリングでの層形成状態が劣化するのを防ぐことができる。前記混合比率は、より好ましくは50重量%以下で、さらに好ましくは30重量%以下である。前記金属および半金属は、前記炭化金属および炭化半金属を構成する金属および半金属と同じものであっても異なっているものであってもよいが、スパッタ効率等を考慮すると、同じものであることが好ましい。
【0029】
前記スパッタリング法は、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法で行うことが好ましい。前記パルスDCスパッタリング法は、通常のDCスパッタリング法と比較して、ターゲットの表面に窒化物や酸化物などの絶縁層ができるのを防ぐことができ、スパッタによる層形成が不安定になるのを防ぐことができる。RFスパッタリング法による場合、周波数は10kHz〜30MHzの範囲であることが好ましく、より好ましくは、30kHz〜20MHzの範囲である。放電出力は、例えば、1〜10W/cmの範囲であり、好ましくは3〜6W/cmの範囲である。前記パルスDCスパッタリング法での周波数や負バイアスとなるデューティー比には特に制限はないが、放電の時間は短いほうが好ましく、30〜95%の範囲であることが好ましい。
【0030】
透明ガスバリア層の形成時のスパッタリング条件に特に制限はない。例えば、真空槽内を10−4Pa以下に排気した後、放電ガスとしてアルゴンガスを、反応ガスとして、例えば窒素ガスを含有する水素ガスを導入し、系の内圧が0.1〜1Paになるようにマスフローコントローラで流量制御(圧力制御)を行う。スパッタ時の放電出力は、1〜10W/cmを印加し、所望の厚みになるまでスパッタリングを行う。
【0031】
前記透明ガスバリア層形成時の加熱温度は120℃以下であることが好ましく、より好ましくは80〜110℃の範囲である。なお、前記透明ガスバリア層は基材上に形成されてもよく、前記基材として樹脂フィルムを用いると、透明ガスバリアフィルムを得ることができる。この場合、前記透明ガスバリア層形成時には、前記基材を120℃以下で加熱することが好ましい。本発明の透明ガスバリア層の製造方法は、透明で良好なガスバリア性能を有する層を低温形成することも可能であるので、基材が例えば樹脂の場合であっても、樹脂の性質や形状を損なわない条件設定をすることが可能となる。
【0032】
基材の材質は、透明であることが好ましく、樹脂を用いる場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどがあげられる。また、基材の厚みは20〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜150μmの範囲である。
【0033】
透明ガスバリア層の厚みは、0.01〜1μmの範囲であることが好ましい。前記厚みを0.01μm以上とすることで、十分なガスバリア性を得ることができ、1μm以下とすることで、内部応力を低くすることができ、クラックの発生を防ぐことができる。前記厚みは、0.05〜0.2μmの範囲であることがより好ましい。
【0034】
前記透明ガスバリア層は、バッチ方式でも連続生産方式でも製造することができる。連続生産方式の場合、前記透明ガスバリア層形成時に真空槽内において、前記透明基材フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記透明基材フィルムの上に前記透明ガスバリア層を形成する。
【0035】
図1に、本発明の透明ガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図示のとおり、この製造装置10は、真空槽11、巻出ロール13a、キャンロール15、巻取ロール13b、二つの補助ロール14aおよび14b、カソード16、真空ポンプ20、スパッタリング用ガス供給手段18、反応ガス供給手段19を主要な構成部材として有する。真空槽11内には、巻出ロール13a、キャンロール15、巻取ロール13b、および二つの補助ロール14a、14bが配置されており、巻出ロール13aから、巻取ロール13bにわたり、キャンロール15および二つの補助ロール14a、14bを介して、透明基材フィルム12が掛け渡されている。前記カソード16は、前記キャンロール15と対向するように、前記真空槽11の底部に設置されている。前記カソード16の上面には、前記ターゲット17が装着されている。前記真空ポンプ20は、前記真空槽11の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されており、これにより、前記真空槽11内を減圧することが可能となっている。前記スパッタリング用ガス供給手段18および前記反応ガス供給手段19は、前記真空槽11の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されている。前記スパッタリング用ガス供給手段18は、スパッタリング用ガスボンベ21に接続されており、これにより、適度な圧力のスパッタリング用ガス(例えば、アルゴンガス)を、前記真空槽11内に供給することが可能となっている。前記反応ガス供給手段19は、水素を含有する反応ガス用ガスボンベ22に接続されており、これにより、適度な圧力の水素含有反応ガス(例えば、水素ガスおよび窒素ガスの混合ガス、アンモニアガス)を、前記真空槽11内に供給することが可能となっている。前記キャンロール15には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。これにより、前記キャンロール15の表面温度を調整することで、前記透明基材フィルム12の温度を、前記所定の範囲とすることが可能となっている。前記温度制御手段としては、例えば、シリコーンオイル等を循環する熱媒循環装置等があげられる。
【0036】
本装置による連続生産は、フィルムを連続して装置内に導入し、フィルムを移動させながら反応ガスの存在下でスパッタリングを行い、連続して透明ガスバリア層を形成すること以外は、後述のバッチ生産方式で製造する装置と同様に実施できる。
【0037】
図2に、本発明の透明ガスバリア層をバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図2において、図1と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、この製造装置30は、前記各種ロールに代えて、真空槽31内に、基板加熱ヒータ33が配置され、前記基板加熱ヒータ33に透明基材(例えば、透明基材フィルム)32が設置されている以外は、図1と同様の構成である。前記基板加熱ヒータ33としては、前記温度制御手段と同様のものがあげられる。
【0038】
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有するものであって、前記積層体の少なくとも一部がガスバリア層で被覆されており、前記ガスバリア層が、前記本発明の透明ガスバリア層であることを特徴とする。前記陽極層としては、例えば、透明電極層として使用できる、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(登録商標、Indium Zinc Oxide)の層が形成される。前記有機発光層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。陰極層としては、反射層を兼ねてアルミニウム層、マグネシウム/アルミニウム層等が形成される。前記基板としては、ガラス基板を用いることができるが、プラスチック基板等を用いてもよい。ガス透過性の十分でない材料を前記基板として使用する場合、本発明の透明ガスバリア層を形成したものを用いることが好ましい。なお、従来の有機EL素子は、十分な封止性能を有するガスバリア層がなかったため、前記積層体を形成した後、この積層体を封止するために、有機EL素子の裏面全体を金属の封止缶で被覆する構造を採用していた。本発明の透明ガスバリア層によると、被覆も容易であり、また、有機EL素子の薄型化も可能となる。
【0039】
本発明の有機EL素子においては、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることも好ましい。有機EL素子の基板として、前記本発明の透明ガスバリアフィルムを用いると、有機EL素子の軽量化、薄型化および柔軟化が可能となる。したがって、ディスプレイとしての有機EL素子はフレキシブルなものとなり、これを丸めるなどして、電子ペーパーのように使用することも可能となる。
【0040】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含み、前記太陽電池セルが、前記本発明のガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されている。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは、太陽電池の保護用バックシートとしても好適に使用できる。太陽電池の構造の一例としては、薄膜シリコンやCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)薄膜により形成した太陽電池セルを、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂により封止し、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムにより挟み込むことで構成されるものがあげられる。前記樹脂による封止をせずに、本発明の透明ガスバリアフィルムで直接挟み込んでもよい。また、樹脂により封止をした後に、前記樹脂上に本発明の透明ガスバリア層を形成してもよい。
【0041】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明のガスバリア層および前記本発明の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されている。薄膜電池としては、薄膜リチウムイオン電池などがあげられる。前記薄膜電池としては、基板上に金属を用いた集電層、金属無機層を用いた陽極層、固体電解質層、陰極層、金属を用いた集電層を順次積層させた構成が代表的である。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは薄膜電池の基板としても使用することができる。
【実施例】
【0042】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0043】
(水蒸気透過速度)
水蒸気透過速度(WVTR)は、JIS K7126に規定される水蒸気透過速度測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN)にて、温度40℃、湿度90%RHの環境下で測定した。なお、前記水蒸気透過率測定装置の測定範囲は0.01g・m−2・day−1以上である。
【0044】
(光線透過率)
光線(可視光)透過率は、大塚電子株式会社製の紫外可視光域分光光度計(商品名:MCPD−3700)を使用して測定し、550nmの透過率で表した。
【0045】
(透明ガスバリア層の厚み)
透明ガスバリア層の厚みは、透明ガスバリアフィルムの断面を、株式会社日立製作所製の透過型電子顕微鏡(TEM、商品名:HF−2000)にて観察し、基板(フィルム)表面から透明ガスバリア層表面までの長さを測長し、算出した。
【0046】
(フィルムの反り)
透明ガスバリア層の内部応力を確認するため、透明ガスバリア層を形成したフィルムの反りの有無を、次の方法で判定した。100mm角の前記フィルムを水平台に置き、端の一点を固定する。他方の端が水平台より離れた距離が3mm未満であれば「無」、3mm以上であれば「有」と判定した。
【0047】
[実施例1]
〔透明基材フィルムの準備〕
透明樹脂フィルム(樹脂基板)として、東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm、商品名「ルミラーT60」)を準備した。
【0048】
〔透明ガスバリア層形成工程〕
つぎに、前記PETフィルムを、図2に示す製造装置に装着した。カソード16の上面には、炭化ケイ素ターゲット(純度5N:99.999%)17を装着した。真空ポンプ20により真空槽31内を減圧し、到達真空度1.0×10−4Pa以下を得た。その後、スパッタリング用ガス供給手段18および反応ガス供給手段19により、前記真空槽31内にスパッタリング用ガスとしてアルゴンガスおよび反応ガスとして水素ガスを導入した。ついで、DCパルスを200kHz、放電出力を3W/cmの条件下で、前記PETフィルム上に厚み100nmの炭化ケイ素化合物層を形成することにより、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。この際、アルゴンガスの供給量(流量)は、150sccm(150×1.69×10−3Pa・m/秒)、水素ガスの供給量(流量)は、30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)とした。また、このとき、系内圧力は0.03Paで、基板加熱ヒータ温度は100℃とした。
【0049】
[実施例2]
反応ガスとして、窒素ガスおよび水素ガスをそれぞれ30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0050】
[実施例3]
反応ガスとして、アンモニアガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0051】
[実施例4]
ターゲットとして炭化アルミニウム(純度5N)を用いた他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0052】
[実施例5]
反応ガスとして、窒素ガスおよび水素ガスをそれぞれ30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例4と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0053】
[実施例6]
反応ガスとして、アンモニアガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例4と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0054】
[実施例7]
ターゲットとして炭化ケイ素80wt%とケイ素20wt%との合金を用いた他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0055】
[実施例8]
反応ガスとして、窒素ガスおよび水素ガスをそれぞれ30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例7と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0056】
[実施例9]
反応ガスとしてアンモニアガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例7と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0057】
[実施例10]
ターゲットとして、炭化アルミニウム70wt%とアルミニウム30wt%との合金を用いた他は、実施例4と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0058】
[実施例11]
反応ガスとして、窒素ガスおよび水素ガスをそれぞれ30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例10と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0059】
[実施例12]
反応ガスとして、アンモニアガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例10と同様にして、本実施例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0060】
[比較例1]
反応ガスとして窒素ガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0061】
[比較例2]
反応ガスとして窒素ガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例4と同様にして、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0062】
[比較例3]
反応ガスとして、窒素ガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例7と同様にして、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0063】
[比較例4]
反応ガスとして、窒素ガスを30sccm(30×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で導入した他は、実施例10と同様にして、本比較例の透明ガスバリア層付きフィルムを得た。
【0064】
実施例1〜12および比較例1〜4で得られた透明ガスバリア層付きフィルムについて、水蒸気透過速度(WVTR)、550nmの波長における光線透過率、およびフィルムの反りの有無を測定した。測定結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
前記表1に示すとおり、実施例で得られた透明ガスバリア層付きフィルムは、水蒸気透過速度0.06g・m−2・day−1以下の良好なガスバリア性と、70%以上の良好な可視光透過性(透明性)とを有しており、単層であっても良好な特性を有する透明ガスバリア層が得られていることがわかる。また、フィルムの反りも見られず、透明ガスバリア層の内部応力が低いことがわかる。また、混合ターゲットを用いた実施例7〜12では、他の実施例に比べて、スパッタリングによる層形成速度を速くすることができ、効率よく透明ガスバリア層付きフィルムを製造することができた。一方、比較例においては、いずれも可視光透過率が60〜65%であり、光透過性は十分とはいえなかった。また、水蒸気透過速度は、0.10g・m−2・day−1以上と大きく、ガスバリア性に劣っていることがわかる。また、フィルムの反りが見られ、透明ガスバリア層の内部応力が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の透明ガスバリア層の製造方法によれば、単層であってもガスバリア性に優れ、かつ、高い透明性を有し、さらに、内部応力が非常に低い透明ガスバリア層を、高温に加熱せずとも製造することができる。本発明の透明ガスバリア層および透明ガスバリアフィルムは、例えば有機EL表示装置、フィールドエミッション表示装置ないし液晶表示装置等の各種の表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、薄膜電池、電気二重層コンデンサ等の各種の電気素子・電気素子の基板ないし封止材料等として使用することができ、その用途は限定されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10、30 製造装置
11、31 真空槽
12、32 透明基材フィルム
13a 巻出ロール
13b 巻取ロール
14a、14b 補助ロール
15 キャンロール
16 カソード
17 ターゲット
18 スパッタリング用ガス供給手段
19 反応ガス供給手段
20 真空ポンプ
21 スパッタリング用ガスボンベ
22 反応ガス用ガスボンベ
33 基板加熱ヒータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法により透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリア層の製造方法であって、炭化金属および炭化半金属から選択される少なくとも1種の炭化物を含むターゲットを用い、反応ガスとして水素含有ガスを用いることを特徴とする透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項2】
前記反応ガスが、さらに窒素を含むことを特徴とする、請求項1記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項3】
前記炭化金属が炭化アルミニウムであり、前記炭化半金属が炭化シリコンであることを特徴とする、請求項1または2記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項4】
前記ターゲットが、さらに、金属および半金属の少なくとも1種を含み、前記金属および前記半金属が、単体、混合物または合金であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項5】
前記スパッタリング法が、パルスDC(直流)スパッタリング法またはRF(高周波)スパッタリング法であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項6】
透明基材フィルム上に、透明ガスバリア層を形成することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の透明ガスバリア層の製造方法によって製造されたことを特徴とする透明ガスバリア層。
【請求項8】
請求項7記載の透明ガスバリア層を透明基材フィルム上に形成したことを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項9】
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記積層体の少なくとも一部がガスバリア層で被覆されており、前記ガスバリア層が、請求項7に記載の透明ガスバリア層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記基板が、請求項8記載の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする、請求項9記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、請求項7記載の透明ガスバリア層および請求項8記載の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする太陽電池。
【請求項12】
集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、請求項7記載の透明ガスバリア層および請求項8記載の透明ガスバリアフィルムの少なくとも一方で被覆されていることを特徴とする薄膜電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−212577(P2012−212577A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78056(P2011−78056)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】