説明

透明フィルムの処理観察方法及びシステム

【課題】透明フィルムを、重合性モノマーを含有する反応ガスにてプラズマ処理する際、その処理の良否を簡易に観察できるようにする。
【解決手段】プラズマ処理装置10のノズル14から重合性モノマーを含有する反応ガスを吹き出して、透明な被処理フィルム9に接触させ、かつ被処理フィルム9に大気圧近傍下で生成したプラズマを照射する。続いて、観察装置20の照明手段21から被処理フィルム9に照明光30を照射し、撮像手段22にて被処理フィルム9を撮像する。撮像手段22の受光面22aを、照明光30が直接入射しない位置に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルムを表面処理した後、その表面処理状態を観察する方法及びシステムに関し、特に偏光板用の保護フィルムの接着性向上処理等に適した処理観察方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏光板用の保護フィルムにアクリル酸等の重合性モノマーを気化させて吹き付け、かつ大気圧近傍下で生成したプラズマを照射する表面処理方法が記載されている。これにより、保護フィルムの表面にアクリル酸等の重合性モノマーの重合膜が形成される。この重合膜が接着性促進層となり、保護フィルムを偏光フィルムに確実に接着できる。
特許文献2には、透明光学フィルムの欠陥を光学的に観察するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2009/008284号
【特許文献2】特開2008−175609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
偏光板の保護フィルム等の光学フィルムは透明である。上掲特許文献1に記載の表面処理によれば、フィルムの表面にアクリル酸等の重合性モノマーの重合膜が形成されるが、この重合膜は一般に無色透明であり、しかも重合膜の厚さは極めて小さく、ナノメートルオーダーである。そのため、例えば重合性モノマーを気化させる気化器の不具合等により処理が不十分であっても、見た目では良好に処理されたフィルムと区別しづらい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば偏光板等の光学装置に適用される透明フィルムを、重合性モノマーを含有する反応ガスにてプラズマ処理する際、その処理の良否を簡易に観察できる方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係るフィルム処理観察方法は、透明な被処理フィルムに重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させ、かつ大気圧近傍下で生成したプラズマを照射するプラズマ処理工程と、前記プラズマ処理工程後の前記被処理フィルムに照明光を照射し、前記照明光が直接入射しない位置から見た前記被処理フィルムの像を観察する観察工程と、を実行することを特徴とする。
【0006】
プラズマ処理工程において、反応ガス中の重合性モノマーが被処理フィルムに付着し、かつプラズマ重合して被処理フィルムの表面分子と結合(グラフト重合)する。これにより、被処理フィルムの表面に重合性モノマーの重合膜が形成される。この重合膜は、一般に無色透明であり、かつ厚さが微小(ナノオーダー)である。
上記プラズマ処理工程における表面処理が何らかの不具合でなされておらず、或いは不十分であった場合、観察工程における照明光の殆どが被処理フィルムを真っ直ぐ透過する。したがって、照明光が直接入射しない位置では、被処理フィルムの観察像を得にくく、又は観察像の明度が暗くなる。
上記プラズマ処理工程における表面処理が良好であった場合、観察工程における照明光が重合性モノマーの重合膜によって散乱する。上記散乱光の一部が、上記観察位置に入射する。したがって、被処理フィルムの観察像が得られ、又は観察像の明度が明るくなる。これにより、上記被処理フィルム及び重合膜が透明であり、かつ重合膜の膜厚が極めて小さくても、プラズマ処理工程において表面処理が十分になされたか否かを簡易に判別することができる。
前記観察は、カメラ等の撮像手段にて被観察部を撮像することの他、人が被観察部を直接目視することを含む。
【0007】
観察工程において観察する箇所(被観察部)は、被処理フィルムにおける前記照射光が直接入射する部分(被照射部)であることが好ましい。これにより、被処理フィルムの表面処理の良否に応じた観察像の明度等の違いをより明確にでき、処理の良否判別をより容易に行なうことができる。処理不良等の箇所の特定も容易である。
前記被観察部が、前記被照射部からずれていてもよい。
【0008】
本発明に係るフィルム処理観察システムは、透明な被処理フィルムに重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させ、かつ大気圧近傍下で生成したプラズマを照射するプラズマ処理装置と、
前記プラズマ処理装置を経た前記被処理フィルムを観察する観察装置と、
を備え、前記観察装置が、前記被処理フィルムに照明光を照射する照明手段と、受光面を前記被処理フィルムに向けた撮像手段と、を含み、前記受光面が、前記照明光が直接入射しない位置に配置されていることを特徴とする。
【0009】
プラズマ処理装置において、反応ガス中の重合性モノマーが被処理フィルムに付着し、かつプラズマ重合して被処理フィルムの表面分子と結合(グラフト重合)する。これにより、被処理フィルムの表面に重合性モノマーの重合膜が形成される。表面処理後の被処理フィルムを観察装置にて観察する。
上記プラズマ処理装置に何らかの不具合があり、表面処理がなされておらず、或いは不十分であった場合、観察装置の照明手段の照明光の殆どが被処理フィルムを真っ直ぐ透過する。したがって、照明光が直接入射しない観察位置にある撮像手段では、被処理フィルムの観察像を得にくく、又は観察像の明度が暗くなる。
上記プラズマ処理装置における表面処理が良好であった場合、照明手段の照明光が重合性モノマーの重合膜によって散乱する。上記散乱光の一部が、上記観察位置にある撮像手段に入射する。したがって、被処理フィルムの観察像が得られ、又は観察像の明度が明るくなる。これにより、上記被処理フィルム及び重合膜が透明であり、かつ重合膜の膜厚が極めて小さくても、プラズマ処理装置により表面処理が十分になされたか否かを簡易に判別することができる。
前記プラズマ処理装置が、一対の電極を含み、これら電極どうしの間に前記プラズマ照射のための大気圧近傍の放電空間が形成されることが好ましい。
【0010】
本発明に係るフィルム表面処理用観察装置は、重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させ、かつ大気圧近傍の放電空間に通す処理を経た透明な被処理フィルムを観察する装置であって、
前記被処理フィルムに照明光を照射する照明手段と、受光面を前記被処理フィルムに向けた撮像手段と、を含み、前記受光面が、前記照明光が直接入射しない位置に配置されていることを特徴とする。
上記処理がなされておらず、或いは不十分であった場合、照明手段の照明光の殆どが被処理フィルムを真っ直ぐ透過する。したがって、照明光が直接入射しない観察位置にある撮像手段では、被処理フィルムの観察像を得にくく、又は観察像の明度が暗くなる。上記処理が良好であった場合、照明手段の照明光が重合性モノマーの重合膜によって散乱する。上記散乱光の一部が、上記観察位置にある撮像手段に入射する。したがって、被処理フィルムの観察像が得られ、又は観察像の明度が明るくなる。これにより、上記被処理フィルム及び重合膜が透明であり、かつ重合膜の膜厚が極めて小さくても、上記処理が十分になされたか否かを簡易に判別することができる。
【0011】
前記撮像手段の受光軸が 前記被処理フィルムにおける前記照射光が直接入射する部分(被照射部)に向けられていることが好ましい。
これにより、処理が良好であった場合の散乱光が撮像手段の受光軸にほぼ沿って撮像手段に入射する。したがって、処理の良否に応じた観察像の違いがより明確になり、表面処理の良否判定をより容易に行なうことができる。
前記撮像手段の受光軸が 前記被照射部からずれていてもよい。
【0012】
前記フィルム処理観察システムにおいて、前記被処理フィルムを前記プラズマ処理装置、前記観察装置の順に搬送する搬送機構をさらに備えていることが好ましい。被処理フィルムをプラズマ処理装置から観察装置へ連続搬送することにより、プラズマ処理装置による表面処理と観察装置による観察とを連続して行なうことができ、表面処理後、直ちに観察できる。この場合、前記被処理フィルムが連続フィルムであり、前記搬送機構が、繰り出しロール、ガイドロール、巻き取りロールを含むことが好ましい。更に、前記プラズマ処理装置の少なくとも一方の電極が回転可能なロール電極であり、このロール電極に前記連続フィルムからなる被処理フィルムが掛け回されることが好ましい。
前記撮像手段が、前記搬送方向と直交するライン状の撮像領域を有するラインセンサカメラであることが好ましい。これにより、被処理フィルムの表面状態を該被処理フィルムの幅方向(撮像領域方向)及び延び方向に観察でき、表面処理の均一性を確認することができる。
【0013】
前記表面処理は、大気圧近傍下にて行なうことが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10Pa〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10Pa〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10Pa〜10.397×10Paがより好ましい。
【0014】
本発明は、難接着性の光学樹脂フィルムの処理に好適であり、該難接着性の光学樹脂フィルムを易接着性の光学樹脂フィルムに接着するにあたり、難接着性の光学樹脂フィルムの接着性を向上させるのに好適である。
前記難接着性の光学樹脂フィルムの主成分としては、例えばトリアセテートセルロース(TAC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0015】
前記易接着性の光学樹脂フィルムの主成分としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0016】
前記難接着性の光学樹脂フィルムの接着性向上のための表面処理等においては、前記反応成分として、重合性モノマーを用いることが好ましい。
前記重合性モノマーとしては、不飽和結合及び所定の官能基を有するモノマーが挙げられる。所定の官能基は、水酸基、カルボキシル基、アセチル基、グリシジル基、エポキシ基、炭素数1〜10のエステル基、スルホン基、アルデヒド基から選択されることが好ましく、特に、カルボキシル基や水酸基等の親水基が好ましい。
【0017】
不飽和結合及び水酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸エチレングリコール、アリルアルコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
不飽和結合及びカルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等が挙げられる。
不飽和結合及びアセチル基を有するモノマーとしては、酢酸ビニル等が挙げられる。
不飽和結合及びグリシジル基を有するモノマーとしては、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
不飽和結合及びエステル基を有するモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸2−エチル等が挙げられる。
不飽和結合及びアルデヒド基を有するモノマーとしては、アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド等が挙げられる。
【0018】
好ましくは、前記重合性モノマーは、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマーである。かかるモノマーとして、アクリル酸(CH=CHCOOH)、メタクリル酸(CH=C(CH)COOH)が挙げられる。前記重合性モノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸であることが好ましい。これによって、難接着性樹脂フィルムの接着性を確実に高めることができる。前記重合性モノマーは、アクリル酸であることがより好ましい。
【0019】
前記重合性モノマーは、キャリアガスによって搬送することにしてもよい。キャリアガスは、好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスから選択される。経済性の観点からは、キャリアガスとして窒素を用いるのが好ましい。
アクリル酸やメタクリル酸等の重合性モノマーの多くは、常温常圧で液相である。そのような重合性モノマーは、不活性ガス等のキャリアガス中に気化させるとよい。重合性モノマーをキャリアガス中に気化させる方法としては、重合性モノマー液の液面上の飽和蒸気をキャリアガスで押し出す方法、重合性モノマー液中にキャリアガスをバブリングする方法、重合性モノマー液を加熱して蒸発を促進させる方法等が挙げられる。押し出しと加熱、又はバブリングと加熱を併用してもよい。
【0020】
加熱して気化させる場合、加熱器の負担を考慮し、重合性モノマーは、沸点が300℃以下のものを選択するのが好ましい。また、重合性モノマーは、加熱により分解(化学変化)しないものを選択するのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、重合性モノマーを含有する反応ガスにて透明フィルムをプラズマ処理した後、その処理状態を観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るフィルム処理観察システムの概略構成を示す解説図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、被処理フィルム9は、光学用の透明な樹脂フィルムであり、連続シート状になっている。ここでは、被処理フィルム9として、偏光板の保護フィルムが適用されている。保護フィルム9は、トリアセテートセルロース(TAC)を主成分として含む。なお、フィルム9の成分は、TACに限られず、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィン重合体(COP)、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等であってもよい。フィルム9の厚さは、例えば100μm程度である。
【0024】
PVAフィルムからなる偏光フィルムと保護フィルムとが接着剤にて貼り合わされ、偏光板が構成される。接着剤としては、PVA水溶液等の水系接着剤が用いられる。接着工程に先立ち、フィルム処理観察システム1によって保護フィルムを表面処理し、保護フィルムの接着性を向上させる。
【0025】
図1に示すように、フィルム処理観察システム1は、プラズマ処理装置10と、観察装置20を備えている。プラズマ処理装置10は、電極11,12と、反応ガスノズル14を備えている。電極11,12は、共に円筒形状のロール電極にて構成されている。ロール電極11,12が、各々の軸線を図1の紙面と直交する処理幅方向に向け、互いに平行に並んで配置されている。ロール電極11,12どうしの間に狭いギャップ13が形成されている。一対の電極11,12のうち一方が電源(図示省略)に接続されている。他方の電極が電気的に接地されている。電源は、例えばパルス波状の電力を電極11,12に供給する。これにより、一対の電極11,12どうしの間に電界が印加され、ギャップ13内に大気圧近傍下においてプラズマが生成され、ギャップ13が大気圧近傍の放電空間になる
【0026】
被処理フィルム9が、繰り出しロール(図示省略)から繰り出され、図1において幅方向を紙面に対し直交させてロール電極11,12の上側の周面に半周程度掛け回されている。被処理フィルム9は、ロール電極11,12の周面に沿って放電空間13に通され、放電空間13より下に垂らされてガイドロール15,15にて折り返されている。更に、被処理フィルム9は、観察装置20のガイドロール25に掛け回されたうえで、巻き取りロール(図示省略)に巻き取られている。
【0027】
図1において模式的に示すように、各ロール電極11,12に回転機構3が連結されている(図では、回転機構3と電極12との連結線の図示は省略)。回転機構3は、モータ等の駆動部と、該駆動部の駆動力をロール電極11,12の軸に伝達する伝達手段とを含む。伝達手段は、例えばベルト・プーリ機構やギア列にて構成されている。回転機構3によって、ロール電極11,12が、それぞれ自らの軸線まわりに、かつ互いに同期して同方向(図1において時計周り)に回転される。これにより、被処理フィルム9が、第1ロール電極11から第2ロール電極12へ概略右方向に搬送される。被処理フィルム9の搬送速度は、例えば10m/min〜30m/min程度である。
【0028】
回転機構3、電極11,12及びガイドロール15,25、並びに図示しない繰り出し及び巻き取りロールは、被処理フィルム9の搬送機構を構成する。電極11,12及びガイドロール15,25、並びに図示しない繰り出し及び巻き取りロールは、被処理フィルム9の支持手段を構成する。
【0029】
ロール電極11,12どうし間の放電空間13より上側に反応ガスノズル14が配置されている。反応ガスノズル14は、図1の紙面と直交する処理幅方向に長く延びている。反応ガスノズル14の延び方向と直交する断面は、下方に向かって先細になっている。反応ガスノズル14の下端部(先端部)が、ロール電極11,12間の漸次狭くなる箇所に差し入れられ、放電空間13に臨んでいる。詳細な図示は省略するが、反応ガスノズル14には整流部が組み込まれている。反応ガスノズル14の下面には、吹出し口が設けられている。吹出し口は、図1の紙面と直交する処理幅方向に延びるスリット状になっている。
【0030】
反応ガス供給源2が、反応ガス供給路2aを介して反応ガスノズル14に接続されている。気化器2からの反応ガスがノズル14に供給される。この反応ガスが、上記整流部にて均一化され、ノズル14の下面の吹出し口から吹き出される。この反応ガスの吹出し流は、処理幅方向に均一に分布した流れになる。
【0031】
反応ガスは、反応成分として重合性モノマーを含む。重合性モノマーとして、ここではアクリル酸AAが用いられている。反応ガスは、反応成分(重合性モノマー)の他、キャリアガスを更に含む。キャリアガスとしては不活性ガスが用いられている。ここでは、キャリアガス用の不活性ガスとして窒素(N)が用いられている
重合性モノマーとしては、アクリル酸に限定されるものではなく、メタクリル酸、イタコン酸、マイレン酸等を用いてもよい。キャリアガスとしては、Nに限定されず、Ar、He等の希ガスを用いてもよい。
【0032】
反応ガス供給源2は、気化器にて構成されている。気化器内に、重合性モノマーとしてアクリル酸AAが液体の状態で蓄えられている。キャリアガスとして窒素(N)が気化器内に導入される。このキャリアガス(N)にアクリル酸が気化して混合され、反応ガス(アクリル酸AA+N)が生成される。キャリアガスは、気化器内の液体アクリル酸の液面より上側に導入してもよく、液体アクリル酸の内部に導入してバブリングしてもよい。キャリアガスの一部を気化器に導入し、残部は気化器に通さないことにし、気化器の下流側でキャリアガスの上記一部と残部を合流させることにしてもよい。気化器の温度やキャリアガスの上記一部と残部の分配比によって、反応ガス中のアクリル酸濃度を調節できる。気化器2内の液体アクリル酸の設定温度は、例えば120℃〜190℃である。
【0033】
供給路2a及びノズル14は、反応ガス温度調節手段(図示省略)にて温調されている。供給路2aの温度調節手段は、例えばリボンヒータにて構成されている。ノズル14の温度調節手段は、例えば、温調された水等の媒体を通す温調路にて構成されている。供給路2a及びノズル14における反応ガスの設定温度は、アクリル酸の凝縮温度より高温であることが好ましく、例えば50℃〜70℃である。
【0034】
更に上記各ロール電極11,12には、温調手段(図示省略)が組み込まれている。温調手段は、例えばロール電極11,12内に形成された温調路にて構成されている。温調路に、温調された水等の媒体を流すことにより、ロール電極11,12を温調できる。ひいては、ロール電極11,12の周面上の被処理フィルム9を温調できる。電極11,12ひいては被処理フィルム9の設定温度は、アクリル酸の凝縮温度より低温であることが好ましく、例えば20℃〜25℃である。
【0035】
被処理フィルム9の搬送方向に沿ってプラズマ処理装置10の下流側に観察装置20が配置されている。観察装置20において、被処理フィルム9が複数のガイドロール25によってある程度の張力を付与されて支持されている。図では、観察装置20における被処理フィルム9は水平に支持されているが、斜め又は垂直に支持されていてもよい。
【0036】
観察装置20は、照明手段21と、撮像手段22と、モニタ(画像表示手段)23を含む。
照明手段21は、複数のLED素子(発光素子)を有する白色LED光源にて構成されている。照明手段21は、単色LED光源でもよい。LED光源21は、観察装置20における被処理フィルム9の配置位置より下方に配置されている。詳細図は省略するが、LED光源21は、被処理フィルム9の搬送方向と直交する処理幅方向(図1の紙面直交方向)に延び、そのLED素子が処理幅方向に配列されている。LED光源21の発光面21aは処理幅方向に延びている。発光面21aが、被処理フィルム9に斜めに向けられている。発光面21aは、LED光源21よりフィルム搬送方向の上流側に向かうように傾けられているが、LED光源21よりフィルム搬送方向の下流側に向かうように傾けられていてもよい。
【0037】
発光面21aから照明光30が出射される。照明光30の波長は、特に限定がないが、好ましくは可視光域である。照明光30の光軸31が、被処理フィルム9に対し斜めに交差している。被処理フィルム9における照明光30が直接入射する部分(被照射部)9aは、LED光源21よりフィルム搬送方向の少し上流側に位置している。発光面21aから被照射部9aまでの距離D1は、例えばD1=50mm〜100mmであるが、これに限定されず、D1<50mmでもよく、D1>100mmでもよい。照明光30の被処理フィルム9への入射角αは、例えばα=30°〜60°であるが、これに限定されず、α=0°〜30°でもよく、α>60°でもよく、更には入射角αが全反射臨界角より大きくてもよい。照明光30は、ほぼ一定幅の光束を保つ平行光、ないしは平行光に近い拡散光である。光源21の発光面21aが撮像手段22の直下(撮像領域)から外れて配置されている限り、照明光30は、拡散光でもよく、収束光でもよい。
【0038】
詳細な図示は省略するが、照明光30は、処理幅方向(図1の紙面直交方向)にライン状になっている。被処理フィルム9における被照射部9aは、該被処理フィルム9の幅方向(図1の紙面と直交する方向)のほぼ全体に及んでいる。
放電空間13から被照射部9aまでのフィルム9に沿う距離Lは、特に限定が無い。被照射部9a及び後記被観察部は、放電空間13すなわち重合処理部よりフィルム搬送方向の下流側であればよい。
【0039】
次に、撮像手段22について説明する。
撮像手段22は、複数のCCD(撮像素子)を有するCCDラインセンサカメラにて構成されている。上記複数のCCDが処理幅方向(図1の紙面直交方向)に配列されている。ラインセンサカメラ22は、処理幅方向(図1の紙面直交方向)に沿うライン状の撮像領域を有している。撮像領域は、被処理フィルム9の全幅をほぼカバーしている。
【0040】
ラインセンサカメラ22は、観察装置20における被処理フィルム9の配置位置を挟んでLED光源21とは反対側(上側)に配置されている。ラインセンサカメラ22は、被照射部9aのちょうど真上に配置されている。ラインセンサカメラ22の受光面22aが真下に向けられている。受光面22aは、光源21からの照明光30が直接入射しない位置に配置されている。光源21の発光面21aが、ラインセンサカメラ22の撮像領域から外れていることが好ましい。
受光面22aと被処理フィルム9との距離D2は、例えばD2=1000mm程度であるが、これより大きくてもよく、小さくてもよい。
【0041】
ラインセンサカメラ22の受光軸22L(撮像レンズの光軸)が、被照射部9aに向けられ、被照射部9aと交差している。受光軸22Lは、被照射部9aひいては被処理フィルム9と直交しているが、被処理フィルム9に対し斜めになっていてもよい。被処理フィルム9におけるラインセンサカメラ22による被観察部が、光源21による被照射部9aと一致し、ないしは重なっている。
【0042】
ラインセンサカメラ22にモニタ23が接続されている。ラインセンサカメラ22にて取得した画像がモニタ23に表示される。
【0043】
上記構成のフィルム処理観察システム1によって、透明な被処理フィルム9を表面処理し、かつ観察する方法を説明する。
被処理フィルム9の表面処理は、プラズマ処理工程と観察工程を含む。被処理フィルム9の延び方向の各箇所に対し、まずプラズマ処理工程を実行し、その後、観察工程を実行する。
【0044】
[プラズマ処理工程]
プラズマ処理工程はプラズマ処理装置10にて行なう。プラズマ処理装置10のロール電極11,12を回転機構3によって図1において時計周りに回転させ、被処理フィルム9を大略右方向へ搬送する。
電源(図示省略)から電極11,12に電力を供給して、電極11,12間に電界を印加し、ギャップ13内に大気圧近傍のプラズマ放電を生成する。
【0045】
気化器2においてキャリアガス(N)にアクリル酸(AA)を気化させ、反応ガス(AA+N)を生成する。この反応ガスを、供給路2aを経て、ノズル14から放電空間13に吹き出し、被処理フィルム9に吹き付ける。すると、反応ガス中のアクリル酸が凝縮し、被処理フィルム9に付着する。このアクリル酸が放電空間13のプラズマによって活性化され、二重結合の開裂、重合等が起きる。反応ガス中の窒素は、放電空間13内においてプラズマ化される。この窒素プラズマやプラズマ光が被処理フィルム9に照射され、被処理フィルム9の表面分子のC−C、C−O、C−H等の結合を切断する。この結合切断部にアクリル酸の重合物が結合(グラフト重合)し、或いはアクリル酸から分解したCOOH基等が結合すると考えられる。これにより、被処理フィルム9の表面に接着性促進層となるアクリル酸重合膜が形成される。アクリル酸重合膜の厚さは極めて小さく、ナノメートルオーダーである。
【0046】
[観察工程]
被処理フィルム9の上記プラズマ処理された部分を観察装置20へ搬送する。観察装置20によって、観察工程を実行する。観察工程では、観察装置20のLED光源21から照明光30を被処理フィルム9の被照射部9aに向けて照射する。かつ、ラインセンサカメラ22によって、被照射部9aの方向を撮像する。この像をモニタ23に表示する。これにより、照明光30が直接入射しない位置から見た被処理フィルム9の像をモニタ23によって暗視野観察できる。
【0047】
もしも、プラズマ処理装置10の動作不良(例えば気化器2の不具合等)によって、上記プラズマ処理が十分になされていない場合、照明光30は被処理フィルム9において殆ど散乱せず、被処理フィルム9を真っ直ぐ透過する。LED光源21からの光が受光面22aに入射することは殆どない。したがって、モニタ23の表示画像が暗くなる。
【0048】
上記プラズマ処理装置10による表面処理が良好になされている場合、被処理フィルム9にはアクリル酸重合膜が被膜されているから、照明光30の一部がアクリル酸重合膜の分子によって散乱する。そのうち一部の散乱光33が受光面22aに入射し、ラインセンサカメラ22によって検出される。したがって、モニタ23の表示画像が明るくなり、ないしは白っぽくなる。散乱光33は受光軸22Lにほぼ沿って入射するから、処理不良の場合と比べた表示画像の明度等の違いがより明確になる。
【0049】
よって、アクリル酸重合膜が無色透明かつ極薄であっても、被処理フィルム9を暗視野観察することで、上記アクリル酸重合膜の有無又は付着の程度に応じて、観察像の明度等に違いを出すことができる。この観察像の違いを見分けることで、上記重合膜の形成処理の良否を判別できる。被照射部9aと被観察部が一致しているから、処理不良の箇所を容易に特定できる。被処理フィルム9をプラズマ処理装置10から観察装置20へ連続搬送することにより、プラズマ処理工程と観察工程を連続して行なうことができる。
【0050】
被処理フィルム9の幅方向(図1の紙面と直交する方向)のほぼ全域に照明光30が照射され、かつラインセンサカメラ22が被処理フィルム9の幅方向に延びるライン状の撮像領域を有することで、被処理フィルム9の幅方向のほぼ全体を一度に観察できる。さらに、被処理フィルム9が延び方向に連続搬送されることにより、被処理フィルム9の被照射位置9aが移動する。これにより、被処理フィルム9の表面状態を幅方向及び延び方向に観察でき、表面処理の均一性を確認することができる。
【0051】
観察の結果、表面処理が不十分又は不良と認められたときは、処理をやり直したり、その被処理フィルム9を不良品として処分したりする等、適切な対処を行う。これにより、良好な表面処理がなされた被処理フィルム9のみを偏光板の保護フィルムとして用い、PVAフィルム等からなる偏光フィルムと接着して偏光板を作製することができる。接着剤としてはPVA水溶液等の水系接着剤を用いる。予め上記プラズマ処理工程によって被処理フィルム9の接着性が高められ、かつ上記観察工程によって表面処理の良好性が確認されているため、十分な接着強度を有する偏光板を確実に得ることができる。
【0052】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、照明手段及び撮像手段の配置位置及び角度等は適宜選択できる。
撮像手段22の受光軸22Lが、被処理フィルム9の被照射部9aからずれていてもよい。
照明手段21が被処理フィルム9の上側に配置され、撮像手段22が被処理フィルム9の下側に配置されていてもよい。
撮像手段22が、観察装置20における被処理フィルム9の配置位置に対して照明手段21と同じ側に配置に配置されていてもよい。照明光30の被処理フィルム9への入射角が全反射臨界角より大きく、撮像手段22が照明光30の正反射光の光束からずれて配置されていてもよい。
【0053】
照明手段は、特に限定がなく、LED光源に限られず、蛍光ランプ、その他の種々の発光源を適用できる。
【0054】
撮像手段22は、ラインセンサカメラに限られず、撮像領域内に光源21の発光面21aが入らないよう配置されている限りエリアセンサカメラであってもよく、その他種々の撮像装置を適用できる。
撮像手段を省き、作業者が、照明光30が直接入射しない位置から被処理フィルム9を目視観察してもよい。
【0055】
観察装置20において、被処理フィルム9を静止させて観察してもよい。
撮像手段22の画像データを解析して被処理フィルム9の表面処理状態の良否判定を行なう解析装置を更に備えてもよい。
【0056】
プラズマ処理装置10の構造は、適宜改変できる。例えば、アクリル酸等の重合性モノマーを含む反応ガスを、放電空間13より上流側に離れた位置で被処理フィルム9に接触させて、重合性モノマーを被処理フィルム9上で凝縮させて被処理フィルム9に付着させ、続いて被処理フィルム9を放電空間13に導入し、かつ重合性モノマーを含まない放電生成ガスを放電空間13に供給してプラズマを生成してもよい。上記放電生成ガスとしては、窒素や希ガス(アルゴン、ヘリウム等)を用いることが好ましい。放電生成ガス又は反応ガスを吹き出すノズルを、被処理フィルム9のガイドロール15,15による折り返し部分の内部に配置してもよい。
ロール電極等を3つ並べて設けて放電空間13を2つ形成し、搬送方向の前段の放電空間13に重合性モノマーを含む反応ガスを供給し、搬送方向の後段の放電空間13に重合性モノマーを含まない放電生成ガスを供給することにしてもよい。
プラズマ処理装置10の電極構造は、ロール電極11,12に限られず、平行平板電極でもよく、ロール電極と平板電極の対でもよく、ロール電極と部分円筒凹面電極の対でもよい。
【0057】
被処理フィルム9は、連続シート状に限られず、枚葉状であってもよい。
被処理フィルム9は、透明であればよく、無色透明に限られず、半透明又は有色透明であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイ(FPD)の偏光板等の光学装置の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 フィルム処理観察システム
2 気化器(反応ガス源)
2a 反応ガス供給路
3 回転機構
9 被処理フィルム
9a 被照射部、被観察部
10 プラズマ処理装置
11 第1電極
12 第2電極
13 放電空間
14 反応ガスノズル
15 ガイドロール
20 観察装置
21 LED光源(照明手段)
21a 発光面
22 ラインセンサカメラ(撮像手段)
22a 受光面
22L 受光軸
23 モニタ(画像表示手段)
25 ガイドロール
30 照明光
31 照射光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な被処理フィルムに重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させ、かつ大気圧近傍下で生成したプラズマを照射するプラズマ処理工程と、
前記プラズマ処理工程後の前記被処理フィルムに照明光を照射し、前記照明光が直接入射しない位置から見た前記被処理フィルムの像を観察する観察工程と、
を実行することを特徴とするフィルム処理観察方法。
【請求項2】
前記観察工程において、前記被処理フィルムにおける前記照明光が直接入射する部分を観察することを特徴とする請求項1に記載のフィルム処理観察方法。
【請求項3】
透明な被処理フィルムに重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させ、かつ大気圧近傍下で生成したプラズマを照射するプラズマ処理装置と、
前記プラズマ処理装置を経た前記被処理フィルムを観察する観察装置と、
を備え、前記観察装置が、前記被処理フィルムに照明光を照射する照明手段と、受光面を前記被処理フィルムに向けた撮像手段と、を含み、前記受光面が、前記照明光が直接入射しない位置に配置されていることを特徴とするフィルム処理観察システム。
【請求項4】
前記撮像手段の受光軸が、前記被処理フィルムにおける前記照明光が直接入射する部分に向けられていることを特徴とする請求項3に記載のフィルム処理観察システム。
【請求項5】
前記被処理フィルムを前記プラズマ処理装置、前記観察装置の順に搬送する搬送機構をさらに備え、前記撮像手段が、前記搬送方向と直交するライン状の撮像領域を有するラインセンサカメラであることを特徴とする請求項3又は4に記載のフィルム処理観察システム。
【請求項6】
重合性モノマーを含有する反応ガスを接触させ、かつ大気圧近傍の放電空間に通す処理を経た透明な被処理フィルムを観察する装置であって、
前記被処理フィルムに照明光を照射する照明手段と、受光面を前記被処理フィルムに向けた撮像手段と、を含み、前記受光面が、前記照明光が直接入射しない位置に配置されていることを特徴とするフィルム表面処理用観察装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−203063(P2011−203063A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69806(P2010−69806)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】