説明

透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板

【課題】皮膜や塗膜に紫外線吸収剤を配合し、クロムフリーの有機・無機複合皮膜や透明フッ素樹脂塗膜の紫外線劣化を防止し、ステンレス鋼の表面肌を活用した塗装ステンレス鋼板を得る。
【解決手段】ステンレス鋼板表面にクロムフリーの有機・無機複合皮膜を介し透明フッ素樹脂塗膜が設けられた塗装ステンレス鋼板である。有機・無機複合皮膜はチタン酸塩,ポリビニルフェノールを主成分とし、透明フッ素樹脂塗膜はポリフッ化ビニリデン樹脂,アクリル樹脂の混合塗料から成膜されている。有機・無機複合皮膜,フッ素樹脂塗膜の少なくとも一方に、トリアジン系及び/又はベンゾトリアゾール紫外線吸収剤が配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に有害な六価Cr成分が化成皮膜,樹脂塗膜の何れにも含まれておらず、ステンレス鋼の美麗な表面肌を活かした塗装ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性の良好な鋼材としてステンレス鋼板が多用されているが、環境悪化に伴い鋼板表面が発錆し外観に悪影響を及ぼす場合が散見される。外観の劣化は、ステンレス鋼特有の美麗な表面肌を活かした用途では商品価値を大幅に損ねる原因である。
発錆を防止するため、ステンレス鋼をクロメート処理することがあるが、六価Crイオンを含む排液の処理に多大な負担がかかる。そこで、チタン系,ジルコニウム系,モリブデン系,リン酸塩系等の薬液を使用した六価Crフリーの化成処理方法が検討されている。たとえば、チタン酸塩を含む化成皮膜は、硫酸チタン水溶液及び燐酸を含む処理液を鋼板に塗布し、加熱乾燥することにより形成される(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11-61431号公報
【0003】
本出願人も、バルブメタルの酸化物,水酸化物とフッ化物とを共存させた化成皮膜を紹介した(特許文献2)。更に、タンニン酸,澱粉,コーンスターチ,ポリビニルアルコール,アミノメチル化ポリビニルフェノール等を添加すると、化成皮膜に可撓性が付与され、加工部における塗膜密着性が向上することを見出した(特許文献3)。
【特許文献2】特許第3302684号公報
【特許文献3】特開2005-7771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステンレス鋼の表面肌を活かした用途では、透明フッ素樹脂塗膜で鋼板表面を被覆した塗装ステンレス鋼板が使用されるようになってきている。透明フッ素樹脂塗膜は、透明度が高く耐久性にも優れ、清潔感が要求される調理器具,厨房用品等に使用される塗装鋼板の塗膜として好適である。また、チタン酸塩,フッ化物,ポリビニルフェノールの有機・無機複合皮膜に対する密着性が良好なことも、透明フッ素樹脂塗膜の長所である。
【0005】
しかし、有機・無機複合皮膜を介して透明フッ素樹脂塗膜を設けた系では、透明フッ素樹脂塗膜を透過する紫外線が多く、複合皮膜の有機成分が紫外線劣化しやすいことが判った。有機成分の紫外線劣化は、透明フッ素樹脂塗膜のアクリル成分に対する有機・無機複合皮膜の親和性を損なわせ、透明フッ素樹脂塗膜が剥離する原因になる。
【0006】
本発明は、紫外線透過率の高い透明フッ素樹脂塗膜に由来する欠陥を解消するため、フッ素樹脂塗膜や有機・無機複合皮膜に紫外線吸収剤を配合することにより塗膜,皮膜の紫外線劣化を抑え、長期にわたり密着性良好な透明フッ素樹脂塗膜が保持され、ステンレス鋼特有の表面肌を活かした透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板は、有機・無機複合皮膜を介して透明フッ素樹脂塗膜が設けられた塗装ステンレス鋼板である。有機・無機複合皮膜はチタン酸塩,フッ化物,ポリビニルフェノールを主成分とし、透明フッ素樹脂塗膜はポリフッ化ビニリデン樹脂,アクリル樹脂の混合塗料から成膜された塗膜であり、有機・無機複合皮膜,透明フッ素樹脂塗膜の何れか一方又は双方に紫外線吸収剤が配合されている。
【0008】
透明フッ素樹脂塗膜はトップコート,アンダーコートの二層構成で設けても良く、この場合にはアンダーコートに紫外線吸収剤が配合される。
紫外線吸収剤には、トリアジン系又はベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が好ましい。また、ヒンダートアミン系の光安定剤を紫外線吸収剤を併用すると、紫外線劣化が一層効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、透明フッ素樹脂塗膜の高い透明度を維持しながら、紫外線透過に起因する皮膜や塗膜の劣化を抑制するため、紫外線吸収剤を配合している。紫外線吸収剤のうち、トリアジン系は短波長側の紫外線を吸収し、ベンゾトリアゾール系は長波長側の紫外線を吸収するので、トリアジン系,ベンゾトリアゾール系を併用すると広範囲にわたる紫外線の吸収が可能になる。紫外線吸収能を高めているため、紫外線による皮膜や塗膜の有機成分の分解反応が抑えられ、フッ素樹脂塗膜と有機・無機複合皮膜との親和性が損なわれることなく優れた塗膜密着性が持続する。
【実施の形態】
【0010】
塗装原板には、鋼種,表面仕上げ等に特段の制約は無く、フェライト系,オーステナイト系,二相系等、各種ステンレス鋼が使用される。
有機・無機複合皮膜の形成に先立って、ステンレス鋼板の表面を洗浄することが好ましい。洗浄には、アルカリ系脱脂剤を用いたアルカリ脱脂や塩酸,硫酸,リン酸,フッ酸、硝酸等の酸性水溶液を用いた酸洗がある。更に、活性表面を均一に調整するためのNi置換型表面調整等が必要に応じて施される。
【0011】
有機・無機複合皮膜は、化成処理液をステンレス鋼板に塗布することにより形成される。化成処理液は、Tiソースとして可溶性のハロゲン化物や酸素酸塩を含む。Tiのフッ化物はTiソース,Fソースとしても有効であるが、(NH4)F等の可溶性フッ化物をFソースとして化成処理液に別途添加する場合もある。フッ化物を含む化成処理液でステンレス鋼板の表面を処理すると、フッ素イオンによるエッチング作用でステンレス鋼板の表面が活性化し、Tiとの反応が促進され皮膜の密着性が向上する。Tiは酸素を介して鋼板表面に結合するものと推察される。
【0012】
具体的なTiソースとしては、KnTiF6(K:アルカリ金属又はアルカリ土類金属,n:1又は2),K2[TiO(COO)2],(NH4)2TiF6,H2TiF6,TiCl4,TiOSO4,Ti(SO4)2,Ti(OH)4等がある。何れも、化成処理液を塗布した後で乾燥・焼付けするときに所定組成の酸化物又は水酸化物とフッ化物からなる有機・無機複合皮膜が形成されるように配合比率が選定される。
【0013】
化成皮膜に含まれるチタン化合物の量は、好ましくはTi換算付着量で3〜20mg/m2の範囲に調整されている。付着量が3mg/m2に達しないと、有機・無機複合皮膜に対して架橋効果が不足し、加工時に皮膜の凝集破壊による塗膜剥離が発生しやすくなる。しかし、20mg/m2より多くても効果が飽和し経済的ではない。
【0014】
フッ化物は、処理液中でフッ化物イオンに解離し、目視観察では検出できない程度でステンレス鋼板の表面をエッチングする作用を呈する。皮膜中の量はフッ素換算付着量として7〜50mg/m2が好ましい。少なすぎるとフッ化物イオンによるエッチングが弱くなり、ステンレス鋼板素地との密着性が不足する。逆にフッ素量が過剰になると、化成皮膜に多量の金属が溶出して有機・無機複合皮膜が弱くなる。
【0015】
フッ化物イオンはチタン化合物と共存すると、チタンのフッ化物錯体となってフッ化物イオンの解離を抑制するため、ステンレス鋼板表面との過剰反応や処理液の急激な劣化を少なくする。上述した(NH4)2TiF6,H2TiF6を使用する場合、チタン成分,フッ素化合物の両方を同時に化成処理液に導入できるので都合がよい。また、フッ化物イオンは、皮膜の乾燥過程でステンレス鋼板から溶出した金属イオンと難溶性のフッ化鉄等のフッ化物を形成し、有機・無機複合皮膜の形成に寄与する。
【0016】
有機・無機複合皮膜と透明フッ素塗膜との密着性を高めるため、化成処理液にポリビニルフェノールを添加する。ポリビニルフェノールは、透明フッ素塗膜を構成するポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂のうちアクリル樹脂に類似した分子構造を有し、アクリル樹脂に高い相溶性を示す。
化成処理液に添加されるポリビニルフェノールとしては、フェノール環に置換基を有したものも使用できる。たとえば、アクリル樹脂との水素結合を促進するヒドロキジアルキル基,更に複数のヒドロキシアルキル基を有するアミノ基が有効である。
【0017】
化成処理液には、塗膜の剪断方向に沿った密着性を改善するシリカや、チタン化合物と同様に効果を増強するジルコニウム化合物の添加も可能である。
調製された化成処理液をロールコート法,スピンコート法,スプレー法,浸漬法等で、洗浄又は化成処理されたステンレス鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥することにより耐食性に優れた有機・無機複合皮膜が形成される。有機・無機複合皮膜は、常温で乾燥することもできるが、連続操業を考慮すると50℃以上の加熱保持で乾燥時間を短縮することが好ましい。
【0018】
有機・無機複合皮膜を形成した後、透明フッ素樹脂塗料を塗布し焼き付けることにより樹脂塗膜を形成する。透明フッ素樹脂塗料としては、顔料を含まないポリフッ化ビニリデン樹脂及びアクリル樹脂の混合塗料を使用する。ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂の混合塗料は、ポリフッ化ビニリデン樹脂の特性を活かしたまま塗装作業性,塗膜の連続性,可撓性,密着性等の性能を塗膜に付与できるため、ステンレス鋼板の耐久性とバランスが採れ工業的な塗装にも適する。
【0019】
透明フッ素樹脂塗料は、好ましくはポリフッ化ビニリデン樹脂:60〜90質量%にアクリル樹脂:40〜10質量%を配合することにより調製される。ポリフッ化ビニリデン樹脂が60質量%未満ではフッ素樹脂の特性が損なわれ、耐候性,耐食性,耐薬品性,耐汚染性,耐磨耗性等が低下する。逆に90質量%を超える過剰配合量では、成膜性に有効なアクリル樹脂の効果が低下し、塗膜の密着性,加工性が悪くなる。
【0020】
高級感,耐摩耗性の向上を狙って、ポリテトラフルオロエチレン粒子を透明フッ素樹脂塗料に添加しても良い。ポリテトラフルオロエチレン粒子は、フッ素樹脂塗料との相溶性が高く、延性をもつため、粒子/塗膜樹脂界面が塗膜割れの起点となって加工性を低下させる原因にはならない。
【0021】
紫外線吸収剤として、トリアジン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が添加される。中でも、空気雰囲気中、昇温速度:5℃/分の加熱条件下300℃での重量減少が10質量%以下の紫外線吸収剤が好適である。
トリアジン系紫外線吸収剤には、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ジデシルオキジプロピル)-オキシ]-2-ヒドロキジフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキジプロピル)-オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンの混合物(チバガイギー製:TINUVIN400)が挙げられる。
【0022】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤には、オクチル-3-[-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)]-4-ヒドロキシフェニル]プロピネート(チバガイギー製:TINUVIN384),2-]2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α'-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(チバガイギー製:TINUVIN900),メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)]-4-ヒドロキシフェニル]プロピネートとポリエチレングリコール(分子量約300)の縮合物(チバガイギー製:TINUVIN1130),2-[2'-ヒドロキシ-3'-(3",4",5",6"-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5'-メチルフェニル]-ベンゾトリアゾール(共同薬品製:Viosorb 590)等が挙げられる。
【0023】
紫外線吸収剤は単独でも使用可能であるが、短波長側の紫外線吸収能が高いトリアジン系と長波長側の紫外線吸収能が高いベンゾトリアゾール系との併用が好ましい。
化成処理液に対する紫外線吸収剤の配合量は、乾燥固形分の0.1〜2.0質量%にするのが好ましい。0.1質量%未満では、化成皮膜に配合されたポリビニルフェノールの紫外線劣化を防止しきれない。2.0質量%を超える過剰量は、皮膜の加工性,透明フッ素塗膜との密着性を低下させる傾向を示す。
【0024】
塗料に対する紫外線吸収剤の配合量は、塗料の不揮発成分:100質量部に対して1〜8質量部に調整することが好ましい。1質量部未満の配合量では、上塗り塗膜に浸透した昇華性染料の耐候性が不十分になりやすい。逆に8質量部を超える過剰配合は、塗膜の耐汚染性,加工性,外観等を劣化させやすく、塗膜が着色し透明感を損なう原因にもなる。
【0025】
耐光性を更に向上させるため、必要に応じてヒンダートアミン系の光安定剤が化成処理液や塗料組成物に添加される。
ヒンダートアミン系光安定剤には、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(三共製:SANOL LS770),ビス(1,2,2,6,6-ペンダメチル-4-ピペリジル)セバケート(三共製:SANOL LS765),1-{2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(三共製:SANOL LS2626),4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(三共製:SANOL LS744),8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオン(三共製:SANOL LS440),2-(3,5-ジ-t-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(チバガイギー製:TINUVIN 144),コハク酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)エステル(チバガイギー製:TINUVIN 780FF)、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの重縮合物(チバガイギー製:TINUVIN 622LD),ポリ{[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]}(チバガイギー製:CHIMASSORB 944LD),N,N'-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジンの重縮合物(チバガイギー製:CHIMASSORB 119FL),ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート(チバガイギー製:TINUVIN 292)、ビス(1-オクタオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(チバガイギー製:TINUVIN 123),HA-70G(三共製),アデカスタブ LA-52,アデカスタブ LA-57,アデカスタブ LA-62,アデカスタブ LA-63,アデカスタブ LA-67,アデカスタブ LA-68,アデカスタブ LA-82,アデカスタブ LA-87(以上、旭電化工業製)等が挙げられる。
【0026】
化成処理液に対するヒンダードアミン系光安定剤の添加量は、乾燥固形分の0.01〜2.0質量%にすることが好ましい。0.01質量%未満では有機・無機複合皮膜に配合されたポリビニルフェノールの紫外線劣化を防止しきれないが、2.0質量%を超える過剰配合は皮膜の加工性,透明フッ素塗膜との密着性に悪影響を及ぼす。
【0027】
透明フッ素樹脂塗料は、具体的には乾燥膜厚:15〜25μmとなる塗布量で塗布された後、常法に従って到達板温:240〜260℃×1〜2分で焼き付けられる。焼付け後、α型結晶の生成を抑制するため、160℃/秒以上の冷却速度で70℃以下の温度に冷却する。冷却には、一般に水冷が採用される。冷却速度の制御により、加工性の劣るα型結晶の生成を抑制した塗膜が得られる。
【0028】
水冷後の再加熱処理でも、β型結晶を積極的に生成できる。β型結晶は、α型結晶と異なり結晶粒径が非常に小さい。そのため、延伸等の加工を施した場合に応力が広範囲に均一分散し、塗膜ワレの発生を抑制できる。このようにβ型結晶の生成により塗膜の加工性を損なうことなく、塗膜硬度の向上が可能となる、再加熱条件としては、フッ素樹脂塗膜が融解せず、かつα型結晶が生成しない条件に設定する。具体的には、80〜140℃の温度で1〜5分間加熱する方法が工業的に有利である。加熱方法には、オーブン内での大気加熱,保温シートを使用した保温,熱水スプレーや熱水浸漬による加熱等が挙げられる。
【0029】
紫外線吸収剤を配合した透明フッ素塗膜を塗装したステンレス鋼板は、塗膜の透明性を維持したまま、下地処理皮膜の紫外線による劣化を抑制できる。図1には透明フッ素塗膜の紫外線-可視光透過スペクトルとして地上に到達する波長:290nm以上の波長域のスペクトルを、図2には紫外線吸収剤を配合した透明フッ素塗膜の透過スペクトルを示す。また、下地の有機・無機複合皮膜の吸収スペクトルを図3に示す。
【0030】
透明フッ素塗膜には紫外線遮蔽機能がない(図1)が、紫外線吸収剤を配合した透明フッ素塗膜では有機・無機複合処理皮膜の吸収波長域である330nm以下の紫外線を遮蔽できている(図2,3)。この効果により屋外での使用に際しても塗膜の剥離が抑制される。また、可視光域の透過スペクトルは、図1と図2とで差異がなく、塗膜の透明性が維持されていることが判る。
透明フッ素塗膜を二層構成とした場合でも、アンダーコートに紫外線吸収剤を配合することにより、下地皮膜を紫外線から保護でき、塗膜表面も透明感を維持できる。
【実施例】
【0031】
チタン化合物,フッ素化合物及びポリビニルフェノールを配合し、必要に応じて紫外線吸収剤,ヒンダードアミン系光安定剤,その他の添加剤を添加し、複数の化成処理液(表1)を調合した。
紫外線吸収剤には、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンとを混合したトリアジン系紫外線吸収剤を使用した。光安定剤には、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-セバケートと1-(メチル)-8-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-セバケートとを混合したヒンダートアミン系光安定剤を使用した。
【0032】

【0033】
板厚:0.5mmのSUS430ステンレス鋼板にアルカリ脱脂,水洗,Ni置換折出型表面調整,水洗,乾燥を施し、化成処理用原板を用意した。
表1の化成処理液をステンレス鋼板に塗布し、水洗せずにオーブンに投入し、板温:100℃で加熱乾燥した。比較のため、市販のクロメート処理液(ZM-3387:日本パーカライジング株式会社製)をステンレス鋼板に塗布し、同様に水洗せずに板温:100℃で加熱乾燥した。
ステンレス鋼板の表面に形成された有機・無機複合皮膜を分析したところ、表2に示す濃度で各成分が含まれていた。
【0034】

【0035】
有機・無機複合皮膜を形成させたステンレス鋼板の表面に、質量比でポリフッ化ビニリデン樹脂8:アクリル樹脂2の混合樹脂塗料をベースに紫外線吸収剤,ヒンダードアミン系光安定剤を添加した塗料(表3)をロールコーターで塗布した。
1コート1ベーク方式又は2コート2ベーク方式で塗料を250℃に1分間加熱した後、直ちに水冷することにより膜厚:18μmの透明フッ素樹脂塗膜に成膜した。2コート2ベーク方式では、下塗り塗膜,上塗り塗膜の合計膜厚が18μmとなる塗布量を設定し、下塗り,上塗りごとに250℃×1分間の焼付け→水冷を行った。
【0036】

【0037】
製造された透明フッ素樹脂ステンレス鋼板から試験片を切り出し、以下の試験で塗膜性能を調査した。
〔沸騰水試験〕
沸騰水に2時間漫漬して引き上げた試験片を「J1S G3312 塗装溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯 12.2.2 曲げ武験」に準拠して0t曲げ加工し、曲げ部に粘着テープを一旦貼り付けて引き剥がすテーピング試験に供した。粘着テープ剥離後に塗膜を観察し、塗膜剥雌の有無を調査した。僅かでも塗膜剥離が検出された試験片を×,塗膜剥離が生じていない試験片を○として塗膜密着性を評価した。
【0038】
〔耐候性試験〕
透明フッ素樹脂塗膜の上から下地のステンレス鋼に達する切込み(クロスカット)をカッターナイフで入れた後、「JIS K5400:1990 塗料一般試験方法 9.8 促進耐候性 9.8.1 サンシャインカーボンアーク灯式」に準拠した耐候性試験に供した。500時間,1000時間経過後、耐候性試験機から試験片を取り出し、塗膜の浮き,剥離等を検査した。浮き,剥離等が生じていない試験片を○,切込みから幅0.5mm以下の浮きが検出された試験片を△,幅0.5mm以上の浮きが検出された試験片を×として耐候性を評価した。
【0039】
表4の調査結果にみられるように、チタン酸塩,フッ化物,ポリビニルフェノールを含有する有機・無機複合皮膜及び紫外線吸収剤,必要に応じ光安定剤を含有する透明フッ素樹脂塗膜を設けた試験No.1〜7は、試験No.16のクロメート処理した塗装鋼板と同様に沸騰水試験後の塗膜密着性が優れ、紫外線に暴露される用途を想定した耐候性試験でも優れた塗膜性能を示した。
他方、塗膜に紫外線吸収剤を含まない試験No.11,12は、沸騰水試験後の塗膜密着性に問題はないが、有機・無機複合皮膜まで達した紫外線が皮膜を劣化させるため耐候性に劣っていた。有機・無機複合皮膜にチタン酸塩,フッ化物,ポリビニルフェノール等をが含まれていない試験No.13〜15は、透明フッ素塗膜に紫外線吸収剤,更にはヒンダートアミン系光安定剤が配合されていても、沸騰水試験後の塗膜密着性や耐候性に劣っていた。
【0040】

【産業上の利用可能性】
【0041】
以上に説明したように、クロムフリーの有機・無機複合皮膜を介してステンレス鋼板表面に形成した透明フッ素樹脂塗膜に紫外線吸収剤を配合すると、有機・無機複合皮膜に含まれている有機成分・ポリビニルフェノールの紫外線劣化が抑えられ、フッ素樹脂塗膜の長期密着性が向上する。そのため、透明度が高いが紫外線透過率も高い透明フッ素樹脂塗膜の欠点が解消され、長期間にわたってステンレス鋼特有の美麗な外観を呈する塗装ステンレス鋼板として広汎な分野で重宝される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】透明フッ素塗膜の紫外線-可視光透過スペクトル
【図2】紫外線吸収剤を配合した透明フッ素塗膜の紫外線-可視光透過スペクトル
【図3】有機・無機複合皮膜の紫外線吸収スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸塩,フッ化物,ポリビニルフェノールを主成分とする有機・無機複合皮膜を介しポリフッ化ビニリデン樹脂,アクリル樹脂の混合塗料から成膜された透明フッ素樹脂塗膜がステンレス鋼表面に設けられ、有機・無機複合皮膜,透明フッ素樹脂塗膜の少なくとも一方に紫外線吸収剤が配合されていることを特徴とする透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
透明フッ素樹脂塗膜がトップコート,アンダーコートの二層構成であり、アンダーコートに紫外線吸収剤が配合されている請求項1記載の透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板。
【請求項3】
紫外線吸収剤がトリアジン系又はベンゾトリアゾール系である請求項1又は2記載の透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板。
【請求項4】
紫外線吸収剤に加えヒンダートアミン系光安定剤が有機・無機複合皮膜,透明フッ素樹脂塗膜の少なくとも一方に添加されている請求項1〜3何れかに記載の透明フッ素樹脂塗装ステンレス鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−261110(P2007−261110A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89852(P2006−89852)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】