説明

透明固形石鹸

【課題】濁り(白化)や粉ふきがなく透明性に優れると共に、発汗現象が起こりにくく、乾燥後の変形が小さく、歩留まりに優れた透明固形石鹸の提供。
【解決手段】本発明の透明固形石鹸は、式(1)で示される化合物(A)を2〜20質量%、脂肪酸塩(B)を30〜80質量%、水(C)を5〜25質量%含有する。
【化1】


(式中、nは2〜6の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明固形石鹸に関する。更に詳しくは、濁り(白化)や粉ふきがなく透明性に優れると共に、発汗やべとつきが起こりにくく、乾燥後の変形が小さく、歩留まりに優れた透明固形石鹸に関する。
【背景技術】
【0002】
透明固形石鹸は主に洗顔に用いられてきた。その理由は、透明固形石鹸が豊かな泡立ちを有し、さっぱりとした洗い上がりに優れていることに加えて、透明な外観が消費者に好まれてきたためである。
【0003】
透明性を向上させるために、透明固形石鹸の脂肪酸を特定の構成とすることや、特定の物性値を有する脂肪酸を用いる方法が提案されている。例えば、融点が36℃〜44℃、中和価が215〜235、ヨウ素価が31〜45の混合脂肪酸をアルカリ金属水酸化物により中和して得られる脂肪酸塩を含有する透明石鹸組成物(特許文献1)、脂肪酸塩を構成する脂肪酸が、タイター31〜40℃、ヨウ素価0〜30、全脂肪酸組成中の炭素数12の直鎖飽和脂肪酸が15〜25重量%、炭素数18の不飽和脂肪酸が0〜22重量%である脂肪酸塩を含有する透明石鹸(特許文献2)、炭素数が14〜18の直鎖飽和脂肪酸と炭素数が14〜18のα位分岐飽和脂肪酸との混合脂肪酸を主成分とする透明固型石鹸(特許文献3)が開示されている。
【0004】
しかし、脂肪酸を特定の構成とすることや、特定の物性値を有する脂肪酸を用いることによって、透明固形石鹸の製造直後の透明性は改善できるが、透明固形石鹸を長期間保存すると、水分が揮散することで、石鹸分が再結晶化し、一部が白化する濁りや粉ふきが生じ、透明性が損なわれることがある。
【0005】
このような透明固形石鹸の濁り(白化)や粉ふきを抑制するために、多価アルコールや糖類などの透明化剤を配合することが提案されている。例えば、ヘキシレングリコール或いは平均分子量が300〜600のポリエチレングリコール或いは平均分子量が200〜600のポリプロピレングリコール又はこれらの混合物を添加した透明固形石鹸(特許文献4)、プロピレングリコール、ソルビトール、グリセリンを含んでなる透明固形石鹸組成物(特許文献5)が開示されている。
【0006】
しかし、これらの透明固形石鹸のうち、不飽和脂肪酸を多く含む石鹸素地では透明性が改善され濁りや粉ふきは生じにくくなるものの、不飽和脂肪酸含量が少ない石鹸素地を用いたときは、十分な透明性が得られにくく、また、表面に液状物が汗のように流出する発汗やべとつきの現象(以下、総括して発汗現象ともいう。)が生じると共に、透明固形石鹸を乾燥した後の変形率が大きくなる場合がある。
【0007】
一方、特定の糖類を配合した透明固形石鹸として、特許文献6には、D−グルコピラノースの6位にキシロースの1位がエーテル結合した2糖であるプリメペロース及びその誘導体を含有する透明固形石鹸が開示されている。この透明固形石鹸については、透明性には優れるものの、発汗現象や乾燥後の変形率の改善などの面で未だ十分ではない。
【0008】
また、一般に固形石鹸は、水やエタノールなどの一級アルコール類を添加し、2〜3ケ月掛けてこれらを揮発させて製品化されるが、その乾燥工程で石鹸の中心が徐々にくぼみ変形が大きくなる。変形率が大きくなると、型打ちの際にヒビや割れが生じやすくなるので、磨き工程で補正しなければならず、歩留まりの低下が生じるという問題があった。
【0009】
このように透明性に優れ、発汗現象が起こりにくく、乾燥後の変形が少ない透明固形石鹸は未だ得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平9−208996号公報
【特許文献2】特開2000−169893号公報
【特許文献3】特開平7−268392号公報
【特許文献4】特開昭50−135104号公報
【特許文献5】特表2004−514049号公報
【特許文献6】特開平11−241096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、濁り(白化)や粉ふきがなく透明性に優れると共に、発汗現象が起こりにくく、乾燥後の変形が小さく、歩留まりに優れた透明固形石鹸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、式(1)で示される化合物(A)、脂肪酸塩(B)および水(C)を特定の割合で組み合わせることで、濁りや粉ふきがなく透明性に優れると共に、発汗現象が起こりにくく、乾燥後の変形が小さく、歩留まりに優れた透明固形石鹸が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、式(1)で示される化合物(A)を2〜20質量%、脂肪酸塩(B)を30〜80質量%、水(C)を5〜25質量%含有する透明固形石鹸である。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、nは2〜6の整数を表す。)
【0015】
なお、本発明において「透明」とは、実質的に透き通って濁りの少ない状態のことであり、使用形態に成型ないし加工された状態において可視光の透過度がおおむね25%以上であることをいう。また、「透明」の概念には無色透明に限定されず、有色透明も含まれる。本発明の透明固形石鹸は、不透明な石鹸で形成された花などの造形物が埋包されたり、印刷を施したカルボキシメチルセルロールの薄膜が埋包されていても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、濁りや粉ふきがなく透明性に優れると共に、発汗現象が起こりにくく、乾燥後の変形が小さく、歩留まりに優れた透明固形石鹸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の透明固形石鹸は、式(1)で示される化合物(A)、脂肪酸塩(B)、および水(C)を含有する。以下、各成分について説明する。
【0018】
〔式(1)で示される化合物(A)〕
本発明の透明固形石鹸に用いられる化合物(A)は、下記式(1)で表される。
【0019】
【化2】

【0020】
上記式(1)において、nはグルコースの重合度を示し、2〜6の整数を表す。
【0021】
式(1)で示される化合物(A)は、透明固形石鹸の起泡性を優れたものとし、乾燥後の変形を抑える効果がある。
【0022】
式(1)で示される化合物(A)は、2つのグルコースがα1位同士で結合したα−D−グルコピラノシル=α−D−グルコピラノシドを基本骨格とし、一方のグルコースの4位とα−グルコースの1位が結合したオリゴ糖であり、nが2〜6、つまりグルコースの重合度が2〜6の三糖ないし七糖の化合物である。より具体的には、重合度n=2であるα−マルトシルα−グルコシド、重合度n=3であるα−マルトトリオシルα−グルコシド、重合度n=4であるα−マルトテトラオシルα−グルコシド、重合度n=5であるα−マルトペンタオシルα−グルコシド、および重合度n=6であるα−マルトヘキサオシルα−グルコシドが挙げられる。
【0023】
本発明の透明固形石鹸に含有される化合物(A)は、重合度の異なるこれらグルコシドの中から選ばれる1種又は2種以上から構成され得る。また、式(1)で示される化合物(A)に該当しない他のオリゴ糖、すなわち式(1)において重合度n=1であるα,α−トレハロースや重合度n=7以上のオリゴ糖、α,α−トレハロースを基本骨格としないオリゴ糖については、本発明の効果を損なわない範囲で含有しても構わない。
【0024】
本発明の透明固形石鹸が式(1)で示される化合物(A)を2〜20質量%、好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは5〜12質量%含有することにより、優れた特性を得ることができる。透明固形石鹸中の式(1)で示される化合物(A)の含有量が2質量%未満の場合、透明固形石鹸の透明性が劣ったり、乾燥後の変形度が増大するおそれがある。一方、透明固形石鹸中の式(1)で示される化合物(A)の含有量が20質量%を超えると、透明固形石鹸の透明性は優れるものの、べたつきが生じるおそれがある。
【0025】
〔脂肪酸塩(B)〕
本発明の透明固形石鹸に用いられる脂肪酸塩(B)は、公知の製造方法により得られ、例えば、脂肪酸をアルカリ剤で中和する中和法、油脂をけん化するけん化法、脂肪酸メチルエステルや脂肪酸エチルエステルをけん化するエステルけん化法等により得られる。
【0026】
脂肪酸塩(B)を製造する際に用いる脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、エルカ酸、ベヘニン酸などの脂肪酸、牛脂脂肪酸、豚脂脂肪酸、羊脂脂肪酸、鶏脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、コーン油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸などの混合脂肪酸やこれらの水素添加脂肪酸などが挙げられ、これらのうち一種または二種以上の混合物が用いられる。アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、L−アルギニン等の塩基性アミノ酸、各種エタノールアミンなどの塩基性化合物が挙げられる。
【0027】
脂肪酸塩(B)を製造する際に用いる油脂としては、牛脂、豚脂、羊脂、鶏脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、ナタネ油、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、ヒマシ油等やこれらの水素添加物などが挙げられ、これらのうち一種または二種以上の混合物が用いられる。けん化に際しては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ剤が用いられる。
【0028】
脂肪酸塩(B)を製造する際に用いる脂肪酸メチルエステルまたは脂肪酸エチルエステルとしては、上記脂肪酸のメチルエステルまたはエチルエステルが挙げられ、これらのうち一種または二種以上の混合物が用いられる。
【0029】
本発明の透明固形石鹸が脂肪酸塩(B)を30〜80質量%、好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは35〜60質量%含有することにより、優れた特性を得ることができる。透明固形石鹸中の脂肪酸塩(B)の含有量が30質量%未満の場合、乾燥後の変形度が大きくなるとともに、十分な泡立ちが得られないおそれがある。一方、透明固形石鹸中の脂肪酸塩の含有量が80質量%を超えると、透明性が低下するおそれがある。
【0030】
脂肪酸塩(B)のタイターは、特に限定するものではないが、好ましくは31〜40℃、より好ましくは33〜37℃である。タイターが低すぎると、常温(15〜25℃)保存で経時による失透が目立つことがあり、タイターが高すぎると、透明性に劣ることがある。なお、タイターは、基準油脂分析試験法(I)1996年版タイター(その1)に従って測定することができる。
【0031】
また、脂肪酸塩(B)のヨウ素価は、特に限定するものではないが、好ましくは0〜30、より好ましくは0〜20である。ヨウ素価が高すぎると、経時による色及び匂いの変化が大きくなることがあり、好ましくない。なお、ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(I)1996年版ヨウ素価に従って測定することができる。
【0032】
〔水(C)〕
本発明の透明固形石鹸が水(C)を5〜25質量%、好ましくは7〜22質量%含有することにより、優れた特性を得ることができる。透明固形石鹸中の水(C)の含有量が5質量%未満の場合、透明性が低下するおそれがある。一方、透明固形石鹸中の水(C)の含有量が25質量%を超えると、発汗現象がおこるとともに、乾燥後の変形度が大きくなるおそれがある。
【0033】
〔その他の成分〕
本発明の透明固形石鹸は洗顔用や身体用の石鹸として使用することができる。本発明の透明固形石鹸は、本発明の効果を損なわない程度に、必要に応じて、皮膚洗浄剤に配合される各種成分を配合することができる。例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び両性界面活性剤などの界面活性剤;ペカンナッツエキス、シャクヤクエキス、ムクロジエキス、シソエキス、ヨクイニンエキス、トウキエギスなどの天然植物エキス;シリコーンオイル、植物性油脂、各種油性剤などの泡質改善剤;スクロース、ソルビトールなどの糖類;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンなどの多価アルコール;リン脂質及びその誘導体;スクワラン;カチオンポリマー;ヒアルロン酸などの保湿剤;結晶セルロース、モモ核、アンズ核、トウモロコシ穂軸、マンナン等のスクラプ剤;金粉、金箔、シリカ、タルク、活性炭、カオリン、酸化チタン、セリサイト、マイカなどの鉱物;ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、トコトリエノール、アスコルビン酸やその誘導体等の抗酸化剤;ヒドロキシエタンジホスホン酸またはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩、クエン酸またはその塩等のキレート剤;色素;顔料;香料などを適宜添加することができる。
【0034】
本発明の透明固形石鹸は、枠練り法等の公知の製造法に従って製造することができる。例えば、脂肪酸をアルカリ剤によりけん化又は中和させ、式(1)で示される化合物(A)やその他の成分を混合した後、混合物を型枠に流し込む。放冷固化した後、型枠から取り出し、所定の厚さで切断し、乾燥させる。次いで、型打ち、磨きを行い、さらに乾燥させた後、仕上げ磨きを行なう。脂肪酸をアルカリ剤によりけん化又は中和させる際に、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の一価アルコールを用いてもよい。なお、一価アルコールは、乾燥工程でその大半が揮散するので、透明固形石鹸中の残存量が極めて少なくなり、実質的に残存量がほぼ0になる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、「%」はいずれも質量基準を意味する。実施例および比較例には以下の化合物を使用した。
【0036】
<パーム油微水添脂肪酸Aの調製>
オートクレーブ装置にパーム油脂肪酸(ヨウ素価51)を100g仕込み、水素添加用のニッケル触媒を0.2g添加して、温度150℃、圧力1MPa/cm2 でヨウ素価が40になるまで水素添加を行った。次いで、加圧濾過にてニッケル触媒を取り除いた後、単蒸留を行い、パーム油微水添脂肪酸を得た。このパーム油微水添脂肪酸Aの脂肪酸組成はパルミチン酸:46.6質量%、ステアリン酸:10.7質量%、オレイン酸:40.0質量%、リノール酸:2.7質量%であった。
得られたパーム油微水添脂肪酸Aは実施例1,4、比較例1,4に用いた。
【0037】
<パーム油微水添脂肪酸Bの調製>
オートクレーブ装置にパーム油脂肪酸(ヨウ素価51)を100g仕込み、水素添加用のニッケル触媒を0.2g添加して、温度150℃、圧力3MPa/cm2 でヨウ素価が1以下になるまで水素添加を行った。次いで、加圧濾過にてニッケル触媒を取り除いた後、単蒸留を行い、パーム油微水添脂肪酸を得た。このパーム油微水添脂肪酸Bの脂肪酸組成はパルミチン酸:46.2質量%、ステアリン酸:53.8質量%であった。
得られたパーム油微水添脂肪酸Bは実施例2、比較例2に用いた。
【0038】
<パーム油微水添脂肪酸Cの調製>
オートクレーブ装置にパーム油脂肪酸(ヨウ素価51)を100g仕込み、水素添加用のニッケル触媒を0.2g添加して、温度150℃、圧力1MPa/cm2 でヨウ素価が20になるまで水素添加を行った。次いで、加圧濾過にてニッケル触媒を取り除いた後、単蒸留を行い、パーム油微水添脂肪酸を得た。このパーム油微水添脂肪酸Cの脂肪酸組成はパルミチン酸:50.0質量%、ステアリン酸:27.8質量%、オレイン酸:20.8質量%、リノール酸:1.4質量%であった。
得られたパーム油微水添脂肪酸Cは実施例3,比較例3に用いた。
【0039】
<式(1)で示される化合物(A)>
式(1)においてn=2の三糖化合物が9%、n=3の四糖化合物が68%、n=4の五糖化合物が1%および加水分解水添デンプンを22%含有する化合物である「トルナーレ/Tornare(登録商標)」〔(株)林原生物化学研究所製〕を常法により噴霧乾燥して粉末としたものを用いた。すなわち、式(1)で示される化合物(A)を78%含有する粉末状組成物を用いた。
【0040】
<実施例1>
実施例1の試料を次の方法により調製した。還流装置と攪拌機を有する四ッ口フラスコを用いて、25.8gのパーム油微水添脂肪酸Aと11.0gのラウリン系脂肪酸(パーム油微水添脂肪酸Aとラウリン系脂肪酸は重量比7:3)を温度80℃で混合し溶解した。なお、ラウリン系脂肪酸の脂肪酸組成は、カプリン酸:10質量%、ラウリン酸:75質量%、ミリスチン酸:15質量%であった。
【0041】
攪拌しながら、2gの水と18gのエタノール、粉末状組成物(式1で示される化合物(A)を10g含有)12.8gと70%ソルビトール水溶液21.4g(ソルビトールを約15g含有)、スクロース15g、グリセリン3g、塩化ナトリウム0.1g、EDTA−4Na 0.1g、HEDP(1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸)0.1gを加え、均一に混合した。ついで、28%アルカリ水溶液(水酸化ナトリウム/水酸化カリウム=50wt%/50wt%)を加えて中和し均一に混合した後、フェノールフタレイン指示薬にて微紅色であることを確認した。
【0042】
次に、円筒形の型枠(直径65mm)に流し込み、15℃の恒温槽内で一晩放冷固化した。固化後、型枠より取り出し、約3cm間隔に切断する。切断した透明石鹸を1ヶ月間25℃にて乾燥した後、乾燥後の変形度を測定した。ついで、型打ち、磨きを行い、さらに25℃にて一晩乾燥させた後に仕上げ磨きを行い、透明固形石鹸の透明性、表面の状態について評価を行った。
【0043】
<評価方法>
1.透明性の評価
透明固形石鹸の透明性を目視により、および4ポイントの文字を書いた紙の上に載せたときの文字の判別のし易さにより、以下の判断基準で判定した。
○:曇りがなく透明であり、4ポイントの文字が容易に判別できる。
△:わずかに曇りがあるが透明であり、4ポイントの文字がなんとか判別できる。
×:曇りがあり、4ポイントの文字を判別できない。
【0044】
2.透明性(HAZE)
スガ試験機(株)製「直読ヘーズコンピューター(HGM-2DP )」を用いて、透明固形石鹸のHAZE値を求めた。
【0045】
3.表面の状態の評価
湿度85%(温度23℃)の恒温槽に12時間放置した後の試料の表面状態を目視及び手触りにより以下の判定基準で判断した。
○:べとつき、発汗などの現象は認められない。
△:わずかにべとつき、発汗が認められる。
×:顕著にべとつき、発汗が認められる。
【0046】
4.乾燥後の変形度
試料の円周部の最も高いところに水平に平らな板を当て、最も変形している部分までの長さを測定し、以下の判断基準で判断した。
○:0以上3mm以下
△:3mm超〜6mm未満
×:6mm以上
【0047】
<比較例1>
実施例1において、式1で示される化合物(A)を配合しないことを除いて同様にして、透明固形石鹸を調製し、評価を行なった。
【0048】
<実施例2,3、比較例2,3>
実施例1において、パーム油微水添脂肪酸Aをパーム油微水添脂肪酸B(実施例2、比較例2)、パーム油微水添脂肪酸C(実施例3、比較例3)に変更すると共に、各種成分の配合量を表1および表2に示す量に準じて変更することを除いて同様にして、透明固形石鹸をそれぞれ調製し、評価を行なった。
【0049】
<実施例4、比較例4>
実施例1において、各種成分の配合量を表1および表2に示す量に準じて変更することを除いて同様にして、透明固形石鹸をそれぞれ調製し、評価を行なった。
【0050】
<実施例5〜6、比較例5>
実施例1において、パーム油微水添脂肪酸Aを表1および表2に示す脂肪酸含量となるように、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)およびステアリン酸(C18)を配合して調整したものに変更すると共に、各種成分の配合量を表1および表2に示す量に準じて変更することを除いて同様にして、透明固形石鹸をそれぞれ調製し、評価を行なった。
【0051】
<実施例7、比較例6>
実施例7及び比較例6の試料は以下の方法により調製した。還流装置と攪拌機を有する四ッ口フラスコを用いて、ラウリン酸(C12)7.7g、ミリスチン酸(C14)9.6g、パルミチン酸(C16)8g、ステアリン酸(C18)1.6g、オレイン酸(C18:1)1.6g、リシノール酸(C18:1 OH)3.2g、リノール酸(C18:2)0.3gを温度80℃において溶解する。攪拌しながら、15gの水と10gのエタノールを加える。ついで、3gの水酸化ナトリウムと5gのL−アルギニンをゆっくりと加える。水酸化ナトリウムについては約半分量を28%水酸化ナトリウム水溶液として加え、L−アルギニンについては全量を加える。
【0052】
次に、粉末の式1で示される化合物(A)(実施例7のみ)と、ソルビトール、スクロース、グリセリン、L−グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、EDTA−4Na、HEDPを加え、均一に混合した。さらに残りの水酸化ナトリウム水溶液を加え十分均一にした後、円筒形の型枠(直径65mm)に流し込み、室温で30℃以下となるまで放冷固化する。固化後、型枠より取り出し、約3cm間隔に切断する。切断した透明石鹸を1ヶ月間25℃にて乾燥した後、乾燥後の変形度を測定した。ついで、型打ち、磨きを行い、さらに25℃にて一晩乾燥させた後に仕上げ磨きを行い、透明固形石鹸の透明性、表面の状態について評価を行った。
【0053】
表1および表2に、実施例1〜7および比較例1〜6の各透明固形石鹸の配合量、脂肪酸の含量等、各評価結果をまとめて示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
なお、表1および表2において「水分」の欄中の数値は、試料を1ヶ月間25℃にて乾燥させた後の透明固形石鹸中の含水量を示し、その含水量は、105℃、3時間で乾燥させた乾燥残分で測定した。また、「乾燥後の変形度」の欄中の数値は、平らな板から最も変形している部分までの長さ(mm)を示す。
【0057】
表1および表2の記載から、式(1)で示される化合物(A)を2〜20質量%、脂肪酸塩(B)を30〜80質量%、水(C)を5〜25質量%含有することによって、濁り(白化)や粉ふきがなく透明性に優れると共に、発汗現象が起こりにくく、乾燥後の変形が小さく、歩留まりに優れた透明固形石鹸が得られることが判る。
【0058】
また、式(1)で示される化合物(A)に属さないオリゴ糖(スクロース)を多く含有する比較例3の透明固形石鹸では、表面の状態や透明性(HAZE)が良好ではないことから、式(1)で示される化合物(A)を他のオリゴ糖に変更しても、本発明の効果が得られないと理解できる。なお、比較例3において乾燥後の変形度が良好でない理由は、脂肪酸塩の含量が低いことに起因すると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の透明固形石鹸は、その用途を限定するものではないが、外観の良好性、特に透明性が要求される洗顔用や身体用の固形石鹸に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物(A)を2〜20質量%、脂肪酸塩(B)を30〜80質量%、水(C)を5〜25質量%含有する透明固形石鹸。
【化1】

(式中、nは2〜6の整数を表す。)

【公開番号】特開2009−144069(P2009−144069A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323447(P2007−323447)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】