説明

透明導電性フィルムおよびその製造方法

【課題】透明基材上に低抵抗のIn・Sn複合酸化物(ITO)からなる透明導電層が形成された透明導電性フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】透明基材上にIn・Sn複合酸化物からなる透明導電層を有し、透明基材の透明導電層が形成されている側の表面の算術平均粗さRaが1.0nm以下であり、透明導電層中のSn原子の量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対し、6重量%を超え15重量%以下であり、前記透明導電層のホール移動度が10〜35cm/V・sであり、キャリア密度が6×1020〜15×1020/cmである、透明導電性フィルム。当該透明導電性フィルムは、水の分圧が小さい雰囲気下において100℃を超え200℃以下の基材温度でアモルファス透明導電層をスパッタ製膜し、アモルファス透明導電層を加熱して結晶性透明導電層に転化することによって得られうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基材上に透明導電層が設けられた透明導電性フィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルには、位置検出の方法により光学方式、超音波方式、静電容量方式、抵抗膜方式などがある。抵抗膜方式のタッチパネルは、透明導電性フィルムと透明導電層付ガラスとがスペーサを介して対向配置されており、透明導電性フィルムに電流を流し透明導電層付ガラスに於ける電圧を計測するような構造となっている。一方、静電容量方式のタッチパネルは、基材上に透明導電層を有するものを基本的構成としており、高耐久性、高透過率を有するため、車載用途等において適用されている。特に近年、多点入力(マルチタッチ)が可能な静電容量方式のタッチパネルに対する需要が高まっており、同時に大画面化や応答速度の向上に対する要求も高まっている。
【0003】
従来、このようなタッチパネルには、透明基材上に、スパッタ法などの方法でインジウム・スズ複合酸化物(ITO)が形成された透明導電性フィルムが広く用いられている。透明基材上にITO膜を形成する方法としては、膜中の酸素を少なくして製膜し、その後、大気中の酸素雰囲気下で後加熱することにより、アモルファス膜から結晶膜へ転換させる技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この方法により、膜の透明性が向上するとともに、低抵抗化され、さらに加湿熱信頼性が向上するなどの利点がもたらされる。
【0004】
一方、タッチパネルの大画面化や応答速度向上に対する要求の高まりとともに、従来のITO膜よりもより低抵抗のITO膜を備える透明導電性フィルムの需要が高まっている。しかしながら、従来のITO膜では、結晶化によっても十分に抵抗が低下せず、あるいは、低抵抗化を実現するために、結晶化に長時間を要して生産性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−15536号公報
【特許文献2】特開2006−202756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みて、透明基材上に低抵抗のITO膜が形成された透明導電性フィルムを生産性高く提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らが鋭意検討の結果、透明基材の表面粗さ、スパッタ用ターゲットのインジウムとスズの比率、およびスパッタ時の到達真空度(水分圧)や基材温度を所定範囲とすることによって、短時間の加熱によっても結晶化し、低抵抗化が可能なITO膜が形成されることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は、透明基材上にIn・Sn複合酸化物からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムに関する。透明基材の透明導電層が形成されている側の表面の算術平均粗さRaは1.0nm以下であることが好ましい。透明導電層中のSn原子の量は、In原子とSn原子とを加えた重さに対し、6重量%を超え15重量%以下であることが好ましい。本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層のホール移動度が10〜35cm/V・sであることが好ましく、キャリア密度が6×1020〜15×1020/cmであることが好ましい。また、透明導電層の膜厚は15〜50nmであることが好ましい。
【0009】
このような透明導電性フィルムは、透明基材を準備する基材準備工程、および前記透明基材上にIn・Sn複合酸化物からなる透明導電層をスパッタ製膜する製膜工程、によって製造し得る。
【0010】
製膜工程においては、Sn原子の量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対し、6重量%を超え15重量%以下であるメタルターゲットまたは酸化物ターゲットが用いられることが好ましい。また、水の分圧がArガスの分圧に対して0.1%以下の雰囲気下で、基材温度が100℃を超え200℃以下で透明導電層をスパッタ製膜することが好ましい。
【0011】
このようにして得られるアモルファス透明導電層は、ホール移動度が5〜30cm/V・sであることが好ましく、キャリア密度が1×1020〜1×1021/cmであることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明は、前記アモルファス透明導電層を加熱して結晶化する熱処理工程を有する透明導電性フィルムの製造方法に関する。熱処理工程においては、結晶化前のアモルファス透明導電層に比して結晶化後の透明導電層のキャリア密度が増加することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、所定の表面粗さを有する透明基材上に、Snの含有量が大きいアモルファスITO膜が所定条件下でスパッタ製膜される。一般にSn含有量が大きいITO膜は結晶化し難いが、本発明の条件にて製膜されたITO膜は比較的短時間の熱処理で完全結晶化し得る。また、熱処理後のITO膜は熱処理前に比してキャリア密度が増加し、それに伴って低抵抗化される。そのため、本発明によれば、透明基材上に低抵抗のITO膜が形成された透明導電性フィルムを、効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る透明導電性フィルムの模式的断面図である。
【図2】透明導電性フィルムの一応用例に係る透明導電性積層体の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、透明導電性フィルム100の実施形態を表す模式的断面図であり、有機高分子成型物からなる透明フィルム11を含む透明基材1上に、透明導電層2が形成されている。透明導電性フィルム100は、透明基材を準備する基材準備工程、および透明基材上にIn・Sn複合酸化物(ITO)からなる透明導電層をスパッタ製膜する製膜工程により得られる。
【0016】
<基材準備工程>
透明基材1は、有機高分子成型物からなる透明フィルム11を含む。透明フィルム11としては、特に、透明性や耐熱性にすぐれたものが好適に用いられる。このような有機高分子としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系高分子、ポリオレフィン系高分子、ノルボルネン系高分子、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレートなどの単一成分の高分子、共重合高分子、エポキシ系高分子などが挙げられる。透明フィルム11は、これら有機高分子のフィルム状物、シート状物、その他の成型物が好適に用いられる。
【0017】
透明基材1は、透明フィルム11のみからなるものであってもよいが、図1に示すように、透明フィルム11の表面にアンダーコート層12や、背面コート層13が形成されていてもよい。なお、図1においては、アンダーコート層12および背面コート層13がそれぞれ1層形成された形態が図示されているが、これらの層は2層以上からなるものであってもよい。また、透明基材1として、液晶モノマーや液晶ポリマーなどからなる複屈折層が形成されたものも用い得る。
【0018】
透明基材1の透明導電層2を形成する側の面の算術平均粗さRaは、1.0nm以下であることが好ましく、0.7nm以下であることがより好ましく、0.6nm以下であることがさらに好ましく、0.5nm以下であることが特に好ましい。透明基材1の表面粗さを小さくすることによって、ITO膜を比較的短時間の加熱で結晶化できるとともに、結晶化後のITO膜を低抵抗とすることができる。透明基材表面の算術平均粗さRaの下限値は特に制限されないが、基材をロール状に巻き取る際の巻取り性付与の観点から、0.1nm以上であることが好ましく、0.2nm以上であることがより好ましい。なお、算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM、Digital Instruments社 Nonoscope IV)を用いて測定される。
【0019】
一般に、有機高分子成型物からなるフィルムは、生産性やハンドリング性の観点から、フィルム中にフィラー等を含有しているため、表面の算術平均粗さRaは数nm以上であることが多い。透明基材1の表面粗さを前記範囲とする観点からは、透明フィルム11の透明導電層2が形成される側の面に、アンダーコート層12が形成されていることが好ましい。透明フィルム表面にアンダーコート層が形成されることにより、透明フィルムの表面凹凸が緩和され、表面粗さを小さくすることができる。
【0020】
アンダーコート層12の材料としては、透明性を有し、かつ表面抵抗が、例えば1×10Ω/□以上である誘電体が好適に用いられる。このような材料としては、NaF、NaAlF、LiF、MgF、CaF、BaF、BaF、SiO、LaF、CeF、Alなどの無機物や、屈折率が1.4〜1.6程度のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などの有機物、あるいは上記無機物と上記有機物の混合物が挙げられる。
【0021】
アンダーコート層12は、上記のような材料を用いて、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のドライコーティング法、およびウェットコーティング法(塗工法)等により製膜できる。中でも、アンダーコート層12は、ウェットコーティング法により製膜されることが好ましい。また、複数のアンダーコート層を有する場合には、そのうちの少なくとも1層がウェットコーティング法により製膜されることが好ましい。アンダーコート層がウェットコーティング法により製膜されると、透明フィルム11の表面凹凸が緩和され均一な膜が形成されやすいため、透明基材1表面の算術平均粗さRaを上記所定範囲まで小さくすることができる。
【0022】
なお、透明基材1と透明導電層2との密着性を高める観点から、透明導電層を形成する前に、事前に透明基材の表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の適宜な接着処理を施してもよい。
【0023】
背面コート層13としては、例えば視認性の向上を目的とした防眩処理層や反射防止処理層を設けたり、外表面の保護を目的としたハードコート処理層を設けることができる。ハードコート処理層には、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂などの硬化型樹脂からなる硬化被膜が好ましく用いられる。これらの背面コート層13は、透明導電層3を製膜する前に透明フィルム11上に設けてもよいし。透明導電層3の製膜後に設けてもよい。
【0024】
<製膜工程>
製膜工程においては、透明基材1上にIn・Sn複合酸化物からなるアモルファス透明導電層(アモルファスITO膜)3がスパッタ法により製膜される。なお、「アモルファスITO」とは、完全に非晶質であるものに限られず、少量の結晶成分を有していてもよい。ITOがアモルファスであるか否かの判定は、基材上に透明当電層が形成された積層体を濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定することにより行い得る。アモルファスITO膜は塩酸によりエッチングされて消失するために、塩酸への浸漬により抵抗が増大する。本明細書においては、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超える場合に、ITOがアモルファスであるものとする。
【0025】
透明導電層の製膜には、DC電源を用いた標準的なマグネトロンスパッタ法だけでなく、RFスパッタ法、RF+DCスパッタ法、パルススパッタ法、デュアルマグネトロンスパッタ法などの種々のスパッタ法を採用できる。
【0026】
スパッタ製膜に用いられるスパッタターゲットは、Sn原子の量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対して、6重量%を超えて15重量%以下であるメタルターゲット(In−Snターゲット)または酸化物ターゲット(In−SnOターゲット)であることが好ましい。スパッタターゲットのSn原子の量は、In原子とSn原子とを加えた重さに対して、7〜14重量%であることがより好ましく、8〜13重量%であることがさらに好ましい。
【0027】
スパッタターゲット中のSnの含有量は、透明導電層2中のSn含有量と略等しくなるが、透明導電層中のSn含有量が小さすぎると、アモルファスITOを加熱して結晶化した際に、比抵抗が低くなり難く、低抵抗の透明導電層を得られない場合がある。一方、SnはIn結晶格子に取り込まれる量以外は不純物的な働きをし、結晶化を妨げる傾向がある。そのため、Sn含有量が大きすぎると、完全結晶化したITO膜が得られ難くなったり、結晶化に長時間を要する傾向がある。
【0028】
このようなターゲットを用いたスパッタ製膜は、高真空に排気したスパッタ装置内に、不活性ガスであるArガスを導入して行う。スパッタターゲットとしてIn−Snのメタルターゲットを用いる場合には、Arガスとともに酸素ガス等の酸化剤を導入して、反応性スパッタ製膜を行う。また、In−SnOの酸化物ターゲットが用いられる場合であっても、Arガスに加えて酸素ガス等を導入してもよい。
【0029】
製膜雰囲気中の水分子の存在は、製膜中に発生するダングリングボンドを終結させ、ITOの結晶成長を妨げるため、製膜雰囲気中の水の分圧は小さいことが好ましい。製膜時の水の分圧は、Arガスの分圧に対して0.1%以下であることが好ましく、0.07%以下であることがより好ましい。また、製膜時の水の分圧は、2×10−4Pa以下であることが好ましく、1.5×10−4Pa以下であることがより好ましく、1×10−4Pa以下であることが好ましい。製膜時の水分圧を上記範囲とするためには、製膜開始前にスパッタ装置内を、水の分圧が上記範囲となるように2×10−4Pa以下、好ましくは1.5×10−4Pa以下、より好ましくは1×10−4Pa以下となるまで排気して、装置内の水分や基材から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。
【0030】
スパッタ製膜時の基材温度は、100℃を超えることが好ましい。基材温度を100℃よりも高くすることにより、Sn原子含有量が大きいITO膜であっても、後述する熱処理工程におけるITO膜の結晶化が促進され易くなり、さらには、低抵抗の結晶性ITO膜が得られる。このように、透明導電層2を加熱して結晶化した際に、低抵抗膜の結晶性透明導電層とする観点からは、基材温度は120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、140℃以上であることが特に好ましい。また、基材への熱的ダメージを抑制する観点からは、基材温度は200°以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましく、160℃以下が特に好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、「基材温度」とは、スパッタ製膜時の基材の下地の設定温度である。例えば、ロールスパッタ装置により連続的にスパッタ製膜を行う場合の基材温度とは、スパッタ製膜が行われるキャンロールの温度である。また、枚葉式(バッチ式)でスパッタ製膜を行う場合の基材温度とは、基材を載置するための基材ホルダーの温度である。
【0032】
スパッタ製膜時の透明導電層の膜厚は、15〜50nmとすることが好ましく、20〜30nmとすることがより好ましい。アモルファス透明導電層の膜厚が過度に小さいと、後の熱処理工程において、ITO膜が結晶化し難くなる傾向がある。膜厚が、30nmを超えると、透明導電層を結晶化した際に、抵抗が低下しすぎたり、透明導電性フィルムの透明性や屈曲性が低下する等、タッチパネル用として用いる場合の品質に劣る場合がある。
【0033】
このように基材上にスパッタ製膜されるアモルファス透明導電層は、ホール移動度が5〜30cm2 /V・sであることが好ましく、キャリア密度が1×1020〜10×1020/cmであることが好ましい。また、前述のような製膜条件を採用することにより、ホール移動度およびキャリア密度を前記範囲とすることができる。
【0034】
このようにして得られる透明導電性フィルムは、そのままタッチパネル用として実用に供することもできるが、熱処理工程に供して、アモルファスITO膜を加熱することで結晶性透明導電層(結晶性ITO膜)に転化することもできる。
【0035】
なお、透明導電性フィルムを投影型静電容量方式のタッチパネルや、マトリックス型の抵抗膜方式タッチパネル等に用いる場合、透明導電層が所定形状(例えば短冊状)にパターン化される場合があるが、熱処理によりITO膜が結晶化されると、酸によるエッチング加工が難しくなる。一方、熱処理前のアモルファスITO膜は容易にエッチング加工が可能である。そのため、エッチングにより透明導電層をパターン化する場合は、透明導電層を製膜後、熱処理工程の前に行うことが好ましい。
【0036】
<熱処理工程>
熱処理工程は、スパッタ製膜後のアモルファス透明導電層を加熱して結晶化する工程である。加熱温度および加熱時間は、透明導電層のITOが完全結晶化するように適宜に選択される。ここで、「完全結晶化」とは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により結晶化したグレインが全面に存在する状態を指す。
【0037】
熱処理工程における加熱温度は、120℃〜160℃であることが好ましく、125℃〜160℃であることがより好ましく、130℃〜160℃であることがさらに好ましい。また、加熱時間は、120分以下であることが好ましく、90分以下であることがより好ましく、60分以下であることがさらに好ましい。加熱温度および加熱時間を適宜に選択することにより、生産性や品質面での悪化を伴うことなく、完全結晶化した膜に転化できる。なお、ITO膜を完全結晶化する観点において、加熱時間は30分以上であることが好ましい。
【0038】
一般に、Sn含有量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対して、6重量%を超えるようなITO膜は結晶化し難く、完全結晶化させるためには、例えば140℃以上で2時間以上加熱する必要があった。これに対して、前述のように、表面粗さの小さい基材を用い、所定条件下でアモルファスITO膜をスパッタ製膜することによって、比較的低温・短時間の加熱条件でITO膜を完全結晶化することができる。
【0039】
このように、結晶化によって、従来に比して大幅な低抵抗化が実現できる原因について検討したところ、本発明によれば、結晶化の前後で透明導電層のホール移動度は大幅に変化することなく、キャリア密度が大幅に増加していることが分かった。すなわち、結晶化後のホール移動度は、5〜35cm2 /V・s程度であり、結晶化前の5〜30cm2 /V・s程度に対して大きく変化しなかったのに対して、結晶化後のキャリア密度は、が6×1020〜15×1020/cm程度と、結晶化前の1×1020〜10×1020/cm程度に対して大幅に増加しており、これが低抵抗化に寄与しているものと推定される。
【0040】
換言するならば、本発明において、低抵抗の結晶性ITO膜を得る観点からは、熱処理工程に供する前のアモルファス透明導電層に比して、熱処理工程後の結晶性透明導電層のキャリア密度が増加することが好ましい。キャリア密度は1.5倍以上に上昇することがより好ましく、2倍以上に上昇することがさらに好ましい。
【0041】
上記の工程により得られる透明導電性フィルムは、そのままタッチパネル用などの各種用途に使用できる。また、図2に示すように、透明基材1の透明導電層2の形成面とは反対側の面に、透明な粘着剤層3を介して、透明基体4を貼り合わせて、透明導電性積層体101とすることもできる。
【0042】
透明導電性フィルム100への透明基体4の貼り合わせは、透明基体4の方に粘着剤層3を設け、これに透明導電性フィルム100(の透明基材1側)を貼り合わせてもよいし、逆に透明導電性フィルム100(の透明基材1側)に粘着剤層3を設け、これに透明基体4を貼り合わせてもよい。後者の方法は、透明導電性フィルムをロール状にして粘着剤層の形成を連続的に行えるので、生産性の面でより有利である。
【0043】
粘着剤層としては、透明性を有するものであれば、特に制限なく使用できる。たとえば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤などが用いられる。この粘着剤層は、透明基体の接着後そのクッション効果により、透明導電層の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性を向上させる機能を有する。
【0044】
このような粘着剤層を介して貼り合わされる透明基体は、フィルム基材に対して良好な機械的強度を付与し、特にカールなどの発生防止に寄与し得る。透明基体の貼り合わせ後の透明導電性積層体に可撓性が要求される場合、透明基体としては、通常6〜300μm程度のプラスチックフィルムが用いられ、可撓性が特に要求されない場合、通常0.05〜10mm程度のガラス板やフィルム状ないし板状のプラスチックが用いられる。プラスチックの材質としては、前記した透明フィルムと同様のものが挙げられる。
【0045】
このようにして製造される透明導電性フィルムは、各種装置の透明電極や、タッチパネルの形成に好適に用いられる。特に、本発明により得られる透明導電性フィルムは、ITO膜が低抵抗であることから、大画面化や高い応答特性が求められる表示機器のタッチパネル用に好適に用いることができる。また、本発明の透明導電性フィルムは、耐湿熱性能にすぐれているため、上記タッチパネルのほか、高温高湿度での耐環境性能にすぐれることが望まれる各種用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例での評価は、以下の方法によりおこなったものである。
【0047】
(算術平均粗さ)
原子間力顕微鏡(AFM Digital Instruments社 Nanscope IV」)を用いて測定した。
【0048】
(ホール移動度およびキャリア密度)
ホール効果測定システム(バイオラッド製 商品名「HL5500PC」)を用い、熱処理工程前(スパッタ直後)および熱処理工程後の透明導電層ホール移動度およびキャリア密度を測定した。
【0049】
(透過率)
ヘイズメーター(スガ試験機製)を用いて、JIS K7105に準じ、全光線透過率を測定した。
【0050】
(表面抵抗)
ITO膜の表面抵抗(Ω/□)は四端子法により求めた。また、透明導電性フィルムを濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥した後の表面抵抗を測定して、結晶化の有無を確認した。
【0051】
[実施例1]
(透明基材の作製)
厚みが23μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルム)からなるフィルム基材の一方の面に、アンダーコート層として、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シランの縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂を厚みが35nmとなるように形成した。アンダーコート層表面の算術平均粗さRaは、0.5nmであった。
【0052】
(透明導電層の製膜)
このアンダーコート層上に、アルゴンガス98体積%と酸素ガス2体積%からなる0.4Paの雰囲気中で、酸化インジウム90重量%−酸化スズ10重量%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚みが25nmのインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜(以下、ITO膜)を形成した。製膜に際しては、スパッタ装置内を製膜時の水の分圧が、8.0×10−5Paとなるまで排気した後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、基材温度140℃、水分圧が8.0×10−5Paの雰囲気にて製膜を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。
【0053】
このようにして得られた透明導電性フィルムの透明導電層を倍率25000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、完全結晶化していなかった。また、表1に示すように、塩酸への浸漬によって透明導電層がエッチングされたために抵抗値が∞となっていることからも、ITO膜がアモルファスであることがわかる。
【0054】
(熱処理)
上記の透明基材上にアモルファスITO膜が形成された透明導電性フィルムを140℃で90分間加熱する熱処理を行い、ITO膜の結晶化を行った。熱処理後の透明導電性フィルムの透明導電層を倍率25000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、ITO膜が完全結晶化していることが分かった。また、表1に示すように、塩酸への浸漬後の抵抗値に変化がみられなくなっており、酸によってエッチング加工されない結晶性ITO膜が形成されていることがわかる。
【0055】
[実施例2]
実施例1の透明導電層の製膜において、水分圧が2.0×10−4Paとなるまで排気した後にアルゴンガスおよび酸素ガスを導入して製膜を行った以外は、実施例1と同様にして、透明基材上に透明導電性薄膜を製膜した後、140℃120分の熱処理を行い、透明基材上に完全結晶化したITO膜が形成された透明導電性フィルムを得た。製膜時の水の分圧は2.0×10−4Paであり、アルゴンガスの分圧に対して0.10%であった。
【0056】
[実施例3]
実施例1の透明導電層の製膜において、基材温度を120℃とした以外は実施例1と同様にして、透明基材上に透明導電性薄膜を製膜した後、140℃90分の熱処理を行い、透明基材上に完全結晶化したITO膜が形成された透明導電性フィルムを得た。
【0057】
[比較例1]
実施例1の透明導電層の製膜において、酸化インジウム90重量%−酸化スズ10%の焼結体材料を用いる代わりに、酸化インジウム97重量%−酸化スズ3重量%の焼結体材料を用いた。その他は実施例1と同様にして、透明基材上に透明導電層を製膜した後、熱処理を行い、透明基材上に完全結晶化したITO膜が形成された透明導電性フィルムを得た。
【0058】
[比較例2]
実施例1の透明基材の作製において、PETフィルムの一方の面に、アンダーコート層として熱硬化型樹脂層を形成する代わりに、真空蒸着法により膜厚30nmのSiOアンダーコート層を形成した。この透明基材のアンダーコート層が形成されている側の面の算術平均粗さRaは、2.0nmであった。このアンダーコート層上に、実施例1と同様にして、透明導電層を製膜した後、140℃120分の熱処理を行い、透明導電性フィルムを得た。
【0059】
[比較例3]
実施例1の透明導電層の製膜において、水分圧が4.0×10−4Paとなるまで排気した後にアルゴンガスおよび酸素ガスを導入して製膜を行った以外は、実施例1と同様にして、透明基材上に透明導電性薄膜を製膜した後、140℃120分の熱処理を行い、透明基材上に完全結晶化したITO膜が形成された透明導電性フィルムを得た。製膜時の水の分圧は4.0×10−4Paであり、アルゴンガスの分圧に対して0.20%であった。
【0060】
[比較例4]
実施例1の透明導電層の製膜において、製膜時の基材温度を80℃とした以外は、実施例1と同様にして、透明基材上に透明導電性薄膜を製膜した後、140℃120分の熱処理を行い、透明基材上に完全結晶化したITO膜が形成された透明導電性フィルムを得た。
【0061】
上記各実施例および比較例の製造条件および透明導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1によれば、実施例1〜3では、いずれも結晶化により、ITO膜の表面抵抗が1/3以下に低下しており、低抵抗の結晶性ITO膜が得られている。これは、結晶化の際にキャリア密度が大幅に増加することに起因するものと推定される。さらに、実施例1〜3では、加熱工程の前後で全光線透過率が2%以上増加しており、透明性の高い透明導電性フィルムが得られることがわかる。
【0064】
特に、ITO膜の製膜時の水分圧がAr分圧の0.05%となるように排気を行った実施例1,3では、140℃90分の加熱により完全結晶化したITO膜が得られており、実施例2に比してより短時間での結晶化が可能であることがわかる。一方、ITO膜の製膜時の水分圧がAr分圧の0.2%である比較例3では、加熱後の透明導電性フィルムを塩酸に浸漬した後の表面抵抗が∞となっている。これは、比較例3の透明導電層が完全結晶化していないアモルファスITO膜であるために、塩酸によりエッチングされているためである。すなわち、実施例1,2および比較例3の対比から、ITO膜の製膜時の水分圧を小さくすることで、短時間でも結晶化可能なアモルファスITO膜が得られ、これを加熱結晶化することで、低抵抗のITO結晶化ITO膜が得られることがわかる。
【0065】
スズ含有量が小さいスパッタターゲットを用いた比較例1では、実施例1と同様の熱処理でITO膜の完全結晶化が完了しているものの、結晶化後の表面抵抗は結晶化前の60%程度であり、低抵抗のITO膜が得られていない。また、比較例1では、結晶化前に比してホール移動度は約1.5倍に増加しているのに対して、キャリア密度は低下しており、実施例1〜3とは低抵抗化のメカニズムが異なっているものと考えられる。
【0066】
Raの大きい透明基材を用いた比較例2では、実施例1と同様の条件で製膜および加熱処理を行っているにも関わらず、加熱後の表面抵抗の低下量が小さい。また、比較例2では加熱後の透明導電性フィルムを塩酸に浸漬した後の表面抵抗が∞となっており、結晶化が十分ではない。実施例1と比較例2との対比から、透明基材の透明導電層を形成する側の面の算術平均粗さRaを小さくすることで、短時間の加熱により低抵抗の結晶化ITO膜が得られることがわかる。
【0067】
ITO膜の製膜時の基材温度が80℃と低い比較例4では、比較例1,2に比して低抵抗化されているが、実施例1〜3ほどの低抵抗化が達成されていない。また、比較例4では加熱後の透明導電性フィルムを塩酸に浸漬した後の表面抵抗が∞となっており、結晶化が十分ではない。
【0068】
以上、実施例と比較例を対比して示したように、本発明によれば、透明基材上に結晶性ITO膜が形成された透明導電性フィルムを、効率よく生産可能であり、得られる結晶性ITO膜は高いキャリア密度を有するために低抵抗であることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1 透明基材
11 透明フィルム
12 アンダーコート層
13 背面コート層
2 透明導電層
3 粘着剤層
4 透明基体
100 透明導電性フィルム
101 透明導電性積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材を準備する基材準備工程、および前記透明基材上にIn・Sn複合酸化物からなる透明導電層をスパッタ製膜する製膜工程、を有する透明導電性フィルムの製造方法であって、
前記透明基材の透明導電層を形成する側の面の算術平均粗さRaが1.0nm以下であり、
前記製膜工程において、
Sn原子の量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対し、6重量%を超え15重量%以下であるメタルターゲットまたは酸化物ターゲットを用い、
水の分圧がArガスの分圧に対して0.1%以下の雰囲気下で、基材温度が100℃を超え200℃以下でスパッタ製膜することにより、
In・Sn複合酸化物からなるアモルファス透明導電層を形成する、
透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記製膜工程における水の分圧が2×10−4Pa以下である請求項1に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アモルファス透明導電層のホール移動度が5〜30cm/V・sであり、キャリア密度が1×1020〜10×1020/cmである、請求項1または2に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記製膜工程において、膜厚が15〜50nmとなるように、透明導電層が形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項5】
さらに、前記アモルファス透明導電層を加熱して結晶性透明導電層に転化する熱処理工程を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程において、転化前のアモルファス透明導電層に比して結晶性透明導電層のキャリア密度が増加することを特徴とする、請求項5に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記結晶性透明導電層のホール移動度が10〜35cm/V・sであり、キャリア密度が6×1020〜15×1020/cmである、請求項5または6に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項8】
透明基材上にIn・Sn複合酸化物からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、
前記透明基材の透明導電層が形成されている側の表面の算術平均粗さRaが1.0nm以下であり、
前記透明導電層中のSn原子の量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対し、6重量%を超え15重量%以下であり、
前記透明導電層のホール移動度が10〜35cm/V・sであり、キャリア密度が6×1020〜15×1020/cmである、透明導電性フィルム。
【請求項9】
前記透明導電層の膜厚が15〜50nmである、請求項8に記載の透明導電性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−134085(P2012−134085A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286948(P2010−286948)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】