説明

透明導電性材料、それを用いた透明導電性シート及び透明導電性シートの製造方法

【課題】良好な光学特性を有しつつ、優れた電気特性と摺動特性を有する透明導電性シートを提供する。
【解決手段】本発明の透明導電性材料は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、上記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有する。また、透明導電性シート10は、透明基材11と透明基材11の上に形成された透明導電膜12とを含み、透明導電膜12は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、上記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有する。また、透明導電性シート10の製造方法は、透明基材11の上に、上記本発明の透明導電性材料を塗布して塗膜を形成する工程と、上記塗膜をカレンダ処理して透明導電膜12を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性材料、それを用いた透明導電性シート及び透明導電性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜は、基材上にスズ含有酸化インジウムなどの透明導電性粒子を含む薄膜をスパッタリング、蒸着などのいわゆるドライプロセスで作製して製造されてきている。このようなドライプロセスは、真空条件で行われるため、製造装置が高価となり、また生産効率が低い。そのため、このようなドライプロセスに代わる方法として透明導電性粒子の分散組成物を塗布して塗布型透明導電膜を形成するウェットプロセスの検討が進められている。
【0003】
また、塗布型透明導電膜においては、透明性などの光学特性や導電性などの電気特性を向上させるための検討が進められている。例えば、特許文献1では、透明導電性粒子と紫外線硬化性樹脂を含む分散組成物を塗布し、圧延処理(カレンダ処理)後、紫外線硬化処理を行うことで、透明導電膜付き基材の光学特性、電気特性を向上させることが提案されている。
【0004】
また、塗布型透明導電膜は、その優れた透光性及び導電性により、タッチパネル用電極、透明面発熱体などへの展開が期待されている。透明導電膜をタッチパネル用電極として利用する場合、透明導電膜は他の基材と接触することになる。このため、繰り返し使用するうちに表面が削られて微小な欠陥が生じる。これは、接触時に微妙に摺動することが原因と考えられ、対策として、摺動特性を改善することが行われている。例えば、特許文献2では、導電粉と樹脂とを含有する導電層とフッ素化合物を含む層を形成し、透明導電体表面の潤滑性を高めることが提案されている。
【0005】
特許文献2に記載のように、透明導電粒子と樹脂とを含有する導電層の表面にフッ素化合物を含む層を形成すると、潤滑性を高め摺動特性を改善することは可能であるが、電気特性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2994767号公報
【特許文献2】特許第4177326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように塗布により基材上に透明導電膜を形成する場合、従来では、良好な光学特性を有しつつ、優れた電気特性と摺動特性を有する透明導電膜が得られていなかった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するため、塗布により基材に透明導電膜を形成するに際し、透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む透明導電性材料を用い、カレンダ処理を行うことにより、良好な光学特性を有しつつ、優れた電気特性と摺動特性を有する透明導電性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透明導電性材料は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、上記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の透明導電性シートは、透明基材と、上記透明基材の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートであって、上記透明導電膜は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、上記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の透明導電性シートの製造方法は、透明基材と、上記透明基材の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートの製造方法であって、上記透明基材の上に、透明導電性材料を塗布して塗膜を形成する工程と、上記塗膜をカレンダ処理して透明導電膜を形成する工程とを含み、上記透明導電性材料は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、上記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、透明導電膜の形成に透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む透明導電性材料を用いるとともに、カレンダ処理を行うことにより、良好な光学特性を有しつつ、優れた電気特性及び摺動特性を有する透明導電性シートを提供する。また、本発明によれば、例えば、透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを一括に配合・塗布して透明導電膜を形成することにより、塗布工程を簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の透明導電性シートの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む透明導電性材料を塗布して塗膜を形成し、その後、カレンダ処理することにより、優れた光学特性を有しつつ、電気特性及び摺動特性が向上し得ることを見出し、本発明に至った。また、本発明者らは塗膜強度の向上に塗膜に含まれる樹脂の架橋網目も重要であること、すなわち、強固な化学結合による架橋を作成するより、熱可塑性樹脂を用いて物理的絡み合いによる架橋を作成したほうが、優位であることを見出し、本発明に至った。透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む透明導電性材料を塗布して塗膜を形成した後、カレンダ処理することにより、塗膜の表面にフッ素化合物からなる官能基が形成されるため、透明導電膜の摺動性が向上すると考えられる。また、透明導電膜に熱可塑性樹脂を含ませることで、摺動の応力が適度に緩和されるため、塗膜強度が向上し、摺動特性も向上すると考えられる。また、摺動特性が向上することで高いカレンダ効果が得られるため、光学特性も向上すると考えられる。
【0015】
先ず、本発明の透明導電性材料を説明する。
【0016】
本発明の透明導電性材料は、透明導電性粒子と、含フッ素アルキルを有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む。
【0017】
上記透明導電性粒子としては、透明性と導電性を兼ね備えた粒子であればよく、特に限定されず、例えば、導電性金属酸化物粒子、導電性窒化物粒子などを用いることができる。上記導電性金属酸化物粒子としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化カドミウムなどの金属酸化物粒子が挙げられる。また、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化カドミウムからなる群から選ばれる1種類以上の金属酸化物を主成分として、さらにスズ、アンチモン、アルミニウム、ガリウムがドープされた導電性金属酸化物粒子、例えば、アンチモン含有酸化スズ(ATO)粒子、スズ含有酸化インジウム(ITO)粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)粒子、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)粒子、ITOをアルミニウム置換した導電性金属酸化物粒子などが挙げられる。中でも、透明性、導電性及び化学特性に優れている点から、ITO粒子が特に好ましい。また、導電性の観点から、上記ITO粒子において、ITO全体に対してスズの添加量は酸化スズ換算で1〜20重量%が好ましい。ITOへのスズの添加により導電性が改善されるが、スズの添加量が1重量%より少ない場合は導電性の改善が乏しい傾向があり、20重量%を超えても導電性向上の効果は少ない傾向がある。
【0018】
上記透明導電性粒子は、平均粒子径が10〜200nmであることが好ましい。上記平均粒子径が10nm未満であると、分散処理が困難になり粒子同士が凝集しやすくなるためか、ヘイズが大きくなり、光学特性が低下する傾向がある。また、上記平均粒子径が200nmより大きいと、粒子による可視光線の散乱によるためか、ヘイズが大きくなり、光学特性が低下する傾向がある。ここで、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡を用いて原料粒子を観察して、粒界で区切られた個々の粒子の粒子径を測定した後、少なくとも100個の粒子の粒子径を平均することにより得られる。
【0019】
上記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有するものであればよく、特に限定されない。上記含フッ素アルキル基としては、アルキル基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換された基であり、例えば直鎖状又は分岐状の炭素数1〜8の含フッ素アルキル基、好ましくは炭素数1〜4の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0020】
上記含フッ素アルキル基は、下記の式(1)で示される構造であることがより好ましい。すなわち、上記表面処理剤は、下記の式(1)で示される含フッ素アルキル基からなる末端を有することが好ましい。
【0021】
CF3(CF2)m− (1)
【0022】
但し、上記式(1)中、mは0以上の整数を示し、0〜7であることが好ましい。また、上記含フッ素アルキル基は、直鎖状であることが好ましい。
【0023】
また、上記表面処理剤は、炭素数が7以下であることが特に好ましい。具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸アンモニウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸リチウム、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸カリウム、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸ナトリウム、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸アンモニウム、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸アンモニウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウムなどを用いることができる。
【0024】
上記表面処理剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。上記表面処理剤の添加量は、透明導電性粒子と表面処理剤との合計重量に対して0.1〜10重量%が好ましく、0.2〜5重量%がより好ましい。0.1重量%より少ないと、摺動特性の改善が得られない傾向がある。また、10重量%を超えると、導電性が劣る傾向がある。
【0025】
上記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、好ましくは、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)などを用いることができる。
【0026】
上記熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。上記熱可塑性樹脂の添加量は、透明導電性粒子と熱可塑性樹脂との合計重量に対して4〜20重量%であることが好ましい。4重量%未満であると、耐摺動特性が劣る傾向があり、一方、20重量%を超えると、導電性が劣る傾向がある。
【0027】
上記透明導電性材料には、透明導電性粒子の分散を改善させるため、分散剤を含めてもよい。
【0028】
上記分散剤としては、特に限定されないが、少なくともアニオン系官能基を含む分散剤を用いることが好ましく、アニオン系官能基を含むポリエステル系樹脂、アニオン系官能基を含むアクリル系樹脂を用いることがより好ましい。例えば、カルボン酸含有アクリル系樹脂、酸含有ポリエステル系樹脂、酸及び塩基含有ポリエステル系樹脂などを用いることができる。具体的には、三菱レイヨン社製の“ダイヤナールMR−2539”、“ダイヤナールMB−2389”、“ダイヤナールMB−2660”、“ダイヤナールMB−3015”、“ダイヤナールBR−60”、“ダイヤナールBR−64”、“ダイヤナールBR−77”、“ダイヤナールBR−84”、“ダイヤナールBR−83”、“ダイヤナールBR−106”、“ダイヤナールBR−113など、或いはアビシア社製の“ソルスパーズ3000”、“ソルスパーズ21000”、“ソルスパーズ26000”、“ソルスパーズ32000”、“ソルスパーズ36000”、“ソルスパーズ41000”、“ソルスパーズ43000”、“ソルスパーズ44000”、“ソルスパーズ45000”、“ソルスパーズ56000”などの市販のものを用いることができる。
【0029】
上記分散剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。上記分散剤の添加量は、透明導電性粒子と分散剤との合計重量に対し0.1〜20重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと、分散効果が得られない傾向がある。また、20重量%を超えると、塗膜強度が劣る傾向がある。
【0030】
上記透明導電性材料は、さらに、溶剤を含んでもよい。上記溶剤としては、ヘキサンなど炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエステルなどのグリコールエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤を用いることができる。また上記溶剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
上記透明導電性材料の作製は、透明導電性粒子を熱可塑性樹脂及び/又は溶剤中に分散できればよく、特に限定されない。例えば、サンドグラインドミルなどのビーズミル、超音波分散機、3本ロールミルなどによる分散処理が挙げられるが、より分散性が優れるという点から、ビーズミルによる分散処理が好ましい。
【0032】
また、上記透明導電性材料の作製は、表面処理剤と透明導電性粒子と分散剤と溶剤を含む混合物を分散処理した後に熱可塑性樹脂及び溶剤を追加配合してもよく、表面処理剤と透明導電性粒子と分散剤と溶剤を含む混合物にその他の成分を全部又は一部添加した後に分散処理してもよい。
【0033】
上記透明導電性材料における透明導電性粒子の体積含有率は、40〜80%であることが好ましく、45〜80%であることがより好ましい。上記体積含有率が40%より少ない場合、塗膜のカレンダ処理を行っても、塗膜の電気特性は顕著に改善されない傾向がある。これは、カレンダ処理前の塗膜中に空隙が形成されなかったため、カレンダ処理による透明導電性粒子の接近、接触が阻害されたためであると考えられる。一方、上記体積含有率が80%を超えると、塗膜強度が劣る傾向がある。これは、カレンダ処理後に、塗膜中に空隙が残るためであると考えられる。ここで、体積含有率は、溶剤を除く透明導電性材料の成分全体に対する透明導電性粒子の体積の比率を意味する。上記溶剤を除く透明導電性材料成分、例えば透明導電性粒子、樹脂成分、分散剤、重合開始剤などの体積は、それぞれの重量含有率及び比重から求めてもよい。また、比重、すなわち真密度はピクノメータを用いて測定するなど従来公知の方法で測定すればよい。
【0034】
以下、図面に基づき本発明の透明導電性シート及びその製造方法を説明する。
【0035】
図1は、本発明の透明導電性シートの一例を示す概略断面図である。図1において、本発明の透明導電性シート10は、透明基材11と、透明基材11の一方の主面に透明導電膜12を備えている。透明導電膜12は、上記透明導電性材料により形成されている。
【0036】
透明基材11としては、透明な透光性を有する材料で形成されていればよく、特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリオレフィン類、セルローストリアセテートなどのセルロース樹脂、ナイロン、アラミドなどのアミド樹脂、ポリフェニレンエーテルフィルム、ポリスルホンエーテルフィルムなどのポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などの材料からなる、フィルム又はシートを用いることができる。また、ガラス、セラミックスなどを用いてもよい。透明基材11の厚さは、通常3〜300μmである。
【0037】
なお、透明基材11には、酸化防止剤、難燃剤、耐熱防止剤、紫外線吸収剤、易滑剤、帯電防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。さらに、その上に設けられる膜との密着性を向上させるために、基材表面に易接着層(例えば、プライマー層)を設けたり、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を行ってもよい。
【0038】
本発明の透明導電性シート10の製造方法は、透明基材11と、透明基材11の上に形成された透明導電膜12とを含む透明導電性シート10の製造方法であって、透明基材11の上に、上記透明導電性材料を塗布して塗膜を形成する工程と、上記塗膜をカレンダ処理して透明導電膜12を形成する工程とを含む。
【0039】
本発明の透明導電性シート10の製造方法における第一の工程として、上記透明導電性材料を、透明基材11の上に塗布して塗膜を形成する。塗布方法としては、平滑な塗膜を形成しうる塗布方法であればよく、特に限定されない。例えば、グラビアロール法、マイクログラビアロール法、スプレイ法、スピン法、ナイフ法、キス法、スクイズ法、リバースロール法、ディップ法、バーコート法などの塗布方法を用いることができる。また必要に応じて、透明導電性材料を塗布した後、乾燥によって溶剤を除去する。塗膜中の残存溶剤は塗膜を柔軟にする作用があり、カレンダロールの汚れの原因になることがあるため、塗膜中の残存溶剤は低減させることが好ましい。上記塗膜中の残存溶剤は、塗膜厚み1μmあたり10mg/m2以下が好ましい。ここで、塗膜中の残存溶剤は、ガスクロマトグラフなどを用いて塗膜からの残存溶剤などの揮発成分を評価することにより得られる。また、上記塗膜中の残存溶剤などの揮発成分はカレンダ効果を向上する働きもあるので、塗膜厚み1μmあたり0.1mg/m2以上含むことが好ましい。塗膜の厚みは、0.1〜10μmが好ましい。0.1μmより薄い場合、カレンダ処理の効果を得ることが困難となる傾向があり、10μmより厚い場合、透光性が劣る傾向にある。
【0040】
また、第二の工程として、塗布後の塗膜(以下、原反ロールともいう。)を、カレンダ処理して透明導電膜12を形成する。カレンダ処理を効率よく行うには、透明基材11として樹脂フィルムを用い、カレンダロールを用いて処理することが好ましい。上記カレンダロールは、少なくとも金属ロールを1本含むことが好ましい。上記金属ロールとしては、ロール表面にクロムメッキなどの金属メッキを施したロールを用いればよい。また、ロール表面の粗度(Ry)が1.0μm以下のものを用いることが好ましい。ロール表面を研磨することなどにより、ロール表面の粗度(Ry)を1.0μm以下にすることができる。また、透明導電性材料を塗布して形成した塗膜が金属ロールに接触するように原反ロールをセットして、カレンダ処理することが好ましい。カレンダ処理の温度、すなわちカレンダロールの温度は、基材の変形などを考慮して決めることが必要であるが、50〜200℃の範囲が好ましい。50℃より低いと、電気特性改善効果が乏しい傾向がある。200℃を超えると、基材が変形する恐れがある。また、カレンダ処理の線圧力は1000N/cm以上が好ましい。1000N/cmより低いと、電気特性改善の効果が乏しい傾向がある。
【0041】
上記透明導電性シートの表面抵抗は、5000Ω/スクエア以下であることが好ましい。上記表面抵抗は、透明導電性シートの導電性を示すものであり、値が低いほど、導電性が高く、電気特性に優れる。ここで、表面抵抗とは、カレンダ処理直後のシート抵抗をいう。
【0042】
上記透明導電性シートの380〜780nmの波長領域におけるヘイズは、3%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。上記ヘイズは、透明導電性シートの透明性を示す尺度のひとつであり、値が低いほど、透明性が高く、光学特性に優れる。
【0043】
上記透明導電性シートの380〜780nmの波長領域における全光線透過率は、75%以上であることが好ましく、83%以上であることがさらに好ましい。上記全光線透過率は、透明導電性シートの透明性を示す尺度のひとつであり、値が高いほど、透明性が高いことを示す。
【0044】
後述するように、上記透明導電性シートの摺動試験前後の表面抵抗の変化は、2倍以下であり、塗膜強度に優れる。
【0045】
上記のように、本発明によれば、良好な光学特性を有しつつ、優れた電気特性及び塗膜強度を有する透明導電性シートが得られる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基いて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に指摘がない場合、下記において、「部」は「重量部」を意味する。
【0047】
(実施例1)
<透明導電性材料の調製>
先ず、以下の組成の混合物を、分散メディアとして直径0.3mmのジルコニアビーズを用い、ペイントコンディショナーを用いて30分攪拌処理した。
(1)ITO粒子(平均粒子径:30nm、酸化スズ含有率:10重量%、比重:7.21) 90部
(2)表面処理剤(トリフルオロメタンスルホン酸カリウム) 1.0部
(3)メチルエチルケトン 75部
(4)トルエン 75部
【0048】
次に、攪拌処理した上記の混合物に、以下の分散剤を添加し、ペイントコンディショナーを用いて1時間分散処理した。
(5)アニオン性官能基含有分散剤(アビシア社製“ソルスパーズ32000”、比重:1.13) 4.0部
【0049】
次に、分散処理した上記の混合物に、以下のアクリル系樹脂及び溶剤を添加・混合した。その後、フィルターを通してジルコニアビーズを取り除いて、透明導電性材料を得た。
(6)アクリル系樹脂(熱可塑性樹脂、三菱レイヨン社製“ダイヤナールBR80”、比重:1.18) 4.0部
(7)シクロヘキサノン 42.5部
(8)トルエン 42.5部
【0050】
<透明導電性シートの作製>
上記透明導電性材料をマイクログラビアコータを用いてポリエステルフィルム(東レ社製“ルミラー”、厚み:100μm)に塗布、乾燥し、原反ロールを得た。得られた原反ロールにカレンダ処理を行った。具体的には、1対の金属ロール(表面ハードクロムメッキ、Ry:0.8μm)を有するロール処理機を用い、ロール温度110℃、線圧力5000N/cm、搬送速度5m/分の条件で行い、実施例1の透明導電性シートを得た。なお、塗膜厚みはカレンダ処理後に、1μmとなるように設定した。
【0051】
(実施例2)
<透明導電性材料の調製>
先ず、以下の組成の混合物を、分散メディアとして直径0.3mmのジルコニアビーズを用い、ペイントコンディショナーを用いて1時間分散処理した。
(1)ITO粒子(平均粒子径:30nm、酸化スズ含有率:10重量%、比重:7.21) 90部
(2)表面処理剤(トリフルオロメタンスルホン酸カリウム) 1.0部
(3)アニオン性官能基含有分散剤(アビシア社製“ソルスパーズ32000”、比重:1.13) 4.0部
(4)メチルエチルケトン 75部
(5)トルエン 75部
(6)アクリル系樹脂(熱可塑性樹脂、三菱レイヨン社製“ダイヤナールBR80”、比重:1.18) 4.0部
【0052】
次に、分散処理した上記の混合物に、以下の溶剤を添加・混合した。その後、フィルターを通してジルコニアビーズを取り除いて、透明導電性材料を得た。
(7)シクロヘキサノン 42.5部
(8)トルエン 42.5部
【0053】
<透明導電性シートの作製>
透明導電性シートの作製については、実施例1と同様にして、実施例2の透明導電性シートを得た。
【0054】
(実施例3)
表面処理剤をノナフルオロブタンスルホン酸カリウムに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の透明導電性シートを得た。
【0055】
(実施例4)
表面処理剤をペルフルオロカプリル酸に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の透明導電性シートを得た。
【0056】
(実施例5)
実施例1で使用したトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを0.15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の透明導電性シートを得た。
【0057】
(比較例1)
表面処理剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の透明導電性シートを得た。
【0058】
(比較例2)
表面処理剤をメチルスルホン酸カリウムに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の透明導電性シートを得た。
【0059】
実施例1〜5及び比較例1〜2の透明導電性シートについて、下記のとおり電気抵抗、光学特性及び塗膜強度を測定・評価した。その結果を下記表1に示す。
【0060】
(電気抵抗)
透明導電性シートから長さ75mm、幅75mmのサンプルを切り出し、抵抗率計(“ロウレスタAP−MCP−T400”)及び抵抗率計(“ハイレスタHT−210”)を用いて、透明導電膜側の表面抵抗率を測定した。なお、いずれの抵抗計もダイアインスツルメンツ社製である。
【0061】
(光学特性)
光学特性は、ヘイズを測定することにより評価した。ヘイズの値が低いほど、光学特性が優れることになる。紫外可視近赤外分光光度計“V−570”(日本分光社製)を用いて、ポリエステルフィルムを含めた透明導電性シートの曇り(ヘイズ)を評価した。具体的には、積分球ILN−472を組み合わせ、ヘイズ値計算モードで、レスポンスがFast、バンド幅が2.0nm、近赤外が8.0nm、走査速度が400nm/minの条件で、波長範囲380〜780nmの透過率スペクトルを測定した。ヘイズの計算は、C光源、視野2度の条件で行った。評価試料は、透明導電性シートから幅30mm、長さ50mmのサンプルを切り出して使用した。
【0062】
(塗膜強度)
表面性測定機“HEIDON−14DR”(新東科学社製)を用いて、塗膜強度を評価した。具体的には、直径15mmの円柱冶具の円形底面に布(日本薬局方ガーゼタイプI)を平らになるように巻きつけ固定した。次に、冶具を底面と試料の透明導電膜が平行に接触するように測定器にとり付け、バランスをとり、500g/cm2の圧力がかかるように錘をセットした。摺動速度が4500mm/分、ストロークが25mmの条件で測定器を動かし、往復摺動試験を行った。往復回数は2000回とした。摺動試験前後の表面抵抗の変化が、2倍以下のものをA、2倍より大きいものをBとして評価した。評価試料は、透明導電性シートから幅25mm、長さ75mmのサンプルを切り出して使用した。
【0063】
表1では、表面処理剤の含有量を、ITO粒子と表面処理剤との合計重量に対する重量%で示した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から分かるように、実施例1〜5では、透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む透明導電性材料を用いて透明導電膜を形成しており、光学特性が良好であり、塗膜強度にも優れる透明導電性シートが得られた。また、実施例1〜5の透明導電性シートは、電気抵抗も低く電気特性にも優れている。
【0066】
一方、表面処理剤を含まない透明導電性材料を用いた比較例1の透明導電性シートは、塗膜表面の潤滑性が低いため、光学特性が劣り、また塗膜強度も劣っている。また、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤を含まない透明導電性材料を用いた比較例2の透明導電性シートは、塗膜強度が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0067】
透明導電性粒子を含む透明導電膜を形成するに際し、透明導電性粒子と、含フッ素アルキル基を有する表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含む透明導電性材料を用いて塗膜を形成し、その後カレンダ処理を行うことにより、良好な光学特性を有しつつ、優れた電気特性と塗膜強度を有する透明導電性シートが得られ、タッチパネル用電極、透明面発熱体などへの応用が期待できる。
【符号の説明】
【0068】
10 透明導電性シート
11 透明基材
12 透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有することを特徴とする透明導電性材料。
【請求項2】
前記透明導電性粒子が、スズ含有酸化インジウム粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子、ガリウム含有酸化亜鉛粒子及びアルミニウム置換したスズ含有酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の透明導電性材料。
【請求項3】
前記含フッ素アルキル基が、下記の式(1)からなる請求項1又は2に記載の透明導電性材料。
CF3(CF2)m− (1)
但し、上記式(1)中、mは0以上の整数を示す。
【請求項4】
前記mが、0〜7の範囲である請求項3に記載の透明導電性材料。
【請求項5】
透明基材と、前記透明基材の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートであって、
前記透明導電膜は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有することを特徴とする透明導電性シート。
【請求項6】
前記透明導電性粒子が、スズ含有酸化インジウム粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子、ガリウム含有酸化亜鉛粒子及びアルミニウム置換したスズ含有酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載の透明導電性シート。
【請求項7】
前記含フッ素アルキル基が、下記の式(1)からなる請求項5又は6に記載の透明導電性シート。
CF3(CF2)m− (1)
但し、上記式(1)中、mは0以上の整数を示す。
【請求項8】
前記mが、0〜7の範囲である請求項7に記載の透明導電性シート。
【請求項9】
透明基材と、前記透明基材の上に形成された透明導電膜とを含む透明導電性シートの製造方法であって、
前記透明基材の上に、透明導電性材料を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜をカレンダ処理して透明導電膜を形成する工程とを含み、
前記透明導電性材料は、透明導電性粒子と、表面処理剤と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記表面処理剤は、含フッ素アルキル基を有することを特徴とする透明導電性シートの製造方法。
【請求項10】
前記透明導電性粒子が、スズ含有酸化インジウム粒子、アンチモン含有酸化スズ粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛粒子、ガリウム含有酸化亜鉛粒子及びアルミニウム置換したスズ含有酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項9に記載の透明導電性シートの製造方法。
【請求項11】
前記含フッ素アルキル基が、下記の式(1)からなる請求項9又は10に記載の透明導電性シートの製造方法。
CF3(CF2)m− (1)
但し、上記式(1)中、mは0以上の整数を示す。
【請求項12】
前記mが、0〜7の範囲である請求項11に記載の透明導電性シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−198918(P2010−198918A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42503(P2009−42503)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】