説明

透明導電性炭素膜の製造方法及び透明導電性炭素膜

【課題】熱CVDによるグラフェン膜成膜の高温プロセス、かつプロセス時間が長いという問題を解決すべく、より低温で短時間にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜を形成する手法を提供する。
【解決手段】基材温度を500℃以下、圧力を50Pa以下に設定し、かつ含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスに基材表面の酸化を抑制するための酸化抑制剤を添加ガスとして加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマCVD法により、銅又はアルミの薄膜の基材表面上に透明導電性炭素膜を堆積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜などに利用するための透明導電性炭素膜の製造方法及び透明導電性炭素膜に関する。
【背景技術】
【0002】
SP2結合した炭素原子による導電性の平面状結晶は「グラフェン膜」と呼ばれている。グラフェン膜については非特許文献1に詳述されている。グラフェン膜は様々な形態の結晶性炭素膜の基本単位である。グラフェン膜による結晶性炭素膜の例としては、一層のグラフェン膜による単層グラフェン、ナノメートルサイズのグラフェン膜の数層から十層程度の積層体であるナノグラフェン、さらに数層から数十層程度のグラフェン膜積層体が基材面に対して垂直に近い角度で配向するカーボンナノウォール(非特許文献2参照)などがある。
【0003】
グラフェン膜による結晶性炭素膜は、その高い光透過率と電気伝導性のため、透明導電膜や透明電極としての利用が期待されている。
グラフェン膜の製造方法については、これまで、天然黒鉛からの剥離法、炭化ケイ素の高温熱処理によるケイ素の脱離法、さらにさまざまな金属表面への形成法などが開発されているが、グラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜は多岐にわたる工業的な利用が検討されており、そのため、高いスループットで大面積の成膜法が望まれている。
最近、銅箔表面への化学気相合成法(CVD)によるグラフェン膜の形成法が開発された(非特許文献3、4)。この銅箔を基材とするグラフェン膜成膜手法は、熱CVD法によるものであって、原料ガスであるメタンガスを約1000℃程度で熱的に分解し、銅箔表面に1層から数層のグラフェン膜を形成するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山田久美、化学と工業、61(2008)pp.1123-1127
【非特許文献2】Y.Wu,P.Qiao,T.Chong,Z.Shen,Adv.Mater.14(2002)pp.64-67
【非特許文献3】Xuesong Li, Weiwei Cai, Jinho An, Seyoung Kim, Junghyo Nah, Dongxing Yang, Richard Piner, Aruna Velamakanni, Inhwa Jung, Emanuel Tutuc, Sanjay K.Banerjee, Luigi Colombo, Rodney S.Ruoff, Science,Vol.324,2009, pp.1312-1314.
【非特許文献4】Xuesong Li, Yanwu Zhu, Weiwei Cai, Mark Borysiak, Boyang Han, David Chen, Richard D.Piner, Luigi Colombo, Rodney S.Ruoff, Nano Letters,Vol.9,2009,pp.4359-4363.
【非特許文献5】L.G.Cancado, M.A.Pimenta, B.R.A.Neves, M.S.S.Dantas, A.Jorio,Phys.Rev.Lett.93(2004)pp.247401_1-247401_4)
【非特許文献6】L.M.Malard, M.A.Pimenta, G. Dresselhaus and M.S.Dresselhaus, Physics Reports 473 (2009) 51-87
【非特許文献7】A.Reina, X.Jia, J.Ho, D.Nezich, H.Son, V.Bulovic, M.S.Dresselhaus and J.Kong, Nano Letters.vol9 (2009)pp.30-35 & Supporting Information
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の銅箔を基材とするグラフェン膜の熱CVD法による形成手法は、グラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜の工業的な製造方法として有望と考えられる。
しかしながら、この手法は銅の融点1080℃に近い高温での熱CVDによるプロセスであるため、グラフェン膜成膜中の銅の蒸発や再結晶化による銅箔表面の形状変化が生じるという問題があることが判明した。
また、前述の高いスループットで大面積の成膜法の1つとして、大気中に置いたロール状の基材を成膜領域に連続的に送り込みながら成膜し、これを大気中に置いた巻き取り用のロールで巻き取りながら成膜するという手法が望まれるが、熱CVD法による手法では基材が高温になるために、該手法の適用は困難である。
工業的な高スループットのためには、現状の熱CVD法と比較して低温でかつ反応時間の短い成膜手法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、従来の熱CVD法によるグラフェン膜成膜の課題である、高温プロセスであり、かつプロセス時間が長いという問題を解決し、より低温で短時間にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜を形成する手法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、低温で短時間にグラフェン膜を形成するための新たな手法を見出し、これにより、グラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜が従来法と比較して低温でかつ短時間に形成でき、従来技術における上記課題を解決しうることが判明した。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]基材温度を500℃以下、圧力を50Pa以下に設定し、かつ含炭素ガス又は含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスに、基材表面の酸化を抑制するための酸化抑制剤を添加ガスとして加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマ法により、前記基材表面上に透明導電性炭素膜を堆積させることを特徴とする透明導電性炭素膜の製造方法。
[2]第1ロールに巻きつけた基材を用意する工程と、
前記ロールから基材を引き出してマイクロ波表面波プラズマCVD装置に導入する工程と、
該マイクロ波表面波プラズマCVD装置において、基材温度を500℃以下、圧力を50Pa以下に設定し、かつ含炭素ガス又は含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスに、基材表面の酸化を抑制するための酸化抑制剤を添加ガスとして加えたガス雰囲気中で、前記基材表面上に透明導電性炭素膜を堆積させる工程、
前記透明導電性炭素膜を堆積した基材をマイクロ波表面波プラズマCVD装置から排出する工程と、
排出された前記透明導電性炭素膜を堆積した基材を第2ロールに巻き取る工程と、
を備えることを特徴とする透明導電性炭素膜の製造方法。
[3]前記透明導電性炭素膜を堆積した成膜用基材から該炭素膜を除去する工程をさらに備えることを特徴とする上記[2]の透明導電性炭素膜の製造方法。
[4]前記透明導電性炭素膜を堆積した成膜用基材を他の基材に転写する工程をさらに備えることを特徴とする上記[2]の透明導電性炭素膜の製造方法。
[5]前記添加ガスは、水素であり、かつ前記含炭素ガス又は前記混合ガス中の含炭素ガス濃度は30〜100モル%で、該水素ガスの添加量は、前記含炭素ガス又は前記混合ガスに対し、1〜20モル%であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかの透明導電性炭素膜の製造方法。
[6]前記成膜用基材は、銅又はアルミの薄膜であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかの透明導電性炭素膜の製造方法。
[7]前記炭素膜を複数層堆積することを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかの透明導電性炭素膜の製造方法。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの透明導電性炭素膜の製造方法を用いて作製された透明導電性炭素膜であって、該透明導電性炭素膜は、波長514.5nmの励起光を用いたラマン散乱分光スペクトルで2Dバンド(2709±30cm−1)が左右対象のプロフィールを示すことを特徴とする透明導電性炭素膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、従来の熱CVDによるグラフェン膜成膜の課題である、高温プロセスであり、かつプロセス時間が長いという問題を解決し、より低温で短時間にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜を形成することが可能となる。また、本発明によるマイクロ波表面波プラズマCVD法は、従来法である熱CVD法に比べて、シリコン含有粗大粒子のグラフェンへの混入を低減でき、シリコンを含む不純物の偏析を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いたマイクロ波表面波プラズマCVD装置を模式的に示す図
【図2】実施例1の、銅を基材として成膜した透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトル
【図3】実施例1の、銅を基材として成膜した透明導電性炭素膜の光透過率スペクトル
【図4】実施例1の、銅を基材として成膜した透明導電性炭素膜の電気抵抗(シート抵抗)
【図5】実施例2の、銅を基材として成膜した透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトル
【図6】実施例3の、アルミ箔を基材として成膜した透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトル
【図7】実施例4で用いた、大面積マイクロ波表面波プラズマCVD装置の断面図
【図8】実施例5の、銅を基材として成膜した透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトル
【図9】熱CVD法に用いた装置の概略図
【図10】マイクロ波表面波プラズマCVD法で得られた膜の明視野像
【図11】熱CVD法で得られた膜の明視野像
【図12】マイクロ波表面波プラズマCVD法で合成した透明導電性炭素膜のEDS分析結果
【図13】熱CVD法で合成した透明導電性炭素膜のEDS分析結果
【図14】実施例7の、銅箔基材上に合成したグラフェン膜断面のTEM写真
【図15】図14に示したTEM写真におけるグラフェンシートの長さと枚数の関係図
【図16】実施例8の、プラズマCVD処理後の銅箔(面積幅23cm×縦20cm)とアクリル板へ伝写した透明導電性炭素膜の写真
【図17】実施例8の、アクリル板へ伝写した透明導電性炭素膜(面積:23cm×20cm)のシート抵抗分布
【図18】本発明による透明導電性炭素膜の連続成膜手法を表す模式図
【図19】実施例10の、大面積マイクロ波表面波プラズマCVDを用いた透明導電性炭素膜の連続成膜手法を示す模式図
【図20】実施例10で得られた透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の透明導電性炭素膜は、主として特定の製造条件を採用することにより得ることができる。その透明導電性炭素膜を作製するには、大面積の膜を形成できる表面波マイクロ波プラズマ法を用いること、その操作条件として原料ガスの濃度やモル比、反応時間などを選定すること、及び比較的低温下で操作することなどが望まれる。
【0012】
銅箔基板の表面形状を変化することなく、また銅箔の蒸発を生じることなく透明導電性炭素膜を形成するためのCVD処理を施すためには、銅の融点(1080℃)より十分低温において処理することが好ましい。
通常のマイクロ波プラズマCVD処理は、圧力2×10〜1×10Paで行われる。この圧力ではプラズマが拡散しにくく、プラズマが狭い領域に集中するため、プラズマ内の中性ガスの温度が1000℃以上になる。そのため、銅箔基板の温度が800℃以上に加熱され、銅箔表面からの銅の蒸発が大きくなる。したがって透明導電性炭素膜の作製に適用できない。またプラズマ領域を均一に広げるには限界があり、大面積に均一性の高い透明導電性炭素膜の形成が困難である。
したがって、成膜中の銅箔基板の温度を低く保ち、かつ大面積に均一性の高い透明導電性炭素膜を形成するには、より低圧でのプラズマ処理が必要である。
【0013】
本発明では、10Pa以下でも安定にプラズマを発生・維持することが可能な、マイクロ波表面波プラズマを発生させ、CVD処理に利用した。
マイクロ波表面波プラズマについては、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.124-125」に詳述されている。
これにより、銅箔基板の融点より十分に低い温度にする事ができ、かつ380mm×340mm以上の大面積に均一なプラズマを発生させることができた。
プラズマをラングミュアプローブ法(シングルプローブ法)により診断した結果、電子密度が1011〜1012/cmであり、周波数2.45GHzのマイクロ波に対するカットオフ電子密度7.4×1010/cmを超えており、表面波により発生・維持する表面波プラズマであることを確認した。
このラングミュアプローブ法については、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.58」に詳述されている。
【0014】
本発明で用いるCVD処理の条件としては、基板温度は、500℃以下であり、好ましくは200℃〜450℃である。
また、圧力は、50Pa以下であり、好ましくは2〜50Pa、さらに好ましくは5〜20Paである。
処理時間は、特に限定されないが、1〜600秒程度、好ましくは1〜60秒程度である。この程度の処理時間によれば、高い光透過率と電気伝導性を有する透明導電性炭素膜が得られる。
【0015】
本発明において、マイクロ波プラズマCVD処理に用いる原料ガス(反応ガス)は、含炭素ガス又は含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスである。含炭素ガスとしては、メタン、エチレン、アセチレン、エタノール、アセトン、メタノール等が包含される。不活性ガスとしてはヘリウム、ネオン、アルゴン等が包含される。
含炭素ガス又は含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスにおいて、その含炭素ガスの濃度は30〜100モル%、好ましくは60〜100モル%である。含炭素ガスが前記範囲より少なくなると透明導電性炭素膜の電気伝導率の低下等の問題が生じるので好ましくない。
【0016】
また、本発明においては、前記含炭素ガス又は前記混合ガスに、基材表面の酸化を抑制するための酸化抑制剤を添加ガスとして加えたものが用いられることが好ましい。添加ガスとしては、水素ガスが好ましく用いられ、CVD処理中の銅箔基材表面の酸化抑制剤として作用し、電気伝導性の高い透明導電性炭素膜の形成を促す作用を示す。この水素ガスの添加量は、前記含炭素ガス又は前記混合ガスに対し、好ましくは1〜30モル%、さらに好ましくは1〜20モル%である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例で用いた評価方法について説明する。
【0018】
《ラマン分光法》
本発明の手法で作成した透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。
グラフェン膜による結晶性炭素膜による透明導電性炭素膜のラマン散乱分光による評価で重要なバンドは、2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD´バンドである。Gバンドは正常六員環によるもので、2DバンドはDバンドの倍音によるものである。またDバンドは正常六員環の欠陥に起因するピークである。また、D´バンドも欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられる(上記非特許文献5)。
ラマン散乱分光スペクトルにGバンドと2Dバンドの両方のピークが観測される場合、膜はグラフェン膜であると同定される(上記非特許文献3)。
2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD´バンドのピーク位置は、グラフェン膜の層数やラマン散乱分光スペクトルの測定時のレーザーの励起波長に依存することが上記非特許文献6等で示されている。例えば、励起波長514.5nmのレーザーによる単層グラフェン膜の場合、2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD´バンドのピーク位置は、2700cm−1、1582cm−1、1350cm−1、1620cm−1付近である。一般的に、グラフェンの層数が増えると2Dバンドは高波数側にシフトすること、半値幅が広がることが知られている。さらに、レーザーの励起波長が短くなると、2Dバンドは高波数側にシフトする。
各実施例において測定に使用した試料、測定条件、及びラマン散乱分光スペクトルの詳細な解析は、各実施例で説明する。
【0019】
《透過率測定》
本発明の手法で作製した透明導電性炭素膜の光透過率の測定を行った。
試料は、本発明の手法で銅箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を銅箔から剥離し、ガラス基板上に貼付したものを使用した。ガラス基板は、直径10mm、厚さ1mmの石英ガラス、または幅26mm、長さ75mm、厚さ1mmのソーダガラスを用いた。
使用した透過率測定装置は、日立分光光度計U-1400であり、波長領域200nm〜2000nmでの透過率の測定を行った。測定ではまず、透明導電性炭素膜を貼付しない石英ガラス基板だけの透過率スペクトルを測定した。次に透明導電性炭素膜を貼付した石英ガラス基板の透過率スペクトルを測定した。このようにして得た透明導電性炭素膜を貼付した石英ガラス基板の透過率スペクトルから透明導電性炭素膜を貼付しない石英ガラス基板の透過率スペクトルを差し引くことにより、該透明導電性炭素膜自体の透過率スペクトルを求めた。測定および解析には、本装置用測定解析用コンピュータソフトウェアである日立分光光度計UV Solutionsプログラムを使用した。
ソーダガラス基板を用いた場合にも、透過率測定装置には、日立分光光度計U-1400であり、波長領域200nm〜2000nmでの透過率の測定を行った。測定ではまず、透明導電性炭素膜を貼付しないソーダガラス基板だけの透過率スペクトルを測定した。次に透明導電性炭素膜を貼付したソーダガラス基板の透過率スペクトルを測定した。このようにして得た透明導電性炭素膜を貼付したソーダガラス基板の透過率スペクトルから透明導電性炭素膜を貼付しないソーダガラス基板の透過率スペクトルを差し引くことにより、該透明導電性炭素膜自体の透過率スペクトルを求めた。測定および解析には、本装置用測定解析用コンピュータソフトウェアである日立分光光度計UV Solutionsプログラムを使用した。
透過率の評価は、測定されたスペクトルの可視光領域の波長400nm〜800nmでの平均透過率を求めることで評価した。
【0020】
《伝導性》
本発明の手法で作製した透明導電性炭素膜の電気伝導性を測定した。
試料は、本発明の手法で銅箔又はアルミ箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を銅箔又はアルミ箔基材から剥離し、絶縁体基板上に貼付したものを使用した。使用した絶縁体基板は、PDMS(ポリジメチルシロキサン:東レ・ダウコーニング株式会社製 SILPOT 184 W/C)や石英ガラス、ソーダガラスを用いた。
電気伝導性の評価には三菱化学株式会社製 低抵抗率計 ロレスターGP MCP-T600であり、電極間隔1.5mmのスクエアプローブ(MCP−TPQPP)を使用した。電極間に印加する電圧の上限値は10Vもしくは90Vに設定した。試料を幅2cmの格子状に区画分けし、スクエアプローブを該透明導電性炭素膜に押しつけることによりシート抵抗(表面抵抗率)を測定した。
【0021】
《電子顕微鏡観察》
本発明の手法で作製した透明導電性炭素膜を電子線顕微鏡で断面を観察した。
観察用試料は、透明導電性炭素膜上に非晶質炭素を塗布し、フォーカスイオンビーム(FIB)法により薄片化した。装置は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製Xvision200TBを用いた。電子線顕微鏡による透過像観察には、日立製作所社製H-9000UHRを用い、加速電圧300kVの条件でおこなった。
【0022】
(実施例1)
本実施例においては、100mm×100mm、厚さ33μm、表面粗さ(算術平均粗さ;Ra、以下同じ)54nmの銅箔を基材とし、マイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いてプラズマCVD処理を施した。図1は、本実施例に用いたマイクロ波表面波プラズマCVD装置を模式的に示す図である。
以下に本実施例で用いたマイクロ波表面波プラズマCVD処理の詳細を述べる。
本発明に用いるマイクロ波表面波プラズマCVD装置は、上端が開口した金属製の反応容器(110)と、反応容器(110)の上端部に、金属製支持部材(104)を介して気密に取り付けられたマイクロ波を導入するための石英窓(103)と、その上部に取り付けられたスロット付き矩形マイクロ波導波管(102)とから構成されている。
本実施例においては、反応容器(110)の内部に、銅箔基材を設置し、CVD処理を行う。処理手順は以下のとおりである。
【0023】
マイクロ波表面波プラズマCVD反応容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた試料台(106)に、前記銅箔基材(105)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10−3Pa以下に排気した。反応室には冷却水管(111)が巻きつけてあり、そこに冷却水を供給して反応室を冷却した。また、試料台は銅でできており、冷却水の給排水管(107)を通して冷却水を供給し、試料の冷却を行った。
【0024】
石英窓(103)と銅箔基材との距離が50mmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、反応室にCVD処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガス100SCCMを導入し、反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、20Paに保持した。
マイクロ波パワー3.0kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材(105)のプラズマによる表面処理を行った。処理時間は5分である。プラズマ処理中の基板の温度は、アルメル−クロメル熱電対を基板表面に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じて銅箔基材の温度はおよそ500℃であった。このプラズマ処理によって、銅箔表面の酸化膜や汚染物質を除去した。
【0025】
次に、反応室にCVD処理用ガス導入管(109)を通して、CVD処理用ガスを導入した。CVD処理用ガスは、メタンガス25SCCM、アルゴンガス12.5SCCM、水素ガス5.0SCCMであり、したがってそれぞれの原料ガスの濃度はメタンガス58.8モル%、アルゴンガス29.4モル%、水素ガス11.8モル%であった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、10Paに保持した。
マイクロ波パワー3.0kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材(105)のプラズマCVD処理を行った。プラズマ処理中の基板の温度は、アルメル−クロメル熱電対を基板表面に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じて銅箔基材の温度はおよそ500℃であった。プラズマ処理中の銅箔基材が高温になると、銅箔基材に対するプラズマの作用が過剰となる。すなわち、銅箔基材がプラズマに曝露されることによるエッチング作用が過剰となり、銅箔が溶融し、さらに蒸発により消失することがある。したがって、十分注意深く基材の温度管理をすることが肝心である。銅箔の消失を防止するためには、500℃以下に保つことが好ましい。以上のプラズマCVD処理の結果、銅箔基材上にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素膜薄膜との積層体が形成された。プラズマCVD処理時間としては、5分である。
【0026】
本実施例で得られた透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。
試料は、上記手法で銅箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を剥離し、株式会社SUMCO製の酸化膜付シリコンウェハ上に転写したものを使用した。測定には日本分光株式会社製 レーザラマン分光光度計 NRS-2100を用い、励起光は波長514.5nmの可視光レーザー(昭和オプトロニクス株式会社製 Arイオンレーザー GLG2169)を用いた。レーザー源の出力は50mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは200μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は10秒間で5回の測定を積算してスペクトルを得た。この装置の校正は、株式会社SUMCO製 単結晶シリコンウェハにより行った。この標準試料におけるラマンスペクトルのピーク位置が、ラマンシフト520.5cm−1になるよう調整した。測定および解析には、本装置標準の日本分光株式会社製コンピュータソフトウェアSpectra Manager for Windows(登録商標)95/98/NT ver.1.02.07[Build 3]を用いた。
【0027】
測定した該透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの例を図2に示す。
図2では、Gバンド(1585cm−1)と2Dバンド(2709cm−1)の両方のピークが観測されており、したがって、本発明の透明導電性炭素膜はグラフェン膜によるものであることが明らかである。また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低端数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェン膜の場合は左右対照的な形状を示す。図2の2Dバンドのピークの左半分と右半分のピーク幅を測定したところ、左半分のピーク幅は31.5cm−1、右半分のピーク幅は30.4cm−1であり、ほぼ左右対称的なピーク形状であることがわかった。このことからも本発明の透明導電性薄膜はグラフェン膜によるものであることが明らかである。またD´バンドは欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられる。
【0028】
2DバンドとGバンドのピークの相対強度を用いてグラフェン膜の層数を同定することができる(上記非特許文献7)。図2のようにそれぞれのピークを、ローレンツ関数を用いてフィッティングしバックグラウンドを差し引くことによって、それぞれのピークの相対強度を求めた。ピーク強度はそれぞれ、I(2D)=0.168、I(G)=0.26であった。Gバンドと2Dバンドの強度の比がI(2D)/I(G)≧1となる場合は単層あるいは2層のグラフェンであり、3層以上のグラフェンでは、1.0以下であるとされる。
このように図2に示した透明導電性炭素膜の例は、2DバンドとGバンドのピークの強度比、およびD´バンドが観測されていることから、3層以上のグラフェン膜の部分と数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体とが混在する構成を有することが分かった。
【0029】
次いで、本実施例で得られた透明導電性炭素膜の光透過率の測定を行った。
試料は、本実施例で得られた銅箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を銅箔から剥離し、直径10mm、厚さ1mmの石英ガラス基板上に貼付したものを使用した。
使用した透過率測定装置は、日立分光光度計U-1400であり、波長領域200nm〜2000nmでの透過率の測定を行った。測定ではまず、透明導電性炭素膜を貼付しない石英ガラス基板だけの透過率スペクトルを測定した。次に透明導電性炭素膜を貼付した石英ガラス基板の透過率スペクトルを測定した。このようにして得た透明導電性炭素膜を貼付した石英ガラス基板の透過率スペクトルから透明導電性炭素膜を貼付しない石英ガラス基板の透過率スペクトルを差し引くことにより、該透明導電性炭素膜自体の透過率スペクトルを求めた。測定および解析には、本装置用測定解析用コンピュータソフトウェアである日立分光光度計UV Solutionsプログラムを使用した。
測定した該透明導電性炭素膜の透過率スペクトルの例を図3に示す。このスペクトルより可視光領域の波長400nm〜800nmにおけるすべての透過率測定値の総和を測定値の個数で除算することにより平均透過率を求めた。その結果、平均透過率は約76%であり、たいへん透明度が高いことが分かった。
【0030】
さらに、本実施例で得られた透明導電性炭素膜の電気伝導性を測定した。
試料は、本発明の手法で横24cm、縦21cmの銅箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を厚さ2mmのPDMS(ポリジメチルシロキサン:東レ・ダウコーニング株式会社製 SILPOT 184 W/C)樹脂に固定後、銅箔のみを除去したものを使用した。電気伝導性の評価には三菱化学株式会社製 低抵抗率計 ロレスターGP MCP-T600であり、電極間隔1.5mmのスクエアプローブ(MCP−TPQPP)を使用した。電極間に印加する電圧の上限値は10Vもしくは90Vに設定した。試料を幅2cmの格子状に区画分けし、スクエアプローブを該透明導電性炭素膜に押しつけることによりシート抵抗(表面抵抗率)を測定した。得られたシート抵抗値はグラフソフト(Origin Lab.製OriginPro 7.5J)を用い、等高線図として描画した。
測定した該透明導電性炭素膜のシート抵抗の例を図4に示す。この等高線図に基づき、10Ω/□以下のシート抵抗を有する領域の面積を等高線図全体の面積で除算することにより、10Ω/□以下のシート抵抗を有する領域は全体の56%であった。また、最も低抵抗な領域は490Ω/□であった。このようにたいへん低抵抗であることが分かった。
【0031】
(実施例2)
本実施例では、含炭素ガスとしてエチレンガスを用いて、実施例1と同様に、図1に示すマイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いてプラズマCVD処理を施した。
本実施例における処理手順は以下のとおりである。
【0032】
マイクロ波表面波プラズマCVD反応容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた試料台(106)に、前記銅箔基材(105)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10−3Pa以下に排気した。反応室には冷却水管(111)が巻きつけてあり、そこに冷却水を供給して反応室を冷却した。また、試料台は銅でできており、冷却水の給排水管(107)を通して冷却水を供給し、試料の冷却を行った。
【0033】
石英窓(103)と銅箔基材との距離が50mmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、反応室にCVD処理用ガス導入管(109)を通して、CVD処理用ガスを導入した。CVD処理用ガスは、エチレンガス15SCCM、アルゴンガス12.5SCCM、水素ガス5.0SCCMであり、したがってそれぞれの原料ガスの濃度はエチレンガス46.1モル%、アルゴンガス38.5モル%、水素ガス15.4モル%であった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、10Paに保持した。
【0034】
マイクロ波パワー3.0kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材(105)のプラズマCVD処理を行った。プラズマ処理中の基板の温度は、アルメル−クロメル熱電対を基板表面に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じて銅箔基材の温度はおよそ400℃であった。プラズマ処理中の銅箔基材が高温になると、銅箔基材に対するプラズマの作用が過剰となる。すなわち、銅箔基材がプラズマに曝露されることによるエッチング作用が過剰となり、銅箔が溶融し、さらに蒸発により消失することがある。したがって、十分注意深く基材の温度管理をすることが肝心である。銅箔の消失を防止するためには、500℃以下に保つことが好ましい。以上のプラズマCVD処理の結果、銅箔基材上にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素膜薄膜との積層体が形成された。プラズマCVD処理時間としては、10分である。
【0035】
得られた透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。
試料は、上記手法で銅基材に成膜した透明導電性炭素膜を、励起用レーザーの波長は638nm、レーザービームのスポットサイズは直径1ミクロン、分光器のグレーティングは600本、レーザー源の出力は9mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは100μm、スリットは100μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は30秒間で5回の測定を積算してスペクトルを得た。
【0036】
測定した該透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの例を図5に示す。
図に示すとおり、2Dバンド(2658.8cm−1)、Gバンド(1580.0cm−1)、Dバンド(1328.1cm−1)、およびD´バンド(1612.1cm−1)にピークが観測された。
図5では、Gバンドと2Dバンドの両方のピークが観測されており、したがって、本実施例で得られた透明導電性炭素膜もグラフェン膜によるものであることが明らかである。また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低端数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェン膜の場合は左右対照的な形状を示す。図5の2Dバンドのピークの左半分と右半分のピーク幅を測定したところ、左半分のピーク幅は28.3cm−1、右半分のピーク幅は30.7cm−1であり、ほぼ左右対称的なピーク形状であることがわかった。このことからも本発明の透明導電性薄膜はグラフェン膜によるものであることが明らかである。またD´バンドは欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられる。
このように、本発明の手法により、原料ガスとしてエチレンを用いてグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜を形成することが可能である。
【0037】
(実施例3)
本実施例においては、25cm×20cm、厚さ12μmのアルミ箔を基材とし、実施例1と同様に、図1に示すマイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いてプラズマCVD処理を施した。
本実施例における処理手順は以下のとおりである。
【0038】
マイクロ波表面波プラズマCVD反応容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた試料台(106)に、前記アルミ箔基材(105)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10−3Pa以下に排気した。反応室には冷却水管(111)が巻きつけてあり、そこに冷却水を供給して反応室を冷却した。また、試料台は銅でできており、冷却水の給排水管(107)を通して冷却水を供給し、試料の冷却を行った。
【0039】
石英窓(103)とアルミ箔基材との距離が91mmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、反応室にCVD処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガス100SCCMを導入し、反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、20Paに保持した。
マイクロ波パワー3.0kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材(105)のプラズマによる表面処理を行った。処理時間は5分である。プラズマ処理中の基板の温度は、アルメル−クロメル熱電対を基板表面に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じて銅箔基材の温度は310℃であった。このプラズマ処理によって、銅箔表面の酸化膜や汚染物質を除去した。
【0040】
次に石英窓(103)とアルミ箔基材との距離が81mmになるよう試料台の高さを調整し、反応室にCVD処理用ガス導入管(109)を通して、CVD処理用ガスを導入した。CVD処理用ガスは、メタンガス25SCCM、アルゴンガス12.5SCCM、水素ガス0SCCMであり、したがってそれぞれの原料ガスの濃度はメタンガス66.7モル%、アルゴンガス33.3モル%、水素ガス0モル%であった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、10Paに保持した。
マイクロ波パワー3.0kWにてプラズマを発生させ、アルミ箔基材(105)のプラズマCVD処理を行った。プラズマ処理中の基板の温度は、アルメル−クロメル熱電対を基板表面に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じてアルミ箔基材の温度はおよそ445℃であった。プラズマ処理中のアルミ箔基材が高温になると、アルミ箔基材に対するプラズマの作用が過剰となる。すなわち、アルミ箔基材がプラズマに曝露されることによるエッチング作用が過剰となり、アルミ箔が溶融し、さらに蒸発により消失することがある。したがって、十分注意深く基材の温度管理をすることが肝心である。アルミ箔の消失を防止するためには、450℃以下に保つことが好ましい。以上のプラズマCVD処理の結果、アルミ箔基材上にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜薄膜が積層され、アルミ箔と透明導電性炭素膜薄膜との積層体が形成された。プラズマCVD処理時間としては、3分である。
【0041】
本発明の手法で作製した透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。
試料は、本発明の手法でアルミ箔基材に成膜した透明導電性炭素膜をアルミ箔基材に着いた状態で測定した。測定装置は(株)堀場製作所製XploRA型機であり、励起用レーザーの波長は532nm、レーザービームのスポットサイズは直径1ミクロン、分光器のグレーティングは699本、レーザー源の出力は18.6mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは100μm、スリットは100μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は20秒間で3回の測定を積算してスペクトルを得た。
【0042】
測定した該透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの例を図6に示す。
図に示すとおり、2Dバンド(2709cm−1)、Gバンド(1587cm−1)、Dバンド(1353cm−1)、およびD´バンド(1623cm−1)にピークが観測された。
図6では、Gバンドと2Dの両方のピークが観測されており、2DバンドとGバンドのピーク強度比は、I(2D)/I(G)=0.21であり、したがって、本実施例で得られた透明導電性炭素膜は3層以上のグラフェン膜による部分と数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体とが混在する構成によるものであることが明らかである(非特許文献7及び非特許文献3)。
また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低波数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェン膜の場合は左右対照的な形状を示す。図6の2Dバンドのピークの左半分と右半分のピーク幅を測定したところ、左半分のピーク幅は39cm−1、右半分のピーク幅は34cm−1であり、ほぼ左右対称的なピーク形状であることがわかった。このことからも本発明の透明導電性薄膜はグラフェン膜によるものであることが明らかである。またD´バンドは欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられる。
このように、従来の熱CVD法と比較して低温でかつ反応時間の短い本発明の手法により、アルミ箔を基材としてグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜を形成することが可能である。
【0043】
(実施例4)
本実施例においては、四つのプラズマ生成用マイクロ波ランチャーを配列し、マイクロ波表面波プラズマを大規模化(プラズマ処理領域:断面積600mm×400mm、高さ200mm)した大面積プラズマ装置を用いて、透明導電性炭素膜の合成を行った。
図7にその装置の断面図を示す。該図において、200は放電容器、201は矩形導波管、202はスロットアンテナ、203は石英窓、204は基材、205は試料台、206は反応室、をそれぞれ示している。
【0044】
本実施例では、反応室(206)に、15mm×15mm、厚さ25μm、表面粗さ(Ra)54nmの銅箔を設置し、CVD処理を行った。実験条件は以下の通りである。
マイクロ波パワーは4.5kW/マイクロ波ランチャー1台、放電容器内の圧力は5 Paとした。CVD処理用ガスはメタンガス29SCCM、すなわちメタンガス100モル%とした。本実施例では、石英窓(203)と銅箔基材との距離を40mmから190mmまで変えてプラズマCVD処理を行った。
試料台(205)は冷却手段を設置してないので、銅箔基材はプラズマの熱により加熱された。プラズマCVD処理を通じて銅箔基材の温度は石英窓から190mm離れたところで280℃、160mm離れたところで290℃、130mm離れたところで340℃であり、CVD処理後の銅箔基材に損傷は見られなかった。一方、石英窓から40mm離れたところでは一部の領域で500℃を超えており、プラズマCVD処理後、銅箔基材の表面が部分的に溶融・蒸発されて変形・消失されていた。
【0045】
以上のプラズマCVD処理の結果、銅箔基材上に透明導電性炭素膜薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素膜薄膜との積層体が形成された。
プラズマCVD処理時間としては、石英窓から50mm離れたところでは2秒、190mm離れたところでは5分の処理で数層の厚さの透明導電性炭素膜薄膜を堆積することができた。
【0046】
(実施例5)
図7の反応室(206)に15mm×15mm、厚さ25μm、表面粗さ(Ra)54nmの銅箔を設置し、CVD処理を行った。本実施例における処理条件は以下のとおりである。
マイクロ波パワーは3kW/マイクロ波ランチャー1台、放電容器内の圧力は5Paとした。CVD処理用ガスはメタン30SCCM、水素ガス10SCCM、アルゴンガス20SCCMであり、したがってそれぞれの原料ガスの濃度はメタンガス50モル%、水素16.7%、アルゴンガス33.3%であった。本実施例では石英窓(203)と銅箔基材との距離を110mmでプラズマCVD処理を行った。
試料台(205)は冷却手段を設置していないので、銅箔基材はプラズマの熱により加熱された。プラズマCVD処理で銅箔基材の温度は374℃であり、CVD処理後の銅箔基材に損傷は見られなかった。
以上のプラズマCVD処理の結果、銅箔基材上に透明銅生成炭素薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素薄膜との積層体が形成された。プラズマCVDの処理時間としては、30秒である。
【0047】
本発明の手法で作製した透明導電性炭素膜のラマンスペクトルの測定を行った。
試料は、本発明の手法で銅箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を銅箔基材に着いた状態で測定した。測定装置は(株)堀場製作所製XploRA型機であり、励起用レーザーの波長は638nm、レーザービームのスポットサイズは直径1ミクロン、分光器のグレーティングは699本、レーザー源の出力は11.8mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは100μm、スリットは100μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は20秒間で3回の測定を積算してスペクトルを得た。
【0048】
測定した該透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの例を図8に示す。
図に示すとおり、2Dバンド(2657cm−1)、Gバンド(1578cm−1)、Dバンド(1326cm−1)、およびD´バンド(1612cm−1)にピークが観測された。2DバンドとGバンドのピークの相対強度を用いてグラフェン膜の層数を同定することができる(非特許文献7参照)。図8のようにそれぞれのピークを、ローレンツ関数を用いてフィッティングしバックグラウンドを差し引くことによって、それぞれのピークの相対強度を求めた。ピーク強度はそれぞれ、I(2D)=3418、I(G)=997、I(D‘)=463、I(D)=2713であった。Gバンドと2Dバンドの強度の比がI(2D)/I(G)≧1となる場合は単層あるいは2層のグラフェンであり、3層以上のグラフェンでは、1.0以下であるとされる。
図8では、Gバンドと2Dの両方のピークが観測されており、2DバンドとGバンドのピーク強度比は、I(2D)/I(G)=3.4であり、したがって、本実施例で得られた透明導電性炭素膜は単層グラフェン膜あるいは2層グラフェンで構成によるものであることが明らかである。(非特許文献7及び非特許文献3参照)。
また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低波数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェン膜の場合は左右対照的な形状を示す。図8の2Dバンドのピークの左半分と右半分のピーク幅を測定したところ、左半分のピーク幅は19cm−1、右半分のピーク幅は18cm−1であり、ほぼ左右対称的なピーク形状であることがわかった。このことからも本発明の透明導電性薄膜は単層グラフェン膜ないしは2層グラフェンによるものであることが明らかである。またD´バンドは欠陥から誘起されるピークであり、単層グラフェン膜あるいは2層グラフェンの端あるいは欠陥部分に起因するものと考えられる。
【0049】
(実施例6)
本実施例においては、図7に示した四つのプラズマ生成用マイクロ波ランチャーを配列し、マイクロ波表面波プラズマを大規模化(プラズマ処理領域:断面積600mm×400mm、高さ200mm)した大面積プラズマ装置を用いて行った。
マイクロ波表面波プラズマCVD法は、100mm×50mm、厚さ33μm、表面粗さ(Ra)54nmの銅箔基材をプラズマCVD反応容器に入れて、石英窓と銅箔基材の距離が160mmになるように試料台の高さを調整した。プラズマCVD用ガスとしては、メタンガス30SCCM、アルゴンガス20SCCM、水素ガス10SCCMとし、反応容器内のガス圧力は排気管に接続した圧力調整バルブを用いて、3Paと保持した。マイクロ波パワー18kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材のプラズマCVD処理を行った。プラズマCVD処理時間は30秒である。基材温度は、450℃以下に保った。
【0050】
本実施例のマイクロ波表面波プラズマCVD法と熱CVD法により得られたグラフェンとを相違を観察した。
熱CVD法は、炉心管に石英管を使用した真空排気可能な石英チューブ炉を用いて行なった。図9にその概略図を示す。
石英管の中央部に銅箔基材を置き、10−4Pa以下まで真空排気した。水素ガスを2SCCM流しながら1000℃まで加熱した後、1000℃を維持しながらメタンガス35SCCMを加え、銅箔基材の熱CVD処理を行った。熱CVD処理時間は20分である。
【0051】
以上の2つの方法により、銅箔基材の上にグラフェン膜による結晶性炭素膜となる透明導電性炭素薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素薄膜との積層体が形成された。作製した積層体は塩化第二鉄5重量%溶液中で銅箔を溶解除去し、透明導電性炭素膜のみを透過電子顕微鏡(TEM)のエネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy:EDS)による不純物分析を行った。マイクロ波表面波プラズマCVD法と熱CVD法で得られた膜の明視野像をそれぞれ図10と図11に示す。
図10と図11に示す明視野像から、熱CVD法の膜にはマイクロ波表面波プラズマCVD法には無いおよそ35〜130nmの粒状のコントラストが見られる。図10に見られるおよそ30nmの強いコントラストは銅箔を溶解した塩化第二鉄が残ったものである。図10と図11の視野の中から□で囲まれる部分のEDS分析をした結果をそれぞれ図12と図13に示す。
【0052】
マイクロ波表面波プラズマCVD法の場合は不純物として、7.1〜9.0原子数%のシリコンと17〜20原子数%の酸素が含まれていた。標準偏差はそれぞれ0.95と1.5であった。酸素の原子数%をシリコンの原子数%で除した原子比は1.9〜2.8、標準偏差は0.45であった。
一方、熱CVD法の場合は、シリコンが2.9〜20.7原子数%、酸素が1.9〜57.1原子数%の範囲で分散していた。標準偏差はそれぞれ7.1と23であった。酸素の原子数%をシリコンの原子数%で除した原子比は0.6〜2.8の範囲で分散しており、標準偏差は0.9であった。
上記の実験結果は、従来法である熱CVD法に比べて該マイクロ波表面波プラズマCVD法の方が、およそ35nm以上のSi含有粗大粒子の膜への混入を著しく低減でき、Siを含む不純物の偏析を明らかに抑制できることを示している。
【0053】
(実施例7)
本実施例においては、図7のCVD装置を用い、100mm×50mm、厚さ33μm、表面粗さ(Ra)54nmの銅箔基材を用いて透明導電性炭素薄膜合成を行った。銅箔基材を同時にプラズマCVD反応容器に入れて、石英窓と銅箔基材の距離が160mmになるように試料台の高さを調整した。プラズマCVD用ガスとしては、メタンガス30SCCM、アルゴンガス20SCCM、水素ガス10SCCMとし、反応容器内のガス圧力は排気管に接続した圧力調整バルブを用いて、3Paと保持した。マイクロ波パワー18kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材のプラズマCVD処理を行った。CVD処理時間は30秒である。基材温度は、300℃以下に保った。
【0054】
以上のプラズマCVD処理の結果、銅箔基材の上にグラフェン膜による結晶性炭素膜となる透明導電性炭素薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素薄膜との積層体が形成された。
本発明の手法で作製した銅箔と透明導電性炭素薄膜との積層体の断面の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)測定を行った。結果を図14に示す。
図14に示すTEM測定結果からグラフェンシートの長さとその枚数を数えた。グラフェンシートの長さと枚数の関係で表したグラフを図15に示す。グラフェンシートの平均長さは、4.1nmであった。なお、グラフェン膜の平均層数は、5.1層であった。
上記の実験結果は、銅箔基材の表面状態を制御することによりプラズマCVD処理により合成されるグラフェン膜による透明導電性炭素薄膜の特性が制御できることを示している。
【0055】
(実施例8)
本実施例においては、幅23cm×縦20cm、厚さ33μm、表面粗さ(Ra)54nm、の銅箔を基材とし、図7のCVD装置を用い、プラズマCVD処理を行った。プラズマCVD用ガスとしては、メタンガス30SCCM、アルゴンガス20SCCM、水素ガス10SCCMとした。反応容器内のガス圧力は排気管に接続した圧力調整バルブを用いて、3Paと保持した。マイクロ波パワー18kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材のプラズマCVD処理を行った。CVD処理時間は180秒である。石英窓と銅箔基材の距離が160mmになるように試料台の高さを調整した。基材温度は、400℃以下に保った。
【0056】
上記のプラズマCVD処理により作製された透明導電性炭素膜の電気伝導性の空間的一様性を評価した。電気伝導性を評価するために作製された透明導電性炭素膜をアクリル板へ固定後、銅箔のみ除去することにより、透明導電性炭素膜をアクリル板上に転写した。図16にプラズマCVD処理後の幅23cm×縦20cmの銅箔の写真とアクリル板へ転写した透明導電性炭素膜の写真を示す。
図16に示すアクリル板上に転写した透明導電性炭素膜のシート抵抗(表面抵抗率)を測定した。シート抵抗の測定には三菱化学株式会社製
低抵抗率計 ロレスターGP MCP−T600を使用した。その結果を図17に示す。
シート抵抗は幅23cm×縦20cmの面積において1.0kΩ/□から4.2kΩ/□を示している。なお、1.0〜3.0kΩ/□の面積分布率は79.2%、1.0〜3.5kΩ/□の面積分布率は95.8%、1.0〜4.0kΩ/□の面積分布率は99.2%である。
【0057】
(実施例9)
本発明の図7のマイクロ波表面波プラズマCVDによる低温で短時間に透明導電性炭素膜を成膜する手法を用い、大気中に置いたロール状の銅箔基材を成膜装置に連続的に送り込みながら透明導電性炭素膜を成膜し、これを大気中に置いた巻き取り用のロールで連続的に巻き取る。図18はこの透明導電性炭素膜の連続成膜手法を表す模式図である。
【0058】
この連続成膜装置は、透明導電性炭素膜成膜のためのプラズマCVDエリアと差動排気部から構成される。ロール状の銅箔基材は大気中に設置する。ここの圧力は大気圧、およそ1×10Paである。銅箔基材は差動排気用のオリフィスを通して差動排気部に送り込まれる。差動排気部はメカニカルブースターポンプおよび補助ポンプで排気し、圧力はおよそ1×10Paに保持する。例えば、幅400mmで、厚さ33μm、表面粗さ(Ra)54nmの銅箔を使用する場合、オリフィスの形状を幅400mm×高さ100μm×長さ10cmとし、排気速度100L/secのメカニカルブースターポンプで差動排気室を排気することで、差動排気室を1×10Pa程度に保持する。基材温度は、450℃以下に保つ。
【0059】
差動排気室に送り込まれた銅箔は、差動排気室とプラズマCVDエリアとの間に設置した上記と同じ形状のオリフィスを通してプラズマCVDエリアに送り込まれる。プラズマCVDエリアには成膜に必要な原料ガスとしては、メタンガス50SCCM,アルゴンガス33SCCM、水素ガス17SCCMとする。反応容器内の圧力は、圧力調整バルブにより10Pa程度に保持する。マイクロ波パワー18
kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材のプラズマCVD処理を行った。石英窓と銅箔基材の距離が160mmになるように試料台の高さを調整する。
銅箔基材はプラズマCVDエリアを通過しながら透明導電性炭素膜が成膜される。プラズマCVDエリアの長さをおよそ30cmとする場合、銅箔基材は毎秒10cm程度の速度で送る。
プラズマCVDエリアで透明導電性炭素膜を成膜した銅箔基材は、差動排気用オリフィスを通って差動排気部に送り込まれ、さらに次の差動排気用オリフィスを通って大気中に送出され、ロールに巻き取られる。このように本発明の手法を用いることにより、銅箔基材に連続的に透明導電性炭素膜を成膜することが可能であり、工業的にたいへん有利な手法である。
【0060】
(実施例10)
本実施例においては、幅297mm、厚さ33μm、表面粗さ(Ra)54nmの銅箔を基材とし、マイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いてプラズマCVD処理を施した。
図19は、本実施例に用いた、マイクロ波表面波プラズマCVDを用いた連続成膜装置の模式図である。右図は、断面図であり、左図は、該装置における、マイクロ波の導入方向とアンテナの配置の関係を示す図である。
図に示すとおり、本実施例に用いた装置は、連続成膜装置のもう1つの例であり、ロール状の基材を真空容器内(プラズマCVDエリア)に配置したものである。
以下に本実施例で用いたマイクロ波表面波プラズマCVD処理の詳細を述べる。
【0061】
本発明に用いるマイクロ波表面波プラズマCVD装置は、大面積が成膜できる表面波プラズマ発生装置を用いることが必要である。そこで、図19に示すとおり、アンテナを覆う誘電体材料には石英管を用いている。石英管の外形は38mmである。
本発明においては、反応容器の内部に、A4幅のロール状の銅箔基材を設置し、ロールを巻き取りながら、CVD処理を行う。長さ48cmの試料台をA4幅の銅箔基材が通過する間に成膜される。処理手順は以下のとおりである。
【0062】
マイクロ波表面波プラズマCVD反応容器内のプラズマ発生室に設けられた試料台を挟んで、前記ロール状銅箔基材と巻き取り機構を設置した。試料台には銅箔基材を設置した。次に、排気管を通して反応室内を1Pa以下に排気した。反応室には冷却水管が巻きつけてあり、そこに冷却水を供給して反応室を冷却した。また、試料台は銅でできており、冷却水の給排水管を通して冷却水を供給し、試料の冷却を行った。
【0063】
石英管と銅箔基材との距離が50mmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、反応室にCVD処理用ガス導入管を通して、CVD処理用ガスを導入した。CVD処理用ガスは、メタンガス50SCCM、アルゴンガス20SCCM、水素ガス30SCCMであり、したがってそれぞれの原料ガスの濃度はメタンガス50モル%、アルゴンガス20モル%、水素ガス30モル%であった。反応室内の圧力を排気管に接続した圧力調整バルブを用いて、3Paに保持した。
【0064】
マイクロ波パワー6.0kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材のプラズマCVD処理を行った。銅箔の巻き取り速度を2〜5mm/s一定とした。プラズマに曝されている試料台の長さ(48cm)を考慮すると、成膜時間は96〜240sである。プラズマ処理中の基板の温度は、アルメル−クロメル熱電対を試料台に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じて銅箔基材の温度はおよそ400℃であった。銅箔基材がプラズマに曝露されることによるエッチング作用が過剰となり、銅箔が溶融し、さらに蒸発により消失することがある。したがって、十分注意深く基材の温度管理をすることが肝心である。銅箔の消失を防止するためには、400℃以下に保つことが好ましい。以上のプラズマCVD処理の結果、銅箔基材上にグラフェン膜による結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜薄膜が積層され、銅箔と透明導電性炭素膜薄膜との積層体が形成された。
【0065】
本実施例で得られた透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。
試料は、本発明の手法で銅箔基材に成膜した透明導電性炭素膜を銅箔基材に着いた状態で測定した。透明導電性炭素膜薄膜の膜内の均一性を評価するため、A4幅の試料を7等分し、ラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。測定装置は(株)堀場製作所製XploRA型機であり、励起用レーザーの波長は638nm、レーザービームのスポットサイズは直径1μm、分光器のグレーティングは600本、レーザー源の出力は9mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは100μm、スリットは100μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は30秒間で5回の測定を積算してスペクトルを得た。
【0066】
測定した該透明導電性炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの例を図20に示す。
図に示すとおり、2Dバンド(2652.3cm−1)、Gバンド(1592.6cm−1)、Dバンド(1322.5cm−1)、およびD´バンド(1616.9cm−1)にピークが観測された。
図20では、Gバンドと2Dバンドの両方のピークが観測されており、したがって本発明の透明導電性炭素膜はグラフェン膜によるものであることが明らかである。また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低端数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェン膜の場合は左右対照的な形状を示す。図20の2Dバンドのピークの左半分と右半分のピーク幅を測定したところ、左半分のピーク幅は38.3cm−1、右半分のピーク幅は35.2cm−1であり、ほぼ左右対称的なピーク形状であることがわかった。このことからも本発明の透明導電性薄膜はグラフェン膜によるものであることが明らかである。またD´バンドは欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられる。
【0067】
さらに、本実施例で得られた本発明の手法で作成した透明導電性炭素膜の電気伝導性を測定したところ、該透明導電性炭素膜のシート抵抗(1〜8)×10Ω/□であることが分かった。
【符号の説明】
【0068】
101:プラズマ発生室
102:スロット付き矩型マイクロ波導波管
103:マイクロ波を導入するための石英窓
104:石英窓を支持する金属製支持部材
105:基材
106:基材を設置するための試料台
107:冷却水の給排水管
108:排気管
109:CVD処理用ガス導入管
110:反応容器
111:冷却水管
200:放電容器
201:矩形導波管
202:スロットアンテナ
203:石英窓
204:基材
205:試料台
206:反応室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材温度を500℃以下、圧力を50Pa以下に設定し、かつ含炭素ガス又は含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスに、基材表面の酸化を抑制するための酸化抑制剤を添加ガスとして加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマ法により、前記基材表面上に透明導電性炭素膜を堆積させることを特徴とする透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項2】
第1ロールに巻きつけた基材を用意する工程と、
前記ロールから基材を引き出してマイクロ波表面波プラズマCVD装置に導入する工程と、
該マイクロ波表面波プラズマCVD装置において、基材温度を500℃以下、圧力を50Pa以下に設定し、かつ含炭素ガス又は含炭素ガスと不活性ガスからなる混合ガスに、基材表面の酸化を抑制するための酸化抑制剤を添加ガスとして加えたガス雰囲気中で、前記基材表面上に透明導電性炭素膜を堆積させる工程、
前記透明導電性炭素膜を堆積した基材をマイクロ波表面波プラズマCVD装置から排出する工程と、
排出された前記透明導電性炭素膜を堆積した基材を第2ロールに巻き取る工程と、
を備えることを特徴とする透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項3】
前記透明導電性炭素膜を堆積した基材から該炭素膜を除去する工程をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項4】
前記透明導電性炭素膜を堆積した基材を、他の基材に転写する工程をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項5】
前記添加ガスは、水素であり、かつ前記含炭素ガス又は前記混合ガス中の含炭素ガス濃度は30〜100モル%で、該水素ガスの添加量は、前記含炭素ガス又は前記混合ガスに対し、1〜20モル%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材は、銅又はアルミの薄膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項7】
前記透明導電性炭素膜を複数層堆積することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明導電性炭素膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の透明導電性炭素膜の製造方法を用いて作製された透明導電性炭素膜であって、該透明導電性炭素膜は、波長514.5nmの励起光を用いたラマン散乱分光スペクトルで2Dバンド(2709±30cm−1)が左右対象のプロフィールを示すことを特徴とする透明導電性炭素膜。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−162442(P2012−162442A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41749(P2011−41749)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月30日 社団法人 応用物理学会発行の「2010年秋季 <第71回>応用物理学会学術講演会[講演予稿集](DVD)」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】