説明

透明導電膜、この透明導電膜を用いた太陽電池および透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲット

【課題】液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置等に用いられ、特に、太陽電池に用いられるのに好適な透明導電膜を提供するとともに、この透明導電膜を用いた太陽電池さらにはこの透明導電膜を形成するのに適したスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部ZnのAl−Mg−Ga−Zn系酸化物からなり、耐湿性に優れた透明導電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる透明導電膜およびこの透明導電膜を用いた太陽電池さらにはこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものであり、特に、太陽電池用透明導電膜として用いた場合に優れた耐湿性を長期にわたって示す透明導電膜およびこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる透明導電膜の一種として、Al−Mg−Zn系酸化物からなるからなる透明導電膜が知られている。
特に、AlをドープしたZn1−XMgOで表されるAl−Mg−Zn系酸化物膜は、Mgの添加量によってバンドギャップが3.5〜3.97eVで意図的に制御できるため、太陽電池、UV光デバイス用透明導電膜としての応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/129410号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS,Vol.85,No.8,p.1374〜1376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のAl−Mg−Zn系酸化物からなる透明導電膜は、両性酸化物であるMgOが多量に存在するために、耐湿性が十分でなく、そのため、太陽電池用の透明導電膜として使用した場合には、水分、酸素の存在によって膜の導電性が短期間で著しく劣化し、膜が導電性を失い、その結果、太陽電池の発電効率が著しく低下してしまうという問題点があった。また、液晶、有機ELの透明導電膜として使用した場合は、劣化によって、液晶、有機EL素子の輝度の低下または動作不良を招く原因となる。
そこで、本発明は、長期の使用に亘って、導電膜としての機能が低下しない耐湿性に優れた透明導電膜を提供することを一つの目的とする。
また、本発明は、このような耐湿性に優れた透明導電膜を用い、長期の使用に亘って発電効率の低下することのない太陽電池を提供することをもその目的とする。
さらに、本発明は、このような耐湿性に優れた透明導電膜を形成することができるスパッタリングターゲットの提供をもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来のAl−Mg−Zn系酸化物からなる透明導電膜の耐湿性を高めるべく鋭意研究を行った。その結果、
(イ)透明導電膜を構成する金属成分元素として、微量のGaを含有させ、透明導電膜をAl−Mg―Ga―Zn系酸化物で構成すると、このAl−Mg―Ga―Zn系酸化物透明導電膜は、Al−Mg―Zn系酸化物透明導電膜に比して、格段に優れた耐湿性を備え、その結果として、使用環境下で水分、酸素の存在による比抵抗の増大が少なく、透明導電膜としての膜特性の劣化を抑えることができるため、長期間にわたって使用される太陽電池用の透明導電膜として用いた場合でも、発電効率の低下を抑制することができる。また、液晶、有機ELの透明導電膜として用いた場合、当該膜の劣化による素子特性の低下を防止できる。
(ロ)前記耐湿性に優れるAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜は、膜と同一成分組成を有するスパッタリングターゲットを、DCスパッタリングまたはパルスDCスパッタリングすることにより成膜することができる。
という知見を得たのである。
【0007】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部ZnであるAl−Mg−Ga−Zn系酸化物からなることを特徴とする透明導電膜。
(2) 光照射によって起電力を生じる光電変換層と、この光電変換層に電気的に接続される正負の電極とを有し、前記正負の電極のうちの少なくとも一方が前記(1)に記載される透明導電膜からなることを特徴とする太陽電池。
(3)金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znからなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載される透明導電膜を形成するための酸化物スパッタリングターゲット。」
を特徴とするものである。
【0008】
この発明のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物からなる透明導電膜は、例えば、所定の成分組成のターゲットを、DCスパッタリングまたはパルスDCスパッタリングすることによって成膜することができる。
そして、成膜される酸化物透明導電膜中の金属成分元素の含有割合は、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znであることが必要である。
【0009】
ここで、この発明の透明導電膜中の金属成分元素の含有割合、上記のごとく限定した理由は、以下のとおりである。
Al:
Alは透明導電膜の導電性を向上させる作用を有するので添加するが、その含有量が0.7原子%未満では導電性向上効果が十分でなく、一方、Alを7原子%を超えて含有させると透明導電膜の透明性が低下するようになるので好ましくない。
したがって、この発明の透明導電膜中に含まれる全金属成分元素に占めるAlの含有割合をAl:0.7〜7原子%に定めた。
Mg:
透明導電膜中の金属成分元素としてMgを10原子%以上含有させることによって、その含有量に応じてバンドギャップを3.5〜3.97eVの範囲内に制御することができるが、Mg含有量が25%を超えると、水分、酸素の存在下で透明導電膜の導電性が著しく低下するようになることから、全金属成分元素に占めるMgの含有割合をMg:10〜25原子%に定めた。
Ga:
透明導電膜中の金属成分元素としてGaを0.015原子%以上含有させることによって、膜の透明性を損なうことなく且つバンドギャップ区を維持しつつ、高温高湿使用環境下での導電性劣化を抑制することができるが、Ga含有量が0.085%を超えると、膜の導電性(成膜直後、高温高湿試験前)が低下し、透明導電膜としての導電性が不足することから、透明導電膜中に含まれる全金属成分元素に占めるGaの含有割合をGa:0.015〜0.085原子%と定めた。
【0010】
そして、上記のごとき成分組成のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜は、従来のAl−Mg―Zn系酸化物透明導電膜に比して、格段に優れた耐湿性を備えるため、光照射によって起電力を生じる光電変換層と、この光電変換層に電気的に接続される正負の電極とを有し、前記正負の電極のうちの少なくとも一方が透明導電膜で構成される太陽電池における透明導電膜として用いた場合でも、長期の使用にわたって膜特性の劣化、発電効率の低下を抑制することができる。
【0011】
図1に、一例として、本発明のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜を太陽電池の透明導電膜として用いた場合の、光電変換セルの概略断面図を示す。
図1において、光電変換セル9は、光入射側のガラス基板( 透光性基板)1と裏面不透明電極( 裏面電極層)2との間に、多層の発電層3が形成されている。発電層3は、第1透明( 光透過性)導電膜4と、光電変換層であるトップセル層( 第2光電変換層)5と、透明導電膜である中間層6と、光電変換層であるボトムセル層(第1光電変換層)7と、第2透明導電膜(透明層、上部透明層)8との5層の積層構造として形成されている。
第1透明導電膜4は、ガラス基板1の裏面側に接合している。トップセル層5は、第1透明導電膜4の裏面側に接合している。中間層6は、トップセル層5の裏面側に接合している。ボトムセル層7は、中間層6の裏面側に接合している。
第2透明導電膜8は、ボトムセル層7の裏面側に接合している。
裏面不透明電極2は、第2透明導電膜8の裏面側に接合している。
なお、ここでは、基板、膜、層などの構成要素において、光が入射する面を表面とし、光が出射する面を裏面とする。
本発明のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜は、例えば、上記第1透明導電膜層、第2透明導電膜層または透明導電中間層のいずれかに使用することができる。
また、光電変換セルの一つの形態としては、ボトムセル層7をc−Si若しくはμc−Si( 微結晶シリコン) 、第2透明導電膜8を本発明のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜、裏面不透明電極2をAgとすることができる。
また、トップセル層5とボトムセル層7とは、上述のc−Si層若しくはμc−Si( 微結晶シリコン) 層若しくはa−Si( アモルファスシリコン) 層として成膜されていてもよい。
さらに、光電変換層は、CIS系化合物層( Cu、In、Seの組成からなる均一層)やCGIS系化合物層( Cu、In、Seの組成からなる均一層に、更にGaが添加された層) などの化合物半導体として成膜されていてもよく、特に制限されるものではない。
【0012】
上記のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜は、具体的には、金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znからなる酸化物スパッタリングターゲットを、DCスパッタリングまたはパルスDCスパッタリングすることにより、成膜することができる。
ここで、スパッタリングターゲットの成分組成を上記のごとく定めた技術的な理由は、以下のとおりである。
Al:
Alは、スパッタリングすることにより得られた透明導電膜のキャリア密度とホール移動量を向上させ、膜の導電性を向上させる作用を有するので0.7原子%以上含有させるが、その含有量が0.7原子%未満であっても、また、7原子%を超えても透明導電膜の導電性が低くなるので好ましくない。したがって、この発明の透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるAlは、0.7〜7原子%に定めた。
Mg:
Mgは、スパッタリングすることにより得られた透明導電膜のバンドギャップを調整し。短波長の光に対する透明性の向上及び近赤外波長の光に対する透明性向上に有効である。Mgの含有量が10原子%未満であると、バンドギャップの調整効果が十分に得られず、Mg含有量が25原子%を超えると膜の導電性が著しく低下する。
したがって、この発明の透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるMgは、10〜25原子%に定めた。
Ga:
Gaは、透明導電膜の耐湿性の向上に有効である。Ga含有量が0.015原子%未満であると、膜の耐湿性改善が不十分であり、一方、Gaの含有量が0.085原子%を超えると、膜の電気抵抗が顕著に増大する。
したがって、この発明の透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるGaは、0.015〜0.085原子%に定めた。
金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znからなる酸化物スパッタリングターゲットは、ターゲットのバルク抵抗を0.1Ω・cm以下に抑えることが可能であることから、DCまたはパルスDCスパッタによって高速で高品質な透明導電膜を成膜することができる。
【0013】
この発明の上記透明導電膜形成用スパッタリングターゲットは、例えば、以下の方法によって作製することができる。
まず、原料粉末として、所定純度および所定平均粒子径Al粉、MgO粉、Ga粉およびZnO粉を所定の組成となるように秤量・配合し、ボールミルを行って平均粒子径を0.4μm以下に粉砕した後、80℃で5時間真空乾燥し、乾燥した混合粉を黒鉛のモールドに充填し、所定温度で所定時間、350kgf/cmの条件で真空ホットプレスすることにより、透明導電膜形成用スパッタリングターゲットを作製することができる。
【0014】
スパッタリングを行う際の好ましいスパッタ条件は、例えば、以下のとおりである。
【0015】
まず、スパッタリングターゲットの相対密度は90%以上であることが好ましく、相対密度が90%未満では、製膜速度が低下する他、得られる膜の膜質が低下する。スパッタリングターゲットの相対密度は95%以上であることがより好ましく、97%以上であることが特に好ましい。
また、上記のスパッタリングターゲットの純度は99%以上であることが好ましい。純度が99%未満では、不純物により、得られる膜の導電性や化学的安定性が低下する。スパッタリングターゲットの純度は99.9%以上であることがより好ましく、99.99%以上であることが特に好ましい。
【0016】
さらに、上述したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うにあたっては、まず、スパッタリング装置の真空槽内に成膜用の基板(以下「成膜基板」という。)およびスパッタリングターゲットを装着し、装置,成膜基板,スパッタリングターゲット等に吸着されている水分の除去を行うことが望ましい。
上記水分の除去は、例えば、真空槽の真空度が5×10−4Pa以下(5×10−4Pa以下の低圧)になるまで真空引きすることによって行うことができる。真空引きの間は加熱することが好ましく、この加熱によって、水分の除去をより確実に行うことが可能になると共に、真空引きの時間を短縮することが可能になる。このときの真空度が5×10−4Paを超える(5×10−4Paより圧力が高い)と、装置,成膜基板,スパッタリングターゲット等に吸着されている水分の除去が不十分となり易いことから、得られる膜の緻密性が低下し、膜の導電性および耐湿性に影響を与える。なお、使用するスパッタリング装置の排気系は、水分を除去するためのトラップまたはゲッタを有していることが好ましい。
【0017】
上記の真空引きを行った後、透明導電膜の成膜を行うが、成膜時の真空度は1×10−2〜2×10 Paとすることが好ましい。この真空度が1×10−2Pa未満(1×10−2Paより低圧)では成膜時の放電安定性が低下し、1×10 Paを超える(1×10Paより圧力が高い)とスパッタリングターゲットへの印加電圧を高くすることが困難になる。成膜時の真空度は0.1〜1Paとすることが特に好ましい。
【0018】
また、成膜時の直流電源出力は1W/cm 以上10W/cm以下にすることが好ましい。この出力が10W/cmを超えると、得られる膜の緻密性が低下し、高耐湿性透明導電膜を得ることが困難になる。
そして、成膜時の出力は3〜8W/cmとすることがより好ましい。
また、製膜時の電圧は100〜400Vとすることが好ましい。
【0019】
成膜時の雰囲気ガスとしては、通常、アルゴンガス(Arガス)のみでも十分な高透明性膜が得られるが、アルゴンガス(Arガス)と酸素ガス(Oガス)との混合ガスを用いることも可能である。ArガスとOガスの混合比は、用いるスパッタリングターゲットの酸化状態や成膜時の真空度および出力により異なってくるが、雰囲気ガスに占めるOガスの体積濃度が5%を超えると、得られる膜の導電性が低下し易くなる。したがって、成膜時の雰囲気ガスに占めるOガスの体積濃度は5%以下とすることが好ましく、3%以下とすることがより好ましい。
また、雰囲気ガスの純度は99.991%以上とすることが好ましく、99.995%以上とすることがより好ましく、99.999%以上とすることが特に好ましい。
【0020】
成膜時の基板温度は50℃〜成膜基板の耐熱温度の範囲内で適宜選択可能であるが、基板温度が200℃を超えると、多くの樹脂基板ではその耐熱温度を超えるため、使用できる基板の種類が強く制限される。また、基板温度が50℃未満では得られる膜の緻密性が低下し、高耐湿性透明導電膜を得ることが困難になるので、成膜時の基板温度は50〜200℃とすることが好ましく、80〜200℃とすることがより好ましく、100〜200℃とすることが特に好ましい。
【0021】
成膜基板は、目的とする透明導電膜の用途等に応じて適宜選択可能であり、ガラス基板,金属基板,耐熱性樹脂基板,太陽電池(作製途中のもの)等、特に制限はない。前記のガラス基板の具体例としては、ソーダ石灰ガラス,鉛ガラス,硼硅酸ガラス、高硅酸ガラス,無アルカリガラス等からなるガラス基板や、これらのガラス基板上にSiO,SiOx (1≦x<2),TiOx (1≦x≦2)等をコートしたものが挙げられる。
また、前記の金属基板の具体例としては、ステンレス箔,銅箔,アルミ箔等の金属箔の他、こられの金属箔と同質の金属板,金属シート等が挙げられる。
そして、前記の耐熱性樹脂基板の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリエーテルスルホン樹脂,アモルファスポリオレフィン樹脂,ポリスチレン樹脂,アクリル樹脂等、熱変形温度が概ね70℃以上の樹脂からなる成形体,フィルム,シート等や、これらの表面にガスバリヤ層,耐溶剤層,ハードコート層等を形成したものが挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の透明導電膜は、金属成分元素として、微量のGaを含有させ、Al−Mg―Ga―Zn系酸化物透明導電膜として構成したことにより、従来のAl−Mg―Zn系酸化物透明導電膜に比して、格段に優れた耐湿性を備え、その結果として、使用環境下で水分、酸素の存在による比抵抗の増大が少ない。
したがって、上記透明導電膜を、長期間にわたって使用される太陽電池用の透明導電膜として用いた場合には、膜特性の劣化を抑えることができるため発電効率の低下を抑制することができる。
また、上記透明導電膜を、同じく長期間にわたって使用される有機EL用の透明導電膜として用いた場合には、発光効率の低下を抑制することができる。
さらに、上記耐湿性に優れるAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜は、膜と同じ成分組成を有するバルク抵抗の小さいスパッタリングターゲットを、DCスパッタリングまたはパルスDCスパッタリングにより簡易に成膜することができるので、産業上優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のAl−Mg−Ga−Zn系酸化物透明導電膜を太陽電池の透明導電膜として用いた場合の、光電変換セルの概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
本発明スパッタリングターゲットの作製:
原料粉末として、純度99.9%以上平均粒子径0.4μmのAl原料粉、純度99.9%以上平均粒子径1μmのMgO原料粉、純度99.9%以上平均粒子径0.3μmのGa原料粉および純度99.9%以上平均粒子径0.4μmのZnO原料粉を表1に示す所定の組成となるように秤量・配合し、ポリエチレン製ポットに投入し、φ3のZrOボールを使用してボールミルを行い、混合粉の平均粒子径を0.4μm以下に粉砕(なお、ボールミルに使用する溶媒はエタノールであり、分散剤や他の助剤は添加せず)し、目標平均粒子径に到達したスラリーを大気乾燥した後、80℃で5時間真空乾燥し、乾燥した混合粉を黒鉛のモールドに充填し、表1に示す所定の焼結温度および焼結時間、350kgf/cmの条件で真空ホットプレスすることによりφ165×9mmtの焼結体を作製し、その後、機械加工により、φ152.4×6Tのサイズの表1に示す本発明の透明導電膜形成用スパッタリングターゲット(以下、実施例1〜実施例5として示す。)を作製した。
【0026】
従来例スパッタリングターゲットの作製:
表1に示す原料粉の配合により、Ga成分を含有しない原料分を調製し、上記実施例1〜実施例5と同様な方法で、φ152.4×6Tのサイズの表1に示す従来例の透明導電膜形成用スパッタリングターゲット(以下、従来例1、従来例2として示す。)を作製した。
【0027】
比較例スパッタリングターゲットの作製:
表1に示す原料粉の配合により、上記実施例1〜実施例5と同様な方法で、φ152.4×6Tのサイズの表1に示す比較例の透明導電膜形成用スパッタリングターゲット(以下、比較例1〜4として示す。)を作製した。
なお、比較例2については、80℃で5時間真空乾燥した混合粉をゴム型に充填し、2000kg/cm×2minの冷間静水圧成形を行い、さらに大気中1450℃で5時間焼成を行った後、機械加工により、φ152.4×6Tのサイズのスパッタリングターゲットとして得た。
【0028】
上記で得た実施例1〜5,従来例1、2,比較例1〜4の夫々のスパッタリングターゲットについて、理論密度比、比抵抗および金属元素の含有量を求めた。
理論密度比は、重量と寸法を測定し計算によって求めた。
比抵抗は、三菱ガス化学製四探針抵抗測定計ロレスターで測定することによって求めた。
金属元素の含有量は、ターゲットから切削した破片を溶解し、ICP法によって定量測定することにより求めた。
上記それぞれの値を、表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
透明導電膜の作製:
実施例1〜5,従来例1、2,比較例1〜4の夫々のスパッタリングターゲットを、Inを用いて銅製バッキングプレートにボンディングし、スパッタ装置を用いてスパッタし、表2に示す透明導電膜を成膜した。
表2にスパッタ条件を示すが、スパッタ時の到達真空度は、0.5〜6×10−4Pa、スパッタ時のArガス圧は0.4〜0.67Pa、基板温度は室温〜250℃の範囲内で行った。
スパッタに用いた電源は日本エム・ケー・エス社製直流(DC)電源RPG−50である。
基板は、無アルカリガラス(コーニング社1737♯)を使用した。
【0031】
得られた透明導電膜について、膜厚みは触針法[使用機器:DEKTAK3030(Sloan社製)]によって求め、金属成分元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析[使用機器:SPS−1500VR(セイコー電子工業社製)]によって求めた。
表2に、上記で求めた各透明導電膜の膜厚、金属成分元素の含有量を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
さらに、実施例1〜5,従来例1、2,比較例1〜4の各透明導電膜の膜特性(膜の比抵抗、光透過率、バンドギャップ、耐湿性)を調査した。
膜の比抵抗は、三菱ガス化学社製四探針抵抗測定器ロレスターで測定した。
膜の光透過率は、分光法[使用機器:U−3210(日立製作所社製)]によって求めた。
膜のバンドギャップは分光曲線によって計算した。
膜の耐湿性評価は、太陽電池の評価に準ずる耐湿試験基準に従い、80℃85%R.Hの高温高湿大気環境にて1000時間放置したのちの膜の比抵抗を、三菱ガス化学社製四探針抵抗測定器ロレスターで測定することにより行った。
表3に、各特性値を示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表1〜3の膜特性の比較からわかるように、実施例1〜5,従来例1、2,比較例1〜4の各透明導電膜の光透過率およびバンドギャップについては大きな差は認められない。
しかし、膜中の金属成分としてGaを含有していない従来例1、2については、高温高湿試験後の膜比抵抗が極端に高くなり膜特性の劣化が著しい。
また、Ga含有量が本発明で規定する下限値0.015原子%より少ない比較例1では、高温高湿試験後の膜比抵抗が4000(mΩ・cm)と高い値を示し、膜特性の劣化していることが分かる。
比較例2は、膜中成分としてGa0.24原子%含有しているため、初期抵抗が高く、透明導電膜としては、Ga0.1原子%以下含有する膜より明らかに劣化しているが、Ga含有量が多いことで、高温高湿による膜比抵抗の劣化が少ない。
比較例3は、膜中成分としてAlを含有せず、その一方、Ga含有量が本発明で規定する上限値0.085原子%を超えているために、形成された膜の電気抵抗が顕著に高くなり、透明導電膜としては導電性が不十分であることが判る。
比較例4は、膜中成分としてMg25.5原子%を含有しているためターゲットの導電率が下がり、DCのみでスパッタすることが困難になった。また、Mg量の増加によって、膜の導電性が低下し、透明導電膜として特性が不十分になるとともに、高温高湿試験後の膜導電性劣化が激しくなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のとおり、本発明のAl−Mg―Ga―Zn系酸化物透明導電膜は、DCスパッタリングまたはパルスDCスパッタリングにより簡易に成膜することができるばかりか、格段に優れた耐湿性を備えるため、例えば、太陽電池用の第1透明導電膜、第2透明導電膜あるいは中間層膜として用いることができ、その場合に、長期の使用に亘って膜特性の劣化を抑えることができ、発電効率の低下を抑制することができることから、太陽電池普及に向けた大いなる実用上の効果を期待できる。
【符号の説明】
【0037】
1 ガラス基板( 透光性基板)
2 裏面不透明電極( 裏面金属電極層)
3 発電層
4 第1 透明導電膜
5 トップセル層( 第2 光電変換層)
6 中間層
7 ボトムセル層( 第1 光電変換層)
8 第2 透明導電膜( 透明層、上部透明層)
9 光電変換セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部ZnであるAl−Mg−Ga−Zn系酸化物からなることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
光照射によって起電力を生じる光電変換層と、この光電変換層に電気的に接続される正負の電極とを有し、前記正負の電極のうちの少なくとも一方が前記請求項1に記載される透明導電膜からなることを特徴とする太陽電池。
【請求項3】
金属成分元素の含有割合が、原子比で、Al:0.7〜7%、Mg:10〜25%、Ga:0.015〜0.085%、残部Znからなることを特徴とする前記請求項1または2に記載される透明導電膜を形成するための酸化物スパッタリングターゲット。

【図1】
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【公開番号】特開2011−127151(P2011−127151A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284644(P2009−284644)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】