説明

透明導電膜およびこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲット

【課題】液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる透明導電膜およびこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】Ce:0.2〜5原子%をドープし、さらに必要に応じてAlをAl:0.005〜0.5原子%でかつAlドープ量<Ceドープ量となるようにドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜であって、この透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素が40ppm以下に限定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる透明導電膜およびこの透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものであり、特に、太陽電池用透明導電膜およびこの太陽電池用透明導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置、帯電防止導電膜コーティング、ガスセンサー、太陽電池などに用いられる透明導電膜の一種として、Ceを0.05〜15質量%ドープした酸化亜鉛(このCeをドープした酸化亜鉛を、以下、CZOという)からなる透明導電膜が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−113110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のCZOからなる透明導電膜(以下、CZO透明導電膜という)は透過率、特に近赤外領域(波長:800〜1800nm)における透過率が悪く、前記CZO透明導電膜を太陽電池に用いても電池の変換効率が十分でないという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者は、従来のCZO透明導電膜の透過率、特に近赤外領域での透過率を高めるべく研究を行った。その結果、
(イ)従来のCZO透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素が多く、この炭素含有量が少ないほど近赤外領域での透過率が向上し、CZO透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素は40ppm以下に限定とすることが好ましい、
(ロ)CZO透明導電膜に含まれるCeドープ量は少なめであることが好ましく、Ceのドープ量は0.2〜5原子%の範囲内にあることが好ましい、
(ハ)前記Ce:0.2〜5原子%をドープしたCZO透明導電膜であって不可避不純物として含まれる炭素:40ppm以下に限定したCZO透明導電膜に、さらにAlをAl:0.005〜0.5原子%未満でかつAlドープ量がCeドープ量より少なくなるようにドープすると比抵抗が低下する、
(ニ)前記成分組成を有する透明導電膜は、同じ成分組成を有するターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜することができる、などの研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)Ce:0.2〜5原子%をドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜であって、前記透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有する透明導電膜、
(2)Ce:0.2〜5原子%をドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有する透明導電膜形成用スパッタリングターゲット、
(3)Ce:0.2〜5原子%をドープし、さらにAlをAl:0.005〜0.5原子%未満でかつAlドープ量がCeドープ量より少なくなるようにドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜であって、前記透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有する透明導電膜、
(4)Ce:0.2〜5原子%をドープし、さらにAlをAl:0.005〜0.5原子%未満でかつAlドープ量がCeドープ量より少なくなるようにドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有する透明導電膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の透明導電膜形成用スパッタリングターゲットを作製するには、まず、原料粉末としていずれも平均粒径:0.05〜2μmを有し、いずれも純度:99.9%以上の市販の酸化亜鉛粉末、酸化セリウム粉末および酸化アルミニウム粉末を用意し、これら酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化セリウム粉末を混合して得られた原料混合粉末を脱炭素処理して原料混合粉末に含まれる炭素量を400ppm以下の低炭素混合粉末とする。この脱炭素処理は、原料混合粉末を酸素を含む雰囲気(例えば、大気)中、温度:300〜450℃に加熱することにより焼成して行う。
【0007】
この脱炭素処理した原料混合粉末の炭素含有量が400ppm以下であることを確認したのち原料混合粉末を冷間静水圧プレスまたはホットプレスすることにより所定の形状に成形し、得られた成形体を酸素を含む雰囲気(例えば、大気)中、温度:1300〜1550℃で焼結することにより炭素含有量が40ppm以下の焼結体を作製し、この焼結体を切削して所定の寸法に成形することにより炭素含有量の少ないCZOターゲットを作製する。
【0008】
しかし、酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化セリウム粉末の炭素含有量がいずれも400ppm以下の高純度原料粉末であり、さらに成形に用いられる混合粉末中の炭素含有量が400ppm以下であるならば、前記脱炭素処理は行なわなくてもこの発明のCZOターゲットを作製することができるが、高純度原料粉末は高価格であるために経済的ではない。
【0009】
この発明のCZO透明導電膜の成分組成を前述のごとく限定した理由を説明する。
Ce:
Ceはメインドーパントとして透明導電膜のキャリア密度とホール移動量を向上させ、膜の導電性を実現するために添加するが、その添加量が0.2原子%未満であってもまた5原子%を越えても透明導電膜の導電性が低くなるので好ましくない。したがって、この発明のCZO透明導電膜に含まれるCeを0.2〜5原子%に定めた。
Al:
AlはCZO透明導電膜の導電性を向上させる作用を有するので添加するが、その添加量が0.005原子%未満では導電性向上効果が十分でなく、一方、Alを0.5原子%以上であって、Alドープ量≧Ceドープ量となるように含有すると、CZO透明導電膜の透明性が低下し、近赤外領域での透過率が低下するようになるので好ましくない。したがって、この発明のCZO透明導電膜に含まれるAlの含有量をAl:0.005〜0.5原子%未満かつAlドープ量<Ceドープ量に定めた。
炭素:
CZO透明導電膜に炭素が40ppmを越えて含まれていると、膜の透明性が著しく低下することから、CZO透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素の含有量を40ppm以下と定めた。
【発明の効果】
【0010】
この発明のCZO透明導電膜は、従来のCZO透明導電膜に比べて一層透明性を向上させることができ、産業上優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施例1
原料粉末として、いずれも平均粒径:0.3μmを有し、いずれも純度:99.9%以上の市販のZnO粉末およびCeO粉末を用意した。これら原料粉末を表1に示される割合になるように配合し、得られた配合粉末を直径:5mmのジルコニア製ボールを用いて乾式混合し、得られた混合粉末を大気中、表1に示される温度および時間保持することにより焼成して混合粉末の炭素含有量が400ppm以下になるまで脱炭素処理した。
この脱炭素処理した混合粉末をゴム型に充填し、2Ton/cmの圧力をかけて冷間静水圧プレスすることにより成形体を作製し、この成形体を直径:180mm、厚さ:20mmの寸法を有する円板状成形体に加工し、得られた円板状成形体を大気中、昇温速度:100℃/時で加熱し、表1に示される温度で焼結することにより焼結体を作製した。得られた焼結体を切削して直径:125mm、厚さ:10mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有するCZOターゲットA〜Lを作製した。これらCZMターゲットA〜Lを割ってその表面部と中心部から各3箇所サンプリングし、CeおよびCのドープ量を測定し、その結果を表1に示した。
【0012】
従来例1
実施例1で用意したいずれも平均粒径:0.3μmを有し、いずれも純度:99.9%以上の市販のZnO粉末およびAl粉末を用意し、これら原料粉末を直径:5mmのジルコニア製ボールを用いて乾式混合した。得られた混合粉末をゴム型に充填し、2Ton/cmの圧力をかけて冷間静水圧プレスすることにより成形体を作製し、この成形体を直径:180mm、厚さ:20mmの寸法を有する円板状成形体に加工し、得られた円板状成形体を大気中、昇温速度:100℃/時で加熱し、表1に示される温度で焼結することにより焼結体を作製した。得られた焼結体を切削して直径:125mm、厚さ:10mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有するCZOターゲットMを作製した。得られたCZOターゲットMを割ってその表面部と中心部から各3箇所サンプリングし、CeおよびCの含有量を測定し、その結果を表1に示した。
【0013】
さらに、前記実施例1および従来例1で得られたCZOターゲットA〜Mを無酸素銅からなるバッキングプレートにボンディングし、これをマグネトロンスパッタリング装置にセットし、
電源:パルスDC、
投入電力:200W、
到達真空度:1×10−4Pa、
スパッタガス:Ar、
スパッタ圧力:0.67Pa、
の条件で250℃に加熱されたガラス基板(コーニング社1737# 縦:20×横:20、厚さ:0.7mm)の上に膜厚:300nmの本発明CZO透明導電膜1〜9、比較CZO透明導電膜1〜3および従来CZO透明導電膜1を形成した。これらCZO透明導電膜を分光光度計を用いて近赤外線領域の波長:1100nmおよび波長:900nmの光に対する透過率を測定し、その平均値を表2に示した。
さらに、本発明CZO透明導電膜1〜9、比較CZO透明導電膜1〜3および従来CZO透明導電膜1について四探針法により膜の比抵抗を測定し、その結果を表2に示した。
【0014】
【表1】

【0015】

【表2】

【0016】
表1〜2に示される結果から、本発明CZO透明導電膜1〜9は従来CZO透明導電膜1に比べていずれも近赤外線領域における透過率が優れていることもわかる。また、Ce含有量がこの発明の範囲から外れた値を有する比較ターゲット1〜2はCZO透明導電膜の比抵抗が大きくなりすぎて好ましくなく、さらに炭素含有量がこの発明の範囲から外れた値を有する比較ターゲット3は透明性が低下するために好ましくないことがわかる。
【0017】
実施例2
原料粉末として、いずれも平均粒径:0.3μmを有し、いずれも純度:99.9%以上の市販のZnO粉末、CeO粉末およびAl粉末を用意した。これら原料粉末を表3に示される割合になるように配合し、得られた配合粉末を直径:5mmのジルコニア製ボールを用いて乾式混合し、得られた混合粉末を大気中、表3に示される温度および時間保持することにより焼成して混合粉末の炭素含有量が400ppm以下になるまで脱炭素処理した。
この脱炭素処理した混合粉末をゴム型に充填し、2Ton/cmの圧力をかけて冷間静水圧プレスすることにより成形体を作製し、この成形体を直径:180mm、厚さ:20mmの寸法を有する円板状成形体に加工し、得られた円板状成形体を大気中、昇温速度:100℃/時で加熱し、表3に示される温度で焼結することにより焼結体を作製した。得られた焼結体を切削して直径:125mm、厚さ:10mmの寸法を有し、表3に示される成分組成を有するCZOターゲットa〜jを作製した。これらCZOターゲットa〜jを割ってその表面部と中心部から各3箇所サンプリングし、Ce、AlおよびCのドープ量を測定し、その結果を表3に示した。
【0018】
前記実施例2で得られたCZOターゲットa〜iを無酸素銅からなるバッキングプレートにボンディングし、これをマグネトロンスパッタリング装置にセットし、実施例1と同じ条件でガラス基板(コーニング社1737# 縦:20×横:20、厚さ:0.7mm)の上に膜厚:300nmの本発明CZO透明導電膜10〜18を形成した。これら本発明CZO透明導電膜10〜18および比較CZO透明導電膜4について四探針法により膜の比抵抗を測定し、その結果を表4に示した。
【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
表3〜4に示される結果から、Alが0.005〜0.5原子%ドープした本発明CZO透明導電膜10〜18と実施例1で得られたAlをドープしない本発明CZO透明導電膜5とを比較すると、Alを0.005〜0.5原子%ドープさせることにより膜の比抵抗が低下することがわかる。しかし、Alドープ量がCeドープ量よりも多い比較CZO透明導電膜4は比抵抗が下がらないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce:0.2〜5原子%をドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜であって、前記透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有することを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
Ce:0.2〜5原子%をドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有することを特徴とする透明導電膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Ce:0.2〜5原子%をドープし、さらにAlをAl:0.005〜0.5原子%未満でかつAlドープ量がCeドープ量より少なくなるようにドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜であって、前記透明導電膜に不可避不純物として含まれる炭素含有量を40ppm以下に限定した成分組成を有することを特徴とする透明導電膜。
【請求項4】
Ce:0.2〜5原子%をドープし、さらにAlをAl:0.005〜0.5原子%未満でかつAlドープ量がCeドープ量より少なくなるようにドープした酸化亜鉛からなる透明導電膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記透明導電膜形成用スパッタリングターゲットに不可避不純物として含まれる炭素含有量が40ppm以下に限定した成分組成を有することを特徴とする透明導電膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2009−110664(P2009−110664A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278313(P2007−278313)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】