説明

透明帯電防止膜形成用塗料とそれを用いた透明帯電防止膜および透明帯電防止膜付き透明基材

【課題】表面処理を施していない透明基材への密着性、耐摩耗性、導電性などに優れた塗膜を容易に作製することができる透明帯電防止膜形成用塗料とそれを用いた透明帯電防止膜および透明帯電防止膜付き透明基材を提供する。
【解決手段】導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、前記バインダーは、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなることを特徴とする透明帯電防止膜形成用塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明帯電防止膜形成用塗料とそれを用いた透明帯電防止膜および透明帯電防止膜付き透明基材に関し、さらに詳しくは、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極線管(CRT)、プロジェクション(PJTV)などの各種表示装置に好適に用いられ、これらの表示装置の表示面に、帯電防止効果を付与することが可能であるとともに、膜の硬度および防汚性をさらに向上させることが可能な透明帯電防止膜形成用塗料、それを用いて形成してなる透明帯電防止膜および透明帯電防止膜付き透明基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、画像表示用の一般材料、例えば、従来のプラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極線管(CRT)、プロジェクション(PJTV)などの各種表示装置に用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの透明基材は、静電気が帯電し易く、この静電気により、埃が付着するという問題がある。このような問題を改善するために、透明基材の画像表示部に透明導電膜を形成することが行われている。この透明導電膜の形成方法としては、一般的に、透明基材の画像表示面に導電性微粒子を含有する塗料を塗工し、製膜する方法が用いられている。
【0003】
透明導電膜の形成において、この透明導電膜と透明基材との密着性を高めるために、易接着層付きの透明基材を用いたり、透明基材にコロナ放電処理を施したりしている。
透明基材に易接着層を形成する手段としては、例えば、非晶質導電性酸化スズとアクリル共重合高分子とからなる帯電防止プライマーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、帯電防止性能を有するプラスチックフィルムのプライマーに用いられ、プラスチックとの密着性を高めるバインダーとしては、ガラス転移点が−30℃〜0℃の範囲の非結晶性ポリエステル系ポリウレタンと、ガラス転移点が0℃〜40℃の範囲の結晶性ポリエステル系ポリウレタンとからなる複合組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、熱可塑性樹脂シートに対する導電性微粒子の密着性を向上させるために、導電性微粒子を含む導電性塗料としては、ガラス転移点が80℃以上のアクリル系樹脂と、ガラス転移点が70℃以下のアクリル系樹脂とを含むものが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002−80775号公報
【特許文献2】特開2004−137346号公報
【特許文献3】特開2005−298535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、易接着層の上に、透明導電膜を形成するための塗料を塗布する場合、易接着層の種類によっては、易接着層に対する塗料の親和性が低く、得られた塗膜の密着性や耐摩耗性が不十分であり、また、塗膜の外観が損なわれる、易接着層付きの基板は高価であるなどの問題があった。
また、通常、表面処理を施していない透明基材に塗料を塗布して透明導電膜を形成した場合、透明導電膜は透明基材との密着性が低く、耐摩耗性も著しく低い。したがって、透明導電膜の摩耗により、導電性微粒子の脱落などによる汚染の問題が生じることがある。そこで、透明基材に対して、コロナ放電処理などの表面処理が施されている。しかしながら、透明基材に対するコロナ放電処理などの表面処理は、耐摩耗性が十分に向上しないことも多く、また、時間の経過に伴ってその効果が低下するため、生産性が悪いという問題があった。さらに、表面処理工程が増えることから、製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、表面処理を施していない透明基材への密着性、耐摩耗性、導電性などに優れた塗膜を容易に作製することができる透明帯電防止膜形成用塗料とそれを用いた透明帯電防止膜および透明帯電防止膜付き透明基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、透明帯電防止膜形成用塗料のバインダーとして、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを用いることにより、得られる塗膜の透明基材に対する密着性が向上し、耐摩耗性も向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、前記バインダーは、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなることを特徴とする。
【0008】
前記バインダーは、さらに、ビニル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、イソシアネート基の群から選択される1種または2種以上の有機官能基を有する高分子化合物を含有してなることが好ましい。
前記バインダーは、さらに、コロイダルシリカを含有してなることが好ましい。
【0009】
前記バインダーにおける前記ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂の含有率は、25質量%以上かつ75質量%以下であることが好ましい。
前記バインダーにおける前記高分子化合物と前記コロイダルシリカの合計の含有率は、25質量%以上かつ55質量%以下であることが好ましい。
前記高分子化合物と前記コロイダルシリカの合計における前記コロイダルシリカの含有率は、20質量%以上かつ80質量%以下であることが好ましい。
【0010】
前記コロイダルシリカの平均粒子径は、10nm以上かつ100nm以下であることが好ましい。
前記導電性微粒子は、スズを含む金属酸化物微粒子であることが好ましい。
前記導電性微粒子の平均粒子径は、5nm以上かつ100nm以下であることが好ましい。
前記導電性微粒子の含有率は、前記バインダー100質量部に対して40質量部以上かつ250質量部以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の透明帯電防止膜は、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料を用いて形成してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の透明帯電防止膜付き透明基材は、透明帯電防止膜を透明基材の表面に形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料によれば、導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、前記バインダーは、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなるので、コロナ放電処理などの表面処理を施していない透明基材への密着性、耐摩耗性、導電性などに優れた透明帯電防止膜を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料とそれを用いた透明帯電防止膜の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、バインダーが、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなる塗料である。
【0016】
導電性微粒子としては、表面抵抗が低く、しかも透明性を確保することができる点から、スズを含む金属酸化物微粒子が好ましい。
スズを含む金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化スズ(SnO、SnOなど)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)などが挙げられる。
【0017】
この導電性微粒子の平均粒子径は、5nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上かつ80nm以下である。
導電性微粒子の平均粒子径は、5nm以上かつ100nm以下であることが好ましい理由は、導電性微粒子の平均粒子径が5nm未満では、導電性微粒子同士の接触抵抗が大きくなり、導電性が阻害されるからであり、一方、導電性微粒子の平均粒子径が100nmを超えると、微粒子同士の凝集が生じ易くなり、その結果、塗料の保存安定性が低下し、ポットライフが短くなるからである。
【0018】
この透明帯電防止膜形成用塗料では、導電性微粒子の含有率は、バインダー100質量部に対して40質量部以上かつ250質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以上かつ200質量部以下である。
透明帯電防止膜形成用塗料における導電性微粒子の含有率は、バインダー100質量部に対して40質量部以上かつ250質量部以下であることが好ましい理由は、導電性微粒子の含有率が40質量部未満では、この透明帯電防止膜形成用塗料を用いて製膜した場合に、その膜中の導電性微粒子の濃度が低くなり、導電性微粒子間の接触の度合いが低下し、その結果、表面抵抗が高くなってしまい、所望の表面抵抗が得られなくなるからである。一方、導電性微粒子の含有率が250質量部を超えると、塗料中にて導電性微粒子の凝集が生じ易くなり、その結果、塗料の保存安定性が低下し、ポットライフが短くなるばかりでなく、この透明帯電防止膜形成用塗料を用いて製膜した場合、その膜中の導電性微粒子の濃度が高くなり、その結果、導電性微粒子に起因する着色が生じ易くなり、膜の可視光線に対する透過率が低下するからである。
【0019】
ガラス転移点(Tg)が0℃以下の熱可塑性樹脂としては、例えば、東洋紡績社製のポリエステル樹脂である、バイロナールMD1985(ガラス転移点−20℃)、バイロナールMD1930(ガラス転移点−10℃)、第一工業製薬社製のウレタン樹脂であるスーパーフレックス460(ガラス転移点−21℃)などが挙げられる。
【0020】
ガラス転移点(Tg)が40℃以上の熱可塑性樹脂としては、例えば、東洋紡績社製のポリエステル樹脂である、バイロナールMD1200(ガラス転移点67℃)、バイロナールMD1500(ガラス転移点77℃)、バイロナールMD1250(ガラス転移点62℃)、第一工業製薬社製のウレタン樹脂であるスーパーフレックス110(ガラス転移点46℃)などが挙げられる。
【0021】
この透明帯電防止膜形成用塗料では、バインダーにおけるガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂の含有率は、25質量%以上かつ75質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上かつ70質量%以下である。
バインダーにおけるガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂の含有率は、25質量%以上かつ75質量%以下であることが好ましい理由は、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂の含有率が25質量%未満では、透明基材に対する透明帯電防止膜の密着性が低下して、耐摩耗性が低下するからであり、一方、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂の含有率が75質量%を超えると、得られる透明帯電防止膜が軟らかすぎて、耐摩耗性が低下するからである。
【0022】
上記のバインダーは、さらに、ビニル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、イソシアネート基の群から選択される1種または2種以上の有機官能基を有する高分子化合物を含有することが好ましい。
このような高分子化合物としては、アルコキシシランの加水分解物および有機変性アルコキシシランの加水分解物の双方を含有するものが用いられる。
【0023】
アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシランなどが挙げられる。また、アルコキシシランの加水分解物の替わりに、コロイダルシリカを使用することもできる。
有機変性アルコキシシランとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、4−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
これらのアルコキシシランまたは有機変性アルコキシシランは、それぞれの加水分解物を使用してもよいし、複数のシラン化合物の共加水分解物を使用してもよい。
【0024】
バインダーは、さらに、コロイダルシリカを含有することが好ましい。
このコロイダルシリカの平均粒子径は、10nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは15nm以上かつ80nm以下である。
コロイダルシリカの平均粒子径は、10nm以上かつ100nm以下であることが好ましい理由は、コロイダルシリカの平均粒子径が10nm未満では、導電性微粒子の間にコロイダルシリカが入り込み、導電性微粒子の導電パスを阻害するからであり、一方、コロイダルシリカの平均粒子径が100nmを超えると、粒子による散乱のため、この透明帯電防止膜形成用塗料を用いて形成した透明帯電防止膜が白っぽく散乱し、また、コロイダルシリカの粒子間の空隙が大きくなり、耐摩耗性が劣化するからである。
【0025】
この透明帯電防止膜形成用塗料では、バインダーにおける高分子化合物とコロイダルシリカの合計の含有率は、25質量%以上かつ55質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上かつ50質量%以下である。
バインダーにおける高分子化合物とコロイダルシリカの合計の含有率は、25質量%以上かつ55質量%以下であることが好ましい理由は、高分子化合物とコロイダルシリカの合計の含有率が25質量%未満では、透明基材に対する透明帯電防止膜の密着性が低下して、耐摩耗性が低下するからであり、一方、高分子化合物とコロイダルシリカの合計の含有率が55質量%を超えると、コロイダルシリカや高分子化合物が導電性微粒子の表面に結合し、導電性を阻害するとともに、この透明帯電防止膜形成用塗料を用いて形成した透明帯電防止膜が熱収縮で割れやすくなるとともに、塗料の分散性が悪くなるからである。
【0026】
また、この透明帯電防止膜形成用塗料では、高分子化合物とコロイダルシリカの合計におけるコロイダルシリカの含有率は、20質量%以上かつ80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以上かつ75質量%以下である。
高分子化合物とコロイダルシリカの合計におけるコロイダルシリカの含有率は、20質量%以上かつ80質量%以下であることが好ましい理由は、コロイダルシリカの含有率が20質量%未満では、高分子化合物が導電性微粒子の表面に結合し、導電性を阻害するとともに、加熱時にこの透明帯電防止膜形成用塗料を用いて形成した透明帯電防止膜が熱収縮で割れやすくなるとともに、塗料の分散性が悪くなるからであり、一方、コロイダルシリカの含有率が80質量%を超えると、透明基材に対する透明帯電防止膜の密着性が低下して、耐摩耗性が低下するからである。
【0027】
この透明帯電防止膜形成用塗料は、塗工性を高めるために、さらに、レベリング剤を含有していてもよい。
このレベリング剤としては、ケイ素またはフッ素を含む有機化合物が好ましく、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、水酸基あるいはアクリル基含有物などのシリコーン系ポリマー、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルエステル、その他フッ素変性ポリマーなどが挙げられる。
【0028】
この透明帯電防止膜形成用塗料によれば、導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、バインダーは、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなるので、コロナ放電処理などの表面処理を施していない未処理の透明基材への密着性、耐摩耗性、導電性などに優れた透明帯電防止膜を容易に作製することができる。
【0029】
また、バインダーに上記の高分子化合物を添加することにより、PETフィルムなどのプラスチック基材に対する透明帯電防止膜の密着性がさらに向上する。すなわち、高分子化合物として、アルコキシシランの加水分解物および有機変性アルコキシシランの加水分解物を用いることにより、その有機官能基が、上記の熱可塑樹脂およびプラスチック基材の表面と結合し、かつ、そのシラノール基が導電性微粒子と結合することによって、導電性微粒子と、熱可塑樹脂およびプラスチック基材とが結びつき(密着性が向上し)、耐摩耗性が向上する。なぜならば、バインダーが熱可塑性樹脂のみからなる場合、コロナ放電処理などの表面処理を施していない未処理のプラスチック基材は、透明帯電防止膜と結合する官能基が少ないので、透明帯電防止膜との密着性が低いため、透明帯電防止膜に、プラスチック基材と結合する官能基の数を増やす必要があるからである。
【0030】
さらに、バインダーに上記のコロイダルシリカを添加することにより、上記の高分子化合物のシラノール基がコロイダルシリカに吸着して、この高分子化合物の導電性微粒子への結合が適度に抑制されて、導電性微粒子による導電性が低下することを抑えることができる。すなわち、透明帯電防止膜の耐摩耗性と導電性のバランスをとるために、コロイダルシリカを添加する。なお、透明帯電防止膜の導電性は、導電性微粒子にコロイダルシリカが結合した場合の方が、導電性微粒子に高分子化合物のシラノール基が結合した場合よりも良好である。
【0031】
次に、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料を用いて透明帯電防止膜を形成する方法について説明する。
まず、透明基材を用意する。この透明基材としては、特に限定されず、プラスチック基材、ガラス基材を挙げることができ、その形状としては、平板、フィルム、シートなどいずれであってもよい。
このプラスチック基材としては、透明プラスチックシートや透明プラスチックフィルムなどが挙げられる。このプラスチック基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリアクリレート、ポリスチレン(PS)、ポリアクリレートとポリスチレン(PS)の共重合体などから適宜選択することができる。
【0032】
次いで、この透明基材上に、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成する。
透明帯電防止膜形成用塗料の塗布方法としては、特に限定されることはなく、例えば、グラビアコート法などのロールコート法、スピンコート法、デイップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法などの各種塗布方法が用いられる。
【0033】
次いで、この塗布膜を、酸化雰囲気中、80℃以上かつ150℃以下の温度にて熱処理する。
このようにして、本発明の透明帯電防止膜を得ることができる。
【0034】
本発明の透明帯電防止膜を透明基材の表面に形成すれば、帯電防止機能、膜の硬度、防汚性に優れ、さらには長期信頼性に優れた透明帯電防止膜付き透明基材が得られる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
「実施例1」
アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103、信越化学社製)4.3gとメタノール11.2gを配合し、攪拌混合しながら、希硝酸(1規定、硝酸0.1gを純水4.2gで希釈したもの)を滴下し、次いで、環流しながら60℃にて3時間攪拌し、有機変性アルコキシシランの加水分解物(加水分解物A)を調製した。
次に、低Tgポリエステル樹脂(バイロナールMD1985、ガラス転移点−20℃、東洋紡績社製)1.9g、高Tgポリエステル樹脂(バイロナールMD1200、ガラス転移点67℃、東洋紡績社製)1.5g、6.67%アンチモン含有酸化スズ分散液30.0g、レベリング剤(KF354、信越化学社製)0.3g、コロイダルシリカ(ST−0、日産化学社製)1.0g、加水分解物A2.0g、および、純水63.3gを配合し、攪拌混合して塗料(塗料a)を調製した。
塗料a中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物A由来のシリカの質量比は、塗料a中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物A由来のシリカ=20:5:5:2:3であった。
次に、PETフィルムに、バーコート方により塗料aを塗布し、次いで、乾燥機により100℃にて1分間乾燥させ、厚み0.5μmの透明帯電防止膜を形成し、実施例1の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0037】
「実施例2」
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503、信越化学社製)4.5gとメタノール11.2gを配合し、攪拌混合しながら、希硝酸(1規定、硝酸0.1gを純水4.2gで希釈したもの)を滴下し、次いで、環流しながら60℃にて3時間攪拌し、有機変性アルコキシシランの加水分解物(加水分解物B)を調製した。
次に、低Tgポリエステル樹脂(バイロナールMD1985、ガラス転移点−20℃、東洋紡績社製)1.9g、高Tgポリエステル樹脂(バイロナールMD1200、ガラス転移点67℃、東洋紡績社製)1.5g、6.67%アンチモン含有酸化スズ分散液30.0g、レベリング剤(KF354、信越化学社製)0.3g、コロイダルシリカ(ST−0、日産化学社製)1.0g、加水分解物B2.0g、および、純水63.3gを配合し、攪拌混合して塗料(塗料b)を調製した。
塗料b中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物B由来のシリカの質量比は、塗料b中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物B由来のシリカ=20:5:5:2:3であった。
次に、PETフィルムに、バーコート方により塗料bを塗布し、次いで、乾燥機により100℃にて1分間乾燥させ、厚み0.5μmの透明帯電防止膜を形成し、実施例2の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0038】
「実施例3」
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学社製)4.2gとメタノール11.5gを配合し、攪拌混合しながら、希硝酸(1規定、硝酸0.1gを純水4.2gで希釈したもの)を滴下し、次いで、環流しながら60℃にて3時間攪拌し、有機変性アルコキシシランの加水分解物(加水分解物C)を調製した。
次に、低Tgポリエステル樹脂(バイロナールMD1930、ガラス転移点−10℃、東洋紡績社製)1.6g、高Tgポリエステル樹脂(バイロナールMD1200、ガラス転移点67℃、東洋紡績社製)1.5g、6.67%アンチモン含有酸化スズ分散液30.0g、レベリング剤(KF354、信越化学社製)0.3g、コロイダルシリカ(ST−0、日産化学社製)1.0g、加水分解物C2.0g、および、純水63.3gを配合し、攪拌混合して塗料(塗料c)を調製した。
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比は、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:5:5:2:3であった。
次に、PETフィルムに、バーコート方により塗料cを塗布し、次いで、乾燥機により100℃にて1分間乾燥させ、厚み0.5μmの透明帯電防止膜を形成し、実施例3の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0039】
「比較例1」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:6:6:1.2:1.8とした以外は実施例3と同様にして、比較例1の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0040】
「比較例2」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:3:3:3.6:5.4とした以外は実施例3と同様にして、比較例2の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0041】
「比較例3」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:2:8:2:3とした以外は実施例3と同様にして、比較例3の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0042】
「比較例4」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:8:2:2:3とした以外は実施例3と同様にして、比較例4の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0043】
「比較例5」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:5:5:0.5:4.5とした以外は実施例3と同様にして、比較例5の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0044】
「比較例6」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=20:5:5:4.5:0.5とした以外は実施例3と同様にして、比較例6の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0045】
「比較例7」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=5:5:5:2:3とした以外は実施例3と同様にして、比較例7の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0046】
「比較例8」
塗料c中のATO、低Tgポリエステル樹脂、高Tgポリエステル樹脂、コロイダルシリカ、および、加水分解物C由来のシリカの質量比を、塗料c中のATO:低Tgポリエステル樹脂:高Tgポリエステル樹脂:コロイダルシリカ:加水分解物C由来のシリカ=40:5:5:2:3とした以外は実施例3と同様にして、比較例8の透明帯電防止膜付きPETフィルムを得た。
【0047】
上記実施例1〜3および比較例1〜8について、透明帯電防止膜形成用塗料の組成を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
「透明帯電防止膜付きPETフィルムの評価」
実施例1〜3および比較例1〜8の透明帯電防止膜付きPETフィルムの各々について、耐摩耗性、ヘイズ(曇価)、表面抵抗値、密着性の評価を下記の方法により行った。
【0050】
(1)耐摩耗性
ラビングテスター(こすり試験器、大平理化社製)を用いて、縦1cm×横2cmの形状に折り畳んだ不織布(ベンコット、旭化成せんい社製)に、2kgfの荷重を負荷しながら、透明帯電防止膜付きPETフィルムの表面(透明帯電防止膜)上を5回往復させた後、透明帯電防止膜付きPETフィルムの表面を目視により観察し、評価した。
得られた結果を下記の3段階で評価した。
○:透明帯電防止膜付きPETフィルムの表面にできた傷が10本以下
△:透明帯電防止膜付きPETフィルムの表面にできた傷が10本以上、かつ、透明帯電防止膜が剥離しなかった
×:透明帯電防止膜が完全に剥離した
実施例1〜3および比較例1〜8の結果を表2に示す。
【0051】
(2)ヘイズ(曇価)
日本工業規格JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して、透明帯電防止膜付きPETフィルムのヘイズ値を測定した。
実施例1〜3および比較例1〜8の結果を表2に示す。
【0052】
(3)表面抵抗値
日本工業規格JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して、透明帯電防止膜付きPETフィルムの表面抵抗値を測定した。
実施例1〜3および比較例1〜8の結果を表2に示す。
【0053】
(4)密着性
日本工業規格JIS K 5600−5−6「クロスカット法」に準拠して、透明帯電防止膜付きPETフィルムにおける透明帯電防止膜の密着性を評価した。
得られた結果から、透明帯電防止膜の密着性を評価し、密着性が比較例1よりも向上した場合を「○」、密着性が比較例1と同等あるいは比較例1よりも劣る場合を「×」とした。
実施例1〜3および比較例1〜8の結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2の結果から、実施例1〜3では、耐摩耗性、ヘイズ(曇価)、表面抵抗値および密着性の各項目について優れていることが確認された。
一方、比較例1では、(低Tgポリエステル樹脂と高Tgポリエステル樹脂の合計量(質量)):(コロイダルシリカとシランカップリング剤の加水分解物との合計量(質量))=8:2とすると、PETフィルムに対する透明帯電防止膜の密着性が低下して、耐摩耗性が低下することが分かった。
比較例2では、(低Tgポリエステル樹脂と高Tgポリエステル樹脂の合計量(質量)):(コロイダルシリカとシランカップリング剤の加水分解物との合計量(質量))=2:3とすると、コロイダルシリカが導電性微粒子の表面に結合し、導電性を阻害するとともに、加熱時に熱割れしやすくなることが分かった。また、塗料の分散性が悪くなることが分かった。
【0056】
比較例3では、低Tgポリエステル樹脂(質量):高Tgポリエステル樹脂(質量)=2:8とすると、PETフィルムに対する透明帯電防止膜の密着性が低下して、耐摩耗性が低下することが分かった。
比較例4では、低Tgポリエステル樹脂(質量):高Tgポリエステル樹脂(質量)=8:2とすると、透明帯電防止膜が軟らかすぎて、耐摩耗性が低下することが分かった。
【0057】
比較例5では、コロイダルシリカ(質量):シランカップリング剤の加水分解物(質量)=1:9とすると、シランカップリング剤が導電性微粒子の表面に結合し、導電性を阻害するとともに、加熱時に熱割れしやすくなることが分かった。また、塗料の分散性が悪くなることが分かった。
比較例6では、コロイダルシリカ(質量):シランカップリング剤の加水分解物(質量)=9:1とすると、PETフィルムに対する透明帯電防止膜の密着性が低下して、耐摩耗性が低下することが分かった。
【0058】
比較例7では、導電性微粒子(質量):バインダー(質量)=1:3とすると、透明帯電防止膜付きPETフィルムの導電性が低下することが分かった。
比較例8では、導電性微粒子(質量):バインダー(質量)=8:3とすると、透明帯電防止膜付きPETフィルムの耐摩耗性が低下することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、前記バインダーは、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなるものであるから、この塗料を用いて形成した透明帯電防止膜は、帯電防止機能、耐摩耗性、防汚性(埃が付着し難い)、プラスチックなどの基材への密着性などが求められるあらゆる物に適用可能であり、特に、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極線管(CRT)、プロジェクション(PJTV)などの各種画像表示装置の表示面における帯電防止機能、耐摩耗性、防汚性および密着性を向上させる場合に非常に効果的であり、その産業的利用価値は非常に大きなものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子と、バインダーとを含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料であって、
前記バインダーは、ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂と、ガラス転移点が40℃以上の熱可塑性樹脂とを含有してなることを特徴とする透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項2】
前記バインダーは、さらに、ビニル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、イソシアネート基の群から選択される1種または2種以上の有機官能基を有する高分子化合物を含有してなることを特徴とする請求項1に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項3】
前記バインダーは、さらに、コロイダルシリカを含有してなることを特徴とする請求項1または2に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項4】
前記バインダーにおける前記ガラス転移点が0℃以下の熱可塑性樹脂の含有率は、25質量%以上かつ75質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項5】
前記バインダーにおける前記高分子化合物と前記コロイダルシリカの合計の含有率は、25質量%以上かつ55質量%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項6】
前記高分子化合物と前記コロイダルシリカの合計における前記コロイダルシリカの含有率は、20質量%以上かつ80質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項7】
前記コロイダルシリカの平均粒子径は、10nm以上かつ100nm以下であることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか1項に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項8】
前記導電性微粒子は、スズを含む金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項9】
前記導電性微粒子の平均粒子径は、5nm以上かつ100nm以下であることを特徴とする1ないし8のいずれか1項に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項10】
前記導電性微粒子の含有率は、前記バインダー100質量部に対して40質量部以上かつ250質量部以下であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の透明帯電防止膜形成用塗料を用いて形成してなることを特徴とする透明帯電防止膜。
【請求項12】
請求項11に記載の透明帯電防止膜を透明基材の表面に形成してなることを特徴とする透明帯電防止膜付き透明基材。



【公開番号】特開2009−203282(P2009−203282A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44598(P2008−44598)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】