説明

通気性シート状接着材及びその製造方法

【課題】 被着物の通気性を損なわずに、かつ、高い接着力を発揮する通気性シート状接着材を提供する。
【解決手段】 この通気性シート状接着材は、開孔不織布よりなる。開孔不織布は、マルチフィラメント糸が粗目に集積されてなり、無作為に配置された孔を持つ。マルチフィラメント糸は、複数本の単フィラメント糸が集束されて形成されている。単フィラメント糸の表面の少なくとも一部は、感熱接着性樹脂で形成されている。たとえば、鞘成分が感熱接着性樹脂で形成されている芯鞘型複合フィラメントを、単フィラメント糸とする。マルチフィラメント糸中の各単フィラメント糸相互間は、感熱接着性樹脂によって融着されている。開孔不織布を構成しているマルチフィラメント糸相互間の交点は、感熱接着性樹脂によって融着されている。この通気性シート状接着材は、感熱接着性樹脂によって、被着物と接着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着不織布や被着編織物などの通気性被着物を、その通気性を損なわずに接着貼合するための通気性シート状接着材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、通気性不織布や通気性編織物等の通気性被着物相互間に、シート状接着材を挟んで、通気性被着物同士を接着貼合することが行われている。たとえば、表地である通気性編織物と、裏地である通気性不織布との間に、シート状接着材を挟んで、表地と裏地とを接着貼合し、衣料などの繊維製品を縫製することが行われている。また、通気性カーペット本体と通気性裏張り材の間に、シート状接着材を挟んで、カーペット本体に裏張り材を接着貼合し、カーペットを製造することも行われている。そして、シート状接着材としては、熱を与えることにより、溶融又は軟化して粘着性を呈する感熱接着性無孔フィルム、感熱接着性有孔フィルム、感熱接着性不織布などが用いられている。
【0003】
しかるに、感熱接着性無孔フィルムを用いて、通気性被着物同士を接着貼合すると、貼合物の通気性が低下するということがあった。これは、無孔フィルムの溶融又は軟化により、不織布や編織物などの通気性被着物の目(繊維相互間に形成されている間隙)が、感熱接着性成分により全体に詰まってしまうからである。また、感熱接着性不織布を用いて接着貼合した場合も、不織布は構成繊維が単繊維又は単フィラメントの状態で、全体に均一に集積されてなるものであるため、無孔フィルムの場合と同様に、通気性被着物の目が詰まり、貼合物の通気性が低下するということがあった。
【0004】
このため、ネット状のフィルムなどの感熱接着性有孔フィルムを用いて、接着貼合すれば、有孔フィルムの孔に対応する通気性被着物の部位は、目詰まりすることがなく、通気性の低下を避けることができる。また、単繊維又は単フィラメントを全体に均一に集積させずに、部分的に孔を開けた開孔不織布を用いれば、有孔フィルムの場合と同様に、通気性の低下を避けることができる。しかしながら、フィルムや不織布に孔を開けると、孔の大きさを大きくしたり、その数を多くすると、引張強度が低下し、取り扱い時に破断してしまう恐れがあった。引張強度の低下を防止するには、孔以外の部位の厚さを厚くすることが考えられるが、そうすると、感熱接着性成分が多くなって、通気性被着物の背面に感熱接着性成分が滲み出すという新たな欠点を引き起こす。
【0005】
ところで、本件発明者は、マルチフィラメント糸からなるスパンボンド不織布に関する技術を提案している(特許文献1)。このマルチフィラメント糸からなる不織布は、単フィラメント糸からなる不織布に比べて、引張強度が高くなる傾向がある。なぜなら、一本のフィラメント糸よりも、複数本のフィラメント糸が集束されたマルチフィラメント糸の方が、その引張強度が高くなるからである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−227061(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明者は、マルチフィラメント糸からなる不織布の上記性質を利用すれば、不織布を孔開き状態としても、取り扱い時に、破断しにくい感熱接着性不織布が得られるのではないかと考え、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、特許文献1にかかる発明を利用したものであって、マルチフィラメント糸を粗目に集積すると共に、マルチフィラメント糸中に感熱接着性樹脂を含有させることにより、被着物の通気性を損なわずに、かつ、高い接着力を発揮する通気性シート状接着材を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マルチフィラメント糸が粗目に集積されてなり、無作為に配置された孔を持つ開孔不織布であって、該マルチフィラメント糸は複数本の単フィラメント糸が集束されて形成されており、該単フィラメント糸の表面の少なくとも一部は、感熱接着性樹脂で形成されていると共に、該マルチフィラメント糸中の各単フィラメント糸相互間は、該感熱接着性樹脂によって融着されており、さらに該マルチフィラメント糸相互間の交点は、該感熱接着性樹脂によって融着されている開孔不織布からなることを特徴とする、前記感熱接着性樹脂が被着物との接着成分として機能する通気性シート状接着材に関するものである。
【0009】
本発明に係る通気性シート状接着材は、開孔不織布よりなるものである。典型的には、開孔不織布のみで通気性シート状接着材として用いられる。しかし、開孔不織布と、糸状物やネット状物などの補強シートとを積層して用いて、通気性シート状接着材としてもよい。
【0010】
この開孔不織布は、マルチフィラメント糸が粗目に集積されてなるものである。ここで、粗目とは、目視で十分に確認できる程度の孔を持つ状態のことを意味している。たとえば、0.2mm2以上の大きさの孔であれば、目視で十分に確認できる。現実には、0.2〜50mm2程度の大きさの孔が形成されるように、粗目に集積されている。また、目視で十分に確認できる程度の孔であれば、通気性被着物と接着貼合したとき、この孔の存在によって、貼合物の通気性が十分確保しうる。
【0011】
開孔不織布に設けられている孔は、無作為に配置されている。孔が規則正しく配置されていると、開孔不織布に方向性が生じ、取り扱いにくくなる。孔を無作為に配置するには、マルチフィラメント糸を粗目に無作為に集積すればよい。また、孔の大きさも、一定の範囲内で無作為の大きさになっているのが好ましい。これも、開孔不織布に方向性が生じないようにするためである。
【0012】
開孔不織布を形成しているマルチフィラメント糸は、複数本の単フィラメント糸が集束されて形成されたものである。単フィラメント糸の数は2本以上であればよいが、好ましくは5〜100本程度がよい。単フィラメント糸の表面の少なくとも一部は、感熱接着性樹脂で形成されている。具体的には、(1)単フィラメント糸全体が感熱接着性樹脂で形成されている場合、(2)単フィラメント糸が芯鞘型複合単フィラメント糸であって、鞘成分が感熱接着性樹脂で形成されている場合、(3)単フィラメント糸がサイドバイサイド型複合単フィラメント糸であって、一方の成分が感熱接着性樹脂で形成されている場合、などが挙げられる。(2)又は(3)の場合、複合単フィラメント糸中における感熱接着性樹脂の量的割合は、30質量%以上、好ましくは50重量%以上がよい。感熱接着性樹脂の量的割合が、30質量%未満になると、接着成分が少なくなって、接着力が低下する傾向が生じる。
【0013】
感熱接着性樹脂は、熱を与えることによって、溶融又は軟化して粘着性を呈し、被着物と接着するものであれば、どのようなものでも用いることができる。具体的には、ポリエステル系重合体、生分解性のポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体などを用いればよい。また、なるべく低温で溶融又は軟化して粘着性を呈するものが好ましいので、各種共重合体を用いるのがよい。たとえば、ポリエステル系共重合体を使用する場合、アルキレンテレフタレートを主成分として、イソフタル酸、アジピン酸などの酸成分や、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのジオール成分を共重合したものを用いるのが好ましい。
【0014】
マルチフィラメント糸中の単フィラメント糸相互間は、感熱接着性樹脂によって融着されている。すなわち、単フィラメント糸の表面の少なくとも一部は、感熱接着性樹脂で形成されているので、この感熱接着性樹脂によって、マルチフィラメント糸中の隣り合う単フィラメント糸が融着して、一体化している。単フィラメント糸の繊度は任意であるが、一般的に、5〜15デシテックス程度とする。
【0015】
マルチフィラメント糸は、加撚されているのが好ましい。すなわち、マルチフィラメント糸中で単フィラメント糸が旋回した状態で集束され、単フィラメント糸相互間が接着しているのが好ましい。このように加撚されていると、取り扱い時などに、単フィラメント糸がばらけにくくなるからである。加撚した場合の撚り数は任意であるが、一般的に、1T/10cm以上が好ましく、特に5T/10cm以上であるのが好ましい。撚り数が1T/10cm未満であると、単フィラメント糸がばらけやすくなる傾向が生じる。
【0016】
マルチフィラメント糸は粗目に集積され、開孔不織布を形成している。開孔不織布に形態安定性を与えるために、集積されたマルチフィラメント糸相互間の交点は、融着固定されている。この融着固定も、単フィラメント糸の表面の少なくとも一部を形成している感熱接着性樹脂の溶融又は軟化によってなされている。
【0017】
開孔不織布の目付は任意であるが、一般的に、15g/m2以上であるのが好ましい。目付が15g/m2未満であると、形態安定性に劣る傾向となり、また取り扱い性も悪くなる傾向が生じる。
【0018】
本発明に係る通気性シート状接着材は、開孔不織布よりなるものであるが、開孔不織布単独で通気性シート状接着材としてもよいし、その他のシート材と積層又は貼合して、通気性シート状接着材としてもよい。その他のシート材としては、スパンボンド不織布、短繊維不織布、メルトブローン不織布、紙、織編物、有孔フィルムなどが用いられる。本発明に係る通気性シート状接着材は、マルチフィラメント糸中の感熱接着性樹脂、すなわち、単フィラメント糸の表面を形成していた感熱接着性樹脂が、接着成分として機能するものであり、これによって、被着物に接着されるものである。
【0019】
本発明に係る通気性シート状接着材を構成する開孔不織布は、以下の方法により、合理的に製造することができる。すなわち、溶融している感熱接着性樹脂を用いて、表面の少なくとも一部が感熱接着性樹脂で形成されている単フィラメント糸を得る工程(A)と、該感熱接着性樹脂が溶融又は軟化状態であるときに、複数本の該単フィラメントを集束することによって、該複数本の該単フィラメント糸相互間を融着させてマルチフィラメント糸を形成する工程(B)と、該マルチフィラメント糸を捕集板上に粗目に集積して、無作為に配置された孔を持つ開孔不織布を得る工程(C)とを具備する方法によって、合理的に得ることができる。
【0020】
工程(A)は、単フィラメント糸を得る工程である。この工程(A)は、単フィラメント糸のタイプによって、種々の手段を採用することができる。
(1)単フィラメント糸全体が感熱接着性樹脂で形成されている場合は、感熱接着性樹脂のみを原料として、これを溶融紡糸すれば、容易に得ることができる。
(2)単フィラメント糸が芯鞘型複合単フィラメント糸である場合は、芯鞘型複合繊維を製造する際に用いる従来公知の複合紡糸孔を用いて、複合溶融紡糸すれば、容易に得ることができる。すなわち、複合紡糸孔の内側から、芯成分を形成する樹脂を溶融紡糸し、複合紡糸孔の外側から、鞘成分を形成する感熱接着性樹脂を溶融紡糸すればよい。
(3)単フィラメント糸がサイドバイサイド型複合単フィラメント糸である場合は、サイドバイサイド型複合繊維を製造する際に用いる従来公知の複合紡糸孔を用いて、複合溶融紡糸すれば、容易に得ることができる。すなわち、複合紡糸孔の右側から感熱接着性樹脂を溶融紡糸し、左側からは他の樹脂を溶融紡糸すれば、容易にサイドバイサイド型複合単フィラメント糸を得ることができる。
その他にも、芯糸の表面に、溶融させた感熱接着性樹脂をコーティングして、単フィラメント糸を得ることもできる。
なお、工程(A)以外の手段の他にも、単フィラメント糸を得ることはでき、たとえば、溶媒に溶解させた感熱接着性樹脂を、芯糸表面に塗布又は噴霧して、単フィラメント糸を得ることもできる。
【0021】
工程(B)は、マルチフィラメント糸を得る工程である。この工程(B)は、感熱接着性樹脂が溶融又は軟化状態であるときに、複数本の該単フィラメント糸を集束することによって、該複数本の該単フィラメント糸相互間を融着させるというものである。溶融紡糸法で単フィラメント糸を得る場合には、一般的に、紡糸孔は多数あって、それらが直線状、曲線状、円弧状又は円周状などに並んでいる。したがって、紡糸された近隣の各単フィラメント糸を、適宜の本数づつまとめて引き揃えれば、複数本の単フィラメント糸を容易に集束することができる。そして、溶融紡糸された後、各単フィラメント糸表面の感熱接着性樹脂が未だ溶融又は軟化状態を維持している時点で、各単フィラメント糸をまとめて引き揃えれば、各単フィラメント糸相互間が接触して融着する。以上のようにして、マルチフィラメント糸を得ることができる。
なお、工程(B)以外の手段の他にも、得られた単フィラメント糸を集束し、その後、加熱して感熱接着性樹脂を溶融又は軟化させ、単フィラメント糸相互を融着させて、マルチフィラメント糸を得ることもできる。
【0022】
溶融紡糸法を採用した場合、得られた単フィラメント糸を牽引及び延伸して、引き取るのが一般的である。このとき、牽引及び延伸のために、エアーサッカーを用いるのが好ましい。これは、空気流によるものであるため、感熱接着性樹脂が未だ溶融又は軟化状態を維持したままで牽引及び延伸しうるからである。したがって、エアーサッカーを用いる場合、エアーサッカー内で複数本の単フィラメントを集束すると共に、各単フィラメント糸相互間を融着させることもできる。具体的には、エアーサッカーへの導入口を小さく設計し、各単フィラメント糸を構成している感熱接着性樹脂が未だ溶融又は軟化状態を維持している間に、エアーサッカーに導入する方法が挙げられる。この場合、エアーサッカーの導入口が小さいために、自動的に、単フィラメント糸同士が接触し、融着して、マルチフィラメント糸が形成されるのである。なお、この方法でマルチフィラメント糸を得る場合、一台のエアーサッカーからは一本のマルチフィラメント糸が形成されるので、一挙に複数本のマルチフィラメント糸を得たい場合には、複数台のエアーサッカーを配置する。
【0023】
エアーサッカーを用いる場合、その内部での空気流を渦巻き流とすれば、単フィラメント糸は集束されると共に、加撚されてマルチフィラメント糸となる。空気流を渦巻き流とするには、エアーサッカーの入口又は内部に羽根を取り付けて回転させればよい。また、単フィラメント糸を軸方向に牽引及び延伸させる空気流に対して、斜めから別の空気流を、エアーサッカーの入口又は内部において、吹き付ければよい。
【0024】
また、エアーサッカーを用いた場合においても、エアーサッカー内で単フィラメント糸を集束させなくてもよい。たとえば、エアーサッカーに導入する前に、ガイドなどによって集束させてもよいし、エアーサッカーから排出された後に、集束させてもよい。また、もちろん、エアーサッカーを用いずに、複数本の単フィラメント糸を集束させ、そして各単フィラメント糸相互間を融着させてマルチフィラメント糸を形成してもよい。
【0025】
工程(C)は、開孔不織布を得る工程である。この工程(C)は、マルチフィラメント糸を捕集板上に粗目に集積すればよい。捕集板としては、金網製コンベアやネット製コンベアなどが用いられ、一定の速度で移動している。この上に、マルチフィラメント糸を集積するわけであるが、マルチフィラメント糸の供給量と捕集板の移動速度とを調整して、マルチフィラメント糸を粗目に集積することが可能となる。また、エアーサッカーからマルチフィラメント糸を排出する場合には、エアーサッカーを揺動させることによって、粗目に集積させることも可能となる。マルチフィラメント糸は、捕集板上に、落下して無作為に集積されるため、これを粗目とすると、無作為に配置された孔が形成される。
【0026】
マルチフィラメント糸が捕集板上に集積される際、マルチフィラメント中の単フィラメントを形成している感熱接着性樹脂が未だ溶融又は軟化状態であると、集積させただけで或いは若干の加圧によって、マルチフィラメント糸相互間の交点は融着され、開孔不織布が得られる。また、感熱接着性樹脂が固化していた場合には、集積後に加熱及び/又は加圧して、感熱接着性樹脂を再び溶融又は軟化状態とすることによって、マルチフィラメント糸相互間の交点が融着され、開孔不織布を得ることができる。集積後の加熱及び加圧の手段としては、一対のエンボスロールからなるエンボス装置、エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置、又は一対のフラットロールからなるカレンダー装置を用い、少なくとも一つのロールを加熱ロールとし、加熱及び加圧を同時に行う手段を採用すればよい。また、熱風乾燥機などで加熱した後に、ニップロールなどで加圧する手段を採用してもよい。
【0027】
以上説明した開孔不織布からなる通気性シート状接着材は、マルチフィラメント糸中に存在する感熱接着性樹脂が接着成分となって、被着不織布や被着編織物などの種々の通気性被着物を、接着貼合するのに好適に用いられる。具体的には、衣料の縫製の際やカーペットの製造の際に、好適に用いられる。また、被着物が非通気性の物品であっても、この通気性シート状接着材を用いることができる。さらに、本発明にかかる通気性シート状接着材は、被着物間を接着貼合するだけでなく、単に被着物に通気性シート状接着材を積層付加する場合にも用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る通気性シート状接着材は、開孔不織布からなるものであるため、この孔を通して通気性が確保されている。したがって、この通気性シート状接着材を用いて、通気性被着物同士を積層接着した場合、貼合物の通気性が阻害されにくいという効果を奏する。また、開孔不織布は、単フィラメント糸が複数本集束されてなるマルチフィラメント糸で構成されており、マルチフィラメント糸の引張強度は単フィラメント糸に比べて高いので、孔があっても開孔不織布の引張強度が低下しにくく、このため、取り扱い時に破断する恐れが少ないという効果を奏する。
【0029】
また、引張強度を向上させるために、太いマルチフィラメント糸を使用した場合であっても、単フィラメント糸として芯鞘型単フィラメント糸などの複合単フィラメントを使用し、感熱接着性樹脂の量を少なくすれば、接着成分が過剰となって、被着物の背面に接着成分が滲みだすのを防止しうるという効果も奏する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各特性値は、以下のようにして求めた。
【0031】
(1)ポリエステルの極限粘度[η];フェノールと四塩化エタンとの等質量比の混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解し、測定した。
【0032】
(2)融点(℃);パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
【0033】
(3)ポリエチレンのメルトフローレート(g/10分);JIS K 6922に記載の方法により測定した(温度190℃、荷重21.18N)。
【0034】
(4)不織布の引張強力(N/5cm幅);合繊長繊維不織布試験法(JIS L 1906)に準じて、東洋ボールドウイン社製テンシロンRTM−500型を用いて、幅50mm、長さ200mmの試験片を、把持間隔100mm、引張速度100mm/分の条件で測定し、試料10点の平均値を求め、引張強力とした。なお、引張強力については、不織布のMD方向(機械方向)、CD方向(MD方向に直交する方向)共に求めた。
【0035】
(5)不織布の引裂強力(N);JIS L 1906の引裂き強さペンジュラム法により不織布のMD方向の引裂き強力を測定した。
【0036】
(6)ヒートシール強力(N/3cm幅)及び通気度(cc/cm2/秒);
(a)試料の準備
被着不織布として、目付45g/m2で通気度が160cc/cm2/秒のポリエステルスパンボンド不織布(構成フィラメントの横断面形状は円形で、繊度は3.3デシテックスである。エンボス圧接面積率は16%である。これは、ユニチカ株式会社製の「70450WTO」である。)を準備した。この被着不織布から、30mm(CD)×150mm(MD)の試料片2枚を採取した。この試料片2枚を積層し、その間に同形状のシート状接着材を挟み、一対のカレンダーロールの間を通して移動させ、貼合物を得た。カレンダーロールの温度は145℃で、ロール間の線圧は290N/cm(ロール間クリアランス0.18mm)で、移動速度は3m/分とした。以上のようにして、試料を得た。
(b)ヒートシール強力の測定
この試料を長手方向(MD)に50mm剥離した後、剥離部分をチャックに把持し、JIS L 1089のT剥離測定法に準じて、東洋ボールドウイン社製テンシロンRTM−500型を用いて、ヒートシール強力を測定した。測定条件は、把持間隔50mm、引張速度100mm/分とし、この測定を5回行って、この平均値をヒートシール強力(N/3cm幅)とした。
【0037】
(c)通気度の測定:JIS L 1096に記載のフラジール法に準拠して測定した。すなわち、試料長15cm、試料幅15cmの試料を準備し、フラジール型試験機を用い、円筒の一端に試料を取り付けた後、可変抵抗器によって傾斜形気圧計が水柱12.7mmの圧力を示すように、吸い込みポンプを調節し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試料を通過する空気量(cc/cm2/秒)を求めた。これを3枚の試料について行い、その平均値を通気度(cc/cm2/秒)とした。
【0038】
実施例1
芯成分として融点が260℃で極限粘度[η]が0.70のポリエチレンテレフタレート、鞘成分としてメタロセン系重合触媒を用いて重合されたメルトフローレートが20g/10分で融点が102℃のポリエチレン(感熱接着性樹脂)を準備した。そして、芯成分:鞘成分=1:3の割合で、公知の複合溶融紡糸装置を用い、紡糸温度280℃で溶融紡糸して芯鞘型複合単フィラメント糸を得た。複合溶融紡糸装置は、紡糸孔を13孔備えたものであり、紡糸孔の形状は円形のものであって、断面円形の芯鞘型複合単フィラメント糸が13本得られた。
【0039】
紡糸孔から排出された単フィラメント糸を、エアーサッカーに導入した。紡糸孔とエアーサッカーの入口までの距離は140cmとした。エアーサッカーの入口の直径5mmとなっており、ここに13本の単フィラメント糸が導入された。そして、エアーサッカーにて、単フィラメント糸の繊度が11.0デシテックスとなるように、牽引速度2500mm/分で牽引した。エアーサッカーの入口が直径5mmと狭いため、13本の単フィラメント糸は自動的に集束された。また、紡糸孔とエアーサッカーの入口までの距離が140cmと短いため、鞘成分である感熱接着性樹脂は、エアーサッカーの入口において未だ溶融又は軟化状態を維持しており、集束されると同時に、各単フィラメント糸相互間は融着した。以上のようにして、繊度が143デシテックスのマルチフィラメント糸を得た。
【0040】
エアーサッカーから排出されたマルチフィラメント糸は、左右より空気を吹き付ける横振り装置によって、螺旋状に回転しながら落下し、移動するネット製コンベア上に捕集・集積され、粗目のウェッブが得られた。このウェッブを、エンボスロール(各エンボス凸部先端の面積は0.9mm2で、ロール全面積に対するエンボス凸部の占める面積率は21%である。)とフラットロールからなるエンボス装置に導入した。両ロールの表面温度は95℃で、両ロール間の線圧は294N/cmの条件とした。これによって、鞘成分である感熱接着性樹脂が再び溶融又は軟化して、ウェッブ中におけるマルチフィラメント糸相互間の交点が融着され、目付40g/m2の開孔不織布が得られた。この開孔不織布は、0.5〜25mm2の範囲内で種々の大きさの孔が、無作為に配置されてなるものであった。
【0041】
比較例1
芯成分及び鞘成分として、実施例1で使用したものを準備した。そして、芯成分と鞘成分との質量比を、芯成分:鞘成分=1:1の割合とする他は、実施例1と同様にして芯鞘型複合単フィラメント糸を得た。
【0042】
紡糸孔から排出された単フィラメント糸を、エアーサッカーに導入した。紡糸孔とエアーサッカーの入口までの距離は140cmとしたが、エアーサッカーの入口を狭くせず、13孔を備えた紡糸口金の直径よりも大きい直径を持つものを用いた。そして、単フィラメント糸の繊度が3.3デシテックスとなるように、牽引した。エアーサッカーの出口から排出される単フィラメント糸を更に開繊させながら、移動するネット製コンベア上に捕集・集積して、粗目の殆ど無いウェッブを得た。このウェッブを、実施例1と同様のエンボス装置に導入し、同様の条件で単フィラメント糸相互間の交点を融着した。そして、目付40g/m2のスパンボンド不織布が得られた。このスパンボンド不織布は、0.5mm2以上の孔を殆ど有しないものであった。
【0043】
実施例1に係る方法で得られた開孔不織布、及び比較例1に係る方法で得られたスパンボンド不織布の引張強力(N/5cm幅)、引裂強力(N)、ヒートシール強力(N/3cm幅)及び通気度(cc/cm2/秒)を、前記した方法で測定した。その結果は表1に示したとおりであった。
【0044】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 比較例1
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
引張強力(MD) 28.1 151.4
引張強力(CD) 12.8 91.4
引裂強力 8.2 3.0
ヒートシール強力 18.0 5.3
通気度 25 8
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0045】
表1の結果から明らかなように、比較例1に係るスパンボンド不織布は大きな開孔がないため、実施例1に係る開孔不織布に比べて、引張強力の点では優れている。しかしながら、開孔がないために、通気度の点では、実施例1に係る開孔不織布に比べて劣っている。また、比較例1に係るスパンボンド不織布は単フィラメント糸を構成フィラメントとしているため、マルチフィラメント糸を構成フィラメントとしている実施例1に係る開孔不織布に比べて、引裂強力の点で劣っている。さらに、比較例1に係るスパンボンド不織布は、全体に比較的均一に集積された単フィラメント糸中の鞘成分を接着成分としているため、接着部分での単位面積当たりの接着成分の量は、複数本の単フィラメント糸が集束されてなるマルチフィラメント糸中の鞘成分を接着成分としている実施例1に係るものに比べて、少なくなっている。したがって、比較例1に係るスパンボンド不織布は、実施例1に係る開孔不織布に比べて、ヒートシール強力が低くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメント糸が粗目に集積されてなり、無作為に配置された孔を持つ開孔不織布であって、該マルチフィラメント糸は複数本の単フィラメント糸が集束されて形成されており、該単フィラメント糸の表面の少なくとも一部は、感熱接着性樹脂で形成されていると共に、該マルチフィラメント糸中の各単フィラメント糸相互間は、該感熱接着性樹脂によって融着されており、さらに該マルチフィラメント糸相互間の交点は、該感熱接着性樹脂によって融着されている開孔不織布からなることを特徴とする、前記感熱接着性樹脂が被着物との接着成分として機能する通気性シート状接着材。
【請求項2】
マルチフィラメント糸が加撚されている請求項1記載の通気性シート状接着材。
【請求項3】
単フィラメントが芯鞘型複合フィラメントであって、鞘成分が感熱接着性樹脂で形成されている請求項1又は2記載の通気性シート状接着材。
【請求項4】
溶融している感熱接着性樹脂を用いて、表面の少なくとも一部が感熱接着性樹脂で形成されている単フィラメント糸を得る工程(A)と、
該感熱接着性樹脂が溶融又は軟化状態であるときに、複数本の該単フィラメントを集束することによって、該複数本の該単フィラメント糸相互間を融着させてマルチフィラメント糸を形成する工程(B)と、
該マルチフィラメント糸を捕集板上に粗目に集積して、無作為に配置された孔を持つ開孔不織布を得る工程(C)とを、
具備することを特徴とする通気性シート状接着材の製造方法。
【請求項5】
工程(A)として、溶融紡糸法を採用し、得られた単フィラメント糸の牽引及び延伸をエアーサッカーを用いて行う請求項4記載の通気性シート状接着材の製造方法。
【請求項6】
マルチフィラメント糸を形成する工程を、エアーサッカー内で行う請求項5記載の通気性シート状接着材の製造方法。
【請求項7】
エアーサッカー内で渦巻き流をマルチフィラメント糸に与えることにより、該マルチフィラメント糸を加撚する請求項5記載の通気性シート状接着材の製造方法。

【公開番号】特開2006−182838(P2006−182838A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375711(P2004−375711)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】