運動ニューロン疾患の調節物質を用いる治療方法および組成物
本明細書に開示する本発明は、運動ニューロン疾患の新規治療標的(ニューロンにおける微小管の動力学変化);確立、初期、または潜在的運動ニューロン疾患を有する対象における本治療標的の活性状態の測定方法;運動ニューロン疾患の生存対象におけるニューロンの微小管動力学を調節する薬剤の発見;そのような薬剤の単独または組み合わせ投与により運動ニューロン疾患を有する生存対象に症状の遅延と生存の延長を含む顕著な神経保護療法をもたらすことができることの発見;および運動ニューロン疾患を有する対象における治療的介入に対するニューロンの微小管動力学をモニターすることにより個々の対象または薬剤臨床試験の治療方法と戦略を最適化するための診断的モニターが可能であることの発見について説明する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対するクロスリファレンス)
本発明は、米国仮出願No. 60/756,836(2006年1月5日出願)および60/756,952(2006年1月5日)(これらの内容は本明細書の一部を構成する)に対する35 U.S.C. 第119条(e)の優先権の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、運動ニューロン活性およびダイナミシティ(dynamicity)に影響を与える新規医薬化合物に関する。本発明は、さらに運動ニューロン障害、例えば筋萎縮性側索硬化症の治療におけるそのような新規医薬化合物の使用に関する。本発明は、そのような運動ニューロン障害の存在について試験対象をスクリーニングおよびモニターすることに関する。
【背景技術】
【0003】
運動ニューロン疾患は、会話、歩行、呼吸、および嚥下のような随意筋活性を調節する細胞である運動ニューロンを損傷または破壊する一群の進行性神経学的障害である。運動ニューロン疾患の特徴的症状は、進行性衰弱、強さの損失および筋肉量の損失(萎縮)、筋肉の痙攣を含む不随意運動、腕および脚の痙縮または硬直、および腱反射亢進を含む。運動ニューロン疾患の他の症状は、随意運動の緩慢化(動作緩慢)、運動の欠如(運動機能低下、仮面顔)、型通りの反復的不随意運動(舞踏病アテトーゼ)、および冷淡な態度もしくは情動不安(静座不能)を含みうる。知覚、知性、記憶、および人格は純粋な運動ニューロン疾患に影響を及ぼさない。あるタイプの運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS、一般にルーゲリック病と呼ばれる)では、筋肉の衰弱は進行性であり、最終的に典型的には呼吸筋機能の損失に伴う死をもたらす。他のタイプの運動ニューロン疾患は多年にわたり徐々に進行する。
【0004】
運動ニューロン疾患は、成人と子供に生じ、女性より男性でより一般的である。成人では、症状は通常40歳を過ぎて現れ、非特異的で診断を困難にすることがある。子供では、特に遺伝性の該疾患の症状は出生時から存在することがある。遺伝性の運動ニューロン疾患は、運動ニューロンの変性を生じる遺伝子の突然変異や欠失により生じる。遺伝性運動ニューロン疾患は、脊髄性筋萎縮症として知られる一群の小児の障害を含む。非遺伝性(特発性とも言う)運動ニューロン疾患は未知因子により生じるが、環境有害毒素またはウイルスは疾患の引き金として作用することがある。非遺伝性運動ニューロン疾患は、ALS(いくつかの遺伝性形が存在するが)、進行性球麻痺、偽球麻痺、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、パーキンソン病、糖尿病性ニューロパシー、ポリオ後症候群、およびその他多くのものを含む。運動ニューロン疾患を診断するための特定の臨床検査はない。
【0005】
ALSは、容赦なく進行性で常に致死的な末梢神経系の疾患である。具体的には、ALSは、軸索の機能不全を特徴とする運動ニューロンの疾患である。現在有効な治療法はない。Riluzole(リルゾール)(Rilutek(登録商標))は、1995年にFDAにより承認されたが、疾患の進行をやや遅くするだけである。非遺伝性ALSに加え、遺伝形のALSが存在する。20%以下の家族性ALS患者がスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)遺伝子の突然変異を有する。この知見は、ALSの忠実なマウスモデルの開発を可能にした。このモデル、SOD1-G93Aトランスジェニックマウス(「SOD1-G93A TGNマウス」)は、ALSによく似た18〜19週齢までに死亡をもたらす神経学的障害を発現する。
【0006】
SOD1-G93A TGNマウスは、薬剤の前臨床的発見と試験に非常に有用になってきた。ALSのこの特定のトランスジェニックマウスモデルは、ヒトCu、Zn SOD突然変異体のより高度の発現と疾患のより短い経過(18〜19週間)を示す。それにより候補治療剤の評価はより速く、より効率的になる。また、このより積極的な(すなわち、高発現)マウスモデルの治療的利点の証明は、臨床における成功を予測するための最も厳しい基準を提供し得る。ヒトの臨床試験を行うのに必要な費用と時間を考慮すると、最も活性で有力な候補薬剤のみを患者を用いる評価へと進めるべきである。種々の候補治療剤をSOD1-G93A TGNマウスを用いて試験した。ヒト神経幹細胞の移植のような他の治療方法論もこのモデルで試験した。Riluzoleおよび神経幹細胞移植を含む今日までに試験したすべての治療方法は、このモデルで疾患の発症と死亡率を20〜30日間遅らせるだけである。
【0007】
SOD1-G93A TGNマウスにおいて候補薬剤が比較的成功しないことは、運動ニューロン疾患の基本メカニズムに対する根本的理解がないことを反映するかもしれない。疾患進行に関与する基礎分子標的および経路が解れば、より有効な運動ニューロン疾患の治療方法が発見され、開発されるかもしれない。
【0008】
米国仮出願No. 60/722,897、PCT/US2005/028069、および米国特許出願No.10/279,399は、本明細書の一部を構成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(発明の要約)
したがって、ある局面において、本発明は第一神経保護剤および第二神経保護を含む医薬組成物を提供する。通常、少なくとも1つの神経保護剤は微小管標的調節剤(MTMA)、例えばノスカピンである。時として該医薬組成物は、ただ1つの神経保護剤、特に微小管標的調節剤(MTMA)、例えばノスカピンを含む。時として該医薬組成物は、3つの神経保護剤(特に該神経保護剤の1または2つがMTMAである)を含む。神経保護剤は、MTMA;抗炎症剤(チアゾリジンジオンおよび非チアゾリジンジオンペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ)アゴニストを含む);イオンチャンネルモジュレーター(選択的および非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニスト、例えば電位依存性イオンチャンネル(電位依存性ナトリウムチャンネル(VGNH)および電位依存性カルシウムチャンネル(VGCH)を含む)のアンタゴニスト、例えばN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターを含む);α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニスト;グリア調節因子;低電位感受性チャンネル(L-VSCCS)遮断薬;N-型およびP/Q型電位依存性カルシウム電流阻害剤;CB1レセプターおよびCB2レセプターアゴニスト、例えばカンナビノイド(エンドカンナビノイドおよびカンナビノイドレセプターアゴニストを含む);AEA輸送、加水分解、および再吸収阻害剤(脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH) 阻害剤;抗酸化剤、例えば誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS) 阻害剤、フリーラジカルトラッパー/スカベンジャー、および金属イオンキレート剤(銅(II)および亜鉛(II)キレート剤を含む)を含む);神経栄養因子;ならびにアポトーシス阻害剤から選ばれる。組成物の各神経保護剤は他と分離したバイアル中にあってよい。
【0010】
さらなる局面において、本発明は1、2、3、またはそれ以上の神経保護剤を含む医薬組成物を投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法を提供する。該医薬組成物はさらに医薬担体を含んでよい。
【0011】
さらなる局面において、本発明は、1、2、3、またはそれ以上の神経保護剤を含む医薬組成物を投与することを含むALSの治療方法を提供する。該医薬組成物はさらに医薬担体を含んでよい。そのような治療はALS症状の発症を遅延またはALS症状の重症度の減少を生じうる。
【0012】
さらなる局面において、本発明は、MTMAおよび医薬担体を患者に投与することを含む患者のALS症状を軽減する方法を提供する。
【0013】
さらなる局面において、本発明は、治療的有効量のMTMAおよび医薬担体をそれを必要とする患者に投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法を提供する。
【0014】
さらなる局面において、本発明は運動ニューロン疾患の対象における薬剤の効果をモニターする方法を提供する。該方法は、試験生物系を1またはそれ以上の薬剤に曝露し、アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニットに入ることにより、1またはそれ以上の微小管分子中に入り、標識するのに十分な時間該生物系にアイソトープ標識基質を投与することを含む。次に、運動ニューロンを含む第一試料を該生物系から得、第一試料から得た微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量する。コントロール系から得た微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を得るかまたは定量し、該生物系中の微小管における豊富化の比をコントロール生物系における比と比較して運動ニューロンにおける微小管標識に対する該薬剤の効果を検討する。
【0015】
さらなる局面において、該方法は、さらに該標識微小管のダイナミシティを計算し、該比較工程が該微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティの遊離チューブリンのアイソトープの豊富化に対する比を計算し、該比を該コントロール生物系における該比と比較することを含む。
【0016】
さらなる局面において、該方法は、さらに該試験生物系から得た成長円錐微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た成長円錐微小管由来の標識微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティと比較することを含む。
【0017】
さらなる局面において、該方法は、さらに該試験生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化と比較することを利用する。
【0018】
さらなる局面において、試験生物系を曝露する薬剤は神経保護剤である。該薬剤は単独でまたは他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
【0019】
さらなる局面において、本発明は、ニューロン微小管のダイナミシティを変化させる薬剤を投与することによる運動ニューロン疾患の治療方法を提供する。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、ニューロンを微小管ダイナミシティを変化させる薬剤と接触させることを含む運動ニューロン疾患に有効な薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【0021】
さらなる局面において、本発明は、該アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニット中に入ることにより1またはそれ以上の微小管分子中に入り、標識するのに十分な時間、アイソトープ標識基質を該生物系に投与し、該生物系から運動ニューロンを含む第一試料を得ることを含む運動ニューロン疾患を有する対象における薬剤の効果を診断またはモニターする方法を提供する。第一試料から得た軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化、および該軸索コンパートメントから得た非取り込み標識チューブリンのサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量する。該軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションの豊富化の比を軸索コンパートメントから得た非取り込み標識チューブリンの該サブポピュレーションの比と比較して運動ニューロン疾患の存在を検討する。
【0022】
さらなる局面において、該発明は、アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニット内に入ることにより、1またはそれ以上の微小管ポリマー分子内に入り、標識するのに十分な時間、生物系にアイソトープ標識基質を投与し、該生物系から運動ニューロンを含む第一試料を得ることを含む運動ニューロン疾患を有する対象において臨床試験で試験している候補薬剤の治療効果を評価およびモニターする方法を提供する。第一試料から得た軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化および該軸索コンパートメントから得た非組み込み標識チューブリンのサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量する。該軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションの豊富化の比を該軸索コンパートメントから得た非組み込み標識チューブリンの該サブポピュレーションの比と比較し、微小管運動ニューロン疾患の存在を検討する。異なる処置(治療)群を統計的に比較し、該候補薬剤の治療効果を評価し、反復測定および分析を行って治療期間にわたる該候補薬剤の治療活性または効果の変化をモニターすることができる。
(図面の簡単な説明)
【0023】
図1Aおよび1Bは、アイソトープ標識水からの選択した遊離アミノ酸内への標識水素(2Hまたは3H)の交換経路を示す。2つのNEAA(アラニン、グリシン)およびEAA(ロイシン)を例として示す。アラニンとグリシンを図1Aに示す。ロイシンを図1Bに示す。略号:TA、トランスアミナーゼ;PEP-CK、ホスホエノールピルベートカルボキシキナーゼ;TCAC、トリカルボン酸回路;STHM、セリンテトラヒドロ葉酸メチルトランスフェラーゼ。図1Cはタンパク質合成のためのH218Oによる遊離アミノ酸の18O標識を示す。
【0024】
図2は、微小管ポリマーへの2H標識チューブリンダイマーの取り込みを示す。
【0025】
図3。マウス脳におけるチューブリンダイマーおよび微小管のin vivo交換。(A)ニューロン微小管(MT) ポピュレーションを単離するための戦略の模式的説明。(B) 抗tauカラムで分離したインプット(レーン1)、tau非結合(レーン2)、およびtau結合(レーン3)分画の抗tauおよび抗MAP2 Western(ウエスタン)ブロットは、tau結合MTの定量的捕捉を示す;MAP2結合MTは非結合分画にある。(C) 重水(2H2O)からのチューブリンダイマーおよび異なるMT分画への2Hの取り込みの反応速度論。マウスを種々の時間、体内の水分の約5%2H2Oで標識し、脳を解剖し、(A)のごとく単離したMTポピュレーションを加水分解した。アラニンのC-H結合への2Hの取り込みをNCI-GC/MS(平均±S.D.;n=3)により測定し、分画のターンオーバー(標識時間中に新たに合成されたアラニンの%)として表現した。単指数曲線適合を、皮質でt1/2約5-6時間、海馬でt1/2約3時間で示し、チューブリンについて約20%新アラニン、またはそれぞれtauおよびMAP2/STOP-MTについてこの値の1/2または1/3で横ばい状態になる。
【0026】
図4。SOD-G93ATGNマウスの進行性軸索機能不全の経過中の微小管動力学の測定。野生型およびSOD1-G93A TGNマウス(n=3/群)をそれぞれ2H2Oで7週齢(A)、8.5週齢(B)、および12.5週齢(C)で標識した。坐骨神経を解剖し、精製した異なる微小管ポピュレーション(成長円錐および軸索シャフト(shaft))を加水分解した。アラニンのC-H結合への2Hの取り込みをNCI-GC/MSで測定し、機能的合成(標識時間中に新たに合成された%;平均±SD)として表現した。動物を2H2Oで48時間標識した(約5%体水を豊富化)。
【0027】
図5。歩幅の測定値に基づく野生型およびSOD1-G93A TGNマウスにより生じた歩行足跡パターンの定量分析。7週齢で、SOD1-G93A TGNマウスの歩幅測定値は野生型マウスにより生じたものと区別不能であったが、8.0週齢までにSOD1-G93A TGNマウスは、野生型コントロールマウスに比べて歩幅の減少を示し始める。グラフは、各年齢および各測定値につき各群マウスn=3の平均±SDを示す。
【0028】
図6。ノスカピン-MK801の組み合わせはSOD1-G93A TGNマウスの疾患の発症および死亡を遅らせる。1および2薬剤処置を疾患の初期(すなわち症状発現前の段階)(7週齢)に開始した。SOD1-G93A TGNマウスを、ノスカピン(0.2mg/kg体重)および/またはMK-801(12mg/kg体重/日)で1週間に3回処置した。マウスは、ノスカピンを腹腔内に、MK-801を飲水で投与された。歩幅測定中にノスカピン-MK801の組み合わせで処置されたマウスは、各化合物単独で処置されたマウスより有意によい成績であった。ノスカピンとMK-801との組み合わせは、無処置SOD1-G93A TGNマウスに比べて症状発症を有意に遅らせ(32日間)、死の発生を遅らせた(21日間まで)。グラフは、各年齢および各測定値につき各群マウスn=3の平均±SDを示す。
【0029】
図7。12.5週齢SOD1-G93A TGNマウスの坐骨神経の微小管サブポピュレーションの相対動力学(2H標識の取り込み)に対するノスカピン-MK801の組み合わせの効果。SOD1-G93A TGNマウスにおけるノスカピン-MK801の組み合わせは、無処置マウスに比べて、微小管動力学を成長円錐で〜35%、軸索シャフトで50%減少させた。動物を2H2Oで48時間標識した。グラフは各測定につきマウスn=3あたりの平均±SDを示す。
【0030】
図8は、ニューロン内の微小管ポピュレーションの特異的分布を示す。
【0031】
図9は、多くの種々のNMDAレセプターアンタゴニストを示す。
【0032】
図10は、ノスカピン-MK8O1をALSのSOD1マウスモデルに投与した18週の結果を示す。
【0033】
図11A、11B、および11Cは、本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【0034】
図12は、種々の処置の生存率の全体の統計を示す。
【0035】
図13は、努力の継続または中断を決定する手段としての、ニューロン微小管動力学に対する効果(すなわち、本発明の方法により回収したデータ)を用いる薬剤発見、開発、および承認(DDDA)プロセスを示す模式図である。
【0036】
図14は、薬剤発見プロセスにおける本発明の使用を例示する。
【0037】
図15は、ノスカピン単独およびMK801単独投与の結果を示す。
【0038】
図16。MTMA/KM-ID05は、13週齢SOD1G93Aマウス(n=3;平均±SD)の中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)における亢進した(hyperdynamic)微小管を強く減少させる。
【0039】
図17。MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの自発運動を改善し、疾患の発症を遅らせた。処置は有症状期(10週齢)に開始した。歩幅の測定を用いてマウスの自発運動の異常をスコア付けした(n=20;平均±SD)。
【0040】
図18。15週齢のSOD1G93AマウスにおけるMTMA/KM-ID05による処置の神経保護効果。(A)野生型(WT)無処置および処置SOD1G93Aマウスの坐骨(神経)運動プール(矢頭)における運動ニューロンを示すNisslについて染色した脊髄切片。(B)各実験群における運動ニューロンの生存(平均±SD)。
【0041】
図19。微小管動力学アッセイを有症状SOD1G93Aマウスにおける新規治療剤の前臨床的薬剤発見のための踏み台として用いる。神経保護活性は、微小管動力学を回復させる種々の薬剤の能力をWT同腹仔で観察されたレベルと比較することにより測定した。神経保護パーセントは、無処置SOD1G93AのWT同腹子に対して亢進した(hyperdynamic)微小管を安定化させる薬剤の能力として定義した。すなわち、より高い値(100%以下)はより高い神経保護活性を示す。処置はすべて10週齢(n=3マウス/群)で有症状期に開始した。処置3週間後(13週齢)にマウスを屠殺し、脊髄運動ニューロンのニューロンコンパートメントにおける微小管動力学を測定した(全てのコンパートメントの平均を平均±SDでここで示す)。
【0042】
図20。(A)5つの神経保護候補剤についての生存プロットおよび生存の統計分析。(B)種々の薬剤に関するSOD1G93Aマウスの生存結果対微小管動力学としてグラフに示したバイオマーカー予測性(平均±SD)。
【0043】
図21。FDA承認薬剤Rilutek(登録商標)と比較したALS-SOD1動物試験から選択した潜在的臨床薬。
【0044】
図22はノスカピンの構造を示す。
(発明の詳細な説明)
運動ニューロンおよび運動ニューロン疾患の生化学および細胞生物学
【0045】
細胞体の直径の数桁の長さに達しうる軸索樹状突起間突起(axodendritic processes)の存在を特徴とするニューロンの高度に非対称の形態は、そのような突起を維持し、非常に長い距離にわたり細胞小器官、小胞、またはタンパク質サブユニットおよび複合体の輸送を支持する細胞骨格の能力により決定される。主要な細胞骨格系の1つは、キネシンおよびダイネインモータータンパク質が力を生じ、多くの細胞成分の輸送を促す微小管に基づく輸送系である。神経伝達物質ペプチドのような物質は細胞体で合成され、ゴルジで小胞内に取り込まれる。次に、この小胞は、キネシンモータータンパク質により軸索からシナプスに輸送される。他の物質はダイネインモーターによりシナプスから細胞体に輸送される。ALS、種々のニューロパシー(糖尿病性ニューロパシーを含む)、およびパーキンソン病のような運動ニューロン疾患は、主要な病態生理学的細胞変化、例えば軸索輸送障害、次いで軸索損失、次いでニューロンのアトロフィを共有する。
【0046】
微小管(「MT」)はニューロンに非常に豊富にあり、神経突起(軸索および樹状突起)の形成を促し、それに安定性をもたらす。軸索微小管の会合および脱会合のプロセス(「微小管動力学」として知られる)は、ニューロンの形態を決定し、維持する微小管の能力に基づく。ニューロンの構造的安定性に必須のこのプロセスは、ニューロン内の情報伝達経路も示す。微小管動力学は、大部分微小管結合タンパク質(MAP)により制御される。ニューロンMAPは、特異的極性分布を有し、微小管の安定化に顕著な役割を果たす。
【0047】
ニューロン、例えば運動ニューロンは、一般的にそれらが結合するMAPにより分類されるニューロン微小管の種々の異なるポピュレーションを有する。「ニューロン微小管」は、生細胞中で一本、対(in pairs)、トリプレット、または束で生じるチューブリンのポリマーからなるタンパク質構造を意味する。「チューブリン」は、微小管の主なタンパク質成分を意味する。チューブリンは、2個の球状ポリペプチド、アルファ-チューブリンおよびベータ-チューブリン(α-およびβ-チューブリン)からなるダイマーである。微小管は、ダイマーα-およびβ-チューブリンから組み立てられる。
【0048】
ニューロン微小管は、種々のニューロンコンパートメント(例えば、体細胞、樹状突起、および軸索)に、種々のMAP(例えばtau、MAP2、およびSTOP)と関連して存在する。微小管は、ニューロンの分化の確立と維持、ならびに神経伝達物質の軸索に沿った遠いシナプスへの長距離輸送に必要である。
【0049】
一般に、ニューロン微小管には3つの主なクラスがある:成長円錐(「軸索末端」または「軸索先端」としても知られる) 微小管(本明細書および図面中では「tau-MT」ともいう);樹状突起微小管(本明細書では「MAP-2MT」ともいう)、および小丘および軸索シャフト微小管(本明細書および図面中では「STOP-MT」ともいう)。一般的には、専門用語は、各カテゴリーを結びつける微小管結合タンパク質から生じる。「MAP」または「微小管結合タンパク質」は、微小管と結合するとその機能および/または挙動を変化させるタンパク質である。すなわち、例えば、成長円錐および軸索末端微小管の捕捉は、tau抗体に対する結合親和性を用いて行う。次に、tau非結合物質(樹状突起微小管)は、MAP2抗体とのアフィニティ結合により捕捉され、MAP2-非結合分画中に小丘および軸索シャフト微小管(STOP-MT)のみを残す。あるいはまた、STOP-MTは、他のMTサブポピュレーションと比較して低温およびミリモル濃度のCaCl2中の脱重合に抵抗するそのユニークな能力を利用して直接単離することができる。
【0050】
本明細書で用いている「tau(タウ)」または「tauタンパク質」または「tau MAP」は、脳から単離された、主なクラスの微小管結合タンパク質(MAP)である。神経細胞において、tauは、軸索成長円錐中に高度に豊富化される。Tauタンパク質は、in vitroにおけるチューブリン重合の核生成(開始)プロセスを促進する。tauは、脳の活動的軸索成長円錐微小管の代謝回転/会合の調節物質であることが知られている。化学修飾されたtauタンパク質もアルツハイマー病にみられる神経原線維変化および神経網スレッドの形成および/または組成に関与するようである。
【0051】
本明細書で用いている「MAP2」または「微小管結合タンパク質-2」は、ニューロン樹状突起微小管中に高度に豊富化されている高分子量微小管結合タンパク質である。ある条件下でMAP2は、チューブリンの微小管への会合(重合)に必要であり、会合した微小管を安定化し、その動力学を調節する。
【0052】
本明細書で用いている「STOP」または「安定な細管のみのポリペプチド(Stable Tubule Only Polypeptide)」は、ニューロンCa2+-カルモジュリン調節微小管結合タンパク質である。STOPは、低温、ミリモルのカルシウムまたは薬剤により誘導されるin vitro脱会合に対して無期限に微小管を安定化する。
【0053】
「ニューロン低温(cold)安定微小管」は、薬剤および低温の両方により誘導される脱会合に安定な豊富な軸索微小管サブポピュレーションを意味する。薬剤および低温による微小管脱会合に対する抵抗性は主としてSTOPとのポリマー結合による。
(発明の概説)
【0054】
本明細書に開示する発明は、(1)微小管動力学を直接測定するための新規アイソトープ標識技術の使用による、運動ニューロン疾患に対する新規治療標的、すなわち、ニューロン微小管のダイナミシティ(すなわち、チューブリンからの微小管の特定のサブポピュレーションの会合および脱会合率)の発見;(2)ニューロン微小管のダイナミシティが、アイソトープ標識技術により生存動物またはヒト対象で測定することができ、該動物またはヒト対象における身体症状または神経学的損失の発現前でもALSのような運動ニューロン疾患で顕著に変化するという発見;(3)ALSのような運動ニューロン疾患におけるニューロン微小管のダイナミシティ変化を、限定されるものではないがノスカピン、ノコダゾール、タキサン、および他の薬剤を含むある種の薬剤を単独で、または他のニューロン系、レセプター、または経路を標的とする薬剤と組み合わせて投与することにより調節することができるという知見;(4)ALSのような確立されるかまたは初期の運動ニューロン疾患を有する動物またはヒト対象に対して、ニューロンの微小管の動力学を調節する薬剤の単独または薬剤の組み合わせ投与が、運動ニューロン疾患の神経学的機能の損失を著しく遅らせまたは抑制する(運動ニューロン疾患の徴候および症状の発現を遅延させ、徴候および症状の進行を遅くし、死亡までの時間を延ばし(すなわち、生存の延長)、神経保護療法の成功を示すことを含む)ことができることの発見;(5)神経保護療法をもたらすことを意図した薬剤の投与に応じたALSのような確立されるかまたは初期の運動ニューロン疾患を有する動物またはヒト対象におけるニューロン微小管動力学のモニタリングが、運動ニューロン疾患を有する対象の薬物臨床試験または個々の対象における最適用量、薬剤、薬剤の組み合わせ、投薬計画、治療期間、または最適な治療戦略の他の局面の同定を可能にすること(すなわち、診断的モニタリング)の発見に関する。
【0055】
簡単には、本明細書に記載の発明は、運動ニューロン疾患に対する新規治療標的(ニューロンにおける微小管の動力学の変化);確立された、初期、または潜在的運動ニューロン疾患を有する対象におけるこの治療標的の活性状態の測定方法;運動ニューロン疾患を有する生存対象におけるニューロン微小管動力学を調節する薬剤の発見;そのような薬剤の単独または組み合わせ投与が運動ニューロン疾患を有する生存対象に顕著な神経保護療法(症状の遅延および生存の延長を含む)をもたらし得ることの発見;および治療的介入に応じた運動ニューロン疾患を有する対象におけるニューロン微小管動力学のモニタリングが個々の対象または薬剤の臨床試験の治療計画および戦略の最適化のための診断的モニタリングを可能にすることの発見について説明する。
【0056】
ALSにおける神経保護戦略の使用はかなり魅力がある。しかしながら、今まで、ALSのリスクがある患者を同定する方法がないこと;臨床症状発現前の(preclinical)疾患活性を反映する臨床検査マーカーが無いこと;および治療の最適タイミング、用量または投薬計画を知ることができないことを含む、このアプローチに特有の問題があった。家族性ALSの散発性およびほとんどのタイプについて特異的生化学的マーカーがないこともリスクのある個体を臨床症状発現前に同定することを不可能にしてきた。本発明は、該疾患の真の生化学的発現が臨床的欠陥の発現に先立つことを最初に証明した、ALSの十分確立された動物モデル(SOD1-G93A TGNマウス)における異常な微小管動力学の生化学的測定方法を開示する。したがって、ニューロン微小管動力学の測定は、ニューロンの死をもたらす事象の最終カスケードを抑制する神経保護化合物を使用するための「治療濃度域(therapeutic window)」をもたらし得る。多因子下流病因経路がALSのような運動ニューロン疾患を活性化するので、疾患の進行速度を遅くし、生存を延長するには組み合わせアプローチが必要かもしれない。
【0057】
本発明は、ニューロン微小管動力学はALSのような運動ニューロン疾患では顕著に変化し、また、小丘および軸索シャフト(構造的)微小管の微小管動力学を調節することにより、初期、確立した、または潜在的運動ニューロン疾患を有する対象において運動ニューロン機能の損失を最小化しうるという発見を指向する。これは、運動ニューロン疾患を治療するのに用いる組成物を含む種々の適用、および微小管、運動ニューロン、および運動ニューロン疾患を調節する能力に対して治療方法を最適化し(例えば診断的モニタリングを通して)、候補薬剤をスクリーニングする方法をもたらす。さらに、本発明は、運動ニューロン生理学における異なる時点で作用し、運動ニューロン機能を保つように相乗的に作用する多数の組成物を用いる運動ニューロン機能および疾患の調節を指向する。
【0058】
したがって、本発明は、運動ニューロンにおける微小管動力学を調節する組成物およびその能力について候補薬剤をスクリーニングする方法も指向する。さらに、本発明は運動ニューロン疾患を治療、軽減、または予防するための組成物(単一化合物および化合物の組み合わせ)を提供する。
【0059】
本発明は、運動ニューロン疾患を有する生存動物またはヒト対象の末梢神経に存在する大きく伸長した安定な微小管ポリマーの会合および分解の速度を最初に測定したことに基づく。理論に縛られることなく、ある運動ニューロン疾患は、軸索突起に沿った栄養および他の重要な要素の輸送を担う不可欠な細胞内細胞骨格成分の機能不全から生じるようである。運動ニューロン疾患を有する動物の末梢神経におけるニューロン微小管動力学を直接測定する新規アイソトープ/質量分析技術を用いることによる、軸索突起の微小管ポリマーの著しく増加した代謝回転(すなわち、定常状態の分解および再構築)の本明細書に開示した発見は、分子(軸索突起それ自身の安定性を維持するのに必要な栄養および他の成分を含む)の流れに障害を与えるようである。したがって、本出願人は、本明細書において、新規および基本的メカニズム、すなわち、運動ニューロン疾患を有する生対象において最初に示された軸索突起(または「軸索突起(projection)」)の安定性に関与する微小管の代謝回転の増大(軸索の不安定性および運動ニューロン疾患と関連した生じた症状)を開示する。
【0060】
正常マウスにおいて、坐骨神経の構造的微小管は、チューブリンダイマーからの会合および脱会合、または代謝回転の速度が著しく低い(図1および3参照)。反対に、SODマウスは、坐骨神経の同じ構造的微小管の著しい不安定性またはダイナミシティを示す(図4参照)。重要なことは、坐骨神経の構造的微小管のこの安定性の損失は、挙動的徴候または症状がこれらの動物に観察できる前にみられ、疾患の病因において二次的ではなく一次的役割であることが確認される。したがって、SODマウスの運動ニューロンの軸索輸送の後の損失に先立ち、次いでそれを生じるALSの軸索機能不全は、これらニューロンにおいて軸索微小管ポリマーを安定に保つ制御プロセスの不全によるようである。
【0061】
すなわち、会合および脱会合速度(すなわち、その「ダイナミシティ」)を調節することにより微小管を調節する薬剤は、ALSおよび他の運動ニューロン疾患の核となる病因を治療するかもしれない。微小管調節剤は知られているが、それらがALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーのような運動ニューロン疾患において治療的使用の可能性があるとは認識されていなかった。ALSのSODトランスジェニックマウスモデルにおける軸索機能不全の動態的原理の出願人による同定は、潜在的に新たな治療的役割を有する微小管ダイナミシティの潜在的モジュレーターをもたらした。
【0062】
他のニューロンレセプター、経路、または系に作用する薬剤と組み合わせるかまたは単独で微小管系と相互作用することが知られている薬剤の生存動物への続く投与の結果、微小管ダイナミシティは運動ニューロン疾患における新規および基本的治療標的を示すという発見を確認した。特に、SOD1G93A TGNマウスに対するノスカピン-MK801合剤の投与は、疾患症状の発現を遅らせ、生存時間を延長させる(図6参照)だけでなく、ニューロン微小管ダイナミシティを正常に向かって減少させた(図7参照)。異常な微小管ダイナミシティの部分的正常化(生化学的計量)と臨床疾患の部分的軽減(機能的神経学的結果)の相関は、微小管動力学と運動ニューロン疾患との間の病因学的関連を裏付け、さらなる治療的改善の余地を示唆する(すなわち、変化した微小管動力学を完全に正常化する薬剤を同定することができれば)。
【0063】
薬剤活性の生物マーカーとしての本明細書に記載のSODトランスジェニックマウスの坐骨神経における微小管動力学のアッセイの使用は、ALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーを含む運動ニューロン疾患の新しいクラスの療法の速やかな最適化も可能にする。一般的スクリーニングまたは特定クラスの薬剤のスクリーニングを用いて、最適用量、化合物、投薬計画などを、症状スコアや死亡を待たねばならないのではなく、症状発現前のSODトランスジェニックマウスを用いて速やかに(例えば数日または数週間以内に)試験することができる。
【0064】
本発明は、さらにALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーのような運動ニューロン疾患やニューロパシーを有する患者における微小管動力学のアッセイ方法を提供する。第I/II相臨床試験は、原則として微小管動力学の定量のための坐骨神経の生検を含みうる。すなわち、ALSのような運動ニューロン疾患の真の生物マーカー(すなわち、ALSを有する患者が共有する、該疾患における病因論的役割を果たし、薬剤介入の標的および薬剤効果の計量を示す、測定可能な生化学的異常)のアベイラビリティは、ALS(および他の運動ニューロン疾患)薬剤のクラスを試験するための種々の独特な利点をもたらす。無効な薬剤を速やかに同定し、貴重な臨床試験時間、費用、および患者資源の浪費を避ける。運動ニューロン疾患臨床試験において動態生物マーカーが提供する他の有用性には、用量の最適化、患者の層別化、およびサブグループ分析がある。
アイソトープ標識前駆体の投与
【0065】
本発明方法の第一段階として、アイソトープ標識前駆体を生物系に投与する。「生物系」は、限定されるものではないが細胞、細胞株、疾患の動物モデル、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、他のペット動物、マウス、ラット、非ヒト霊長類、およびヒトが含まれる。「個体」は、脊椎動物、通常哺乳動物、特にヒトであり、「哺乳動物」は、限定されるものではないがヒトおよび非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿およびサル種;家畜、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマ;家畜哺乳類、例えばイヌおよびネコ;齧歯類を含む実験動物、例えばマウス、ラット、およびモルモットなどを含む哺乳類のあらゆるメンバーを意味する。該用語は特定の年齢または性を意味しない。すなわち、成体および新生対象および胎児(雄または雌)に及ぶことを意図する。一般に、本明細書で用いている「被検対象」は、脊髄運動ニューロン微小管動力学の変化、および/または運動ニューロン疾患症状の変化を評価する個体である。
【0066】
試験生物系には種々の生物学的試料が含まれ得るが、一般的に本明細書では運動ニューロン試料を用いる。運動ニューロン試料の例には、限定されるものではないが坐骨神経または末梢神経組織、および脳の運動皮質から得た試料が含まれる。
【0067】
分子流動速度の測定における第一段階は、生物系にアイソトープ標識前駆体分子を投与することを含む。アイソトープ標識前駆体分子の投与方法は、アイソトープ標識前駆体分子の吸収特性および各化合物が標的化される特定の生合成プールに応じて異なり得る。前駆体をin vivo分析のために実験動物およびヒトを含む生物に直接投与することができる。
【0068】
一般的に、適切な投与方法は、少なくとも一時的に生合成プール内のおよび/またはそのようなプールを供給するリザーバー中の前駆体の定常レベルをもたらすものである。静脈内または経口投与経路は、ヒトを含む生物に該前駆体を投与するのに通常使用される。所望により徐放前駆体組成物を組み合わせて用いる時は他の投与経路、例えば皮下投与または筋肉内投与も適している。注射用組成物は、一般的に無菌の医薬的賦形剤を用いて製造される。アイソトープ標識前駆体分子の投与経路の選択は当業者の技術内である。
【0069】
アイソトープ標識前駆体分子は安定なアイソトープまたは放射性同位体であってよい。使用できるアイソトープ標識には、限定されるものではないが2H、13C、15N、18O、3H、14C、35S、32P、125I、131I、または有機系に存在する元素の他のアイソトープが含まれる。
【0070】
ある態様において、アイソトープ標識は2Hである。
【0071】
前駆体分子は、目的とする「モノマー」または「サブユニット」に組み込まれるアイソトープ標識を有するあらゆる分子であってよいか、または該モノマーそれ自身でありうる。アイソトープ標識を用いて本明細書に記載のすべての前駆体分子を修飾しアイソトープ標識前駆体分子を形成することができる。「アイソトープ標識物質」には生物系の目的分子内に組み込むことができるあらゆるアイソトープ標識前駆体分子を含む。アイソトープ標識物質の例には、限定されるものではないが、2H2O、3H2O、2H-グルコース、2H標識アミノ酸、2H標識有機分子、13C標識有機分子、14C標識有機分子、13CO2、14CO2、15N標識有機分子、および15NH3が含まれる。
【0072】
完全前駆体分子は、1またはそれ以上のチューブリンダイマーサブユニット内に組み込むことができる。あるいはまた、該前駆体分子の部分をチューブリンダイマーサブユニットに組み込むことができる。
【0073】
タンパク質前駆体分子は、当該分野で知られたあらゆるタンパク質前駆体分子であってよい。この前駆体分子には、限定されるものではないがCO2、NH3、グルコース、ラクテート、H2O、アセテート、および脂肪酸が含まれる。
【0074】
タンパク質の前駆体分子は1またはそれ以上のアミノ酸を含んでいてもよい。該前駆体はあらゆるアミノ酸であってよい。該前駆体分子は単または多重水素化アミノ酸であってよい。例えば、該前駆体分子は1またはそれ以上の13C-リジン、15N-ヒスチジン、13C-セリン、13C-グリシン、2H-ロイシン、15N-グリシン、13C-ロイシン、2H5-ヒスチジン、およびあらゆる重水素化アミノ酸であってよい。標識アミノ酸は、例えば非標識アミノ酸で希釈するかまたは希釈しないで投与することができる。全てのアイソトープ標識前駆体、市販品を例えばCambridge Isotope Labs(Andover、MA)から購入することができる。
【0075】
タンパク質前駆体分子は、翻訳後または翻訳前修飾アミノ酸のあらゆる前駆体も含みうる。これら前駆体には、限定されるものではないが、メチル化の前駆体(例えばグリシン、セリン、またはH2O);水酸化の前駆体(例えばH2OまたはO2);リン酸化前駆体(例えばホスフェート、H2O、またはO2);プレニル化の前駆体(例えば脂肪酸、アセテート、H2O、エタノール、ケトン体、グルコース、またはフルクトース);カルボキシル化の前駆体(例えばCO2、O2、H2O、またはグルコース);アセチル化の前駆体(例えばアセテート、エタノール、グルコース、フルクトース、ラクトース、アラニン、H2O、CO2、またはO2);グリコシル化の前駆体、および当該分野で知られた他の翻訳後修飾が含まれる。
【0076】
遊離アミノ酸中に存在する標識の程度は、実験的に決定するか、アミノ酸中の標識部位数に基づいて推測することができる。例えば、水素同位体を標識に用いる場合は、体水中の2H2Oに曝露中に遊離アミノ酸のC-H結合、またはより具体的にはtRNA-アミノ酸中に存在する標識を同定することができる。各非必須アミノ酸中のC-H結合の総数は例えばアラニン中に4、グリシン中に2などが知られている。
【0077】
タンパク質の前駆体分子は水(例えば重水)であってよい。タンパク質のO-HおよびN-H結合は水溶液中で不安定なため、C-H結合の水素原子は、2H2Oからのタンパク質合成を測定するのに有用なアミノ酸の水素原子である。2H2OからのO-HまたはN-H結合への2H標識の交換それ自体は、遊離アミノ酸からのタンパク質の合成なしに起きる。C-H結合は、特異的酵素触媒中間代謝反応中にH2Oから遊離アミノ酸への組み込みを受ける。したがって、2H2O投与後のタンパク質結合アミノ酸のC-H結合中の2H標識の存在は、該タンパク質が2H2O曝露期間中に遊離形であったアミノ酸から組み立てられた(例えば該タンパク質が新たに合成される)ことを意味する。分析的には、用いたアミノ酸誘導体は、すべてのC-H結合を含まなくてはならないが、すべての潜在的夾雑N-HおよびO-H結合を除去しなくてはならない。
【0078】
体水からの水素原子(例えば重水素またはトリチウム)が遊離アミノ酸に組み込まれ得る。標識水からの2Hまたは3Hは、中間代謝反応を通して細胞中の遊離アミノ酸中に入ることができるが、2Hまたは3Hは、ペプチド結合に存在するかまたは転移RNAと結合するアミノ酸中に入ることはできない。遊離必須アミノ酸は、急速可逆性アミノ基転移反応を介して体水からの1個の水素原子をα-炭素C-H結合中に組み込むことができる。遊離非必須アミノ酸は、もちろん多数の代謝的に交換可能なC-H結合を含み、新たに合成されたタンパク質中の2H2Oからの1分子あたり高いアイソトープ豊富化値を示すと予期される。
【0079】
当業者は、体水からの標識水素原子は他の生化学的経路を介して他のアミノ酸内に組み込まれ得ると認識するであろう。例えば、水からの水素原子は、クエン酸回路中の前駆体α-ケトグルタレートの合成を介してグルタメートに組み込むことができることが当該分野で知られている。同様にグルタメートはグルタミン、プロリン、およびアルギニンの生化学的前駆体であることが知られている。他の例として体水からの水素原子は、翻訳後修飾アミノ酸(例えば、3-メチル-ヒスチジン中のメチル基、ヒドロキシプロリンまたはヒドロキシリジン中のヒドロキシル基、およびその他)に組み込まれうる。他のアミノ酸合成経路は当業者に知られている。
【0080】
酸素原子(H218O)は、酵素触媒反応を介して18O2からアミノ酸に組み込むこともできる(ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、または他の翻訳後修飾アミノ酸を含む)。例えば、アミノ酸のカルボン酸部分への酸素交換は酵素触媒反応中に生じうる。標識酸素のアミノ酸への組み込みは当業者に知られている。
【0081】
標識水からの水素および酸素標識を、翻訳後修飾を介してアミノ酸に組み込むこともできる。ある態様において、翻訳後修飾はすでに翻訳後修飾前に生合成経路を介して標識水素または酸素を含み得る。別の態様において、翻訳後修飾は、翻訳後修飾(例えば、メチル化、ヒドロキシル化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、カルボキシル化、アセチル化、グリコシル化、または他の知られた翻訳後修飾)工程の前または後に、体水からの遊離交換標識水素に関与する代謝誘導体からの標識水素、酸素、炭素、または窒素を組み込むことができる。
【0082】
対象に投与するのに適したタンパク質前駆体には、限定されるものではないが、上記タンパク質中の標準的アミノ酸に加えて、H2O、CO2、NH3、およびHCO3が含まれる。
【0083】
水はタンパク質および他の生物学的分子の前駆体である(米国特許出願No. 10/279,399(この内容は本明細書の一部を構成する)参照)。標識水自体は、本明細書に記載の方法において前駆体として働きうる。「アイソトープ標識水」は、水素または酸素の1またはそれ以上の特定の重アイソトープで標識された水を含む。アイソトープ標識水の具体例には、2H20、3H2O、およびH218Oが含まれる。
【0084】
H2Oの利用可能性は、おそらく細胞の生合成反応を決して制限しない(H2Oは細胞の内容のほぼ70%または35モル濃度に相当するので)が、H2Oからの水素および酸素原子は、生合成経路に関与する多くの反応(例えば、R-CO-CH2-COOH + NADPH + H2O → R-CH2CH2COOH(脂肪酸合成))に化学量論的に寄与する。
【0085】
結果として、H-またはO-アイソトープ標識水の形で提供されるアイソトープ標識は、合成経路の部分として生物分子中に組み込まれる。水素の組み込みは二通り:分子の不安定な位置(すなわち、酵素触媒反応を必要とせず、急速に交換可能)または安定な位置(すなわち、酵素触媒反応を必要とし、急速に交換可能ではない)に生じうる。酸素の取り込みは安定な位置に生じる。
【0086】
生物分子のC-H結合への細胞水からの水素の組み込み工程のいくつかは、生合成反応シーケンス中の明確な酵素触媒工程中のみに生じ、成熟末端生成物分子中に存在すると不安定(組織中の溶媒水で交換可能である)ではない。例えば、グルコース上のC-H結合は溶液中で交換可能ではない。反対に、以下のC-H位のそれぞれは特異的酵素反応の逆転中に体水で交換される:クレブス回路のオキザロアセテート/スクシネートシーケンスおよびラクテート/ピルベート反応ではC-1およびC-6;グルコース-6-ホスフェート/フルクトース-6-ホスフェート反応ではC-2;グリセルアルデヒド-3-ホスフェート/ジヒドロキシアセトン-ホスフェート反応ではC-3およびC-4;3-ホスホグリセラート/グリセルアルデヒド-3-ホスフェート、およびグルコース-6-ホスフェート/フルクトース-6-ホスフェート反応ではC-5。
【0087】
分子の特定の非不安定位に共有結合的に組み込まれる水からの標識水または酸素原子は、該分子の「生合成歴」を証明する。すなわち、標識の組み込みは、該分子がアイソトープ標識水が細胞水中に存在する期間中に合成されたことを示す。
【0088】
これら生物分子中の不安定な水素(非共有結合するかまたは交換可能な共有結合中に存在する)は、分子の生合成歴を証明しない。しかし、不安定水素原子は、非標識水(H2O)とインキュベーションすることにより(すなわち、2Hまたは3Hが第一位に組み込まれる同じ非酵素交換反応の逆転により)容易に除去することができる:
【化1】
【0089】
結果として、生合成歴を反映しないが非合成交換反応を介して組み込まれる潜在的夾雑水素標識は、実際には天然の豊富なH2Oとインキュベーションすることにより容易に除去することができる。
【0090】
図1は、選択した遊離アミノ酸へのアイソトープ標識水からの標識水素(2Hまたは3H)の交換、次いで、微小管のサブユニットであるチューブリンに組み込まれる経路を示す。図2は、チューブリンダイマーの微小管への組み込みを示す。図3は、ニューロン微小管ポピュレーションを単離および測定する実験戦略を示す。
【0091】
分析方法は、生物分子への標識水素原子の組み込みを定量的に測定するのに利用可能である(例えば、3Hはシンチレーションカウンティング;2Hおよび18Oは質量分析、レーザー分光学、NMR分光学、または当該分野で知られた他の方法)。アイソトープ標識水の組み込み理論に関するさらなる考察は、例えばJungas RL. Biochemistry. 1968 7:3708-17(この内容は本明細書の一部を構成する)参照。
【0092】
標識水は市販品を容易に入手できる。例えば、2H2OはCambridge Isotope Labs(Andover、MA)から購入することができ、3H2OはNew England Nuclear、Inc.から購入することができる。「重水」は、1またはそれ以上の2Hアイソトープを組み込んだ水をいう。一般に、2H2Oは非放射性であり、放射性3H2Oより毒性の心配が少ない。2H2Oは、例えば総体水のパーセントとして例えば消費される総体水の1%を投与することができる(例えば、1日に消費される3リットルの水につき30マイクロリットルの2H2Oが消費される)。3H2Oを利用する場合は、当業者により容易に測定される非毒性量を投与する。
【0093】
2H2Oの比較的高い体水豊富化(例えば、総体水の1〜10%が標識される)は、本発明技術を用いて比較的安価に達成することができる。このレベルはいかなる毒性の徴候もなしにヒトおよび実験動物で数週間または数カ月維持されるので、この水の豊富化は、比較的一定で、安定している。多数のヒト対象(100人)におけるこの知見は、高用量の2H2Oの前庭に対する毒性に関する以前の心配と反対である。出願人の一人は体水豊富化の急速な変化が妨げられる(例えば小量の分割用量の初期投与により)かぎり、2H2Oの高体水豊富化は毒性なしに維持することができることを見出した。例えば、低価格の市販されている2H2Oは、比較的低価格で1〜5%の範囲に豊富化を長期間維持することができる(例えば、計算では、2%2H2O豊富化、すなわちアラニン前駆体プールで7〜8%豊富化で2カ月間の標識は、その期間10%遊離ロイシン豊富化、すなわちロイシン前駆体プールで7〜8%豊富化で12時間の標識より低価格であることが証明される)。
【0094】
18Oアイソトープは毒性がなく、結果として重大な健康的リスクを示さないのでH218Oを投与するための比較的高く、比較的一定の体水豊富化を達成することもできる。
【0095】
アイソトープ標識水は、連続アイソトープ標識水投与、不連続アイソトープ標識水投与を介して、またはアイソトープ標識水投与の単回または多回投与後に投与してよい。連続アイソトープ標識水投与において、アイソトープ標識水は個体に時間とともに比較的一定の水豊富化を維持するのに十分な時間個体に投与される。連続方法では、標識水を定常状態の濃度を達成するのに十分な時間(例えばヒトでは3〜8週間、齧歯類で1〜2週間)最適に投与される。
【0096】
不連続アイソトープ標識水投与において、アイソトープ標識水の量を測定し、次いで1回またはそれ以上投与し、次いでアイソトープ標識水に対する曝露を中止し、体水プールからアイソトープ標識をウオッシュアウトさせる。次に、脱標識の時間経過をモニターすることができる。生物分子中検出可能なレベルに達するまで十分な期間水を最適に投与する。
【0097】
アイソトープ標識水は、当該分野で知られた種々の方法で個体または組織に投与することができる。例えば、アイソトープ標識水は、経口的、非経口的、皮下、血管内(例えば、静脈内、動脈内)、または腹腔内に投与することができる。Isotec、Inc.(Miamisburg OH、and Cambridge Isotopes、Inc.(Andover、MA))を含む2H2OおよびH218Oの種々の商業的供給源が利用可能である。投与するアイソトープ標識水のアイソトープ含有量は、約0.001%〜約20%の範囲であり得、生物分子のアイソトープ含有量を測定するのに用いる装置の分析感度に依存する。ある態様において、飲用水中4%2H2Oが経口投与される。別の態様において、ヒトは50mLの2H2Oを経口投与される。
【0098】
標識水を投与される個体は哺乳動物であり得る。ある変化において、個体は実験動物であってよい(限定されるものではないが、齧歯類、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタを含む)。薬剤、薬剤候補、薬剤リード、またはその組み合わせの投与を含む変化において、個体は、哺乳動物、例えば、許容される動物疾患モデルを含む実験動物またはヒトでありうる。食品添加物、工業用または職業用化学薬品、環境汚染物質、または化粧品の投与を含む変化において、個体はあらゆる実験動物、例えば限定されるものではないが齧歯類、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタであってよい。
目的とする1またはそれ以上の標的化チューブリンまたは微小管ポリマー分子の取得
【0099】
本発明方法の実施において、ある局面ではタンパク質は当該分野で知られた方法に従って生物系から得られる。一般的には、試料は、被検対象の種々の部位から得ることができる運動ニューロン(例えば、脳の運動皮質、坐骨神経、末梢神経)を含み、坐骨神経が特に有用である。
【0100】
複数の微小管ポリマーおよび/または遊離チューブリンダイマーサブユニットが、神経生物学の分野でよく知られる技術を用いて生物系から得られる。1またはそれ以上の生物試料は、1またはそれ以上の体液または組織、例えば神経組織であってよい。タンパク質は、特定グループの細胞(例えばニューロン)または他の成長もしくは非成長細胞から得ることができる。タンパク質は、当該分野で知られた標準的な生化学的方法を用いて生物試料から得、所望により部分生成または単離することができる。特に、種々の微小管分画(tau-MT、STOP-MTなど)はPCT/US2005/028069に記載のごとく単離される。
【0101】
生物学的サンプリングの頻度は種々の因子に応じて変化しうる。そのような因子には、限定されるものではないが、サンプリングのし易さと安全性、タンパク質の合成および分解/除去速度、細胞、動物、またはヒトに投与する治療候補薬剤の半減期が含まれる。
【0102】
タンパク質は、アッセイの要求に応じて、1またはそれ以上の生物試料から部分精製および/または単離することができる。一般に、微小管ポリマーおよび/またはチューブリンダイマーサブユニットは、試料中にどのような他の成分が存在するかに応じて当業者に知られた種々の方法で単離または精製することができる。標準的精製法には、電気泳動、分子的、免疫学的、およびクロマトグラフィ技術(イオン交換、疎水性、アフィニティ、および逆相HPLCクロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ(FPLC)、化学抽出、薄相クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、およびクロマトフォーカシングを含む)が含まれる。例えば、あるタンパク質は、標準的抗体カラムを用いて精製することができる。タンパク質濃縮とともに限外ろ過および膜分離技術も有用である。適切な精製技術の一般的指針についてはScopes、R.、Protein Purification、Springer-Verlag、NY(1982)参照。必要な精製度はアッセイおよび該系の成分に応じて変化するであろう。ある場合は精製は必要ない。
【0103】
別の態様において、タンパク質を加水分解または分解し、より小さな分子を形成してよい。加水分解法には、限定されるものではないが、化学的加水分解(例えば酸加水分解)および生化学的加水分解(例えばペプチダーゼ分解)を含む当該分野で知られたあらゆる方法が含まれる。加水分解または分解は、タンパク質の精製および/または単離の前または後に行ってよい。タンパク質は、HPLC、FPLC、ガスクロマトグラフィ、ゲル電気泳動、および/または当業者に知られたあらゆる他の化学的および/または生化学的化合物分離法を含む常套的精製法により部分精製、または所望により単離することもできる。
分 析
【0104】
タンパク質中のアイソトープの豊富化は、当該分野で知られた種々の方法、例えば、NMR、レーザー分光法、液体シンチレーション計測、ガイガーカウンター、および質量分析法により測定することができる。質量分析法を用いる方法では、限定されるものではないが、ガスクロマトグラフィ-質量分析法(GC-MS)、アイソトープ-比質量分析法、GC-アイソトープ比-燃焼-MS、GC-アイソトープ比-熱分解-MS、液体クロマトグラフィ-MS、電気スプレーイオン化-MS、マトリックス支援レーザー脱離-飛行時間-MS、フーリエ変換-イオン-サイクロトロン-共鳴-MS、およびサイクロイダル-MSを含む本発明で使用される種々のタイプの質量分析器がある。
【0105】
質量分析計は、タンパク質のような分子を急速に動くガス状イオンに変換し、それをその質量/荷電比に基づいて分離する。すなわち、イオンまたはイオン断片のアイソトープまたはアイソトポローグ(isotopologue)の分布を用いて、複数のタンパク質のアイソトープ豊富化を測定することができる。
【0106】
一般的には、質量分析計は、イオン化手段と質量分析器を含む。多くの種々のタイプの質量分析器が当該分野で知られている。これらには、限定されるものではないが、磁場分析器、電気スプレーイオン化、四重極、イオントラップ、飛行時間質量分析器、およびフーリエ変換分析器が含まれる。
【0107】
質量分析計は、多くの種々のイオン化法も含みうる。これらには、限定されるものではないが、ガス相イオン化供給源、例えば電子衝撃、化学イオン化、および電場(フィールド)イオン化、および脱離供給源、例えば電場脱離、高速原子衝撃、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、および表面増強レーザー脱離/イオン化が含まれる。
【0108】
さらに、2またはそれ以上の分析器を組み合わせて(MS/MS)最初に前駆体イオンを分離し、次いでガス相断片イオンを分離し測定することができる。これら装置は、タンパク質の最初のイオン化断片を生じ、次いで最初のイオンの第二断片を生じる。
【0109】
異なるイオン化法も当該分野で知られている。ある重要な進歩は、タンパク質を含む大きな非揮発性高分子のイオン化技術の開発であった。この種の技術は、電気スプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離を含んでいる。これらは、MSに強力な試料分離導入技術、例えば液体クロマトグラフィおよびキャピラリーゾーン電気泳動と組み合わせて適用することを可能にした。
【0110】
さらに、質量分析計を、分離手段、例えばガスクロマトグラフィ(GC)および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)と連結してよい。ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)において、ガスクロマトグラフィからのキャピラリーカラムを、所望によりジェット分離器を用いて質量分析計と直接連結する。そのような適用において、ガスクロマトグラフィ(GC)カラムは試料ガス混合物から試料成分を分離し、分離した成分をイオン化し、次いで質量分析計で化学的に分析する。
【0111】
一般的には、タンパク質のベースラインマスアイソトポマー頻度分布を測定するため、そのような試料をとり、次いでアイソトープ標識前駆体を注入する。そのような測定は、細胞、組織、または器官中のタンパク質の天然のマスアイソトポマー頻度を確立する一手段である。細胞、組織、または器官が同様な環境歴を有する対象のポピュレーションの部分である場合は、ポピュレーションアイソトポマー頻度分布をそのようなバックグラウンド測定に用いることができる。さらに、そのようなベースラインアイソトポマー頻度分布は、アイソトープの既知の平均天然存在度を用いて推定することができる。例えば、天然では有機炭素中に存在する13Cの天然存在度は1.11%である。そのようなアイソトポマー頻度分布の測定方法について以下に考察する。典型的には、タンパク質試料をアイソトープ標識前駆体分子の投与前および投与後に得る。
【0112】
ある態様において、相対および絶対マスアイソトポマー存在度を測定する。測定したマススペクトルのピークの高さまたはピーク下面積を親(ゼロマスアイソトープ)アイソトポマーに対する比として表現することができる。試料中のアイソトポマーの存在度の相対値および絶対値をもたらすあらゆる計算手段を本発明の目的でそのようなデータを説明するのに用いることができる。
【0113】
ある態様において、微小管ポリマーのようなタンパク質の標識:非標識比を計算する。次に、目的分子(例えばチューブリンダイマー、微小管ポリマー)の標識および非標識比を計算する。実施者は最初に分子の単離アイソトポマー種の測定される過剰モル比を決定する。次に、実施者は理論的パターンと過剰比の測定される内在パターンを比較する。そのような理論的パターンは、米国特許No.5,338,686、5,910,403、および6,010,846(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載の二項式または多項式分布関係を用いて計算することができる。計算法は、マスアイソトポマー分布分析(MIDA)を含みうる。マスアイソトポマー分布分析(MIDA)コンビナトリアルアルゴリズムの変動は当業者に知られた多くの種々の情報源に記載されている。該方法は、Hellerstein and Neese(1999)、ならびにChinkes、et al.(1996);Kelleher and Masterson(1992)、および米国特許出願No.10/279,399(これらの内容は本明細書の一部を構成する)にさらに記載されている。
【0114】
上記参考文献に加え、該方法を実行する計算ソフトウエアは、Professor Marc Hellerstein、University of California、Berkeleyから公的に利用可能である。
【0115】
理論的パターンに対する過剰モル比の比較は、目的分子について作製した表を用いるか、測定した関係を用いてグラフ的に行うことができる。これらの比較からp値のような値を決定し、前駆体サブユニットプール中のサブユニットのマスアイソトープ豊富化の確率(probability)を説明する。次に、この豊富化を用いて各マスアイソトポマーについて新たに合成されたタンパク質の豊富化を説明するAx*値のような値を決定し、すべてのアイソトポマーが新たに合成されたら存在すると予期されるアイソトポマー過剰比を明らかにする。
【0116】
次に、分画存在度を計算する。個々のアイソトープ(元素について)またはマスアイソトポマー(分子について)の分画存在度はその特定のアイソトープまたはマスアイソトポマーにより示される総存在度の分画である。これは相対存在度と区別され、最も豊富な種が値100を与えられ、すべての他の種が100に対して正規化され、相対存在度パーセントとして表される。マスアイソトポマーMχについて、
【0117】
Mχの分画存在度 =
【化2】
(ここで、0〜nは存在度が生じる最低質量(MO)マスアイソトポマーに対する名目質量の範囲である。)。
【0118】
Δ分画存在度(豊富化または枯渇) =
【化3】
(ここで、下付き文字eは豊富化を表し、bはベースラインまたは天然存在度を表す。)。
【0119】
前駆体投与の期間中に実際に新たに合成されたポリマー分画を決定するため、測定した過剰のモル比(EMx)を計算した豊富化値Ax*と比較して、各マスアイソトポマーについて新たに合成された生体ポリマー(例えば微小管)の豊富化を説明し、すべてのアイソトポマーが新たに合成されていた場合に存在すると予期されるアイソトポマー過剰比を明らかにする。
【0120】
ある態様において、分子流量比を計算する。微小管の重合および/または脱重合比の測定方法には、前駆体プール中の微小管のマスアイソトープ標識サブユニットの割会を計算し、この割合を用いて微小管の少なくとも1のマスアイソトープ標識サブユニットを含む微小管の期待度数(expected frequency)を計算することを含む。次にこの期待度数を実際の実験的に決定したアイソトポマー度数と比較する。これらの値から、選択した組み込み器官中に加えたアイソトープ標識前駆体から形成される微小管の割合を決定することができる。すなわち、そのような期間中の合成速度も決定する。定常期濃度の系において、または該系中の濃度のあらゆる変化が測定可能であるかまたは該期間中に知られている時に、それにより脱会合速度も当該分野で知られた計算法を用いて分かる。次に、前駆体-生成物関係を適用する。連続標識法に関して、アイソトープの豊富化を漸近(例えば最大可能な)豊富化および速度論的パラメータ(例えば合成速度)を前駆体-生成物方程式から計算する。分画合成速度(ks)は、連続標識前駆体-生成物式:
ks = [-In(1-f)]/t
(ここで、f = 分画合成 = 生成物の豊富化/漸近前駆体/豊富化、およびt = 試験した系において接触する標識投与時間。)
を適用することにより決定することができる。
【0121】
不連続標識法では、アイソトープの豊富化の減少速度を計算し、サブユニットの速度論的パラメータを指数関数減衰方程式から計算する。該方法の実施において、微小管は、通常微小管の複数のマスアイソトープ標識サブユニットを含むマスアイソトポマーに豊富化される。微小管のこれら高マスアイソトポマー(例えば、3または4個のマスアイソトープ標識チューブリンを含むタンパク質)は外因性前駆体(例えば、2H2O)の非存在下では天然マスアイソトープ標識前駆体(例えば、2H2O)の比較的低存在度により極小量形成されるが、前駆体の取り込み期間中(例えば、細胞、組織、器官、または生物への2H2Oの投与中)に多量に形成される。微小管を、連続時点で細胞、組織、臓器、または生物から得、質量分析法により分析して高マスアイソトポマーの相対度数を決定するか、微小管由来のサブユニットの高マスアイソトポマーの相対度数を決定する。高マスアイソトポマーは第一時点の前にほぼ排他的に合成されるので、2時点間のその減衰は該サブユニットの減衰速度の直接測定値をもたらす。複数マスアイソトープ標識サブユニットを含まないマスアイソトポマーの減衰速度は本明細書に記載の方法により使用および計算することもできる。
【0122】
通常、第一時点は、投与方法に応じて前駆体(例えば、2H2O)の投与中止後少なくとも2〜3時間であり、マスアイソトープ標識サブユニット(例えば、微小管ポリマーでは標識チューブリンダイマー)の割合が前駆体投与後のその最高レベルから実質的に減衰していることを保証する。ある態様において、次の時点は典型的には第一時点後1〜4時間であるが、このタイミングは該バイオポリマープールの交換速度に依存する。
【0123】
微小管の減衰速度は、アイソトープ標識サブユニットの減衰曲線から決定する。減衰曲線が種々の時点で定義されるこの例において、減衰速度論は該曲線を指数減衰曲線に適合させ、これから減衰定数を決定することにより決定することができる。
【0124】
分解速度定数(kd)は、指数または他の速度論的減衰曲線:
kd = [-In f]/t
に基づいて計算することができる。
運動ニューロン疾患のモジュレーターのスクリーニング法
【0125】
本発明は、運動ニューロン疾患のモジュレーターのスクリーニング法を提供する(図4〜7、10参照)。この文脈において「モジュレーター(調節物質)」は、活性のアゴニストおよびアンタゴニストを意味し、アンタゴニストが特に有用である。モジュレーターは、機能異常の活性を抑制し、あらゆる関連担体の副作用を最小限にするように選択する。
【0126】
本発明は、部分的には、運動ニューロンの微小管動力学をもたらす生化学的経路が運動ニューロン疾患の治療をもたらすという発見を指向する。したがって、ある態様において、本発明は、軸索微小管ダイナミシティを変化させ、運動ニューロン疾患の症状を治療、予防、または軽減することができる薬剤を同定するための候補薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【0127】
一般的には、本発明で使用する3クラスの候補薬剤がある。第一クラスは、微小管動力学を調節する能力、および特に、軸索シャフト微小管および成長円錐および/またはMAP2微小管を区別する能力を評価する一般候補薬剤からなる。すなわち、本発明が概説するように、微小管のこれら2つのプールは非常に異なるチューブリン交換動力学を示し、軸索微小管を選択的に安定化する薬剤を特に使用する。すなわち、候補薬剤ライブラリーのスクリーニングは、微小管動力学および運動ニューロン機能障害を変化させる(例えば修飾する)薬剤について行う。
【0128】
第二に、経路特異的候補薬剤を試験することができる。この態様において、微小管交換動力学に影響することが疑われるか知られている薬剤を本明細書に概説した運動ニューロン系で試験する。
【0129】
さらに、運動ニューロン疾患に関連することが知られているが、微小管以外のニューロン系に作用すると一般に考えられている多くの生化学的事象がある。ある場合には、これら生化学的事象は運動ニューロンのレベルで作用しており、他の場合にはこれら事象は、CNSおよび末梢神経系(PNS)疾患の両方の進行に影響しうる後期の事象と関連する。例えば、後期パーキンソン病において、運動ニューロン活性は崩壊しうる。同様に、後期ALSにおいて、小グリア活性化が生じる。したがって、本明細書に記載のものを含む組み合わせ療法アプローチは非常に有用でありうる。すなわち、本発明は、神経保護活性のリードアウトとして微小管動力学を用い、これら疾患状態に関与することが知られている薬剤および薬剤の組み合わせを評価するために提供される。これらさらなる経路には、小グリア活性化と関連する炎症および酸化ストレスと関連する経路、および当該分野で知られた他のものが含まれる。
一般候補薬剤
【0130】
ある態様において、候補薬剤の運動ニューロンの微小管活性を調節する能力についてスクリーニングする。本明細書で用いる「候補薬剤」または「候補薬」は、本明細書に記載の活性についてスクリーニングすることができる、あらゆる分子、例えば、抗体および酵素を含む生物学的治療法剤を含むタンパク質、既知の薬剤および薬剤候補を含む小有機分子、多糖類、脂肪酸、ワクチン、核酸などを説明する。この文脈において、「一般的」候補薬剤は、微小管、運動ニューロン、および/または運動ニューロン疾患の調節との関連が知られていない。
【0131】
候補薬剤は、多くの化学物質を含む。ある態様において、候補薬剤は、有機分子、通常分子量100以上約2,500ダルトン以下の小有機化合物である。分子量100以上約2,000ダルトン以下の小有機化合物が特に有用であり、約1500ダルトン以下がより有用であり、約1000ダルトン以下がより有用であり、500ダルトン以下がより有用である。候補薬剤はタンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、典型的にはアミン、カルボニル、ヒドロキシル、およびカルボキシル基の少なくとも1つ、通常、官能的化学基の少なくとも2つを含む。候補薬剤は、しばしば、環状炭素またはヘテロ環状構造、および/または上記官能基の1またはそれ以上で置換された芳香族または多芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的アナログ、またはその組み合わせを含む生物分子にも見出される。
【0132】
候補薬剤は、合成または天然化合物のライブラリーを含む種々の供給源から得られる。例えば、無作為化オリゴヌクレオチドおよびペプチドの発現および/または合成を含む種々の有機化合物および生物分子の無作為および方向性のある合成に多くの手段が利用可能である。あるいはまた、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーを利用できるか、または容易に製造される。さらに、天然または合成的に生成したライブラリーおよび化合物は常套的化学的、物理的、および生化学的手段を通して容易に修飾される。既知の薬剤を、指向性または無作為化学修飾、例えばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化し、構造的アナログを製造することができる。
【0133】
候補生物活性薬剤はタンパク質でありうる。本明細書において「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドを含む少なくとも2の共有結合アミノ酸を意味する。タンパク質は、天然アミノ酸、およびペプチド結合、または合成ペプチド模倣構造でできていてよい。したがって、本明細書で用いている「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリン、およびノルロイシンは、本発明のためのアミノ酸と考えられる。「アミノ酸」は、イミノ酸残基、例えばプロリンおよびヒドロキシプロリンも含む。該側鎖は、(R)または(S)配置のいずれでもよい。特定の有用な態様において、該アミノ酸は(S)または(L)配置である。非天然側鎖を用いる場合は、非アミノ酸置換基を用い、例えばin vivo分解を防ぐか遅らせることができる。
【0134】
候補生物活性薬剤は、天然タンパク質または天然タンパク質の断片であってもよい。すなわち、例えばタンパク質を含む細胞抽出物、またはタンパク質様細胞抽出物の無作為または指向性消化物を用いることができる。このように、原核性および真核性タンパク質のライブラリーを、本明細書に記載の系を用いてスクリーニングするために作製してよい。この態様において、細菌、真菌、ウイルス、および哺乳動物タンパク質が有用であり、後者が特に有用であり、ヒトタンパク質が特に有用である。
【0135】
候補薬剤は、タンパク質の1つの群である抗体であってよい。用語「抗体」は、完全長および当該分野で知られた抗体断片(Fab、Fab2、一本鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体、ヒト化およびヒト抗体など(全抗体の修飾により製造されるかまたは組換えDNA技術を用いてde novoで合成されるもの)およびその誘導体を含む)を含む。
【0136】
候補生物活性薬剤は核酸でありうる。「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または本明細書中の文法的等価物は一緒に共有結合した少なくとも2のヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は、一般的にリン酸ジエステル結合を含むであろうが、ある場合には下記のごとく、例えばホスホラミド(Beaucage、et al.、Tetrahedron、49(10):1925(1993)およびその中の参考文献;Letsinger、J. Org. Chem.、35:3800(1970);Sprinzl、et al.、Eur. J. Biochem.、81:579(1977);Letsinger、et al.、Nucl. Acids Res.、14:3487(1986);Sawai、et al.、Chem. Lett.、805(1984)、Letsinger、et al.、J. Am. Chem. Soc、110:4470(1988);およびPauwels、et al.、Chemica Scripta、26:141(1986))、ホスホロチオエート(Mag、et al.、Nucleic Acids Res.、19:1437(1991);および米国特許No. 5,644,048)、ホスホロジチオエート(Briu、et al.、J. Am. Chem. Soc、111:2321(1989))、O-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein、Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach、Oxford University Press参照)、およびペプチド核酸バックボーンおよび結合(Egholm、J. Am. Chem. Soc、114:1895(1992);Meier、et al.、Chem. Int. Ed. Engl.、31:1008(1992);Nielsen、Nature、365:566(1993);Carlsson、et al.、Nature、380:207(1996)参照(これらの内容は本明細書の一部を構成する))を含む代替バックボーンを有し得る核酸アナログを含む。他のアナログ核酸には、正(positive)バックボーン(Denpcy、et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、92:6097(1995));非イオン性バックボーン(米国特許No. 5,386,023;5,637,684;5,602,240;5,216,141;および4,469,863;Kiedrowshi、et al.、Angew. Chem. Intl. Ed. English、30:423(1991);Letsinger、et al.、J. Am. Chem. Soc、110:4470(1988);Letsinger、et al.、Nucleoside & Nucleotide、13:1597(1994);Chapters 2 and 3、ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cook;Mesmaeker、et al.、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett.、4:395(1994);Jeffs、et al.、J. Biomolecular NMR、34:17(1994);Tetrahedron Lett.、37:743(1996))、および非リボースバックボーン(米国特許No. 5,235,033および5,034,506、およびChapters 6 and 7、ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cookに記載のものを含む)を有するもの、およびペプチド核酸が含まれる。1またはそれ以上の炭素環式糖を含む核酸も核酸の定義内に含まれる(Jenkins、et al.、Chem. Soc. Rev.、(1995) pp. 169-176参照)。種々の核酸アナログがRawls、C & E News、June 2、1997、p.35に記載されている。これらの内容は本明細書の一部を構成する。リボース-ホスフェートバックボーンのこれらの修飾は、標識のようなさらなる成分の付加を促進するか、または生理学的環境におけるそのような分子の安定性および半減期を増加するために行うことができる。さらに、天然核酸およびアナログの混合物を作製することができる。あるいはまた、異なる核酸アナログの混合物および天然核酸およびアナログの混合物を作製することができる。核酸は、規定したように一本鎖または二本鎖であるか、または二本鎖および一本鎖配列(制限断片、ウイルス、プラスミド、クロモソームなどを含む)の部分を含んでよい。核酸は、DNA(ゲノムDNAおよびcDNAの両方)、RNA、またはハイブリッドであってよく、ここで、該核酸は、デオキシリボ-およびリボヌクレオチドのあらゆる組み合わせおよび塩基のあらゆる組み合わせ(ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサタニン(xathanine)、ヒポキサタニン(hypoxathanine)、イソシトシン、イソグアニン、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルクエオシン、5-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、シュードウラシル、クエノシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、クエノシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンなどを含む)を含む。本発明の文脈において、特記しない限り、ヌクレオシド(リボース+塩基)およびヌクレオチド(リボース、塩基、および少なくとも1のホスフェート)は本明細書において互換性に用いることに留意すべきである。
【0137】
タンパク質について一般的に上記したように、核酸候補生物活性薬剤は、天然核酸、任意および/または合成核酸であり得る。例えば、原核性または真核性ゲノムの消化物をタンパク質について上記したように用いることができる。さらに、RNAはこの中に含まれる。
経路に基づく(パスウェイベースの)候補薬剤のスクリーニング
【0138】
上記のように、一般的候補薬剤に加え、本発明は、微小管活性、運動ニューロン機能障害、および/または運動ニューロン疾患のモジュレーターのスクリーニングに用途がある。本明細書において「微小管活性」は、種々の微小管生物活性の1つを意味し、これには限定されるものではないが、微小管重合および/または脱重合の速度、ある細胞位置から別の位置に細胞成分の輸送を持続させる能力、微小管の細胞骨格機能などが含まれる。
【0139】
一般に、スクリーニングされる2タイプの経路に基づく候補薬剤:微小管活性に関与することが知られているかまたは推測されるもの、および運動ニューロン疾患と関連する他の生化学事象に関与するもの、がある。
【0140】
したがって、本発明のある態様において、経路に基づく候補薬剤のスクリーニングを利用する。
微小管標的調節剤(MTMA)
【0141】
ある態様において、微小管標的調節剤を試験する。本明細書において「微小管標的調節剤」または「MTMA」は、微小管重合および/または脱重合の速度に影響し、特に微小管の不安定性(すなわち、ダイナミシティ)を減少させるか遅くすることが以前に認識されているか提唱されている薬剤を意味する。
【0142】
ある態様において、MTMAは、オピオイドおよびオピオイド誘導体である。オピオイドには以下の4つの一般的なクラスがある:体内で生成される内因性オピオイドペプチド;オピウムアルカロイド、例えばモルフィン(原型的オピオイド)およびコデイン;半合成オピオイド、例えばヘロインおよびオキシコドン;および完全合成オピオイド、例えば、ペチジンおよびメタドン(オピウムアルカロイドと無関係な構造を有する)。
【0143】
ある態様において、MTMAはオピウムアルカロイドである。ある態様において、オピウムアルカロイドは、米国特許No. 6,376,516(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載のようなノスカピンまたはノスカピン誘導体である。ノスカピンは、鎮痛または抗痙攣活性を欠くオピウムアルカロイドであり、他のオピオイド(例えばモルフィン)と異なり、麻薬性または中毒性化合物ではない。さらに、他の微小管相互作用薬剤、例えばパクリタキセル、ノコダゾール、ビンブラスチン、およびコルヒチンと異なり、ノスカピンは、総チューブリンポリマー質量に影響を与えず、in vitroおよび生細胞の両方で微小管会合の定常期ダイマー/ポリマー平衡を変化させずに微小管動力学を修飾する。ノスカピンは、血液脳関門を通過し、CNS組織(脳および脊髄)およびPNSにも長い半減期を有する。したがって、本発明者らはノスカピンが、本発明者らが発見した微小管動力学の変化のような細胞骨格の異常に関連したCNSおよびPNS障害の潜在的微小管相互作用化学療法剤であることを確認した(図4〜7参照)。ノスカピンは、現在、ヒトで鎮咳剤として使用可能である。MTMAとして有用な他のオピウムアルカロイドは、フェナントレン、イソキノリン、およびパパベリンがある。
【0144】
さらに、カンナビノイドは、単独または他の薬剤と組み合わせたスクリーニングへの用途が見出される。カンナビノイドは、CB1およびCB2レセプターを含む体内の内在性カンナビノイドレセプターを活性化する1群の化学物質である。現在、カンナビノイドには以下の3つの一般的タイプがある:薬用カンナビノイドは大麻植物に独自に生じ;内因性カンナビノイドはヒトおよび他の動物体内で産生され;合成カンナビノイドは実験室で製造される同様の化合物である。適切な薬剤には、限定されるものではないが、アナンダミドおよびアナンダミドアナログ、ドコサテトラエニルエタノールアミド、およびホモ-γ-リノエニルエタノールアミド;エンドカンナビノイド、例えば2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、パルミトイルエタノールアミド、およびオレアミド;テトラヒドロカンナビノール(THC)、特にマリノール(Δ9-THC)、カンナビジオール(CDB);カンナビノール(CBN);カンナビゲロール;カンナビクロメン;カンナビシクロール;カンナビバロール;テトラヒドロカンナビバリン;カンナビジバリン;カンナビクロメバリン;カンナビゲロバリン;カンナビゲロールモノエチルエーテル、CP-55940;HU-210 100;SR-144526;およびナビロンが含まれる。
【0145】
他の経路に基づく候補薬剤は、イオン、特にカルシウムおよびナトリウムの細胞内濃度を標的とするものである。カルシウムの細胞内濃度は、微小管形成および安定性に関与することが知られており、(特に細胞内カルシウム濃度を減少させることにより)細胞内カルシウムを調節する薬剤は、特にスクリーニングする興味がもたれる。
イオンチャンネルアンタゴニスト
【0146】
主な興奮性神経伝達物質であるL-グルタメート経路に関与するリガンド依存性イオンチャンネル(イオノトロピックレセプター)には3つの主なタイプがある。NMDA、AMPA、およびカイネートレセプターがあり、その各モジュレーターは本発明の経路(パスウェイ)スクリーニングに用途が見出される。
NMDAレセプターアンタゴニスト
【0147】
NMDAレセプターは、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)による選択的活性化により最初に同定された。NMDAレセプターは、NR1サブユニット、および4つの分離した遺伝子産物の1つ(NR2A-D)でありうるNR2サブユニットの組立物からなる。両サブユニットの発現は機能的チャンネルを形成するのに必要である。グルタメート結合ドメインは、NR1およびNR2サブユニットの接合部に形成される(したがって、発現する両サブユニットに必要)。グルタメートに加えて、NMDAレセプターは、該レセプターを機能させるのに結合させるコアゴニストであるグリシンを必要とする。グリシン結合部位はNR1サブユニット上にみいだされる。NR2Bサブユニットは、NMDAレセプターの機能を調節する調節分子であるプロイアミン(ployamine)に対する結合部位も有する。グルタメート(NMDA)結合部位に加えて、NMDAレセプター上には調節化合物に対する複数の結合部位もある。効率的なNMDAレセプターの活性化には、NMDAだけでなくグリシンも必要である。活性化はポリアミンの結合により調節することもできる。各結合部位(グルタメート、グリシン、ポリアミン)は、レセプターおよびサブタイプ選択的化合物両方の開発用の潜在的標的として用いられてきた。
【0148】
NMDA阻害剤は、競合的および非競合的阻害剤のいずれでもあり得、該結合部位のいずれかと結合することができる。すなわち、適切なNMDAレセプターアンタゴニストには、限定されるものではないが、アマンタジン;ケタミン;デキストロメトルファン(3-メトキシ-17-メチル-9α,13α,14α-モルフィナナ臭化水素一水和物);ジゾシリピン(MK-801としても知られる);AP-7(2-アミノ-7-ホスホノヘプタン酸);APV(AP-5とも呼ばれる);2-アミノ-5-ホスホノバレレート;DCKA(5,7-ジクロロキネウレン酸;グリシン部位に作用する)、ハルコセリド(アセトアミド-N-ベンジル-3-メトキシプロピオネート、およびその代謝物、H-209);ホモキノリン酸、(R)-AP5;(R)-CPP-エン;PBPD;メナンチン;ケタミン;L-701-324;L-689,560;GV196771A;RO25-6981;イフェンプロジル;Co-101676;GW468816(グリシン部位アンタゴニスト)が含まれる。
【0149】
これら阻害剤のいくつかを図6に示す。
【0150】
ジゾルシピンが特に興味深く、ジゾルシピンは、イオンチャンネルNMDA-レセプターを介してニューロン内へのカルシウムの過剰な流入を減少させるカルシウムチャンネルブロッカーとして同定されている。それは、グルタミン酸作動性NMDA-タンパク質サブタイプの競合的アンタゴニストとしても分類されており、血液脳関門を通過する。グルタミン酸誘導興奮毒性は複雑で多元的であるが、ニューロン損傷および死に介在する最終的事象の主な要素である。それは、NMDA-レセプターを介したカルシウムの過剰な流入を含む。
酸化ストレスのモジュレーター
【0151】
MTMAおよびレセプターアンタゴニストに加えて、他の経路選択的薬剤には、運動ニューロンの酸化ストレスをもたらすものが含まれる。これには、ビタミンE、プロシステイン、N-アセチルシステイン、リポ酸、および種々のタイプのニトロンのような一般的抗酸化剤が含まれる。
小グリアの活性化
【0152】
神経炎症(neuroinflammation)は、運動ニューロン疾患の重要な原因として最近浮上してきた。例えば、ALS組織は、散発性および家族性ALSの両方およびSODトランスジェニックマウスモデルに観察される炎症性変化を特徴とする。それらは大量の活性化小グリアと星状細胞(アストロサイト)の蓄積を含む。前炎症サイトカイン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)は、ALSを強く促進調節する。腫瘍壊死因子のレセプター(TNF-R1)は、疾患の症状期と後期前症状期に上昇する。TNFは、ALSの神経炎症の主な要因として作用するか、種々の共刺激サイトカインおよびケモカインはTNFの効果を高めるように作用する。これらの変化は、パーキンソン病を含む他の運動ニューロン疾患、および糖尿病性ニューロパシーを含む種々の末梢ニューロパシーにも観察される。
【0153】
ALSにおける効果を試験している種々の候補抗炎症薬があり、これには限定されるものではないが、ミノサイクリンおよびタリドミドが含まれる。
【0154】
すなわち、本発明は、これら薬剤や他の候補薬剤、特に微小管標的調節剤(MTMA)(そのいくつかは上記している)、イオンチャンネルアンタゴニスト(そのいくつかは上記している)、抗酸化剤、銅キレート剤、二酸化窒素阻害剤、およびペルオキシ亜硝酸のスカベンジャー、および神経栄養因子を試験するために提供される。
様々な薬剤
【0155】
さらに、抗グルタメート剤、他の抗炎症剤、および他の抗痙攣薬をすべて試験することができる。もちろん、本発明は、あらゆる特定クラスの化合物中のあらゆる特定化合物によって限定されない。あらゆる化合物または化合物のあらゆる組み合わせは、本発明の方法で使用することが想定される。
医薬組成物
【0156】
本明細書に記載したように、運動ニューロン疾患、特にALSを治療するのに用いることができる種々の医薬組成物がある。ある態様において、該医薬組成物は、本明細書に記載のMTMA剤および医薬担体を含む。この態様において、ノスカピンは格別の用途がある。
【0157】
多くの態様において、医薬組成物は、2つの異なる薬剤を含む。本明細書に記載のあらゆる2タイプの神経保護剤のあらゆる組み合わせが可能である。ある場合には3種の神経保護剤を治療のために組み合わせることができる。
【0158】
ある態様において、医薬組成物は2つの異なるMTMA;例えば、ノスカピンおよびカンナビノイド(エンドカンナビノイドを含む)を含み、この態様において使用される。
【0159】
別の態様において、医薬組成物はMTMAとMTMAでない神経保護剤を含む。
【0160】
ある態様において、神経保護剤は、電位依存性イオンチャンネルアンタゴニスト(電位依存性ナトリウムおよびカルシウムチャンネルアンタゴニストを含む)である。すなわち、少なくとも1のMTMAおよびチャンネルアンタゴニストを含む組成物が特に用途がある。
【0161】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびNMDAレセプターアンタゴニストを含む。ノスカピンおよびジゾルシピンを含む組成物がこの態様において特に用途がある。別の態様において、NMDAレセプターアンタゴニストはメマンチンである。
【0162】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ)アゴニストを含む。ノスカピンおよびピオグリタゾンを含む組成物(Actos(登録商標))がある態様では特に用途がある。別の態様において、PPARγアゴニストは、特にロシグリタゾン(Avandia(登録商標))、L-796449、RS5444、またはGI262570でありうる。
【0163】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび抗炎症剤、例えばセラストール、ニメスリド、またはイブプロフェンを含む。
【0164】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび抗酸化剤、特にiNOS抗酸化剤を含む。ノスカピンおよびL-NMMA(チラルギニン)を含む組成物はある態様において特に用途がある。別の態様において、抗酸化剤は、特にセフトリアゾン、セラストロール、CoQ10、ビタミンE、およびAEOL 10150から選ぶことができる。
【0165】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびフリーラジカルトラッパー/スカベンジャーを含む。特にノスカピンおよびマンガノポルフィリン抗酸化剤を含む組成物がある態様において用途がある。
【0166】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび金属イオンキレート剤、特に 銅(II)および亜鉛(II)キレート剤を含む。特にノスカピンおよび金属イオンキレート剤、例えば8-ヒドロキシキノリン;アセトヒドロキサム酸;またはN,N-ジメチル-2,3-ジヒドロキシベンズアミド(DMB)を含む組成物がある態様において用途がある。
【0167】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび低電位感受性チャンネル(L-VSCC)アンタゴニストを含む。ノスカピンおよびニモジピンを含む組成物がある態様において特に用途がある。
【0168】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび非競合α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)/カイネートレセプターアンタゴニストを含む。ノスカピンおよびGYKI 52466を含む組成物がある態様において特に用途がある。
【0169】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび選択的または非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニストを含む。ノスカピンおよび非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニストSosei 51(NC-1200/MVL-6976)を含む組成物はある態様において特に用途がある。別の態様において、選択的または非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニストは、NBQX、ニメスルジン(Nimesuldine)、リルゾール(Riluzole)(Rilutek)、タラムパネル(Talampanel)、セフトリアゾン(Ceftriaxone)、またはナアラダーゼ(Naaladase)阻害剤から選ぶことができる。他の態様において、グルタミン酸レセプターアンタゴニストは、ONO-2506のようなグリアモジュレーターでありうる。
【0170】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMA、およびアナンダミド(AEA)輸送、加水分解、または再吸収阻害剤を含む。ノスカピンおよびN-(4-ヒドロキシフェニル)-アラキドンアミド(AM404)を含む組成物は、ある態様において特に用途がある。別の態様において、AEA輸送、加水分解、または再吸収阻害剤は、N-(5Z,8Z,11Z,14Zエイコサテトラエニル)-4-ヒドロキシベンズアミド(AM1172)または脂肪酸アミドヒドラーゼFAAH阻害剤、例えばURB597でありうる。さらに、2つのMTMAおよびAEA再吸収阻害剤を含む組成物、例えば、ノスカピン、AEA、およびAM404も有用である。
【0171】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび神経栄養因子を含む。ノスカピンおよびIGF1またはIGF-1-AAVを含む組成物はある態様において用途がある。
【0172】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびアポトーシス阻害剤を含む。ノスカピンおよびミノサイクリン、TCH346、およびタモキシフェンを含む組成物はある態様において用途がありうる。
【0173】
ある態様において、2つのMTMAおよびさらなる神経保護剤を用いる。
【0174】
本明細書において「運動ニューロン関連障害」または「運動ニューロン疾患」または「病状」は、1および2以上の神経保護剤も考えられるが、典型的には少なくとも1のMTMAを含む2種の神経保護剤を含む医薬組成物の投与により改善しうる障害を意味する。特に有用な態様において、微小管標的調節剤を筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に用いる。
【0175】
多くの態様において、治療的有効量の神経保護剤を治療が必要な患者に投与する。本明細書において「治療的有効量」は、投与により効果を生じる用量を意味する。正確な用量は治療目的に依存し、既知の技術を用いて当業者が決定することができよう。特に有用な態様において、約5.mu.g/kgの用量を用いる(静脈内または皮下に投与する)。当該分野で知られているように、薬剤の分解、全身対局所送達、新たなプロテアーゼ合成速度、ならびに、年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与時間、薬剤の相互作用、および病状の重症度の調整が必要なことがあり、当業者がルチーン的実験により決定することができる。
【0176】
本発明の目的において「患者」は、ヒトと他の動物の両方、特に哺乳動物、および生物を含む。すなわち、該方法はヒトの治療と獣医的適用の両方に適用できる。特に有用な態様において、患者は哺乳動物であり、特に有用な態様において患者はヒトである。
【0177】
本発明において用語「治療(処置)」は、疾患または障害の治療的処置、および予防または抑制手段を含むことを意味する。すなわち、例えば、運動ニューロン疾患の場合は、疾患の発症前の、1および2以上の神経保護剤も考えられるが、典型的には少なくとも1のMTMA1を含む2種の神経保護剤の有効な投与が疾患の「治療」をもたらす。別の例として、疾患の臨床的発現後の疾患の症状と戦うための神経保護剤の有効な投与は疾患の「治療」を含む。「治療」は、疾患の発現後の疾患を根絶するための神経保護剤の投与も含む。臨床症状の見込まれる軽減およびおそらく疾患の改善を伴う、発症および臨床症状が発現した後の薬剤の有効な投与は疾患の「治療」を含む。
【0178】
「治療が必要な」ものには、疾患または障害をすでに有する哺乳動物、および疾患または障害を有する傾向があるもの(疾患または障害を予防すべきものを含む)を含む。
【0179】
本発明の組成物は典型的には少なくとも2の神経保護剤の組み合わせであるから、該組成物は、単一剤形(例えば2薬剤を組み合わせる経口製剤)で一緒に、または下記のあらゆる剤形を単独で同時にまたは連続して投与することができる。例えば、ある薬剤を経口投与し、別の薬剤を一緒にか連続して腹腔内投与することができる。さらに、別個に投与するときは、投薬は異なる回数または頻度であってよい。あるいはまた、少なくとも2の薬剤を同じ剤形だが分離して、例えば経口投与により投与することができる。
【0180】
ヒトに投与するのに適した初期用量は、in vitroアッセイまたは動物モデルから決定することができる。例えば、初期用量は、in vitroアッセイで測定して、投与した化合物の特定の代謝的に活性な薬剤のIC50を含む血清濃度を達成するよう処方することができる。あるいはまた、ヒトの初期用量は、SODマウスのようなALSの動物モデルで有効であることがわかった用量に基づいてよい。一例として、本明細書に記載の医薬組成物の各成分の初期用量は、約0.01 mg/kg/日〜約200 mg/kg/日、または約0.1 mg/kg/日〜約100 mg/kg/日、または約1 mg/kg/日〜約50 mg/kg/日、または約10 mg/kg/日〜約50 mg/kg/日の範囲でありうる。しかしながら、用量は患者の要求、治療する病状の重症度、および用いる化合物に応じて変化しうる。用量サイズは、特定患者における特定化合物投与に伴うあらゆる副作用の存在、性質、および程度によっても決定される。特定の状況に対する適切な用量の決定は当業者の技術内である。一般的には、治療は該化合物の最適用量以下のより小用量で開始する。その後、環境下で最適用量に達するまで用量を小量ずつ増やす。便宜上、必要であれば、1日の総用量を分割し、1日の間に部分に分けて投与することができる。
【0181】
薬剤組成物中の活性化合物の濃度は、薬剤の吸収、分布、不活化、および排泄速度、および当業者に知られた他の因子に依存するだろう。緩和すべき病状の重症度に応じて用量値も変化することに注意すべきである。さらに、あらゆる特定の対象に対する特定の用法・用量は、個体の要求、および該組成物を投与するかその投与を管理するヒトの専門的判断にしたがって時間とともに調節すべきであり、本明細書に記載の濃度範囲は例示のみであり、本発明組成物の範囲又は実施を限定するものではないと理解すべきである。活性成分は同時に投与するか、または種々の時間間隔で投与する多くの小用量に分割することができる。
【0182】
経口投与に適した製剤は以下からなりうる:(a) 液体溶液剤、例えば水、生理食塩水、またはPEG400のような希釈剤に懸濁した有効量の化合物;(b)それぞれ予め決定された量の活性成分を液体、固体、顆粒、またはゼラチンとして含むカプセル剤、サシェー剤、または錠剤;(c)適切な液体中のサスペンジョン剤;および(d)適切なエマルジョン剤。錠剤形は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、微晶質セルロール、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色料、増量剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存料、香味料、色素(染料)、崩壊剤、および医薬的に互換性の担体の1またはそれ以上を含み得る。ローゼンジー剤は、香味料、例えばショ糖中に活性成分を含むことができ、トローチは、不活性塩基、例えばゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖、およびアカシアエマルジョン、ゲルなど(活性成分に加えて当該分野で知られた担体を含む)中に活性成分を含むことができる。
【0183】
経口用組成物は、一般的に不活性希釈剤または食用担体を含むであろう。該組成物はゼラチンカプセルに封入されるか、錠剤に圧縮されてよい。経口での治療的投与のためには、活性成分を賦形剤に組み込み、錠剤、トローチ、またはカプセル剤の形で用いることができる。医薬的に互換性の結合剤および/またはアジュバント物質を組成物の部分として含むことができる。
【0184】
活性化合物またはその医薬的に許容される塩をエリキシル剤、サスペンジョン剤、シロップ、ウエハー、チューインガムなどの成分として投与することができる。シロップ剤は、活性成分に加えて、甘味料としてショ糖、およびある種の保存料、色素、および着色料、および香味料を含みうる。
【0185】
活性化合物またはその医薬的に許容される塩を、所望の作用を損なわない他の活性物質または所望の作用を補完する物質と混合することもできる。
【0186】
本明細書で用いている用語「医薬的に許容される塩」は、上記化合物の所望の生物活性を保持し、望ましくない毒性作用がないか最小限である塩を表す。そのような塩の例には、限定されるものではないが、無機酸(例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)を用いて形成される酸付加塩、および有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジルホン酸、およびポリガラクツロン酸が含まれる。該化合物は当業者に知られた医薬的に許容される第4級塩として投与することができ、これには具体的には式NR+Z-の第4級アンモニウム塩が含まれる(ここで、Rは水素、アルキル、またはベンジルであり、Zは以下のものを含む対イオンである:塩素、臭素、ヨウ素、-O-アルキル、トルエンスルホネート、メチルスルホネート、スルホネート、ホスフェート、またはカルボキシレート(例えばベンゾエート、スクシネート、アセテート、グルコレート、マレエート、マレート(malate)、シトレート、タートレート、アスコルベート、ベンゾエート、シンナモエート、マンデロエート、ベンジロエート、およびジフェニルアセテート))。
【0187】
選択される化合物は、単独または他の適切な成分と組み合わせて、吸入により投与されるエアロゾル製剤とすることができる(すなわち、「ネブライザーで投与する」ことができる)。エアロゾル製剤は加圧した許容されるプロペラント、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など中にセットすることができる。
【0188】
直腸投与に適した製剤には、例えば包装された坐剤基剤を含む化合物からなる坐剤が含まれる。適切な坐剤基剤には、天然または合成トリグリセリドまたはパラフィン炭化水素が含まれる。さらに、選択した化合物と基剤(例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン炭化水素を含む)の組み合わせからなるゼラチン直腸用カプセル剤の使用も可能である。
【0189】
例えば関節内(in the joint)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下経路によるような非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図したレシピエントの血液と等張にする溶質を含む水性および非水性等張無菌注射溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存料を含むことができる水性および非水性無菌サスペンジョンを含む。本発明の実施において、組成物は例えば静脈内注入によるか、経口的、局所的、腹腔内、嚢内、または髄腔内に投与することができる。非経口投与、経口投与、皮下投与、および静脈内投与は特に有用な投与方法である。適切な溶液製剤の具体例は、水中に約0.1〜100 mg/mlの化合物および約1000 mg/mlのポリエチレングリコールを含んでよい。適切な溶液製剤の別の具体例は、水中に約0.1または約0.2〜約100 mg/mlの化合物および約800〜1000 mg/mlのポリエチレングリコール400(PEG 400)を含んでよい。
【0190】
適切なサスペンジョン製剤の具体例は、約0.2〜30 mg/ml化合物および1またはそれ以上の以下からなる群から選ばれる賦形剤を含んでよい:水中の、約200 mg/mlエタノール、約1000 mg/ml植物油(例えば、コーン油)、約600〜1000 mg/mlフルーツジュース(例えばグレープジュース)、約400〜800 mg/mlミルク、約0.1 mg/mlカルボキシメチルセルロース(または微晶質セルロース)、約0.5 mg/mlベンジルアルコール(またはベンジルアルコールと塩化ベンザルコニウムの組み合わせ)、および約40〜50 mM緩衝液、pH7(例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、またはクエン酸緩衝液、または5%デキストロースを緩衝液の代わりに用いてよい)。
【0191】
適切なリポソームサスペンジョン製剤の具体例は、水中の、約0.5〜30 mg/ml化合物、約100〜200 mg/mlレシチン(または他のリン脂質またはリン脂質の混合物)、および所望により約5 mg/mlコレステロールを含んでよい。化合物の皮下投与には、水中の5 mg/ml化合物および100 mg/mlレシチン、ならびに水中の5 mg/ml化合物および100 mg/mlレシチン、および5 mg/mlコレステロールを含むリポソームサスペンジョン製剤がよい結果をもたらす。
【0192】
化合物製剤は、アンプルやバイアルのような単位用量または多用量密封容器中に存在し得る。注射用溶液剤およびサスペンジョン剤は、先に記載したような無菌粉末剤、顆粒剤、および錠剤から製造することができる。
【0193】
医薬製剤は単位剤形が特に有用である。そのような形において、該製剤は適切な量の化合物を含む単位用量に細分される。単位剤形は、包装した製剤、分離した量の製剤を含む包装、例えば包装した錠剤、カプセル剤、およびバイアルまたはアンプル中の粉末剤でありうる。また、単位剤形は、カプセル剤、錠剤、カシェー剤またはローゼンジー剤それ自身であるか、または包装した形の適切な数のこれらでありうる。該組成物は所望により以下でより詳述する他の互換性の治療剤を含むこともできる。
【0194】
ある態様において、活性化合物は、化合物が体内から急速に除去されるのを保護する担体を用いて製造される(例えば、インプラントおよびマイクロカプセル化デリバリーシステムを含む制御放出製剤)。エチレンビニルアセテート、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、およびポリ乳酸のような生体分解性の生体適合性ポリマーを用いることができる。そのような製剤の製造方法は当業者に明白であろう。該物質は、Alza Corporation(Mountain View、CA)およびGilford Pharmaceuticals(Baltimore、MD)から市販品を得ることもできる。リポソームサスペンジョンも医薬的に許容される担体でありうる。これは当業者に知られた方法に従って、例えば、米国特許No. 4,522,811(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載のごとく製造することができる。例えば、リポソーム製剤は、無機溶媒に適切な脂質(例えばステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ステアロイルホスファチジルコリン、アラカドイルホスファチジルコリン、およびコレステロール)を溶解し、次いで蒸発させ、容器の表面に乾燥した脂質の薄いフィルムを残すことにより製造することができる。次に、活性化合物またはその誘導体の水性溶液を容器に入れる。次に、容器を手で回転させて容器の側面から脂質物質を除去し、脂質凝集物を分散させてリポソームサスペンジョンを形成する。
対象および臨床試験における運動ニューロン疾患の診断と薬剤活性のモニタリング
【0195】
ある態様において、本発明の方法は、本明細書に記載の生化学的マーカーを使用することにより運動ニューロン疾患の早期診断を可能にし、症状の発現前に運動ニューロン疾患の検出を可能にする。すなわち、本発明の方法を利用し、小丘および軸索シャフト(STOP) 微小管の過剰なダイナミシティ(例えば、不安定性、高い代謝回転速度)を検出することにより、ALSのような運動ニューロン疾患の存在を検出することができる。一般的には軸索微小管は非常に安定しているので(本質的に標準的アッセイ時間にわたりチューブリンの交換がない)、この文脈において「不安定性」は、運動ニューロン微小管への新たなチューブリンの取り込みパーセンテージの増加である。
【0196】
関連する態様において、本発明の方法は、運動ニューロン疾患を有する個々の対象の治療的介入に対する応答を、例えば、小丘および軸索シャフト微小管のダイナミシティの変化を検出することによりモニターすることができる。
【0197】
別の関連する態様において、本発明の方法は、運動ニューロン疾患の治療として臨床試験で試験している候補薬剤の効果を評価することができる。例えば候補治療薬を用いる治療中の小丘および軸索シャフト微小管のダイナミシティの変化を処置群で評価し、統計的に比較して治療方法の生化学的効果を決定することができる。
薬剤の発見と開発
【0198】
ある態様において、該方法は、生物系を化合物または化合物混合物に曝露した後に観察される微小管ダイナミシティに対する影響を評価することができる。したがって、得られ分析したデータは、薬剤の発見、開発および承認(DDDA)の意志決定プロセスを促進するためDDDAプロセスに有用であり、例えば、微小管ダイナミシティの安定化データが有望である場合は化合物または化合物混合物の開発をさらに続けるか、または例えば微小管ダイナミシティの安定化データが芳しくない場合はその努力を中止する決定において意志決定者に有用な情報を提供する(このプロセスのグラフ表示について図13参照)。
【0199】
さらに、該方法は、当業者があるクラスの化合物中で「その種類で最良」(すなわち、「そのクラスで最良」)を同定し、選択し、および/または特徴づけることを可能にする。選択し、および/または特徴づけされたら、当業者は、本発明の方法により得られた情報に基づいて「その種類で最良」をさらに評価するか、または製薬会社やバイオテクノロジーの会社のような他の会社に該化合物のライセンスを供与するかを決定することができる(図14参照)。
【0200】
図14は、薬剤発見プロセスにおける本明細書での本発明の使用を示す。工程01では複数の候補薬剤を選択する。工程03では、微小管ダイナミシティを、通常、本明細書に記載の方法に従って細胞または完全な動物内で試験する。別の態様において、工程03は本発明を例えば標的発見プロセスに用いる時に最初に行う。工程05では、関連微小管動力学データを同定する。例えば、微小管ダイナミシティを低下させることが望ましい場合は、該ダイナミシティを低下させる化合物は一般的により有用と考えられ、反対にダイナミシティを増加させる化合物は一般的に望ましくないと考えられるであろう。標的発見プロセスにおいて、別の表現型に対して微小管ダイナミシティが増加または低下した特定の表現型(例えば罹患対非罹患またはコントロール)は、よい治療または診断標的であるか、またはよい治療または診断標的の経路にあると考えることができる。工程07では、興味深い化合物、興味深い標的、または診断薬を選択し、さらに用い、開発を行う。標的の場合は、該標的は、例えばよく知られた小分子スクリーニングプロセス(例えば新規化学的実体のハイスループットスクリーニング)などの対象でありうる。あるいはまた、生物学的因子、またはすでに承認された薬剤、または他の候補薬剤(または候補薬剤の組み合わせおよび/または混合物)を用いることができる。工程09では、化合物または診断薬を販売または流通させる。販売または流通させるものは「その種類で最良」であり得、本発明の方法により同定される。もちろん、図14のプロセス中の1またはそれ以上の工程は、ほとんどの場合最適な結果を得るために幾度も繰り返されると認識される。
【実施例】
【0201】
実施例1:チューブリンダイマーおよびポリマーの単離
チューブリンは以前に記載されたプロトコールを少し修飾したものを用いて生成した(Fanara、P.、Oback、B.、Ashman、K.、Podtelejnikov、A.、Brandt、R. Identification of MINUS、a small polypeptide that functions as a microtubule nucleation suppressor. EMBO J. 18、565-577(1999);Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。ex vivo精製のため、マウスをイソフルランで麻酔し、頸椎脱臼により安楽死させた。坐骨神経を解剖し、以下のごとく単離する。皮膚を引き下げて身体の下半分の筋肉を露出させた。はさみで脊髄を腰領域のすぐ下と広い仙骨領域のすぐ上で横に切断する。一部開いたはさみを、はさみが臀部のほぼ広い腸骨部分にあたるまで背骨の腰領域に滑り下ろす。これにより脊髄のできるだけ近くで坐骨神経を切断する。鉗子を用いて筋層を足の大腿部(大腿)の上方に持ち上げた。次に、筋肉の表層を注意深く切断して筋層間の白い神経を露出させた。神経上の筋肉を横に切断し、切開部を足と臀部に向かって広げた。臀部で神経は向きを変えて骨盤骨中を下降する。小さなはさみの先端を背骨と平行に第一脊髄切断部に向かって筋肉に差し入れた。これにより坐骨神経の最後の部分(神経筋接合部の成長円錐)を露出させた。鉗子を用いて、白い神経をつかんで持ち上げた。小さなはさみを使って筋肉に残ったわずかな付着部を切断した。次に、組織を速やかにチューブに入れ、MSB中で静かにホモゲナイズした。微小管ポリマーから細胞質チューブリンを分離するため、ポストヌクレアー(post-nuclear)上清を20℃で190,000 x g、35分間遠心した。上清または非微小管分画(可溶性ダイマーチューブリンを含む)をペレットまたは微小管分画(重合チューブリンを含む)から分離し、急速冷凍して-20℃で保存した。微小管ペレットを連続イムノアフィニティクロマトグラフィ工程によりさらに分画した。tau結合微小管を単離するため、TAU5抗体を0.25 mg/mlの濃度でエポキシ活性化セファロースビーズ(Amersham Pharmacia Biotech)と共有結合させた。約0.2 mgの微小管ペレットを室温で1時間0.5 ml MSB中のTAU-5ビーズとインキュベーションした。非結合物質を除去し、ビーズを0.5 mlのMSBで3回洗浄し、次いで結合物質を1M NaCl含有0.5 ml MSBで溶出させた。ある実験では、MAP2結合微小管を、同じプロトコールを用いてMAP2抗体と結合させたエポキシ活性化セファロースビーズ(0.5 mg抗体/mlビーズ)を用いるイムノアフィニティクロマトグラフィによりTAU5非結合物質から捕捉した。各調製物(チューブリンおよびTAU5-結合、MAP2-結合、および非結合微小管分画)中のチューブリンの相対存在度をウエスタンブロットにより定量し、これら分画由来のチューブリンを先に記載のごとくイオン交換およびサイズ排除クロマトグラフィによりさらに精製した(Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。
実施例2:低温安定(Cold-Stable)微小管の単離
【0202】
低温安定微小管を以前に記載のプロトコールを少し修飾したものを用いて単離した(Pirollet、F.、Derancourt、J.、Haiech、J.、Job、D.、Margolis、R. L. Ca(2+)- calmodulin regulated effectors of microtubule stability in bovine brain. Biochemistry 31、8849-8855(1992))。簡単には、細胞または組織粗ホモジネートを1.5 mM CaCl2含有氷冷MSB中で調製した(Fanara、P.、Oback、B.、Ashman、K.、Podtelejnikov、A.、Brandt、R. Identification of MINUS、a small polypeptide that functions as a microtubule nucleation suppressor. EMBO J. 18、565-577(1999))(緩衝液の細胞塊または脳組織に対する割合は1.4:1(vol/wt)の比に設定した)。氷上で2分間後、EGTAを最終濃度3 mMに加え、混合物をさらに1分間氷上でホモゲナイズした。抽出物を4℃で150,000 x g、30分間遠心し、上清を回収した。上清を30℃でインキュベーションして微小管会合を開始した。1時間後、抽出物を4℃で20分間冷却し、次いで、微小管安定化緩衝液中の50%(wt/vol)ショ糖クッションを介して200,000 x gで30分間遠心した。4℃で微小管脱安定化緩衝液に最終ペレット(低温安定微小管)を懸濁し、次いでチューブリンを先に記載のごとく精製した(Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。
実施例3:GC/MS分析のためのチューブリンの処理
【0203】
チューブリン試料は、6N HClで110℃にて16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、アラニンへの2Hの取り込みを他に詳述しているGC/MSにより測定した(Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。2Hの豊富化は、(M+1) マスアイソトポマーとして存在するアラニン誘導体のパーセンテージの天然存在度に対する増加パーセントとして計算した。
実施例4:体水の2H2O豊富化の測定
【0204】
体水の2H2O豊富化および培養液は上記のごとく測定した。簡単には、炭化カルシウムとの反応によりプラズマ水由来のプロトンをアセチレンに転移させた。次に、アセチレン試料を、m/z 26および27(M0およびM1)でイオンを記録するよう修飾し、99.9% 2H2Oを非標識水と混合して作製した標準曲線に対して較正したSeries 3000サイクロイダル質量分析計(Monitor Instruments、Cheswick、PA)を用いて分析した。体水の2H豊富化は薬剤処置の影響を受けなかった(データ示さず)。
実施例5:SOD1-G93A TGNマウスのノスカピン-MK801処置
【0205】
雌SOD-1 G93A TGNマウスはJacksonラボラトリー(系統#2726)から得た。コントロールは適合同腹子であった。処置群は3匹/群であった。ノスカピンは、3回/週(0.2 mg/kg i.p.)腹腔内注射し、MK801を飲用水にて連続投与した(12 mg/kg/d)。歩行(gait)分析を、Wooley et al.、Muscle Nerve 2005 32(1):43-50およびCarter et al. J. Neurosci.、19(8):3248-3257の方法により行った(これらの内容は本明細書の一部を構成する)。
【0206】
臨床評価のためのエンドポイントのスコア付けは以下のごとく選択した:
グループ分類:症状発現前(presymptomatic)
臨床徴候:完全な運動性、および年齢適合コントロールと行動に観察しうる差なし(歩行または歩幅分析)。
グループ分類:発症
臨床徴候:異常歩行および歩幅分析、および後肢の衰弱:年齢適合同腹子に対して歩幅が>40%減少。
グループ分類:終末期(安楽死)
臨床徴候:顕著および完全な後肢麻痺(この系統ではその他のものより1肢に生じることが多い)、および5秒間の猶予時間において直立不能。マウスは歩行分析試験が行えず終末期に入るので、通常この期が始まる。したがって、トランスジェニックSOD1-G93A TGNマウスは、顕著および完全な後肢麻痺および5秒間の猶予時間において直立不能の発現時に安楽死する。
【0207】
無処置トランスジェニックマウスは、15週齢(疾患発症後約17日)で始まる完全な後肢麻痺を示し、16週齢で最終的に安楽死した(以下の症状を示した:広範な麻痺、完全な歩幅のために1肢を引くことができない(歩行分析で「0」とスコア付けした)、および5秒間の猶予時間で直立不能)。
【0208】
処置マウスのあるものは16週齢(疾患発症後25日)で始まる完全後肢麻痺を示し、最終的に17週齢で安楽死した(以下の症状を示した:広範な麻痺、完全な歩幅のために1肢を引くことができない(歩行分析で「0」とスコア付けした)、および5秒間の猶予時間で直立不能)。
【0209】
他に2処置トランスジェニックマウスは約18週齢で後肢の虚弱化(歩行分析でスコア付けした)が発現し始めたが、その時点ではまだ顕著および完全な後肢麻痺は発現していなかった。
表1
【表1】
【0210】
比較のため、ALS SOD1 G93Aマウスにおいて以前に試験し、ALS TDFまたは他の研究者により公表されたリルゾールALS処置。
【表2】
ノスカピンおよび/またはMK-801で処置したSOD1-G93A TGMマウスの運動障害の発症と死亡:
【表3】
実施例6:有症状SOD1G93Aマウスにおける治療的介入
【0211】
2つの新規薬剤療法の成功の確認を図16に示す。MTMA/KM-ID05薬を有症状SOD1G93Aマウス(10週齢)に投与し、3週間処置を行った(n=3)。2H2O(8 %)を処置の最後の2日間に投与し、標識48時間後に屠殺した。脊髄の腰領域(L2〜L5レベル)および坐骨神経の全長を解剖し、注意深く取り出した。微小管動力学を、脊髄運動ニューロンおよび坐骨神経のすべてのニューロンコンパートメントで測定した。
【0212】
図16に詳述するように、MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスは、亢進した(hyperdynamic)微小管の顕著な低下(野生型マウスに近いレベルまで低下)を示した。MTMA/KM-ID05の陽性効果が全てのニューロンコンパートメントに検出された。
【0213】
SOD1G93Aマウスの疾患の進行に対するMTMA/KM-ID05の効果を検討するため、歩幅測定を実施した(図17)。歩幅は、食用着色料で薄く着色したグリセロールを足に塗ることにより測定した。試験は、マウスが直線で歩くまで反復し、明瞭な連続歩幅測定値を4回うる。歩幅は同じ足が作る足跡の距離であり、足跡の中心から次の足跡の中心までを計る。
【0214】
分析は常に、同性の年齢適合トランスジェニック無処置、処置、およびコントロール動物(n=20)を用いてその日の同じ時に行った。コントロールマウスと異なりSOD1G93Aマウスは運動能力の年齢依存性低下を示した(図17)。SOD1G93Aマウスにおける疾患の発症は、歩幅の40%の減少(12.5週齢で)を特徴とし、次いで急速な減少期となり、完全な後肢麻痺の段階(17週齢)に進行した。2薬剤処置は、試験期間を通じてSOD1G93Aマウスの疾患の発症を有意に遅延させ、運動能力を改善した(図17)。MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの体重損失も30%有意に減少させた(データ示さず)。
【0215】
MTMA/KM-ID05処置が運動ニューロンの変性を減少させるか否かを評価するため、各脊髄の坐骨神経運動プール部分の運動ニューロン数を計測した。処置の効果を15週齢のSOD1G93Aマウスで評価した。
【0216】
野生型コントロール(WT) 無処置(SOD1G93A)および処置(SOD1G93A MTMA/KM-ID05)マウスのニッスル染色脊髄切片の例を図18Aに示す。MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスに観察された運動ニューロン生存の改善は、運動ニューロン生存の増加を反映した。結果を図18Bに要約する。15週齢で、坐骨神経プールにおける運動ニューロンの有意な数が無処置SOD1G93Aマウスですでに死んでおり、WT同腹子の387(±6.2)と比べて197(±10.2) 運動ニューロンのみが生存した。しかしながら、MTMA/KM-ID05による処置は、運動ニューロンの有意な部分を救い、298(±4.4)運動ニューロンが生存した。すなわち、MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスにおいて、無処置SOD1G93A同腹子と比べて50%以上の運動ニューロンが15週齢でも生存した。
【0217】
次に、SOD1G93Aマウス(n=20)の寿命に対するMTMA/KM-ID05処置の効果を試験した。無処置SOD1G93Aマウスは、平均118.5(±4.2)日間生存する。マウスが15%体重を失い、完全後肢麻痺を示し、毛繕いをせず、自分で直立できない年齢によりこれら実験の終末期を決定する。
【0218】
MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの生存を25.6日間有意に延長し、寿命を22%延ばした。
【0219】
結論として、MTMA/KM-ID05を有症状期に投与すると、微小管のダイナミニシティの亢進を強く減少させることができた。MTMA/KM-ID05の作用機序は、顕著に疾患の症状を改善し、SOD1G93Aマウスの寿命および運動ニューロンの生存の有意な増大に反映された。
【0220】
遅い軸索輸送の変化は、突然変異SOD1トランスジェニックマウスの病因と関連していた。遅い軸索輸送は、移動速度に基づいて2成分を有することが以前に示された(1つは〜0.5mm/日で他方は〜1〜2mm/日)。両輸送成分はチューブリンを含む。MTMA/KM-ID05処置が軸索輸送障害を回復させることができるか否かを検討するため、SOD1G93AトランスジェニックマウスのL5神経根および坐骨神経における2H-標識チューブリンの輸送速度を測定した。13週齢で、WT同腹子に比べて無処置SOD1G93AのL5神経根、小丘、および近位軸索の初めの部分に2H-チューブリンの有意な蓄積が見られる。しかしながら、MTMA/KM-ID05による処置は該軸索に沿った2H標識チューブリンの輸送速度を完全に正常に回復させた。すなわち、MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスにおいて、微小管ベースの軸索輸送は無処置SOD1G93A同腹子に比べて完全に回復する。
【0221】
総合すると、これらの結果は微小管動力学が疾患活性のバイオマーカーであることを示す。したがって、微小管動力学を、ALSにおける新しい療法を評価し、臨床効果を予測するのに用いることができる。
【0222】
図19に示すように、微小管動力学アッセイを用いてin vivoで試験した多くの候補組み合わせ薬剤の相対的神経保護活性を評価および比較した。「強力な」神経保護と「弱い」神経保護の臨床効果の予測を評価した(図19)。5種類の2薬剤の組み合わせを選択し、SOD1G93Aマウス(各群、n=20マウス)の疾患の進行を遅延させ、生存を増加させる効果をさらに評価した(図20)。処置SOD1G93Aマウスは、神経保護(微小管安定性)における有効性に応じて寿命が10%〜32%増加した。微小管動力学のin vivo生化学測定値と確かな臨床的結果(歩幅および生存)の間の顕著で密接な相関を証明した(図20)。これらの知見は、微小管動力学が疾患活性と治療反応の強力なALSバイオマーカーであることを証明する(図21)。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1A】アイソトープ標識水からの選択した遊離アミノ酸内への標識水素(2Hまたは3H)の交換経路を示す。
【図1B】アイソトープ標識水からの選択した遊離アミノ酸内への標識水素(2Hまたは3H)の交換経路を示す。
【図1C】タンパク質合成のためのH218Oによる遊離アミノ酸の18O標識を示す。
【図2】微小管ポリマーへの2H標識チューブリンダイマーの取り込みを示す。
【図3】マウス脳におけるチューブリンダイマーおよび微小管のin vivo交換。
【図4】SOD-G93ATGNマウスの進行性軸索機能不全の経過中の微小管動力学の測定。
【図5】歩幅の測定値に基づく野生型およびSOD1-G93A TGNマウスにより生じた歩行足跡パターンの定量分析。
【図6】ノスカピン-MK801の組み合わせはSOD1-G93A TGNマウスの疾患の発症および死亡を遅らせる。
【図7】12.5週齢SOD1-G93A TGNマウスの坐骨神経の微小管サブポピュレーションの相対動力学(2H標識の取り込み)に対するノスカピン-MK801の組み合わせの効果。
【図8】ニューロン内の微小管ポピュレーションの特異的分布を示す。
【図9】多くの種々のNMDAレセプターアンタゴニストを示す。
【図10】ノスカピン-MK8O1をALSのSOD1マウスモデルに投与した18週の結果を示す。
【図11A】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図11B】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図11C】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図12】種々の処置の生存率の全体の統計を示す。
【図13】努力の継続または中断を決定する手段としての、ニューロン微小管動力学に対する効果(すなわち、本発明の方法により回収したデータ)を用いる薬剤発見、開発、および承認(DDDA)プロセスを示す模式図である。
【図14】薬剤発見プロセスにおける本発明の使用を例示する。
【図15】ノスカピン単独およびMK801単独投与の結果を示す。
【図16】MTMA/KM-ID05は、13週齢SOD1G93Aマウス(n=3;平均±SD)の中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)における亢進した(hyperdynamic)微小管を強く減少させる。
【図17】MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの自発運動を改善し、疾患の発症を遅らせた。
【図18】15週齢のSOD1G93AマウスにおけるMTMA/KM-ID05による処置の神経保護効果。
【図19】微小管動力学アッセイを有症状SOD1G93Aマウスにおける新規治療剤の前臨床的薬剤発見のための踏み台として用いる。
【図20】(A)5つの神経保護候補剤についての生存プロットおよび生存の統計分析。(B)種々の薬剤に関するSOD1G93Aマウスの生存結果対微小管動力学としてグラフに示したバイオマーカー予測性(平均±SD)。
【図21】FDA承認薬剤Rilutek(登録商標)と比較したALS-SOD1動物試験から選択した潜在的臨床薬。
【図22】ノスカピンの構造を示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対するクロスリファレンス)
本発明は、米国仮出願No. 60/756,836(2006年1月5日出願)および60/756,952(2006年1月5日)(これらの内容は本明細書の一部を構成する)に対する35 U.S.C. 第119条(e)の優先権の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、運動ニューロン活性およびダイナミシティ(dynamicity)に影響を与える新規医薬化合物に関する。本発明は、さらに運動ニューロン障害、例えば筋萎縮性側索硬化症の治療におけるそのような新規医薬化合物の使用に関する。本発明は、そのような運動ニューロン障害の存在について試験対象をスクリーニングおよびモニターすることに関する。
【背景技術】
【0003】
運動ニューロン疾患は、会話、歩行、呼吸、および嚥下のような随意筋活性を調節する細胞である運動ニューロンを損傷または破壊する一群の進行性神経学的障害である。運動ニューロン疾患の特徴的症状は、進行性衰弱、強さの損失および筋肉量の損失(萎縮)、筋肉の痙攣を含む不随意運動、腕および脚の痙縮または硬直、および腱反射亢進を含む。運動ニューロン疾患の他の症状は、随意運動の緩慢化(動作緩慢)、運動の欠如(運動機能低下、仮面顔)、型通りの反復的不随意運動(舞踏病アテトーゼ)、および冷淡な態度もしくは情動不安(静座不能)を含みうる。知覚、知性、記憶、および人格は純粋な運動ニューロン疾患に影響を及ぼさない。あるタイプの運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS、一般にルーゲリック病と呼ばれる)では、筋肉の衰弱は進行性であり、最終的に典型的には呼吸筋機能の損失に伴う死をもたらす。他のタイプの運動ニューロン疾患は多年にわたり徐々に進行する。
【0004】
運動ニューロン疾患は、成人と子供に生じ、女性より男性でより一般的である。成人では、症状は通常40歳を過ぎて現れ、非特異的で診断を困難にすることがある。子供では、特に遺伝性の該疾患の症状は出生時から存在することがある。遺伝性の運動ニューロン疾患は、運動ニューロンの変性を生じる遺伝子の突然変異や欠失により生じる。遺伝性運動ニューロン疾患は、脊髄性筋萎縮症として知られる一群の小児の障害を含む。非遺伝性(特発性とも言う)運動ニューロン疾患は未知因子により生じるが、環境有害毒素またはウイルスは疾患の引き金として作用することがある。非遺伝性運動ニューロン疾患は、ALS(いくつかの遺伝性形が存在するが)、進行性球麻痺、偽球麻痺、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、パーキンソン病、糖尿病性ニューロパシー、ポリオ後症候群、およびその他多くのものを含む。運動ニューロン疾患を診断するための特定の臨床検査はない。
【0005】
ALSは、容赦なく進行性で常に致死的な末梢神経系の疾患である。具体的には、ALSは、軸索の機能不全を特徴とする運動ニューロンの疾患である。現在有効な治療法はない。Riluzole(リルゾール)(Rilutek(登録商標))は、1995年にFDAにより承認されたが、疾患の進行をやや遅くするだけである。非遺伝性ALSに加え、遺伝形のALSが存在する。20%以下の家族性ALS患者がスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)遺伝子の突然変異を有する。この知見は、ALSの忠実なマウスモデルの開発を可能にした。このモデル、SOD1-G93Aトランスジェニックマウス(「SOD1-G93A TGNマウス」)は、ALSによく似た18〜19週齢までに死亡をもたらす神経学的障害を発現する。
【0006】
SOD1-G93A TGNマウスは、薬剤の前臨床的発見と試験に非常に有用になってきた。ALSのこの特定のトランスジェニックマウスモデルは、ヒトCu、Zn SOD突然変異体のより高度の発現と疾患のより短い経過(18〜19週間)を示す。それにより候補治療剤の評価はより速く、より効率的になる。また、このより積極的な(すなわち、高発現)マウスモデルの治療的利点の証明は、臨床における成功を予測するための最も厳しい基準を提供し得る。ヒトの臨床試験を行うのに必要な費用と時間を考慮すると、最も活性で有力な候補薬剤のみを患者を用いる評価へと進めるべきである。種々の候補治療剤をSOD1-G93A TGNマウスを用いて試験した。ヒト神経幹細胞の移植のような他の治療方法論もこのモデルで試験した。Riluzoleおよび神経幹細胞移植を含む今日までに試験したすべての治療方法は、このモデルで疾患の発症と死亡率を20〜30日間遅らせるだけである。
【0007】
SOD1-G93A TGNマウスにおいて候補薬剤が比較的成功しないことは、運動ニューロン疾患の基本メカニズムに対する根本的理解がないことを反映するかもしれない。疾患進行に関与する基礎分子標的および経路が解れば、より有効な運動ニューロン疾患の治療方法が発見され、開発されるかもしれない。
【0008】
米国仮出願No. 60/722,897、PCT/US2005/028069、および米国特許出願No.10/279,399は、本明細書の一部を構成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(発明の要約)
したがって、ある局面において、本発明は第一神経保護剤および第二神経保護を含む医薬組成物を提供する。通常、少なくとも1つの神経保護剤は微小管標的調節剤(MTMA)、例えばノスカピンである。時として該医薬組成物は、ただ1つの神経保護剤、特に微小管標的調節剤(MTMA)、例えばノスカピンを含む。時として該医薬組成物は、3つの神経保護剤(特に該神経保護剤の1または2つがMTMAである)を含む。神経保護剤は、MTMA;抗炎症剤(チアゾリジンジオンおよび非チアゾリジンジオンペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ)アゴニストを含む);イオンチャンネルモジュレーター(選択的および非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニスト、例えば電位依存性イオンチャンネル(電位依存性ナトリウムチャンネル(VGNH)および電位依存性カルシウムチャンネル(VGCH)を含む)のアンタゴニスト、例えばN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターを含む);α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニスト;グリア調節因子;低電位感受性チャンネル(L-VSCCS)遮断薬;N-型およびP/Q型電位依存性カルシウム電流阻害剤;CB1レセプターおよびCB2レセプターアゴニスト、例えばカンナビノイド(エンドカンナビノイドおよびカンナビノイドレセプターアゴニストを含む);AEA輸送、加水分解、および再吸収阻害剤(脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH) 阻害剤;抗酸化剤、例えば誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS) 阻害剤、フリーラジカルトラッパー/スカベンジャー、および金属イオンキレート剤(銅(II)および亜鉛(II)キレート剤を含む)を含む);神経栄養因子;ならびにアポトーシス阻害剤から選ばれる。組成物の各神経保護剤は他と分離したバイアル中にあってよい。
【0010】
さらなる局面において、本発明は1、2、3、またはそれ以上の神経保護剤を含む医薬組成物を投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法を提供する。該医薬組成物はさらに医薬担体を含んでよい。
【0011】
さらなる局面において、本発明は、1、2、3、またはそれ以上の神経保護剤を含む医薬組成物を投与することを含むALSの治療方法を提供する。該医薬組成物はさらに医薬担体を含んでよい。そのような治療はALS症状の発症を遅延またはALS症状の重症度の減少を生じうる。
【0012】
さらなる局面において、本発明は、MTMAおよび医薬担体を患者に投与することを含む患者のALS症状を軽減する方法を提供する。
【0013】
さらなる局面において、本発明は、治療的有効量のMTMAおよび医薬担体をそれを必要とする患者に投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法を提供する。
【0014】
さらなる局面において、本発明は運動ニューロン疾患の対象における薬剤の効果をモニターする方法を提供する。該方法は、試験生物系を1またはそれ以上の薬剤に曝露し、アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニットに入ることにより、1またはそれ以上の微小管分子中に入り、標識するのに十分な時間該生物系にアイソトープ標識基質を投与することを含む。次に、運動ニューロンを含む第一試料を該生物系から得、第一試料から得た微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量する。コントロール系から得た微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を得るかまたは定量し、該生物系中の微小管における豊富化の比をコントロール生物系における比と比較して運動ニューロンにおける微小管標識に対する該薬剤の効果を検討する。
【0015】
さらなる局面において、該方法は、さらに該標識微小管のダイナミシティを計算し、該比較工程が該微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティの遊離チューブリンのアイソトープの豊富化に対する比を計算し、該比を該コントロール生物系における該比と比較することを含む。
【0016】
さらなる局面において、該方法は、さらに該試験生物系から得た成長円錐微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た成長円錐微小管由来の標識微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティと比較することを含む。
【0017】
さらなる局面において、該方法は、さらに該試験生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化と比較することを利用する。
【0018】
さらなる局面において、試験生物系を曝露する薬剤は神経保護剤である。該薬剤は単独でまたは他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
【0019】
さらなる局面において、本発明は、ニューロン微小管のダイナミシティを変化させる薬剤を投与することによる運動ニューロン疾患の治療方法を提供する。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、ニューロンを微小管ダイナミシティを変化させる薬剤と接触させることを含む運動ニューロン疾患に有効な薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【0021】
さらなる局面において、本発明は、該アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニット中に入ることにより1またはそれ以上の微小管分子中に入り、標識するのに十分な時間、アイソトープ標識基質を該生物系に投与し、該生物系から運動ニューロンを含む第一試料を得ることを含む運動ニューロン疾患を有する対象における薬剤の効果を診断またはモニターする方法を提供する。第一試料から得た軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化、および該軸索コンパートメントから得た非取り込み標識チューブリンのサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量する。該軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションの豊富化の比を軸索コンパートメントから得た非取り込み標識チューブリンの該サブポピュレーションの比と比較して運動ニューロン疾患の存在を検討する。
【0022】
さらなる局面において、該発明は、アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニット内に入ることにより、1またはそれ以上の微小管ポリマー分子内に入り、標識するのに十分な時間、生物系にアイソトープ標識基質を投与し、該生物系から運動ニューロンを含む第一試料を得ることを含む運動ニューロン疾患を有する対象において臨床試験で試験している候補薬剤の治療効果を評価およびモニターする方法を提供する。第一試料から得た軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化および該軸索コンパートメントから得た非組み込み標識チューブリンのサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量する。該軸索コンパートメント中の微小管のサブポピュレーションの豊富化の比を該軸索コンパートメントから得た非組み込み標識チューブリンの該サブポピュレーションの比と比較し、微小管運動ニューロン疾患の存在を検討する。異なる処置(治療)群を統計的に比較し、該候補薬剤の治療効果を評価し、反復測定および分析を行って治療期間にわたる該候補薬剤の治療活性または効果の変化をモニターすることができる。
(図面の簡単な説明)
【0023】
図1Aおよび1Bは、アイソトープ標識水からの選択した遊離アミノ酸内への標識水素(2Hまたは3H)の交換経路を示す。2つのNEAA(アラニン、グリシン)およびEAA(ロイシン)を例として示す。アラニンとグリシンを図1Aに示す。ロイシンを図1Bに示す。略号:TA、トランスアミナーゼ;PEP-CK、ホスホエノールピルベートカルボキシキナーゼ;TCAC、トリカルボン酸回路;STHM、セリンテトラヒドロ葉酸メチルトランスフェラーゼ。図1Cはタンパク質合成のためのH218Oによる遊離アミノ酸の18O標識を示す。
【0024】
図2は、微小管ポリマーへの2H標識チューブリンダイマーの取り込みを示す。
【0025】
図3。マウス脳におけるチューブリンダイマーおよび微小管のin vivo交換。(A)ニューロン微小管(MT) ポピュレーションを単離するための戦略の模式的説明。(B) 抗tauカラムで分離したインプット(レーン1)、tau非結合(レーン2)、およびtau結合(レーン3)分画の抗tauおよび抗MAP2 Western(ウエスタン)ブロットは、tau結合MTの定量的捕捉を示す;MAP2結合MTは非結合分画にある。(C) 重水(2H2O)からのチューブリンダイマーおよび異なるMT分画への2Hの取り込みの反応速度論。マウスを種々の時間、体内の水分の約5%2H2Oで標識し、脳を解剖し、(A)のごとく単離したMTポピュレーションを加水分解した。アラニンのC-H結合への2Hの取り込みをNCI-GC/MS(平均±S.D.;n=3)により測定し、分画のターンオーバー(標識時間中に新たに合成されたアラニンの%)として表現した。単指数曲線適合を、皮質でt1/2約5-6時間、海馬でt1/2約3時間で示し、チューブリンについて約20%新アラニン、またはそれぞれtauおよびMAP2/STOP-MTについてこの値の1/2または1/3で横ばい状態になる。
【0026】
図4。SOD-G93ATGNマウスの進行性軸索機能不全の経過中の微小管動力学の測定。野生型およびSOD1-G93A TGNマウス(n=3/群)をそれぞれ2H2Oで7週齢(A)、8.5週齢(B)、および12.5週齢(C)で標識した。坐骨神経を解剖し、精製した異なる微小管ポピュレーション(成長円錐および軸索シャフト(shaft))を加水分解した。アラニンのC-H結合への2Hの取り込みをNCI-GC/MSで測定し、機能的合成(標識時間中に新たに合成された%;平均±SD)として表現した。動物を2H2Oで48時間標識した(約5%体水を豊富化)。
【0027】
図5。歩幅の測定値に基づく野生型およびSOD1-G93A TGNマウスにより生じた歩行足跡パターンの定量分析。7週齢で、SOD1-G93A TGNマウスの歩幅測定値は野生型マウスにより生じたものと区別不能であったが、8.0週齢までにSOD1-G93A TGNマウスは、野生型コントロールマウスに比べて歩幅の減少を示し始める。グラフは、各年齢および各測定値につき各群マウスn=3の平均±SDを示す。
【0028】
図6。ノスカピン-MK801の組み合わせはSOD1-G93A TGNマウスの疾患の発症および死亡を遅らせる。1および2薬剤処置を疾患の初期(すなわち症状発現前の段階)(7週齢)に開始した。SOD1-G93A TGNマウスを、ノスカピン(0.2mg/kg体重)および/またはMK-801(12mg/kg体重/日)で1週間に3回処置した。マウスは、ノスカピンを腹腔内に、MK-801を飲水で投与された。歩幅測定中にノスカピン-MK801の組み合わせで処置されたマウスは、各化合物単独で処置されたマウスより有意によい成績であった。ノスカピンとMK-801との組み合わせは、無処置SOD1-G93A TGNマウスに比べて症状発症を有意に遅らせ(32日間)、死の発生を遅らせた(21日間まで)。グラフは、各年齢および各測定値につき各群マウスn=3の平均±SDを示す。
【0029】
図7。12.5週齢SOD1-G93A TGNマウスの坐骨神経の微小管サブポピュレーションの相対動力学(2H標識の取り込み)に対するノスカピン-MK801の組み合わせの効果。SOD1-G93A TGNマウスにおけるノスカピン-MK801の組み合わせは、無処置マウスに比べて、微小管動力学を成長円錐で〜35%、軸索シャフトで50%減少させた。動物を2H2Oで48時間標識した。グラフは各測定につきマウスn=3あたりの平均±SDを示す。
【0030】
図8は、ニューロン内の微小管ポピュレーションの特異的分布を示す。
【0031】
図9は、多くの種々のNMDAレセプターアンタゴニストを示す。
【0032】
図10は、ノスカピン-MK8O1をALSのSOD1マウスモデルに投与した18週の結果を示す。
【0033】
図11A、11B、および11Cは、本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【0034】
図12は、種々の処置の生存率の全体の統計を示す。
【0035】
図13は、努力の継続または中断を決定する手段としての、ニューロン微小管動力学に対する効果(すなわち、本発明の方法により回収したデータ)を用いる薬剤発見、開発、および承認(DDDA)プロセスを示す模式図である。
【0036】
図14は、薬剤発見プロセスにおける本発明の使用を例示する。
【0037】
図15は、ノスカピン単独およびMK801単独投与の結果を示す。
【0038】
図16。MTMA/KM-ID05は、13週齢SOD1G93Aマウス(n=3;平均±SD)の中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)における亢進した(hyperdynamic)微小管を強く減少させる。
【0039】
図17。MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの自発運動を改善し、疾患の発症を遅らせた。処置は有症状期(10週齢)に開始した。歩幅の測定を用いてマウスの自発運動の異常をスコア付けした(n=20;平均±SD)。
【0040】
図18。15週齢のSOD1G93AマウスにおけるMTMA/KM-ID05による処置の神経保護効果。(A)野生型(WT)無処置および処置SOD1G93Aマウスの坐骨(神経)運動プール(矢頭)における運動ニューロンを示すNisslについて染色した脊髄切片。(B)各実験群における運動ニューロンの生存(平均±SD)。
【0041】
図19。微小管動力学アッセイを有症状SOD1G93Aマウスにおける新規治療剤の前臨床的薬剤発見のための踏み台として用いる。神経保護活性は、微小管動力学を回復させる種々の薬剤の能力をWT同腹仔で観察されたレベルと比較することにより測定した。神経保護パーセントは、無処置SOD1G93AのWT同腹子に対して亢進した(hyperdynamic)微小管を安定化させる薬剤の能力として定義した。すなわち、より高い値(100%以下)はより高い神経保護活性を示す。処置はすべて10週齢(n=3マウス/群)で有症状期に開始した。処置3週間後(13週齢)にマウスを屠殺し、脊髄運動ニューロンのニューロンコンパートメントにおける微小管動力学を測定した(全てのコンパートメントの平均を平均±SDでここで示す)。
【0042】
図20。(A)5つの神経保護候補剤についての生存プロットおよび生存の統計分析。(B)種々の薬剤に関するSOD1G93Aマウスの生存結果対微小管動力学としてグラフに示したバイオマーカー予測性(平均±SD)。
【0043】
図21。FDA承認薬剤Rilutek(登録商標)と比較したALS-SOD1動物試験から選択した潜在的臨床薬。
【0044】
図22はノスカピンの構造を示す。
(発明の詳細な説明)
運動ニューロンおよび運動ニューロン疾患の生化学および細胞生物学
【0045】
細胞体の直径の数桁の長さに達しうる軸索樹状突起間突起(axodendritic processes)の存在を特徴とするニューロンの高度に非対称の形態は、そのような突起を維持し、非常に長い距離にわたり細胞小器官、小胞、またはタンパク質サブユニットおよび複合体の輸送を支持する細胞骨格の能力により決定される。主要な細胞骨格系の1つは、キネシンおよびダイネインモータータンパク質が力を生じ、多くの細胞成分の輸送を促す微小管に基づく輸送系である。神経伝達物質ペプチドのような物質は細胞体で合成され、ゴルジで小胞内に取り込まれる。次に、この小胞は、キネシンモータータンパク質により軸索からシナプスに輸送される。他の物質はダイネインモーターによりシナプスから細胞体に輸送される。ALS、種々のニューロパシー(糖尿病性ニューロパシーを含む)、およびパーキンソン病のような運動ニューロン疾患は、主要な病態生理学的細胞変化、例えば軸索輸送障害、次いで軸索損失、次いでニューロンのアトロフィを共有する。
【0046】
微小管(「MT」)はニューロンに非常に豊富にあり、神経突起(軸索および樹状突起)の形成を促し、それに安定性をもたらす。軸索微小管の会合および脱会合のプロセス(「微小管動力学」として知られる)は、ニューロンの形態を決定し、維持する微小管の能力に基づく。ニューロンの構造的安定性に必須のこのプロセスは、ニューロン内の情報伝達経路も示す。微小管動力学は、大部分微小管結合タンパク質(MAP)により制御される。ニューロンMAPは、特異的極性分布を有し、微小管の安定化に顕著な役割を果たす。
【0047】
ニューロン、例えば運動ニューロンは、一般的にそれらが結合するMAPにより分類されるニューロン微小管の種々の異なるポピュレーションを有する。「ニューロン微小管」は、生細胞中で一本、対(in pairs)、トリプレット、または束で生じるチューブリンのポリマーからなるタンパク質構造を意味する。「チューブリン」は、微小管の主なタンパク質成分を意味する。チューブリンは、2個の球状ポリペプチド、アルファ-チューブリンおよびベータ-チューブリン(α-およびβ-チューブリン)からなるダイマーである。微小管は、ダイマーα-およびβ-チューブリンから組み立てられる。
【0048】
ニューロン微小管は、種々のニューロンコンパートメント(例えば、体細胞、樹状突起、および軸索)に、種々のMAP(例えばtau、MAP2、およびSTOP)と関連して存在する。微小管は、ニューロンの分化の確立と維持、ならびに神経伝達物質の軸索に沿った遠いシナプスへの長距離輸送に必要である。
【0049】
一般に、ニューロン微小管には3つの主なクラスがある:成長円錐(「軸索末端」または「軸索先端」としても知られる) 微小管(本明細書および図面中では「tau-MT」ともいう);樹状突起微小管(本明細書では「MAP-2MT」ともいう)、および小丘および軸索シャフト微小管(本明細書および図面中では「STOP-MT」ともいう)。一般的には、専門用語は、各カテゴリーを結びつける微小管結合タンパク質から生じる。「MAP」または「微小管結合タンパク質」は、微小管と結合するとその機能および/または挙動を変化させるタンパク質である。すなわち、例えば、成長円錐および軸索末端微小管の捕捉は、tau抗体に対する結合親和性を用いて行う。次に、tau非結合物質(樹状突起微小管)は、MAP2抗体とのアフィニティ結合により捕捉され、MAP2-非結合分画中に小丘および軸索シャフト微小管(STOP-MT)のみを残す。あるいはまた、STOP-MTは、他のMTサブポピュレーションと比較して低温およびミリモル濃度のCaCl2中の脱重合に抵抗するそのユニークな能力を利用して直接単離することができる。
【0050】
本明細書で用いている「tau(タウ)」または「tauタンパク質」または「tau MAP」は、脳から単離された、主なクラスの微小管結合タンパク質(MAP)である。神経細胞において、tauは、軸索成長円錐中に高度に豊富化される。Tauタンパク質は、in vitroにおけるチューブリン重合の核生成(開始)プロセスを促進する。tauは、脳の活動的軸索成長円錐微小管の代謝回転/会合の調節物質であることが知られている。化学修飾されたtauタンパク質もアルツハイマー病にみられる神経原線維変化および神経網スレッドの形成および/または組成に関与するようである。
【0051】
本明細書で用いている「MAP2」または「微小管結合タンパク質-2」は、ニューロン樹状突起微小管中に高度に豊富化されている高分子量微小管結合タンパク質である。ある条件下でMAP2は、チューブリンの微小管への会合(重合)に必要であり、会合した微小管を安定化し、その動力学を調節する。
【0052】
本明細書で用いている「STOP」または「安定な細管のみのポリペプチド(Stable Tubule Only Polypeptide)」は、ニューロンCa2+-カルモジュリン調節微小管結合タンパク質である。STOPは、低温、ミリモルのカルシウムまたは薬剤により誘導されるin vitro脱会合に対して無期限に微小管を安定化する。
【0053】
「ニューロン低温(cold)安定微小管」は、薬剤および低温の両方により誘導される脱会合に安定な豊富な軸索微小管サブポピュレーションを意味する。薬剤および低温による微小管脱会合に対する抵抗性は主としてSTOPとのポリマー結合による。
(発明の概説)
【0054】
本明細書に開示する発明は、(1)微小管動力学を直接測定するための新規アイソトープ標識技術の使用による、運動ニューロン疾患に対する新規治療標的、すなわち、ニューロン微小管のダイナミシティ(すなわち、チューブリンからの微小管の特定のサブポピュレーションの会合および脱会合率)の発見;(2)ニューロン微小管のダイナミシティが、アイソトープ標識技術により生存動物またはヒト対象で測定することができ、該動物またはヒト対象における身体症状または神経学的損失の発現前でもALSのような運動ニューロン疾患で顕著に変化するという発見;(3)ALSのような運動ニューロン疾患におけるニューロン微小管のダイナミシティ変化を、限定されるものではないがノスカピン、ノコダゾール、タキサン、および他の薬剤を含むある種の薬剤を単独で、または他のニューロン系、レセプター、または経路を標的とする薬剤と組み合わせて投与することにより調節することができるという知見;(4)ALSのような確立されるかまたは初期の運動ニューロン疾患を有する動物またはヒト対象に対して、ニューロンの微小管の動力学を調節する薬剤の単独または薬剤の組み合わせ投与が、運動ニューロン疾患の神経学的機能の損失を著しく遅らせまたは抑制する(運動ニューロン疾患の徴候および症状の発現を遅延させ、徴候および症状の進行を遅くし、死亡までの時間を延ばし(すなわち、生存の延長)、神経保護療法の成功を示すことを含む)ことができることの発見;(5)神経保護療法をもたらすことを意図した薬剤の投与に応じたALSのような確立されるかまたは初期の運動ニューロン疾患を有する動物またはヒト対象におけるニューロン微小管動力学のモニタリングが、運動ニューロン疾患を有する対象の薬物臨床試験または個々の対象における最適用量、薬剤、薬剤の組み合わせ、投薬計画、治療期間、または最適な治療戦略の他の局面の同定を可能にすること(すなわち、診断的モニタリング)の発見に関する。
【0055】
簡単には、本明細書に記載の発明は、運動ニューロン疾患に対する新規治療標的(ニューロンにおける微小管の動力学の変化);確立された、初期、または潜在的運動ニューロン疾患を有する対象におけるこの治療標的の活性状態の測定方法;運動ニューロン疾患を有する生存対象におけるニューロン微小管動力学を調節する薬剤の発見;そのような薬剤の単独または組み合わせ投与が運動ニューロン疾患を有する生存対象に顕著な神経保護療法(症状の遅延および生存の延長を含む)をもたらし得ることの発見;および治療的介入に応じた運動ニューロン疾患を有する対象におけるニューロン微小管動力学のモニタリングが個々の対象または薬剤の臨床試験の治療計画および戦略の最適化のための診断的モニタリングを可能にすることの発見について説明する。
【0056】
ALSにおける神経保護戦略の使用はかなり魅力がある。しかしながら、今まで、ALSのリスクがある患者を同定する方法がないこと;臨床症状発現前の(preclinical)疾患活性を反映する臨床検査マーカーが無いこと;および治療の最適タイミング、用量または投薬計画を知ることができないことを含む、このアプローチに特有の問題があった。家族性ALSの散発性およびほとんどのタイプについて特異的生化学的マーカーがないこともリスクのある個体を臨床症状発現前に同定することを不可能にしてきた。本発明は、該疾患の真の生化学的発現が臨床的欠陥の発現に先立つことを最初に証明した、ALSの十分確立された動物モデル(SOD1-G93A TGNマウス)における異常な微小管動力学の生化学的測定方法を開示する。したがって、ニューロン微小管動力学の測定は、ニューロンの死をもたらす事象の最終カスケードを抑制する神経保護化合物を使用するための「治療濃度域(therapeutic window)」をもたらし得る。多因子下流病因経路がALSのような運動ニューロン疾患を活性化するので、疾患の進行速度を遅くし、生存を延長するには組み合わせアプローチが必要かもしれない。
【0057】
本発明は、ニューロン微小管動力学はALSのような運動ニューロン疾患では顕著に変化し、また、小丘および軸索シャフト(構造的)微小管の微小管動力学を調節することにより、初期、確立した、または潜在的運動ニューロン疾患を有する対象において運動ニューロン機能の損失を最小化しうるという発見を指向する。これは、運動ニューロン疾患を治療するのに用いる組成物を含む種々の適用、および微小管、運動ニューロン、および運動ニューロン疾患を調節する能力に対して治療方法を最適化し(例えば診断的モニタリングを通して)、候補薬剤をスクリーニングする方法をもたらす。さらに、本発明は、運動ニューロン生理学における異なる時点で作用し、運動ニューロン機能を保つように相乗的に作用する多数の組成物を用いる運動ニューロン機能および疾患の調節を指向する。
【0058】
したがって、本発明は、運動ニューロンにおける微小管動力学を調節する組成物およびその能力について候補薬剤をスクリーニングする方法も指向する。さらに、本発明は運動ニューロン疾患を治療、軽減、または予防するための組成物(単一化合物および化合物の組み合わせ)を提供する。
【0059】
本発明は、運動ニューロン疾患を有する生存動物またはヒト対象の末梢神経に存在する大きく伸長した安定な微小管ポリマーの会合および分解の速度を最初に測定したことに基づく。理論に縛られることなく、ある運動ニューロン疾患は、軸索突起に沿った栄養および他の重要な要素の輸送を担う不可欠な細胞内細胞骨格成分の機能不全から生じるようである。運動ニューロン疾患を有する動物の末梢神経におけるニューロン微小管動力学を直接測定する新規アイソトープ/質量分析技術を用いることによる、軸索突起の微小管ポリマーの著しく増加した代謝回転(すなわち、定常状態の分解および再構築)の本明細書に開示した発見は、分子(軸索突起それ自身の安定性を維持するのに必要な栄養および他の成分を含む)の流れに障害を与えるようである。したがって、本出願人は、本明細書において、新規および基本的メカニズム、すなわち、運動ニューロン疾患を有する生対象において最初に示された軸索突起(または「軸索突起(projection)」)の安定性に関与する微小管の代謝回転の増大(軸索の不安定性および運動ニューロン疾患と関連した生じた症状)を開示する。
【0060】
正常マウスにおいて、坐骨神経の構造的微小管は、チューブリンダイマーからの会合および脱会合、または代謝回転の速度が著しく低い(図1および3参照)。反対に、SODマウスは、坐骨神経の同じ構造的微小管の著しい不安定性またはダイナミシティを示す(図4参照)。重要なことは、坐骨神経の構造的微小管のこの安定性の損失は、挙動的徴候または症状がこれらの動物に観察できる前にみられ、疾患の病因において二次的ではなく一次的役割であることが確認される。したがって、SODマウスの運動ニューロンの軸索輸送の後の損失に先立ち、次いでそれを生じるALSの軸索機能不全は、これらニューロンにおいて軸索微小管ポリマーを安定に保つ制御プロセスの不全によるようである。
【0061】
すなわち、会合および脱会合速度(すなわち、その「ダイナミシティ」)を調節することにより微小管を調節する薬剤は、ALSおよび他の運動ニューロン疾患の核となる病因を治療するかもしれない。微小管調節剤は知られているが、それらがALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーのような運動ニューロン疾患において治療的使用の可能性があるとは認識されていなかった。ALSのSODトランスジェニックマウスモデルにおける軸索機能不全の動態的原理の出願人による同定は、潜在的に新たな治療的役割を有する微小管ダイナミシティの潜在的モジュレーターをもたらした。
【0062】
他のニューロンレセプター、経路、または系に作用する薬剤と組み合わせるかまたは単独で微小管系と相互作用することが知られている薬剤の生存動物への続く投与の結果、微小管ダイナミシティは運動ニューロン疾患における新規および基本的治療標的を示すという発見を確認した。特に、SOD1G93A TGNマウスに対するノスカピン-MK801合剤の投与は、疾患症状の発現を遅らせ、生存時間を延長させる(図6参照)だけでなく、ニューロン微小管ダイナミシティを正常に向かって減少させた(図7参照)。異常な微小管ダイナミシティの部分的正常化(生化学的計量)と臨床疾患の部分的軽減(機能的神経学的結果)の相関は、微小管動力学と運動ニューロン疾患との間の病因学的関連を裏付け、さらなる治療的改善の余地を示唆する(すなわち、変化した微小管動力学を完全に正常化する薬剤を同定することができれば)。
【0063】
薬剤活性の生物マーカーとしての本明細書に記載のSODトランスジェニックマウスの坐骨神経における微小管動力学のアッセイの使用は、ALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーを含む運動ニューロン疾患の新しいクラスの療法の速やかな最適化も可能にする。一般的スクリーニングまたは特定クラスの薬剤のスクリーニングを用いて、最適用量、化合物、投薬計画などを、症状スコアや死亡を待たねばならないのではなく、症状発現前のSODトランスジェニックマウスを用いて速やかに(例えば数日または数週間以内に)試験することができる。
【0064】
本発明は、さらにALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーのような運動ニューロン疾患やニューロパシーを有する患者における微小管動力学のアッセイ方法を提供する。第I/II相臨床試験は、原則として微小管動力学の定量のための坐骨神経の生検を含みうる。すなわち、ALSのような運動ニューロン疾患の真の生物マーカー(すなわち、ALSを有する患者が共有する、該疾患における病因論的役割を果たし、薬剤介入の標的および薬剤効果の計量を示す、測定可能な生化学的異常)のアベイラビリティは、ALS(および他の運動ニューロン疾患)薬剤のクラスを試験するための種々の独特な利点をもたらす。無効な薬剤を速やかに同定し、貴重な臨床試験時間、費用、および患者資源の浪費を避ける。運動ニューロン疾患臨床試験において動態生物マーカーが提供する他の有用性には、用量の最適化、患者の層別化、およびサブグループ分析がある。
アイソトープ標識前駆体の投与
【0065】
本発明方法の第一段階として、アイソトープ標識前駆体を生物系に投与する。「生物系」は、限定されるものではないが細胞、細胞株、疾患の動物モデル、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、他のペット動物、マウス、ラット、非ヒト霊長類、およびヒトが含まれる。「個体」は、脊椎動物、通常哺乳動物、特にヒトであり、「哺乳動物」は、限定されるものではないがヒトおよび非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿およびサル種;家畜、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマ;家畜哺乳類、例えばイヌおよびネコ;齧歯類を含む実験動物、例えばマウス、ラット、およびモルモットなどを含む哺乳類のあらゆるメンバーを意味する。該用語は特定の年齢または性を意味しない。すなわち、成体および新生対象および胎児(雄または雌)に及ぶことを意図する。一般に、本明細書で用いている「被検対象」は、脊髄運動ニューロン微小管動力学の変化、および/または運動ニューロン疾患症状の変化を評価する個体である。
【0066】
試験生物系には種々の生物学的試料が含まれ得るが、一般的に本明細書では運動ニューロン試料を用いる。運動ニューロン試料の例には、限定されるものではないが坐骨神経または末梢神経組織、および脳の運動皮質から得た試料が含まれる。
【0067】
分子流動速度の測定における第一段階は、生物系にアイソトープ標識前駆体分子を投与することを含む。アイソトープ標識前駆体分子の投与方法は、アイソトープ標識前駆体分子の吸収特性および各化合物が標的化される特定の生合成プールに応じて異なり得る。前駆体をin vivo分析のために実験動物およびヒトを含む生物に直接投与することができる。
【0068】
一般的に、適切な投与方法は、少なくとも一時的に生合成プール内のおよび/またはそのようなプールを供給するリザーバー中の前駆体の定常レベルをもたらすものである。静脈内または経口投与経路は、ヒトを含む生物に該前駆体を投与するのに通常使用される。所望により徐放前駆体組成物を組み合わせて用いる時は他の投与経路、例えば皮下投与または筋肉内投与も適している。注射用組成物は、一般的に無菌の医薬的賦形剤を用いて製造される。アイソトープ標識前駆体分子の投与経路の選択は当業者の技術内である。
【0069】
アイソトープ標識前駆体分子は安定なアイソトープまたは放射性同位体であってよい。使用できるアイソトープ標識には、限定されるものではないが2H、13C、15N、18O、3H、14C、35S、32P、125I、131I、または有機系に存在する元素の他のアイソトープが含まれる。
【0070】
ある態様において、アイソトープ標識は2Hである。
【0071】
前駆体分子は、目的とする「モノマー」または「サブユニット」に組み込まれるアイソトープ標識を有するあらゆる分子であってよいか、または該モノマーそれ自身でありうる。アイソトープ標識を用いて本明細書に記載のすべての前駆体分子を修飾しアイソトープ標識前駆体分子を形成することができる。「アイソトープ標識物質」には生物系の目的分子内に組み込むことができるあらゆるアイソトープ標識前駆体分子を含む。アイソトープ標識物質の例には、限定されるものではないが、2H2O、3H2O、2H-グルコース、2H標識アミノ酸、2H標識有機分子、13C標識有機分子、14C標識有機分子、13CO2、14CO2、15N標識有機分子、および15NH3が含まれる。
【0072】
完全前駆体分子は、1またはそれ以上のチューブリンダイマーサブユニット内に組み込むことができる。あるいはまた、該前駆体分子の部分をチューブリンダイマーサブユニットに組み込むことができる。
【0073】
タンパク質前駆体分子は、当該分野で知られたあらゆるタンパク質前駆体分子であってよい。この前駆体分子には、限定されるものではないがCO2、NH3、グルコース、ラクテート、H2O、アセテート、および脂肪酸が含まれる。
【0074】
タンパク質の前駆体分子は1またはそれ以上のアミノ酸を含んでいてもよい。該前駆体はあらゆるアミノ酸であってよい。該前駆体分子は単または多重水素化アミノ酸であってよい。例えば、該前駆体分子は1またはそれ以上の13C-リジン、15N-ヒスチジン、13C-セリン、13C-グリシン、2H-ロイシン、15N-グリシン、13C-ロイシン、2H5-ヒスチジン、およびあらゆる重水素化アミノ酸であってよい。標識アミノ酸は、例えば非標識アミノ酸で希釈するかまたは希釈しないで投与することができる。全てのアイソトープ標識前駆体、市販品を例えばCambridge Isotope Labs(Andover、MA)から購入することができる。
【0075】
タンパク質前駆体分子は、翻訳後または翻訳前修飾アミノ酸のあらゆる前駆体も含みうる。これら前駆体には、限定されるものではないが、メチル化の前駆体(例えばグリシン、セリン、またはH2O);水酸化の前駆体(例えばH2OまたはO2);リン酸化前駆体(例えばホスフェート、H2O、またはO2);プレニル化の前駆体(例えば脂肪酸、アセテート、H2O、エタノール、ケトン体、グルコース、またはフルクトース);カルボキシル化の前駆体(例えばCO2、O2、H2O、またはグルコース);アセチル化の前駆体(例えばアセテート、エタノール、グルコース、フルクトース、ラクトース、アラニン、H2O、CO2、またはO2);グリコシル化の前駆体、および当該分野で知られた他の翻訳後修飾が含まれる。
【0076】
遊離アミノ酸中に存在する標識の程度は、実験的に決定するか、アミノ酸中の標識部位数に基づいて推測することができる。例えば、水素同位体を標識に用いる場合は、体水中の2H2Oに曝露中に遊離アミノ酸のC-H結合、またはより具体的にはtRNA-アミノ酸中に存在する標識を同定することができる。各非必須アミノ酸中のC-H結合の総数は例えばアラニン中に4、グリシン中に2などが知られている。
【0077】
タンパク質の前駆体分子は水(例えば重水)であってよい。タンパク質のO-HおよびN-H結合は水溶液中で不安定なため、C-H結合の水素原子は、2H2Oからのタンパク質合成を測定するのに有用なアミノ酸の水素原子である。2H2OからのO-HまたはN-H結合への2H標識の交換それ自体は、遊離アミノ酸からのタンパク質の合成なしに起きる。C-H結合は、特異的酵素触媒中間代謝反応中にH2Oから遊離アミノ酸への組み込みを受ける。したがって、2H2O投与後のタンパク質結合アミノ酸のC-H結合中の2H標識の存在は、該タンパク質が2H2O曝露期間中に遊離形であったアミノ酸から組み立てられた(例えば該タンパク質が新たに合成される)ことを意味する。分析的には、用いたアミノ酸誘導体は、すべてのC-H結合を含まなくてはならないが、すべての潜在的夾雑N-HおよびO-H結合を除去しなくてはならない。
【0078】
体水からの水素原子(例えば重水素またはトリチウム)が遊離アミノ酸に組み込まれ得る。標識水からの2Hまたは3Hは、中間代謝反応を通して細胞中の遊離アミノ酸中に入ることができるが、2Hまたは3Hは、ペプチド結合に存在するかまたは転移RNAと結合するアミノ酸中に入ることはできない。遊離必須アミノ酸は、急速可逆性アミノ基転移反応を介して体水からの1個の水素原子をα-炭素C-H結合中に組み込むことができる。遊離非必須アミノ酸は、もちろん多数の代謝的に交換可能なC-H結合を含み、新たに合成されたタンパク質中の2H2Oからの1分子あたり高いアイソトープ豊富化値を示すと予期される。
【0079】
当業者は、体水からの標識水素原子は他の生化学的経路を介して他のアミノ酸内に組み込まれ得ると認識するであろう。例えば、水からの水素原子は、クエン酸回路中の前駆体α-ケトグルタレートの合成を介してグルタメートに組み込むことができることが当該分野で知られている。同様にグルタメートはグルタミン、プロリン、およびアルギニンの生化学的前駆体であることが知られている。他の例として体水からの水素原子は、翻訳後修飾アミノ酸(例えば、3-メチル-ヒスチジン中のメチル基、ヒドロキシプロリンまたはヒドロキシリジン中のヒドロキシル基、およびその他)に組み込まれうる。他のアミノ酸合成経路は当業者に知られている。
【0080】
酸素原子(H218O)は、酵素触媒反応を介して18O2からアミノ酸に組み込むこともできる(ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、または他の翻訳後修飾アミノ酸を含む)。例えば、アミノ酸のカルボン酸部分への酸素交換は酵素触媒反応中に生じうる。標識酸素のアミノ酸への組み込みは当業者に知られている。
【0081】
標識水からの水素および酸素標識を、翻訳後修飾を介してアミノ酸に組み込むこともできる。ある態様において、翻訳後修飾はすでに翻訳後修飾前に生合成経路を介して標識水素または酸素を含み得る。別の態様において、翻訳後修飾は、翻訳後修飾(例えば、メチル化、ヒドロキシル化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、カルボキシル化、アセチル化、グリコシル化、または他の知られた翻訳後修飾)工程の前または後に、体水からの遊離交換標識水素に関与する代謝誘導体からの標識水素、酸素、炭素、または窒素を組み込むことができる。
【0082】
対象に投与するのに適したタンパク質前駆体には、限定されるものではないが、上記タンパク質中の標準的アミノ酸に加えて、H2O、CO2、NH3、およびHCO3が含まれる。
【0083】
水はタンパク質および他の生物学的分子の前駆体である(米国特許出願No. 10/279,399(この内容は本明細書の一部を構成する)参照)。標識水自体は、本明細書に記載の方法において前駆体として働きうる。「アイソトープ標識水」は、水素または酸素の1またはそれ以上の特定の重アイソトープで標識された水を含む。アイソトープ標識水の具体例には、2H20、3H2O、およびH218Oが含まれる。
【0084】
H2Oの利用可能性は、おそらく細胞の生合成反応を決して制限しない(H2Oは細胞の内容のほぼ70%または35モル濃度に相当するので)が、H2Oからの水素および酸素原子は、生合成経路に関与する多くの反応(例えば、R-CO-CH2-COOH + NADPH + H2O → R-CH2CH2COOH(脂肪酸合成))に化学量論的に寄与する。
【0085】
結果として、H-またはO-アイソトープ標識水の形で提供されるアイソトープ標識は、合成経路の部分として生物分子中に組み込まれる。水素の組み込みは二通り:分子の不安定な位置(すなわち、酵素触媒反応を必要とせず、急速に交換可能)または安定な位置(すなわち、酵素触媒反応を必要とし、急速に交換可能ではない)に生じうる。酸素の取り込みは安定な位置に生じる。
【0086】
生物分子のC-H結合への細胞水からの水素の組み込み工程のいくつかは、生合成反応シーケンス中の明確な酵素触媒工程中のみに生じ、成熟末端生成物分子中に存在すると不安定(組織中の溶媒水で交換可能である)ではない。例えば、グルコース上のC-H結合は溶液中で交換可能ではない。反対に、以下のC-H位のそれぞれは特異的酵素反応の逆転中に体水で交換される:クレブス回路のオキザロアセテート/スクシネートシーケンスおよびラクテート/ピルベート反応ではC-1およびC-6;グルコース-6-ホスフェート/フルクトース-6-ホスフェート反応ではC-2;グリセルアルデヒド-3-ホスフェート/ジヒドロキシアセトン-ホスフェート反応ではC-3およびC-4;3-ホスホグリセラート/グリセルアルデヒド-3-ホスフェート、およびグルコース-6-ホスフェート/フルクトース-6-ホスフェート反応ではC-5。
【0087】
分子の特定の非不安定位に共有結合的に組み込まれる水からの標識水または酸素原子は、該分子の「生合成歴」を証明する。すなわち、標識の組み込みは、該分子がアイソトープ標識水が細胞水中に存在する期間中に合成されたことを示す。
【0088】
これら生物分子中の不安定な水素(非共有結合するかまたは交換可能な共有結合中に存在する)は、分子の生合成歴を証明しない。しかし、不安定水素原子は、非標識水(H2O)とインキュベーションすることにより(すなわち、2Hまたは3Hが第一位に組み込まれる同じ非酵素交換反応の逆転により)容易に除去することができる:
【化1】
【0089】
結果として、生合成歴を反映しないが非合成交換反応を介して組み込まれる潜在的夾雑水素標識は、実際には天然の豊富なH2Oとインキュベーションすることにより容易に除去することができる。
【0090】
図1は、選択した遊離アミノ酸へのアイソトープ標識水からの標識水素(2Hまたは3H)の交換、次いで、微小管のサブユニットであるチューブリンに組み込まれる経路を示す。図2は、チューブリンダイマーの微小管への組み込みを示す。図3は、ニューロン微小管ポピュレーションを単離および測定する実験戦略を示す。
【0091】
分析方法は、生物分子への標識水素原子の組み込みを定量的に測定するのに利用可能である(例えば、3Hはシンチレーションカウンティング;2Hおよび18Oは質量分析、レーザー分光学、NMR分光学、または当該分野で知られた他の方法)。アイソトープ標識水の組み込み理論に関するさらなる考察は、例えばJungas RL. Biochemistry. 1968 7:3708-17(この内容は本明細書の一部を構成する)参照。
【0092】
標識水は市販品を容易に入手できる。例えば、2H2OはCambridge Isotope Labs(Andover、MA)から購入することができ、3H2OはNew England Nuclear、Inc.から購入することができる。「重水」は、1またはそれ以上の2Hアイソトープを組み込んだ水をいう。一般に、2H2Oは非放射性であり、放射性3H2Oより毒性の心配が少ない。2H2Oは、例えば総体水のパーセントとして例えば消費される総体水の1%を投与することができる(例えば、1日に消費される3リットルの水につき30マイクロリットルの2H2Oが消費される)。3H2Oを利用する場合は、当業者により容易に測定される非毒性量を投与する。
【0093】
2H2Oの比較的高い体水豊富化(例えば、総体水の1〜10%が標識される)は、本発明技術を用いて比較的安価に達成することができる。このレベルはいかなる毒性の徴候もなしにヒトおよび実験動物で数週間または数カ月維持されるので、この水の豊富化は、比較的一定で、安定している。多数のヒト対象(100人)におけるこの知見は、高用量の2H2Oの前庭に対する毒性に関する以前の心配と反対である。出願人の一人は体水豊富化の急速な変化が妨げられる(例えば小量の分割用量の初期投与により)かぎり、2H2Oの高体水豊富化は毒性なしに維持することができることを見出した。例えば、低価格の市販されている2H2Oは、比較的低価格で1〜5%の範囲に豊富化を長期間維持することができる(例えば、計算では、2%2H2O豊富化、すなわちアラニン前駆体プールで7〜8%豊富化で2カ月間の標識は、その期間10%遊離ロイシン豊富化、すなわちロイシン前駆体プールで7〜8%豊富化で12時間の標識より低価格であることが証明される)。
【0094】
18Oアイソトープは毒性がなく、結果として重大な健康的リスクを示さないのでH218Oを投与するための比較的高く、比較的一定の体水豊富化を達成することもできる。
【0095】
アイソトープ標識水は、連続アイソトープ標識水投与、不連続アイソトープ標識水投与を介して、またはアイソトープ標識水投与の単回または多回投与後に投与してよい。連続アイソトープ標識水投与において、アイソトープ標識水は個体に時間とともに比較的一定の水豊富化を維持するのに十分な時間個体に投与される。連続方法では、標識水を定常状態の濃度を達成するのに十分な時間(例えばヒトでは3〜8週間、齧歯類で1〜2週間)最適に投与される。
【0096】
不連続アイソトープ標識水投与において、アイソトープ標識水の量を測定し、次いで1回またはそれ以上投与し、次いでアイソトープ標識水に対する曝露を中止し、体水プールからアイソトープ標識をウオッシュアウトさせる。次に、脱標識の時間経過をモニターすることができる。生物分子中検出可能なレベルに達するまで十分な期間水を最適に投与する。
【0097】
アイソトープ標識水は、当該分野で知られた種々の方法で個体または組織に投与することができる。例えば、アイソトープ標識水は、経口的、非経口的、皮下、血管内(例えば、静脈内、動脈内)、または腹腔内に投与することができる。Isotec、Inc.(Miamisburg OH、and Cambridge Isotopes、Inc.(Andover、MA))を含む2H2OおよびH218Oの種々の商業的供給源が利用可能である。投与するアイソトープ標識水のアイソトープ含有量は、約0.001%〜約20%の範囲であり得、生物分子のアイソトープ含有量を測定するのに用いる装置の分析感度に依存する。ある態様において、飲用水中4%2H2Oが経口投与される。別の態様において、ヒトは50mLの2H2Oを経口投与される。
【0098】
標識水を投与される個体は哺乳動物であり得る。ある変化において、個体は実験動物であってよい(限定されるものではないが、齧歯類、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタを含む)。薬剤、薬剤候補、薬剤リード、またはその組み合わせの投与を含む変化において、個体は、哺乳動物、例えば、許容される動物疾患モデルを含む実験動物またはヒトでありうる。食品添加物、工業用または職業用化学薬品、環境汚染物質、または化粧品の投与を含む変化において、個体はあらゆる実験動物、例えば限定されるものではないが齧歯類、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタであってよい。
目的とする1またはそれ以上の標的化チューブリンまたは微小管ポリマー分子の取得
【0099】
本発明方法の実施において、ある局面ではタンパク質は当該分野で知られた方法に従って生物系から得られる。一般的には、試料は、被検対象の種々の部位から得ることができる運動ニューロン(例えば、脳の運動皮質、坐骨神経、末梢神経)を含み、坐骨神経が特に有用である。
【0100】
複数の微小管ポリマーおよび/または遊離チューブリンダイマーサブユニットが、神経生物学の分野でよく知られる技術を用いて生物系から得られる。1またはそれ以上の生物試料は、1またはそれ以上の体液または組織、例えば神経組織であってよい。タンパク質は、特定グループの細胞(例えばニューロン)または他の成長もしくは非成長細胞から得ることができる。タンパク質は、当該分野で知られた標準的な生化学的方法を用いて生物試料から得、所望により部分生成または単離することができる。特に、種々の微小管分画(tau-MT、STOP-MTなど)はPCT/US2005/028069に記載のごとく単離される。
【0101】
生物学的サンプリングの頻度は種々の因子に応じて変化しうる。そのような因子には、限定されるものではないが、サンプリングのし易さと安全性、タンパク質の合成および分解/除去速度、細胞、動物、またはヒトに投与する治療候補薬剤の半減期が含まれる。
【0102】
タンパク質は、アッセイの要求に応じて、1またはそれ以上の生物試料から部分精製および/または単離することができる。一般に、微小管ポリマーおよび/またはチューブリンダイマーサブユニットは、試料中にどのような他の成分が存在するかに応じて当業者に知られた種々の方法で単離または精製することができる。標準的精製法には、電気泳動、分子的、免疫学的、およびクロマトグラフィ技術(イオン交換、疎水性、アフィニティ、および逆相HPLCクロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ(FPLC)、化学抽出、薄相クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、およびクロマトフォーカシングを含む)が含まれる。例えば、あるタンパク質は、標準的抗体カラムを用いて精製することができる。タンパク質濃縮とともに限外ろ過および膜分離技術も有用である。適切な精製技術の一般的指針についてはScopes、R.、Protein Purification、Springer-Verlag、NY(1982)参照。必要な精製度はアッセイおよび該系の成分に応じて変化するであろう。ある場合は精製は必要ない。
【0103】
別の態様において、タンパク質を加水分解または分解し、より小さな分子を形成してよい。加水分解法には、限定されるものではないが、化学的加水分解(例えば酸加水分解)および生化学的加水分解(例えばペプチダーゼ分解)を含む当該分野で知られたあらゆる方法が含まれる。加水分解または分解は、タンパク質の精製および/または単離の前または後に行ってよい。タンパク質は、HPLC、FPLC、ガスクロマトグラフィ、ゲル電気泳動、および/または当業者に知られたあらゆる他の化学的および/または生化学的化合物分離法を含む常套的精製法により部分精製、または所望により単離することもできる。
分 析
【0104】
タンパク質中のアイソトープの豊富化は、当該分野で知られた種々の方法、例えば、NMR、レーザー分光法、液体シンチレーション計測、ガイガーカウンター、および質量分析法により測定することができる。質量分析法を用いる方法では、限定されるものではないが、ガスクロマトグラフィ-質量分析法(GC-MS)、アイソトープ-比質量分析法、GC-アイソトープ比-燃焼-MS、GC-アイソトープ比-熱分解-MS、液体クロマトグラフィ-MS、電気スプレーイオン化-MS、マトリックス支援レーザー脱離-飛行時間-MS、フーリエ変換-イオン-サイクロトロン-共鳴-MS、およびサイクロイダル-MSを含む本発明で使用される種々のタイプの質量分析器がある。
【0105】
質量分析計は、タンパク質のような分子を急速に動くガス状イオンに変換し、それをその質量/荷電比に基づいて分離する。すなわち、イオンまたはイオン断片のアイソトープまたはアイソトポローグ(isotopologue)の分布を用いて、複数のタンパク質のアイソトープ豊富化を測定することができる。
【0106】
一般的には、質量分析計は、イオン化手段と質量分析器を含む。多くの種々のタイプの質量分析器が当該分野で知られている。これらには、限定されるものではないが、磁場分析器、電気スプレーイオン化、四重極、イオントラップ、飛行時間質量分析器、およびフーリエ変換分析器が含まれる。
【0107】
質量分析計は、多くの種々のイオン化法も含みうる。これらには、限定されるものではないが、ガス相イオン化供給源、例えば電子衝撃、化学イオン化、および電場(フィールド)イオン化、および脱離供給源、例えば電場脱離、高速原子衝撃、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、および表面増強レーザー脱離/イオン化が含まれる。
【0108】
さらに、2またはそれ以上の分析器を組み合わせて(MS/MS)最初に前駆体イオンを分離し、次いでガス相断片イオンを分離し測定することができる。これら装置は、タンパク質の最初のイオン化断片を生じ、次いで最初のイオンの第二断片を生じる。
【0109】
異なるイオン化法も当該分野で知られている。ある重要な進歩は、タンパク質を含む大きな非揮発性高分子のイオン化技術の開発であった。この種の技術は、電気スプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離を含んでいる。これらは、MSに強力な試料分離導入技術、例えば液体クロマトグラフィおよびキャピラリーゾーン電気泳動と組み合わせて適用することを可能にした。
【0110】
さらに、質量分析計を、分離手段、例えばガスクロマトグラフィ(GC)および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)と連結してよい。ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)において、ガスクロマトグラフィからのキャピラリーカラムを、所望によりジェット分離器を用いて質量分析計と直接連結する。そのような適用において、ガスクロマトグラフィ(GC)カラムは試料ガス混合物から試料成分を分離し、分離した成分をイオン化し、次いで質量分析計で化学的に分析する。
【0111】
一般的には、タンパク質のベースラインマスアイソトポマー頻度分布を測定するため、そのような試料をとり、次いでアイソトープ標識前駆体を注入する。そのような測定は、細胞、組織、または器官中のタンパク質の天然のマスアイソトポマー頻度を確立する一手段である。細胞、組織、または器官が同様な環境歴を有する対象のポピュレーションの部分である場合は、ポピュレーションアイソトポマー頻度分布をそのようなバックグラウンド測定に用いることができる。さらに、そのようなベースラインアイソトポマー頻度分布は、アイソトープの既知の平均天然存在度を用いて推定することができる。例えば、天然では有機炭素中に存在する13Cの天然存在度は1.11%である。そのようなアイソトポマー頻度分布の測定方法について以下に考察する。典型的には、タンパク質試料をアイソトープ標識前駆体分子の投与前および投与後に得る。
【0112】
ある態様において、相対および絶対マスアイソトポマー存在度を測定する。測定したマススペクトルのピークの高さまたはピーク下面積を親(ゼロマスアイソトープ)アイソトポマーに対する比として表現することができる。試料中のアイソトポマーの存在度の相対値および絶対値をもたらすあらゆる計算手段を本発明の目的でそのようなデータを説明するのに用いることができる。
【0113】
ある態様において、微小管ポリマーのようなタンパク質の標識:非標識比を計算する。次に、目的分子(例えばチューブリンダイマー、微小管ポリマー)の標識および非標識比を計算する。実施者は最初に分子の単離アイソトポマー種の測定される過剰モル比を決定する。次に、実施者は理論的パターンと過剰比の測定される内在パターンを比較する。そのような理論的パターンは、米国特許No.5,338,686、5,910,403、および6,010,846(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載の二項式または多項式分布関係を用いて計算することができる。計算法は、マスアイソトポマー分布分析(MIDA)を含みうる。マスアイソトポマー分布分析(MIDA)コンビナトリアルアルゴリズムの変動は当業者に知られた多くの種々の情報源に記載されている。該方法は、Hellerstein and Neese(1999)、ならびにChinkes、et al.(1996);Kelleher and Masterson(1992)、および米国特許出願No.10/279,399(これらの内容は本明細書の一部を構成する)にさらに記載されている。
【0114】
上記参考文献に加え、該方法を実行する計算ソフトウエアは、Professor Marc Hellerstein、University of California、Berkeleyから公的に利用可能である。
【0115】
理論的パターンに対する過剰モル比の比較は、目的分子について作製した表を用いるか、測定した関係を用いてグラフ的に行うことができる。これらの比較からp値のような値を決定し、前駆体サブユニットプール中のサブユニットのマスアイソトープ豊富化の確率(probability)を説明する。次に、この豊富化を用いて各マスアイソトポマーについて新たに合成されたタンパク質の豊富化を説明するAx*値のような値を決定し、すべてのアイソトポマーが新たに合成されたら存在すると予期されるアイソトポマー過剰比を明らかにする。
【0116】
次に、分画存在度を計算する。個々のアイソトープ(元素について)またはマスアイソトポマー(分子について)の分画存在度はその特定のアイソトープまたはマスアイソトポマーにより示される総存在度の分画である。これは相対存在度と区別され、最も豊富な種が値100を与えられ、すべての他の種が100に対して正規化され、相対存在度パーセントとして表される。マスアイソトポマーMχについて、
【0117】
Mχの分画存在度 =
【化2】
(ここで、0〜nは存在度が生じる最低質量(MO)マスアイソトポマーに対する名目質量の範囲である。)。
【0118】
Δ分画存在度(豊富化または枯渇) =
【化3】
(ここで、下付き文字eは豊富化を表し、bはベースラインまたは天然存在度を表す。)。
【0119】
前駆体投与の期間中に実際に新たに合成されたポリマー分画を決定するため、測定した過剰のモル比(EMx)を計算した豊富化値Ax*と比較して、各マスアイソトポマーについて新たに合成された生体ポリマー(例えば微小管)の豊富化を説明し、すべてのアイソトポマーが新たに合成されていた場合に存在すると予期されるアイソトポマー過剰比を明らかにする。
【0120】
ある態様において、分子流量比を計算する。微小管の重合および/または脱重合比の測定方法には、前駆体プール中の微小管のマスアイソトープ標識サブユニットの割会を計算し、この割合を用いて微小管の少なくとも1のマスアイソトープ標識サブユニットを含む微小管の期待度数(expected frequency)を計算することを含む。次にこの期待度数を実際の実験的に決定したアイソトポマー度数と比較する。これらの値から、選択した組み込み器官中に加えたアイソトープ標識前駆体から形成される微小管の割合を決定することができる。すなわち、そのような期間中の合成速度も決定する。定常期濃度の系において、または該系中の濃度のあらゆる変化が測定可能であるかまたは該期間中に知られている時に、それにより脱会合速度も当該分野で知られた計算法を用いて分かる。次に、前駆体-生成物関係を適用する。連続標識法に関して、アイソトープの豊富化を漸近(例えば最大可能な)豊富化および速度論的パラメータ(例えば合成速度)を前駆体-生成物方程式から計算する。分画合成速度(ks)は、連続標識前駆体-生成物式:
ks = [-In(1-f)]/t
(ここで、f = 分画合成 = 生成物の豊富化/漸近前駆体/豊富化、およびt = 試験した系において接触する標識投与時間。)
を適用することにより決定することができる。
【0121】
不連続標識法では、アイソトープの豊富化の減少速度を計算し、サブユニットの速度論的パラメータを指数関数減衰方程式から計算する。該方法の実施において、微小管は、通常微小管の複数のマスアイソトープ標識サブユニットを含むマスアイソトポマーに豊富化される。微小管のこれら高マスアイソトポマー(例えば、3または4個のマスアイソトープ標識チューブリンを含むタンパク質)は外因性前駆体(例えば、2H2O)の非存在下では天然マスアイソトープ標識前駆体(例えば、2H2O)の比較的低存在度により極小量形成されるが、前駆体の取り込み期間中(例えば、細胞、組織、器官、または生物への2H2Oの投与中)に多量に形成される。微小管を、連続時点で細胞、組織、臓器、または生物から得、質量分析法により分析して高マスアイソトポマーの相対度数を決定するか、微小管由来のサブユニットの高マスアイソトポマーの相対度数を決定する。高マスアイソトポマーは第一時点の前にほぼ排他的に合成されるので、2時点間のその減衰は該サブユニットの減衰速度の直接測定値をもたらす。複数マスアイソトープ標識サブユニットを含まないマスアイソトポマーの減衰速度は本明細書に記載の方法により使用および計算することもできる。
【0122】
通常、第一時点は、投与方法に応じて前駆体(例えば、2H2O)の投与中止後少なくとも2〜3時間であり、マスアイソトープ標識サブユニット(例えば、微小管ポリマーでは標識チューブリンダイマー)の割合が前駆体投与後のその最高レベルから実質的に減衰していることを保証する。ある態様において、次の時点は典型的には第一時点後1〜4時間であるが、このタイミングは該バイオポリマープールの交換速度に依存する。
【0123】
微小管の減衰速度は、アイソトープ標識サブユニットの減衰曲線から決定する。減衰曲線が種々の時点で定義されるこの例において、減衰速度論は該曲線を指数減衰曲線に適合させ、これから減衰定数を決定することにより決定することができる。
【0124】
分解速度定数(kd)は、指数または他の速度論的減衰曲線:
kd = [-In f]/t
に基づいて計算することができる。
運動ニューロン疾患のモジュレーターのスクリーニング法
【0125】
本発明は、運動ニューロン疾患のモジュレーターのスクリーニング法を提供する(図4〜7、10参照)。この文脈において「モジュレーター(調節物質)」は、活性のアゴニストおよびアンタゴニストを意味し、アンタゴニストが特に有用である。モジュレーターは、機能異常の活性を抑制し、あらゆる関連担体の副作用を最小限にするように選択する。
【0126】
本発明は、部分的には、運動ニューロンの微小管動力学をもたらす生化学的経路が運動ニューロン疾患の治療をもたらすという発見を指向する。したがって、ある態様において、本発明は、軸索微小管ダイナミシティを変化させ、運動ニューロン疾患の症状を治療、予防、または軽減することができる薬剤を同定するための候補薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【0127】
一般的には、本発明で使用する3クラスの候補薬剤がある。第一クラスは、微小管動力学を調節する能力、および特に、軸索シャフト微小管および成長円錐および/またはMAP2微小管を区別する能力を評価する一般候補薬剤からなる。すなわち、本発明が概説するように、微小管のこれら2つのプールは非常に異なるチューブリン交換動力学を示し、軸索微小管を選択的に安定化する薬剤を特に使用する。すなわち、候補薬剤ライブラリーのスクリーニングは、微小管動力学および運動ニューロン機能障害を変化させる(例えば修飾する)薬剤について行う。
【0128】
第二に、経路特異的候補薬剤を試験することができる。この態様において、微小管交換動力学に影響することが疑われるか知られている薬剤を本明細書に概説した運動ニューロン系で試験する。
【0129】
さらに、運動ニューロン疾患に関連することが知られているが、微小管以外のニューロン系に作用すると一般に考えられている多くの生化学的事象がある。ある場合には、これら生化学的事象は運動ニューロンのレベルで作用しており、他の場合にはこれら事象は、CNSおよび末梢神経系(PNS)疾患の両方の進行に影響しうる後期の事象と関連する。例えば、後期パーキンソン病において、運動ニューロン活性は崩壊しうる。同様に、後期ALSにおいて、小グリア活性化が生じる。したがって、本明細書に記載のものを含む組み合わせ療法アプローチは非常に有用でありうる。すなわち、本発明は、神経保護活性のリードアウトとして微小管動力学を用い、これら疾患状態に関与することが知られている薬剤および薬剤の組み合わせを評価するために提供される。これらさらなる経路には、小グリア活性化と関連する炎症および酸化ストレスと関連する経路、および当該分野で知られた他のものが含まれる。
一般候補薬剤
【0130】
ある態様において、候補薬剤の運動ニューロンの微小管活性を調節する能力についてスクリーニングする。本明細書で用いる「候補薬剤」または「候補薬」は、本明細書に記載の活性についてスクリーニングすることができる、あらゆる分子、例えば、抗体および酵素を含む生物学的治療法剤を含むタンパク質、既知の薬剤および薬剤候補を含む小有機分子、多糖類、脂肪酸、ワクチン、核酸などを説明する。この文脈において、「一般的」候補薬剤は、微小管、運動ニューロン、および/または運動ニューロン疾患の調節との関連が知られていない。
【0131】
候補薬剤は、多くの化学物質を含む。ある態様において、候補薬剤は、有機分子、通常分子量100以上約2,500ダルトン以下の小有機化合物である。分子量100以上約2,000ダルトン以下の小有機化合物が特に有用であり、約1500ダルトン以下がより有用であり、約1000ダルトン以下がより有用であり、500ダルトン以下がより有用である。候補薬剤はタンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、典型的にはアミン、カルボニル、ヒドロキシル、およびカルボキシル基の少なくとも1つ、通常、官能的化学基の少なくとも2つを含む。候補薬剤は、しばしば、環状炭素またはヘテロ環状構造、および/または上記官能基の1またはそれ以上で置換された芳香族または多芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的アナログ、またはその組み合わせを含む生物分子にも見出される。
【0132】
候補薬剤は、合成または天然化合物のライブラリーを含む種々の供給源から得られる。例えば、無作為化オリゴヌクレオチドおよびペプチドの発現および/または合成を含む種々の有機化合物および生物分子の無作為および方向性のある合成に多くの手段が利用可能である。あるいはまた、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーを利用できるか、または容易に製造される。さらに、天然または合成的に生成したライブラリーおよび化合物は常套的化学的、物理的、および生化学的手段を通して容易に修飾される。既知の薬剤を、指向性または無作為化学修飾、例えばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化し、構造的アナログを製造することができる。
【0133】
候補生物活性薬剤はタンパク質でありうる。本明細書において「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドを含む少なくとも2の共有結合アミノ酸を意味する。タンパク質は、天然アミノ酸、およびペプチド結合、または合成ペプチド模倣構造でできていてよい。したがって、本明細書で用いている「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリン、およびノルロイシンは、本発明のためのアミノ酸と考えられる。「アミノ酸」は、イミノ酸残基、例えばプロリンおよびヒドロキシプロリンも含む。該側鎖は、(R)または(S)配置のいずれでもよい。特定の有用な態様において、該アミノ酸は(S)または(L)配置である。非天然側鎖を用いる場合は、非アミノ酸置換基を用い、例えばin vivo分解を防ぐか遅らせることができる。
【0134】
候補生物活性薬剤は、天然タンパク質または天然タンパク質の断片であってもよい。すなわち、例えばタンパク質を含む細胞抽出物、またはタンパク質様細胞抽出物の無作為または指向性消化物を用いることができる。このように、原核性および真核性タンパク質のライブラリーを、本明細書に記載の系を用いてスクリーニングするために作製してよい。この態様において、細菌、真菌、ウイルス、および哺乳動物タンパク質が有用であり、後者が特に有用であり、ヒトタンパク質が特に有用である。
【0135】
候補薬剤は、タンパク質の1つの群である抗体であってよい。用語「抗体」は、完全長および当該分野で知られた抗体断片(Fab、Fab2、一本鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体、ヒト化およびヒト抗体など(全抗体の修飾により製造されるかまたは組換えDNA技術を用いてde novoで合成されるもの)およびその誘導体を含む)を含む。
【0136】
候補生物活性薬剤は核酸でありうる。「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または本明細書中の文法的等価物は一緒に共有結合した少なくとも2のヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は、一般的にリン酸ジエステル結合を含むであろうが、ある場合には下記のごとく、例えばホスホラミド(Beaucage、et al.、Tetrahedron、49(10):1925(1993)およびその中の参考文献;Letsinger、J. Org. Chem.、35:3800(1970);Sprinzl、et al.、Eur. J. Biochem.、81:579(1977);Letsinger、et al.、Nucl. Acids Res.、14:3487(1986);Sawai、et al.、Chem. Lett.、805(1984)、Letsinger、et al.、J. Am. Chem. Soc、110:4470(1988);およびPauwels、et al.、Chemica Scripta、26:141(1986))、ホスホロチオエート(Mag、et al.、Nucleic Acids Res.、19:1437(1991);および米国特許No. 5,644,048)、ホスホロジチオエート(Briu、et al.、J. Am. Chem. Soc、111:2321(1989))、O-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein、Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach、Oxford University Press参照)、およびペプチド核酸バックボーンおよび結合(Egholm、J. Am. Chem. Soc、114:1895(1992);Meier、et al.、Chem. Int. Ed. Engl.、31:1008(1992);Nielsen、Nature、365:566(1993);Carlsson、et al.、Nature、380:207(1996)参照(これらの内容は本明細書の一部を構成する))を含む代替バックボーンを有し得る核酸アナログを含む。他のアナログ核酸には、正(positive)バックボーン(Denpcy、et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、92:6097(1995));非イオン性バックボーン(米国特許No. 5,386,023;5,637,684;5,602,240;5,216,141;および4,469,863;Kiedrowshi、et al.、Angew. Chem. Intl. Ed. English、30:423(1991);Letsinger、et al.、J. Am. Chem. Soc、110:4470(1988);Letsinger、et al.、Nucleoside & Nucleotide、13:1597(1994);Chapters 2 and 3、ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cook;Mesmaeker、et al.、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett.、4:395(1994);Jeffs、et al.、J. Biomolecular NMR、34:17(1994);Tetrahedron Lett.、37:743(1996))、および非リボースバックボーン(米国特許No. 5,235,033および5,034,506、およびChapters 6 and 7、ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cookに記載のものを含む)を有するもの、およびペプチド核酸が含まれる。1またはそれ以上の炭素環式糖を含む核酸も核酸の定義内に含まれる(Jenkins、et al.、Chem. Soc. Rev.、(1995) pp. 169-176参照)。種々の核酸アナログがRawls、C & E News、June 2、1997、p.35に記載されている。これらの内容は本明細書の一部を構成する。リボース-ホスフェートバックボーンのこれらの修飾は、標識のようなさらなる成分の付加を促進するか、または生理学的環境におけるそのような分子の安定性および半減期を増加するために行うことができる。さらに、天然核酸およびアナログの混合物を作製することができる。あるいはまた、異なる核酸アナログの混合物および天然核酸およびアナログの混合物を作製することができる。核酸は、規定したように一本鎖または二本鎖であるか、または二本鎖および一本鎖配列(制限断片、ウイルス、プラスミド、クロモソームなどを含む)の部分を含んでよい。核酸は、DNA(ゲノムDNAおよびcDNAの両方)、RNA、またはハイブリッドであってよく、ここで、該核酸は、デオキシリボ-およびリボヌクレオチドのあらゆる組み合わせおよび塩基のあらゆる組み合わせ(ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサタニン(xathanine)、ヒポキサタニン(hypoxathanine)、イソシトシン、イソグアニン、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルクエオシン、5-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、シュードウラシル、クエノシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、クエノシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンなどを含む)を含む。本発明の文脈において、特記しない限り、ヌクレオシド(リボース+塩基)およびヌクレオチド(リボース、塩基、および少なくとも1のホスフェート)は本明細書において互換性に用いることに留意すべきである。
【0137】
タンパク質について一般的に上記したように、核酸候補生物活性薬剤は、天然核酸、任意および/または合成核酸であり得る。例えば、原核性または真核性ゲノムの消化物をタンパク質について上記したように用いることができる。さらに、RNAはこの中に含まれる。
経路に基づく(パスウェイベースの)候補薬剤のスクリーニング
【0138】
上記のように、一般的候補薬剤に加え、本発明は、微小管活性、運動ニューロン機能障害、および/または運動ニューロン疾患のモジュレーターのスクリーニングに用途がある。本明細書において「微小管活性」は、種々の微小管生物活性の1つを意味し、これには限定されるものではないが、微小管重合および/または脱重合の速度、ある細胞位置から別の位置に細胞成分の輸送を持続させる能力、微小管の細胞骨格機能などが含まれる。
【0139】
一般に、スクリーニングされる2タイプの経路に基づく候補薬剤:微小管活性に関与することが知られているかまたは推測されるもの、および運動ニューロン疾患と関連する他の生化学事象に関与するもの、がある。
【0140】
したがって、本発明のある態様において、経路に基づく候補薬剤のスクリーニングを利用する。
微小管標的調節剤(MTMA)
【0141】
ある態様において、微小管標的調節剤を試験する。本明細書において「微小管標的調節剤」または「MTMA」は、微小管重合および/または脱重合の速度に影響し、特に微小管の不安定性(すなわち、ダイナミシティ)を減少させるか遅くすることが以前に認識されているか提唱されている薬剤を意味する。
【0142】
ある態様において、MTMAは、オピオイドおよびオピオイド誘導体である。オピオイドには以下の4つの一般的なクラスがある:体内で生成される内因性オピオイドペプチド;オピウムアルカロイド、例えばモルフィン(原型的オピオイド)およびコデイン;半合成オピオイド、例えばヘロインおよびオキシコドン;および完全合成オピオイド、例えば、ペチジンおよびメタドン(オピウムアルカロイドと無関係な構造を有する)。
【0143】
ある態様において、MTMAはオピウムアルカロイドである。ある態様において、オピウムアルカロイドは、米国特許No. 6,376,516(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載のようなノスカピンまたはノスカピン誘導体である。ノスカピンは、鎮痛または抗痙攣活性を欠くオピウムアルカロイドであり、他のオピオイド(例えばモルフィン)と異なり、麻薬性または中毒性化合物ではない。さらに、他の微小管相互作用薬剤、例えばパクリタキセル、ノコダゾール、ビンブラスチン、およびコルヒチンと異なり、ノスカピンは、総チューブリンポリマー質量に影響を与えず、in vitroおよび生細胞の両方で微小管会合の定常期ダイマー/ポリマー平衡を変化させずに微小管動力学を修飾する。ノスカピンは、血液脳関門を通過し、CNS組織(脳および脊髄)およびPNSにも長い半減期を有する。したがって、本発明者らはノスカピンが、本発明者らが発見した微小管動力学の変化のような細胞骨格の異常に関連したCNSおよびPNS障害の潜在的微小管相互作用化学療法剤であることを確認した(図4〜7参照)。ノスカピンは、現在、ヒトで鎮咳剤として使用可能である。MTMAとして有用な他のオピウムアルカロイドは、フェナントレン、イソキノリン、およびパパベリンがある。
【0144】
さらに、カンナビノイドは、単独または他の薬剤と組み合わせたスクリーニングへの用途が見出される。カンナビノイドは、CB1およびCB2レセプターを含む体内の内在性カンナビノイドレセプターを活性化する1群の化学物質である。現在、カンナビノイドには以下の3つの一般的タイプがある:薬用カンナビノイドは大麻植物に独自に生じ;内因性カンナビノイドはヒトおよび他の動物体内で産生され;合成カンナビノイドは実験室で製造される同様の化合物である。適切な薬剤には、限定されるものではないが、アナンダミドおよびアナンダミドアナログ、ドコサテトラエニルエタノールアミド、およびホモ-γ-リノエニルエタノールアミド;エンドカンナビノイド、例えば2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、パルミトイルエタノールアミド、およびオレアミド;テトラヒドロカンナビノール(THC)、特にマリノール(Δ9-THC)、カンナビジオール(CDB);カンナビノール(CBN);カンナビゲロール;カンナビクロメン;カンナビシクロール;カンナビバロール;テトラヒドロカンナビバリン;カンナビジバリン;カンナビクロメバリン;カンナビゲロバリン;カンナビゲロールモノエチルエーテル、CP-55940;HU-210 100;SR-144526;およびナビロンが含まれる。
【0145】
他の経路に基づく候補薬剤は、イオン、特にカルシウムおよびナトリウムの細胞内濃度を標的とするものである。カルシウムの細胞内濃度は、微小管形成および安定性に関与することが知られており、(特に細胞内カルシウム濃度を減少させることにより)細胞内カルシウムを調節する薬剤は、特にスクリーニングする興味がもたれる。
イオンチャンネルアンタゴニスト
【0146】
主な興奮性神経伝達物質であるL-グルタメート経路に関与するリガンド依存性イオンチャンネル(イオノトロピックレセプター)には3つの主なタイプがある。NMDA、AMPA、およびカイネートレセプターがあり、その各モジュレーターは本発明の経路(パスウェイ)スクリーニングに用途が見出される。
NMDAレセプターアンタゴニスト
【0147】
NMDAレセプターは、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)による選択的活性化により最初に同定された。NMDAレセプターは、NR1サブユニット、および4つの分離した遺伝子産物の1つ(NR2A-D)でありうるNR2サブユニットの組立物からなる。両サブユニットの発現は機能的チャンネルを形成するのに必要である。グルタメート結合ドメインは、NR1およびNR2サブユニットの接合部に形成される(したがって、発現する両サブユニットに必要)。グルタメートに加えて、NMDAレセプターは、該レセプターを機能させるのに結合させるコアゴニストであるグリシンを必要とする。グリシン結合部位はNR1サブユニット上にみいだされる。NR2Bサブユニットは、NMDAレセプターの機能を調節する調節分子であるプロイアミン(ployamine)に対する結合部位も有する。グルタメート(NMDA)結合部位に加えて、NMDAレセプター上には調節化合物に対する複数の結合部位もある。効率的なNMDAレセプターの活性化には、NMDAだけでなくグリシンも必要である。活性化はポリアミンの結合により調節することもできる。各結合部位(グルタメート、グリシン、ポリアミン)は、レセプターおよびサブタイプ選択的化合物両方の開発用の潜在的標的として用いられてきた。
【0148】
NMDA阻害剤は、競合的および非競合的阻害剤のいずれでもあり得、該結合部位のいずれかと結合することができる。すなわち、適切なNMDAレセプターアンタゴニストには、限定されるものではないが、アマンタジン;ケタミン;デキストロメトルファン(3-メトキシ-17-メチル-9α,13α,14α-モルフィナナ臭化水素一水和物);ジゾシリピン(MK-801としても知られる);AP-7(2-アミノ-7-ホスホノヘプタン酸);APV(AP-5とも呼ばれる);2-アミノ-5-ホスホノバレレート;DCKA(5,7-ジクロロキネウレン酸;グリシン部位に作用する)、ハルコセリド(アセトアミド-N-ベンジル-3-メトキシプロピオネート、およびその代謝物、H-209);ホモキノリン酸、(R)-AP5;(R)-CPP-エン;PBPD;メナンチン;ケタミン;L-701-324;L-689,560;GV196771A;RO25-6981;イフェンプロジル;Co-101676;GW468816(グリシン部位アンタゴニスト)が含まれる。
【0149】
これら阻害剤のいくつかを図6に示す。
【0150】
ジゾルシピンが特に興味深く、ジゾルシピンは、イオンチャンネルNMDA-レセプターを介してニューロン内へのカルシウムの過剰な流入を減少させるカルシウムチャンネルブロッカーとして同定されている。それは、グルタミン酸作動性NMDA-タンパク質サブタイプの競合的アンタゴニストとしても分類されており、血液脳関門を通過する。グルタミン酸誘導興奮毒性は複雑で多元的であるが、ニューロン損傷および死に介在する最終的事象の主な要素である。それは、NMDA-レセプターを介したカルシウムの過剰な流入を含む。
酸化ストレスのモジュレーター
【0151】
MTMAおよびレセプターアンタゴニストに加えて、他の経路選択的薬剤には、運動ニューロンの酸化ストレスをもたらすものが含まれる。これには、ビタミンE、プロシステイン、N-アセチルシステイン、リポ酸、および種々のタイプのニトロンのような一般的抗酸化剤が含まれる。
小グリアの活性化
【0152】
神経炎症(neuroinflammation)は、運動ニューロン疾患の重要な原因として最近浮上してきた。例えば、ALS組織は、散発性および家族性ALSの両方およびSODトランスジェニックマウスモデルに観察される炎症性変化を特徴とする。それらは大量の活性化小グリアと星状細胞(アストロサイト)の蓄積を含む。前炎症サイトカイン、例えば腫瘍壊死因子(TNF)は、ALSを強く促進調節する。腫瘍壊死因子のレセプター(TNF-R1)は、疾患の症状期と後期前症状期に上昇する。TNFは、ALSの神経炎症の主な要因として作用するか、種々の共刺激サイトカインおよびケモカインはTNFの効果を高めるように作用する。これらの変化は、パーキンソン病を含む他の運動ニューロン疾患、および糖尿病性ニューロパシーを含む種々の末梢ニューロパシーにも観察される。
【0153】
ALSにおける効果を試験している種々の候補抗炎症薬があり、これには限定されるものではないが、ミノサイクリンおよびタリドミドが含まれる。
【0154】
すなわち、本発明は、これら薬剤や他の候補薬剤、特に微小管標的調節剤(MTMA)(そのいくつかは上記している)、イオンチャンネルアンタゴニスト(そのいくつかは上記している)、抗酸化剤、銅キレート剤、二酸化窒素阻害剤、およびペルオキシ亜硝酸のスカベンジャー、および神経栄養因子を試験するために提供される。
様々な薬剤
【0155】
さらに、抗グルタメート剤、他の抗炎症剤、および他の抗痙攣薬をすべて試験することができる。もちろん、本発明は、あらゆる特定クラスの化合物中のあらゆる特定化合物によって限定されない。あらゆる化合物または化合物のあらゆる組み合わせは、本発明の方法で使用することが想定される。
医薬組成物
【0156】
本明細書に記載したように、運動ニューロン疾患、特にALSを治療するのに用いることができる種々の医薬組成物がある。ある態様において、該医薬組成物は、本明細書に記載のMTMA剤および医薬担体を含む。この態様において、ノスカピンは格別の用途がある。
【0157】
多くの態様において、医薬組成物は、2つの異なる薬剤を含む。本明細書に記載のあらゆる2タイプの神経保護剤のあらゆる組み合わせが可能である。ある場合には3種の神経保護剤を治療のために組み合わせることができる。
【0158】
ある態様において、医薬組成物は2つの異なるMTMA;例えば、ノスカピンおよびカンナビノイド(エンドカンナビノイドを含む)を含み、この態様において使用される。
【0159】
別の態様において、医薬組成物はMTMAとMTMAでない神経保護剤を含む。
【0160】
ある態様において、神経保護剤は、電位依存性イオンチャンネルアンタゴニスト(電位依存性ナトリウムおよびカルシウムチャンネルアンタゴニストを含む)である。すなわち、少なくとも1のMTMAおよびチャンネルアンタゴニストを含む組成物が特に用途がある。
【0161】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびNMDAレセプターアンタゴニストを含む。ノスカピンおよびジゾルシピンを含む組成物がこの態様において特に用途がある。別の態様において、NMDAレセプターアンタゴニストはメマンチンである。
【0162】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ)アゴニストを含む。ノスカピンおよびピオグリタゾンを含む組成物(Actos(登録商標))がある態様では特に用途がある。別の態様において、PPARγアゴニストは、特にロシグリタゾン(Avandia(登録商標))、L-796449、RS5444、またはGI262570でありうる。
【0163】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび抗炎症剤、例えばセラストール、ニメスリド、またはイブプロフェンを含む。
【0164】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび抗酸化剤、特にiNOS抗酸化剤を含む。ノスカピンおよびL-NMMA(チラルギニン)を含む組成物はある態様において特に用途がある。別の態様において、抗酸化剤は、特にセフトリアゾン、セラストロール、CoQ10、ビタミンE、およびAEOL 10150から選ぶことができる。
【0165】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびフリーラジカルトラッパー/スカベンジャーを含む。特にノスカピンおよびマンガノポルフィリン抗酸化剤を含む組成物がある態様において用途がある。
【0166】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび金属イオンキレート剤、特に 銅(II)および亜鉛(II)キレート剤を含む。特にノスカピンおよび金属イオンキレート剤、例えば8-ヒドロキシキノリン;アセトヒドロキサム酸;またはN,N-ジメチル-2,3-ジヒドロキシベンズアミド(DMB)を含む組成物がある態様において用途がある。
【0167】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび低電位感受性チャンネル(L-VSCC)アンタゴニストを含む。ノスカピンおよびニモジピンを含む組成物がある態様において特に用途がある。
【0168】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび非競合α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)/カイネートレセプターアンタゴニストを含む。ノスカピンおよびGYKI 52466を含む組成物がある態様において特に用途がある。
【0169】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび選択的または非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニストを含む。ノスカピンおよび非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニストSosei 51(NC-1200/MVL-6976)を含む組成物はある態様において特に用途がある。別の態様において、選択的または非選択的グルタミン酸レセプターアンタゴニストは、NBQX、ニメスルジン(Nimesuldine)、リルゾール(Riluzole)(Rilutek)、タラムパネル(Talampanel)、セフトリアゾン(Ceftriaxone)、またはナアラダーゼ(Naaladase)阻害剤から選ぶことができる。他の態様において、グルタミン酸レセプターアンタゴニストは、ONO-2506のようなグリアモジュレーターでありうる。
【0170】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMA、およびアナンダミド(AEA)輸送、加水分解、または再吸収阻害剤を含む。ノスカピンおよびN-(4-ヒドロキシフェニル)-アラキドンアミド(AM404)を含む組成物は、ある態様において特に用途がある。別の態様において、AEA輸送、加水分解、または再吸収阻害剤は、N-(5Z,8Z,11Z,14Zエイコサテトラエニル)-4-ヒドロキシベンズアミド(AM1172)または脂肪酸アミドヒドラーゼFAAH阻害剤、例えばURB597でありうる。さらに、2つのMTMAおよびAEA再吸収阻害剤を含む組成物、例えば、ノスカピン、AEA、およびAM404も有用である。
【0171】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよび神経栄養因子を含む。ノスカピンおよびIGF1またはIGF-1-AAVを含む組成物はある態様において用途がある。
【0172】
多くの態様において、医薬組成物は、MTMAおよびアポトーシス阻害剤を含む。ノスカピンおよびミノサイクリン、TCH346、およびタモキシフェンを含む組成物はある態様において用途がありうる。
【0173】
ある態様において、2つのMTMAおよびさらなる神経保護剤を用いる。
【0174】
本明細書において「運動ニューロン関連障害」または「運動ニューロン疾患」または「病状」は、1および2以上の神経保護剤も考えられるが、典型的には少なくとも1のMTMAを含む2種の神経保護剤を含む医薬組成物の投与により改善しうる障害を意味する。特に有用な態様において、微小管標的調節剤を筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に用いる。
【0175】
多くの態様において、治療的有効量の神経保護剤を治療が必要な患者に投与する。本明細書において「治療的有効量」は、投与により効果を生じる用量を意味する。正確な用量は治療目的に依存し、既知の技術を用いて当業者が決定することができよう。特に有用な態様において、約5.mu.g/kgの用量を用いる(静脈内または皮下に投与する)。当該分野で知られているように、薬剤の分解、全身対局所送達、新たなプロテアーゼ合成速度、ならびに、年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与時間、薬剤の相互作用、および病状の重症度の調整が必要なことがあり、当業者がルチーン的実験により決定することができる。
【0176】
本発明の目的において「患者」は、ヒトと他の動物の両方、特に哺乳動物、および生物を含む。すなわち、該方法はヒトの治療と獣医的適用の両方に適用できる。特に有用な態様において、患者は哺乳動物であり、特に有用な態様において患者はヒトである。
【0177】
本発明において用語「治療(処置)」は、疾患または障害の治療的処置、および予防または抑制手段を含むことを意味する。すなわち、例えば、運動ニューロン疾患の場合は、疾患の発症前の、1および2以上の神経保護剤も考えられるが、典型的には少なくとも1のMTMA1を含む2種の神経保護剤の有効な投与が疾患の「治療」をもたらす。別の例として、疾患の臨床的発現後の疾患の症状と戦うための神経保護剤の有効な投与は疾患の「治療」を含む。「治療」は、疾患の発現後の疾患を根絶するための神経保護剤の投与も含む。臨床症状の見込まれる軽減およびおそらく疾患の改善を伴う、発症および臨床症状が発現した後の薬剤の有効な投与は疾患の「治療」を含む。
【0178】
「治療が必要な」ものには、疾患または障害をすでに有する哺乳動物、および疾患または障害を有する傾向があるもの(疾患または障害を予防すべきものを含む)を含む。
【0179】
本発明の組成物は典型的には少なくとも2の神経保護剤の組み合わせであるから、該組成物は、単一剤形(例えば2薬剤を組み合わせる経口製剤)で一緒に、または下記のあらゆる剤形を単独で同時にまたは連続して投与することができる。例えば、ある薬剤を経口投与し、別の薬剤を一緒にか連続して腹腔内投与することができる。さらに、別個に投与するときは、投薬は異なる回数または頻度であってよい。あるいはまた、少なくとも2の薬剤を同じ剤形だが分離して、例えば経口投与により投与することができる。
【0180】
ヒトに投与するのに適した初期用量は、in vitroアッセイまたは動物モデルから決定することができる。例えば、初期用量は、in vitroアッセイで測定して、投与した化合物の特定の代謝的に活性な薬剤のIC50を含む血清濃度を達成するよう処方することができる。あるいはまた、ヒトの初期用量は、SODマウスのようなALSの動物モデルで有効であることがわかった用量に基づいてよい。一例として、本明細書に記載の医薬組成物の各成分の初期用量は、約0.01 mg/kg/日〜約200 mg/kg/日、または約0.1 mg/kg/日〜約100 mg/kg/日、または約1 mg/kg/日〜約50 mg/kg/日、または約10 mg/kg/日〜約50 mg/kg/日の範囲でありうる。しかしながら、用量は患者の要求、治療する病状の重症度、および用いる化合物に応じて変化しうる。用量サイズは、特定患者における特定化合物投与に伴うあらゆる副作用の存在、性質、および程度によっても決定される。特定の状況に対する適切な用量の決定は当業者の技術内である。一般的には、治療は該化合物の最適用量以下のより小用量で開始する。その後、環境下で最適用量に達するまで用量を小量ずつ増やす。便宜上、必要であれば、1日の総用量を分割し、1日の間に部分に分けて投与することができる。
【0181】
薬剤組成物中の活性化合物の濃度は、薬剤の吸収、分布、不活化、および排泄速度、および当業者に知られた他の因子に依存するだろう。緩和すべき病状の重症度に応じて用量値も変化することに注意すべきである。さらに、あらゆる特定の対象に対する特定の用法・用量は、個体の要求、および該組成物を投与するかその投与を管理するヒトの専門的判断にしたがって時間とともに調節すべきであり、本明細書に記載の濃度範囲は例示のみであり、本発明組成物の範囲又は実施を限定するものではないと理解すべきである。活性成分は同時に投与するか、または種々の時間間隔で投与する多くの小用量に分割することができる。
【0182】
経口投与に適した製剤は以下からなりうる:(a) 液体溶液剤、例えば水、生理食塩水、またはPEG400のような希釈剤に懸濁した有効量の化合物;(b)それぞれ予め決定された量の活性成分を液体、固体、顆粒、またはゼラチンとして含むカプセル剤、サシェー剤、または錠剤;(c)適切な液体中のサスペンジョン剤;および(d)適切なエマルジョン剤。錠剤形は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、微晶質セルロール、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色料、増量剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存料、香味料、色素(染料)、崩壊剤、および医薬的に互換性の担体の1またはそれ以上を含み得る。ローゼンジー剤は、香味料、例えばショ糖中に活性成分を含むことができ、トローチは、不活性塩基、例えばゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖、およびアカシアエマルジョン、ゲルなど(活性成分に加えて当該分野で知られた担体を含む)中に活性成分を含むことができる。
【0183】
経口用組成物は、一般的に不活性希釈剤または食用担体を含むであろう。該組成物はゼラチンカプセルに封入されるか、錠剤に圧縮されてよい。経口での治療的投与のためには、活性成分を賦形剤に組み込み、錠剤、トローチ、またはカプセル剤の形で用いることができる。医薬的に互換性の結合剤および/またはアジュバント物質を組成物の部分として含むことができる。
【0184】
活性化合物またはその医薬的に許容される塩をエリキシル剤、サスペンジョン剤、シロップ、ウエハー、チューインガムなどの成分として投与することができる。シロップ剤は、活性成分に加えて、甘味料としてショ糖、およびある種の保存料、色素、および着色料、および香味料を含みうる。
【0185】
活性化合物またはその医薬的に許容される塩を、所望の作用を損なわない他の活性物質または所望の作用を補完する物質と混合することもできる。
【0186】
本明細書で用いている用語「医薬的に許容される塩」は、上記化合物の所望の生物活性を保持し、望ましくない毒性作用がないか最小限である塩を表す。そのような塩の例には、限定されるものではないが、無機酸(例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)を用いて形成される酸付加塩、および有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジルホン酸、およびポリガラクツロン酸が含まれる。該化合物は当業者に知られた医薬的に許容される第4級塩として投与することができ、これには具体的には式NR+Z-の第4級アンモニウム塩が含まれる(ここで、Rは水素、アルキル、またはベンジルであり、Zは以下のものを含む対イオンである:塩素、臭素、ヨウ素、-O-アルキル、トルエンスルホネート、メチルスルホネート、スルホネート、ホスフェート、またはカルボキシレート(例えばベンゾエート、スクシネート、アセテート、グルコレート、マレエート、マレート(malate)、シトレート、タートレート、アスコルベート、ベンゾエート、シンナモエート、マンデロエート、ベンジロエート、およびジフェニルアセテート))。
【0187】
選択される化合物は、単独または他の適切な成分と組み合わせて、吸入により投与されるエアロゾル製剤とすることができる(すなわち、「ネブライザーで投与する」ことができる)。エアロゾル製剤は加圧した許容されるプロペラント、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など中にセットすることができる。
【0188】
直腸投与に適した製剤には、例えば包装された坐剤基剤を含む化合物からなる坐剤が含まれる。適切な坐剤基剤には、天然または合成トリグリセリドまたはパラフィン炭化水素が含まれる。さらに、選択した化合物と基剤(例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン炭化水素を含む)の組み合わせからなるゼラチン直腸用カプセル剤の使用も可能である。
【0189】
例えば関節内(in the joint)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下経路によるような非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図したレシピエントの血液と等張にする溶質を含む水性および非水性等張無菌注射溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存料を含むことができる水性および非水性無菌サスペンジョンを含む。本発明の実施において、組成物は例えば静脈内注入によるか、経口的、局所的、腹腔内、嚢内、または髄腔内に投与することができる。非経口投与、経口投与、皮下投与、および静脈内投与は特に有用な投与方法である。適切な溶液製剤の具体例は、水中に約0.1〜100 mg/mlの化合物および約1000 mg/mlのポリエチレングリコールを含んでよい。適切な溶液製剤の別の具体例は、水中に約0.1または約0.2〜約100 mg/mlの化合物および約800〜1000 mg/mlのポリエチレングリコール400(PEG 400)を含んでよい。
【0190】
適切なサスペンジョン製剤の具体例は、約0.2〜30 mg/ml化合物および1またはそれ以上の以下からなる群から選ばれる賦形剤を含んでよい:水中の、約200 mg/mlエタノール、約1000 mg/ml植物油(例えば、コーン油)、約600〜1000 mg/mlフルーツジュース(例えばグレープジュース)、約400〜800 mg/mlミルク、約0.1 mg/mlカルボキシメチルセルロース(または微晶質セルロース)、約0.5 mg/mlベンジルアルコール(またはベンジルアルコールと塩化ベンザルコニウムの組み合わせ)、および約40〜50 mM緩衝液、pH7(例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、またはクエン酸緩衝液、または5%デキストロースを緩衝液の代わりに用いてよい)。
【0191】
適切なリポソームサスペンジョン製剤の具体例は、水中の、約0.5〜30 mg/ml化合物、約100〜200 mg/mlレシチン(または他のリン脂質またはリン脂質の混合物)、および所望により約5 mg/mlコレステロールを含んでよい。化合物の皮下投与には、水中の5 mg/ml化合物および100 mg/mlレシチン、ならびに水中の5 mg/ml化合物および100 mg/mlレシチン、および5 mg/mlコレステロールを含むリポソームサスペンジョン製剤がよい結果をもたらす。
【0192】
化合物製剤は、アンプルやバイアルのような単位用量または多用量密封容器中に存在し得る。注射用溶液剤およびサスペンジョン剤は、先に記載したような無菌粉末剤、顆粒剤、および錠剤から製造することができる。
【0193】
医薬製剤は単位剤形が特に有用である。そのような形において、該製剤は適切な量の化合物を含む単位用量に細分される。単位剤形は、包装した製剤、分離した量の製剤を含む包装、例えば包装した錠剤、カプセル剤、およびバイアルまたはアンプル中の粉末剤でありうる。また、単位剤形は、カプセル剤、錠剤、カシェー剤またはローゼンジー剤それ自身であるか、または包装した形の適切な数のこれらでありうる。該組成物は所望により以下でより詳述する他の互換性の治療剤を含むこともできる。
【0194】
ある態様において、活性化合物は、化合物が体内から急速に除去されるのを保護する担体を用いて製造される(例えば、インプラントおよびマイクロカプセル化デリバリーシステムを含む制御放出製剤)。エチレンビニルアセテート、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、およびポリ乳酸のような生体分解性の生体適合性ポリマーを用いることができる。そのような製剤の製造方法は当業者に明白であろう。該物質は、Alza Corporation(Mountain View、CA)およびGilford Pharmaceuticals(Baltimore、MD)から市販品を得ることもできる。リポソームサスペンジョンも医薬的に許容される担体でありうる。これは当業者に知られた方法に従って、例えば、米国特許No. 4,522,811(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載のごとく製造することができる。例えば、リポソーム製剤は、無機溶媒に適切な脂質(例えばステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ステアロイルホスファチジルコリン、アラカドイルホスファチジルコリン、およびコレステロール)を溶解し、次いで蒸発させ、容器の表面に乾燥した脂質の薄いフィルムを残すことにより製造することができる。次に、活性化合物またはその誘導体の水性溶液を容器に入れる。次に、容器を手で回転させて容器の側面から脂質物質を除去し、脂質凝集物を分散させてリポソームサスペンジョンを形成する。
対象および臨床試験における運動ニューロン疾患の診断と薬剤活性のモニタリング
【0195】
ある態様において、本発明の方法は、本明細書に記載の生化学的マーカーを使用することにより運動ニューロン疾患の早期診断を可能にし、症状の発現前に運動ニューロン疾患の検出を可能にする。すなわち、本発明の方法を利用し、小丘および軸索シャフト(STOP) 微小管の過剰なダイナミシティ(例えば、不安定性、高い代謝回転速度)を検出することにより、ALSのような運動ニューロン疾患の存在を検出することができる。一般的には軸索微小管は非常に安定しているので(本質的に標準的アッセイ時間にわたりチューブリンの交換がない)、この文脈において「不安定性」は、運動ニューロン微小管への新たなチューブリンの取り込みパーセンテージの増加である。
【0196】
関連する態様において、本発明の方法は、運動ニューロン疾患を有する個々の対象の治療的介入に対する応答を、例えば、小丘および軸索シャフト微小管のダイナミシティの変化を検出することによりモニターすることができる。
【0197】
別の関連する態様において、本発明の方法は、運動ニューロン疾患の治療として臨床試験で試験している候補薬剤の効果を評価することができる。例えば候補治療薬を用いる治療中の小丘および軸索シャフト微小管のダイナミシティの変化を処置群で評価し、統計的に比較して治療方法の生化学的効果を決定することができる。
薬剤の発見と開発
【0198】
ある態様において、該方法は、生物系を化合物または化合物混合物に曝露した後に観察される微小管ダイナミシティに対する影響を評価することができる。したがって、得られ分析したデータは、薬剤の発見、開発および承認(DDDA)の意志決定プロセスを促進するためDDDAプロセスに有用であり、例えば、微小管ダイナミシティの安定化データが有望である場合は化合物または化合物混合物の開発をさらに続けるか、または例えば微小管ダイナミシティの安定化データが芳しくない場合はその努力を中止する決定において意志決定者に有用な情報を提供する(このプロセスのグラフ表示について図13参照)。
【0199】
さらに、該方法は、当業者があるクラスの化合物中で「その種類で最良」(すなわち、「そのクラスで最良」)を同定し、選択し、および/または特徴づけることを可能にする。選択し、および/または特徴づけされたら、当業者は、本発明の方法により得られた情報に基づいて「その種類で最良」をさらに評価するか、または製薬会社やバイオテクノロジーの会社のような他の会社に該化合物のライセンスを供与するかを決定することができる(図14参照)。
【0200】
図14は、薬剤発見プロセスにおける本明細書での本発明の使用を示す。工程01では複数の候補薬剤を選択する。工程03では、微小管ダイナミシティを、通常、本明細書に記載の方法に従って細胞または完全な動物内で試験する。別の態様において、工程03は本発明を例えば標的発見プロセスに用いる時に最初に行う。工程05では、関連微小管動力学データを同定する。例えば、微小管ダイナミシティを低下させることが望ましい場合は、該ダイナミシティを低下させる化合物は一般的により有用と考えられ、反対にダイナミシティを増加させる化合物は一般的に望ましくないと考えられるであろう。標的発見プロセスにおいて、別の表現型に対して微小管ダイナミシティが増加または低下した特定の表現型(例えば罹患対非罹患またはコントロール)は、よい治療または診断標的であるか、またはよい治療または診断標的の経路にあると考えることができる。工程07では、興味深い化合物、興味深い標的、または診断薬を選択し、さらに用い、開発を行う。標的の場合は、該標的は、例えばよく知られた小分子スクリーニングプロセス(例えば新規化学的実体のハイスループットスクリーニング)などの対象でありうる。あるいはまた、生物学的因子、またはすでに承認された薬剤、または他の候補薬剤(または候補薬剤の組み合わせおよび/または混合物)を用いることができる。工程09では、化合物または診断薬を販売または流通させる。販売または流通させるものは「その種類で最良」であり得、本発明の方法により同定される。もちろん、図14のプロセス中の1またはそれ以上の工程は、ほとんどの場合最適な結果を得るために幾度も繰り返されると認識される。
【実施例】
【0201】
実施例1:チューブリンダイマーおよびポリマーの単離
チューブリンは以前に記載されたプロトコールを少し修飾したものを用いて生成した(Fanara、P.、Oback、B.、Ashman、K.、Podtelejnikov、A.、Brandt、R. Identification of MINUS、a small polypeptide that functions as a microtubule nucleation suppressor. EMBO J. 18、565-577(1999);Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。ex vivo精製のため、マウスをイソフルランで麻酔し、頸椎脱臼により安楽死させた。坐骨神経を解剖し、以下のごとく単離する。皮膚を引き下げて身体の下半分の筋肉を露出させた。はさみで脊髄を腰領域のすぐ下と広い仙骨領域のすぐ上で横に切断する。一部開いたはさみを、はさみが臀部のほぼ広い腸骨部分にあたるまで背骨の腰領域に滑り下ろす。これにより脊髄のできるだけ近くで坐骨神経を切断する。鉗子を用いて筋層を足の大腿部(大腿)の上方に持ち上げた。次に、筋肉の表層を注意深く切断して筋層間の白い神経を露出させた。神経上の筋肉を横に切断し、切開部を足と臀部に向かって広げた。臀部で神経は向きを変えて骨盤骨中を下降する。小さなはさみの先端を背骨と平行に第一脊髄切断部に向かって筋肉に差し入れた。これにより坐骨神経の最後の部分(神経筋接合部の成長円錐)を露出させた。鉗子を用いて、白い神経をつかんで持ち上げた。小さなはさみを使って筋肉に残ったわずかな付着部を切断した。次に、組織を速やかにチューブに入れ、MSB中で静かにホモゲナイズした。微小管ポリマーから細胞質チューブリンを分離するため、ポストヌクレアー(post-nuclear)上清を20℃で190,000 x g、35分間遠心した。上清または非微小管分画(可溶性ダイマーチューブリンを含む)をペレットまたは微小管分画(重合チューブリンを含む)から分離し、急速冷凍して-20℃で保存した。微小管ペレットを連続イムノアフィニティクロマトグラフィ工程によりさらに分画した。tau結合微小管を単離するため、TAU5抗体を0.25 mg/mlの濃度でエポキシ活性化セファロースビーズ(Amersham Pharmacia Biotech)と共有結合させた。約0.2 mgの微小管ペレットを室温で1時間0.5 ml MSB中のTAU-5ビーズとインキュベーションした。非結合物質を除去し、ビーズを0.5 mlのMSBで3回洗浄し、次いで結合物質を1M NaCl含有0.5 ml MSBで溶出させた。ある実験では、MAP2結合微小管を、同じプロトコールを用いてMAP2抗体と結合させたエポキシ活性化セファロースビーズ(0.5 mg抗体/mlビーズ)を用いるイムノアフィニティクロマトグラフィによりTAU5非結合物質から捕捉した。各調製物(チューブリンおよびTAU5-結合、MAP2-結合、および非結合微小管分画)中のチューブリンの相対存在度をウエスタンブロットにより定量し、これら分画由来のチューブリンを先に記載のごとくイオン交換およびサイズ排除クロマトグラフィによりさらに精製した(Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。
実施例2:低温安定(Cold-Stable)微小管の単離
【0202】
低温安定微小管を以前に記載のプロトコールを少し修飾したものを用いて単離した(Pirollet、F.、Derancourt、J.、Haiech、J.、Job、D.、Margolis、R. L. Ca(2+)- calmodulin regulated effectors of microtubule stability in bovine brain. Biochemistry 31、8849-8855(1992))。簡単には、細胞または組織粗ホモジネートを1.5 mM CaCl2含有氷冷MSB中で調製した(Fanara、P.、Oback、B.、Ashman、K.、Podtelejnikov、A.、Brandt、R. Identification of MINUS、a small polypeptide that functions as a microtubule nucleation suppressor. EMBO J. 18、565-577(1999))(緩衝液の細胞塊または脳組織に対する割合は1.4:1(vol/wt)の比に設定した)。氷上で2分間後、EGTAを最終濃度3 mMに加え、混合物をさらに1分間氷上でホモゲナイズした。抽出物を4℃で150,000 x g、30分間遠心し、上清を回収した。上清を30℃でインキュベーションして微小管会合を開始した。1時間後、抽出物を4℃で20分間冷却し、次いで、微小管安定化緩衝液中の50%(wt/vol)ショ糖クッションを介して200,000 x gで30分間遠心した。4℃で微小管脱安定化緩衝液に最終ペレット(低温安定微小管)を懸濁し、次いでチューブリンを先に記載のごとく精製した(Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。
実施例3:GC/MS分析のためのチューブリンの処理
【0203】
チューブリン試料は、6N HClで110℃にて16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、アラニンへの2Hの取り込みを他に詳述しているGC/MSにより測定した(Fanara、P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279、49940-49947(2004))。2Hの豊富化は、(M+1) マスアイソトポマーとして存在するアラニン誘導体のパーセンテージの天然存在度に対する増加パーセントとして計算した。
実施例4:体水の2H2O豊富化の測定
【0204】
体水の2H2O豊富化および培養液は上記のごとく測定した。簡単には、炭化カルシウムとの反応によりプラズマ水由来のプロトンをアセチレンに転移させた。次に、アセチレン試料を、m/z 26および27(M0およびM1)でイオンを記録するよう修飾し、99.9% 2H2Oを非標識水と混合して作製した標準曲線に対して較正したSeries 3000サイクロイダル質量分析計(Monitor Instruments、Cheswick、PA)を用いて分析した。体水の2H豊富化は薬剤処置の影響を受けなかった(データ示さず)。
実施例5:SOD1-G93A TGNマウスのノスカピン-MK801処置
【0205】
雌SOD-1 G93A TGNマウスはJacksonラボラトリー(系統#2726)から得た。コントロールは適合同腹子であった。処置群は3匹/群であった。ノスカピンは、3回/週(0.2 mg/kg i.p.)腹腔内注射し、MK801を飲用水にて連続投与した(12 mg/kg/d)。歩行(gait)分析を、Wooley et al.、Muscle Nerve 2005 32(1):43-50およびCarter et al. J. Neurosci.、19(8):3248-3257の方法により行った(これらの内容は本明細書の一部を構成する)。
【0206】
臨床評価のためのエンドポイントのスコア付けは以下のごとく選択した:
グループ分類:症状発現前(presymptomatic)
臨床徴候:完全な運動性、および年齢適合コントロールと行動に観察しうる差なし(歩行または歩幅分析)。
グループ分類:発症
臨床徴候:異常歩行および歩幅分析、および後肢の衰弱:年齢適合同腹子に対して歩幅が>40%減少。
グループ分類:終末期(安楽死)
臨床徴候:顕著および完全な後肢麻痺(この系統ではその他のものより1肢に生じることが多い)、および5秒間の猶予時間において直立不能。マウスは歩行分析試験が行えず終末期に入るので、通常この期が始まる。したがって、トランスジェニックSOD1-G93A TGNマウスは、顕著および完全な後肢麻痺および5秒間の猶予時間において直立不能の発現時に安楽死する。
【0207】
無処置トランスジェニックマウスは、15週齢(疾患発症後約17日)で始まる完全な後肢麻痺を示し、16週齢で最終的に安楽死した(以下の症状を示した:広範な麻痺、完全な歩幅のために1肢を引くことができない(歩行分析で「0」とスコア付けした)、および5秒間の猶予時間で直立不能)。
【0208】
処置マウスのあるものは16週齢(疾患発症後25日)で始まる完全後肢麻痺を示し、最終的に17週齢で安楽死した(以下の症状を示した:広範な麻痺、完全な歩幅のために1肢を引くことができない(歩行分析で「0」とスコア付けした)、および5秒間の猶予時間で直立不能)。
【0209】
他に2処置トランスジェニックマウスは約18週齢で後肢の虚弱化(歩行分析でスコア付けした)が発現し始めたが、その時点ではまだ顕著および完全な後肢麻痺は発現していなかった。
表1
【表1】
【0210】
比較のため、ALS SOD1 G93Aマウスにおいて以前に試験し、ALS TDFまたは他の研究者により公表されたリルゾールALS処置。
【表2】
ノスカピンおよび/またはMK-801で処置したSOD1-G93A TGMマウスの運動障害の発症と死亡:
【表3】
実施例6:有症状SOD1G93Aマウスにおける治療的介入
【0211】
2つの新規薬剤療法の成功の確認を図16に示す。MTMA/KM-ID05薬を有症状SOD1G93Aマウス(10週齢)に投与し、3週間処置を行った(n=3)。2H2O(8 %)を処置の最後の2日間に投与し、標識48時間後に屠殺した。脊髄の腰領域(L2〜L5レベル)および坐骨神経の全長を解剖し、注意深く取り出した。微小管動力学を、脊髄運動ニューロンおよび坐骨神経のすべてのニューロンコンパートメントで測定した。
【0212】
図16に詳述するように、MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスは、亢進した(hyperdynamic)微小管の顕著な低下(野生型マウスに近いレベルまで低下)を示した。MTMA/KM-ID05の陽性効果が全てのニューロンコンパートメントに検出された。
【0213】
SOD1G93Aマウスの疾患の進行に対するMTMA/KM-ID05の効果を検討するため、歩幅測定を実施した(図17)。歩幅は、食用着色料で薄く着色したグリセロールを足に塗ることにより測定した。試験は、マウスが直線で歩くまで反復し、明瞭な連続歩幅測定値を4回うる。歩幅は同じ足が作る足跡の距離であり、足跡の中心から次の足跡の中心までを計る。
【0214】
分析は常に、同性の年齢適合トランスジェニック無処置、処置、およびコントロール動物(n=20)を用いてその日の同じ時に行った。コントロールマウスと異なりSOD1G93Aマウスは運動能力の年齢依存性低下を示した(図17)。SOD1G93Aマウスにおける疾患の発症は、歩幅の40%の減少(12.5週齢で)を特徴とし、次いで急速な減少期となり、完全な後肢麻痺の段階(17週齢)に進行した。2薬剤処置は、試験期間を通じてSOD1G93Aマウスの疾患の発症を有意に遅延させ、運動能力を改善した(図17)。MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの体重損失も30%有意に減少させた(データ示さず)。
【0215】
MTMA/KM-ID05処置が運動ニューロンの変性を減少させるか否かを評価するため、各脊髄の坐骨神経運動プール部分の運動ニューロン数を計測した。処置の効果を15週齢のSOD1G93Aマウスで評価した。
【0216】
野生型コントロール(WT) 無処置(SOD1G93A)および処置(SOD1G93A MTMA/KM-ID05)マウスのニッスル染色脊髄切片の例を図18Aに示す。MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスに観察された運動ニューロン生存の改善は、運動ニューロン生存の増加を反映した。結果を図18Bに要約する。15週齢で、坐骨神経プールにおける運動ニューロンの有意な数が無処置SOD1G93Aマウスですでに死んでおり、WT同腹子の387(±6.2)と比べて197(±10.2) 運動ニューロンのみが生存した。しかしながら、MTMA/KM-ID05による処置は、運動ニューロンの有意な部分を救い、298(±4.4)運動ニューロンが生存した。すなわち、MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスにおいて、無処置SOD1G93A同腹子と比べて50%以上の運動ニューロンが15週齢でも生存した。
【0217】
次に、SOD1G93Aマウス(n=20)の寿命に対するMTMA/KM-ID05処置の効果を試験した。無処置SOD1G93Aマウスは、平均118.5(±4.2)日間生存する。マウスが15%体重を失い、完全後肢麻痺を示し、毛繕いをせず、自分で直立できない年齢によりこれら実験の終末期を決定する。
【0218】
MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの生存を25.6日間有意に延長し、寿命を22%延ばした。
【0219】
結論として、MTMA/KM-ID05を有症状期に投与すると、微小管のダイナミニシティの亢進を強く減少させることができた。MTMA/KM-ID05の作用機序は、顕著に疾患の症状を改善し、SOD1G93Aマウスの寿命および運動ニューロンの生存の有意な増大に反映された。
【0220】
遅い軸索輸送の変化は、突然変異SOD1トランスジェニックマウスの病因と関連していた。遅い軸索輸送は、移動速度に基づいて2成分を有することが以前に示された(1つは〜0.5mm/日で他方は〜1〜2mm/日)。両輸送成分はチューブリンを含む。MTMA/KM-ID05処置が軸索輸送障害を回復させることができるか否かを検討するため、SOD1G93AトランスジェニックマウスのL5神経根および坐骨神経における2H-標識チューブリンの輸送速度を測定した。13週齢で、WT同腹子に比べて無処置SOD1G93AのL5神経根、小丘、および近位軸索の初めの部分に2H-チューブリンの有意な蓄積が見られる。しかしながら、MTMA/KM-ID05による処置は該軸索に沿った2H標識チューブリンの輸送速度を完全に正常に回復させた。すなわち、MTMA/KM-ID05処置SOD1G93Aマウスにおいて、微小管ベースの軸索輸送は無処置SOD1G93A同腹子に比べて完全に回復する。
【0221】
総合すると、これらの結果は微小管動力学が疾患活性のバイオマーカーであることを示す。したがって、微小管動力学を、ALSにおける新しい療法を評価し、臨床効果を予測するのに用いることができる。
【0222】
図19に示すように、微小管動力学アッセイを用いてin vivoで試験した多くの候補組み合わせ薬剤の相対的神経保護活性を評価および比較した。「強力な」神経保護と「弱い」神経保護の臨床効果の予測を評価した(図19)。5種類の2薬剤の組み合わせを選択し、SOD1G93Aマウス(各群、n=20マウス)の疾患の進行を遅延させ、生存を増加させる効果をさらに評価した(図20)。処置SOD1G93Aマウスは、神経保護(微小管安定性)における有効性に応じて寿命が10%〜32%増加した。微小管動力学のin vivo生化学測定値と確かな臨床的結果(歩幅および生存)の間の顕著で密接な相関を証明した(図20)。これらの知見は、微小管動力学が疾患活性と治療反応の強力なALSバイオマーカーであることを証明する(図21)。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1A】アイソトープ標識水からの選択した遊離アミノ酸内への標識水素(2Hまたは3H)の交換経路を示す。
【図1B】アイソトープ標識水からの選択した遊離アミノ酸内への標識水素(2Hまたは3H)の交換経路を示す。
【図1C】タンパク質合成のためのH218Oによる遊離アミノ酸の18O標識を示す。
【図2】微小管ポリマーへの2H標識チューブリンダイマーの取り込みを示す。
【図3】マウス脳におけるチューブリンダイマーおよび微小管のin vivo交換。
【図4】SOD-G93ATGNマウスの進行性軸索機能不全の経過中の微小管動力学の測定。
【図5】歩幅の測定値に基づく野生型およびSOD1-G93A TGNマウスにより生じた歩行足跡パターンの定量分析。
【図6】ノスカピン-MK801の組み合わせはSOD1-G93A TGNマウスの疾患の発症および死亡を遅らせる。
【図7】12.5週齢SOD1-G93A TGNマウスの坐骨神経の微小管サブポピュレーションの相対動力学(2H標識の取り込み)に対するノスカピン-MK801の組み合わせの効果。
【図8】ニューロン内の微小管ポピュレーションの特異的分布を示す。
【図9】多くの種々のNMDAレセプターアンタゴニストを示す。
【図10】ノスカピン-MK8O1をALSのSOD1マウスモデルに投与した18週の結果を示す。
【図11A】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図11B】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図11C】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症の時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図12】種々の処置の生存率の全体の統計を示す。
【図13】努力の継続または中断を決定する手段としての、ニューロン微小管動力学に対する効果(すなわち、本発明の方法により回収したデータ)を用いる薬剤発見、開発、および承認(DDDA)プロセスを示す模式図である。
【図14】薬剤発見プロセスにおける本発明の使用を例示する。
【図15】ノスカピン単独およびMK801単独投与の結果を示す。
【図16】MTMA/KM-ID05は、13週齢SOD1G93Aマウス(n=3;平均±SD)の中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)における亢進した(hyperdynamic)微小管を強く減少させる。
【図17】MTMA/KM-ID05は、SOD1G93Aマウスの自発運動を改善し、疾患の発症を遅らせた。
【図18】15週齢のSOD1G93AマウスにおけるMTMA/KM-ID05による処置の神経保護効果。
【図19】微小管動力学アッセイを有症状SOD1G93Aマウスにおける新規治療剤の前臨床的薬剤発見のための踏み台として用いる。
【図20】(A)5つの神経保護候補剤についての生存プロットおよび生存の統計分析。(B)種々の薬剤に関するSOD1G93Aマウスの生存結果対微小管動力学としてグラフに示したバイオマーカー予測性(平均±SD)。
【図21】FDA承認薬剤Rilutek(登録商標)と比較したALS-SOD1動物試験から選択した潜在的臨床薬。
【図22】ノスカピンの構造を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第一神経保護剤およびb)第一微小管標的調節剤(MTMA)を含む医薬組成物。
【請求項2】
該神経保護剤が電位依存性イオンチャンネルアンタゴニストである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
該電位依存性イオンチャンネルアンタゴニストが電位依存性カルシウムチャンネル(VGCH)アンタゴニストである請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
該VGCHアンタゴニストがN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターアンタゴニストである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
該NMDAレセプターアンタゴニストがジゾルシピンである請求項4または5記載の医薬組成物。
【請求項6】
該神経保護剤がペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ)である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
該PPARγがピオグリタゾン(Actos(登録商標))である請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
該神経保護剤が抗酸化剤である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
該抗酸化剤が誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)である請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
該iNOSがL-NMMA(Tilarginine(登録商標))である請求項10記載の医薬組成物。
【請求項11】
該神経保護剤がL-VSCCアンタゴニストである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項12】
該L-VSCCアンタゴニストがNimodipine(登録商標)である請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
該神経保護剤がα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニストである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
該AMPAアンタゴニストがGYKI 52466である請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
該神経保護剤がグルタミン酸レセプターの非選択的ブロッカーである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項16】
該グルタミン酸レセプターの非選択的ブロッカーがSosei 51(NC-1200/MVL-6976)である請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
該神経保護剤がアナンダミン(AEA)再吸収阻害剤である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項18】
該AEA再吸収阻害剤がAM404である請求項17記載の医薬組成物。
【請求項19】
該神経保護剤が第二MTMAである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項20】
該第二MTMAがカンナビノイドである請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
該カンナビノイドがMarinol(マリノール)である請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
該カンナビノイドがエンドカンナビノイドである請求項20記載の医薬組成物。
【請求項23】
該エンドカンナビノイドがAEAである請求項22記載の医薬組成物。
【請求項24】
さらにAEA再吸収阻害剤を含む請求項22または23記載の医薬組成物。
【請求項25】
該AEA再吸収阻害剤がAM404である請求項24記載の医薬組成物。
【請求項26】
該第一MTMAがノスカピンである請求項1〜25のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項27】
該MTMAが該神経保護剤から分離したバイアル中にある請求項1〜26のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載の医薬組成物を投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法。
【請求項29】
該運動ニューロン疾患が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である請求項28記載の方法。
【請求項30】
ALS症状の発症が遅くなる請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
ALS症状の重症度が低下する請求項28〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
MTMAおよび医薬担体を患者に投与することを含む患者のALSの症状を軽減する方法。
【請求項33】
治療的有効量のMTMAおよび医薬担体をそれを必要とする患者に投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法。
【請求項34】
a)試験生物系を1またはそれ以上の薬剤に曝露し;
b)該アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニット中に入ることにより1またはそれ以上の微小管分子中に入り、標識するのに十分な時間、アイソトープ標識基質を該生物系に投与し;
c)該生物系から運動ニューロンを含む第一試料を得;
d)該第一試料から得た微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量し;e)コントロール系からの微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を得;
f)該生物系の微小管の豊富化の割合とコントロール生物系の該割合を比較し;そして
g)運動ニューロンの微小管標識に対する該薬剤の効果を測定することを含む運動ニューロン疾患を有する対象における薬剤の効果をモニターする方法。
【請求項35】
さらに、該標識微小管のダイナミシティを計算し、該比較工程が該微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティの遊離チューブリンのアイソトープの豊富化に対する比を計算し、該比を該コントロール生物系における該比と比較することを含む請求項34記載の方法。
【請求項36】
該試験生物系から得た成長円錐微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た成長円錐微小管由来の標識微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティと比較する、請求項34記載の方法。
【請求項37】
該試験生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化と比較する、請求項34〜36記載の方法。
【請求項38】
複数の薬剤を単独または組み合わせて投与する請求項34〜37記載の方法。
【請求項39】
ニューロン微小管のダイナミシティを変化させる薬剤を投与することによる運動ニューロン疾患の治療方法。
【請求項40】
ニューロンを微小管ダイナミシティを変化させる薬剤と接触させることを含む運動ニューロン疾患に有効な薬剤のスクリーニング方法。
【請求項1】
a)第一神経保護剤およびb)第一微小管標的調節剤(MTMA)を含む医薬組成物。
【請求項2】
該神経保護剤が電位依存性イオンチャンネルアンタゴニストである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
該電位依存性イオンチャンネルアンタゴニストが電位依存性カルシウムチャンネル(VGCH)アンタゴニストである請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
該VGCHアンタゴニストがN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターアンタゴニストである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
該NMDAレセプターアンタゴニストがジゾルシピンである請求項4または5記載の医薬組成物。
【請求項6】
該神経保護剤がペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ)である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
該PPARγがピオグリタゾン(Actos(登録商標))である請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
該神経保護剤が抗酸化剤である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
該抗酸化剤が誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)である請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
該iNOSがL-NMMA(Tilarginine(登録商標))である請求項10記載の医薬組成物。
【請求項11】
該神経保護剤がL-VSCCアンタゴニストである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項12】
該L-VSCCアンタゴニストがNimodipine(登録商標)である請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
該神経保護剤がα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニストである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
該AMPAアンタゴニストがGYKI 52466である請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
該神経保護剤がグルタミン酸レセプターの非選択的ブロッカーである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項16】
該グルタミン酸レセプターの非選択的ブロッカーがSosei 51(NC-1200/MVL-6976)である請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
該神経保護剤がアナンダミン(AEA)再吸収阻害剤である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項18】
該AEA再吸収阻害剤がAM404である請求項17記載の医薬組成物。
【請求項19】
該神経保護剤が第二MTMAである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項20】
該第二MTMAがカンナビノイドである請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
該カンナビノイドがMarinol(マリノール)である請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
該カンナビノイドがエンドカンナビノイドである請求項20記載の医薬組成物。
【請求項23】
該エンドカンナビノイドがAEAである請求項22記載の医薬組成物。
【請求項24】
さらにAEA再吸収阻害剤を含む請求項22または23記載の医薬組成物。
【請求項25】
該AEA再吸収阻害剤がAM404である請求項24記載の医薬組成物。
【請求項26】
該第一MTMAがノスカピンである請求項1〜25のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項27】
該MTMAが該神経保護剤から分離したバイアル中にある請求項1〜26のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載の医薬組成物を投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法。
【請求項29】
該運動ニューロン疾患が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である請求項28記載の方法。
【請求項30】
ALS症状の発症が遅くなる請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
ALS症状の重症度が低下する請求項28〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
MTMAおよび医薬担体を患者に投与することを含む患者のALSの症状を軽減する方法。
【請求項33】
治療的有効量のMTMAおよび医薬担体をそれを必要とする患者に投与することを含む運動ニューロン疾患の治療方法。
【請求項34】
a)試験生物系を1またはそれ以上の薬剤に曝露し;
b)該アイソトープ標識基質が1またはそれ以上のチューブリンサブユニット中に入ることにより1またはそれ以上の微小管分子中に入り、標識するのに十分な時間、アイソトープ標識基質を該生物系に投与し;
c)該生物系から運動ニューロンを含む第一試料を得;
d)該第一試料から得た微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を定量し;e)コントロール系からの微小管のサブポピュレーションのアイソトープの豊富化を得;
f)該生物系の微小管の豊富化の割合とコントロール生物系の該割合を比較し;そして
g)運動ニューロンの微小管標識に対する該薬剤の効果を測定することを含む運動ニューロン疾患を有する対象における薬剤の効果をモニターする方法。
【請求項35】
さらに、該標識微小管のダイナミシティを計算し、該比較工程が該微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティの遊離チューブリンのアイソトープの豊富化に対する比を計算し、該比を該コントロール生物系における該比と比較することを含む請求項34記載の方法。
【請求項36】
該試験生物系から得た成長円錐微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た成長円錐微小管由来の標識微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティと比較する、請求項34記載の方法。
【請求項37】
該試験生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化またはダイナミシティを、該コントロール生物系から得た軸索微小管由来の微小管のアイソトープの豊富化と比較する、請求項34〜36記載の方法。
【請求項38】
複数の薬剤を単独または組み合わせて投与する請求項34〜37記載の方法。
【請求項39】
ニューロン微小管のダイナミシティを変化させる薬剤を投与することによる運動ニューロン疾患の治療方法。
【請求項40】
ニューロンを微小管ダイナミシティを変化させる薬剤と接触させることを含む運動ニューロン疾患に有効な薬剤のスクリーニング方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2009−528260(P2009−528260A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549603(P2008−549603)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/000450
【国際公開番号】WO2007/081910
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(507041238)キナメッド・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】KineMed, Inc.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/000450
【国際公開番号】WO2007/081910
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(507041238)キナメッド・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】KineMed, Inc.
【Fターム(参考)】
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