説明

運転指向推定装置

【課題】ニューラルネットワークのような人工知能システムを用いた情報処理機構により運転指向が推定される場合に、車両の重量によらず、より高精度に運転指向を推定することの可能な運転指向推定装置を提供する。
【解決手段】運転指向を推定する運転指向推定装置であって、車両の重量に応じて設定値を可変の値として設定する設定手段(S2)と、前記設定値を用いて、運転指向を推定する推定手段(S3)とを備えている。前記推定手段は、ニューラルネットワークを備え、前記設定値は、前記ニューラルネットワークの結合係数であることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転指向を推定する運転指向推定装置に関し、特に、運転指向をより高精度に推定することが可能な運転指向推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転者の運転指向を推定する技術が知られている。例えば、特開平10−324174号公報(特許文献1)には、運転者の運転指向のばらつきに影響されることなく車両の環境状態を十分な精度で推定できる環境状態推定装置の技術が開示されている。同公報には、各パラメータより、ニュートラルネットワークを用い、道路環境や、運転者志向を推定することが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−324174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ニューラルネットワークのような人工知能システムを用いた情報処理機構により運転指向が推定される場合、車両の重量が乗員の増減等によって変化した場合には、運転指向の推定精度が低下することがある。車両の重量が増加した場合には、アクセルがいつもより多く踏まれ、スロットル開度がより大きく開かれる。それにより、運転指向が、燃費走行指向であるはずが、スポーツ走行指向に判定される虞がある。また、その逆に、車両の重量が減少した場合には、スポーツ走行指向であるはずが、燃費走行指向であると判定される虞がある。
【0005】
例えばニュートラルネットワークは、その結合係数(重み)が所謂誤差逆伝搬学習アルゴリズムによって学習させられたパターンの連想型システムであり、その学習は、走行実験(例えば乗員が一人又は二人である想定のもとでの実験)によって予め完了させられている。そして、車両組み立て時では、上記結合係数(重み)は、その走行実験の結果に基づいて設定された固定値として与えられている。このことから、車両の重量が、その走行実験が行われたときの条件と異なる場合には、運転指向の推定精度が低下することがあった。
【0006】
本発明の目的は、運転指向をより高精度に推定することが可能な運転指向推定装置を提供することである。
本発明の他の目的は、ニューラルネットワークのような人工知能システムを用いた情報処理機構により運転指向が推定される場合に、車両の重量によらず、より高精度に運転指向を推定することの可能な運転指向推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の運転指向推定装置は、運転指向を推定する運転指向推定装置であって、車両の重量に応じて設定値を可変の値として設定する設定手段と、前記設定値を用いて、運転指向を推定する推定手段とを備えている。
【0008】
本発明の運転指向推定装置において、前記推定手段は、ニューラルネットワークを備え、前記設定値は、前記ニューラルネットワークの結合係数であることを特徴としている。
【0009】
本発明の運転指向推定装置において、前記推定手段は、ニューラルネットワークを含む人工知能システムを用いた情報処理機構を備え、前記設定値を用いて、運転者の操作量及び車両の状態量の少なくともいずれか一方が補正され、前記補正された値が前記情報処理機構に入力されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の運転指向推定装置によれば、運転指向をより高精度に推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1から図6を参照して、本発明の運転指向推定装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
本実施形態は、人工知能システム(本例では、ニューラルネットワーク)を用いた情報処理機構により運転者の運転指向を推定する運転指向推定装置に関する。その運転指向推定装置により推定された運転指向は、最適な車両駆動、制動、旋回制御等を行う際に用いられる。
【0013】
本実施形態では、車両の重量(積載重量)に応じて、ニューラルネットワークの予め設定された各パラメータの結合係数(重み)が選択される。車両の重量と結合係数(重み)で完全一致しない間の値は、補完される。
【0014】
本実施形態は、ニューラルネットワークを用いて運転指向を推定する運転指向推定装置であって、車両停車中に予め車両の重量が測定され(図1のステップS1)、その測定結果に応じて、ニューラルネットワークの結合係数が選択される(ステップS2)。例えば、図2及び図5に示すように、車両の重量が第1の値aであるときの結合係数は、Wij1であり、第2の値bであるときの結合係数は、Wij2であり、第3の値cであるときの結合係数は、Wij3である等である。車両の重量が第1の値aと第2の値bの間の値である場合には、結合係数(重み)Wij1、Wij2の間で補完される。
【0015】
図3は、本実施形態の運転指向推定装置が適用される自動変速機の制御装置の概略構成図を示している。図3において、符号10は有段の自動変速機、40はエンジンである。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて5段変速が可能である。図3では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
【0016】
スロットル開度センサ114は、エンジン40の吸気通路41内に配置されたスロットルバルブ43の開度を検出する。エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。パターンセレクトスイッチ117は、変速パターンを指示する際に使用される。加速度センサ90は、車両の前後加速度及び旋回加速度(横G)を検出する。路面μ検出・推定部112は、路面の摩擦係数μ、又は路面の滑りやすさを検出、あるいは推定する。アクセル開度検出部113は、アクセル開度を検出する。ブレーキ操作量検出部111は、ブレーキの操作量を検出する。重量センサ119は、車両の重量を検出する。
【0017】
路面μ検出・推定部112は、路面の摩擦係数μに代表される路面の滑り易さ(低μ路か否か)を検出又は推定する。ここで、低μ路には、悪路(路面の凹凸が大きい場合や路面に段差がある等を含む)が含まれる。即ち、路面μ検出・推定部112では、走行路面の摩擦係数μが演算され、その演算された摩擦係数μが予め定められたしきい値を超えているか否かによって、低μ路か否かが決定される。
【0018】
路面μ検出・推定部112では、上記に代えて、演算により摩擦係数μの具体的数値を求めることなく、各種条件、例えば、フロント車輪速センサ(図示せず)により検出された前輪(図示せず)の回転速度(従動輪速度)及び車速センサ122により検出された後輪(図示せず)の回転速度(駆動輪速度)の差に基づいて、路面が低μ路であるか否かを検出することができる。
【0019】
ここで、路面μ検出・推定部112による低μ路であるか否かの検出・推定の具体的方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、上記の前後の車輪速差の他に、車輪速の変化率や、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)やTRS(トラクション・コントロール・システム)やVSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)の作動履歴、車両の加速度と車輪スリップ率の関係の少なくともいずれか一つを用いて、低μ路であるか否かの検出・推定を行うことができる。
【0020】
このような低μ路であるか否かの検出・推定方法の一例が特開平5−223157号公報、特開平8−121582号公報、特開平10−94110号公報、特開2000−79834号公報、特許第2780390号公報、特開平5−346394号公報、特開平6−115417号公報に開示されている。
【0021】
路面μ検出・推定部112は、将来に走行予定の路面についての情報(ナビ情報など)に基づいて、低μ路であるか否かを予測する。ここで、ナビ情報には、ナビゲーションシステム装置95のように予め記憶媒体(DVDやHDなど)に記録されている路面(例えば非舗装路)の情報の他、車両自体が過去の実走行や他の車両や通信センターとの通信(車車間通信や路車間通信を含む)を介して得た情報(道路状況を示す情報や天候状況を示す情報を含む)が含まれる。その通信には、道路交通情報通信システム(VICS)やいわゆるテレマティクスが含まれる。
【0022】
ナビゲーションシステム装置95は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、演算処理装置と、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶された情報記憶媒体と、自立航法により自車両の現在位置や道路状況を検出し、地磁気センサやジャイロコンパス、ステアリングセンサを含む第1情報検出装置と、電波航法により自車両の現在位置、道路状況などを検出するためのもので、GPSアンテナやGPS受信機などを含む第2情報検出装置等を備えている。
【0023】
制御回路130は、スロットル開度センサ114、エンジン回転数センサ116、車速センサ122、シフトポジションセンサ123、加速度センサ90、アクセル開度検出部113、ブレーキ操作量検出部111、重量センサ119の各検出結果を示す信号を入力し、また、パターンセレクトスイッチ117のスイッチング状態を示す信号を入力し、また、ナビゲーションシステム装置95からの信号を入力し、路面μ検出・推定部112による検出又は推定の結果を示す信号を入力する。
【0024】
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ119、116、122、123、90からの信号、アクセル開度検出部113からの信号、ブレーキ操作量検出部111からの信号、上述のスイッチ117からの信号、ナビゲーションシステム装置95からの信号、重量センサ119からの信号、路面μ検出・推定部112からの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138cが接続されている。
【0025】
道路勾配計測・推定部118は、CPU131の一部として設けられることができる。ここで、道路勾配計測・推定部118による道路勾配の計測・推定の具体的方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、道路勾配計測・推定部118は、加速度センサ90により検出された加速度に基づいて、道路勾配を計測又は推定するものであることができる。また、道路勾配計測・推定部118は、平坦路での加速度を予めROM133に記憶させておき、実際に加速度センサ90により検出した加速度と比較して道路勾配を求めるものであることができる。さらに、道路勾配計測・推定部118は、上記ナビ情報から道路勾配の情報を入手するものであることができる。
【0026】
運転指向推定部115は、CPU131の一部として設けられることができる。運転指向推定部115は、運転者の運転状態及び車両の走行状態に基づいて、運転者の運転指向(スポーツ走行指向か通常走行指向)を推定する。運転指向推定部115の詳細については更に後述する。なお、運転指向推定部115の構成については、後述する内容に限定されず、運転者の運転指向を推定するものであれば、公知の様々な構成のもの(例えば上記特許文献1に記載の構成)を広く含む。ここで、スポーツ走行指向とは、動力性能を重視した指向、加速指向ないしは運転者の操作に対する車両の反応が迅速なスポーツ走行を好むことを意味する。
【0027】
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が記述されたプログラムと、推定された運転指向によって切り替えられる複数の変速線図のデータ(図示せず)と、アクセル開度とエンジン回転数のマップが格納されている。制御回路130は、入力した各種制御条件と変速線図に基づいて、自動変速機10の変速を行う。
【0028】
次に、運転指向推定部115の詳細について説明する。
運転指向推定部115は、複数種類の運転操作関連変数のいずれかの算出毎にその運転操作関連変数が入力されて推定演算が起動されるニューラルネットワークNNを備え、そのニューラルネットワークNNの出力に基づいて車両の運転指向を推定する。
【0029】
例えば図4に示すように、運転指向推定部115は、信号読込手段96と、前処理手段98と、運転指向推定手段100とを備えている。信号読込手段96は、前記各センサ・検出部90、111、112、113、114、116、122、123などからの検出信号を比較的短い所定の周期で読み込む。信号読込手段96により読み込まれた検出信号は、前処理手段98に出力される。
【0030】
前処理手段98は、信号読込手段96により逐次読み込まれた信号から、運転指向を反映する運転操作に密接に関連する複数種類の運転操作関連変数、すなわち車両発進時の出力操作量(アクセルペダル操作量)すなわち車両発進時のスロットル弁開度TAST、加速操作時の出力操作量の最大変化率すなわちスロットル弁開度の最大変化率ACCMAX、車両の制動操作時の最大減速度GNMAX、車両の惰行走行時間TCOAST、車速一定走行時間TVCONST、所定区間内において各センサから入力された信号の区間最大値、運転開始以後における最大車速Vmax、車両の加速度項(加速度入力項)、車両の減速度項(減速度入力項)などをそれぞれ算出する運転操作関連変数算出手段である。運転指向推定手段100は、前処理手段98により運転操作関連変数が算出される毎にその運転操作関連変数が許可されて運転指向推定演算を行うニューラルネットワークNNを備え、そのニューラルネットワークNNの出力である運転指向推定値を出力する。
【0031】
図4の前処理手段98には、車両発進時の出力操作量すなわち車両発進時のスロットル弁開度TASTを算出する発進時出力操作量算出手段98a、加速操作時における出力操作量の最大変化率すなわちスロットル弁開度の最大変化率ACCMAXを算出する加速操作時出力操作量最大変化率算出手段98b、車両の制動操作時の最大減速度GNMAXを算出する制動時最大減速度算出手段98c、車両の惰行走行時間TCOASTを算出する惰行走行時間算出手段98d、車速一定走行時間TVCONSTを算出する車速一定走行時間算出手段98e、例えば3秒程度の所定区間内における各センサからの入力信号のうちの最大値を周期的に算出する入力信号区間最大値算出手段98f、運転開始以後における最大車速Vmaxを算出する最大車速算出手段98g、車両の加速度項を算出する加速度入力項算出手段98h、車両の減速度項を算出する減速度入力項算出手段98iなどがそれぞれ備えられている。
【0032】
上記入力信号区間最大値算出手段98fにおいて算出される所定区間内の入力信号のうちの最大値としては、スロットル弁開度TAmaxt、車速Vmaxt、エンジン回転速度NEmaxtが用いられる。
【0033】
図4の運転指向推定手段100に備えられたニューラルネットワークNNは、コンピュータプログラムによるソフトウエアにより、或いは電子的素子の結合から成るハードウエアにより生体の神経細胞群をモデル化して構成され得るものであり、例えば図4の運転指向推定手段100のブロック内に例示されるように構成される。
【0034】
図4において、ニューラルネットワークNNは、r個の神経細胞要素(ニューロン)Xi(X1〜Xr)から構成された入力層と、s個の神経細胞要素Yj(Y1〜Ys)から構成された中間層と、t個の神経細胞要素Zk(Z1〜Zt)から構成された出力層とから構成された3層構造の階層型である。そして、上記入力層から出力層へ向かって神経細胞要素の状態を伝達するために、結合係数(重み)WXijを有して上記r個の神経細胞要素Xiとs個の神経細胞要素Yjとをそれぞれ結合する伝達要素DXijと、結合係数(重み)WYjkを有してs個の神経細胞要素Yjとt個の神経細胞要素Zkとをそれぞれ結合する伝達要素DYjkが設けられている。
【0035】
上記ニューラルネットワークNNは、その結合係数(重み)WXij、結合係数(重み)WYjkを所謂誤差逆伝搬学習アルゴリズムによって学習させられたパターン連想型のシステムである。その学習は、前記運転操作関連変数の値と運転指向とを対応させる走行実験によって予め完了させられている。
【0036】
上記の学習に際しては、複数の運転者についてそれぞれスポーツ走行指向、通常走行(ノーマル)指向の運転が例えば高速道路、郊外道路、山岳道路、市街道路などの種々の道路において実施され、そのときの運転指向を教師信号とし、教師信号とセンサ信号を前処理したn個の指標(入力信号)とがニューラルネットワークNNに入力させられる。なお、上記教師信号は運転指向を0から1までの値に数値化し、例えば通常走行指向を0、スポーツ走行指向を1とする。また、上記入力信号は−1から+1までの間あるいは0から1までの間の値に正規化して用いられる(本実施形態では、0から1までの間の値に正規化して用いられるとする)。
【0037】
図6に示すように、結合係数(重み)Wが求められるに際しては、上記のように、誤差逆伝搬法が用いられ、誤差Eが0になるように、結合係数Wを調整していく作業が行なわれる。まず、ニューラルネットワークに対して入力が呈示され(図中符号1)、次に、その入力に対する出力がニューラルネットワークで計算される(図中符号2)。次いで、その出力と、上記入力に対して予め呈示された正解(図中符号3)とが比較され、その比較の結果に基づいて誤差Eが求められる(図中符号4)。その誤差Eが0になるように各ニューロン間の結合係数Wを調整していく(図中符号5)。
【0038】
従来は、上記入力として、車両の重量が異なる値として与えられていなかったため、車両組み立て時では、上記結合係数(重み)WXij、結合係数(重み)WYjkとしては、車両の重量が全く反映されていない固定値が与えられていた。
【0039】
これに対して、本実施形態では、上記入力として車両の重量を異なる値として与え、それらの異なる値を有する車両の重量のそれぞれに対して、正解を準備しておけば、それぞれのときの結合係数Wが求められる。これにより、図5の結合係数Wij1、Wij2、など車両の重量の影響を抑制(又は実質的にゼロにする)ための結合係数Wを求めておくことが可能となる。
【0040】
上記のように、本実施形態では、車両の重量に応じて異なる複数の結合係数が予め設定されている。これにより、車両の重量が変化した場合の運転指向の推定精度の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
従来は、例えば、乗員一人の走行実験の結果等に基いて、結合係数の適合、学習が行なわれて、結合係数が決定されていた。しかし、この場合、走行実験時よりも乗員が増え、車両の重量が増加した場合には、アクセルが踏み増され、本来、燃費走行指向である運転者が、スポーツ走行指向と誤判定される可能性がある。そのため、本実施形態では、車両の重量に応じて結合係数を選択することにより、運転指向の誤判定を抑制する。本実施形態では、上記ケースとは逆に、結合係数の学習のための走行実験時に比べて、車両の重量が軽くなった場合に、本来はスポーツ走行指向であるはずが燃費走行指向であると誤判定される虞も抑制することができる。
【0042】
ここで、本実施形態において、ニューラルネットワークの結合係数を車両の重量に応じて変更する構成の優位点について説明する。
【0043】
本実施形態では、上記のように、車両の重量に応じてニューラルネットワークの結合係数を変える構成としている。この構成に代えて、例えば、車両の重量に応じて補正係数が異なる値として設定されたマップを予め走行実験の結果等に基づいて用意しておくことが考えられる。例えば、アクセル開度、スロットル開度、ステアリング操作やブレーキ操作のような車両の重量によって変更するパラメータに対して、上記補正係数を掛け、その積を上記入力としてニューラルネットワークに入力する構成が考えられる。
【0044】
この構成によっても、車両の重量の影響によって、運転指向の推定精度が低下することを抑制することができる。しかし、この構成を採る場合、ニューラルネットワークの入力と正解との相関をとること(ニューラルネットワークの正解との誤差Eが0になるような補正係数を求めること)が困難である。これに対して、本実施形態では、上記のように、車両の重量を異なる値として入力として与えるとともに、そのときの正解を準備しておけば、そのときの結合係数を比較的容易に求めることができるという優位性がある。
【0045】
図1を参照して、本実施形態の動作について説明する。
【0046】
ステップS1では、重量センサ119により車両の重量が測定される。次いで、ステップS2では、上記ステップS1にて測定された車両の重量に基づいてニューラルネットワークの結合係数Wが選択される。上記のように、本実施形態では、予め、ニューラルネットワークの結合係数Wを調整する過程において、車両の重量に応じた結合係数Wが図5のようなマップとして設定されている。よって、ステップS2では、図5のマップが参照されて、車両の重量に応じた結合係数Wが選択される。
【0047】
次に、ステップS3では、上記ステップS2にて選択された結合係数Wを有するニューラルネットワークが用いられて、運転指向推定部115により運転指向が推定される。このように、本実施形態では、車両の重量に応じたニューラルネットワークの結合係数(重み)が複数用意されており、車両の重量に基づいて、ニューラルネットワークの結合係数が選択されることにより、運転指向を推定する際に、車両の重量の変化による誤判定が抑制される。
【0048】
上記のように、本実施形態では、以下の技術が開示される。
(1)運転指向を推定するために用いられるニューラルネットワークにおいて、その結合係数が車両の重量によって可変に設定されること。
(2)運転指向を推定するために用いられるニューラルネットワークにおいて、車両の重量によって可変に設定される補正係数が求められ、その補正係数と車両の状態量や運転者の操作量のパラメータの積がニューラルネットワークに入力されること。
【0049】
さらに、上記においては、運転指向を推定する手段として、ニューラルネットワークが用いられたが、ニューラルネットワークに限定されず、例えば、遺伝的アルゴリズムのような(人工)知能システム(最適化手法、ソフトコンピューティング)を用いた情報処理機構を用いることができる。このような情報処理機構を用いて運転指向が推定される場合に、予め走行実験の結果等に基づいて、車両の重量によって異なる補正係数を設定しておき、その補正係数を用いて運転指向が推定されることにより、車両の重量の影響による運転指向の推定精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の運転指向推定装置の一実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の運転指向推定装置の一実施形態の一つの要部を説明するための図である。
【図3】本発明の運転指向推定装置の一実施形態が適用された自動変速機の制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の運転指向推定装置の一実施形態の要部の概略構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の運転指向推定装置の一実施形態で用いるマップデータを説明するための図である。
【図6】本発明の運転指向推定装置の一実施形態で結合係数の設定方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
10 自動変速機
40 エンジン
90 加速度センサ
95 ナビゲーションシステム装置
96 信号読込手段
98h 加速度入力項算出手段
98i 減速度入力項算出手段
100 運転指向推定手段
111 ブレーキ操作量検出部
112 路面μ検出・推定部
113 アクセル開度検出部
114 スロットル開度センサ
115 運転指向推定部
116 エンジン回転数センサ
118 道路勾配計測・推定部
119 重量センサ
122 車速センサ
123 シフトポジションセンサ
130 制御回路
131 CPU
133 ROM
NN ニューラルネットワーク
W 結合係数(重み)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転指向を推定する運転指向推定装置であって、
車両の重量に応じて設定値を可変の値として設定する設定手段と、
前記設定値を用いて、運転指向を推定する推定手段と
を備えたことを特徴とする運転指向推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の運転指向推定装置において、
前記推定手段は、ニューラルネットワークを備え、
前記設定値は、前記ニューラルネットワークの結合係数である
ことを特徴とする運転指向推定装置。
【請求項3】
請求項1記載の運転指向推定装置において、
前記推定手段は、ニューラルネットワークを含む人工知能システムを用いた情報処理機構を備え、
前記設定値を用いて、運転者の操作量及び車両の状態量の少なくともいずれか一方が補正され、前記補正された値が前記情報処理機構に入力される
ことを特徴とする運転指向推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−74261(P2008−74261A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256081(P2006−256081)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】