説明

遠心圧縮機

【課題】遠心圧縮機1の圧縮機効率の向上を十分に図りつつ、インペラ5の寿命を延ばすと共に、インペラ5の回転に必要な動力を低減すること。
【解決手段】ケーシング3のシュラウド壁3fにおけるブレード9の前縁位置よりも下流側に下流補助穴15が形成され、ケーシング3のシュラウド壁3fにおけるブレード9の前縁位置よりも上流側に上流補助穴17が形成され、ケーシング3の内部に下流補助穴15側から上流補助穴17側へ空気の流れを許容する環状のトリートメントキャビティ19が形成され、ケーシング3におけるシュラウド壁3fの径方向外側にトリートメントキャビティ19内に微細水滴Dを噴霧する噴霧機構21が配設されたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気等のガスを遠心力を利用して圧縮する遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用過給機、船舶用過給機、ガスタービン等に用いられる遠心圧縮機について種々の開発がなされており、以下、一般的な遠心圧縮機について図3を参照して説明する。ここで、図3は、一般的な遠心圧縮機の側断面図である。なお、図面中、「F」は、前方向を指し、「R」は、後方向を指してある。
【0003】
一般的な遠心圧縮機101は、ケーシング103を具備しており、このケーシング103は、内側に、シュラウド壁103fを有している。また、ケーシング103のシュラウド壁103f内には、インペラ105が回転可能に設けられており、このインペラ105は、軸心(ハブ107の軸心、換言すれば、インペラ105の軸心)周りに回転可能なハブ107、及びこのハブ107の外周面に間隔を置いて設けられた複数枚(1枚のみ図示)のブレード109を有している。ここで、各ブレード109の外縁は、ケーシング103のシュラウド壁103fに沿うようにそれぞれ延びている。
【0004】
ケーシング103のシュラウド壁103fの上流側周縁部(前側周縁部)には、空気(ガスの一例)をインペラ105側へ給気(吸入)する給気口(吸入口)111が形成されている。また、ケーシング103のシュラウド壁103fの下流側周縁部(後側周縁部)には、圧縮した空気を減速させて排気する環状のディフューザ流路(排気流路)113が形成されている。
【0005】
従って、例えばモータの駆動等によって複数枚のブレード109をハブ107と一体的に回転させる(換言すれば、インペラ105を回転させる)。これにより、給気口111からインペラ105側に給気した空気を遠心力を利用して圧縮することができ、圧縮した空気をディフューザ流路113から減速させて排気することができる。
【0006】
ところで、近年、遠心圧縮機101の高圧力比化のニーズが強まっており、それに伴って、主流の空気温度、特に、インペラ105の出口側の空気温度が上昇して、インペラ105のクリープ寿命が低下する傾向にある。その対応策として、微細水滴の気化熱による冷却作用によって主流の空気温度の上昇を抑える遠心圧縮機も開発されている(特許文献1参照)。
【0007】
即ち、先行技術に係る遠心圧縮機にあっては、運転中に、ケーシングのシュラウド壁内におけるインペラの前方に配設した噴霧機構(噴霧ノズル)からインペラ側に向かって微細水滴を適宜に噴霧する。これにより、微細水滴を主流の空気中で気化して、この気化熱による冷却作用によって主流の空気温度を下げることができ、結果的に、インペラの出口側と入口側の空気温度の温度差を小さくすることができる。よって、インペラのクリープ寿命を延ばすと共に、遠心圧縮機における圧縮過程を等温圧縮過程に近づけて、インペラの回転に必要な動力を低減することができる。
【特許文献1】特開平11−148489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行技術に係る遠心圧縮機にあっては、噴霧機構がケーシングのシュラウド壁内におけるインペラの前方に配設されているため、インペラの入口側において主流に乱れが生じ易く、遠心圧縮機の圧縮機効率の向上を阻害するおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、遠心圧縮機の圧縮機効率の向上を十分に図りつつ、インペラの寿命を延ばすと共にインペラの回転に必要な動力を低減することができる、新規な構成の遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、ガスを遠心力を利用して圧縮する遠心圧縮機において、内側にシュラウド壁を有したケーシングと、前記ケーシングの前記シュラウド壁内に回転可能に設けられ、軸心(ハブの軸心、換言すれば、インペラの軸心)周りに回転可能なハブ、及び前記ハブの外周面に周方向に間隔を置いて設けられかつ外縁が前記ケーシングの前記シュラウド壁に沿うようにそれぞれ延びた複数枚のブレードを備えたインペラと、を具備し、前記ケーシングの前記シュラウド壁の上流側周縁部にガスを前記インペラ側へ給気する給気口が形成され、前記ケーシングの前記シュラウド壁の下流側周縁部に圧縮したガスを排気する環状の排気流路が形成され、前記ケーシングの前記シュラウド壁における前記ブレードの前縁位置よりも下流側に下流補助穴が形成され、前記ケーシングの前記シュラウド壁における前記ブレードの前縁位置よりも上流側に上流補助穴が形成され、前記ケーシングの内部に前記下流補助穴側から前記上流補助穴側へガスの流れを許容する環状のトリートメントキャビティが形成され、更に、前記ケーシングにおける前記シュラウド壁の径方向外側に配設され、前記トリートメントキャビティ内、前記上流補助穴内、又は前記下流補助穴内に微細水滴を噴霧する噴霧機構と、を具備したことを要旨とする。
【0011】
なお、特許請求の範囲及び明細書において、「上流側」とは、主流の流れ方向から見て上流側のことであって、「下流側」とは、主流の流れ方向から見て下流側のことである。
【0012】
本発明の特徴によると、前記遠心圧縮機を運転する場合には、複数枚の前記ブレードを前記ハブと一体的に回転させる(換言すれば、前記インペラを回転させる)。これにより、前記給気口から前記インペラ側に給気したガスを遠心力を利用して圧縮することができ、圧縮したガスを前記排気流路から排気することができる。
【0013】
ここで、前記遠心圧縮機の運転中において、前記インペラの入口側のガス流量が少なくなると、前記インペラ側へ給気したガスの一部が逆流して、前記下流補助穴から前記トリートメントキャビティ内に流入する。そして、前記トリートメントキャビティ内に流入したガスは、前記下流補助穴側から前記上流補助穴側へ流れて、前記上流補助穴から流出して、再び前記インペラ側に給気される。換言すれば、前記遠心圧縮機のサージング現象を抑制するように、前記下流補助穴と前記上流補助穴の間において循環流を生成することができる。
【0014】
また、前記インペラの入口側のガス流量が少ないときに、前記噴霧機構から前記トリートメントキャビティ内、前記上流補助穴内、又は前記下流補助穴内に微細水滴を噴霧する。これにより、微細水滴を循環流に乗せて前記上流補助穴から主流に移流させて、主流のガス中で気化して、この気化熱による冷却作用によって主流のガス温度を下げることができ、結果的に、前記インペラの出口側と入口側のガス温度の温度差を小さくすることができる。ここで、前記噴霧機構が前記ケーシングにおける前記シュラウド壁の径方向外側に配設されているため、前記噴霧機構による微細水滴の噴霧によって主流に乱れが生じることはない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記インペラの入口側において主流に乱れを生じさせることなく、微細水滴を主流のガス中で気化して、この気化熱による冷却作用によって主流のガス温度を下げて、前記インペラの出口側と入口側のガス温度の温度差を小さくすることができるため、前記遠心圧縮機の圧縮機効率の向上を十分に図りつつ、前記インペラの寿命を延ばすと共に、前記遠心圧縮機における圧縮過程を等温圧縮過程に近づけて、前記インペラの回転に必要な動力を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態について図1及び図2を参照して説明する。
【0017】
ここで、図1は、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機の側断面図、図2は、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機の作用の説明図である。なお、図面中、「F」は、前方向を指し、「R」は、後方向を指してある。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機1は、車両用過給機、船舶用過給機、ガスタービン等に用いられ、空気(ガスの一例)を遠心力を利用して圧縮するものである。そして、本発明の実施形態に係る遠心圧縮機1の具体的な構成は、以下のようになる。
【0019】
遠心圧縮機1は、ケーシング3を具備しており、このケーシング3は、内側に、シュラウド壁3fを有している。また、ケーシング3は、車両用過給機等における別のケーシング(図示省略)に一体的に取付られている。
【0020】
ケーシング3のシュラウド壁3f内には、インペラ5が回転可能に設けられている。具体的には、ケーシング3のシュラウド壁3f内には、ハブ7が設けられており、このハブ7の外周面は、軸心方向(ハブ7の軸心方向、換言すれば、インペラ5の軸心方向)から徐々に径方向(ハブ7の径方向、換言すれば、インペラ5の径方向)外側に向かって延びている。また、ハブ7は、別のケーシングに回転可能に設けられたロータ軸Sの一端部(前端部)に一体的に連結されてあって、軸心(ハブ7の軸心、換言すれば、インペラ5の軸心)周りに回転可能である。更に、ハブ7の外周面には、複数枚(1枚のみ図示)のブレード9が周方向に間隔を置いて設けられており、各ブレード9の外縁は、ケーシング3のシュラウド壁3fに沿ってそれぞれ延びている。
【0021】
ケーシング3のシュラウド壁3fの前側周縁部には、空気をインペラ5側へ給気(吸入)する給気口(吸入口)11が形成されており、ケーシング3のシュラウド壁3fの後側周縁部には、圧縮した空気を減速させて排気する環状のディフューザ流路(排気流路)13が形成されている。なお、ケーシング3の内部には、スクロール流路(図示省略)がディフューザ流路13を囲むように形成されており、このスクロール流路は、例えば内燃機関等の吸気マニホールド(図示省略)に接続可能である。
【0022】
ケーシング3のシュラウド壁3fにおけるブレード9の前縁位置よりも下流側には、スリット状の1つ又は複数(1つのみ図示)の下流補助穴15が周方向に沿って形成されており、ケーシング3のシュラウド壁3fにおけるブレード9の前縁位置よりも上流側には、スリット状の1つ又は複数(1つのみ図示)の上流補助穴17が周方向に沿って形成されている。ここで、ケーシング3の内部には、下流補助穴15側から上流補助穴17側へ空気の流れを許容する環状のトリートメントキャビティ19が形成されており、このトリートメントキャビティ19は、下流補助穴15と上流補助穴17に連通してある。
【0023】
なお、スリット状の1つ又は複数の下流補助穴15及び/又は上流補助穴17が周方向に沿って形成される代わりに、丸孔状又は角孔状の複数の下流補助穴及び/又は上流補助穴が周方向に間隔を置いて形成されるようにしても構わない。
【0024】
ケーシング3におけるシュラウド壁3fよりも径方向外側には、トリートメントキャビティ19内に微細水滴Dを噴霧する複数(1つのみ図示)の噴霧機構(噴霧ノズル)21が支持パイプ23を介して設けられており、複数の噴霧機構21は、周方向に間隔を置いて配置してある。また、複数の噴霧機構21は、水滴を生成する水滴生成器25に接続回路27を介して接続されており、接続回路27の途中には、電磁比例制御弁等の流量制御弁29が配設されている。ここで、噴霧機構21より噴霧される微細水滴Dの水滴径は、10μm以下であって、望ましくは、3.0μm以下である。
【0025】
なお、トリートメントキャビティ19内に微細水滴Dを噴霧する噴霧機構21の代わりに、上流補助穴17内又は下流補助穴15内に微細水滴Dを噴霧する噴霧機構を用いても構わない。
【0026】
ケーシング3の近傍には、コントローラ31が配設されており、このコントローラ31には、前述の流量制御弁29の他に、インペラ5の出口側の空気温度を検出する温度センサ33が電気的に接続されている。そして、コントローラ31は、温度センサ33によって検出された検出値(インペラ5の出口側の空気温度)に基づいて、流量制御弁29の開口度を調節して噴霧機構21の微細水滴Dの噴霧流量を制御する噴霧流量制御部としての機能を有している。具体的には、コントローラ31は、温度センサ33によって検出された検出値が目標温度よりも高い場合には、流量制御弁29の開口度を大きくして噴霧機構21の微細水滴Dの噴霧流量を多くすると共に、温度センサ33によって検出された検出値が目標温度よりも低い場合には、流量制御弁29の開口度を小さくして噴霧機構21の微細水滴Dの噴霧流量を少なくするものである。ここで、目標温度とは、水蒸気の飽和温度以上に予め設定された温度のことである。
【0027】
なお、インペラ5の出口側の空気温度に基づいて噴霧機構21の微細水滴Dの噴霧流量を制御する代わりに、例えばインペラ5の出口側の空気流量等、インペラ5の出口側の空気温度と相関関係にあるパラメータに基づいて噴霧機構21の微細水滴Dの噴霧流量を制御しても構わない。
【0028】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0029】
遠心圧縮機1を運転する場合には、例えばモータ(図示省略)の駆動又はタービンホイール(図示省略)の回転等によりロータ軸Sを回転させて、複数枚のブレード9をハブ7と一体的に回転させる(換言すれば、インペラ5を回転させる)。これにより、給気口11からインペラ5側に給気した空気を遠心力を利用して圧縮することができ、圧縮した空気をディフューザ流路13から排気することができる。
【0030】
ここで、遠心圧縮機1の運転中において、インペラ5の入口側の空気流量が少なくなると、図2に示すように、インペラ5側へ給気した空気の一部が逆流して、下流補助穴15からトリートメントキャビティ19内に流入する。そして、トリートメントキャビティ19内に流入した空気は、下流補助穴15側から上流補助穴17側へ流れて、上流補助穴17から流出して、再びインペラ5側に給気される。換言すれば、遠心圧縮機1のサージング現象を抑制するように、下流補助穴15と上流補助穴17の間において循環流を生成することができる。
【0031】
また、インペラ5の入口側の空気流量が少ないときに、コントローラ31によってインペラ5の出口側の空気温度に基づいて噴霧機構21の微細水滴Dの噴霧流量を制御しつつ、噴霧機構21からトリートメントキャビティ19内に微細水滴Dを噴霧する。これにより、微細水滴Dを循環流に乗せて上流補助穴17から主流に移流させて、主流の空気中で気化して、この気化熱による冷却作用によって主流の空気温度を下げることができ、結果的に、インペラ5の出口側と入口側の空気温度の温度差を小さくすることができる。ここで、噴霧機構21がケーシング3におけるシュラウド壁3fの径方向外側に配設してあるため、噴霧機構21による微細水滴Dの噴霧によって主流に乱れが生じることはない。
【0032】
従って、本発明の実施形態によれば、インペラ5の入口側において主流に乱れを生じさせることなく、微細水滴Dを主流の空気中で気化して、この気化熱による冷却作用によって主流の空気温度を下げて、インペラ5の出口側と入口側の空気温度の温度差を小さくすることができるため、遠心圧縮機1の圧縮機効率の向上を十分に図りつつ、インペラ5の寿命を延ばすと共に、遠心圧縮機1における圧縮過程を等温圧縮過程に近づけて、インペラ5の回転に必要な動力を低減することができる。
【0033】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心圧縮機の側断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る遠心圧縮機の作用の説明図である。
【図3】一般的な遠心圧縮機の側断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 遠心圧縮機
3 ケーシング
3f シュラウド壁
5 インペラ
7 ハブ
9 ブレード
11 給気口
13 ディフューザ流路
15 下流補助穴
17 上流補助穴
19 トリートメントキャビティ
21 噴霧機構
23 支持パイプ
25 水滴生成器
27 接続回路
29 流量制御弁
31 コントローラ
33 温度センサ
D 微細水滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを遠心力を利用して圧縮する遠心圧縮機において、
内側にシュラウド壁を有したケーシングと、
前記ケーシングの前記シュラウド壁内に回転可能に設けられ、軸心周りに回転可能なハブ、及び前記ハブの外周面に周方向に間隔を置いて設けられかつ外縁が前記ケーシングの前記シュラウド壁に沿うようにそれぞれ延びた複数枚のブレードを備えたインペラと、を具備し、
前記ケーシングの前記シュラウド壁の上流側周縁部にガスを前記インペラ側へ給気する給気口が形成され、前記ケーシングの前記シュラウド壁の下流側周縁部に圧縮したガスを排気する環状の排気流路が形成され、
前記ケーシングの前記シュラウド壁における前記ブレードの前縁位置よりも下流側に下流補助穴が形成され、前記ケーシングの前記シュラウド壁における前記ブレードの前縁位置よりも上流側に上流補助穴が形成され、前記ケーシングの内部に前記下流補助穴側から前記上流補助穴側へガスの流れを許容する環状のトリートメントキャビティが形成され、
更に、前記ケーシングにおける前記シュラウド壁の径方向外側に配設され、前記トリートメントキャビティ内、前記上流補助穴内、又は前記下流補助穴内に微細水滴を噴霧する噴霧機構と、を具備したことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記インペラの出口側のガス温度又はこのガス温度と相関関係にあるパラメータに基づいて前記噴霧機構の微細水滴の噴霧流量を制御する噴霧流量制御手段と、を具備したことを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−48160(P2010−48160A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212770(P2008−212770)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】