説明

遠心圧縮機

【課題】ベーンの破損を抑制することが可能な遠心圧縮機を提供すること。
【解決手段】本発明は、ディフューザ流路16を開閉するように回動可能な複数のベーン20と、ベーン20が凍結しているか判定する凍結判定部60と、凍結判定部60によりベーン20が凍結していると判定された場合、ディフューザ流路16を閉じる方向へのベーン20の回動を制限する回動制限部62と、を具備する遠心圧縮機である。本発明によれば、ベーンの破損を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インペラとスクロールとの間に設けられ、インペラで増速された流体を減速加圧するディフューザ翼(ベーン)をディフューザ部に設けた遠心圧縮機が知られている。ベーンには、ディフューザ部のディフューザ流路を開閉するように回動するものがある。ベーンが回動することで、複数のベーン間の間隔が変化し、ディフューザ流路の開度が変化し、圧縮効率を高くすることができる。特許文献1には、回動式のベーンの一部を摺動可能とする発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−255220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば低温環境化において遠心圧縮機を使用した場合、ベーンが凍結することがある。凍結したベーンが回動すると、ベーン同士が干渉し、破損することがある。本発明は上記課題に鑑み、ベーンの破損を抑制することが可能な遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ディフューザ流路を開閉するように回動可能な複数のベーンと、前記ベーンが凍結しているか判定する凍結判定部と、前記凍結判定部により前記ベーンが凍結していると判定された場合、前記ディフューザ流路を閉じる方向への前記ベーンの回動を制限する回動制限部と、を具備する遠心圧縮機である。本発明によれば、ベーンの破損を抑制することができる。
【0006】
上記構成において、前記遠心圧縮機により圧縮された空気が流入する内燃機関の冷却水の温度を測定する温度測定部と、時間を測定する時間測定部と、を具備し、前記温度測定部により測定された温度と、前記時間測定部により測定された前記温度が継続した時間とに基づいて、前記凍結判定部は判定を行う構成とすることができる。この構成によれば、精度の高い凍結の判定が可能となる。
【0007】
上記構成において、水の融点以下の温度が継続した時間と前記水の融点以下の温度との積の合計が、水の融点以上の温度が継続した時間と前記水の融点以上の温度との積の合計よりも大きい場合、前記凍結判定部は前記ベーンが凍結していると判定し、前記水の融点以下の温度が継続した時間と前記水の融点以下の温度との積の合計が、前記水の融点以上の温度が継続した時間と前記水の融点以上の温度との積の合計よりも小さい場合、前記凍結判定部は前記ベーンが凍結していないと判定する構成とすることができる。この構成によれば、精度の高く凍結の判定をすることが可能となる。
【0008】
上記構成において、前記温度測定部は、前記内燃機関の停止から始動までにおける、前記冷却水の温度を測定し、前記時間測定部は、前記内燃機関の停止から始動までにおいて前記温度測定部により測定された所定の温度が継続した時間を測定する構成とすることができる。この構成によれば、効果的にベーンの破損を抑制することができる。
【0009】
上記構成において、前記内燃機関の動作状況に基づいて前記ベーンに付着した氷の量を推定する推定部を具備し、前記回動制限部は、前記推定部により推定された氷の量に基づいて、前記ベーンの回動を制限する構成とすることができる。この構成によれば、圧縮効率の低下を最低限に抑え、かつベーンの破損を抑制することができる。
【0010】
上記構成において、前記推定部により推定された氷の量が多い場合、前記回動制限部は前記ベーンの回動を大きく制限し、前記氷の量が少ない場合、前記回動制限部は前記ベーンの回動を小さく制限する構成とすることができる。この構成によれば、圧縮効率の低下を最低限に抑え、かつベーンの破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベーンの破損を抑制することが可能な遠心圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1に係るコンプレッサを備えるエンジンシステムを例示する概略図である。
【図2】図2(a)は、実施例1に係るコンプレッサを例示する概略図であり、図2(b)は、ベーンを例示する正面図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、凍結したベーンを例示する正面図である。
【図4】図4は、実施例1に係るコンプレッサが備えるECUの構成を例示する機能ブロック図である。
【図5】図5は、実施例1に係るコンプレッサの制御を例示するフローチャートである。
【図6】図6は、空気流量と圧力比との関係を例示するグラフである。
【図7】図7は、実施例2に係るコンプレッサの制御を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1に係るコンプレッサを備えるエンジンシステムを例示する概略図である。図1に示すように、エンジンシステム100は、ECU(Engine Control Unit)10、コンプレッサ11(遠心圧縮機)、タービン30、エアフローメータ31、過給圧センサ33、時計35、EGR(Exhaust Gas Recirculation:排出ガス循環)クーラ36、EGRバルブ37、温度計38、エンジン40(内燃機関)、PCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブ41、水温計42を備える。
【0015】
コンプレッサ11とタービン30とはシャフト14により連結されている。後述するコンプレッサ11のインペラ13、及びタービン30はシャフト14を軸として回転可能である。このようにエンジンシステム100は、ターボチャージャを備えるシステムである。
【0016】
コンプレッサ11には、ガス通路50の一端、及びガス通路51の一端が接続されている。ガス通路50の他端は、例えばコンプレッサ11が搭載される車両の外部と接続されている。タービン30には、ガス通路52の一端、及びガス通路53の一端が接続されている。ガス通路53の他端は、例えばコンプレッサ11が搭載される車両の外部と接続されている。ガス通路50には、ガス通路56の一端及びガス通路55の一端が接続されている。ガス通路53には、ガス通路54の一端が接続されている。エンジン40には、ガス通路51の他端、ガス通路52の他端、及びガス通路56の他端が接続されている。EGRクーラ36には、ガス通路55の他端及びガス通路54の他端が接続されている。
【0017】
コンプレッサ11は、ガス通路50から流入した空気を圧縮し、ガス通路51を通じてエンジン40に供給する。タービン30は、ガス通路52を通じて流入するエンジン40の排気を、ガス通路53を通じて排出する。タービン30から排出される排気の一部は、ガス通路54を通じてEGRクーラ36に流入する。EGRクーラ36は、流入した排気(EGRガス)を冷却し、ガス通路55に排出する。EGRガスはガス通路55を通じてコンプレッサ11に流入する。このようにエンジンシステム100は、低圧EGRシステムを利用するシステムである。また、エンジン40から排出されるブローバイガスは、ガス通路56を通じてコンプレッサ11に流入する。このようにコンプレッサ11は、外気と共に、EGRガス及びブローバイガスも圧縮しエンジン40に供給する。
【0018】
ガス通路50に設けられたエアフローメータ31は、ガス通路50を通じてコンプレッサ11に流入する空気流量を測定する。ガス通路55に設けられたEGRバルブ37は、EGRガスの流量を調整するためのバルブである。ガス通路51に設けられた過給圧センサ33は、コンプレッサ11からエンジン40に送り込まれるガスの圧力を測定する。ガス通路56に設けられたPCVバルブ41は、ブローバイガスの流量を調整するためのバルブである。ガス通路53に設けられた空燃比センサ43は、エンジン40の空燃比を測定する。エンジン40に設けられた水温計42(温度測定部)は、エンジン40の冷却水の温度を測定する。時計35は時間を測定する。温度計38(EGRガス温度測定部)は、EGRクーラ36におけるEGRガスの温度を測定する。
【0019】
ECU10は、エアフローメータ31により測定された空気流量、及び過給圧センサ33により測定された圧力を取得する。ECU10は、EGRバルブ37及びPCVバルブ41の開閉状態を制御して、空気流量を調整することができる。また、ECU10はコンプレッサ11が備えるベーンの開閉状態を制御することにより、コンプレッサ11の圧縮効率を調整することができる。詳しくは後述する。EUC10は、空燃比センサ43により測定された空燃比を取得し、空燃比から排気の湿度を算出することができる。ECU10は、水温計42により測定された冷却水の温度、及び時計35により測定された時間を取得する。これにより、ECU10は、水温計42により測定された冷却水の温度が継続した時間を取得することができる。次に、コンプレッサ11について説明する。
【0020】
図2(a)は、実施例1に係るコンプレッサを例示する概略図である。図2(a)に示すように、コンプレッサ11は、コンプレッサハウジング12、インペラ13、ベーン20、ディフューザプレート21、回動軸22、アクチュエータ23、を備える。
【0021】
コンプレッサハウジング12はコンプレッサ11の筐体をなしている。コンプレッサハウジング12はインペラ収容部12aを備えている。インペラ収容部12aにはインペラ13が収容されている。インペラ13はシャフト14により回転駆動される。既述したように、シャフト14は図1に示したタービン30と連結されている。
【0022】
コンプレッサハウジング12内には、吸入口12bから流体が吸入される。流体とは、例えば外気、EGRガス及びブローバイガス等である。吸入された流体はインペラ13に向かって流通し、インペラ13の回転により外側に向けて送り出される。インペラ13の外側にはスクロール部15が設けられている。インペラ13により外側に向けて送り出された流体は、スクロール部15を介して例えばエンジン40の吸気マニホルド等に供給される。インペラ13とスクロール部15との間には、ディフューザ流路16が設けられている。ディフューザ流路16は、シュラウド側壁17とディフューザプレート21の側壁とが対向して形成され、インペラ13の周囲に隣接して設けられている。ディフューザ流路16は、インペラ13が送り出す流体の運動エネルギを圧力に変換する。ベーン20は、ディフューザプレート21に設けられ、ディフューザ流路16内に配置されている。
【0023】
図2(b)は、ベーンを例示する正面図である。図2(b)に示すように、複数のベーン20がディフューザプレート21に設けられている。矢印で示すように、ベーン20は回動軸22を軸として、ディフューザ流路16を開閉するように回動可能である。回動方向のうち、Oを開方向、Cを閉方向とする。例えば高空気流量時には、ベーン20は開方向に回動する。このとき、ベーン20間の隙間は広くなる。ベーン20間の隙間は流体が通過する流路となる。このように高空気流量時には、ディフューザ流路16の流路断面積を大きくすることで、空気とベーン20との衝突による圧力ロスを抑制し、コンプレッサ11の圧縮効率を高めることができる。低空気流量時には、ベーン20は閉方向に回動する。このとき、ベーン20間の隙間は狭くなり、隣り合うベーン20が接触することでベーン20間に流路が形成されなくなる。このように低空気流量時には、ディフューザ流路16の流路断面積を小さくして、コンプレッサ11の圧縮効率を高めることができる。以上のように、コンプレッサ11では、空気流量に応じてベーン20が開閉することで、圧縮効率を最適化することができる。アクチュエータ23は、例えばモータ等でありベーン20を駆動する。ECU10は、アクチュエータ23を制御して、ベーン20の開閉状態を調整することができる。
【0024】
しかしながら、ベーン20が凍結した場合、ベーン20が破損することがある。図3(a)及び図3(b)は、凍結したベーンを例示する正面図である。図中において、格子斜線の領域はベーン20に付着した氷を示す。
【0025】
図3(a)及び図3(b)に示すように、ベーン20の表面に氷24が付着することがある。このとき、氷24を含めるとベーン20の厚さが増大することになる。図3(b)に示すように、凍結したベーン20が閉方向に回動すると、隣り合うベーン20に付着した氷24が接触することがある(図中の破線の円参照)。これにより、ベーン20が破損することがある。ベーン20の凍結は、コンプレッサ11内に混入する凝縮水等がベーン20に付着、凍結することで発生する。凝縮水は、例えばコンプレッサ11に流入する外気、ブローバイガス、又はEGRガス等に含まれる水分が凝縮した水である。
【0026】
ベーン20に付着した氷は、ディフューザ流路16に流体(例えば空気)が流れている状態が、ある程度の時間だけ継続すると、氷24は融解する。ディフューザ流路16に流体が流れている場合、エンジン40は動作しているため、エンジン40等、コンプレッサ11の周辺から熱が発生する。また、ブローバイガス及びEGRガスを含む流体からも氷24に熱が伝わる。これらの熱により氷24は融解する。しかしながら、寒冷地、特に冷間始動時にはコンプレッサ11の温度が低下しているためベーン20の凍結が発生しやすく、破損が発生する可能性がある。
【0027】
図4は、実施例1に係るコンプレッサが備えるECUの構成を例示する機能ブロック図である。図4に示すように、ECU10は、凍結判定部60、回動制御部61、回動制限部62、推定部64、及び湿度推定部63として機能する。凍結判定部60は、水温計42により測定された冷却水の温度、及び時計35により測定された所定の温度が継続した時間に基づいて、ベーン20が凍結しているか判定する。凍結の判定については後述する。回動制御部61は、エアフローメータ31により測定された空気量、及び過給圧センサ33により測定された圧力に基づいて、アクチュエータ23を制御して、図2(b)に示したようにベーン20の回動を調整する。回動制限部62は、回動制御部61に含まれ、ベーン20が凍結した場合に、ベーン20の閉方向への回動を制限する。これにより、ベーン20が衝突し破損することは抑制される。
【0028】
湿度推定部63は、空燃比センサ43により測定された空燃比を取得し、空燃比からEGRガスの湿度を計算する。言い換えれば湿度推定部63は湿度を推定する。推定部64は、温度計38により測定されたEGRクーラにおけるEGRガスの温度、及び湿度推定部63により算出された湿度を取得し、EGRガスの温度及び湿度から凝縮水の量を推定する。さらに推定部64は、凝縮水量からベーン20に付着する氷の量を推定することができる。詳しくは後述する。また実施例2において後述するように、回動制限部62は、推定部64により推定された氷の量に基づいて回動を制限することができる。
【0029】
図5は、実施例1に係るコンプレッサの制御を例示するフローチャートである。図5に示すように、まず凍結判定部60がベーン20は凍結しているか判定を行う(ステップS10)。Noの場合、つまりベーン20が凍結していない場合、制御は終了する。このとき、回動制御部61は、閉方向への制限なくベーン20の回動を制御する。Yesの場合、つまりベーン20が凍結している場合、回動制限部62は、ベーン20の閉方向への回動を制限する(ステップS11)。回動制限部62による回動の制限は、図3(b)のように氷24の接触が発生しないような制限である。ステップS11の後、回動制限部62は、時計35から、コンプレッサ11に空気が流れている状態で経過した時間tを取得し、所定の時間t0以上であるか判断する。言い換えれば、回動制限部62は、コンプレッサ11に空気が流れている状態で時間t0が経過したか判断する(ステップS12)。Yesの場合、回動制限部62はベーン20に付着した氷が融解したと判断し、回動の制限を解除する(ステップS13)。これにより、回動制御部61は、ベーン20を制限なく回動を制御することが可能となる。Noの場合、ベーン20に付着した氷は融解していないと判断され、回動の制限は解除されない。ステップS12においてNoの後、及びステップS13の後、制御は終了する。
【0030】
次に凍結の判定について詳しく説明する。水温計42は、例えば一定の周期ごとに、エンジン40の停止から始動までの間における冷却水の温度を測定する。このように、水温計42は、エンジン40の停止から始動までの間に、複数回温度を測定し、水温履歴を取得することができる。また、時計35は、停止から始動までにおいて水温計42により測定された複数の温度ごとに、温度が継続した時間を測定することができる。凍結判定部60は、温度及び時間を用いて凍結を判定する。表を参照して具体例を説明する。
【0031】
表1は、凍結判定部60が作成するデータテーブルの例である。なお、表1では、温度はT1aからT2b、時間はt1aからt2bまで記載しているが、温度及び時間の数は例示である。表中に黒点で示したように、T1a〜T2b及びt1a〜t2b以外の、温度及び時間が測定されてもよい。
【表1】

表1に示すように、凍結判定部60は、水温計42により測定された冷却水の温度T1a、T2a、T1b、T2b等を取得する。温度のうち、T1a及びT2a等は、例えば水の融点である273.15K以下の温度であり、T1b及びT2b等は、例えば273.15K以上の温度である。なお、273.15K以下の温度を凍結温度、273.15K以上の温度を融解温度とする。時間t1aは温度T1aが継続した時間であり、時間t2aは温度T2aが継続した時間である。時間t1bは温度T1bが継続した時間であり、時間t2bは温度T2bが継続した時間である。表1では省略して温度についても、継続した時間が測定されている。
【0032】
凍結判定部60は、温度ごとに、温度と、温度が継続した時間との積を計算する。表1の例では、凍結判定部60がT1a×t1a等を計算する。さらに、凍結判定部60は、凍結温度と、凍結温度が継続した時間との積の合計Aを計算する。また凍結判定部60は、凍結温度と、凍結温度が継続した時間との積の合計Bを計算する。表1の例では、A=T1a×t1a+T2a×t2a+・・・、及びB=T1b×t1b+T2b×t2b+・・・となる。凍結判定部60はAとBとを比較して、AがBよりも大きい場合、ベーン20が凍結していると判定する。つまり、凍結判定部60は図5のステップS10においてYesと判定する。その一方、BがAよりも大きい場合、凍結判定部60はベーン20が凍結していないと判定する。つまり、凍結判定部60は図5のステップS10においてNoと判定する。
【0033】
実施例1に係るコンプレッサ11は、回動可能な複数のベーン20と、ベーン20が凍結しているか判定する凍結判定部60と、ベーン20が凍結していると判定された場合、ベーン20の閉方向への回動を制限する回動制限部62と、を備える。これにより、ベーン20に付着した氷24の接触、更にベーン20の破損が抑制される。
【0034】
凍結判定部60は、水温計42により測定された温度と、時計35により測定された時間とに基づいて、凍結を判定することができる。具体的には表1に示したように、凍結判定部60が、凍結温度と、凍結温度が継続した時間との積の合計Aと、融解温度と、融解温度が継続した時間との積の合計Bとを比較する。このため、精度高く凍結の判定をすることが可能となる。特に凍結判定部60は、エンジン40の停止から始動までの温度履歴に基づいて、凍結の判定を行う。このため、ベーン20の凍結が発生しやすい冷間始動時において、効果的にベーン20の破損を抑制することができる。
【0035】
ただし、ベーン20の回動が制限されることにより、サージングが発生する恐れがある。図6は、空気流量と圧力比との関係を例示するグラフである。横軸はコンプレッサ11に流れる空気流量、縦軸は圧力比をそれぞれ示す。実線はエンジン40の作動線、点線は隣り合うベーン20が接触するまでベーン20を閉じている場合(閉状態)のサージライン、破線はベーン20回動制限時のサージラインをそれぞれ示す。
【0036】
図6に示すように、ベーン20の回動が制限されている場合、ベーン20が閉じている場合よりも、圧力比は低下する。図中に破線の楕円で囲んだように、空気流量が小さい場合、作動線は回動制限時のサージラインより高圧力比側に位置する。このときサージングが発生する。サージングを抑制するための対策として、圧力比の低下、又は空気流量の増大がある。図4に示すように、回動制御部61はエアフローメータ31により測定され空気流量、及び過給圧センサ33により測定された圧力を取得する。回動制御部61は、空気量及び圧力に基づいて、図6に破線で示したようなサージラインを推定することができる。回動制御部61は、エンジン40の作動線が、推定されたサージラインより高圧力比側に位置しないように、ベーン20を制御する。図6の例では、回動制御部61がベーン20を開方向に動かす。ベーン20が開方向に回動することにより、圧力比は低下する。これにより図6に矢印で示すように、作動線は破線で示したサージラインより低圧力比側にシフトする。従って、サージングは抑制される。
【0037】
また、ディフューザ流路16に流体が流れている状態が時間t0経過した場合、回動制限部62は制限を解除する。これは時間t0が経過するまでの間に、ベーン20に付着した氷24が融解していると考えられるためである。時間t0は、氷24が融解するような任意の時間とすることができる。
【実施例2】
【0038】
実施例2は、氷の量を推定する例である。図7は、実施例2に係るコンプレッサの制御を例示するフローチャートである。図7のステップS10〜S13は、図5のステップS10〜S13と同じ制御であるため説明を省略する。
【0039】
図7に示すように、ステップS10においてYesの場合、推定部64は、ベーン20に付着している氷の量を推定する(ステップS14)。回動制限部62は、推定された氷の量に応じて、ベーン20の回動を制限する(ステップS11)。
【0040】
このため実施例2によれば、ベーン20の回動の制限は最適化される。従って、ベーン20の回動の制限に起因する、コンプレッサ11の圧縮効率の低下は抑制される。特に図1に示したように、低圧EGRシステムを用いる場合、大量の凝縮水が発生し、ベーン20に付着する氷24の量も多くなる可能性がある。このため、ベーン20の回動は大きく制限される可能性がある。また回動が制限されている時間、言い換えれば時間t0が長くなる可能性があり、圧縮効率の低下の影響が大きくなる恐れがある。実施例2によれば、推定部64が氷の量を推定し、回動制限部62が回動の制限を最適化するため、圧縮効率の低下を最小限に抑え、かつベーン20の破損を抑制することができる。
【0041】
次に氷の量の推定について説明する。表2は、推定部64が作成するデータテーブルの例である。
【表2】

表2及び図4に示すように、推定部64は、温度計38により測定された温度T3、及び湿度推定部63により推定されたEGRガスの湿度mを取得する。推定部64は、温度T3及び湿度mに基づいて、凝縮水の量(凝縮水量)Vを推定する。さらに推定部64は、凝縮水量V、表1に示した温度と時間との積の合計A及びBに基づいて、ベーン20に付着する氷24の量を推定する。なお、氷24の量とは、例えば体積又は厚さ等である。
【0042】
温度T3が低く、湿度mが高い方が、推定される凝縮水量Vは多くなる。凝縮水量Vが多いほど、推定される氷の量も多くなる。氷の量が多いほど、回動制限部62はベーン20の回動を、大きく制限する。言い換えれば、ベーン20は、狭い範囲で回動する。このため、ベーン20の破損は抑制される。温度T3が高く、湿度mが低い方が、推定される凝縮水量Vは少なくなる。凝縮水量Vが少ないほど、推定される氷の量も少なくなる。氷の量が少ないほど、回動制限部62は、ベーン20の回動を小さく制限する。言い換えれば、ベーン20は、より広い範囲で回動することができる。このように回動制限部62は、ベーン20の回動の制限を最適化するため、コンプレッサ11の圧縮効率は高くなる。
【0043】
特にエンジン40の停止直前に推定部64が表2に示したようなデータを取得することで、エンジン40の停止期間中にコンプレッサ11に滞留する凝縮水量Vを推定することができる。この場合、表1に示したようなエンジン40の停止から始動までの温度履歴、及び停止期間中にコンプレッサ11に滞留すると推定される凝縮水量Vに基づいて、推定部64は氷の量を精度高く推定することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 ECU
11 コンプレッサ
16 ディフューザ流路
20 ベーン
23 アクチュエータ
31 エアフローメータ
33 過給圧センサ
35 時計
36 EGRクーラ
38 温度計
40 エンジン
42 水温計
43 空燃比センサ
60 凍結判定部
61 回動制御部
62 回動制限部
63 湿度推定部
64 推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディフューザ流路を開閉するように回動可能な複数のベーンと、
前記ベーンが凍結しているか判定する凍結判定部と、
前記凍結判定部により前記ベーンが凍結していると判定された場合、前記ディフューザ流路を閉じる方向への前記ベーンの回動を制限する回動制限部と、を具備することを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記遠心圧縮機により圧縮された空気が流入する内燃機関の冷却水の温度を測定する温度測定部と、
時間を測定する時間測定部と、を具備し、
前記温度測定部により測定された温度と、前記時間測定部により測定された前記温度が継続した時間とに基づいて、前記凍結判定部は判定を行うことを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
水の融点以下の温度が継続した時間と前記水の融点以下の温度との積の合計が、水の融点以上の温度が継続した時間と前記水の融点以上の温度との積の合計よりも大きい場合、前記凍結判定部は前記ベーンが凍結していると判定し、
前記水の融点以下の温度が継続した時間と前記水の融点以下の温度との積の合計が、前記水の融点以上の温度が継続した時間と前記水の融点以上の温度との積の合計よりも小さい場合、前記凍結判定部は前記ベーンが凍結していないと判定することを特徴とする請求項2記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記温度測定部は、前記内燃機関の停止から始動までにおける、前記冷却水の温度を測定し、
前記時間測定部は、前記内燃機関の停止から始動までにおいて前記温度測定部により測定された所定の温度が継続した時間を測定することを特徴とする請求項5記載の遠心圧縮機。
【請求項5】
前記内燃機関の動作状況に基づいて前記ベーンに付着した氷の量を推定する推定部を具備し、
前記回動制限部は、前記推定部により推定された氷の量に基づいて、前記ベーンの回動を制限することを特徴とする請求項1から4いずれか一項記載の遠心圧縮機。
【請求項6】
前記推定部により推定された氷の量が多い場合、前記回動制限部は前記ベーンの回動を大きく制限し、
前記氷の量が少ない場合、前記回動制限部は前記ベーンの回動を小さく制限することを特徴とする請求項5記載の遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197749(P2012−197749A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63304(P2011−63304)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】