説明

避妊のための精子受容体合成の可逆的阻害

本方法および医薬組成物は、動物における精子受容体活性を可逆的に阻害することに関する。ナイカルバジンならびにその薬理活性を保持する誘導体および改変体は、透明帯タンパク質の活性を阻害し、同時に起こる、受精に必要とされる卵母細胞表面上における精子受容体の合成および/または構築を阻害することが示される。ナイカルバジンは、例えば、動物の飼料にただ添加することによって容易に投与することが可能であり、また当該動物にとって非毒性であり、哺乳動物および鳥類種の集団を制御するための安全かつ効率的な手段をもたらすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生殖生理学の分野に関する。新規避妊剤を、その精子受容体合成を妨げる機能に基づいて開示する。
【背景技術】
【0002】
ナイカルバジンは50年以上にわたって、家禽類におけるコクシジウム症、寄生原生動物の感染を制御するために用いられている(非特許文献1参照)。その正確な作用様式は不明であるが、たくさんの生化学的効果について報告されている。細胞に対するナイカルバジンの効果で最も認知されているものの一つは、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生への影響を伴う、カリウムイオンの細胞膜を越える漏出を生じることである(非特許文献2)。これらのうちのいずれの効果が寄生虫自体にどのように影響するのか明らかではないが、ナイカルバジンは原生動物Eimeriaのライフサイクルにおいて異なる効果を有する(無性生殖および有性生殖を共に直接阻害する)(非特許文献3、非特許文献4)。
【0003】
養鶏業において、ナイカルバジンは肉用鶏(例えば、ブロイラ)を育てるために一般的に投与されている。しかし、誤って産卵用鶏の飼料にナイカルバジンを添加した場合、卵の殻の色の脱色および産卵数の急激な低下が数日のうちにも生じる(非特許文献5、非特許文献6)。これらの古い研究は、ブロイラおよび家畜用鶏に対する薬物投与の効果を明確に示しており、これは低レベルのナイカルバジン(< 125 ppm)によって、受精卵の孵化率が有意に低下することを示している。高レベル(ca. 700 ppm)のナイカルバジンは産卵を完全に失わせた。しかし、全ての研究は、飼料よりナイカルバジンを取り除いて7〜10日以内に、正常な孵化率および産卵数に戻ることを示していた。
【0004】
非特許文献1およびその他(例えば、非特許文献7)は、ナイカルバジンが、卵内において“漏れのある膜”を生じ、鶏卵の孵化率を低下させることを示唆する。本発明者らは、ナイカルバジンの主な効果が、卵母細胞の膜を構成する主要なタンパク質(すなわち、透明帯プロテインC (ZPC))の構造および/または構築を変えることによって、卵母細胞の膜の構造を変えることを見出した。ZPCはまた、トリ、マウス、ラット、ウシ、およびヒトにおいて主要な精子受容体である。したがって、これはトリ以外の他の動物においても有用なプロトコルとなり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chapman, H. D. (2001). Use of anticoccidial drugs in broiler chickens in the USA: analysis for the years 1995 to 1999. Poult Sci 80(5):572-80
【非特許文献2】Long, P. L., K. N. Boorman, et al. (1978). Avian coccidiosis: proceedings of the thirteenth poultry science symposium, 14-16th September, 1977. [S.1.], British Poultry Science, ltd.
【非特許文献3】Danforth, H. D., K. Watkins, et al. (1997). Evaluation of the efficacy of Eimeria maxima oocyst immunization with different strains of day-old broiler and roaster chickens. Avian Dis 41(4): 792801.
【非特許文献4】Xie, M. Q., T. Fukata, et al. (1991). Evaluation of anticoccidial drugs in chicken embryos. Parasitol Res 77(7):595-9.
【非特許文献5】Ott, W. H., S. Kuna, C. C. Porter, A. C. Cuckler and D. E. Fogg (1956) Biological studies on nicarbazin, a new anticoccidial agent. Poultry Sci. 35:1355-1367.
【非特許文献6】Sherwood, D. H., T. T. Milby and W. A. Higgins (1956) The effect of nicarbazin on reproduction in White Rock breeder hens. Poultry Sci. 35:1014-1019.
【非特許文献7】Jones, J. E., J. Solis, B. L. Hughes, D. J. Castaldo and J. E. Toler (1990) Repr oduction responses of broiler-breeders to anticoccidial agents. Poultry Sci. 69:27-36.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、哺乳動物の避妊用医薬組成物および避妊方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の別の目的は、動物、特に哺乳動物の可逆的な避妊方法を提供することである。
【0008】
さらに、本発明の別の目的は、経口投与によって、例えば、動物の飼料に添加することによって、動物を避妊させる方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、以下の本発明に関する説明より明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、ナイカルバジン(その活性を保持する誘導体および改変体)は、顆粒膜細胞(鳥類にて)および卵母細胞(哺乳動物にて)による精子受容体合成を可逆的に阻害することを見出した。ナイカルバジンは受精に必要とされる、卵母細胞表面における精子受容体の合成および/または構築を阻害する。したがって、本発明は鳥類および哺乳動物種の新規避妊用医薬組成物に関し、当該医薬組成物はナイカルバジン、その誘導体および改変体、ならびに医薬的に受容可能な担体を含む。避妊活性はナイカルバジンの投与時にのみ生じ、当該化合物が存在しなければ効果は消える。ナイカルバジンは飼料に添加するなど、様々な方法で投与することができる。
【0011】
本発明の医薬組成物は、有効な避妊法であり、卵母細胞の発生および/または成熟に関する従来的に認知されているいずれのホルモン機構も含むものではない。
【0012】
別の実施形態において、本発明を用いて、精子受容体の相互作用をさらに研究し、動物における受精率に影響を与えるために当該相互作用を改変する因子をZPCの転写または翻訳に影響を及ぼす因子ならびにナイカルバジンの効果を無効にするまたは増強する因子をスクリーニングすることによって同定し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ニワトリのZPCタンパク質に関するウエスタンブロットを示す。レーン1=chZPC;2=22kd chAPC;3=顆粒膜細胞抽出物;4=1mM ナイカルバジン;5=10mM ナイカルバジン;6=100mM ナイカルバジン (全細胞が死んだ)。
【図2】図2は、様々な用量でナイカルバジンを摂取したペキンダックの産卵数を示す。グレイは、対照群の回帰に関する95% 信頼区間を示す。この区間から外れる全てのデータは、対照と有意に異なる。
【図3】図3は、様々な用量のナイカルバジンを摂取したペキンダックに由来する卵の受精率を示す。グレイの領域は、対照群の回帰に関する95% 信頼区間を示す。この区間から外れる全てのデータは、対照と有意に異なる。
【図4】図4は、様々な用量のナイカルバジンを摂取したペキンダックに由来する卵の卵黄周囲の膜に由来する(ZP3抗体に対する)免疫反応性タンパク質を示す。薬物は1週目に作製し、2週目に摂取を開始した;ならびに内部コントロール。
【図5】図5は、受精卵および対照卵の卵母細胞膜に捕捉された明るく染色された多数の精子を示す。一方、ナイカルバジンで処理したニワトリは、ずっと少ない(受精を確実にするには不十分の数の)精子を有する無性卵しか有していなかった。アヒルを2億の精子を用いて受精させたところ、対照のアヒルの卵における全受精率は87%であり(49個の卵のうち)、500ppmのナイカルバジンで処理したアヒルは20%の受精率であった(5個の卵のうち)。(写真はDAPI蛍光染色を用いて20Xの倍率で撮影したもの)。
【図6】図6は、対照(C)およびナイカルバジンで処理したニワトリ(T)に由来する成熟卵胞の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、ナイカルバジン摂取から1週間後のラット卵巣組織の(マウスZPCモノクローナル抗体を使用した) ウエスタンブロットである。(mZPC-mab 1:2000;同様の結果が 1:5000および1:10000の希釈を用いても得られた)およそ50kDaにおけるZPC免疫反応性のバンド強度が減少している点に注目。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、動物における有効な精子受容体の産生および/または構築を可逆的に阻害する方法を開発した。本発明において、本発明者らはナイカルバジンが、脊椎動物において精子受容体をつくる主要なタンパク質の合成および/または産生を阻害することによって鳥類および哺乳動物における受精率および繁殖率を失わせることを見出した。
【0015】
本避妊法はまた、動物を屠殺することなく動物集団を減じることが望まれる国々において特に有用であり、ナイカルバジンを添加した飼料を動物に与えた場合、当該動物はもはや繁殖し得ない。
【0016】
本明細書中にて用いられる場合「治療有効量」とは、組織、系、動物またはヒトにおいて研究者、獣医、医師または他の臨床医によって求められる生物学的または医薬の反応を誘発する活性化合物または医薬品の量を指す。
【0017】
本明細書中にて用いられる場合、「ナイカルバジン」とは、ナイカルバジンおよび活性を保持するその誘導体、改変体、ホモログ等を含むものと解釈されるべきである。ナイカルバジンは数十年にわたって、ブロイラニワトリにおける糞および腸コクシジウム症の予防を支援するものとして用いられている。ナイカルバジンは、イオノフォアコクシディオスタティクス(coccidiostatics)と共に用いることができる。化学的には、1,3- N,N'-ビス(4-ニトロフェニル)ウレアおよび4,6-ジメチル-2(1 H)-ピリミドンからなる等モル複合体である。これらの化合物はそれぞれ、4,4'-ジニトロカルバニリドおよび2-ヒドロキシ-4,6-ジメチルピリミジンとしても知られている(図1参照)。ナイカルバジンは、電子ドナー-アクセプター分子複合体として記載される;相互作用部位は、アクセプターフェニルウレアの電子不足NHアミド基およびピリミドンドナー環における窒素の電子が豊富な孤立電子対である。
【化1】

【0018】
透明帯タンパク質および核酸
本発明者らは、ナイカルバジンが転写および/または翻訳によって透明帯活性を阻害することを見出した。透明帯 (ZP) DNAおよびアミノ酸配列は、全ての哺乳動物種(例えば、マウス、ニワトリ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、有袋類、非ヒト霊長類およびヒト)においてよく保存されており、通常はGenbank等の公共のデータベースより入手可能である。したがって、本発明は、異種の系(例えば、マウスにおけるブタの透明帯, PZP 3-a)および同種の系(例えば、イヌにおけるイヌの透明帯, CZP-2およびCZP-3)におけるナイカルバジンの避妊/滅菌に関する有効性を意図する。
【0019】
医薬組成物および投与経路
本発明の医薬組成物は、医薬的に受容可能な担体に溶解または分散した有効量のナイカルバジンを被験体に投与することを含む。「医薬的に受容可能」とは、動物(例えば、鳥類など)に投与した際に、副作用、アレルギーまたは他の有害な反応を生じない分子化合物および組成物を指す。少なくとも1つのナイカルバジン活性成分を含む医薬組成物の調製は、本明細書中の開示を参照することによって当業者には明らかとなろう。また、当該調製は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990(本明細書中に参照として援用される)に例示されている。さらに、動物への投与については、当該調製は、無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度の基準を満たしていなければならない。
【0020】
本発明の医薬組成物は、固体、液体またはエアロゾルの形態で投与されるか、注射などの投与経路のために滅菌を必要とするかに応じて、医薬的に受容可能な担体の異なる種類を含み得る。本発明の医薬組成物は、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、頭蓋内、間接内、前立腺内、胸膜内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所的(topically)、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、膀胱内、粘膜、心膜内、臍帯内、眼内、経口、局所的(topically)、局所的(locally)、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、点滴、持続注入、標的細胞を直接浸すことによる局所的かん流、カテーテル、洗浄、クリーム、液体組成物 (例えば、リポソーム)、もしくは他の方法または当業者に公知である上記いずれかの組み合わせにより投与することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990参照(本明細書中に参照として援用される))。
【0021】
被験体に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、身体的および生理学的要因(例えば、体重、現在またはこれまでの治療的介入、動物の特発性疾患および投与経路など)によって決定することができる。投与回数および投与期間は様々であり得る。投与に関与する医師は、各個体について組成物中の活性成分の濃度および適当な用量、ならびに投与期間を決定する。
【0022】
特定の実施形態において、医薬組成物は例えば、少なくとも約0. 1重量% の活性化合物を含み得る。別の実施形態において、活性化合物を約2重量%〜約75重量%または例えば、約25重量%〜約60重量%、およびそれらから導き出せるいずれかの範囲で含み得る。他の非限定的な実施形態において、一投与あたり、約1μg/kg/体重、約5μg/kg/体重、約10μg/kg/体重、約50μg/kg/体重、約100μg/kg/体重、約200μg/kg/体重、約350μg/kg/体重、約500μg/kg/体重、約1mg/kg/体重、約5mg/kg/体重、約10mg/kg/体重、約50mg/kg/体重、約100mg/kg/体重、約200mg/kg/体重、約350mg/kg/体重、約500mg/kg/体重〜約1000 mg/kg/体重またはそれ以上、およびそれらから導き出せるいずれかの範囲の用量を含み得る。
【0023】
いずれにしても、組成物は1または複数の成分の酸化を遅らせる様々な抗酸化剤を含み得る。さらに、様々な抗菌剤および抗真菌剤、特に限定されないが、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはそれらの組み合わせなどの保存剤によって、微生物による影響を抑えることができる。
【0024】
本発明のナイカルバジン医薬組成物は、遊離塩基、中性または塩形態の組成物に処方することができる。医薬的に受容可能な塩としては、酸付加塩、例えば、タンパク質様組成物の遊離アミノ基を用いて形成したもの、あるいは無機酸(例えば、塩酸もしくはリン酸)または有機酸(酢酸、シュウ酸、酒石酸またはマンデル酸など)を用いて形成したものが挙げられる。遊離カルボキシル基を用いて形成した塩はまた、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムもしくは水酸化(第二)鉄、または有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカインに由来し得る。
【0025】
液状組成物である実施形態において、担体は、これらに限定されないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)を含む溶媒または分散媒およびそれらの組み合わせであり得る。適当な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用;液状ポリオールもしくは脂質などの担体中に分散させることによって所望の粒径を維持すること;ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用;またはそれらの組み合わせによって、維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、塩化ナトリウムまたはそれらの組み合わせを含めることが好ましい。
【0026】
本発明の特定の態様において、ナイカルバジンは、経口摂取などの経路によって投与するために調製される。これらの実施形態において、固形組成物は例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル(例えば、硬もしくは軟殻ゼラチンカプセル)、徐放性製剤、ブッカル組成物、トローチ、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハースまたはそれらの組み合わせを含み得る。経口組成物は、日常の食事に直接含めても良い。経口投与に好ましい担体として、不活性希釈剤、吸収可能な食用担体またはそれらの組み合わせを含む。本発明の他の態様において、経口組成物はシロップまたはエリキシルとして調製し得る。シロップまたはエリキシルは、例えば、少なくとも1つの活性剤、甘味剤、保存剤、着香料、色素またはそれらの組み合わせを含んでも良い。
【0027】
特定の好ましい実施形態において、経口組成物は1または複数の結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑剤、着香料およびそれらの組み合わせを含み得る。特定の実施形態において、組成物は以下の1または複数のものを含み得る:結合剤、例えば、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチ、ゼラチンまたはそれらの組み合わせ;賦形剤、例えば、第二リン酸カルシウム、マンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムまたはそれらの組み合わせ;崩壊剤、例えば、コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸またはそれらの組み合わせ;滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム;甘味剤、例えば、スクロース、ラクトース、サッカリンまたはそれらの組み合わせ;着香料、例えば、ペパーミント、ウィンターグリーン油、チェリーフレーバー、オレンジフレーバーなど;またはこれらの組み合わせ。投与単位形態がカプセルである場合、上記の物質に加えて、液状担体などの担体を含み得る。様々な他の物質がコーティング剤として、または投与単位の物理的形態を改変するために存在し得る。例えば、錠剤、丸薬またはカプセルを、シェラック、糖またはそれらの組み合わせを用いてコーティングし得る。
【0028】
他の投与様式に好適な別の製剤として、坐薬が挙げられる。坐薬は、直腸、膣または尿道への挿入用の、様々な大きさおよび形状を有し、通常薬の入った固形の剤形である。挿入後、坐薬は、体腔液中にて軟化、融解または溶解する。一般的に、坐薬に関して、従来的な担体は例えば、ポリアルキレングリコール、トリグリセリドまたはそれらの組み合わせを含み得る。特定の実施形態において、坐薬は例えば、約0.5%〜約10%、好ましくは約1%〜約2%の範囲で活性成分を含有する混合物より形成し得る。
【0029】
滅菌した注射用溶液は、上に列挙した他の様々な成分と共に、適当な溶媒中に所望量の活性化合物を含めて、(必要であれば)その後ろ過滅菌することによって調製する。一般に、分散剤は基本的な分散媒および/または他の成分を含む滅菌したビヒクルに滅菌した様々な活性成分を含めることによって調製する。滅菌した注射用溶液、懸濁液またはエマルジョンを調製するための滅菌した粉末剤の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥または凍結乾燥法であり、これらは予めろ過滅菌した液体媒体より活性成分および任意のさらなる所望成分からなる粉末を生じる。液体媒体は、必要であれば適宜緩衝化し、液状希釈剤は注射する前に十分量の生理食塩水またはグルコースを用いて最初に等張化しなければならない。直接注射するための高濃度組成物の調製も意図され、ここでは溶媒としてDMSOを用いて、極めて迅速に浸透し、限られた範囲に活性剤を高濃度で送達することが想定される。
【0030】
組成物は、製造および保存の条件下にて安定であり、微生物(例えば、細菌および菌類)による汚染に対して保存されていなければならない。当然のことながら、エンドトキシンによる汚染は、安全なレベル(例えば、0.5 ng/mgタンパク質未満)に、最小限に維持されなければならない。
【0031】
特定の実施形態において、注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチンまたはそれらの組み合わせを用いることによって達成することができる。
【0032】
(実施例)
【実施例1】
【0033】
ナイカルバジンは50年以上にわたって、家禽類におけるコクシジウム症、寄生原生動物の感染を制御するために用いられている(Chapman, 2001による総説参照)。その正確な作用様式は不明であるが、たくさんの生化学的効果について報告されている。細胞に対するナイカルバジンの効果で最も認知されているものの一つは、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生への影響を伴う、カリウムイオンの細胞膜を越える漏出を生じることである(Long, 1978)。これらのうちのいずれの効果が寄生虫自体にどのように影響するのか明らかではないが、ナイカルバジンは原生動物Eimeriaのライフサイクルにおいて異なる効果を有する(無性生殖および有性生殖を共に直接阻害する)(Danforth, 1997、Xie, 1991)。
【0034】
養鶏業において、ナイカルバジンは肉用鶏(例えば、ブロイラ)を育てるために一般的に投与されている。しかし、誤って産卵用鶏の飼料にナイカルバジンを添加した場合、卵の殻の色の脱色および産卵数の急激な低下が、数日のうちにも生じる(Ott et al., 1956、Sherwood et al., 1956)。これらの古い研究は、ブロイラおよび家畜用鶏に対する薬物投与の効果を明確に示しており、これは低レベルのナイカルバジン(< 125 ppm)によって、受精卵の孵化率が有意に低下することを示している。高レベル(ca. 700 ppm)のナイカルバジンは産卵を完全に失わせた。しかし、全ての研究は、飼料よりナイカルバジンを取り除いて7〜10日以内に、正常な孵化率および産卵数に戻ることを示していた。
【0035】
Chapman (2001)およびその他(例えば、Jones et al., 1990)は、ナイカルバジンが、卵内において“漏れのある膜”を生じ、鶏卵の孵化率を低下させることを示唆する。本発明者らは、孵化率の低下について一般に受け入れられている説明は正確ではないと考えた。それは、薬剤の大量投与時に受精率も産卵数も低下することについて説明をしていないためである。代わりの説明を提供するために、本発明者らはさらに、ナイカルバジンの主な効果が、卵母細胞の膜を構成する主要なタンパク質(すなわち、透明帯プロテインC (ZPC))の構造および/または構築を変えることによって、卵母細胞の膜の構造を変えると考えた。ZPCはまた、トリ、マウス、ラット、ウシ、およびヒトにおいて主要な精子受容体である。したがって、これはトリ以外の他の動物においても有用なプロトコルとなり得る。
【0036】
この仮説を支持するための予備実験において、本発明者らは、産卵鶏の一次卵胞より顆粒膜細胞を単離し、それを単純な細胞培養培地(Hank 塩 (Gibco-BRL)および5% FBSを含有する1 ml ダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM)を添加した1 ml 培地(M)199-HEPES)に懸濁した。ナイカルバジンを10 mMの濃度で細胞に添加した。次に細胞を、Barbato et al. (1998)にしたがって、ソニケーターを用いて破壊し、タンパク質を沈殿させ、過熱して可溶化した。タンパク質を濃縮して、ゲル電気泳動によって分離して、ニワトリ ZPCに対する抗体を用いてウエスタンブロットを行った。図1に示すように、ナイカルバジン処理(レーン4〜6)により、免疫反応性 ZPCが欠失した(レーン1および3は対照chZPC)。
【実施例2】
【0037】
複数の研究を設計して実行し、卵母細胞膜における精子受容体に対するナイカルバジンの経口投与による効果を調べた。最初に、アヒルとニワトリを用いて、ナイカルバジン処理による主な効果を同定した。
(実施例2.1)
【0038】
本発明者らの最初の研究により、アヒルの産卵数および/または孵化率の低下におけるナイカルバジンの影響に関する用量反応関係を調べた。血液および卵中のDNC濃度は、摂取したナイカルバジン用量と線形の用量濃度関係を確立した。(本研究に用いられた用量は以下のとおり:0 mg/kg (対照)、31.25 ppm、62.5 ppm、125 ppm、250 ppmおよび500 ppm (これらの用量は、ニワトリの孵化率に影響を及ぼすことが知られている用量範囲(Chapman, 2001)に対応する)。図2は、ナイカルバジンの処理前後における産卵数の低下を示す。
【0039】
本実験における全ての雌鳥は、未処理の雄アヒルに由来する精子で人工受精させているために、その後の受精率への影響は全て雌アヒルに対するナイカルバジンの影響によるものと考えられた。図3は、処理した雌鳥の卵の受精率に対するナイカルバジンの経口投与による顕著な効果を示す。さらに、ナイカルバジンで処理した飼料を中止したところ高濃度のナイカルバジンを摂取していた雌鳥でさえも、10日以内に正常な産卵数および受精率に回復した。
【0040】
本実験の間、毎週卵のサブサンプルを採取し、抗ZPC抗体およびウエスタンブロッティング法を用いて、卵母細胞膜中のZPCを解離、抽出および同定した。図4は、500ppm用量のナイカルバジンにより、ZPCが処置から1週間後には検出されず、その後も欠失していたことを示す。250ppm用量を受けたアヒルに由来する卵母細胞膜は、徐々にZPCの濃度が明確に低下した。
【0041】
アヒル卵母細胞膜に存在するZPC (主要な精子受容体)の量が減少していると考えられることから、卵が受精しなくなるのは、卵母細胞に付着する精子が減少することによるものと判断した。図5は、対照およびナイカルバジンで処理したアヒルに由来する一組の膜サンプルを示す。本発明者らのこれまでのデータと同じく(例えば、Barbato et al., 1998)、対照アヒルに由来する卵では、卵母細胞膜1 mm2あたり228±15個の精子が見られるのに対し、ナイカルバジンで処理したアヒルに由来する膜では1 mm2あたり0±15個の精子が存在した。
(実施例2.2)
【0042】
追跡実験として、ZPC合成を失くすことなく低下させるために、6匹からなる産卵鶏群に250ppmのナイカルバジンで処理した飼料を与えた。卵より卵膜を採取し、最も成熟した卵胞を、処理したニワトリおよび対照のニワトリより解離した。当該膜は四酸化オスミウムで固定し、ミクロトームにより切片とし、電子顕微鏡で観察した。
【0043】
図6は、卵黄周囲の内膜(これは85% ZPCタンパク質より構成される)の厚さが減少していることを明確に示している。この顕微鏡写真により、上記したデータを直接的に、画像により確認することができる。すなわち、ナイカルバジンの経口投与により、卵母細胞膜のZP3含量が低下する。さらに、その低下は精子の結合を低下させるのに十分量であり、そのために、処理した動物における受精率は低下する。
【実施例3】
【0044】
1998年に実施された世界保健機関による実験において、ナイカルバジンの毒性効果が調べられた(WHO FOOD ADDITIVES SERIES 41;http/www.inchem.org )。12匹のオスおよび12匹のメスFDRLラットからなる群に、フェニルウレアおよびピリミドン成分を含有する飼料を与えた(フェニルウレアについては1日あたり0、50、150または300 mg/体重kg 、ピリミドンについては1日あたり0、17、50または100 mg/体重kgの用量となるように算出した濃度にて)。投与処置は、一世代につき2回の出産にて、連続した3世代にわたって継続的に行った。その結果において、著者らは次のように述べている「次世代において、高い用量におけるF2aおよびF3a同腹仔は、生まれる仔の数は若干少ないが、F2bまたはFib同腹仔においてその効果は再び現れなかった」。結論として、著者らは、同腹仔の数に減少が見られたが、一貫性がなくあまり重大ではないと考えられると示唆している。しかし、ナイカルバジンの活性成分の相対分布は、鳥類種にて見られるものとはかなり違っていた。ナイカルバジンを哺乳動物の血中において同様の濃度を生じるように処方したならば、受精率および繁殖率に対するナイカルバジンによりもたらされる影響は哺乳動物においても見られると、本発明者らは考えている。
(実施例3.1)
【0045】
哺乳動物種におけるナイカルバジン吸収を増大させるために、本発明者らはナイカルバジンと一般的な医薬担体、5% プロピレングリコール (PGC)とを組み合わせた。500ppm用量を8匹の成体メスラットに7日間与え、その時点でラットを屠殺し、そして卵巣を取り出し、タンパク質、RNAおよびDNAを保存するためにRNAlater に入れた(4匹の対照ラットも屠殺した)。卵巣タンパク質およびmRNAを標準的な実験プロトコルによって抽出した。図7は、マウスモノクローナル抗体 (当該抗体はラットZPCと交差反応する)を用いたZPCについてのウエスタンブロットの結果を示す。
【0046】
処理した動物より得られた卵巣サンプルに由来するZPC-免疫反応を示すバンドの強度に低下が見られた場合、本発明者らはPCRプライマーを設計して、ラットZPCのmRNAを同定した。定量的 rtPCR法を用いることによって、本発明者らは卵巣組織サンプル中に存在するZPC mRNAのコピー数を推定できた。表1は、ZPC遺伝子のコピー数における有意な(30%)減少を示す。これらのデータは、ナイカルバジンがラットにおけるZPCのタンパク質発現を低下させるだけでなく、ZPC遺伝子の転写も有意に低下させることを示す。
【表1】

(実施例3.2)
【0047】
前項の間接的な生化学的知見より、本発明者らはマウスを用いた直接的な食餌実験を試みた。この場合に、マウスは0.5% ナイカルバジン飼料(5%プロピレングリコール含有)を摂取した。さらに、7.5% ピーナッツバターを飼料に添加し、味を良くした。10交配対のマウスを、2週間にわたって4〜5時間、飼料を得られるようにした。この間、未処理の交配対は90%の受胎率で、1同腹仔あたり平均6匹の仔を有した。処理したマウスは、1回の妊娠で2匹の仔を有するのみであった(1同腹仔あたり0.2匹の子を有する10%の受胎率)。これらの仔は完全に正常であり、催奇形効果の兆候はなかった。処理した飼料を取り除いた後、それまでに処理を受けていた全てのマウスを交配させ、その後10ヶ月間にわたって通常の同腹仔を妊娠した。
【0048】
参考文献

【実施例4】
【0049】
本発明において、ナイカルバジンは、脊椎動物における透明帯3遺伝子およびタンパク質の発現に特に影響を及ぼす。ZP3遺伝子の他のホモログもナイカルバジンにより悪影響を受け得ると考えられる。例えば、翅脈の構造成分であるZP3の昆虫ホモログがある。ナイカルバジンは、脊椎動物の遺伝子と同様に、昆虫ホモログの発現を妨げる。
【0050】
即座の実験において、3〜5%のナイカルバジン製剤を、担体としてエタノールを使用して(ミバエはエタノールに引き寄せられるため)、ミバエのバイアル中の媒体(飼料) に添加した。高用量(5%)では、ミバエの卵は孵化しなかった。3%では、ミバエは孵化したものの、羽が変形しており飛ぶことはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物における精子受容体活性を阻害する方法であって、細胞に有効量のナイカルバジンおよび担体を投与することを含む、上記方法。
【請求項2】
投与が、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所的(topically)、筋肉内、腹腔内、皮下、粘膜、心膜内、経口、局所的(locally)、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、点滴および持続注入からなる群から選択される投与である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
投与が経口投与である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
動物が鳥類である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
鳥類がニワトリである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
鳥類がアヒルである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
動物が哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
動物がラットである、請求項5記載の方法。
【請求項9】
動物がマウスである、請求項5記載の方法。
【請求項10】
担体がポリエチレングリコールである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
有効量のナイカルバジンおよび医薬的に受容可能な担体を含む避妊用医薬組成物。
【請求項12】
静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所的(topically)、筋肉内、腹腔内、皮下、粘膜、心膜内、経口、局所的(topically)、局所的(locally)、吸入 (例えば、エアロゾル吸入)、注射、点滴および持続注入からなる群から選択される手段を介して投与される、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
経口投与用である、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
担体がポリエチレングリコールである、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
精子受容体合成または精子受容体複合体形成に影響を及ぼす因子を同定するための薬剤スクリーニングアッセイであって、鳥類顆粒膜細胞の培養物およびナイカルバジンを含む、上記薬剤スクリーニングアッセイ。
【請求項16】
哺乳動物における精子受容体複合体の形成に影響を及ぼす因子の同定方法であって、ナイカルバジンで処理した顆粒膜細胞の培養物を得ること、精子受容体複合体との相互作用について調べられる因子を該細胞に導入して、その後該培養物における透明帯プロテインCの活性についてアッセイすることを含む、上記方法。
【請求項17】
顆粒膜細胞が、異種透明帯プロテインCをコードするヌクレオチド配列により遺伝子的に改変されている、請求項16記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物における避妊の抑制方法であって、動物における精子受容体活性を、有効量のナイカルバジンを該哺乳動物に投与することによって抑制することを含む、上記方法。
【請求項19】
投与が、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所的(topically)、筋肉内、腹腔内、皮下、粘膜、心膜内、経口、局所的(topically)、局所的(locally)、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、点滴および持続注入からなる群から選択される投与である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
投与が経口投与である、請求項2記載の方法。
【請求項21】
ナイカルバジンと食物を組み合わせて投与する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
動物がラットである、請求項19記載の方法。
【請求項23】
動物がマウスである、請求項19記載の方法。
【請求項24】
有効量のナイカルバジンを添加した動物飼料を含む、動物集団を減少させるための避妊用飼料。
【請求項25】
ZP3を発現可能な細胞においてZP3活性を抑制するための方法であって、該細胞に有効量のナイカルバジンを投与することを含む、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−504283(P2010−504283A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523786(P2009−523786)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/017316
【国際公開番号】WO2008/019047
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(502224803)ザ ペン ステイト リサーチ ファウンデーション (6)
【出願人】(509035059)ファーマ サイエンス,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】