説明

還元剤添加システムの解凍判定装置及びエンジンの排気浄化装置

【課題】還元剤添加システムにおいて、供給管を含むシステム全体における尿素水の解凍を適切に判定する。
【解決手段】感温型の尿素センサ74により、貯蔵タンク内の尿素水の温度を検出するとともに、この尿素水に含まれる尿素の濃度を検出し、検出された温度及び濃度に基づいて、貯蔵タンクにおける尿素水の凍結を判定する(S302)。凍結判定時において、供給ポンプを作動させて、その出力側における圧力を検出し、検出された圧力に基づいて、尿素水供給系の配管における解凍を判定し、システム全体としての解凍を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤添加システムの解凍判定装置及びこれを備えるエンジンの排気浄化装置に関し、詳細には、エンジンから排出される窒素酸化物(以下「NOx」という。)の還元のための還元剤又はその前駆体を水溶液の状態で貯蔵させるようにした還元剤添加システムにおいて、供給管を含むシステム全体における水溶液の解凍を適切に判定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される大気汚染物質、特に排気中のNOxを後処理により浄化する排気浄化装置として、次のような還元剤添加システムによるものが知られている。エンジンの排気にNOxの還元剤であるアンモニアを添加し、排気中のNOxとこのアンモニアとを還元触媒上で反応させて、NOxを浄化するものである。車上でのアンモニアの貯蔵容易性を考慮して、アンモニアをその前駆体である尿素の形態で貯蔵しておき、実際の運転に際してこの尿素を排気中に供給する方法は、特に尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)法と呼ばれている。この尿素SCR法によるシステムにおいては、尿素を予め純水に溶解させて水溶液とし、貯蔵タンクにこの水溶液を貯蔵しておくのが一般的である(特許文献1)。尿素水は、無臭の水溶液であり、安全性及び安定性も高いことから、一般の使用者であっても取扱いが可能である。そして、実際の運転に際しては、還元触媒の上流に設置された噴射ノズルに対して貯蔵タンクから尿素水を供給し、この噴射ノズルを介して尿素水を排気通路内に噴射することで、排気熱を利用した尿素の加水分解反応を生じさせて、アンモニアを発生させる。
【0003】
このように還元剤等が水溶液(たとえば、尿素水)の状態で貯蔵される還元剤添加システムについては、寒冷地におけるなど、気温が氷点下にまで低下するような環境での運転に関して次のことが問題となる。寒冷地等においては、貯蔵タンクに貯蔵されている尿素水が停車中に氷点下にまで冷却され、凍結することで、その後のエンジンの始動に際して排気に還元剤を添加することができず、NOxの放出を有効に抑制することができないことである。そこで、このような状況を始動後早期に解消して、NOxの放出を抑制するため、尿素水の貯蔵タンクにヒータを設置し、エンジンの始動に際して尿素水が凍結している場合に、貯蔵タンクの内部をこのヒータにより強制的に加熱することとしている。尿素水の凍結は、貯蔵タンクに限らず、尿素水供給系の配管においても発生する。従って、貯蔵タンク及び尿素水供給系の配管の双方で尿素水の凍結が解除(すなわち、解凍)した場合に、排気に対する還元剤の添加が可能となる。
【0004】
ここで、貯蔵タンク及び尿素水供給系の配管における尿素水の解凍を判定するためのものとして、温度センサ及び加圧ポンプを採用した次のような技術が知られている。貯蔵タンクに尿素水の温度を検出するための温度センサを設置するとともに、この温度センサにより検出された温度が所定の値に達したときに、尿素水供給系の加圧ポンプを作動させ、この加圧ポンプの出力側で圧力の上昇が確認された場合に、貯蔵タンク及び配管を含むシステム全体としての解凍が完了したと判定するものである(特許文献2)。
【特許文献1】特開2000−027627号公報(段落番号0013)
【特許文献2】特開2005−315206号公報(段落番号0005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
温度センサ及び加圧ポンプを採用した上記の技術は、貯蔵タンクに限らず、尿素水供給系の配管における尿素水の解凍を判定することを可能とするものである。しかしながら、上記の技術においては、貯蔵タンクにおける尿素水の状態を判定するための手段として、温度センサのみが設けられることから、次のことが問題となる。
温度センサからの出力のみからでは、融点付近の温度域において、尿素水が実質的な解凍前の固体の状態にあるのか、解凍後の液体の状態にあるのかの相状態の判別まではすることができないことである。従って、凍結した状態からの解凍の過程において、温度センサからの出力に基づいて解凍したとの一応の判定をなした後、システム全体としての解凍を判定するために加圧ポンプを作動させるに際し、貯蔵タンクの内部で尿素水が完全には解凍していない(融点付近の温度域にはあるが、固体の状態にある。)場合は、更に解凍が進み、液体となるまでの間、加圧ポンプを無駄に作動させることとなる。このような無駄を削減するため、融点付近の温度域に達した後、解凍が進んで液体への相変化が生じたものと見込まれるまでの時間を遅らせて加圧ポンプを作動させることも考えられるが、この温度域おいては、温度の上昇に時間がかかり、温度の上昇も必ずしも一様な変化を示すものではないことから、加圧ポンプを作動させるタイミングとして適切なタイミングを設定することは困難である。従って、NOxの排出をできるだけ抑制するとの観点からは、尿素水の供給の可否を早期に確定することが必要であり、そのためには、温度センサからの出力による判定の後、直ちに加圧ポンプを作動させて、圧力による判定に移行せざるを得ない。
【0006】
以上から、貯蔵タンクに貯えられている還元剤等の水溶液が解凍したことを、融点付近の温度域にある場合の相状態の判別を含めて判定することができれば、システム全体としての判定に際して実際には固体の状態にあるにも拘わらず加圧ポンプを作動させるなどの不要な操作を回避して、判定をより適切になし得るとともに、還元剤の添加をより適切なタイミングで開始させることが可能となる。
【0007】
本発明は、以上の問題を考慮した還元剤添加システムの解凍判定装置及びエンジンの排気浄化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る還元剤添加システムの解凍判定装置は、NOxの還元剤又はその前駆体を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンクと、この貯蔵タンクに貯蔵されている水溶液を噴射するための噴射ノズルと、貯蔵タンク及び噴射ノズルを接続する水溶液の供給管と、を備える還元剤添加システムにおいて、凍結した水溶液の解凍を判定するための装置である。貯蔵タンクに貯蔵されている水溶液の温度を検出可能に構成された温度センサと、この水溶液に含まれる還元剤又は前駆体の濃度を検出するための濃度センサと、供給管又はこれと連通する液体流通部における水溶液の圧力を検出可能に構成された圧力センサと、を備えるとともに、温度センサにより検出された水溶液の温度、濃度センサにより検出された還元剤又は前駆体の濃度、及び圧力センサにより検出された水溶液の圧力に基づいて水溶液の解凍を判定する制御ユニットを備える。濃度センサは、水溶液に対して直接的又は間接的に接触させた状態で設けられた感温体と、この感温体に対して熱的に接続されたヒータと、を備える。感温体は、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有しており、濃度センサは、ヒータを駆動するとともに、ヒータにより加熱された感温体の電気特性値を、還元剤又は前駆体の濃度として出力する。
【0009】
本発明に係るエンジンの排気浄化装置は、このような構成の解凍判定装置を備えるとともに、エンジンの排気通路に介装された還元触媒と、貯蔵タンクに貯えられている水溶液を、還元触媒の上流で排気通路内に噴射可能に構成された還元剤添加システムと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、還元剤添加システムにおける水溶液の解凍を判定するため、温度センサ及び圧力センサに加えて感温型の濃度センサを設けることとし、これらのセンサにより検出された温度、濃度及び圧力に基づいて、水溶液が解凍したか否かを判定することとした。解凍の過程において、水溶液は、融点付近の温度域で実質的な解凍前の固体の状態と、解凍後の液体の状態とをとり得るところ、液体の状態と固体の状態とでは、この水溶液を媒体とする熱伝達の特性が大きく異なる。ここで、濃度センサを構成する感温体は、この熱伝達の特性に応じて電気特性値が変化する性質を有するものであることから、この濃度センサによれば、水溶液が解凍前の固体の状態にあるか、解凍後の液体の状態にあるかでその出力に大きな差が生じるため、水溶液が解凍したか否かを、相状態の判別を含めて判定することが可能である。従って、本発明によれば、貯蔵タンクに貯えられている水溶液が解凍したことを、融点付近の温度域にある場合を含めて正確に判定したうえで、圧力による判定に移行することが可能となることから、実質的な解凍前に加圧ポンプを作動させるなどの不要な操作を伴うことなく、システム全体としての解凍を適切に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン(以下「エンジン」という。)1の構成を示している。本実施形態では、エンジン1として直噴型のディーゼルエンジンを採用しており、エンジン1は、トラック等の大型車両の駆動源を構成する。
吸気通路11の導入部には、図示しないエアクリーナが取り付けられており、エアクリーナにより吸入空気中の粉塵が除去される。吸気通路11には、可変ノズル型のターボチャージャ12のコンプレッサ12aが設置されており、コンプレッサ12aにより吸入空気が圧縮されて送り出される。圧縮された吸入空気は、サージタンク13に流入し、マニホールド部で各気筒に分配される。
【0012】
エンジン本体において、シリンダヘッドには、燃料供給用のインジェクタ21が気筒毎に設置されている。インジェクタ21は、エンジン1のコントロールユニット(以下「エンジンC/U」という。)51からの信号により作動する。図示しない燃料ポンプにより送り出された燃料は、コモンレール22を介してインジェクタ21に供給され、インジェクタ21により燃焼室内に噴射される。
【0013】
排気通路31には、マニホールド部の下流にターボチャージャ12のタービン12bが設置されており、排気によりタービン12bが駆動されることで、コンプレッサ12aが回転する。タービン12bに設けられた可動ベーン121の角度が変化することで、タービン12b及びコンプレッサ12aの回転数が変化する。
タービン12bの下流には、上流側から順に酸化触媒32、NOx浄化触媒33及びアンモニア浄化触媒34が設置されている。酸化触媒32は、排気中の炭化水素及び一酸化炭素を酸化するとともに、排気中の一酸化窒素(以下「NO」という。)を、二酸化窒素(以下「NO2」という。)を主とするNOxに転換するためのものであり、排気に含まれるNOとNO2との比率を、後述するNOxの還元反応に最適なものに調整する作用を奏する。NOx浄化触媒33は、NOxを還元し、浄化するためのものである。このNOx浄化触媒NOx33でNOxの還元を生じさせるため、本実施形態では、NOx浄化触媒33の上流で排気に還元剤としてのアンモニアを添加する。アンモニア浄化触媒34は、NOx浄化触媒33を通過したスリップアンモニアを酸化し、浄化するためのものであり、これにより大気中へのアンモニアの放出が抑制される。本実施形態では、NOx浄化触媒33と、アンモニア浄化触媒34とを単一の筐体に内蔵させるとともに、これとは別体のものとして構成した筐体に酸化触媒32を内蔵させることとしている。NOx浄化触媒33等を内蔵させる筐体は、排気マフラーとしての機能を兼ねるものである。
【0014】
本実施形態では、車上でのアンモニアの貯蔵容易性を考慮して、アンモニアの前駆体としての尿素を水溶液の状態で貯蔵することとしている。
尿素の水溶液(以下「尿素水」という。)を貯蔵するための貯蔵タンク41は、車両のシャシーフレームに固定されている。この貯蔵タンク41には、尿素水供給管(「供給管」に相当する。)42が接続されており、尿素水の添加ユニット43に対し、この尿素水供給管42を介して貯蔵タンク41に貯えられている尿素水が供給される。尿素水供給管42には、上流側から順にフィードポンプ44及びフィルタ45が介装されている。フィードポンプ44は、電動モータ441により駆動される。電動モータ441は、コントロールユニット(以下「SCR−C/U」という。)61からの信号により回転数が制御され、フィードポンプ44の吐出し量を調整する。また、フィルタ45の下流において、尿素水供給管42に尿素水戻り管46が接続されている。この尿素水戻り管46は、尿素水供給管42に連通する「液体流通部」に相当するものである。尿素水戻り管46には、戻し弁47が介装されており、規定圧力を超える分の余剰の尿素水がこの戻し弁47を介して貯蔵タンク41に戻されるように構成されている。本実施形態において、戻し弁47は、電磁式の圧力制御弁として構成されており、ソレノイドに対する通電のオン及びオフを制御することで、その開閉を制御することが可能である。尿素水供給管42及び尿素水戻り管46は、尿素水供給系の配管を構成している。
【0015】
本実施形態において、添加ユニット43は、エアアシスト式のインジェクタを構成するものであり、本体431と、ノズル部(「噴射ノズル」に相当する。)432とから構成される。本体431には、電磁式の添加制御弁431aが設けられており、これによりノズル部432からの尿素水噴射量が制御される。また、本体431には、尿素水供給管42が接続されるとともに、アシスト用の空気(以下「アシストエア」という。)を供給するための空気供給管48が接続されている。本体431と、図示しないエアタンクとがこの空気供給管48を介して接続されており、本体431には、このエアタンクからアシストエアが圧縮された状態で供給される。ノズル部432は、酸化触媒32と、NOx浄化触媒33(及びアンモニア浄化触媒34)とを接続する排気通路31aの管壁を貫通させて設置されている。添加ユニット43に供給された尿素水と、アシストエアとは、本体431で混合され、ノズル部432を介して排気中に噴射される。ノズル部432の噴射方向は、排気の流れと平行な方向に、NOx浄化触媒33の端面に向けて設定されている。なお、本実施形態では、フィードポンプ44(及び電動モータ441)、フィルタ45、ならびに戻し弁47を一体のモジュール部品P/Mとして構成している。本実施形態において、貯蔵タンク41(後述するタンクヒータを含む。)、尿素水供給管42、添加ユニット43の本体431(添加制御弁431aを含む。)及びノズル部432、フィードポンプ44(電動モータ441を含む。)、尿素水戻り管46、ならびに戻し弁47が「還元剤添加システム」を構成する。
【0016】
添加ユニット43により尿素水が噴射されると、噴射された尿素水中の尿素が排気熱により加水分解反応を生じ、アンモニアが発生する。発生したアンモニアは、NOx浄化触媒33でNOxの還元剤として作用し、NOxを還元させる。酸化触媒32でのNOの酸化反応、尿素の加水分解反応、NOx浄化触媒33でのNOxの還元反応、及びアンモニア浄化触媒34でのスリップアンモニアの酸化反応は、次の(1)〜(4)式により夫々表される。なお、本実施形態では、NOx浄化触媒33と、アンモニア浄化触媒34とを一体の筐体に内蔵させているが、それぞれの筐体を別体のものとして構成してもよい。
【0017】
NO+1/2O → NO ・・・(1)
(NH)CO+HO → 2NH+CO ・・・(2)
NO+NO+2NH → 2N+3HO ・・・(3)
4NH+3O → 2N+6HO ・・・(4)
また、排気通路31は、EGR管35により吸気通路11と接続されている。このEGR管35を介して排気が吸気通路11に還流される。本実施形態では、このEGR管35により、ターボチャージャ12のタービン12bの上流における排気通路31と、吸気通路11に介装されたサージタンク13とが接続されている。EGR管35には、EGR弁36が介装されており、このEGR弁36により還流される排気の流量が制御される。EGR弁は、エンジンC/U51からの信号により作動する。
【0018】
排気通路31において、酸化触媒32とNOx浄化触媒33との間には、NOx浄化触媒33への流入前における排気の温度を検出するための温度センサ71が設置されている。アンモニア浄化触媒34の下流には、還元後の排気の温度を検出するための温度センサ72、及び還元後の排気に含まれるNOxの濃度を検出するためのNOxセンサ73が設置されている。また、貯蔵タンク41には、これに貯えられている尿素水に含まれる尿素の濃度(以下、単に「濃度」というときは、尿素の濃度をいうものとする。)を検出するための尿素センサ74が、尿素水供給管42には、フィードポンプ44の出力側における尿素水の圧力を検出するための圧力センサ75が夫々設置されている。本実施形態では、貯蔵タンク41に貯えられている尿素水の温度を検出する「温度センサ」としての機能と、尿素の濃度を検出する「濃度センサ」としての機能とを、尿素センサ74に兼ねさせている。圧力センサ75は、尿素水供給管42における尿素水の圧力を検出する、本実施形態に係る「圧力センサ」としての機能を実現するものである。
【0019】
温度センサ71,72、NOxセンサ73、尿素センサ74及び圧力センサ75の検出信号は、SCR−C/U61に出力される。SCR−C/U61は、「制御ユニット」に相当するものであり、尿素センサ74、圧力センサ75及びSCR−C/U61により本実施形態に係る「解凍判定装置」が構成される。SCR−C/U61は、入力した信号をもとに、最適な尿素水噴射量を演算及び設定し、設定した尿素水噴射量に応じた指令信号を添加ユニット43に出力する。また、SCR−C/U61は、尿素水噴射量、ならびに尿素水の濃度及び液位に基づいて、後に述べるように尿素水供給系に異常が発生したことを検出するとともに、特にエンジン1の始動に際し、還元剤添加システムにおける尿素水の解凍を判定する。SCR−C/U61は、エンジンC/U51と双方向に通信可能に接続されている。エンジン1には、イグニッションスイッチ、スタートスイッチ、クランク角センサ、車速センサ、アクセルセンサ及び冷却水温度センサ等が設置されており、これらの検出信号は、エンジンC/U51に出力される。エンジンC/U51は、エンジン回転数Ne(クランク角センサからの信号に基づいて算出することができる。)等の運転状態に基づいて燃料噴射量を算出するとともに、算出した燃料噴射量等、尿素水の供給制御に必要な情報をSCR−C/U61に出力する。本実施形態において、SCR−C/U61に出力される情報には、燃料噴射量のほか、冷却水温度センサにより検出されたエンジン冷却水の温度が含まれる。
【0020】
図2は、貯蔵タンク41の内部の構成を示している。同図を参照して、貯蔵タンク41及び尿素センサ74の構成について説明する。
尿素センサ74は、感温型の濃度センサを構成するものであり、尿素水に対して直接的又は間接的に接続された感温体を強制的に加熱した場合における、この感温体の電気特性値の変化に基づいて、尿素の濃度を検出するものである。感温体は、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有しており、感温体の電気特性値は、尿素水を媒体とする熱伝達の特性に相関するものとして、尿素の濃度に応じて異なる変化を示す。
【0021】
尿素センサ74は、感温体を有するセンサ素子部741と、センサ素子部741からの出力に基づいて尿素の濃度を演算する回路部742とを備えている。
センサ素子部741は、「感温体」が測温抵抗層の形態で設けられたセンサ素子741aを有しており、回路部742は、この測温抵抗層の抵抗値(感温体の「電気特性値」に相当する。)に基づいて、尿素の濃度を算出する。濃度の検出に際し、センサ素子部741は、貯蔵タンク41に挿入されて、貯蔵タンク41の底面近傍に配置される一方、回路部742は、貯蔵タンク41外に配置される。径の異なる2つの筒部材743,744が設けられ、これらの筒部材743,744は、互いに同心に配置されるとともに、一端で回路部742の底面に接合されて、尿素センサ74の内筒及び外筒を形成している。内筒743及び外筒744は、貯蔵タンク41の天蓋を上下に貫通して、貯蔵タンク41の底面近傍にまで延伸しており、内筒743の先端に、尿素センサ74のセンサ素子部741が取り付けられている。センサ素子部741と回路部742とは、内筒743に封入された配線(図示せず。)を介して接続されている。本実施形態では、後述する液位の検出のため、外筒744に、軸方向に延伸するスリット744aが形成されている。尿素水がこのスリット744aを介して外筒744の内部に流入し、又は外部に流出することで、内筒743及び外筒744の間における静電容量に変化が生じるため、この静電容量に基づいて尿素水の液位を検出することが可能である。
【0022】
センサ素子部741のセンサ素子741aは、測温抵抗層と、ヒータ層(「ヒータ」を構成する。)とを、電気絶縁膜を介して積層させた薄膜チップとして構成される。センサ素子741aは、伝熱性のフィンプレート741bの一方の端部に接合されており、このフィンプレート741bは、センサ素子741aが接合された端部が内筒743に挿入された状態で、ホルダー741cにより支持されている。このホルダー741cは、フィンプレート741bを固定して、センサ素子741aを支持するものであるとともに、内筒743の内部への尿素水の流入を阻止するシールとしての機能を有するものである。フィンプレート741bは、センサ素子741aが接合された端部とは反対側の端部において、ホルダー741cを貫通し、尿素水に接触している。本実施形態では、センサ素子部741の保護のため、外筒744を内筒743よりも大きな長さを持たせて形成しており、フィンプレート741bの端部を、外筒744の内部で尿素水に接触させている。
【0023】
回路部742は、センサ素子部741の測温抵抗層及びヒータ層と接続されており、ヒータ層に通電して測温抵抗層を加熱するとともに、加熱された測温抵抗層の抵抗値を検出する。測温抵抗層は、その抵抗値が温度に比例して変化する特性を有するものであり、回路部742は、検出した抵抗値に基づいて、後に述べるように尿素の濃度を算出する。
本実施形態では、寒冷地等におけるエンジン1の始動に際して貯蔵タンク41に蓄えられている尿素水が凍結している場合に、その解凍を促進させるため、貯蔵タンク41において、尿素水を強制的に加熱するためのタンクヒータを設置している。このタンクヒータは、エンジン本体におけるエンジン冷却水の通路から分岐させて形成されるものであり、貯蔵タンク41の内部に配置された、エンジン冷却水を流通させるための熱交換パイプ81を含んで構成される。この熱交換パイプ81は、貯蔵タンク41の天蓋にエンジン冷却水の流入部81a及び流出部81bが設けられるとともに、貯蔵タンク41の内部において、尿素センサ74のセンサ素子部741と、尿素水供給管42の吸入部(図示せず。)とを取り囲むように配置されている。タンクヒータによる加熱は、熱交換パイプ81を流れるエンジン冷却水の流量を制御することにより調整される。
【0024】
次に、図3を参照して、尿素センサ74による濃度の検出原理について説明する。
ヒータ層による測温抵抗層の加熱は、所定の時間Δt01に亘ってヒータ層にヒータ駆動電流ihを通電することにより行う。回路部742は、ヒータ層による加熱前の時刻t0における測温抵抗層の抵抗値R0を検出するとともに、ヒータ層への通電を停止した時点t1における抵抗値R1を検出し、検出した抵抗値R1,R0の差DLTR(=R1−R0)を算出する。この差DLTRは、尿素水を媒体とする熱伝達の特性に相関するものであり、この熱伝達の特性は、尿素の濃度Dに応じて変化するものであるため、算出した差DLTRを、濃度Dに換算することが可能である。濃度Dの検出は、所定のインターバル毎に実行される。既述の通り、尿素センサ74は、濃度Dの検出以外に、尿素水の温度Tを検出する「温度センサ」としての機能を兼ねるものである。尿素水の温度Tは、加熱前の抵抗値R0に基づいて算出される。
【0025】
以下、SCR−C/U61の動作をフローチャートにより説明する。
図4は、尿素水の供給制御に関する基本ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、イグニッションスイッチがオンされることによるエンジンC/U51からの指令を受けて起動され、その後所定の時間毎に繰り返し実行される。このルーチンにより、尿素水の温度管理がなされるとともに、尿素水噴射量Quが演算及び設定される。
【0026】
S101では、凍結判定フラグFfrz1を読み込み、読み込んだFfrz1が1であるか否かを判定する。1であるときは、S102へ進み、1でないときは、S103へ進む。凍結判定フラグFfrzは、貯蔵タンク41に貯えられている尿素水が凍結しているか否かを示すものであり、後述する状態判定ルーチン(図6)により、貯蔵タンク41内で尿素水が凍結していると判定された場合に0に、凍結していないか、又は凍結が解除された(すなわち、解凍した)と判定された場合に1に設定される。
【0027】
S102では、熱交換パイプ81を流れるエンジン冷却水の流量を制御し、貯蔵タンク41の内部を尿素水の融点よりも高い一定の温度に保持する。保温時における流量の制御は、尿素センサ74により検出される尿素水の温度Tに基づいて行われる。
S103では、熱交換パイプ81を流れるエンジン冷却水の流量を、保温時(S102)と比較して増大させ、凍結した尿素水の解凍を促進させる。
【0028】
S104では、解凍完了判定フラグFfrzが1を読み込み、読み込んだFfrzが1であるか否かを判定する。1であるときは、S105へ進み、1でないときは、このルーチンを終了する。解凍完了判定フラグFfrzは、尿素水供給系の配管を含む還元剤添加システム全体としての解凍が完了したか否かを示すものであり、後述する状態判定ルーチン(図6)により設定される。解凍完了判定フラグFfrzは、貯蔵タンク41及び尿素水供給系の配管の双方で凍結が解除されたと判定された場合に、1に設定される。
【0029】
S105では、フィードポンプ44の吐出し量を制御して、尿素水供給管42内の尿素水を昇圧させる。
S106では、異常判定フラグFscrを読み込み、読み込んだFscrが0であるか否かを判定する。0であるときは、S107へ進み、0でないときは、S110へ進む。異常判定フラグFscrは、貯蔵タンク41に貯えられている尿素水に関する異常の発生を示すものであり、後述する異常検出ルーチン(図5)により設定される。本実施形態では、尿素水に関する異常として、尿素水の消費に関する異常、ならびに尿素水の濃度及び残量に関する異常を検出する。尿素水に関して何らかの異常が検出された場合は、異常判定フラグFscrが1に設定される。
【0030】
S107では、燃料噴射量Qf、NOx濃度NOX(NOxセンサ73からの出力)及び尿素の濃度Dを読み込む。
S108では、尿素水噴射量Quを演算する。尿素水噴射量Quの演算は、燃料噴射量Qf及びNOx濃度NOXに応じた基本噴射量を算出するとともに、算出した基本噴射量を濃度Dで補正することにより行う。たとえば、濃度Dが高く、単位噴射量当たりの尿素含有量が多いと判断されるときは、基本噴射量に対して減量補正を施す。
【0031】
S109では、添加ユニット43に対し、算出した尿素水噴射量Quに応じた指令信号を出力する。
S110では、添加ユニット43による尿素水の供給を停止させる。尿素水に関して異常が発生している状態では、NOx排出量に対して的確な量のアンモニアを添加することができないからである。たとえば、貯蔵タンク41に規定濃度の尿素水ではなく、過度に希釈された尿素水、又は尿素を含まない水が貯えられている場合は、添加されるアンモニアの量が適正な量に対して不足し、NOxが未浄化のまま大気中に放出されるおそれがある。また、実際に噴射された尿素水の量(すなわち、実際に消費された量)が消費されるべき量よりも多いときは、尿素水が無駄に消費されるばかりでなく、過剰に発生したアンモニアがアンモニア浄化触媒34により完全には分解されず、大気中に放出されるおそれがある。消費されるべき尿素水の量(以下「指示消費量」という。)は、演算周期毎の噴射量Quの積算値として算出することが可能である。
【0032】
図5は、異常検出ルーチンのフローチャートである。
S201では、尿素水の水位L、濃度D及び温度Tを読み込む。既に述べたように、本実施形態において、これらの制御情報は、尿素センサ74からの出力に基づいて算出される。
S202では、解凍完了判定フラグFfrzを読み込み、読み込んだFfrzが1であるか否かを判定する。1であるとき(すなわち、還元剤添加システム全体としての尿素水の解凍が完了しているとき)は、S203へ進み、0でないときは、このルーチンを終了する。
【0033】
S203では、消費異常判定フラグFcnsが0であるか否かを判定する。0であるときは、S204へ進み、0でないときは、S207へ進む。消費異常判定フラグFcnsは、尿素水の消費に関する異常の発生を示すものであり、通常は0に設定されており、尿素水が過剰に消費されているか、又は消費量が不足していると判定した場合に、1に切り換えられる。尿素水消費量Qcnsは、液位Lの初期値と現在の検出値との差に、貯蔵タンク41の断面積を乗じ、これに規定濃度(ここでは、32.5%)の尿素水の比重を乗じることにより算出される。算出された尿素水消費量Qcnsが、指示消費量Qdrcを基準として定められる所定の範囲内にないときに、消費に関する異常が検出される。
【0034】
S204では、残量異常判定フラグFempが0であるか否かを判定する。0であるときは、S205へ進み、0でないときは、S207へ進む。残量異常判定フラグFepmは、通常は0に設定されており、尿素水の残量が不足している(貯蔵タンク41が空である場合を含む。)と判定した場合に、1に切り換えられる。残量が不足しているか否かの判定は、尿素水の液位Lに基づいて行われ、検出された液位Lが下限を示す設定液位Lemp以下であるときに、不足していると判定される。
【0035】
S205では、濃度異常判定フラグFdilが0であるか否かを判定する。0であるときは、S206へ進み、0でないときは、S207へ進む。濃度異常判定フラグFdilは、通常は0に設定されており、貯蔵タンク41に尿素水ではなく、水が貯蔵されていると判定した場合に、1に切り換えられる。水が貯蔵されているか否かの判定は、尿素の濃度Dに基づいて行われ、検出された濃度Dが、0%と、規定濃度である32.5%との間の値を持たせて設定された第1の濃度Dsl1以下であるときに、水が貯蔵されていると判定される(図3)。
【0036】
S206では、尿素水に関して想定した異常は発生していないとして、異常判定フラグFscrを0に設定する。
S207では、尿素水に関して何らかの異常が発生したとして、異常判定フラグFscrを1に設定する。これに併せ、運転者に異常の発生を認識させるため、警告灯を点灯させたり、警報を鳴動させる。
【0037】
図6は、状態判定ルーチンのフローチャートである。このルーチンにより、凍結判定フラグFfrz1及び解凍完了判定フラグFfrzが夫々0又は1に設定される。これらのフラグFfrz1,Ffrzは、エンジン1の始動に伴う制御の開始に際していずれも0に設定される。このルーチンは、エンジン1の始動に伴うエンジンC/U51からの指令を受けて起動され、その後所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0038】
S301では、解凍完了判定フラグFfrzを読み込み、読み込んだFfrzが0であるか否か、すなわち、還元剤添加システム全体としての解凍が完了したか否かを判定する。0であるときは、未だ完了していないとしてS302へ進み、0でないときは、このルーチンを終了する。制御開始後第1回目のルーチンにおいては、解凍完了判定フラグFfrzが0に設定されているため、S302へ進む。
【0039】
S302では、後述する凍結判定ルーチン(図7)を実行し、貯蔵タンク41における尿素水の凍結を判定する。
S303では、凍結判定ルーチンにより設定された凍結判定フラグFfrz1が0であるか否か、すなわち、貯蔵タンク41内で尿素水が未だ凍結した状態にあるか否かを判定する。0であるときは、凍結した状態にあるとしてS304へ進み、0でないときは、圧力による判定に移行するべくS308へ進む。
【0040】
S304では、エンジン冷却水の温度Tengを読み込み、読み込んだTengが尿素水の解凍に充分な高さの所定の温度T1(たとえば、60℃)以上であるか否かを判定する。T1以上であるときは、タンクヒータが作動状態にあるとしてS305へ進む一方、T1よりも低いときは、S306へ進み、このS306において、タイマーをリセットする。
【0041】
S305では、タイマーの値TIMを読み込み、読み込んだTIMが所定の温度T1のエンジン冷却水を流通させた場合に尿素水を解凍させるのに必要な長さの所定の時間TIM1に達しているか否かを判定する。達しているときは、S307へ進み、達していないときは、このルーチンを終了する。
S307では、タンクヒータの異常を検出する。エンジン冷却水が充分な高さの温度域にあり、所定の時間TIM1に亘ってタンクヒータを作動させたにも拘わらず、凍結が解除されないのは、エンジン冷却水の流通に関して何らかの異常が発生したためであると判定するのである。本実施形態では、タンクヒータの異常として、タンクヒータに設けられる流量制御弁の異常を検出する。
【0042】
S308では、後述する圧力判定ルーチン(図8)を実行し、尿素水供給系の配管における尿素水の解凍を判定する。本実施形態において、圧力判定ルーチンは、尿素水供給系の配管における詰りを検出するルーチンとして構成され、この配管に詰りが発生していないこともって配管における解凍が実質的に判定される。
S309では、圧力判定ルーチンにより設定された圧力判定フラグFprsが0であるか否かを判定する。0であるときは、S310へ進み、0でないときは、S311へ進む。
【0043】
S310では、圧力判定用のカウンタの値CNTaを0にリセットする。
S311では、尿素水供給系の配管内で尿素水が解凍し、還元剤添加システム全体としての解凍が完了したとして、解凍完了判定フラグFfrzを1に設定する。
S312では、圧力判定用のカウンタの値CNTaを1だけ増加させる。
S313では、増加後のカウンタの値CNTaが所定の値CNT1に達したか否かを判定する。達したときは、S314へ進み、達していないうちは、このルーチンを終了する。この圧力判定用のカウンタは、貯蔵タンク41に貯えられている尿素水について凍結の解除が判定されてからの時間を示すものである。値CNT1により定められる相当の時間が経過したにも拘わらず、配管の詰りが検出されるのは、尿素水の凍結によるものではなく、尿素の析出等の異常によるものであると判定するのである。
【0044】
S314では、尿素水供給系の配管における異常として、配管の詰りを検出する。
図7は、凍結判定ルーチンのフローチャートである。
S401では、尿素水の温度Tが、尿素水の融点を示す設定温度Tsl1よりも高いか否かを判定する。Tsl1よりも高いときは、S402へ進み、Tsl1以下であるときは、S404へ進む。尿素水の温度Tは、ヒータ層による加熱前の測温抵抗層の抵抗値R0に基づいて算出される(図3)。
【0045】
S402では、貯蔵タンク41に貯えられている尿素水が凍結していないか、又は解凍したとして、凍結判定フラグFfrz1を1に設定する。
S403では、凍結判定用のカウンタの値CNTbを0にリセットする。
S404では、尿素の濃度Dを読み込み、読み込んだDが第2の濃度Dsl2以下であるか否かを判定する。Dsl2以下であるときは、S405へ進み、Dsl2よりも高いときは、S402へ進む。尿素水が液体の状態にある場合と、凍結した固体の状態にある場合とでは、尿素水を媒体とする熱伝達の特性が大きく異なり、凍結した状態では、加熱に対する測温抵抗層の抵抗値Rの変化が極めて小さくなる。図3は、尿素水が液体の状態にある場合と、凍結した固体の状態にある場合とで抵抗値Rの変化を比較したものであり、両者の変化に顕著な違いがあることを示している。同図において、実線Aは、液体の状態にある規定濃度の尿素水に関して得られる変化を、一点鎖線Bは、液体の状態にある水に関して得られる変化を、二点鎖線Cは、固体の状態にある尿素水に関して得られる変化を夫々示している。このことから、第2の濃度Dsl2は、液体の状態にある場合に得られる濃度(すなわち、32.5%)と、凍結した固体の状態にある場合に得られる濃度との間の値を持たせたものとして、第1の濃度Dsl1よりも低い濃度に設定される。
【0046】
S405では、凍結判定用のカウンタの値CNTbを1だけ増加させる。
S406では、増加後のカウンタの値CNTbが所定の値CNT2に達したか否かを判定する。達したときは、S407へ進み、達していないうちは、このルーチンを終了する。
S407では、貯蔵タンク41内で尿素水が凍結している(実質的な解凍には至っておらず、固体の状態にある場合を含む。)ものとして、凍結判定フラグFfrzを0に設定する。
【0047】
図8は、圧力判定ルーチンのフローチャートである。制御の開始に際し、尿素水供給系の添加制御弁431a及び戻し弁47は、いずれも閉弁される。
S501では、フィードポンプ44を作動させ、尿素水供給管42内の尿素水を加圧する。
S502では、フィードポンプ44の出力側における尿素水の圧力Pueaを読み込み、読み込んだPureaが第1の圧力P1以下であるか否かを判定する。P1以下であるときは、S503へ進み、P1よりも高いときは、S504へ進む。圧力Pureaは、圧力センサ75により検出される。
【0048】
S503では、フィードポンプを作動させたにも拘わらず、尿素水の圧力Pureaが上昇しないことから、フィードポンプ44の入力側に詰りが生じているとして、圧力判定フラグFprsを1に設定する。
S504では、フィードポンプを停止させる。
S505では、添加制御弁431aを開弁させる。
【0049】
S506では、尿素水の圧力Pureaが、第1の圧力P1よりも低い第2の圧力P2以上であるか否かを判定する。P2以上であるときは、S507へ進み、P2よりも低いときは、S508へ進む。
S507では、添加制御弁431aを開弁させて尿素水供給管42と排気通路31とを連通させたにも拘わらず、尿素水の圧力Pureaが下降しないことから、フィードポンプ44の出力側に詰りが生じているとして、圧力判定フラグFprsを1に設定する。
【0050】
S508では、添加制御弁431aを閉弁させる。
S509では、フィードポンプ44を再び作動させ、尿素水供給管42内の尿素水を加圧する。
S510では、尿素水の圧力Pureaが第1の圧力P1に達したか否かを判定し、達した場合に、S511へ進む。それ以外の場合は、尿素水の加圧を継続させる。
【0051】
S511では、フィードポンプ44を停止させる。
S512では、戻し弁47を開弁させる。
S513では、尿素水の圧力Pureaが、第1の圧力P1よりも低い第3の圧力P3以上であるか否かを判定する。P3以上であるときは、S514へ進み、P3よりも低いときは、S515へ進む。
【0052】
S514では、加圧後、戻し弁47を開弁させて尿素水供給管42と貯蔵タンク41とを、尿素水戻り管46を介して連通させたにも拘わらず、尿素水の圧力Pureaが下降しないことから、尿素水戻し管46に詰りが生じているとして、圧力判定フラグFprsを1に設定する。
S515では、戻し弁47を閉弁させ、尿素水の供給制御に備えさせる。
【0053】
S516では、尿素水の圧力Pureaに所定の変化が得られたことから、尿素水供給系の配管に詰りは生じていないとして、圧力判定フラグFprsを0に設定する。これにより、状態判定ルーチン(図6)のS309において、条件を真とする判定がなされ、解凍完了判定フラグFfrzが1に設定される。配管に詰りが生じていないことから、少なくとも配管における尿素水の凍結は解除されたものとみなすことができる。
【0054】
本実施形態では、圧力判定の結果を1つの圧力判定フラグFprsにより表示することとしたが、配管における部分毎(たとえば、尿素水供給管42のうち、フィードポンプ44の入力側と出力側との各部分)にフラグを設定し、詰りの箇所をより詳細に特定し得るようにしてもよい。
また、ここでは明示していないが、尿素水供給管42及び尿素水戻り管46にヒータを設置し、配管内の尿素水が直接的に加熱されるようにしてもよい。たとえば、このヒータとして電気ヒータを設置した場合に、断線又はショートの検出により電気ヒータの異常を判定し得ることから、配管に生じた詰りが凍結によるものであるか、尿素の析出等によるものであるかを容易に判別することができる。
【0055】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
本実施形態では、尿素センサ74(「温度センサ」及び「濃度センサ」としての機能を兼ねる。)及び圧力センサ75を設置し、これらのセンサ74,75により検出された尿素水の温度T及び圧力Purea、ならびに尿素の濃度Dに基づいて、還元剤添加システムにおける尿素水の解凍を判定することとした。解凍の過程において、尿素水は、融点付近の温度域で実質的な解凍前の固体の状態と、解凍後の液体の状態とをとり得るところ、液体の状態と固体の状態とでは、これを媒体とする熱伝達の特性が大きく異なる。ここで、尿素センサ74に備わる感温体は、この熱伝達の特性に応じて電気特性値が変化する性質を有するものであることから、この尿素センサ74によれば、尿素水が解凍したか否かを、相状態の判別を含めて判定することが可能である。従って、本実施形態によれば、貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水の凍結が解除されたことを、融点付近の温度域にある場合を含めて正確に判定したうえで、圧力センサ75からの出力による判定(還元剤供給系の配管に関する判定)に移行することが可能となることから、貯蔵タンク41における尿素水の実質的な解凍前にフィードポンプ44を作動させるなどの不要な操作を伴うことなく還元剤添加システム全体としての解凍を判定することができ、始動後の早い時期から還元剤の添加を開始して、NOxの放出を抑制することができる。
【0056】
なお、以上では、尿素の加水分解によりアンモニアを発生させることとしたが、この反応のための触媒は、特に明示していない。加水分解反応の効率を高めるため、NOx浄化触媒33の上流に加水分解触媒を設置してもよい。
また、以上では、NOxの還元剤にアンモニアを採用した場合を例に説明したが、アンモニアに代え、炭化水素を採用することもできる。
【0057】
更に、尿素の濃度Dを検出するための「濃度センサ」としては、図2に示すような1つ感温体のみを有するものに限らず、「感温体」として2つの測温抵抗層が形成されたセンサ素子を有する尿素センサを採用することができる。図9は、この尿素センサによる場合の濃度Dの検出原理を示している。ヒータ層に対して時間Δt01に亘ってヒータ駆動電流ihを通電し、測温抵抗層の抵抗値R1の変化に基づいて濃度Dを検出することは、既述のものと同様である。2つの測温抵抗層を有するものでは、ヒータ層による加熱の対象とするのは一方の測温抵抗層のみとし、他方の測温抵抗層は、ヒータ層から熱的に絶縁された状態で設置される。ヒータ駆動電流ihを停止した時点における一方の測温抵抗層の抵抗値R1と、他方の測温抵抗層の抵抗値R2との差Dr1(=R1−R2)を検出し、これを濃度Dに換算する。なお、この場合において、尿素水の温度Tは、他方の測温抵抗層の抵抗値R2に基づいて算出することが可能である。この抵抗値R2によれば、ヒータ層からの加熱の影響を受けないので、常に温度Tを測定することができる。
【0058】
以上では、タンクヒータ及び配管の異常を検出する機能を、「制御ユニット」としてのSCR−C/U61に対する追加の機能として付加した場合について説明した。しかしながら、これらの機能は、制御ユニットにおいて、解凍の判定とは独立した機能として持たせることも可能である。すなわち、本発明は、他の実施形態において、次のような異常検出装置として具現される。
【0059】
本発明の第2の実施形態に係る装置は、NOxの還元剤又はその前駆体(たとえば、尿素)を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンク41と、この貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水を加熱可能に構成されたタンクヒータとを備える還元剤添加システムの異常検出装置である。本実施形態に係る異常検出装置は、貯蔵タンク41に設置された尿素センサ74と、尿素水供給管42において、フィードポンプ44の出力側に設置された圧力センサ75とを備えており、尿素センサ74は、貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水の温度を検出するための「温度センサ」としての機能と、この尿素水に含まれる還元剤としての尿素の濃度を検出するための「濃度センサ」としての機能とを兼ねるものである。尿素センサ74は、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有し、貯蔵されている尿素水に対して直接的に、又はフィンプレート741bを介して間接的に接触させた状態で設けられた感温体と、この感温体に対して熱的に接続されたヒータとを有し、このヒータを駆動するとともに、ヒータにより加熱された感温体の電気特性値を、尿素の濃度として出力する。異常を検出する機能は、SCR−C/U61に持たせることができ、この場合において、SCR−C/U61は、尿素センサ74により検出された尿素水の温度T及び尿素の濃度Dに基づいて、貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水が凍結しているか否かを判定するとともに、尿素水が凍結していると判定された凍結判定時において、タンクヒータの作動を開始させてからの経過時間TIMを測定し、測定された経過時間TIMに基づいて、タンクヒータの異常を検出する。
【0060】
本発明の第3の実施形態に係る装置は、NOxの還元剤又はその前駆体(たとえば、尿素)を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンク41と、この貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水を噴射するための噴射ノズル432と、貯蔵タンク41と噴射ノズル432とを接続する尿素水供給管42とを備える還元剤添加システムの異常検出装置である。本実施形態に係る異常検出装置は、貯蔵タンク41に設置された尿素センサ74と、尿素水供給管42において、フィードポンプ44の出力側に設置された圧力センサ75とを備えており、尿素センサ74は、貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水の温度を検出するための「温度センサ」と、この尿素水に含まれる還元剤としての尿素の濃度を検出するための「濃度センサ」としての機能とを兼ねるものである。尿素センサ74は、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有し、貯蔵されている尿素水に対して直接的に、又はフィンプレート741bを介して間接的に接触させた状態で設けられた感温体と、この感温体に対して熱的に接続されたヒータとを有し、このヒータを駆動するとともに、ヒータにより加熱された感温体の電気特性値を、尿素の濃度として出力する。異常を検出する機能は、SCR−C/U61に持たせることができ、この場合において、SCR−C/U61は、尿素センサ74により検出された尿素水の温度T及び尿素の濃度Dに基づいて、貯蔵タンク41に貯蔵されている尿素水が凍結しているか否かを判定するとともに、尿素水が凍結していると判定された凍結判定時以外のときに、圧力センサ75により検出された圧力Pureaに基づいて、尿素水供給管42又はこれと連通する尿素水戻り管47の異常を検出する。
【0061】
本発明は、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンの排気浄化装置に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジンの構成
【図2】同上実施形態に係る貯蔵タンク及び尿素センサの構成
【図3】同上尿素センサによる濃度の検出原理
【図4】尿素水の供給制御に関する基本ルーチンのフローチャート
【図5】異常検出ルーチンのフローチャート
【図6】状態判定ルーチンのフローチャート
【図7】凍結判定ルーチンのフローチャート
【図8】圧力判定ルーチンのフローチャート
【図9】他の尿素センサによる濃度の検出原理
【符号の説明】
【0063】
1…ディーゼルエンジン、11…吸気通路、12…ターボチャージャ、13…サージタンク、21…インジェクタ、22…コモンレール、31…排気通路、32…酸化触媒、33…NOx浄化触媒、34…アンモニア浄化触媒、35…EGR管、36…EGR弁、41…貯蔵タンク、42…尿素水供給管、43…添加ユニット、431…添加ユニットの本体、431a…添加制御弁、432…ノズル部、44…フィードポンプ、45…フィルタ、46…尿素水戻り管、47…戻し弁、48…空気供給管、51…エンジンC/U、61…「制御ユニット」としてのSCR−C/U、71,72…排気温度センサ、73…NOxセンサ、74…尿素センサ、75…圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NOxの還元剤又はその前駆体を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクに貯蔵されている水溶液を噴射するための噴射ノズルと、
前記貯蔵タンクと前記噴射ノズルとを接続する前記水溶液の供給管と、を含んで構成される還元剤添加システムにおいて、凍結した前記水溶液の解凍を判定するための装置であって、
前記貯蔵されている水溶液の温度を検出可能に構成された温度センサと、
前記貯蔵されている水溶液に含まれる還元剤又は前駆体の濃度を検出するための濃度センサであって、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有し、前記水溶液に対して直接的又は間接的に接触させた状態で設けられた感温体と、この感温体に対して熱的に接続されたヒータとを有し、前記ヒータを駆動するとともに、前記ヒータにより加熱された前記感温体の電気特性値を、前記還元剤又は前駆体の濃度として出力する濃度センサと、
前記供給管又はこれと連通する液体流通部における水溶液の圧力を検出可能に構成された圧力センサと、
前記温度センサにより検出された水溶液の温度、前記濃度センサにより検出された還元剤又は前駆体の濃度、及び前記圧力センサにより検出された水溶液の圧力に基づいて、前記水溶液の解凍を判定する制御ユニットと、を含んで構成される還元剤添加システムの解凍判定装置。
【請求項2】
前記還元剤添加システムは、前記水溶液の噴射に際して前記供給管内の水溶液を加圧するための供給ポンプを更に含んで構成され、
前記制御ユニットは、前記供給ポンプにより加圧された前記水溶液の圧力に基づいて、前記供給管又は液体流通部における水溶液の解凍を判定する請求項1に記載の還元剤添加システムの解凍判定装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、
前記検出された温度及び濃度に基づいて、前記貯蔵されている水溶液が凍結しているか否かを判定する手段と、
前記貯蔵されている水溶液が凍結していると判定された凍結判定時以外のときに、前記検出された圧力に基づいて、前記供給管又は液体流通部における水溶液の解凍を判定する手段と、を有する請求項1又は2に記載の還元剤添加システムの解凍判定装置。
【請求項4】
前記貯蔵タンクにおいて、前記貯蔵されている水溶液を加熱可能に構成されたタンクヒータが設けられ、
前記制御ユニットは、
前記凍結判定時において、前記タンクヒータを作動させてからの経過時間を測定する手段と、
測定された経過時間に基づいて、前記タンクヒータの異常を検出する手段と、を有する請求項3に記載の還元剤添加システムの解凍判定装置。
【請求項5】
前記タンクヒータは、前記貯蔵タンク内に配置された、エンジン冷却水を流通させるための熱交換パイプを含んで構成され、
前記制御ユニットは、前記凍結判定時において、エンジン冷却水の温度及び測定された経過時間に基づいて、前記タンクヒータの異常を検出する請求項4に記載の還元剤添加システムの解凍判定装置。
【請求項6】
前記制御ユニットは、
前記凍結判定時以外のときに、前記検出された圧力に基づいて、前記供給管又は液体流通部の詰りを検出する手段を有する請求項3〜5のいずれかに記載の還元剤添加システムの解凍判定装置。
【請求項7】
エンジンの排気通路に介装された還元触媒と、
請求項1〜6のいずれかに記載の解凍判定装置と、
エンジンの排気にNOxの還元剤を添加するための還元剤添加システムと、を含んで構成され、
前記還元剤添加システムは、
エンジンからの排気に含まれるNOxの還元剤又はその前駆体を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクに貯蔵されている水溶液を前記還元触媒の上流で排気通路内に噴射可能に設けられた噴射ノズルと、
前記貯蔵タンクと前記噴射ノズルとを接続する供給管と、を含んで構成されるエンジンの排気浄化装置。
【請求項8】
NOxの還元剤又はその前駆体を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクに貯蔵されている水溶液を加熱可能に構成されたタンクヒータと、を含んで構成される還元剤添加システムの異常を検出するための装置であって、
前記貯蔵されている水溶液の温度を検出可能に構成された温度センサと、
前記貯蔵されている水溶液に含まれる還元剤又は前駆体の濃度を検出するための濃度センサであって、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有し、前記水溶液に対して直接的又は間接的に接触させた状態で設けられた感温体と、この感温体に対して熱的に接続されたヒータとを有し、前記ヒータを駆動するとともに、前記ヒータにより加熱された前記感温体の電気特性値を、前記還元剤又は前駆体の濃度として出力する濃度センサと、
前記温度センサにより検出された水溶液の温度、及び前記濃度センサにより検出された還元剤又は前駆体の濃度に基づいて、前記貯蔵されている水溶液が凍結しているか否かを判定する手段と、
前記貯蔵されている水溶液が凍結していると判定された凍結判定時において、前記タンクヒータを作動させてからの経過時間を測定する手段と、
測定された経過時間に基づいて、前記タンクヒータの異常を検出する手段と、を含んで構成される還元剤添加システムの異常検出装置。
【請求項9】
NOxの還元剤又はその前駆体を水溶液の状態で貯蔵するための貯蔵タンクと、
前記貯蔵タンクに貯蔵されている水溶液を噴射するための噴射ノズルと、
前記貯蔵タンクと前記噴射ノズルとを接続する前記水溶液の供給管と、を含んで構成される還元剤添加システムの異常を検出するための装置であって、
前記貯蔵されている水溶液の温度を検出可能に構成された温度センサと、
前記貯蔵されている水溶液に含まれる還元剤又は前駆体の濃度を検出するための濃度センサであって、温度に応じて電気特性値が変化する性質を有し、前記水溶液に対して直接的又は間接的に接触させた状態で設けられた感温体と、この感温体に対して熱的に接続されたヒータとを有し、前記ヒータを駆動するとともに、前記ヒータにより加熱された前記感温体の電気特性値を、前記還元剤又は前駆体の濃度として出力する濃度センサと、
前記供給管又はこれと連通する液体流通部における水溶液の圧力を検出可能に構成された圧力センサと、
前記温度センサにより検出された水溶液の温度、及び前記濃度センサにより検出された還元剤又は前駆体の濃度に基づいて、前記貯蔵されている水溶液が凍結しているか否かを判定する手段と、
前記貯蔵されている水溶液が凍結していると判定された凍結判定時以外のときに、前記圧力センサにより検出された水溶液の圧力に基づいて、前記供給管又は液体流通部の異常を検出する手段と、を含んで構成される還元剤添加システムの異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−248710(P2008−248710A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87852(P2007−87852)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】