説明

部品実装条件決定方法、部品実装装置及びプログラム

【課題】一部の部品実装装置のタクトがボトルネックとなっている場合においても、部品実装ラインのスループットを向上させることができる部品実装条件決定方法等を提供する。
【解決手段】基板120に部品を実装する部品実装装置による実装条件を決定する方法であって、部品実装装置のタクト及び部品実装の品質に影響を与える複数の実装条件について、実装条件ごとに予め定められた最低の品質を維持できる境界を示す品質境界値を超えない範囲で、タクトが小さくなるように、実装条件を順次変更していく実装条件変更ステップ(S1001〜S1011)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に部品を実装する部品実装装置による実装条件を決定する方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
部品をプリント配線基板等の基板に実装する部品実装ラインでは、ライン全体でのスループットを向上させるため、ラインを構成する部品実装装置のタクト(処理時間)の平準化と短縮化を行うことが求められる。つまり、ラインタクト(ラインを構成する装置毎のタクトのうち、最大のタクト)の最小化が要求される。ここで、部品実装装置とは、部品実装ラインを構成する装置の総称であり、具体的には、印刷装置、接着剤塗布装置、部品装着装置、リフロー装置、検査装置等の装置が該当する。
【0003】
そこで、部品実装ラインを主として構成する部品装着装置を中心に、部品供給部の部品配列、吸着順序、装着順序等を調整することで、各部品装着装置間の負荷のバランスを考慮しながら、ラインタクトの短縮を実現する方法が提案されている。
【0004】
ところが、上記方法等により、各部品装着装置間の負荷のバランスを考慮しながらタクトの短縮を図ったとしても、種類の異なる部品実装装置間(例えば、印刷装置と部品装着装置等)の負荷のバランスを考慮することは難しいため、部品実装ライン全体では負荷のバランスが崩れ、ラインタクトも一定以上は小さくできないという問題が発生する。
【0005】
そこで、従来、部品装着装置以外の部品実装装置が部品実装ラインで最大タクトとなった場合において、タクトの平準化を図るための調整方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1では、図13に示すように、印刷装置210等の部品装着装置211以外の部品実装装置が部品実装ライン200において最大タクトとなっている場合に、部品装着装置211の装着速度を落とすことにより、最大タクトを超えない範囲で部品装着装置211のタクトを大きくする。その結果、ラインタクトを維持したまま部品装着の品質の向上が実現される。
【特許文献1】特許第3461574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来のタクトの調整方法では、タクトの平準化は図れるものの、ラインタクトは調整前と変わらず、部品実装ラインのスループットが向上できないという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、部品実装ラインを構成する一部の部品実装装置のタクトがボトルネックとなっている場合においても、部品実装ラインのスループットを向上させることができる部品実装条件決定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る部品実装条件決定方法は、基板に部品を実装する部品実装装置による実装条件を決定する方法であって、部品実装装置のタクト及び部品実装の品質に影響を与える複数の実装条件について、実装条件ごとに予め定められた最低の品質を維持できる境界を示す品質境界値を超えない範囲で、前記タクトが小さくなるように、実装条件を順次変更していく実装条件変更ステップを含むことを特徴とする。
【0010】
これにより、最低の品質は維持した状態で、部品実装装置のタクトを短縮することが可能となり、一部の部品実装装置のタクトがボトルネックとなっている場合であっても、部品実装ラインのスループットを向上させることが可能となる。
【0011】
つまり、タクトを短縮するための手段を既に実行していることで、タクトを短縮することが難しいと考えられるような部品実装装置において、部品実装品質に影響を与える実装条件を変更することにより、タクトの短縮を実現する。ここで、単にタクトの短縮が可能となるように実装条件を変更するだけでは、部品実装後の基板の品質に問題が発生する。そこで、品質境界値を超えない範囲で実装条件を変更することで、一定以上の品質を維持したうえでタクトの短縮を実現する。
【0012】
また、前記実装条件変更ステップでは、前記複数の実装条件のうち、部品実装の品質を最も優先している実装条件を優先して前記変更をすることが好ましい。
【0013】
また、前記実装条件変更ステップは、前記複数の実装条件の中から、実装の品質を最も優先している1つの実装条件を選択する選択ステップと、選択された実装条件を前記タクトが小さくなる値に変更する変更ステップと、変更された実装条件におけるタクトを計算する計算ステップと、計算されたタクトが予め定められたタクトより大きいか否かを判断する判断ステップとを含み、前記判定ステップで部品実装装置のタクトが最大であると判定された場合にのみ、前記印刷条件変更ステップでの変更が行われ、前記判断ステップで計算されたタクトが予め定められたタクトより大きいと判断された場合には、前記選択ステップでの選択、前記変更ステップでの変更、前記計算ステップでの計算及び前記判断ステップでの判断が繰り返されることが好ましい。
【0014】
これにより、部品実装品質の低下の度合いを考慮して実装条件が変更されるため、部品実装品質の低下をできる限り抑えたうえで、部品実装ラインのスループットを向上させることが可能となる。
【0015】
また、前記部品実装条件決定方法はさらに、前記部品実装装置が含まれる生産ラインを構成する全ての部品実装装置のタクトを取得する取得ステップと、取得したタクトの中で前記部品実装装置のタクトが最大であるか否かを判定する判定ステップとを含み、前記判定ステップで前記部品実装装置のタクトが最大であると判定された場合にのみ、前記実装条件変更ステップでの変更が行われ、前記判断ステップでは、前記取得ステップで取得されたタクトの中で前記部品実装装置以外のタクトを前記予め定められたタクトとして、前記判断をすることが好ましい。
【0016】
これにより、部品実装ラインを構成する他の装置のタクトと比較して実装条件を変更できるので、一部の部品実装装置のタクトが部品実装ラインにおいてボトルネックとならない程度まで小さくすることが可能となる。
【0017】
なお、本発明は、このような部品実装条件決定方法に含まれるステップを手段とする実装装置として実現することもできる。また、部品実装条件決定方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM(Compact Disc−Read Only Memory)等の記録媒体やインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、部品をプリント配線基板等の基板に実装する部品実装ラインにおいて、一部の部品実装装置のタクトがボトルネックとなっている場合であっても、部品実装ラインのスループットを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る電子部品をプリント配線基板等の基板に実装する部品実装ライン100の構成を示す図である。この部品実装ラインは、上流側より、印刷装置110、接着剤塗布装置111、部品装着装置112、リフロー装置113及び検査装置114等の部品実装装置から構成される。
【0020】
印刷装置110は、電子部品を電気的に接続するとともに機械的に固着するために、基板にクリーム半田等を印刷(塗布)する部品実装装置の一例である。
【0021】
接着剤塗布装置111は、比較的大型の電子部品が搬送などの際に基板からずれないように基板上に電子部品を仮接着するための接着剤を必要な部分にのみ塗布する部品実装装置の一例である。
【0022】
部品装着装置112は、接着剤塗布装置111から搬入されてきた基板に、複数の電子部品を装着する部品実装装置の一例である。
【0023】
リフロー装置113は、部品装着装置112から搬入されてきた基板に載置された電子部品の半田付け処理を行うために、基板に印刷されたクリーム半田に加熱した気体を送りつける部品実装装置の一例である。
【0024】
検査装置114は、リフロー装置113から搬入されてきた基板上の部品の実装状態および半田の印刷状態を検査する部品実装装置の一例である。
【0025】
このように、本部品実装ライン100によれば、印刷装置110に投入された基板は、接着剤塗布装置111、部品装着装置112、リフロー装置113、検査装置114を順に経由することにより、電子部品が実装される。このようなライン構成においては、直前の装置の作業が終了しないと直後の装置は作業を開始できないので、ライン中に1台でもタクトが長い装置があれば、ライン全体のスループットはその装置のタクトに律速されてしまう。
【0026】
以下、部品実装ライン100を構成する部品実装装置の一例である印刷装置110について、より詳細に説明する。
【0027】
図2は、印刷装置110の平面図である。この印刷装置110は、基板120にクリーム半田121を印刷する装置であり、基板120上のランド(クリーム半田121を塗布したい場所)に開口部を設けたマスク122、マスク122上に置かれたクリーム半田121をかき寄せるスキージ123、印刷後にマスク122に残ったクリーム半田121を除去するクリーニングロール124等から構成される。なお、本図には示されていないが、この印刷装置110は、これらの機構部を制御するコントローラとしての制御部等も備える。
【0028】
図3は、印刷装置110の構成を示す機能ブロック図である。この印刷装置110は、図2に示されるスキージ123、クリーニングロール124等からなる機構部130、機構部130を制御するコンピュータ装置である制御部131、操作者とのインターフェースとなるキーボード等の入力部132及びLCD等の出力部133から構成される。
【0029】
制御部131は、制御プログラムを格納しているメモリやマイコン等からなり、入力部132を介した操作者からの指示によって起動されると、予め設定された印刷条件に従って制御プログラムが機構部130を制御することで、順次搬入されてくる基板120に対して印刷を行い、下流装置に搬出する。制御部131は、さらに、本発明に係る印刷条件を変更する機能であるテーブル記憶部134、現在値記憶部135、印刷条件変更部136を有する。
【0030】
テーブル記憶部134は、メモリ等に対応し、印刷条件テーブル140を記憶する手段の一例である。ここで、印刷条件テーブル140とは、部品実装装置のタクト及び部品実装の品質に影響を与える複数の実装条件のそれぞれについて、予め定められた最低の品質を維持できる複数の設定値と、複数の設定値のそれぞれに対応する影響に関する情報とを含むテーブルの一例であり、ここでは、図4に示されるように、タクト及び印刷の品質に影響を与える複数の印刷条件に対して、複数の設定値とその設定値がタクト及び印刷品質に及ぼす影響の大きさ等を保持する情報テーブルである。印刷条件テーブル140は、さらに、各印刷条件に対応して、最低の印刷品質を維持するための限界値である品質境界値やタクト優先による機器寿命の影響度を順位付けした機器寿命優先順位も保持する。
【0031】
以下に、印刷条件テーブル140の項目について説明する。
「印刷条件」は、部品実装装置のタクトと部品実装の品質とに影響を与える複数の実装条件の一例であり、ここでは、印刷装置110のタクト及び印刷品質に影響を及ぼす各種条件であり、通常メーカーが推奨値として最低の印刷品質を維持するための限界値を提示している。図中に示される各印刷条件の例については、後で詳細を説明する。
【0032】
「機器寿命優先順位」は、印刷条件に対して、タクトの短縮を優先することで機器寿命に及ぼす影響の大きさで順位付けしたものである。以下で説明する印刷条件の品質優先度が同一であった場合に、「機器寿命優先順位」の設定値が小さい印刷条件を優先的に選択することで、機器の寿命を長期化、つまり機器の劣化を抑制し、品質の悪化の影響を小さくすることができる。
【0033】
「品質優先度1〜5」は、各印刷条件に対する複数の設定値を、印刷品質が高くなる(タクトが長くなる)順に段階的に並べたもので、一番右側に位置する「品質優先度5」が最も品質を優先したときの設定値である。また、「品質優先度1」が品質境界値を表す。
【0034】
現在値記憶部135は、メモリ等に対応し、印刷条件に関する現在の設定値を記憶する手段の一例である。例えば、図4に示されるような各印刷条件の品質優先度に対応した設定値が保持される。
【0035】
印刷条件変更部136は、現在よりもタクトが小さくなるように、前記現在値記憶部に記憶されている複数の実装条件の設定値を順次変更していく実装条件変更部の一例であり、ここでは、メモリやマイコン等によって実現される処理部であり、テーブル記憶部134に記憶された印刷条件テーブル140と現在値記憶部135に記憶された印刷条件の現在値を参照することで、現在よりもタクトが小さくなるように、現在値記憶部に記憶されている複数の印刷条件の設定値を順次変更していく印刷条件変更手段の一例である。
【0036】
次に、以上のように構成された本実施の形態における印刷装置110の基本的な動作について説明する。
【0037】
図5は、印刷装置110による印刷の処理手順を、タクトに影響する処理を中心に示したフローチャートである。
【0038】
まず、基板120が印刷装置110に搬入されると(S501)、印刷装置110はマスク122の下面に基板120を密着させる(S502)。次に、印刷装置110はスキージ123を移動させることにより、マスク122に設けられた開口部を介して基板120にクリーム半田121を印刷する(S503)。印刷が終了すると、印刷装置110は基板120とマスク122を離し(S504)、基板120を搬出する(S505)。最後に、印刷装置110は、クリーニングロール124により、マスク122に残ったクリーム半田121の除去を行う(S506)。
【0039】
以上の処理によって、印刷装置110に搬入された基板120のランドにクリーム半田が印刷されて、次の装置へと搬出される。
【0040】
図6〜図9は、以上の印刷の処理手順において、図4の印刷条件テーブルに示した印刷条件が、タクトと印刷品質にどのような影響を及ぼすかを具体的に説明した図である。
【0041】
図6は、図4で示されたスキージ速度141を説明する図であり、スキージ123を移動させて基板120にクリーム半田121を印刷するときの、スキージ速度141(スキージ123の移動速度)がタクト及び品質に及ぼす影響を示している。図6(a)に示すように、スキージ速度141が低速の場合、マスク122に設けられた開口部にクリーム半田121が完全に収まり印刷品質は高くなるが、タクトは大きくなる。逆に、図6(b)に示すように、スキージ速度141が高速の場合、タクトは小さくなるが、マスク122に設けられた開口部にクリーム半田121が完全に収まらないため印刷品質は低くなる。
【0042】
図7は、図4で示されたスキージ多段制御142を説明する図であり、スキージ123を移動させて基板120にクリーム半田121を印刷するときの、スキージ多段制御142の段数(スキージ123の移動中の停止回数)がタクト及び品質に及ぼす影響を示している。図7(a)に示すように、スキージ多段制御142の段数が多い(図では2段)場合、マスク122に設けられた開口部にクリーム半田121が完全に収まり印刷品質は高くなるが、タクトは大きくなる。逆に、図7(b)に示すように、スキージ多段制御142の段数が少ない(図では1段)場合、タクトは小さくなるが、マスク122に設けられた開口部にクリーム半田121が完全に収まらないため印刷品質は低くなる。
【0043】
図8は、図4で示されたクリーニング速度143を説明する図であり、マスク122に残ったクリーム半田121のクリーニングを行うときの、クリーニング速度143(クリーニングロール124の移動速度)がタクト及び品質に及ぼす影響を示している。図8(a)に示すように、クリーニング速度143が低速の場合、マスク122に設けられた開口部に残ったクリーム半田121は完全に除去され印刷品質は高くなるが、タクトは大きくなる。逆に、図8(b)に示すように、クリーニング速度143が高速の場合、タクトは小さくなるが、マスク122に設けられた開口部にクリーム半田121が残り、印刷品質は低くなる。
【0044】
図9は、図4で示されたマスク離れ速度144を説明する図であり、印刷が終了した後に基板120とマスク122を離すときの、マスク離れ速度144(基板120とマスク122を離す速度)がタクト及び品質に及ぼす影響を示している。図9(a)に示すように、マスク離れ速度144が低速の場合、マスク122に設けられた開口部と同形状のクリーム半田121が基板上の残留し印刷品質は高くなるが、タクトは大きくなる。逆に、図9(b)に示すように、マスク離れ速度144が高速の場合、タクトは小さくなるが、基板120上に印刷されたクリーム半田121の形が崩れ、印刷品質は低くなる。
【0045】
以上のように、印刷装置110において印刷を行うときに、タクト及び印刷品質に影響を及ぼす印刷条件は複数存在する。通常、それらの印刷条件は、メーカーが推奨値として最低の印刷品質を維持するための限界値を提示しているが、ユーザーはその限界値よりも品質的に余裕を持った印刷条件を設定して利用していることが多い。
【0046】
そこで、部品実装ライン100において印刷装置110がボトルネックとなっている場合に、図10に示すように印刷実行前に品質的に余裕のある印刷条件を変更して、印刷装置110のタクトを減少させることで、部品実装ライン100のボトルネックを解消することが可能となる。
【0047】
図10は、部品実装ライン100のボトルネックを解消するために印刷実行前に印刷装置110の印刷条件を変更するときの処理手順を示したフローチャートである。
【0048】
まず、印刷条件変更部136は、部品実装ライン100を構成する装置(印刷装置110、接着剤塗布装置111、部品装着装置112、リフロー装置113、検査装置114等)のタクト又はラインタクトを取得する(S1001)。ここで、印刷条件変更部136は、印刷装置110のタクトが最大となっている場合には(S1002でYes)、印刷装置110の次に大きいタクトを要求タクトとして設定し(S1003)、印刷装置110のタクトが最大となっていない場合には(S1002でNo)、処理を終了する。
【0049】
次に、印刷条件変更部136は、現在値記憶部135に記憶されている印刷条件に関する現在の設定値を取得し(S1004)、テーブル記憶部134に記憶されている印刷条件テーブル140を参照することで、現在の設定値の中で最も品質優先度が高く、品質境界値よりも高い品質の印刷条件を、変更により品質を低下させる度合いが低い印刷条件として取得する(S1005)。
【0050】
そして、印刷条件変更部136は、条件に合致する印刷条件を取得できた場合は(S1006でYes)、取得した印刷条件が複数でないかの判定を行い(S1007)、取得できなかった場合は(S1006でNo)、処理を終了する。ここで、取得した印刷条件が複数ある場合には(S1007でYes)、印刷条件変更部136は取得した印刷条件のうち、機器寿命優先順位が最も高い印刷条件を選択し(S1008)、取得した印刷条件が複数でない場合には(S1007でNo)、そのまま次の処理(S1009)へ進む。
【0051】
そして、印刷条件変更部136は、これまでの処理により得られた印刷条件(S1007でNoの場合はS1006で取得した印刷条件、S1007でYesの場合は、S1008で選択した印刷条件)の現在値記憶部135に記憶されている現在値を、品質優先度を一つ下げた値に変更する(S1009)。そして、印刷条件変更部136は、変更された現在値における印刷装置110のタクトを計算し(S1010)、計算後の印刷装置110のタクトが要求タクトより小さくなるまで、印刷条件の変更処理を繰り返す(S1011)。
【0052】
以上の処理を、具体例で説明したものが図11である。はじめは、部品実装ライン100において、印刷装置110のタクト(40秒)がボトルネックとなっている(S1101)。そこで、印刷装置110は、現在値の品質優先度が最も高い印刷条件であるマスク離れ速度144を、設定値を変更することにより品質を低下させる度合いが低い印刷条件と考えて、品質優先度を一つ下げた設定値に変更する(S1102)。その結果、印刷装置110のタクトは34秒と小さくなるが、印刷装置110がボトルネックであることは解消されていないので、印刷装置110は再度品質優先度が最も高いマスク離れ速度144の設定値を変更する(S1103)。その結果、印刷装置110のタクトは28秒となり、部品実装ライン100においてボトルネックではなくなったので、印刷装置110は印刷条件の変更処理を終了する。
【0053】
以上により、印刷装置110のタクトが部品実装ライン100でボトルネックとなっている場合においても、印刷装置110のタクトを減少させることにより、ラインタクトを減少させること、すなわち、ライン全体のスループットを向上させることが可能となる。そして、印刷品質の低下の度合いを考慮して最も品質優先度が高い印刷条件を変更するため、印刷品質の低下をできる限り抑えることができる。また、品質境界値を超えない範囲で印刷条件を変更することで、一定以上の印刷品質を保つことも可能となる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、印刷装置の印刷条件を変更することにより、部品実装ラインのスループットの向上を実現したが、部品実装ラインを構成する他の装置に本手法を適用してもよい。例えば、図12に示すような場合にも、本手法を適用することで、部品実装ラインのスループットの向上を実現させることが考えられる。
【0055】
図12は、部品実装ライン100を構成する部品実装装置のうち、印刷装置以外の装置へ本手法を適用する場合の例を示した図である。ここで、部品実装装置とは、部品実装ライン100を構成する装置の総称であり、具体的には、印刷装置110、接着剤塗布装置111、部品装着装置112、リフロー装置113、検査装置114等の装置が該当する。
【0056】
図の上部には、部品実装ライン100及びそれを構成する部品実装装置が示されている。図1に示したものと同様であるので説明は省略する。図の下部には、図の上部に示された部品実装装置のうち印刷装置110以外の装置に対応する実装条件が表示されている。ここで、実装条件とは、部品実装装置のタクトと品質とに影響を与える複数の条件の総称であり、前述の印刷条件に加えて、以下で説明する接着条件、装着条件、リフロー条件及び検査条件も含まれる。
【0057】
接着条件151は、接着剤塗布装置111のタクトと品質とに影響を与える複数の条件であり、具体的には、塗布量、塗布温度、捨て打ち回数及び塗布高さ等が該当する。
【0058】
装着条件152は、部品装着装置112のタクトと品質とに影響を与える複数の条件であり、具体的には、実装速度、吸着速度、認識速度及びフィーダ送り速度等が該当する。
【0059】
リフロー条件153は、リフロー装置113のタクトと品質とに影響を与える複数の条件であり、具体的には、基板搬送速度、温度プロファイル及び酸素濃度等が該当する。
【0060】
検査条件154は、検査装置114のタクトと品質とに影響を与える複数の条件であり、具体的には、ヘッド加速度、ヘッド最高速、視野解像度、制定時間及び認識部品数等が該当する。
【0061】
これらの印刷装置以外の部品実装装置も印刷装置と同様に、図3で示したような制御部131を備える。この場合、制御部131は「印刷条件変更部」に替えて「実装条件変更部」を備え、テーブル記憶部134は「印刷条件テーブル」に替えて「実装条件テーブル」を保持する。「実装条件テーブル」には、図4に示される印刷条件に代わって、それぞれの装置に対応した接着条件151、装着条件152、リフロー条件153又は検査条件154が保持され、それぞれの条件に対応した値が設定される。
【0062】
また、「実装条件変更部」は、図10で示したフローチャートと同様の処理を実行することで、部品実装実行前に部品実装装置の実装条件を変更し、部品実装ライン100のボトルネックを解消することが可能となる。
【0063】
つまり、「実装条件変更部」は、部品実装ライン100を構成する部品実装装置の中で自装置のタクトが最大となっている場合に、「実装条件テーブル」と現在の設定値を参照することで、現在の設定値の中で最も品質優先度が高く、品質境界値よりも高い品質の実装条件を、変更により品質を低下させる度合いが低い実装条件として取得する。そして、「実装条件変更部」は取得した実装条件から1つの実装条件を選択したうえで、当該実装条件の現在値を、品質優先度を一つ下げた値に変更し、変更後のタクトを計算する。このような処理を当該装置が部品実装ライン100において最大のタクトとならないようになるまで、又は全ての実装条件が品質境界値となるまで繰り返して実装条件を変更する。
【0064】
このように、印刷装置以外の部品実装装置が部品実装ライン100でボトルネックとなっている場合にも、最も品質優先度が高い品質境界値よりも高い品質の実装条件をタクトが小さくなるように変更することで、品質の低下をできる限り抑制し、一定以上の品質を確保したうえでラインタクトを小さくすること、すなわち、ライン全体のスループットを向上させることが可能となる。
【0065】
以上、本発明に係る部品実装装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、部品をプリント配線基板等の基板に実装する部品実装ラインを構成する部品実装装置として、特に、一部の部品実装装置のタクトがライン全体のボトルネックとなっているときに、それを解消することができる部品実装装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】部品実装ラインの構成を示す図である。
【図2】印刷装置の平面図である。
【図3】印刷装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】印刷装置が保持する印刷条件テーブルの構成を示す図である。
【図5】印刷装置による印刷の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】(a)スキージ速度が低速の場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。(b)スキージ速度が高速の場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。
【図7】(a)スキージ多段制御の段数が多い場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。(b)スキージ多段制御の段数が少ない場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。
【図8】(a)マスク離れ速度が低速の場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。(b)マスク離れ速度が高速の場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。
【図9】(a)クリーニング速度が低速の場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。(b)クリーニング速度が高速の場合に、タクト及び品質に及ぼす影響を示した図である。
【図10】印刷装置の印刷条件を変更するときの処理手順を示したフローチャートである。
【図11】図10のフローチャートに示される処理を説明する図である。
【図12】部品実装ラインを構成する印刷装置以外の装置への本手法の適用例を示した図である。
【図13】従来のタクト調整方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
100 部品実装ライン
110 印刷装置
111 接着剤塗布装置
112 部品装着装置
113 リフロー装置
114 検査装置
120 基板
121 クリーム半田
122 マスク
123 スキージ
124 クリーニングロール
130 機構部
131 制御部
132 入力部
133 出力部
134 テーブル記憶部
135 現在値記憶部
136 印刷条件変更部
140 印刷条件テーブル
141 スキージ速度
142 スキージ多段制御
143 クリーニング速度
144 マスク離れ速度
151 接着条件
152 装着条件
153 リフロー条件
154 検査条件
200 部品実装ライン
210 印刷装置
211 部品装着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に部品を実装する部品実装装置による実装条件を決定する方法であって、
部品実装装置のタクトと部品実装の品質とに影響を与える複数の実装条件について、実装条件ごとに予め定められた最低の品質を維持できる境界を示す品質境界値を超えない範囲で、前記タクトが小さくなるように、実装条件を順次変更していく実装条件変更ステップを含む
ことを特徴とする部品実装条件決定方法。
【請求項2】
前記実装条件変更ステップでは、前記複数の実装条件のうち、部品実装の品質を最も優先している実装条件を優先して前記変更をする
ことを特徴とする請求項1記載の部品実装条件決定方法。
【請求項3】
前記実装条件変更ステップは、
前記複数の実装条件の中から、部品実装の品質を最も優先している1つの実装条件を選択する選択ステップと、
選択された実装条件を前記タクトが小さくなる値に変更する変更ステップと、
変更された実装条件におけるタクトを計算する計算ステップと、
計算されたタクトが予め定められたタクトより大きいか否かを判断する判断ステップとを含み、
前記判断ステップで計算されたタクトが予め定められたタクトより大きいと判断された場合には、前記選択ステップでの選択、前記変更ステップでの変更、前記計算ステップでの計算及び前記判断ステップでの判断が繰り返される
ことを特徴とする請求項2記載の部品実装条件決定方法。
【請求項4】
前記部品実装条件決定方法はさらに、前記部品実装装置が含まれる生産ラインを構成する全ての部品実装装置のタクトを取得する取得ステップと、
取得したタクトの中で前記部品実装装置のタクトが最大であるか否かを判定する判定ステップとを含み、
前記判定ステップで前記部品実装装置のタクトが最大であると判定された場合にのみ、前記実装条件変更ステップでの変更が行われ、
前記判断ステップでは、前記取得ステップで取得されたタクトの中で前記部品実装装置以外のタクトを前記予め定められたタクトとして、前記判断をする
ことを特徴とする請求項3記載の部品実装条件決定方法。
【請求項5】
前記部品実装装置は、基板上に電子部品を仮接着するための接着剤を塗布する接着剤塗布装置、基板上に複数の部品を装着する部品装着装置、基板上に印刷されたクリーム状の半田に加熱した気体を送りつけるリフロー装置又は基板上の部品の実装状態および半田の印刷状態を検査する検査装置である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の部品実装条件決定方法。
【請求項6】
基板に部品を実装する部品実装装置であって、
当該部品実装装置のタクト及び部品実装の品質に影響を与える複数の実装条件のそれぞれについて、予め定められた最低の品質を維持できる複数の設定値と、前記複数の設定値のそれぞれに対応する前記影響に関する情報とを含むテーブルを記憶するテーブル記憶部と、
前記複数の実装条件の現在における設定値を記憶している現在値記憶部と、
前記現在値記憶部に記憶されている設定値と前記テーブル記憶部に記憶されているテーブルとを参照することで、現在よりもタクトが小さくなるように、前記現在値記憶部に記憶されている複数の実装条件の設定値を順次変更していく実装条件変更部と
を備えることを特徴とする部品実装装置。
【請求項7】
前記テーブルには、前記複数の実装条件のそれぞれについて、前記タクトの大きさ又は前記品質の程度の昇順又は降順に、前記複数の設定値が配置され、
前記影響に関する情報は、前記テーブルにおける前記複数の設定値が配置されている位置であり、
前記実装条件変更部は、現在の設定値が前記テーブルのどの位置に配置されているかを参照することで、現在の設定値のうち、タクトの優先度が最も低い実装条件、又は、品質の優先度が最も高い実装条件を特定し、特定した実装条件をタクトの優先度がより高くなる設定値、又は、品質の優先度が低くなる設定値に変更する
ことを特徴とする請求項6記載の部品実装装置。
【請求項8】
前記テーブルには、前記複数の実装条件のそれぞれについて、前記タクトの優先度が最も高い設定値が最低の品質を維持できる境界値として配置されている
ことを特徴とする請求項7記載の部品実装装置。
【請求項9】
基板に部品を実装する部品実装装置による実装条件を決定するためのプログラムであって、
請求項1記載の部品実装条件決定方法に含まれるステップをコンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−111103(P2009−111103A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280992(P2007−280992)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】