説明

部材の取り付け方法、及びこの部材の取り付け方法を適用したカード用コネクタ装置

【課題】筒状部の上端部に部材の抜け止め部を形成することができるとともに、部材が装着される筒状部の部分の高さ寸法の精度を確保することができる。
【解決手段】金属板材1に円形の開口部2を形成するとともに開口部2の内周縁の一部を切り欠いて90度の等間隔で4つの調整用切欠部3を形成し、開口部2を中心にして調整用切欠部3を包含する領域よりも大きな径寸法aを有する押し当て治具でバーリング加工を施して筒状部5を立ち上げ形成し、この状態において筒状部5に部材8を装着させ、その後、筒状部5の上端部に調整用切欠部3に応じて形成された凹部6を基準にして凹部6に連設される凸部7を押し開き、この凸部7によって部材8を筒状部5に対して抜け止めするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーリング加工によって形成した筒状部に部材を取り付けるようにした部材の取り付け方法、及びこの部材の取り付け方法を適用したカード用コネクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板材にバーリング加工を施して筒状部を形成し、その筒状部にカードを押し出すためのアーム部材を回動可能に取り付けたカード用コネクタ装置が、特許文献1に開示されている。また、この特許文献1には、上述した金属板材に上述のアーム部材の抜け止め防止用の抑え部、すなわち抜け止め部を切り起こした構成も示されている。
【特許文献1】実開平5−8675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1に示される従来技術では、バーリング加工によって形成した筒状部の他に、金属板材にアーム部材の抜け止め部を切り起こす必要があることから、製作が面倒になる問題がある。
【0004】
このようなことから、製作を容易にするために、バーリング加工した筒状部にアーム部材を装着させた状態で、筒状部の上端部を押し開いて、この筒状部の上端部にアーム部材の抜け止め部を形成することが考えられる。しかし現実には、円筒形状に形成した筒状部の強固な上端部を押し開くことは難しく、強い力で押し開けば筒状部の高さ寸法の精度を確保できず、アーム部材が抜け止め部によって押し付けられ、これによりアーム部材の円滑な回動動作が阻害されてしまう懸念がある。
【0005】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、筒状部の上端部に部材の抜け止め部を形成することができるとともに、部材が装着される筒状部の部分の高さ寸法の精度を確保できる部材の取り付け方法、及びこの部材の取り付け方法を適用したカード用コネクタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明の部材の取り付け方法は、金属板材に円形の開口部を形成するとともに上記開口部の内周縁の一部を切り欠いて調整用切欠部を形成し、上記開口部を中心にして上記調整用切欠部を包含する領域よりも大きな径寸法を有する押し当て治具でバーリング加工を施して筒状部を立ち上げ形成し、この状態において上記筒状部に部材を装着させ、その後、上記筒状部の上端部に上記調整用切欠部に応じて形成された凹部を基準にして上記凹部に連設される凸部を押し開き、この凸部によって上記部材を上記筒状部に対して抜け止めしたことを特徴としている。
【0007】
このようにして行なう本発明の部材の取り付け方法は、筒状部の上端部に形成される凸部は凹部に連設されることから、この凸部を容易に押し開くことができる。したがって、凸部を部材の抜け止め部に形成できるとともに、筒状部が形成される金属板材の上面から、押し開かれた凸部の折り曲げ部、すなわち押し開かれる基準となる凹部の部分に至る高さ寸法の精度を確保することができる。この場合、筒状部に装着される部材の厚さ寸法に適合する上述の高さ寸法となるように、バーリング加工を行なう押し当て治具の径寸法を選定すればよい。この押し当て治具の外周面と、凸部を押し開く際の基準となる凹部の部分を形成する調整用切欠部の部分との間隔が、部材が装着される筒状部の部分の上述の高さ寸法となる。
【0008】
また、本発明の部材の取り付け方法は、上記発明において、先端部が円錐状のポンチを上記筒状部に圧入して上記凸部を押し開くことを特徴としている。このようにして行なう本発明は、ポンチの先端部の円錐形状によって凸部を容易に押し開くことができる。
【0009】
また、本発明の部材の取り付け方法は、上記発明において、上記調整用切欠部を90度の等間隔で4つ形成したことを特徴としている。このようにして行なう本発明は、調整用切欠部に応じて形成された凹部が90度の等間隔で4つ形成されることから、これらの凹部間に形成される凸部も等間隔で4つ形成される。したがって、1つの凸部の形状が小さくなり、これらの凸部をさらに容易に押し開くことができる。
【0010】
また、本発明の部材の取り付け方法を適用したカード用コネクタ装置は、上記いずれかの部材の取り付け方法を用い、挿入されたカードを押し出すための排出用アーム部材を上記筒状部に回動可能に取り付けたことを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明のカード用コネクタ装置は、筒状部の上端部に排出用アーム部材の抜け止め部を形成できるとともに、排出用アーム部材が装着される筒状部の部分に排出用アーム部材の厚さ寸法に相応する高さ寸法を精度よく確保でき、排出用アーム部材の円滑な回動動作と、抜け止めの双方を実現できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の部材の取り付け方法は、筒状部の上端部に部材の抜け止め部を形成できるので製作が容易であるとともに、部材が装着される筒状部の部分の高さ寸法の精度を確保でき
、信頼性の高い部材取り付け構造を実現できる。
【0013】
また、上述の部材の取り付け方法を適用した本発明のコネクタ装置は、筒状部の上端部に排出用アーム部材の抜け止め部を形成できるので製作が容易であるとともに、排出用アーム部材が装着される筒状部の部分の高さ寸法の精度を確保でき、排出用アーム部材の円滑な回動動作と、抜け止めの双方を実現でき、信頼性の高いコネクタ装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,本発明に係る部材の取り付け方法、及びこの部材の取り付け方法を適用したカード用コネクタ装置を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
[部材の取り付け方法の一実施形態]
図1は本発明に係る部材の取り付け方法の一実施形態における下穴形成工程を説明する平面図、図2は本実施形態における筒状部形成工程を説明する図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA−A断面拡大図、図3は本実施形態における凸部押し開き工程を説明する要部断面図、図4は本実施形態によって部材が取り付けられた状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B断面図である。
【0016】
本実施形態に係る部材の取り付け方法は、図1に示す下穴形成工程、図2に示す筒状部形成工程、及び図3に示す凸部押し開き工程から成るものである。
【0017】
(1)下穴形成工程
図1に示すように、金属板材1に下穴、すなわち円形の開口部2を形成するとともに、開口部2の内周縁の一部を切り欠いて調整用切欠部3を、90度の等間隔で4つ形成する。この図1に示す想像線4は、バーリング加工を施す図示しない押し当て治具の外周面を示しており、この押し当て治具の径寸法は、開口部2及び調整用切欠部3を包含する領域よりも大きな径寸法aに設定されている。
【0018】
なお、想像線4に相応する上述の押し当て治具の外周面と、後述の凸部7を押し開く基準となる後述の凹部6の部分を形成する調整用切欠部3の部分との間隔bが、後述の部材8が装着される後述の筒状部5の部分の後述の高さ寸法hを形成することになる。したがって、後述の部材8に適合する後述の高さ寸法hを確保することを考慮して、上述の図示しない押し当て治具の径寸法aが予め選定される。
【0019】
(2)筒状部形成工程
次に、図1に示す状態において、想像線4のように開口部2を中心にして図示しない押し当て治具により金属板材1にバーリング加工を施す。これにより、図2に示すように、金属板材1に筒状部5が立ち上げ形成される。
【0020】
同図2に示すように、筒状部5の形成によって、この筒状部5の上端部に、上述した調整用切欠部3に応じた凹部6が90度の等間隔で4つ形成される。さらに、これらの凹部6に連設されて、これらの凹部6間に、凸部7も等間隔に4つ形成される。
【0021】
(3)凸部押し開き工程
次に図3に示すように、筒状部5に部材8の孔8aを挿入することによって、この筒状部5に部材8を装着させ、この状態において、例えば先端部9aが円錐状のポンチ9を圧入して凸部7を押し開く。このとき例えば、図2の(b)図に示す凹部6の底部を押し開く際の基準位置6aに設定し、この基準位置6aまで凸部7を押し開く。
【0022】
このようにして、凸部7を押し開いた後、ポンチ9を除くと、図4に示すように所望の部材取り付け構造が完成する。この取り付け構造では、同図4の(b)図に示すように、筒状部5が形成される金属板材1の上面1aから、押し開かれた凸部7の折り曲げ部5a、すなわち押し開かれる基準となる図2の(b)図に示す凹部6の基準位置6aに至る高さ寸法hが、部材8の厚さ寸法に適合する高さ寸法となる。この高さ寸法hは、上述したように、図1の間隔bに相応する寸法となっている。
【0023】
また、このように形成した部材取り付け構造では、筒状部5の上端部に形成した4つの凸部7が部材8の抜け止め部となっている。例えば予め高さ寸法hを部材8の厚さ寸法よりも大きく設定しておくことにより、部材8を筒状部5に回動可能に保持させることができる。
【0024】
[部材の取り付け方法の一実施形態の効果]
このようにして行なう部材の取り付け方法の一実施形態によれば、図2に示すように、筒状部5の上端部に形成される凸部7のそれぞれは凹部6に連設されることから、これらの凸部7を容易に押し開くことができる。したがって、図4の(b)図に示すように、凸部7を部材8の抜け止め部とすることができるとともに、金属板材1の上面1aから、押し開かれた凸部7の折り曲げ部5aに至る高さ寸法hの精度を確保できる。これにより、信頼性の高い部材取り付け構造を実現できる。
【0025】
また、図3に示すように、先端部9aが円錐状のポンチ9を筒状部5に圧入して凸部7を押し開くようにしてあることから、このポンチ9の先端部9aの円錐形状によって凸部7を容易に押し開くことができる。
【0026】
さらに、本実施形態は、図1に示すように金属部材1に調整用切欠部3を90度の等間隔で4つ形成してあり、これに伴って、バーリング加工によって形成した筒状部5の上端部に4つの凹部6が形成されるとともに、これらの凹部6間に4つの凸部7が形成されることから、1つの凸部7の形状が小さくなり、これによってもこれらの凸部7を容易に押し開くことができる。
【0027】
[カード用コネクタ装置の一実施形態]
図5は図1〜4を用いて説明した部材の取り付け方法の一実施形態を適用したカード用コネクタ装置の一実施形態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は正面図、図6は図5の(a)図に示すカード用コネクタ装置の筐体を形成するフレームの一部を取り除いて示した裏面図である。
【0028】
図5の(a)、(b)図に示すように、本実施形態に係る部材の取り付け方法が適用されるカード用コネクタ装置の一実施形態は、図示しないカードが挿入される筐体を形成するフレーム10の前側位置に、カードが挿入される挿入口10aを有し、奥側位置にカードの外部接続部と接続可能な接続端子12を備えている。例えば、フレーム10の左側位置には、挿入されたカードの排出時に活用されるプッシュロッド11を備えている。
【0029】
また、フレーム10の裏面側には、図6に示すように、プッシュロッド11の押し動作に応じて第1筒状部15を中心に同図6の左回りに回動可能な第1アーム13と、この第1アーム13の係合部13aと係合する係合部14aを有し、第1アーム13の左回りの回動に伴って第2筒状部16を中心に同図6の右回りに回動可能な第2アーム14とを備えている。第1アーム13、第2アーム14のそれぞれには、フレーム10内に挿入されたカードが当接する当接部13b,14bを備えている。
【0030】
これらの第1アーム13及び第2アーム14は、挿入されたカードを挿入口10a方向に押し出すための排出用アーム部材を構成している。
【0031】
また、第1アーム13及び第2アーム14のそれぞれは、上述した図1〜4を用いて説明した部材の取り付け方法の一実施形態を適用して取り付けたものである。すなわち、第1筒状部15及び第2筒状部16のそれぞれは、図4に示す筒状部5と同様にバーリング加工によって形成してあり、これらの第1筒状部15及び第2筒状部16に装着される第1アーム13及び第2アーム14が図4に示す部材8に相当している。
【0032】
また、このカード用コネクタ装置の一実施形態は、図5,6に示すように、フレーム10の両側部に、このフレーム10を図示しない回路基板に実装する際の支持部材を形成するフレーム支持部材17,18を取り付けてある。これらのフレーム支持部材17,18も、上述した図1〜4で示した部材の取り付け方法の一実施形態を適用してフレーム10に取り付けたものである。すなわち、フレーム支持部材17,18は、図4に示す部材8に相当している。
【0033】
このカード用コネクタ装置の一実施形態では、図示しないカードが挿入口10aからフレーム10内の所定の装着位置まで挿入され、カードの外部接続部と図5の(b)図に示す接続端子12とが接続すると、このカードに対する信号の送受信が可能となる。このようにカードが所定の装着位置に装着されると、装置の奥側に位置するカードの先端部が、図6の第1アーム13の当接部13bと、第2アーム14の当接部14bとの双方に当接する。
【0034】
カードの排出に際してプッシュロッド11が押されると、図6に示す第1アーム13が第1筒状部15を中心に図4の左回りに回動し、この第1アーム13の係合部13aと係合する第2アーム14の係合部14aを介して第2アーム14が第2筒状部16を中心に図6の右回りに回動する。これらの第1アーム13、第2アーム14の回動により、所定の装着位置に装着されていたカードが第1アーム13の当接部13b、及び第2アーム14の当接部14bによって押し出され、このカードが排出される。
【0035】
このように構成したカード用コネクタ装置の一実施形態によれば、第1筒状部15、第2筒状部16のそれぞれの上端部の凸部が図3に示すポンチ9によって押し開かれて、これらの第1筒状部15、第2筒状部16に対する第1アーム13、第2アーム14の抜け止め部を形成できるので製作が容易である。また、第1アーム13、第2アーム14のそれぞれが装着される第1筒状部15、第2筒状部16の部分の高さ寸法の精度を確保できる。すなわち、第1アーム13及び第2アーム14の円滑な回動動作と、抜け止めの双方を実現でき、信頼性の高いコネクタ装置が得られる。
【0036】
また、上述した部材の取り付け方法の一実施形態を適用して形成したフレーム10の筒状部のそれぞれの上端部に、フレーム支持部材17,18の抜け止め部を形成できるので、製作が容易である。また、フレーム支持部材17,18のそれぞれが装着される筒状部の部分の高さ寸法の精度を確保することができる。すなわち、フレーム支持部材17,18を抜け止めすることなくフレーム10の筒状部に精度よく取り付けることができ、この点でも信頼性の高いコネクタ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る部材の取り付け方法の一実施形態における下穴形成工程を説明する平面図である。
【図2】本実施形態における筒状部形成工程を説明する図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA−A断面拡大図である。
【図3】本実施形態における凸部押し開き工程を説明する要部断面図である。
【図4】本実施形態によって部材が取り付けられた状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B断面図である。
【図5】図1〜4を用いて説明した部材の取り付け方法の一実施形態を適用したカード用コネクタ装置の一実施形態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は正面図である。
【図6】図5の(a)図に示すカード用コネクタ装置の筐体を形成するフレームの一部を取り除いて示した裏面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 金属板材
1a 上面
2 開口部
3 調整用切欠部
4 想像線
5 筒状部
5a 折り曲げ部
6 凹部
6a 基準位置
7 凸部
8 部材
8a 孔
9 ポンチ
9a 先端部
10 フレーム
10a 挿入口
11 プッシュロッド
12 接続端子
13 第1アーム(排出用アーム部材)
13a 係合部
13b 当接部
14 第2アーム(排出用アーム部材)
14a 係合部
14b 当接部
15 第1筒状部
16 第2筒状部
17 フレーム支持部材
18 フレーム支持部材
a 径寸法
b 間隔
h 高さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材に円形の開口部を形成するとともに上記開口部の内周縁の一部を切り欠いて調整用切欠部を形成し、
上記開口部を中心にして上記調整用切欠部を包含する領域よりも大きな径寸法を有する押し当て治具でバーリング加工を施して筒状部を立ち上げ形成し、
この状態において上記筒状部に部材を装着させ、
その後、上記筒状部の上端部に上記調整用切欠部に応じて形成された凹部を基準にして上記凹部に連設される凸部を押し開き、この凸部によって上記部材を上記筒状部に対して抜け止めしたことを特徴とする部材の取り付け方法。
【請求項2】
上記請求項1記載の部材の取り付け方法において、
先端部が円錐状のポンチを上記筒状部に圧入して上記凸部を押し開くことを特徴とする部材の取り付け方法。
【請求項3】
上記請求項1または請求項2記載の部材の取り付け方法において、
上記調整用切欠部を90度の等間隔で4つ形成したことを特徴とする部材の取り付け方法。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれか1項記載の部材の取り付け方法を用いて、挿入されたカードを押し出すための排出用アーム部材を上記筒状部に回動可能に取り付けたことを特徴とする部材の取り付け方法を適用したカード用コネクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−312194(P2006−312194A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136235(P2005−136235)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】