説明

配管の肉盛溶接方法

【課題】 原子炉再循環系配管などの溶接継手において応力腐食割れの進展を抑制する配管の肉盛溶接方法を提供する。
【解決手段】 原子炉再循環系配管1を肉盛溶接するにあたって、溶接前の開先加工部17に応力腐食割れ進展方向8と交差する方向14に溶接金属のデンドライト組織を成長させた肉盛溶接層を形成し、配管内面側6の表面硬化層4で発生した応力腐食割れ18が溶接金属7の内部に進展することを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の肉盛溶接方法に係り、特に、BWR発電プラントの原子炉再循環系配管などの溶接継手において応力腐食割れの進展への耐性を高める溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BWR発電プラントの炉内構造物及び原子炉再循環系配管等には、配管母材及び溶接金属として、304系及び316系等のオーステナイト系ステンレス鋼が採用されている。一般に、これらの材料を用いて配管等の構造物を溶接により接合する場合、まず、配管の接合部となる部分に開先加工をした後に、開先加工部を突合せ、突合せ部に溶接金属を多層盛りして溶接し、必要に応じて機械加工やグラインダ等で表面を滑らかに仕上げている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
国内のBWR発電プラントにおいて、オーステナイト系ステンレス鋼製の炉内構造物や原子炉再循環系配管等の溶接部近傍に、応力腐食割れによるひび割れが確認されている。応力腐食割れとは、経年劣化事象のひとつであり、材料条件、環境条件、応力条件が重畳した場合に発現する割れ事象である。
【0004】
従来、炭素含有量が高いSUS304鋼で認められた応力腐食割れは、溶接熱影響部における鋭敏化が主な原因であると考えられてきた。
【0005】
この問題を解決するため、鋭敏化を抑制した低炭素系ステンレス鋼が開発されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−28405号公報(第2,3頁 図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、低炭素系ステンレス鋼製の炉内構造物や再循環系配管の溶接部近傍にも、応力腐食割れによるひび割れが確認された。
【0008】
低炭素系ステンレス鋼製の炉内構造物等に発生したひび割れの調査結果から、機械加工や表面施工等による表面硬度の上昇等が認められた場合、応力腐食割れ感受性が増加し、応力腐食割れが発生すると考えられている。
【0009】
また、応力腐食割れの進展については、原子炉再循環系配管の場合は、主に配管内面側において溶接部近傍の表面硬化層に応力腐食割れが発生し、配管外面側に進展しており、一部のひび割れは、き裂の先端が溶接金属部まで到達している。
【0010】
現在、検査により欠陥の存在が確認された構造物に対しては、検出された欠陥寸法をもとに応力腐食割れの進展量予測による断面積の減少量を評価し、その構造物の健全性を確認している。しかし、応力腐食割れの発生又は進展を抑制する根本的な対策は提案されていない。
【0011】
本発明の課題は、原子炉再循環系配管などの溶接継手において応力腐食割れの進展を抑制する配管の肉盛溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、配管の接合部となる部分に開先加工をした後に、開先加工部を突合せ、突合せ部に溶接金属を多層盛りして溶接する配管の肉盛溶接方法において、配管内面に発生する応力腐食割れ進展方向と交差する方向に溶接金属のデンドライト組織を成長させる肉盛溶接層を開先加工前の配管の接合部となる部分に形成する配管の肉盛溶接方法を提案する。
【0013】
開先加工前の配管の接合部にデンドライト組織を成長させる肉盛溶接層は、配管外面側から配管内面側に形成する。
【発明の効果】
【0014】
配管の肉盛溶接方法において、応力腐食割れ進展方向と交差する方向にデンドライト組織を成長させた肉盛溶接層を溶接前の開先加工部に形成すると、接液面の溶接熱影響部位置で発生した応力腐食割れが溶接部に進展することを抑制できる。
【0015】
この配管の肉盛溶接方法には、他の溶接金属、熱処理、冷却装置等を必要とせず、通常使用しているオーステナイト系ステンレス鋼溶接金属のみで応力腐食割れが溶接部に進展することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
溶接金属部を応力腐食割れが進展する場合、その進展経路は金属組織の影響を受け、主に溶接金属のデンドライト組織に沿う場合があることが確認されている。配管の内表面側の加工硬化層に発生した応力腐食割れは、主に溶接熱影響部を進展した後に溶接金属に至る。従来の溶接方法によると、溶接金属部のデンドライト組織の方向は、主に配管内面側から配管外面側へ成長している。一般に、凝固時に成長するデンドライトの方向は、溶融金属の冷却に大きく依存するので、冷却速度の速い被溶接部から溶融金属側に向かってデンドライト組織が形成されるからである。
【0017】
炉内構造物や原子炉再循環系配管の溶接部の場合も、このデンドライト組織の方向は、開先形状や溶接順序の影響を受ける。
【0018】
接合対象の配管母材を付き合わせる部分にV型開先やレ型開先等の開先加工を施し、これらの開先形状を有する開先部に配管の内面側から順番に溶接金属を肉盛溶接する従来の方法では、配管溶接部に形成されるデンドライト組織の方向は、応力腐食割れの進展方向と同じであり、配管内面側から外面側へ成長している。
【0019】
図5〜図10を参照して、この現象をより具体的に説明する。
【0020】
図5は、従来の開先加工後の配管の構造を示す図である。図5に示すように、原子炉再循環系配管等を溶接により接合する場合、接合対象の配管母材1を付き合わせる部分にV型開先やレ型開先等の開先加工部2を形成する。
【0021】
図6は、従来の溶接方法による配管の溶接方法を示す図である。次に、図6(a)〜(c)に示すように、これらの開先形状を有する開先加工部2に配管の内面側から外面側への順番に、溶接金属7を肉盛し、溶接する。
【0022】
図7は、低炭素系ステンレス鋼製の原子炉再循環系配管に確認された応力腐食割れの一例を示す図である。配管内面側の表面硬化層4の接液面で発生した応力腐食割れ8が溶接金属7の内部に進展している。
【0023】
図8は、溶接金属が凝固する際に成長するデンドライト組織の方向を示す図である。溶接境界部12には冷却速度の速い被溶接部11から溶融金属9側に向かってデンドライト組織が形成されることを示している。図8において、溶融金属9内には、フェライト相10とオーステナイト相13とが形成され、デンドライトは、矢印14方向に成長する。
【0024】
図9は、従来の溶接方法により溶接途中で形成されるデンドライト組織の方向を示す図であり、図10は、従来の溶接方法により形成されたデンドライト組織の方向を示す図である。
【0025】
図9及び図10から明らかなように、従来の溶接方法によれば、配管に加工された開先面2及び溶接層の被溶接部11から溶融金属側9に向かってデンドライト組織が形成される。
【0026】
したがって、溶接境界部12に形成されたデンドライト組織は、配管内面側6から配管外面側5に形成されており、図7に示した配管内面側6の接液面で発生した応力腐食割れ8が進展する方向と同じであるから、従来の溶接方法による溶接部に発生した応力腐食割れ8は、溶接金属7の内部に進展すると考えられる。
【0027】
これに対して、本発明者等は、配管等を溶接により接合する際に、配管母材の開先部に応力腐食割れ進展方向と交差する方向に溶接金属のデンドライト組織を成長させた肉盛溶接層を設け、配管内面側の溶接熱影響部で発生した応力腐食割れが溶接金属内へ進展することを抑制する配管の肉盛溶接方法を開発した。
【実施例1】
【0028】
次に、図1〜図4を参照して、本発明による配管の肉盛溶接方法を説明する。
【0029】
図1は、本発明の溶接方法により配管の突合せ部に配管外面側から肉盛溶接する手順を示す図である。まず、図1に示すように、溶接対象となる配管母材1の突合せ部16を加工し、突合せ部16に配管外面側5から順に肉盛溶接15をして、デンドライトの成長方向14を配管内面側6に向かわせる。
【0030】
図2は、本発明の溶接方法により溶接境界部に形成されるデンドライト組織の方向を示す図である。次に、突合せ部16に配管外面側5から順に肉盛溶接15を数層実行する。どの肉盛層においても、溶融金属が凝固する際に形成されるデンドライトの成長方向14は、配管内面側6に向いている。
【0031】
図3は、本発明の溶接方法により肉盛溶接された突合せ部に開先加工をする手順を示す図である。図3に示すように、肉盛溶接部にV型やレ型等の開先加工部17を形成する。
【0032】
図4は、本発明の溶接方法による配管の溶接手順を示す図である。図4(a)〜(c)に示すように、配管1同士を突合せ、配管内面側6から肉盛溶接する。以上の溶接継手の製作手順により、配管等の溶接境界部における溶接金属のデンドライト組織は、配管外面側5から配管内面側6に形成される。
【0033】
したがって、配管内面側6で応力腐食割れ8が発生し、溶接金属7の近傍まで進展しようとしても、開先加工部17内のデンドライト組織の成長方向14が応力腐食割れ8の進展方向とは交差しているので、応力腐食割れの進展を抑制できる。
【0034】
なお、肉盛溶接層は、入熱が20kJ/cm未満の被覆アーク溶接又はサブマージアーク溶接又はTIG溶接法などにより形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の溶接方法により配管の突合せ部に配管外面側から肉盛溶接する手順を示す図である。
【図2】本発明の溶接方法により溶接境界部に形成されるデンドライト組織の方向を示す図である。
【図3】本発明の溶接方法により肉盛溶接された突合せ部に開先加工をする手順を示す図である。
【図4】本発明の溶接方法による配管の溶接手順を示す図である。
【図5】従来の開先加工後の配管の構造を示す図である。
【図6】従来の溶接方法による配管の溶接方法を示す図である。
【図7】低炭素系ステンレス鋼製の原子炉再循環系配管に確認された応力腐食割れの一例を示す図である。
【図8】溶接金属が凝固する際に成長するデンドライト組織の方向を示す図である。
【図9】従来の溶接方法により溶接途中で形成されるデンドライト組織の方向を示す図である。
【図10】従来の溶接方法により形成されたデンドライト組織の方向を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 配管母材
2 開先加工部
3 突合せ部
4 開先加工時に形成された表面硬化層
5 配管外面側
6 配管内面側
7 溶接金属
8 配管溶接部に発生した応力腐食割れ
9 溶融金属
10 フェライト相
11 被溶接部
12 溶接境界部
13 オーステナイト相
14 デンドライト成長方向
15 配管外面側から内面側へ突合せ部に盛る溶接金属
16 突合せ部
17 開先加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の接合部となる部分に開先加工をした後に、開先加工部を突合せ、突合せ部に溶接金属を多層盛りして溶接する配管の肉盛溶接方法において、
配管内面に発生する応力腐食割れ進展方向と交差する方向に溶接金属のデンドライト組織を成長させる肉盛溶接層を開先加工前の前記配管の接合部となる部分に形成することを特徴とする配管の肉盛溶接方法。
【請求項2】
配管の接合部となる部分に開先加工をした後に、開先加工部を突合せ、突合せ部に溶接金属を多層盛りして溶接する配管の肉盛溶接方法において、
配管内面に発生する応力腐食割れ進展方向と交差する方向にデンドライト組織を成長させるオーステナイト系溶接金属の肉盛溶接層を開先加工前の前記配管の接合部となる部分に形成することを特徴とする配管の肉盛溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された配管の肉盛溶接方法において、
開先加工前の前記配管の接合部にデンドライト組織を成長させる肉盛溶接層を配管外面側から配管内面側に形成することを特徴とする配管の肉盛溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−39734(P2009−39734A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205734(P2007−205734)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】