説明

配線基板およびその製造方法

【課題】微細な配線回路層において、ショート断線が無く、絶縁基板との接着性、電気特性に優れた配線基板を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラスセラミックスからなる絶縁基板3と、該絶縁基板3の表面及び内部の少なくとも一方に配設された配線回路5とを具備する配線基板1であって、前記配線回路5は、焼結金属5bと該焼結金属5bの両側面に沿って配置された金属箔5aとが一体化したものからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機や半導体素子収納用パッケージなどに適した配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体素子を搭載する半導体素子収納用パッケージや、各種電子部品が搭載される混成集積回路装置等に適用される配線基板においては、近年、Cu、Ag等の低抵抗の金属を主成分とした配線回路を絶縁基板と同時焼成して使用するために、1050℃程度以下の低温で焼結が可能であるガラスセラミック材料からなる絶縁基板が用いられている。
【0003】
このようなガラスセラミック配線基板は、いわゆるグリーンシート法と呼ばれる製造方法により製造されている。このグリーンシート法では、まず、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有するスラリーをドクターブレード法などによってシート状に成形しグリーンシートを作製する。次に、このグリーンシートにNCパンチや金型などで貫通孔を形成し、前記貫通孔に導体ペーストを充填してビアホール導体を形成し、さらに、ビアホール導体を形成したグリーンシートに導体ペーストを塗布し、グリーンシート表面に配線回路を形成する。さらに必要に応じて同様にして作製した複数のグリーンシートを積層し、しかる後、焼成してガラスセラミック配線基板が製造されている(例えば特許文献1を参照。)。
【0004】
このような導体ペーストをグリーンシートに塗布して配線回路を形成する方法では導体ペーストがにじんでしまい、隣り合う配線回路同士が短絡する恐れがあるため配線回路間を広くする必要がある。
【0005】
一方で、配線基板は、小型化、高性能化のために配線回路を高密度に形成する必要があるために、導体ペーストに換えて、にじみがなく配線回路間の距離を短くすることができ、配線幅を細くすることのできる金属箔を用いて配線回路を形成する試みも行われている(例えば特許文献2、3を参照。)。
【0006】
しかしながら、特許文献2、3に記載されている方法では、金属箔により形成された配線回路と絶縁基板との接合強度が導体ペーストを用いて形成された焼結金属体からなる配線回路を用いた場合よりも低くなるため、配線回路が絶縁基板から剥離する場合がある。
【0007】
すなわち、導体ペーストで配線回路を形成した場合には、配線回路と絶縁基板とが同時焼成されて、両者ともに収縮するために両者の間に応力が発生しにくく、配線回路と絶縁基板とが容易に強固に接合するのに対し、金属箔を用いた場合には金属箔が収縮しないため、配線回路と絶縁基板との間に応力が残留しやすく、しかも金属箔の表面の小さな凹凸によってのみ物理的に接合しているため、金属箔からなる配線回路と絶縁基板との接合強度を高くすることが非常に困難なのである。
【0008】
これに対して、例えば金属箔からなる配線回路の絶縁基板との接触面の表面粗さを粗くする方法が提案されている(例えば特許文献4を参照。)。
【特許文献1】特開平11−066951号公報
【特許文献2】特開2000−200969号公報
【特許文献3】特開2000−183530号公報
【特許文献4】特開平11−330697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載された方法によれば、金属箔の表面粗さを粗くする必要があるために、高周波信号の損失が大きくなるという問題があり、しかも配線回路と絶縁基板との十分な接合強度も達成されていない。
【0010】
したがって、本発明は配線抵抗が低く、配線回路の高密度な形成が可能であり、配線回路と絶縁基板との接合強度に優れ、更には高周波信号の伝送損失を小さくすることができる配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の配線基板は、ガラスセラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板の表面及び内部の少なくとも一方に配設された配線回路とを具備する配線基板であって、前記配線回路は、焼結金属と該焼結金属の両側面に沿って配置された金属箔とが一体化したものからなることを特徴とする。
【0012】
本発明の配線基板の製造方法は、少なくともガラス粉末を含有するグリーンシートを準備する工程と、該グリーンシートの表面に金属箔からなり、中央に貫通部を備えた配線パターンを配置して、該配線パターンと、該配線パターンの貫通部に露出したグリーンシートの表面とで溝部を形成する工程と、前記溝部に導体ペーストを充填する工程と、前記溝部に前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを焼成する工程とを具備することを特徴とする。
【0013】
本発明の配線基板の製造方法は、転写板の表面に、金属箔からなり、中央に貫通部を備えた配線パターンを配置して、該配線パターンと、該配線パターンの貫通部に露出した前記転写板の表面とで溝部を形成する工程と、前記溝部に導体ペーストを充填する工程と、少なくともガラス粉末を含有するグリーンシートを準備する工程と、前記転写板を前記配線パターンが配置された側の面を前記グリーンシートに向けて積層して積層体を作製する工程と、該積層体から前記転写板を除去して、前記溝部に前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを得る工程と、前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを焼成する工程とを具備することを特徴とする。
【0014】
本発明の配線基板の製造方法は、転写板の表面に、金属箔からなり、中央に貫通部を備えた配線パターンを配置して、該配線パターンと、該配線パターンの貫通部に露出した前記転写板の表面とで溝部を形成する工程と、前記溝部に導体ペーストを充填する工程と、少なくともガラス粉末と有機バインダーとを含有するスラリーを準備する工程と、前記スラリーを前記転写板、前記配線パターンおよび前記導体ペーストを覆うように塗布して、前記転写板の表面にグリーンシートを形成する工程と、該グリーンシートから前記転写板を除去して、前記溝部に前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを得る工程と、前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを焼成する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の配線基板は、金属箔の抵抗の低さと焼結金属の絶縁基板との接合強度の高さを併せ持った配線回路を具備するものである。さらに、高周波の信号の伝達においても優れた特性を備えた焼結金属が配線回路を構成しているため、信号の損失も抑制することができる。
【0016】
本発明の配線基板の製造方法によれば、金属箔の内側に形成された溝部に導体ペーストを充填することにより、金属箔が導体ペーストに対して堤防のような役割を果たし、導体ペーストがにじむことを防止することができる。そのため、配線回路間の距離を小さくすることができ、配線回路を高密度に形成することが容易となる。また、導体ペーストのみを用いた場合に比べ、配線回路の幅を小さくすることもできる。
【0017】
金属箔の配置ならびに導体ペーストの充填の手順については、以下の3通りを例示することができる。
【0018】
第1の方法として、グリーンシートの表面に配置された金属箔の内側に形成された溝部に導体ペーストを充填する方法が挙げられる。この方法ではグリーンシートの表面に導体ペーストを直接形成することができるため、グリーンシートの表面に導体ペーストを密着させることが容易になり、焼結金属と絶縁基板との接合強度を高くすることができる。
【0019】
また、第2の方法として、転写板の表面に配置された金属箔の内側に形成された溝部に導体ペーストを充填し、予め準備しておいたグリーンシートに導体ペーストを溝部に充填した金属箔を転写する方法が挙げられる。この方法では、グリーンシートと、導体ペースト溝部に充填した金属箔とをそれぞれ別々の工程で準備することができるため、工程において待ち時間を短縮することができる。
【0020】
また、第3の方法として、転写板の表面に配置された金属箔の内側に形成された溝部に導体ペーストを充填し、さらに、予め準備しておいたグリーンシートとなるスラリーを、導体ペーストを溝部に充填した金属箔を覆うように塗布して、転写板を除去し、金属箔ならびに導体ペーストが形成されたグリーンシートを形成する方法が挙げられる。
【0021】
この方法によれば、金属箔ならびに導体ペーストがグリーンシートに埋設されるため、凹凸の少ない配線基板を容易に作製することができる。
【0022】
なお、いずれの方法においても複数のグリーンシートを積層した後に焼成することで本発明の配線基板を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
例えば、図1(a)に示すように、本発明の配線基板1は、複数のガラスセラミック絶縁層を積層した絶縁基板3と、絶縁基板3の表面および内部に配置された配線回路5とから構成されている。また、ガラスセラミック絶縁層を貫通して配線回路同士を電気的に接続する貫通導体が設けられている。この配線回路5と貫通導体により配線基板1には回路が形成されている。
【0024】
本発明の配線基板1においては、図1(b)に示すように配線回路5が、金属箔5aと焼結金属5bとから構成され、焼結金属5bの両側面に沿って金属箔5aが配置されていることが重要である。この焼結金属5bは上方あるいは下方のいずれかで絶縁基板3と接合されており、配線回路5と絶縁基板3との接合強度の向上に寄与している。
【0025】
この焼結金属5bと金属箔5aとは接合されて一体化していることが重要で、これにより金属箔5aと絶縁基板3との接合強度が低い場合であっても配線回路5と絶縁基板3との接合強度を実用に耐えるように確保することができるとともに、配線回路5に流れる電気が表面電気抵抗の低い焼結金属5bあるいは内部電気抵抗の低い金属箔5aを流れるために、配線回路5の抵抗を低くすることもできる。
【0026】
本発明の配線基板1においては、配線回路5の全てが金属箔5aと焼結金属5bとによって構成される必要はなく、例えば図1(b)に示すように必要に応じて焼結金属5bのみからなる部分があってもよい。特に貫通導体と配線回路5が接続される部分においては、貫通導体と金属箔5aの接合力が、貫通導体と焼結金属5bとの接合力に劣ることを考慮すると両者の間の接合強度を高くするために焼結金属5bのみが貫通導体と接合されるようにすることが望ましい。
【0027】
また、配線回路5の幅や、隣り合う配線回路5同士の距離に応じても配線回路5の構成を変化させてもよい。例えば、隣り合う配線回路5同士の距離が十分に大きい部分においては焼結金属5bのみを用いてもよい。
【0028】
一方、線幅が50μm以下となる微細な部分については、配線回路5を金属箔5aと焼結金属5bとによって構成することが望ましい。
【0029】
また、配線回路5のうち、焼結金属5bが幅方向における割合は、焼結金属5bが20%以上、さらに30%以上、特に50%以上を占めることが、配線回路5と絶縁基板3との接合強度を向上させる観点から望ましい。
【0030】
本発明の配線基板1を構成する絶縁基板3は、配線回路5を形成する金属としてCu、Agなどの低抵抗金属を用いることを可能とするために、1050℃以下の温度域で低温焼成することが可能な、いわゆるガラスセラミックスから構成されている。
【0031】
このような絶縁基板3は、例えば結晶化ガラスまたは、非結晶ガラスとSiOやAl、ZrO等の無機フィラーとを混合して成形したグリーンシートを焼成して得られるもので、従来周知の材料を用いることができる。無機フィラーとしては、他にコランダム(αアルミナ)、フォルステライト、ジルコニア、マグネシアなどが例示できる。また、結晶化ガラスの場合、焼成処理することによって、クォーツ、クリストバライト、コージェライト、ムライト、アノーサイト、セルジアン、スピネル、ガーナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライト等の結晶を析出するものが例示できる。
【0032】
配線回路5に用いる金属の材質は、抵抗が低い金属が好ましく、Cu、Agが好適に用いられる。特に金属箔5aとしてはコスト、加工性の観点からCu箔を用いることが望ましい。また、貫通導体(図示しない)は、上記の配線回路層3と同様の成分からなる導体が充填されていることが望ましい。
【0033】
また、配線基板1の表面に設けられた配線回路5は、ICチップなどの各種電子部品(図示せず)を搭載するためのパッドや、電磁波を遮断するためのシールド用導体膜や、外部回路基板と接続する端子電極として用いられ、各種電子部品4が配線回路層に半田や導電性接着剤などを介して接合される。尚、必要に応じて、配線基板1の表面には、さらに珪化タンタル、珪化モリブデンなどの厚膜抵抗体膜や配線保護膜などを形成しても構わない。
【0034】
次に、本発明の配線基板1を作製する3通りの方法について説明する。まず、いずれの方法も以下に示す方法でグリーンシート、導体ペースト、金属箔5aを作製する。なお、グリーンシートならびに導体ペーストは市販のものを用いてもよいことはいうまでもない。
【0035】
グリーンシートは上述したような結晶化ガラスまたは非結晶ガラスと前記のセラミック成分を混合してガラスセラミック組成物を調製し、その混合物に有機バインダー等を加えてグリーンシートとなるスラリーを作製した後、ドクターブレード法、圧延法、プレス法などによりシート状に成形して作製する。
【0036】
また、配線回路5の焼結金属5bとなる導体ペーストは、Cu粉末またはAg粉末とアクリル樹脂などからなる有機バインダーと、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトンなどの有機溶剤とを均質混合して作製する。用いる有機バインダーは、金属成分100質量部に対して、0.5〜5.0質量部、有機溶剤は、固形成分及び有機バインダー100質量部に対して、5〜100質量部の割合で混合することが望ましい。なお、この導体ペースト中には必要に応じてセラミック粉末やガラス粉末を添加してもよい。
【0037】
また、配線回路5を構成する金属箔5aは以下の手順により形成される。例えば図2(a)に示すように、高分子フィルムや金属板からなる転写板11に厚みが5〜20μmのCu箔からなる金属シート13を接着した後、図2(b)に示すように、この金属シート13の表面を覆うように感光性レジスト15を形成する。次に、図2(c)に示すように、感光性レジスト15で表面を覆った金属シート13に、予め所定のパターンを設けたガラスマスク17を介して光を照射し、感光性レジスト15の光の当たった部分を硬化させる。この光は、例えば感光性レジスト15が紫外線により硬化するものである場合にはUV照射機を用いればよく、例えば100mJ/cm程度の紫外線を露光すればよい。
【0038】
次に、図2(d)に示すように、光硬化した感光性レジスト15に対して1質量%炭酸ナトリウム水溶液をノズル19を用いて吹きつけ、未硬化部分の光硬化性レジスト15を除去し、光硬化した感光性レジスト15のみを金属シート13上に残存させる。
【0039】
次に、図2(e)に示すように、光硬化性レジスト15が除去されて露出した金属シート13に対して、塩化第二鉄液をノズル19を用いて吹きつけ、金属シート13の一部を除去する。
【0040】
さらに、図2(f)に示すように、2質量%水酸化ナトリウム水溶液をノズル19を用いて吹きつけ、硬化した光硬化性レジスト15を除去することで転写板11上に、金属箔5aからなる配線パターン21を形成することができる。
【0041】
この配線パターン21は、配線パターン21と、配線パターン21の貫通部に露出した転写板11aの表面とで溝部23を形成するようにすることが重要である。
【0042】
以上説明した手順により準備したグリーンシートとなるスラリーとグリーンシートと導体ペーストならびに配線パターン21とを用いて、本発明の配線基板1を作製することができる。
【0043】
第1の方法によれば、例えば図3(a)示すように、まず、転写板11の表面に形成した金属箔5aからなる配線パターン21をグリーンシート25に向けて積層し、図3(b)に示すように転写板11のみを除去することで配線パターン21と、配線パターン21の貫通部に露出したグリーンシートの表面11aとで溝部23を形成する。
【0044】
次に、図3(c)に示すように、従来周知の印刷法などを用いて、溝部23に導体ペースト27を充填する。これにより図3(d)に示すように、グリーンシート25の表面に、導体ペースト27の両側面に金属箔5aを沿って配置することができる。
【0045】
さらに、この導体ペースト27および金属箔5aならびにグリーンシート25を焼成することで導体ペースト27が焼結金属5bとなり、焼結金属5bの両側面に金属箔5aが沿って配置された本発明の配線基板1を作製することができるのである。焼成は、例えば400〜750℃で加熱処理してグリーンシート25や導体ペースト27、ビアホール導体の有機成分を分解除去した後で800〜1050℃の温度範囲の窒素雰囲気で行う。また、導体ペースト27および金属箔5aにAgを用いた場合には大気中で焼成することも可能である。
【0046】
なお、この例では絶縁基板を貫通する貫通導体は形成していないが、配線パターン21を形成する前に、レーザ光やマイクロドリル、パンチングなどの従来周知の方法で、グリーンシート25に直径50〜200μmの貫通孔を形成し、この貫通孔に導体ペーストを充填しておくことで容易に貫通導体を有する配線基板1を作製することができるのはいうまでもない。
【0047】
また、このようにして作製した貫通孔に導体ペースト27を充填し、表面に導体ペースト27を充填した配線パターン21を具備するグリーンシート25を複数積層した後に焼成することで、複数の絶縁層が積層された立体的な配線回路を備えた本発明の配線基板1を作製することもできる。
【0048】
第1の方法の利点として、導体ペースト27に溶剤が含まれている状態で導体ペースト27をグリーンシート25に直接接触させるため、導体ペースト27中の溶剤により、グリーンシート25の表面を粗すことができ、配線パターン21と絶縁基板3との接着性を向上させることができることが挙げられる。
【0049】
また、第2の方法によれば、図4(a)に示すように、転写板11の表面に配置された配線パターン21と、配線パターン21の貫通部に露出した転写板の表面11aとで形成された溝部23に、従来周知の印刷法などにより導体ペースト27を充填して、図4(b)に示すように、転写板の表面11aに導体ペースト27の両側面に沿って金属箔5aが配置された配線パターン21を形成し、乾燥した後、図4(c)に示すように、転写板11を配線パターン21が配置された側の面をグリーンシートに向けて積層して積層体を作製し、図4(d)に示すように、配線パターン21がグリーンシート25の表面に残るように転写板11のみを除去することで、第1の方法と同様に、グリーンシートの表面11aに導体ペースト27の両側面に金属箔5aを沿って配置することができる。
【0050】
以降の手順は、第1の方法と同様の手順で、本発明の配線基板1を作製することができる。
【0051】
第2の方法の利点として、転写板11上に配線パターン21を形成し、導体ペースト27の溶剤を乾燥させた後、グリーンシート25に転写するため、溶剤によってグリーンシート25の表面を粗すことがなく、焼成後に焼結金属と絶縁基板との接触面が平滑となり、高周波信号の伝送損失をより小さくすることができることが挙げられる。
【0052】
また、第3の方法によれば、第2の方法における図4(b)までと同様の手順で、図5(a)に示すように転写板11の表面に導体ペースト27の両側面に沿って金属箔5aが配置された配線パターン21を形成した後、図5(b)に示すように、乾燥後にグリーンシート25となるスラリーを転写板11および配線パターン21ならびに導体ペースト27を覆うように塗布して、転写板11の表面にグリーンシート25を形成し、図5(c)に示すように、グリーンシート25に配線パターン21ならびに導体ペースト27が残るように転写板11のみを除去することで、グリーンシート25に導体ペースト27の両側面に金属箔5aを沿って配置することができる。
【0053】
第3の方法の場合には、特に圧力を印可することなく、グリーンシート25に金属箔5aならびに導体ペースト27を埋設させることができるため、平坦な配線基板1を容易に作製することができる。
【0054】
ところで、貫通導体については、第3の方法は、第1および第2の方法とは異なり、予めグリーンシート25に貫通導体を充填することはできないため、図5(d)に示すように、配線パターン21を形成した後でグリーンシート25の所定の位置に例えばレーザ光などを用いて孔29をあけ、図5(e)に示すようにこの孔に導体ペーストを充填することで貫通導体を作製することができる。
【0055】
以降の手順については、第1および第2の方法と同様の手順で、積層、焼成するなどして本発明の配線基板1を作製することができる。
【実施例1】
【0056】
まず、セラミック粉末100質量部と、有機バインダー(イソブチルメタクリレート)15質量部と、トルエン70質量部とを、ボールミルで24時間混練してセラミックスラリーを作製した。なお、セラミック粉末としては、無機フィラーとして平均粒径が2μmのSiOと、平均粒径が2μmの非結晶性のホウ珪酸ガラスとをそれぞれ50質量%混合したものを用いた。ガラスは組成がSiO:40質量%、B:10質量%、BaO:40質量%、Al:5質量%、CaO:5質量%のものを用いた。
【0057】
次に、厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる樹脂フィルム上に、セラミックスラリーをドクターブレード法により塗布乾燥し、乾燥後の厚みが、100μmとなるようにグリーンシートを形成し、200mm×200mmの大きさに切断した。
【0058】
まず、厚みが100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる樹脂フィルム転写板に厚みが15μmのCu箔を接着したものを準備し、このCu箔の全面に感光性レジストを塗布した。次に所望のパターンを形成したガラスマスクを介して、UV照射機により、100mJ/cmの光を感光性レジストに露光した後、1質量%炭酸ナトリウム水溶液により露光しなかった部分の感光性レジストを除去し、さらに塩化第二鉄液により感光性レジストが除去されて露出したCu箔をエッチング処理した。
【0059】
更に、硬化してCu箔上に残存したレジストを2質量%の水酸化ナトリウム水溶液により除去して配線パターンを形成した。なお、この配線パターンは金属箔に貫通部を設け、金属箔の貫通部に露出した樹脂フィルムと、金属箔とで溝部を形成するようにした。
【0060】
次に、配線パターンが形成された転写シートをグリーンシートの表面に位置合わせして積層圧着し、グリーンシートの表面に配線パターンが残るように転写シートのみを剥離して、配線パターンを備えたグリーンシートを形成した。
【0061】
次に、平均粒径が2μmのCu又はAg粉末98質量%に、セラミック粉末に添加したものと同様のホウ珪酸ガラス粉末を2質量%添加した混合粉末100質量部に対して、エチルセルロースを5質量部と、有機溶剤として2・2・4−トリメチル−3・3−ペンタジオールモノイソブチレートを加え3本ロールミルで混合し、2種類の導体ペーストを作製した。
【0062】
次に得られた導体ペーストを、印刷法により、配線パターンとグリーンシートにより形成された溝部に充填した。
【0063】
以上説明した工程により、電気抵抗評価サンプルと、メタライズの接着強度評価サンプルと、高周波信号の伝送評価サンプルとを作製した。
【0064】
電気抵抗評価サンプルは、表1に示す構造の長さが10mmで厚みが15μmの直線の配線回路を40μmの間隔で10本、20mm角の絶縁基板上に形成して作製した。なお、この配線回路の両端には直径が100μmの接続パッドを設けた。また、この接続パッドの周囲には金属箔がない構造とした。
【0065】
メタライズの接着強度評価サンプルは、2mm□のパッドを3mmピッチで10個形成したものを評価サンプルとした。この2mm□のパッドは、焼成後の幅20μmの金属箔の隣り合う金属箔同士の間隔を表2に示す通り変化させたものである。なお、金属箔およびグリーンシートにより形成された溝部に導体ペーストを充填したため、金属箔間には焼結金属が充填された構造となっている。なお、金属箔は幅が20μmの直線状のものを表2に示す間隔で平行に配置した。
【0066】
また、高周波信号の伝送評価サンプルは、表3に示す構造で、焼成後の厚さが15μm、長さが30mm、幅が200μmになる直線の配線回路を、焼成後の厚みが100μmの絶縁層で上下からはさみ、この絶縁層の全面に焼結金属からなるグランド層を設けストリップラインを形成して作製した。
【0067】
なお、これらのサンプルはN雰囲気中で700℃、1時間の条件で脱有機バインダー処理した後、N雰囲気中で900℃、1時間の条件で焼成を行って作製した。
【実施例2】
【0068】
実施例2においては、実施例1と同様のグリーンシートおよび導体ペーストならびに配線パターンを備えた樹脂フィルム転写板を準備した。
【0069】
まず、配線パターンを備えた樹脂フィルム転写板の金属箔と樹脂フィルム転写板で形成された溝部に、印刷法により導体ペーストを充填した後、乾燥させて、樹脂フィルム転写板上に導体ペーストの両側面に沿って金属箔が配置された配線パターンを作製した。
【0070】
次に、この配線パターンをグリーンシートに向けて積層し、70℃、20MPaの圧力で加圧した後、樹脂フィルム転写板のみを剥離して、グリーンシートの表面に導体ペーストの両側面に沿って金属箔が配置された配線パターンを形成した。
【0071】
以下、実施例1と同様にして電気抵抗評価サンプルと、メタライズの接着強度評価サンプルと、高周波信号の伝送評価サンプルとを作製した。なお、それぞれのサンプルの構造はそれぞれ、表1〜3に記載したとおりである。
【実施例3】
【0072】
実施例3においては、実施例1、2と同様の導体ペーストおよび配線パターンを備えた樹脂フィルム転写板を準備した。また、実施例1、2におけるグリーンシートとなるスラリーを用いた。
【0073】
まず、配線パターンを備えた樹脂フィルム転写板の金属箔と、樹脂フィルム転写板により形成された溝部に導体ペーストを印刷法により充填した後、乾燥させた。次に、この樹脂フィルム転写板および金属箔ならびに乾燥させた導体ペーストを覆うようにグリーンシートとなるスラリーを塗布し、乾燥させてグリーンシートとなるスラリーをグリーンシートとしたのち、配線パターンおよび導体ペーストがグリーンシートの表面に残るように樹脂フィルム転写板のみを剥離して、グリーンシートの表面に導体ペーストの両側面に沿って金属箔が配置された配線パターンを形成した。
【0074】
以下、実施例1、2と同様にして電気抵抗評価サンプルと、メタライズの接着強度評価サンプルと、高周波信号の伝送評価サンプルとを作製した。なお、それぞれのサンプルの構造はそれぞれ、表1〜3に記載したとおりである。
【0075】
(比較例1)
比較例として配線回路の全てを導体ペーストで形成したものとして表1の試料No.25、表2の試料No.49、表3の試料No.64を作製した。また、配線回路の全てを金属箔で形成したものとして表1の試料No.26、27、表2の試料No.50、51、表3の試料No.65、66を作製した。これらは電気抵抗評価サンプルと、メタライズの接着強度評価サンプルと、高周波信号の伝送評価サンプルである。なお、導体ペーストおよび金属箔の素材は実施例と同じものを用いた。
【0076】
配線回路の全てを導体ペーストで形成したものは、グリーンシートの表面に導体ペーストを印刷して乾燥させた後、表1〜3に示す寸法のサンプルとした。
【0077】
また、配線回路の全てをCu箔で形成したものは、樹脂フィルム上のCu箔をレジスト、エッチングにより加工した後、Cu箔からなる配線パターンをセラミックグリーンシートに向けて、積層し、樹脂フィルムのみを除去し、表1〜3に示す寸法のサンプルとした。
【0078】
(比較例2)
また、他の比較例とて配線回路の全てを導体ペーストで形成したものとして、表1の試料No.28、表2の試料No.52、表3の試料No.67を作製した。また、配線回路の全てを金属箔で形成したものとして表1の試料No.29、30、表2の試料No.53、54、表3の試料No.68、69を作製した。これらは電気抵抗評価サンプルと、メタライズの接着強度評価サンプルと、高周波信号の伝送評価サンプルである。なお、導体ペーストおよび金属箔の素材は実施例と同じものを用いた。
【0079】
配線回路の全てを導体ペーストで形成したものは、導体ペーストを樹脂フィルムの表面に印刷して乾燥させた後、実施例3の要領で樹脂フィルムと導体ペーストとを覆うように実施例3で用いたセラミックグリーンシートとなるスラリーを塗布したのち、乾燥させ、樹脂フィルムのみを剥離して、表1〜3に示す寸法のサンプルとした。
【0080】
また、配線回路の全てをCu箔で形成したものは、樹脂フィルム上のCu箔をレジスト、エッチングにより配線パターンに加工した後、実施例3の要領で樹脂フィルムとCu箔とを覆うように実施例3で用いたセラミックグリーンシートとなるスラリーを塗布したのち、乾燥させ、樹脂フィルムのみを剥離して、表1〜3に示す寸法のサンプルとした。
【0081】
以上、説明した実施例1〜3および比較例1、2で作製したサンプルについて、配線回路の電気抵抗、配線回路間のショート、配線回路の断線、配線回路と絶縁基板との接着強度、高周波における配線回路の伝送損失を以下の要領で測定した。
【0082】
(配線回路の電気抵抗、配線回路間のショート、配線回路の断線)
得られたセラミック配線基板の配線抵抗をテスタ−もちいて測定し、銅配線層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)、銅配線の長さを40倍の顕微鏡を用いて測定し、得られた面積、長さから抵抗率を算出した。尚、良否の判断としては、抵抗率が2.5μΩ・cm以下を良品とした。また、得られたセラミック配線基板は、配線回路層表面を20倍の光学顕微鏡で観察し、ショート、断線の発生が無いか確認した。ショート、断線が発生しているものをNGとした。
【0083】
(配線回路と絶縁基板との接着強度)
評価は2mm□のパターン部をφ0.4mmの錫めっき銅線を半田を用いて接着し、銅線の端部を10mm/秒の速度で引っ張り、パターン部が剥離するまでの荷重をロードセルにて測定した。荷重が2kgf以上を良品とした。
【0084】
(高周波における配線回路の伝送損失)
得られたストリップ線路からなる高周波配線回路層を含む配線基板について、60GHzでの伝送特性の評価として透過損失であるS21をネットワークアナライザーで測定した。
【表1】

【表2】

【表3】

【0085】
表1〜3に示すように、本発明のサンプルはいずれも配線回路の断線も、配線回路間のショートもなく、接着強度ならびに高周波における電気特性に優れたものが得られた。
【0086】
一方、比較例においては上記の評価項目の全てを満足するものはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】(a)は、本発明の配線基板の斜視図であり、(b)は、本発明の配線基板における配線回路の要部拡大図である。
【図2】本発明の配線基板の製造方法を説明する断面図である。
【図3】本発明の配線基板の製造方法を説明する断面図である。
【図4】本発明の配線基板の製造方法を説明する断面図である。
【図5】本発明の配線基板の製造方法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・配線基板
3・・・絶縁基板
5・・・配線回路
5a・・・金属箔
5b・・・焼結金属
11・・・転写板
11a・・・溝部に露出した転写板の表面
21・・・配線パターン
23・・・溝部
25・・・グリーンシート
25a・・・溝部に露出したグリーンシートの表面
27・・・導体ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板の表面及び内部の少なくとも一方に配設された配線回路とを具備する配線基板であって、前記配線回路は、焼結金属と該焼結金属の両側面に沿って配置された金属箔とが一体化したものからなることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
少なくともガラス粉末を含有するグリーンシートを準備する工程と、該グリーンシートの表面に金属箔からなり、中央に貫通部を備えた配線パターンを配置して、該配線パターンと、該配線パターンの貫通部に露出したグリーンシートの表面とで溝部を形成する工程と、前記溝部に導体ペーストを充填する工程と、前記溝部に前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを焼成する工程とを具備することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項3】
転写板の表面に、金属箔からなり、中央に貫通部を備えた配線パターンを配置して、該配線パターンと、該配線パターンの貫通部に露出した前記転写板の表面とで溝部を形成する工程と、前記溝部に導体ペーストを充填する工程と、少なくともガラス粉末を含有するグリーンシートを準備する工程と、前記転写板を前記配線パターンが配置された側の面を前記グリーンシートに向けて積層して積層体を作製する工程と、該積層体から前記転写板を除去して、前記溝部に前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを得る工程と、前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを焼成する工程とを具備することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項4】
転写板の表面に、金属箔からなり、中央に貫通部を備えた配線パターンを配置して、該配線パターンと、該配線パターンの貫通部に露出した前記転写板の表面とで溝部を形成する工程と、前記溝部に導体ペーストを充填する工程と、少なくともガラス粉末と有機バインダーとを含有するスラリーを準備する工程と、前記スラリーを前記転写板、前記配線パターンおよび前記導体ペーストを覆うように塗布して、前記転写板の表面にグリーンシートを形成する工程と、該グリーンシートから前記転写板を除去して、前記溝部に前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを得る工程と、前記導体ペーストを充填した前記配線パターンを備えた前記グリーンシートを焼成する工程とを具備することを特徴とする配線基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−60131(P2008−60131A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232017(P2006−232017)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】