説明

配線基板

【課題】上下の帯状配線導体間でズレが発生したとしても両者間の電磁結合を一定に保つことが可能であるとともに、それぞれの帯状配線導体における特性インピーダンスが大きく異なることがなく、両者間に差動信号を良好に伝送させることが可能な配線基板を提供すること。
【解決手段】互いにペアをなすように対向して配置された第1の帯状配線導体4および第2の帯状配線導体5と、これらに対向する第1の接地または電源用導体層6および第2の接地または電源用導体層7とを有し、第1の帯状配線導体4は、第2の帯状配線導体5より広い幅で形成されているとともに、第1の接地または電源用導体層6は、第1の帯状配線導体4との電磁結合を第2の接地または電源用導体7と第2の帯状配線導体5との電磁結合と同等とする細長いスリット6aが第1の帯状配線導体4と対向する位置に形成されている配線基板10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層を挟んで互いにペアをなすように対向して配置された一対の帯状配線導体およびこれらの帯状配線導体の一方にそれぞれ絶縁層を挟んで電磁的に結合するように配設された接地または電源用導体層を有する配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配線基板において、高周波信号を効率良く伝送する構造として、差動線路が知られている。この差動線路は、信号を伝送するための2本の帯状配線導体をペアとして互いに電磁的に結合するように並設し、この2本の帯状配線導体間に差動信号を伝送させるようになしたものである。複数の絶縁層と配線導体層とが交互に積層されて成る多層配線基板中にこのような差動線路を形成する場合、同じ絶縁層間に2本の帯状配線導体を所定間隔で互いに隣接するように横に並べて配設する方法と、異なる絶縁層間に2本の帯状配線導体を互いに上下に対向するように配設する方法とがある。いずれの方法においても、ペアをなす2本の帯状配線導体の上下に絶縁層を介して接地または電源用導体層が配設される。
【0003】
ところで、異なる絶縁層間に2本の帯状配線導体を互いに上下に対向するように設ける場合、製造上のばらつきにより上下の帯状配線導体間でその形成位置に数十μmのズレが生じることがある。このようなズレが生じると、ペアをなす帯状配線導体間の対向面積が変化するので両者間の電磁結合がばらついてしまう。そこで、ペアをなす帯状配線導体の一方を他方よりも広い幅で形成し、上下の帯状配線導体間でズレが発生したとしても、両者間の対向面積が変化しないようにし、それにより両者間の電磁結合を一定に保つ方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、ペアをなす2本の帯状配線導体のうちの一方を他方よりも広い幅とした場合、幅の広い側の帯状配線導体とこれと電磁的に結合する接地または電源用導体層との間の容量成分が大きくなる結果、幅の広い側の帯状配線導体の特性インピーダンスが幅の狭い側の帯状配線導体の特性インピーダンスよりも低くなってしまう。ペアをなす2本の帯状配線導体において、それぞれの特性インピーダンスが互いに大きく異なると、両者間に差動信号を良好に伝送させることが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−207949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、異なる絶縁層間に差動線路のペアをなす2本の帯状配線導体を互いに上下に対向するように設けた場合に、上下の帯状配線導体間でズレが発生したとしても両者間の電磁結合を一定に保つことが可能であるとともに、それぞれの帯状配線導体における特性インピーダンスが大きく異なることがなく、両者間に差動信号を良好に伝送させることが可能な配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配線基板は、第1の絶縁層と、該第1の絶縁層の一方の主面に積層された第2の絶縁層と、前記第1の絶縁層の他方の主面に積層された第3の絶縁層と、前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に延在する第1の帯状配線導体と、前記第1の絶縁層と前記第3の絶縁層との間に延在し、前記第1の帯状配線導体とペアをなすように該第1の帯状配線導体に対向して配置された第2の帯状配線導体と、前記第2の絶縁層における前記第1の絶縁層と反対側の主面に、前記第1の帯状配線導体と電磁的に結合するように配設された第1の接地または電源用導体層と、前記第3の絶縁層における前記第1の絶縁層と反対側の主面に、前記第2の帯状配線導体と電磁的に結合するように配設された第2の接地または電源用導体層とを具備してなる配線基板において、前記第1の帯状配線導体は、前記第2の帯状配線導体より広い幅で形成されているとともに、前記第1の接地または電源用導体層は、前記第1の帯状配線導体との電磁結合を前記第2の接地または電源用導体と前記第2の帯状配線導体との電磁結合と同等とする細長いスリットが前記第1の帯状配線導体と対向する位置に該第1の帯状配線導体よりも狭い幅で形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の配線基板によれば、互いにペアをなすように対向して配置された第1の帯状配線導体と第2の帯状配線導体において、第1の帯状配線導体が第2の帯状配線導体よりも広い幅で形成されていることから、第1の帯状配線導体と第2の帯状配線導体の形成位置に製造上のズレが生じたとしても、第1の帯状配線導体と第2の帯状配線導体との間の電磁結合が大きくばらつくことはない。また、第1の帯状配線導体と電磁的に結合する第1の接地または電源用導体層における第1の帯状配線導体と対向する位置に、第1の接地または電源用導体層と第1の帯状配線導体層との電磁結合を、第2の接地または電源用導体層とこれに電磁的に結合する第2の帯状配線導体との電磁結合と同等にするためのスリットが第1の配線導体よりも狭い幅で形成されていることから、第1の帯状配線導体における特性インピーダンスと第2の帯状配線導体における特性インピーダンスとを同等にすることができる。したがって、互いにペアをなす第1の帯状配線導体と第2の帯状配線導体との間で伝送される差動信号を極めて良好に伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の配線基板の実施形態の一例を示す要部概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示す配線基板において製造上のズレが生じた場合を示す要部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の配線基板の実施形態の一例につき、添付の図面を参照して説明する。図1に示すように、本例の配線基板10は、第1の絶縁層1と、この第1の絶縁層1の一方の主面に積層された第2の絶縁層2と、第1の絶縁層1の他方の主面に積層された第3の絶縁層3とを少なくとも備えている。これらの絶縁層1,2,3は、例えばガラスクロスから成る繊維基材にアリル変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含浸させて成る樹脂系の絶縁材料から形成されており、それぞれの比誘電率が例えば3.8、ぞれぞれの厚みが例えば100μmである。
【0011】
第1の絶縁層1と第2の絶縁層2との間には、差動線路を形成するための第1の帯状配線導体4が図の手前側から奥行き方向に延在するようにして配設されており、第1の絶縁層1と第3の絶縁層3との間には、差動線路を形成するための第2の帯状配線導体5が第1の帯状配線導体4と対向して延在するように配設されている。これらの第1の帯状配線導体4と第2の帯状配線導体5とは互いにペアをなし、第1の絶縁層1を挟んで対向することにより互いに電磁的に結合されて差動線路を形成する。
【0012】
また、第2の絶縁層2における第1の絶縁層1と反対側の主面には、第1の接地または電源用導体層6が配設されており、第3の絶縁層3における第1の絶縁層1と反対側の主面には、第2の接地または電源用導体層7が配設されている。さらにこの例においては、第1の絶縁層1と第2の絶縁層2との間に第1の帯状配線導体4を所定の間隔で取り囲む第3の接地または電源用導体層8が配設されており、第1の絶縁層1と第3の絶縁層3との間に第2の帯状配線導体5を所定の間隔で取り囲む第4の接地または電源用導体層9が配設されている。第1の接地または電源用導体層6および第3の接地または電源用導体層8は、主として第1の帯状配線導体4と電磁的に結合することにより第1の帯状配線導体4の特性インピーダンスを例えば100Ωに調整するとともに第1の帯状配線導体4および第2の帯状配線導体5を外部や隣接する他の配線導体から電磁的にシールドする作用をなす。同様に、第2の接地または電源用導体層7および第4の接地または電源用導体層9は、主として第2の帯状配線導体5と電磁的に結合することにより第2の帯状配線導体5の特性インピーダンスを例えば100Ωに調整するとともに第1の帯状配線導体4および第2の帯状配線導体5を外部や隣接する他の配線導体から電磁的にシールドする作用をなす。なお、これらの第1の帯状配線導体4、第2の帯状配線導体5、第1の接地または電源用導体層6、第2の接地または電源用導体層7、第3の接地または電源用導体層8および第4の接地または電源用導体層9は、例えば銅箔から成り、それぞれの厚みは例えば11μmである。
【0013】
そして本例においては、第1の帯状配線導体4の幅が第2の帯状配線導体5の幅よりも広くなっている。第2の帯状配線導体5の幅が例えば50μmである場合、第1の帯状配線導体4の幅は、例えば86μmである。このように、第1の帯状配線導体4の幅が第2の帯状配線導体5の幅よりも広くなっていることから、図2に示すように、第1の帯状配線導体4と第2の帯状配線導体5との形成位置に製造上のズレが多少生じたとしても、第1の帯状配線導体4と第2の帯状配線導体5との対向面積が大きく変わることはなく、その結果、両者間の電磁結合が大きくばらつくこともない。さらに本例においては、第1の接地または電源用導体層6における第1の帯状配線導体4と対向する位置に、第1の帯状配線導体4よりも狭い幅のスリット6aが設けられている。このスリット6aは、幅が例えば50μmであり、このようなスリット6aを設けることにより、幅の広い第1の帯状配線導体4と第1の接地または電源用導体層6との間の電磁的な結合を下げることができる。したがって、それにより第1の接地または電源用導体層6と第1の帯状配線導体4との電磁結合を第2の接地または電源用導体層7と第2の帯状配線導体5との電磁結合と同等として、第1の帯状配線導体4における特性インピーダンスと第2の帯状配線導体5における特性インピーダンスとを同等にすることができる。したがって、本例の配線基板によれば、互いにペアをなす第1の帯状配線導体4と第2の帯状配線導体5との間で伝送される差動信号を極めて良好に伝送することが可能となる。
【0014】
なお、本発明は上述した実施形態の一例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能であり、上述の実施形態の一例の場合と異なる材質や異なる寸法を適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0015】
1 第1の絶縁層
2 第2の絶縁層
3 第3の絶縁層
4 第1の帯状配線導体
5 第2の帯状配線導体
6 第1の接地または電源用導体層
6a スリット
7 第2の接地または電源用導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁層と、該第1の絶縁層の一方の主面に積層された第2の絶縁層と、前記第1の絶縁層の他方の主面に積層された第3の絶縁層と、前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に延在する第1の帯状配線導体と、前記第1の絶縁層と前記第3の絶縁層との間に延在し、前記第1の帯状配線導体とペアをなすように該第1の帯状配線導体に対向して配置された第2の帯状配線導体と、前記第2の絶縁層における前記第1の絶縁層と反対側の主面に、前記第1の帯状配線導体と電磁的に結合するように配設された第1の接地または電源用導体層と、前記第3の絶縁層における前記第1の絶縁層と反対側の主面に、前記第2の帯状配線導体と電磁的に結合するように配設された第2の接地または電源用導体層とを具備してなる配線基板において、前記第1の帯状配線導体は、前記第2の帯状配線導体より広い幅で形成されているとともに、前記第1の接地または電源用導体層は、前記第1の帯状配線導体との電磁結合を前記第2の接地または電源用導体と前記第2の帯状配線導体との電磁結合と同等とする細長いスリットが前記第1の帯状配線導体と対向する位置に該第1の帯状配線導体よりも狭い幅で形成されていることを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−114263(P2011−114263A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271341(P2009−271341)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(304024898)京セラSLCテクノロジー株式会社 (213)
【Fターム(参考)】