配電線の無効電力調整システム及び無効電力調整方法
【課題】 配電線の無効電力需要を把握し、その末端の低圧負荷機器についての調相制御により該配電線全体の無効電力を低減する配電線の無効電力調整技術を提供する。
【解決手段】 無効電力及び力率を求めるために配電線に設置される計測手段と、該配電線に配置された各配電変圧器を介してその負荷側の低圧配電線の末端に接続される複数の低圧負荷機器にそれぞれ設けられる力率調整手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて定期的に求めた無効電力が所定の範囲を外れている場合に制御指令信号を発する制御装置と、前記計測手段および前記各力率調整手段と前記制御装置との間で信号の授受を可能にする通信手段とを備え、前記各力率調整手段は前記制御指令信号の入力を受けることで当該配電変圧器ごとに順次作動されて調相制御が実施され、前記配電線の無効電力を消費、低減するように構成された配電線の無効電力調整システム、およびこれを用いた調整方法。
【解決手段】 無効電力及び力率を求めるために配電線に設置される計測手段と、該配電線に配置された各配電変圧器を介してその負荷側の低圧配電線の末端に接続される複数の低圧負荷機器にそれぞれ設けられる力率調整手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて定期的に求めた無効電力が所定の範囲を外れている場合に制御指令信号を発する制御装置と、前記計測手段および前記各力率調整手段と前記制御装置との間で信号の授受を可能にする通信手段とを備え、前記各力率調整手段は前記制御指令信号の入力を受けることで当該配電変圧器ごとに順次作動されて調相制御が実施され、前記配電線の無効電力を消費、低減するように構成された配電線の無効電力調整システム、およびこれを用いた調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線全体の無効電力をその末端に接続される低圧負荷機器の調相制御を実施することで、安価かつ簡単に、しかも効率的に吸収できる配電線の無効電力調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各地の発電所から送電線および配電用変電所を経て、配電線により電力需要家への配電が行われている。配電線には、所定の区間ごとに配電変圧器(架空配電線の場合、柱上変圧器と呼ばれることもある。)が配置され、当該配電変圧器およびその負荷側の低圧配電線を介して1又は複数の区域に配電されている。各区域では、一般家庭などのいわゆる小口の電力需要家は、それぞれ分岐線からさらに分岐された引込線の引き込みを受けて受電し、家電製品などの各種の低圧負荷機器に分電している。他方、大口(大規模)電力需要家は、構内に自家用受電設備を設けて配電線から直接、高圧又は特別高圧にて受電し、構内で降圧、分電し、低圧負荷機器に給電している。
【0003】
このような低圧負荷機器は、一般に電動機や軽負荷変圧器などを含んでいるので、稼働時にはこれらのインダクタンス分により遅れ力率となり無効電力需要が増加する。そのため、電源側の変電所などから配電線を通じて低力率の大電流が送られ、過大な電圧降下と電力損失とを生じることになる。この遅れ無効電力を低減すべく、電力会社各社などの一般電気事業者は、自社の進相コンデンサや分路リアクトルなどの調相設備を稼働させることで日々の無効電力の調整を行っている。また、現行の電気料金制度における割引などの優遇措置により、電力需要家において進相コンデンサを設置するなどして受電点での力率改善を図っている。さらに、家電メーカーなども自社のモータなどを含む家電製品の電源回路に力率改善用として進相コンデンサを常時投入状態に設置し、運転時には高い力率を示すようになってきている。
【0004】
一方、近年、連休や夜間などの軽負荷時に進み無効電力需要が増加傾向を見せている。この傾向は、主に家電製品などの低圧負荷機器に力率改善用コンデンサが浸透したことの影響およびケーブル設備の増加に起因すると考えられている。一般電気事業者は、このような進み無効電力が増加する期間や時間帯に自社が所有する分路リアクトル、発電機、同期調相機などの調相設備を稼働させることによって無効電力需要の増加に対応しようとしているが、結果的には日々の無効電力を十分に調整できない事態も生じている。このように無効電力の調整が困難な場合には、一般電気事業者の要請に応じて、電力需要家サイドにて投入開放操作の可能な力率改善用コンデンサ設備を夜間や連休に開放するなどしているケースもある。
【0005】
配電線における無効電力の調整については、今日まで幾つかの提案がなされている(例えば特許文献1〜3参照)。これらの特許文献における提案は、端的にいえば、いずれも配電線の電気機器の構成などを包括的に把握したうえで、配電線全体の無効電力需要を監視しながら、その電源側に設置された上位の調相設備を必要に応じて作動させて配電線全体の無効電力の低減を図ろうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−252924号公報
【特許文献2】特開2002−159184号公報
【特許文献3】特開2004−180402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの提案では、大型の調相設備を採用して大規模な無効電力調整を行うため、進相コンデンサ設備や分路リアクトル設備だけでなく、遮断器の設置も必要となり、これらの設置コストは非常に過大となる反面、無効電力の過調整の問題や配電線におけるロスが大きくなる問題が生じる。また、特に特許文献2の提案に係る無効電力調整システムでは、通信網構築のための設備費や通信コストが多大となる問題がある。このように、現状は、各配電線の末端の低圧負荷機器に至る細かな無効電力管理は実施されておらず、また小規模電力需要家の自家用電気設備における無効電力需要の活用やその調整能力などに関しても注目されていない。
【0008】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであり、配電線の需要端における家電機器などの低圧負荷機器について低圧側で調相制御を行うことで、安価かつ簡単に、また効率的に当該配電線の無効電力を吸収可能な配電線の無効電力調整システム及び無効電力調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的は、本発明の一局面によれば、無効電力及び力率を求めるために配電線の所定位置に設置される計測手段と、当該配電線に配置された各配電変圧器を介してその負荷側の低圧配電線の末端に接続される複数の低圧負荷機器の全部または一部にそれぞれ設けられる力率調整手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて定期的に求めた無効電力が所定の範囲を外れている場合に制御指令信号を発する制御装置と、前記計測手段および前記各力率調整手段と前記制御装置との間で信号の授受を可能にする通信手段とを備え、前記制御指令信号の入力を受けて当該配電変圧器ごとに前記各力率調整手段を作動させる調相制御が前記配電線に沿って順次実施され、前記配電線の無効電力を消費、低減するように構成されてなることを特徴とする配電線の無効電力調整システムによって達成される。
【0010】
前記目的はまた、本発明の別の局面によれば、配電線に配置された個々の配電変圧器に接続されている複数の低圧負荷機器にそれぞれ力率調整手段を設けておき、当該配電線の力率及び無効電力を定期的に把握し、所定範囲を超える進みまたは遅れ無効電力を検出したときは前記配電変圧器ごと前記力率調整手段を作動させる調相制御を前記配電線に沿って順次実施し、前記配電線の無効電力を消費、低減するようにしたことを特徴とする配電線の無効電力調整方法によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無効電力調整システムは、高圧配電線においてではなく、低圧配電線末端において個々の電力需要家が所有する家電機器などの低圧負荷機器の力率調整を実施することとしたので、本来低圧負荷機器が持っている無効電力需要を有効活用することが可能となる。そのため、特別に大型設備を導入することなく、配電線の線路損失とともに、高周波の吸収率も高く高調波に起因する焼損事故低減でき、CO2の削減にも貢献できる。また、本発明の無効電力調整システムは、既設の設備および低圧負荷機器を改良することにより安価かつ簡単に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の配電線無効電力調整システムの実施形態の一例を示す図である。
【図2】無効電力認定機器の稼働パターンおよび無効電力出力タイプの一例を示す図である。
【図3】一般的なインバータ装置への力率調整手段の接続状態を模式的に示す図である。
【図4】力率調整手段を備えた一般的なインバータ装置の回路図を示す図である。
【図5】インバータ装置を有しない低圧負荷の場合の力率調整手段の接続状態を示す図である。
【図6】本発明における制御装置の機器構成を示すブロック図の一例である。
【図7】本発明における調相制御の制御フロー図である。
【図8】図7中、遅れ制御(1)の制御フロー図である。
【図9】図7中、高力率戻し制御(2)の制御フロー図である。
【図10】図7中、進み制御(3)の制御フロー図である。
【図11】図7中、高力率戻し方向(4)の制御フロー図である。
【図12】本発明の調相制御の配電線に沿った制御方向を説明するための図である。
【図13】一般的な配電線の無効電力需要に対して本発明における調相制御例を説明するための図である。
【図14】一般的な配電線の無効電力需要に対して本発明における好適な調相制御例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の配電線無効電力調整システムの実施形態の一例を示している。この図において、本発明の配電線の無効電力調整システム(以下、単に「システム」という。)1は、配電線11の所定位置に設置された電圧計測手段13および16並びに電流計測手段14と、前記各計測手段からの計測結果を取得し、所定の演算処理を行い、低圧負荷機器の一部に設けられた力率調整手段に対して通信手段を介して制御指令信号を発する制御装置30とを有している。本実施形態のシステム1は、配電用変電所における母線10から遮断器12を介して各電力需要家に電力を分配して給電する配電線11の無効電力調整に適用しているが、この配電線にはその中間または末端から分岐される分岐線を含めることができる。本発明のシステム1は、さらに配電用変電所における変圧器(複数の変圧器が設置されている場合には、バンクごと)の2次側から母線までを含む配電系統全体に適用することもできる。
【0014】
配電線11には、所定の区間ごとに配電変圧器15、17、19、21、23、25、・・・が配置され、当該各配電変圧器の2次側に設けられた低圧配電線(不図示)によってそれぞれ1又は複数の区域(不図示)に向けて配電されている。各区域では、低圧配電線から引込線を介して各電力需要家(一般家庭など)が受電し、さらに例えば家電製品などの複数の低圧負荷機器(図1では、配電変圧器17からの低圧配電線に接続される低圧負荷機器L1、L2、L3、・・・のみ図示し、その他の配電変圧器の負荷側は図示を省略している。)に分電している。
【0015】
本実施形態おける計測手段13および14は、それぞれ計器用変圧器及び変流器であり、ともに配電線11の母線寄りに設置されている。計器用変圧器13は母線10からの送出電圧V1を計測し、変流器14は配電線11を流れる負荷電流Iを計測している。また、計測手段16は、計器用変圧器であり、配電線11において適宜選定された配電変圧器(図中では符号15)の設置位置における電圧V2を計測している。これら各計測手段の2次側出力信号はそれぞれ信号線13a、14aおよび16aを介して制御装置30に入力されている。なお、図1に示す実施形態では、前記のように計測手段13、14および16として計器用変圧器及び変流器を用いるが、これらに限定されず、力率及び無効電力を計測するのに通常用いられる力率計、無効電力量計その他の計測手段なども用いることができる。なお、以下では、前記の計器用変圧器や変流器について、計測手段に付した符号(13、14、16)と同じ符号を付することとする。
【0016】
[低圧負荷機器]
本発明における低圧負荷機器としては、主には一般家庭で使用されるテレビ、オーディオ機器、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電機器やパソコンなどのOA機器のほか、高圧で受電していない電力需要家または高圧で受電していても進相コンデンサ設備を有していない電力需要家などにおける低圧負荷機器など(工作機械や印刷工場における印刷機械など)が挙げられる。
【0017】
このような低圧負荷機器は、その稼働時間帯により幾つかのパターン(以下、「稼働パターン」という。)に分類できる。例えば、一般家庭やオフィスなどにおける家電機器やOA機器、工場における工作機械などは昼間に運転され、最近普及の進んでいる自然冷媒ヒートポンプ給湯機などの蓄熱装置は夜間に運転されるのが通常である。また、昼間に運転される低圧負荷機器のうち、例えばエアコンなどのように必要に応じて不定期に運転されるものもある。それに対して、冷蔵庫などの一部の家電機器は、常時(24時間)運転される。ここで、昼間とは、午前8時から午後11時までの時間帯、夜間とはそれ以外の時間帯を表しており、電気料金算定などにおける稼働時間帯の区分と同等である。この稼働時間帯としてはまた、例えば一般的な配電線の日間の無効電力需要曲線(例えば図13(a)参照)に従い、午前10時から午後5時の時間帯を昼間に、午後11時から翌午前8時を夜間に設定し、残りの時間帯である午前8時から午前10時までおよび午後5時から午後11時までの時間帯をそれぞれ朝方及び順夜間のいわゆるファミリータイムとして4区分に分けることもできる。例えば、図13(a)に示す無効電力需要曲線によれば、時間帯によって進み無効電力需要または遅れ無効電力需要が増加し、あるいは高力率を示すことが分かる。すなわち、午前10時ごろから午後4時ごろまで(午前12時から午後1時の1時間を除く)は遅れ無効電力需要が増加し、午後10時ごろから翌午前9時ごろまでは反対に進み無効電力需要が増加する。また、その他の時間帯はほぼ高力率を示す。
【0018】
[無効電力認定機器]
本実施形態においては、低圧負荷機器をその無効電力の出力タイプにより遅れ型と進み型とに区分し、それぞれの稼働パターンに沿って稼働させて無効電力の吸収を行わせることとする。これにより、当該低圧負荷機器(家電機器など)の本来有している無効電力を有効に活用できる。こうした運用管理は、電力会社各社が実施することができる(以下では、電力会社による運用、管理に係るこのような低圧負荷機器を「無効電力認定機器」と呼ぶこととする。)。無効電力認定機器が家電機器の場合、その無効電力量の調整は、電力会社によって毎年変更される小規模家電機器の無効電力量の認定に基づき、新規の家電機器についてはメーカー出荷時に無効電力の変更により、また既設の家電機器については力率改善機器の手動切替により実施される。なお、無効電力量の調整は、対象とする低圧負荷機器の力率が85%以内となるように行われる。図2は、このような運用に基づく無効電力認定機器の無効電力の出力タイプ(進み型、遅れ型または高力率型)および稼働パターンの組み合わせ例を示している。無効電力認定機器は、この図に示すような(1)夜間稼働・遅れ型(図2(a)参照,)、(2)昼間稼動・進み型(図2(b)参照)および(3)24時間稼働・高力率型(図2(c)参照)の3区分に分類できる。多くの無効電力認定機器は、高力率型として稼働させることができるが、無効電力需要が大きい地域などでは、その稼働パターンにより進み型又は遅れ型(前記(1)または(2)の区分)として稼働させるのが好ましい。
【0019】
[力率調整手段]
本発明においては、配電線における配電変圧器ごとの低圧配電線に接続された複数の低圧負荷機器(無効電力認定機器を含む)に力率調整手段を設ける。力率調整手段は、すべての低圧負荷機器に設けてもよく、そのうちの一部に設けてもよい。全部か一部かは、低圧配電線ごとの負荷の特質や力率調整手段付加についての費用対効果などを考慮して決定することができる。また、一部の低圧負荷機器に力率調整手段を設ける場合、どの低圧負荷機器に力率調整手段を付加するかは、その低圧負荷機器の種類や容量、インダクタンスおよび稼働パターンなどを考慮して決定できる。
【0020】
本実施形態では、力率調整手段を一部の低圧負荷機器(無効電力認定機器を含む)に設けることとしている。具体的には、複数の低圧負荷機器をその容量の大小により二分し、大容量の低圧負荷機器には原則として力率調整手段を設け、小容量の低圧負荷機器には必要に応じて力率調整手段を設けている。低圧負荷機器の大小の容量の境界値は適宜設定できるが、本実施形態ではその境界値を1kWに設定し、「大容量」を1kW以上とし、「小容量」を1kW未満に設定している。この場合、大容量の機器としては、OA機器のほか、テレビ、洗濯機、エアコン、照明、電磁調理器などの家電機器が挙げられる。但し、大容量の低圧負荷機器のうちで、通常、夜間蓄熱型の自然冷媒ヒートポンプ給湯機などのように夜間に稼働し、稼動パターンが決まっているものは,以下に示すような力率調整手段を特に付加しないで用いることも可能である。このような自然冷媒ヒートポンプ給湯機には、通常、内蔵するインダクタ(誘導性リアクタンス)成分により、遅れ力率の電流が流れるので、夜間稼働により進み力率を改善する効果が期待でき、また通常は力率改善が図られているので、何の変更も加えなければ高力率型として経済的には有利になるという利点があるからである。このような低圧負荷機器は、電力会社が夜間稼働・遅れ型の無効電力認定機器として認定し、製造メーカーと連携をとりながら管理することができる。
【0021】
本発明の力率調整手段は、少なくとも1つの力率改善用コンデンサなどの力率改善機器と当該力率改善機器の投入、切り離しの切換スイッチとを含む構成を備えていれば使用可能であり、その回路構成などについて特に制限されない。好ましくは、本発明の力率調整手段は、通信機能を備え、制御装置から通信手段を介して送信される制御指令信号などの信号の入力を受けて力率改善機器の投入、切り離しなどを行えるように構成されているのがよい。また、本発明の力率調整手段は、通信表示機能を備え、制御装置からの信号を受け、力率調整手段を作動させる必要があることを表示して視覚的又は聴覚的に告知するように構成されているのがよい。大容量の低圧負荷機器に付加する場合には、特に力率調整手段は、通信機能を備え、制御装置からの制御指令信号の入力を通信手段により受けて遅れ型、進み型又は高力率型の3つの状態を切換可能に構成されているのが好ましい。
【0022】
力率調整手段の前記力率改善機器や前記切換スイッチは、大容量の低圧負荷機器の電源回路の構成(例えば、インバータ装置の装備不備)などに応じて適宜選択して用いることができる。ここで、大容量の低圧負荷機器がインバータ装置を有する場合、有しない場合の2つの場合について、当該低圧負荷機器に負荷できる切換機能を備える力率調整手段の具体例をそれぞれ示す。
【0023】
A.インバータ装置を有する低圧負荷機器の場合
まず、エアコン、テレビ、OA機器、自然冷媒ヒートポンプ給湯機、照明などのインバータ装置を内蔵する大容量の低圧負荷機器の場合について説明する。図3は、一般的なインバータ装置を内蔵する大容量の低圧負荷機器のスイッチ電源装置35に対して、力率調整手段を付加した構成例のブロック図を示している。なお、この図においては、平滑回路やフィルター回路などの図示は省略している。この図の例のように、交流電源36をAC/DCコンバータ回路37において直流に変換した上で、DC/DCコンバータ回路38にて別の直流に変換する回路と、電源36から分岐して整流器40及び力率調整手段41を通す回路とを並列に接続してモータ回路39に供給することで、調相機能を持たせている。なお、DC/DCコンバータ回路38はDC/ACインバータ回路で代用することもできる。また、インバータ装置を有する低圧負荷機器であっても、前記のような力率調整手段に限定されず、従来公知の各種方法に基づいて力率改善機器を設けてこれを用いることもできる。
【0024】
図4は、インバータ装置におけるスイッチ電源装置の具体的な回路図を示している。この図において、符号36は商用交流電源(電圧V1)、42は全波整流器、C、C0は平滑コンデンサ、M1、M2はトランス、D1〜D4はダイオード、S1、S2はスイッチ素子、PWMはパルス幅変換回路、R0は負荷抵抗であり、スイッチ素子S2を含む付加部分41以外は従来公知の回路構成である。スイッチ素子S1は、PWMによってオン−オフ制御され、スイッチ素子S2はダイオードD2の前流における電圧信号によってオン−オフ制御されるように構成されている。なお、図4に示す電源装置35では、スイッチ素子S1、S2にそれぞれFETを用い、トランスM1,M2を用いて絶縁を図る構成としている。
【0025】
このスイッチ電源装置35では、商用交流電源36に接続された全波整流器42と、この出力間に設けられたコンデンサC、並びにトランスM1の1次側およびスイッチ素子S1とによりコンデンサインプット型の回路35bが形成され、全波整流器42を流れる電流i2はパルス状を呈する(図4(b)〜(d)参照)。また、電源36に接続された2つのダイオードD1、D2の出力は合成され、トランスM2およびスイッ素子S2を介在させてスイッチ素子S1の前流に接続されており、この力率改善用回路35aのダイオード出力合成後の電流i1は、負荷電流を+90°、−90°、0°の3段階に位相制御するスイッチ素子S2のON、OFFのカットタイミングにより、図4(b)〜(d)に示すように進み型、遅れ型および高力率型の各状態の波形を呈する。電流i1の波形を位相制御することで、この電流i1と電流i2とを合成して得られる電流i3は、進み型、遅れ型、または高力率型の各状態の波形を呈するようになる。2つのトランスM1,M2の2次側では、それぞれの出力が合成され、平滑コンデンサCoによって出力信号が平滑化される。インバータ装置を備える低圧負荷機器では、このようなスイッチ電源装置35を設けることで、電源側で進み力率、遅れ力率、高力率の調相制御が可能となる。なお、本発明においては、図4に示したこのようなスイッチ電源装置35による調相制御の回路構成に限定されず、可能であれば、他の調相制御回路(または機器)を用いることもできる。
【0026】
B.インバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合
次に、インバータ装置を有しない低圧負荷に付加できる力率調整手段について説明する。以下に例示する力率調整手段は、いずれも力率改善用コンデンサを用いており、低圧負荷機器における電源スイッチの負荷側の電源ラインに設けることができるものである。コンデンサの投入、切り離しをこのように低圧で行うことにより、高圧における場合よりも容易であり安全性も高いという利点がある。
【0027】
図5は、インバータ装置を有しない低圧負荷に付加される力率調整手段の幾つかの例を示している。図5(a)は、大容量の低圧負荷機器に付加するのに適した構成の力率調整手段の一例を示している。この力率調整手段45は、進み用コンデンサ46、力率改善用コンデンサ47および3点切換型のスイッチ48を備え、進み用コンデンサ46若しくは力率改善用コンデンサ47またはこれら2基のコンデンサの投入、切り離しを自在に行えるように構成されている。進み用コンデンサ46および力率改善用コンデンサ47の静電容量はそれぞれ適宜設定できるが、後者は低圧負荷機器の誘導性リアクタンス成分による遅れ無効電力を相殺可能な程度の進み無効電力が得られる静電容量を備え、前者は力率改善用コンデンサ47よりも相対的に大きい静電容量を備えるように構成することができる。このような力率調整手段45を用いることにより、インバータ装置を有しない大容量の低圧負荷機器を遅れ型、進み型、高力率型に切換ることができる。
【0028】
この力率調整手段45は、後述の制御装置との間で信号の授受が可能なように通信機能を備え、当該制御装置からの制御指令信号によって進み用コンデンサ46および力率改善用コンデンサ47の投入、切離しを行えるように構成されていることが好ましい。そして、配電線において遅れ無効電力需要が大きい場合、制御装置から制御指令信号の入力を受けて切換スイッチ48が進み用コンデンサ46投入位置に切り換わることで、遅れ無効電力低減に貢献することになる。また、配電線の進み無効電力需要が大きい場合には、切換スイッチ48が進み用コンデンサ46および力率改善用コンデンサ47の切り離しに切り換わり、低圧負荷機器のリアクタンス成分によって進み無効電力の低減に貢献することになる。さらに、配電線の無効電力需要が所定の範囲(高力率の範囲)にある場合や調相制御が過制御状態になった場合には、切換スイッチ48が力率改善用コンデンサ47投入に切り換わり、高力率の状態を維持するのに貢献することになる。
【0029】
小容量(例えば1kW未満)の低圧負荷機器については、その機器の構造や経済性(費用対効果)などを考慮して、以下に例示するバリエーションの中から力率調整手段を適宜選択して付加できる。これらのバリエーションのそれぞれは、経済性などの点で有利な場合には、大容量の低圧負荷機器と同様に後述する通信手段を設け、遠隔でこれを作動させ、あるいは通信表示手段を設け、電力需要家に視覚的に告知するようにしてもよい。
【0030】
まず、前記バリエーションの一例として、図5(b)に示す力率調整手段が挙げられる。この力率調整手段49は、図5(a)に示したものと同程度の静電容量を有する進み用コンデンサ50と2点切換型のスイッチ51とを含んだ構成であり、このスイッチ51により進み用コンデンサ50の投入、切り離しを切換可能とされている。この力率調整手段49は、通信表示機能を備え、その告知内容に応じて電力需要家が手動にて切り換える手動切換型としてもよい。この力率調整手段49では、配電線における遅れ無効電力需要が増加したことが告知された場合には、切換スイッチ51を切り換えて進み用コンデンサ50を投入することで、遅れ無効電力の低減に貢献できる。一方、配電線の進み無効電力需要が増加したことが告知された場合には、切換スイッチ51を切換えて進み用コンデンサ50を切り離すことで、低圧負荷機器のリアクタンス成分によって進み無効電力の低減に貢献できる。
【0031】
また、小容量の低圧負荷機器について、所定の費用対効果が得られないと予想される場合などには、特に力率調整手段を設けない構成とすることもできる(図5(c)参照)。この場合、小容量の低圧負荷機器がインダクタ成分を備えていれば、その運転中に遅れ無効電力需要を僅かに増加させることになる。また、当該低圧負荷機器が力率改善用コンデンサを装備している場合には、切換スイッチを取り付けない構成とすることもできる(不図示。以下では、説明の便宜上、このように新たに力率調整手段を付加しない場合、この低圧負荷機器を「無効電力認定機器(固定型)」と呼ぶことにする。)なお、小容量の低圧負荷機器にも、これら以外のバリエーションとして、大容量のそれと同様に、図5(a)に示した、進み用コンデンサ46、力率改善用コンデンサ47および3点切換型のスイッチ48を備える力率調整手段45を設置可能であることは言うまでもない。
【0032】
[制御装置]
制御装置30としては、演算制御部、記憶部、入力部、出力部を備える従来公知のものが使用できる。このような制御装置30の内部構成の一例を図6に示す。この図に示すように、演算制御部55はCPU、ワーキングメモリなどを含み、演算とともに制御装置内の各部の動作を制御するよう構成されている。タイマー部56は、調相制御;における計時機能を備え、後述の入力部から入力された設定時間の経過時に所定の信号が出力されるように構成されている。入力部57は、配電線の所定の位置における電圧、電流などの計測手段からの出力信号やオペレータによる各種設定の入力を受け、また出力部59は、演算制御部における演算結果に基づいて制御指令信号を後述の通信手段に対して出力するように構成されている。この出力信号は、例えば電力線搬送通信などを通じて個々の配電変圧器に個別にまたは一括して送信することができる。記憶部56は、入力部を通して入力された計測値や設定値などのほか、演算制御部55が出力する制御指令信号を必要に応じて一時的に格納するなどの機能を備えている。このような各部を備えることで、制御装置30は、配電線11の所定の箇所に配置された各種計測手段からそれぞれ計測結果を取得し、必要な場合にはこれらの計測結果を用いて演算処理を行い、力率(角)および無効電力を求め、この演算結果に基づいて調相制御信号を出力することができる。
【0033】
[通信手段]
本発明において制御装置30からの制御指令信号を伝送する通信手段としては、従来公知の方式を使用でき、特に制限されない。例えば電力線搬送通信やテレビのデータ伝送などは通信手段として好適に使用できる。電力線搬送通信の場合、変電所にバンクごとに電力線搬送装置(親局)を、また配電用変圧器に電力線搬送中継器を設け、各低圧負荷機器の力率調整手段の通信手段に子局としての機能を持たせることにより、制御装置30からの制御信号を配電用変圧器の中継装置を介して各低圧負荷機器の力率調整手段に送るようにすることができる。また、図1に示すように、制御信号線13a、14aなどを活用し、有線にて直接各力率調整手段に制御指令信号を伝送してもよく、無線で伝送するようにしてもよい。前記通信手段は、各低圧負荷機器の力率調整手段を動作させる制御指令信号を搬送するほか、力率調整手段が表示機能を備える場合に当該表示機能において表示させることができる信号を搬送するものであってもよい。
【0034】
[力率および無効電力の計測]
図1に示す実施形態では、制御装置30は、入力部を介して配電線11の送出電圧V1、配電変圧器15設置点における電圧V2および配電線11の負荷電流Iのそれぞれに相当する小勢力の信号をそれぞれ受け、配電変圧器15設置点における電圧降下ΔV(=V1−V2)を求め、これと負荷電流Iとから力率(力率角)を求めている。この演算は、以下に示すように、電圧降下の式1を変形して式5を導き出すことで説明できる。この式5から明らかなように、配電線の抵抗分rおよびリアクタンス分Xが既知であれば、電圧降下ΔVおよび負荷電流Iを求めることで、力率角θを算出することができる。そして、この力率(角)の演算結果を用いて、常法により無効電力を求めることができる。
【0035】
【0036】
このような力率(角)および無効電力の算出方法を採用することで、従来のように配電線の所定位置に高価な機器である力率計を設置したり、無効電力量計を設置したりする必要がなくなり安価なシステムの構築が可能になる利点がある。こうして得られる演算結果に基づいて、制御装置30は、出力部を通じて配電線における所定の配電変圧器に向けて制御指令信号を送信する。なお、力率及び無効電力の計測方法は、このような方法に限定されるものではなく、従来公知の各種方法によって求めてもよい。
【0037】
[調相制御]
本発明においては、前記のように、配電線の無効電力が所定の範囲を外れている場合に、その全部又は一部に力率調整手段を付加した配電変圧器ごとの低圧負荷機器群をそれぞれ1単位として、配電線に沿って当該単位ごとに順次調相制御を実施し、力率を改善し無効電力の低減を図ることを特徴としている。次に、以下の表1および添付の図7〜図12を参照しながら、本発明のコンデンサ方式による調相制御とインバータ方式を含めて説明する。表1は、本発明のシステム1の調相制御の内容を低圧負荷機器の稼働パターン別にまとめたものである。また、図7は、本発明システム1が実施する調相制御の基本的なフローを示している。また、図8及び図10は、図7中の遅れ制御(1)及び進み制御(3)の制御フロー図を示し、図9及び図11は、図7中、遅れ制御から高力率制御に戻す高力率戻し制御(2)及び進み制御から高力率制御に戻す高力率戻し制御(4)の制御フロー図を示している。さらに、図12は、本発明の調相制御の配電線に沿った制御方向を説明するための図である。
【0038】
本発明の配電線無効電力調整システムは、これを起動すると(S01)、配電線の力率(力率角)および無効電力の計測を行う(S02)。ここで、計測とは、計測手段13,14および16からの出力信号を瞬間的に取得し、制御装置が力率および無効電力を演算する一連のステップを指している。演算方法については前記の通りである。なお、配電線の力率(力率角)および無効電力は、このような計測方法に限定されず、力率計や無効電力量計などを使用する従来公知の計測方法によってもよい。これらの計測周期は、約5〜60分の時間で適宜設定できるが、本発明のシステム1が配電線の無効電力需要に確実に対応させるために、通常、10分程度に設定される。
【0039】
本発明のシステム1では、制御装置30は、無効電力計測値が所定の範囲内か否かによって無効電力調整が必要か否かを判断する(S03)。この所定の範囲(いわゆる不感帯)は、予めオペレータが入力部から設定値を入力することにより設定できる。ここで、無効電力計測値が不感帯内にある場合には、所定時間だけ待機した後に(S03)、再度、力率、無効電力の計測を行う(S02)。この所定時間は、通常、約10分程度に設定される。一方、無効電力計測値が前記不感帯を外れている場合には、力率角から当該無効電力が遅れ無効電力か進み無効電力かを判定する(S05)。
【0040】
その判定結果が進み無効電力である場合には、進み制御MAX(P3)と高力率戻し制御MAX(P4)のフラグを0とする(S06)。ここで、制御MAXのフラグは0又は1の値をとり、そのフラグが0の状態とは、配電線において中間に位置する配電変圧器を介してその負荷に調相制御が行われ、さらに当該配電線に沿った制御の進行方向に調相制御が可能であり、それによってさらに無効電力需要の低減が図れる状態を示しており、前記フラグに1が立った状態とは、配電線の末端の配電変圧器を介してその負荷に調相制御が行われており、同制御の進行方向に配電変圧器が隣接して存在しないため調相制御が移行できず、無効電力需要の低減が図れない制御量最大の状態をいうこととする(以下、同様)。
【0041】
そして、前回制御終了パターンが遅れ制御MAXであったか否かをフラグの数値によって判定する(S07)。その結果、遅れ制御MAX(P1)のフラグに1が立っている場合には、制御の進行方向に隣接して配電変圧器が存在しないため,所定時間だけ待機した後に(S04)、力率、無効電力計測に戻る(S02)。制御MAX(P1)のフラグが0の場合には、続いて前回制御終了パターンが進み制御であったか否かを判定する(S12)。判定の結果、進み制御でない場合は、「遅れ制御(1)」パターンの調相制御が実施され(S09)、低圧負荷機器における力率調整手段の高力率用コンデンサを逐次切って進み無効電力の低減が図られる。前回制御終了パターンが進み制御である場合には、進み用コンデンサSCが投入されているため、これを高力率に制御するため進み用コンデンサを切り離し、進み無効電力の低減を行う「高力率戻し制御(2)」パターンの制御が実施される(S10)。
【0042】
一方、前記判定結果が遅れ無効電力である場合には、遅れ制御MAX(P1)および高力率戻し制御MAX(P2)のフラグを0とする(S11)。そして、前回制御終了時に進み制御MAX(P3)であったか否かをフラグの数値によって判定する(S12)。その結果、遅れ制御MAX(P3)のフラグに1が立っている場合には(S07)、制御の進行方向に隣接して配電変圧器が存在しないため、調相制御を行わずに所定時間だけ待機した後に(S04)、力率、無効電力の計測を行うようにする(S02)。制御MAX(P1)のフラグが0の場合には、続いて前回制御終了パターンが遅れ制御であったか否かを判定する(S13)。その結果、遅れ制御でない場合は、高力率用コンデンサを逐次切って,進み無効電力の低減を行う,「進み制御(3)」パターンの調相調相が実施され(S14)、前回制御終了パターンが遅れ制御である場合には、進み用コンデンサSCが投入されているため,これを高力率へと制御するため進み用コンデンサを切り離し進み無効電力の低減を行う,「高力率戻し制御(4)」パターンの制御が実施される(S15)。
【0043】
次に、前記の「遅れ制御(1)」、「高力率戻し制御(2)」および「進み制御(3)」、「高力率戻し制御(4)」の各パターンの制御の内容についてより詳細に説明する。これらの各パターンの関係は、遅れ制御(1)及び進み制御(3)の各パターンがそれぞれ遅れ方向または進み方向に無効電力を低減させるように制御するものであるのに対し、高力率戻し制御(2)および(4)は、それぞれ前記遅れ制御などにより過制御となった場合に、力率調整手段を高力率型に移行させて無効電力を低減させるように制御するものである。そして、遅れ制御(1)パターンの状態で無効電力が遅れ力率に推移した場合には、遅れ制御(1)→高力率戻し制御(4)→進み制御(3)の順で制御パターンが移行し、進み制御(3)パターンの状態で無効電力が進み力率に推移した場合には、進み制御(3)→高力率戻し制御(2)→遅れ制御(1)の順で制御パターンが移行することになる。これら各パターンの制御は、無効電力が所定の範囲に収まったことが確認されるまで、配電線に沿って順次繰り返される。
【0044】
前記各パターンの制御はいずれも、図8〜図11に示すように、まず制御開始点(Trn)の確定を行う(S20、S30、S40、S50)。ここで、制御開始点(Trn)は、制御開始に係る配電変圧器を示しており、無効電力需要が所定の範囲を超えた場合には、該制御開始点(Trn)から調相制御が開始されることになる。本発明のシステム起動時における制御開始点(Trn)は、例えば配電線における任意の配電変圧器(例えば最も電源側もしくは負荷側の端部に位置する配電変圧器又は当該配電線の中間に位置する配電変圧器など)に設定できるが、無効電力の低減効果の観点からは、当該効果に優れる配電線の最も末端の配電変圧器に設定するのが好ましい。
【0045】
なお、以下の各制御パターンでは、電力線搬送通信などの通信手段を用い、低圧負荷機器の力率調整手段に対して制御指令信号を発信する態様について説明している。しかし、低圧負荷機器が例えば小容量であり、該低圧負荷機器またはこれが備える力率調整手段が表示機能を備える場合には、このような制御指令信号の代わりに、視覚的に表示可能又は聴覚的に告知可能な信号を送信し、低圧負荷機器を所有する電力需要家に対して小容量の低圧負荷機器の全部又は一部における力率調整手段の力率改善用コンデンサを手動にて開閉することを要請するものであってもよい。
【0046】
1.遅れ制御(1)
遅れ制御(1)パターンでは、図8に示すように、制御装置30は、制御開始点(Trn)の確定を行った後(S20)、当該制御御開始点(Trn)の配電変圧器に対して制御指令信号を発する(S21)。この制御指令信号を受けた配電変圧器負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは図4に示した力率調整手段35にて予め設定された無効電力の分だけ遅れ制御動作を行い、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段45において、高力率用コンデンサ47を切り離すように制御される。また、小容量の低圧負荷機器で力率調整手段45および通信機能を有する力率調整手段を備える場合には、前記のインバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合と同様に制御指令信号の入力を受けて高力率用コンデンサを切り離すように制御される。さらに、この遅れ制御(1)パターンにおいては、モータ回路を備え、遅れ力率を示す固定型の低圧負荷機器が稼働中であれば、力率改善及び進み無効電力の低減に貢献することになる。なお、力率調整手段が表示機能を備え、そこに力率調整の要請が表示された場合には、電力需要家は、力率調整手段の力率改善用コンデンサを手動にて切り離すことになる。
【0047】
その後、制御装置30は、所定時間待機する(S22)。この所定時間は、例えば1分間などのように適宜設定できる。そうして、配電線に設置された各種計測手段からの計測結果を取得し、演算によって力率(角)および無効電力を求める(S23)。力率(角)および無効電力の演算については、前記の方法を採用できる。その結果得られる無効電力計測値が所定の範囲から外れていれば、制御開始点(Trn)の配電変圧器が配電線における電源側の末端に位置する(n=1)か否かを判定し(S25)、n=1の場合には制御量最大として遅れ制御MAXを確定させ、そのフラグP1に1を立て(S27)、調相制御を終了させる。また、当該配電変圧器が配電線の末端に位置せず、n=1でない場合には、当該配電線の電源側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S26,S21)。この制御パターンでは、このような所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果に関する判定を順次配電線に沿って電源側に配置された配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、遅れ調相制御は終了する。そして、この最後における配電変圧器が、制御終了点として確定される。仮に制御終了点における遅れ制御を実施することで無効電力計測値が遅れ力率となり、過制御状態となった場合には、前記の制御パターンの移行順に従い、「高力率戻し制御(4)」(後述)を実施することで、過制御状態を解消することができる。また、可能と判断される場合には、制御終了点における一部の大容量低圧負荷機器の力率調整手段を高力率状態に切り換えることで対応してもよい。この制御終了点が、次に制御パターンに移行した場合には、制御開始点として確定される。
【0048】
2.高力率戻し制御(2)
高力率戻し制御(2)の場合、制御装置は、図9に示すように、まず制御開始点(Trn)の確定を行った後(S30)、この制御開始点Trnの配電変圧器に対して高力率戻し制御指令信号を発する(S31)。この信号の授受には、前記遅れ制御(1)の場合と同様に、電力線搬送通信などの通信手段を使用できる。この制御指令信号を受けた配電変圧器の負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは図4に示した力率調整手段にて予め設定された無効電力の分だけ高力率制御動作が行われ、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段において、進み用コンデンサを切り離すように制御される。また、通信機能を備えた小容量の低圧負荷機器についても、前記のインバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合と同様に制御指令信号の入力を受けて進み用コンデンサを切り離すように制御される。そうして、前記遅れ制御(1)の場合と同様に、所定時間だけ経過した後に(S32)無効電力を計測し(S33)、無効電力計測結果が所定の範囲内か否かを判定する(S34)。所定の範囲から外れている場合、配電変圧器が配電線における最も負荷側の末端に位置する(n=N)か否かを判定し(S35)、n=Nの場合には、制御量最大として高力率戻し制御MAXを確定させ、そのフラグP2に1を立て(S37)、調相制御を終了させる。また、n=Nでない場合には、当該配電線の負荷側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S36,S31)。前記遅れ制御(1)の場合と同様に、所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果についての判定を配電線に沿って負荷側に配置された配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、調相制御は終了する。最後の配電変圧器が、制御終了点として確定される。
【0049】
3.進み制御(3)
進み制御(3)パターンでは、図10に示すように、制御装置30は、制御開始点(Trn)の確定を行った後(S40)、当該制御御開始点(Trn)の配電変圧器に対して制御指令信号を発する(S41)。この制御指令信号を受けた配電変圧器の負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは図4に示した力率調整手段35にて予め設定された無効電力の分だけ遅れ制御動作を行い、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段45において、高力率用コンデンサ47を切り離すように制御される。また、小容量の低圧負荷機器で力率調整手段45および通信機能を備える場合には、同様に制御指令信号の入力を受けて高力率用コンデンサ47を切り離すように制御される。また、この制御指令信号は、低圧負荷機器を所有する電力需要家に対して、小容量の低圧負荷機器の力率改善用コンデンサを切り離すように、視覚的に又は聴覚的に告知するようなものであってもよい。この場合、このような要請を受けた電力需要家は、自身が所有しており力率調整手段を備えた小容量の低圧負荷機器の全部又は一部について、当該力率調整手段の力率改善用コンデンサを手動にて切り離すようにする。さらに、この進み制御(3)においては、進み用コンデンサを備え、進み力率を示す固定型の低圧負荷機器が稼働中であれば、力率改善及び遅れ無効電力の低減に貢献することになる。
【0050】
その後、制御装置は、所定時間だけ経過した後(S42)、無効電力を計測する(S43)。力率(角)および無効電力の演算については、前記と同様の方法を採用できる。その結果得られる無効電力計測値が所定の範囲から外れていれば、制御開始点(Trn)の配電変圧器が配電線における電源側の末端に位置する(n=1)か否かを判定し(S45)、n=1の場合には制御量最大として遅れ制御MAXを確定させ、そのフラグP1に1を立て(S27)、調相制御を終了させる。また、当該配電変圧器が配電線の末端に位置せず、n=1でない場合には、当該配電線の電源側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S26、S21)。この制御パターンでは、このような所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果に関する判定を順次配電線に沿って電源側に配置された配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、遅れ調相制御は終了する。そして、この最後における配電変圧器が、制御終了点として確定される。仮に制御終了点における遅れ制御を実施することで無効電力計測値が遅れ力率となり、過制御状態となった場合には、前記の制御パターンの移行順に従い、「高力率戻し制御(2)」(後述)を実施することで、過制御状態を解消することができる。また、可能と判断される場合には、制御終了点における一部の大容量低圧負荷機器の力率調整手段を高力率状態に切り換えることで対応してもよい。この制御終了点が、次に制御パターンに移行した場合には、制御開始点として確定される。
【0051】
(4)高力率戻し制御(4)
高力率戻し制御(4)では、制御装置は、図9に示すように、まず制御開始点(Trn)の確定を行った後(S50)、この制御開始点Trnの配電変圧器に対して高力率戻し制御指令信号を発する(S51)。この信号の授受には、前記各制御パターンの場合と同様に、電力線搬送通信などの通信手段を使用できる。この制御指令信号を受けた配電変圧器の負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは例えば図4に示した力率調整手段にて予め設定された無効電力の分だけ高力率制御動作が行われ、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段において、進み用コンデンサを切り離すように制御される。また、小容量の低圧負荷機器で通信機能を備えたものも、前記のインバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合と同様に制御指令信号の入力を受けて進み用コンデンサを切り離すように制御される。そうして、前記遅れ制御(1)の場合と同様に、所定時間だけ経過した後に(S32)無効電力を計測し(S33)、無効電力計測結果が所定の範囲内か否かを判定する(S34)。所定の範囲から外れている場合、配電変圧器が配電線における最も負荷側の末端に位置する(n=N)か否かを判定し(S55)、n=Nの場合には、制御量最大として高力率戻し制御MAXを確定させ、そのフラグP2に1を立て(S57)、調相制御を終了させる。また、n=Nでない場合には、当該配電線の負荷側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S56、S51)。前記高力率戻し制御(2)の場合と同様に、所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果についての判定を配電線に沿って制御開始点から負荷側に向け、当該配電線上の配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、調相制御は終了する。最後の配電変圧器が、制御終了点として確定される。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、図10を参照して、前記の進み制御または遅れ制御について具体的に説明する。この図では、説明の便宜上、配電線に配置されている配電変圧器には電源側から末端に向かって通し番号を含む記号を付し、Tr1、Tr2、Tr3、・・・、Trm+5のように表示することとする(図10参照)。無効電力計測値が進相方向に所定の範囲を超えた場合、制御開始点である末端の配電変圧器Trm+5に対して遅れ制御(1)パターンの制御指令信号が発せられて遅れ制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って電源側に隣接する配電変圧器Trm+4に対して遅れ制御(1)指令信号が発せられる。このように配電線上を電源側に調相制御が順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器が制御終了点となる。ここで、仮に制御終了点をTrmであるとする(図12(a)参照)。
【0054】
遅れ制御(1)中に無効電力計測値が遅相方向に所定の範囲を超えた場合には、制御開始点となる配電変圧器Trmに対して高力率戻し制御(4)指令信号が発せられて高力率制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って今度は末端側に隣接する配電変圧器Trm+1に対して高力率制御指令信号が発せられる。このように制御が末端方向に順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器(制御終了点)を、仮にTrm+5とする(図12(b)参照)。
【0055】
次に、無効電力計測値が遅相方向に所定の範囲を超えた場合には、制御開始点となる配電変圧器Trm+5に対して進み制御(3)指令信号が発せられて進み制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って今度は電源側に隣接する配電変圧器Trm+4に対して進み制御(3)指令信号が発せられる。このように制御が電源側に向けて順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器(制御終了点)を仮にTrm−1とする(図12(c)参照)。
【0056】
進み制御(3)中に無効電力計測値が遅相方向に所定の範囲を超えた場合には、制御開始点である配電変圧器Trm−1に対して高力率戻し制御(2)指令信号が発せられて高力率制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って今度は末端側に隣接する配電変圧器Trmに対して高力率制御指令信号が発せられる。このように制御が負荷側の末端に向けて順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器(制御終了点)を、例えばTrm+5となる(図12(d)参照。このように、遅れ制御(1)の場合には、配電線に沿って電源側に向けて順に配電変圧器に制御指令信号が発せられるのに対して、高力率戻し制御(4)の場合は負荷側の末端に向けて配電変圧器に順に制御指令信号が発せられることになる。また、進み制御(3)の場合も同様に、電源側に向けて順に配電変圧器に制御指令信号が発せられるのに対して、高力率戻し制御(2)の場合、負荷側の末端に向けて配電変圧器に順に制御指令信号が発せられることになる。
【0057】
図13(b)は、本発明の配電線無効電力調整システムを活用した場合の無効電力調整の一例を示している。図13(a)に示すような無効電力需要に対して、本発明の配電線無効電力調整システムでは、夜間10時から翌午前8時までの間および午前12時から午後1時の間は遅れ制御が、また午前10時〜12時、午後1時〜4時の間は進み制御が実施され、その他の時間帯は特に調相制御が実施されない状態か、高力率制御状態を示している。このように本発明によれば、配電線における無効電力の低減が図られ、電力需要家における受電端電圧も改善され、配電線の電力損失の低減が図られることになる。
【0058】
図14は、本発明の配電線無効電力調整システムの無効電力調整の別の例を示す図であり、(a)は一般的な配電線の無効電力需要曲線を単純化して図示したものであり、(b)はさらに固定型や手動切換型の小容量の低圧負荷機器についての調相制御を制御指令信号に応じた自動調相制御とは別に示した制御パターンの例を示している。この図において、斜線部分65a,66aが固定型及び手動切換型の低圧負荷による無効電力調整分(図中、「認定無効分(固定分)」と表示。)を示している。手動切換型の低圧負荷機器は、前記したように、一般電気事業者からの告知、要請により、電力需要家サイドで力率調整手段を手動で作動させることで、力率調整を実施するものである。図14に示すように、手動切換型や固定型の低圧負荷機器についての調相制御分をベースとし、その上に自動調相制御分65,66を上乗せするような制御が可能となる。
【0059】
以上説明したように、本発明の配電線の無効電力調整システム及び無効電力調整方法を用いることで、安価かつ簡単に、しかも効果的に配電線の力率を高く維持でき無効電力の低減を図ることができる。また、配電線の線路損失が低減できるとともに、高調波の吸収率が高いので高調波に起因する焼損事故も低減でき、CO2の削減にも貢献し得る。さらに、本発明では、制御装置から大容量の低圧負荷機器への制御指令信号の送信を従来公知の電力線搬送通信などにより行うことができるので、通信費用を安価に抑えることができる。また、特に電力線搬送通信可能な配電線であれば、低圧負荷機器の力率調整手段の付加および制御装置を設置することで、この既存の配電線に簡単かつ安価に本発明のシステムを追加構築することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 配電線無効電力調整システム
10 母線
11 配電線
12 遮断器
13、16 計器用変圧器(計測手段)
14 変流器(計測手段)
13a、14a、16a 信号線
15、17、19、21、23、25 配電変圧器
30 制御装置
31、34 制御信号線
32 電力線搬送中継装置
33 電力線搬送装置(親局)
35 インバータ装置
35a AC/DCコンバータ部
35b DC/DCコンバータ部
39 モータ回路
41 力率調整回路
45、49 力率調整手段
46 進み用コンデンサ
47、50 力率改善用コンデンサ
L1〜L6 低圧負荷(機器)
L7〜L9 低圧負荷機器の誘導性リアクタンス
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線全体の無効電力をその末端に接続される低圧負荷機器の調相制御を実施することで、安価かつ簡単に、しかも効率的に吸収できる配電線の無効電力調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各地の発電所から送電線および配電用変電所を経て、配電線により電力需要家への配電が行われている。配電線には、所定の区間ごとに配電変圧器(架空配電線の場合、柱上変圧器と呼ばれることもある。)が配置され、当該配電変圧器およびその負荷側の低圧配電線を介して1又は複数の区域に配電されている。各区域では、一般家庭などのいわゆる小口の電力需要家は、それぞれ分岐線からさらに分岐された引込線の引き込みを受けて受電し、家電製品などの各種の低圧負荷機器に分電している。他方、大口(大規模)電力需要家は、構内に自家用受電設備を設けて配電線から直接、高圧又は特別高圧にて受電し、構内で降圧、分電し、低圧負荷機器に給電している。
【0003】
このような低圧負荷機器は、一般に電動機や軽負荷変圧器などを含んでいるので、稼働時にはこれらのインダクタンス分により遅れ力率となり無効電力需要が増加する。そのため、電源側の変電所などから配電線を通じて低力率の大電流が送られ、過大な電圧降下と電力損失とを生じることになる。この遅れ無効電力を低減すべく、電力会社各社などの一般電気事業者は、自社の進相コンデンサや分路リアクトルなどの調相設備を稼働させることで日々の無効電力の調整を行っている。また、現行の電気料金制度における割引などの優遇措置により、電力需要家において進相コンデンサを設置するなどして受電点での力率改善を図っている。さらに、家電メーカーなども自社のモータなどを含む家電製品の電源回路に力率改善用として進相コンデンサを常時投入状態に設置し、運転時には高い力率を示すようになってきている。
【0004】
一方、近年、連休や夜間などの軽負荷時に進み無効電力需要が増加傾向を見せている。この傾向は、主に家電製品などの低圧負荷機器に力率改善用コンデンサが浸透したことの影響およびケーブル設備の増加に起因すると考えられている。一般電気事業者は、このような進み無効電力が増加する期間や時間帯に自社が所有する分路リアクトル、発電機、同期調相機などの調相設備を稼働させることによって無効電力需要の増加に対応しようとしているが、結果的には日々の無効電力を十分に調整できない事態も生じている。このように無効電力の調整が困難な場合には、一般電気事業者の要請に応じて、電力需要家サイドにて投入開放操作の可能な力率改善用コンデンサ設備を夜間や連休に開放するなどしているケースもある。
【0005】
配電線における無効電力の調整については、今日まで幾つかの提案がなされている(例えば特許文献1〜3参照)。これらの特許文献における提案は、端的にいえば、いずれも配電線の電気機器の構成などを包括的に把握したうえで、配電線全体の無効電力需要を監視しながら、その電源側に設置された上位の調相設備を必要に応じて作動させて配電線全体の無効電力の低減を図ろうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−252924号公報
【特許文献2】特開2002−159184号公報
【特許文献3】特開2004−180402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの提案では、大型の調相設備を採用して大規模な無効電力調整を行うため、進相コンデンサ設備や分路リアクトル設備だけでなく、遮断器の設置も必要となり、これらの設置コストは非常に過大となる反面、無効電力の過調整の問題や配電線におけるロスが大きくなる問題が生じる。また、特に特許文献2の提案に係る無効電力調整システムでは、通信網構築のための設備費や通信コストが多大となる問題がある。このように、現状は、各配電線の末端の低圧負荷機器に至る細かな無効電力管理は実施されておらず、また小規模電力需要家の自家用電気設備における無効電力需要の活用やその調整能力などに関しても注目されていない。
【0008】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであり、配電線の需要端における家電機器などの低圧負荷機器について低圧側で調相制御を行うことで、安価かつ簡単に、また効率的に当該配電線の無効電力を吸収可能な配電線の無効電力調整システム及び無効電力調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的は、本発明の一局面によれば、無効電力及び力率を求めるために配電線の所定位置に設置される計測手段と、当該配電線に配置された各配電変圧器を介してその負荷側の低圧配電線の末端に接続される複数の低圧負荷機器の全部または一部にそれぞれ設けられる力率調整手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて定期的に求めた無効電力が所定の範囲を外れている場合に制御指令信号を発する制御装置と、前記計測手段および前記各力率調整手段と前記制御装置との間で信号の授受を可能にする通信手段とを備え、前記制御指令信号の入力を受けて当該配電変圧器ごとに前記各力率調整手段を作動させる調相制御が前記配電線に沿って順次実施され、前記配電線の無効電力を消費、低減するように構成されてなることを特徴とする配電線の無効電力調整システムによって達成される。
【0010】
前記目的はまた、本発明の別の局面によれば、配電線に配置された個々の配電変圧器に接続されている複数の低圧負荷機器にそれぞれ力率調整手段を設けておき、当該配電線の力率及び無効電力を定期的に把握し、所定範囲を超える進みまたは遅れ無効電力を検出したときは前記配電変圧器ごと前記力率調整手段を作動させる調相制御を前記配電線に沿って順次実施し、前記配電線の無効電力を消費、低減するようにしたことを特徴とする配電線の無効電力調整方法によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無効電力調整システムは、高圧配電線においてではなく、低圧配電線末端において個々の電力需要家が所有する家電機器などの低圧負荷機器の力率調整を実施することとしたので、本来低圧負荷機器が持っている無効電力需要を有効活用することが可能となる。そのため、特別に大型設備を導入することなく、配電線の線路損失とともに、高周波の吸収率も高く高調波に起因する焼損事故低減でき、CO2の削減にも貢献できる。また、本発明の無効電力調整システムは、既設の設備および低圧負荷機器を改良することにより安価かつ簡単に構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の配電線無効電力調整システムの実施形態の一例を示す図である。
【図2】無効電力認定機器の稼働パターンおよび無効電力出力タイプの一例を示す図である。
【図3】一般的なインバータ装置への力率調整手段の接続状態を模式的に示す図である。
【図4】力率調整手段を備えた一般的なインバータ装置の回路図を示す図である。
【図5】インバータ装置を有しない低圧負荷の場合の力率調整手段の接続状態を示す図である。
【図6】本発明における制御装置の機器構成を示すブロック図の一例である。
【図7】本発明における調相制御の制御フロー図である。
【図8】図7中、遅れ制御(1)の制御フロー図である。
【図9】図7中、高力率戻し制御(2)の制御フロー図である。
【図10】図7中、進み制御(3)の制御フロー図である。
【図11】図7中、高力率戻し方向(4)の制御フロー図である。
【図12】本発明の調相制御の配電線に沿った制御方向を説明するための図である。
【図13】一般的な配電線の無効電力需要に対して本発明における調相制御例を説明するための図である。
【図14】一般的な配電線の無効電力需要に対して本発明における好適な調相制御例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の配電線無効電力調整システムの実施形態の一例を示している。この図において、本発明の配電線の無効電力調整システム(以下、単に「システム」という。)1は、配電線11の所定位置に設置された電圧計測手段13および16並びに電流計測手段14と、前記各計測手段からの計測結果を取得し、所定の演算処理を行い、低圧負荷機器の一部に設けられた力率調整手段に対して通信手段を介して制御指令信号を発する制御装置30とを有している。本実施形態のシステム1は、配電用変電所における母線10から遮断器12を介して各電力需要家に電力を分配して給電する配電線11の無効電力調整に適用しているが、この配電線にはその中間または末端から分岐される分岐線を含めることができる。本発明のシステム1は、さらに配電用変電所における変圧器(複数の変圧器が設置されている場合には、バンクごと)の2次側から母線までを含む配電系統全体に適用することもできる。
【0014】
配電線11には、所定の区間ごとに配電変圧器15、17、19、21、23、25、・・・が配置され、当該各配電変圧器の2次側に設けられた低圧配電線(不図示)によってそれぞれ1又は複数の区域(不図示)に向けて配電されている。各区域では、低圧配電線から引込線を介して各電力需要家(一般家庭など)が受電し、さらに例えば家電製品などの複数の低圧負荷機器(図1では、配電変圧器17からの低圧配電線に接続される低圧負荷機器L1、L2、L3、・・・のみ図示し、その他の配電変圧器の負荷側は図示を省略している。)に分電している。
【0015】
本実施形態おける計測手段13および14は、それぞれ計器用変圧器及び変流器であり、ともに配電線11の母線寄りに設置されている。計器用変圧器13は母線10からの送出電圧V1を計測し、変流器14は配電線11を流れる負荷電流Iを計測している。また、計測手段16は、計器用変圧器であり、配電線11において適宜選定された配電変圧器(図中では符号15)の設置位置における電圧V2を計測している。これら各計測手段の2次側出力信号はそれぞれ信号線13a、14aおよび16aを介して制御装置30に入力されている。なお、図1に示す実施形態では、前記のように計測手段13、14および16として計器用変圧器及び変流器を用いるが、これらに限定されず、力率及び無効電力を計測するのに通常用いられる力率計、無効電力量計その他の計測手段なども用いることができる。なお、以下では、前記の計器用変圧器や変流器について、計測手段に付した符号(13、14、16)と同じ符号を付することとする。
【0016】
[低圧負荷機器]
本発明における低圧負荷機器としては、主には一般家庭で使用されるテレビ、オーディオ機器、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電機器やパソコンなどのOA機器のほか、高圧で受電していない電力需要家または高圧で受電していても進相コンデンサ設備を有していない電力需要家などにおける低圧負荷機器など(工作機械や印刷工場における印刷機械など)が挙げられる。
【0017】
このような低圧負荷機器は、その稼働時間帯により幾つかのパターン(以下、「稼働パターン」という。)に分類できる。例えば、一般家庭やオフィスなどにおける家電機器やOA機器、工場における工作機械などは昼間に運転され、最近普及の進んでいる自然冷媒ヒートポンプ給湯機などの蓄熱装置は夜間に運転されるのが通常である。また、昼間に運転される低圧負荷機器のうち、例えばエアコンなどのように必要に応じて不定期に運転されるものもある。それに対して、冷蔵庫などの一部の家電機器は、常時(24時間)運転される。ここで、昼間とは、午前8時から午後11時までの時間帯、夜間とはそれ以外の時間帯を表しており、電気料金算定などにおける稼働時間帯の区分と同等である。この稼働時間帯としてはまた、例えば一般的な配電線の日間の無効電力需要曲線(例えば図13(a)参照)に従い、午前10時から午後5時の時間帯を昼間に、午後11時から翌午前8時を夜間に設定し、残りの時間帯である午前8時から午前10時までおよび午後5時から午後11時までの時間帯をそれぞれ朝方及び順夜間のいわゆるファミリータイムとして4区分に分けることもできる。例えば、図13(a)に示す無効電力需要曲線によれば、時間帯によって進み無効電力需要または遅れ無効電力需要が増加し、あるいは高力率を示すことが分かる。すなわち、午前10時ごろから午後4時ごろまで(午前12時から午後1時の1時間を除く)は遅れ無効電力需要が増加し、午後10時ごろから翌午前9時ごろまでは反対に進み無効電力需要が増加する。また、その他の時間帯はほぼ高力率を示す。
【0018】
[無効電力認定機器]
本実施形態においては、低圧負荷機器をその無効電力の出力タイプにより遅れ型と進み型とに区分し、それぞれの稼働パターンに沿って稼働させて無効電力の吸収を行わせることとする。これにより、当該低圧負荷機器(家電機器など)の本来有している無効電力を有効に活用できる。こうした運用管理は、電力会社各社が実施することができる(以下では、電力会社による運用、管理に係るこのような低圧負荷機器を「無効電力認定機器」と呼ぶこととする。)。無効電力認定機器が家電機器の場合、その無効電力量の調整は、電力会社によって毎年変更される小規模家電機器の無効電力量の認定に基づき、新規の家電機器についてはメーカー出荷時に無効電力の変更により、また既設の家電機器については力率改善機器の手動切替により実施される。なお、無効電力量の調整は、対象とする低圧負荷機器の力率が85%以内となるように行われる。図2は、このような運用に基づく無効電力認定機器の無効電力の出力タイプ(進み型、遅れ型または高力率型)および稼働パターンの組み合わせ例を示している。無効電力認定機器は、この図に示すような(1)夜間稼働・遅れ型(図2(a)参照,)、(2)昼間稼動・進み型(図2(b)参照)および(3)24時間稼働・高力率型(図2(c)参照)の3区分に分類できる。多くの無効電力認定機器は、高力率型として稼働させることができるが、無効電力需要が大きい地域などでは、その稼働パターンにより進み型又は遅れ型(前記(1)または(2)の区分)として稼働させるのが好ましい。
【0019】
[力率調整手段]
本発明においては、配電線における配電変圧器ごとの低圧配電線に接続された複数の低圧負荷機器(無効電力認定機器を含む)に力率調整手段を設ける。力率調整手段は、すべての低圧負荷機器に設けてもよく、そのうちの一部に設けてもよい。全部か一部かは、低圧配電線ごとの負荷の特質や力率調整手段付加についての費用対効果などを考慮して決定することができる。また、一部の低圧負荷機器に力率調整手段を設ける場合、どの低圧負荷機器に力率調整手段を付加するかは、その低圧負荷機器の種類や容量、インダクタンスおよび稼働パターンなどを考慮して決定できる。
【0020】
本実施形態では、力率調整手段を一部の低圧負荷機器(無効電力認定機器を含む)に設けることとしている。具体的には、複数の低圧負荷機器をその容量の大小により二分し、大容量の低圧負荷機器には原則として力率調整手段を設け、小容量の低圧負荷機器には必要に応じて力率調整手段を設けている。低圧負荷機器の大小の容量の境界値は適宜設定できるが、本実施形態ではその境界値を1kWに設定し、「大容量」を1kW以上とし、「小容量」を1kW未満に設定している。この場合、大容量の機器としては、OA機器のほか、テレビ、洗濯機、エアコン、照明、電磁調理器などの家電機器が挙げられる。但し、大容量の低圧負荷機器のうちで、通常、夜間蓄熱型の自然冷媒ヒートポンプ給湯機などのように夜間に稼働し、稼動パターンが決まっているものは,以下に示すような力率調整手段を特に付加しないで用いることも可能である。このような自然冷媒ヒートポンプ給湯機には、通常、内蔵するインダクタ(誘導性リアクタンス)成分により、遅れ力率の電流が流れるので、夜間稼働により進み力率を改善する効果が期待でき、また通常は力率改善が図られているので、何の変更も加えなければ高力率型として経済的には有利になるという利点があるからである。このような低圧負荷機器は、電力会社が夜間稼働・遅れ型の無効電力認定機器として認定し、製造メーカーと連携をとりながら管理することができる。
【0021】
本発明の力率調整手段は、少なくとも1つの力率改善用コンデンサなどの力率改善機器と当該力率改善機器の投入、切り離しの切換スイッチとを含む構成を備えていれば使用可能であり、その回路構成などについて特に制限されない。好ましくは、本発明の力率調整手段は、通信機能を備え、制御装置から通信手段を介して送信される制御指令信号などの信号の入力を受けて力率改善機器の投入、切り離しなどを行えるように構成されているのがよい。また、本発明の力率調整手段は、通信表示機能を備え、制御装置からの信号を受け、力率調整手段を作動させる必要があることを表示して視覚的又は聴覚的に告知するように構成されているのがよい。大容量の低圧負荷機器に付加する場合には、特に力率調整手段は、通信機能を備え、制御装置からの制御指令信号の入力を通信手段により受けて遅れ型、進み型又は高力率型の3つの状態を切換可能に構成されているのが好ましい。
【0022】
力率調整手段の前記力率改善機器や前記切換スイッチは、大容量の低圧負荷機器の電源回路の構成(例えば、インバータ装置の装備不備)などに応じて適宜選択して用いることができる。ここで、大容量の低圧負荷機器がインバータ装置を有する場合、有しない場合の2つの場合について、当該低圧負荷機器に負荷できる切換機能を備える力率調整手段の具体例をそれぞれ示す。
【0023】
A.インバータ装置を有する低圧負荷機器の場合
まず、エアコン、テレビ、OA機器、自然冷媒ヒートポンプ給湯機、照明などのインバータ装置を内蔵する大容量の低圧負荷機器の場合について説明する。図3は、一般的なインバータ装置を内蔵する大容量の低圧負荷機器のスイッチ電源装置35に対して、力率調整手段を付加した構成例のブロック図を示している。なお、この図においては、平滑回路やフィルター回路などの図示は省略している。この図の例のように、交流電源36をAC/DCコンバータ回路37において直流に変換した上で、DC/DCコンバータ回路38にて別の直流に変換する回路と、電源36から分岐して整流器40及び力率調整手段41を通す回路とを並列に接続してモータ回路39に供給することで、調相機能を持たせている。なお、DC/DCコンバータ回路38はDC/ACインバータ回路で代用することもできる。また、インバータ装置を有する低圧負荷機器であっても、前記のような力率調整手段に限定されず、従来公知の各種方法に基づいて力率改善機器を設けてこれを用いることもできる。
【0024】
図4は、インバータ装置におけるスイッチ電源装置の具体的な回路図を示している。この図において、符号36は商用交流電源(電圧V1)、42は全波整流器、C、C0は平滑コンデンサ、M1、M2はトランス、D1〜D4はダイオード、S1、S2はスイッチ素子、PWMはパルス幅変換回路、R0は負荷抵抗であり、スイッチ素子S2を含む付加部分41以外は従来公知の回路構成である。スイッチ素子S1は、PWMによってオン−オフ制御され、スイッチ素子S2はダイオードD2の前流における電圧信号によってオン−オフ制御されるように構成されている。なお、図4に示す電源装置35では、スイッチ素子S1、S2にそれぞれFETを用い、トランスM1,M2を用いて絶縁を図る構成としている。
【0025】
このスイッチ電源装置35では、商用交流電源36に接続された全波整流器42と、この出力間に設けられたコンデンサC、並びにトランスM1の1次側およびスイッチ素子S1とによりコンデンサインプット型の回路35bが形成され、全波整流器42を流れる電流i2はパルス状を呈する(図4(b)〜(d)参照)。また、電源36に接続された2つのダイオードD1、D2の出力は合成され、トランスM2およびスイッ素子S2を介在させてスイッチ素子S1の前流に接続されており、この力率改善用回路35aのダイオード出力合成後の電流i1は、負荷電流を+90°、−90°、0°の3段階に位相制御するスイッチ素子S2のON、OFFのカットタイミングにより、図4(b)〜(d)に示すように進み型、遅れ型および高力率型の各状態の波形を呈する。電流i1の波形を位相制御することで、この電流i1と電流i2とを合成して得られる電流i3は、進み型、遅れ型、または高力率型の各状態の波形を呈するようになる。2つのトランスM1,M2の2次側では、それぞれの出力が合成され、平滑コンデンサCoによって出力信号が平滑化される。インバータ装置を備える低圧負荷機器では、このようなスイッチ電源装置35を設けることで、電源側で進み力率、遅れ力率、高力率の調相制御が可能となる。なお、本発明においては、図4に示したこのようなスイッチ電源装置35による調相制御の回路構成に限定されず、可能であれば、他の調相制御回路(または機器)を用いることもできる。
【0026】
B.インバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合
次に、インバータ装置を有しない低圧負荷に付加できる力率調整手段について説明する。以下に例示する力率調整手段は、いずれも力率改善用コンデンサを用いており、低圧負荷機器における電源スイッチの負荷側の電源ラインに設けることができるものである。コンデンサの投入、切り離しをこのように低圧で行うことにより、高圧における場合よりも容易であり安全性も高いという利点がある。
【0027】
図5は、インバータ装置を有しない低圧負荷に付加される力率調整手段の幾つかの例を示している。図5(a)は、大容量の低圧負荷機器に付加するのに適した構成の力率調整手段の一例を示している。この力率調整手段45は、進み用コンデンサ46、力率改善用コンデンサ47および3点切換型のスイッチ48を備え、進み用コンデンサ46若しくは力率改善用コンデンサ47またはこれら2基のコンデンサの投入、切り離しを自在に行えるように構成されている。進み用コンデンサ46および力率改善用コンデンサ47の静電容量はそれぞれ適宜設定できるが、後者は低圧負荷機器の誘導性リアクタンス成分による遅れ無効電力を相殺可能な程度の進み無効電力が得られる静電容量を備え、前者は力率改善用コンデンサ47よりも相対的に大きい静電容量を備えるように構成することができる。このような力率調整手段45を用いることにより、インバータ装置を有しない大容量の低圧負荷機器を遅れ型、進み型、高力率型に切換ることができる。
【0028】
この力率調整手段45は、後述の制御装置との間で信号の授受が可能なように通信機能を備え、当該制御装置からの制御指令信号によって進み用コンデンサ46および力率改善用コンデンサ47の投入、切離しを行えるように構成されていることが好ましい。そして、配電線において遅れ無効電力需要が大きい場合、制御装置から制御指令信号の入力を受けて切換スイッチ48が進み用コンデンサ46投入位置に切り換わることで、遅れ無効電力低減に貢献することになる。また、配電線の進み無効電力需要が大きい場合には、切換スイッチ48が進み用コンデンサ46および力率改善用コンデンサ47の切り離しに切り換わり、低圧負荷機器のリアクタンス成分によって進み無効電力の低減に貢献することになる。さらに、配電線の無効電力需要が所定の範囲(高力率の範囲)にある場合や調相制御が過制御状態になった場合には、切換スイッチ48が力率改善用コンデンサ47投入に切り換わり、高力率の状態を維持するのに貢献することになる。
【0029】
小容量(例えば1kW未満)の低圧負荷機器については、その機器の構造や経済性(費用対効果)などを考慮して、以下に例示するバリエーションの中から力率調整手段を適宜選択して付加できる。これらのバリエーションのそれぞれは、経済性などの点で有利な場合には、大容量の低圧負荷機器と同様に後述する通信手段を設け、遠隔でこれを作動させ、あるいは通信表示手段を設け、電力需要家に視覚的に告知するようにしてもよい。
【0030】
まず、前記バリエーションの一例として、図5(b)に示す力率調整手段が挙げられる。この力率調整手段49は、図5(a)に示したものと同程度の静電容量を有する進み用コンデンサ50と2点切換型のスイッチ51とを含んだ構成であり、このスイッチ51により進み用コンデンサ50の投入、切り離しを切換可能とされている。この力率調整手段49は、通信表示機能を備え、その告知内容に応じて電力需要家が手動にて切り換える手動切換型としてもよい。この力率調整手段49では、配電線における遅れ無効電力需要が増加したことが告知された場合には、切換スイッチ51を切り換えて進み用コンデンサ50を投入することで、遅れ無効電力の低減に貢献できる。一方、配電線の進み無効電力需要が増加したことが告知された場合には、切換スイッチ51を切換えて進み用コンデンサ50を切り離すことで、低圧負荷機器のリアクタンス成分によって進み無効電力の低減に貢献できる。
【0031】
また、小容量の低圧負荷機器について、所定の費用対効果が得られないと予想される場合などには、特に力率調整手段を設けない構成とすることもできる(図5(c)参照)。この場合、小容量の低圧負荷機器がインダクタ成分を備えていれば、その運転中に遅れ無効電力需要を僅かに増加させることになる。また、当該低圧負荷機器が力率改善用コンデンサを装備している場合には、切換スイッチを取り付けない構成とすることもできる(不図示。以下では、説明の便宜上、このように新たに力率調整手段を付加しない場合、この低圧負荷機器を「無効電力認定機器(固定型)」と呼ぶことにする。)なお、小容量の低圧負荷機器にも、これら以外のバリエーションとして、大容量のそれと同様に、図5(a)に示した、進み用コンデンサ46、力率改善用コンデンサ47および3点切換型のスイッチ48を備える力率調整手段45を設置可能であることは言うまでもない。
【0032】
[制御装置]
制御装置30としては、演算制御部、記憶部、入力部、出力部を備える従来公知のものが使用できる。このような制御装置30の内部構成の一例を図6に示す。この図に示すように、演算制御部55はCPU、ワーキングメモリなどを含み、演算とともに制御装置内の各部の動作を制御するよう構成されている。タイマー部56は、調相制御;における計時機能を備え、後述の入力部から入力された設定時間の経過時に所定の信号が出力されるように構成されている。入力部57は、配電線の所定の位置における電圧、電流などの計測手段からの出力信号やオペレータによる各種設定の入力を受け、また出力部59は、演算制御部における演算結果に基づいて制御指令信号を後述の通信手段に対して出力するように構成されている。この出力信号は、例えば電力線搬送通信などを通じて個々の配電変圧器に個別にまたは一括して送信することができる。記憶部56は、入力部を通して入力された計測値や設定値などのほか、演算制御部55が出力する制御指令信号を必要に応じて一時的に格納するなどの機能を備えている。このような各部を備えることで、制御装置30は、配電線11の所定の箇所に配置された各種計測手段からそれぞれ計測結果を取得し、必要な場合にはこれらの計測結果を用いて演算処理を行い、力率(角)および無効電力を求め、この演算結果に基づいて調相制御信号を出力することができる。
【0033】
[通信手段]
本発明において制御装置30からの制御指令信号を伝送する通信手段としては、従来公知の方式を使用でき、特に制限されない。例えば電力線搬送通信やテレビのデータ伝送などは通信手段として好適に使用できる。電力線搬送通信の場合、変電所にバンクごとに電力線搬送装置(親局)を、また配電用変圧器に電力線搬送中継器を設け、各低圧負荷機器の力率調整手段の通信手段に子局としての機能を持たせることにより、制御装置30からの制御信号を配電用変圧器の中継装置を介して各低圧負荷機器の力率調整手段に送るようにすることができる。また、図1に示すように、制御信号線13a、14aなどを活用し、有線にて直接各力率調整手段に制御指令信号を伝送してもよく、無線で伝送するようにしてもよい。前記通信手段は、各低圧負荷機器の力率調整手段を動作させる制御指令信号を搬送するほか、力率調整手段が表示機能を備える場合に当該表示機能において表示させることができる信号を搬送するものであってもよい。
【0034】
[力率および無効電力の計測]
図1に示す実施形態では、制御装置30は、入力部を介して配電線11の送出電圧V1、配電変圧器15設置点における電圧V2および配電線11の負荷電流Iのそれぞれに相当する小勢力の信号をそれぞれ受け、配電変圧器15設置点における電圧降下ΔV(=V1−V2)を求め、これと負荷電流Iとから力率(力率角)を求めている。この演算は、以下に示すように、電圧降下の式1を変形して式5を導き出すことで説明できる。この式5から明らかなように、配電線の抵抗分rおよびリアクタンス分Xが既知であれば、電圧降下ΔVおよび負荷電流Iを求めることで、力率角θを算出することができる。そして、この力率(角)の演算結果を用いて、常法により無効電力を求めることができる。
【0035】
【0036】
このような力率(角)および無効電力の算出方法を採用することで、従来のように配電線の所定位置に高価な機器である力率計を設置したり、無効電力量計を設置したりする必要がなくなり安価なシステムの構築が可能になる利点がある。こうして得られる演算結果に基づいて、制御装置30は、出力部を通じて配電線における所定の配電変圧器に向けて制御指令信号を送信する。なお、力率及び無効電力の計測方法は、このような方法に限定されるものではなく、従来公知の各種方法によって求めてもよい。
【0037】
[調相制御]
本発明においては、前記のように、配電線の無効電力が所定の範囲を外れている場合に、その全部又は一部に力率調整手段を付加した配電変圧器ごとの低圧負荷機器群をそれぞれ1単位として、配電線に沿って当該単位ごとに順次調相制御を実施し、力率を改善し無効電力の低減を図ることを特徴としている。次に、以下の表1および添付の図7〜図12を参照しながら、本発明のコンデンサ方式による調相制御とインバータ方式を含めて説明する。表1は、本発明のシステム1の調相制御の内容を低圧負荷機器の稼働パターン別にまとめたものである。また、図7は、本発明システム1が実施する調相制御の基本的なフローを示している。また、図8及び図10は、図7中の遅れ制御(1)及び進み制御(3)の制御フロー図を示し、図9及び図11は、図7中、遅れ制御から高力率制御に戻す高力率戻し制御(2)及び進み制御から高力率制御に戻す高力率戻し制御(4)の制御フロー図を示している。さらに、図12は、本発明の調相制御の配電線に沿った制御方向を説明するための図である。
【0038】
本発明の配電線無効電力調整システムは、これを起動すると(S01)、配電線の力率(力率角)および無効電力の計測を行う(S02)。ここで、計測とは、計測手段13,14および16からの出力信号を瞬間的に取得し、制御装置が力率および無効電力を演算する一連のステップを指している。演算方法については前記の通りである。なお、配電線の力率(力率角)および無効電力は、このような計測方法に限定されず、力率計や無効電力量計などを使用する従来公知の計測方法によってもよい。これらの計測周期は、約5〜60分の時間で適宜設定できるが、本発明のシステム1が配電線の無効電力需要に確実に対応させるために、通常、10分程度に設定される。
【0039】
本発明のシステム1では、制御装置30は、無効電力計測値が所定の範囲内か否かによって無効電力調整が必要か否かを判断する(S03)。この所定の範囲(いわゆる不感帯)は、予めオペレータが入力部から設定値を入力することにより設定できる。ここで、無効電力計測値が不感帯内にある場合には、所定時間だけ待機した後に(S03)、再度、力率、無効電力の計測を行う(S02)。この所定時間は、通常、約10分程度に設定される。一方、無効電力計測値が前記不感帯を外れている場合には、力率角から当該無効電力が遅れ無効電力か進み無効電力かを判定する(S05)。
【0040】
その判定結果が進み無効電力である場合には、進み制御MAX(P3)と高力率戻し制御MAX(P4)のフラグを0とする(S06)。ここで、制御MAXのフラグは0又は1の値をとり、そのフラグが0の状態とは、配電線において中間に位置する配電変圧器を介してその負荷に調相制御が行われ、さらに当該配電線に沿った制御の進行方向に調相制御が可能であり、それによってさらに無効電力需要の低減が図れる状態を示しており、前記フラグに1が立った状態とは、配電線の末端の配電変圧器を介してその負荷に調相制御が行われており、同制御の進行方向に配電変圧器が隣接して存在しないため調相制御が移行できず、無効電力需要の低減が図れない制御量最大の状態をいうこととする(以下、同様)。
【0041】
そして、前回制御終了パターンが遅れ制御MAXであったか否かをフラグの数値によって判定する(S07)。その結果、遅れ制御MAX(P1)のフラグに1が立っている場合には、制御の進行方向に隣接して配電変圧器が存在しないため,所定時間だけ待機した後に(S04)、力率、無効電力計測に戻る(S02)。制御MAX(P1)のフラグが0の場合には、続いて前回制御終了パターンが進み制御であったか否かを判定する(S12)。判定の結果、進み制御でない場合は、「遅れ制御(1)」パターンの調相制御が実施され(S09)、低圧負荷機器における力率調整手段の高力率用コンデンサを逐次切って進み無効電力の低減が図られる。前回制御終了パターンが進み制御である場合には、進み用コンデンサSCが投入されているため、これを高力率に制御するため進み用コンデンサを切り離し、進み無効電力の低減を行う「高力率戻し制御(2)」パターンの制御が実施される(S10)。
【0042】
一方、前記判定結果が遅れ無効電力である場合には、遅れ制御MAX(P1)および高力率戻し制御MAX(P2)のフラグを0とする(S11)。そして、前回制御終了時に進み制御MAX(P3)であったか否かをフラグの数値によって判定する(S12)。その結果、遅れ制御MAX(P3)のフラグに1が立っている場合には(S07)、制御の進行方向に隣接して配電変圧器が存在しないため、調相制御を行わずに所定時間だけ待機した後に(S04)、力率、無効電力の計測を行うようにする(S02)。制御MAX(P1)のフラグが0の場合には、続いて前回制御終了パターンが遅れ制御であったか否かを判定する(S13)。その結果、遅れ制御でない場合は、高力率用コンデンサを逐次切って,進み無効電力の低減を行う,「進み制御(3)」パターンの調相調相が実施され(S14)、前回制御終了パターンが遅れ制御である場合には、進み用コンデンサSCが投入されているため,これを高力率へと制御するため進み用コンデンサを切り離し進み無効電力の低減を行う,「高力率戻し制御(4)」パターンの制御が実施される(S15)。
【0043】
次に、前記の「遅れ制御(1)」、「高力率戻し制御(2)」および「進み制御(3)」、「高力率戻し制御(4)」の各パターンの制御の内容についてより詳細に説明する。これらの各パターンの関係は、遅れ制御(1)及び進み制御(3)の各パターンがそれぞれ遅れ方向または進み方向に無効電力を低減させるように制御するものであるのに対し、高力率戻し制御(2)および(4)は、それぞれ前記遅れ制御などにより過制御となった場合に、力率調整手段を高力率型に移行させて無効電力を低減させるように制御するものである。そして、遅れ制御(1)パターンの状態で無効電力が遅れ力率に推移した場合には、遅れ制御(1)→高力率戻し制御(4)→進み制御(3)の順で制御パターンが移行し、進み制御(3)パターンの状態で無効電力が進み力率に推移した場合には、進み制御(3)→高力率戻し制御(2)→遅れ制御(1)の順で制御パターンが移行することになる。これら各パターンの制御は、無効電力が所定の範囲に収まったことが確認されるまで、配電線に沿って順次繰り返される。
【0044】
前記各パターンの制御はいずれも、図8〜図11に示すように、まず制御開始点(Trn)の確定を行う(S20、S30、S40、S50)。ここで、制御開始点(Trn)は、制御開始に係る配電変圧器を示しており、無効電力需要が所定の範囲を超えた場合には、該制御開始点(Trn)から調相制御が開始されることになる。本発明のシステム起動時における制御開始点(Trn)は、例えば配電線における任意の配電変圧器(例えば最も電源側もしくは負荷側の端部に位置する配電変圧器又は当該配電線の中間に位置する配電変圧器など)に設定できるが、無効電力の低減効果の観点からは、当該効果に優れる配電線の最も末端の配電変圧器に設定するのが好ましい。
【0045】
なお、以下の各制御パターンでは、電力線搬送通信などの通信手段を用い、低圧負荷機器の力率調整手段に対して制御指令信号を発信する態様について説明している。しかし、低圧負荷機器が例えば小容量であり、該低圧負荷機器またはこれが備える力率調整手段が表示機能を備える場合には、このような制御指令信号の代わりに、視覚的に表示可能又は聴覚的に告知可能な信号を送信し、低圧負荷機器を所有する電力需要家に対して小容量の低圧負荷機器の全部又は一部における力率調整手段の力率改善用コンデンサを手動にて開閉することを要請するものであってもよい。
【0046】
1.遅れ制御(1)
遅れ制御(1)パターンでは、図8に示すように、制御装置30は、制御開始点(Trn)の確定を行った後(S20)、当該制御御開始点(Trn)の配電変圧器に対して制御指令信号を発する(S21)。この制御指令信号を受けた配電変圧器負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは図4に示した力率調整手段35にて予め設定された無効電力の分だけ遅れ制御動作を行い、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段45において、高力率用コンデンサ47を切り離すように制御される。また、小容量の低圧負荷機器で力率調整手段45および通信機能を有する力率調整手段を備える場合には、前記のインバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合と同様に制御指令信号の入力を受けて高力率用コンデンサを切り離すように制御される。さらに、この遅れ制御(1)パターンにおいては、モータ回路を備え、遅れ力率を示す固定型の低圧負荷機器が稼働中であれば、力率改善及び進み無効電力の低減に貢献することになる。なお、力率調整手段が表示機能を備え、そこに力率調整の要請が表示された場合には、電力需要家は、力率調整手段の力率改善用コンデンサを手動にて切り離すことになる。
【0047】
その後、制御装置30は、所定時間待機する(S22)。この所定時間は、例えば1分間などのように適宜設定できる。そうして、配電線に設置された各種計測手段からの計測結果を取得し、演算によって力率(角)および無効電力を求める(S23)。力率(角)および無効電力の演算については、前記の方法を採用できる。その結果得られる無効電力計測値が所定の範囲から外れていれば、制御開始点(Trn)の配電変圧器が配電線における電源側の末端に位置する(n=1)か否かを判定し(S25)、n=1の場合には制御量最大として遅れ制御MAXを確定させ、そのフラグP1に1を立て(S27)、調相制御を終了させる。また、当該配電変圧器が配電線の末端に位置せず、n=1でない場合には、当該配電線の電源側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S26,S21)。この制御パターンでは、このような所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果に関する判定を順次配電線に沿って電源側に配置された配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、遅れ調相制御は終了する。そして、この最後における配電変圧器が、制御終了点として確定される。仮に制御終了点における遅れ制御を実施することで無効電力計測値が遅れ力率となり、過制御状態となった場合には、前記の制御パターンの移行順に従い、「高力率戻し制御(4)」(後述)を実施することで、過制御状態を解消することができる。また、可能と判断される場合には、制御終了点における一部の大容量低圧負荷機器の力率調整手段を高力率状態に切り換えることで対応してもよい。この制御終了点が、次に制御パターンに移行した場合には、制御開始点として確定される。
【0048】
2.高力率戻し制御(2)
高力率戻し制御(2)の場合、制御装置は、図9に示すように、まず制御開始点(Trn)の確定を行った後(S30)、この制御開始点Trnの配電変圧器に対して高力率戻し制御指令信号を発する(S31)。この信号の授受には、前記遅れ制御(1)の場合と同様に、電力線搬送通信などの通信手段を使用できる。この制御指令信号を受けた配電変圧器の負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは図4に示した力率調整手段にて予め設定された無効電力の分だけ高力率制御動作が行われ、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段において、進み用コンデンサを切り離すように制御される。また、通信機能を備えた小容量の低圧負荷機器についても、前記のインバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合と同様に制御指令信号の入力を受けて進み用コンデンサを切り離すように制御される。そうして、前記遅れ制御(1)の場合と同様に、所定時間だけ経過した後に(S32)無効電力を計測し(S33)、無効電力計測結果が所定の範囲内か否かを判定する(S34)。所定の範囲から外れている場合、配電変圧器が配電線における最も負荷側の末端に位置する(n=N)か否かを判定し(S35)、n=Nの場合には、制御量最大として高力率戻し制御MAXを確定させ、そのフラグP2に1を立て(S37)、調相制御を終了させる。また、n=Nでない場合には、当該配電線の負荷側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S36,S31)。前記遅れ制御(1)の場合と同様に、所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果についての判定を配電線に沿って負荷側に配置された配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、調相制御は終了する。最後の配電変圧器が、制御終了点として確定される。
【0049】
3.進み制御(3)
進み制御(3)パターンでは、図10に示すように、制御装置30は、制御開始点(Trn)の確定を行った後(S40)、当該制御御開始点(Trn)の配電変圧器に対して制御指令信号を発する(S41)。この制御指令信号を受けた配電変圧器の負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは図4に示した力率調整手段35にて予め設定された無効電力の分だけ遅れ制御動作を行い、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段45において、高力率用コンデンサ47を切り離すように制御される。また、小容量の低圧負荷機器で力率調整手段45および通信機能を備える場合には、同様に制御指令信号の入力を受けて高力率用コンデンサ47を切り離すように制御される。また、この制御指令信号は、低圧負荷機器を所有する電力需要家に対して、小容量の低圧負荷機器の力率改善用コンデンサを切り離すように、視覚的に又は聴覚的に告知するようなものであってもよい。この場合、このような要請を受けた電力需要家は、自身が所有しており力率調整手段を備えた小容量の低圧負荷機器の全部又は一部について、当該力率調整手段の力率改善用コンデンサを手動にて切り離すようにする。さらに、この進み制御(3)においては、進み用コンデンサを備え、進み力率を示す固定型の低圧負荷機器が稼働中であれば、力率改善及び遅れ無効電力の低減に貢献することになる。
【0050】
その後、制御装置は、所定時間だけ経過した後(S42)、無効電力を計測する(S43)。力率(角)および無効電力の演算については、前記と同様の方法を採用できる。その結果得られる無効電力計測値が所定の範囲から外れていれば、制御開始点(Trn)の配電変圧器が配電線における電源側の末端に位置する(n=1)か否かを判定し(S45)、n=1の場合には制御量最大として遅れ制御MAXを確定させ、そのフラグP1に1を立て(S27)、調相制御を終了させる。また、当該配電変圧器が配電線の末端に位置せず、n=1でない場合には、当該配電線の電源側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S26、S21)。この制御パターンでは、このような所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果に関する判定を順次配電線に沿って電源側に配置された配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、遅れ調相制御は終了する。そして、この最後における配電変圧器が、制御終了点として確定される。仮に制御終了点における遅れ制御を実施することで無効電力計測値が遅れ力率となり、過制御状態となった場合には、前記の制御パターンの移行順に従い、「高力率戻し制御(2)」(後述)を実施することで、過制御状態を解消することができる。また、可能と判断される場合には、制御終了点における一部の大容量低圧負荷機器の力率調整手段を高力率状態に切り換えることで対応してもよい。この制御終了点が、次に制御パターンに移行した場合には、制御開始点として確定される。
【0051】
(4)高力率戻し制御(4)
高力率戻し制御(4)では、制御装置は、図9に示すように、まず制御開始点(Trn)の確定を行った後(S50)、この制御開始点Trnの配電変圧器に対して高力率戻し制御指令信号を発する(S51)。この信号の授受には、前記各制御パターンの場合と同様に、電力線搬送通信などの通信手段を使用できる。この制御指令信号を受けた配電変圧器の負荷側では、大容量の低圧負荷機器のうち、インバータ装置を有するものは例えば図4に示した力率調整手段にて予め設定された無効電力の分だけ高力率制御動作が行われ、インバータ装置を有しないものは図5(a)に示した力率調整手段において、進み用コンデンサを切り離すように制御される。また、小容量の低圧負荷機器で通信機能を備えたものも、前記のインバータ装置を有しない低圧負荷機器の場合と同様に制御指令信号の入力を受けて進み用コンデンサを切り離すように制御される。そうして、前記遅れ制御(1)の場合と同様に、所定時間だけ経過した後に(S32)無効電力を計測し(S33)、無効電力計測結果が所定の範囲内か否かを判定する(S34)。所定の範囲から外れている場合、配電変圧器が配電線における最も負荷側の末端に位置する(n=N)か否かを判定し(S55)、n=Nの場合には、制御量最大として高力率戻し制御MAXを確定させ、そのフラグP2に1を立て(S57)、調相制御を終了させる。また、n=Nでない場合には、当該配電線の負荷側に隣り合う配電変圧器に移行し、これを介してその負荷側に制御指令信号を発信する(S56、S51)。前記高力率戻し制御(2)の場合と同様に、所定時間待機、無効電力計測、当該計測結果についての判定を配電線に沿って制御開始点から負荷側に向け、当該配電線上の配電変圧器について順次繰り返し、無効電力計測値が所定の不感帯の範囲内に収まったところで、調相制御は終了する。最後の配電変圧器が、制御終了点として確定される。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、図10を参照して、前記の進み制御または遅れ制御について具体的に説明する。この図では、説明の便宜上、配電線に配置されている配電変圧器には電源側から末端に向かって通し番号を含む記号を付し、Tr1、Tr2、Tr3、・・・、Trm+5のように表示することとする(図10参照)。無効電力計測値が進相方向に所定の範囲を超えた場合、制御開始点である末端の配電変圧器Trm+5に対して遅れ制御(1)パターンの制御指令信号が発せられて遅れ制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って電源側に隣接する配電変圧器Trm+4に対して遅れ制御(1)指令信号が発せられる。このように配電線上を電源側に調相制御が順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器が制御終了点となる。ここで、仮に制御終了点をTrmであるとする(図12(a)参照)。
【0054】
遅れ制御(1)中に無効電力計測値が遅相方向に所定の範囲を超えた場合には、制御開始点となる配電変圧器Trmに対して高力率戻し制御(4)指令信号が発せられて高力率制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って今度は末端側に隣接する配電変圧器Trm+1に対して高力率制御指令信号が発せられる。このように制御が末端方向に順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器(制御終了点)を、仮にTrm+5とする(図12(b)参照)。
【0055】
次に、無効電力計測値が遅相方向に所定の範囲を超えた場合には、制御開始点となる配電変圧器Trm+5に対して進み制御(3)指令信号が発せられて進み制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って今度は電源側に隣接する配電変圧器Trm+4に対して進み制御(3)指令信号が発せられる。このように制御が電源側に向けて順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器(制御終了点)を仮にTrm−1とする(図12(c)参照)。
【0056】
進み制御(3)中に無効電力計測値が遅相方向に所定の範囲を超えた場合には、制御開始点である配電変圧器Trm−1に対して高力率戻し制御(2)指令信号が発せられて高力率制御が開始される。制御指令信号発信から所定の時間経過後に無効電力が計測され、その結果が所定の範囲に収まっていない場合には、配電線に沿って今度は末端側に隣接する配電変圧器Trmに対して高力率制御指令信号が発せられる。このように制御が負荷側の末端に向けて順次移行していき、無効電力計測値が所定の範囲に収まったところで、当該制御は終了する。この制御終了時の配電変圧器(制御終了点)を、例えばTrm+5となる(図12(d)参照。このように、遅れ制御(1)の場合には、配電線に沿って電源側に向けて順に配電変圧器に制御指令信号が発せられるのに対して、高力率戻し制御(4)の場合は負荷側の末端に向けて配電変圧器に順に制御指令信号が発せられることになる。また、進み制御(3)の場合も同様に、電源側に向けて順に配電変圧器に制御指令信号が発せられるのに対して、高力率戻し制御(2)の場合、負荷側の末端に向けて配電変圧器に順に制御指令信号が発せられることになる。
【0057】
図13(b)は、本発明の配電線無効電力調整システムを活用した場合の無効電力調整の一例を示している。図13(a)に示すような無効電力需要に対して、本発明の配電線無効電力調整システムでは、夜間10時から翌午前8時までの間および午前12時から午後1時の間は遅れ制御が、また午前10時〜12時、午後1時〜4時の間は進み制御が実施され、その他の時間帯は特に調相制御が実施されない状態か、高力率制御状態を示している。このように本発明によれば、配電線における無効電力の低減が図られ、電力需要家における受電端電圧も改善され、配電線の電力損失の低減が図られることになる。
【0058】
図14は、本発明の配電線無効電力調整システムの無効電力調整の別の例を示す図であり、(a)は一般的な配電線の無効電力需要曲線を単純化して図示したものであり、(b)はさらに固定型や手動切換型の小容量の低圧負荷機器についての調相制御を制御指令信号に応じた自動調相制御とは別に示した制御パターンの例を示している。この図において、斜線部分65a,66aが固定型及び手動切換型の低圧負荷による無効電力調整分(図中、「認定無効分(固定分)」と表示。)を示している。手動切換型の低圧負荷機器は、前記したように、一般電気事業者からの告知、要請により、電力需要家サイドで力率調整手段を手動で作動させることで、力率調整を実施するものである。図14に示すように、手動切換型や固定型の低圧負荷機器についての調相制御分をベースとし、その上に自動調相制御分65,66を上乗せするような制御が可能となる。
【0059】
以上説明したように、本発明の配電線の無効電力調整システム及び無効電力調整方法を用いることで、安価かつ簡単に、しかも効果的に配電線の力率を高く維持でき無効電力の低減を図ることができる。また、配電線の線路損失が低減できるとともに、高調波の吸収率が高いので高調波に起因する焼損事故も低減でき、CO2の削減にも貢献し得る。さらに、本発明では、制御装置から大容量の低圧負荷機器への制御指令信号の送信を従来公知の電力線搬送通信などにより行うことができるので、通信費用を安価に抑えることができる。また、特に電力線搬送通信可能な配電線であれば、低圧負荷機器の力率調整手段の付加および制御装置を設置することで、この既存の配電線に簡単かつ安価に本発明のシステムを追加構築することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 配電線無効電力調整システム
10 母線
11 配電線
12 遮断器
13、16 計器用変圧器(計測手段)
14 変流器(計測手段)
13a、14a、16a 信号線
15、17、19、21、23、25 配電変圧器
30 制御装置
31、34 制御信号線
32 電力線搬送中継装置
33 電力線搬送装置(親局)
35 インバータ装置
35a AC/DCコンバータ部
35b DC/DCコンバータ部
39 モータ回路
41 力率調整回路
45、49 力率調整手段
46 進み用コンデンサ
47、50 力率改善用コンデンサ
L1〜L6 低圧負荷(機器)
L7〜L9 低圧負荷機器の誘導性リアクタンス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無効電力及び力率を求めるために配電線の所定位置に設置される計測手段と、
当該計測手段の計測結果に基づいて定期的に求めた無効電力が所定の範囲を外れている場合に制御指令信号を発する制御装置と、前記配電線に配置された各配電変圧器を介してその負荷側の低圧配電線の末端に接続される複数の低圧負荷機器の全部または一部にそれぞれ設けられる力率調整手段と、
前記計測手段と前記制御装置との間、および前記各力率調整手段と前記制御装置との間で信号の授受を可能にする通信手段とを備え、
前記配電変圧器ごとに前記制御指令信号の入力を受けた前記各力率調整手段が作動することで行われる調相制御が前記配電線の無効電力を消費、低減するように前記配電線に沿って順次実施されるようにしたことを特徴とする配電線の無効電力調整システム。
【請求項2】
前記各低圧負荷機器は、その稼働パターンに応じて、または当該各低圧負荷機器の稼働パターンおよび容量の大小に応じて異なる調相制御を行うように構成されてなる請求項1に記載の配電線の無効電力調整システム。
【請求項3】
前記調相制御は、それが進み制御である場合と、遅れ制御である場合とで、前記配電線に沿って逆向きに順次実施されるものである請求項1または2に記載の配電線の無効電力調整システム。
【請求項4】
配電線に配置された個々の配電変圧器に接続されている複数の低圧負荷機器の一部または全部に力率調整手段を設けておき、当該配電線路の力率及び無効電力を定期的に把握し、所定範囲を超える進みまたは遅れ無効電力を検出したときは、前記配電変圧器ごとに前記配電線の無効電力を消費、低減するように前記力率調整手段を作動させる調相制御を前記配電線路に沿って順次実施するようにしたことを特徴とする配電線の無効電力調整方法。
【請求項5】
前記各低圧負荷機器は、その稼働パターンに応じて、または当該各低圧負荷機器の稼働パターンおよび容量の大小に応じて異なる調相制御を行うように構成されてなる請求項4に記載の配電線の無効電力調整方法。
【請求項6】
前記調相制御は、それが進み制御である場合と、遅れ制御である場合とで、前記配電線に沿って逆向きに順次実施されるものである請求項4または5に記載の配電線の無効電力調整方法。
【請求項1】
無効電力及び力率を求めるために配電線の所定位置に設置される計測手段と、
当該計測手段の計測結果に基づいて定期的に求めた無効電力が所定の範囲を外れている場合に制御指令信号を発する制御装置と、前記配電線に配置された各配電変圧器を介してその負荷側の低圧配電線の末端に接続される複数の低圧負荷機器の全部または一部にそれぞれ設けられる力率調整手段と、
前記計測手段と前記制御装置との間、および前記各力率調整手段と前記制御装置との間で信号の授受を可能にする通信手段とを備え、
前記配電変圧器ごとに前記制御指令信号の入力を受けた前記各力率調整手段が作動することで行われる調相制御が前記配電線の無効電力を消費、低減するように前記配電線に沿って順次実施されるようにしたことを特徴とする配電線の無効電力調整システム。
【請求項2】
前記各低圧負荷機器は、その稼働パターンに応じて、または当該各低圧負荷機器の稼働パターンおよび容量の大小に応じて異なる調相制御を行うように構成されてなる請求項1に記載の配電線の無効電力調整システム。
【請求項3】
前記調相制御は、それが進み制御である場合と、遅れ制御である場合とで、前記配電線に沿って逆向きに順次実施されるものである請求項1または2に記載の配電線の無効電力調整システム。
【請求項4】
配電線に配置された個々の配電変圧器に接続されている複数の低圧負荷機器の一部または全部に力率調整手段を設けておき、当該配電線路の力率及び無効電力を定期的に把握し、所定範囲を超える進みまたは遅れ無効電力を検出したときは、前記配電変圧器ごとに前記配電線の無効電力を消費、低減するように前記力率調整手段を作動させる調相制御を前記配電線路に沿って順次実施するようにしたことを特徴とする配電線の無効電力調整方法。
【請求項5】
前記各低圧負荷機器は、その稼働パターンに応じて、または当該各低圧負荷機器の稼働パターンおよび容量の大小に応じて異なる調相制御を行うように構成されてなる請求項4に記載の配電線の無効電力調整方法。
【請求項6】
前記調相制御は、それが進み制御である場合と、遅れ制御である場合とで、前記配電線に沿って逆向きに順次実施されるものである請求項4または5に記載の配電線の無効電力調整方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−105488(P2012−105488A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253296(P2010−253296)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
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