説明

酸化インジウム錫スパッタリングターゲット及びこれを利用して作製される透明伝導膜

【課題】優れたエッチング加工性を有することで下部材料及びその他物質の侵食を発生させず、且つ残渣などの諸問題を生じさせない透明伝導膜とこれを形成することができるスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】本発明は、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)及びガリウムを含み、錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して5ないし15原子%であり、ガリウム原子の含有率が、インジウム原子、錫原子及びガリウム原子の合計に対して0.5ないし7原子%であることを特徴とする酸化インジウム錫スパッタリングターゲットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウム錫スパッタリングターゲット及びこれを利用して作製される透明伝導膜に係り、より詳しくは、光学的、電気的特性に優れ、且つエッチング加工性に優れた透明伝導膜及びこれを得るための酸化インジウム錫スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LCD、PDP、ELDなどの平面ディスプレイや太陽電池の電極材料として使用される透明伝導膜としては、酸化インジウムに錫をドープしてなる酸化インジウム錫(ITO)膜が広範に使用されている。ITO膜は、透明性、伝導性などに優れているだけでなく、エッチング加工が可能であり且つ基板との密着性に優れているという利点がある。
【0003】
ITO膜は、成膜後に回路パターンを形成する際、強酸、王水などでエッチング加工されるが、このとき、薄膜型トランジスターの配線材料であるアルミニウムが腐食するおそれが大きいという問題点がある。そこで、上記配線材料に悪影響を及ぼすことなくエッチング加工を実施することができる透明伝導膜の開発が要求されてきている。
【0004】
このような要求に応じて、エッチング特性に優れた非晶質ITO膜を形成する方法が提案された。成膜の際に、低温雰囲気下で投入ガスを水素や水と一緒に投入して非晶質ITO膜を成膜し、該非晶質ITO膜を弱酸でエッチングすることで、パターニング特性を向上させ、下部配線の侵食を防止することが可能になった。しかしながら、この種の方法では、スパッタリングの際に投入された水素または水によって異常放電が起こることで、ITOターゲット上にノジュール(Nodule)と呼ばれる異常突起を発生させ、膜に局所的な高抵抗を引き起こす不純物の凝集体の形成を誘発させるという問題点があった。これ以外にも、基板との密着性の低下、接触抵抗の増加、エッチング後の残渣の問題などが報告されている。
【0005】
他の方法として、非晶質膜形成用ターゲット材料として、酸化インジウム亜鉛(IZO)が考案されているが、この材料は、ITOに比べて比抵抗と透過率特性が悪く且つ高価であることが知られている。さらに、酸化インジウム亜鉛は、アルミニウムのエッチング剤でも溶解する性質があることから、透明電極上に反射電極を備える構成を採用する場合には、その使用が困難であるという限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような背景下で案出されたものであって、その目的は、優れたエッチング加工性を有することで下部材料及びその他物質の侵食を発生させず、且つ残渣などの諸問題を生じさせない透明伝導膜とこれを形成することができるスパッタリングターゲットを提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、比抵抗が低くて透過率が高いため優れた電気的及び光学的特性を示す酸化インジウム錫透明伝導膜及びこれを形成することができるスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)及びガリウムを含み、錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して5ないし15原子%であり、ガリウム原子の含有率が、インジウム原子、錫原子及びガリウム原子の合計に対して0.5ないし7原子%であることを特徴とする酸化インジウム錫スパッタリングターゲットを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記スパッタリングターゲットをスパッタリングして透明伝導膜を蒸着することを特徴とする酸化インジウム錫透明伝導膜の作製方法を提供する。第1の温度でスパッタリングして非晶質透明伝導膜を蒸着し、蒸着された非晶質透明伝導膜を弱酸でエッチングしてパターニングした後、パターニングされた非晶質透明伝導膜を上記第1の温度よりも高い第2の温度下で結晶化させて、高耐久性の酸化インジウム錫透明伝導膜を作製することができる。
【0010】
また、本発明は、結晶化温度が、150ないし210℃、または170ないし210℃であることを特徴とする酸化インジウム錫透明伝導膜を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記酸化インジウム錫透明伝導膜を透明電極として有することを特徴とする液晶表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記構成によれば、本発明の透明伝導膜では、弱酸でエッチングが可能であるため、従来のターゲットにおいて強酸エッチングのために必然的に生じていた下部配線の侵食発生及びエッチング後の残渣の発生を防止することができる。
【0013】
また、本発明の透明伝導膜は、比抵抗が低くて光透過率に優れている。LCDのTFTアレイ工程において、エッチング工程までは非晶質膜を保持して優れたエッチング特性を示し、後工程の熱処理によって結晶化されながら、低抵抗及び高耐久性を有するようになる。この結果、本発明の透明伝導膜は、高耐久性、低抵抗が要求される液晶表示素子などの各種の表示装置の透明電極として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。
【図2】比較例1に係る透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。
【図3】比較例2に係る透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。
【図4】酸化インジウム錫スパッタリングターゲットのガリウムの含有率による、作製された透明伝導膜の比抵抗の変化を示す図である。
【図5】ガリウムの含有率が3原子%であるターゲットから作製された透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。
【図6】ガリウムの含有率が6.5原子%であるターゲットから作製された透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。
【図7】本発明の透明伝導膜を透明電極として有する液晶表示装置の製造工程を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の酸化インジウム錫スパッタリングタターゲットは、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)、及びガリウムを含む。
【0016】
錫原子の含有率は、好ましくは、インジウム原子及び錫原子の合計に対して5〜15原子%であり、より好ましくは、7〜10原子%であり、さらに好ましくは、9〜10原子%である。
【0017】
ガリウムは、ガリウムまたはガリウム化合物(例えば、ガリウム酸化物)の形態で酸化インジウム錫にドープされ、このとき、ガリウム原子の含有率は、好ましくは、インジウム原子、錫原子及びガリウム原子の合計に対して0.5ないし7原子%であり、より好ましくは、3〜6.5原子%である。
【0018】
一実施例によれば、本発明のスパッタリングターゲットは、スラリー混合物を用意するステップ、スラリー混合物を湿式ミリングし乾燥して顆粒粉末を作るステップ、顆粒粉末を成形して成形体を作るステップ、及び成形体を焼結するステップにより作製されていてもよい。
【0019】
上記スパッタリングターゲットを使用して蒸着された透明伝導膜は、非晶質状態で優れたエッチング性を有し、また、好ましくは、150〜210℃、または170〜210℃の温度区間で非晶質から結晶質へと相変化が発生することで、ドメイン構造が形成される特徴を有する。即ち、本発明の透明伝導膜の結晶化温度は、150〜210℃、または170〜210℃であることが好ましい。
【実施例】
【0020】
下表1に示す実施例1ないし実施例3において、スパッタリングターゲットは、酸化インジウム、酸化錫及びガリウムからなるスパッタリングターゲットであって、錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して9原子%であり、ガリウム原子の含有率が、インジウム原子、錫原子及びガリウム原子の合計に対して3〜6原子%であるスパッタリングターゲットである。
【0021】
上記スパッタリングターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、ガラス基板上に透明伝導膜を形成させた。このときのスパッタリング条件は、アルゴンガスに少量の酸素ガスを混入してなる混合ガスの雰囲気下、基板温度を100℃とした。その結果、約800Åの厚さを有する透明伝導膜が得られた。
【0022】
実施例2に係る透明伝導膜を、XRD分析を行った結果、図1に示すように、結晶性ピークは現れなかった。
【0023】
また、基板温度100℃で蒸着した薄膜に対して、それぞれ大気中で170℃、210℃で熱処理を施した。その結果、170℃で熱処理を施した薄膜では、結晶性ピークが現われないのに対し、210℃で熱処理を施した薄膜では、結晶性ピークが観察されており、このときの薄膜比抵抗は、2.6×10−4Ωcmと測定された。
【比較例1】
【0024】
比較例1に係るスパッタリングターゲットは、酸化インジウム及び酸化錫からなるスパッタリングターゲットであって、錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して9原子%であるスパッタリングターゲットである。
【0025】
前述した実施例と同じ条件にて透明伝導膜を作製し、熱処理を施した。これを、XRD分析を行った結果、図2に示すように170℃及び210℃で熱処理を施した薄膜だけでなく、100℃で蒸着した薄膜でも結晶性ピークが観察された。
【比較例2】
【0026】
比較例2に係るスパッタリングターゲットは、酸化インジウム及び酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲットであって、亜鉛原子の含有率が、インジウム原子及び亜鉛原子の合計に対して17原子%であるスパッタリングターゲットである。
【0027】
前述した実施例と同じ条件にて透明伝導膜を作製し、熱処理を施した。これを、XRD分析を行った結果、図3に示すように170℃及び210℃で熱処理を施した薄膜だけでなく、100℃で蒸着した薄膜でも結晶性ピークが全く観察されないことを確認することができた。
【0028】
下表1は、上記実施例及び比較例に係る光透過率、比抵抗、及び膜結晶化温度を測定した結果を表している。
【0029】
【表1】

【0030】
上記表1から、実施例に係る透明伝導膜に比較して、比較例1に係るITO透明伝導膜は、膜結晶化温度が非常に低いためエッチング性が悪いことが分かる。また、比較例2に係るIZO透明伝導膜は、膜結晶化温度が低くないにもかかわらず、光透過率や比抵抗特性が悪いことが分かる。
【0031】
これに対し、本発明の実施例に係る透明伝導膜は、210℃で熱処理を施した場合、100℃で成膜された透明伝導膜に比較して、光透過率は向上して比抵抗は低くなることが分かる。
【0032】
本発明によるスパッタリングターゲットを利用して作製された透明伝導膜は、様々な分野において活用できるが、特に液晶表示装置の透明電極としての使用に好適な特性を示している。
【0033】
図4は、酸化インジウム錫スパッタリングターゲットのガリウムの含有率による、作製された透明伝導膜の比抵抗の変化を示す図である。図5は、ガリウムの含有率が3原子%であるターゲットから作製された透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。図6は、ガリウムの含有率が6.5原子%であるターゲットから作製された透明伝導膜のXRD分析結果を示す図である。
【0034】
図示したように、ガリウム含有率が3原子%未満である場合は、結晶化温度が170℃以下と低くなって170℃でも結晶性ピークが観察されず(図5)、ガリウム含有率が6.5原子%を超える場合は、210℃でも結晶化がなされず(図6)、高い比抵抗値を有することが分かる。
【0035】
一般に、液晶表示装置は、図7に示すように、TFTアレイ工程及びカラーフィルタ工程と液晶工程とモジュール工程を経て製造される。
【0036】
TFTアレイ工程では、透明電極の蒸着及びパターニングが行われ、通常、150℃未満または170℃未満でTFTアレイ工程が行われる。TFTアレイ基板及びカラーフィルタ基板の作製が完了すると、引き続き、液晶工程のような後工程が行われ、通常、後工程では、150〜210℃または170〜210℃の間で少なくとも一部の工程が行われる。
【0037】
このため、上記TFTアレイ工程が行われる温度を第1の温度(例えば、170℃未満)とし、後工程が行われる温度を第2の温度(例えば、170〜210℃)とするとき、第1の温度では透明電極が非晶質状態を保持し、第2の温度ではじめて結晶質状態へと相変化すると、パターニング加工性、光学的特性、電気的特性などで非常に利点を持つことができる。
【0038】
即ち、TFTアレイ工程では非晶質状態を保持してエッチング加工性を極大化させ、エッチングが完了した後の後工程では結晶質状態へと相変化して、光透過性、伝導性及び耐久性を極大化させることができるようになる。
【0039】
具体的に説明すると、第1の温度でスパッタリングして非晶質透明伝導膜を蒸着した後、該蒸着された非晶質透明伝導膜を弱酸でエッチングしてパターニングすることでTFTアレイ基板を作製し、引き続く後工程において、パターニングされた非晶質透明伝導膜が上記第1の温度よりも高い第2の温度下で結晶化される。
【0040】
液晶表示装置の製造工程では、第2の温度が前述した後工程から得られるが、実施例によっては、結晶化のみのための別途の熱処理を施すこともできることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)及びガリウムを含み、
錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して5ないし15原子%であり、
ガリウム原子の含有率が、インジウム原子、錫原子及びガリウム原子の合計に対して0.5ないし7原子%であることを特徴とする酸化インジウム錫スパッタリングターゲット。
【請求項2】
錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して7ないし10原子%であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウム錫スパッタリングターゲット。
【請求項3】
錫原子の含有率が、インジウム原子及び錫原子の合計に対して9ないし10原子%であることを特徴とする請求項2に記載の酸化インジウム錫スパッタリングターゲット。
【請求項4】
ガリウム原子の含有率が、インジウム原子、錫原子及びガリウム原子の合計に対して3ないし6.5原子%であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウム錫スパッタリングターゲット。
【請求項5】
液晶表示装置の透明電極蒸着用スパッタリングターゲットであることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウム錫スパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットをスパッタリングして透明伝導膜を蒸着することを特徴とする酸化インジウム錫透明伝導膜の作製方法。
【請求項7】
第1の温度でスパッタリングして非晶質透明伝導膜を蒸着することを特徴とする請求項6に記載の酸化インジウム錫透明伝導膜の作製方法。
【請求項8】
蒸着された非晶質透明伝導膜を弱酸でエッチングしてパターニングするステップを含むことを特徴とする請求項7に記載の酸化インジウム錫透明伝導膜の作製方法。
【請求項9】
パターニングされた非晶質透明伝導膜が上記第1の温度よりも高い第2の温度下で結晶化されるステップを含むことを特徴とする請求項8に記載の酸化インジウム錫透明伝導膜の作製方法。
【請求項10】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットをスパッタリングして蒸着され、
結晶化温度が150ないし210℃であることを特徴とする酸化インジウム錫透明伝導膜。
【請求項11】
結晶化温度が170ないし210℃であることを特徴とする請求項10に記載の酸化インジウム錫透明伝導膜。
【請求項12】
液晶表示装置の透明電極であることを特徴とする請求項10に記載の酸化インジウム錫透明伝導膜。
【請求項13】
請求項12に記載の酸化インジウム錫透明伝導膜を透明電極として有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94232(P2011−94232A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243669(P2010−243669)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(502411241)サムスンコーニング精密素材株式会社 (80)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Corning Precision Materials Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】644−1 Jinpyeong−dong, Gumi−si,Gyeongsangbuk−do 730−360,Korea
【Fターム(参考)】