説明

酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化タングステンを含有する高酸性度組成物、この調製方法、ならびに排気ガスの処理におけるこの使用

本発明は、ジルコニウム、チタンおよびタングステンの酸化物とならびに場合によりケイ素、アルミニウム、鉄、モリブデン、マンガン、亜鉛、スズおよび希土類から選択される元素Mの酸化物とを含有し、前記種々の元素の質量比率が、酸化チタン:20%から50%;酸化タングステン:1%から20%,M元素の酸化物:1%から20%;酸化ジルコニウムからなる残分である組成物に関する。本発明の組成物は、液体媒体中にジルコニウム化合物、チタン化合物および場合によりM元素化合物および塩基性化合物を投入する段階と;これにより得られた沈殿物の懸濁液にタングステン化合物を加えて1から7の間のpHを有する段階と;前段階で得た懸濁液を熟成させる段階と;沈殿物を場合により分離し、および、これを焼成する段階とによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化タングステンを主成分とする高酸性度組成物、この調製方法、ならびに特に排気ガスの処理におけるこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンからの排気ガスを処理するために、これらのガス中に含有される一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)の酸価を触媒する作用を有する酸価触媒を使用することが知られている。しかし、最新のディーゼルエンジンは、以前のエンジンよりも高いCOおよびHC濃度を有するガスを発生する。さらに、汚染規制基準の厳格化の結果、将来ディーゼルエンジンの排気ラインに粒子フィルターが取り付けられることになる。しかし、これらのフィルターの再生を誘発するのに十分高くまで排気ガス温度を上昇させるためにも触媒が使用される。従って、より高い汚染物質濃度を有するガスを処理する必要があるため改善された有効性を有し、フィルターの再生中により高い高温にこれらの触媒がさらされるおそれがあるため改善された耐温度性も有する触媒が必要とされていることが理解される。
【0003】
尿素またはアンモニア水溶液によって酸化窒素(NOx)が還元されることによってディーゼルエンジンガスが処理される場合、ある程度の酸性度を有し、さらにこの場合もある程度の耐温度性を有する触媒が必要とされていることも知られている。
【0004】
最後に、硫酸化に対してあまり敏感でない性能特性を有する触媒も必要とされていることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、これらの要求を満たす触媒の製造に使用可能な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため、本発明による組成物は、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化タングステンを主成分とし、これらの種々の成分の質量比率は、
酸化チタン:20%から50%
酸化タングステン:1%から20%
残分の酸化ジルコニウムであり、さらに、メチルブチノール試験によって測定される酸性度が少なくとも90%であることを特徴とする。
【0007】
本発明の別の一実施形態によると、本発明の組成物は、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化タングステンならびにケイ素、アルミニウム、鉄、モリブデン、マンガン、亜鉛、スズおよび希土類から選択される別の元素Mの少なくとも1種類の酸化物とを主成分とし、これらの種々の成分の質量比率は、
酸化チタン:20%から50%
酸化タングステン:1%から20%
元素Mの酸化物:1%から20%
残分の酸化ジルコニウムであり、さらに、メチルブチノール試験によって測定される酸性度が少なくとも90%であることを特徴とする。
【0008】
この酸性度から、本発明の組成物は、これが使用される製造中の触媒に良好な触媒活性を付与する。
【0009】
さらに、別の利点として、本発明の組成物は、硫酸化に対する改善された抵抗性を有する。
【0010】
本発明のその他の特徴、詳細および利点は、以下の説明と、この説明を目的として意図された種々の具体的で非限定的な実施例とを読めばより十分に明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明のため、用語「比表面積」は、「The Journal of the American Chemical Society,60,309(1938)」に記載のブルナウアー−エメット−テラー(Brunauer−Emmett−Teller)法で確立されたASTM D3663−78規格に準拠して窒素吸着によって求められるBET比表面積を意味するものと理解されたい。
【0012】
用語「希土類」は、イットリウムと、元素周期表の原子番号57から71の間(両端の値を含む。)とのグループの元素を意味するものと理解されたい。
【0013】
参照される元素周期表は、「Supplement au Bulletin de la Societe Chimique de France」[仏国化学会会報の補足],No.1(1966年1月)で出版された元素周期表である。
【0014】
さらに、その終了時に表面積値が得られる焼成は、空気中での焼成である。
【0015】
所与の温度および時間で示される比表面積値は、特に明記されない限り、示される時間にわたってある温度で維持される空気中の焼成と対応している。
【0016】
特に明記されない限り、含有率は、質量を基準とし酸化物として示される。
【0017】
また以下の説明において、特に明記しない限り、提供される値の範囲内において、これらの値は上限値および下限値を含んでいる。
【0018】
本発明による組成物は、これらの構成要素の性質によってまず第一に特徴付けられる。
【0019】
前述したように、これらの組成物は、記載の比率の酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)および酸化タングステン(WO)を主成分とする。
【0020】
酸化ジルコニウムの比率は、さらに特に少なくとも40%であってよく、特に40%から60%の間であってよい。
【0021】
一変形によると、酸化ジルコニウムの比率が50%から55%の間、酸化チタンの比率が30%から35%の間、酸化タングステンの比率が5%から10%の間であってよく、この変形は本発明の2つの実施形態に適用される。
【0022】
元素Mに関して、この含有率は、さらに特に1%から10%の間であってよい。
【0023】
元素Mの最高含有率、即ち10%から20%の範囲内は、好ましくはこの元素がケイ素である場合に適用される。
【0024】
希土類の場合、元素Mは、さらに特にセリウムおよびイットリウムであってよい。
【0025】
最後に留意すべきことは、本発明の組成物が1種類以上の元素Mの組み合わせを含むことができ、数種類の元素Mが存在する場合、これらの元素を合わせた含有率が依然として前述の1%から20%の範囲内にあるものと理解されたい。数種類の元素Mを有する組成物の例として、ジルコニウム、チタンおよびタングステンの酸化物以外に、酸化ケイ素と希土類元素の酸化物とを含み、この希土類元素は場合により、特にセリウムである、または酸化ケイ素と酸化鉄とを含む、または酸化ケイ素と酸化マンガンとを含む、または酸化セリウムと酸化マンガンとを含む組成物を挙げることができる。
【0026】
本発明の組成物の重要な特徴の1つはこれらの酸性度である。この酸性度は後述するメチルブチノール試験によって測定され、少なくとも90%であり、さらに特に少なくとも95%であってよい。
【0027】
この酸性度は、酸活性度によっても評価することができ、この酸活性度もメチルブチノール試験によって測定され、この表面とは独立した生成物の酸性度を特徴付ける。
【0028】
この酸活性度は、少なくとも0.05mmol/h/m、さらに特に少なくとも0.075mmol/h/mである。さらに特に少なくとも0.09mmol/h/m、特に少なくとも0.13mmol/h/mであってよい。
【0029】
本発明の組成物は、大きな比表面積を有する。この表面積は、実際には750℃で2時間焼成後に少なくとも50m/gとなることができる。元素Mがケイ素および/またはアルミニウムである組成物の場合、この表面積は、同一条件下で測定して、特に少なくとも100m/gとなることができる。後者の組成物の場合、この表面積は、950℃で2時間焼成後に少なくとも40m/gとなることができる。
【0030】
本発明の組成物は、これらの配合物を構成する種々の元素の酸化物の混合物の形態であってよい。本発明の組成物中に存在する種々の相はX線回折技術によって検出することができる。
【0031】
しかし、好都合な一変形によると、タングステン、および適切であればM元素は、これらの対応する酸化物の形態で存在しなくてもよく、その場合これらは、組成物の他の元素との固溶体中に存在することを示す。
【0032】
さらに好都合な一変形によると、これらの組成物は、750℃で2時間焼成した後でも固溶体の形態で存在することができる。これによって、タングステン、および適切であればM元素は、後者の変形の場合には、組成物中のジルコニウムおよびチタンの相対量に依存するZrTiO、正方晶ジルコニア、またはアナタース型酸化チタンであってよい1つの結晶相である1つの相中の固溶体中に存在するものと理解される。この特性は、組成物のX線回折分析によって実証することができる。この場合のXRD図にはタングステンまたはM元素の酸化物に対応するピークが見られず、例えば前述の種類のような1種類の結晶層の存在のみが示される。
【0033】
本発明の組成物は、非常に低くなることができるサルフェート含有率も有することができる。この含有率は、最高800ppm、さらに特に最高500ppm、尚さらに特に最高100ppmとなることができ、この含有率は、組成物全体に対するSOの質量で表される。この含有率は、LECOまたはELTRA型の装置によって、即ち誘導炉内での生成物の触媒酸化を使用する技術によって、ならびに形成されたSOのIR分析によって測定される。
【0034】
さらに、本発明の組成物は、非常に低くなることができる塩素含有率を有することもできる。この含有率は、最高500ppm、特に最高200ppm、より正確には最高100ppm、さらに特に最高50ppm、尚さらに特に最高10ppmとなることができる。この含有率は、組成物全体に対するClの質量で表される。
【0035】
最後に、本発明の組成物は、最高500ppm、特に最高200ppm、さらに特に最高100ppm、尚さらに特に最高50ppmのアルカリ金属元素、特にナトリウムの含有率を有することもできる。この含有率は、組成物全体に対する元素の質量、例えばNaの質量で表される。
【0036】
これらの塩素およびアルカリ金属の含有率は、イオンクロマトグラフィー技術によって測定される。
【0037】
本発明の組成物の調製方法をこれより説明する。
【0038】
この方法は、第1の実施形態によると、
(a)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物と、場合により元素Mの化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b)段階(a)で得た沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a)で得た懸濁液から出発して、これにタングステン化合物を加えて媒体のpHを1から7の間の値に調整するかまたはこの方法で形成された懸濁液のpHを1から7の間の値に調整してこれにタングステン化合物を加えるかのいずれかを行う段階と;
(c)前段階で得た懸濁液について熟成作業を行う段階と;
(d)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階と
を含むことを特徴とする。
【0039】
従って、この方法の第1の段階は、液体媒体中にて、ジルコニウム化合物とおよびチタン化合物とならびに第2の実施形態の場合には元素Mの化合物とを1つにまとめることからなる。これらの種々の化合物は、所望の最終組成を得るために必要な化学量論量で存在する。
【0040】
液体媒体は一般に水である。
【0041】
上記化合物は好ましくは可溶性化合物である。ジルコニウム化合物およびチタン化合物は、特にオキシサルフェートまたはオキシニトレートであってよいが、好ましくはこれらの2つの元素の場合はオキシクロライドが使用される。
【0042】
元素Mの化合物に関して、ケイ素の場合は、アルカリ金属ケイ酸塩を使用することができ、さらに特にケイ酸ナトリウムを挙げることができる。ケイ素は、例えばモリソンズ・ガス・リレーテッド・プロダクツ・リミテッド(Morrisons Gas Related Products Limited)およびグレース・デービソン(Grace Davison)よりそれぞれ販売されるモリゾル(MORRISOL)またはルドックス(LUDOX)などのシリカゾル、またはテトラエチルオルトケイ酸ナトリウム(TEOS)、カリウムメチルシリコネート、または類似のメチルシリコネートなどの有機金属化合物によって供給することもできる。
【0043】
アルミニウムの場合は、硝酸アルミニウムAl(NO、アルミニウムクロロハイドレートAl(OH)ClまたはベーマイトAlO(OH)を使用することができる。
【0044】
希土類、鉄、スズ、亜鉛およびマンガンの場合は、これらの元素の無機塩または有機塩を使用することができる。塩化物または酢酸塩、特に硝酸塩を挙げることができる。さらに特に、塩化スズ(II)または塩化スズ(IV)または硝酸亜鉛を挙げることができる。
【0045】
最後に、モリブデンの場合は、七モリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを使用することができる。
【0046】
塩基性化合物として、水酸化物またはカーボネート型生成物を使用することができる。アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物およびアンモニアを挙げることができる。第2級、第3級または第4級のアミンを使用することもできる。尿素を挙げることもできる。特に水酸化ナトリウムを使用することができる。
【0047】
種々の化合物を1つにまとめる段階は、種々の方法で行うことができる。好ましくは種々の化合物は、水、ジルコニウム化合物、チタン化合物、続いてケイ素化合物、および場合により元素Mの化合物の順序で導入することができ、続いてこのようにして形成された媒体を塩基性化合物と接触させる。
【0048】
本発明の方法のこの段階において、即ちこの沈殿段階の時点で、この方法の実施および固溶体の形態の組成物の生成を促進する種類の添加剤、例えばサルフェート、ホスフェートまたはポリカルボキシレートを使用することができる。
【0049】
過酸化水素の存在下でこの第1の段階を実施したり、この第1の段階の終了直後に過酸化水素を加えたりすることもでき、これによっても本発明の方法の実施が促進される。
【0050】
本発明の方法の段階(a)は、特に15℃から80℃の間の温度で行うことができる。
【0051】
好ましくは第2の段階(b)を実施する前に、段階(a)で得た沈殿物が分離され、この分離は、例えば濾過、沈降、乾燥または遠心分離などのあらゆる従来の固液分離技術によって行うことができる。このようにして分離された沈殿物は、次に場合により水などで洗浄して、再び水中に懸濁させることができる。この方法で得たこの懸濁液に対して、次に段階(b)が実施される。次の段階を行う前および場合により段階(a)で得た沈殿物を分離する前に、40℃から100℃の間であってよい温度に媒体を加熱すると好都合である場合がある。
【0052】
本発明の方法の第2の段階は、段階(a)で得た沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a)で得た懸濁液から出発して、これにタングステン化合物を加える段階にある。この化合物を加えた後、媒体のpHを1から7の間の値に調整する。この値は、さらに特に3から5の間であってよい。最初に段階(a)で得た沈殿物から形成した懸濁液のpH値を同じ範囲内に調整し、次にタングステン化合物を加えることも可能である。このpH調整は、例えば硝酸を加えることによって行うことができる。
【0053】
タングステン化合物として、メタタングステン酸アンモニウム(NH1241およびメタタングステン酸ナトリウムNaWOを挙げることができる。
【0054】
また好ましくは次の段階(c)を実施する前に、段階(b)で得た沈殿物を分離することができる。この分離は、例えば濾過、沈降、乾燥または遠心分離などのあらゆる公知の固液分離技術によって行うことができる。分離後の沈殿物は水などを使用して洗浄して、再び水中に懸濁させることもできる。次に、この方法で得た懸濁液に対して段階(c)が実施される。次の段階を行う前、および場合により段階(b)で得た沈殿物を分離する前に、40℃から100℃の間であってよい温度に媒体を加熱すると好都合である場合がある。
【0055】
本発明の方法の第3の段階は、前段階(b)で得た懸濁液に対して熟成作業を行うことにある。
【0056】
この熟成作業は、媒体を加熱することによって行われる。媒体が加熱される温度は少なくとも60℃、さらに特に少なくとも90℃、尚さらに特に少なくとも140℃である。このようにして媒体は、通常は最長6時間の時間にわたって一定温度で維持される。熟成作業は大気圧または場合により高圧で行うことができる。熟成作業を行う前に、媒体のpHを3から10の間、好ましくは3から5の間の値に調整することができる。このpH調整は、例えば硝酸を加えることによって行うことができる。
【0057】
熟成段階が終了すると、多量の固体沈殿物を含有する懸濁液が得られ、これは場合により乾燥することができ、続いて本発明の方法の最終段階(d)において焼成される。
【0058】
場合による乾燥の前および焼成の前に、前述の公知の技術によって、沈殿物をこの液体媒体から分離することができる。この方法で得られた生成物は、水によりまたは酸性もしくは塩基性の水溶液により1回以上洗浄することができる。
【0059】
別の一変形によると、段階(c)で得た懸濁液は、場合により乾燥段階の後、液体/固体分離を行わずに焼成することもできる。
【0060】
乾燥する場合、乾燥温度は、一般に50℃から300℃の間、好ましくは100℃から150℃の間である。
【0061】
または、懸濁液を噴霧乾燥することができる。用語「噴霧乾燥」は、本明細書の説明においては、高温雰囲気中で懸濁液を噴霧することによる乾燥を意味するものと理解されたい。噴霧乾燥は、スプリンクラーローズ(sprinkler−rose)型または別の型の噴霧ノズルなどの自体公知のあらゆる噴霧器によって行うことができる。タービン式アトマイザーと呼ばれるアトマイザーを使用することもできる。本発明の方法において使用可能な種々の噴霧技術に関して、特に、「噴霧乾燥」(Spray−drying)と題されるマスターズ(Masters)の基礎研究(第2版、1976年、ロンドン(London)のジョージ・ゴドウィン(George Godwin)より出版)を参照することができる。
【0062】
この場合、ガスの入口温度は、200℃から600℃の間、好ましくは300℃から400℃の間であってよい。
【0063】
乾燥作業は凍結乾燥によって行うこともできる。
【0064】
次に得られた粉末は、以下に示す条件下で焼成することができる。
【0065】
段階(d)の焼成によって、形成された生成物の結晶化度を増加させることができ、この焼成は、組成物が後にされる使用温度の関数として調整することもでき、これは、生成物の比表面積が小さいほど、使用される焼成温度が高くおよび/または焼成時間が長くなるという事実を考慮に入れながら行われる。このような焼成は一般に空気中で行われる。
【0066】
実施には、焼成温度は、一般に500℃から900℃の間、特に700℃から900℃の間の値の範囲に制限される。
【0067】
この焼成の時間は、広範囲の中で変動させることができ、原則として、時間が長いほど温度は低くなる。単に例として、この時間は2時間から10時間の間で変動させることができる。
【0068】
本発明の方法の別の一実施形態についても以下に説明する。
【0069】
1種類の元素Mを含む組成物の調製に適用されるこの実施形態によると、本発明の方法は、
(a’)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b’)段階(a’)で得た沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a’)で得た懸濁液から出発して、これにタングステン化合物と元素Mの化合物とを加え、媒体のpHを1から7の間の値に調整する段階と;
(c’)場合により、前段階で得た懸濁液に対して熟成作業を行う段階と;
(d’)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階と
を含む。
【0070】
この方法は、第1の実施形態による方法と元素Mを導入する段階により、異なり、この導入は、第2の段階において行われ、第1の段階においては行われない。熟成段階が場合により追加される。これら2つの実施形態の間の類似性を考慮すると、第1の実施形態に関して前述した全てのことが、第2の実施形態の共通部分に同様に適用される。
【0071】
少なくとも2種類の元素Mを含む組成物を調製するための本発明の方法の第3の実施形態を行うこともできる。この第3の実施形態による方法は、
(a”)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b”)段階(a”)で得た沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a”)で得た懸濁液から出発して、これにタングステン化合物とおよび少なくとも1種類の元素Mの化合物とを加え、媒体のpHを1から7の間の値に調整する段階と;
(c”)場合により、前段階で得た懸濁液について熟成作業を行う段階と;
(d”)段階(c”)で得た媒体から沈殿物を分離し、この沈殿物を再び水中に懸濁させ、得られた懸濁液に、少なくとも1種類の別の元素Mの化合物を加える段階と;
(e”)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階とを含む。
【0072】
この第3の実施形態は、第2の元素Mが導入される追加の段階(d”)のところが第2の実施形態とは異なる。この場合も、各実施形態の間の類似性を考慮すると、これらの種々の実施形態の共通部分に関して前述したことが、ここにも適用される。段階(e”)の乾燥は、さらに特に噴霧乾燥によって行うことができることに留意されたい。
【0073】
最後に、再び少なくとも2種類の元素Mを含む組成物を調製するための第4の実施形態により方法を使用することができる。この場合、本発明の方法は、
(a)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物と、少なくとも1種類の元素Mの化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b)段階(a)で得た沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a)で得た懸濁液から出発して、これにタングステン化合物とおよび少なくとも1種類の別の元素Mの化合物とを加え、媒体のpHを1から7の間の値に調整する段階と;
(c)場合により、前段階で得た懸濁液について熟成作業を行う段階と;
(d)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階とを含む。
【0074】
この実施形態は、元素Mの導入する順序が第3の実施形態とは異なる。種々の実施形態と共通または類似の段階に関して前述したことが、ここにも適用される。
【0075】
前述の本発明の組成物、または前述の方法によって得られるような本発明の組成物は粉末形態であるが、場合によりこれらは錠剤、顆粒、ボール、円筒またはモノリス、または種々の大きさのハニカムを形成するフィルターの形態となるように成形することもできる。これらの組成物は、触媒反応分野において一般に使用されるあらゆる担体、即ち特に熱不活性担体に適用することができる。この担体は、アルミナ、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカ、スピネル、ゼオライト、シリケート、結晶リン酸ケイ素アルミニウムおよび結晶リン酸アルミニウムから選択することができる。
【0076】
本発明の組成物は、触媒系の中に使用することもできる。従って、本発明は、本発明の組成物を含有する触媒系にも関する。これらの触媒系は、例えば金属またはセラミックのモノリス型の基材上に触媒特性を有しこれらの組成物を主成分とするコーティング(ウォッシュコート)を含むことができる。このコーティング自体が、前述の種類の担体を含むこともできる。このコーティングは、組成物を担体と混合し、後に基材上に堆積可能な懸濁液を形成することによって得られる。
【0077】
触媒系中でのこれらの使用の場合、本発明の組成物は、遷移金属と併用することができ、従ってこれらの金属の担体として機能する。用語「遷移金属」は、周期表のIIIA族からIIB族の元素を意味するものと理解されたい。遷移金属としては、さらに特にバナジウムおよび銅を挙げることができ、白金、銀またはイリジウムなどの貴金属も挙げることができる。これらの金属の性質、および担体組成物中にこれらを混入する技術は当業者には周知である。例えば含浸によって、金属を組成物中に混入することができる。
【0078】
本発明の触媒系は、ガスを処理するために使用することができる。これらは、この場合、COおよび炭化水素の酸化触媒として、または酸化窒素(NOx)を還元する場合のアンモニア水溶液または尿素 尿素によるこれらのNOxの還元反応における触媒として、この場合は、尿素の加水分解または分解の反応によってアンモニア水溶液を形成する(SCR法)の触媒として機能することができる。
【0079】
本発明の範囲内で処理することができるガスは、例えばガスタービンおよび火力発電所のボイラーなどの固定設備が発生するガスである。ガスは、内燃機関からのガス、さらに特にディーゼルエンジンからの排気ガスであってもよい。
【0080】
尿素またはアンモニア水溶液によるNOxの還元反応の触媒作用において使用される場合、本発明の組成物は、バナジウムまたは銅などの遷移金属型の金属と併用することができる。
【0081】
これより例を示す。
【0082】
最初に、本発明による組成物の酸性度の特性決定に使用されるメチルブチノール試験を以下に説明する。
【0083】
この触媒試験は、ペルノー(Pernot)らにより、Applied Catalysis,1991,Vol.78,p213に記載されており、調製した組成物の表面酸性度/塩基性度のプローブ分子として2−メチル−3−ブチン−2−オール(メチルブチノールまたはMBOH)が使用されている。組成物の表面上の部位の酸性度/塩基性度に依存して、メチルブチノールは、3つの反応により変換されることができる。
【0084】
【表1】

【0085】
実験的に、約400mgの量(m)の組成物を石英反応器中に入れる。最初に、組成物に対して、流量4l/hのNガス流下400度で2時間前処理を行った。
【0086】
次に組成物の温度を180℃まで下げる。次に組成物を所定量のMBOHと定期的に接触させる。この定期的な接触は、流量4l/hのN循環下でMBOHの4体積%の合成混合物を4分間注入する過程にわたって行うことにあり、これは、7.1mmol/hのメチブチノール(methybutynol)の時間モル速度(Q)に対応する。10回の注入を行う。それぞれの注入終了後に、反応器を出るガス流について、反応生成物(表1参照)の性質とこれらの量を測定するために、ガスクロマトグラフィーで分析する。
【0087】
メチルブチノール変換反応の生成物iの選択率(S)は、形成された全生成物に対するこの生成物の比率として定義される(S=C/Σ、式中のCは生成物iの量であり、Σは反応中に形成された生成物の合計を表す。)。次に酸性、中性または塩基性の反応のそれぞれで形成された生成物の選択率の合計に等しい酸性、中性または塩基性の選択率が定義される。例えば酸性選択率(S[acid])は、2−メチル−1−ブテン−3−インおよび3−メチル−2−ブテナールの選択率の合計に等しい。従って、酸性選択率が高いほど、形成される酸性反応生成物の量が多くなり、分析される組成物の酸性部位の数が多くなる。
【0088】
試験の間のメチルブチノールの変換率(DC)は、試験の最後の5回の注入におけるメチルブチノールの変換率の平均をとることによって計算される。
【0089】
mmol/h/mで表される組成物の酸活性度(A[acid])の定義は、以下の式により、メチルブチノールの変換率(DC、%で表される。)から、メチブチノール(methybutynol)の時間モル速度(Q、mmol/hで表される。)から、酸性選択率(S[acid]、%で表される。)から、分析する組成物の量(m、gで表される。)から、および組成物の比表面積(SBET、m/gで表される。)から行うこともできる。
【0090】
[acid]=10−4DC×Q×S[acid]/(SBET×m)
【0091】
以下の実施例の主題である各組成物に関して、直前に示した試験から得られる酸性選択率または酸活性度として表される酸性度値を表2に示している。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
この実施例は、ジルコニウム、チタンおよびタングステンの酸化物を主成分とし、それぞれの酸化物の質量比率が47.5%、47.5%および5%である組成物の調製に関する。
【0093】
水酸化ナトリウム(濃度:10重量%)1520gを反応器中で撹拌し、60℃に加熱した。これとは別に、以下の溶液の混合物を撹拌しながら調製した。脱イオン水110g、サルフェート源としての20%硫酸84g、オキシ塩化ジルコニウム溶液(濃度:21.6重量%のZrO)220gおよびオキシ塩化チタン溶液(濃度:TiOの18.0重量%)264g。
【0094】
蠕動ポンプを使用して、上記溶液の混合物を60℃の上記水酸化ナトリウムに2時間かけて加えた。添加終了後、得られた懸濁液に過酸化水素(115g、濃度:35%)を30分かけてゆっくりと加えた。次に、この懸濁液をブフナー(Buchner)漏斗上で濾過し、60℃の脱イオン水6リットルで洗浄した。次に、得られた沈殿物を最大1.5リットルの体積の水に撹拌しながら再分散させた。得られた懸濁液に固体メタタングステン酸ナトリウム(WOの69重量%を含有)7.3gを加え、1時間撹拌を続けた。1時間後、pHが4.0になるまで懸濁液に硝酸(濃度:HNOの30重量%)を加えた。この懸濁液を60℃にして、この温度で1時間維持した。1時間後、懸濁液をブフナー漏斗上で濾過し、この固形分を60℃の脱イオン水6リットルで洗浄した。次に固形分を適宜撹拌しながら脱イオン水中に再分散させて体積を1リットルにした。次にこの懸濁液を144℃で5時間処理した。
【0095】
この方法で得た生成物を、最後に空気で2時間750℃の温度を維持して焼成した。この生成物は、比表面積が55m/gであることが特徴であった。X線回折において2つの相が示され、TiOアナタース相と、主要相のZrTiO相であった。このXRD図では、酸化タングステンWOの存在は確認されなかった。
【0096】
空気で2時間950℃の温度を維持して焼成すると、比表面積は26m/gとなった。
【0097】
この生成物は、サルフェート120ppm未満、ナトリウム50ppmおよび塩化物10ppm未満を含有した。
【0098】
(実施例2)
この実施例は、ジルコニウム、チタン、タングステンおよびケイ素の酸化物を主成分とし、それぞれの酸化物の質量比率が54%、34.7%、7.5%および3.8%である組成物の調製に関する。
【0099】
水酸化ナトリウム(濃度:10重量%)2028gを反応器中で撹拌し60℃に加熱した。これとは別に、以下の溶液の混合物を撹拌しながら調製した。脱イオン水245g、サルフェート源としての77%硫酸29g、オキシ塩化ジルコニウム溶液(濃度:ZrOの19.8重量%)409g、シリカゾル(モリソンズ・ガス・リレーテッド・プロダクツ・リミテッド(Morrisons Gas Related Products Limited)のモリゾル(MORRISOL)、濃度:SiOの30重量%)19gおよびオキシ塩化チタン溶液(濃度:TiOの18.0重量%)289g。
【0100】
蠕動ポンプを使用して上記溶液の混合物を60℃の上記水酸化ナトリウムに2時間かけて加えた。添加終了後、得られた懸濁液に過酸化水素(121g、濃度:35%)を30分かけてゆっくりと加えた。次に、この懸濁液をブフナー漏斗上で濾過し、60℃の脱イオン水6リットルで洗浄した。次に、得られた沈殿物を最大1.5リットルの体積の水に撹拌しながら再分散させた。得られた懸濁液に固体メタタングステン酸ナトリウム(16重量%のWOを含有)16.0gを加え、1時間撹拌を続けた。1時間後、pHが4.0になるまで懸濁液に硝酸(濃度:HNOの30重量%)を加えた。この懸濁液を60℃にして、この温度で1時間維持した。1時間後、懸濁液をブフナー漏斗上で濾過し、この固形分を60℃の脱イオン水6リットルで洗浄した。次に固形分を適宜撹拌しながら脱イオン水中に再分散させて体積を1リットルにした。次にこの懸濁液を144℃で5時間処理した。
【0101】
この方法で得た生成物を、最後に空気で2時間900℃の温度を維持して焼成した。この生成物は、比表面積が73m/gであることが特徴であった。X線回折において2つの相が示され、TiOアナタース相と、主要相のZrTiO相であった。このXRD図では、酸化タングステンWOおよび酸化ケイ素SiOの存在は確認されなかった。
【0102】
空気で4時間950℃の温度を維持して焼成すると、比表面積は45m/gとなった。
【0103】
この生成物は、サルフェート120ppm未満、ナトリウム50ppmおよび塩化物10ppm未満を含有した。
【0104】
(実施例3)
この実施例は、ジルコニウム、チタン、タングステン、ケイ素およびイットリウムの酸化物を主成分とし、それぞれの酸化物の質量比率が53.4%、34.3%、7.5%、3.8%および1%である組成物の調製に関する。
【0105】
水酸化ナトリウム(濃度:10重量%)1987gを反応器中で撹拌し60℃に加熱した。これとは別に、以下の溶液の混合物を撹拌しながら調製した。脱イオン水249g、サルフェート源としての77%硫酸28.5g、オキシ塩化ジルコニウム溶液(濃度:ZrOの19.8重量%)398g、シリカゾル(モリソンズ・ガス・リレーテッド・プロダクツ・リミテッドのモリゾル、濃度:SiOの30重量%)25.0g、硝酸イットリウム溶液(濃度:Yの19.2重量%)7.8gおよびオキシ塩化チタン溶液(濃度:TiOの18.0重量%)283g。
【0106】
蠕動ポンプを使用して上記溶液の混合物を60℃の上記水酸化ナトリウムに2時間かけて加えた。添加終了後、得られた懸濁液に過酸化水素(125g、濃度:35%)を30分かけてゆっくりと加えた。次に、この懸濁液をブフナー漏斗上で濾過し、60℃の脱イオン水6リットルで洗浄した。次に、得られた沈殿物を最大1.5リットルの体積の水に撹拌しながら再分散させた。得られた懸濁液に固体メタタングステン酸ナトリウム(11.25重量%のWOを含有)16.0gを加え、1時間撹拌を続けた。1時間後、pHが4.0になるまで懸濁液に硝酸(濃度:HNOの30重量%)を加えた。この懸濁液を60℃にして、この温度で1時間維持した。1時間後、懸濁液をブフナー漏斗上で濾過し、この固形分を60℃の脱イオン水6リットルで洗浄した。次に固形分を適宜撹拌しながら脱イオン水中に再分散させて体積を1リットルにした。次にこの懸濁液を144℃で5時間処理した。
【0107】
この方法で得た生成物を、最後に空気で2時間750℃の温度を維持して焼成した。この生成物は、比表面積が129m/gであり純粋なZrTiO相を有することが特徴であった。XRD図では、酸化タングステンWOおよび酸化ケイ素SiOおよび酸化イットリウムYの存在は確認されなかった。空気で2時間950℃の温度を維持して焼成すると、比表面積は42m/gとなった。
【0108】
この生成物は、サルフェート120ppm未満、ナトリウム50ppmおよび塩化物10ppm未満を含有した。
【0109】
(比較例4)
コンデア(Condea)より販売されるγ−アルミナに硝酸ランタン溶液を含浸させ、乾燥し空気中500℃で焼成した後に、10重量%の酸化ランタンで安定化されたアルミナを得た。この比表面積は120m/gであった。
【0110】
実施例1から4の主題である組成物の酸性度値を以下の表2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
(実施例5)
この実施例は、上記実施例で調製した組成物を使用して一酸化炭素COおよび炭化水素HCを酸化する触媒試験について説明する。
【0113】
触媒組成物の調製
上記実施例で調製した組成物にテトラアミン白金(II)水酸化物塩(Pt(NH(OH))を含浸させることによって、酸化物の質量に対して1重量%の白金を含有する触媒組成物を得た。
【0114】
得られた触媒組成物を120℃で終夜乾燥させた後、空気中500℃で2時間焼成した。次に、これらについて触媒試験前にエージングを行った。
【0115】
エージング
最初に、O 10体積%とHO10体積%とをN中に含有する合成ガス混合物を、触媒化合物が入った石英反応器中の触媒組成物400mg上に連続的に循環させた。反応器の温度を750℃にして、この温度を16時間維持した。次に温度を室温に戻した。
【0116】
次に、20vpmのSO、O 10体積%およびHO10体積%をN中に含有する合成ガス混合物を、触媒化合物が入った石英反応器中に連続的に循環させた。反応器の温度を300℃にして、この温度を12時間維持した。
【0117】
触媒組成物の硫酸化に対する抵抗性を評価するために、エージング終了時に触媒組成物中の元素硫黄Sの含有率を測定した。エージング条件下、触媒組成物によって補足可能な最大硫黄含有率は1.28重量%であった。エージング後の硫黄含有率が低いほど、この硫酸化に対する抵抗性が高い。
【0118】
次に、エージングした触媒組成物を、CO、プロパンCおよびプロペンCの酸化反応における触媒開始温度試験(着火型)によって評価した。
【0119】
触媒試験
この試験において、2000vpmのCO、667vpmのH、250vpmのC、250vpmのC、150vpmのNO、10体積%のCO、O 13体積%およびHO10体積%をN中に含有しディーゼルエンジン排気ガスの代用となる合成混合物を触媒組成物上に通した。このガス混合物は、炭化ケイ素SiC180mg中に希釈した触媒化合物20mgが入れられた石英反応器中に流量30l/hで連続的に循環させた。
【0120】
SiCは、酸化反応に対して不活性であり、この場合は希釈剤の役割を果たし、そのため触媒床の均質性を確保することができる。
【0121】
着火試験中、CO、プロパンCおよびプロペンCの変換を、触媒組成物の温度の関数として測定した。従って、触媒組成物を100℃から450℃の間で10℃/分の温度勾配にさらしながら、合成混合物を反応器内に循環させた。反応器を出るガスを約10秒間隔で赤外分光法によって分析することで、COおよび炭化水素のCOおよびHOへの変換を測定した。
【0122】
これらの結果はT10%およびT50%で表され、これらは、それぞれCO、プロパンCおよびプロペンCの10%および50%の変換が測定された温度である。
【0123】
2つの温度勾配を互いに関連させた。第1の勾配中に触媒組成物の触媒活性を安定化させた。第2の勾配中に温度T10%およびT50%を測定した。
【0124】
エージング後に得られた結果を以下に示す。
【0125】
【表3】

【0126】
本発明による組成物は、硫酸化試験中に補足された硫黄の含有率が低いことから、硫酸化に対する抵抗性がより高いことが明らかである。
【0127】
実施例で得た生成物の触媒性能を以下の表4から6に示す。
【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
表4の結果から、COの変換の場合、硫酸化後の本発明による組成物の触媒特性の変化は、比較例の組成物の変化よりも明らかに小さいことが分かる。
【0132】
硫酸化後の本発明の組成物の性能が比較例の組成物の性能と類似していたとしても、硫酸化の前後で安定した性能を維持する生成物を使用することが工業的観点から依然として非常に好都合であることに留意されたい。実際、性能が実質的に変化する従来技術の生成物は、触媒設計のときに、この性能の低下を補償するために、理論的に必要となるよりもこれらの触媒化合物が高い品質を有することが必要となる。本発明の組成物に関してはこのようなことはない。
【0133】
さらに、表6から分かるように、プロパンの変換は、本発明の組成物を主成分とする触媒の方が比較例の触媒よりも低温で始まっている。350℃未満でプロパンが変換されることで、処理される媒体中の炭化水素の全体の変換量が実質的に改善されると考えられる。
【0134】
(実施例6)
この実施例は、ジルコニウム、チタン、ケイ素、タングステンおよびセリウムの酸化物を主成分とし、それぞれの酸化物の質量比率が51.5%、33%、3.5%、7%および5%である組成物の調製に関する。
【0135】
ビーカー中で撹拌しながら、塩化ジルコニル(20重量%のZrO)152.5g、塩化チタニル(TiOの20重量%)97gおよび硫酸(97重量%)25gを蒸留水125.5gと混合することによって、溶液Aを調製した。
【0136】
撹拌反応器中に、水酸化ナトリウム溶液(10重量%のNaOH)675gを投入し、次に撹拌しながら溶液Aを徐々に加えた。水酸化ナトリウム溶液を加えることによって、媒体のpHを少なくとも12.5の値に到達させた。得られた沈殿物を濾過し、60℃において蒸留水3lで洗浄した。この固形分を再び蒸留水1l中に懸濁させた。
【0137】
この懸濁液に、撹拌しながら、ケイ酸ナトリウム(232g/lのSiO)12g、メタタングステン酸ナトリウム二水和物6gおよび蒸留水13gを投入した。硝酸溶液(68体積%)を加えることによってpHを4に調整した。この媒体を30分間かけて60℃にした後、沈殿物を再び濾過し、60℃において蒸留水3lで洗浄した。
【0138】
この固形分を蒸留水900ml中に再び懸濁させ、硝酸セリウム(III)(496g/lのCeO)11gを加えた。最後に媒体をビュッヒ(Buchi)噴霧乾燥機上で110℃(ガスの出口温度)において噴霧乾燥した。
【0139】
乾燥させた固体を、空気中750℃で焼成し、この温度で2時間維持した。この生成物は、比表面積が100m/gであり純粋なZrTiO相を有することが特徴であった。
【0140】
この生成物は、サルフェート120ppm未満、ナトリウム50ppmおよび塩化物10ppm未満を含有した。
【0141】
(実施例7)
この実施例は、ジルコニウム、チタン、ケイ素、タングステンおよびセリウムの酸化物を主成分とし、それぞれの酸化物の質量比率が48%、31%、3.5%、7.5%および10%である組成物の調製に関する。
【0142】
ビーカー中で撹拌しながら、塩化ジルコニル(20重量%のZrO)134.5g、塩化チタニル(TiOの20重量%)86.5gおよび硫酸(97重量%)22gおよび硝酸セリウム(III)(496g/lのCeO)20gを蒸留水90gと混合することによって、溶液Aを調製した。
【0143】
撹拌反応器中に、水酸化ナトリウム溶液(10重量%のNaOH)661gを投入し、次に撹拌しながら溶液Aを徐々に加えた。水酸化ナトリウム溶液を加えることによって、媒体のpHを少なくとも12.5の値に到達させた。過酸化水素(30体積%)8gをこの媒体中に加えた。30分間撹拌した後、得られた沈殿物を濾過し、60℃において蒸留水3lで洗浄した。この固形分を再び蒸留水1l中に懸濁させた。
【0144】
この懸濁液に、撹拌しながら、ケイ酸ナトリウム(232g/lのSiO)10g、メタタングステン酸ナトリウム二水和物5.9gおよび蒸留水13gを投入した。硝酸溶液(68体積%)を加えることによってpHを4に調整した。この媒体を30分間かけて60℃にした後、沈殿物を再び濾過し、60℃において蒸留水3lで洗浄した。
【0145】
得られた固形分をオーブン中120℃において終夜乾燥させた後、得られた生成物を空気750℃で焼成し、この温度で2時間維持した。この生成物は、比表面積が99m/gであり純粋なZrTiO相を有することが特徴であった。
【0146】
この生成物は、サルフェート120ppm未満、ナトリウム50ppmおよび塩化物10ppm未満を含有した。
【0147】
(実施例8)
この実施例は、ジルコニウム、チタン、ケイ素、タングステンおよびマンガンの酸化物を主成分とし、それぞれの酸化物の質量比率が51.5%、33%、3.5%、7%および5%である組成物の調製に関する。
【0148】
噴霧乾燥の前に硝酸マンガン(II)7.5gを投入したことを除けば実施例6の手順に従った。乾燥した固形分を空気750℃で焼成し、この温度で2時間維持した。この生成物は、比表面積が75m/gであり純粋なZrTiO相を有することが特徴であった。
【0149】
この生成物は、サルフェート120ppm未満、ナトリウム50ppmおよび塩化物10ppm未満を含有した。
【0150】
実施例6から8の主題である組成物の酸性度値を以下の表7に示す。
【0151】
【表7】

【0152】
(比較例9)
SiO/Alのモル比が30であるZSM5ゼオライトをアセチルアセトン鉄溶液で交換して、鉄3重量%を含有するFe−ZSM5ゼオライトを得た。生成物をオーブン中120℃において終夜乾燥させた後、空気中500℃で焼成した。比表面積は300m/gを超えた。
【0153】
(実施例10)
この実施例では、前述の実施例で調製した組成物を使用したアンモニアNH水溶液による酸化窒素NOxの還元(NH−SCR)の触媒試験を説明する。
【0154】
エージング
10体積%とHO10体積%とをN中に含有する合成ガス混合物を、触媒化合物が入った石英反応器中の触媒組成物400mg上に連続的に循環させた。反応器の温度を750℃にしてこの温度で16時間維持する、または900℃にしてこの温度で2時間維持することのいずれかを行った。次に温度を室温に戻した。
【0155】
次に、NH選択接触還元(SCR)によるNOxの変換の触媒試験によって、新しい触媒組成物またはエージングした触媒組成物を評価した。
【0156】
触媒試験
この試験においては、NH 500vpm、NOx(NO/NO=0または1)500vpm、O 7体積%およびHO 2体積%をHe中に含有するディーゼル車のSCR用途の代用となる合成混合物を触媒組成物上に通した。このガス混合物は、炭化ケイ素SiC180mg中に希釈した触媒化合物20mgが入れられた石英反応器中に流量60ml/hで連続的に循環させた。
【0157】
SiCは、酸化反応に対して不活性であり、この場合は希釈剤の役割を果たし、そのため触媒床の均質性を確保することができる。
【0158】
着火試験中、NOxの変換およびNOの形成を、触媒組成物の温度の関数として監視した。従って、触媒組成物を150℃から500℃の間で5℃/分の温度勾配にさらしながら、合成混合物を反応器内に循環させた。反応器を出るガスを質量分析によって分析することで、ガス混合物の種々の成分の濃度を監視した。
【0159】
結果は、200℃、300℃および400℃におけるNOxの変換率、ならびに試験中に形成されたNOの最大濃度で表される。
【0160】
エージング後に得られた結果を以下に示す。
【0161】
【表8】

【0162】
【表9】

【0163】
表8および9より、本発明による組成物によって、ディーゼル用途の温度範囲においてNOxの高い変換を実現しながら、NOの形成を非常にわずかにすることができ、これは過酷なエージング後または変動するNO/NO比においても実現されることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化タングステンを主成分とし、これらの種々の成分の質量比率が、
酸化チタン:20%から50%
酸化タングステン:1%から20%
残分の酸化ジルコニウムであり、
さらに、メチルブチノール試験によって測定される酸性度が少なくとも90%である
ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化タングステン、ケイ素、アルミニウム、鉄、モリブデン、マンガン、亜鉛、スズおよび希土類から選択される別の元素Mの少なくとも1種類の酸化物とを主成分とし、
これらの種々の成分の質量比率が、
酸化チタン:20%から50%
酸化タングステン:1%から20%
元素Mの酸化物:1%から20%
残分の酸化ジルコニウムであり、
さらに、メチルブチノール試験によって測定される酸性度が少なくとも90%である
ことを特徴とする組成物。
【請求項3】
酸性度が少なくとも95%であることを特徴とする、請求項1から2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
750℃において2時間焼成した後に少なくとも50m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記元素Mがケイ素および/またはアルミニウムであり、750℃において2時間焼成した後に少なくとも100m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項6】
前記元素Mがケイ素および/またはアルミニウムであり、950℃において2時間焼成した後に少なくとも40m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項2、3または5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも40%の酸化ジルコニウムを含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
酸活性度が少なくとも0.05mmol/h/m、特に少なくとも0.075であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
酸活性度が少なくとも0.09、特に少なくとも0.13であることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
(a)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物と、場合により前記元素Mの化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b)段階(a)で得た前記沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a)で得た懸濁液から出発して、これにタングステン化合物を加えて前記媒体のpHを1から7の間の値に調整するかまたはこの方法で形成された前記懸濁液のpHを1から7の間の値に調整してこれにタングステン化合物を加えるかのいずれかを行う段階と;
(c)前段階で得た前記懸濁液について熟成作業を行う段階と;
(d)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階と
を含むことを特徴とする、請求項1から9の一項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項11】
(a’)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b’)段階(a’)で得た前記沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a’)で得た前記懸濁液から出発して、これにタングステン化合物と前記元素Mの化合物とを加え、前記媒体のpHを1から7の間の値に調整する段階と;
(c’)場合により、前段階で得た前記懸濁液に対して熟成作業を行う段階と;
(d’)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階と
を含むことを特徴とする、請求項2から9の一項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項12】
(a”)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b”)段階(a”)で得た前記沈殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a”)で得た前記懸濁液から出発して、これにタングステン化合物とおよび少なくとも1種類の前記元素Mの化合物とを加え、前記媒体のpHを1から7の間の値に調整する段階と;
(c”)場合により、前段階で得た前記懸濁液に対して熟成作業を行う段階と;
(d”)段階(c”)で得た前記媒体から前記沈殿物を分離し、これを再び水中に懸濁させ、得られた前記懸濁液に、少なくとも1種類の別の元素Mの化合物を加える段階と;
(e”)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階と
を含むことを特徴とする、請求項2から9の一項に記載され少なくとも2種類の元素Mを含む組成物を調製する方法。
【請求項13】
(a)液体媒体中にて、ジルコニウム化合物と、チタン化合物と、少なくとも1種類の前記元素Mの化合物とおよび塩基性化合物とを1つにまとめて沈殿物を得る段階と;
(b)段階(a)で得た沈前記殿物を含む懸濁液を形成してまたは段階(a)で得た前記懸濁液から出発して、これにタングステン化合物とおよび少なくとも1種類の別の元素Mの化合物とを加え、前記媒体のpHを1から7の間の値に調整する段階と;
(c)場合により、前段階で得た前記懸濁液に対して熟成作業を行う段階と;
(d)場合により乾燥後に、前段階で得た生成物を焼成する段階と
を含むことを特徴とする、請求項2から9の一項に記載され少なくとも2種類の元素Mを含む組成物を調製する方法。
【請求項14】
前記ジルコニウム化合物および前記チタン化合物がオキシ塩化物であることを特徴とする、請求項10から13の一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の段階(a)、(a’)、(a”)もしくは(a)が過酸化水素の存在下で実施されることまたはこの第1の段階(a)、(a’)、(a”)もしくは(a)の終了後に過酸化水素が加えられることを特徴とする、請求項10から14の一項に記載の方法。
【請求項16】
段階(a)、(a’)、(a”)または(a)の終了後および段階(b)、(b’)、(b”)または(b)の前に、前記沈殿物が前記液体媒体から分離され、水中に再懸濁されることを特徴とする、請求項10から153の一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から9の一項に記載の組成物を含むことを特徴とする触媒系。
【請求項18】
請求項17に記載の触媒系が、前記ガス中に含有されるCOおよび炭化水素を酸化するために触媒として使用されることを特徴とする、ガス、特にディーゼルエンジンからの排気ガスを処理する方法。
【請求項19】
請求項17に記載の触媒系が、酸化窒素(NOx)を還元する場合の、アンモニア水溶液または尿素によるこれらのNOxの還元反応の触媒として使用されることを特徴とする、ディーゼルエンジンからの排気ガスを処理する方法。

【公表番号】特表2010−506713(P2010−506713A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532822(P2009−532822)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061236
【国際公開番号】WO2008/046921
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508183151)ロデイア・オペラシヨン (70)
【出願人】(509111124)マグネシウム・エレクトロン・リミテツド (2)
【Fターム(参考)】