説明

酸化物焼結体、ターゲット、およびそれを用いて得られる透明導電膜、導電性積層体

【課題】酸化亜鉛を主成分としチタンを有する酸化物焼結体、それを加工したターゲット、該ターゲットを用いて直流スパッタリング法で成膜した高い屈折率を示す透明導電膜、導電性積層体を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛を主成分としチタンを有し、Ti/(Zn+Ti)原子数比0.05〜0.25の酸化物焼結体であり、六方晶ウルツ鉱構造酸化亜鉛相と立方晶逆スピネル構造の複合酸化物α−ZnTiO相から構成され、X線回折による下記の式(A)でのピークの強度比が15〜70%である酸化物焼結体である。I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100(%)…(A)(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶ウルツ鉱構造酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶逆スピネル構造の複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体、ターゲット、およびそれを用いて得られる透明導電膜、導電性積層体に関し、より詳しくは、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有する酸化物焼結体、それを加工したターゲット、該ターゲットを用いて直流スパッタリング法で成膜してもアーク放電が発生せず、可視光領域全体にわたって高い屈折率を示す透明導電膜、導電性積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有するため、太陽電池や液晶表示素子、その他各種受光素子の電極などに主に利用されている。
透明導電膜には、酸化錫(SnO)系、酸化亜鉛(ZnO)系、酸化インジウム(In)系の薄膜が知られている。酸化スズ系には、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO)や、フッ素をドーパントとして含むもの(FTO)が利用されている。また、酸化亜鉛系には、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO)や、ガリウムをドーパントとして含むもの(GZO)が利用されている。最も工業的に利用されている透明導電膜は、酸化インジウム系である。その中でも錫をドーパントとして含む酸化インジウムは、ITO(Indium−Tin−Oxide)膜と称され、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、これまで幅広く利用されてきた。
【0003】
透明導電膜は、単層膜であっても有用であるが、極薄い金属膜との積層構造を形成することにより、透明性を有する導電性積層体としても利用される。この導電性積層体は、自動車風防ガラス、ヒートミラー、電磁波遮蔽窓ガラス等として用いることができる。
また、この導電性積層体は、プラズマディスプレイ(PDP)用電磁波遮蔽フィルムとしても用いられている。PDPの前面からは電磁波が放出されているため、その電磁波を遮蔽することを目的として、PDPの利用者側(前面)に、プラスチックフィルム等の基体上に上記導電性積層体が形成された電磁波遮蔽フィルムが配置されている。
【0004】
導電性積層体としては、例えば、透明基板上に酸化亜鉛からなる透明酸化物層と銀層とを交互に積層した合計(2n+1)層(n≧2)のコーティングが施されたものが提案されている(特許文献1参照)。該導電性積層体は、充分な導電性(電磁波遮蔽性)および可視光透過性を有するが、導電性積層体の導電性(電磁波遮蔽性)をさらに向上させようと、積層数nを増やして銀層の数を増やした場合、可視光透過性が低下する問題がある。
電磁波遮蔽フィルムにおいては、可視光領域全体にわたって透過率が高く、かつ反射率が低いこと、すなわち透過・反射バンドが広いこと、また、近赤外領域においては遮蔽性が高いことが求められる。透過・反射バンドを広くするためには、酸化物層と金属層との積層数を増やすことが有効であるが、積層数を増やすと可視光透過性が低下してしまう。
【0005】
このような課題を解決する手段として、酸化物層の屈折率を高めて、金属層との屈折率差を大きくし、積層数を減らす試みがなされている。例えば、基体と、基体上に形成された導電膜とを有し、導電膜が、基体側から、酸化物層と金属層とが交互に計(2n+1)層[nは1以上の整数]積層された多層構造体であり、酸化物層が、酸化亜鉛と屈折率2.3以上の高屈折率金属酸化物とを主成分として含有し、金属層が、銀または銀合金を主成分として含有する導電性積層体が提案されている(特許文献2参照)。ここには、高屈折率金属酸化物としては、酸化チタンおよび/または酸化ニオブであること、また、金属層は、2〜8層の、純銀、または金および/またはビスマスを含有する銀合金が設けられていることが好ましいと記載されている。
【0006】
上記積層数を減らすためには、酸化亜鉛と酸化チタンおよび/または酸化ニオブとを主成分として含有する酸化物層が、可視光領域全体にわたってなるべく高い屈折率であることが好ましいが、単に屈折率2.3以上の高屈折率金属酸化物である酸化チタンおよび/または酸化ニオブを添加すればよいというわけではない。特に、特許文献2では、波長550nmの屈折率のみ考慮されるにとどまり、酸化亜鉛を主成分とする酸化物層の導電性が高い場合には、多量に存在するキャリア電子による影響を受けて、可視光領域の長波長側での屈折率が低下しやすい点については十分に考慮されていない。
【0007】
ここで、キャリア電子が及ぼす屈折率への影響について説明する。酸化亜鉛に酸化ガリウムを5.7重量%添加した透明導電膜の場合、屈折率は、図1に示すように波長によって変化する。一般に、このような組成の酸化亜鉛系透明導電膜は、GZOとして広く知られている。GZOは、2価のZnサイトに3価のGaが置換した結晶膜であり、キャリア電子が多量に発生して低比抵抗を示す透明導電膜である。図1のGZO膜は、比抵抗7.8×10−4Ω・cmを示し、キャリア電子濃度は5.0×1020cm−3と比較的高く、また移動度は16cm/(V・s)であった。一般に、酸化亜鉛の屈折率は1.9〜2.0であるとされているが、図1において、波長550nmにおけるGZO膜の屈折率は1.83とやや低く、可視光領域の長波長側である波長750nmの屈折率は1.67とさらに大きく低下している。このような屈折率の低下は、キャリア電子が多量に存在した場合に起こることが知られており、可視光領域の長波長側においてその影響は顕著になる。
【0008】
比較として、同じく図1に、酸化シリコン膜の屈折率の波長による変化を示した。酸化シリコン膜は、絶縁性であるため、キャリア電子は多量には存在しない。図1において、波長550nmおよび750nmにおける酸化シリコン膜の屈折率はいずれも1.46を示し、可視光領域長波長側での屈折率の低下はみられない。すなわち、絶縁膜である酸化シリコン膜は、キャリア電子による影響をそれほど受けないため、屈折率は可視光領域長波長側でも低下しない。
したがって、上記の導電性積層体の電磁波遮蔽性能すなわち導電性を確保するためには、それを構成する透明導電性を有する酸化物層が、最低限必要な電気抵抗と可視光領域全体における高い屈折率を併せ持つよう制御する必要がある。特に、可視光領域の長波長側である波長750nm付近の屈折率が低下しないように制御する必要がある。
【0009】
ところで、本出願人は、一般式Zn1−xO(式中、AはTiおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を表し、xの値の範囲は、0.05≦x≦0.40である)で示される酸化物焼結体を提案している(特許文献3参照)。この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いれば、スパッタリング装置の真空容器内の圧力が1×10−4Pa以上という真空度のよくない状態で不活性ガスを該真空容器内に導入して、スパッタリングを行っても、少なくとも3×10−3Ω・cm以下の低比抵抗を有する、一般式Zn1−xO(式中、AはTiおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を表し、xの値の範囲は、0.03≦x≦0.25である)で表示される透明導電膜を得ることができる。
しかしながら、酸化物焼結体の原料粉末として、粒径が2μmというような市販のZnO粉末およびTiO粉末を使用し、原料粉末を特に調整することなく、そのまま用いて一般的なホットプレス法によって形成しているために、酸化亜鉛および酸化チタンからなる酸化物焼結体を製造した場合には、これをスパッタリングターゲットとすると、キャリア電子が比較的多く発生した低抵抗の透明導電膜が形成される。すなわち、可視光領域全体で高屈折率の透明導電膜を形成するという目的においては、上記の透明導電膜は、キャリア電子の影響を受けて、特に可視域の長波長側では、屈折率が低下してしまう。
【0010】
これは特許文献2においても同様であり、一般的なホットプレス法を採用して、若干作製条件は異なるものの、酸化亜鉛および酸化チタンからなる酸化物焼結体を製造しているため、比較的キャリア量の多い透明導電膜が形成され、可視域の長波長側では、屈折率が低下してしまうという問題があった。
したがって、酸化物焼結体の組織を特に制御することなく、一般的なプロセスで作製した酸化物焼結体を原料としたスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した場合には、可視光領域全体にわたって屈折率が低下しない、特に長波長側においても屈折率が低下しない透明導電膜を形成することは困難であるとされていた。
【0011】
このような状況下、可視光領域全体にわたって屈折率が低下せず、特に長波長側においても屈折率が低下しない、優れた透明導電膜を形成することができる、酸化亜鉛を主成分としチタンを含有する酸化物焼結体が必要とされていた。
【特許文献1】特公平8−32436公報
【特許文献2】特開2006−186309号公報(特許請求の範囲、実施例1)
【特許文献3】特開2006−298714号公報(特許請求の範囲、実施例1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有する酸化物焼結体、それを加工したターゲット、該ターゲットを用いて直流スパッタリング法で成膜してもアーク放電が発生せず、可視光領域全体にわたって高い屈折率を示す透明導電膜、導電性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化亜鉛を主成分とし、さらにチタンを含有する酸化物焼結体において、チタンの含有量がTi/(Zn+Ti)原子数比で0.05〜0.25となるように原料粉末を調整し、ならびに適切な条件で混合、焼結することによって、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相に立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が特定量含まれた相構成となり、その結果、直流スパッタリング法などのターゲットとして上記酸化物焼結体を用いた場合に、アーキングなどの異常放電がなく、可視光領域全体にわたって高い屈折率を示す透明導電膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有し、その含有量がTi/(Zn+Ti)原子数比として0.05〜0.25である酸化物焼結体であって、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相から構成され、かつX線回折により測定され下記の式(A)で求められるピークの強度比が、15〜70%であることを特徴とする酸化物焼結体によって提供される。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、酸化亜鉛を主成分とし、チタンと、ガリウム又はアルミニウムから選ばれる1種以上とを含有し、そのガリウム又はアルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下、また、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25である酸化物焼結体であって、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相から構成され、かつX線回折により測定され下記の式(A)で求められるピークの強度比が、15〜70%であることを特徴とする酸化物焼結体によって提供される。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【0016】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、酸化チタン相が実質的に含有されないことを特徴とする酸化物焼結体によって提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、密度が5.0g/cm以上であることを特徴とする酸化物焼結体によって提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、比抵抗が5kΩcm以下であることを特徴とする酸化物焼結体によって提供される。
【0017】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係り、酸化亜鉛粉末に対して、酸化チタン粉末をTi/(Zn+Ti)で示される原子数比として0.05〜0.25となる割合で配合し、この原料粉末に、水系溶媒を配合し、得られたスラリーを混合した後、固液分離し、乾燥し、造粒して得られた造粒物を型枠に入れ成形し、得られた成形体を酸素雰囲気中、1350〜1650℃で10〜30時間焼結して酸化物焼結体を得る酸化物焼結体の製造方法によって提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、さらに、前記酸化亜鉛粉末に対して、酸化ガリウム粉末、または酸化アルミニウム粉末から選ばれる1種以上の粉末が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下となる割合で配合されることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法によって提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第6又は7の発明において、原料粉末の平均粒径が、いずれも1.5μm以下であることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法によって提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係り、前記酸化物焼結体を加工して得られるスパッタリング用ターゲットによって提供される。
【0019】
一方、本発明の第10の発明によれば、第9の発明に係り、前記ターゲットを用いて、スパッタリング法で基板上に形成された透明導電膜によって提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有し、かつ、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti)原子数比で0.05〜0.25であることを特徴とする透明導電膜によって提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第10の発明において、酸化亜鉛を主成分とし、チタンと、ガリウム又はアルミニウムから選ばれる1種以上とを含有し、かつ、ガリウム又はアルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下であり、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25であることを特徴とする透明導電膜によって提供される。
また、本発明の第13の発明によれば、第10〜12のいずれかの発明において、実質的に非晶質であることを特徴とする透明導電膜によって提供される。
また、本発明の第14の発明によれば、第10〜13のいずれかの発明において、膜の比抵抗が1×10−2Ω・cm以上1×10+3Ω・cm以下であることを特徴とする透明導電膜によって提供される。
また、本発明の第15の発明によれば、第10〜14のいずれかの発明において、波長750nmの屈折率が1.95以上であることを特徴とする透明導電膜によって提供される。
【0020】
一方、本発明の第16の発明によれば、第10〜15のいずれかの発明に係り、基体と、基体上に形成された導電膜とを有する導電性積層体であって、導電膜が、基体側から、透明導電膜層と銀を主成分として含有する金属層とが交互に計(2n+1)層(nは1以上の整数)積層され、透明導電膜層が、前記透明導電膜からなることを特徴とする多層構造体によって提供される。
また、本発明の第17の発明によれば、第16の発明において、金属層が2〜8層設けられていることを特徴とする導電性積層体によって提供される。
また、本発明の第18の発明によれば、第16または17の発明において、金属層が、金、ビスマス、またはネオジウムから選ばれる1種以上を含有する銀合金であるか、若しくは純銀であることを特徴とする導電性積層体によって提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛を主成分とし、さらに特定量のチタンを含有しており、かつ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相に立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が特定量含まれるという特定の相構成を有しているために、該酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いれば、直流スパッタリング法で成膜を行ってもアーク放電が発生せず、可視光領域全体にわたって高い屈折率を示す非晶質の透明導電膜を形成することが可能となる。
また、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有して、さらにガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上を特定量含有する酸化物焼結体とすることで、上記酸化物焼結体の導電性を向上させることができ、その結果、スパッタリング時の成膜レートを向上させることが可能になる。
上記本発明の酸化物焼結体を用いて得られる透明導電膜と、例えば銀を主成分とする金属膜とを積層した場合、可視光領域全体にわたって透過率が高く、反射率の低い導電性積層体を形成することが可能となることから、電磁波遮蔽窓ガラス、PDP用電磁波遮蔽体等に適用することができ、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の酸化物焼結体、ターゲット、およびそれを用いて得られる透明導電膜、導電性積層体について図面を用いながら詳細に説明する。
【0023】
1.酸化物焼結体
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛を主成分とし、さらにチタンを含有し、かつ、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti)原子数比として0.05〜0.25であって、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相からなり、下記の式(A)で表されるX線回折測定によるピークの強度比が、15%以上70%以下であることを特徴とする(以下、これを第一の酸化物焼結体ともいう)。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【0024】
また、本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有し、さらに、ガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上とを含有し、かつ、ガリウム、アルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0を超え0.03以下、また、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25であって、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相からなり、上記式(A)で表されるX線回折測定によるピークの強度比が、15%以上70%であることを特徴とする(以下、これを第二の酸化物焼結体ともいう)。
【0025】
(1)第一の酸化物焼結体
本発明の第一の酸化物焼結体は、酸化亜鉛を主成分とし、さらにチタンを特定量含有する酸化物である。
【0026】
チタンの含有量は、Ti/(Zn+Ti)原子数比で0.05〜0.25の割合である。この原子数比が0.05未満の場合には、高い屈折率を得ることができない。また、原子数比が0.25を超えると、この酸化物焼結体を用いて導電性積層体を製造したとき、導電性積層体を構成する酸化物層の比抵抗が高くなりすぎる。チタンの含有量は、形成される透明導電膜の比抵抗と波長750nmにおける屈折率を考慮すると、Ti/(Zn+Ti)原子数比で0.10〜0.20がより好ましい。さらに、上記酸化物焼結体は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相から構成されており、X線回折測定を行うと、例えば、図3(第一のチャート)のような結果が得られる。そして、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を調べ、下記の式(A)で両者のピークの強度比を求めると、15%以上70%以下のものとなる。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【0027】
なお、酸化亜鉛相とは、JCPDSカード36−1451に記載された六方晶のウルツ鉱構造のものを指し、酸素欠損、亜鉛欠損の非化学量論組成のものも含まれる。添加元素であるチタンの一部は、上記酸化亜鉛相の亜鉛サイトに固溶している場合がある。また、複合酸化物α−ZnTiO相とは、JCPDSカード25−1164に記載された立方晶の逆スピネル構造のものを指し、酸素欠損、亜鉛欠損、チタン欠損などの構造欠陥を有する非化学量論組成のものも含まれる。
上記の六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相は結晶膜になりやすく、導電性が高い。すなわち、この相を一定量以上含む酸化物焼結体を原料として形成された薄膜では多量のキャリア電子が生成しやすく、前記したように屈折率が低下しやすい。これに対して、酸化物焼結体中の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の比率を一定範囲に制御することによって、前記導電性積層体に適した比抵抗と、可視光領域全体で高い屈折率を有する酸化物層を形成することが可能となる。
【0028】
式(A)のピーク強度比が15%未満の場合には、形成された薄膜には多量のキャリア電子が存在するため、高い屈折率を得ることができない。また、上式(A)のピーク強度比が70%を超えると、形成された薄膜の比抵抗が高くなりすぎてしまう。すなわち、前記の透明導電膜からなる酸化物層と金属層を交互に積層させた透明導電性積層体では、導電性積層体を構成する酸化物層の比抵抗が高くなりすぎてしまう。該酸化物層の比抵抗が高くなりすぎると、例えばPDPなどに用いるための電磁波遮蔽効果は著しく低下してしまうため、好ましくない。ピーク強度比は、形成される透明導電膜の比抵抗と波長750nmにおける屈折率を考慮すると、30〜60%がより好ましい。
【0029】
また、本発明の酸化物焼結体においては、該酸化物焼結体中に、JCPDSカード21−1276に記載の正方晶のルチル構造をとる酸化チタン相、JCPDSカード21−1272に記載の正方晶のアナターゼ構造をとる酸化チタン相、あるいはJCPDSカード29−1361に記載の斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相が含まれていないことが好ましい。チタンが、良導電体ではない上記酸化チタン相として酸化物焼結体中に含まれていると、スパッタリング時のアルゴンイオンの照射によって帯電し、絶縁破壊を起こすためアーク放電を生じ、直流(DC)スパッタリングによる安定した成膜が困難になるからである。
【0030】
(2)第二の酸化物焼結体
本発明の第二の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と、チタンと、ガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上とを含有し、かつ、ガリウム、アルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0を超え0.03以下、また、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25であることを特徴とする。
【0031】
第二の酸化物焼結体は、X線回折測定を行うと、例えば、図3(第二、第三のチャート)のような結果が得られ、これは、第一のチャートと同様である。そして、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を調べ、下記の式(A)で両者のピークの強度比を求めると、15%以上70%以下のものとなる。ピーク強度比は、形成される透明導電膜の比抵抗と波長750nmにおける屈折率を考慮すると、30〜60%がより好ましい。すなわち、上記の組成範囲のガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上が含まれる点以外は、焼結体組織などの特徴は第一の酸化物焼結体と同じである。
よって、ガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上が影響を及ぼす特徴についてのみ、以下に述べる。
【0032】
第二の酸化物焼結体において、上記の組成範囲のガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上が含まれることによって、焼結性が向上する。しかしながら、ガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上の総含有量が(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比で0.03を超えると、この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、成膜中に激しいアーキングが頻発する。アーキングによってターゲット表面に直径数mmの黒点が発生し、激しい場合には穴が形成されてしまう。ガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上の総含有量は、上記原子数比で0.0050〜0.015がより好ましい。
なお、上記組成範囲のガリウム、アルミニウムを添加しても、形成される膜は非晶質であるため、結晶膜でみられるようなキャリア電子量の著しい増大、すなわち低抵抗化に寄与するようなドーピング効果は発現しない。
また、チタンの含有量は、第一の酸化物焼結体とほぼ同様であり、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比で0.10〜0.20がより好ましい。
以上から、本発明の第一あるいは第二の酸化物焼結体には、上記組成範囲のチタンが含まれており、かつ式(A)で表される相構成を有するため、この酸化物焼結体をターゲットなどの成膜原料として用いると、スパッタリング法やイオンプレーティング法などによって、非晶質であり、かつ可視光領域全体にわたって高い屈折率を示す透明導電膜を形成することが可能となる。
【0033】
これらの酸化物焼結体の密度は、特に限定されるわけではないが、スパッタリング用ターゲットとする場合は、5.0g/cm以上であることが好ましい。密度が5.0g/cmよりも低いと、直流スパッタリングが困難になることはもとより、ノジュールの生成が著しくなるなどの問題が生じる。ここで、ノジュールとは、スパッタリングに伴いターゲット表面のエロージョン部に発生する微細な突起物のことをいい、該ノジュールに起因して異常放電やスプラッシュが発生し、これが原因となってスパッタリングチャンバ内に粗大な粒子(パーティクル)が浮遊し、該粒子が、成膜途中の膜に付着して品質を低下させる原因となる。
一方、イオンプレーティング法で用いる場合は、焼結体密度が高すぎると電子ビーム照射した時の熱衝撃によって割れが起こりやすいため、3.5〜4.5g/cmの範囲の比較的低い密度が好ましい。
【0034】
本発明の酸化物焼結体は、比抵抗が5kΩcm以下、好ましくは3kΩcm以下、より好ましくは1kΩcm以下である。この比抵抗であれば、直流(DC)スパッタリングによる安定的な成膜が可能である。なお、チタン以外に、他の添加元素(例えば、インジウム、タングステン、モリブデン、イリジウム、ルテニウム、レニウムなど)が、本発明の目的を損なわない範囲で含まれていてもよい。
【0035】
2.酸化物焼結体の製造
本発明において酸化物焼結体は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物相α−ZnTiO相によって構成され、これらが前記した特定の範囲の比率となれば、その製造方法によって特に制限されない。例えば、下記のような原料粉末から成形体を形成する工程と、該成形体を焼結炉に入れて焼結させる工程を含む方法によることができる。この相構成は、製造条件のうち、例えば、原料粉末の粒径、混合条件および焼成条件に大きく依存する。
【0036】
(1)成形体の形成
原料粉末から成形体を形成する工程では、第一の酸化物焼結体であれば、原料粉末として酸化亜鉛粉末に酸化チタン粉末を添加し、第二の酸化物焼結体であれば、さらに、酸化ガリウム粉末、酸化アルミニウム粉末から選ばれる1種以上を添加して混合する。ガリウム、アルミニウム元素の添加は、高密度かつ高導電性の焼結体とするのに大きく寄与する。
【0037】
上記原料粉末は、いずれも平均粒径が1.5μm以下、特に1μm以下の粉末を用いることが好ましい。立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相は、比較的高温での焼結によって形成されるため、原料粉末同士を十分に反応させる必要があり、さらに、作製される酸化物焼結体中の酸化チタン相の生成を抑制させなければならない。原料粉末が1.5μmを超えると、原料粉末同士を十分に反応せず、酸化物焼結体中に酸化チタン相が生成することがある。
【0038】
本発明の酸化物焼結体のように、酸化亜鉛相だけでなく、亜鉛とチタンを含む複合酸化物α−ZnTiO相が共存する酸化物焼結体において、これらの相の比率を制御するためには、上記の比較的微細な原料粉末が混合工程において十分混合される必要がある。本発明の酸化物焼結体を製造する際の原料粉末の混合法としては、ボールミル混合法が有効である。ボールミルは、セラミックなどの硬質のボール(ボール径10〜30mm)と、材料の粉を容器にいれて回転させることによって、材料をすりつぶしながら混合して微細な混合粉末を作る装置である。ボールミル(粉砕メディア)は、缶体として鋼、ステンレス、ナイロンなどがあり、内張りとしてアルミナ、磁気質、天然ケイ石、ゴム、ウレタンなどを用いる。ボールは、アルミナを主成分とするアルミナボール、天然ケイ石、鉄芯入りナイロンボール、ジルコニアボールなどがある。湿式と乾式の粉砕方法があり、焼結体を得るための原料粉末の混合・粉砕に広範に利用されている。
【0039】
また、本発明の酸化物焼結体を得るためには、ボールミル法よりさらに均一性の高い混合原料粉末の混合が可能なビーズミル法やジェットミル法がさらに有効である。
ビーズミル法とは、ベッセルと呼ばれる容器の中に、ビーズ(粉砕メディア、ビーズ径0.005〜3mm)を70〜90%充填しておき、ベッセル中央の回転軸を周速7〜15m/秒で回転させることによりビーズに運動を与える。ここに原料粉末などの被粉砕物を液体に混ぜたスラリーをポンプで送り込み、ビーズを衝突させることによって微粉砕・分散させる。ビーズミルの場合、被粉砕物に合わせてビーズ径を小さくすれば効率が上がる。一般的に、ビーズミルは、ボールミルの1千倍近い加速度で微粉砕と混合を実現することができる。このような仕組みのビーズミルは、様々な名称で呼ばれており、例えば、サンドグラインダー、アクアマイザイー、アトライター、パールミル、アベックスミル、ウルトラビスコミル、ダイノーミル、アジテーターミル、コボールミル、スパイクミル、SCミル、などが知られており、本発明において、いずれも使用できる。
また、ジェットミル法とは、原料粉末などの被粉砕物を、ノズルから音速前後で噴射される高圧の空気あるいは蒸気を超高速ジェットとして粒子に衝突させて粒子同士の衝撃によって微粒子に粉砕する方法である。
【0040】
酸化亜鉛系の酸化物焼結体において、安定して成膜可能なターゲットを作製する場合、酸化亜鉛に添加する元素であるチタン、又はガリウム、アルミニウムなどの酸化物を原料粉末として用いることが好ましい。酸化亜鉛粉末と、添加する他元素の金属粉末とを組み合わせた原料粉末からも製造することができるが、作製された酸化物焼結体中に、添加した金属粉末(粒子)がそのまま残って存在していると、成膜中にターゲット表面の金属粒子が溶融してしまうので、ターゲットと膜の組成の違いが大きくなり好ましくはない。
【0041】
上記原料粉末は、公知の装置を用いて水系媒体と例えば10時間以上混合する。混合時間が10時間未満では、原料粉末同士が十分に混ざり合わないので所望の相構造を得ることができない場合がある。好ましい混合時間は15〜30時間である。その後、バインダー(例えば、PVA)などを添加して造粒した後、粒径を10〜100μmの範囲に整え、こうして得た顆粒を例えば1000kg/cm以上の圧力で加圧成形し、成形体とする。ついで、原料粉末を金型でプレス成形することにより粉末が圧縮され、密度の高い凝結粒子となり嵩密度が向上し、より高密度の成形体を得ることができる。1000kg/cmより低い圧力では嵩密度の向上が不十分であり、満足できる密度向上効果が期待できない。
【0042】
(2)成形体の焼結
成形工程に続く焼結工程は、該成形体を焼結炉に入れて焼結させる工程であり、焼結法は、酸素存在雰囲気下、高温で焼結させる常圧焼結法が好ましい。常圧焼結法では、酸素が体積比で20%以上、1350℃以上の高温で焼結させることが必要である。高温かつ酸素存在雰囲気中で焼結させることで、酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有し、かつ、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti)原子数比として0.05〜0.25である時、前記した特定範囲の比率の六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相によって構成された本発明の酸化物焼結体を得ることが可能となる。
【0043】
常圧焼結法の具体的な工程は、より詳細には以下のような条件で行われる。例えば、焼結炉内の大気に酸素を導入する雰囲気で、1350℃〜1650℃、好ましくは1400℃〜1600℃で、10〜30時間、好ましくは15〜25時間焼結する。温度が1350℃より低いか、焼結時間が10時間未満の場合には、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物相によって構成され、これらが前記した特定の範囲の比率をとる酸化物焼結体を得ることが困難になるだけでなく、焼結の進行が不十分となり、焼結体の密度が低くなり、抵抗値が高くなる。1650℃を超えるか、焼結時間が30時間を超えて焼結すると、亜鉛の揮発が顕著になり組成がずれたり、部分的に焼結体がポーラスになるなどの影響が現れ好ましくない。
上記範囲外の条件を採用した常圧焼結法で得られた焼結体では、スパッタリグ成膜の際に、成膜速度が遅くなる、あるいは、アーキングなどの異常放電がスパッタリング時に生じる、等の場合があり好ましくない。これらスパッタリング時の問題を解消するため、また、焼結体の割れを防ぎ、脱バインダーを進行させるためには、焼結温度まで昇温する時の昇温速度を0.2〜5℃/分の範囲とすることが好ましい。さらに、前記した特定比率の相構成が形成され、さらに、焼結体中に酸化チタン相が形成されないようにするためには、0.2℃/分以上1℃/分未満の範囲とすることがなお一層好ましい。昇温速度を0.2℃/分未満とした場合には、実操業に適さないばかりか、焼結体の結晶成長が著しくなるといった問題が生じる場合がある。また、上記課題解消のため、必要に応じて、異なる昇温速度を組み合わせて、焼結温度まで昇温してもよい。さらに、昇温過程において、脱バインダーや焼結を進行させる目的で、特定温度で一定時間保持してもよい。
上記焼結温度で焼結後冷却する際は、酸素導入を止め、1000℃までを0.2〜5℃/分、特に、0.2℃/分以上1℃/分未満の範囲の降温速度で降温することが好ましい。
【0044】
以上、述べてきたような工程に従い、微細な原料粉末を用い、十分な混合を行うとともに、拡散が進行する十分な焼結温度で焼結を行えば、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相によって構成され、これらが前記した特定の範囲の比率をとる酸化物焼結体を得ることが可能となり、しかも、この酸化物焼結体には酸化チタン相が含有されることがなくなる。
これに対して、特許文献3など従来技術にみられるホットプレス法では、このような高温において、還元雰囲気とする必要があるが、酸化物焼結体中に前記の複合酸化物α−ZnTiO相が生成しにくくなるため好ましくない。
【0045】
3.ターゲット
上記の方法で製造された酸化物焼結体は、平面研削等により加工し、所定の寸法にしてから、無酸素銅からなるバッキングプレートに、インジウムはんだなどを用いて接着することにより、スパッタリングターゲット(単にターゲットともいう)とすることができる。必要により数枚の焼結体を分割形状でならべて、1枚の大面積のターゲット(複合ターゲットともいう)として使用しても良い。イオンプレーティング用の場合も同様である。
【0046】
本発明において、スパッタリング用ターゲットは、酸化亜鉛を主成分とし、チタンのむ前記第一の酸化物焼結体、あるいは、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上を含有する前記第二の酸化物焼結体を加工したものである。その組成は、前記第一の酸化物焼結体では、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti)原子数比として0.05〜0.25であり、前記第二の酸化物焼結体では、ガリウム、アルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05以下、かつ、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25である。
そして、これらは、実質的に六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相によって構成されている。その相構成は、下記の式(A)で表されるX線回折測定によるピークの強度比が、15%以上70%以下となるよう制御されている。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【0047】
なお、チタンは、上記のウルツ鉱構造の酸化亜鉛相および/または逆スピネル構造の複合酸化物相に全て含まれており、酸化チタン相は含まれていない。また、アルミニウムおよび/またはガリウムを含む場合には、これらの元素は上記のウルツ鉱構造の酸化亜鉛相および/または逆スピネル構造の複合酸化物相に全て含まれており、酸化アルミニウム相や酸化ガリウム相を含んでいない。
本発明のターゲットは、酸化亜鉛を主成分とし、酸化チタンを特定量含有し、さらには比抵抗および可視光領域における屈折率が制御された透明導電膜をスパッタリングなどで代表される物理的気相合成法で製造するときに使用される。上記の六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相は導電性が高く、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相も酸化亜鉛相ほどではないが一定の導電性を示す。したがって、これらの相からなる酸化物焼結体ターゲットを用いた場合には、高い導電性を有していることから、高い成膜速度で薄膜を形成することが可能となる。
【0048】
また、このターゲットの密度は、スパッタリング用では、5.0g/cm以上であることが好ましい。密度が5.0g/cmよりも低いと、直流スパッタリングが困難になることはもとより、ノジュールの生成が著しくなるなどの問題が生じる場合がある。一方、イオンプレーティング用の場合は、ターゲットではなく、タブレット、あるいはペレットとも呼ばれている。タブレットの焼結体密度が高すぎると電子ビーム照射した時の熱衝撃によって割れが起こりやすいため、3.5〜4.5g/cmの範囲の比較的低い密度が好ましい。
このターゲットを用いれば、投入電力密度を高めて高速で直流スパッタリング成膜を行ってもアーキングなどの異常放電が全く発生せず、連続で長時間成膜したときでもターゲット表面に付着した膜の剥離によるパーティクルが発生しにくい。
【0049】
4.透明導電膜の製造
本発明の透明導電膜は、上記の本発明のターゲットを用いて、成膜装置中で基板上にスパッタリング法により形成される。特に、直流(DC)スパッタリング法は、成膜時の熱影響が少なく、高速成膜が可能であるため工業的に有利であり好ましい。また、交流(AC)スパッタリング法などでは、パルス電源を用いて成膜時の熱影響を低減させた方法も有用である。
【0050】
すなわち、本発明の方法は、前記酸化物焼結体から得られたターゲットを用い、特定の基板温度、圧力、酸素濃度などのスパッタリング条件を採用することで、基板上に、酸化亜鉛を主成分とし、チタンのみ、あるいはチタンとガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上を含有する非晶質の透明導電膜を形成する方法である。
本発明により透明導電膜を形成するには、スパッタリングガスとしてアルゴンなどの不活性ガスと酸素ガスからなる混合ガスを用い、直流スパッタリング法を用いることが好ましい。また、スパッタリング装置内は、スパッタリング装置の種類、構造によって好適な範囲は異なるが、例えば、全ガス圧を0.1〜1Pa、特に0.3〜0.8Paの圧力としてスパッタリングすることができる。
本発明においては、例えば、1×10−4Pa程度まで真空排気後、アルゴンと酸素からなる混合ガスを導入し、ガス圧を0.2〜0.6Pa程度、酸素/アルゴン流量比を0.5〜1.5%程度の範囲とし、直流電力100〜300Wを印加して直流プラズマを発生させ、プリスパッタリングを実施することができる。このプリスパッタリングを5〜30分間行った後、必要により基板位置を修正したうえでスパッタリングすることが好ましい。
【0051】
本発明では、基板を加熱せずに成膜できるが、基板を50〜300℃、特に80〜200℃に加熱することもできる。基板が樹脂板、樹脂フィルムなど低融点のものである場合は加熱しないで成膜することが望ましい。
上記本発明の酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを用いれば、高い屈折率を有し、導電性に優れた透明導電膜を、直流スパッタリング法によって基板上に製造することができる。よって製造コストを大幅に削減できる。
【0052】
また、本発明においては、上記酸化物焼結体からイオンプレーティング用のタブレット(ペレット)を作製し、これを用いたイオンプレーティング法でも同様の透明導電膜の形成が可能である。イオンプレーティング法では、蒸発源となるタブレットに、電子ビームやアーク放電による熱などを照射すると、照射された部分は局所的に高温になり、蒸発粒子が蒸発して基板に堆積する。このとき、蒸発粒子を電子ビームやアーク放電によってイオン化する。イオン化する方法には、様々な方法があるが、プラズマ発生装置(プラズマガン)を用いた高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)は、良質な透明導電膜の形成に適している。この方法では、プラズマガンを用いたアーク放電を利用する。該プラズマガンに内蔵されたカソードと蒸発源の坩堝(アノード)との間でアーク放電が維持される。カソードから放出される電子を磁場偏向により坩堝内に導入して、坩堝に仕込まれたタブレットの局部に集中して照射する。この電子ビームによって、局所的に高温となった部分から、蒸発粒子が蒸発して基板に堆積する。気化した蒸発粒子や反応ガスとして導入されたOガスは、このプラズマ内でイオン化ならびに活性化されるため、良質な透明導電膜を作製することができる。
【0053】
5.透明導電膜
本発明の透明導電膜は、上記ターゲット、あるいはタブレットを用いて、スパッタリング法あるいはイオンプレーティング法で基板上に形成される。
形成された透明導電膜の組成は、ターゲットあるいはタブレットの組成に対して若干ずれる場合があるが、一般的な成膜プロセスを採用すれば、ターゲットあるいはタブレットの組成が概ね再現される。ターゲットあるいはタブレットの組成が透明導電膜で再現されたほうが、膜の特性が発揮されるため好ましい。
【0054】
すなわち、前記酸化物焼結体から加工されたターゲット、あるいはタブレットを用いて、スパッタリング法あるいはイオンプレーティング法で製造された透明導電膜であって、酸化亜鉛を主成分とし、さらにチタンを含有する透明導電膜であって、チタンをTi/(Zn+Ti)原子数比で0.05〜0.25の割合で含有するか、あるいは、酸化亜鉛を主成分とし、さらにチタンと、ガリウム、アルミニウムから選ばれる1種以上を含有する透明導電膜であって、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比で0を超え0.03以下の割合で含有し、チタンをTi/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比で0.05〜0.25の割合で含有する。
【0055】
本発明の上記透明導電膜は、キャリア電子の生成が抑制された、高い屈折率を有する非晶質膜であることが好ましい。一般的な酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜は、前記のGZOやAZOに代表されるように、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相からなる結晶膜である。酸化亜鉛相は導電性が高く、多量のキャリア電子を生成するため、この結晶膜の屈折率を低下させてしまう。よって、本発明のように、高い屈折率を有する透明導電膜を形成しようとする場合、酸化亜鉛相からなる結晶膜は好ましくない。
また、逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相は、一定の導電性を示すが結晶構造が複雑なため、この相を一定量以上含む酸化物焼結体を原料として薄膜を形成した場合得られる薄膜は非晶質となりやすく、原料となる酸化物焼結体の構成相の比率を上記式(A)の強度比の範囲に制御すれば、高い屈折率を示す非晶質膜とすることが可能である。したがって、酸化亜鉛系薄膜においては、結晶膜のキャリア電子濃度は高くなるが、非晶質膜のキャリア電子濃度は高くならないため、薄膜の比抵抗は高くなり、屈折率は低下しにくい。
【0056】
上記のように製造条件を制御することにより、本発明の透明導電膜は、波長750nmの屈折率が1.95以上とすることができる。この高い屈折率とするために、キャリア電子濃度を制御した結果として、非晶質膜の比抵抗が、1.0×10−2Ω・cm以上を示すことが好ましい。また、特許文献2に記載されているような電磁波遮蔽フィルムの酸化物層として上記非晶質膜を適用する場合には、電磁波遮蔽性能を低下させないために、該非晶質膜の比抵抗は1.0×10+3Ω・cm以下とすることが好ましい。
【0057】
本発明の透明導電膜の膜厚は、用途によって異なるので特に規定できないが、10〜500nm、好ましくは20〜120nmである。10nm未満であると十分な比抵抗が確保できず、一方、500nmを超えると膜の着色の問題が生じてしまうので好ましくない。
また、本発明の透明導電膜の可視域(400〜800nm)での平均透過率は80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。平均透過率が80%未満であると電磁波遮蔽フィルムなどへの適用が困難となる。
【0058】
6.導電性積層体
本発明の導電性積層体は、基体と、基体上に形成された導電膜とを有する導電性積層体であって、導電膜が、基体側から、上記した本発明の透明導電膜からなる透明導電膜層と金属層とが交互に計(2n+1)層(nは1以上の整数)積層された多層構造体であり、波長750nmにおける屈折率が1.95以上であり、金属層が、銀を主成分として含有する層である。
本発明の導電性積層体においては、導電膜は、上記の透明導電膜からなる透明導電膜層と金属層とが交互に積層された多層構造体であるが、金属層が2〜8層設けられていることが好ましい。
また、金属層は、金、ビスマス、またはネオジウムから選ばれる1種以上を含有する銀合金、あるいは純銀であることが好ましい。
【0059】
この透明導電性積層体は、導電膜が、前記の本発明の透明導電膜からなる透明導電膜層と金属層を交互に積層させたものであり、例えばPDPなどに用いられる電磁波遮蔽フィルムとして機能させるものである。
基体としては、光透過性の支持体を兼ねることから、一定の強度と透明性を有する必要がある。樹脂板もしくは樹脂フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられ、これらの表面にアクリル樹脂が被覆された構造の樹脂板もしくは樹脂フィルムでもよい。
基体の厚さは、特に限定されるわけではないが、ガラス板や石英板であれば、0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmであり、樹脂板または樹脂フィルムの場合は、0.1〜5mm、好ましくは0.15〜3mmとされる。この範囲よりも薄いと強度が弱く、取り扱いも難しい。一方、この範囲よりも厚いと透明性が悪いだけでなく重量が大きくなり、好ましくない。
【0060】
上記基体には、単層または多層からなるガスバリア層又は保護層などを形成することができる。ガスバリア層としては、水蒸気バリア膜などとして、酸化珪素(Si−O)膜、窒化酸化珪素(Si−O−N)膜、アルミニウム酸チタン(Al−Mg−O)膜、または酸化スズ系(例えば、Sn−Si−O)膜などが樹脂板もしくは樹脂フィルムに形成される。保護層は、基体の表面を傷や衝撃から守るためのものであり、Si系、Ti系、アクリル樹脂系など各種コーティングが使用される。なお、基体に形成しうる層はこれらに限定されず、導電性を有する薄い金属膜などを施すこともできる。
【0061】
本発明によって得られる透明導電性積層体は、本発明の高い屈折率と一定の比抵抗、高い可視域平均光透過率を示す透明導電膜からなる酸化物層と金属層が交互に形成されているため、各種の表示パネルの構成部品として極めて有用である。また、上記透明導電性積層体を備えた電子回路実装部品としては、PDP用の電磁波遮蔽フィルムなどを挙げることができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の実施例を用いて、さらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【0063】
(酸化物焼結体の評価)
得られた酸化物焼結体に含まれる各金属元素の原子比は、ICP発光分光分析法(セイコーインスツルメンツ社製SPS4000)で求めた各金属元素の重量から算出した。得られた酸化物焼結体の比抵抗は、研磨面に対し、抵抗率計(ロレスタEP、ダイアインスツルメンツ社製MCP−T360型)による四探針法で測定した。また、得られた酸化物焼結体の生成相は、端材を粉砕し、粉末X線回折測定(PANalytical社製)を実施して同定を行った。
【0064】
(透明導電膜および導電性積層体の特性評価)
膜厚40nm或いは200nmの透明導電膜を形成し、特性評価を行った。得られた透明導電膜に含まれる各金属元素の原子比は、ICP発光分光分析法(セイコーインスツルメンツ社製SPS4000)で求めた各金属元素の重量から算出した。透明導電膜の膜厚は、表面粗さ計(テンコール社製Alpha−StepIQ)で測定した。膜の表面抵抗は、抵抗率計(ロレスタEP、ダイアインスツルメンツ社製MCP−T360型、あるいはハイレスタIP、三菱油化製MCP−HT260)による四探針法、あるいは渦電流型抵抗測定器(Nagy社製SRM12)のいずれかを用いて測定した。膜の比抵抗は、四探針法によって測定した表面抵抗と膜厚の積から算出した。膜の屈折率は、分光エリプソメトリ(J.A.Woollam製VASE)で測定した。膜の生成相は、X線回折測定(PANalytical社製)によって同定した。
【0065】
(実施例1)
酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含む酸化物焼結体を次のようにして作製した。
出発原料として平均粒径が1μm以下の酸化亜鉛粉末と平均粒径が1μm以下の酸化チタン粉末を用い、酸化チタンは、チタンとしての含有量がTi/(Zn+Ti)原子数比で0.102となるように配合した。原料粉末を水とともに樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrOボールを用い、混合時間を36時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。該造粒物を、冷間静水圧プレスで3ton/cmの圧力をかけて成形した。
次に、成形体を次のように焼結した。焼結炉内の雰囲気を大気として、昇温速度0.5℃/分にて1000℃まで昇温した。1000℃に到達後、炉内容積0.1m当たり5リットル/分の割合で、焼結炉内の大気に酸素を導入し、1000℃のまま3時間保持した。続いて、再び昇温速度0.5℃/分にて焼結温度1500℃まで昇温し、到達後、15時間保持して焼結した。焼結後の冷却の際は酸素導入を止め、1000℃までを0.5℃/分で降温し、酸化亜鉛およびチタンからなる酸化物焼結体を作製した。得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.3g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、図3に示すように、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、30%であった。
このような酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタリングターゲットとした。直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタリング面をカップ砥石で最大高さRzが3.0μm以下となるように磨いた。
これをスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリング法による成膜を行った。アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置(アネルバ製)の非磁性体ターゲット用カソードに、スパッタリングターゲットを取り付けた。基板には、無アルカリのガラス基板(コーニング♯7059)を用い、ターゲット−基板間距離を60mmに固定した。1×10−4Pa以下まで真空排気後、酸素流量比を0.7%としたアルゴンと酸素からなる混合ガスを導入し、全ガス圧を0.5Paとし、直流電力300Wを印加して直流プラズマを発生させ、プリスパッタリングを実施した。十分なプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基板を配置し、加熱せずにスパッタリングを実施して、透明導電膜を形成した。このときアーク放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。
得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、7.2×10±0Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.99であった。
【0066】
(実施例2)
酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。出発原料として平均粒径が1μm以下の酸化亜鉛粉末、平均粒径が1μm以下の酸化チタン粉末、および平均粒径が1μm以下の酸化ガリウム粉末を用い、酸化チタンは、チタンとしての含有量がTi/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.051となるように、酸化ガリウムは、ガリウムとしての含有量がGa/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.0087となるように配合した。
実施例1と同様にして焼結し、得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また、密度は5.6g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、15%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーク放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、1.0×10−1Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.95であった。
【0067】
(実施例3)
Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比を0.102に変更した以外は、実施例2と同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.7g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、図3に示すように、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、32%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、1.4×10±0Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.99であった。
なお、酸化物焼結体のガリウムの含有量のみを変更し、Ga/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.0043、0.0130、あるいは0.0261とした場合についても、上記とほぼ同様の結果が得られることを確認した。
【0068】
(実施例4)
Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比を0.200に変更した以外は、実施例2と同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.4g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、56%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、6.1×10+1Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、2.06であった。
【0069】
(実施例5)
Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比を0.250に変更した以外は、実施例2と同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.3g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、69%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、9.4×10+2Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、2.07であった。
【0070】
(実施例6)
酸化ガリウム粉末の代わりに平均粒径が1μm以下の酸化アルミニウム粉末を使用し、Al/(Zn+Ti+Al)原子数比で0.0087に変更したこと以外は、実施例3と同じ原子比および同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとアルミニウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.6g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、図3に示すように、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、31%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、1.3×10±0Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.98であった。
【0071】
(実施例7)
平均粒径が1μm以下の酸化ガリウム粉末の半分を平均粒径が1μm以下の酸化アルミニウム粉末に置き換えて、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比で0.0087、Ga/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比で0.0043に変更したこと以外は、実施例3と同じ原子比および同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとアルミニウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.5g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、32%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、1.5×10±0Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.99であった。
【0072】
(比較例1)
Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比を0.031に変更した以外は、実施例2と同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.7g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、12%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、8.6×10±0Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.90であった。
【0073】
(比較例2)
Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比を0.304に変更した以外は、実施例2と同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。
得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.3g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、81%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は非晶質であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、2.1×10+3Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、2.11であった。
【0074】
(比較例3)
Ga/(Zn+Ti+Ga)原子数比を0.050に変更した以外は、実施例4と同様の作製方法で、酸化亜鉛を主成分とし、チタンとガリウムを含む酸化物焼結体を作製した。得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.3g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、48%であった。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行ったところ、アーキングが頻発し安定した成膜ができなかったため、透明導電膜の形成は断念した。
【0075】
(比較例4)
酸化亜鉛を主成分とし、ガリウムのみを含む酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、このターゲット上に金属Tiチップを配置して成膜する方法、いわゆるオンチップ法で成膜を実施した。用いたスパッタリングターゲットの組成は、Ga/(Zn+Ga)原子数比が0.0087とした。得られた膜の組成を分析したところ、Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比は0.105、Ga/(Zn+Ti+Ga)原子数比は0.0079であり、実施例3とほぼ同等の組成の膜が得られた。
得られた透明導電膜の構造をX線回折測定で調べた結果、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相からなる結晶膜であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、8.9×10−4Ω・cmであった。この膜の波長750nmにおける屈折率を測定したところ、1.78と低かった。
【0076】
(比較例5)
実施例2と同組成、すなわち、Ga/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.0087、Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.051の組成の酸化物焼結体を、常圧焼結法からホットプレス法に変更して作製した。
ホットプレス法の条件は、特許文献3を参考にして、アルゴン雰囲気中、温度1300℃、圧力19.60MPa(200kgf/cm)、加圧時間1時間とした。得られた酸化物焼結体の組成を分析したところ、ほぼ配合組成と同じであることを確認した。酸化物焼結体の比抵抗値を測定したところ、比抵抗が5kΩcm以下であることが確認された。また密度は5.7g/cmであった。
X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、酸化亜鉛相に対する複合酸化物α−ZnTiO相のピーク強度は微弱であり、10%未満であることが確認された。
このような酸化物焼結体をボンディングしてスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングによる成膜を行った。アーキングなどの異常放電は起こらず、安定した成膜が可能であった。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。X線回折測定の結果、得られた膜は六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相からなる結晶膜であることが確認された。膜の比抵抗を測定したところ、9.6×10−4Ω・cmであった。波長750nmにおける膜の屈折率を測定したところ、1.82であった。
なお、酸化ガリウム粉末を配合せず、酸化亜鉛粉末と酸化チタン粉末のみを配合した点を除いて、上記と全く同様にして実験した。X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相が確認されたが、正方晶のルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造をとる酸化チタン相による回折ピークは確認されなかった。酸化物焼結体中の酸化亜鉛相と複合酸化物α−ZnTiO相の相比率を見積もるため、前記式(A)で定義される、X線回折測定におけるピークの強度比を調べたところ、酸化亜鉛相に対する複合酸化物α−ZnTiO相のピーク強度は微弱であり、10%未満であることが確認された。同様に、ターゲットとほぼ同組成の透明導電膜が得られ、この膜は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相からなる結晶膜であり、比抵抗は1.1×10−3Ω・cm、波長750nmにおける膜の屈折率は1.86であった。
【0077】
(実施例8)
実施例3と同組成、すなわち、Ga/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.0087、Ti/(Zn+Ti+Ga)原子数比で0.102の組成の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして成膜した透明導電膜からなる酸化物層と、銀をスパッタリングターゲットとして成膜した銀膜からなる金属層を積層して、導電性積層体を作製した。酸化物層40nm/金属層10nm/酸化物層40nmを基本単位構造とし、コーニング7059ガラス基板上に3単位繰り返し形成した。
得られた導電性積層体の表面抵抗は、2.052Ω/□であった。また、図2には、導電性積層体の透過および反射スペクトルを示した。図2より、波長750nmの透過率は65.9%、反射率は2.1%であった。
【0078】
【表1】

【0079】
「評価」
実施例1より、本発明の酸化亜鉛を主成分とし、特定量のチタンを含有する酸化物焼結体は、ルチル構造あるいはアナターゼ構造や斜方晶のブルッカイト構造の酸化チタン相を含まず、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相のみにより構成され、その比率は上式(A)で表されるX線回折測定によるピークの強度比が15%以上70%以下であることが明らかとなった。また、この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして成膜して得られた透明導電膜は、比抵抗が1×10−2Ω・cm以上1×10+3Ω・cm以下の範囲の値を示し、波長750nmの屈折率が1.95以上の値を示すことが確認された。
実施例2〜5より、本発明の酸化亜鉛を主成分とし、特定量のチタンおよびガリウムを含有する酸化物焼結体、あるいは得られた透明導電膜についても、実施例1と同様の特性が得られることが判明した。また、実施例6、7より、本発明の酸化亜鉛を主成分とし、特定量のチタンおよびアルミニウム、あるいは特定量のチタン、ガリウムおよびアルミニウムを含有する酸化物焼結体、あるいは得られた透明導電膜についても、実施例1と同様の特性が得られることが判明した。
比較例1〜3より、酸化物焼結体中のチタンあるいはガリウムが特定量を超える、あるいは特定量未満である場合には、酸化物焼結体、あるいは得られた透明導電膜が、実施例1〜5と同様の特性を実現することが不可能であることが明らかとなった。また、比較例4では、チタンを金属Tiチップとして用いたので実施例3と同じ組成の膜が形成されたものの、屈折率が低かった。
また、特許文献2にあるように、PDPフィルターに積層体を適用する場合には、可視光領域長波長側で満足すべき光学的な条件があり、例えば、波長850nmでは、透過率は5%以下が好ましく、2%以下がさらに好ましいとされている。実施例8はこのままでは上記条件を満足しないが、膜厚の調整、特に銀膜厚を厚膜化することで容易に対応できる。銀膜厚の厚膜化は、導電性の向上、すなわち、電磁波遮蔽特性の向上を意味し、光学的な特性向上と合わせると、PDPフィルターの総合的な特性向上を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】酸化亜鉛に酸化ガリウムを添加した透明導電膜GZOの屈折率の波長依存性と、酸化シリコン膜の屈折率の波長依存性を示したグラフである。
【図2】本発明の酸化物焼結体、比較用の酸化物焼結体を用いて得られた透明導電膜の透過率、反射率の波長依存性を示したグラフである。
【図3】本発明の酸化物焼結体(実施例1、3、6)をX線回折測定して得られたチャートと、ピークリスト(六方晶のウルツ鉱構造の酸化亜鉛相(JCPDSカード36−1451)、立方晶の逆スピネル構造の複合酸化物α−ZnTiO相(JCPDSカード25−1164))である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有し、その含有量がTi/(Zn+Ti)原子数比として0.05〜0.25である酸化物焼結体であって、
六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相から構成され、かつX線回折により測定され下記の式(A)で求められるピークの強度比が、15〜70%であることを特徴とする酸化物焼結体。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【請求項2】
酸化亜鉛を主成分とし、チタンと、ガリウム又はアルミニウムから選ばれる1種以上とを含有し、そのガリウム又はアルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下、また、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25である酸化物焼結体であって、
六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相と立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相から構成され、かつX線回折により測定され下記の式(A)で求められるピークの強度比が、15〜70%であることを特徴とする酸化物焼結体。
I[ZnTiO(311)]/{I[ZnO(101)]+I[ZnTiO(311)]}×100 (%)… (A)
(式中、I[ZnO(101)]は、六方晶のウルツ鉱構造をとる酸化亜鉛相の(101)ピーク強度であり、I[ZnTiO(311)]は、立方晶の逆スピネル構造をとる複合酸化物α−ZnTiO相の(311)ピーク強度を示す)
【請求項3】
酸化チタン相が実質的に含有されないことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
密度が5.0g/cm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
比抵抗が5kΩcm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
酸化亜鉛粉末に対して、酸化チタン粉末をTi/(Zn+Ti)で示される原子数比として0.05〜0.25となる割合で配合し、この原料粉末に、水系溶媒を配合し、得られたスラリーを混合した後、固液分離し、乾燥し、造粒して得られた造粒物を型枠に入れ成形し、得られた成形体を酸素雰囲気中、1350〜1650℃で10〜30時間常圧焼結して酸化物焼結体を得ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記酸化亜鉛粉末に対して、酸化ガリウム粉末、または酸化アルミニウム粉末から選ばれる1種以上の粉末が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下となる割合で配合されることを特徴とする請求項6に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項8】
原料粉末の平均粒径が、いずれも1.5μm以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体を加工して得られるスパッタリング用ターゲット。
【請求項10】
請求項9に記載のターゲットを用いて、スパッタリング法で基板上に形成された透明導電膜。
【請求項11】
酸化亜鉛を主成分とし、チタンを含有し、かつ、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti)原子数比で0.05〜0.25であることを特徴とする請求項10に記載の透明導電膜。
【請求項12】
酸化亜鉛を主成分とし、チタンと、ガリウム又はアルミニウムから選ばれる1種以上とを含有し、かつ、ガリウム又はアルミニウムの含有量が、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下であり、チタンの含有量が、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25であることを特徴とする請求項10に記載の透明導電膜。
【請求項13】
実質的に非晶質であることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項14】
膜の比抵抗が1×10−2Ω・cm以上1×10+3Ω・cm以下であることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項15】
波長750nmの屈折率が1.95以上であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項16】
基体と、基体上に形成された導電膜とを有する導電性積層体であって、導電膜が、基体側から、透明導電膜層と銀を主成分として含有する金属層とが交互に計(2n+1)層(nは1以上の整数)積層され、透明導電膜層が、請求項10〜15のいずれかに記載の透明導電膜からなることを特徴とする多層構造体。
【請求項17】
金属層が2〜8層設けられていることを特徴とする請求項16に記載の導電性積層体。
【請求項18】
金属層が、金、ビスマス、またはネオジウムから選ばれる1種以上を含有する銀合金であるか、若しくは純銀であることを特徴とする請求項16または17に記載の導電性積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−298649(P2009−298649A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154976(P2008−154976)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】