説明

酸素吸収剤の充填不良品検出方法

【課題】 簡便且つ高精度に鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物の充填良否を判定し、該組成物の充填不良品を検出する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物を充填してなる酸素吸収剤包装袋が、検知コイル内部または近傍を通過する際に生じる電位差を測定して、該組成物の充填良否を判定する、酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法であって、該電位差と該電位差を測定する前までに該包装袋と同様の手段によって測定された他の酸素吸収剤包装袋について生じた電位差の平均値を比較して、該組成物の充填良否を判定する、酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物の充填良否を判定し、該組成物の充填不良品を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食料品、医薬品、化粧品などの酸化しやすい物品やカビなどの微生物汚染、腐敗を受けやすい物品を手軽で確実に品質保存する方法として、これら酸化しやすい物品と共に酸素吸収剤組成物を包装袋に収納して、当該物品と共に保存する方法が広く用いられるようになってきた。そのため、大量の酸素吸収剤組成物及びそれを通気性包装袋に収納した酸素吸収剤包装袋が製造されている。
【0003】
酸素吸収剤組成物としては種々のものが知られているが、これらの中でも鉄粉を主剤とした酸素吸収剤組成物は、酸素吸収能力及び酸素吸収速度が共に大きく、安全性にも優れ、実用性が高いため、多量に使用されている。
【0004】
酸素吸収剤包装袋は、品質管理の面から見ると、包装袋内に所定量の酸素吸収剤組成物が包装されているか否か、すなわち、正常量の酸素吸収剤組成物が充填されているか否かを検査することが必須である。特に、高速で移動する帯状の連続包装袋においては、一つ一つの包装袋について、正確に充填量の良否を判定することは困難であった。
【0005】
特許文献1には、標準用コイルと検査用コイルからなる参照検知コイル式の検査方法が開示されている。これは、予め鉄粉を含有する酸素吸収剤が充填された包装袋の充填量良品を対照として標準用コイル内部に導入し、良品の誘導渦電流の値を求め、次に、検査対象となる酸素吸収剤包装袋を検査用コイルに導入し、両者の誘導渦電流の値を比較して不良品の選別を行う検査方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3417997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら本発明者らの検討の結果、該検査方法は、必ずしもその精度が充分ではなく、測定条件によっては誘導渦電流の値が大きく変動する事が確認された。
【0008】
さらに、該誘導渦電流の値は、鉄粉の酸化にともなって徐々に変化するため、同一の酸素吸収剤包装袋を標準用コイル内部に導入し、長時間対照として使用することは、正確な検査を行う上では適さないことも明らかとなった。
【0009】
本発明は、これらの課題を解決し、簡便且つ高精度に鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物の充填良否を判定し、該組成物の充填不良品を検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的の達成のため鋭意研究した結果、鉄粉を含有する酸素吸収剤包装袋が検知コイル内部または近傍を通過した際に生じる電位差を測定し、これを基準に酸素吸収剤組成物の充填量の良否を判定することによって、該組成物の充填不良品を検出する方法を見出した。
【0011】
即ち本発明は、少なくとも鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物を充填してなる酸素吸収剤包装袋が、検知コイル内部または近傍を通過する際に生じる電位差を測定して、該組成物の充填良否を判定する、酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法であって、該電位差と該電位差を測定する前までに該包装袋と同様の手段によって測定された他の酸素吸収剤包装袋について生じた電位差の平均値を比較して、該組成物の充填良否を判定する、酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法である。
【0012】
また本発明の検査方法においては、検知コイル内部における該包装袋の通過位置を、補助具にて一定位置となるように保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の検出方法により、酸素吸収剤組成物の充填良否を高精度に判定する事が可能となり、その結果、酸素吸収剤組成物の充填信頼性の高い酸素吸収剤包装袋を生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法に関する一実施例を示す概略図。
【図2】本発明の酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法において、検知コイル内部における酸素吸収剤包装袋の通過位置を一定位置に保持する補助具の一態様を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について添付図面を用いて説明する。図1に示された本発明の一実施例においては、酸素吸収剤組成物が充填され、三方シール方式で製造された酸素吸収剤包装袋を、電流の通された検知コイル9内部に通過させ、そのときに生じる電位差の測定値と、該電位差を測定する前までに該包装袋と同様の手段によって測定された他の酸素吸収剤包装袋について生じた電位差の測定値の平均値とを比較して、該組成物の充填良否が判定される。
【0016】
図1には、本発明の検出方法を実施する上で必須となる検知コイル9の他に、検査対象となる酸素吸収剤包装袋を製造する装置が記載されている。以下、この装置と本発明の検査方法との関係について詳述する。図1において酸素吸収剤組成物は、粉体充填装置のホッパー1に投入され、ここから回転式原料計量板2上の計量升3に供給される。酸素吸収剤組成物を包装する通気性包装材料は、包材ロール4から供給され、包材製袋ガイド5を通過後、縦シール装置6により縦シールされることによって包装袋の形状を成す。そして、当該包装袋に対して充填シュート7が挿入され、これを介して計量升3から落下する酸素吸収剤組成物が該包装袋内に充填された後、横シール装置8によってヒートシールされて、連包状の酸素吸収剤包装袋1包が完成する。その直後、検知コイル9内部を通過させた際に当該包装袋1包について生じる電位差を測定して、酸素吸収剤組成物の充填良否が判定される。
【0017】
図1においては、酸素吸収剤包装袋は個々の包装袋が連なった連包状の酸素吸収剤包装袋の検査が行われているが、酸素吸収剤包装袋の形態はこれに限定されず、個々が独立した包装袋であってもかまわない。ただし、酸素吸収剤包装袋の製造効率及び検査の信頼性等を考慮すれば、図1で示されているように、連包状で製造された酸素吸収剤包装袋の充填不良の判定を、本発明の方法によって、製造後直ちに行うことが好ましい。
【0018】
図2は、検知コイル9内における酸素吸収剤包装袋の通過位置を一定位置に保持する補助具10の一態様を示すものである。酸素吸収剤包装袋が検知コイル9内を通過する位置が一定位置に保持されると、その際に生じる電位差の測定値が安定し、充填良否の判定結果に対する信頼性が向上するため、補助具10を使用して本発明を実施することが好ましい。
【0019】
本発明の酸素吸収剤組成物に含有される鉄粉としては、酸素吸収反応を起こすことができるものであれば特に制限はなく、還元鉄粉、電解鉄粉、噴霧鉄粉等、任意のものが使用できる。また、酸素吸収剤組成物の酸素吸収性能を向上させるために、鉄粉の他、鉄粉の酸化反応を促進するハロゲン化金属を配合することが好ましく、殊にハロゲン化金属で表面を被覆した鉄粉が好適に用いられる。
【0020】
本発明の酸素吸収剤組成物には、鉄粉の酸化反応の進行に必須となる水を供与する保水剤を含有させても良い。保水剤とは水を蒸散する機能を有する剤であり、水または水を含有する調湿液を粒状物質に含浸させたものが好ましく用いられる。粒状物質としては、例えば、珪藻土、パーライト、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、活性炭、砂、石、その他のものが挙げられる。また、調湿液には、水の他に無機化合物、特に、無機塩類を溶解させた水溶液が好適に用いられる。
【0021】
保水剤を酸素吸収剤組成物の成分として鉄粉と共に含有させる場合には、空気酸化によって当該組成物が包装袋に充填される前に失活することを防ぐため、鉄粉と保水剤を別々のホッパー1及び計量升3を用いて充填することが好ましい。
【0022】
本発明の酸素吸収剤組成物には流動性の向上等を目的としてフィラーを添加することが出来る。フィラーの具体例としては活性炭、ゼオライト、パーライト、珪藻土、活性白土、シリカ、カオリン、タルク、ベントナイト、活性アルミナ、石膏、シリカアルミナ、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、黒鉛、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、酸化鉄等の粉末または粒状物が挙げられ、電位差の測定を妨げないものが利用される。
【0023】
酸素吸収剤組成物に配合されうる上記各成分の配合割合は、通常、酸素吸収速度、酸素吸収量、経済性などを勘案して適宜決定される。
【0024】
本発明の酸素吸収剤組成物を包装する包装材料としては、通気性包装材料が好ましく用いられる。通気性包装材料は、酸素が十分に通気することが必要であり、少なくとも有孔プラスティックフィルムが一部に使用された通気性包材を使用することが好ましい。例えば有孔ポリエチレンフィルムをラミネートした紙包材等が好ましく用いられるが、十分に酸素が通気する包装材料であり、電位差の測定を妨げるものでなければ、特に制限無く使用することができる。
【0025】
本発明の検出方法においては、検知コイル9内部または近傍を酸素吸収剤包装袋に通過させることにより生じる電位差を測定することによって、該酸素吸収剤包装袋中の酸素吸収剤組成物の充填良否を判定する。当該電位差を生じさせるために、検知コイル9には、例えば振動子から発生した交流電流を流す。
【0026】
検知コイル9に交流電流が流れることによって磁場が発生するが、その際、検知コイル9内部または近傍を金属が接近すると、電磁誘導の効果から金属に渦電流が発生して交流磁場が生じるため、電位差が生じる。この電位差は、接近する金属が同一、同質量であり、接近箇所が同一であれば原則として一定の値を示すから、鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物が充填された酸素吸収剤包装袋を、検知コイル9内部または近傍に通過させた際に生じる電位差を測定することは、該包装袋内に充填された鉄粉、つまりは酸素吸収剤組成物の充填良否を判定する手掛かりとなる。つまり、各包装袋について生じる電位差を測定して、これらを予め測定した酸素吸収剤組成物が正常量充填された酸素吸収剤包装袋の電位差と比較すれば、その充填量が過剰または不足した包装袋の検出が可能となる。
【0027】
しかしながら充填良否の検出を連続的に行うと、当該電位差は必ずしも一定の値を示さなくなり変動するため、予め測定した電位差を充填良否の判断基準とすると、充填不良品を良品と判断したり、反対に充填良品を不良品として判断したりするという不具合が生じうる。ただし、一定の値を示さなくなるとはいうものの、直近の包装袋同士について生じた電位差に関して見れば、その変動幅は小さなものであった。
【0028】
そこで、本発明の検出方法においては、充填良否を判定しようとする包装袋について生じた電位差の測定値と、当該電位差を測定する前までに該包装袋と同様の手段によって測定された他の酸素吸収剤包装袋について生じた電位差の測定値の平均値とを比較することによって、充填良否を判定することとした。ただし、平均値算出の対象とする包装袋の数が多すぎると結局は前記不具合を解決できない虞があるため、その対象を予め制限することが好ましい。例えば、充填良否を判定しようとする包装袋の直前までに該包装袋と同様の手段によって測定された10個〜200個、或いは10個〜100個の酸素吸収剤包装袋について生じた電位差の平均値を用いることが好ましい。また、平均値としては、算出の容易さから相加平均値を用いることが好ましい。
【0029】
平均値との比較にあたっては、平均値に対して上下一定割合にある数値をそれぞれ上限値、下限値として定め、その範囲内にあるものを良品と判定することが好ましい。例えば平均値の50〜140%にあるもの、より厳しくは平均値の75〜140%にあるものを良品と判定するという基準を設けることが出来る。なお、当該割合は、酸素吸収剤組成物の種類、酸素吸収剤包装袋が検知コイル9内部または近傍を通過する際の通過速度や通過位置等によって任意にまたは経験的に決定できるものである。
【0030】
酸素吸収剤組成物に、保水剤のような鉄粉以外の非導電性成分を含有させると、当該組成物を充填した酸素吸収剤包装袋について生じる電位差が低下する傾向が見られる。この現象のため、上限値を設けることにより、鉄粉の過充填のみならず、鉄粉以外の非導電性成分の充填不足をも検出することが可能となる。
【0031】
連包状の酸素吸収剤包装袋を、検知コイル9内部または近傍に通過させ、該包装袋1包毎について充填良否を判定する場合は、不良品と判定された包装袋が生じた際に、直ちにその通過を停止するような機構を設けると、連包状の酸素吸収剤包装袋の中から充填不良品を容易に発見し、除去できるため好ましい。
【0032】
検出方法の精度を向上させるためには、検知コイル9内部または近傍を通過する位置を一定位置に保持することが好ましい。しかし、通過速度が高速であると酸素吸収剤包装袋が上下左右に振動する虞が高くなり、その保持が困難となる。そこで、検知コイル9内部の通過位置を一定位置となるように保持する補助具10を設けることは、本発明の検出方法を実施する上で好ましい態様である。
【0033】
補助具10の形状は、酸素吸収剤包装袋の振動を防止することが出来る形状であれば任意のものが使用できるが、凹字状やU字状のものが好ましく用いられる。補助具の材質に関しては、電位差の測定を害するものでなければ任意のものが使用できるが、中でも振動が吸収されるような衝撃吸収部材が好ましく用いられる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図1に示した装置を用い、連包状の酸素吸収剤包装袋の製造及び酸素吸収剤組成物の充填良否の判定を行った。鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物が充填され、横シール装置8によって横シールが終了した直後の連包状の酸素吸収剤包装袋を検知コイル9内部に通過させ、個々の包装袋について生じた電位差を測定した。また、充填良否を判定すべき包装袋の直前までに検知コイル9内部を通過した100個の個々の包装袋について生じた電位差から相加平均値を算出して、該平均値より25%減算した数値を下限値に、該平均値より40%加算した数値を上限値に設定した。個々の包装袋について生じた電位差が、下限値以上、上限値以下の範囲内であれば当該包装袋を良品、当該範囲外であれば不良品と判定して、不良品が検出された際、直ちに製造装置の運転が停止するように設定した。
【0035】
その結果、製造装置の運転が停止するきっかけとなった包装袋への酸素吸収剤組成物の充填量は過剰または不充分であり、正確に充填不良品が検出されていたことが確かめられた。また、製造装置が停止することなく製造された包装袋に関しては、いずれも酸素吸収剤組成物の充填量は充分であったことから、本発明の検出方法によって充填不良品のみが精度良く検出されていたことが確かめられた。
【符号の説明】
【0036】
1 : ホッパー
2 : 回転式原料計量板
3 : 計量升
4 : 包材ロール
5 : 包材製袋ガイド
6 : 縦シール装置
7 : 充填シュート
8 : 横シール装置
9 : 検知コイル
10: 補助具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鉄粉を含有する酸素吸収剤組成物を充填してなる酸素吸収剤包装袋が、検知コイル内部または近傍を通過する際に生じる電位差を測定して、該組成物の充填良否を判定する、酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法であって、該電位差と該電位差を測定する前までに該包装袋と同様の手段によって測定された他の酸素吸収剤包装袋について生じた電位差の平均値を比較して、該組成物の充填良否を判定する、酸素吸収剤組成物の充填不良品検出方法。
【請求項2】
該包装袋が該検知コイル内部を通過する際に、その通過位置を補助具にて一定位置となるように保持する、請求項1記載の酸素吸収剤組成物の充填不良検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−271176(P2010−271176A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123135(P2009−123135)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】