説明

重合性化合物、それを用いた高分子化合物、樹脂組成物、及び物品

【課題】加熱時に分解し難く、且つ優れた溶解性を有し、アルカリ可溶性を有し得る重合性化合物を提供することを主目的とする。
【解決手段】下記式(1)で表される、1分子中に1個以上の重合性不飽和結合を有する化合物からなる重合性化合物である。


(式(1)において、R〜Rのうち少なくとも1つは、重合性不飽和結合を含有する置換基であり、その他のR〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基である。R〜R10は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物、それを用いた高分子化合物、前記重合性化合物を含む樹脂組成物、及びそれらを用いた物品に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、高い溶解性を示し、加熱により分解しにくく、特にカルボキシル基を含有する構造の場合、アルカリ水溶液に対する溶解性に優れる重合性化合物、また、その重合性化合物を含み硬化後に加熱による分解物の発生が少ない樹脂組成物、および当該重合性化合物を含有する感光性樹脂組成物、及び当該樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている高耐熱性、高安定性の物品に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の放射線の照射によって硬化するか又は溶解性が変化する感光性樹脂は、一般に、露光部の溶解性が良好なもの(ポジ型)と、未露光部の溶解性が良好なもの(ネガ型)の2種に分類される。ネガ型の場合、感光性樹脂自体が露光により硬化し不溶になることから、感光性樹脂が基材上に残存し機能膜として製品の一部となる場合が多い。
ネガ型の感光性樹脂は当初、例えば塗料、印刷インキ、オーバーコート層、接着剤、印刷原版等に用いられてきたが、近年、プリント配線板の配線保護用のソルダーレジストや、層間絶縁膜、カラーフィルターの画素、反射防止膜、ホログラム等を形成するためのレジスト等にまで用途が広がってきている。
【0003】
一般に多く用いられるネガ型の感光性樹脂の一つに、エチレン性不飽和結合を一つ以上有する化合物、光照射によりラジカルを発生させる光ラジカル開始剤、及び、必要に応じて、現像性や塗膜の柔軟性等を付与する高分子化合物、無機フィラー、顔料等を配合した樹脂組成物がある。この組成物に放射線を照射すると、エチレン性不飽和結合を有する化合物がラジカル反応により結合し、大分子量化して硬化する。
【0004】
また、これらの感光性樹脂組成物に露光をすることによって、溶解性を変化させたのちに、有機溶媒や水、アルカリ性又は酸性の水溶液等で処理することにより、露光部(ポジ型)や未露光部(ネガ型)のみを除去し所望のパターン像を得ることが出来る。処理液としては環境負荷の観点や、コスト、作業環境の観点から水溶液、特にアルカリ性の水溶液が選ばれることが多い。
【0005】
アルカリ水溶液で現像を行うタイプのレジストは、現像性を付与する為にカルボキシル基やフェノール性水酸基を有する部位又は、露光後にカルボキシル基やフェノール性水酸基を与える潜在的な置換基をその組成内に含んでいる事が多い。
一般的なレジストには、そういった現像性を付与する構造として、高分子化合物が用いられ、レジストを構成する他の低分子量成分については、アルカリ水溶液に対する溶解性、又は親和性を与えるような部位を含むようなものを用いることは少ない。
【0006】
一般に、ネガ型感光性樹脂組成物を構成する成分であるエチレン性不飽和結合を1つ以上含む化合物は、疎水性が高く現像液であるアルカリ水溶液に溶解しにくいため、現像時に残渣として基板上に残存し不具合の原因となる場合がある。こういった課題を解決する為、例えば、下記構造を有するようなエチレン性不飽和結合とカルボキシル基を有する化合物が提案されている。しかしながら、この化合物は、脂肪族炭化水素骨格であるため、耐熱性に劣るという課題があった。
【0007】
【化1】

【0008】
一方、特許文献1及び特許文献2などのように、エチレン性不飽和結合と水酸基を有する化合物に、酸無水物を反応させて、ハーフエステルとすることで、親水性、且つ、アルカリ可溶性のカルボキシル基を導入するという試みがなされている。ハーフエステルを形成する酸無水物としては、例えば、特許文献2には、飽和又は不飽和酸無水物、具体的には無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水へキサヒドロフタル酸、無水トリメリット酸、無水ヘット酸、無水メチルナジック酸、無水イタコン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物等などが例示されている。
【0009】
これらの中で、無水コハク酸や無水ヘキサヒドロフタル酸などの飽和酸無水物を用いて得られたハーフエステル部位を有する重合性化合物は、不飽和酸無水物によって得られたハーフエステル化合物より耐熱性に劣るという課題があった。
一方、不飽和酸無水物から得られるハーフエステル構造は、飽和酸無水物を用いて得られたハーフエステル構造よりも耐熱性が高いものの、不飽和酸無水物が分子内共役構造の酸無水物基を有する場合には安定であることから、不飽和酸無水物と水酸基を有する化合物からハーフエステルを合成する反応は可逆反応となる。そのため、分子内共役構造の酸無水物基を有する不飽和酸無水物から得られるハーフエステル化合物は、加熱により、元の酸無水物と水酸基を有する化合物に分解してしまう(下記式(3))。それゆえ、従来の不飽和酸無水物から得られたハーフエステル部位を有する化合物は、加熱と共にそれを含んだ塗膜の劣化を招いたり、不飽和酸無水物が揮発し、周囲の環境を汚染したりといった課題を有していた。
【0010】
【化2】

【0011】
重合性化合物が分解すると、耐光性の悪化、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等を引き起こし、最終製品、例えば電子部品用の層間絶縁膜やソルダーレジスト、カラーフィルター用画素形成用レジストの信頼性を低下させる原因になるという問題がある。
【0012】
特に、液晶ディスプレーのカラーフィルターなどのディスプレー部材や、プリント配線板のソルダーレジストなどの電子部品などでは、その製造工程中で150℃以上の加熱工程があり、さらに高いレベルの信頼性が求められる為に、それらを構成する部材の耐熱性や加熱後の膜の劣化、加熱時の揮発成分の有無などの要求が厳しく、現像時の残渣を低減する改善が必要であると共に、耐熱性や低アウトガスなどの特性が求められている。
また、重合性化合物の耐熱性を向上する試みとしては、芳香族化合物を骨格として用いることも検討されているが、ベンゼン骨格などの芳香族化合物を骨格として用いる場合には、溶剤への溶解性や他の成分との相溶性に劣る傾向があった。
【0013】
【特許文献1】特公平1−54390号公報
【特許文献2】特開平8−259663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、耐熱性が高く、特に加熱時に分解し難くてアウトガスを発生し難く、且つ優れた溶解性及び相溶性を有する重合性化合物、及び、それを含む樹脂組成物、及びそれらを用いた物品を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、更にアルカリ水溶液に対する親和性が向上した、アルカリ可溶性重合性化合物、及び、それを含む樹脂組成物、及びそれらを用いた物品を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記第一の目的を解決するため、本発明により提供される重合性化合物は、下記式(1)で表される、1分子中に1個以上の重合性不飽和結合を有する化合物からなる重合性化合物である。
【0016】
【化3】

(式(1)において、R〜Rのうち少なくとも1つは、重合性不飽和結合を含有する置換基(以下、本明細書において、重合性不飽和含有基ともいう。)である。一分子内に2つ以上の重合性不飽和結合含有基が存在する場合、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。また、R〜Rのうち重合性不飽和結合含有基でないものはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。R〜R10は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。)
【0017】
本発明に係る重合性化合物は、ビフェニル骨格の2,2’,6,6’位という特定の部位に重合性不飽和結合を1つ以上有している特定の構造を有するので、ベンゼン骨格を有しながら良好な溶解性を有し、且つ、耐熱性に優れ、加熱時に分解し難くてガスを発生し難い。
【0018】
本発明に係る重合性化合物は、ビフェニル骨格を有するため、骨格自体耐熱性が高いものである。更に、本発明に係る重合性化合物は、その置換基同士の立体障害によりビフェニル骨格の2つのベンゼン環のπ平面同士が、平面構造を取らないことが特徴的である。その為、本発明に係る重合性化合物がハーフエステル化合物の場合であっても、式(3)のように同一平面上に2つの置換基が固定されて存在する場合と異なり、加熱により元の酸無水物と水酸基を有する化合物に分解しない。更に本発明に係る重合性化合物は、嵩高い立体構造を有している為、溶解性にも優れる。また、ベンゼン環のπ平面のねじれによりπ共役構造が短く、他のベンゼン環を複数有してそれらが連結している化合物に比べて、透明性に優れるというメリットも有する。
【0019】
また、上記第二の目的を解決するため、本発明により提供される重合性化合物の第二の態様は、下記式(1)で表される1分子中に1個以上の重合性不飽和結合を有する化合物からなる重合性化合物であって、前記式(1)におけるR〜Rの少なくとも1つが水酸基である。
このような態様の場合、本発明の重合性化合物は、分子内に重合性不飽和結合含有基と共にカルボキシル基を有しているため、アルカリ水溶液に対する親和性が向上し、アルカリ水溶液を用いた現像時の残渣の発生が抑制できる。その為、現像工程を必要とするパターン形成材料、例えばレジスト材料などに好適に用いることが出来る。
【0020】
また、本発明の重合性化合物においては、前記式(1)において、R〜Rに2つ以上の重合性不飽和結合が含まれることが好ましい。この場合には、光や熱などの外部からの刺激によって重合反応(硬化反応)が開始されると、架橋反応が進行する為、より硬く、ガラス転移温度が高く、耐熱性の優れた塗膜を形成することが出来る。
【0021】
また、本発明の重合性化合物においては、RとRの一方が重合性不飽和結合含有基で、RとRの他の一方が水酸基であり、且つ、RとRの一方が重合性不飽和結合含有基で、RとRの他の一方が水酸基であることが好ましい。このような場合には、良好なアルカリ現像性を有しながら、耐熱性に優れた重合性化合物を得ることができる。
【0022】
また、本発明の重合性化合物においては、R〜Rに含まれる重合性不飽和結合含有基が下記式(2)で表される構造である場合には、反応性の高く、耐熱性が良好な塗膜が得られる点で好ましい。
【0023】
【化4】

(式(2)において、Xは、酸素原子、硫黄原子、2級アミノ基、3級アミノ基、又は直接結合である。R11は、2価の有機基であり、R12〜R14は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機基である。それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。)
【0024】
また、本発明の重合性化合物においては、前記式(2)においてR11が、直鎖、分岐鎖、又は環状、或いはそれらの組み合わせからなる炭素数1〜20の炭化水素基であって、炭素骨格の途中に、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、カルボジイミド結合、又は、カーボネート結合を含んでいても良いものであることが、合成の簡便さ、溶解性、コストの点から好ましい。
【0025】
また、本発明の重合性化合物においては、分子量が、300以上3000以下であることが、取り扱いの容易さ、硬化性、溶解性・相溶性の点から好ましい。
【0026】
また、本発明の重合性化合物においては、5%重量減少温度が、200℃以上であることが、重合性化合物を用いた膜を形成する際や、形成した硬化膜から分解ガスを発生し難い点から好ましい。
【0027】
また、本発明に係る高分子化合物は、前記本発明に係る重合性化合物を重合させて得られたものである。
【0028】
次に、本発明に係る樹脂組成物は、上記本発明に係る重合性化合物を必須成分として含有することを特徴とする。
本発明に係る樹脂組成物を所定のパターンに塗布するか或いは所定の形状に成形した後に熱や光等の刺激を外部から加えると本発明の重合性化合物が配合成分によってさまざまな重合反応を起こし、硬化及び/又は溶解性の変化を引き起こすことができる。
このようにして得られた硬化物は、本発明の重合性化合物由来の高い耐熱性、及び、透明性、低アウトガスといった特性を示す。
その結果、最終製品の信頼性を低下させる問題も解決する。また、アウトガスの発生がない為、製造設備の汚染が抑制され、且つ、作業環境が向上する。
【0029】
前記本発明に係る樹脂組成物は、重合性不飽和結合を有する本発明に係る重合性化合物を必須成分として含有するため、感光性樹脂組成物として好適に用いることができる。
本発明に係る樹脂組成物を感光性樹脂組成物として用いる場合、所定のパターンに塗布するか或いは所定の形状に成形した後に光を照射すると、配合成分によってラジカル二量化反応や、ラジカル性架橋反応等、さまざまなラジカル反応が進行し、硬化及び/又は溶解性の変化を引き起こすことができる。なかでも、本発明の重合性化合物が第二の態様であって分子中にカルボキシル基を含有する場合には、アルカリ可溶性を有するため、本発明に係る感光性樹脂組成物はパターン形成材料、例えばレジスト材料として好適に用いられ、且つ、本発明の重合性化合物に由来するアルカリ水溶液に対する親和性増大の効果により、未露光部のアルカリ水溶液に対する現像特性が改善し、現像残渣などが発生しにくくなる。
【0030】
前記本発明に係る樹脂組成物においては、前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物、前記重合性不飽和結合以外の反応性官能基を有する硬化反応性化合物、光重合開始剤、及び、重量平均分子量3000以上の高分子化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1成分を、更に含有することが好ましい。このようにして、組成物の未硬化状態での成膜性及び硬化後の塗膜物性を適宜調節することができる。
【0031】
前記本発明に係る樹脂組成物を、パターン形成材料として、或いは、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料の形成材料として用いる場合には、製品や膜が高耐熱性、高安定性となる効果がある。また、加熱時のアウトガスの発生が発生しにくい為、製造装置の汚染が抑制され、作業環境が向上する。
【0032】
また、本発明に係る物品は、前記本発明に係る樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料いずれかの物品である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の重合性化合物は、耐熱性が高く、特に加熱時に分解し難くてアウトガスを発生し難く、加えてその嵩高い立体構造のため、高い透明性、優れた溶解性及び相溶性を有する。
また中でも、本発明の重合性化合物において式(1)のR〜Rの少なくとも1つが水酸基である第二の態様の場合には、アルカリ水溶液に対する親和性が向上しつつ、高耐熱性、高透明性、優れた溶剤溶解性を示す。
本発明に係る重合性化合物は、ハーフエステル部位を有する重合性化合物に由来する反応後の分解物に起因する様々な問題、例えば、作業安全性の問題や、耐熱性・耐光性の悪化や、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等、最終製品の信頼性を低下させる問題や、アウトガスが発生する問題も全て解決することができる。
【0034】
また、本発明の重合性化合物を必須成分とする樹脂組成物は、重合性化合物由来の高い耐熱性、透明性を有し、加熱により分解物を生成し難い為、製造設備や作業環境を汚染せず、製品の信頼性を向上させることが出来る。なかでも、本発明の重合性化合物として第二の態様のアルカリ可溶性重合性化合物を含有する感光性樹脂組成物の場合には、アルカリ水溶液に対する親和性増大の効果により、未露光部のアルカリ水溶液に対する現像特性が改善し、現像残渣などが発生しにくくなる。
【0035】
本発明に係る樹脂組成物は、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、成形材料、3次元造形等、光の照射によって硬化したり又は溶解性が変化する材料が用いられている公知の全ての分野・製品に利用できるが、特に、耐熱性が必要で高度の信頼性を要求される、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料を形成するのに適している。
本発明に係る印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料いずれかの物品は、高耐熱性、高安定性の樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されているため、製品や膜としても高耐熱性、高安定性であり、そのため生産の歩留まりも高いというメリットがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下において本発明を詳しく説明する。なお本発明において照射光は、可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。樹脂組成物の硬化には、主に、波長が2μm以下の電磁波、電子線、電離放射線等が使用される。また本明細書で、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートのいずれであっても良いことを意味する。
【0037】
先ず、本発明に係る重合性化合物について説明する。
本発明により提供される重合性化合物は、下記式(1)で表される、1分子中に1個以上の重合性不飽和結合を有する化合物からなる重合性化合物である。
【0038】
【化5】

(式(1)において、R〜Rのうち少なくとも1つは、重合性不飽和結合を含有する置換基である。一分子内に2つ以上の重合性不飽和結合含有基が存在する場合、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。また、R〜Rのうち重合性不飽和結合含有基でないものはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。R〜R10は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。)
【0039】
本発明の重合性化合物は、光の照射によってラジカル反応を起こしたり、ラジカル重合をしたり、熱によって架橋反応を起こしたりすることができる。また、特に光に対する感度を高めたい場合には、光ラジカル発生剤などを添加することによって反応効率を高めることが出来る。さらには、熱ラジカル発生剤を添加することにより架橋反応を促進することが出来る。
さらに重合性化合物が一分子内に重合性不飽和結合含有基を2つ以上有する場合には、当該重合性化合物は、架橋反応し、網目構造の高分子を形成することもできる。ここで、架橋とは、架橋結合を生成することをいい、架橋結合とは、鎖状に結合した原子からなる分子のうちの任意の2原子間に橋をかけるようにして形成された結合をいい、この場合の結合は、同一分子内でも他分子間でも良い(化学辞典 東京化学同人 p.1082)。
【0040】
式(1)で表される本発明の重合性化合物が、良好な耐熱性を示す理由を、以下、類似構造の化合物と対比させながら説明する。
カルボキシル基と重合性不飽和結合をそれぞれ複数有するハーフエステル化合物の従来例として、ピロメリット酸2無水物(PMDA)と2等量の2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEMA)からハーフエステル化合物を得る反応は以下のように示される。
【0041】
【化6】

【0042】
このとき、PMDAは、酸無水物部位が安定な5員環構造であり、分子全体にわたってπ共役構造を示す平面構造であるので非常に安定であること、また得られたハーフエステルのエステル結合とカルボキシル基の位置関係、距離が固定されていることから、加熱等によって脱アルコール反応が進行し、原料に戻ってしまう。
【0043】
一方で、本発明の重合性化合物は、以下に示すような理由により、脱アルコール反応が起こりにくい。下記に本発明の重合性化合物の一実施形態であるハーフエステル化合物を示す。
【0044】
【化7】

【0045】
本発明の重合性化合物は、2,2’,6,6’位という特定の位置にカルボニル基が結合したビフェニル骨格を有する。このようなビフェニル骨格を有するハーフエステル構造は、そのエステル結合やカルボキシル基の立体障害によりビフェニル骨格の2つのベンゼン環のπ平面がほぼ直交に近くなっているものと思われる。その為、本発明の重合性化合物に含まれるハーフエステル構造は、エステル結合とカルボキシル基との距離が遠くなり、反応が進行しにくい。加えて、ハーフエステルから脱アルコール反応によりできると考えられる酸二無水物が、酸無水物部位の歪が大きい7員環構造をとる2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であることから、その歪エネルギーを越えるような熱エネルギーが脱アルコール反応には必要とされるため、さらに脱アルコール反応に対する障壁は高くなり、反応は進行しにくくなると推定される。
その為、上記のような本発明の重合性化合物に含まれるハーフエステル構造は、熱が加わった時に、ハーフエステルの分解が起こりにくく熱安定性が非常に優れたものとなる。
本発明の重合性化合物は、ビフェニル骨格を構成する2つのベンゼン環のそれぞれ2位と2’位、6位と6’位に少なくともカルボニル基を有する置換基が結合しているものであり、ハーフエステル構造を形成する場合、異なるベンゼン環に結合する置換基(例えば、エステル結合とカルボキシル基)の間でハーフエステル構造を形成するところに特徴がある。同じ様にビフェニル骨格にハーフエステル部位を有する化合物であっても、その置換基の位置が同じベンゼン環に結合する置換基の間でハーフエステル構造を形成するものの場合(例えば、2,2’、3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸や3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸由来の構造)、上記ピロメリット酸2無水物(PMDA)と同様に加熱等によって脱アルコール反応が進行して原料に戻りやすく、これらを用いた場合、本質的にPMDAと同様に逆反応が進行しやすく、化合物の熱分解温度が低くなる。
【0046】
このようなメカニズムによって本発明の重合性化合物は、加熱の際に分解しにくくなるので、ビフェニル骨格の2つのベンゼン環の3位、4位、5位に直接結合している置換基(式(1)に示されるR〜R10)は、基本的にどのような構造であっても本発明が目的とする機能は発現する。特に、その入手の容易さやコストの関係から、それらはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基である事が好ましい。また、それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。置換基が互いに結合を介して形成する環状構造とは、シクロヘキシル基等の脂肪族性の環構造だけでなく、例えば、R、Rに芳香環が結合してナフタレン構造をとるものなども含まれる。また、環構造は芳香族性の縮合環であっても、脂肪族性の環構造であっても良く、さらに環構成原子として炭素原子以外の異種原子を含んでいても良い。
【0047】
本発明の重合性化合物を樹脂組成物中に配合する時の溶解性を向上させたい場合には、式(1)におけるR〜R10に導入される置換基としては、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルキル基、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルコキシ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基等を選択することが好ましい。
【0048】
式(1)における、R〜Rのうち少なくとも1つは、重合性不飽和結合を含有する置換基である。一分子内に2つ以上の重合性不飽和結合含有基が存在する場合は、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。また、R〜Rのうち重合性不飽和結合含有基でないものはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。
【0049】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。アミノ基としては、1級アミノ基(−NH)の他、2級アミノ基、3級アミノ基であっても良い。2級アミノ基は、モノ置換アミノ基であり、例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、アニリノ基、アニシジノ基、フェネチジノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、ピリジルアミノ基、チアゾリルアミノ基、ベンジルアミノ基、ベンジリデンアミノ基などが挙げられる。また、3級アミノ基は、ジ置換アミノ基であり、環状であってもよく、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ブチルメチルアミノ基、ジアミルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジキシリルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、ベンジルメチルアミノ基などのほか、ピロリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジノ基、モルホリノ基、1−ピロリル基、1−ピラゾリル基、1−イミダゾリル基、1−トリアゾリル基などが挙げられる。
【0050】
また、1価の有機基としては、置換又は無置換の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、置換又は無置換の芳香族炭化水素基等の炭化水素骨格を有する基が挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐でも環状でも良い。1価の有機基としては、炭素数1〜20程度が好ましい。これら1価の有機基は、酸素や窒素などヘテロ原子等の、炭化水素基以外の結合や置換基を含んでよい。
炭化水素骨格を有する基に含まれるヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合など、また置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、シアノ基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、不飽和アルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基等が挙げられるが特に限定されない。
【0051】
1価の有機基の好ましいものとしては、置換基を有していても良いアルコキシ基、置換基を有していても良いアリールオキシ基、置換基を有していても良い直鎖、分岐又は環状のアルキル基等が挙げられる。
【0052】
本発明の重合性化合物は、硬化後の当該重合性化合物の架橋度を上げたい場合には、2つ以上の重合性不飽和結合を有していることが好ましい。この場合、R〜Rで示される置換基の1つに2つ以上の重合性不飽和結合を有していても良いし、R〜Rで示される置換基の2つ以上が重合性不飽和結合含有基であっても良い。R〜Rで示される置換基の2つ以上が重合性不飽和結合含有基である方が、分子間の架橋反応が行われやすく、架橋密度を向上させる効果が高い点から好ましい。
【0053】
ここで本発明における重合性不飽和結合には、重合性二重結合や重合性三重結合が含まれる。重合性二重結合を構成する官能基としては、例えば、ビニル基、イソプロペニル基、アリル基、アリルメチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、及び、2−トリフルオロメチルアクリロイル基などが挙げられる。重合性三重結合を構成する官能基としては、エチニル基、2−プロピニル基などが挙げられる。重合性不飽和結合の好ましい例としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、及び、2−トリフルオロメチルアクリロイル基が挙げられる。
【0054】
中でも、本発明の重合性化合物を、感光性樹脂組成物の一成分として用いる場合には、重合性不飽和結合含有基として、式(1)におけるR〜Rのうち少なくとも1つが、下記式(2)で表される構造を有していることが、その硬化性、感度、硬化後の機械的、力学的物性の点から好ましい。
【0055】
【化8】

(式(2)において、Xは、酸素原子、硫黄原子、2級アミノ基、3級アミノ基又は直接結合である。R11は、2価の有機基であり、R12〜R14は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機基である。それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。)
【0056】
重合性化合物に含まれる重合性不飽和結合上のR12、R13及びR14は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機基である。一価の有機基は、前記と同様のものが挙げられる。重合性不飽和結合上のR12、R13及びR14は、互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。置換基が互いに結合した環構造とは、シクロヘキシル基等の脂肪族性の環状構造だけでなく、例えば、R12、R14が結合してシクロヘキセン構造をとるものなども含まれる。
【0057】
12、R13及びR14は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、飽和又は不飽和ヒドロキシアルキル基であることが好ましく、特に好ましくは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基である。特に、価格やラジカル反応の速度の観点、最終的な塗膜の物性の観点から、重合性不飽和結合は、R12が水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基であり、且つ、R13及びR14がそれぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であることが最も好ましい。
【0058】
また、式(2)において、Xは、酸素原子、硫黄原子、2級アミノ基(−NH−)、3級アミノ基(−NR−、ここでRは置換基を有していても良い炭化水素基)、又は直接結合である。合成の簡便さ、コストの点から、中でも酸素原子、2級アミノ基(−NH−)であることが好ましく、中でもコストの点から酸素原子であることが好ましい。
【0059】
また、入手の容易さ、合成の簡便さから、前記式(2)においてR11は、直鎖、分岐鎖、又は環状、或いはそれらの組み合わせからなる炭素数1〜20の炭化水素基であって、炭素骨格の途中に、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、カルボジイミド結合、又は、カーボネート結合を含んでいても良いものであることが好ましい。
【0060】
11の具体例としては、エチルなど、−(CHn−(nは自然数)で表される基や、−CHCH−(O−CHCHn−(nは自然数)、−CH(CH)CH−(O−CH(CH)CHn−(nは自然数)などのエーテル結合を有するものなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0061】
重合性化合物は、ネガ型感光性樹脂組成物等の樹脂組成物の硬化性や、硬化後の特性を大きく支配する。例えば、重合性不飽和結合1つ辺りの分子量が小さい重合性化合物は、硬化後の塗膜の硬度を高める作用があり、逆に重合性不飽和結合1つ辺りの分子量が大きい重合性化合物は硬化後の塗膜の柔軟性を高める作用がある。従って、所望の物性を発現するように、本発明の重合性化合物に導入される重合性不飽和結合は、適宜その数や、重合性不飽和結合以外の置換部分、R11やR12からR14、更にR〜R10の構造を選択する。
【0062】
加えて、アルカリ水溶液に対する親和性・溶解性を向上させるためには、本発明の重合性化合物は、式(1)において、R〜Rで示される置換基の少なくとも1つが水酸基であることが好ましく、その数が多ければ多いほどアルカリ性水溶液に対しての親和性が向上する。このような態様の場合、本発明の重合性化合物は、アルカリ可溶性重合性化合物として機能し、アルカリ水溶液を用いた現像時の残渣の発生が抑制できる。その為、現像工程を必要とするパターン形成材料、例えばレジスト材料などに好適に用いることが出来る。
また、上記のようにR〜Rで示される置換基を水酸基として、ビフェニル骨格のベンゼン環に直接カルボキシル基を導入しなくても、R〜Rにカルボキシル基が含まれている場合には、そのカルボキシル基の数の増大に伴いアルカリ水溶液に対する親和性が向上する。
【0063】
本発明の重合性化合物に含まれる重合性不飽和結合、およびカルボキシル基の数は、重合性化合物の硬化性や、硬化後の物性、また、親和性・溶解性を持たせたい対象のアルカリ水溶液の濃度や現像などのプロセスの温度などにより、適宜調整することが好ましい。
本発明の重合性化合物の好適な一例としては、前記式(1)において、RとRの一方が重合性不飽和結合含有基で、RとRの他の一方が水酸基であり、且つ、RとRの一方が重合性不飽和結合含有基で、RとRの他の一方が水酸基であることが挙げられる。このような場合には、良好なアルカリ現像性を有しながら、耐熱性に優れた重合性化合物を得ることができる。硬化性が向上し、硬化膜の感度、硬度、強度、密着性等が改善されると共に、パターンのエッジ形状が良好になり、基材の現像による露出面の残渣が低減したり、現像時間が短縮されるような感光性樹脂組成物を得ることが可能になる。
【0064】
本発明における重合性化合物は、公知の種々の手法を用いて合成することができる。例えば、重合性不飽和結合を形成する官能基としてアクリロイル基を2つ、R〜Rの少なくとも2つが水酸基であってカルボキシル基を2つ有するような構造の場合は、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2等量の2−ヒドロキシエチルアクリレートのような水酸基を有するアクリレートなどの化合物を、ピリジンを触媒として乾燥させたγ-ブチロラクトン中で、室温で撹拌することで定量的に得ることが出来る。
他の手法として、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸と2等量の2-ヒドロキシエチルアクリレートのような水酸基を有するアクリレートなどの化合物とを脱水触媒により脱水縮合する方法、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸を塩化チオニル等を用いて酸クロライド化し、水酸基を有するアクリレートと反応させ、その後、水によって未反応の酸クロライド部位を失活させカルボキシル基とする方法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0065】
上記合成手法における原料としては、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸等の酸無水物の他に、適宜、その誘導体を用いることができる。光の吸収波長をシフトさせたり、溶解性を調整する目的で、式(1)で表される重合性化合物のビフェニル骨格のR〜R10に置換基を導入する場合、上記の反応を行う前に導入しても良いし、重合性不飽和結合やその他の置換基と結合させた後に、導入しても良い。
【0066】
一方、重合性不飽和結合を導入する原料としては、重合性不飽和結合を有すると共に、酸無水物と結合させることが可能な官能基を有するものを適宜選択する。酸無水物と結合させることが可能な官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、チオール基等が挙げられる。重合性不飽和結合上の置換基R12〜R14は、原料化合物に予め導入されていても良いし、或いは重合性不飽和結合とビフェニル骨格を結合させた後に導入しても良い。
【0067】
本発明の重合性化合物を合成する手法をこれより具体的に例示するが、本発明は下記方法により限定されるものではない。
先ず、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を予め乾燥させたγ-ブチロラクトンに投入し攪拌する。そこへ2-ヒドロキシエチルアクリレートを2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に2モル等量添加し、さらに触媒量の乾燥させたピリジンを添加後、室温で1〜15時間程度攪拌する。この時、用いる反応溶媒は、γ-ブチロラクトンに限定されず、最終生成物が溶解する溶媒であればよく、各種の有機極性溶媒が好適に用いられる。2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、その歪んだ構造の為、反応性が高く水と反応しカルボン酸になりやすいので、反応に用いる器具、試薬はなるべく水分が反応系に混入しないような注意を払って行うことで収率が良好なものとなる。
【0068】
先に述べた様に、ここで用いる酸二無水物は2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物だけでなく、目的に応じて予め置換基が導入されたものを用いても良い。
【0069】
また、ここで用いる水酸基含有化合物も2-ヒドロキシエチルアクリレートに限定されず、目的に応じて種々の水酸基含有化合物を用いることができる。例えば、以下に例示される様な重合性不飽和結合と水酸基を含有する化合物を用いてもよいがこれらに限定されるものではない:2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート,6−ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルアクリレートなどのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート,トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ポリオキシテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのような(ポリ)オキシC2-4 アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;プロパルギルアルコール等。重合性不飽和結合を含有しない水酸基を含有する化合物も適宜併用しても良い。このような水酸基を含有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フェノール等が挙げられる。
【0070】
このように、数時間攪拌された反応液の溶媒を留去、または、水等に投入することで除
去し、目的物を取り出す。これを、再結晶等の処理を行なうことで、本発明の重合性化合物を得ることができる。精製の方法は、再結晶に限定されず、昇華精製やカラムクロマトグライフィー等、公知のあらゆる方法を用いることが可能であるが、コストの観点から再結晶が好ましい。
【0071】
また、式(1)においてR〜Rで示される置換基の4つ全てが重合性不飽和結合含有基である化合物は、例えば、上記のようにして得られるハーフエステル構造のカルボキシル基を、更に塩化チオニル等を用いて酸クロライド化し、次いで重合性不飽和結合と水酸基を含有する化合物と、アミン存在下で反応させることにより得ることができる。
【0072】
本発明に係る重合性化合物は、嵩高い立体構造をとっているため、芳香環を2つ有するにもかかわらず、溶解性、透明性に優れる。さらに、光や熱などの刺激を与えると重合性不飽和結合の部位の重合反応が進行する。本発明の重合性化合物、及び重合反応後の硬化物は、加熱によりハーフエステル部位が酸無水物部位とアルコールに分解しにくい為、耐熱性に優れる。加えて本発明の重合性化合物が、重合性不飽和結合を一分子内に2個以上有している場合は、架橋反応が進行し、より耐熱性の向上した材料を得ることが出来る。
【0073】
本発明の重合性化合物の分子量は、300〜3000であることが、取り扱いの容易さ、硬化性、溶解性・相溶性の観点から好ましい。300より小さい場合,ビフェニル骨格を分子内に含有することが出来ず、耐熱性を高めるという本発明の目的が達せられない。3000より大きい場合は、1分子辺りの重合性置換基の数とカルボキシル基の数が少なくなり、硬化性、アルカリ水溶液に対する親和性といった機能が発現されにくくなる。なお、当該分子量は、本発明の重合性化合物が繰り返し単位を有する場合においては、重量平均分子量であって、ゲル浸透クロマトグラフィ−(GPC)によるポリスチレン換算の値をいう。
【0074】
本発明の重合性化合物を、感光性樹脂組成物の一成分として用いる場合には、感光性樹脂組成物の感度を高める為、一般的に感光性樹脂の露光に用いられる高圧水銀ランプの発光波長で、比較的強度の高い365nm(i線)405nm(h線)、436nm(g線)の3種の波長に吸収を出来るだけ持たないことが好ましい。具体的には、上記3種の波長のうち少なくとも1つの波長に対しては吸収を持たないことが好ましい。この場合吸収を持たないとは、重合性化合物の1.0×10−3mol/L以下の濃度のアセトニトリル溶液またはメタノール溶液によって測定されたモル吸光係数が100以下のことをいう。
中でも、最も強度が高い365nm(i線)の波長に吸収を持たないことが特に好ましい。
【0075】
耐熱性の点から、本発明に係る重合性化合物の5%重量減少温度は、200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることが更に好ましい。
ここで、5%重量減少温度とは、後述の本発明の実施例と同様の手法で、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。
【0076】
また、本発明に係る重合性化合物は、硬化膜の膜厚が10μmの時に、全光線透過率(JIS K7105)が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
【0077】
上記重合性化合物は、塗布適性、硬化後の透明性、露光時の感度等を向上させる点から、樹脂組成物に配合する時の溶解性が高いことが好ましい。
塗布時の塗工適性の点からは、重合性化合物は特に溶剤に対する溶解性が高いことが好ましい。具体的には、使用する溶剤、特に後述する汎用溶剤のいずれかに対する重合性化合物の溶解性が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0078】
本発明の重合性化合物は、ビフェニル骨格の2つのベンゼン環が平面構造をとっていない為、嵩高い立体構造を有しており、溶媒に対する溶解性、樹脂組成物中で併用される他の重合性化合物や高分子化合物との相溶性が良好である。しかし、さらなる重合性化合物の溶解性又は相溶性の向上を必要とされる場合は、重合性化合物のビフェニル骨格に置換基を導入することによって向上させることができる。例えば、上述のようにビフェニル骨格上の置換基R〜R10として、炭素数1〜15の飽和又は不飽和のアルキル基、炭素数1〜15の飽和又は不飽和のアルコキシ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基等を適宜導入することが好ましい。また、前記式(1)のR〜R,さらには、前記式(2)のR11の構造を変更するか、又は、この部分に溶解性や相溶性を向上させたい対象の化合物の構造に類似の置換基を導入することでも、重合性化合物の溶解性又は相溶性を向上させることができる。
これらの部位に導入される置換基又は施される構造変更は、溶解させたい溶剤又は相溶させたい他の成分によって種々選択される。例えば、置換基としてカルボキシル基を選択した場合には、水や有機極性溶剤に溶解し易くなり、エステルを導入した場合には、エステル結合を有する溶剤や化合物への溶解性が向上する。
【0079】
一方、本発明に係る高分子化合物は、前記本発明に係る重合性化合物を重合させて得られた高分子化合物である。重合させる手段としては、光照射、加熱、触媒等を適宜選択して用いる。
本発明に係る高分子化合物は、前記本発明に係る重合性化合物を重合させて得られたものであることにより、上述のように透明性が高く、熱分解温度が高いため、塗膜の劣化やアウトガス発生の問題がなく、耐光性の悪化、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等の問題が引き起こされない。したがって、最終製品、例えば電子部品用の層間絶縁膜やソルダーレジスト、カラーフィルター用画素形成用レジストの信頼性を向上させることができるというメリットを有する。
【0080】
次に、本発明に係る樹脂組成物について説明する。
本発明に係る樹脂組成物は、前記本発明に係る重合性化合物を必須成分として含有するものであり、必要に応じて、前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物、前記重合性不飽和結合を有する化合物以外の硬化反応性化合物、高分子量のバインダー成分、光ラジカル発生剤等の光重合開始剤、増感剤等の光重合開始促進剤の他、各種添加剤など、他の成分を含有しても良い。
【0081】
本発明に係る樹脂組成物は、所定のパターンに塗布するか或いは所定の形状に成形した後に熱又は光照射などの刺激を与えることにより、前記本発明に係る重合性化合物の重合性不飽和結合の反応が進行し、硬化及び/又は溶解性の変化を引き起こす。本発明に係る樹脂組成物は、前記本発明に係る重合性化合物を必須成分として含有しているので、耐熱性、透明性が良好で、反応終了後に加熱されても分解物を生成しにくく、アウトガスを生じさせないので、信頼性が高い硬化膜が得られるというメリットがある。
【0082】
特に含有される前記本発明に係る重合性化合物の重合性不飽和結合が、重合性二重結合のように光照射で反応するものである場合には、本発明に係る樹脂組成物は感光性樹脂組成物として用いることができる。この場合、光ラジカル発生剤等の重合開始剤を含有させることが好ましい。本発明に係る感光性樹脂組成物は、塗布するか或いは所定の形状に成形した後に光照射を行うと、光照射部で光ラジカル反応が開始され、配合成分によってラジカル二量化反応や、ラジカル性架橋反応等、さまざまなラジカル反応が進行し、硬化及び/又は溶解性の変化を引き起こす。従って、適宜マスク等を用いてパターン状に光照射した場合には、光照射した部分のみが硬化され、未露光部を溶出することにより、所望のパターンを形成することができる。更に、用いられる本発明に係る重合性化合物がカルボキシル基を有し、アルカリ可溶性重合性化合物である場合、本発明に係る感光性樹脂組成物は、パターン状に光照射した後に未露光部のみをアルカリ現像することにより、所望のパターンを形成することができる。
【0083】
本発明に係る樹脂組成物が充分な効果を発揮するためには、前記本発明に係る重合性化合物は、樹脂組成物の固形分全体の0.1重量%以上であることが、光照射による樹脂組成物の硬化速度が遅くなったり、塗膜の強度や耐熱性が低下することを防ぐ点から好ましい。前記本発明に係る重合性化合物は、樹脂組成物の固形分全体の1重量%以上であることが、感度や塗膜の物性の点から、更に好ましい。なお、樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0084】
特に、本発明に係る樹脂組成物においては、他の配合成分に対する前記本発明に係る重合性化合物の相溶性が、その立体構造に由来して高いので、前記本発明に係る重合性化合物がベンゼン骨格を複数有しているのにもかかわらず、その配合割合を大きくして、例えば、固形分濃度を30重量%以上とすることも可能である。このように配合割合を高くする場合、光ラジカル反応の感度を向上させると共に、架橋密度を向上させて硬化膜の耐熱性を向上させることができる。
【0085】
次に、本発明に係る樹脂組成物に含有させる他の成分について説明する。
本発明に係る樹脂組成物は、さらに、前記本発明に係る重合性化合物以外の、重合性不飽和結合を有する化合物を含有していても良い。重合性二重結合(エチレン性二重結合)を有する化合物は、ラジカル重合可能な硬化反応性化合物として従来から広く利用されており、応用範囲が広いことから、本発明においても、樹脂組成物を構成する成分として好適に用いられる。
前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物としては、重合性不飽和結合を1つ又は2つ以上有する化合物、及び、少なくとも1つの重合性不飽和結合と共に他の官能基を有する化合物を用いることができる。例えば、アミド系モノマー、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、及び水酸基含有(メタ)アクリレート、スチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。その他、末端、側鎖等に重合性不飽和結合を有する高分子化合物であっても良い。
【0086】
アミド系モノマーとしては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン等のアミド化合物がある。
(メタ)アクリレートモノマーとしては、ヘキサヒドロフタルイミドエチルアクリレート、コハクイミドエチルアクリレート等のイミドアクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノールのアルキレンオキシド付加物のアクリレート類及びそのハロゲン核置換体;エチレングリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート等の、グリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールおよびそのアルキレンオキサイドの(メタ)アクリル酸エステル化物、イソシアヌール酸EO変性ジまたはトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0087】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと有機ポリイソシアネートの反応物に対して、さらに上記のような水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物等が挙げられる。
ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエチレングリコール及びポリエステルポリオール等があり、低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられ、ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオール及び/又はポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
【0088】
また、上記ポリオールと反応させる有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0089】
ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、上記ウレタン(メタ)アクリレートで記載したようなポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。
また、エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を付加反応させたもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、フェノールあるいはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加反応体等が挙げられる。
【0090】
また、末端、側鎖等に重合性不飽和結合を有する高分子化合物としては、スチレン−無水マレイン酸無水物の共重合体に2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させた高分子や、ポリビニルアルコールと無水マレイン酸の反応から得られる化合物、ポリビニルアルコールやポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレートとアクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物は、3次元架橋する点からは、重合性不飽和結合を2個以上、特に3個以上有することが好ましい。
【0092】
また、本発明に係る樹脂組成物を、電子部材やカラーフィルター等の用途で露光によりパターンを形成するレジストとして用いる場合には、樹脂組成物全体のアルカリ現像性を向上させるために、前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物としては、更にカルボキシル基やフェノール性水酸基、スルホン酸基、水酸基等のアルカリ可溶性や、親水性の官能基を有するものを用いても良い。
【0093】
また、前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物は、照射光に対する樹脂組成物の感度を阻害しないために、照射波長と非分解型光ラジカル発生部位の吸収波長が重なる波長領域に吸収を持たないことが好ましい。
【0094】
本発明の感光性樹脂組成物には、当該組成物の未硬化状態での成膜性及び硬化後の塗膜物性を調節するために、バインダー樹脂として、前記重合性不飽和結合以外の反応性官能基を持つ硬化反応性化合物や高分子化合物を配合しても良い。
上記バインダー樹脂としては、樹脂組成物の用途に合わせて公知のあらゆる高分子化合物又は重合性不飽和結合以外の反応性官能基をもつ硬化反応性化合物を用いることができる。また、高分子化合物としては、非反応性高分子、及び、重合性不飽和結合やそれ以外の反応性官能基を持つ高分子のいずれを用いても良い。バインダー成分として用いられる高分子化合物は、重量平均分子量が3000以上であることが好ましく、また、分子量が大きすぎると、溶解性や加工特性の悪化を招くことから、重量平均分子量が通常、10,000,000以下であることが好ましい。ここで本発明における重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ−(GPC)によるポリスチレン換算の値をいう。
【0095】
前記重合性不飽和結合を有する化合物以外の高分子化合物及び/又は重合性不飽和結合以外の反応性官能基を持つ硬化反応性化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート;酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル又はビニル化合物の重合体及び共重合体;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ホルマール樹脂やブチラール樹脂等のアセタール樹脂;シリコーン樹脂;フェノキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂等に代表されるエポキシ樹脂;ポリウレタン等のウレタン樹脂;フェノール樹脂;ケトン樹脂;キシレン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリベンゾオキサゾール樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリスチレン樹脂;ノボラック樹脂;ポリカルボジイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリノルボルネン等の脂環式高分子;シロキサン系高分子等の公知のあらゆる高分子化合物又は硬化反応性化合物が挙げられる。
【0096】
以上のような、前記本発明に係る重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物、高分子化合物、前記重合性不飽和結合以外の反応性官能基を有する硬化反応性化合物はそれぞれ、単独で用いても、2種以上を組合わせて用いても良い。
本発明に係る樹脂組成物に含まれる、重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物、高分子化合物、及び/又は前記重合性不飽和結合を有する化合物以外の反応性官能基を持つ硬化反応性化合物の含有量は、それぞれ用途に応じた必要な物性に対して適宜調整されるものであって特に限定されない。
【0097】
また、本発明に係る樹脂組成物は、非反応性の高分子化合物を含む場合、用途に応じて、非反応性の高分子化合物が樹脂組成物全体の固形分の1重量%以上97重量%以下となるように含むことが好ましい。非反応性の高分子化合物が97重量%よりも多い場合は、光による硬化性が低下しやすい。
【0098】
また、本発明に係る樹脂組成物は、重合性不飽和結合を有する化合物と共に他の反応性官能基を有する硬化反応性化合物を組み合わせて用いる場合には、組み合わせる当該硬化反応性化合物の種類及び量に応じて重合性不飽和結合を有する化合物の量を適宜調節する。
【0099】
本発明の樹脂組成物を光により硬化させる際には、ラジカル反応を促進するために、必要に応じてその他の光ラジカル発生剤を使用しても良い。
光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル
、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のモノアシルホスフィンオキシドあるいはビスアシルホスフィンオキシド;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;並びにキサントン類等が挙げられる。
【0100】
これらの光ラジカル発生剤は単独で使用することも、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて使用することもできる。これら光ラジカル発生剤の好ましい配合割合は、樹脂組成物の固形分全体に対して0.1重量%以上35重量%以下で、より好ましくは、1重量%以上10重量%以下である。
【0101】
本発明に係る樹脂組成物に加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
これら任意成分の配合割合は、樹脂組成物の固形分全体に対し、0.1重量%〜95重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、95重量%を越えると、本発明に係る樹脂組成物の特性が最終生成物に反映されにくい。
【0102】
照射光を吸収してしまうような成分を樹脂組成物中に多量に配合する場合には、前記本発明に係る重合性化合物に光が十分到達しなくなり、感度が低下する。そのため、樹脂組成物の感度を重視する点から、照射光源の発光波長と樹脂組成物に混合されている前記本発明に係る重合性化合物の吸収波長が重なる波長領域における、前記本発明に係る重合性化合物以外の全成分の透過率が20%以上であるように調節して、樹脂組成物に用いられる成分を適宜選択することが好ましい。
【0103】
また、本発明に係る樹脂組成物は、溶剤を用いて適切な濃度に希釈しても良い。溶剤としては各種の汎用溶剤、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、修酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。また、反応性希釈剤として、常温で液体のエチレン性不飽和化合物等、反応性官能基を構造中に有するような化合物を溶剤として用いても良い。これらの溶媒は単独もしくは組み合わせて用いられる。また、これら溶剤は、通常例えば孔径0.05μm〜0.2μm程度のフィルター等、既知の種々の方法で不純物を濾過して用いても良い。
【0104】
また、溶剤を用いて透明に溶解した樹脂組成物であっても、その中に含有される固形分同士の相溶性が低い場合には、塗工時に溶剤が揮発すると乾燥中の塗膜内で析出物が生じ、充分な透明性が得られない。そのため、光学部材のように透明性が高い塗膜又は成形体が要求される場合には、樹脂組成物中の他の固形成分との相溶性が高い重合性化合物を適宜選択して用いることが好ましい。高い透明性が求められる場合には、樹脂組成物を硬化させて形成した塗膜の膜厚が10μmの時に、全光線透過率(JIS K7105)が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
【0105】
本発明に係る樹脂組成物は、必須成分である前記本発明に係る重合性化合物と、必要に応じて重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物、前記重合性不飽和結合を有する化合物以外の硬化反応性化合物、高分子量のバインダー成分等、その他任意成分を場合や用途に応じて混合することにより調製できる。
【0106】
このようにして得られる本発明に係る樹脂組成物は、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、成形材料、3次元造形等、光照射や加熱によって硬化したり又は溶解性が変化する材料が用いられている公知の全ての分野・製品に利用できる。特に、耐熱性が必要で高度の信頼性を要求される、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料を形成するのに適している。
【0107】
例えば、カラーフィルターの場合には、画素部、当該画素部の境界に設けられる遮光部(ブラックマトリックス)、保護膜、セルギャップを維持するためのスペーサーを上記感光性樹脂組成物の硬化物により形成することができる。
電子部品の場合には、例えば、半導体装置のアンダーフィル剤、封止剤、等が例示できる。
層間絶縁膜としては、耐熱性、絶縁信頼性が要求されるビルドアップ基板用の層間絶縁膜や燃料電池における層間絶縁膜、自動車部品や家電製品の絶縁コーティング、等を上記樹脂組成物の硬化物により形成することができる。
【0108】
また、配線保護膜としては、プリント配線板の表面の配線保護層であるソルダーレジストや、電線の表面被覆、等が例示できる。
光学部材の場合には、各種光学レンズのオーバーコートや、反射防止膜、光導波路、分波装置等の光回路部品、レリーフ型、及び体積型のホログラム、等が例示できる。
建築材料の場合には、壁紙、壁材、床材その他の揮発成分の少ない表皮材料、接着・粘着材料、インキ等が例示できる。
【0109】
本発明に係る印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料は、高耐熱性、高安定性の感光性樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されているため、高耐熱性、高安定性であり、そのため生産の歩留まりも高いというメリットがある。
【実施例】
【0110】
1.重合性化合物の合成
(実施例1)
<重合性化合物1の合成>
100mL(リットル)のなす型フラスコに、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 2.94g(10mmol)と乾燥させたγ−ブチロラクトン10mlと触媒量のピリジンを入れ、攪拌した。そこに、2−ヒドロキシエチルアクリレート 2.86g(22mmol)を添加し、窒素気流下、室温で16時間攪拌した後、反応液を0.1規定の塩酸とクロロホルムで分液し、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、クロロホルムを留去し粘稠な液状物質(下記のような異性体の混合物)を4.5g得た(重合性化合物1)。
H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ(ppm):12.55(br,2H COO)、7.97(m,4H Ar)、7.52(m,2H Ar)、5.93(d,2H −CH=CCH−)、5.65(d、2H −CH=CCH−) 4.11(t,4H −O−C−CHO−) 3.94(t,4H −OCH−C−O−),1.81(s,6H −C).
【0111】
【化9】

【0112】
(実施例2)
<感光性樹脂組成物1の調製>
重合性化合物1を475mg、光重合開始剤 イルガキュアOXE−02(チバスペシャリティケミカルズ製) 25mgを、2mLのγ−ブチロラクトンに溶解させ感光性樹脂組成物1を調製した。
【0113】
(比較例1)
<比較重合性化合物1の合成>
100mL(リットル)のなす型フラスコに、ピロメリット酸2無水物 4.36g(20mmol)と乾燥させたγ−ブチロラクトン15mlと触媒量のピリジンを入れ、攪拌した。そこに、2−ヒドロキシエチルアクリレート 5.35ml (44mmol、5.73g)を添加し、窒素気流下、室温で16時間攪拌した後、反応液を2Lの0.1規定の塩酸に食塩を適量加えたものに滴下し、沈殿物をろ過後、乾燥させ白色固体(下記のような異性体の混合物)を9.5g得た。(比較重合性化合物1)
【0114】
【化10】

【0115】
2.評価
(1)溶解性評価
重合性化合物1と比較重合性化合物1のそれぞれ100mgを200μlのγ−ブチロラクトンに加え、超音波洗浄器で2時間超音波を照射して、溶解性を評価した。重合性化合物1は完全に溶解したが、比較重合性化合物1は白い沈殿が見受けられた。
【0116】
(2)熱分解温度測定
差動型示差熱天秤(製品名:TG8120、(株)リガク製)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で、重合性化合物1と比較重合性化合物1の5%重量減少温度を測定した。以下の表に結果を示す。
【0117】
【表1】

【0118】
(3)パターン形成評価
感光性樹脂組成物1(実施例2)を、ガラス板上に最終膜厚2μmになるようにスピンコートし、80℃のホットプレート上で10分間乾燥させた。そこへ、手動露光装置(大日本スクリーン株式会社製、MA−1200)により、所定パターンを有するフォトマスクを介して、h線換算で100mJ紫外線照射を行い、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド 2.38%溶液に浸漬した。その結果、露光部が現像液に溶解せず残存したパターンを得ることができた。溶出部には残渣等は見受けられなかった。
この結果から、本発明の感光性樹脂組成物1は、良好なパターンを形成することできることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、1分子中に1個以上の重合性不飽和結合を有する化合物からなる重合性化合物。
【化1】

(式(1)において、R〜Rのうち少なくとも1つは、重合性不飽和結合を含有する置換基である。一分子内に2つ以上の重合性不飽和結合を含有する置換基が存在する場合、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。また、R〜Rのうち重合性不飽和結合を含有する置換基でないものはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良い。R〜R10は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基であり、それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。)
【請求項2】
前記式(1)において、R〜Rの少なくとも1つが水酸基である、請求項1に記載の重合性化合物。
【請求項3】
前記式(1)において、R〜Rに2つ以上の重合性不飽和結合が含まれる、請求項1又は2に記載の重合性化合物。
【請求項4】
前記式(1)において、RとRの一方が重合性不飽和結合を含有する置換基で、RとRの他の一方が水酸基であり、且つ、RとRの一方が重合性不飽和結合を含有する置換基で、RとRの他の一方が水酸基である請求項1乃至3のいずれかに記載の重合性化合物。
【請求項5】
前記式(1)において、R〜Rに含まれる重合性不飽和結合を含有する置換基が下記式(2)で表される構造を有している、請求項1乃至4のいずれかに記載の重合性化合物。
【化2】

(式(2)において、Xは、酸素原子、硫黄原子、2級アミノ基、3級アミノ基、又は直接結合である。R11は、2価の有機基であり、R12〜R14は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機基である。それらは互いに同一であっても異なっていても良く、それらが互いに結合を介して環状構造を形成していても良い。)
【請求項6】
前記式(2)においてR11が、直鎖、分岐鎖、又は環状、或いはそれらの組み合わせからなる炭素数1〜20の炭化水素基であって、炭素骨格の途中に、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、カルボジイミド結合、又は、カーボネート結合を含んでいても良いものである、請求項1乃至5のいずれかに記載の重合性化合物。
【請求項7】
分子量が、300以上3000以下である、請求項1乃至6のいずれかに記載の重合性化合物。
【請求項8】
5%重量減少温度が、200℃以上である、請求項1乃至7のいずれかに記載の重合性化合物。
【請求項9】
前記請求項1乃至8のいずれかに記載の重合性化合物を重合させて得られた高分子化合物。
【請求項10】
前記請求項1乃至8のいずれかに記載の重合性化合物を必須成分として含有する、樹脂組成物。
【請求項11】
感光性樹脂組成物である、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記請求項1乃至8のいずれかに記載の重合性化合物以外の重合性不飽和結合を有する化合物、前記重合性不飽和結合以外の反応性官能基を有する硬化反応性化合物、光重合開始剤、及び、重量平均分子量3000以上の高分子化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1成分を、更に含有する、請求項10又は11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
パターン形成材料として用いられる、請求項11又は12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料の形成材料として用いられる請求項10乃至13のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記請求項10乃至14のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料いずれかの物品。

【公開番号】特開2008−247794(P2008−247794A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90225(P2007−90225)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】