説明

重水素化ラパマイシンの制御された送達のための、重水素化ラパマイシンを組み込む医療用デバイス

重水素化ラパマイシンを含む治療用薬剤を組み込まれている構造体を有する移植可能な医療用デバイスを使用することにより、重水素化ラパマイシンが、患者の体の内部の標的場所に制御可能なように導入され得る。代表的な重水素化ラパマイシンとしては、エピ−7−ジュウテロメチルラパマイシン、7,43−d ラパマイシン、7−ジュウテロメチルラパマイシン、31,42−d−ラパマイシン、およびこれらのラパマイシンの異性体、ならびにこれらのラパマイシンの混合物が挙げられる。この重水素化ラパマイシンはまた、グリコシル化され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、体内での重水素化ラパマイシンの制御され、局所化された送達のための方法および医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
本発明は、ラパマイシンの重水素化された誘導体、ならびに移植拒絶、対移植片性宿主病、対宿主性移植片病、白血病/リンパ腫、過増殖的血管障害、自己免疫疾患、炎症の疾患、固体腫瘍、および真菌感染の処置において、それらを送達し、および使用するための方法に関する。
【0003】
シロリムシス(sirolimusis)として公知のラパマイシンは、31員環のマクロライド系抗生物質のラクトン、C5179NO13、であり、913.6Daの分子量を有する。溶液中では、シロリムス(sirolimus)は、ピペコリン酸アミド結合まわりの妨げられた回転により、2個のコンフォーメーション上のトランス、シス異性体を4:1(クロロホルム中)の比で生成する。シロリムスは、水、脂肪族炭化水素、およびジエチルエーテルにほんの少し可溶であるのに対して、それはアルコール、ハロゲン化炭化水素、およびジメチルスルホキシドに可溶である。ラパマイシンは溶液中では不安定であり、血漿中ならびに低および中pH緩衝液中、37℃で、10時間未満の半減期で分解し、その分解生成物の構造は最近特徴づけられた。ラパマイシンは、Streptomyces hygroscopicusにより生産される大環状トリエンの抗生物質であり、インビトロおよびインビボの両方において、とりわけCandida albicansに対する抗真菌活性を有することが見いだされた(C.Vezinaら、J.Antibiot.28,721(1975);S.N.Sehgalら、J.Antibiot.28,727(1975);H.A.Bakerら、J.Antibiot.31,539(1978);米国特許第3,929,922号;および米国特許第3,993,749号)。
【0004】
ラパマイシンは、単独で(米国特許第4,885,171号)またはピシバニールとの併用で(米国特許第4,401,653)、抗腫瘍活性を有することが示されている。R.Martelら、Can.J.Physiol.Pharmacol.55,48(1977)は、ラパマイシンが実験的アレルギー性脳脊髄炎モデル、多発性硬化症のためのモデルにおいて効果的であり;アジュバント関節炎モデル、リューマチ性関節炎に対するモデルにおいて効果的であり;そしてIgE様の抗体の生成を効果的に阻害することを開示した。
【0005】
ラパマイシンの免疫抑制的効果はFASEB 3,3411(1989)に開示されている。他の大環状分子である、シクロスポリンAおよびFK−506もまた、免疫抑制剤として有効であり、それゆえに移植拒絶を防止することにおいて有用であることが示されている(FASEB 3,3411(1989);FASEB 3,5256(1989);およびR.Y.Calneら、Lancet 1183(1978))。それは免疫抑制剤タクロリムス(tacrolimus)と構造的ホモロジーを共有し、リンパ球中の同一の細胞内結合性タンパクに結合するが、ラパマイシンはS6p70−キナーゼを阻害し、それゆえにタクロリムスの免疫抑制作用のメカニズムとは別の免疫抑制作用のメカニズムを有する。ラパマイシンは、単独でまたは他の免疫抑制剤との併用で、いくつかの種中の異なる移植片の移植片生存期間を引き延ばすことが見出された。動物モデルにおいて、その毒性効果のスペクトルは、シクロスポリンまたはFK−506の毒性効果のスペクトルとは異なり、グルコースホメオスタシスの障害、胃、潰瘍形成、体重の減少、および血小板減少症を含むが、腎毒性は検出されたことがない。
【0006】
ラパマイシンのモノおよびジアシル化された誘導体(28位および43位でエステル化されている)は、抗真菌剤として有用であることが示されており(米国特許第4,316,885号)、そしてラパマイシンの水に可溶なプロドラッグを調製するために用いられている(米国特許第4,650,803号)。最近、ラパマイシンに対する番号付け規則は変更され;それゆえに、ケミカルアブストラクツ(Chemical Abstracts)の命名法に従えば、上記エステルは31位および42位においてとなる。カルボン酸エステル(PCT出願第WO92/05179号)、カルバメート(米国特許第5,118,678号)、アミドエステル(米国特許第5,118,678号)、(米国特許第5,118,678号)フッ素化されたエステル(米国特許第5,100,883号)、アセタール(米国特許第5,151,413号)、シリルエーテル(米国特許第5,120,842号)、二環式誘導体(米国特許第5,120,725号)、ラパマイシン二量体(米国特許第5,120,727号)、ならびにO−アリール、O−アルキル、O−アルケニル、およびO−アルキニル誘導体(米国特許第5,258,389号)が記載されている。
【0007】
ラパマイシンは、チトクロームP−450 3Aによって、少なくとも6個の代謝産物に代謝される。ヒト肝臓および小腸のミクロソームとのインキュベーションの間に、シロリムスはヒドロキシル化および脱メチル化され、39−O−デメチルシロリムスの構造が同定された。シロリムスで処置されたラットの胆汁中に、16より多い、ヒドロキシル化および脱メチル化された代謝産物が検出された。
【0008】
ラパマイシンにおいては、C−7炭素のメトキシ基の脱メチル化は、そのラパマイシンのコンフォーメーション変化につながり、これは、遊離されたC−7ヒドロキシル基の隣接するピラン環系との相互作用によるのであって、そのピラン環系は、その環系の開環体と平衡にある。そのC−7ヒドロキシル基はまた、そのトリエン系とも相互作用し、おそらくラパマイシンの免疫抑制的な活性を変化させる。このことがラパマイシン分子の分解およびその変化した活性を説明する。
【0009】
安定な同位体、例えば、重水素、13C、15N、18O、は、当の原子の通常豊富な同位体よりも1個の余分な中性子を含む、非放射性の同位体である。重水素化された化合物は、非重水素化の親化合物の作用機構および代謝経路の評価によって、その化合物のインビボでの代謝の結末を調べるために、薬学的研究において用いられてきた。(Blakeら、J.Pharm.Sci.64,3,367−391,1975)。そのような代謝の研究は、安全で効果的な治療用薬物の設計において重要である。なぜなら、そのインビボ活性な化合物は患者に投与されるからか、またはその親化合物から生産される代謝産物は有毒または発ガン性であることが判明するから、のいずれかだからである(Fosterら、Advances in drug Research 14巻,2−36頁,Academic Press,London,1985)。
【0010】
重原子の組み込み、とりわけ水素に代わる重水素置換は、その薬物の薬物動力学を変え得る同位体効果を生じ得る。そのラベルが、分子中に、その分子の代謝上不活性な位置に置かれるならば、この効果は通常重要でない。
【0011】
薬物の安定同位体ラベル化は、pKaおよび脂質溶解性など、その物理化学的特性を変化させ得る。これらの変化は、身体を通ってのその変遷に沿った異なる段階で、その薬物の結末に影響を及ぼし得る。吸収、分配、代謝または排泄が変化させられ得る。吸収および分配は、主にその物質の分子サイズおよび脂質親和性に依存するプロセスである。
【0012】
重水素原子への化学結合の開裂がそのプロセスにおける律速段階であるなら、薬物代謝は、大きな同位体効果を生じ得る。安定同位体でラベルされた分子の物理的性質のいくつかは、非ラベル化分子の物理的性質とは異なる一方で、化学的性質および生物学的性質は同一であり、一つの重要な例外を伴う:重い同位体の増加重量に起因して、その重い同位体および別の原子(tom)を含有する任意の結合は、その軽い同位体とその原子との間の同一の結合より強い(best stronger)。この結合の開裂が律速段階である任意の反応において、その反応は、速度同位体効果により、重い同位体を伴う分子に対してはより遅く進行する。C−D結合を開裂させる工程を包含する反応は、C−H結合を開裂させる工程を包含する類似の反応よりも、700パーセントまで遅くなり得る。
【0013】
重水素ラベルされた薬物を使用するときは、より多くの慎重さが守られなければならない。もしもそのC−D結合が代謝物に導く段階のいずれにも包含されていないなら、その薬物の挙動を変化させるための効果は全くないかも知れない。もしも重水素が薬物の代謝に包含される部位に置かれると、同位体効果は、そのC−D結合を開裂させる工程が律速段階である場合にのみ観察される。通常は混合機能オキシダーゼに触媒される酸化により、脂肪族C−H結合の開裂が起こるときはいつでも、その水素の重水素での置換が観察可能な同位体効果に導くことを示唆する証拠がある。代謝の部位での重水素の導入は、重水素で置換されていない炭素原子上での攻撃により生産される別の代謝産物が、「代謝スイッチング」と呼ばれるプロセスにより、主要経路になる点まで、その速度を遅くすることを理解することもまた重要である。
【0014】
芳香族系を含む化合物の最も重要な代謝経路の一つが、炭素置換基に対して3位または4位でフェノール性基に導く、ヒドロキシル化であることもまた観察される。この経路はそのC−H結合の開裂を包含するが、この経路はしばしば同位体効果を伴わない。なぜなら、この結合の開裂はたいていその律速段階に包含されないからである。立体中心における水素の重水素による置換は、その薬物の活性に対してより大きな効果を誘起する。
【0015】
臨床に関連する問題としては、その薬物およびその代謝産物誘導体の毒性、分配または排泄の変化(酵素誘導)、その薬物の吸収に効果を及ぼす脂質親和性が挙げられる。代謝反応にかかわりある部位における水素の重水素による置換は、その薬物の増加した毒性につながる。その脂肪族炭素における水素の重水素による置換は、より大きい程度に同位体効果を有する。ヒドロキシル化の部位である芳香族炭素原子に置かれた重水素は、観測可能な同位体効果に導くかもしれないが、これは脂肪族炭素についてよりも頻繁でないケースである。しかし、例えばペニシリンにおけるように、非常に少ないケースにおいては、芳香環上での置換が、その薬物の活性を増加させるための好ましい立体特異的状況に導く、C−C結合のまわりの環の回転の制限を誘起する。
【0016】
ヒトの代謝に関する研究における安定同位体の使用の半世紀が、記録に残された重要な悪影響なく、近づいている。急性のD投与ゆえの副作用は一時的なものであり、永続的な有害作用について実証された証拠はない。D毒性の閾値は、動物において定められており、ヒトの研究でたぶん使用される濃度をはるかに超えている(Jones P J,Leatherdale S T Clin Sci(Colch)1991 Apr;80(4):277−280)。Dがさらなる有益な薬理学上の適用を有しているかもしれないという可能性は排除できない。D以外の同位体に対しては、観察される毒性の証拠は、代謝に関する研究で用いられる範囲をはるかに超える投与量においてでさえ、まだ提示されないでいる。悪影響の不在は、トレーサーと支配的に豊富な同位体との小さい重量差および類似の性質に帰することができるかも知れない。動物研究から毒性閾値を外挿することの精度は未知のままである。しかしながら、安定な同位体の使用にともなって生存生物の微妙な恒常性特性の摂動が生じれば、ほとんど疑いもなく、その閾値は、生医学的研究において現在投与されるレベルを大きく超える、何らかの投与レベルにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記ラパマイシン分子の安定性を改善するためにラパマイシンを重水素化することに関して、先行技術は詳細を開示していない。その技術はまた、重水素化されたラパマイシンをグリコシル化することが、ラパマイシンの安定性および溶解性を増し、その分子の生物利用可能性を最終的に向上させることを教示してもいない。それゆえに、本発明は、ラパマイシン(rapamcin)より安定で、より分解しにくく、そしてより水溶性であるラパマイシン誘導体、およびそのような薬剤を送達するための手法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本発明は、一部は以下の認識に基づいている。すなわち、脈管系、食道、気管、結腸、胆汁管、泌尿器管、またはヒト患者もしくは獣医学的患者内の他の場所などの体腔の中へ、部分的にまたは完全に導入される移植可能な医療用デバイスの表面または構造体上に、重水素化ラパマイシンを組み入れることにより、重水素化ラパマイシンの有効性が顕著に増し得るという認識である。例えば、上記脈管系の多くの処置は、ステント、カテーテル、バルーン、ガイドワイヤー、カニューレなどのデバイスの導入を伴う。本発明を用いれば、正確な量の重水素化ラパマイシンが、医療手順の間にまたは医療手順に引き続いて、局所的に導入され得る。
【0019】
一局面では、本発明は、移植可能な医療用デバイスであって、このデバイスが、患者に導入するために適合された構造体を有し、ここでこの構造体が重水素化ラパマイシンを含む治療用薬剤を組み込んでいる、移植可能な医療用デバイスに関する。
【0020】
好適な重水素化ラパマイシンは、エピ−7−ジュウテロメチルラパマイシン、7,43−d ラパマイシン、7−ジュウテロメチルラパマイシン、31,42−d−ラパマイシン、およびこれらの異性体、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。この重水素化ラパマイシンは、グリコシル化され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、移植可能な医療用デバイス、および患者の体内の標的場所への重水素化ラパマイシンの制御され、局所化された送達のための方法を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「制御され、局所化された送達」とは、固定された場所での望まれる期間にわたる、重水素化ラパマイシンの特徴的な放出速度と定義される。本発明の移植可能な医療用デバイスは、単純な構造を有していてもよく、極小の断面図を提供してもよく、そして上記重水素化ラパマイシンの容易で再現可能な装填を見込んでいてもよい。用語「生物活性な薬剤」および「生物活性な材料」は交換可能に使用される。
【0022】
この医療用デバイスから重水素化ラパマイシンを送達するために、様々な手法が用いられ得る。例えば、重水素化ラパマイシンポリマー混合物が、放出のためにその薬物を保持するために、医療用デバイスの表面に塗布され得る。別の方法は、その薬物を、微孔、通路、または貯蔵器を含むよう改変された医療用デバイスの構造体中に閉じ込めることである。最終的に、重水素化ラパマイシンは、溶液化学手法または乾式化学手法、およびこれらの組み合わせにより、その医療用デバイス表面に共有結合され得る。本発明は、改変されたステントおよび移植片を用いて例示されるが、本発明の手法は、本明細書中でさらに議論されるように、医療用デバイス一般に適用可能であることが理解される。
【0023】
(重水素化ラパマイシンを塗布された医療用デバイス)
図1に関して、本発明に従う移植可能な医療用デバイス10が示され、そしてそのデバイスは、患者への導入のために適合された構造体12を備える。用語「適合された」とは、本明細書中では、構造体12がそのような導入のために形作られ、およびサイズ変更されることを意味するために用いられる。明快さのために、構造体12の一部のみが示される。
【0024】
例として、構造体12は、患者の脈管系への挿入のために特別に適合されたステントとして形作られている。当該分野で公知のように、ステントはチューブ状の支持構造体であり、冠状血管および末梢血管もしくは動脈または他の非血管の内腔、血管または他の管状体腔に移植される。本発明は、従って、例えば、局所化された薬物の送達およびステント装着という二重の目的のために使用され得る。このステント構造体はまた、非脈管系ならびに、他の部位のうちで食道、気管、結腸、胆汁管、尿道、および尿管などの部位において使用されてもよい。
【0025】
図1に言及すれば、構造体12は、あるいは、任意の従来の管状デバイスまたは他の医療用デバイスとして形作られ得、そしてそのようなデバイスとしては、様々な従来のステントまたは螺旋状に巻かれたより糸、穿孔された円柱などの他の付属物が挙げられる。従って、この構造体12は、体内への挿入のために適合される医療用デバイスの少なくとも1個、またはその任意の部分、として形作られる。そのような医療用デバイスの例としては、カテーテル、ガイドワイヤー、バルーン、フィルター(例えば、大静脈フィルター)、ステント、ステント移植片、血管移植片、管内被覆(paving)システム、インプラント、および薬物を装填されたポリマーコーティングに関連して使用される他のデバイスが挙げられる。そのようなデバイスは移植され、または移植されない場合には冠状血管系、食道、気管、結腸、胆汁管、泌尿器管、前立腺、脳などの体内腔および器官で使用される。適切な血管移植片の例は、米国特許第5,509,931号、第5,527,353号、および第5,556,426号に記載されている。WO96/12448号およびWO96/17634号に記載されるような大静脈フィルターもまた本発明において使用され得る。上記特許のすべては、本明細書中に参考として援用される。
【0026】
本発明に従う重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層を備え付けられた移植片(ステント移植片を含む)としては、部分的にせよ全体的にせよ血管の代替物として使用される合成血管移植片が挙げられる。代表的な血管移植片は合成チューブであり、そのチューブのそれぞれの端が、不全の部分またはさもなくば損傷した部分が除去された血管の残存する端に縫合される。代表的なステント移植片においては、その合成チューブ部分の各々の端はステントを含み、そのステントは、不全の部分またはさもなくば損傷した部分が除去された血管の残存する端のそれぞれに付けられる。あるいは、ステント移植片においては、その置換血管は、例えば大腿動脈などの一部などの患者の別の部位から除去された血管のセグメントであってもよい。合成移植片の場合には、そのグラフトは代表的にはチューブ状であり、そして、例えば織られた構造、編み目構造、またはベロア構造を有していてもよい。その移植片として好適なベース材料、およびスそのテント移植片のための好適な被覆材としては、ポリエチレンテレフタレートおよびポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。この血管移植片は、その移植片管の表面全体にわたって均一の強度を賦与するために、例えば、螺旋、環などで補強されていてもよい。そのような移植片が作られている材料は、生物学的に適合性の材料であり、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン、およびポリウレタンなどの熱可塑性材料が挙げられるが、これらに限定されない。その好適な材料としては、ポリエステル繊維およびPTFEが挙げられる。
【0027】
他の適切な移植片の例は、米国特許第5,509,931号、第5,527,353号、および第5,556,426号に記載されており、上記特許のすべては、本明細書中に参考として援用される。本発明の好適な実施形態においては、その移植片はポリマー材料/重水素化ラパマイシンの複合材層を備え付けられている。このポリマー/重水素化ラパマイシン複合材を塗布された移植片は、体内の望まれる部位に置かれる場合には、この部位への重水素化ラパマイシンの延長された放出を提供する。
【0028】
図1に言及すれば、構造体12は、構造体12の意図された使用に適合するベース材料13を備える。このベース材料13は、好適には生体適合性である。様々な従来の材料がこのベース材料13として用いられ得る。例えば、このベース材料13は、弾性的であっても非弾性的であってもよい。このベース材料13は、生分解性であっても非生分解性であってもよい。
【0029】
従って、このベース材料13はステンレススチール、タンタル、チタン、NITINOL(登録商標)、金、白金、インコネル、イリジウム、銀、タングステン、もしくは別の生体適合性の金属、またはこれらの任意の金属の合金;炭素または炭素繊維;酢酸セルロース、硝酸セルロース;シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、もしくは別の生体適合性のポリマー材料、またはこれらの混合物もしくはコポリマー;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、このコポリマー、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートバレレート、もしくは別の生分解性ポリマー、またはこれらの混合物もしくはコポリマー;タンパク質、細胞外の基質成分、コラーゲン、線維素、または別の生物学的な物質;または、これらの任意のものの適切な混合物から形成され得る。ステンレススチールおよびNITINOL(登録商標)が、上記構造体12が血管ステントとして形作られている場合には、ベース材料としてとりわけ有用である。
【0030】
上記移植可能な医療用デバイス10はまた、重水素化ラパマイシンおよび生体適合性ポリマー材料または生体適合性コポリマー材料の複合材によって形成される、少なくとも1個の層15を含有していてもよい。多重のポリマー−重水素化ラパマイシン複合材層が使用される場合は、その層は同一のもしくは異なる重水素化ラパマイシン、ならびに/または同一のもしくは異なるポリマーを含有していてもよい。重水素化ラパマイシンおよびポリマーの組み合わせは、重水素化ラパマイシンの一体的な基質貯蔵所としての役割を果たす。この貯蔵所は、医療用デバイスからの重水素化ラパマイシンの放出速度に対する制御を提供することに部分的に寄与する。
【0031】
この複合材層は、このポリマー−重水素化ラパマイシン複合材層15を形成するために、上記ベース材料13の表面の少なくとも一部に適用される溶液または分散液(例えば、懸濁液、乳化液、または半固体)から生成される。このベース材料13の少なくとも一部への、ポリマー−重水素化ラパマイシン複合材15の適用は、スプレー工程、軽く漬ける工程、塗布工程、静電的相互作用、物理吸着など(しかし、これらに限定されない)の物理的方法、または上記ベース材料13への化学的連結など(しかし、これに限定されない)の共有結合による方法を伴ってもよい。このポリマー−重水素化ラパマイシン複合材層15は、好適には、例えば、0.2μg/mm〜20μg/mmなどのかなりの量の重水素化ラパマイシンを組み込むことができる。複合材層15中の薬物のパーセントは、1%〜50%重量/重量まで変化させられ得る。このポリマー−重水素化ラパマイシン複合材層15は、上記重水素化ラパマイシン投与量を調整するために、代表的には、1ミクロンよりも大きい厚さで、好適には約5−50ミクロンの厚み、および最も好適には、約5−25ミクロンの厚みで適用される。例えば、約0.2−0.3ミクロンの非常に薄いポリマー−重水素化ラパマイシン複合材はまた可能であり、必要に応じて、多重層のポリマー−重水素化ラパマイシン複合材が、構造体12のベース材料(または、その部分)13の外部表面上に適用されてもよい。そのような多重層は、同一のもしくは異なるポリマー材料および/または重水素化ラパマイシンでできていてもよい。
【0032】
上記重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層を形成するために使用される生体適合性ポリマー材料としては、例えば、重水素化ラパマイシンの存在下で、固体化した複合材層を形成することができる、任意のポリマー材料が挙げられ得る。本発明のポリマー材料は、親水性または疎水性であり、例えば、ポリカルボン酸、酢酸セルロースおよび硝酸セルロースが挙げられるセルロース系ポリマー、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、架橋されたポリビニルピロリドン、マレイン酸無水物ポリマーが挙げられるポリ酸無水物、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、EVAなどのビニルモノマーのコポリマー、ポリビニルエーテル、ポリビニル芳香族、ポリエチレンオキシド、グリコサミノグリカン、多糖、ポリエチレンテレフタレートが挙げられるポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレンが挙げられるポリアルキレン、ポリエチレンおよび高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられるハロゲン化ポリアルキレン、ポリウレタン、ポリオルトエステル、タンパク質、ポリペプチド、シリコーン、シロキサンポリマー、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレートバレレート、ならびにこれらのブレンドおよびコポリマー、加えて、他の生分解性ポリマーおよびコポリマー、生体吸収性ポリマーおよびコポリマー、ならびに生体安定性ポリマーおよびコポリマーである。ポリウレタン分散液(例えば、BAYHDROL(登録商標))、およびアクリル系ラテックス分散液などのポリマー分散液からのコーティングもまた、本発明の範囲内である。このポリマーは、例えば、タンパク質ポリマー、線維素、コラーゲンおよびその誘導体、セルロース、でんぷん、デキストラン、アルギナートおよびこれらの多糖の誘導体などの多糖、細胞外の基質成分、ヒアルロン酸、もしくは別の生物学的な物質、またはこれらのいずれかの適切な混合物から形成され得る。複合材層15は、単一のポリマーまたはコポリマーを含有し得る。その層はまた、上記材料のいずれかのコポリマーまたは物理的ブレンドを含有し得る。本発明の一実施形態では、このポリマーは、HYDROPLUS(登録商標)(Boston Scientific Corporation,Natick,Mass.)として入手可能なポリアクリル酸であり、そして米国特許第5,091,205号に記載されており、この米国特許の開示は、本明細書中で参考として援用される。米国特許第5,091,205号は、1個以上のポリイソシアネートを塗布される医療用デバイスを記載し、そのデバイスは、体液に曝露されたときに、即座につるつるになるようにされている。
【0033】
本発明の重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15の使用は、この層または多重層がベース材料13に対するその混合物の向上した接着を可能にするという点で、さらなる利点を有する。この重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15はまた、ベース材料13上に置かれた重水素化ラパマイシンの量を調整することの効果的な方法を提供する。これは、重水素化ラパマイシン/ポリマー比、および/または、重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層の厚みを調整することによって達成される。また、複合材層15は、後続の隔壁層のために互いに適合する表面を提供し、その医療用デバイスの伸張の間に隔壁層の機械的完全性を維持するのに役立つ。この重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材はまた、血液適合性の表面をこの医療用デバイスに提供するという、さらなる利益をも有する。従って、この生体適合性ポリマー材料は、その血管壁または血流と移植可能な医療用デバイス10との間の媒介物として作用する。
【0034】
上記重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15からの薬物の放出プロフィールは、多くの因子により決定され、その因子としては、その薬物の溶解性、適用された薬物の量、複合材層15中の薬物対ポリマー比、ならびにその複合材層の厚みおよび間隙率が挙げられる。この放出プロフィールはまた、蒸着プロセスまたは低エネルギープラズマ重合プロセスにより形成される外部隔壁層の存在により調節される。
【0035】
さらに図1に関して、本発明の移植可能な医療用デバイス10はまた、上記重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15上に位置される少なくとも1個の隔壁層20を備え得る。この隔壁層または複数の隔壁層の1つの目的は、デバイス10が患者の脈管系中または他の体腔の中に置かれるときに、重水素化ラパマイシンのさらに制御された放出を提供することである。この隔壁層20の厚みはそのような制御を提供するよう選ばれる。また、この隔壁層20は、その薬物が標的部位に到達するまで、慣用的な取り扱いプロセスおよび生理学的な環境からその薬物を保護する。
【0036】
この隔壁層20は、蒸着プロセスまたは低エネルギープラズマ重合プロセスにより、上記重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15の外部表面の上に沈着されるポリマー層またはコポリマー層である。低エネルギープラズマ重合は、このプラズマ重合プロセスの初めに、この複合材を塗布された移植可能な医療用デバイスをモノマーガスに曝露することにより実施される。この重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材を塗布されたデバイスは、プラズマチャンバまたは他の類似のデバイスに置かれ、例えば、環状または非環状のシロキサン、シラン、シリルイミダゾールなどのシリコーンベースのモノマー;フッ化炭化水素などのフッ素ベースのモノマー;脂肪族または芳香族炭化水素;アクリル系モノマー;N−ビニルピロリドン;エチレンオキシドまたはこれらの組み合わせ、などのモノマーガスに曝露される。このモノマーガスは官能基を有していてもよく、この官能基が、これらの官能基に固定することによって、適切な薬物の共有結合を可能にする。ポリマーブレンド、コポリマー、または相互貫入ネットワークが、2つ以上のモノマーガスの同時の導入または引き続く導入により、ホモポリマーの沈着に加えて沈着され得る。混合物として導入されるときは、そのモノマーガスの比は、望まれる特性を得るために調整され得る。無線周波数エネルギー源などのエネルギー源が、上記低エネルギー発生プロセスを製造するために用いられる。
【0037】
あるいは、この隔壁層は、蒸着プロセスにより塗布され得る。そのような方法で沈着され得るポリマーの例は、パリレンまたはポリアミドである。このプロセスを用いるパリレンの沈着のために、p−キシレンの二量体形の高温熱分解により生成されるp−キシレンのモノマー蒸気が50℃の温度またはそれより低温で、複合材層15の表面上に凝縮され、この隔壁層ポリマーを生成する。
【0038】
低エネルギープラズマは、循環するモノマーガス中に活性種を発生し、ポリマーは生成され、そして引き続いて先に塗布されたデバイスの外部表面上に沈着される。このプラズマはまた、上記モノマーガスと一緒に、塗布されるべきデバイスの上に活性種を発生させてもよい。このことは、プラズマ重合に加えて、プラズマグラフト化に導く。この低エネルギープラズマ重合隔壁層の特性、すなわち、生成ポリマーの厚みおよび/または架橋密度は、例えば、そのモノマー流量、供給されるプラズマの圧力および出力、反応時間、およびこれらの組み合わせにより、上記重水素化ラパマシインの特性が思わしくなく影響されないような方法で、制御される。
【0039】
低エネルギープラズマ重合の使用は、代表的な重合方法の熱的影響の除去を提供する。なぜなら、その低エネルギープロセスは室温で起こるからである。また、このモノマーは気体状の形で、そのプラズマチャンバ中に導入されるので、上記重水素化ラパマシイン複合材層への塗布のために、溶媒は不要である。さらには、上記低エネルギープロセスに対して用いられる時間枠が小さいので、上記重水素化ラパマシインへの任意の有害な影響の可能性はきわめて僅かである。
【0040】
隔壁層20の別の機能は、例えば、そのデバイスが望まれる標的部位に置かれるまでに、体内を通ってのこのデバイスを操る工程の間にこのデバイスの取り扱いから生じるかも知れない損傷からの、上記重水素化ラパマシイン−ポリマー複合材層15の保護を提供することである。これは1つ以上の異なる方法で達成され得る。
【0041】
例えば、上記プラズマ重合プロセスは、この隔壁層20の、上記複合材層15中のポリマーマトリクスへの共有結合による固定を可能にする。上記複合材層15と上記隔壁層20との間の共有結合の生成は、引き続いて、この隔壁層20のより強い接着を提供し、従って、上記複合材層15中の上記薬剤貯蔵所の増加された保護を提供する。
【0042】
また、疎水性の隔壁層の場合には、生理学的な環境からの水の拡散が制限され、従って、溶出させる環境との上記重水素化ラパマシインの接触を制限する。
【0043】
さらには、プラズマ重合により生成される上記隔壁層は、本質的に架橋されており、その架橋度は、出力など、そのプラズマ重合プロセスのパラメーターを変化させることにより変化され得る。いっそうの耐久性は、上記架橋密度を増加させることにより、そして従ってより剛性の隔壁層により得られ得、一方でその架橋密度を低下させることはより柔軟な隔壁層を提供する。
【0044】
本発明の少なくとも1つの隔壁層20は、好適には、5000Å未満の厚みであり、そして好適には約50−2000Åの厚みである。
【0045】
代替的実施形態において、重水素化ラパマイシンまたは他の生物活性な材料は、上記隔壁層の外部表面の中へまたはその表面上に組み込まれる。例えば、第2の生物活性な材料は、上記隔壁層20の中へ、任意の適切な方法により導入される。図2は、ヘパリンなどの生物活性な薬剤の外部コーティングを有するステントを示し、そのコーティングは、隔壁層20に塗布され層25を生成する。この外部の生物活性な薬剤は、それは、この場合、上記重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層の重水素化ラパマイシンとは異なるが、溶液中に置かれ、上記隔壁層20に任意の適切な手段で塗布され、この任意の適切な手段としては、コーティングされた医療用デバイスを薬物溶液に軽く漬けること、またはこの溶液を上記層20の上に、スプレーすることによるなどで、塗布することによることが挙げられる。前者の方法では、生物活性な薬剤装填の量は、その隔壁層が上記薬物溶液または上記薬物分散液に曝露される時間、ポリマー架橋の程度、上記溶液または上記分散液中のその薬物の濃度、および/または上記医療用デバイスに塗布される隔壁層の量を規制することにより制御される。
【0046】
第2の生物活性な薬剤を伴う上記隔壁層は、第1の隔壁層と類似の組成を有していてもよく、第1の隔壁層とは物理的にまたは化学的に異なっていてもよい。第2の隔壁層の特質は、上記外部表面の上に組み込まれる上記生物活性な薬剤の物理化学的特性に決定される。
【0047】
上記層15中で使用される重水素化ラパマイシンが、層20中の生物活性な薬剤と同一の場合には、層15中の重水素化ラパマイシンは、治療窓に到達するために要求される初期の瞬時負荷投与量を提供し、その投与量は重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15によってさらに維持される。
【0048】
層15の重水素化ラパマイシンが層20で使用された生物活性な薬剤と異なる場合には、層20中のその生物活性な薬剤は、この2つの生物活性材料の相乗的な生物活性または独立の生物活性のいずれかにより達成される生物学的な効果の組み合わせを提供する。
【0049】
移植されるときは、上記医療用デバイスの重水素化ラパマイシン−ポリマー複合材層15中に含まれる重水素化ラパマイシンの実質的な量が、延長された時間にわたって、および制御された方法で、患部の中へ拡散される。
【0050】
(重水素化ラパマイシンを含有する通路を有する医療用デバイス)
医療用デバイスの表面は、引き続く放出のために重水素化ラパマイシンを保存するための構造体によって加工され得る。一般に通路または貯蔵器と呼ばれるこれらの貯蔵構造体は任意の適切な配置を有し得る。例示として、図3Aおよび3Bのステント圧縮材30は、多数の細長通路33を有するように改変される。重水素化ラパマイシンをその通路の内部に導入するための技法は、この改変されたステントを、例えば、アセトンまたはジクロロメタンを溶媒として、重水素化ラパマイシン溶液に、溶液がその通路の中へ浸透することが可能になるだけ十分な時間、浸漬することである。溶剤が蒸発されたあとで、このステントは、過剰の、表面に結合した薬物を除去するために、短い時間新鮮な溶剤中に漬けられる。ポリマーの溶液は、このステントに塗布され、ポリマーの外層を形成し、この外層は上記重水素化ラパマイシンの放出に対して、拡散制御器として作用する。
【0051】
(表面に共有結合された重水素化ラパマイシンを有する医療用デバイス)
医療用デバイスの表面は化学的に誘導体化され得、共有結合の薬物つなぎ鎖の分解の際に後で放出される重水素化ラパマイシンの共有結合の固定化を可能にし得る。例えば,重水素化ラパマイシンは、このステントの表面に付着させるための加水分解的にまたは酵素により変化し易い共有結合を含むように改変され得る。エステル、アミド、または酸無水物などの共有結合がこのために適切であり得る。
【0052】
(重水素化ラパマシインの合成)
図4〜7は、このラパマイシン分子の重水素化のための部位の例を示す。重水素化されたラパマイシン分子の非限定的な例としては、以下の化合物;7−ジュウテロメチルラパマイシン(図4)、エピ−7−ジュウテロメチルラパマイシン(図5)、7,43−d−ラパマイシン(図6)、および31,42−d−ラパマイシン(図7)が挙げられ、図4〜7に示される化合物のシスおよびトランス異性体が含まれる。図8は、化合物グリコシル化重水素化ラパマイシンの調製および構造を示す。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
7−ジュウテロメチルラパマイシン(図4)の調製
5mgのラパマイシンを2.5mlのジクロロメタン中に溶解した。40mgの重水素化メタノールを添加した。10ビーズのNAFION(登録商標)触媒を上記溶液に添加した。この中身を窒素下、室温で14時間攪拌した。この反応をマススペクトルにより追跡した。この溶液を濾過し、濃縮した。この残さを乾燥ベンゼン中に溶解し、凍結乾燥した。得られた白色固体は、マススペクトル分析により均一であり、LC/MSにより特徴付けられた。
【0054】
(実施例2)
31,42 d−7−重水素化ラパマイシン(図7)の調製
ラパマイシン(11mM)をシクロヘキサンおよびジクロロメタン(1:1)の混合物10ml中に溶解した。この中身を氷浴中で冷却し、ポリ(ビニルピリジニウム)ジクロメート0.5グラムを添加した。この反応混合物を終夜攪拌し、そしてこの反応をマススペクトルによって追跡した。この反応混合物を濾過し、水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。この有機溶液を濾過し、濃縮した。この粗生成物を、クロロホルム−メタノール(20:10)混合物を用いるシリカカラムによる精製にかけた。
【0055】
この純粋な画分を集め、濃縮した。その残さをベンゼン中に溶解し、凍結乾燥した。この生成物はLC/MSで特徴付けられた。M+(Na)932。この材料を乾燥エーテル(10ml)中に溶解した。10当量の重水素化アルミニウムリチウムを添加した。この反応混合物を24時間攪拌した。反応の完了後、過剰のLiAlDを、アセトンの添加により分解した。この錯体を氷冷した酢酸を添加することにより分解した。
【0056】
この混合物を濾過した。この濾液をエーテルで希釈し、そして水で洗浄し、乾燥し、そして濃縮した。この粗混合物を、カラムクロマトグラフィーにかけ、必要とされる材料をクロロホルム−メタノール溶剤系を用いて溶出した。この純粋な画分を集め、濃縮した。その化合物をマススペクトルにより試験した。M=(Na)940。この化合物を、実施例1に記載される手法に従って、望まれる最終化合物(2)に変換した。
【0057】
(実施例3)
グリコシル化ジュウテロラパマイシン(deuteroRapamycin)の調製(図8)
図8に言及すれば、実施例1により調製された化合物10(20mg)を5ml中のジクロロメタン中に溶解した。ジメチルアミノピリジン(2.2mg)を上記溶液に添加した。その中身を−70℃に冷却した。ジクロロメタン中の4−ニトロフェニルクロロホルメートをその反応混合物に添加した。この溶液を窒素下、室温で14時間攪拌した。この反応をマススペクトルによって追跡した。反応の完了後、この反応混合物をジクロロメタンで希釈し、この有機溶液を水、0.2M氷冷HCl溶液で洗浄した。この有機層を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。濾過後、この有機溶液を濾過し、そして濃縮した。この粗生成物をLC/MSで精製し、純粋な化合物30(収量10mg)を提供した。化合物30(0.9m.mol)を乾燥DMF中(0.5ml)中に溶解した。この混合物に、2−アミノエチル−a−D−グルコピラノシド(7.2m.mol)の溶液を添加した。この反応混合物を室温で14時間攪拌した。反応の完了後、この反応混合物をジクロロメタンで希釈した。この有機溶液を真空中で濃縮した。この残さを水で抽出し、この水性溶液をバイオゲルカラムにかけ、必要とされる純粋化合物50を得た。この材料はLC/MSで特徴付けられた。M+(Na)1185。
【0058】
本発明の好ましい実施形態のみが上記に特に開示され、記載されているが、本発明の多くの改変およびバリエーションが、上記教示を考慮して、および添付される特許請求の範囲内で、本発明の精神および意図される範囲から逸脱することなく、可能であることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、塗布された医療用デバイスの断面図である。
【図2】図2は、塗布された医療用デバイスの断面図である。
【図3】図3Aおよび3Bは、それぞれ、重水素化ラパマイシンを貯蔵する通路を表面に有するステントの立体図および断面図である。
【図4】図4は、7−ジュウテロメチルラパマイシンの化学構造であって、重水素化の部位を示す。
【図5】図5は、エピ−7 ジュウテロメチルラパマイシンの化学構造であって、重水素化の部位を示す。
【図6】図6は、7,43−d−ラパマイシンの化学構造であって、重水素化の部位を示す。
【図7】図7は、31,42−dの化学構造であって、重水素化の部位を示す。
【図8】図8は、グリコシル化ジュウテロラパマイシンの調製を例示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植可能な医療用デバイスであって、該デバイスが、患者への導入のために適合された構造体を有し、ここで該構造体が、重水素化ラパマイシンを含む治療用薬剤を組み込まれている、移植可能な医療用デバイス。
【請求項2】
前記重水素化ラパマイシンが、エピ−7−ジュウテロメチルラパマイシン、7,43−dラパマイシン、7−ジュウテロメチルラパマイシン、31,42−d−ラパマイシン、該ラパマイシンの異性体、ならびに該ラパマイシンの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
前記重水素化ラパマイシンが、グリコシル化されている、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
前記重水素化ラパマイシンが、42−位でグリコシル化されている、請求項3に記載の医療用デバイス。
【請求項5】
前記グリコシル化重水素化ラパマイシンが、構造:
【化1】

を有する、請求項4に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
前記医療用デバイスが前記重水素化ラパマイシンを塗布されている、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項7】
前記構造体が、1個以上の通路を有する表面を含み、該通路が該表面上に形成され、ここで該1個以上の通路が前記重水素化ラパマイシンを収容する、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項8】
(i)前記構造体が、ベース材料を含み;そして
(ii)ポリマーマトリックス中の重水素化ラパマイシンから構成される、少なくとも1個の層が、前記ベース材料の外部表面の少なくとも一部に適用されている、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項9】
(iii)前記層上に配置された少なくとも1個の隔壁層をさらに含み、該隔壁層が、前記重水素化ラパマイシンの制御された放出を提供するために充分な厚みを有する第2のポリマーマトリクスを含む、請求項8に記載の医療用デバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1個の隔壁層が生物活性な薬剤を含有する、請求項9に記載の医療用デバイス。
【請求項11】
前記医療用デバイスが、カテーテル、ワイヤーガイド、カニューレ、ステント移植片、カバーされたステント、血管移植片もしくは他の移植片、心臓ペースメーカーのリード線もしくはリード線チップ、血管形成術用デバイス、またはこれらの一部分からなる群から選択されるデバイスである、請求項1に記載の医療用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−512943(P2006−512943A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553885(P2004−553885)
【出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/036838
【国際公開番号】WO2004/045668
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(505181815)アイソテクニカ, インターナショナル インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】