説明

重金属の分析方法

【課題】被検査液体中に含まれている重金属イオンを簡単に定性分析および定量分析が可能な分析方法を提供することにある。
【解決手段】 被検査液体を、重金属イオン吸着剤を充填したケースに通し、被検査液体中に含まれている重金属陽イオンや重金属陰イオンなどの重金属イオンを重金属イオン吸着剤に吸着させ、重金属イオンが吸着した上記吸着剤を乾燥することなくケースごと蛍光X線分析装置にかけて、被検査液体中の重金属イオンの種類および含有量を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき廃液など工業廃液、各種研究機関や医療機関などから排出される諸廃液、河川、あるいはその他の液体中に含まれる重金属イオンの分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、採取した液体試料から含有重金属類を重金属吸着フィルタに捕集する工程と、重金属吸着フィルタに捕集した重金属類を乾燥固化して固体化する工程と、重金属類を固体化させた重金属吸着フィルタを蛍光X線分析装置にかけて重金属類の種類および含有量を分析する工程とからなる、液体中に含有される重金属類成分の分析測定方法は、後記する特許文献1から公知である。
【0003】
このような重金属類の分析方法にあっては、フィルタに重金属類を捕集後、これを蛍光X線分析装置にかける前に、固体化するための乾燥工程が必要であり、時間を要するという問題があった。
【特許文献1】特開2004−93272号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術における如上の問題に鑑みて、被検査液体中に含まれている重金属イオンを簡単に定性分析および定量分析が可能な分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明における重金属の分析方法は、蛍光X線透過性材料で形成されたケ−ス内に収容された重金属イオン吸着剤に被検査液体中の重金属イオンを吸着させる第一工程、上記ケ−スの外部から蛍光X線を照射して上記重金属イオン吸着剤に吸着した重金属イオンを分析する第二工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、めっき廃液のように、陽イオン形態で存在する重金属、例えば亜鉛や鉄、ニッケル等と、陰イオン形態で存在する重金属、例えば六価クロムの重金属が共存する場合も、陽イオンあるいは陰イオンを吸着可能な重金属イオン吸着剤にそれぞれ吸着・捕集することができる。また、重金属イオン吸着剤は、重金属を選択的に吸着・捕集し、重金属を含まない水を容易に通過・排出するため、重金属の濃縮効果を有する。このため、上記廃液中の重金属含有量がごく微量で、原液のままでは検出できない場合でも、検出可能になる。
【0007】
また重金属イオン吸着後、ケース内を乾燥することなく当該ケースごと蛍光X線分析装置にかけるため、重金属イオン吸着剤が水分を含んでいても、それに吸着した重金属イオンの流出や飛散などによる蛍光X線分析装置のX線管球や検出器の劣化、あるいは分析室内の汚染等の影響を回避することができる。そのため、前記第一工程と前記第二工程の間の乾燥工程が不要となり、重金属イオンの定性分析および定量分析が簡便かつ短時間化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、上記ケースの形成材料としては、理論的には蛍光X線を透過可能な元素、即ち、H、Li、Be、B、C、N、O、およびFのいずれかの1種または2種以上からなるものであればよいが、実際上からは、HとC、あるいはHとCとOとからなる構造用炭素系高分子類、HとF、あるいはHとFとCとからなる構造用フッ素系高分子類などの構造用有機高分子類が好ましい。
【0009】
かかる構造用有機高分子類の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4メチルペンテン、ポリスチレン、ポリアミド、熱可塑性ポリエステル、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂類、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルニトリル−スチレン共重合体、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体などの共重合体類、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー類、高耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂、AES樹脂などのグラフト共重合体類、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、などのエンジニアリングプラスチック類、などのその他の熱可塑性樹脂類、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂類、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化樹脂類、などが例示される。
【0010】
但し、それらの構造用有機高分子類は、ケース形成材としての必要な機械的強度を維持し得る限りにおいて、Li、Be、Bなどの蛍光X線透過性元素を含有するものであってもよく、さらに蛍光X線を透過しない各種の元素であっても本発明における蛍光X線分析上で支障がない範囲の微量、例えばppmオーダーあるいはそれ以下であれば含有するものであってもよい。
【0011】
重金属イオン吸着剤も、上記ケース形成材料と同様に蛍光X線を透過可能な元素からなり、且つ重金属イオンを吸着可能なる交換基を有するものが用いられる。当該交換基としては、例えばスルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)などの陽イオン交換基類、第4級アルキルアンモニウム基(≡NOH)、アミン類(−NH、-NHR、−NR)などの陰イオン交換基類などが例示され、重金属イオン吸着剤の例としては、スチレン系などの高分子骨格のものが挙げられ、また、市販の重金属陽イオン吸着剤としては、強酸性や弱酸性の陽イオン交換樹脂が、一方、市販の重金属陰イオン吸着剤としては、市販の強塩基性や弱塩基性陰イオン交換樹脂が利用できる。なお被検査液体中の重金属イオンは、陽イオンのみの場合、陰イオンのみの場合、あるいは陽イオンと陰イオンの両方の場合の三通りがあるので、本発明ではいずれの場合にも対応可能なように、重金属イオン吸着剤としては、陽イオン交換基を有する重金属陽イオン吸着剤と陰イオン交換基を有する重金属陰イオン吸着剤の両方を併用することが好ましい。両者の使用比は、被検査液体の種類によって異なり、重金属陽イオンが多く重金属陰イオンが少ない場合には、重金属陽イオン吸着剤の比率を多くし、逆の場合には重金属陰イオン吸着剤の比率を多くすればよいが、一般的には等重量比で使用し、蛍光X線分析の結果、両重金属イオンの量に大きな偏りがある場合には、念のために重金属イオン吸着剤の使用比率を変えて再分析するとよい。
【0012】
本発明で使用される蛍光X線分析装置としては、「高純度化技術大系、第1巻、分析技術、第742頁〜749頁、太平社(東京)、1996年」などに記載された従来から周知のものであってよく、例えば波長分散型蛍光X線分析装置、エネルギー分散型蛍光X線分析装置などが利用できる。以下、本発明を実施の形態により一層詳細に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1〜図4は、本発明における重金属の分析方法に就いての実施の形態1を説明するものであって、図1〜図3は、当該分析方法で使用された分析装置の概略図であり、図4は蛍光X線分析装置で得られた蛍光X線スペクトル図である。
【0014】
図1〜図3において、実施の形態1で使用された分析装置は、その主要部として被検査液体Sを収容するタンク10、ポンプ20、重金属イオン吸着剤30を充填したケース40、蛍光X線分析装置60、およびドレインタンク70を含む。ケース40は、その入口41および出口42をそれぞれ開閉するための着脱可能な二つの蓋43を備えている。ケース40および蓋43ともポリエーテルエーテルケトン製であって、被検査液体Sを採取する第一工程では両側の蓋43を外し、その入口41は市販のポリエチレンチューブにてポンプ20を介してタンク10と連通し、その出口42は上記と同じ市販のポリエチレンチューブにてドレインタンク70と連通している。重金属イオン吸着剤30は、重金属陽イオン吸着剤と重金属陰イオン吸着剤とが等重量比で混合されたものであって、重金属陽イオン吸着剤としては、三菱化学製のカチオン交換樹脂(商品名;SCK01)が使用され、重金属陰イオン吸着剤としては同社のアニオン交換樹脂(商品名;SCA04)が使用され、ケース40内に充填されている。ポンプ20としては、DIONEX社(アメリカ合衆国)製のDQP−1ポンプが使用されている。
【0015】
蛍光X線分析装置60としては、日本電子製のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(商品名;JSX−3000型)が使用され、当該装置は、X線62を発生するX線源61、試料台63、試料から発生した蛍光X線64を検出する検出器65、および検出された信号を処理するデータ処理部66から構成されており、X線62を照射することにより被検試料から発生する蛍光X線64の波長あるいはエネルギーと強度を検出器65で検出することにより、重金属の種類と含有量を測定する。
【0016】
図1において、ポンプ20を稼動させてタンク10中の被検査液体Sをケース40通過させて、被検査液体Sに含まれている重金属イオンを重金属イオン吸着剤30に吸着させる。その際の被検査液体Sの送液量は、特に限定しないが、重金属イオン吸着剤30による重金属イオンの濃縮効果を可及的効果的に活かすことのできるように、ケース40内に充填された重金属イオン吸着剤の重量1g当り0.5〜1000ミリリットル(ml)程度が好ましい。またその場合の送液速度は、それがあまり遅いと重金属イオン吸着剤との交換平衡が成立して重金属イオンが吸着されなくなり、一方あまり速いと被検査液体Sが十分に重金属イオン吸着剤30と接することができず重金属イオンの吸着効率が悪くなるので、特に限定しないが、0.1〜5ml/min程度が好ましい。
【0017】
被検査液体S中に含まれている重金属イオン50は、ケース40内を通過する際、ケース40内の重金属イオン吸着剤30に吸着・捕集され、重金属イオンが除去された被検査液体Sは、ドレインタンク70に排出される。図2において、所定量の被検査液体Sを通液させた後、ケース40の入口41および出口42を蓋43により密閉する。次いで図3に示すように、重金属イオン50を吸着・捕集した重金属イオンを内蔵するケース40ごと、蛍光X線分析装置60にかける。
【0018】
図4は、蛍光X線分析装置60により得られた蛍光X線スペクトル図であって、当該スペクトル図から、被検査液体S中には、重金属イオンとしてCr、Fe、Ni、およびZnが含有されていたことが分かり、また各スペクトルのピークの大きさから各重金属イオンの含有量を定量することができる。
【0019】
実施の形態2.
実施の形態2は、前記実施の形態1とは.ケース40としてポリエチレン製のものを用いた以外は前記実施の形態1と同様の操作を行って、前記図4と実質的に同じ蛍光X線スペクトル図を得た。このことから、本発明においてケース40として蛍光X線透過性の材料にて形成されたものを用い、また重金属イオン吸着剤に重金属イオンを吸着させた後は、ケース40内の乾燥することなく蛍光X線分析装置60にかけても、再現性の良好な分析が可能であることが分かる。
【0020】
以上、本発明を実施の形態1およびを実施の形態2により詳細に説明したが、本発明は、それら実施の形態に制限されるものではなく、本発明の課題並びにその解決手段の精神に沿った他の実施の形態であってもよい。例えば実施の形態1およびを実施の形態2では、重金属の陽、陰イオン吸着剤の2種類を併用混合して1つのケース40に充填した場合を示したが、上記2種類の重金属イオン吸着剤を互いに異なるケースに別々に収容して、それらのケースを直列または並列に接続してそれらに被検査液体Sを流すようにしてもよい。また、被検査液体Sが、不溶物を含んでいる場合、本発明の第三工程として、本発明の第一工程の前に、例えばケース40の手前にメンブレンフィルタなどの上記被検査液体中の不溶物を濾過除去するプレフィルタを設置すると、重金属イオン吸着剤の目詰まりを防ぐことができて、通液がスムーズになる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、めっき廃液のように有害な、重金属イオンを含む廃液中の重金属の種類と含有量を高検出精度でしかも簡単な操作で短時間内に分析可能であるので、重金属イオンが含まれている可能性のある各種の廃液の分析に多用される可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1における重金属分析方法に就いての説明図である。
【図2】実施の形態1における重金属分析方法に就いての他の説明図である。
【図3】実施の形態1における重金属分析方法に就いてのさらに他の説明図である。
【図4】実施の形態1で得られた蛍光X線スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0023】
10 タンク、20 ポンプ、30 重金属イオン吸着剤、40 ケース、
41 入口、 42出口、43 蓋、50 重金属イオン、60 蛍光X線分析装置、
61 X線源、62 X線、63 試料台、64 蛍光X線、65 検出器、
66 データ処理部、70 ドレインタンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線透過性材料で形成されたケ−ス内に収容された重金属イオン吸着剤に被検査液体中の重金属イオンを吸着させる第一工程、上記ケ−スの外部から蛍光X線を照射して上記重金属イオン吸着剤に吸着した重金属イオンを分析する第二工程を含むことを特徴とする重金属の分析方法。
【請求項2】
上記第一工程の前に上記被検査液体中の不溶物を濾過除去する第三工程を含むことを特徴とする請求項1記載の重金属の分析方法。
【請求項3】
上記蛍光X線透過性材料は、構造用有機高分子であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の重金属の分析方法。
【請求項4】
上記重金属イオンは、重金属陽イオンおよび重金属陰イオンのいずれか一方または両方であって、上記重金属イオン吸着剤は、上記重金属陽イオンを吸着可能な重金属陽イオン吸着剤および上記重金属陰イオンを吸着可能な重金属陰イオン吸着剤のいずれか一方または両方であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の重金属の分析方法。
【請求項5】
上記重金属陽イオン吸着剤と上記重金属陰イオン吸着剤とは混合して用いることを特徴とする請求項4記載の重金属の分析方法。
【請求項6】
上記重金属陽イオン吸着剤と上記重金属陰イオン吸着剤とは、互いに別のケ−ス内に収容されて用いられることを特徴とする請求項4記載の重金属の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−220432(P2006−220432A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31667(P2005−31667)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】