説明

重金属類含有水の処理装置

【課題】排水から効率よく、かつ経済性よく重金属類を除去する処理装置を提供する。
【手段】重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈殿を生じさせる反応槽、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽を有する処理装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有しており、反応槽において磁場を変動させながら沈澱生成を促し、または固液分離槽において磁場を変動させなら固液分離を促すことを特徴とする重金属類含有水の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類を含む排水等から効率よく重金属類を除去する経済性に優れた処理装置に関する。より詳しくは、工程が簡単で実用性に優れ、常温で効率よく排水等に含まれる重金属類を除去する経済性に優れた重金属類含有水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水等に含まれる重金属類を沈殿化しまたは凝集して除去する処理方法が従来から多数知られており、重金属類凝集体または重金属類沈殿を効率よく分離する手段として磁気分離手段が知られている。特許文献1には、廃液中の重金属類イオンを凝集する手段と超電導ソレノイド磁石によって強磁場を形成して廃液中の粒子を捕獲する磁気フィルターを用いる分離手段が記載されている。
【0003】
また特許文献2には、重金属類排水に第一鉄イオンを添加してフェライト汚泥を形成し、これをシックナーまたは磁気分離機などで分離する処理方法が記載されている。さらに、特許文献3には、凝集沈殿法やフェライト法によって燐や重金属類を凝集ないし沈殿化する際に、マグネタイト粒子等を添加して磁性を強化した凝集体を形成し、これを磁気分離する処理方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−117142号公報
【特許文献2】特開2001−321781号公報
【特許文献3】特開2001−259657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の上記処理方法において採用されている磁気分離は、何れも磁場を静的に与えるものであり、磁気分離効果には限界がある。とくに排水等に含まれる重金属類を沈殿化したものは重金属類の種類や沈殿状態によって多種多様であり、固定的な磁場を静的に与えるだけでは十分な分離効果が得られないと云う問題がある。
【0005】
本発明は、排水等に含まれる重金属類を沈殿化して濾過分離する処理装置において、従来の上記課題を解決したものであり、重金属類を沈殿化する反応槽、または沈殿を分離する固液分離槽の何れかまたは両方に変動磁場を与えることによって、重金属類の沈殿化を促進し、あるいは固液分離効果を高めることができる処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば以下の構成からなる処理装置が提供される。
(1)重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈殿を生じさせる反応槽、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽を有する処理装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有しており、反応槽において磁場を変動させながら沈澱生成を促し、または固液分離槽において磁場を変動させなら固液分離を促すことを特徴とする重金属類含有水の処理装置。
(2)上記(1)の処理装置において、重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈澱を生じさせる密閉型反応槽を有し、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽、分離した沈殿物(汚泥)の一部または全部にアルカリを添加する槽、アルカリ化した汚泥を上記密閉反応槽に返送する管路を有し、該密閉反応槽において、非酸化性雰囲気下、アルカリ性下で還元性の鉄化合物沈澱を生成する一方、密閉反応槽からスラリーを抜き出してアルカリ添加を経て再び密閉反応槽に返送する循環経路の何れかの工程において上記スラリーないし汚泥と空気との接触を調整して鉄化合物の酸化を抑制し、上記各工程を繰り返して重金属類含有水を処理する装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有する重金属類含有水の処理装置。
(3)反応槽の周囲または固液分離槽の隔壁に磁石を配設し、該磁石を回転または振動させることによって、該磁石によって形成される磁場を変動させる上記(1)または上記(2)に記載する排水の処理装置。
(4)反応槽の周囲または固液分離槽の隔壁に電磁石を配設し、該電磁石の電流を制御することによって、該電磁石によって形成される磁場を変動させる上記(1)または上記(2)に記載する排水の処理装置。
(5)上記(1)〜(4)の何れかの処理装置において、重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合反応させる反応槽の前に、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する槽を有する重金属類含有水の処理装置。
(6)上記(1)〜(5)の何れかの処理装置において、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する槽の前に、重金属類含有水に鉄化合物またはアルミニウム化合物を添加する槽、および生成した沈澱を固液分離する槽が設けられている重金属類含有水の処理装置。
(7)上記(1)〜(6)の何れかの処理装置において、複数の反応槽が直列に設けられており、任意の反応槽およびまたは固液分離槽に変動磁場を与える手段が設けられている重金属類含有水の処理装置。
(8)上記(1)〜(7)の何れかの処理装置において、反応槽の上部が蓋材で覆われており、該蓋材は攪拌機の軸部材が挿通する小孔を有し、かつ該蓋は上記小孔に向かって上向きの傾斜を有しており、反応槽内部は上記小孔を通じて外気との連通が制限されて非酸化性雰囲気に保たれている重金属類含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の処理装置は、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加して重金属類を沈澱化し、この沈澱を固液分離して重金属類を除去する処理装置において、重金属類を沈殿化する反応槽または沈殿を分離する固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有し、磁場を変動させながら重金属類の沈澱化を促し、または重金属類沈澱の分離を促するので、重金属類除去効果を高めることができる。
【0008】
また、本発明の処理装置において、分離した汚泥の一部または全部にアルカリを添加してアルカリ化した汚泥を反応槽に返送する循環系を有するものは、該反応槽において、非酸化性雰囲気下、アルカリ性下で反応させて還元性の鉄化合物沈澱を生成するので、常温で鉄フェライト化を進めることができ、圧密されたコンパクトな澱物を形成するので脱水性が良く、かつ重金属類の除去効果も高い。
【0009】
さらに、本発明の処理装置において、重金属類含有水に、あらかじめ鉄化合物またはアルミニウム化合物を添加するものは、この前処理によってケイ酸イオン、アルミニウムイオン、微量有機物などのフェライト化の阻害原因が予め除去されるので、処理効果をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の処理装置は、重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈殿を生じさせる反応槽、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽を有する処理装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有しており、反応槽において磁場を変動させながら沈澱生成を促し、または固液分離槽において磁場を変動させなら固液分離を促すことを特徴とする重金属類含有水の処理装置である。
【0011】
本発明の処理装置は、好ましくは、重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈澱を生じさせる密閉型反応槽を有し、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽、分離した沈殿物(汚泥)の一部または全部にアルカリを添加する槽、アルカリ化した汚泥を上記密閉反応槽に返送する管路を有し、該密閉反応槽において、非酸化性雰囲気下、アルカリ性下で還元性の鉄化合物沈澱を生成する一方、密閉反応槽からスラリーを抜き出してアルカリ添加を経て再び密閉反応槽に返送する循環経路の何れかの工程において上記スラリーないし汚泥と空気との接触を調整して鉄化合物の酸化を抑制し、上記各工程を繰り返して重金属類含有水を処理する装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有する重金属類含有水の処理装置である。
【0012】
本発明に係る処理装置の一例を図1、図2に示す。図1は分離した汚泥の一部または全部にアルカリを添加してアルカリ化した汚泥を反応槽に返送する循環系を有する装置例であり、図2は前処理工程を有する装置例である。
【0013】
図1の処理装置は、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する槽10、還元性鉄化合物と重金属類を反応させて沈殿を生成させる非酸化性雰囲気の密閉反応槽30、該反応槽30から抜き出したスラリーを固液分離する槽40、分離した汚泥(沈殿物)にアルカリを添加する槽20、アルカリ性汚泥を反応槽30に返送する管路、これらの各槽を連通する管路を備えており、上記反応槽30または固液分離槽40の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段50が設けられている。
【0014】
変動磁場を与える手段50は、例えば、反応槽30の外周に回転自在な支持枠(図示省略)を設け、該支持枠に該反応槽30を囲むように磁石(図示省略)を設けることによって該反応槽内部を含む磁場を形成、上記支持枠を回転することによって上記磁場を回転変動させる構造などによって形成することができる。あるいは回転自在な支持枠に代えて上下振動する支持枠を用い、磁石を装着した支持枠を上下動させて、上記磁場を上下振動させる構造でもよい。また、複数の電磁石を用い、電磁石への通電を切り替えて電気的に磁場を変動する構成でもよい。反応槽内ではフェライト化が進行し、磁性を帯びた沈殿が形成されるので、変動磁場を与えることによって、このフェライト化がさらに促進される。
【0015】
また、固液分離槽40の磁場変動手段50は、上記構造の他に、例えば、槽内に中央部を囲む支持枠(図示省略)を立設し、該支持枠に電磁石などを設け、該電磁石への通電を切り替えることによって、断続的に磁場を形成することによって磁場を変動させてもよい。磁場を形成することによって磁性を帯びた沈殿の凝集が進み、磁場を消すことによって凝集体の沈降が促される。
【0016】
電磁石を用いた磁場変動の例を図3〜図6に示す。図3に示すように、シックナー82の外周に複数の電磁石81が装着されている。複数の電磁石81は図4に示すようにシックナー82の底部に設けても良い。これらの電磁石81は制御部80に接続されており、該制御部80によって各電磁石81の電流が制御される。
【0017】
スラリーの導入によってシックナー82の内部には図示するような対流が生じ、微細な澱物粒子が槽壁に沿って浮上し、懸濁物となり、オーバフローとなって系外に流出するようになる。このような澱物粒子の流出を防止するために、電磁石に通電してシックナーを含む範囲に磁場を形成して澱物粒子の浮遊を抑制する。澱物粒子はフェライト質であるので、磁場の形成によってシックナー壁面に引き寄せられ、該壁面に付着するようになる。所定時間後に電磁石の通電を止めて磁場を解消すると、シックナー壁面に付着していた澱物粒子は磁力の消失によってシックナー底部に沈降し、排出口を通じて系外に排出される。図4に示す構造の場合にも同様であり、磁場の形成によって澱物粒子がシックナー底部に集まり、磁場を解消することによって排出口から系外に排出される。
【0018】
図5および図6は反応槽(反応容器)90に電磁石81を取り付けた例である。図示するように、反応容器90の槽壁に複数の電磁石81が等間隔で取付られており、各電磁石は制御部(図示省略)に接続されている。各電磁石81の電流は制御部によって制御されている。具体的には、例えば、電磁石81を右回り又は左回りに順に電流を交互にオンとオフに切り替えることによって、電磁石81によって形成される磁場を回転させる。好ましくは、反応槽90の中央に設けた攪拌機(図示省略)の回転方向(図中の液流方向)とは逆向きに磁場を回転させる。これにより磁場による固体粒子(澱物粒子)の移動方向と液流方向とは互いに逆向きになるので、液と澱物粒子との相対線速度が上がり、澱物フェライト化の反応効率が向上する。
【0019】
上記処理装置は、重金属含有水について優れた重金属除去効果を有する。本発明において重金属類含有水とは、重金属類を含む水を広く意味し、自然発生的および人為的に生じた各種の廃水や排水等を含み、例えば、工場排水や下水、海水、河川水、沼や湖池の水、地表の溜り水、河川等の堰止域の水、地下の流水や溜り水、暗渠の水などであって重金属類を含有するものを云う。なお、以下の説明において、これらの水を含めて排水等と云い、重金属類含有水について重金属類を含有する排水等と云う場合がある。
【0020】
また、本発明において重金属類とは、例えば、セレン、カドミウム、六価クロム、鉛、亜鉛、銅、ニッケル、ヒ素、アンチモンなどの重金属元素や金属元素などを云う。本発明の処理システムは排水等に含まれるこれらの汚染源となる重金属類の何れか1種および2種以上に対して優れた除去効果を有する。
【0021】
重金属類含有水を添加槽10に導き、還元性鉄化合物を添加する。還元性鉄化合物としては、硫酸第一鉄(FeSO4)、または塩化第一鉄(FeCl2)などの第一鉄化合物を用いることができる。第一鉄化合物の添加量はFe2+イオン濃度400〜600mg/Lになる量が適当である。還元性鉄化合物を添加した排水を反応槽30に導入する。
【0022】
反応槽30には、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水と共に、固液分離工程から返送されたアルカリ性汚泥が混合される。このアルカリ性汚泥は後工程において固液分離された沈澱(汚泥)の一部または全部にアルカリを添加してpH11〜13に調整したものである。添加するアルカリ物質としては消石灰、生石灰、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。アルカリ性汚泥を混合することによって、反応槽30のpHは8.5〜11、好ましくはpH9.0〜10に調整される。
【0023】
反応槽30において、還元性鉄化合物を添加した重金属含有水とアルカリ性返送汚泥とを混合し、非酸化性雰囲気下で反応させることによって、還元性の鉄化合物沈澱を生成させる。この鉄化合物沈澱は、グリーンラストと鉄フェライトの混合物であり、還元性の沈澱である。
【0024】
グリーンラストは第一鉄と第二鉄の水酸化物が層状をなす青緑色の物質であり、層間に重金属類のアニオンを取り込んだ構造を有し、例えば次式(1)によって表される。
〔FeII(6-x)FeIIIx(OH)12x+〔Ax/n・yH2O〕x- …(1)
(0.9<x<4.2、Fe2+/全Fe=0.3〜0.85)。
【0025】
また、鉄フェライトはFeIIの鉄(III)酸塩であり、マグネタイト(FeIIFeIII24)を主体とするが、一部に重金属類の鉄酸塩を含むものでもよい。本発明の還元性の鉄化合物沈澱は、例えば、重金属類イオンがグリーンラストの層間に取り込まれ、重金属類を一部に含んだ状態で鉄フェライト化する。具体的には、例えば、6価セレン(SeO42-)は第一鉄化合物によって還元されて4価セレン(SeO32-)および元素セレンになり、これらはグリーンラストの層間に取り込まれた状態で沈澱化する。
【0026】
上記反応槽30は、上記還元性鉄化合物沈澱を生成させるために、空気の流入を遮断した密閉反応槽が用いられる。該反応槽30において、非酸化性雰囲気下、pH8.5〜11、好ましくはpH9.0〜10のアルカリ性下で反応させる。液温は10℃〜30℃程度で良く、加熱する必要はない。反応時間は30分〜3時間程度で良い。なお、反応槽が密閉されておらず、非酸化性雰囲気下ではないもの、またアルカリの程度が弱いものは、上記還元力を有する沈澱が生成せず、本処理装置と同様の効果を得ることはできない。
【0027】
密閉反応槽からスラリーを抜き出してアルカリ添加を経て再び密閉反応槽に返送する循環経路の何れかの工程において、上記スラリーないし汚泥と空気との接触を調整して鉄化合物の酸化を抑制するのが好ましい。具体的には、例えば、上部が開放された固液分離槽、または上部開口を有するアルカリ添加槽を用い、固液分離の際に沈殿物スラリーと空気を接触させ、または分離した汚泥にアルカリを添加する際に汚泥と空気とを接触させると共に、その接触時間や接触面積等を調整すれば良い。
【0028】
本発明の処理装置においては、グリーンラストと鉄フェライトの混合物からなる上記鉄化合物沈澱が還元力を有するように、該沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕が0.4〜0.8であるように沈澱を生成させることが好ましく、上記鉄イオン比を0.55〜0.65に制御するのが更に好ましい。この比が上記範囲を外れると重金属類の還元が不十分になり、あるいは澱物の沈降性が劣化するので好ましくない。上記還元性の鉄化合物沈澱を生成させることによって、排水等に含まれる重金属類が還元され、容易に沈澱に取り込まれる。
【0029】
反応槽30にアルカリ性汚泥の返送を繰り返し、還元性鉄化合物を添加した排水等との反応を繰り返すことによって、最初は深青緑色であった沈澱がしだいにグリーンラストが酸化して鉄フェライト化することによって黒色に変化する。グリーンラストの大部分が鉄フェライトになると還元性がなくなるので、上記鉄化合物沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕を上記範囲内に制御することによって還元性のある沈澱を生成させる。
【0030】
本発明の処理装置では、上記還元性汚泥(鉄化合物沈澱)を分離してその一部または全部をアルカリ化して反応槽に返送し、非酸化性雰囲気下で反応させ、再び還元性汚泥を沈澱させることを繰り返すことによって、汚泥(沈澱)の還元性を維持しつつ鉄フェライト化するので沈澱の圧密化が進み、澱物の濃度が格段に高まるので重金属類の除去効果が向上する。因みに、水酸化鉄を主体とした沈澱(汚泥)は嵩高く、脱水処理の負担が大きい。また、本発明の処理装置では、沈澱を形成している鉄フェライトはマグネタイトを主体とするので磁性を帯びており、反応槽に変動磁場を与えることによって、フェライト化が促進され、また固液分離槽に変動磁場を与えることによって、沈殿の凝集を促し、分離効果を高めることができる。
【0031】
反応槽30から排出されたスラリーは、例えばシックナーなどの固液分離手段に導き、汚泥を槽底に沈降させて分離する。この澱物を固液分離して重金属類を除去することができる。また、既に述べたように、汚泥の一部または全部にアルカリを添加してpH11〜13に調整して反応槽30に戻し、反応槽30において沈澱生成反応を繰り返す。返送する汚泥の割合(返送汚泥の循環比)は反応槽30で生成する沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕が上記範囲内になるように定めればよい。なお、本発明の処理方法は、バッチ式または連続式の何れの形式でも実施することができる。
【0032】
図2に示す処理装置には、還元性鉄化合物添加槽10の前に、重金属類含有水に鉄化合物またはアルミニウム化合物を添加して沈澱を生成させる槽60と、該沈殿を除去する固液分離槽70が設けた前処理工程が形成されている。該前処理工程において、重金属類含有水に鉄化合物を添加してアルカリを加え、アルカリ性下で鉄水酸化物を生成させることによって、ケイ酸イオン、アルミニウムイオン、微量有機物の少なくとも何れかを鉄水酸化物沈澱と共に沈澱化し、この沈澱を固液分離して除去する。鉄化合物としては塩化第二鉄などの第二鉄化合物が好ましい。鉄化合物に代えてアルミニウム化合物を用いてもよい。アルミニウム化合物を添加してアルカリを加え、アルカリ性下でアルミニウム水酸化物を沈殿させる。この沈殿にケイ酸イオンや微量有機物が取り込まれて沈殿化するので、これを固液分離して排水から除去することができる。
【0033】
排水中のケイ酸イオン、アルミニウムイオン、微量有機物は反応槽でのフェライト化を阻害する原因となるので、前処理工程において予めこれらを除去することによって、フェライト化を円滑に進め、重金属類除去の処理効果を高めることができる。
【0034】
また、上記反応槽30は複数の槽を直列に設け、生成したスラリーを段階的に移し替えてフェライト化反応を進めると良い。変動磁場手段50は任意の反応槽に設ければよい。さらに、反応槽上部は蓋材で覆われた形状にし、該蓋材には攪拌機の軸部材が挿通する小孔を設けると共に該小孔に向かって上向きの傾斜を有する形状にすると良い。
【0035】
反応槽を上記形状にすることによって、反応槽内部は上記小孔を通じて外気との連通が制限されて非酸化性雰囲気に保たれ、また槽内で発生したガスは蓋材の傾斜に沿って小孔に導かれ、上記軸部材の周りの僅かな隙間を通じて外部に抜け出すことができる。
【0036】
図1および図2の装置例は、密閉反応槽を用いて還元性鉄化合物沈澱を生成させる処理工程に関するが、本発明は上部が開口した開放型の反応槽を用いる場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の処理装置を示す模式図
【図2】本発明の前処理工程を含む処理装置を示す模式図
【図3】本発明の処理システムにおいて、シックナーに電磁石を装着した構成例の概念図
【図4】本発明の処理システムにおいて、シックナーに電磁石を装着した構成例の概念図
【図5】本発明の処理システムにおいて、反応槽に電磁石を装着した構成例の概念図
【図6】図5の構成例の概念斜視図
【符号の説明】
【0038】
10−還元性鉄化合物添加槽、20−アルカリ添加槽、30−反応槽、40−固液分離槽、50−変動磁場手段、60−沈殿化槽、70−固液分離槽、80−制御部、81−電磁石、82−シックナー、90−反応容器(反応槽)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈殿を生じさせる反応槽、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽を有する処理装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有しており、反応槽において磁場を変動させながら沈澱生成を促し、または固液分離槽において磁場を変動させなら固液分離を促すことを特徴とする重金属類含有水の処理装置。
【請求項2】
請求項1の処理装置において、重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合して沈澱を生じさせる密閉型反応槽を有し、該反応槽から抜き出したスラリーを固液分離する槽、分離した沈殿物(汚泥)の一部または全部にアルカリを添加する槽、アルカリ化した汚泥を上記密閉反応槽に返送する管路を有し、該密閉反応槽において、非酸化性雰囲気下、アルカリ性下で還元性の鉄化合物沈澱を生成する一方、密閉反応槽からスラリーを抜き出してアルカリ添加を経て再び密閉反応槽に返送する循環経路の何れかの工程において上記スラリーないし汚泥と空気との接触を調整して鉄化合物の酸化を抑制し、上記各工程を繰り返して重金属類含有水を処理する装置において、上記反応槽または固液分離槽の少なくとも何れかに変動磁場を与える手段を有する重金属類含有水の処理装置。
【請求項3】
反応槽の周囲または固液分離槽の隔壁に磁石を配設し、該磁石を回転または振動させることによって、該磁石によって形成される磁場を変動させる請求項1または2に記載する排水の処理装置。
【請求項4】
反応槽の周囲または固液分離槽の隔壁に電磁石を配設し、該電磁石の電流を制御することによって、該電磁石によって形成される磁場を変動させる請求項1または2に記載する排水の処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの処理装置において、重金属類含有水と還元性鉄化合物とを混合反応させる反応槽の前に、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する槽を有する重金属類含有水の処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの処理装置において、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する槽の前に、重金属類含有水に鉄化合物またはアルミニウム化合物を添加する槽、および生成した沈澱を固液分離する槽が設けられている重金属類含有水の処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの処理装置において、複数の反応槽が直列に設けられており、任意の反応槽およびまたは固液分離槽に変動磁場を与える手段が設けられている重金属類含有水の処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかの処理装置において、反応槽の上部が蓋材で覆われており、該蓋材は攪拌機の軸部材が挿通する小孔を有し、かつ該蓋は上記小孔に向かって上向きの傾斜を有しており、反応槽内部は上記小孔を通じて外気との連通が制限されて非酸化性雰囲気に保たれている重金属類含有水の処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−117984(P2007−117984A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373333(P2005−373333)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】