説明

金型部材の製造方法、金型部材、及び金型

【課題】微小うねりWaが小さく、微細パターンの欠陥の発生を抑えることが可能な金型部材の製造方法を提供する。
【解決手段】板状の形状を有するガラス基板1の表面に、Si層3を形成する。Si層3が形成された基板の両面(表面3Aと表面1A)を同時に研磨する。研磨後、ディスクリートトラックメディア用の微細な凹凸パターン4、又はビットパターンドメディア用の微細な凹凸パターン4を、Si層3の表面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂製の磁気記録媒体用基板を作製するための金型に設置される金型部材の製造方法、金型部材、及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造を作製する方法として、Si基板やガラス基板をドライエッチングなどでパターニングすることが知られている。その微細構造を複製する方法として、電鋳(電解ニッケルめっき)により反転構造を得る方法が一般的である。この場合、厚さ0.3mm程度までNiのめっき膜を成長させて原板から剥離することで、微細構造を有するNiめっき基板を作製する。このNiめっき基板は、射出成形やナノインプリントにおいて、微細構造を転写するための型(スタンパ)として使用される。また、Si基板やガラス基板の一主面を鏡面に研磨し、その一主面をパターニングすることで、Si基板やガラス基板そのものを型として利用することが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
微細構造を有するNiめっきスタンパやSi基板などの型は、光ディスクドライブ装置などの光ディスクを作製するときに用いられている。例えば、光ディスクの作成においては、微細構造を有するNiめっきスタンパやSi基板などの型を用いて、射出成形によって、微細構造を有する樹脂製基板(光ディスク)を作製する。
【0004】
近年、ハードディスクドライブ装置の高記録密度化技術として、ハードディスクドライブ装置に用いられる磁気記録媒体の円周方向に溝を形成し、トラック間のデータの書き込みが不能な非磁性領域(非記録領域)によって物理的に分離する、いわゆるディスクリートトラックメディア(以下、「DTメディア」と称する)が提案されている。また、記録ビット個々に独立させることで記録密度を向上させるビットパターンドメディア(以下、「BPメディア」と称する)が提案されている。このようなDTメディアやBPメディアを樹脂によって作製することができれば、DTメディアやBPメディアを大量に安価に提供することが可能になるため、光ディスクの微細構造とそのオーダーが異なる数十nmオーダーの微細構造(微細パターン)を有するNiめっきスタンパやSi基板などの型を用いて、射出成形やナノインプリントによって、DTメディアやBPメディアを作製する方法が検討されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−85831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハードディスクドライブ装置に用いられるDTメディアやBPメディアは光ディスクと異なり、微細パターンが精密に形成されていることだけでなく、一般の磁気記録媒体用基板と同様に、平面度(うねり)と微小うねりWaが小さいことが要求されている。電鋳によって得られたNiめっきスタンパは、微小うねりWaが大きいため、これを転写して得られる樹脂製基板において、磁気記録媒体用基板に要求されている微小うねりWaのレベルを満たすことが困難である。スタンパの微小うねりWaが大きくなる理由として、マスター型(Si基板)から剥離後に、めっき被膜の膜応力が解放され、うねりを伴う変形が起こるためであると推測される。
【0007】
Niめっきスタンパの表面の微小うねりWaを低減しようとしても、表面には微細パターンが形成されているため、その表面を研磨することで微小うねりWaを低減することは困難である。また、微細パターンが形成されている面とは反対側の面(裏面)を研磨することで、裏面の微小うねりWaを低減することはできるが、微細パターンが形成されているスタンパ表面の微小うねりWaをも要求されているレベルまで低減することは困難である。
【0008】
以上のような微小うねりWaの大きいスタンパを用いて微細パターンを樹脂製基板に転写させる場合、転写条件を調整しても、比較的高周波のうねり成分である微小うねりWaは低減できない。そのため、樹脂製基板において、磁気記録媒体用基板に要求されている微小うねりWaのレベルを満たすことは困難であった。
【0009】
また、Niめっきスタンパは、マスター型(Si基板)の形状をめっきで転写して金型として使用するため、電鋳時のコンタミネーションや成膜異常により、金型としてのパターンに欠陥が発生するおそれがあった。例えば、微細パターンの潰れや、パターンの寸法異常などが欠陥として発生するおそれがあった。パターンに欠陥が発生したスタンパを用いた場合、パターンに欠陥がない成形品(磁気記録媒体用基板)を作製することができない。
【0010】
また、上記特許文献1に記載の方法のように、Si基板やガラス基板そのものを型として利用する場合にも問題がある。例えば、Siはパターニングしやすいが割れやすいため、型材として用いることは困難である。また、石英などのガラスはSiに比べて割れにくいがパターニングしにくいため、型材として用いることは困難である。
【0011】
この発明は上記の問題を解決するものであり、微小うねりWaが小さく、微細パターンの欠陥の発生を抑えた樹脂製の磁気記録媒体用基板を得ることが可能な金型部材の製造方法を提供することを目的とする。また、微小うねりWaが小さく微細パターンの欠陥の少ない樹脂製の磁気記録媒体用基板を作製することが可能な金型部材及び金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の第1の形態は、樹脂製の磁気記録媒体用基板の表面に微細パターンを転写するために用いられる金型部材の製造方法であって、板状の形状を有するガラス基板の少なくとも一方の表面にSi層を形成することで第1基板を作製する第1工程と、前記第1工程にて作製された前記第1基板の両面を同時に研磨する第2工程と、前記研磨後のSi層の表面に微細パターンを形成することで、前記金型部材を作製する第3工程と、を含むことを特徴とする金型部材の製造方法である。
この発明の第2の形態は、樹脂製の磁気記録媒体用基板を作製するための金型であって内部に樹脂を注入する空間を有する金型の前記内部の表面の一部に設置され、前記磁気記録媒体用基板の表面に微細パターンを転写するために用いられる金型部材の製造方法であって、円板状の形状を有し中央に貫通孔が形成されたガラス基板の少なくとも一方の表面にSi層を形成することで第1基板を作製する第1工程と、前記第1工程にて作製された前記第1基板の両面を同時に研磨する第2工程と、前記研磨後のSi層の表面に微細パターンを形成することで、前記金型部材を作製する第3工程と、を含むことを特徴とする金型部材の製造方法である。
この発明の第3の形態は、第1又は第2の形態のいずれかに係る金型部材の製造方法であって、前記第2工程の前記研磨によって、前記Si層の微小うねりWaを0.5[nm]以下にすることを特徴とする。
この発明の第4の形態は、第1から第3の形態のいずれかに係る金型部材の製造方法であって、前記研磨された後の前記第1基板の厚さが、0.5[mm]以上であることを特徴とする。
この発明の第5の形態は、第1から第4の形態のいずれかに係る金型部材の製造方法であって、前記第1工程において、CVD法又は陽極接合によって前記Si層を形成することを特徴とする。
この発明の第6の形態は、第1から第5の形態のいずれかに係る金型部材の製造方法であって、前記微細パターンが形成された前記Si層の反対側の表面に低摩擦層を形成することを特徴とする。
この発明の第7の形態は、第1から第6の形態のいずれかに係る金型部材の製造方法であって、前記微細パターンが形成された前記Si層の表面にシランカップリング系の離型層を形成することを特徴とする。
この発明の第8の形態は、板状の形状を有するガラス基板の少なくとも一方の表面に形成されたSi層の表面に微細パターンが形成されており、前記微細パターンが形成された面の微小うねりWaが0.5[nm]以下であることを特徴とする金型部材である。
この発明の第9の形態は、第8の形態に係る金型部材であって、前記ガラス基板と前記Si層の合計の厚さが0.5[mm]以上であることを特徴とする。
この発明の第10の形態は、第8又は第9の形態のいずれかに係る金型部材であって、前記微細パターンが形成された前記Si層の表面にシランカップリング系の離型層が形成されていることを特徴とする。
この発明の第11の形態は、第8から第10のいずれかに係る金型部材であって、前記微細パターンが形成された前記Si層の反対側の表面に低摩擦層が形成されていることを特徴とする。
この発明の第12の形態は、磁気記録媒体用基板を作製するための金型であって、請求項8から請求項11のいずれかに記載の金型部材が表面の一部に設置されていることを特徴とする金型である。
この発明の第13の形態は、内部に樹脂を注入するための円柱状の空間を有し、磁気記録媒体用基板を作製するための金型であって、前記空間の柱方向の一端の表面には、板状の形状を有するガラス基板の少なくとも一方の表面に形成されたSi層の表面に微細パターンが形成された金型部材が、前記微細パターンが前記空間に面する状態で設置されており、前記微細パターンが形成された面の微小うねりWaが0.5[nm]以下であることを特徴とする金型である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、両面研磨によってSi層を研磨し、研磨後のSi層に直接微細パターンを形成しているため、微細パターンの欠陥の発生を抑えた微小うねりWaが小さい金型部材を作製することが可能となる。例えば、電鋳を用いないためスタンパ表面の微細パターンの形状不良が発生する機会が減り、その結果、電鋳を用いるよりも微細パターンの欠陥が少ないスタンパを得ることができる。そして、この発明に係る金型部材を射出成形法やナノインプリント法に用いることで、微小うねりWaが小さく微細パターンの欠陥が少ない成形品(磁気記録媒体用基板)を作製することが可能となる。
また、この発明の金型部材によると、微細パターンが形成された面の微小うねりWaが0.5[nm]以下であるため、微小うねりWaが小さく微細パターンの欠陥の少ない成形品(磁気記録媒体用基板)を作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態に係るスタンパ(金型部材)の製造方法について、図1を参照して説明する。図1は、この発明の実施形態に係るスタンパ(金型部材)の製造方法を説明するための基板の断面図である。
【0015】
この実施形態に係るスタンパの製造方法によって得られるスタンパは、樹脂製の磁気記録媒体用基板を射出成形法やナノインプリント法によって作製するときに、射出成形用金型やナノインプリント用金型の表面に設置される金型部材である。このスタンパは、例えば円板状の形状を有し、中央に貫通孔が形成された薄板状の部材である。以下、この実施形態に係るスタンパの製造方法について説明する。
【0016】
図1(a)に示すガラス基板1は、磁気記録媒体用基板を作製するときに用いられるスタンパ用の基材であり、円板状の形状を有している。ガラス基板1の中央には、厚さ方向に貫通する貫通孔2が形成されている。ガラス基板1の材料は、特に限定されない。例えば、アモルファスガラス基板、結晶化ガラス基板、又は化学強化ガラス基板をガラス基板1に用いる。また、石英基板をガラス基板1に用いても良い。
【0017】
そして、図1(b)に示すように、ガラス基板1の表面にSi層3を形成する。ガラス基板1の片方の表面にSi層3を形成しても良いし、両方の表面にSi層を形成しても良い。この実施形態では、ガラス基板1の片方の表面にSi層3を形成する場合について説明する。射出成形法やナノインプリント法によって樹脂製の磁気記録媒体用基板を作製するときには、Si層3が形成されている面の反対側の面を金型に接触させてスタンパを金型に設置し、Si層3の表面形状を樹脂製基板に転写する。すなわち、Si層3が形成されている面が樹脂成形面となり、Si層3が形成されている面の反対側の表面が金型に接触される固定面となる。なお、ガラス基板1の表面にSi層3を形成する工程が、この発明の「第1工程」の1例に相当し、Si層3が形成されたガラス基板1が、この発明の「第1基板」の1例に相当する。
【0018】
例えば、CVD法によってガラス基板1の表面にSi層3を成膜する。CVD法によると、緻密なSi膜が得られるため、欠陥の発生を抑えたパターニングを行うことが可能となる。形成されるSi層の厚さは、後述するポリッシング工程によって研磨された後のSi層の厚さが、エッチングによって形成される凹部の深さ以上の厚さとなるように、形成される凹凸パターンの凹部の深さに応じて決定される。
【0019】
また、陽極接合によってガラス基板1の表面にSi層3を形成しても良い。この場合、ガラス基板1の表面にSi基板を重ね合わせてガラス基板1とSi基板とを加熱することで、ガラス基板1を軟化させる。そして、Si基板側を陽極として両者の間に高電圧を印加することにより、静電引力によってガラス基板1とSi基板とを接合する。この接合によって、ガラス基板1の表面にSi層3が形成される。
【0020】
次に、両面研磨機を用いたポリッシング工程によって、Si層3が形成されたガラス基板1の両面を同時に研磨する。なお、この研磨工程が、この発明の「第2工程」の1例に相当する。すなわち、図1(c)に示すように、Si層3の表面3Aと、Si層3が形成された面の反対側の表面1Aとを、両面研磨機を用いて同時に研磨する。なお、ガラス基板1の両面にSi層を形成した場合、両面に形成されたSi層の表面を研磨する。以下、ポリッシング工程について簡単に説明する。
【0021】
ポリッシング工程は、2回以上のポリッシング工程を含んでいても良い。この実施形態では、1例として、ポリッシング工程を第1ポリッシング工程と第2ポリッシング工程とに分けて、基板の両面を研磨する場合について説明する。第1ポリッシング工程では、平面度や、表面粗さなどを大まかに整えるための工程である。第2ポリッシング工程は、その第1ポリッシング工程で残存するダメージを除去し、表面の形態を最終的な表面品位に整えるための工程である。
【0022】
このポリッシング工程では、公知の両面研磨機が用いられ、スエード研磨布を用いて基板(Si層3が形成されたガラス基板1)の両面を研磨する。例えば、両面研磨機は、上定盤と下定盤とを備えており、上定盤と下定盤とのそれぞれの対向面に、研磨パットが取り付けられている。そして、上定盤と下定盤とによって基板を挟んで加圧する。基板と研磨パットとの間には、研磨剤のスラリーが供給される。基板は、それぞれキャリアにより研磨パットからはみ出さない程度の位置規制がされている。また、上定盤と下定盤とキャリアとを包含して、キャリアに対向する内向きに歯車が切られた内歯車が設置されている。キャリアの外周には歯車が切られており、キャリアは、内歯車と回転軸の太陽歯車とに係合している。太陽歯車と内歯車とが回転することによりキャリアは自転し、太陽歯車と内歯車との周速の差によってキャリアは公転する。その動作によって、基板は、上定盤と下定盤とに設置された研磨パットの間で自転と公転とを行う。その自転と公転とによって、基板の両面が研磨される。この実施形態では、上定盤と下定盤とでスタンパを挟んで研磨を行うことにより、基板の両面を同時に研磨する。すなわち、図1(c)に示すように、Si層3の表面3Aと、Si層3が形成された面の反対側の表面1Aとを、同時に研磨する。
【0023】
なお、ポリッシング工程で使用する研磨剤は、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジリコニウム、酸化チタン、シリカ、酸化セリウム、酸化ランタン、ダイヤモンド、及び炭化珪素のなかから選択される少なくとも1つ又は複数の組み合わせの微粒子をスラリー状にして使用することが好ましい。
【0024】
以上のように、Si層3が形成されたガラス基板1の両面を同時に研磨することにより、同じ条件下で、Si層3の表面3A(樹脂成形面)と、その反対側の表面1A(固定面)とを研磨することが可能となる。例えば、研磨時間、加工圧、及び研磨量が、表面1Aと表面3Aとで同じになるため、表面1Aと表面3Aとを微小うねりWaの小さい平面に加工することが可能となる。すなわち、表面1Aと表面3Aとを同時に加工することで、表裏面の応力のバランスが均一に保つことができるため、表面1Aと表面3Aとを微小うねりWaの小さい平面に加工することが可能となる。一方、片面のみを研磨する場合には、ガラス基板1とSi層3とで構成されるスタンパが反ってしまうため、スタンパの表面を微小うねりWaの小さい平面に加工することは困難である。これに対して、この実施形態では、両面研磨機を用いて基板の両面を同時に研磨しているため、同じ環境下で両面を研磨することができ、その結果、両面を微小うねりWaの小さい平面に加工することが可能となる。
【0025】
次に、図1(d)に示すように、研磨後のSi層3の表面に微細な凹凸パターン4(微細パターン)を形成することで、スタンパ10を作製する。なお、図1(d)には、スタンパ10の一部を拡大してスタンパ10の断面を示している。凹凸パターン4をSi層3の表面に形成する工程が、この発明の「第3工程」の1例に相当する。Si層3の表面に形成する凹凸パターン4は、公知の方法によって形成することができる。例えば、Si層3の表面にレジストを塗布し、電子線描画によって所望のパターンをレジストに形成する。そして、ドライエッチングによってSi層3の表面をエッチングすることで、レジストに形成されたパターンに対応する微細な凹凸パターン4をSi層3の表面に形成する。なお、ガラス基板1の両面にSi層3を形成した場合には、一方の表面に形成されたSi層3をエッチングすることで、微細な凹凸パターン4を形成する。
【0026】
磁気記録媒体用基板としてDTメディアを作製する場合、ガラス基板1の貫通孔2を基板の中心にして、凹凸の形状が同心円状となる凹凸パターン4をSi層3の表面に形成する。また、BPメディアを作製する場合、BPメディアに形成する凹凸形状を有する凹凸パターン4をSi層3の表面に形成する。
【0027】
スタンパ10の一方の面である表面1A(固定面)は、成形用の金型の表面に設置される面である。表面1Aとは反対側の表面3A(樹脂成形面)は、成形時において樹脂と接する面である。
【0028】
以上の方法で作製されたスタンパ10は、円板状の形状を有するガラス基板1と、そのガラス基板1の一方の表面に形成されたSi層3とを備えている。ガラス基板1の中央には、基板の厚さ方向に貫通する貫通孔2が形成されている。また、Si層3には、微細な凹凸パターン4が形成されている。
【0029】
この実施形態に係る製造方法によると、両面研磨によってSi層3を研磨し、研磨後のSi層3に直接凹凸パターン4を形成しているため、微細パターン(凹凸パターン4)の欠陥の発生を抑えた微小うねりWaが小さいスタンパ10が得られる。すなわち、電鋳を用いないため、スタンパにおける凹凸パターン4の形状不良が発生する機会が減り、その結果、電鋳を用いるよりも欠陥が少ない凹凸形状をスタンパの表面3Aに形成することが可能となる。そして、このようなスタンパ10を射出成形法やナノインプリント法に用いることで、微細パターンの欠陥の少ない微小うねりWaが小さい成形品(磁気記録媒体用基板)を作製することが可能となる。例えば、微細パターンの欠陥が少ないことが要求されるDTメディア用基板やBPメディア用基板の成形加工に、この実施形態に係る製造方法で作製されたスタンパ10を用いることができる。これにより、微小うねりWaが小さく微細パターンの欠陥の発生を抑えたDTメディア用基板やBPメディア用基板を作製することが可能となる。また、基板の両面を同時に研磨することにより、基板の表面層が加工変質層になるため、硬度が向上する効果がある。
【0030】
この実施形態では、両面研磨によって、Si層3の表面3Aの微小うねりWaを、0.5[nm]以下にすることが好ましい。このように、表面3Aの微小うねりWaを0.5[nm]以下にすることで、成形品である磁気記録媒体用基板の微小うねりWaを0.6[nm]以下にすることが可能となる。その結果、ハードディスクドライブ装置において、磁気記録媒体に対して磁気ヘッドが追従しやすくなる。
【0031】
なお、微小うねりWaは、「Phase Shift Technology.Inc.」の多機能ディスク用干渉計(オプティフラット)を用いて測定される。測定原理は、基板の表面に白色光を照射し、位相の異なる参照光と測定光との干渉の強度変化を測定することで、表面の微妙な形状変化を測定する方法である。得られた測定データにおいて、5mm以上の周波数成分をカットオフすることで得られた値を、「微小うねりWa」と定義する。
【0032】
また、スタンパ10の厚さが0.5[mm]以上であることが好ましい。すなわち、研磨後のガラス基板1の厚さとSi層3の厚さとの合計が0.5[mm]以上であることが好ましい。このように、スタンパ10の厚さを0.5[mm]以上にすることで、スタンパ10の剛性が増すため、成形圧力によるスタンパ10のたわみが発生しにくくなり、その結果、成形品である磁気記録媒体用基板の微小うねりWaを向上させることが可能となる。
【0033】
次に、スタンパ10が設置された金型について図2を参照して説明する。図2は、この発明の実施形態に係るスタンパと金型とを示す断面図である。1例として、射出成形用の金型にスタンパ10を設置する場合について説明する。射出成形用金型20は、樹脂製の磁気記録媒体用基板を成形するための第1金型30と第2金型40とを備えている。そして、図示しない型締装置によって第2金型40を第1金型30に対して接離させることにより、型閉じ、型締め及び型開きを行うようになっている。
【0034】
第1金型30において、樹脂を成形する面は平坦な面となっている。一方、第2金型40には、第1金型30に対向する表面に平坦な溝部41が形成されている。この溝部41の形状は、成形によって形成すべき磁気記録媒体用基板の形状に対応している。例えば、溝部41は円形状の形状を有している。そして、溝部41を内側にして第1金型30と第2金型40とを対向して配置することで、第1金型30と第2金型40との間に、溝部41によって円柱状のキャビティ(空間)を形成する。また、第1金型30には、外部から溝部41によるキャビティに樹脂を充填するためのスプルー31が形成されている。このスプルー31は、第1金型30の厚さ方向に貫通した貫通孔である。
【0035】
第1金型30の平坦な表面に、この実施形態に係る製造方法によって作製されたスタンパ10を設置する。スタンパ10は、図示しない保持部材によって第1金型30の表面に固定されている。例えば、第1金型30のスプルー31の周縁部に爪状の突起部を設け、その突起部によってスタンパ10を挟持することで、スタンパ10を第1金型30の表面に設置する。この実施形態では、凹凸パターン4が形成されているSi層3とは反対側の表面1A(固定面)を第1金型30の表面に接触させることで、スタンパ10を第1金型30の表面に設置する。これにより、Si層3の表面3A(樹脂成形面)は、溝部41によって形成されたキャビティ(空間)に面することになる。ガラス基板1の両面にSi層を形成し、一方の面のSi層に凹凸パターン4を形成した場合には、凹凸パターン4が形成されているSi層とは反対側の面を第1金型30の表面に接触させることで、スタンパを第1金型30の表面に設置する。
【0036】
なお、第1金型30に設置されたスタンパ10のSi層3の表面3Aには凹凸パターン4が形成されているが、説明を簡便にするために、図2においては凹凸パターン4の図示を省略している。
【0037】
成形するときには、第2金型40を第1金型30に密着させ、第2金型40の溝部41と第1金型30とで囲まれたキャビティ(空間)を形成する。これにより、射出成形用金型20の内部に円柱状のキャビティ(空間)が形成され、内部の表面であって、柱方向の一端の表面にスタンパ10が設けられた状態になる。型締め状態において、図示しない射出ノズルを第1金型30に形成されたスプルー31に接触させ、その状態で射出ノズルから所定の射出圧で樹脂を射出する。射出ノズルから射出された樹脂はスプルー31を通って、第1金型30と第2金型40との間に形成されたキャビティに充填される。キャビティに樹脂を充填した後、硬化させて基板形状を成形する。基板を成形した後、型内において、溝部41の厚さ方向に移動可能なカット機構(図示しない)によって穴あけ加工が行われ、中央に貫通孔が形成された磁気記録媒体用基板が作製される。
【0038】
射出成形用金型20によって作製された磁気記録媒体用基板は円形状の形状を有し、基板の中央に貫通孔が形成されている。また、スタンパ10のSi層3の表面3Aには凹凸パターン4が形成されているため、その凹凸パターン4の形状が表面に転写された磁気記録媒体用基板が作製される。そして、この磁気記録媒体用基板の表面にCo系合金などの磁性膜を成膜することで、DTメディアやBPメディアなどの磁気記録媒体を作製する。この実施形態に係る製造方法によって作製された磁気記録媒体用基板の表面には、凹凸パターン4の形状が転写されている。そのため、凹凸形状の凸部の頂面又は凹部の底面に磁性膜を形成することで、DTメディアやBPメディアを作製する。
【0039】
以上のように、この実施形態では、両面研磨によって得られた微小うねりWaが小さいスタンパ10を用いているため、微小うねりWaが小さい成形品(樹脂製の磁気記録媒体用基板)を作製することが可能となる。また、スタンパ10のSi層3の表面に直接凹凸パターン4を形成し、電鋳を用いずにその凹凸パターン4の形状を成形品である磁気記録媒体用基板の表面に転写しているため、凹凸パターンの欠陥が少ない磁気記録媒体用基板を作製することが可能となる。
【0040】
(磁気記録媒体用基板の材料)
この実施形態に係る射出成形用金型20によって作製される磁気記録媒体用基板には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性線硬化性樹脂の他、様々な樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、又は、ポリエステル樹脂(PET樹脂など)などを用いることができる。また、熱硬化性樹脂として、例えば、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、ポリイミド樹脂などを用いることができる。また、活性線硬化性樹脂として、例えば、紫外線硬化性樹脂が用いられる。さらに、磁気記録媒体用基板には、液晶ポリマー、有機/無機ハイブリッド樹脂(例えば、高分子成分にシリコンを骨格として取り込んだもの)などを用いても良い。なお、上記に挙げた樹脂は磁気記録媒体用基板に用いられる樹脂の1例であり、これらの樹脂に限定されることはない。
【0041】
この実施形態では、スタンパ10を射出成形法に用いた場合について説明したが、ナノインプリント法に用いても、微小うねりWaが小さく凹凸パターンの欠陥が少ない磁気記録媒体用基板を作製することができる。例えば、凹凸パターン4が形成されたSi層3とは反対側の表面1A(固定面)をナノインプリント用金型の表面に接触させることで、ナノインプリント用金型の表面にスタンパ10を設置する。そして、基板の上に被転写材である樹脂を載せて、スタンパ10が設置されたナノインプリント用金型とその基板とによって被転写材を挟むことで、スタンパ10の凹凸パターン4を被転写材である樹脂に転写する。これにより、凹凸パターン4に対応する凹凸形状が表面に形成された磁気記録媒体用基板を作製する。
【0042】
(変形例)
次に、上記実施形態に係るスタンパ10の変形例について、図3と図4とを参照して説明する。図3は、変形例1に係るスタンパ(金型部材)の断面図である。図4は、変形例2に係るスタンパ(金型部材)の断面図である。
【0043】
(変形例1)
まず、変形例1に係るスタンパについて図3を参照して説明する。図3に示すスタンパ10Aのように、凹凸パターン4が形成されたSi層3上に離型層5を形成しても良い。離型層5をSi層3上に設けることで、離型層5が成形品(樹脂製基板)に接するため、スタンパ10Aが設置された金型から成型品を容易に離型することが可能となる。離型層5は、シランカップリング系の離型膜を用いることが好ましい。シランカップリング系の離型層5はSi層3との親和性が高いため、寿命の長い離型膜が得られる。離型層5の厚さは、0.5〜10[nm]であることが好ましい。離型層5は、例えば、ディッピングや蒸着によってSi層3上に形成することができる。
【0044】
(変形例2)
次に、変形例2に係るスタンパについて図4を参照して説明する。図4に示すスタンパ10Bのように、Si層3が形成された面とは反対側の表面1A(固定面)に低摩擦層6を形成しても良い。図2に示すように、スタンパは、表面1Aを第1金型30に接触させることで第1金型30に設置される。そのため、変形例2に係るスタンパ10Bのように、表面1Aに低摩擦層6を設けることで、成形時においてスタンパ10Bが熱膨張又は熱収縮しても、スタンパ10Bと金型との摩擦によって生じる金型の傷の発生を抑えることが可能となる。低摩擦層6には、例えば、DLC(Diamond Like Carbon)を用いることが好ましい。1例として、摩擦係数が0.2程度の低摩擦層6をスタンパ10Bに設けることが好ましい。また、低摩擦層6の厚さは、0.1〜5[μm]であることが好ましい。低摩擦層6は、例えば、CVDによってガラス基板1の表面1Aに形成することができる。
【0045】
なお、変形例1と変形例2とを組み合わせても良い。すなわち、Si層3上に離型層5を形成し、さらに、Si層3が形成された面とは反対側の表面1A(固定面)に低摩擦層6を形成しても良い。
【0046】
(変形例3)
次に、変形例3に係るスタンパの製造方法について説明する。上述した実施形態では、ガラス基板1の表面にSi層3を形成した後、基板の両面を同時に研磨したが、ガラス基板1の表面にSi層3を形成する前に、ガラス基板1の両面を同時に研磨しても良い。変形例3に係るスタンパの製造方法では、まず、ガラス基板1の両面を両面研磨機にて同時に研磨する。例えば、研磨後のガラス基板1の表面の微小うねりWaを、0.5[nm]以下にすることが好ましい。ガラス基板1の両面を研磨した後、ガラス基板1の表面にSi層3を形成する。ガラス基板1の両面にSi層3を形成しても良いし、一方の表面にSi層3を形成しても良い。ここでは、ガラス基板1の一方の表面にSi層3を形成する場合について説明する。上述した実施形態と同様に、Si層3が形成されたガラス基板1の両面を同時に研磨する。すなわち、Si層3の表面3Aと、Si層3とは反対側の表面1Aとを同時に研磨する。例えば、研磨後の基板の両面の微小うねりWaを、0.5[nm]以下にすることが好ましい。
【0047】
次に、研磨後のSi層3に微細な凹凸パターンを形成する。このとき、ガラス基板1の表面であってSi層3が形成されている表面を、Si層3に対するエッチングのストップ面として用いて、Si層3に凹凸パターンを形成する。例えば、Si層3の表面にレジストを塗布し、電子線描画によって所望のパターンをレジストに形成する。そして、ドライエッチングによってSi層3をエッチングすることで、レジストに形成されたパターンに対応する微細な凹凸パターンをSi層3に形成する。このエッチング工程においては、レジストの凹凸パターンに対応してエッチングされるSi層3を、ガラス基板1の表面が露出するまでエッチングすることで、Si層3に凹凸パターンを形成する。すなわち、ガラス基板1の表面をエッチングのストップ面として機能させることで、エッチングによってSi層3に凹凸パターンを形成する。これにより、Si層3に形成された凹凸パターンにおいては、凹凸パターンの溝の底面がガラス基板1の表面となる。なお、ガラス基板1の両面にSi層3を形成した場合には、一方の表面に形成されたSi層3をエッチングすることで、微細な凹凸パターンを形成する。
【0048】
以上のように、Si層3を形成する前にガラス基板1の両面を同時に研磨することで、両面の微小うねりWaが小さいガラス基板1が得られる。そして、ガラス基板1の表面をエッチングのストップ面としてSi層3をエッチングすることでSi層3に凹凸パターンを形成しているため、凹凸パターンの溝の底面の微小うねりWaを小さく形成することができ、その結果、溝の深さが均一なスタンパを形成することが可能となる。さらに、上述した実施形態と同様に、Si層3を形成した後に、基板の両面を同時に研磨しているため、微小うねりWaが小さいスタンパが得られる。このようなスタンパを射出成形法やナノインプリント法に用いることで、微小うねりWaが小さく凹凸パターンの欠陥が少ない磁気記録媒体用基板を作製することが可能となる。
【0049】
なお、変形例3に係る製造方法で作製されたスタンパにおいて、変形例1と同様に、Si層3上に離型層5を形成しても良い。また、変形例2と同様に、Si層3が形成された面とは反対側の表面1A(固定面)に低摩擦層6を形成しても良い。さらに、Si層3上に離型層5を形成し、表面1Aに低摩擦層6を形成しても良い。
【0050】
また、スタンパを形成した後、熱酸化処理を行うことで、Si層をガラス化しても良い。このようにガラス化することで、スタンパの表面の硬度を高めて、スタンパの耐久性を向上させることが可能となる。また、ガラス化することでスタンパの表面の透過率が上がる。そのため、ナノインプリント法で紫外線硬化性樹脂を用いて磁気記録媒体用基板を作製する場合に、スタンパ側から紫外線硬化性樹脂に向けて紫外線の照射が可能となる。
【0051】
[実施例]
次に、具体的な実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
(ガラス基板1、Si層3)
まず、中央に貫通孔が形成された円板状のガラス基板1の表面に、Si層3を成膜することで、研磨前のスタンパを作製した。この実施例1では、ガラス基板1に石英ガラスを用い、CVD法によってSi層3をガラス基板1の一方の表面に成膜した。Si層3の厚さとガラス基板1の表面粗さRaとを以下に示す。
Si層3の膜厚=4[μm]
ガラス基板1の表面粗さRa=1[nm]
ここで、表面粗さRaは、JIS B0601の規定による算術平均粗さRaで定義される。表面粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定される。
【0053】
(両面研磨工程)
そして、Si層3が表面に形成された基板の両面を同時に研磨した。この実施例1では、第1ポリッシング工程と第2ポリッシング工程とを施すことで、基板の両面を同時に研磨した。
実施例1で用いた研磨機、研磨布、及び研磨材を以下に示す。
研磨機:「浜井産業」製の16B型両面研磨機
研磨布:第1ポリッシング工程では、「カネボウ」製の発砲ウレタンパッドを用い、第2ポリッシング工程では、「FILWEL」製のスエードタイプ研磨布を用いた。
研磨材:第1ポリッシング工程では、「昭和電工」製の酸化セリウム(平均粒子径0.5[μm])を用い、第2ポリッシング工程では、「フジミ」製のコロイダルシリカ(平均粒子径30[nm])を用いた。
第1ポリッシング工程の条件を以下に示す。
定盤の回転数:40−60[rpm]
研磨荷重:40[g/cm
加工時間:25[分]
上述の条件で研磨した後、第2ポリッシング工程を施した。第2ポリッシング工程の条件を以下に示す。
定盤の回転数:35[rpm]
研磨圧力:60[g/cm
加工時間:15[分]
【0054】
(凹凸パターン4の形成)
次に、研磨後のSi層3の表面に微細な凹凸パターン4を形成した。具体的には、Si層3上にレジストを塗布し、電子線描画によって凹凸パターンを形成した。そして、ドライエッチングによってSi層3の表面に凹凸パターン4を形成した。この実施例1では、BPメディア用の基板を作製するためのスタンパ10を作製した。凹凸パターン4のサイズを以下に示す。
凹凸の溝の深さ=30[nm]
凹凸の溝の幅=30[nm]
溝のアスペクト比(深さ/幅)=1
凹凸のピッチ=50[nm]
【0055】
(比較例)
次に、上記の実施例1に対する比較例について説明する。
【0056】
(Niめっきスタンパ)
電鋳によって比較例に係るスタンパを作製した。まず、電子線描画によってBPメディア用の凹凸パターンをSi基板に形成した。この凹凸パターンは、実施例1に係る凹凸パターン4と同じサイズである。凹凸パターンが形成されたSi基板を電解ニッケルめっき(電鋳)し、一方の表面に凹凸パターンを有するNiめっきスタンパを作製した。そして、このNiめっきスタンパの裏面のみを研磨した。これにより、比較例に係るNiめっきスタンパを作製した。
【0057】
(磁気記録媒体用基板の作製)
そして、実施例1に係るスタンパ10を射出成形用金型に取り付け、ポリカーボネートを樹脂材料として射出成形することで、磁気記録媒体用基板を作製した。同様に、比較例に係るNiめっきスタンパを射出成形用金型に取り付けて、ポリカーボネート製の磁気記録媒体用基板を作製した。
【0058】
(平面度、微小うねりWa、表面粗さRa、パターン品質の評価)
以上のようにして作製された実施例1に係るスタンパ10、比較例に係るNiめっきスタンパ、実施例1に係る磁気記録媒体用基板(成形品)、及び、比較例に係る磁気記録媒体用基板(成形品)を対象にして、凹凸パターンが形成された面の平面度(うねり)、微小うねりWa、及び、表面粗さRaを測定した。また、凹凸パターンの品質評価を行った。
【0059】
平面度(うねり)は光学的な干渉(ニュートンリング)により測定され、基準平面と実際の平面とのずれ量を干渉縞として計測することができる。JIS B0651の規定に従って測定波長の範囲外の波長を除去すると、基板表面のうねりを表すうねり曲線が示される。
微小うねりWaは、上述したように、多機能ディスク用干渉計(オプティフラット)を用いて測定した。
また、表面粗さRaは、AFMにて測定した。
【0060】
平面度などの測定結果を図5に示す。図5は、実施例1における平面度などの測定結果を示す表である。まず、スタンパと成形品(磁気記録媒体用基板)の寸法を説明する。
【0061】
比較例に係るNiめっきスタンパの寸法を以下に示す。
外径:65[mm]、内径(貫通孔の径):13[mm]、厚さ:0.3[mm]
また、比較例に係る成形品(磁気記録媒体用基板)の寸法を以下に示す。
外径:48[mm]、内径(貫通孔の径):12[mm]、厚さ:0.8[mm]
【0062】
実施例1に係るスタンパ10の寸法を以下に示す。
外径:65[mm]、内径(貫通孔の径):13[mm]、厚さ:1.3[mm]
また、実施例1に係る成形品(磁気記録媒体用基板)の寸法を以下に示す。
外径:48[mm]、内径(貫通孔の径):12[mm]、厚さ:0.8[mm]
【0063】
(平面度)
次に、平面度の測定結果について説明する。ここでは、スタンパ及び成形品(磁気記録媒体用基板)ともに、(OD48 ID15)領域の平面度を測定した。
比較例に係るNiめっきスタンパの平面度は70[μm]になり、そのNiめっきスタンパを用いて作製された成形品(磁気記録媒体用基板)の平面度は7[μm]になった。
これに対して、実施例1に係るスタンパ10の平面度は3[μm]になり、スタンパ10を用いて作製された成形品(磁気記録媒体用基板)の平面度は5[μm]になった。
このように、実施例1に係る製造方法によると、比較例に係るスタンパと比べて、平面度(うねり)が小さいスタンパが得られ、その結果、平面度(うねり)が小さい磁気記録媒体用基板を作製することができた。
【0064】
(微小うねりWa)
次に、微小うねりWaの測定結果について説明する。
比較例に係るNiめっきスタンパの微小うねりWaは、平面度が大きすぎるため測定レンジオーバーになってしまい、測定することができなかった。そのNiめっきスタンパを用いて作製された成形品の微小うねりWaは、3[nm]になった。
これに対して、実施例1に係るスタンパ10の微小うねりWaは0.5[nm]になり、スタンパ10を用いて作製された成形品の微小うねりWaは0.6[nm]になった。
このように、実施例1に係る製造方法によると、比較例に係るスタンパと比べて、微小うねりWaが小さいスタンパが得られ、その結果、微小うねりWaが小さい磁気記録媒体用基板を作製することができた。
【0065】
(表面粗さRa)
次に、表面粗さRaの測定結果について説明する。
比較例に係るNiめっきスタンパの表面粗さRaは0.8[nm]になり、そのNiめっきスタンパを用いて作製された成形品の表面粗さRaは1[nm]になった。
これに対して、実施例1に係るスタンパ10の表面粗さRaは0.2[nm]になり、スタンパ10を用いて作製された成形品の表面粗さRaは0.3[nm]になった。
このように、実施例1に係る製造方法によると、比較例に係るスタンパと比べて、表面粗さRaが小さいスタンパが得られ、その結果、表面粗さRaが小さい磁気記録媒体用基板を作製することができた。
【0066】
(パターン品質)
次に、凹凸パターンの品質の評価結果について説明する。スタンパ又は磁気記録媒体用基板上の複数箇所における凹凸パターンを評価した。基板上の測定箇所を図6に示す。図6は、スタンパ又は磁気記録媒体用基板の表面を示す上面図であり、凹凸パターンを評価した箇所を示す図である。図6に示すスタンパ又は磁気記録媒体用基板において、凹凸パターンが形成された表面の12点を測定点として、各箇所における凹凸パターンの形状を評価した。具体的には、円板状のスタンパ又は磁気記録媒体用基板を円周方向に4等分し、各境界において、基板の内周側の点、中間の点、及び外周側の点を測定点として、計12点を測定点とした。そして、各点において1[μm]四方の領域を対象として、凹凸パターンの崩れをAFMにて観察した。形状崩れが発生した測定点の数に応じて、凹凸パターンの品質レベルを3段階に分けた。図5の表に示すように、12点の全ての領域において形状崩れが無いレベル、6〜11点の領域において形状崩れが無いレベル、及び、0〜5点の領域において形状崩れが無いレベルの3段階に分けた。
【0067】
図5の表に示すように、比較例に係るスタンパにおいては、6〜11点の領域において形状崩れが無いレベルに該当し、比較例に係る成形品においては、0〜5点の領域において形状崩れが無いレベルに該当した。これに対して、実施例1に係るスタンパ10においては、12点の全ての領域において形状崩れが無いレベルに該当し、また、成形品においても、全ての領域において形状崩れが無いレベルに該当した。このように、実施例1に係る製造方法によると、比較例に係るスタンパと比べて、凹凸パターンの形状崩れの発生を抑えたスタンパが得られた。その結果、凹凸パターンの欠陥が無い磁気記録媒体用基板を作製することができた。
【0068】
以上のように、実施例1に係る製造方法によると、微小うねりWaが小さく凹凸パターンの欠陥が無いスタンパを作製することができた。そして、実施例1に係るスタンパを用いることで、微小うねりWaが小さく凹凸パターンの欠陥が無い磁気記録媒体用基板を作製することができた。
【0069】
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。実施例2では、スタンパ10の微小うねりWaと、成形品(磁気記録媒体用基板)の微小うねりWaとの関係を評価した。この評価結果を図7に示す。図7は、この発明の実施例に係るスタンパの微小うねりWaと成形品の微小うねりWaとの関係を示す表である。
【0070】
図7の表に示すように、厚さが1.3[mm]で、微小うねりWaをそれぞれ変えた複数のスタンパ10を作製し、各スタンパ10について評価した。スタンパ10の微小うねりWaが0.4[nm]の場合、成形品(磁気記録媒体用基板)の微小うねりWaは0.52[nm]になった。その結果、成形品の目標仕様(微小うねりWaが0.6[nm])を満たすことになった。また、スタンパ10の微小うねりWaが0.49[nm]の場合、成形品の微小うねりWaは0.6[nm]になった。その結果、成形品の目標仕様を満たすことになった。一方、スタンパ10の微小うねりWaが0.61[nm]の場合、成形品の微小うねりWaは0.69[nm]になった。この場合、成形品の目標仕様を満たさなかった。
【0071】
以上のように、スタンパ10の微小うねりWaを0.5[nm]以下にすることで、成形品(磁気記録媒体用基板)の微小うねりWaを、目標仕様である0.6[nm]以下にすることができた。その結果、ハードディスクドライブ装置において、磁気記録媒体に対して磁気ヘッドが追従しやすくなる。
【0072】
(実施例3)
次に、実施例3について説明する。実施例3では、スタンパ10の厚さと、成形品(磁気記録媒体用基板)の微小うねりWaとの関係を評価した。この評価結果を図8に示す。図8は、この発明の実施例に係るスタンパの厚さと成形品の微小うねりWaとの関係を示す表である。
【0073】
図8の表に示すように、微小うねりWaが0.5[nm]程度で、厚さをそれぞれ変えたスタンパ10を作製し、各スタンパ10について評価した。スタンパ10の厚さが0.3[mm]の場合、成形品(磁気記録媒体用基板)の微小うねりWaは0.65[nm]になった。この場合、成形品の目標仕様(微小うねりWaが0.6[nm])を満たさなかった。これに対して、スタンパ10の厚さが0.5[mm]の場合、成形品の微小うねりWaは0.59[nm]になった。その結果、成形品の目標仕様を満たすことになった。また、スタンパ10の厚さが1.3[mm]の場合、成形品の微小うねりWaは0.6[nm]になった。その結果、成形品の目標仕様を満たすことになった。
【0074】
以上のように、スタンパ10の厚さを0.5[mm]以上にすることで、成形品(磁気記録媒体用基板)の微小うねりWaを、目標仕様である0.6[nm]以下にすることができた。
【0075】
なお、上述した実施例はこの発明の1例である。例えば、ガラス基板1に別のガラス材料を用い、磁気記録媒体用基板の樹脂材料に別の材料を用いても、上述した実施例と同じ効果を奏することができる。また、射出成形法で磁気記録媒体用基板を作製したが、実施例で作製されたスタンパ10を用いてナノインプリント法によって磁気記録媒体用基板を作製しても、上述した実施例と同じ効果を奏することができる。
【0076】
樹脂製基板の両面に微細パターンを設ける場合は、実施例で作製されたスタンパ10を第1金型30及び第2金型40の両方に固定することができる。
【0077】
ナノインプリント法によって磁気記録媒体用基板を作製する場合は、スタンパは円形以外の形状であっても良く、例えば四角形であっても良い。また、スタンパに貫通孔を形成しなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】この発明の実施形態に係るスタンパ(金型部材)の製造方法を説明するための基板の断面図である。
【図2】この発明の実施形態に係るスタンパと金型とを示す断面図である。
【図3】変形例1に係るスタンパ(金型部材)の断面図である。
【図4】変形例2に係るスタンパ(金型部材)の断面図である。
【図5】実施例1における平面度のなどの測定結果を示す表である。
【図6】スタンパ又は磁気記録媒体用基板の表面を示す上面図であり、平面度などの測定箇所を示す図である。
【図7】この発明の実施例に係るスタンパの微小うねりWaと成形品の微小うねりWaとの関係を示す表である。
【図8】この発明の実施例に係るスタンパの厚さと成形品の微小うねりWaとの関係を示す表である。
【符号の説明】
【0079】
1 ガラス基板
2 貫通孔
3 Si層
4 凹凸パターン
5 離型膜
6 低摩擦層
20 射出成形用金型
30 第1金型
31 スプルー
40 第2金型
41 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の磁気記録媒体用基板の表面に微細パターンを転写するために用いられる金型部材の製造方法であって、
板状の形状を有するガラス基板の少なくとも一方の表面にSi層を形成することで第1基板を作製する第1工程と、
前記第1工程にて作製された前記第1基板の両面を同時に研磨する第2工程と、
前記研磨後のSi層の表面に微細パターンを形成することで、前記金型部材を作製する第3工程と、
を含むことを特徴とする金型部材の製造方法。
【請求項2】
樹脂製の磁気記録媒体用基板を作製するための金型であって内部に樹脂を注入する空間を有する金型の前記内部の表面の一部に設置され、前記磁気記録媒体用基板の表面に微細パターンを転写するために用いられる金型部材の製造方法であって、
円板状の形状を有し中央に貫通孔が形成されたガラス基板の少なくとも一方の表面にSi層を形成することで第1基板を作製する第1工程と、
前記第1工程にて作製された前記第1基板の両面を同時に研磨する第2工程と、
前記研磨後のSi層の表面に微細パターンを形成することで、前記金型部材を作製する第3工程と、
を含むことを特徴とする金型部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程の前記研磨によって、前記Si層の微小うねりWaを0.5[nm]以下にすることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の金型部材の製造方法。
【請求項4】
前記研磨された後の前記第1基板の厚さが、0.5[mm]以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の金型部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程において、CVD法又は陽極接合によって前記Si層を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の金型部材の製造方法。
【請求項6】
前記微細パターンが形成された前記Si層の反対側の表面に低摩擦層を形成することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の金型部材の製造方法。
【請求項7】
前記微細パターンが形成された前記Si層の表面にシランカップリング系の離型層を形成することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の金型部材の製造方法。
【請求項8】
板状の形状を有するガラス基板の少なくとも一方の表面に形成されたSi層の表面に微細パターンが形成されており、前記微細パターンが形成された面の微小うねりWaが0.5[nm]以下であることを特徴とする金型部材。
【請求項9】
前記ガラス基板と前記Si層の合計の厚さが0.5[mm]以上であることを特徴とする請求項8に記載の金型部材。
【請求項10】
前記微細パターンが形成された前記Si層の表面にシランカップリング系の離型層が形成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9のいずれかに記載の金型部材。
【請求項11】
前記微細パターンが形成された前記Si層の反対側の表面に低摩擦層が形成されていることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載の金型部材。
【請求項12】
磁気記録媒体用基板を作製するための金型であって、請求項8から請求項11のいずれかに記載の金型部材が表面の一部に設置されていることを特徴とする金型。
【請求項13】
内部に樹脂を注入するための円柱状の空間を有し、磁気記録媒体用基板を作製するための金型であって、
前記空間の柱方向の一端の表面には、板状の形状を有するガラス基板の少なくとも一方の表面に形成されたSi層の表面に微細パターンが形成された金型部材が、前記微細パターンが前記空間に面する状態で設置されており、
前記微細パターンが形成された面の微小うねりWaが0.5[nm]以下であることを特徴とする金型。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−113774(P2010−113774A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286524(P2008−286524)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】