説明

金型離型用シートおよびそれを用いた金型離型処理方法

【課題】成形条件等の悪化や作業環境等の悪化を招くことなく、洗浄後の金型面に対する離型剤の付与を均一、かつ容易に行なうことのできる金型離型用シートを提供する。
【解決手段】加熱成形用金型に離型剤を塗布するための金型離型用シート10である。そして、上記金型離型用シートは、未加硫ゴム生地を母材とし、これに滴点が120〜150℃の範囲内にある離型剤を含有したシート成形材料を用いて形成されている。さらに、金型洗浄剤を含有させ、複数の直線状の切れ込みを有する金型離型用シート10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物成形材料用の成形金型等から成形品を円滑に離型させ、かつ成形品の外観を良好に仕上げるために用いられる金型離型用シートおよびそれを用いた金型離型処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形用金型による、光半導体封止用エポキシ樹脂組成物等の熱硬化性樹脂成形材料を用いた成形時には、上記熱硬化性樹脂成形材料の成形工程を多数回繰り返すと、金型からの成形品の離型性が著しく低下したり、成形品表面に曇りや肌荒れ等の現象が生じ、成形品表面に不都合が生じることとなる。
【0003】
この原因は、上記成形材料中に含まれる低分子量の配合成分や成形材料そのものが成形の繰り返しにより上記金型のキャビティ表面に順次積層し、この積層したものが次第に酸化劣化して硬い酸化劣化層を形成するためであると考えられる。すなわち、上記酸化劣化層は、表面が平滑でなく、また離型作用も有していないために、上記のような不都合が生じるのである。このため、従来は、上記熱硬化性樹脂成形材料であるエポキシ樹脂組成物とは別種のメラミン樹脂成形材料をキャビティ内に載置し、成形を行なって上記メラミン樹脂成形材料を加熱硬化させ、その硬化物に酸化劣化層を一体的に付着させ、その状態で硬化物を金型のキャビティから取り出すことにより金型のキャビティ表面の洗浄を行なっている。
【0004】
しかしながら、上記メラミン樹脂成形材料を用いた金型洗浄方法では、金型に多数設けられているキャビティ毎にメラミン樹脂成形材料を充填し、加熱硬化させた後、その硬化物を取り出す必要があることから、作業が極めて煩雑になり、さらに加熱硬化での成形時に、メラミン樹脂成形材料から生じる臭気により作業環境が著しく悪化するという問題が生じる。
【0005】
したがって、本出願人は、未加硫ゴム生地を母材とし、これにイミダゾール類およびイミダゾリン類の少なくとも一方を洗浄剤として含有させてなるシート状の金型洗浄剤組成物を用いることを提案している(特許文献1参照)。
【0006】
上記シート状の金型洗浄剤組成物による金型の洗浄方法は、上記シート状の金型洗浄剤組成物を上下の金型間に挟み、型閉成時の圧力によって金型の各キャビティの表面にそれぞれ対応するシートの部分を圧接させ、その状態で加熱加硫させて上記未加硫ゴム生地全体を加硫ゴム化し、この加硫ゴム化の際に、キャビティ表面の酸化劣化層を加硫ゴムに一体化させ、ついで一枚のシート状の加硫ゴムを金型から剥離させることにより、キャビティ表面を洗浄するということにより行なわれるというものである。このようなシート状の金型洗浄剤組成物を使用すると、上記メラミン樹脂成形材料を用いた場合にみられる問題は生じない。
【0007】
ただし、上記のようにして洗浄された金型のキャビティ表面は、上記メラミン樹脂成形材料による洗浄と同様、初期の鏡面状態にまで洗浄されることとなる。このように、金型のキャビティ表面が初期の鏡面状態にまで洗浄されると、その状態にて光半導体封止用エポキシ樹脂組成物等の熱硬化性樹脂成形材料を用いて成形した場合、金型の各成形部に成形品が強固に接着し、成形品が金型から離型することが困難となる。
【0008】
そこで、金型面に予め離型剤を塗布する必要があり、例えば、スプレー噴射により離型剤を金型面に塗布したり、熱硬化性樹脂や未加硫ゴム生地中に予め離型剤を含有させた材料を用いて、これを金型に挟み、加熱硬化させることにより熱硬化性樹脂や未加硫ゴム生地中に含有させた離型剤を金型面に移行させることにより金型面に離型剤を塗布する方法が行なわれている。
【特許文献1】特開平10−226799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記スプレー噴射により離型剤を金型面に塗布する方法では、塗布する作業者の感覚に頼るため、塗布量にばらつきが生じ金型全面に均一に塗布することが困難となり、離型剤の塗布むらによって成形品の外観が損なわれるという問題がある。また、上記熱硬化性樹脂や未加硫ゴム生地中に予め離型剤を含有させた材料を用いて金型面に離型剤を塗布する方法では、離型剤の種類によっては充分な離型効果が得られなかったり、あるいは成形品に曇りが生じたりするという問題が発生する。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、成形条件等の悪化や作業環境等の悪化を招くことなく、洗浄後の金型面に対する離型剤の付与を均一かつ容易に行なうことのできる金型離型用シートおよびそれを用いた金型離型処理方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、加熱成形用金型に離型剤を塗布するための金型離型用シートであって、上記金型離型用シートが、未加硫ゴム生地を母材とし、滴点が120〜150℃の範囲内にある離型剤を含有するシート成形材料からなる金型離型用シートを第1の要旨とする。
【0012】
そして、本発明は、上記金型離型用シートを用いて、加熱成形用金型の成形面に上記金型離型用シートに含有された離型剤を転写し塗布する金型離型処理方法を第2の要旨とする。
【0013】
すなわち、本発明者らは、成形条件等の悪化や作業環境等の悪化を招くことなく、洗浄後の金型面に対して均一な離型剤膜を形成し良好な離型性を付与することのできるものを得るべく鋭意検討を重ねた。その結果、金型成形の一般的な成形温度より低い滴点を有する離型剤を含有するシート成形材料からなる金型離型用シートを用いると、上記特定範囲の滴点を有する離型剤が、成形時に金型離型用シート内から滲出して、金型面に塗布されることとなり、均一な離型剤膜が形成されることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明の金型離型用シートは、未加硫ゴム生地を母材とし、これに特定の離型剤を含有するものである。このため、含有された上記離型剤が滲出して金型面に付着し、均一な離型剤膜を形成することとなる。したがって、本発明の金型離型用シートを用いて金型表面に均一な離型剤膜が形成された結果、得られる成形品に曇り等が生じたりせず、外観的に優れたものが得られることとなる。
【0015】
そして、上記離型剤の含有量が、未加硫ゴム生地100重量部に対して5〜30重量部の範囲に設定されると、離型処理加工に充分な離型剤が滲出して、金型面に対して均一な離型剤膜の形成がより一層容易となる。
【0016】
さらに、上記離型剤に加えて、金型洗浄剤を含有すると、前述の効果に加えて金型面に対する優れた洗浄効果が得られるようになる。
【0017】
また、金型離型用シートのシート面に、複数の直線状の切れ込みを一方方向に所定間隔で並行に設けたものであると、その使用にあたって、シートを上記切れ込みに沿って折り畳むことにより容易に積重させることができる。このとき、平行な切れ込みによって区切られる個々のブロック片は、切れ込みの底の部分で互いにつながっていることから、折り畳んだときにずれたりせずに整然と積重され、各ブロック片が交差したりした状態で積み重なったりすることがない。このため、得られた積重品は、いびつな形状にならない。また、シートの寸法を測定して同じ大きさにカッティングしたり、そのカッティングしたシートを揃えながら積重したりする煩雑な作業が不要になり、作業が簡略化する。
【0018】
そして、シート状基材の片面もしくは両面に、上記金型離型用シートが貼り合わせてなるものであると、成形後に金型から取り出す際にシートがちぎれ難く、取り出し作業性が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の金型離型用シートは、ベースとなる未加硫ゴム生地を母材とし、これに特定の離型剤を含有してなる成形材料を用いてシート状に成形して得られるものである。
【0021】
上記未加硫ゴム生地を構成する未加硫ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ターポリマーゴム(EPT)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これら未加硫ゴムは、金型内において加硫され加硫ゴムとなる。
【0022】
上記未加硫ゴムとして好ましいのは、金型を用いた成形に際して、汚染性が少ない、また加硫時の臭気が少ないという点から、BR、EPT、EPM、SBR、NBRを単独で使用するもしくはこれらの混合物である。
【0023】
上記EPTについて詳述すると、上記EPTは、α−オレフィン(特にプロピレン)およびポリエンモノマーからなるターポリマーであり、上記ポリエンモノマーとしては、ジシクロペンタジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,1−シクロオクタジエン、1,6−シクロドデカジエン、1,7−シクロドデカジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,4−シクロヘプタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン、メチレンノルボルネン、2−メチルペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、メチル−テトラヒドロインデン、1,4−ヘキサジエン等があげられる。
【0024】
上記EPTにおける各モノマーの共重合割合は、好ましくはエチレンが30〜80モル%、ポリエンモノマーが0.1〜20モル%で、残りがα−オレフィンとなるようなターポリマーである。より好ましいのはエチレンが30〜60モル%である。そして、上記EPTとしては、ムーニー粘度ML1+4 (100℃)が20〜70のものを用いることが好ましい。
【0025】
このようなEPTの具体例としては、三井石油化学工業社製の、三井EPT4021、三井EPT4045、三井EPT4070等をあげることができる。
【0026】
また、上記SBRとしては、スチレン含量が15〜30モル%で、ムーニー粘度ML1+4 (100℃)が20〜80、好ましくは35〜60のものを用いることが好ましい。
【0027】
このようなSBRの具体例としては、日本合成ゴム社製の、JSR−1502、JSR−1507、JSR−1778等をあげることができる。
【0028】
そして、上記NBRとしては、アクリロニトリル含量が20〜60モル%、より好ましくは25〜45モル%で、ムーニー粘度ML1+4 (100℃)が20〜85、より好ましくは30〜70のものを用いること好適である。
【0029】
このようなNBRの具体例としては、日本合成ゴム社製の、N−234L、N−230S、N−230SHをあげることができる。
【0030】
このような未加硫ゴムには、通常、加硫剤が配合される。上記加硫剤としては、特に限定するものではなく、例えば、硫黄や、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、上記加硫剤の配合量は、上記未加硫ゴム100重量部に対して1〜3重量部の範囲に設定することが好ましい。
【0031】
上記未加硫ゴム生地に配合される特定の離型剤としては、その滴点が120〜150℃のものが用いられる。本発明において、上記滴点とは、つぎのことをいう。例えば、グリースを例にとると、このグリースは加熱により軟化するが、ある温度以上では液状を示す。この液状となったグリースが測定試験機の容器底部から滴下したときの温度を滴点という。なお、上記グリースの滴点試験は、JIS K 2220に準ずる。したがって、本発明にて使用される離型剤の滴点は、上記方法にしたがって測定される値である。
【0032】
このように、本発明の金型離型用シートの使用対象となる金型成形は、通常、150〜165℃の温度条件にて行なわれる。したがって、上記離型剤の滴点が150℃を超えて高いと、離型剤が金型面に滲出せず、金型面に離型剤層を形成することができない。また、滴点が120℃未満のように低いと、金型面に離型剤が滲出しても成形品の表面が曇る等の問題が生じるからである。
【0033】
上記特定の離型剤としては、例えば、滴点120〜150℃の範囲の酸化ポリエチレン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、アミド系ワックス等があげられ、具体的には、滴点120〜125℃の酸化ポリエチレン系ワックス、滴点132〜138℃のポリエチレン系ワックス、滴点140〜145℃のアミド系ワックス等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
上記滴点120〜125℃の酸化ポリエチレン系ワックスとしては、具体的には、クラリアント社製のPED−191等があげられる。また、上記滴点132〜138℃のポリエチレン系ワックスとしては、具体的には、クラリアント社製のPED−521等があげられる。そして、上記滴点140〜145℃のアミド系ワックスとしては、具体的には、クラリアント社製の9615A等があげられる。
【0035】
上記特定の離型剤の含有量は、未加硫ゴム生地100重量部に対して5〜30重量部の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは10〜20重量部である。すなわち、上記特定の離型剤の含有量が少な過ぎると、金型面に充分に滲出せず均一な離型剤膜を形成することが困難となり、逆に、上記特定の離型剤の含有量が多過ぎると、金型へのワックスの塗布量が過剰となり、塗布ムラが生じ、均一な離型剤膜の形成が困難となる傾向がみられるからである。
【0036】
そして、本発明の金型離型用シート成形材料には、上記未加硫ゴム、加硫剤、特定の離型剤以外に、必要に応じて、補強剤等の他の添加剤を適宜に配合することができる。
【0037】
上記補強剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機質補強剤(充填剤)があげられる。上記補強剤の配合量は、未加硫ゴム生地100重量部に対して10〜50重量部に設定することが好ましい。
【0038】
さらに、本発明の金型離型用シート成形材料には、上記未加硫ゴム、加硫剤、特定の離型剤、他の添加剤以外に、金型を清浄化するための金型洗浄剤を配合することも可能である。
【0039】
上記金型洗浄剤としては、グリコールエーテル類、イミダゾール類、イミダゾリン類、アミノアルコール類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0040】
上記グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0041】
上記グリコールエーテル類は、そのまま、もしくは水、あるいはメタノール,エタノール、n−プロパノール等のようなアルコール類、トルエン,キシレン等のような有機溶媒と混合して使用に供することがあげられる。上記有機溶媒と混合する際には、有機溶媒量をグリコールエーテル類100重量部に対して50重量部以下とすることが好ましく、最も一般的には20重量部以下に設定することである。
【0042】
上記イミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6〔2′−メチルイミダゾリル(1)′〕エチル−s−トリアジン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0043】
また、上記イミダゾリン類としては、例えば、2−メチルイミダゾリン、2−メチル−4−エチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、1−ベンジル−2−メチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾリン、2,4−ジアミノ−6〔2′−メチルイミダゾリニル−(1)′〕エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6〔2′−メチル−4′−エチルイミダゾリニル−(1)′〕エチル−s−トリアジン、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾリン、1−シアノエチル−2−メチル−4−エチルイミダゾリン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0044】
上記イミダゾール類、イミダゾリン類も、前述のグリコールエーテル類と同様、そのままで使用してもよいし、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の有機溶媒と混合して使用してもよい。上記アルコール類、有機溶媒と混合する場合には、これらアルコール類および有機溶媒の量を、通常、イミダゾール類およびイミダゾリン類の少なくとも一方100重量部に対して50重量部以下に設定することが好ましく、より好ましくは20重量部以下である。
【0045】
上記アミノアルコール類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、3−アミノプロパノール、2−アミノプロパノール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0046】
上記アミノアルコール類も、先に述べた金型洗浄剤と同様、そのままで使用してもよいし、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の有機溶媒と混合して使用してもよい。上記アルコール類、有機溶媒と混合する場合には、これらアルコール類および有機溶媒の量を、通常、アミノアルコール類100重量部に対して50重量部以下に設定することが好ましく、より好ましくは20重量部以下である。
【0047】
上記金型洗浄剤(グリコールエーテル類,イミダゾール類,イミダゾリン類,アミノアルコール類等)の配合量は、通常、未加硫ゴム生地100重量部に対して10〜60重量部の範囲に設定することが好ましい。特に好ましくは15〜25重量部である。すなわち、金型洗浄剤の配合量が少な過ぎると、金型に対して充分な洗浄力が発揮され難く、逆に多過ぎると、シートが金型に付着して金型からの剥離作業性が劣化する傾向がみられるからである。
【0048】
本発明の金型離型用シートは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、ベースとなる未加硫ゴム、特定の離型剤、加硫剤および他の添加剤、さらに必要に応じて金型洗浄剤を配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、押出機やロール等を用いてシート状あるいは短冊状に形成することにより金型離型用シートを作製することができる。この場合のシートの厚みは、通常、3〜10mmに設定される。
【0049】
そして、本発明の金型離型用シートの使用に際しては、それを用いての金型の設置作業の容易さ等の観点から、例えば、図1に示すように、それ自体のシート面に、金型離型用シート10を折り畳み可能とする複数の直線状の切れ込み11が、所定間隔で平行に設けられたシート10が好適に用いられる。好ましくは、シート面に縞模様が形成されたシート10があげられる。そして、上記切れ込み11を利用してシート10を折り畳むことにより、整然と積み重ねることができるようになっている。
【0050】
このような切り込み11が設けられたシート10は、つぎのようにして作製される。すなわち、先に述べたようにして得られた圧延シートを所定の形状,寸法に裁断してシート10を形成したのち、そのシート面に切れ込み11を形成させる。このような切れ込み11の形成は、例えば、図2に示すように、回転軸12に所定間隔で円板状の切れ刃13を取り付けたリボンスリーターを用い、上記切れ刃13をシート10の上面から所定深さだけ食い込ませて移動させ、シート10の幅方向に平行な切れ込み11を形成させる。この操作を繰り返し、シート10上面の全面にわたって、一定間隔の平行な切れ込み11が形成されるのである。そして、シート10は、上記各切れ込み11によって同一サイズのブロック片10aに区切られる。このように上記切れ込み11は、一定間隔で形成されているため、その切れ込み11が折り畳み時等のメジャーの機能も発揮し、処理対象となる金型やキャビティの大きさに合わせてシート10をカッティングしたり折り畳んだりすることが容易となる。
【0051】
また、図3に示すように、切れ込み11の先端部と、切れ込み11の先端に対面するシート面との距離Dは、0.1〜0.8mm程度に設定するのが好ましく、0.2〜0.5mm程度であれば、さらに好ましい。すなわち、上記距離Dが小さ過ぎると、各ブロック片10a同士が離間しやすくなり、逆に距離Dが大き過ぎると、折り畳みがスムーズに行ないづらくなるからである。
【0052】
さらには、本発明の金型離型用シートの他の態様として、シート状基材の片面もしくは両面に、上記金型離型用シートが貼り合わせた態様が用いられる。このような態様のシートは、例えば、シート状基材の片面もしくは両面に、金型離型用シートを圧着し積層することにより得られる。このように、シート状基材の片面もしくは両面に、上記金型離型用シートを貼り合わせたものを用いることにより、成形後に金型から取り出す際にシートがちぎれ難く、取り出し作業性が良好となるという効果が得られる。
【0053】
上記シート状基材としては、例えば、紙製シートまたは布帛シートがあげられる。上記紙製シートとしては、和紙,洋紙,合成紙,混抄紙等があげられ、また、上記布帛シートとしては、織布,不織布,編布等があげられ、なかでも、長繊維を用いた織布および不織布は、表面が適正な粗面となっていることから好ましく用いられる。上記長繊維の材料としては、例えば、ナイロン,ポリエステル,ポリプロピレン等があげられ、これらのうち、耐熱性の観点からポリエステルが好ましい。さらに、不織布としては、機械的強度,均一性,加工性の観点から、スパンボンド不織布が好ましい。そして、そのシート状基材の厚みは、適宜に設定されるものであるが、例えば、0.1〜0.5mmに設定することが好ましい。
【0054】
本発明の金型離型用シートの厚みとしては、処理対象となる金型のキャビティの深さ,取り扱い作業性等を考慮して適宜に設定されるものであるが、例えば、3〜5mmに設定することが好ましい。
【0055】
本発明の金型離型用シートを用いての金型離型処理方法は、例えば、光半導体装置成形用金型に装填して、つぎのようにして行なわれる。すなわち、上記金型離型用シートは、未加硫状態であって、この未加硫の金型離型用シートを成形用金型に装填して、加熱加硫することによりシートに含有された特定の離型剤を滲出させ、金型表面に上記離型剤を転写し塗布する。この結果、成形用金型表面に、均一な離型剤膜が形成されることとなる。
【0056】
このような上記金型離型用シートを用いた金型の離型処理方法を、順を追ってより詳しく説明する。
【0057】
まず、本発明の金型離型用シートを準備する。この金型離型用シートは、前述のように、切れ込みが設けられ、切れ込みを利用して二つ折りに折り畳んだ状態とする。ついで、図4に示すように、上記折り畳んだ金型離型用シート10を、凹部3aが形成された上型1と、凹部3bが形成された下型2の間に配置し、その状態から、図5に示すように、上型1と下型2を締めて金型離型用シート10を挟み、圧縮成形する。そして、成形時の圧力によって上記金型離型用シート10が、上型1に形成された凹部3aおよび下型2に形成された凹部3bからなるキャビティ3内に充填されるとともに、金型表面に圧接される。その状態で成形時の熱により、未加硫ゴムが加熱加硫されて加硫ゴム化し、その際に加硫ゴム化したシートから含有する離型剤が滲出してキャビティ3表面に上記離型剤が転写し塗布され、キャビティ3表面に均一な離型剤膜が形成される。ついで、図6に示すように、所定時間経過後に上型1と下型2を開き、加硫ゴム化した金型離型用シート10を上下両金型1,2から剥離する。このようにして、金型の離型処理が行なわれる。
【0058】
上記金型離型用シートとしては、先に述べたように、図1に示すように、それ自体のシート面に、金型離型用シート10を折り畳み可能とする複数の直線状の切れ込み11が、所定間隔で平行に設けられたものを用いることが好ましい。
【0059】
このような金型離型用シートを用いる場合は、図7に示すように、金型離型用シート10から必要量となるだけの本数のブロック片10aを、切れ込み11の部分からカッティングして切り取る。このカッティングは、金型離型用シート10を手指で掴んで、切れ込み11に沿って繰り返し折り曲げて折り取るようにしてもよいし、ナイフ等で切断してもよい。ついで、図8に示すように(図では4本のブロック片10aを切り取っている)、金型離型用シート10の上面(切れ込み11形成面)を外側にして上記切れ込み11に沿って金型離型用シート10を折り曲げ、さらに金型離型用シート10の裏面同士が当接するまで曲げ続けて折り畳み、図8に示すように、各ブロック片10aを積重させる。この折り畳みの際には、各ブロック片10a同士が切れ込み11の底の部分11aで線状につながっているため、離間しない。このように、折り畳むという単純な動作だけで、各ブロック片10aが長さ方向および幅方向にきちんと揃った状態で、整然と積み重ねられ、各ブロック片10a同士が交差した状態で積み重なったりしないようになっている。したがって、金型離型用シート10の寸法を測定して同じ大きさにカッティングしたり、ばらばらに離間した各ブロック片10aをいちいち揃える手間がかからない。
【0060】
また、図8では、4本のブロック片10aを切り取り、これを真ん中から折り畳んで2本のブロック片10aの上に2本のブロック片10aが積み重ねられた状態としているが、これに限らず、例えば、3本のブロック片10aの上に3本のブロック片10aを積み重ねて6本のブロック片10aを使用する等、離型処理しようとする金型やキャビティの大きさに合わせて、適当な本数のブロック片10aを切り取って折り畳み、適宜の大きさに積重することができる。
【0061】
本発明の金型離型用シートの使用対象となる金型の一例として、例えば、熱硬化性樹脂組成物を用いて繰り返し成形が行われる光半導体装置成形用金型があげられる。
【0062】
本発明の金型離型用シートの使用対象の一例である光半導体装置成形用金型において、成形材料として用いられる熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ樹脂を主剤とするエポキシ樹脂組成物があげられる。そして、上記エポキシ樹脂組成物には、上記主剤となるエポキシ樹脂とともに、通常、硬化剤が配合され、さらに各種添加剤が適宜配合される。
【実施例】
【0063】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0064】
まず、下記に示す配合成分を準備した。
【0065】
〔エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)〕
三井石油化学工業社製、三井EPT4045〔ムーニー粘度ML1+4 (100℃)45〕
〔ブタジエンゴム〕
JSR社製、BRO1(ムーニー粘度ML1+4 (100℃)45〕
〔ホワイトカーボン〕
東ソーシリカ社製、ニップシール
〔イミダゾール〕
2,4−ジアミノ−6〔2′−メチルイミダゾリニル(1)′〕エチル−s−トリアジン
〔有機過酸化物〕
n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート
【0066】
〔酸化ポリエチレン系ワックスa〕 滴点120〜125℃(クラリアント社製、Licowax PED−191)
〔酸化ポリエチレン系ワックスb〕
滴点103〜108℃(クラリアント社製、Licowax PED−521)
【0067】
〔ポリエチレン系ワックス〕
滴点132〜138℃(クラリアント社製、Licowax PE190)
【0068】
〔アミド系ワックス〕
滴点140〜145℃(クラリアント社製、Licolub 9615A)
【0069】
〔モンタン酸系ワックス〕
滴点96〜102℃(クラリアント社製、Licowax OP)
〔酸化ポリプロピレン系ワックス〕
滴点154〜158℃(クラリアント社製、Licowax PP220)
〔ポリプロピレン系ワックス〕
滴点160〜165℃(クラリアント社製、Licowax PP230)
【0070】
〔実施例1〜9、比較例1〜4〕
後記の表1〜表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、これをバッチ式混練機で混練した後、圧延ロールを用いて厚み5mmのシートに成形することにより目的とする金型離型用シートを作製した。
【0071】
このようにして得られた実施例品および比較例品の各金型離型用シートを用いて、金型に対する離型処理の評価をつぎのようにして行なった。すなわち、予め、フォトダイオードIC用のブックモールド金型を強アルカリおよび蒸留水にて洗浄し、続いてメラミン樹脂を用いて金型内で加熱硬化させることによりクリーニング処理を行なった。このクリーニング処理後、上記金型離型用シートを金型間に挟み、150℃×5分間成形によるコンディショニング処理を2回繰り返し実施し、続いて透明樹脂(日東電工社製、NT−300H−10000)を用い、150℃×3分間の成形条件にてパッケージ(光半導体装置)を成形した。成形されたパッケージは、サイズ:4mm×3mm×厚み1.5mmのスモールアウトラインパッケージ−8ピン(SOP−8pin)であり、パッケージ上面に直径約3mmのレンズ部が存在するものである。同一のパッケージ成形条件にて連続10ショットで成形したパッケージのうち、最初の1ショット目に成形された3個のパッケージと、最後の10ショット目に成形された3個のパッケージについて、レンズ部分の汚れ(曇り)の有無について観察し評価した。この観察には、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−500F)の落射法20倍にて、すじ状,粒状および窪み状のそれぞれの観点から汚れ(曇り)レベルを判断した。その結果、少なくとも1個のパッケージのレンズ部分に汚れ(曇り)が明確に確認されたものを×、少なくとも1個のパッケージのレンズ部分にわずかに汚れ(曇り)が確認されたものを△、全てのパッケージのレンズ部分に汚れ(曇り)が全く確認されなかったものを○として表示した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
上記結果から、特定範囲の滴点を有する離型剤を用いて成形された金型離型用シート(実施例品)を用いて処理した金型により成形されたパッケージ(実施例)では、レンズ部分に汚れ(曇り)は全く確認されなかった。このことから、金型表面に均一な離型剤膜が形成されたことがわかる。
【0075】
これに対して、特定範囲から外れた滴点を有する離型剤を用いて成形された金型離型用シート(比較例品)を用いて処理した金型により成形されたパッケージ(比較例)では、レンズ部分に汚れ(曇り)が明確に確認された。
【0076】
なお、上記実施例では、金型離型用シートとして未加硫ゴム系組成物からなる単層の金型離型用シートを用いたが、シート状基材として厚み0.35mmのスパンボンド不織布(旭化成社製、エルタスE01070)の両面に上記金型離型用シートを圧着し積層したものを用いても、上記と同様の効果を示す結果を得た。さらに、積層体であることから、金型からの取り出し作業性が良好となるという効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の金型離型用シートは、熱硬化性樹脂成形材料用等の各種成形金型、例えば、エポキシ樹脂成形材料を用いて、光半導体素子をトランスファー成形によって封止する際に用いるトランスファー成形用金型等の成形金型に対して良好な離型性を付与する際に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態例である金型離型用シートを示す斜視図である。
【図2】上記金型離型用シートの切れ込み形成状態を示す説明図である。
【図3】上記金型離型用シートの切れ込み部分を示す拡大側面図である。
【図4】金型離型用シートの使用方法を示す説明図である。
【図5】金型離型用シートの使用方法を示す説明図である。
【図6】金型離型用シートの使用方法を示す説明図である。
【図7】上記金型離型用シートの作用を示す説明図である。
【図8】上記金型離型用シートの作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0079】
10 金型離型用シート
11 切れ込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱成形用金型に離型剤を塗布するための金型離型用シートであって、上記金型離型用シートが、未加硫ゴム生地を母材とし、滴点が120〜150℃の範囲内にある離型剤を含有するシート成形材料からなることを特徴とする金型離型用シート。
【請求項2】
上記離型剤の含有量が、未加硫ゴム生地100重量部に対して5〜30重量部の範囲に設定されている請求項1記載の金型離型用シート。
【請求項3】
上記シート成形材料が、上記離型剤に加えて、金型洗浄剤を含有してなる請求項1または2記載の金型離型用シート。
【請求項4】
金型離型用シートのシート面に、複数の直線状の切れ込みが、一定方向に所定間隔で並行に設けられている請求項1〜3のいずれか一項に記載の金型離型用シート。
【請求項5】
シート状基材の片面もしくは両面に、上記金型離型用シートが貼り合わせてなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の金型離型用シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の金型離型用シートを用いて、加熱成形用金型の成形面に上記金型離型用シートに含有された離型剤を転写し塗布することを特徴とする金型離型処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−149358(P2010−149358A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329156(P2008−329156)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(506008962)日東エレクトロニクス九州株式会社 (17)
【Fターム(参考)】