説明

金属と樹脂との複合体の製造方法

【課題】金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着剤を用いることなく強固に接着された金属と樹脂との複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属部は表面にカルボキシル基あるいはアミノ基、またはヒドロキシル基が付与されたものである。一方、樹脂部はエポキシ基を含む接着性改質剤が配合されたものである。カルボキシル基あるいはアミノ基、またはヒドロキシル基とエポキシ基との相互作用により、金属部と樹脂部とが接着されていることを特徴とする金属と樹脂との複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、異なる材料を接着させ、それらの材料の特性を生かしたさまざまな複合体が開発されている。特に金属と樹脂との複合体は特異性を有しているため、今後、より用途が拡大していくものと思われる。
【0003】
金属と樹脂とからなる複合体において金属と樹脂とを接着する方法としては、エポキシ樹脂をポリアリーレンサルファイド系樹脂中に配合して金属と樹脂とを接着する方法(特許文献1)や、金属表面にエポキシ樹脂を熱変性させた膜を形成し金属と樹脂とを接着する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、これらの方法では、十分な接着性を確保することができなかった。
【0004】
また、金属表面の改質処理方法として、不活性気体と炭素含有化合物や硫黄含有化合物の反応性気体の混合気体をプラズマ励起させる方法(特許文献3)が提案されている。
【0005】
この方法で改質された金属表面の濡れ性は向上するが、樹脂との接着性は不確かである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−214071号公報
【特許文献2】特開2004−58646号公報
【特許文献3】特開平6−88242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着剤を用いることなく、強固に接着された金属と樹脂との複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
金属部と樹脂部とが強固に接着されているとは、両部を相反する方向に引張った時に、複合体の破断が両部の界面で生じないように両部が接着されていることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の金属と樹脂との複合体の製造方法は、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された金属と樹脂との複合体の製造方法であって、放電用ガス中でプラズマを発生させて、前記プラズマにより生成したラジカルで有機物を活性化させ、その活性化有機物で前記金属部の表面に極性官能基を付与するプラズマ処理と、前記樹脂に前記極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基を含む接着性改質剤を配合して成形材料とする配合処理とを行った後、前記成形材料を用いて前記金属部と接するように前記樹脂部を成形し、前記極性官能基と前記接着性官能基との相互作用により前記金属部と前記樹脂部とを接着させることを特徴とする。
【0010】
ここで、表面に極性官能基が付与される態様には、極性官能基を含む化合物の層が表面に形成されて極性官能基が付与される態様と、極性官能基と金属表面との化学結合等により直接表面に極性官能基が付与される態様とがある。本明細書において表面に極性官能基が付与されるとは、この両方の態様が含まれる。
また、極性官能基と接着性官能基との相互作用は、両者間に働く化学結合としての共有結合やイオン結合であり、物理結合としての水素結合やファンデルワールス結合である。
【0011】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0012】
1.金属部
金属部の態様としては、板状、箔状、塊状等が例示でき、複合体の用途にあわせて、加工機等により予め所定形状に形成されていてもよいし、樹脂部との接着後に所定形状に形成されてもよい。
【0013】
金属部に用いられる金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、金、銀、鉄、マグネシウム、クロム、タングステン、亜鉛、鉛等及びこれらの合金であるステンレス、真鍮等が例示できる。
【0014】
金属部の表面に極性官能基を付与する表面処理方法としては、プラズマ装置に放電用ガスとしてのアルゴンガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを供給し、
装置内でプラズマを発生させて、有機物であるアクリル酸あるいはアリルアミン、または有機シラン化合物などを活性化させる。尚、プラズマ発生は大気圧下でも減圧下でも良いが、簡易性、作業性を考えると大気圧下の方が良い。
【0015】
極性官能基を含む化合物の層が表面に形成されて極性官能基が付与される態様としては、活性化されたアクリル酸あるいはアリルアミン、または有機シラン化合物などの金属表面への照射により、皮膜形成される場合である。
【0016】
極性官能基と金属表面との化学結合等により直接表面に極性官能基が付与される態様としては、活性化されたアクリル酸あるいはアリルアミン、または有機シラン化合物などから生成された極性官能基が、直接金属表面へ照射される場合である。
【0017】
有機シラン化合物としてはアルキルシラン化合物であるヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、アルコキシシラン化合物としてテトラエトキシシラン(TEOS)が例示できる。
【0018】
金属部表面に付与される極性官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルデヒド基等が例示できる。金属部表面に付与しやすいことから、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基が好ましい。
【0019】
2.樹脂部
樹脂部の態様としては、板状、フィルム状、塊状等が例示でき、複合体の用途にあわせて、金属部と接するように樹脂部を成形時に所定形状にすることが工程の削減になって好ましい。
【0020】
樹脂部に用いられる樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のエンジニアリングプラスチック、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の汎用樹脂等が例示でき、複合体の耐熱性等が向上することから、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が好ましい。また、機械的強度等を向上させるため、樹脂にガラス繊維、無機フィラー等を配合しても良い。
【0021】
ポリフェニレンサルファイド(PPS)としては、分子内に酸素を介して二次元又は三次元の架橋構造を有する架橋型でもよいし、分子が直鎖状になっている(構造単位が一列に繋がっている)リニア型でもよい。
【0022】
樹脂に配合される接着性改質剤としては、容易に樹脂と均一に混合できることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン等を主鎖とし、スチレン系ポリマーを側鎖としたグラフト共重合体を接着性官能基で変性した化合物や、ポリエチレン、ポリスチレン等を接着性官能基で変性した化合物等が例示でき、具体的には、エチレンとスチレンとの共重合体がグリシジルメタクリレートで変性された変性エチレン−スチレン共重合体、ポリエチレンがグリシジルメタクリレートで変性された変性ポリエチレン等が例示できる。
接着性改質剤の含有量は、接着性改質剤の種類(接着性官能基の種類及び接着性改質剤中での接着性官能基の量等)によっても異なり、特に限定はされないが、樹脂と接着性改質剤との合計量100質量部に対し、5〜40質量部であることが好ましい。この値が5質量部未満では、金属部に対する樹脂部の接着性が低下し、40質量部を超えると、樹脂部を成形するときの離型性等が悪くなる。より好ましくは、10〜30質量部である。
【0023】
接着性改質剤に含まれる接着性官能基としては、エポキシ基(グリシジル基中のエポキシ基を含む、以下同じ)、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基等が例示でき、極性官能基と反応しやすいことから、エポキシ基であることが好ましい。
接着性改質剤を配合した樹脂中における接着性官能基の含有量は、樹脂と接着性改質剤の合計量の0.15〜1.2質量%であることが好ましい。この値が0.15質量%未満では、金属部に対する樹脂部の接着性が低下し、1.2質量%を超えると、樹脂部を成形するときの離型性等が悪くなる。より好ましくは、0.3〜0.9質量%である。
【0024】
樹脂に接着性改質剤を配合して成形材料にする配合処理方法としては、一軸又は二軸の押出機等を用いて所定温度で溶融混練し、均一にした後にペレット状等にする方法等が例示できる。
【0025】
金属部と接するように樹脂部を成形する方法としては、金属部と樹脂部との接着及び樹脂部の成形が一度にできることから、内部に金属部が保持されている金型を用いるインサート成形であることが好ましい。インサート成形としては、圧縮成形、射出成形等が例示できる。成形はアニール工程を含んでいてもよい。
【0026】
3.金属と樹脂との複合体
金属と樹脂との複合体の態様としては、板状、箔状、紐状、筒状、柱状、球状、塊状等が例示できる。
金属と樹脂との複合体の用途としては、電子・電部品、建築、土木部材、自動車部品、農業資材、梱包資材、衣料、日用品等、又はこれらを製造するための材料等が例示できる。自動車部品としては、エンジンオイル等をシールするシール部材、ハイブリット車等のバッテリーをシールするシール部材等が例示できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着剤を用いることなく、強固に接着された金属と樹脂との複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0028】
本発明の金属と樹脂との複合体の製造では、プラズマ処理によりカルボキシル基あるいはアミノ基、またはヒドロキシル基が付与された金属表面と、エポキシ基を含む接着改質剤が配合された樹脂表面との化学結合(共有結合)と物理結合(水素結合)により金属と樹脂とが接着されている。
【0029】
金属としてはアルミニウム(A1050)と銅(C1100)を用いた。
【0030】
金属の前処理として、 金属表面を粒度#1,000のサンドペーパで擦って酸化膜を除去した。次いで、23℃の塩酸中に1分間浸漬して表面のエッチングを行った。さらに、強アルカリ脱脂剤(日本パーカライジング社の「FC−E2001」)の70℃の水溶液中に1分間浸漬して脱脂を行った。
【0031】
金属表面へのプラズマ処理として、高周波発信機によりプラズマを発生させる大気圧プラズマ処理装置を用いた。放電用ガスとしてはアルゴンガスを使用し、活性化させる有機物としてはアクリル酸、アリルアミン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)を用いた。
【0032】
プラズマ処理条件としては
アルゴンガス供給量:0.2、1.0、2.0(L/分)
アクリル酸アミン供給量:1.0、2.0(L/分)
アリルアミン供給量:1.0(L/分)
尚、アクリル酸アミン、アリルアミン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)はアルゴンガスをキャリヤーガスとして供給した。
【0033】
樹脂としてはポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0034】
接着性改質剤は、エチレンとスチレンとの共重合体がグリシジルメタクリレート(GMA)で変性された変性ポリエチレン−ポリスチレン共重合体(変性PE/PS)、およびポリエチレンがグリシジルメタクリレート(GMA)で変性された変性ポリエチレン(変性PE)を用いた。また、変性PE/PS、変性PEともグリシジルメタクリレートが10質量%含有しているので、エポキシ基の含有量は3質量%となる。このうち、変性PE/PSは、ポリエチレンを主鎖としスチレン系モノマーを側鎖としたグラフト共重合体に、ポリエチレンがGMAで変性されたエポキシ基(グリシジル基)を接着性官能基とする化合物である。
【0035】
ポリフェニレンサルファイド(PPS)と接着性改質剤の配合比率は80/20(重量比)の固定とした。ラボプラストミル(東洋精機製作所社の「KF70V2」)を用いて320℃、5分間の溶融混練を行って試料を作成した。
【0036】
プラズマ処理した金属片(12mm×15mm)を金型内に配置し、ポリフェニレンサルファイドが溶融する温度の320℃で圧縮成形(ポリフェニレンサルファイド片サイズ 75mm×15m×3mm厚)をして試料を作成した。
【0037】
試料の接着力はJIS K−6850(接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)に準拠して測定した。
【0038】
本実施例と比較例の接着性の評価結果を表-1に示す。樹脂部全体での凝集破壊と樹脂部一部での凝集破壊を合格(接着強度は3MPa以上、○印)、金属部と樹脂部との界面破壊を不合格(接着強度は0MPa、×印)とした。
【0039】
接着性改質剤を配合したポリフェニレンサルファイド[比率は80/20(重量比)]とプラズマ処理した金属との複合体の接着試験では、破断が樹脂破壊であり高い接着力を示している。(アルミニウムの実施例1〜10、銅の実施例11〜20)これは金属表面に付与されたカルボキシル基あるいはアミノ基、またはヒドロシル基と、樹脂中のエポキシ基とが共有結合および水素結合していることに起因すると考えられる。
【0040】
一方、金属表面にプラズマ処理を行わなかった場合(アルミニウムの比較例1〜3、銅の比較例11〜13)、プラズマ処理はしたが極性官能基を付与する有機物を供給しなかった場合(アルミニウムの比較例4〜6、銅の比較例14〜16)、ポリフェニレンサルファイドに接着性改質剤が配合されていない場合(アルミニウムの比較例7〜10、銅の比較例17〜20)は、金属部と樹脂部との界面破壊が生じた。これは金属と樹脂との接着力が弱いため界面での破壊となった。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属よりなる金属部と樹脂よりなる樹脂部とが接着された金属と樹脂との複合体の製造方法であって、
放電用ガス中でプラズマを発生させて、前記プラズマにより生成したラジカルで有機物を活性化させ、その活性化有機物で前記金属部の表面に極性官能基を付与するプラズマ処理と、
前記樹脂に前記極性官能基と相互に作用し合う接着性官能基を含む接着性改質剤を配合して成形材料とする配合処理とを行った後、
前記成形材料を用いて前記金属部と接するように前記樹脂部を成形して、前記金属部と前記樹脂部とを接着させることを特徴とする金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項2】
前記有機物はアクリル酸あるいはアリルアミン、または有機シラン化合物である請求項1記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項3】
前記接着性改質剤はエチレンとスチレンとの共重合体がグリシジルメタクリレートで変性された変性エチレン−スチレン共重合体、又はポリエチレンがグリシジルメタクリレートで変性された変性ポリエチレンである請求項1又は2記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項4】
前記接着性官能基はエポキシ基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂はポリフェニレンサルファイドである請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。
【請求項6】
前記金属はアルミニウム又は銅である請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属と樹脂との複合体の製造方法。

【公開番号】特開2011−140167(P2011−140167A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2153(P2010−2153)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】