説明

金属ガラス成形体及びその製造方法

【課題】圧粉磁心を構成する、強度を向上させることのできる金属ガラス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属ガラスと、前記金属ガラスを覆う無機酸化物からなる絶縁皮膜と、前記金属ガラス及び前記絶縁皮膜の界面に存在する相互拡散層と、からなる金属ガラス成形体の製造方法である。その際、前記製造方法は、前記金属ガラスのガラス転移温度以上結晶化開始温度未満の温度で焼結を行う工程と、前記焼結の工程後において、冷却を開始した後、温度下降させつつ冷却を行う間に、恒温保持する冷却の工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス成形体及びその製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、モータの分野においては、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂等の有機バインダー及びSiO酸化物微粒子を被覆した圧粉磁心材料を、軟磁性粉末に圧粉成形してなる圧粉磁心が、金属ガラス成形体(焼結体)として広く用いられている。
【0003】
さらに、圧粉磁心の強度向上を目的として、軟磁性粉末とSiO酸化物の微粒子とを混合し、得られた粉末(粒子)を圧粉する。これによって、軟磁性粉末をSiO酸化物微粒子からなる絶縁皮膜で被覆し、粒子同士が接合した圧粉磁心に関する技術が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平9−180924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車用駆動モータに対して、高回転化による小型化が強く要求されている。小型化実現のために、特にロータコアの高強度化が求められている。しかしながら、上記特許文献1に開示された圧粉磁心はこれを充足するものではないという問題があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、自動車用駆動モータに対して、高回転化による小型化を実現可能な、金属ガラス成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、金属ガラスを主成分とする基材粒子と、前記基材粒子を覆う無機酸化物からなる絶縁皮膜と、前記基材粒子及び前記絶縁皮膜の界面に存在する相互拡散層と、からなる金属ガラス成形体の製造方法である。そして、前記金属ガラスのガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の温度で焼結を行う工程を含む。また、前記焼結の工程後において、温度下降させつつ冷却を行う間に、恒温保持する冷却の工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、焼結後の冷却過程において、金属ガラスのガラス転移温度以下の所定温度で金属ガラス成形体を恒温保持することにより、金属ガラス成形体における界面強度、ひいては成形体全体の強度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した最良の実施形態を説明する。なお、図面は概略的なものであって、理解の一助とするために誇張しつつ示している。したがって、縮尺等は現実のものと相違する。
【0009】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る金属ガラス成形体の製造方法は、焼結工程及び冷却工程、特に冷却工程中の冷却条件に特徴を有する。具体的には、焼結工程では、金属ガラスを主成分とする基材粒子のガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の間の温度で焼結を行う。また、冷却工程では、前記焼結の工程後において、冷却を開始した後、温度下降させつつ冷却を行う間に、恒温保持する。
【0010】
従来の金属ガラス成形体の強度不足の原因として、金属ガラス成形体における基材粒子と絶縁皮膜(無機酸化物)との間の界面の密着性が不足している点が挙げられる。かかる強度の低い金属ガラス成形体を高回転の小型モータに用いた場合、金属ガラス成形体が脆いためすぐに割れてしまうという欠点があり、かような金属ガラス成形体は小型モータに適さない。したがって、基材粒子と絶縁皮膜との界面の強度を向上させる必要がある。
【0011】
そこで、本実施形態の製造方法は、上述の通り、焼結工程及び冷却工程、特に冷却工程中の冷却条件に特徴を有する。また、上記冷却の工程に起因する相互拡散層にも特徴を有する。以下、焼結工程及び冷却工程について図1を用いつつ詳細に説明する。
【0012】
なお、本明細書における「相互拡散層」とは、基材粒子に由来する元素と、無機酸化物からなる絶縁皮膜に由来する元素との間の相互拡散によって生じる層を表す。また、以下では、(ii)の工程で形成する相互拡散層4を、(iv)の工程で更に形成する相互拡散層4と説明の便宜上区別するため、前者を第1相互拡散層(4)、後者を第2相互拡散層(4)ともいう。即ち、第2相互拡散層とは、本発明に係る製造方法により得られる金属ガラス成形体中の相互拡散層と同義である。
【0013】
前記恒温保持の温度は、前記金属ガラスがアモルファス状態を保持できる前記金属ガラスのガラス転移温度以下であり、且つ前記基材粒子及び前記絶縁皮膜に由来する金属元素の拡散を促進できる温度であることが好ましい。
【0014】
図1は、本実施形態の金属ガラス成形体1の製造方法を示すフローチャートである。前記製造方法は、下記の(i)〜(iv)の工程を含むことを特徴とする。(i)の工程は、基材粒子2の表面に無機酸化物からなる絶縁皮膜3を形成する工程である。(ii)の工程は、絶縁皮膜3で被覆した基材粒子2を熱処理して、基材粒子2及び絶縁皮膜3の境界に各々の構成元素(主に金属元素)が拡散してなる(第1)相互拡散層4を形成する工程である。(iii)の工程は、前記熱処理後の粉末を焼結する工程である。より具体的には、基材粒子のガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満で焼結を行う工程である。(iv)の工程は、前記焼結後に得られる焼結体を冷却する工程である。より具体的には、前記焼結の工程後において、冷却を開始した後、温度下降させつつ冷却を行う間に、所定の温度で恒温保持する冷却の工程である。前記所定の温度は、前記金属ガラスがアモルファス状態を保持でき、前記基材粒子のガラス転移温度以下であり、並びに、基材粒子2及び絶縁皮膜3に由来する(金属)元素の拡散を促進できる温度である。(iv)の工程の際、前記恒温保持によって元素拡散を促進することができる。そして、第1相互拡散層4の厚みが更に増した相互拡散層(以下、「第2相互拡散層4」ともいう)を形成することができる。前記恒温保持による本発明の技術的原理を以下、更に詳細に説明する。
【0015】
相互拡散層4自体は、(ii)の工程により形成することができる(第1相互拡散層4)。しかしながら、かかる第1相互拡散層4では、金属ガラス成形体1中の界面強度、ひいては成形体強度が、小型モータへの適用可能なレベルの高い強度まで達することは困難である。具体的には、元素拡散が不十分であるため、第1相互拡散層4の厚さは十分なものとはいえず、十分な強度が得られない。そこで、(iv)の工程において、所定の温度で恒温保持する冷却の工程であることとすることにより、焼結後の恒温保持中に元素が十分に拡散し、もともと焼結後にできていた膜の中にある基材粒子の元素と絶縁剤の元素との拡散領域が広くなる。その結果、第1相互拡散層4の厚みが有意に増し、第2相互拡散層4となる。これにより、金属ガラス成形体1中の界面強度が有意に向上するとともに、得られる金属ガラス成形体1(焼結体)の強度が、小型モータへの適用可能なレベルの高い強度にまで達する。なお、図1中、(iii)の焼結工程及び(iv)の冷却工程の後に得られる粉粒体については、各層の図示を便宜上省略している。しかし、これらの粉粒体においても基材粒子2、絶縁皮膜3及び第1相互拡散層4(第2相互拡散層4)が存在することは本願を見た当業者であれば容易に推測可能である。
【0016】
上記(i)の工程において、まず、基材粒子2を用意する。基材粒子2は、金属ガラスを主成分とする。基材粒子が、「金属ガラスを主成分とする」とは、金属ガラス以外に、金属ガラス以外の金属元素などを含んでもよいことを意味する。金属ガラス以外の金属元素として、例えば、Al、Ni、Cu、Mg、Tiなどの延性が高い金属が挙げられ、中でも好ましくはAlである。これらの金属原子を前記基材粒子に含ませることにより、成形体の割れを防げるという有利な効果を奏する。基材粒子における金属ガラスの含有量は、基材粒子の全質量100質量%に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90〜100質量%であることが特に好ましい。
【0017】
金属ガラスは、非晶質相を有する金属または合金であってガラス転移を示すものであれば特に制限されないが、好ましくは鉄基金属ガラス(強磁性を有する鉄(Fe)を主成分として含む金属ガラスとも言い得る)である。金属ガラスは高強度、しなやか(低ヤング率)、高耐食性、優れた電気特性(高透磁率)、優れた成形加工性、優れた鋳造性、表面平滑性などの様々な優れた特徴を有する。金属ガラスにおける主成分としてのFeの含有率は特に制限されないが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%であることが特に好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。なお、前記「鉄を主成分として含む」とは、金属ガラスが強磁性を有するための主要成分という意味であり、本発明では鉄をかかる主要成分とする。また、前記金属ガラスはFe以外の成分として、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、リン(P)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及びモリブデン(Mo)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。金属ガラスの具体的な組成について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる
基材粒子2の平均粒径は、本発明の属する技術分野で通常用いられている範囲である限り、特に制限されることはない。なぜなら、本発明では、基材粒子2をTg以上の範囲で昇温すれば、十分に塑性変形を生じ、金属ガラス成形体における界面強度、ひいては焼結体強度が有意に向上する。そして、前記塑性変形の度合と平均粒径とは殆ど関係がないといえるからである。前記基材粒子の平均粒径は1μm以上であることが好ましく、4000μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが特に好ましく、20μmであることが最も好ましい。かかる範囲の場合、密度が有意に大きくなり、強度が向上するためである。なお、本明細書における平均粒径は、粒度分布測定法により、Pertica(LA−950、HORIBA製)を用いて測定する。
【0018】
絶縁皮膜3を形成するための無機酸化物として、以下に制限されることはないが、例えばアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)、ホウ素(B)などの酸化物、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも好ましくは酸化アルミニウム(Al)である。特に、酸化アルミニウムを無機酸化物として用いると、基材粒子の強度が向上しうる。また、金属ガラス2の表面を無機酸化物(絶縁皮膜3)で覆う方法として、以下に制限されることはないが、例えば湿式コーティング、流動層コーティング、ゾルゲル法、手塗りなどが挙げられる。絶縁皮膜3の厚さは、1nm以上であることが好ましく、10nm〜1000nmであることがより好ましく、50〜100nmであることが特に好ましい。かかる範囲の場合、金属ガラス成形体の電気比抵抗が向上し、渦損を小さくすることができる。熱処理の時間は、数分以上であることが好ましく、数分〜数十分であることがより好ましく、約30分であることが特に好ましい。
【0019】
上記(ii)の工程において、熱処理の時間は、数分以上であることが好ましく、数分〜数十分であることがより好ましく、約30分であることが特に好ましい。一方、熱処理の温度については、金属ガラスの材質等、即ち金属ガラスが有するTgの値によって好適な範囲が異なる。そのため、好ましくはTg未満、より好ましくは「Tg−50℃」未満、さらに好ましくは「Tg−150℃以下」である限り、熱処理の温度は特に制限されない。
【0020】
相互拡散層4は、上記した元素拡散の結果として得られる層であり、基材粒子2と絶縁皮膜3との界面(境界領域)において、これらの構成元素(主に金属元素)が熱処理によって相互に拡散してなる層である。なお、本明細書における「相互拡散層」は、後述する方法により測定した原子濃度(単位:atom%)によって規定する。即ち、前記相互拡散層とは、基材粒子と絶縁皮膜との間に厚さ0.05μm以上存在し、金属ガラス由来の鉄の原子濃度が24原子%以上、及び、絶縁皮膜由来の金属原子濃度が20原子%以上を含有する。
【0021】
相互拡散層4の形成は、原子濃度の分布により確認することができる。本明細書における原子濃度は、上記オージェ電子分光法(AES)のライン分析により測定した値であり、測定に用いる装置はPHI製のModel−680である。第1相互拡散層4中の金属原子(FeやAl)の含有率(原子%)、及び第1相互拡散層4の厚さについては特に制限されない。なぜなら、後記(iv)の工程で形成する第2相互拡散層4において、上記含有率や厚さが明確に規定されるためである。
【0022】
上記(iii)及び(iv)の工程において、本発明では、上述のように、焼結工程及び冷却工程における「恒温保持」を行うことを特徴とする。しかし、双方の工程における「恒温保持」は意味が全く相違する。そこで、以下、詳細に説明する。なお、図1中、金属ガラス成形体1の各構成部分(金属ガラス2、絶縁皮膜3及び相互拡散層4)については、便宜上、図示を省略している(後述の図2が参考となりうる)。
【0023】
まず、上記(iii)の工程において、焼結工程における「恒温保持」とは、Tg以上Tx未満の温度域で保持することを意味する。短時間の保持(焼結時間)とすることにより、金属ガラス成形体1の結晶化を防止でき、金属ガラス成形体1における界面強度、ひいては焼結体強度の向上が実現する。前記「短時間」の具体的な時間としては、好ましくは数分〜数十分、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下である。焼結温度(例えば金型で制御する温度)の条件としては、昇温開始時の温度は特に制限されない。また、昇温速度や、インキュベートの有無などの温度条件についても特に制限されない。焼結温度の上限値は、金属ガラスのTg以上Tx未満の範囲である限り、特に制限されない。
【0024】
金属ガラスが一旦アモルファス状態を脱すると、一気に結晶化してしまい、もはやアモルファス状態には戻らない。結晶化した金属ガラスは非常に硬くて脆いため割れやすくなり、得られる金属ガラス成形体の強度が非常に低下することとなる。したがって、金属ガラスがアモルファス相を主相とする状態を保持するような構成にすることが重要となる。そのためには、金属ガラス2がガラス転移点(Tg)及び結晶化開始温度(Tx)を有し、TgとTxとの間の温度幅を表す過冷却温度領域(ΔTx)は20K以上であることが好ましい。また、前記過冷却温度領域ΔTxは高い値であるほどより好ましいため、ΔTxの上限は特に制限されない。かかる場合、オーバーシュートの虞がなく、焼結体(金属ガラス成形体)の結晶化を好適に防止でき、さらには加工性にも一層優れる。また、ΔTxは大きな値であるほど好ましく、ΔTxの上限は特に制限されない。かかる場合、オーバーシュートの虞がなく、焼結体(金属ガラス成形体1)の結晶化を好適に防止でき、さらには加工性にも一層優れる。換言すれば、上記の範囲にある場合、金属ガラスをガラス転移点(Tg)付近で維持させても、金属ガラスは殆ど結晶化することなく、アモルファス状態を安定に保持することができる。その結果、金属ガラス中の鉄原子の拡散を促進することができるため、金属ガラス2と絶縁皮膜3との間に(第2)相互拡散層4が形成されて界面強度が有意に向上し、強度の高い金属ガラス成形体1を得ることができる。
【0025】
さらに、焼結工程における恒温保持の温度は、好ましくは「Tg以上」であり、より好ましくは「Tg以上、Tx未満」であり、特に好ましいのは「((Tg+Tx)/2)℃」である。上記した範囲の温度は、アモルファス状態を安定して保持できる温度である。このように、上記した範囲にある温度の場合、アモルファス状態を維持しつつ、緻密な構造を有する、全体として高強度な金属ガラス成形体1を製造することができる。
【0026】
次に、上記(iv)の冷却工程における「恒温保持」とは、焼結後の冷却過程において、単に連続的に温度下降させるのではなく、基材粒子由来の鉄(Fe)と無機酸化物由来の金属元素との更なる拡散が促進できるTg以下の温度で一旦恒温保持する。前記冷却過程の温度下降中に、所定の温度下で金属ガラス成形体1を恒温保持することにより、前記基材粒子と前記絶縁皮膜との界面における強度の向上した金属ガラス成形体1を得ることができる。
【0027】
かかる(iv)の工程において、恒温保持の温度は、恒温中の「振れ幅」を含めて、Tg以下の温度が好ましい。さらに、前記恒温保持の温度は、Tgより低い温度がより好ましく、「Tg−(150〜270)℃」がさらに好ましく、200℃〜320℃が特に好ましく、200〜300℃が最も好ましい。上記した範囲にある場合、上述の元素拡散を更に一層促進することにより、第1相互拡散層4に比して第2相互拡散層4の厚さを有意に増すことができる。これにより、金属ガラス成形体1中の界面強度が向上し、ひいては得られる金属ガラス成形体1の強度が向上する。なお、恒温保持の温度と金属ガラスのTgとの差は、特に制限されることはない。
【0028】
(iv)の工程(冷却工程)全体の所要時間としては、特に制限されない。冷却工程中の恒温保持の時間としては、好ましくは10秒以上、より好ましくは90分以下、さらに好ましくは10分以下、特に好ましくは5分である。ここで、冷却工程における最終の温度は特に制限されず、例えば、本発明の属する技術分野において従来より設定されている最終温度であればよい。
【0029】
さらには、上記した(iv)の工程中の恒温温度の範囲は、金属ガラス2がアモルファス状態を保持でき、並びに、金属ガラス2及び絶縁皮膜3に由来する金属元素の拡散を促進できる温度の範囲としても好ましい。上述のように、金属ガラスが一旦アモルファス状態を脱すると、一気に結晶化してしまい、もはやアモルファス状態には戻らない。結晶化した金属ガラスは非常に硬くて脆いため割れやすくなり、得られる金属ガラス成形体の強度が非常に低下することとなる。したがって、金属ガラスがアモルファス相を主相とする状態を保持するような構成にすることが重要となる。
【0030】
以上の観点から、上記した(iv)の工程中の恒温温度の範囲は、金属ガラス2のTg以下であるとともに、金属ガラス2がアモルファス状態を安定的に保持できる温度範囲である。そして、基材粒子2及び絶縁皮膜3に由来する金属ガラス元素が積極的かつ容易に拡散できる温度でもある。(ii)の工程での熱処理により行った元素拡散について、(iv)の工程で更に拡散を促進させることにより、結果的に得られる金属ガラス成形体1の強度が向上する。(iv)の工程における元素拡散から、最終的に得られる金属ガラス成形体1の焼結体強度の向上までの原理については、上述した通りである。
【0031】
前記(iv)の工程中の恒温保持は、上記した好ましい温度範囲内であれば、1回の恒温保持であっても2回以上(複数回)の恒温保持であってもよい。例えば、2回の恒温保持を行う場合にあっては、1回目の恒温保持を310℃(Tg以下)で行い、その後、250℃まで温度下降し、それから250℃で2回目の恒温保持を行う。その後、所望の温度までさらに温度下降を行う。なお、冷却に要する総時間、及び冷却過程中の恒温保持の時間は特に制限されない。
【0032】
第2相互拡散層4は、前記無機酸化物がAlである場合に、24原子%以上のFe及び20原子%以上のAlを含有することが好ましい。
【0033】
本明細書において、第2相互拡散層4の厚さも、上記AESのライン分析によって測定した値により規定する。第2相互拡散層4の厚さは、第2相互拡散層4の厚さは、0.05μm以上であることが好ましく、0.05μm〜1μmであることがより好ましく、0.1〜0.5μmであることがさらに好ましい。上記した厚さの範囲内にある第2相互拡散層4の存在により、金属ガラス成形体における界面強度(金属ガラスと絶縁皮膜との界面強度)が向上し、ひいては焼結体強度が有意に向上する。そして、前記焼結体強度の有意な向上は、冷却工程の際の恒温保持と元素の相互拡散との関係に起因する、上記した本発明の技術的原理に基づくものである。
【0034】
このような、焼結工程及び冷却工程を含む本実施形態の製造方法により、金属ガラス成形体1中の界面における元素拡散が促進する。そして、かかる元素拡散の促進により、金属ガラス成形体中の界面強度が有意に向上する。そして、かかる界面強度の向上により、得られる金属ガラス成形体(焼結体)の強度が有意に向上する。
【0035】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、上記第1実施形態による金属ガラス成形体の製造方法により得られる金属ガラス成形体に係る。図2に示すように、金属ガラス成形体1は、構成上、金属ガラスを主成分とする基材粒子2と、基材粒子2を覆う無機酸化物からなる絶縁皮膜3と、基材粒子2及び絶縁皮膜3の界面に存在する(第2)相互拡散層4とからなる。なお、図2は、本実施形態に係る金属ガラス成形体1の一部を示す断面図である。
【0036】
換言すれば、本実施形態の金属ガラス成形体1は、金属ガラスを主成分とし、ガラス転移点及び結晶化開始点を有する基材粒子2を用い、これを主成分としたものを焼結、冷却させて得ることができる。
【0037】
金属ガラス成形体1、並びにこれを構成する基材粒子2、絶縁皮膜3及び(第2)相互拡散層4については、上記第1実施形態で述べた内容がそのまま本実施形態において該当するため、詳細な説明は省略する。なお、第2相互拡散層4の好ましい含有率及び厚さも、上記第1実施形態で述べたことと同様である。
【0038】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態は、モータである。本実施形態は、上記第1実施形態の金属ガラス成形体の製造方法により得られる金属ガラス成形体、または上記第2実施形態の金属ガラス成形体を適用する。本発明に係る金属ガラス成形体は、例えば電動モータ用のロータやステータなどに適用することができ、高強度で鉄損の少ないコアを実現することができる。同時に、前述の通り、小型モータへの適用可能なレベルの高い強度を有する。したがって、本発明に係る金属ガラス成形体をモータに用いた場合、かかる大きな出力トルクを小型モータで実現することができる。
【0039】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態は電動駆動車両である。本実施形態は、上記第3実施形態のモータを搭載する。モータの小型化によって、エンジンルームの中の自由度を一層高めることが可能となる。
【実施例】
【0040】
本発明に係る金属ガラス成形体の効果を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されることはない。
【0041】
<試料の調製>
(実施例1)
Feを主成分とする平均粒径20μmの金属ガラスの粉体 Fe77 Mo2 P10 C4 B4 Si3(Fe:77atom%、Mo:2atom%、P:10atom%、C:4atom%、B:4atom%、Si:3atom%)3gを用意した。溶媒(酢酸3−メチルブチル)に薄めたアルミ酸化物(絶縁コート剤(ALコート剤):AL−03−P、高純度化学研究所(株)、GENERAL CATALOGUE 第25頁)を前記金属ガラスに塗布して湿式コーティングを行った。なお、形成された絶縁皮膜の厚さは50〜100nmであった。上記の金属ガラスは、44Kの過冷却温度領域(ΔTx)を有していることを確認した(Tg:741K(468℃)、Tx:785K(512℃))。
【0042】
上記の粉体を400℃で30分間熱処理した後、大気圧から6Pa以下になるまで真空にし、荷重5t/cmをかけながら、440℃で3分間恒温保持しつつSPS焼結を行った(焼結工程)。なお、前記「440℃」は金型制御温度であり、金型温度は金型内部にある粉体より50℃低いため、粉体の温度としては490℃である。その後、冷却過程(冷却工程)中、300℃(金属ガラスのTg:468℃より低い)で5分間恒温保持した。なお、前記「300℃」は金型制御温度であり、金型内部の焼結体の温度は上記と同様の事情により350℃である。そして、厚さ3mm、サイズ口(四方形の縦横)10mmの焼結体を成形した。
【0043】
(比較例1)
SPS焼結プロセスにおける冷却過程(冷却工程)中、300℃での恒温保持を行わず、連続的に温度を降下させて冷却工程を実施した点以外は、実施例1と同様の条件で焼結体を成形した。
【0044】
なお、図3は、実施例1及び比較例1における焼結及び冷却の工程の温度及び時間の関係を示すグラフである。なお、図3について説明すれば、焼結開始後、1回目の恒温状態(約440〜450℃)が工程(iii)の3分間恒温保持に対応する。そして、焼結開始後、2回目の実施例における恒温状態(約300℃)が工程(iv)の5分間恒温保持に対応する。また、グラフにおいて、約440℃の高さ付近に引かれた横方向の線は、金属ガラスのTg(正確には[Tg−50℃])に該当する。
【0045】
<評価>
[金属ガラス成形体の強度測定]
金属ガラス成形体(厚さ3mm、サイズ口10mm)の強度を測定するため、焼結体から2×3×10mmサイズのテストピースを切り、強度測定を行った。
【0046】
テストピースの強度測定は、3点曲げによる抗折試験を3回行い、測定値を平均した。装置は、小型デジタル万能試験機 型式5867(Instron社製)を用いた。測定は、負荷容量10kNのロードセール、試験速度0.1mm/分、試験温度23℃、サポートスパン6mmの条件で行った。
【0047】
上記実施例1及び比較例1で得られた結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、金属ガラス成形体に対し、焼結後の冷却過程において、所定の恒温保持を行ったことにより、金属ガラスが結晶化せず、かつ、金属ガラスのFeと無機酸化物のAlとの元素拡散が促進した。かかる元素拡散により発生した相互拡散層に起因して、金属ガラス成形体中の界面強度が向上し、金属ガラス成形体(焼結体)全体の強度が25%向上した。自動車用の高回転の小型モータに使用した場合、高回転体に十分耐えうることを本発明者らは確認している。
【0050】
図4は、実施例1及び比較例1で比較した場合の、金属ガラス成形体における界面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真、及び前記界面近傍における原子濃度を示すグラフである。図(写真)中、(A)は比較例1を示し、(B)は実施例1を示す。写真中、黒色部分は、大部分が絶縁皮膜に相当し、ごく一部、空隙部分も存在する。その他の部分は金属ガラスに相当する。一方、原子濃度を示すグラフのうち、黒色部分において原子濃度が減少しているのは鉄(Fe)のチャートであり、反対に、原子濃度が上昇しているのはアルミニウム(Al)及び酸素(O)のチャートである。
【0051】
まず、実施例1と比較例1との間の、金属ガラス成形体の界面近傍の電子顕微鏡写真を比較すると、比較例1よりも実施例1の方が有意に、金属ガラス由来のFe及び絶縁皮膜由来のAlが拡散していることが分かる。換言すれば、比較例1における、熱処理によって生じた相互拡散層の厚さと比較して、実施例1における、熱処理及び恒温保持を含む冷却過程によって生じた相互拡散層の厚さは有意に増していることが分かる。即ち、恒温保持を含む冷却過程を通じて、(単なる熱処理のみと比べて)顕著に元素拡散が促進することを見出した。
【0052】
このような元素拡散が促進する程、前記界面の強度は一層向上する。したがって、図4の結果より、本発明(実施例1)では、比較例1に比べて、金属ガラス成形体を構成する粒子同士の界面の強度、ひいては得られる金属ガラス成形体の強度を有意に向上させることができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る金属ガラス成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る金属ガラス成形体の一部を示す断面図である。
【図3】実施例1及び比較例1における焼結及び冷却の工程の温度及び時間の関係を示すグラフである。
【図4】実施例1及び比較例1で比較した場合の、金属ガラス成形体中の界面を示す走査型電子顕微鏡写真、及び前記界面近傍における原子濃度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1 金属ガラス成形体、
2 基材粒子、
3 絶縁皮膜、
4 相互拡散層、第1相互拡散層、第2相互拡散層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラスを主成分とする基材粒子と、
前記基材粒子を覆う無機酸化物からなる絶縁皮膜と、
前記基材粒子及び前記絶縁皮膜の界面に存在する相互拡散層と、
からなる金属ガラス成形体の製造方法であって、
前記金属ガラスのガラス転移温度以上結晶化開始温度未満の温度で焼結を行う工程と、
前記焼結の工程後において、温度下降させつつ冷却を行う間に、恒温保持する冷却の工程とを含む、金属ガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記恒温保持の温度は、前記金属ガラスがアモルファス状態を保持できる前記金属ガラスのガラス転移温度以下であり、且つ前記基材粒子及び前記絶縁皮膜に由来する金属元素の拡散を促進できる温度である、請求項1に記載の金属ガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記恒温保持の温度は200〜320℃である、請求項1または2に記載の金属ガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ガラス成形体の製造方法により得られる、金属ガラス成形体。
【請求項5】
前記金属ガラスは鉄基金属ガラスである、請求項4に記載の金属ガラス成形体。
【請求項6】
前記無機酸化物は酸化アルミニウムであって、前記相互拡散層は、24原子%以上のFe及び20原子%以上のAlを含有し、厚さが0.05〜1μmである、請求項4または5に記載の金属ガラス成形体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ガラス成形体の製造方法により得られる金属ガラス成形体、または請求項4〜6のいずれか1項に記載の金属ガラス成形体を適用した、モータ。
【請求項8】
請求項7に記載のモータを搭載した、電動駆動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−138438(P2010−138438A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314967(P2008−314967)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】