説明

金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維の製造法

【課題】 簡便な操作により、炭素材料を担体とし可及的に微細且つ均一に金属微粒子を担持して触媒等として有用な構造体を調製する技術を提供する。
【解決手段】 ナノメートルサイズの金属微粒子が炭素ナノ繊維に担持された金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維を製造する方法であって、目的の金属の炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体を溶かした有機溶媒中に炭素ナノ繊維を懸濁させて水素雰囲気下で懸濁液を室温で攪拌することにより、前記金属錯体をナノ微粒子化する工程を含む方法。水素化反応や水素化分解反応に触媒活性を有する構造体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノテクノロジーの技術分野に属し、特に、ナノメートルサイズの金属微粒子を含む構造体を製造するための新規な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズの金属微粒子を含む構造体は、例えば、種々の化成品の触媒的合成に広く用いられ、更には、環境触媒や水素貯蔵およびとりだし反応等に利用が見込まれている。金属微粒子の化学的および物理的特性は、粒子の形状やサイズに大きく依存するが、一般にナノサイズの金属微粒子は化学的反応性が高く、容易に粒子が合体して大きなサイズになり、その特性を失う(非特許文献1)。
【0003】
上記現象を防ぐために、金属微粒子を固体の担体上に分散させる手法がある。例えば、担体として二酸化ケイ素、酸化アルミニウムやゼオライト等の、細孔構造を有し表面積の大きなものが用いられているが、より安価な担体が望まれている。
【0004】
上記担体に代え、活性炭に代表される炭素材料も金属微粒子の担体として多く用いられている。活性炭は、多孔性で表面積が大きく、表面はフェノール性水酸基、カルボキシル基、無水カルボン酸、カルボニル基、γおよびδ−ラクトン等様々な酸素官能基を有しており、この部分に金属が優先的に担持されやすい(非特許文献2)。しかしながら、活性炭はその微細構造が明らかではなく、表面構造が均質ではないことから、金属を担持した際の金属粒子の分散度や粒子系制御が必ずしも十分ではない。さらに原材料の種類により金属担持触媒の活性が異なるなど、再現性にも問題がある。
【0005】
その他の炭素材料として、構造の明らかな炭素材料である炭素ナノチューブ(CNT)なども知られている。しかし、金属を担持するには、CNT表面の活性が低く、酸化処理を施さなければならず、しばしば前処理として硝酸などの強酸性条件を必要とする(非特許文献3)。
【0006】
金属担持CNT触媒を合成する際、表面処理をしない手法も報告されているが、超臨界二酸化炭素が必要であったり(非特許文献4)、担持量が0.2重量%と低かったり(非特許文献5)、反応時間と共に粒子径が大きくなる(非特許文献6)など、汎用性や実用性に欠ける。
【0007】
近年、新しい炭素材料として、特徴的なナノ構造を有する炭素繊維(いわゆるカーボンナノファイバ:CNF、もしくはグラファイトナノファイバ:GNF)の製造法が開発され(非特許文献7−10、特許文献1、2)、金属ナノ微粒子炭素ナノ繊維が、金属担持触媒(非特許文献11)、電気化学キャパシタ用電極(特許文献2)、燃料電池用電極(非特許文献12)への応用が期待されている。
【0008】
CNFを含め、炭素材料への金属微粒子の担持方法としては、担持媒体を触媒活性のある金属種の金属塩溶液に懸濁させ物理吸着(含浸)させた後、還元雰囲気下、高温で処理する方法が主に用いられている(非特許文献13)。しかしながら、この手法では、金属塩を還元する際に長時間にわたる高温処理が必要であり、それに伴う金属の凝集による分散度や粒子系制御が必ずしも十分ではない。
【0009】
それに対し、界面活性剤存在下、金属塩を溶液中で水素化ホウ素ナトリウムやカリウム塩で還元してコロイド粒子を形成した後、担持媒体に含浸する方法が報告されている(非特許文献14)。しかしこのコロイド法では、金属塩の濃度や溶媒,界面活性剤の種類といった反応条件で、炭素担体への金属の含浸の深さや分散が決まるため、条件設定が難しい。さらに得られる担持触媒に還元剤残渣が混入してしまい、純度の高い担持触媒の合成が難しい。
【0010】
一方、還元剤残渣の混入を抑えるために、有機金属錯体を前駆体に用いる合成法も知られている。例えば金属カルボニル錯体の熱分解によりナノ金属微粒子担持CNFが報告されている(非特許文献15)。しかしながら、この方法では熱分解に100度上の加熱が必要であり、さらに金属担持量を制御することができない。
【0011】
本発明者らは、先にCNFを用い金属微粒子がCNFに担持された構造体を調製する手法を案出した(特許文献3)。この手法は、ナノメートルサイズの金属微粒子を微細且つ均一に炭素材料に担持し得る数少ない技術であるが、目的の金属のカルボニル錯体を溶かした有機溶媒中にCNFを懸濁させ、該懸濁液を特定温度で加熱還流するなどの操作を必要とする。
【特許文献1】特開2004−2052号公報
【特許文献2】特開2005−23468号公報
【特許文献3】特開2006−281201号公報
【非特許文献1】MetalNanoparticles, D. L. feldheim, C. A. Foss, Jr. Eds.; Marcel Dekker: New York, 2002
【非特許文献2】H. Marsh, F. Rodriguez-Reinoso,Activated Carbon, Elsevier: UK, 2006
【非特許文献3】W. Li, C.Liang, J. Qiu, W. Zhu, H. Han, Z. Wei, G. Sun, Q. Xin, Carbon, 40, 787 (2002)
【非特許文献4】X. R. Ye, Y.Lin, C. M. Wai, Chem. Commun., 642 (2003)
【非特許文献5】J. M.Plancix, N. Goustel, B. Coq, V. Brotons, P. S. Kumbhar, R. Dutartre, P.Geneste, P. Bernier, P. M. Ajayan, J. Am. Chem. Soc., 116, 7935 (1994)
【非特許文献6】H. C. Choi,M. Shim, S. Bangsaruntip, H. Dai, J. Am. Chem. Soc., 124, 9058 (2002)
【非特許文献7】H. Murayama,T. Maeda, Nature, 345, 791 (1990)
【非特許文献8】M.-S. Kim,Dr. Thesis, Auburn University (1991)
【非特許文献9】A. Tanaka,S.-H. Yoon, I. Mochida, Carbon, 42, 591 (2004)
【非特許文献10】A. Tanaka,S.-H. Yoon, I. Mochida, Carbon, 42, 1291 (2004)
【非特許文献11】P. Serp, M.Corrias, P. Kalck, Applied Catalysis A: General, 253, 337 (2003)
【非特許文献12】K. Sasaki,K. Shinya, S. Tanaka, Y. Kawazoe, T. Kuroki, K. Takata, H. Kusaba, Y. Teraoka,Mater. Res. Soc. Symp. 835, K7.4.1 (2005)
【非特許文献13】P. Serp, M.Corrias, P. Kalck, Appl. Catal. A, 253, 337 (2003)
【非特許文献14】A. Roucoux,J. Schulz, H. Patin, Chem. Rev., 102, 3757 (2002)
【非特許文献15】Y. Motoyama,M. Takasaki, K. Higashi, S.-H. Yoon, I. Mochida, H. Nagashima, Chem. Lett. 35, 876 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、簡便な操作により、炭素材料を担体とし可及的に微細且つ均一に金属微粒子を担持して触媒等として有用な高い活性と耐久性を示す構造体を調製する新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を行なった結果、表面構造が制御された炭素材料である炭素ナノ繊維を担体として用い、且つ、特定の構造の有機金属錯体を金属微粒子源とすることによって、如上の目的が達成されることを見出し、本発明を導き出した。
【0014】
かくして、本発明は、ナノメートルサイズの金属微粒子が炭素ナノ繊維に担持された金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維を製造する方法であって、炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体を溶かした有機溶媒中に炭素ナノ繊維を懸濁させて、水素雰囲気下で懸濁液を室温で攪拌することにより、前記金属錯体をナノ微粒子化する工程を含むことを特徴とする方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従えば、加熱などの操作を必要とせず、炭素ナノ繊維を懸濁させた前記金属錯体溶液を水素雰囲気下、室温で懸濁液を攪拌するという極めて簡便な操作で、粒子径の制御された金属微粒子が炭素表面に高度に分散したナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維から成る構造体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において用いられる炭素ナノ繊維(カーボンナノファイバー)とは、よく知られているように、サブミクロンオーダーの繊維径をもつ炭素繊維であり、炭素ヘキサゴン表面の配列が繊維軸に垂直なもの、ある角度をもつもの、あるいは平行なものの3種類に分類され、それぞれ、プレートレット(平板積層)、ヘリングボーン(魚骨状積層)、チューブラー(筒状)と名付けられている(例えば、「高圧ガス、Vol.41, No.2,
10-18頁(2004)」参照)。本明細書においては、プレートレット(平板積層)炭素ナノ繊維をCNF−P、ヘリングボーン(魚骨状積層)炭素ナノ繊維をCNF−H、チューブラー(筒状)炭素ナノ繊維をCNF−Tと略記していることがある。このような炭素ナノ繊維は、公知の方法で得ることができる(例えば、特許文献1、2)。市販の例は、米国のCatalytic Materials LLC社の製品であり、CNF−Pについては「Platelet GNF」、CNF−Hについては「Herringbone」、CNF−Tについては「Multi-walled Nanotubes」の商品名で、いずれも純度99.0%の製品として販売されている。
【0017】
本発明の方法は、目的の金属(金属微粒子を構成する金属の)炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体を溶かした有機溶媒中に如上の炭素ナノ繊維を懸濁させてその有機金属錯体を分解するという簡便な操作のみから成る。炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体の分解は、上記錯体を溶解し炭素ナノ繊維を懸濁させた液を水素雰囲気下に室温で攪拌することによって行なわれる。ここで、炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体とは、当該錯体において金属に配位する部位が、炭素−金属結合を形成する有機配位子から本質的に構成され、無機成分(例えば、ハロゲン原子)は関与しないような構造を有する錯体を指称する。
【0018】
かくして、有機溶媒として、上記錯体を溶かし炭素ナノ繊維を懸濁させ得るものを用い、室温で上記錯体の分解が起こる温度で攪拌すればよい。例えば、炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体がPt(dba)[dba=ジベンジリデンアセトン]の場合は、テトラヒドロフランを用いて当該錯体を溶解し炭素ナノ繊維を懸濁させた懸濁液を、水素雰囲気下、室温で攪拌する。また、上記の要件を満たす限り、他の有機溶媒(例えば、ベンゼン、ジクロロエタン、ジメトキシエタンなど)を使用することもできる。
【0019】
なお、本発明で用いられる金属錯体は、上述のように水素雰囲気下に分解して金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維を形成し得るものであるが、必要に応じて、反応を促進させるために加熱することはできる。
【0020】
以上のような水素雰囲気下で攪拌工程の生成物は、その後、ろ過、洗浄および乾燥に供され、所望の構造体が得られる。このようにして得られた本発明の金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維は、ナノメートルサイズの比較的均一な粒子径の金属微粒子が炭素表面に高度に分散した構造を呈している。なお、本発明におけるナノメートルサイズの金属微粒子とは、後述の実施例にも記すように、一般に、1〜10nmの範囲の金属微粒子を指称する。
【0021】
本発明が適用される金属の種類の好ましい例として、白金族金属を含む遷移金属が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体を形成し得る各種の金属について本発明を適用することができる。ここで炭素−金属結合を有する有機配位子の例としては、エチレン、プロピレン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、ジベンジリデンアセトン等のアルケン類、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、アリル基、メタリル基等のアリル誘導体、フェニル基やトリル基等のアリール基、アセチレン、フェニルアセチレン、ジフェニルアセチレン等のアルキン類、ならびにカルボニルなどが挙げられ、配位結合または共有結合(シグマ結合)として炭素−金属結合を形成するものが使用される。
【0022】
本発明において使用されるのに好ましい有機金属錯体は、有機配位子としてアルケン類を含むものであり、例えば、Ru(cod)(cot) [cod=1,5-シクロオクタジエン;cot=シクロオクタトリエン]、Ru(η-C6H6)(η-1,3-C6H8)、Ru(η3-C3H5)(nbd)[nbd=ノルボルナジエン]、Co(C8H13)(cod)、Ni(cod)2、Ni(η3-C3H5)2、Pd(η3-C3H5)2、Pd2(dba)3(CHCl3)[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pd(dba)2、Pt(η3-C3H5)2、Pt(dba)2、Pt(cod)2、PtMe2(cod)などが挙げられ、特に好ましくは、Ru(cod)(cot)、Pd2(dba)3(CHCl3)、Pd(dba)2、Pt(dba)2、Pt(cod)2である。これらの有機金属錯体を用いることにより、それぞれの金属の機能に応じた用途の金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維構造体を調製することができる。図2に、本発明において用いられる有機金属錯体の例の化学構造式を示す。
【0023】
なお、如上の有機金属錯体は、公知の方法で合成することができ(例えば、非特許文献16−19)、また、市販品として入手できるものもあり、例えば、Ni(cod)2は和光純薬(>98%)や関東化学(>95%)から販売されている。
【非特許文献16】W. J. Cherwinski, B. F. G.Johnson, J. Lewis, J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1405 (1974):Pt(dba)2について。
【非特許文献17】T. Ukai, H. Kawazura, Y. Ishii,J. Organomet. Chem., 65, 253 (1974):Pd2(dba)3・(CHCl3)について。
【非特許文献18】K. Itoh, H. Nagashima, T.Oshima, N. Oshima, H. Nishiyama, J. Organomet. Chem., 272, 179 (1984):Ru(cod)(cot)について。
【非特許文献19】R. A. Schunn, Inorg. Synth.,15, 5 (1974):Ni(cod)2について。
【0024】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
本発明で用いた炭素ナノ繊維は、上述の文献(非特許文献8−10)に従って合成したものを用いた。
実施例1〜実施例8は、本発明に従う金属微粒子担持炭素ナノ繊維から成る構造体の調製例である。
実施例9〜実施例29は、本発明によって得られる金属微粒子担持炭素ナノ繊維から成る構造体の有用性を示す例として、調製した構造体を水素化反応および水素化分解反応用触媒に適用した場合の結果を示すものである。
【0025】
〔実施例1〕
白金担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Pt/CNF-P/H2)の合成
50mLのシュレンクに活栓を付け、磁気撹拌子、平板積層炭素ナノ繊維(100mg)とPt(dba)2(17.0mg、0.03mmol)を加えて0.04Torrで約10分減圧乾燥した後、窒素雰囲気に置換した。テトラヒドロフラン(10mL)をシリンジで加えて錯体を溶解した。この炭素繊維が懸濁した錯体溶液を液体窒素で凍結し、0.04Torrに減圧した後、シュレンクチューブ内を水素置換した。この水素置換操作を3回行った後、室温に戻し水素を満たしたガス採取袋(アズワン株式会社:容量3L)を連結させ、20時間撹拌した。反応後、メンブランろ紙(Durapore(登録商標):0.45・LHV)を用いてろ取し、テトラヒドロフラン(50mL)、引き続きエーテル(50mL)で洗浄した。得られた炭素繊維を30mLナスフラスコに移し、その上部に三方コックをつけた後、0.04Torrの減圧下、室温で乾燥することにより、白金担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Pt/CNF-P/H2)(105mg)を得た。
以上の操作により得られたPt/CNF-P/H2の白金担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、約5.3重量%であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により平均粒子径を計測したところ約3.8nmであった。
【0026】
〔実施例2〕
白金担持魚骨型積層炭素ナノ繊維構造体(Pt/CNF-H/H2)の合成
炭素ナノ繊維として魚骨型積層炭素ナノ繊維(100mg)を用いたことを除き、実施例1の手順を繰り返した。白金担持魚骨型積層炭素ナノ繊維構造体(Pt/CNF-H/H2)の収量は111mgであった。また、得られたPt/CNF-H/H2の白金担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、約3.6重量%であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により平均粒子径を計測したところ約3.1nmであった。
【0027】
〔実施例3〕
白金担持円筒型積層炭素ナノ繊維構造体(Pt/CNF-T/H2)の合成
炭素ナノ繊維として円筒型積層炭素ナノ繊維(100mg)を用いたことを除き、実施例1の手順を繰り返した。白金担持円筒型積層炭素ナノ繊維構造体(Pt/CNF-T/H2)の収量は107mgであった。また、得られたPt/CNF-T/H2の白金担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、約3.3重量%であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により平均粒子径を計測したところ約2.6nmであった。
【0028】
〔実施例4〕
パラジウム担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Pd/CNF-P/H2)の合成
50mLのシュレンクに活栓を付け、磁気撹拌子、平板積層炭素ナノ繊維(100mg)とPd2(dba)3・CHCl3(15.5mg、0.015mmol)を加えて0.04Torrで約10分減圧乾燥した後、窒素雰囲気に置換した。トルエン(10mL)をシリンジで加えて錯体を溶解した。この炭素繊維が懸濁した錯体溶液を液体窒素で凍結し、0.04Torrに減圧した後、シュレンクチューブ内を水素置換した。この水素置換操作を3回行った後、室温に戻し水素を満たしたガス採取袋(アズワン株式会社:容量3L)を連結させ、12時間撹拌した。反応後、メンブランろ紙(Durapore(登録商標):0.45・LHV)を用いてろ取し、トルエン(50mL)、引き続きエーテル(100mL)で洗浄した。得られた炭素繊維を30mLナスフラスコに移し、その上部に三方コックをつけた後、0.04Torrの減圧下、室温で約3時間乾燥することにより、パラジウム担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Pd/CNF-P/H2)(100mg)を得た。
以上の操作により得られたPd/CNF-P/H2のパラジウム担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、3.2-3.5重量%であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により粒子径を計測したところ、平均粒子径は約4.2nmであった(図1)。
【0029】
〔実施例5〕
パラジウム担持魚骨型積層炭素ナノ繊維構造体(Pd/CNF-H/H2)の合成
炭素ナノ繊維として魚骨型積層炭素ナノ繊維(100mg)を用いたことを除き、実施例4の手順を繰り返した。パラジウム担持魚骨型積層炭素ナノ繊維構造体(Pd/CNF-H/H2)の収量は102mgであった。また、得られたPd/CNF-H/H2のパラジウム担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、3.1-3.3重量%であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により平均粒子径を計測したところ約5.1nmであった(図1)。
【0030】
〔実施例6〕
パラジウム担持円筒型積層炭素ナノ繊維構造体(Pd/CNF-T/H2)の合成
炭素ナノ繊維として円筒型積層炭素ナノ繊維(100mg)を用いたことを除き、実施例6の手順を繰り返した。パラジウム担持円筒型積層炭素ナノ繊維構造体(Pd/CNF-T/H2)の収量は101mgであった。また、得られたPd/CNF-T/H2のパラジウム担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、3.2-3.5重量%であった(図1)。
さらに、得られた炭素ナノ繊維構造体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察から、2-8nmの微粒子(平均粒子径:約4.6nm)が観測されるが、一部、大きな微粒子も確認できる。
【0031】
〔実施例7〕
ルテニウム担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Ru/CNF-P/H2)の合成
50mLのシュレンクに活栓を付け、磁気撹拌子、平板積層炭素ナノ繊維(100mg)とRu(cod)(cot)(44.8mg、0.15mmol)を加えて0.04Torrで約10分減圧乾燥した後、窒素雰囲気に置換した。テトラヒドロフラン(10mL)をシリンジで加えて錯体を溶解した。この炭素繊維が懸濁した錯体溶液を液体窒素で凍結し、0.04Torrに減圧した後、シュレンクチューブ内を水素置換した。この水素置換操作を3回行った後、室温に戻し水素を満たしたガス採取袋(アズワン株式会社:容量3L)を連結させ、20時間撹拌した。反応後、メンブランろ紙(Durapore(登録商標):0.45・LHV)を用いてろ取し、テトラヒドロフラン(50mL)、引き続きエーテル(50mL)で洗浄した。得られた炭素繊維を30mLナスフラスコに移し、その上部に三方コックをつけた後、0.04Torrの減圧下、室温で乾燥することにより、ルテニウム担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Ru/CNF-P/H2)(113mg)を得た。
以上の操作により得られたRu/CNF-P/H2のルテニウム担持量をICP-MS(ICP質量分析)により測定したところ、約6重量%であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により粒子径を計測したところ、粒子径は約2.5-7.5nmであった。
【0032】
〔実施例8〕
ニッケル担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Ni/CNF-P/H2)の合成
有機金属錯体としてNi(cod)2(28.0mg、0.08mmol)を用いたことを除き、実施例7の手順を繰り返した。ニッケル担持平板積層炭素ナノ繊維構造体(Ni/CNF-P/H2)の収量は113mgであった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により粒子径を計測したところ45-100nmであった。
【0033】
〔実施例9−12〕
ベンジルヘキシルエーテルの水素化分解反応
【化1】

【0034】
20mLの2口ナスフラスコにセプタムと三方コックを取り付け、実施例4−6で得られたパラジウム担持ナノ炭素繊維構造体、ならびに市販のパラジウム担持活性炭触媒(5mg)、磁気撹拌子、ベンジルヘキシルエーテル(192mg、1mmol)ならびにn-プロピルベンゼン(120mg、1mmol:GLC用内部標準)を加え、0.04Torrで減圧してアルゴン置換した。エタノール(1mL)をシリンジで加え、しばらく攪拌した後、ガス採取袋(アズワン株式会社製:容量3L)を用いて水素置換を3回くり返し、反応系を水素置換した。この反応容器を27℃の水浴につけて撹拌して反応を行なった。ベンジルヘキシルエーテルの転化率ならびにn-ヘキサノールとトルエンの収率は、ガスクロマトグラフにより決定した。GLC(カラム:TC- WAX;0.25mm x 30m、カラム温度:160℃、入力圧:60kPa、保持時間:4.0min(トルエン);4.4min(n-プロピルベンゼン);4.7min(n-ヘキサノール);11.8min(ベンジルヘキシルエーテル)。なお触媒活性(TOF)は、モル(ベンジルヘキシルエーテル)/モル(金属)・時間と定義する。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、合成した炭素ナノ繊維を担体とした触媒の中では、Pd/CNF-T/H2の活性が最も高いことがわかる。特に市販の触媒に比べ、その活性は10倍にまで向上した。
【0037】
〔実施例13−15〕
N-メチル-N-フェニルベンジルアミンの水素化分解反応
【化2】

【0038】
20mLの2口ナスフラスコにセプタムと三方コックを取り付け、実施例4−6で得られたパラジウム担持ナノ炭素繊維構造体(5mg)、磁気撹拌子、N-メチル-N-フェニルベンジルアミン(197mg、1mmol)ならびにヘキサメチルベンゼン(16.2mg、0.1mmol:GLC用内部標準)を加え、0.04Torrで減圧してアルゴン置換した。エタノール(1mL)をシリンジで加え、しばらく攪拌した後、ガス採取袋(アズワン株式会社製:容量3L)を用いて水素置換を3回くり返し、反応系を水素置換した。この反応容器を26℃の水浴につけて撹拌して反応を行なった。N-メチル-N-フェニルベンジルアミンの転化率ならびにN-メチルアニリンとトルエンの収率は、ガスクロマトグラフにより決定した。GLC(カラム:TC-WAX;0.25mm x 30m、カラム温度:初期温度120℃;20℃/minで昇温;270℃で5分、入力圧:60kPa、保持時間:4.0min(トルエン);5.5min(N-メチルアニリン);7.9min(ヘキサメチルベンゼン);10.7min(N-メチル-N-フェニルベンジルアミン))。
【0039】
【表2】

【0040】
表2からも、合成した炭素ナノ繊維を担体とした触媒の中では、Pd/CNF-T/H2の活性が最も高いことがわかる。
【0041】
〔実施例16−23〕
トランス−スチルベンの水素化反応
20mLの2口ナスフラスコにセプタムと三法コックを取り付け、実施例1−3、4−6で得られた金属担持ナノ炭素繊維構造体、ならびに市販の活性炭担持触媒(5mg)、磁気撹拌子、トランス−スチルベン(180mg、1mmol)ならびにヘキサメチルベンゼン(16.2mg、0.1mmol:GLC用内部標準)を加え、0.04Torrで減圧してアルゴン置換した。酢酸エチル(1mL)をシリンジで加え、しばらく攪拌した後、ガス採取袋(アズワン株式会社製:容量3L)を用いて水素置換を3回くり返し、反応系を水素置換した。この反応容器を27℃の水浴につけて撹拌して反応を行なった。トランス−スチルベンの転化率ならびに1,2−ジフェニルエタンの収率は、ガスクロマトグラフにより決定した。GLC(カラム:TC-1;0.25mm x 15m、カラム温度:170℃、入力圧:60kPa、保持時間:2.3min(ヘキサメチルベンゼン);2.7min(1,2−ジフェニルエタン);4.4min(トランス−スチルベン)。なお触媒活性(TOF)は、モル(トランス−スチルベン)/モル(金属)・時間と定義する。
【0042】
【表3】

【0043】
表1から、白金およびパラジウムのいずれの触媒を用いた場合も、CNF-Tを担体とした触媒の活性が最も高いことがわかる。これらCNF-Tに担持した触媒は、市販の活性炭担持触媒に比べ、パラジウム触媒で約2倍、白金触媒で4倍以上の活性を示した。
【0044】
〔実施例24−29〕
トルエンの水素化反応
【化3】

【0045】
100mLオートクレーブ用ガラス内管に、実施例1−3で得られた白金ナノ炭素繊維構造体、実施例7で得られたルテニウムナノ炭素繊維構造体(5mg)、ならびに市販の白金およびルテニウム担持活性炭触媒(10mg)とトルエン(1mL、0.87g、9.4mmol)を加え、オートクレーブに設置した後、10気圧の水素を充填した。このオートクレーブを40℃の油浴につけ、撹拌した。反応容器を室温まで冷却した後、オートクレーブのコックを徐々に開放して常圧に戻した。反応物に内部標準物質としてn-オクタンを加え、ガスクロマトグラフによりトルエンの転化率ならびにメチルシクロヘキサンの収率を決定した。GLC(カラム:TC-17;0.25 mm x 30m、カラム温度:70℃、入力圧:60kPa、保持時間:4.3min(n-オクタン);4.6min(メチルシクロヘキサン);5.8min(トルエン))。
【0046】
【表4】

【0047】
ルテニウム触媒では、市販の活性炭担持触媒では本条件下、反応しないのに対し、Ru/CNF-P(H2)触媒では5時間で定量的に反応が進行した。一方、市販の活性炭担持白金触媒では35%しか反応が進行しないのに、CNF担持触媒では、いずれの炭素ナノ繊維を担体に用いても、定量的に生成物が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に従う金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維の透過電子顕微鏡像を例示する。
【図2】本発明において用いられる有機金属錯体の例の化学構造式を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメートルサイズの金属微粒子が炭素ナノ繊維に担持された金属ナノ微粒子担持炭素ナノ繊維を製造する方法であって、
目的の金属の炭素−金属結合を有する有機配位子のみからなる有機金属錯体を溶かした有機溶媒中に炭素ナノ繊維を懸濁させて水素雰囲気下で懸濁液を室温で攪拌することにより、前記金属錯体をナノ微粒子化する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
有機金属錯体の有機配位子がアルケン類を含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記有機金属錯体として、Ru(cod)(cot)
[cod=1,5-シクロオクタジエン;cot=シクロオクタトリエン]、Ni(cod)2、Pd2(dba)3(CHCl3)[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pd(dba)2、Pt(dba)2、Pt(cod)2、PtMe2(cod)を用いることを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかの方法で製造されることを特徴とするナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維。
【請求項5】
ベンジル基等を有する化合物の水素化分解に触媒活性を有することを特徴とする請求項4のナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維。
【請求項6】
芳香族の核水素化に触媒活性を有することを特徴とする請求項4のナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維。
【請求項7】
アルケンまたはアルキン類の水素化に触媒活性を有することを特徴とする請求項4のナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維。
【請求項8】
ナノ金属微粒子がパラジウム微粒子であることを特徴とする請求項5のナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維。
【請求項9】
ナノ金属微粒子がルテニウムおよび白金微粒子であることを特徴とする請求項6のナノ金属微粒子担持炭素ナノ繊維。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−115051(P2008−115051A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301076(P2006−301076)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】