説明

金属ナノ粒子の配列蒸着方法及び金属ナノ粒子を用いたカーボンナノチューブの成長方法

【課題】 金属ナノ粒子の配列蒸着方法及び金属ナノ粒子を用いたカーボンナノチューブの成長方法に関し、不純物の混入のない金属ナノ粒子を粒径を揃えて且つ任意の位置に配置する。
【解決手段】 キャリアガス雰囲気中において金属ターゲットにレーザ光を照射して金属ターゲット材料をレーザ蒸発させてプラズマ化したのち、キャリアガスで冷却して金属ナノ粒子9を生成する工程、生成した金属ナノ粒子9を微分型電気移動度粒径選別器4に導入して粒子移動度の差を利用して特定の粒径の金属ナノ粒子9を選別する工程、所定の形状の開口部パターン3を形成したマスク2を設けた基板1上に選別した金属ナノ粒子9を蒸着する工程、及び、マスク2上に堆積した金属ナノ粒子9をマスク2とともに除去する工程を少なくとも備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ナノ粒子の配列蒸着方法及び金属ナノ粒子を用いたカーボンナノチューブの成長方法に関するものであり、特に、粒径の揃った任意の粒径の金属ナノ粒子を任意の位置に配列するための手法に特徴のある金属ナノ粒子の配列蒸着方法及び金属ナノ粒子を用いたカーボンナノチューブの成長方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりナノメータオーダーのサイズの物質の物性を扱うナノテクノロジーが注目を集めているが、ナノ粒子は表面原子数の割合の増加や電子構造の離散化等の変化によってバルクとは異なる性質を有しているため、近年、各種の材料に関する研究が盛んになされている。
【0003】
例えば、半導体分野においてはパターンサイズがリソグラフィの限界に近づいており微細化によって高性能化を図ることには限界があり、バンド理論等が直接適用できないナノ構造によって新たな発展が期待されている。
【0004】
或いは、バルクでは不活性なAuは、ナノメータサイズになると一酸化炭素の酸化触媒活性を示したり、DNAを構成するポリヌクレオチドを選択的に検出する等のバルクとは異なった特性が報告されている。
【0005】
また、NiやCoに代表される強磁性を有する元素は、粒径が小さくなると転移温度が小さくなっていき、ある粒径を下回ると常温において強磁性から超常磁性へと相変化することも報告されている。
【0006】
このような、ナノ構造を形成するためには各種の方法が提案されており、例えば、金属ナノ粒子を生成するために、液相還元法、CVD法、ガス中蒸発法、或いは、レーザ蒸着法が提案されている。
【0007】
このように生成されるナノ粒子は通常はランダムな粒径でランダムな位置に形成され、粒径を均一化したり任意の位置に配置することは困難であるが、ナノ粒子を有する特性を実用過程において再現性良く得るためには、ナノ粒子の粒径を均一化したり任意の位置に配置することが必要になる。
【0008】
上述の液相還元法においては、溶液状態で金属イオンを還元することによってコロイド状態の金属ナノ粒子を作り、自己組織化作用による金属ナノ粒子のパッキング現象を利用して所定の間隔で配列させている(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
この場合、パッキングの際には有機保護膜を用い、この有機保護膜の分子間力を利用して配列構造を形成しているため、間隔の制御のために有機保護膜に用いる分子の設計を行っている。
【0010】
また、金属ナノ粒子の粒径を均一化する方法として微分型電気移動度分級法(DMA:Differential Mobility Analyzer)が提案されており、数nm程度の粒径の揃った金属ナノ粒子を基板上に蒸着することが可能になった(例えば、非特許文献2参照)。
【0011】
一方、ナノ粒子の具体的活用例としては、金属ナノ粒子を触媒として直径が1〜2nmの単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single−Walled Carbon Nano Tubes)を成長させることが報告されている(非特許文献3参照)。
【0012】
この場合、無機試薬の溶液を基板に滴下したのち、加熱による熱分解によって金属ナノ粒子の酸化物を作製し、次いで、この金属酸化物ナノ粒子をAr/H2 雰囲気中で高温還元することによって金属ナノ粒子とし、この金属ナノ粒子を触媒として炭化水素を原料としたCVD法によってSWCNTを成長させている。
【0013】
このSWCNTは、化学的に非常に安定である上に極めて高い強度を有するとともに高温時の導電性が高いという特長を有しており、CNTトランジスタやCNTスイッチ等への適用が期待される。
【非特許文献1】T.Teranishi,C.R.Chimic,Vol.6, p.979,2003
【非特許文献2】T.Seto,et.al.,Thin Solid Film s,Vol.437,p.230,2003
【非特許文献3】T.Murakami,et.al.,Chem.Phys.L ett.,Vol.385,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述の液相還元法においては、間隔の制御のために有機保護膜の分子設計を行っているため、素子構造を変更する毎に新たな分子設計が必要となるため製造工程が複雑化するという問題がある。
【0015】
また、このような金属ナノ粒子をCNT成長用触媒等として使用する場合には有機保護膜の除去が必要になり、有機保護膜を除去するために加熱処理を行うとパッキング現象による位置制御が行えなくなるという問題がある。
【0016】
また、ナノ粒子は微量の不純物の混入により粒子の性質が劇的に変化する可能性があるが、液相還元法においては有機保護膜に起因する元素の混入が問題となる。
【0017】
一方、ガス中蒸発法或いはレーザ蒸着法は物理的蒸着法であるため、ナノ粒子に不純物が混入する可能性は非常に低く、純粋な金属ナノ粒子を作製するためには優れた方法であるが、金属ナノ粒子の位置制御ができないという問題がある。
【0018】
また、この様な物理的蒸着法と上述のDMA法を組み合わせた場合には、金属ナノ粒子の粒径の均一化は可能になるものの、位置制御は依然としてできないものであり、且つ、粒径の均一化も粒径の微小化に伴うブラウン運動の影響等により5nm以下のサイズのナノ粒子の粒径の均一化は困難であるという問題がある。
【0019】
したがって、本発明は、不純物の混入のない金属ナノ粒子を粒径を揃えて且つ任意の位置に配置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
(1)上記課題を解決するために、本発明は、金属ナノ粒子9の配列蒸着方法において、キャリアガス雰囲気中において金属ターゲットにレーザ光を照射して金属ターゲット材料をレーザ蒸発させてプラズマ化したのち、キャリアガスで冷却して金属ナノ粒子9を生成する工程、生成した金属ナノ粒子9を微分型電気移動度粒径選別器4に導入して粒子移動度の差を利用して特定の粒径の金属ナノ粒子9を選別する工程、所定の形状の開口部パターン3を形成したマスク2を設けた基板1上に選別した金属ナノ粒子9を蒸着する工程、及び、マスク2上に堆積した金属ナノ粒子9をマスク2とともに除去する工程を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0021】
このように、
a.物理的堆積方法を用いることによって不純物の混入のない金属ナノ粒子9を生成することができ、特に、レーザアブレーション法を用いることによって生成した金属ナノ粒子9の一部をイオン化することができ、また、
b.微分型電気移動度粒径選別法を用いることによって、金属ナノ粒子9の質量と電荷の比を利用して特定の粒径の金属ナノ粒子9のみを選別することによって粒径を均一化することができ、さらに、
c.蒸着基板1に所定の形状のサブミクロン以下のサイズの開口部パターン3を形成したレジストマスク2を設けることによって、金属ナノ粒子9の蒸着位置を任意に制御することができる。
【0022】
この場合、開口部パターン3を電子ビーム露光によって形成することによって、数10nmサイズの開口部の形成も可能になる。
【0023】
(2)また、本発明は、上記(1)において、選別する金属ナノ粒子9の粒径を、微分型電気移動度粒径選別器4を構成する外部円筒5と内部円筒6の間に印加する電圧及び外部円筒5と内部円筒6の間に流すシースガス8の流量で制御することを特徴とする。
【0024】
即ち、外部円筒5と内部円筒6の間に印加する電圧が大きいほど金属ナノ粒子9が外部円筒5から内部円筒6へ到達する時間が短くなり、同じ電荷の場合には粒径の小さな金属ナノ粒子9ほど到達時間が短くなる。
【0025】
また、外部円筒5と内部円筒6の間に流すシースガス8の流量が多いほど金属ナノ粒子9が外部円筒5から内部円筒6へ到達するまでの落下距離が大きくなり、単位断面積に衝突するシースガス分子の数は同じであるので、粒径の大きな金属ナノ粒子9ほど落下距離は大きくなるので、印加電圧とシースガス8の流量を制御することによって、所定の粒径の金属ナノ粒子9のみを内部円筒6に設けたスリット7から取り出すことができる。
【0026】
(3)また、本発明は、上記(2)において、開口部パターン3のサイズと選別する金属ナノ粒子9の粒径を最適化することによって、一つの開口部に一つの金属ナノ粒子9のみを蒸着することを特徴とする。
【0027】
このように、開口部パターン3のサイズと選別する金属ナノ粒子9の粒径を最適化することによって、即ち、金属ナノ粒子9を粒径を小さくするとともに開口部パターン3のサイズ小さくすることによって、一つの開口部に一つの金属ナノ粒子9のみを蒸着することが可能になる。
【0028】
(4)また、本発明は、上記(2)において、選別する金属ナノ粒子9の粒径を、開口部パターン3のサイズと金属ナノ粒子9を構成する元素の有する凝集性に応じて制御することによって、開口部内に蒸着する複数の金属ナノ粒子9で構成するナノ粒子集合体の堆積形状を制御することを特徴とする。
【0029】
このように、選別する金属ナノ粒子9の粒径が小さいほど開口部パターン3の周辺に堆積した金属ナノ粒子9に起因する電荷の影響を受け易くなるので、尖塔状の堆積形状となり、また、金属ナノ粒子9を構成する元素の有する凝集性が大きいほど尖塔状の堆積形状となる。
また、ナノ粒子集合体の全体の大きさ及び断面形状は開口部パターン3のサイズにより制御することができる。
【0030】
(5)また、本発明は、金属ナノ粒子9を用いたカーボンナノチューブの成長方法において、上記(1)乃至(4)のいずれかの金属ナノ粒子9の配列蒸着方法によって形成された金属ナノ粒子9が、Fe族の単体金属或いは合金からなる金属ナノ粒子9であり、前記Fe族の金属ナノ粒子9を触媒として、炭化水素を原料ガスとした化学気相成長方法によって単層カーボンナノチューブを選択的に成長させることを特徴とする。
【0031】
このように、粒径が均一化され且つ任意の位置に選択的に配列させたFe,Co,Ni等のFe族の金属ナノ粒子9を触媒として用いることによって、単層カーボンナノチューブのみを選択的に成長させることが可能になり、SET(シングルエレクトロントランジスタ)等を構成することが可能になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、粒径が均一化されるとともに不純物が混入していない金属ナノ粒子を任意の位置に整列させて蒸着することができ、特に、マスクに設ける開口部のサイズと選別する金属ナノ粒子のサイズを最適化することによって任意の位置に配列させる金属ナノ粒子の個数も制御することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、HeやAr等のキャリアガス雰囲気中においてAu,Pt,Ni等の円盤からなる金属ターゲットにレーザ光、例えば、可視光レーザ光を照射して金属ターゲット材料をレーザ蒸発させてプラズマ化したのち、キャリアガスで冷却して金属ナノ粒子を生成し、次いで、生成したナノ粒子を微分型電気移動度粒径選別器、特に、装置の内部を低圧化して5nm以下の粒径のナノ粒子の選別を可能にした低圧微分型電気移動度粒径選別器(LPDMA:Low Pressure Differential Mobility Analyzer)に導入して粒子移動度の差を利用して特定の粒径の金属ナノ粒子を選別し、次いで、所定の形状の開口部、特に、サブミクロン以下のサイズの開口部パターンを形成したマスク、典型的にはレジストマスクを設けた基板上に選別した金属ナノ粒子を蒸着したのち、レジストマスク上に堆積した金属ナノ粒子をマスクとともに除去するリフトオフ法を用いて基板上の所定の位置のみに粒径の均一化された金属ナノ粒子を堆積させるものである。
【実施例1】
【0034】
ここで、図2乃至図7を参照して、本発明の実施例1の金属ナノ粒子の配列蒸着方法を説明するが、まず、図2及び図3を参照して本発明の実施例1に用いる蒸着装置を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1に用いる蒸着装置の概念的構成図であり、この蒸着装置は、粒子生成部10、LPDMA30、及び、堆積部50によって構成される。
【0035】
粒子生成部10は、回転機構12に保持されたターゲット13を収容するとともにレーザ入射ポート14、ガス導入口15、排気口16、及び、LPDMA30への粒子導出管17を備えたチャンバー11を有し、排気口16にはバルブ18を介してターボ分子ポンプ19及びロータリポンプ20が順次接続されて排気を行う。
【0036】
また、レーザ入射ポート14からは、例えば、Nd3+:YAGレーザ21からの532nmの波長のレーザ光22が照射される。
また、ガス導入口15には、バルブ23及びマスフローコントローラ24を介してHe等のキャリアガス25が導入される。
【0037】
図3参照
図3は、LPDMAの概略的構成図であり、チャンバーを兼ねる外部円筒31と外部円筒32内に設けられた内部円筒34からなる二重円筒構造電極からなり、外部円筒31には粒子導出管17に対応する位置に設けられたスリット33が設けられているとともに、整流部材32が設けられている。
【0038】
また、内部円筒34は、上部電極35と選別した金属ナノ粒子を導出するための導出管部37を有する下部電極36及び両者の間に形成されたスリット38から構成され、この二重円筒構造の外部円筒31と内部円筒34との間に所定の電圧を印加して金属ナノ粒子を内部円筒34側に吸引するものである。
なお、本発明の実施例1においては、後述するように負に帯電した金属ナノ粒子を選別するために外部円筒31を接地するとともに内部円筒34に正電圧Vを印加する。
【0039】
また、外部円筒31と内部円筒34にはダウンフローになるようにシースガスが流され、粒子導出管17を介してスリット33から導入された金属ナノ粒子の内の負に帯電した金属ナノ粒子のみを内部円筒34側に静電的に吸引するとともに、シースガスによる位置降下がスリット38の位置と一致する粒径を有する金属ナノ粒子のみをスリット38を介して導出管部37へ導入する。
【0040】
再び、図2参照
このLPDMA30を構成するチャンバーを兼ねる外部円筒31には、ガス導入口39及び排気口40が設けられており、ガス導入口39からはバルブ41及びマスフローコントローラ42介してHe等のシースガス43が導入される。
また、排気口40からは、チャンバー31内に導入されたキャリアガス25とシースガス43が排気される。
【0041】
また、堆積部50は、導出管部37に接続する粒子導入管52、試料入出ポート53、及び、排気口54を備えたチャンバー51からなり、排気口54からはバルブ55、マスフローコントローラ56、バルブ57を介してメカニカルブースターポンプ58及びロータリーポンプ59に接続され導出管部37から導入されたキャリアガス25とシースガス43を排気する。
なお、本質的な構成ではないが、上述のLPDMA30からの排気ガスは、このメカニカルブースターポンプ58に接続されて併せて排気する構成とする。
【0042】
また、チャンバー51内には蒸着基板70が設けられるとともに電流測定用電極60が設けられ、蒸着基板70上に蒸着した金属ナノ粒子の量を蒸着基板70に開放される電荷に依存する電流量から評価する。
【0043】
次に、図2、図4乃至図7を参照して、本発明の実施例1の金属ナノ粒子の配列蒸着方法を説明する。
図4参照
図4は、本発明の実施例1に用いる蒸着基板の概略的構成図であり、P(リン)をドープしたn型シリコン基板71上に厚さが、例えば、200nmの電子ビームレジストを塗布して電子ビーム露光したのち、現像することによって、直径が約500nmの開口部73を約1μmのピッチで設けたレジストマスク72を設けて蒸着基板70を構成する。
【0044】
再び、図2参照
本発明の実施例1の金属ナノ粒子の配列蒸着方法においては、チャンバー11内にAu円盤からなるターゲット13を収容したのち、回転機構12によりターゲット13を例えば、レーザ照射のスポット位置がリサージュ図形を描くように回転させながら、チャンバー11内を10-7kPaまで排気したのち、排気を停止した状態でHeガスをキャリアガス25として400〜2000sccm、例えば、600sccm常時流して圧力を1.77kPaにした状態で、Nd3+:YAGレーザ21からパルスにレーザ光22を照射する。
【0045】
この場合のレーザ光22としては、Nd3+:YAGレーザ21の第二高調波の波長が532nmを光を例えば、90mJ/パルスのレーザ強度で30Hzの周波数で繰り返し照射してAuターゲットを蒸発させて、キャリアガス25で冷却することによってAuナノ粒子が生成される。
【0046】
この蒸発過程で、プラズマ化するので、生成されたAuナノ粒子の一部は正負に帯電されることになる。
例えば、生成されたAuナノ粒子の内の中性のナノ粒子に対して正負の1価に帯電したナノ粒子の割合は1〜10%程度であり、また、正の2価に帯電したナノ粒子は0.01%程度であり、負の2価に帯電したナノ粒子は0.001%程度以下である。
【0047】
また、生成された金属ナノ粒子の粒径は、蒸着基板としてTEM(透過型電子顕微鏡)用グリッドを用いて選別前の金属ナノ粒子を堆積させ、TEM像およびSEM(走査型電子顕微鏡)像から別途測定したところ、キャリアガスの種類及び流量に依存するが数nm〜数10μmという幅広い分布を有していた。
【0048】
この場合、金属ナノ粒子の粒径は、キャリアガスによって冷却される程度が大きいほど粒径が大きくなるので、キャリアガスの流量を少なくすると粒径が大きくなり、また、ガス種をHeからHeより質量の大きなArを用いた場合には粒径が小さくなる。
【0049】
上述のようにして生成された金属ナノ粒子は、キャリアガスによって運ばれ、粒子導出管17を介してLPDMA30に送られ、LPDMA30において印加される電圧Vとシースガス43の流量に応じて選別された粒径の金属ナノ粒子のみが導出管部37を介して堆積部50に取り出される。
【0050】
ここでは、負に帯電した金属ナノ粒子の粒径のレーザ照射量依存性が正に帯電した金属ナノ粒子より小さいので、負に帯電した金属ナノ粒子を選別するように、二重円筒構造電極の外部円筒31を接地するとともに、内部円筒34を正にバイアスする。
【0051】
この場合、所定の粒径で所定の電荷に帯電した金属ナノ粒子が選別されるように、電圧Vとシースガス流量を選択するものであり、外部円筒31と内部円筒34との間隙の距離及びスリット33とスリット38との距離に依存するものであるが、例えば、電圧Vを−100V〜+100Vの範囲とし、シースガス流量を2000〜5000sccmとする。
【0052】
図5参照
図5は、シミュレーションによって設定粒径が11.3nm及び3.0nmになるように電圧及びシースガス流量を設定した場合に得られるAuナノ粒子の粒径分布の説明図であり、上図は、設定粒径が11.3nmになるように印加電圧をV=100〔V〕とし、Heからなるシースガス流量を500sccmとして圧力が1.69kPaになるように排気しながら蒸着した場合のヒストグラムであり、平均粒径として13.8±0.7nmの値が得られた。
【0053】
また、下図は、設定粒径が3.0nmになるように印加電圧をV=100〔V〕とし、Heからなるシースガス流量を1000sccmとして圧力が2.57kPaになるように排気しながら蒸着した場合のヒストグラムであり、平均粒径として3.9±0.5nmの値が得られた。
なお、各図には、Auナノ粒子の様子を示すTEM像を右側に挿入している。
【0054】
このように、本発明においては標準偏差を平均粒径の10%未満に抑えたナノ粒子の粒径選別が直径1nmから15nm程度の範囲で実現することができる。
なお、現状では、平均粒径と設定粒径には乖離があるが、実際の結果をシミュレーションにフィードバックしてシミュレーションの精度を高めることによって乖離を減少させれば良い。
【0055】
この実施例1においては、粒径が10nm程度の−1価に帯電した金属ナノ粒子が選別されるように、電圧VをV=100〔V〕とするとともに、キャリアガスの流量が600sccmの場合、粒径選別を精度良く行うためにその3〜7倍、例えば、5倍になるようにシースガス流量を3000sccmとする。
【0056】
堆積部50においては、排気口54からの排気量がキャリアガスの流量とほぼ等しくなるように排気した状態で、蒸着基板70上に選別された金属ナノ粒子を全面的に堆積させる。
この場合、堆積量は堆積時間によって制御可能であるが、電流測定用電極60を用いることによって、堆積量をリアルタイムに精度良く測定することができる。
【0057】
次いで、レジストマスクを剥離液を用いて除去することにより、レジストマスク上に堆積した金属ナノ粒子を同時に除去することによって、n型シリコン基板上に粒径の揃った金属ナノ粒子が規則正しく配列された状態を実現することができる。
【0058】
図6図び図7参照
図6は、このように作製した試料のSEM像であり、また、図7はAFM(原子間力顕微鏡)像における1方向に沿った高さを示したものであり、多数の金属ナノ粒子が約200nmの高さに半球状に堆積してAuナノ粒子からなるナノ粒子集合体74を形成していることが確認された。
このナノ粒子集合体74は、リフトオフ工程における洗浄によっても剥離することがないので、ファンデルワールス力以上の強度で結合しており、ナノ粒子特有の活性が見られた。
【実施例2】
【0059】
次に、図8及び図9を参照して本発明の実施例2の金属ナノ粒子の配列蒸着方法を説明するが、タゲットをPtにするとともに、粒径が5nmのPtナノ粒子が選別されるように、印加電圧及びシースガス流量を選択しただけで、他の構成は上記の第1の実施の形態と基本的に同様であるので、得られた結果のみを説明する。
【0060】
図8参照
図8は、このように作製した試料のSEM像であり、多数のPtナノ粒子が約200nmの高さに尖ったピラミッド状に堆積してナノ粒子集合体75を形成していることが確認され、粒径が小さくなると開口部の周辺にはあまり堆積せず中央部により多く堆積して尖ったピラミッド状になることが確認された。
【0061】
図9参照
図9は、ナノ粒子集合体の形状の粒径依存性の説明図であり、上図は粒径が比較的大きな場合、下図は粒径が比較的小さな場合を表している。
上図に示すように、開口部73の直径が100nm、レジストの膜厚が200nmの場合、粒径が10nm以上と比較的大きな場合には、金属ナノ粒子の堆積はレジストマスク上に堆積した金属ナノ粒子の電荷に起因する帯電の影響をあまり受けないので、ドーム状に堆積する。
【0062】
しかし、粒径が5nm程度以下になると電荷に対する質量が粒径の3乗の割合で小さくなるため帯電によるクーロン反発が大きくなり、開口部の周辺に堆積することができなくなり、中央部により多く堆積して尖塔状となる。
なお、PtはAuより凝集しやすいため、より尖塔状になりやすいと考えられる。
【0063】
このような帯電は、レジストマスクが絶縁性であるため、金属ナノ粒子の電荷が基板側へ逃げれないためであり、一方、n型シリコン基板71は導電性であるので、開口部73の内に堆積した金属ナノ粒子の電荷はn型シリコン基板71を介して放出される。
【0064】
このように、同じサイズを開口部73を設けた場合にも、選別する粒径を変えることによって、開口部73の内に堆積するナノ粒子集合体74,75の形状を制御することが可能になる。
【実施例3】
【0065】
次に、図10を参照して、本発明の実施例3の金属ナノ粒子の配列蒸着方法を説明するが、この場合も、粒径が5nmのAuナノ粒子が選別されるように、印加電圧及びシースガス流量を選択するとともに、開口部の直径を100nmにしただけで、他の構成は上記の第1の実施の形態と基本的に同様であるので、得られた結果のみを説明する。
【0066】
図10参照
図10は、このように作製した試料のSEM像を模写したものであり、開口部跡に各1個のAuナノ粒子76のみが蒸着されていた。
これは、開口部のサイズが小さくなるにつれて、開口部に堆積しようとするナノ粒子に対する帯電によるクーロン反発が大きくなるとともに、ナノ粒子の粒径が小さくなることによってクーロン反発の影響が大きくなるためと考えられる。
【0067】
このように、開口部のサイズを小さくするとともに、設定粒径を小さくすることによって、粒径の揃った金属ナノ粒子を一個ずつ所定のピッチで整列させて配置させることが可能になる。
【実施例4】
【0068】
次に、図11を参照して、本発明の実施例4の金属ナノ粒子の配列蒸着方法を説明する。
図11参照
まず、実施例1と全く同様に粒子生成部10において、金属ナノ粒子を生成させたのち、 241Amからなるα線源77を用いてα線を金属ナノ粒子に照射して金属ナノ粒子を意図的に帯電状態にする(必要ならば、T.Kawakami,et.al.,Trans.Mater.Res.Soc.Jpn.,Vol.27,No.1,p.169,2002参照)。
【0069】
上述のように通常に生成された金属ナノ粒子の大半が電荷を持たない中性粒子であるが、α線を照射することによって+1価の金属ナノ粒子が大量に生成されるため、堆積速度が大幅に向上する。
この場合、粒子選別を行うためには、LPDMAの二重円筒構造電極の外部円筒を接地して内部円筒を負の電圧を印加する必要がある。
【実施例5】
【0070】
次に、図12を参照して、本発明の実施例5の金属ナノ粒子を用いた単層カーボンナノチューブの成長方法を説明する。
図12参照
まず、ガラス基板81上に下部電極となるMo層82、SiO2 膜83、及び、ゲート電極となるMo層84を順次堆積させたのち、レジスト層85を塗布し、露光現像してレジスト層85に直径が例えば2μmの開口部を形成し、この開口部を設けたレジスト層85をマスクとしてMo層84及びSiO2 膜83を順次エッチングして開口部86を形成する。
【0071】
次いで、上記の実施例と同様な金属ナノ粒子の堆積方法を用いて粒径が2nmのNiナノ粒子87を選別して開口部86内に堆積させる。
この場合には、ターゲットとしてNiターゲットを用いるとともに、粒径が2nmのNiナノ粒子が多く形成されるようにキャリアガスの冷却効果を高めるためにHeガスの流量を大きくする。
【0072】
次いで、レジスト膜85を除去したのち、例えば、アセチレンを原料ガスとしたプラズマCVD法によって、Niナノ粒子87を触媒とすることによってカーボンナノチューブ88を成長させる。
【0073】
この場合のカーボンナノチューブ88は、触媒となるNiナノ粒子87の粒径を反映して単層カーボンナノチューブ(SWCNT)となるので、SWCNTのみからなる電界放出型電子源を構成することができる。
【0074】
このような電界放出型電子源をマトリクス状に配置して1ピクセル分の陰極を構成し、透明対向基板に陰極に対向するように陽極を形成するとともに、陽極上にRGBの各蛍光体層を設け、この透明対向基板を陰極と対向配置することによってSWCNTを電界放出型電子源とした電界放出ディスプレイを構成することができる。
【0075】
この場合、電界放出型電子源を特性の優れたSWCNTのみで構成しているので、高画質・高性能の電界放出ディスプレイが可能になる。
【実施例6】
【0076】
次に、図13を参照して、本発明の実施例6の金属ナノ粒子を用いた単層カーボンナノチューブの成長方法を説明する。
図13参照
まず、ガラス基板91上にSiO2 膜92を設け、このSiO2 膜92にソース・ドレイン形成用凹部及び接続配線用凹部を形成したのち、Cu膜を堆積させ、次いで、CMP(化学機械研磨)法によって不要なCu膜を除去してソース電極93、ドレイン電極94、及び、埋込配線層95を形成する。
なお、この場合のソース電極93とドレイン電極94との間隔は1μmとする。
【0077】
次いで、全面に電子線レジストを塗布し、ソース電極93上に開口部が位置するように上述の実施例3と同様に直径が100nmの開口部を形成してレジストマスク96を構成し、2nmのNiナノ粒子が選別されるようにLPDMAの条件を設定することによって、ソース電極93上に1個のNiナノ粒子97が蒸着される。
【0078】
次いで、ソース−ドレイン方向に電界を印加した状態で、プラズマCVD法を用いてカーボンナノチューブを成長させることによって、Niナノ粒子97を触媒として、ソース電極93からドレイン電極94に達する一本のSWCNT98が形成される。
【0079】
次いで、ソース−ドレイン間にTiO2 からなる厚さが、例えば、2nmのゲート絶縁膜99及びゲート長が200nmのゲート電極100を設けることによって、CNTトランジスタが得られる。
【0080】
この場合、チャネル領域となるカーボンナノチューブはSWCNTであるので量子効果がより確実に現れ、単電子トランジスタ(SET:Single Electron Transistor)となる。
【0081】
このように、本発明の金属ナノ粒子の配列蒸着方法を用いることによって、任意の位置に、設計通りの性能を有するCNTトランジスタを再現性良く形成することができる。
【0082】
以上、本発明の各実施例を説明したが、本発明は各実施例に記載した構成及び条件に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、上記の実施例においては、金属ナノ粒子を構成する金属としてAu,Pt,Niを用いているが、これらの金属元素に限られるものではなく、レーザ蒸着が可能な各種の金属材料に適用されるものであり、また、ターゲットとしてNiCo等の合金ターゲットを用いることによって合金ナノ粒子を形成することが可能である。
【0083】
また、上記の各実施例においては、キャリアガス及びシースガスとしてHeを用いているがHeに限られるものではなく、Ne或いはAr等の他の希ガスを用いても良いものであり、また、キャリアガス及びシースガスとして互いに異なったガス種を用いても良いものである。
【0084】
また、上記の各実施例においては、粒子選別器として内部を低圧にしたLPDMAを用いているが、選別する設定粒径が10nm以上と比較的大きな場合には、通常のDMAを用いても良いものである。
【0085】
また、上記の実施例6のCNTトランジスタの構成は単なる一例であり、既に発表されているCNTトランジスタのように、シリコン基板上にSiO2 膜を設け、このSiO2 膜上の所定の位置に触媒となる1個の金属ナノ粒子を蒸着させ、この金属ナノ粒子を触媒として一本のSWCNTを成長させ、このSWCNT上にゲート絶縁膜を介してゲート電極を設けるとともに、ゲート電極の両側にソース・ドレイン電極を設けるようにしても良いものである。
【0086】
また、上記の各実施例においては、レジストマスクに設ける開口部の平面形状を円形としているが、線状パターンとしても良いものであり、その場合には、線状パターン内に蒸着した金属ナノ粒子集合体を局所内部配線として用いることによって、リソグラフィーの限界を超えた細い配線を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の活用例としては、トランジスタや電界放出型電子源となるCNTの成長用触媒となる金属ナノ粒子の配列蒸着が典型的なものであるが、強磁性体の特性が粒径によって急激に変化することを使用して高密度磁気メモリ等の磁気記憶媒体への適用も期待でき、また、AuやPt等を用いた場合には、リソグラフィーの限界を超えたファインパターンの配線の形成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1に用いる蒸着装置の概念的構成図である。
【図3】LPDMAの概略的構成図である。
【図4】本発明の実施例1に用いる蒸着基板の概略的構成図である。
【図5】Auナノ粒子の粒径分布の説明図である。
【図6】試料のSEM像である。
【図7】試料のAFM像の説明図である。
【図8】試料のSEM像である。
【図9】ナノ粒子集合体の形状の粒径依存性の説明図である。
【図10】試料のSEM像の模写図である。
【図11】本発明の実施例4の金属ナノ粒子の配列蒸着方法の説明図である。
【図12】本発明の実施例5の金属ナノ粒子を用いた単層カーボンナノチューブの成長方法の説明図である。
【図13】本発明の実施例6の金属ナノ粒子を用いた単層カーボンナノチューブの成長方法の説明図である。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 マスク
3 開口部パターン
4 微分型電気移動度粒径選別器
5 外部円筒
6 内部円筒
7 スリット
8 シースガス
9 金属ナノ粒子
10 粒子生成部
11 チャンバー
12 回転機構
13 ターゲット
14 レーザ入射ポート
15 ガス導入口
16 排気口
17 粒子導出管
18 バルブ
19 ターボ分子ポンプ
20 ロータリポンプ
21 Nd3+:YAGレーザ
22 レーザ光
23 バルブ
24 マスフローコントローラ
25 キャリアガス
30 LPDMA
31 外部円筒
32 整流部材
33 スリット
34 内部円筒
35 上部電極
36 下部電極
37 導出管部
38 スリット
39 ガス導入口
40 排気口
41 バルブ
42 マスフローコントローラ
43 シースガス
50 堆積部
51 チャンバー
52 粒子導入管
53 試料入出ポート
54 排気口
55 バルブ
56 マスフローコントローラ
57 バルブ
58 メカニカルブースターポンプ
59 ロータリーポンプ
60 電流測定用電極
70 蒸着基板
71 n型シリコン基板
72 レジストマスク
73 開口部
74 ナノ粒子集合体
75 ナノ粒子集合体
76 Auナノ粒子
77 α線源
81 ガラス基板
82 Mo層
83 SiO2
84 Mo層
85 レジスト層
86 開口部
87 Niナノ粒子
88 カーボンナノチューブ
91 ガラス基板
92 SiO2
93 ソース電極
94 ドレイン電極
95 埋込配線層
96 レジストマスク
97 Niナノ粒子
98 SWCNT
99 ゲート絶縁膜
100 ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガス雰囲気中において金属ターゲットにレーザ光を照射して金属ターゲット材料をレーザ蒸発させてプラズマ化したのち、前記キャリアガスで冷却して金属ナノ粒子を生成する工程、前記生成した金属ナノ粒子を微分型電気移動度粒径選別器に導入して粒子移動度の差を利用して特定の粒径の金属ナノ粒子を選別する工程、及び、所定の形状のサイズの開口部パターンを形成したマスクを設けた基板上に前記選別した金属ナノ粒子を蒸着する工程、及び、前記マスク上に堆積した金属ナノ粒子をマスクとともに除去する工程を少なくとも備えたことを特徴とする金属ナノ粒子の配列蒸着方法。
【請求項2】
上記選別する金属ナノ粒子の粒径を、上記微分型電気移動度粒径選別器を構成する外部円筒と内部円筒の間に印加する電圧及び前記外部円筒と内部円筒の間に流すシースガスの流量で制御することを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子の配列蒸着方法。
【請求項3】
上記開口部パターンのサイズと上記選別する金属ナノ粒子の粒径を最適化することによって、一つの開口部に一つの金属ナノ粒子のみを蒸着することを特徴とする請求項2記載の金属ナノ粒子の配列蒸着方法。
【請求項4】
上記選別する金属ナノ粒子の粒径を、上記開口部パターンのサイズと前記金属ナノ粒子を構成する元素の有する凝集性に応じて制御することによって、前記開口部内に蒸着する複数の金属ナノ粒子で構成するナノ粒子集合体の堆積形状を制御することを特徴とする請求項2記載の金属ナノ粒子の配列蒸着方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の配列蒸着方法によって形成された金属ナノ粒子が、Fe族の単体金属或いは合金からなる金属ナノ粒子であり、前記Fe族の金属ナノ粒子を触媒として、炭化水素を原料ガスとした化学気相成長方法によって単層カーボンナノチューブを選択的に成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−297549(P2006−297549A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123509(P2005−123509)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】