説明

金属化合物、これを含有してなる化学気相成長用原料及び金属含有薄膜の製造方法

【課題】残留炭素の少ない良好な金属含有薄膜を与え、成膜速度や薄膜組成制御について安定したプロセスを与える金属化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される金属化合物。


(式中、Mはチタニウム、ジルコニウム又はハフニウムを表し、Xはハロゲン原子を表し、mは1又は2を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する新規な金属化合物、これを含有してなる化学気相成長用原料、該原料を用いた金属含有薄膜の製造方法並びに該製造方法により製造された薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
チタニウム、ジルコニウム又はハフニウムを含有する薄膜は、高誘電体キャパシタ、強誘電体キャパシタ、ゲート膜、バリア膜、ゲート絶縁膜等の電子部品の電子部材や、光導波路、光スイッチ、光増幅器等の光通信用デバイスの光学部材として用いられている。
【0003】
上記の薄膜の製造方法としては、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、CVD法やALD法等の化学気相成長法等が挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、CVD法、ALD法等のプレカーサを気化させて用いる化学気相成長法が最適な製造プロセスである。CVD法、ALD法のプレカーサとしては、有機配位子を用いた金属化合物が使用されている。
【0004】
金属原子がチタニウム、ジルコニウム又はハフニウムである窒化金属系薄膜は、切削工具等の硬度及び強度を向上させるコーティング層、半導体素子のゲート薄膜、バリア膜として使用されており、これらの薄膜を化学気相成長法により製造する技術については多数報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ又はタンタルのハロゲン化物を用いた窒化金属及び/又は炭化金属薄膜の製造方法が開示されており、特許文献2には四塩化チタンとアンモニアガスを用いたCVD法による窒化チタン薄膜の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2〜5には、チタニウム、ジルコニウム又はハフニウムのプレカーサとして、有機アミンを配位子としたジアルキルアミノ金属化合物を用いた4族金属含有薄膜の製造方法が開示されており、有機アミン配位子としてエチルメチルアミンを用いた金属化合物が開示されている。
【0007】
しかし、四塩化チタンに代表される塩化物を使用する方法は、薄膜形成には少なくとも500℃程度の温度が必要となり、ゲート膜等の半導体素子の製造に使用する場合は不適である。また、有機アミンを配位子とした有機アミド系金属化合物は、低温での窒化金属薄膜の製造が可能であるが、これを用いて得られる薄膜の残留炭素分が多いために、期待される電気特性を実現することが困難であり、特に導電性が求められるゲート膜、バリア膜、電極膜としての応用は困難であった。
【0008】
特許文献6には、Ti(N(CH323X、Ti(N(CH3222、Ti(N(C2523X、Ti(N(C25222(Xはハロゲン原子)を用いたCVD法による窒化チタン薄膜の製造方法が開示されている。これらのチタン化合物は、熱分解性が高く、ゲート薄膜材料として好適に使用できるとの開示がある。しかし、特許文献6で代表的に使用されているTi(N(CH323Cl、Ti(N(CH323Clは、固体であり、CVD材料として使用の際に融点以上の温度に原料を保つ必要がある。これらは熱分解性が良好である半面、熱安定性が不良であり、液体状態を長時間保持するために加熱していると分解するおそれがある。また、固体のままで使用すると、揮発量不足、経時変化等の原料ガス供給性やインラインでの原料の輸送に問題を有し、パーティクル汚染という問題もある。また、固体プレカーサを有機溶剤に溶解させた溶液を用いる溶液CVD法等の溶液を用いるプロセスにおいても、気化装置中での温度変化や溶剤の部分的揮発、濃度変化が原因の固体析出を起こし、配管の詰まり等による供給量の経時的変化や、パーティクル汚染という問題を完全に解決できない。
【0009】
【特許文献1】特開2003−64475号公報
【特許文献2】特開平7−201779号公報
【特許文献3】大韓民国特許156980号公報
【特許文献4】特開2006−45083号公報
【特許文献5】特開2006−182709号公報
【特許文献6】特開2000−36473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、残留炭素の少ない良好な金属含有薄膜を与え、成膜速度や薄膜組成制御について安定したプロセスを与える金属化合物を提供することにある。なお、本発明における化学気相成長用原料とは、特段に区別しない限り、CVD用原料或いはALD用原料の両方を表す。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定の構造を有する金属化合物が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0012】
本発明は、下記一般式(1)で表される金属化合物を提供するものである。
【0013】
【化1】

(式中、Mはチタニウム、ジルコニウム又はハフニウムを表し、Xはハロゲン原子を表し、mは1又は2を表す。)
【0014】
また、本発明は、上記の金属化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記の化学気相成長用原料を用いた化学気相成長法による金属含有薄膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属含有薄膜、特に窒化金属系薄膜の製造に用いられる化学気相成長用原料に適した物性を有する金属化合物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の金属化合物は、上記一般式(1)で表される新規化合物である。
【0018】
上記一般式(1)中、Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。これらのハロゲン原子の中では、原料が安価であり、揮発性が高いので塩素が好ましい。
【0019】
また、mが1であるものは、2であるものより、揮発性が大きく、mが2であるものは、1であるものより熱分解温度が低い。化学気相成長用原料として使用する場合は、揮発温度(蒸気温度)と薄膜堆積温度(反応温度)の差が大きいものがプロセスマージンを広くとれるので使用しやすい。従って、mについてはプロセスマージンの大きい方を選択すればよい。例えば、Mが、チタニウムである場合は、mが1の金属化合物の方がプロセスマージンを大きく取れるので好ましい。
【0020】
Xが塩素であり、Mがチタニウムである場合、類似の化合物であるClnTi(N(CH324-n(nは、1又は2)は、融点を70〜95℃の範囲に有する固体であるが、本発明の金属化合物は、液体であるために化学気相成長用原料としての使用に特に適するものである。
【0021】
本発明の金属化合物の具体例としては、下記化合物No.1〜24が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
本発明の金属化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。その製造方法としては、例えば、MX4(M、Xは、上記一般式(1)と同様)と所望のmを与えるのに必要な量のエチルメチルアミンとの反応による方法、MX4と所望のmを与えるのに必要な量のM(NEtMe)4との反応による方法が挙げられる。前者の場合は、反応剤としてアルキルリチウムを用い、反応性中間体としてエチルメチルアミノリチウムを経由して、これとMX4を反応させる方法が好ましい。後者の場合は、MX4とM(NEtMe)4とを混合し、反応に必要な温度で攪拌する方法が好ましい。また本発明の金属化合物の製造は、水分、酸素、二酸化炭素等の反応活性種をできる限り系から排除した環境で行われる。
【0026】
本発明の化学気相成長用原料とは、上記一般式(1)で表される金属化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は使用される化学気相成長法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0027】
上記の輸送供給方法としては、化学気相成長用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、化学気相成長用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表される金属化合物そのものが化学気相成長用原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表される金属化合物そのもの又は該金属化合物を有機溶剤に溶かした溶液が化学気相成長用原料となる。
【0028】
また、多成分系薄膜を製造する場合に用いられる多成分系化学気相成長法においては、化学気相成長用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)、及び多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(1)で表される金属化合物のみによる混合物或いはこれら混合物に有機溶剤を加えた混合溶液、上記一般式(1)で表される金属化合物と他のプレカーサとの混合物或いはこれら混合物に有機溶剤を加えた混合溶液が化学気相成長用原料である。
【0029】
上記の化学気相成長用原料に使用する有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく、周知一般の有機溶剤で、本発明の金属化合物に対し反応しないものを用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;アセトニトリル、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点及び引火点との関係等により、単独又は二種類以上混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における本発明の金属化合物成分の合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0030】
また、シングルソース法又はカクテルソース法を用いた多成分系の化学気相成長法において、本発明の上記一般式(1)で表される金属化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0031】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物及び有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と、珪素、ホウ素、リン又は金属との化合物が挙げられる。金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1族元素、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2族元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)、アクチノイド元素等の3族元素、チタニウム、ジルコニウムの4族元素、バナジウム、ニオブ、タンタルの5族元素、クロム、モリブデン、タングステンの6族元素、マンガン、テクネチウム、レニウムの7族元素、鉄、ルテニウム、オスミウムの8族元素、コバルト、ロジウム、イリジウムの9族元素、ニッケル、パラジウム、白金の10族元素、銅、銀、金の11族元素、亜鉛、カドミウム、水銀の12族元素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの13族元素、ゲルマニウム、錫、鉛の14族元素、砒素、アンチモン、ビスマスの15族元素、ポロニウムの16族元素が挙げられる。
【0032】
有機配位子として用いられる上記のアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、第3ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第3アミルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−第2ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジアルキルアミノアルコール等が挙げられる。
【0033】
有機配位子として用いられる上記のグリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0034】
有機配位子として用いられる上記のβ−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、5−メチルヘプタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6−トリメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルオクタン−3,5−ジオン、2,9−ジメチルノナン−4,6−ジオン2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン、2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類等が挙げられる。
【0035】
有機配位子として用いられる上記のシクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0036】
有機配位子として用いられる上記の有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第3ブチルアミン、ダイサンブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0037】
多成分系化学気相成長法における上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、本発明の金属化合物と、薄膜組成に変化する反応又は分解挙動が類似している化合物が好ましい。また、ALD法の場合は、形成された分子レベルの層(本発明の金属化合物層又はこれが反応してできた中間体層)に対して反応活性のある化合物が好ましい。カクテルソース法の場合は、薄膜組成への変化の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0038】
また、本発明の化学気相成長用原料には、必要に応じて、本発明の金属化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有させてもよい。該求核試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類が挙げられ、安定剤としてのこれらの求核性試薬の使用量は、本発明の金属化合物1モルに対して好ましくは0.05モル〜10モルの範囲で使用され、より好ましくは0.1〜5モルの範囲で使用される。
【0039】
本発明の化学気相成長用原料は、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、塩素分等の不純物ハロゲン、及び不純物有機分を極力含まないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましい。総量では1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に金属酸化物、珪素との複合金属酸化物、窒化物、珪素との窒化酸化物等をLSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及び同族元素(チタニウム、ジルコニウム又はハフニウム)の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分はCVD原料中におけるパーティクルの発生や化学気相成長法によるパーティクル発生の原因となるので、金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際に予めできる限り水分を取り除いたほうがよい。金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0040】
また、本発明の化学気相成長用原料は、製造される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0041】
本発明の薄膜の製造方法とは、本発明の金属化合物、及び必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気、並びに必要に応じて用いられる反応性ガスを基板上に導入し、次いで、プレカーサを基板上で分解及び/又は反応させて薄膜を基板上に成長、堆積させる化学気相成長用法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0042】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化物を製造するものとしては酸化性ガスである酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア、窒素等が挙げられる。
【0043】
また、上記の輸送供給方法としては、前記の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0044】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス、又は原料ガス及び反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD,熱及びプラズマを使用するプラズマCVD、熱及び光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD(Atomic Layer Deposition)が挙げられる。
【0045】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明の金属化合物が充分に反応する温度である150℃以上が好ましく、250℃〜450℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD又は光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、10Pa〜2000Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.5〜5000nm/分が好ましく、1〜1000nm/分がより好ましい。また、ALDの場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。尚、本発明の化学気相成長用原料により形成される薄膜の厚みは、用途により適宜選択されるが、好ましくは0.1〜1000nmから選択する。
【0046】
本発明の金属化合物は、残留炭素等の不純物含有量の小さい金属窒化物を与えるので、窒化金属系薄膜の製造に好ましく用いられる。また、本発明の化学気相成長用原料を用いて、窒化金属系薄膜を製造するのに好ましい方法は、ALDである。ALDは、堆積部への原料と必要に応じて使用される反応性ガス、必要に応じて使用される他のプレカーサの供給を交互に行い、これを1サイクルとして所望の薄膜の分子層を段階的に堆積させていく方法である。また各サイクルにおいて、原料ガス及び/又は反応性ガスを供給後に不活性ガスによるパージ及び/又は減圧による排気を行い未反応の原料ガス及び/又は反応性ガスを除去する工程を任意に導入してもよい。ALDは、他のCVD法と比較して膜厚が薄く均一で良好な薄膜を得られる特徴がある。また、その成膜機構から薄膜堆積温度を低く抑えることが可能であり、基体の耐熱性、基体への元素拡散性等に左右されず広い応用が可能である。また、ALDは、熱、光、プラズマと併用することも可能である。
【0047】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後により良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。アニール、リフローの温度は、用途上、許容される温度内である。通常300〜1200℃であり、400〜600℃が好ましい。
【0048】
本発明の化学気相成長法用原料を用いた本発明の薄膜の製造方法により製造される薄膜は、他の成分のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、金属酸化物系薄膜、金属窒化物系薄膜、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の組成としては、例えば、金属酸化物系薄膜としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、ビスマス−チタニウム複合酸化物、ビスマス−希土類元素−チタニウム複合酸化物、珪素−チタニウム複合酸化物、珪素−ジルコニウム複合酸化物、珪素−ハフニウム複合酸化物、ハフニウム−アルミニウム複合酸化物、ハフニウム−希土類元素複合酸化物、珪素−ビスマス−チタニウム複合酸化物、珪素−ハフニウム−アルミニウム複合酸化物、珪素−ハフニウム−希土類元素複合酸化物、チタニウム−ジルコニウム−鉛複合酸化物、チタニウム−鉛複合酸化物、ストロンチウム−チタニウム複合酸化物、バリウム−チタニウム複合酸化物、バリウム−ストロンチウム−チタニウム複合酸化物等が挙げられ、金属窒化物系薄膜としては、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、チタニウム−アルミニウム複合窒化膜、珪素−ハフニウム複合酸化窒化物(HfSiON)、チタニウム複合酸化窒化物が挙げられる。これらの薄膜の用途としては、高誘電キャパシタ膜、ゲート絶縁膜、ゲート膜、電極膜、バリア膜、強誘電キャパシタ膜、コンデンサ膜等の電子部品部材、光ファイバ、光導波路、光増幅器、光スイッチ等の光学ガラス部材が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例、評価例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例等によって、何ら制限を受けるものではない。
【0050】
[実施例1]化合物No.2の製造
乾燥アルゴン雰囲気下で、反応フラスコに四塩化チタン(TiCl4)43.0g、脱水ヘキサン500mlを仕込み、−10℃まで冷却した。これにテトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(Ti[N(CH3)(C25)]4)191gと脱水ヘキサン500mlの混合溶液を反応系が−5℃を越えないように滴下した。滴下終了後、室温で8時間攪拌した後、減圧下でヘキサンを留去した。残渣を減圧蒸留して、圧力100Pa、留出温度82℃のフラクションから目的物である化合物No.2を収率90%で得た。得られた化合物No.2の同定は、元素分析及び1H−NMRにより行った。それらの結果を以下に示す。
【0051】
(1)元素分析(金属分析:原子吸光、塩素分析:硝酸銀滴定法)
Ti;18.5質量%(理論値18.59質量%)
塩素;13.4質量%(理論値13.76質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数比)
(3.096:s:3)(3.429:q:2)(1.003:t:3)
【0052】
[実施例2]化合物No.6の製造
乾燥アルゴン雰囲気下で、反応フラスコに四塩化チタン(TiCl4)55.7g、脱水トルエン300mlを仕込み、−10℃まで冷却した。これにテトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(Ti[N(CH3)(C25)]4)82.3gと脱水トルエン300mlの混合溶液を反応系が−5℃を越えないように滴下した。滴下終了後、室温で8時間攪拌した後、減圧下でトルエンを留去した。残渣を減圧蒸留して、圧力100Pa、留出温度85℃のフラクションから目的物である化合物No.6を収率90%で得た。得られた化合物No.6の同定は、元素分析及び1H−NMRにより行った。それらの結果を以下に示す。
【0053】
(1)元素分析(金属分析:原子吸光、塩素分析:硝酸銀滴定法)
Ti;20.3質量%(理論値20.38質量%)
塩素;30.1質量%(理論値30.17質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数比)
(3.021:s:3)(3.470:q:2)(1.003:t:3)
【0054】
[評価例]
上記の実施例1及び2で得た化合物No.2、6、表1、2に示す比較化合物について、20℃での状態(固体であれば融点:DTA測定による融点の吸熱開始温度)と熱分解性の評価を行った。これらの結果を表1又は表2に示す。熱分解性は、化合物をステンレス容器に密閉して、1時間加熱後の減圧下(10torr)でのTG−DTA測定の結果、0.5質量%を超える分解物が確認された場合の加熱温度である。加熱温度はTiCl4以外は80℃から10℃刻みで200℃までを選択し、TiCl4は、250℃〜300℃を選択した。例えば、130℃、1時間加熱後の減圧下でのTG−DTA測定の結果、ほぼ全量が揮発しており、140℃、1時間過熱後の減圧下でのTG−DTA測定の結果、全量が揮発しないで、質量減少終了時に0.5質量%を超える残渣を生じた場合は、140℃とした。
【0055】
【表1】

【0056】
上記の評価例より、本発明の金属化合物である化合物No.2は、類似化合物であるTiCl[N(CH323とは異なり、室温で液体であるので化学気相成長用原料として適する。また、熱分解性は、TiCl4、Ti[N(CH3)(C25)]4よりも良好である。このことは、より低温での薄膜製造を与えること、これをプレカーサとして得られる薄膜の膜質が良好であることを示唆するものである。特に、薄膜中の残留炭素による電気特性への影響が小さいので窒化チタンに代表されるLSIのゲート薄膜、バリア薄膜、電極膜の用途に好適であると考えられる。
【0057】
【表2】

【0058】
上記の評価例より、本発明の金属化合物である化合物No.6は、類似化合物であるTiCl2[N(CH322とは異なり、室温で液体であるので化学気相成長用原料として適する。また、熱分解性は、同等であった。化合物No.2と化合物No.6とを比較すると、化合物No.6が低温で分解することが確認できるが、分解温度が100℃であると、揮発温度とのプロセスマージンが小さい。気化工程の温度と成膜温度のマージンを考慮すると、化合物No.6よりも化合物No.2の方が化学気相成長法に用いるには好適である。
【0059】
[実施例3]窒化チタン薄膜の製造
上記実施例1で得た金属化合物No.2を化学気相成長用原料とし、図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に窒化チタン薄膜を製造した。得られた薄膜について、蛍光X線による膜厚測定、薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は60nmであり、膜組成は窒化チタンであり、炭素含有量は1.3atom%であった。
(条件)
反応温度(基板温度);300℃、反応性ガス;NH3
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、300サイクル繰り返した。
(1)気化室温度:120℃、気化室圧力250Paの条件で気化させたCVD原料の蒸気を導入し、系圧 250Paで3秒間堆積させる。
(2)3秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力250Paで3秒間反応させる。
(4)2秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0060】
[比較例1]
Ti[N(CH3)(C25)]4を化学気相成長用原料とし、上記実施例2と同じ条件のALD法により、シリコンウエハ上に窒化チタン薄膜を製造した。得られた薄膜について、蛍光X線による膜厚測定、薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は50nmであり、膜組成は窒化チタンであり、炭素含有量は7.0atom%であった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置の一例を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される金属化合物。
【化1】

(式中、Mはチタニウム、ジルコニウム又はハフニウムを表し、Xはハロゲン原子を表し、mは1又は2を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、Mがチタニウム原子である請求項1に記載の金属化合物。
【請求項3】
上記一般式(1)において、Xが塩素原子である請求項1又は2に記載の金属化合物。
【請求項4】
上記一般式(1)において、mが1である請求項1〜3の何れかに記載の金属化合物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の金属化合物を含有してなる化学気相成長用原料。
【請求項6】
基体上に窒化金属系薄膜を化学気相成長法により形成する原料である請求項5に記載の化学気相成長用原料。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の化学気相成長用原料を用いた化学気相成長法による金属含有薄膜の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の化学気相成長用原料を用いた化学気相成長法による窒化金属系薄膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173587(P2009−173587A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14791(P2008−14791)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】