説明

金属微粒子分散体の製造方法、該方法で製造された金属微粒子分散体を用いた導電性インキ、および非接触型メディア

【課題】均一な粒子径および高い銀濃度を有し、分散安定性に優れ導電回路形成に利用可能であり、かつ良好な塗膜物性が得られる金属微粒子分散体の製造方法の提供、流動性および安定性に優れ、低温かつ短時間の乾燥(硬化)条件で、優れた導電性と塗膜性能を持った導電回路を形成できる導電性インキの提供、および薄膜で高い導電性を発現する導体回路を具備する非接触型メディアの提供。
【解決手段】還元剤を含む非水性溶媒中に、金属化合物を添加して金属化合物を還元する金属微粒子分散体の製造方法、該方法で製造される金属微粒子分散体および金属粉を含む導電性インキ、および該導電性インキを用いて形成された導電回路と、該導体回路に導通された状態で実装されたICチップとを具備する非接触型メディア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インキの原料として有用な金属微粒子分散体の製造方法、およびこの金属微粒子分散体を含む導電性インキに関する。また、本発明は、前記導電性インキを用いて形成された導電回路と、ICチップとを具備する非接触型メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上に導電回路、電極等を形成する目的で、広く導電性ペースト等が用いられているが、これは主に導電性粉末を樹脂バインダーに分散したものである。この導電性ペーストを、ICカード等の非接触型メディア用途へ用いるためには、導電回路の塗膜厚を10〜20μm程度確保しなければ、ICメディアのアンテナ回路としての十分な抵抗値が得られない問題がある。また、プラスチック基材や紙基材上に導電回路を形成した際の耐折り曲げ性に難点があり、ICタグ用途にそのまま使用することは困難であった。
また、最近ではナノオーダーの金属微粒子を併用することによって、0.1〜5μm程度の薄膜で10-6Ω・cmオーダーの体積抵抗値が得られることが知られているが、この抵抗値を発現させるためには、200℃以上の高温で1時間程度焼成しなければならず、ICカードやICタグ用途で通常使用されるプラスチック基材や紙基材への適用が困難であった。
【0003】
金属微粒子の製造方法については、気相法、液相法共に様々な方法が報告されているが、多くは金属微粒子の濃度が低いヒドロゾルであった。導電性ペースト等の用途に用いるためには、金属微粒子濃度が濃いオルガノゾルが有利であり、高濃度化が可能なオルガノゾルの効率的な製造方法が求められていた。今までに、還元生成した金属微粒子を沈澱させて取り出した後に有機溶剤に再分散させる方法や、有機溶剤中に高濃度の金属塩水溶液を分散させ、還元剤を添加して還元した後に有機溶剤相に抽出する方法等も報告されている。しかし、一度沈澱した粒子は凝集が進み、粗大粒子が多く生成してしまうため、高濃度化は困難であった。また、有機溶剤中に金属塩水溶液を分散させてから還元剤を添加し、抽出する方法では、有機溶剤中で金属微粒子を凝集させないために分散剤を多量に添加しなければならない。そのため、導電性ペーストとして使用する際、金属の含有量が上げられない上に、分散剤が導電性を阻害してしまい、十分な物性が得られなかった。
【0004】
そこで、導電性を阻害する分散剤を減らすために、高濃度の金属塩水溶液中に分散剤を含む有機溶剤を分散させた後に、還元剤を添加し、有機溶剤相へ抽出させる方法も報告されている。しかし、この方法では、高濃度の金属塩水溶液中に還元剤を滴下するため、激しく反応が進み、還元生成した金属微粒子が有機溶剤中に抽出される前に凝集してしまう確率が増え、収率の低下を招くと共に生成した粒子の粒径分布が広くなる。そのため、導電性ペーストにした際に、十分な流動性や導電性などの物性が得られない。また、激しい反応を起こす還元力の強い還元剤、例えば、ヒドラジン化合物やクエン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等の一般的な還元剤を使用することができず、アミン化合物等の比較的温和な還元作用を有する還元剤で反応を行わなければならないという制約があった。
【特許文献1】特開平11−80647号公報
【特許文献2】特開平11−319538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、均一な粒子径を有し、分散安定性に優れ導電回路形成に利用可能であり、かつ良好な塗膜物性が得られる金属微粒子分散体の製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、流動性および安定性に優れ、低温かつ短時間の乾燥(硬化)条件で、優れた導電性と塗膜性能を持った導電回路を形成できる導電性インキの提供を目的とする。
また、本発明は、薄膜で高い導電性を発現する導体回路を具備する非接触型メディアの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属微粒子分散体の製造方法は、還元剤を含む非水性溶媒中に、金属化合物を添加して金属化合物を還元することを特徴とする。
本発明の金属微粒子分散体の製造方法において、金属化合物を水溶液として添加し、金属化合物を還元した後に、水相を除去することが好ましく、さらに、非水性溶媒が顔料分散剤を含むことが好ましい。また、金属化合物を構成する金属は、IB族またはVIII族の金属であることが好ましい。
【0007】
また、本発明の導電性インキは、本発明の方法で製造される金属微粒子分散体および金属粉を含むことを特徴とする。本発明の導電性インキにおいて、金属粉は、銀粉であることが好ましい。
また、本発明の非接触型メディアは、基材上に、本発明の導電性インキを用いて形成された導電回路と、該導体回路に導通された状態で実装されたICチップとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属微粒子分散体の製造方法によれば、還元剤を含む非水性溶媒中に金属化合物を添加するため、金属化合物の還元反応は、非水性溶媒中に分散された還元剤の液滴と、添加された金属化合物とが接触したときのみ進行する。さらに、還元剤を含む非水性溶媒中に金属化合物を添加するため、急激な還元反応や、生成した金属微粒子の凝集が起こらず、生成した金属微粒子を効率よく非水性溶媒中に移動することができる。そのため、本発明の方法を用いて製造される金属微粒子分散体は、粒度分布が狭く、高濃度にした場合でも分散安定性に優れている。また、本発明の製造方法では、還元反応の速度が緩和されるため、還元剤の制限を受けずに、一般的に用いられている還元剤を用いることが可能である。
【0009】
また、本発明の導電性インキは流動性に優れ、低温短時間の乾燥(硬化)条件で、低い体積抵抗値を有する導電回路を形成できるので、フレキソ印刷、ロータリースクリーン印刷、オフセットグラビア印刷、グラビア印刷、レタープレスといった通常の印刷方式で導電回路の大量生産が可能となった。これらの印刷法により形成される厚さ数μm程度の導電回路は、非接触型メディアのアンテナ回路に要求される物性を十分満たすと同時に、その抵抗値は安定し信頼性に優れている。
本発明の導電性インキを使用することによって、非接触型メディアの実用性が高まり、低コスト化が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について更に詳しく説明するが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
まず、本発明の金属微粒子分散体の製造方法について説明する。
本発明の金属微粒子分散体の製造方法では、還元剤を含む非水性溶媒中に、金属化合物を添加して金属化合物を還元する。金属化合物は、水溶液として添加することが好ましく、金属化合物を水溶液として添加した場合には、金属化合物を還元した後に水相を除去する。また、金属化合物の還元を行う際には、顔料分散剤等の分散剤が存在していることが好ましい。
【0011】
金属化合物としては、特に限定されず、例えば、金属の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩等が挙げられる。また、金属化合物を構成する金属としては、特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、コバルト等のIB族またはVIII族の金属であることが好ましい。中でも、生成する金属微粒子の安定性や導電性インキとしての物性を考慮すると、金、銀が好ましい。
金属化合物の具体例としては、塩化金酸、塩化白金酸、塩化銀等の塩化物、硝酸銀等の硝酸塩、酢酸銀、酢酸銅(II)等の酢酸塩、過塩素酸銀等の過塩素酸塩、硫酸銅(II)等の硫酸塩が挙げられる。
金属化合物は、一種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
非水性溶媒としては、水と相分離する非水性溶媒であれば特に限定されず、例えば、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、ノルマルヘキサン、トルエン、シクロヘキサノン、1−メトキシイソプロパノールアセテート、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、四塩化炭素、塩化メチレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、シリコンオイル等が挙げられる。
また、非水性溶媒としては、反応性有機溶剤を用いることもできる。反応性有機溶剤としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート化合物、ビニルエーテル化合物、ポリアリル化合物等が挙げられる。非水性溶媒として反応性有機溶剤を使用した場合は、必要に応じて他の導電性粉末や、光重合開始剤等の添加剤を金属微粒子分散体に加えて、紙、フィルム等の上に塗布し、加熱、活性エネルギー線の照射等により硬化させることで、溶剤を乾燥させる工程を経ずに塗膜化することが可能である。
非水性溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
還元剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン類、アルデヒド類(例えば、ホルマリン)、金属塩類(例えば、硫酸第一鉄)、カルボン酸類(例えば、蟻酸)、多価アルコール類(例えば、グリセリン)、過酸化水素及びコハク酸等の公知の還元剤や、アルカノールアミン等のアミン類、ブドウ糖等が挙げられる。これらの還元剤は、2種以上を併用しても良い。
還元剤は、そのまま添加しても、水に溶解して水溶液として添加してもよい。そのまま添加する場合の還元剤の濃度は特に限定されないが、効率よく還元反応を進めるためには、非水性溶媒と還元剤の合計重量を基準(100重量%)として5〜70重量%であることが好ましい。また、還元剤を水溶液として添加する場合の濃度も特に制限されないが、効率よく還元反応を進めるためには、非水性溶媒と還元剤と水との合計重量を基準(100重量%)として1〜50重量%であることが好ましい。
金属化合物に対する還元剤の使用量については、還元剤の種類や濃度によっても異なるが、通常は金属化合物の溶液から金属が還元析出するのに必要な、化学量論比で金属化合物の1倍以上の量を使用すればよい。還元後に水相を除去する際には余剰の還元剤も一緒に除去できるため、その上限は特に定められるものではないが、洗浄工程やコストを考えると、還元剤の使用量は化学量論比で金属化合物の6倍以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の金属微粒子分散体の製造方法において、金属化合物の還元反応は、顔料分散剤の存在下で行うことが好ましく、還元剤を含む非水性溶媒中に顔料分散剤を含有させることが好ましい。顔料分散剤は、非水性溶媒で金属化合物を還元することにより得られる金属微粒子を安定化させる働きをしていると考えられる。また、金属化合物を水溶液として添加する場合には、顔料分散剤は、非水性溶媒相および非水性溶媒相と水相との界面に存在しており、水相から非水性溶媒相への金属微粒子の抽出を助ける働きをしていると考えられる。
【0015】
顔料分散剤とは、顔料親和性基を1個または複数個有し、一般に顔料分散剤として知られている化合物である。顔料親和性基としては、例えば、アミノ基、4級アンモニウム塩基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基等の極性基が挙げられる。顔料親和性基は、化合物の主鎖のみに含まれていても、側鎖のみ、もしくは側鎖と主鎖の双方に含まれていてもよい。また、顔料親和性基は、フリーの状態でも、例えば、4級アンモニウム塩基のように塩になっていても良い。
顔料分散剤としては、一般に顔料分散剤として市販されているものを使用することができる。
【0016】
アミノ基または4級アンモニウム塩基を有する市販の顔料分散剤としては、例えば、アビシア株式会社製のソルスパース9000、ソルスパース17000、ソルスパース24000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース35100、エフカアディティブズ社製のEFKA4009、EFKA4046、EFKA4047、EFKA4080、EFKA4010、EFKA4015、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4060、EFKA4330、EFKA4300、EFKA7462、味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーPB821、アジスパーPB711、アジスパーPB822、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDisperbyk−101、Disperbyk−161、Disperbyk−162、Disperbyk−163、Disperbyk−164、Disperbyk−166、Disperbyk−167、Disperbyk−168、Disperbyk−170、Disperbyk−171、Disperbyk−174などが挙げられる。
【0017】
カルボキシル基を有する市販の顔料分散剤としては、例えば、アビシア株式会社製のソルスパース3000、ソルスパース36000、ソルスパース41000等が挙げられる。
リン酸基を有する市販の顔料分散剤としては、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDisperbyk−110、Disperbyk−111、Disperbyk−180、Disperbyk−182、Disperbyk−2000、Disperbyk−2001等が挙げられる。
その他の顔料分散剤としては、例えば、味の素ファインテクノ株式会社製のPN411、アジスパーPA111、コグニスジャパン株式会社製のTEXAPHOR−UV20、TEXAPHOR−UV21、TEXAPHOR−UV61、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDisperbyk−103、Disperbyk−106等が挙げられる。
顔料分散剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
顔料分散剤の分子量は特に限定されないが、効果的に分散安定性を持たせるためには分子量が大きいほうが有利であり、数平均分子量1000〜100000程度であることが好ましい。数平均分子量が1000未満の顔料分散剤は、十分な分散効果を発揮しない上、分子量が小さいため塗膜生成後、塗膜表面に染み出したりして塗膜物性を劣化させるおそれがあるため好ましくない。また、数平均分子量が100000を超える顔料分散剤を用いた場合には、金属微粒子分散体の粘度が上がり操作性が悪くなる。また、得られる金属微粒子分散体を導電性材料用途に使用する場合には、導電性を阻害するため好ましくない。
【0019】
顔料分散剤の添加量は、特に限定されないが、好ましくは金属微粒子分散体中の金属微粒子100重量部に対し、10〜2000重量部となる割合である。顔料分散剤の添加量が10重量部未満の場合には、金属微粒子の分散を安定させる十分な効果が得られない。2000重量部を超える場合には、金属微粒子の分散安定化に寄与しない過剰の顔料分散剤が存在することとなり、コスト的に不利である上、金属微粒子分散体中の金属濃度の低下や導電性の阻害等の悪影響を与えるおそれがあるため好ましくない。
【0020】
本発明の金属微粒子分散体の製造方法において、金属化合物の還元反応は、還元剤を含む非水性溶媒中に金属化合物を添加することにより進行し、室温でも十分に終了するが、加熱して反応を行っても差し支えない。但し、あまり高温になると金属微粒子のブラウン運動が激しくなり、金属微粒子の凝集が起こりやすくなる恐れがあり、金属化合物を還元する際に顔料分散剤を存在させる場合には顔料分散剤が変性してしまう恐れがあるため、90℃以下で還元反応を行うことが好ましい。
また、本発明の金属微粒子分散体の製造方法において、金属化合物の還元反応は、大気中で行っても差し支えないが、生成した金属微粒子の酸化や硫化を防ぐ、または酸素が存在することによる副反応の生成を防ぐため、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
さらに、金属化合物を還元する際には、紫外線、超音波等を照射し、還元反応を促進させてもよい。
【0021】
本発明の金属微粒子分散体は、必要に応じて水相を除去した後に加熱や減圧蒸留等の方法を用いて非水性溶媒の一部を除去し、任意の濃度まで濃縮することができる。
また、非水性溶媒を完全に除去した後、目的に応じて合成時と異なる溶媒を加えて再分散させ、任意の濃度の金属微粒子分散体に調整することも可能である。このときの溶媒は非水性溶媒でも水性溶媒でもよいが、顔料分散剤を用いる場合には顔料分散剤が溶解する溶媒が好ましい。
本発明の方法で製造される金属微粒子の粒子径は、必要に応じて調節可能であるが、0.1〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜100nmである。粒子径は、粒子合成時の反応条件、還元剤、顔料分散剤、原料濃度等により調整が可能である。
【0022】
次に、本発明の導電性インキについて説明する。
本発明の導電性インキは、本発明の方法で製造される金属微粒子分散体および金属粉を含むものである。金属粉は、箔状、フレーク状、球状、針状、鱗片状、板状、樹枝状、その他いずれの形状のものでもよく、これらの混合物を使用することもできる。
インキの導電性、流動性の点からは、フレーク状、球状、箔状の金属粉が好ましい。フレーク状の金属粉としては、平均円相当径(金属粉の投影面積と同じ面積を持つ円の直径の平均値)が1〜10μmのものが好ましく、球状の金属粉としては、平均粒子径が1〜10μmのものが好ましい。さらに、フレーク状の場合は、タップ密度が2.0〜6.0g/cm3、比表面積が0.2〜2.0m2/gの粉末が好ましく、球状の場合は、タップ密度が1.5〜6.0g/cm3、比表面積が0.1〜2.5m2/gの粉末が好ましい。
【0023】
箔状の金属粉としては、例えば、図1に示す形状(箔状)のものを使用することができる。特に、平均円相当径:a(金属粉の投影面積と同じ面積を持つ円の直径の平均値)が1〜20μm、平均厚さ:bが0.01〜0.5μmの箔状金属粉が好ましい。箔状金属粉の平均円相当径が1μm未満の場合は、導電性、流動性が不十分であり、20μmを超える場合は、導電性インキの安定性を損ない印刷適性が低下するためである。また、箔状金属粉の平均厚さが、0.01μm未満の場合は、導電性インキの安定性が不十分となり、0.5μmを超える場合は、薄膜での低抵抗値を得ることが困難なためである。
箔状金属粉の平均円相当径:aは、金属粉の電子顕微鏡画像をLUZEX(株式会社ニレコ製)等の画像解析装置で解析することにより求めることができる。また、平均厚さ:bは、例えば箔状金属粉を含む塗膜の電子顕微鏡写真をLUZEX等の画像解析装置で画像解析することにより求めることができる。
【0024】
金属微粒子分散体と箔状の金属粉を含む導電性インキでは、金属微粒子が箔状の金属粉に対してころの役目を果たし、導電性インキの流動性が向上する。更に、他の形状の金属粉を併用すると、金属微粒子のころの効果がより増すため、金属粉どうしが効率的に何層にも重なり合い、導電回路の抵抗値を低下させることができる。
本発明で使用される金属粉の金属の種類としては、例えば、金、銅、白金、パラジウム、タングステン、チタン、インジウム、イリジウム、ロジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銀メッキ銅、銀−銅複合体、銀−銅合金、アモルファス銅等の金属を用いることができる。なかでも、導電性、コストの点で銀が好ましい。
導電性インキ中の金属微粒子と金属粉の混合比は、印刷適性に優れた導電性インキを得て、導電回路として十分な抵抗値を得ることができることから、重量比で金属微粒子/金属粉=5/95〜50/50であることが好ましく、5/95〜40/60であることがより好ましい。金属微粒子の混合比が上記範囲より少ない場合は、導電性インキの流動性向上効果が不十分であり、上記範囲より多い場合は、塗膜物性が低下する。
【0025】
また、導電性インキ中の金属微粒子と金属粉の合計含有量は、インキの総固形分を基準(100重量%)として70〜95重量%であることが好ましく、75〜92重量%であることがより好ましい。金属微粒子と金属粉の合計含有量が70重量%未満の場合は導電性が十分ではなく、95重量%を超える場合は印刷適性及び導電性が低下するためである。
本発明の導電性インキには、他の導電性物質、例えば、金属で被覆した無機物粉末、酸化銀、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物等の金属酸化物、またはカーボンブラック、グラファイト等を含有させることができる。これらの導電性物質は、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
導電性インキ中には、樹脂、その前駆体、またはそれらの混合物からなる担体を含ませることができる。担体は、金属微粒子と金属粉を各種基材に固着させたり、物性を付与したり、印刷インキとしての性能を維持する働きをする。
樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、スチレン−無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジンエステル、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂等から選ばれる1種または2種以上を、印刷方法の種類及び使用基材の種類や、非接触メディアの用途に応じて使用することができる。
【0027】
樹脂の前駆体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート化合物、ビニルエーテル化合物、ポリアリル化合物等のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物が挙げられる。これらの化合物は、1種または2種以上を使用することができる。
(メタ)アクリレート化合物のうち、単官能(メタ)アクリレート化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルホルムアミド、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、(メタ)アクリロイロキシエチルサクシネート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチルイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
また、多官能の(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化イソシアヌール酸トリアクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート)トリアクリレート、プロポキシレートグリセリルトリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ネオペンチルグリコールオリゴアクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴアクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴアクリレート、トリメチロールプロパンオリゴアクリレート、ペンタエリスリトールオリゴアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ロジン変性アクリレート等が挙げられる。
【0029】
ビニルエーテル化合物のうち、単官能のビニルエーテル化合物としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
多官能のビニルエーテル化合物としては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサンジビニルエーテル、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサンジビニルエーテル、ビスフェノールAジエトキシジビニルエーテル、グリセロールトリビニルエーテル、ソルビトールテトラビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル等が挙げられる。
【0030】
また、先に例示した化合物以外のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、N−ビニルアセトアミド、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート、2−メタリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、ステアリルアクリレート、テトラメチルピペジリルメタクリレート等が挙げられる。
【0031】
本発明の導電性インキは、担体として液状の樹脂前駆体を含む場合には、紫外線、電子線等の活性エネルギー線に対して硬化性を有する無溶剤型インキとして調製することができる。また、担体として樹脂を含み、液状の樹脂前駆体を含まない場合には、樹脂を溶解すると共に、金属微粒子や金属粉を分散安定化して、導電性インキに印刷適性を付与するために、液状媒体を含ませて一般的な熱乾燥型インキとして調製することができる。
液状媒体としては、担体として用いる樹脂、導電回路を形成する基材、印刷方法等の種類に応じて、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、水等を使用することができ、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0032】
エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸(イソ)アミル、酢酸シクロヘキシル、乳酸エチル、酢酸3−メトキシブチル等が挙げられ、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、及びこれらモノエーテル類の酢酸エステル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0033】
脂肪族系溶剤としては、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが挙げられ、芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレンが挙げられる。アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、シクロヘキサノール、3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。また、その他の液状媒体として、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネートが挙げられる。
【0034】
また、樹脂の前駆体を含む本発明の導電性インキに、電子線を照射して硬化する場合は、樹脂の前駆体(エチレン性不飽和二重結合を有する化合物)の分子鎖切断によってラジカル重合が起こるが、紫外線を照射する場合は、導電性インキに光重合開始剤を添加するのが一般的である。
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、アセトフェノン系、ベンゾイン系、アシルフォスフィンオキサイド系、ビスイミダゾール系、アクリジン系、カルバゾール−フェノン系、トリアジン系、オキシム系等の光重合開始剤を使用することができる。
【0035】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、4−フェニルベンゾフェノン、4,4−ジエチルアミノベンゾフェノン、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルサルファイド等が挙げられる。チオキサントン系光重合開始剤としては、チオキサントン、2−クロロオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロピルキサントン等が挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、2−メチル−1−[(4−メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセエトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。ベンゾイン系光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルメチルケタール等が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)アシルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0036】
樹脂の前駆体を含む本発明の導電性インキには、更に、光重合開始剤と共に、光重合促進剤、増感剤を含ませることができる。光重合促進剤および増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル等の脂肪族や芳香族のアミン類が挙げられる。
また、樹脂の前駆体を含む本発明の導電性インキには、導電性インキの安定性を高める目的で、(熱)重合禁止剤を含ませることができる。(熱)重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、2,6−t−ブチル−p−クレゾ−ル、2,3−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、アンスラキノン、フェノチアジン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が挙げられる。
【0037】
本発明の導電性インキには、必要に応じて可塑剤、滑剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、耐電防止剤、酸化防止剤、キレート剤等の通常用いられる各種添加剤を含ませることができる。更に、本発明の目的に反しない範囲で、通常用いられる有機・無機充填剤を含ませてもよい。
本発明の導電性インキは、金属微粒子分散体と、金属粉を秤取った後、用途、基材に応じて選択した樹脂および/または樹脂の前駆体を加え、更に必要に応じて可塑剤、滑剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、耐電防止剤、酸化防止剤、キレート剤等の添加剤を混合して、従来公知の方法で、例えばミキサー、ディソルバー、フーバーマーラー、3本ロールミル、サンドミル等を用いて分散することにより製造することができる。本発明の導電性インキは、金属微粒子および金属粉を含むことで、流動性、分散安定性が容易に確保されるため、簡単に分散することができる。
【0038】
最後に、本発明の導電性インキを用いて形成された導電回路と、該導体回路に導通された状態で実装されたICチップとを具備する非接触型メディアについて説明する。
本発明の導電性インキを、使用用途に応じて紙、プラスチック等の基材の片面または両面上に、フレキソ印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、オフセット印刷、ロータリースクリーン印刷、レタープレス等、従来公知の印刷方法を用いて印刷することで導電回路を形成することができる。
【0039】
紙基材としては、コート紙、非コート紙の他、合成紙、ポリエチレンコート紙、含浸紙、耐水加工紙、絶縁加工紙、伸縮加工紙等の各種加工紙が使用できるが、非接触メディアとして安定した抵抗値を得るためには、コート紙、加工紙が好ましい。コート紙の場合は、平滑度の高いものほど導電回路の抵抗値が安定するため好ましい。
プラスチック基材としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン、ポリイミド、ポリカーボネート等の通常のタグ、カードとして使用されるプラスチックからなる基材を使用することができる。
【0040】
本発明の導電性インキを用いることにより、通常の印刷方法によって導電回路が形成できるため、既存の設備を生かした設計が可能である。すなわち、絵柄等の非接触メディアの意匠性を高めるための通常の印刷を施した後に、そのまま導電回路を印刷、形成することが可能なため、従来、エッチング法や転写法で行っていた回路形成法と比較して、生産性、初期投資コスト、ランニングコストの点ではるかに優れている。
【0041】
導電回路を印刷、形成する前の工程において、導電回路と基材との密着性を高める目的で、基材にアンカーコート剤や各種ワニスを塗工してもよい。また、導電回路形成後に、導電回路の保護を目的としてオーバープリントワニス、各種コーティング剤等を塗工してもよい。これらの各種ワニス、コーティング剤としては、環境面から活性エネルギー線硬化型が好ましい。
また、導電回路上に接着剤を塗布し、そのまま絵柄等を印刷した紙基材やプラスチックフィルムを接着、またはプラスチックの溶融押出し等によりラミネートして非接触メディアを得ることもできる。勿論、あらかじめ粘着剤、接着剤が塗布された基材を使用することもできる。
【0042】
また、上記印刷方式を用いて導電回路を印刷し、通常の熱乾燥後または活性エネルギー線を用いて硬化させた後、導電回路の抵抗値を更に低減させる、あるいは抵抗値の安定性を高める目的で、熱風乾燥オーブンを通して導電回路を加熱しても良い。加熱温度は特に限定されないが、使用する基材や印刷速度によって使用可能な温度で加熱することが好ましい。
加熱は、熱ロールまたは熱プレスロールを通して行っても良い。熱ロールまたは熱プレスロールを通して加熱することによって、導電回路の抵抗値が安定し、ひいては非接触型メディアとして電波の送受信の安定化につながるため好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、「部」及び「%」とは、「重量部」及び「重量%」をそれぞれ表す。また、銀濃度および金濃度は、熱分析測定装置(株式会社日立製作所製「TG−DTA」)で測定したデータである。
[実施例1]
セパラブル4口フラスコに冷却管、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置を取り付け、窒素ガスを導入しながらトルエン91.1部、および顔料分散剤としてソルスパース36000(アビシア株式会社製、重量平均分子量約50000)1.9部を仕込み溶解させた。35%ジメチルアミノエタノール水溶液54.3部を室温で攪拌しながら滴下し、均一な液滴を生成させた後、1M硝酸銀水溶液100部を滴下し、50℃に昇温して反応を進行させた。水相を取り出し、数回蒸留水で洗浄・分離を繰返すことで過剰の還元剤と不純物の洗浄を行い、銀微粒子分散体を得た。得られた銀微粒子分散体は、流動性があり、417nmに強い吸収を持ち、銀微粒子の平均粒子径が5nm±2nmと均一であり、銀濃度は65%であった。この銀微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存した後でも、吸収、粒子径ともに安定であった。
【0044】
[実施例2]
顔料分散剤をソルスパース32000(アビシア株式会社製、重量平均分子量約50000)に変更した以外は、実施例1と同様にして銀微粒子分散体を得た。得られた銀微粒子分散体は、流動性があり、420nmに強い吸収を持ち、銀微粒子の平均粒子径が7nm±3nmと均一であり、銀濃度は80%であった。この銀微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存した後でも、吸収、粒子径ともに安定であった。
【0045】
[実施例3]
35%ジメチルアミノエタノール水溶液54.3部を30%ヒドラジン水溶液39.0部に変更した以外は、実施例2と同様にして銀微粒子分散体を得た。得られた銀微粒子分散体は、流動性があり、418nmに強い吸収を持ち、銀微粒子の平均粒子径が5nm±2nmと均一であり、銀濃度は70%であった。この銀微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存した後でも、吸収、粒子径ともに安定であった。
【0046】
[実施例4]
顔料分散剤の添加量を1.9部から0.5部に変更した以外は、実施例2と同様にして銀微粒子分散体を得た。得られた銀微粒子分散体は、440nmにブロードな吸収を持ち、銀微粒子の平均粒子径が20nm±10nmであり、銀濃度は65%であった。この銀微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存した後でも、吸収、粒子径ともに安定であった。
【0047】
[実施例5]
セパラブル4口フラスコに冷却管、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置を取り付け、窒素ガスを導入しながらトルエン95部、およびソルスパース32000(アビシア株式会社製、重量平均分子量約50000)3.3部を仕込み溶解させた。35%ジメチルアミノエタノール水溶液27.1部を室温で攪拌しながら滴下し、均一な液滴を生成させた後、1M塩化金酸水溶液100部を滴下し、50℃に昇温して反応を進行させた。水相を取り出し、数回蒸留水で洗浄・分離を繰返すことで過剰の還元剤と不純物の洗浄を行い、金微粒子分散体を得た。得られた金微粒子分散体は、流動性があり、530nmに強い吸収を持ち、金微粒子の平均粒子径が10nm±5nmと均一であり、金濃度は55%であった。この金微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存した後でも、吸収、粒子径ともに安定であった。
【0048】
[比較例1]
セパラブル4口フラスコに冷却管、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置を取り付け、窒素ガスを導入しながら1M硝酸銀水溶液を100部仕込み、攪拌しながらソルスパース32000(アビシア株式会社製、重量平均分子量約50000)1.9部を、トルエン10.8部中に溶解させた溶液を滴下した。室温で30分攪拌した後、ジメチルアミノエタノール38.1部を滴下し、そのまま室温で一晩攪拌し反応を進行させた。水相を取り出し、数回蒸留水で洗浄・分離を繰返すことで過剰の還元剤と不純物の洗浄を行い、銀微粒子分散体を得た。得られた銀微粒子分散体は、ペースト状であり、希釈すると430nmにブロードな吸収を持ち、銀微粒子の平均粒子径が25nm±10nmであり、銀濃度は50%であった。この銀微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存すると粒子径が50nmとなった。
【0049】
[比較例2]
セパラブル4口フラスコに冷却管、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置を取り付け、窒素ガスを導入しながら1M硝酸銀水溶液を100部仕込み、攪拌しながらソルスパース32000(アビシア株式会社製、重量平均分子量約50000)3.8部を、トルエン10.8部中に溶解させた溶液を滴下した。室温で30分攪拌した後、30%ヒドラジン水溶液39.0部を滴下し、そのまま室温で一晩攪拌し反応を進行させたところ、反応中から沈殿物が生じた。水相を取り出し、数回蒸留水で洗浄・分離を繰返すことで過剰の分散剤と不純物の洗浄を行行い、銀微粒子分散体を得た。得られた銀微粒子分散体は、ペースト状であり、稀釈すると430nm近辺にブロードな吸収を持ち、銀微粒子の平均粒子径が60nm±30nmで粗大粒子を含むものであり、銀濃度は40%であった。この銀微粒子分散体は、40℃で1ヶ月保存すると凝集し、沈殿した。
【0050】
[実施例6]
実施例1で得られた銀微粒子分散体6.2部、フレーク状金属粉(福田金属箔粉工業株式会社製「AgC−A」、平均円相当径3.7μm、タップ密度3.1g/cm3、比表面積0.8m2/g)76部、ポリエステルアクリレート(ダイセル・ユーシービー株式会社製「Ebecryl80」)17.8部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製「イルガキュア907」)2部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、CI型フレキソ印刷機(W&H社製「SOLOFLEX」、アニロックス:120線/インチ)でポリエステルフィルム(ユニチカ株式会社製「エンブレットSA」、厚さ50μm)に、幅3mmの導電回路パターンを印刷し紫外線を照射して導電回路を形成した。なお、この時の紫外線照射量は300mJ/cm2とした。更に、この導電回路に、ロール温度:120℃、プレス圧力:5kg/cm、ライン速度:15m/分の条件で、圧着機を用いて熱ロールプレス処理を行った。
【0051】
[実施例7]
実施例2で得られた銀微粒子分散体10.6部、球状金属粉(METALOR社製、「C−0083P」、平均粒子径1.3μm、タップ密度2.5g/cm3、比表面積1.7m2/g)76.5部、ポリウレタン樹脂(荒川化学工業株式会社製、「ポリウレタン75」)12.9部、液状媒体(イソプロピルアルコール/酢酸エチル=85/15、重量比)42.9部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、実施例6と同様にして導電回路パターンをフレキソ印刷、乾燥して導電回路を形成した。なお、印刷機の乾燥温度は実測値で50℃に設定した。
【0052】
[実施例8]
実施例3で得られた銀微粒子分散体5.4部、箔状金属粉(福田金属箔粉工業株式会社製「ナノメルトAg−XF301」、平均円相当径6.0μm、平均厚さ0.1μm)71.3部、ポリウレタン樹脂(荒川化学工業株式会社製、「KL424」)23.4部、液状媒体(トルエン/メチルエチルケトン=1/1、重量比)53.8部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、小型グラビア印刷機でポリエステルフィルム(ユニチカ株式会社製「エンブレットSA」、厚さ50μm)に、幅3mmの導電回路パターンを印刷、乾燥して導電回路を形成した。なお、この時の乾燥機の温度は実測値で50℃に設定した。更に、実施例6と同様に導電回路に熱ロールプレス処理を行った。
【0053】
[実施例9]
実施例4で得られた銀微粒子分散体13.8部、球状金属粉(METALOR社製、「C−0083P」、平均粒子径1.3μm、タップ密度2.5g/cm3、比表面積1.7m2/g)25部、箔状金属粉(福田金属箔粉工業株式会社製「ナノメルトAg−XF301」、平均円相当径6.0μm、平均厚さ0.1μm)56部、ポリウレタン樹脂(荒川化学工業株式会社製、「KL424」)5.2部、液状媒体(トルエン/メチルエチルケトン=1/1、重量比)53.8部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、実施例8と同様にして導電回路を形成した。
【0054】
[実施例10]
実施例5で得られた金微粒子分散体7.3部、フレーク状金属粉(福田金属箔粉工業株式会社製「AgC−A」、平均円相当径3.7μm、タップ密度3.1g/cm3、比表面積0.8m2/g)76部、ポリエステルアクリレート(ダイセル・ユーシービー株式会社製「Ebecryl80」)16.7部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製「イルガキュア907」)2部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、実施例6と同様にして導電回路を形成した。
【0055】
[比較例3]
比較例1で得られた銀微粒子分散体17部、球状金属粉(METALOR社製、「C−0083P」)、平均粒子径1.3μm、タップ密度2.5g/cm3、比表面積1.7m2/g)76.5部、ポリウレタン樹脂(荒川化学工業株式会社製、「ポリウレタン75」)6.5部、液状媒体(イソプロピルアルコール/酢酸エチル=85/15、重量比)42.9部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、実施例6と同様にして導電回路を形成した。
【0056】
[比較例4]
比較例2で得られた銀微粒子分散体10部、フレーク状金属粉(福田金属箔粉工業株式会社製、「AgC−A」、平均円相当径3.7μm、タップ密度3.1g/cm3、比表面積0.8m2/g)76部、ポリエステルアクリレート(ダイセル・ユーシービー株式会社製「Ebecryl80」)14部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製「イルガキュア907」)2部を混合し、ディソルバーを用いて30分間撹拌して導電性インキを得た。次に、この導電性インキを用いて、実施例6と同様にして導電回路を形成し、同様に熱ロールプレス処理を行った。
【0057】
実施例および比較例で得られた導電性インキの流動性、および導電回路の体積抵抗値、基材密着性、耐折り曲げ性およびICタグ通信試験について、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
[インキ流動性]
導電性インキを所定量容器に秤り取り、B型粘度計を使用して、6回転及び60回転の粘度を25℃環境下で測定した。次に、チキソトロピックインデックス値(TI値)、即ち(6回転時の粘度)÷(60回転時の粘度)の値をそれぞれ算出して、三段階で評価した。
○:流動性良好、TI値<2.0
△:使用可能な範囲、2.0≦TI値≦8.0
×:流動性悪い、TI値>8.0
【0058】
[体積抵抗値]
導電回路を30mm間隔で4箇所はさみ、その抵抗値を四探針抵抗測定器(三和電気計器株式会社製「DR−1000CU型」)で測定した。導電回路の膜厚を膜厚計(株式会社仙台ニコン製「MH−15M型」)で測定し、得られた抵抗値と膜厚から体積抵抗値を算出した。
【0059】
[基材密着性]
ポリエステルフィルム(ユニチカ株式会社製「エンブレットSA」、厚さ50μm)上に印刷によって形成された導電回路に、セロハン粘着テープ(ニチバン株式会社製、幅12mm)を貼り付け、セロハン粘着テープを急激に引き剥がした時、剥離した塗膜の程度を評価した。
○:ほとんど剥離しない(剥離面積10%未満)
△:部分的に剥離した(剥離面積10%以上50%未満)
×:ほとんど剥離した(剥離面積50%以上)
【0060】
[耐折り曲げ性]
導電回路の抵抗値を測定後に、導電回路面を内側にして180°折り曲げ、ついで導電回路面を外側にして180°折り返してから、再び抵抗値を測定して体積抵抗値を算出し、折り曲げ前後での体積抵抗値の変化を三段階で評価した。
○:体積抵抗値の変化が20%未満
△:体積抵抗値の変化が20%以上30%未満
×:体積抵抗値の変化が30%以上
【0061】
[ICタグ通信試験]
導電回路に、Alien Technology社製ICストラップを用いてICチップを実装してICタグを作製し、同社製2.45GHzパッシブ開発キットを使用して、得られたICタグとの通信可能距離(cm)を測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例6、実施例7、実施例8、実施例10で得られた導電性インキは、本発明の方法で製造された金属微粒子分散体を含むため、インキ流動性が確保され、フレキソ印刷、グラビア印刷で導電回路パターンを印刷することによって10-5Ω・cmオーダーの体積抵抗値の導電回路が得られた。また、得られた導電回路をICタグとして評価した場合、十分な通信距離が安定して得られた。これは金属微粒子および金属粉を併用することで、金属微粒子のころの効果によって導電性インキの流動性が改善され、金属粉同士が効率的に重なり合って効果的に配列したことと、本発明の方法で製造された金属微粒子分散体の銀含有率が高いことによって、十分に導電性が発現されたためと考えられる。実施例9で得られた導電性インキは、金属微粒子、球状銀粉、箔状銀粉を併用したため、上記効果が更に増したと考えられる。本発明の方法で製造された金属微粒子分散体を使用することで、基材密着性等の塗膜物性が向上し、折り曲げ後も十分な性能を示した。
一方、比較例3、4においては、比較例1および2で得られた粒径分布の広い金属微粒子分散体を用いているため、流動性向上の効果が得られず、また、折り曲げ後の抵抗値変化も大きく、基材密着性、耐折り曲げ性、体積抵抗値、およびICタグ通信距離において十分な性能が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】箔状金属粉の形状の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
a:平均円相当径
b:平均厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤を含む非水性溶媒中に、金属化合物を添加して金属化合物を還元することを特徴とする金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項2】
金属化合物を水溶液として添加し、金属化合物を還元した後に、水相を除去することを特徴とする請求項1記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項3】
非水性溶媒が顔料分散剤を含む請求項1または2記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項4】
金属化合物を構成する金属が、IB族またはVIII族の金属である請求項1〜3いずれか記載の金属微粒子分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の方法で製造される金属微粒子分散体。
【請求項6】
請求項5記載の金属微粒子分散体および金属粉を含む導電性インキ。
【請求項7】
金属粉が銀粉である請求項6記載の導電性インキ。
【請求項8】
基材上に、請求項6または7記載の導電性インキを用いて形成された導電回路と、該導体回路に導通された状態で実装されたICチップとを具備する非接触型メディア。

【図1】
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【公開番号】特開2006−257517(P2006−257517A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78428(P2005−78428)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】