針状アレイ経皮吸収シート及び針状アレイ経皮吸収シートの製造方法
【課題】ニードル部を確実に根元まで皮膚内に挿入することができる針状アレイ経皮吸収シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鉛筆形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接している針状アレイ経皮吸収シート。
【解決手段】鉛筆形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接している針状アレイ経皮吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に貼付することにより皮膚内に薬剤を供給するための、薬剤を含んだ針状凸部がシート上に形成された針状アレイ経皮吸収シート及び針状アレイ経皮吸収シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤を含み、生分解性のあるマイクロ針を表面に形成した針状アレイ経皮吸収シートが注目されている。このシートを皮膚に貼付することにより、マイクロ針が皮膚に突き刺さり、このマイクロ針が皮膚内で吸収され、マイクロ針中に含まれた薬剤を皮膚内に供給することができる。
【0003】
このような針状アレイ経皮吸収シートを製造する方法として、多数の凹みを有するモールド(型)に樹脂溶解液などを流し込み、形状転写する方法が知られている。薬剤が予め添加された、生体適合性と生分解性のある樹脂溶解液を用いてマイクロ針を形成することにより、薬剤がマイクロ針に含まれた針状アレイ経皮吸収シートを作製することができる。
【0004】
針状アレイ経皮吸収シートとしては、例えば、特許文献1、特許文献2に提案されている。特許文献1には、傾斜面に段差断面を備え、該段差により先鋭部側の傾斜面と根元部側の傾斜面とが区別され、前記先鋭部側の傾斜面の傾斜角度と前記根元部側の傾斜面の傾斜角度とが異なる針状体が記載されている。これにより、微細構造を有する針状体の加工時及び転写成形時の欠損を抑制することができるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、半球状の台座に針が接続された形状を有する微小針のアレイについて記載されている。このような形状により、剣山型微小針を安価かつ量産規模で製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−57704号公報
【特許文献2】特開2009−61219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、従来の針状アレイ経皮吸収シートを皮膚に貼付した状態を示す概略図である図11に示すように、円錐形状のニードル部1がシート部3に接続された構造の従来の針状アレイ経皮吸収シートにおいては、皮膚に貼付したとき、皮膚100表面の凹凸の凸部によりシート部3が押し戻され、ニードル部1の両端部のうちシート部側の端部である根元まで確実に皮膚100に挿入することができない。このため、ニードル部1の根元の薬剤は、皮膚100に吸収されないので、高価な薬剤が無駄になるという問題があった。
【0008】
また、ニードル部1が、円錐又は角錐形状の場合、少しでもニードル部1が皮膚100から抜けると、ニードル部1と皮膚100の間に隙間ができるので、ニードル部1と皮膚100の間に摩擦がなくなり、簡単に抜けてしまうという問題もあった。
【0009】
更に、特許文献1に記載の針状体の場合、先鋭部を載置している根元部の側面が、隣接する根元部の側面と接していない、このため、型によってこの針状体を作製した場合、型の内部において、この根元部と根元部の間に対応する平坦な部分に薬剤を含んだ液が残る、つまり、シートに対応する部分に薬剤を含んだ液が残留し、針状体が形成されるので、高価な薬剤がシートにも含まれることになり、高価な薬剤が無駄になる。
【0010】
また、先鋭部を載置している根元部には、先鋭部を載置している面に皮膚に対して平行な面を有するので皮膚挿入時に痛みを感じる可能性が高い。更に、先鋭部及び根元部が角錐形状なので、上述したように抜けやすくなる。
【0011】
更に、特許文献1に記載の針状体は、その根元部も皮膚に挿入されると考えられるが、その場合、皮膚表面の凹凸の凸部によりシートが押し戻され、その根元部の両端部のうち支持基板側の端部まで確実に皮膚挿入することができない。このため、根元部の両端部のうち支持基板側の端部の薬剤は、皮膚に吸収されないので、高価な薬剤が無駄になるという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載された、半球状の台座に針が接続された形状を有する微小針のアレイは、半球状の台座の側面同士が接していない。このため、上述したように、型を用いてこの微小針を製造する場合、型の内部において、この台座と台座の間に対応する平坦な部分に薬剤を含んだ液が残る、つまり、シートに対応する部分に薬剤を含んだ液が残留し、微小針が形成されるので、高価な薬剤がシートにも含まれることになり、高価な薬剤が無駄になる。
【0013】
更に、微小針が円筒状なので、皮膚への挿入が困難となる。また、微小針の配置ピッチが狭すぎれば、皮膚への挿入が困難になり、広すぎれば薬剤の供給量が少なくなり薬剤の効果がなくなるが、このような問題点についての記載も示唆もなく、このような問題点を解決できる配置ピッチについて開示されていない。
【0014】
本発明は、かかる実情に鑑み、皮膚に挿入するために形成された針であるニードル部が、そのニードル部の両端部のうちシート部側の端部である根元まで確実に皮膚に刺さり、薬剤の無駄がなく、針が抜けにくい針状アレイ経皮吸収シート及び針状アレイ経皮吸収シートの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題は、下記の各発明によって解決することができる。
【0016】
即ち、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、先細り形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接していることを備えている。
【0017】
これにより、ニードル部を皮膚に挿入するとき、皮膚の凹凸のうちの凸部は、隣接する錐台部の間にある空間に逃げることができるので、ニードル部は、確実にその両端部のうちシート部側端部である根元まで皮膚に挿入される。よって、高価な薬剤が無駄にならない。更にまた、隣接する錐台部の側面同士が接しているので、本発明の針状アレイ経皮吸収シートを、型を用いて作製する場合、その型において、錐台部の側面が接している部分に対応する部分は、平坦にならないので、その部分に高価な薬剤を含んだ液が残ることがなく、高価な薬剤を無駄にすることがない。
【0018】
また、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、鉛筆形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接していることを主要な特徴にしている。
【0019】
これにより、ニードル部が鉛筆形状を成しているので、皮膚に刺さりやすく抜けにくい。また、鉛筆形状のニードル部は、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部に支えられているので、皮膚に刺さるとき、応力が分散し、安定して、ぶれることがない。更に、ニードル部を皮膚に挿入するとき、皮膚の凹凸のうちの凸部は、隣接する錐台部の間にある空間に逃げることができるので、ニードル部は、確実にその両端部のうちシート部側端部である根元まで皮膚に挿入される。よって、高価な薬剤が無駄にならない。更にまた、隣接する錐台部の側面同士が接しているので、本発明の針状アレイ経皮吸収シートを、型を用いて作製する場合、その型において、錐台部の側面が接している部分に対応する部分は、平坦にならないので、その部分に高価な薬剤を含んだ液が残ることがなく、高価な薬剤を無駄にすることがない。
【0020】
また、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記錐台部の側面と、前記シート部の表面に平行な面との成す角度βが、20°〜60°であることを主要な特徴にしている。
【0021】
これにより、角度βが大きすぎることにより、ニードル部を皮膚に差し込んだとき、錐台部まで皮膚に差し込まれ、人に苦痛を与えることを防ぐことができる。また、角度βをこの範囲にすることにより、皮膚にニードル部を挿入したとき、隣接する錐台部の側面の間に形成される空間を十分に形成することができるので、この空間に皮膚の凹凸の凸部を逃がすことが可能になり、確実にニードル部の根元まで皮膚に挿入することが可能になる。
【0022】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記錐台部の高さが、0.1mm〜0.5mmであることを主要な特徴にしている。これにより、皮膚にニードル部を挿入したとき、隣接する錐台部の側面の間に形成される空間を更に十分に形成することができるので、この空間に皮膚の凹凸の凸部を逃がすことが可能になり、更に確実にニードル部の根元まで皮膚に挿入することが可能になる。
【0023】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記先細り形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する。
【0024】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記鉛筆形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する。
【0025】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面を水平面に設置したとき、前記錐台部の法線ベクトルは鉛直方向と平行でない。
【0026】
更にまた、本発明の針状アレイ経皮吸収シートの製造方法は、上記針状アレイ経皮吸収シートの製造方法であって、前記針状アレイ経皮吸収シートと同じ形状の空間が形成された型の前記空間に前記薬剤を含んだ第1ポリマー溶解液を注入する工程と、前記第1ポリマー溶解液が注入された前記型を加圧することにより、前記第1ポリマー溶解液が注入された部分から気泡を除去し、前記型に形成された空間の先端まで前記第1ポリマー溶解液を充填する工程と、前記第1ポリマー溶解液を加熱することにより、前記型の内部の空間のうち、前記錐台部同士の側面が接している部分に対応する部分よりも前記針部に対応する空間側寄りに全ての前記第1ポリマー溶解液が位置するように前記第1ポリマー溶解液を乾燥、収縮させる工程と、第2ポリマー溶解液を前記型の内部の空間に注入する工程と、前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを加熱することにより前記第1ポリマー溶解液と、前記第2ポリマー溶解液を固化させる工程と、前記型から固化した前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを剥離して取り出す工程と、を備えたことを主要な特徴にしている。
【0027】
これにより、用いられる型は、隣接する錐台部の側面同士が接しているので、この接している部分には、薬剤を含んだ高価な液が残る平坦部が存在せず、「前記型の内部の空間のうち、前記錐台部同士の側面が接している部分に対応する部分よりも前記針部に対応する空間側寄りに全ての前記第1ポリマー溶解液が位置するように前記第1ポリマー溶解液を乾燥、収縮させる工程」を備えているので、高価な薬剤を含んだ液は確実にシート上には残らない。
【発明の効果】
【0028】
本発明の、針状アレイ経皮吸収シートによれば、皮膚に挿入するために形成された針であるニードル部を確実に皮膚内に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係る針状アレイ経皮吸収シートが、皮膚に刺さった状態を示す概略図である。
【図2】円錐タイプのニードル部と錐台部の配置例を示した図である。
【図3】円錐タイプのニードル部と錐台部の配置例の平面図である。
【図4】四角錐タイプのニードル部と錐台部の配置例を示した図である。
【図5】組合せタイプのニードル部と錐台部の配置例を示した図である。
【図6】組合せタイプの平面、正面と側面を示した図である。
【図7】針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスを示す図である。
【図8】針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスの一部を示す図である。
【図9】針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスの一部を示す図である。
【図10】針状アレイ経皮吸収シートの各部位の寸法パラメータを表す記号を示した図である。
【図11】従来の針状アレイ経皮吸収シートを皮膚に貼付した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本明細書中で、数値範囲を“ 〜 ”を用いて表す場合は、“ 〜 ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0031】
<針状アレイ経皮吸収シートの構成>
本発明の針状アレイ経皮吸収シートの一実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係る針状アレイ経皮吸収シートが、皮膚に刺さった状態を示す概略図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の針状アレイ経皮吸収シート10は、鉛筆形状のニードル部1と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部2と、平板形状のシート部3と、を主に含んで構成される。
【0033】
ニードル部1は、円錐形状又は角錐形状の針部4と、円柱形状又は角柱形状の胴体部5と、を主に有しており、針部4の底面と胴体部5の端面とが接続された構成になっている。
【0034】
胴体部5の端面のうち針部4に接続されていない側の端面は、錐台部2の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、錐台部2の端面のうち面積の広い側の端面は、シート部3の一方の面に接続されている。
【0035】
このような、ニードル部1に接続された錐台部2は、シート部3の片方の面に複数形成され、シート部3上において隣接する錐台部2の側面同士は接している。
【0036】
ニードル部1及び錐台部2は、生体適合性があり、かつ、生分解性のある材料、例えば、多糖類などで形成され、特にニードル部1には薬剤も含んで形成される。
【0037】
生体内で分解されやすい材料(生分解性材料)であるとともに、生体適合性を有する材料(生体適合材料)であることが好ましい。具体的には、ゼラチン、アガロース、ペクチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、デキストリン、デキストラン、デンプン、プルラン、セルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などの糖類やゲル化性ポリマーを使用することができる。
【0038】
「薬剤」とは、人体に対して何らかの有利な作用を及ぼす効能がある物質を総称するものであり、例えば、インシュリン、ニトログリセリン、ワクチン、抗生物質、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、タンパク薬、美容薬等を指す。
【0039】
シート部3は、生分解性のある材料(例えば多糖類等)で形成されても良いし、プラスチック樹脂などで形成されても良い。
【0040】
次に、シート部3上でのニードル部1及び錐台部2の配置について、図2から図6を参照して説明する。図2は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例を示した図である。図3は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図4は、四角錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例を示した図である。図5は、円錐タイプのニードル部1と四角錐タイプの錐台部2を組合せた組合せタイプの配置例を示した図である。
【0041】
ここで円錐タイプとは、針部4が円錐形状であり、胴体部5が円柱形状であり、錐台部2が円錐台形状であるものを言う。また、四角錐タイプとは、針部4が四角錐形状であり、胴体部5が四角柱形状であり、錐台部2が四角錐台形状であるものを言う。組合せタイプとは、基本的には、針部4が円錐形状であり、胴体部5が円柱形状である円錐タイプのニードル部1と、錐台部2が四角錐台形状であるものを言う。
【0042】
図2の(A)は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の斜視図であり、(B)は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図2に示すように、隣接する錐台部2は、互いに側面同士が接するように形成される。
【0043】
ここで、図3を参照すると、円錐タイプの錐台部2の配置には、(A)に示すように、一つの錐台部2に4つの錐台部が接する配置と、(B)に示すように、一つの錐台部2に6つの錐台部が接する配置が考えられる。どちらの配置も採用できるが、(B)に示すように、一つの錐台部2に6つの錐台部が接する配置の方が、より高密度にニードル部1と錐台部2をシート部3に配置できるので好ましい。高密度にニードル部1と錐台部2とを配置することにより、必要な薬剤量を狭い面積のシート部3で供給することが可能になるからである。
【0044】
次に、図4を参照して説明する。図4の(A)は、四角錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の斜視図であり、(B)は、四角錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図4に示すように、一つの錐台部2は8つの錐台部と接している。このように配置することにより、高密度にニードル部1と錐台部2とを配置できるので、必要な薬剤量を狭い面積のシート部3で供給することが可能になる。
【0045】
上記配置例においては、円錐タイプと四角錐タイプを例にとって説明したが、これらに限定されるものではなく、針部4は円錐形状又は角錐形状から任意に選択可能であり、胴体部5は円柱形状又は角柱形状から任意に選択可能であり、錐台部2は、円錐台形状又は角錐台形状から任意に選択可能である。即ち、針部4、胴体部5、錐台部2は、それぞれ上記の形状から任意に選択した形状の組み合わせで形成することができる。
【0046】
また、上記、角錐形状、角柱形状、角錐台形状においては、四角のみならず任意の多角形の角錐形状、角柱形状、角錐台形状であることができる。これら多角形の角錐形状、角柱形状、角錐台形状においても、最密充填となる配置(単位面積あたり、最も多くの錐台部が含まれる配置)、即ち、一つの角錐台形状の錐台部2に最も多くの錐台部が接する配置にすることが好ましい。
【0047】
次に、図5を参照して説明する。図5の(A)は、組合せタイプのニードル部1と錐台部2の配置例の斜視図であり、(B)は、組合せタイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図5に示すように、一つの錐台部2は8つの錐台部と接している。このように配置することにより、高密度にニードル部1と錐台部2とを配置できるので、必要な薬剤量を狭い面積のシート部3で供給することが可能になる。
【0048】
底面を四角とする四角錐台形状の錐台部2の上面に円柱状の胴体部5が接続されている。錐台部2の上面と円柱状の胴体部5の底面は実質的に同じ大きさである。円柱状の胴体部5には円錐状の針部4が接続されている。
【0049】
組合せタイプの錐台部2は四角のみならず任意の多角錐を採用することができる。但し、最密充填となる配置(単位面積あたり、最も多くの錐台部が含まれる配置)が好ましいので、四角錐、六角錐、三角錐形状が好ましい。特に、型の作製の容易性を考慮すると、四角錐台が最も好ましい。最密充填となる配置とすることにより、型の表面において平坦部が形成されないので、薬剤がニードル部形成領域以外に付着するのを防止することができる。
【0050】
組合せタイプのニードル部1について、針部4が円錐形状を、胴体部5が円柱形状を有する。ニードル部1を上述の形状とすることで、角錐タイプのニードル部に比較して、皮膚に刺さりやすくなる。ニードル部1は、先細り形状でも、鉛筆形状であっても良い。
【0051】
図6は、組合せタイプの好ましい2つの形態の平面図、正面図、斜めから見た側面図を示す。図6(A)に示すように、斜めから見た側面図において、錐台部2の稜線は、やや凸形状を有している。
【0052】
図6(B)に示すように、正面図において、錐台部2の稜線は、やや凹形状を有している。
【0053】
組合せタイプの好ましい2つの形態について、錐台部2を水平面に設置したとき、ニードル部1の領域を除き、錐台部2の外形表面の法線ベクトル74は鉛直方向と平行でない。これは、ニードル部1と錐台部2とを平面視したとき、錐台部2に水平面が形成されないことを意味する。水平面が形成されないので、薬剤は錐台部2に留まらずニードル部1に注入される。
【0054】
<針状アレイ経皮吸収シートの作動>
次に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートの作動について図1を参照して説明する。図1に示すように、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、鉛筆形状のニードル部1を錐台形状(円錐台形状、角錐台形状を、錐台形状と称する。)の錐台部2が支える構造を備えている。
【0055】
錐台部2は、ニードル部1に接続されている部分からシート部3に接続されている部分に向かって末広がりの形状を備えているので、ニードル部1が皮膚100に刺さるときの応力をシート部3に広く分散することができる。即ち、錐台部2は、錐台形状を備えているので、皮膚100にニードル部1が刺さるとき、安定して、ぶれることなく、ニードル部1を支えることができる。
【0056】
ニードル部1は、鉛筆形状を備えている。即ち、円錐形状又は角錐形状の針部4と、円柱形状又は角柱形状の胴体部5とを備えている。これにより、皮膚100に突き刺さりやすく抜けにくいという効果が得られる。つまり、針部4が円錐形状又は角錐形状を有しているため、皮膚100に刺さりやすく、胴体部5が、円柱形状又は角柱形状を有しているために皮膚100から抜けにくい。
【0057】
その理由は、仮に皮膚の弾力等により、皮膚100から少しだけニードル部1が抜けたとしても、円柱形状又は角柱形状の胴体部5は、常に皮膚100と接しており、胴体部5が完全に皮膚100から抜け切るまでは皮膚100との摩擦を維持するからである。
【0058】
ここで、例えば、ニードル部1が、円錐形状又は角錐形状であった場合は、ニードル部が皮膚の弾力などのために少しでも抜けると、ニードル部と皮膚との間に隙間ができ、摩擦がなくなるので簡単に抜けることになる。このように、ニードル部1が鉛筆形状の場合は、刺さりやすく抜けにくいという利点を備えているが、反面、円錐形状、角錐形状と比較すると、安定性が悪く、応力が分散できないので、皮膚に刺すとき曲がったり、折れたりしやすいという欠点を有する。しかしながら、本発明では、錐台部2を備えることにより鉛筆形状の欠点を克服することができた。本発明は、角錐台形状、または、円錐台形状の錐台部2が鉛筆形状のニードル部1を支える構造を有するので、応力を分散し、安定して、折れたり、曲がったりすることなく、ニードル部1を皮膚に挿入することができる。
【0059】
また、ニードル部1を皮膚に突き刺した場合、皮膚表面には凹凸があるため、もし錐台部2が存在せず、ニードル部1が直接にシート部3に接続されていた場合は、その皮膚の凹凸のためニードル部1の根元付近は、完全には皮膚に入り込まない。このため、ニードル部1の薬剤の全てが皮膚で吸収されなくなり、薬剤の効果が薄くなる。
【0060】
ところが、本発明においては、錐台部2が存在し、かつ、錐台部2の形状が、錐台形状であるため、図1に示すように、皮膚100の凸部は、隣接する錐台部2と錐台部2の間に逃げることができるので、ニードル部1は、根元まで確実に皮膚100に突き刺さる。これにより、ニードル部1に含まれる薬剤の全てを確実に皮膚に吸収させることができる。
【0061】
ここで、本発明においては、皮膚に挿入されるのは、ニードル部1のみであり、錐台部2は、皮膚に挿入されることはない。
【0062】
更に、図1においてはわかりやすく示すために、隣接する錐台部2と錐台部2の間にできる断面三角形の空間の全てに皮膚100が入っているようには記載せず、隙間があるように記載している。しかしながら、実際は、この断面三角形の空間のほとんど全てに皮膚が入り込むことになる。この場合、断面三角形を形成する錐台部2の側面同士が、皮膚100を両側から押さえ込むことになり、ニードル部1は、更に皮膚100から抜けにくくなる。
【0063】
<針状アレイ経皮吸収シートの製造方法>
次に、針状アレイ経皮吸収シートの製造方法について図7を参照して説明する。図7は、針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスを示す図である。
【0064】
(1)モールド(型)の作製
まず、針状アレイ経皮吸収シートを作製するための型の作製方法について説明する。φ150μmの針金状金属を用い、その先端300μmの部分を先端曲率半径5μmの円錐形状に研削加工した。
【0065】
次に、40mm×40mmの平滑な金属板に、直径0.5mm、深さ0.3mmの円錐をピッチ500μmの千鳥配列で、10×10箇所形成した。形成した円錐の中心に径160μmの穴を開けた後、先端加工した前記針金状金属の先端をその穴から600μm突出させ、固定することにより原版を作製した。
【0066】
この原版を用いて、シリコンゴム(信越シリコーン型取り用RTVゴム)にて反転した転写品を作製した。型50は、この転写品のうち、中央部に10×10配列孔を含んだ45mm×45mmの平面部以外を切り落とし、厚みを5mmとすることにより作製した。
【0067】
(2)ポリマー溶解液の調整
次に、針状アレイ経皮吸収シートの基本的材料として用いられるポリマー溶解液、及びこのポリマー溶解液に薬剤を添加した液の調整方法について説明する。しかしながら、本発明は、ここで説明されるポリマー溶解液、薬剤に限定されず、生体適合性があり生分解性がある材料ならばここで説明したポリマー溶解液の代わりに使用することができ、薬剤も使用目的に応じた任意の薬剤を使用することができる。
【0068】
プルラン(林原商事)を水で溶解して15%の水溶液を調製し、50℃で撹拌して同温度で保温した。この液中に、薬剤としてアスコルビン酸を1%添加したもの(ポリマー溶解液1)と、プルラン溶液(15%水溶液、50℃で溶解)だけのもの(ポリマー溶解液2)を作製した。
【0069】
(3)針状アレイ経皮吸収シートの作製
サイズが40mm×40mm、厚さが3mmのシリコンシート(信越ファインテック株式会社製、シンエツシリコシートBAグレード)の中央部分に、30mm×30mmの開口部を設けた。(1)において作製した型(以後、単に型と称する。)の円錐柱状孔パターン部が、このシリコンシートの開口部から露出するように位置合わせした状態で、シリコンシート52を型に積層、接着した。図7(A)は、このようにして作製されたシリコンシート52が接着された型50の断面図である。型50の上面において、錐台部とシート部との端部を形成する領域に段差51が形成される。段差51は最外周の錐台部の周囲に形成される。段差51は0.1mm以上の高さを有する。
【0070】
この後、ディスペンサを用いて、シリコンシート52が接着された型50(シリコンシートの開口部)にポリマー溶解液1を1ml滴下した(図7(B))。図7(B)において、滴下されたポリマー溶解液1を記号54で示す。型50の上面に段差51が形成されているので、ポリマー溶解液1がニードル部形成領域以外に濡れ広がるのを防止することができる。したがって、薬剤が無駄になるのを防止できる。なお、液を滴下する際、ニードル部形成領域に濡れ広がりにくい場合は、図8(A)(B)に示すように、微小な液滴を、ディスペンサ70の位置をずらして複数回滴下することで、均一に塗り広げることができる。
【0071】
図8(A)では、ディスペンサ70を連続移動させながら、ディスペンサ70からポリマー溶解液1(54)をニードル部形成領域に滴下する。滴下終了後、ポリマー溶解液1(54)の表面を加圧することにより、ポリマー溶解液1(54)をニードル部形成領域に注入する。
【0072】
図8(B)では、ディスペンサ70からポリマー溶解液1(54)を、ニードル部形成領域の各孔に1ショットずつ滴下する。滴下終了後、ポリマー溶解液1(54)の表面を加圧することにより、ポリマー溶解液1(54)をニードル部形成領域に注入する。
【0073】
ポリマー溶解液1が滴下された型50を耐圧容器の中に入れ、加熱ジャケットにより耐圧容器の内部を40℃まで加熱した後、コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入し、耐圧容器内を0.5MPaの圧力で5分間保持した。このように、圧力をかけることにより、気泡を除去し、型のニードル部の先端までポリマー溶解液1を充填することが可能になる。
【0074】
その後、型を耐圧容器から取りだし、オーブンに投入して、40℃、2時間の乾燥処理を行った。ここで、乾燥処理は、30℃〜60℃の乾燥風により溶媒を蒸発させることによって行っても良い。この際、若干の溶媒が残っていても良い。この乾燥処理により、深部のポリマー溶解液1が半固化状態になった(図7(C))。図7(C)において、半固化状体になったポリマー溶解液1を記号56で示す。ここで、乾燥温度は、薬剤が失効しない温度以下に保つことが必要である。
【0075】
また、本発明の針状アレイ経皮吸収シート10は、その断面において図1に示すように、隣接する錐台部2の側面同士が接しているので、この2つの側面は三角形の2辺を形成し、この2側面の接点が三角形の頂点になる。ここで、図7(C)を参照すると、この三角形の頂点は、型50においては、記号57(頂点57と称する。)で表される部分に相当する。
【0076】
このように、型50において、隣接する穴と穴の境は、この頂点57を有する3角形状になっているので、ポリマー溶解液1が乾燥してその体積を減少させたとき、穴と穴の境にポリマー溶解液1が残留することはない。つまり、高価な薬剤が含まれたポリマー溶解液1は、全てニードル部1(及び一部は錐台部2)を形成する穴の中に入るので、高価な薬剤を無駄にすることがない。
【0077】
もちろん、この頂点57は、完全な点であることは不可能なので、ポリマー溶解液1が頂点に残留しない程度であれば、ある程度の曲率半径を有する曲面、又は平面であっても良い。即ち、形成された隣接する錐台部2の側面同士の接点(断面形状でみた場合)、は完全な点ではなく、ある程度の曲率半径を有する曲面、又は平面であっても良い。
【0078】
ここで、最初に型に注入するポリマー溶解液1の量を調整し、ポリマー溶解液1が乾燥して体積が減少したときに、その全てがニードル部1に対応する空間内に収まるようにすることが望ましい。これにより、高価な薬剤を含む部分はニードル部だけになるため、薬剤は全て皮膚に吸収されて無駄にならないからである。
【0079】
なお、型50の錐台部形成領域の表面に、薬剤が残る場合がある。ここの薬剤は、体内にほとんど浸透しないので、無駄となってしまう。そこで、錐台部形成領域の表面に付着した薬剤をできるだけニードル部形成領域へ流し込むことが重要となる。
【0080】
その方法として、図7(C)と図7(D)との工程の間に、図9に示す工程を実施することが好ましい。
【0081】
ポリマー溶解液1を型50に注入し、乾燥した後、中間液72を滴下する(図9(A))。中間液72として、薬剤を含まない水、若しくは希薄溶液が好ましい。次に、中間液72を加圧し、ニードル部形成領域の先端まで中間液72を注入する(図9(B))。次に、中間液72を乾燥させる(図9(C))。
【0082】
上述の方法では、型50の錐台部形成領域の表面に残留した薬剤を、いったん中間液72に分散させている。薬剤を含む中間液72を型50のニードル部形成領域へ注入することで、より多くの薬剤をニードル部形成領域へ流し込むことができる。これにより薬剤の無駄を極力少なくすることができる。
【0083】
なお、図9(A)の時点で、中間液72を半乾燥させて、水分の量を減らした後、加圧注入させて、錐台部形成領域に残留した薬剤をニードル部形成領域へ流し込ませてもよい。
【0084】
次に、ポリマー溶解液2を型に2ml滴下して(図7(D))、低温(−5℃)で固化させた後、オーブンに投入して、35℃、4時間の乾燥処理を行った。なお、滴下後に、圧力容器内で、加圧して脱泡を行っても良い。図7(D)において、滴下したポリマー溶解液2を記号58で示す。ここで、この乾燥処理は、30℃〜50℃の乾燥風により、十分に溶媒を蒸発させることによって行っても良い。このように、ポリマー溶解液2を低温固化させて乾燥することにより、ポリマー溶解液1に含まれる薬剤がポリマー溶解液2中に拡散することを抑制できる。ここで、乾燥温度は、薬剤が失効しない温度以下に保つことが必要である。
【0085】
この乾燥処理により、ポリマー溶解液1、ポリマー溶解液2ともに固化して針状アレイ経皮吸収シート10が形成された(図7(E))。その後、型に積層・接着したシリコンシート52を取り外した後、針状アレイ経皮吸収シート10の裏面(ニードル部がない方)に粘着テープを貼り付けて、当該粘着テープごと型から剥離することによって、針状アレイ経皮吸収シート10を得た(図7(F))。
【0086】
<針状アレイ経皮吸収シートの各種寸法パラメータ評価>
次に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートの各部位の寸法パラメータについて説明する。図10は、針状アレイ経皮吸収シートの各部位の寸法パラメータを表す記号を示した図である。
【0087】
(1)錐台部の角度βについて
錐台部2の側面と、シート部3の表面に平行な面との成す角度であるβについて説明する。このβは、胴体部に垂直な面と錐台部2の側面の成す角度と考えても良い。以下において、針状アレイ経皮吸収シートを皮膚に貼り付け、ニードル部1が皮膚に差し込まれた人を被験者と称する。
【0088】
この角度βが大きくなりすぎると、ニードル部1を皮膚に差し込んだとき、錐台部2まで皮膚に差し込まれることになり、被験者に苦痛を与えることになる。また、高さH3が一定で、角度βが大きくなりすぎると、錐台部2とシート部3の接続部の面積が小さくなるので、ニードル部1を皮膚に差し込むときの応力分散があまりできず、ニードル部1が折れたり、曲がったり等の悪影響が発生しやすくなる。よって、角度βは、大きすぎてはならない。
【0089】
次に、角度βが小さすぎると、高さH3が一定の場合、ピッチPが大きくなって、単位面積あたりのニードル部1の数が少なくなり、必要量の薬剤を被験者に供給できなくなる。また、角度βを小さくしながらピッチPを大きくせずに一定に保った場合は、錐台部2の高さH3が小さくなる。このため、錐台部2とシート部3の接続部の面積が小さくなるので、ニードル部1を皮膚に差し込むときの応力分散があまりできず、ニードル部1が折れたり、曲がったり等の悪影響が発生しやすくなる。
【0090】
更に、隣接する錐台部2の2つの側面に挟まれた三角形の空間である逃げ空間60の容積が小さくなるので、ニードル部1が皮膚に差し込まれたとき、皮膚の凹凸の凸部が逃げる空間が狭くなり、皮膚の凸部により針状アレイ経皮吸収シート10が押し戻され、ニードル部1が根元まで皮膚に刺さらなくなる。よって、角度βが小さすぎてもいけない。
【0091】
そこで、様々な角度βについて評価を行った。針状アレイ経皮吸収シートは、上述した製造方法で作製し、実際に被験者に貼り付けて、被験者の苦痛、皮膚への刺さり具合について評価した。皮膚への刺さり具合は、直接目視及び皮膚表面からシート部3の裏面までの距離を測定することにより行った。この時の、角度β以外のパラメータは、以下の条件で行った。
底辺W=可変、径D=0.12mm、ピッチP=可変、角度α=27°、H1=0.25mm、H2=0.25mm、H3=0.15mm、厚みT=0.15mm
結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
この結果より、角度βは、20°〜60°が好ましく、30°〜50°が更に好ましいことがわかった。
【0094】
(2)ニードル部のピッチPについて
ニードル部1配置間隔であるピッチPは、大きいほどニードル部1が皮膚に刺さりやすくなり、小さいほど刺さりにくくなる。また、ピッチPが大きすぎると、単位面積あたりのニードル部1の数が少なくなり、十分な薬剤を被験者に供給することができなくなる。
【0095】
そこで、このピッチPをパラメータとして、(1)と同様に針状アレイ経皮吸収シートを作製し、被験者に貼り付けて、刺さりやすさについて評価を行った。ピッチP以外のパラメータは、下記の通りとした。
底辺W=可変、径D=0.12mm、角度β=30°、角度α=27°、H1=0.25mm、H2=0.25mm、H3=0.02mm、厚みT=0.15mm
結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、ピッチPが、0.5mm以上だと皮膚への刺さりやすさが良好となった。しかしながら、単位面積あたりのニードル部1の数を考慮すると、薬剤供給の観点からは、より好ましくは、ピッチPは0.5mm〜0.6mmである。
【0098】
(3)長さL、径D、角度α、H1とH2の関係、H3、厚みTについて
次に、ニードル部1の長さL、胴体部5の直径D、針部4の先端の角度α、針部4の長さH1と胴体部5の長さH2の関係、錐台部2の高さH3、シート部3の厚みTについての評価結果を示す。この評価においては、それぞれのパラメータでの好ましい範囲を求めた。
【0099】
それぞれのパラメータを変えて、(1)と同様に針状アレイ経皮吸収シート10を作製し、被験者に貼り付けて評価を行った。評価を行ったパラメータ以外のパラメータ値は、以下の通りとした。
【0100】
底辺W=0.64mm、径D=0.12mm、ピッチP=0.64mm、角度α=27°、H1=0.25mm、H2=0.25mm、H3=0.15mm、厚みT=0.15mm、角度β=30°、
評価結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
この表3に示すように、長さL、径D、角度α、H1とH2の関係、H3、厚みTのそれぞれのパラメータについて適切な値がある。その値を求めたことは、単に最適条件を求めたのではなく、発明者の鋭意研究により、従来知られていなかった、それぞれのパラメータが有する効果を発見し、その効果が現れる範囲を求めたものである。よって、表3に記載された好ましい範囲に、それぞれのパラメータが該当するように針状アレイ経皮吸収シートを作製することにより、上記表3に記載された効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0103】
1…ニードル部、2…錐台部、3…シート部、4…針部、5…胴体部、10…針状アレイ、経皮吸収シート、50…型、52…シリコンシート、54…滴下されたポリマー溶解液1、56…半固化状体になったポリマー溶解液1、57…頂点、58…滴下したポリマー溶解液2、60…逃げ空間、100…皮膚
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に貼付することにより皮膚内に薬剤を供給するための、薬剤を含んだ針状凸部がシート上に形成された針状アレイ経皮吸収シート及び針状アレイ経皮吸収シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤を含み、生分解性のあるマイクロ針を表面に形成した針状アレイ経皮吸収シートが注目されている。このシートを皮膚に貼付することにより、マイクロ針が皮膚に突き刺さり、このマイクロ針が皮膚内で吸収され、マイクロ針中に含まれた薬剤を皮膚内に供給することができる。
【0003】
このような針状アレイ経皮吸収シートを製造する方法として、多数の凹みを有するモールド(型)に樹脂溶解液などを流し込み、形状転写する方法が知られている。薬剤が予め添加された、生体適合性と生分解性のある樹脂溶解液を用いてマイクロ針を形成することにより、薬剤がマイクロ針に含まれた針状アレイ経皮吸収シートを作製することができる。
【0004】
針状アレイ経皮吸収シートとしては、例えば、特許文献1、特許文献2に提案されている。特許文献1には、傾斜面に段差断面を備え、該段差により先鋭部側の傾斜面と根元部側の傾斜面とが区別され、前記先鋭部側の傾斜面の傾斜角度と前記根元部側の傾斜面の傾斜角度とが異なる針状体が記載されている。これにより、微細構造を有する針状体の加工時及び転写成形時の欠損を抑制することができるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、半球状の台座に針が接続された形状を有する微小針のアレイについて記載されている。このような形状により、剣山型微小針を安価かつ量産規模で製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−57704号公報
【特許文献2】特開2009−61219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、従来の針状アレイ経皮吸収シートを皮膚に貼付した状態を示す概略図である図11に示すように、円錐形状のニードル部1がシート部3に接続された構造の従来の針状アレイ経皮吸収シートにおいては、皮膚に貼付したとき、皮膚100表面の凹凸の凸部によりシート部3が押し戻され、ニードル部1の両端部のうちシート部側の端部である根元まで確実に皮膚100に挿入することができない。このため、ニードル部1の根元の薬剤は、皮膚100に吸収されないので、高価な薬剤が無駄になるという問題があった。
【0008】
また、ニードル部1が、円錐又は角錐形状の場合、少しでもニードル部1が皮膚100から抜けると、ニードル部1と皮膚100の間に隙間ができるので、ニードル部1と皮膚100の間に摩擦がなくなり、簡単に抜けてしまうという問題もあった。
【0009】
更に、特許文献1に記載の針状体の場合、先鋭部を載置している根元部の側面が、隣接する根元部の側面と接していない、このため、型によってこの針状体を作製した場合、型の内部において、この根元部と根元部の間に対応する平坦な部分に薬剤を含んだ液が残る、つまり、シートに対応する部分に薬剤を含んだ液が残留し、針状体が形成されるので、高価な薬剤がシートにも含まれることになり、高価な薬剤が無駄になる。
【0010】
また、先鋭部を載置している根元部には、先鋭部を載置している面に皮膚に対して平行な面を有するので皮膚挿入時に痛みを感じる可能性が高い。更に、先鋭部及び根元部が角錐形状なので、上述したように抜けやすくなる。
【0011】
更に、特許文献1に記載の針状体は、その根元部も皮膚に挿入されると考えられるが、その場合、皮膚表面の凹凸の凸部によりシートが押し戻され、その根元部の両端部のうち支持基板側の端部まで確実に皮膚挿入することができない。このため、根元部の両端部のうち支持基板側の端部の薬剤は、皮膚に吸収されないので、高価な薬剤が無駄になるという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載された、半球状の台座に針が接続された形状を有する微小針のアレイは、半球状の台座の側面同士が接していない。このため、上述したように、型を用いてこの微小針を製造する場合、型の内部において、この台座と台座の間に対応する平坦な部分に薬剤を含んだ液が残る、つまり、シートに対応する部分に薬剤を含んだ液が残留し、微小針が形成されるので、高価な薬剤がシートにも含まれることになり、高価な薬剤が無駄になる。
【0013】
更に、微小針が円筒状なので、皮膚への挿入が困難となる。また、微小針の配置ピッチが狭すぎれば、皮膚への挿入が困難になり、広すぎれば薬剤の供給量が少なくなり薬剤の効果がなくなるが、このような問題点についての記載も示唆もなく、このような問題点を解決できる配置ピッチについて開示されていない。
【0014】
本発明は、かかる実情に鑑み、皮膚に挿入するために形成された針であるニードル部が、そのニードル部の両端部のうちシート部側の端部である根元まで確実に皮膚に刺さり、薬剤の無駄がなく、針が抜けにくい針状アレイ経皮吸収シート及び針状アレイ経皮吸収シートの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題は、下記の各発明によって解決することができる。
【0016】
即ち、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、先細り形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接していることを備えている。
【0017】
これにより、ニードル部を皮膚に挿入するとき、皮膚の凹凸のうちの凸部は、隣接する錐台部の間にある空間に逃げることができるので、ニードル部は、確実にその両端部のうちシート部側端部である根元まで皮膚に挿入される。よって、高価な薬剤が無駄にならない。更にまた、隣接する錐台部の側面同士が接しているので、本発明の針状アレイ経皮吸収シートを、型を用いて作製する場合、その型において、錐台部の側面が接している部分に対応する部分は、平坦にならないので、その部分に高価な薬剤を含んだ液が残ることがなく、高価な薬剤を無駄にすることがない。
【0018】
また、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、鉛筆形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接していることを主要な特徴にしている。
【0019】
これにより、ニードル部が鉛筆形状を成しているので、皮膚に刺さりやすく抜けにくい。また、鉛筆形状のニードル部は、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部に支えられているので、皮膚に刺さるとき、応力が分散し、安定して、ぶれることがない。更に、ニードル部を皮膚に挿入するとき、皮膚の凹凸のうちの凸部は、隣接する錐台部の間にある空間に逃げることができるので、ニードル部は、確実にその両端部のうちシート部側端部である根元まで皮膚に挿入される。よって、高価な薬剤が無駄にならない。更にまた、隣接する錐台部の側面同士が接しているので、本発明の針状アレイ経皮吸収シートを、型を用いて作製する場合、その型において、錐台部の側面が接している部分に対応する部分は、平坦にならないので、その部分に高価な薬剤を含んだ液が残ることがなく、高価な薬剤を無駄にすることがない。
【0020】
また、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記錐台部の側面と、前記シート部の表面に平行な面との成す角度βが、20°〜60°であることを主要な特徴にしている。
【0021】
これにより、角度βが大きすぎることにより、ニードル部を皮膚に差し込んだとき、錐台部まで皮膚に差し込まれ、人に苦痛を与えることを防ぐことができる。また、角度βをこの範囲にすることにより、皮膚にニードル部を挿入したとき、隣接する錐台部の側面の間に形成される空間を十分に形成することができるので、この空間に皮膚の凹凸の凸部を逃がすことが可能になり、確実にニードル部の根元まで皮膚に挿入することが可能になる。
【0022】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記錐台部の高さが、0.1mm〜0.5mmであることを主要な特徴にしている。これにより、皮膚にニードル部を挿入したとき、隣接する錐台部の側面の間に形成される空間を更に十分に形成することができるので、この空間に皮膚の凹凸の凸部を逃がすことが可能になり、更に確実にニードル部の根元まで皮膚に挿入することが可能になる。
【0023】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記先細り形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する。
【0024】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記鉛筆形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する。
【0025】
更に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面を水平面に設置したとき、前記錐台部の法線ベクトルは鉛直方向と平行でない。
【0026】
更にまた、本発明の針状アレイ経皮吸収シートの製造方法は、上記針状アレイ経皮吸収シートの製造方法であって、前記針状アレイ経皮吸収シートと同じ形状の空間が形成された型の前記空間に前記薬剤を含んだ第1ポリマー溶解液を注入する工程と、前記第1ポリマー溶解液が注入された前記型を加圧することにより、前記第1ポリマー溶解液が注入された部分から気泡を除去し、前記型に形成された空間の先端まで前記第1ポリマー溶解液を充填する工程と、前記第1ポリマー溶解液を加熱することにより、前記型の内部の空間のうち、前記錐台部同士の側面が接している部分に対応する部分よりも前記針部に対応する空間側寄りに全ての前記第1ポリマー溶解液が位置するように前記第1ポリマー溶解液を乾燥、収縮させる工程と、第2ポリマー溶解液を前記型の内部の空間に注入する工程と、前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを加熱することにより前記第1ポリマー溶解液と、前記第2ポリマー溶解液を固化させる工程と、前記型から固化した前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを剥離して取り出す工程と、を備えたことを主要な特徴にしている。
【0027】
これにより、用いられる型は、隣接する錐台部の側面同士が接しているので、この接している部分には、薬剤を含んだ高価な液が残る平坦部が存在せず、「前記型の内部の空間のうち、前記錐台部同士の側面が接している部分に対応する部分よりも前記針部に対応する空間側寄りに全ての前記第1ポリマー溶解液が位置するように前記第1ポリマー溶解液を乾燥、収縮させる工程」を備えているので、高価な薬剤を含んだ液は確実にシート上には残らない。
【発明の効果】
【0028】
本発明の、針状アレイ経皮吸収シートによれば、皮膚に挿入するために形成された針であるニードル部を確実に皮膚内に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係る針状アレイ経皮吸収シートが、皮膚に刺さった状態を示す概略図である。
【図2】円錐タイプのニードル部と錐台部の配置例を示した図である。
【図3】円錐タイプのニードル部と錐台部の配置例の平面図である。
【図4】四角錐タイプのニードル部と錐台部の配置例を示した図である。
【図5】組合せタイプのニードル部と錐台部の配置例を示した図である。
【図6】組合せタイプの平面、正面と側面を示した図である。
【図7】針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスを示す図である。
【図8】針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスの一部を示す図である。
【図9】針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスの一部を示す図である。
【図10】針状アレイ経皮吸収シートの各部位の寸法パラメータを表す記号を示した図である。
【図11】従来の針状アレイ経皮吸収シートを皮膚に貼付した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本明細書中で、数値範囲を“ 〜 ”を用いて表す場合は、“ 〜 ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0031】
<針状アレイ経皮吸収シートの構成>
本発明の針状アレイ経皮吸収シートの一実施例について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係る針状アレイ経皮吸収シートが、皮膚に刺さった状態を示す概略図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の針状アレイ経皮吸収シート10は、鉛筆形状のニードル部1と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部2と、平板形状のシート部3と、を主に含んで構成される。
【0033】
ニードル部1は、円錐形状又は角錐形状の針部4と、円柱形状又は角柱形状の胴体部5と、を主に有しており、針部4の底面と胴体部5の端面とが接続された構成になっている。
【0034】
胴体部5の端面のうち針部4に接続されていない側の端面は、錐台部2の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、錐台部2の端面のうち面積の広い側の端面は、シート部3の一方の面に接続されている。
【0035】
このような、ニードル部1に接続された錐台部2は、シート部3の片方の面に複数形成され、シート部3上において隣接する錐台部2の側面同士は接している。
【0036】
ニードル部1及び錐台部2は、生体適合性があり、かつ、生分解性のある材料、例えば、多糖類などで形成され、特にニードル部1には薬剤も含んで形成される。
【0037】
生体内で分解されやすい材料(生分解性材料)であるとともに、生体適合性を有する材料(生体適合材料)であることが好ましい。具体的には、ゼラチン、アガロース、ペクチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、デキストリン、デキストラン、デンプン、プルラン、セルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などの糖類やゲル化性ポリマーを使用することができる。
【0038】
「薬剤」とは、人体に対して何らかの有利な作用を及ぼす効能がある物質を総称するものであり、例えば、インシュリン、ニトログリセリン、ワクチン、抗生物質、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、タンパク薬、美容薬等を指す。
【0039】
シート部3は、生分解性のある材料(例えば多糖類等)で形成されても良いし、プラスチック樹脂などで形成されても良い。
【0040】
次に、シート部3上でのニードル部1及び錐台部2の配置について、図2から図6を参照して説明する。図2は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例を示した図である。図3は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図4は、四角錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例を示した図である。図5は、円錐タイプのニードル部1と四角錐タイプの錐台部2を組合せた組合せタイプの配置例を示した図である。
【0041】
ここで円錐タイプとは、針部4が円錐形状であり、胴体部5が円柱形状であり、錐台部2が円錐台形状であるものを言う。また、四角錐タイプとは、針部4が四角錐形状であり、胴体部5が四角柱形状であり、錐台部2が四角錐台形状であるものを言う。組合せタイプとは、基本的には、針部4が円錐形状であり、胴体部5が円柱形状である円錐タイプのニードル部1と、錐台部2が四角錐台形状であるものを言う。
【0042】
図2の(A)は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の斜視図であり、(B)は、円錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図2に示すように、隣接する錐台部2は、互いに側面同士が接するように形成される。
【0043】
ここで、図3を参照すると、円錐タイプの錐台部2の配置には、(A)に示すように、一つの錐台部2に4つの錐台部が接する配置と、(B)に示すように、一つの錐台部2に6つの錐台部が接する配置が考えられる。どちらの配置も採用できるが、(B)に示すように、一つの錐台部2に6つの錐台部が接する配置の方が、より高密度にニードル部1と錐台部2をシート部3に配置できるので好ましい。高密度にニードル部1と錐台部2とを配置することにより、必要な薬剤量を狭い面積のシート部3で供給することが可能になるからである。
【0044】
次に、図4を参照して説明する。図4の(A)は、四角錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の斜視図であり、(B)は、四角錐タイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図4に示すように、一つの錐台部2は8つの錐台部と接している。このように配置することにより、高密度にニードル部1と錐台部2とを配置できるので、必要な薬剤量を狭い面積のシート部3で供給することが可能になる。
【0045】
上記配置例においては、円錐タイプと四角錐タイプを例にとって説明したが、これらに限定されるものではなく、針部4は円錐形状又は角錐形状から任意に選択可能であり、胴体部5は円柱形状又は角柱形状から任意に選択可能であり、錐台部2は、円錐台形状又は角錐台形状から任意に選択可能である。即ち、針部4、胴体部5、錐台部2は、それぞれ上記の形状から任意に選択した形状の組み合わせで形成することができる。
【0046】
また、上記、角錐形状、角柱形状、角錐台形状においては、四角のみならず任意の多角形の角錐形状、角柱形状、角錐台形状であることができる。これら多角形の角錐形状、角柱形状、角錐台形状においても、最密充填となる配置(単位面積あたり、最も多くの錐台部が含まれる配置)、即ち、一つの角錐台形状の錐台部2に最も多くの錐台部が接する配置にすることが好ましい。
【0047】
次に、図5を参照して説明する。図5の(A)は、組合せタイプのニードル部1と錐台部2の配置例の斜視図であり、(B)は、組合せタイプのニードル部1と錐台部2の配置例の平面図である。図5に示すように、一つの錐台部2は8つの錐台部と接している。このように配置することにより、高密度にニードル部1と錐台部2とを配置できるので、必要な薬剤量を狭い面積のシート部3で供給することが可能になる。
【0048】
底面を四角とする四角錐台形状の錐台部2の上面に円柱状の胴体部5が接続されている。錐台部2の上面と円柱状の胴体部5の底面は実質的に同じ大きさである。円柱状の胴体部5には円錐状の針部4が接続されている。
【0049】
組合せタイプの錐台部2は四角のみならず任意の多角錐を採用することができる。但し、最密充填となる配置(単位面積あたり、最も多くの錐台部が含まれる配置)が好ましいので、四角錐、六角錐、三角錐形状が好ましい。特に、型の作製の容易性を考慮すると、四角錐台が最も好ましい。最密充填となる配置とすることにより、型の表面において平坦部が形成されないので、薬剤がニードル部形成領域以外に付着するのを防止することができる。
【0050】
組合せタイプのニードル部1について、針部4が円錐形状を、胴体部5が円柱形状を有する。ニードル部1を上述の形状とすることで、角錐タイプのニードル部に比較して、皮膚に刺さりやすくなる。ニードル部1は、先細り形状でも、鉛筆形状であっても良い。
【0051】
図6は、組合せタイプの好ましい2つの形態の平面図、正面図、斜めから見た側面図を示す。図6(A)に示すように、斜めから見た側面図において、錐台部2の稜線は、やや凸形状を有している。
【0052】
図6(B)に示すように、正面図において、錐台部2の稜線は、やや凹形状を有している。
【0053】
組合せタイプの好ましい2つの形態について、錐台部2を水平面に設置したとき、ニードル部1の領域を除き、錐台部2の外形表面の法線ベクトル74は鉛直方向と平行でない。これは、ニードル部1と錐台部2とを平面視したとき、錐台部2に水平面が形成されないことを意味する。水平面が形成されないので、薬剤は錐台部2に留まらずニードル部1に注入される。
【0054】
<針状アレイ経皮吸収シートの作動>
次に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートの作動について図1を参照して説明する。図1に示すように、本発明の針状アレイ経皮吸収シートは、鉛筆形状のニードル部1を錐台形状(円錐台形状、角錐台形状を、錐台形状と称する。)の錐台部2が支える構造を備えている。
【0055】
錐台部2は、ニードル部1に接続されている部分からシート部3に接続されている部分に向かって末広がりの形状を備えているので、ニードル部1が皮膚100に刺さるときの応力をシート部3に広く分散することができる。即ち、錐台部2は、錐台形状を備えているので、皮膚100にニードル部1が刺さるとき、安定して、ぶれることなく、ニードル部1を支えることができる。
【0056】
ニードル部1は、鉛筆形状を備えている。即ち、円錐形状又は角錐形状の針部4と、円柱形状又は角柱形状の胴体部5とを備えている。これにより、皮膚100に突き刺さりやすく抜けにくいという効果が得られる。つまり、針部4が円錐形状又は角錐形状を有しているため、皮膚100に刺さりやすく、胴体部5が、円柱形状又は角柱形状を有しているために皮膚100から抜けにくい。
【0057】
その理由は、仮に皮膚の弾力等により、皮膚100から少しだけニードル部1が抜けたとしても、円柱形状又は角柱形状の胴体部5は、常に皮膚100と接しており、胴体部5が完全に皮膚100から抜け切るまでは皮膚100との摩擦を維持するからである。
【0058】
ここで、例えば、ニードル部1が、円錐形状又は角錐形状であった場合は、ニードル部が皮膚の弾力などのために少しでも抜けると、ニードル部と皮膚との間に隙間ができ、摩擦がなくなるので簡単に抜けることになる。このように、ニードル部1が鉛筆形状の場合は、刺さりやすく抜けにくいという利点を備えているが、反面、円錐形状、角錐形状と比較すると、安定性が悪く、応力が分散できないので、皮膚に刺すとき曲がったり、折れたりしやすいという欠点を有する。しかしながら、本発明では、錐台部2を備えることにより鉛筆形状の欠点を克服することができた。本発明は、角錐台形状、または、円錐台形状の錐台部2が鉛筆形状のニードル部1を支える構造を有するので、応力を分散し、安定して、折れたり、曲がったりすることなく、ニードル部1を皮膚に挿入することができる。
【0059】
また、ニードル部1を皮膚に突き刺した場合、皮膚表面には凹凸があるため、もし錐台部2が存在せず、ニードル部1が直接にシート部3に接続されていた場合は、その皮膚の凹凸のためニードル部1の根元付近は、完全には皮膚に入り込まない。このため、ニードル部1の薬剤の全てが皮膚で吸収されなくなり、薬剤の効果が薄くなる。
【0060】
ところが、本発明においては、錐台部2が存在し、かつ、錐台部2の形状が、錐台形状であるため、図1に示すように、皮膚100の凸部は、隣接する錐台部2と錐台部2の間に逃げることができるので、ニードル部1は、根元まで確実に皮膚100に突き刺さる。これにより、ニードル部1に含まれる薬剤の全てを確実に皮膚に吸収させることができる。
【0061】
ここで、本発明においては、皮膚に挿入されるのは、ニードル部1のみであり、錐台部2は、皮膚に挿入されることはない。
【0062】
更に、図1においてはわかりやすく示すために、隣接する錐台部2と錐台部2の間にできる断面三角形の空間の全てに皮膚100が入っているようには記載せず、隙間があるように記載している。しかしながら、実際は、この断面三角形の空間のほとんど全てに皮膚が入り込むことになる。この場合、断面三角形を形成する錐台部2の側面同士が、皮膚100を両側から押さえ込むことになり、ニードル部1は、更に皮膚100から抜けにくくなる。
【0063】
<針状アレイ経皮吸収シートの製造方法>
次に、針状アレイ経皮吸収シートの製造方法について図7を参照して説明する。図7は、針状アレイ経皮吸収シートの製造プロセスを示す図である。
【0064】
(1)モールド(型)の作製
まず、針状アレイ経皮吸収シートを作製するための型の作製方法について説明する。φ150μmの針金状金属を用い、その先端300μmの部分を先端曲率半径5μmの円錐形状に研削加工した。
【0065】
次に、40mm×40mmの平滑な金属板に、直径0.5mm、深さ0.3mmの円錐をピッチ500μmの千鳥配列で、10×10箇所形成した。形成した円錐の中心に径160μmの穴を開けた後、先端加工した前記針金状金属の先端をその穴から600μm突出させ、固定することにより原版を作製した。
【0066】
この原版を用いて、シリコンゴム(信越シリコーン型取り用RTVゴム)にて反転した転写品を作製した。型50は、この転写品のうち、中央部に10×10配列孔を含んだ45mm×45mmの平面部以外を切り落とし、厚みを5mmとすることにより作製した。
【0067】
(2)ポリマー溶解液の調整
次に、針状アレイ経皮吸収シートの基本的材料として用いられるポリマー溶解液、及びこのポリマー溶解液に薬剤を添加した液の調整方法について説明する。しかしながら、本発明は、ここで説明されるポリマー溶解液、薬剤に限定されず、生体適合性があり生分解性がある材料ならばここで説明したポリマー溶解液の代わりに使用することができ、薬剤も使用目的に応じた任意の薬剤を使用することができる。
【0068】
プルラン(林原商事)を水で溶解して15%の水溶液を調製し、50℃で撹拌して同温度で保温した。この液中に、薬剤としてアスコルビン酸を1%添加したもの(ポリマー溶解液1)と、プルラン溶液(15%水溶液、50℃で溶解)だけのもの(ポリマー溶解液2)を作製した。
【0069】
(3)針状アレイ経皮吸収シートの作製
サイズが40mm×40mm、厚さが3mmのシリコンシート(信越ファインテック株式会社製、シンエツシリコシートBAグレード)の中央部分に、30mm×30mmの開口部を設けた。(1)において作製した型(以後、単に型と称する。)の円錐柱状孔パターン部が、このシリコンシートの開口部から露出するように位置合わせした状態で、シリコンシート52を型に積層、接着した。図7(A)は、このようにして作製されたシリコンシート52が接着された型50の断面図である。型50の上面において、錐台部とシート部との端部を形成する領域に段差51が形成される。段差51は最外周の錐台部の周囲に形成される。段差51は0.1mm以上の高さを有する。
【0070】
この後、ディスペンサを用いて、シリコンシート52が接着された型50(シリコンシートの開口部)にポリマー溶解液1を1ml滴下した(図7(B))。図7(B)において、滴下されたポリマー溶解液1を記号54で示す。型50の上面に段差51が形成されているので、ポリマー溶解液1がニードル部形成領域以外に濡れ広がるのを防止することができる。したがって、薬剤が無駄になるのを防止できる。なお、液を滴下する際、ニードル部形成領域に濡れ広がりにくい場合は、図8(A)(B)に示すように、微小な液滴を、ディスペンサ70の位置をずらして複数回滴下することで、均一に塗り広げることができる。
【0071】
図8(A)では、ディスペンサ70を連続移動させながら、ディスペンサ70からポリマー溶解液1(54)をニードル部形成領域に滴下する。滴下終了後、ポリマー溶解液1(54)の表面を加圧することにより、ポリマー溶解液1(54)をニードル部形成領域に注入する。
【0072】
図8(B)では、ディスペンサ70からポリマー溶解液1(54)を、ニードル部形成領域の各孔に1ショットずつ滴下する。滴下終了後、ポリマー溶解液1(54)の表面を加圧することにより、ポリマー溶解液1(54)をニードル部形成領域に注入する。
【0073】
ポリマー溶解液1が滴下された型50を耐圧容器の中に入れ、加熱ジャケットにより耐圧容器の内部を40℃まで加熱した後、コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入し、耐圧容器内を0.5MPaの圧力で5分間保持した。このように、圧力をかけることにより、気泡を除去し、型のニードル部の先端までポリマー溶解液1を充填することが可能になる。
【0074】
その後、型を耐圧容器から取りだし、オーブンに投入して、40℃、2時間の乾燥処理を行った。ここで、乾燥処理は、30℃〜60℃の乾燥風により溶媒を蒸発させることによって行っても良い。この際、若干の溶媒が残っていても良い。この乾燥処理により、深部のポリマー溶解液1が半固化状態になった(図7(C))。図7(C)において、半固化状体になったポリマー溶解液1を記号56で示す。ここで、乾燥温度は、薬剤が失効しない温度以下に保つことが必要である。
【0075】
また、本発明の針状アレイ経皮吸収シート10は、その断面において図1に示すように、隣接する錐台部2の側面同士が接しているので、この2つの側面は三角形の2辺を形成し、この2側面の接点が三角形の頂点になる。ここで、図7(C)を参照すると、この三角形の頂点は、型50においては、記号57(頂点57と称する。)で表される部分に相当する。
【0076】
このように、型50において、隣接する穴と穴の境は、この頂点57を有する3角形状になっているので、ポリマー溶解液1が乾燥してその体積を減少させたとき、穴と穴の境にポリマー溶解液1が残留することはない。つまり、高価な薬剤が含まれたポリマー溶解液1は、全てニードル部1(及び一部は錐台部2)を形成する穴の中に入るので、高価な薬剤を無駄にすることがない。
【0077】
もちろん、この頂点57は、完全な点であることは不可能なので、ポリマー溶解液1が頂点に残留しない程度であれば、ある程度の曲率半径を有する曲面、又は平面であっても良い。即ち、形成された隣接する錐台部2の側面同士の接点(断面形状でみた場合)、は完全な点ではなく、ある程度の曲率半径を有する曲面、又は平面であっても良い。
【0078】
ここで、最初に型に注入するポリマー溶解液1の量を調整し、ポリマー溶解液1が乾燥して体積が減少したときに、その全てがニードル部1に対応する空間内に収まるようにすることが望ましい。これにより、高価な薬剤を含む部分はニードル部だけになるため、薬剤は全て皮膚に吸収されて無駄にならないからである。
【0079】
なお、型50の錐台部形成領域の表面に、薬剤が残る場合がある。ここの薬剤は、体内にほとんど浸透しないので、無駄となってしまう。そこで、錐台部形成領域の表面に付着した薬剤をできるだけニードル部形成領域へ流し込むことが重要となる。
【0080】
その方法として、図7(C)と図7(D)との工程の間に、図9に示す工程を実施することが好ましい。
【0081】
ポリマー溶解液1を型50に注入し、乾燥した後、中間液72を滴下する(図9(A))。中間液72として、薬剤を含まない水、若しくは希薄溶液が好ましい。次に、中間液72を加圧し、ニードル部形成領域の先端まで中間液72を注入する(図9(B))。次に、中間液72を乾燥させる(図9(C))。
【0082】
上述の方法では、型50の錐台部形成領域の表面に残留した薬剤を、いったん中間液72に分散させている。薬剤を含む中間液72を型50のニードル部形成領域へ注入することで、より多くの薬剤をニードル部形成領域へ流し込むことができる。これにより薬剤の無駄を極力少なくすることができる。
【0083】
なお、図9(A)の時点で、中間液72を半乾燥させて、水分の量を減らした後、加圧注入させて、錐台部形成領域に残留した薬剤をニードル部形成領域へ流し込ませてもよい。
【0084】
次に、ポリマー溶解液2を型に2ml滴下して(図7(D))、低温(−5℃)で固化させた後、オーブンに投入して、35℃、4時間の乾燥処理を行った。なお、滴下後に、圧力容器内で、加圧して脱泡を行っても良い。図7(D)において、滴下したポリマー溶解液2を記号58で示す。ここで、この乾燥処理は、30℃〜50℃の乾燥風により、十分に溶媒を蒸発させることによって行っても良い。このように、ポリマー溶解液2を低温固化させて乾燥することにより、ポリマー溶解液1に含まれる薬剤がポリマー溶解液2中に拡散することを抑制できる。ここで、乾燥温度は、薬剤が失効しない温度以下に保つことが必要である。
【0085】
この乾燥処理により、ポリマー溶解液1、ポリマー溶解液2ともに固化して針状アレイ経皮吸収シート10が形成された(図7(E))。その後、型に積層・接着したシリコンシート52を取り外した後、針状アレイ経皮吸収シート10の裏面(ニードル部がない方)に粘着テープを貼り付けて、当該粘着テープごと型から剥離することによって、針状アレイ経皮吸収シート10を得た(図7(F))。
【0086】
<針状アレイ経皮吸収シートの各種寸法パラメータ評価>
次に、本発明の針状アレイ経皮吸収シートの各部位の寸法パラメータについて説明する。図10は、針状アレイ経皮吸収シートの各部位の寸法パラメータを表す記号を示した図である。
【0087】
(1)錐台部の角度βについて
錐台部2の側面と、シート部3の表面に平行な面との成す角度であるβについて説明する。このβは、胴体部に垂直な面と錐台部2の側面の成す角度と考えても良い。以下において、針状アレイ経皮吸収シートを皮膚に貼り付け、ニードル部1が皮膚に差し込まれた人を被験者と称する。
【0088】
この角度βが大きくなりすぎると、ニードル部1を皮膚に差し込んだとき、錐台部2まで皮膚に差し込まれることになり、被験者に苦痛を与えることになる。また、高さH3が一定で、角度βが大きくなりすぎると、錐台部2とシート部3の接続部の面積が小さくなるので、ニードル部1を皮膚に差し込むときの応力分散があまりできず、ニードル部1が折れたり、曲がったり等の悪影響が発生しやすくなる。よって、角度βは、大きすぎてはならない。
【0089】
次に、角度βが小さすぎると、高さH3が一定の場合、ピッチPが大きくなって、単位面積あたりのニードル部1の数が少なくなり、必要量の薬剤を被験者に供給できなくなる。また、角度βを小さくしながらピッチPを大きくせずに一定に保った場合は、錐台部2の高さH3が小さくなる。このため、錐台部2とシート部3の接続部の面積が小さくなるので、ニードル部1を皮膚に差し込むときの応力分散があまりできず、ニードル部1が折れたり、曲がったり等の悪影響が発生しやすくなる。
【0090】
更に、隣接する錐台部2の2つの側面に挟まれた三角形の空間である逃げ空間60の容積が小さくなるので、ニードル部1が皮膚に差し込まれたとき、皮膚の凹凸の凸部が逃げる空間が狭くなり、皮膚の凸部により針状アレイ経皮吸収シート10が押し戻され、ニードル部1が根元まで皮膚に刺さらなくなる。よって、角度βが小さすぎてもいけない。
【0091】
そこで、様々な角度βについて評価を行った。針状アレイ経皮吸収シートは、上述した製造方法で作製し、実際に被験者に貼り付けて、被験者の苦痛、皮膚への刺さり具合について評価した。皮膚への刺さり具合は、直接目視及び皮膚表面からシート部3の裏面までの距離を測定することにより行った。この時の、角度β以外のパラメータは、以下の条件で行った。
底辺W=可変、径D=0.12mm、ピッチP=可変、角度α=27°、H1=0.25mm、H2=0.25mm、H3=0.15mm、厚みT=0.15mm
結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
この結果より、角度βは、20°〜60°が好ましく、30°〜50°が更に好ましいことがわかった。
【0094】
(2)ニードル部のピッチPについて
ニードル部1配置間隔であるピッチPは、大きいほどニードル部1が皮膚に刺さりやすくなり、小さいほど刺さりにくくなる。また、ピッチPが大きすぎると、単位面積あたりのニードル部1の数が少なくなり、十分な薬剤を被験者に供給することができなくなる。
【0095】
そこで、このピッチPをパラメータとして、(1)と同様に針状アレイ経皮吸収シートを作製し、被験者に貼り付けて、刺さりやすさについて評価を行った。ピッチP以外のパラメータは、下記の通りとした。
底辺W=可変、径D=0.12mm、角度β=30°、角度α=27°、H1=0.25mm、H2=0.25mm、H3=0.02mm、厚みT=0.15mm
結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、ピッチPが、0.5mm以上だと皮膚への刺さりやすさが良好となった。しかしながら、単位面積あたりのニードル部1の数を考慮すると、薬剤供給の観点からは、より好ましくは、ピッチPは0.5mm〜0.6mmである。
【0098】
(3)長さL、径D、角度α、H1とH2の関係、H3、厚みTについて
次に、ニードル部1の長さL、胴体部5の直径D、針部4の先端の角度α、針部4の長さH1と胴体部5の長さH2の関係、錐台部2の高さH3、シート部3の厚みTについての評価結果を示す。この評価においては、それぞれのパラメータでの好ましい範囲を求めた。
【0099】
それぞれのパラメータを変えて、(1)と同様に針状アレイ経皮吸収シート10を作製し、被験者に貼り付けて評価を行った。評価を行ったパラメータ以外のパラメータ値は、以下の通りとした。
【0100】
底辺W=0.64mm、径D=0.12mm、ピッチP=0.64mm、角度α=27°、H1=0.25mm、H2=0.25mm、H3=0.15mm、厚みT=0.15mm、角度β=30°、
評価結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
この表3に示すように、長さL、径D、角度α、H1とH2の関係、H3、厚みTのそれぞれのパラメータについて適切な値がある。その値を求めたことは、単に最適条件を求めたのではなく、発明者の鋭意研究により、従来知られていなかった、それぞれのパラメータが有する効果を発見し、その効果が現れる範囲を求めたものである。よって、表3に記載された好ましい範囲に、それぞれのパラメータが該当するように針状アレイ経皮吸収シートを作製することにより、上記表3に記載された効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0103】
1…ニードル部、2…錐台部、3…シート部、4…針部、5…胴体部、10…針状アレイ、経皮吸収シート、50…型、52…シリコンシート、54…滴下されたポリマー溶解液1、56…半固化状体になったポリマー溶解液1、57…頂点、58…滴下したポリマー溶解液2、60…逃げ空間、100…皮膚
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、
先細り形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、
前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、
前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、
前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、
前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、
前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接している針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項2】
皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、
鉛筆形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、
前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、
前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、
前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、
前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、
前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接している針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項3】
前記錐台部の側面と、前記シート部の表面に平行な面との成す角度βが、20°〜60°である請求項1または2に記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項4】
前記錐台部の高さが、0.1mm〜0.5mmである請求項1から3のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項5】
前記先細り形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する請求項1、3、4のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項6】
前記鉛筆形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する請求項2から4のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項7】
前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面を水平面に設置したとき、前記錐台部の法線ベクトルは鉛直方向と平行でない請求項1から6のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シートの製造方法であって、
前記針状アレイ経皮吸収シートと同じ形状の空間が形成された型の前記空間に前記薬剤を含んだ第1ポリマー溶解液を注入する工程と、
前記第1ポリマー溶解液が注入された前記型を加圧することにより、前記第1ポリマー溶解液が注入された部分から気泡を除去し、前記型に形成された空間の先端まで前記第1ポリマー溶解液を充填する工程と、
前記第1ポリマー溶解液を加熱することにより、前記型の内部の空間のうち、前記錐台部同士の側面が接している部分に対応する部分よりも前記針部に対応する空間側寄りに全ての前記第1ポリマー溶解液が位置するように前記第1ポリマー溶解液を乾燥、収縮させる工程と、
第2ポリマー溶解液を前記型の内部の空間に注入する工程と、
前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを加熱することにより前記第1ポリマー溶解液と、前記第2ポリマー溶解液を固化させる工程と、
前記型から固化した前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを剥離して取り出す工程と、
を備えた針状アレイ経皮吸収シートの製造方法。
【請求項1】
皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、
先細り形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、
前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、
前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、
前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、
前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、
前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接している針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項2】
皮膚に貼付することにより、皮膚内に薬剤を供給する針状アレイ経皮吸収シートであって、
鉛筆形状のニードル部と、円錐台形状又は角錐台形状の錐台部と、平板形状のシート部とを備え、
前記シート部表面には、前記ニードル部と接続された前記錐台部が複数個設置され、
前記ニードル部は、円錐形状又は角錐形状の針部と、円柱形状又は角柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、
前記胴体部の端面のうち前記針部に接続されていない側の端面は、前記錐台部の端面のうち面積の狭い側の端面に接続され、
前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面は、前記シート部の表面に接続され、
前記シート部表面において、互いに隣接する前記錐台部の側面同士が接している針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項3】
前記錐台部の側面と、前記シート部の表面に平行な面との成す角度βが、20°〜60°である請求項1または2に記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項4】
前記錐台部の高さが、0.1mm〜0.5mmである請求項1から3のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項5】
前記先細り形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する請求項1、3、4のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項6】
前記鉛筆形状のニードル部は、円錐形状の針部と、円柱形状の胴体部とを有し、前記針部の底面と前記胴体部の端面とが接続された構成を成し、前記錐台部は角錐台形状を有する請求項2から4のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項7】
前記錐台部の端面のうち面積の広い側の端面を水平面に設置したとき、前記錐台部の法線ベクトルは鉛直方向と平行でない請求項1から6のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の針状アレイ経皮吸収シートの製造方法であって、
前記針状アレイ経皮吸収シートと同じ形状の空間が形成された型の前記空間に前記薬剤を含んだ第1ポリマー溶解液を注入する工程と、
前記第1ポリマー溶解液が注入された前記型を加圧することにより、前記第1ポリマー溶解液が注入された部分から気泡を除去し、前記型に形成された空間の先端まで前記第1ポリマー溶解液を充填する工程と、
前記第1ポリマー溶解液を加熱することにより、前記型の内部の空間のうち、前記錐台部同士の側面が接している部分に対応する部分よりも前記針部に対応する空間側寄りに全ての前記第1ポリマー溶解液が位置するように前記第1ポリマー溶解液を乾燥、収縮させる工程と、
第2ポリマー溶解液を前記型の内部の空間に注入する工程と、
前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを加熱することにより前記第1ポリマー溶解液と、前記第2ポリマー溶解液を固化させる工程と、
前記型から固化した前記第1ポリマー溶解液と前記第2ポリマー溶解液とを剥離して取り出す工程と、
を備えた針状アレイ経皮吸収シートの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−196426(P2012−196426A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210882(P2011−210882)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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