説明

鉄道車両用軸箱支持装置

【課題】 軸ハリ先端部の軸箱と台車枠間に配置される軸ばねの圧縮変形を中心軸線に沿って鉛直方向に行われるようにし、軸ばねによるバネ定数を本来もつ単純圧縮バネ定数に下げることができ、乗り心地を良好にするとともに、軸ばねおよび支軸周囲に配置されるゴムブッシュに無理な負荷(荷重)が作用せず、耐久性を向上し得る鉄道車両用軸箱支持装置を提供する。
【解決手段】 輪軸を回転可能に支持する軸箱4から基端側に延びるガイドアームとしての軸ハリ5の基端部を、台車枠2の側梁2aの下面2cから下方へ突出させたガイド3に沿って昇降自在に支持するとともに、軸ハリ5先端部の軸箱4と台車枠2の側梁2aの上面2bとの間に軸ばね10を配置した鉄道車両用軸箱支持装置1であって、ガイド3の周囲を軸ハリ5の基端部で取り囲み、この軸ハリ5基端部の大径リング体6の内周面とガイド3の摺動部材20に沿って摺動可能な円環状リング体8との間に、ゴムブッシュ9を介在させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用軸箱支持装置、詳しくは軸ハリ式軸箱支持装置に関するもので、輪軸を回転自在に支持する軸箱を台車の先端部に備え、基端側へ延びるガイドアーム(軸ハリともいう)の基端部を台車枠に取り付け、軸ハリ先端部の軸箱を上下方向に移動自在に支持して軸ばねを介在させた軸箱支持装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の軸箱支持装置は、たとえば図4に示すように台車枠52の側梁52aの下方に設けられた受け座53に軸ハリ5の一端部が枕木方向に平行で水平な支軸54により取り付けられ、軸箱4を先端部に一体に備えた軸ハリ5の基端部が前記支軸54の軸回りに回転可能に取り付けられている。軸ハリ5の基端部の、支軸54の軸回りに回転可能に取り付けられる筒状部内周面と支軸54の外周面との間には弾性体(ゴムブッシュ)55を介在させ、この弾性体55により軸箱4を一体に備えた軸ハリ5と台車枠52とが前後、左右および上下の各方向に相互の相対変位を許容するように取り付けられている。
【0003】
上記の軸箱支持装置に関する先行技術文献に、台車の車軸を回転可能に支持する軸箱を軸ハリの先端部に一体に備え、この軸ハリにより軸ばねを介して台車枠に支持する構造が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この構造では、軸ハリの基端部が上記したとおり支軸の軸回りに回転可能に台車枠に対し取り付けられ、また支軸の周囲には弾性体を介在させている。
【0004】
その他の軸箱支持装置の先行技術文献に、「図11は軸はり式の構造を示すもので、軸箱3と一体となったはり(ガイドアーム)8の先端にゴムブッシュが取り付けられており、それを介して台車枠1に固定されている。軸ばね2の上下変位により軸箱3はゴムブッシュを中心に回転することになるので、軸箱3には傾きが生じる。軸箱支持剛性は主にゴムブッシュの特性で決まる。このように、鉄道車両用台車における輪軸の両端を支持する軸受を納めた軸箱は、前後方向の動きを押さえ、左右方向には押圧を緩和する余裕をもたせ、上下方向には緩衝作用を働かせるように仕組まれた軸箱支持装置により支持されている。」と記載され、従来の一般的な軸ハリ式軸箱支持装置が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
また、台車枠と軸箱の間に鉛直方向の軸ばねが設けられ、台車枠から下向きに突出された連結軸は、軸ばねのコイルバネ内を通って軸箱に固着された外筒内に環状の空間部を形成した状態で挿入され、軸箱の外筒内には前記連結軸とわずかな隙間を形成する緩衝ゴムが嵌合され、緩衝ゴムと連結軸との隙間部分に、連結軸の上下方向への相対的な移動を許容するリニアベアリングが装着された装置が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。この装置の場合は、軸箱の両側にバネとともにリニアベアリングが必要になるので、側梁が長くなり、台車枠の重量が重くなる。なお、軸箱の片側のみにリニアベアリングが設けられた構造では、リニアベアリングに強い曲げ力が働くので、左右両側にリニアベアリングとバネが設けられていないと機能しない。このように、左右にスライド式案内とバネが必要になるので、台車枠の側梁が長くなって装置全体の重量が重くなる。
【0006】
さらに、軸箱から前後方向に延びる支持腕はその先端に、軸箱側部の円筒積層ゴムの装着孔を形成し、この装着孔に装着される積層ゴムは半径寸法の異なる複数枚の積層板間にゴム板を積層するとともに、中央部に支持孔を形成している。積層板とゴム板を積層した部分に複数の粘性流体の液室を形成し、それらの液室に粘性流体源を接続して軸箱側部の円筒積層ゴムを切り換えられるようにした装置が提案されている(たとえば、特許文献4参照)。この装置の場合、軸箱側部の前記支持孔内の支軸が摺動せずに、円筒積層ゴムに対しせん断力が作用するため、軸ばねに対してねじり(円弧状の変形)が発生するおそれがあり、適正なバネ定数のバネ特性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−160777号公報(第3頁左上欄および図1)
【特許文献2】特開平11−171014号公報(段落0009および図11)
【特許文献3】実開平3−96268号公報(第4頁〜第6頁および図1)
【特許文献4】特開2003−63395号公報(段落0011および図1・図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の一般的な軸箱支持装置では、図4に示すように台車枠52側の受け座53に対し、軸ハリ5の基端部が支軸54によりその軸回りで回転可能に支持されている。このため、軸ハリ5が水平な姿勢で昇降するときには軸ばねのバネ定数は正規の値になるが、軸ハリ5の先端側の、台車枠52との間に配置されている軸ばね10に対し、軸ハリ先端部が円弧を描くように作用して軸ばね10を圧縮することがある。そのような場合は、軸ばね10がその中心軸線に沿って鉛直方向には圧縮されず、円弧状に変形するように圧縮されるために、軸ばね10のバネ定数が本来もつばね定数(単純圧縮バネ定数)の1.3倍程度に増強され、硬くなって鉄道車両の乗り心地が悪くなる。しかも、軸ばね10が円弧状に無理な変形をするため、軸ばね10の負担が重くなって、耐久性に乏しく、寿命が短くなる。また、軸ハリ5の先端部の軸ばね10がたわむことにより、台車枠52が上下方向に変位する(昇降する)が、軸ハリ5の先端部に対し支軸54を中心に円弧状に回転させようとする負荷が作用し、支軸54の周囲の、軸ハリ5の基端部内との間に介在している弾性体(ゴムブッシュ)55がこじられるように変形する。つまり、弾性体55は台車枠52と軸箱4を含む軸ハリ5との間で、上下方向、前後方向および左右方向における荷重を弾力的に支持し、上下方向、前後方向および左右方向への相対変位を許容するために使用されているが、弾性体55が、たとえば上下方向と前後方向、あるいは前後方向と左右方向などの複数方向の荷重が組み合わさった複雑な変形をする。この結果、台車枠52と軸箱4あるいは軸箱4を含む軸ハリ5との間における、弾性体55による上下、前後および左右方向における柔軟な支持を期待できない。
【0009】
この発明は上記のような従来の不都合な面を解消するためになされたもので、軸ハリ先端部の軸箱と台車枠間に配置される軸ばねの圧縮変形を軸ばねの中心軸線に沿って鉛直方向に行われるようにし、軸ばねによるバネ定数を本来もつ単純圧縮バネ定数に下げることができ、乗り心地を良好にするとともに、軸ばねおよび軸ハリ基端部内に配置されるゴムブッシュに無理な負荷(荷重)が作用せず、耐久性を向上し得る鉄道車両用軸箱支持装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置は、輪軸を回転可能に支持する軸箱から基端側に延びるガイドアームとしての軸ハリの基端部を、台車枠の側梁下面から下方へ突出させたガイドに沿った摺動部を介して昇降自在に支持するとともに、軸ハリ先端部の前記軸箱と前記台車枠の側梁上面との間に軸ばねを配置した鉄道車両用軸箱支持装置であって、前記ガイドを前記軸ばねの中心軸線と平行に設けるとともに前記ガイドの周囲を前記軸ハリの基端部で取り囲み、この軸ハリ基端部内周面と前記ガイド周囲の前記摺動部との間に、ゴムブッシュを介在させたことを特徴とする。
【0011】
上記の構成を有する軸箱支持装置によれば、軸ハリ基端部側の前記ゴムブッシュは、従来と同様に鉄道車両の前後(レール方向)および左右(枕木方向)の荷重を分担するが、上下方向には荷重の分担がない。たとえば、軸ばねが圧縮されて台車枠が下方へ変位すると、軸ハリは基端側のガイドに沿ってほぼ水平な姿勢のまま台車枠に対し相対的に上方に移動する。こうした相対的な移動が可能なように、前記ガイドには軸ハリの基端部が昇降可能なスペースが設けられている。
【0012】
また従来と違って、台車枠または車輪に負荷が作用して台車枠と軸ハリとが相対的に変位する際に、軸ハリはガイドに沿って昇降し、軸ばねはその軸線方向に沿って圧縮あるいは伸長する。このため、軸ばねは単純圧縮(単純伸長)され、軸ばねが本来もつバネ定数で負荷に対し抗する。したがって、軸ばねには無理な力が作用せず、バネ定数も設計値通りに発揮される。また、軸ハリ基端部内の前記ゴムブッシュは、台車枠と軸箱(軸ハリ)との間において前後方向および左右方向の荷重を分担し、柔軟に支持する。それ故、ゴムブッシュがこじれるように変形するおそれがない。この結果、ゴムブッシュの無理な変形による影響がなく、また軸ばねが単純圧縮され、バネ定数が実質的に下がって、鉄道車両の乗り心地が向上する。
【0013】
請求項2に記載のように、前記ガイドが円筒体状または円柱体状のガイドであって、このガイドの外周面上に装着される円筒状の摺動部材と、この摺動部材に沿って上下方向に摺動可能に配置される円環状リング体からなる摺動体とから前記摺動部を構成し、前記軸ハリ基端部内周部を前記円環状リング体と同心状の大径リング体に形成し、この大径リング体の内周面と前記円環状リング体との間に円環体状の前記ゴムブッシュを介在させることができる。
【0014】
このようにすれば、軸ハリ基端部内の円環状リング体(摺動体)がガイド外周面の摺動部材に沿ってスムーズに上下方向に摺動し、軸ハリがほぼ水平な姿勢を保って昇降し、軸ばねをその中心軸線に沿って適正に圧縮・伸長させることができる。
【0015】
請求項3に記載のように、前記摺動体にリニアガイドを使用することができる。
【0016】
このようにすれば、極めて小さな摩擦係数の下に前記軸ハリの基端部をガイドに沿って昇降させられる。
【0017】
請求項4に記載のように、前記軸ハリ基端部の前記大径リング体を前後に二分割して軸ハリ本体側半円筒状分割部と半円筒状分割部分とに分割し、前記円環状リング体との間に前記ゴムブッシュを介在させて前記軸ハリ本体側半円筒状分割部と前記半円筒状分割部分で挟持することにより、軸ハリ基端部の前記大径リング体をボルトで一体に結合できるように構成することができる。
【0018】
このようにすれば、ガイドに沿って摺動自在に内側の円環状リング体を配置した状態で軸ハリの基端部を分割した状態から突き合わせてボルトで緊締して一体に接合し、ゴムブッシュを介在させて軸ハリの基端部をガイドに容易に取り付けることができる。
【0019】
請求項5に記載のように、前記ガイドを前記台車枠の側梁下面に溶接により一体に固定することができる。
【0020】
このようにすれば、ガイドを台車枠の側梁の下面に容易に固定することができる。
【0021】
請求項6に記載のように、前記ガイドを円筒体状または円柱体状とし、前記台車枠の側梁の上面と下面との間に中空円筒体状の支持筒を嵌着し、この支持筒内の上端より一連に連続するガイドの下部を下方へ突出させ、前記ガイドをフランジを介してボルトまたはボルトとナットにより一体に締め付けて固定することができる。
【0022】
このようにすれば、ガイドの着脱が可能で、ガイドの交換やメンテナンスが簡単になる。
【0023】
請求項7に記載のように、前記軸ばねがコイルスプリングを備え、このコイルスプリングの上下両面にばね受け座を介在させて、前記軸ハリの前記軸箱と前記台車枠の側梁の上面との間に設けることができる。
【0024】
このようにすれば、コイルスプリングによるばね力の調整が容易であり、コイルスプリングが上下両面のばね受け座で支持されてその中心軸線に沿って確実に鉛直方向で伸縮される。
【0025】
請求項8に記載のように、前記ガイドの周囲の前記摺動部材と前記摺動体との摺動部位を覆うカバー部材を装着することが好ましい。
【0026】
このようにすれば、軸ハリ基端部内周面の摺動部材とガイドとの摺動部がカバー部材で覆われているので、長期間使用してもガイド周面に塵芥等が付着することが防止され、常に軸ハリ基端部がガイドに沿ってスムーズに摺動する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置は上記のような構成からなるので、つぎのような優れた効果がある。
【0028】
・従来は軸ハリの基端部が台車枠の側梁に対し水平な支軸の回りに回転可能に支持され、先端側の軸箱と台車枠の側梁との間に配置されている軸ばねが円弧を描くように伸
縮されていたが、軸ハリの基端部をガイドに沿って昇降可能に構成したので、軸ばねが圧縮されて台車枠が下方へ変位すると、軸ハリは基端側のガイドに沿ってほぼ水平な姿勢のまま台車枠に対し相対的に上下方向に移動する。したがって、従来とは違って、台車枠または車輪に負荷が作用して台車枠と軸ハリとが相対的に変位する際に、軸ハリはガイドに沿って昇降し、軸ばねをその軸線方向に沿って圧縮あるいは伸長する。これにより、軸ばねは単純圧縮または単純伸長され、軸ばねが本来もつバネ定数で作用する。このため、軸ばねに無理な力が作用せず、バネ定数も設計値通りになる。また、軸ハリ基端部のゴムブッシュは、台車枠と軸箱(軸ハリ)との間において前後方向および左右方向の荷重を分担し、柔軟に支持する.それ故、ゴムブッシュがこじれるような変形を起こすことがない.この結果、ゴムブッシュの影響がなく、バネ定数が実質的に下がって、鉄道車両の乗り心地が向上する。
【0029】
・軸ハリの基端側筒状部を二分割してボルトで一体に連結する構造にしたので、ガイドに沿って摺動可能なリング体の周囲に装着するゴムブッシュを上方または下方から圧入する必要がなくなり、たとえば複数層で形成したゴムブッシュを使用できるようになり、前後方向および左右方向の負荷をゴムブッシュで柔軟に、かつ相対変位を許容できるように支持できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の軸ハリ式軸箱支持装置の第1実施例を示すもので,(a)は側面図で台車枠の側梁を一点鎖線で表しており、(b)は図1(a)のA−A線断面図である。
【図2】本発明の軸ハリ式軸箱支持装置の第2実施例を示すもので,(a)は側面図で台車枠の側梁を一点鎖線で表しており、(b)は図2(a)のA−A線断面図である。
【図3】(a)は本発明の軸ハリ式軸箱支持装置の第3実施例を示す側面図、(b)は(a)のA−A線断面図で、台車枠の側梁を二点鎖線で表している。
【図4】従来の一般的な軸ハリ式軸箱支持装置の全体構成を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の鉄道車両用軸箱支持装置について実施の形態を図面に基づいて詳しく説明する。
【実施例1】
【0032】
図1に示すように、台車枠2の側梁2aの端部付近(A−A線断面図の中心線位置)において、側梁2aの下面2cの中央部(幅方向の中間位置)から円筒体状のガイド3が下向きに突出して設けられている。他の位置の図示は省略するが、台車枠2の側梁2aの下面2cにおける前後左右の位置にガイド3がそれぞれ下向きに突出して設けられ、合計4箇所に本発明の鉄道車両用軸箱支持装置の実施例1に係る軸ハリ式軸箱支持装置1がそれぞれ配置されている。そして、その軸箱支持装置1により、前後一対の輪軸31(図4参照)が前後方向、左右方向および上下方向への相対的な変位を許容しつつ支持されている。各輪軸31は車軸31aとその両端の車輪31bからなり、車輪31bの外方へ一部突出する車軸31aを回転可能に支持する軸箱4から一体的にガイドアームとしての軸ハリ5が基端部に向けて前後方向に延びている。軸箱4には、軸受(図示せず)が内蔵されている。
【0033】
図1(b)に示すように軸ハリ5の基端部は、ガイド3の後述する摺動部材20に沿って昇降可能に支持されるように、上方より見て円筒体状の大径リング体6に形成されている。この基端側の大径リング体6は前後方向に二分割され、半円筒状分割部分としての分割側半円筒リング体6bは、軸ハリ本体側半円筒状分割部としての半円筒リング体6aと突き合わされ、左右の上下2本ずつ計4本のボルト13とナット14により一体に接合される。このため、各半円筒リング体6a・6bの両側にフランジ部6c・6dがそれぞれ外向きに一体に突設され、各フランジ部6c・6dに上下2つのボルト貫通孔(図示せず)が穿設されている。
【0034】
また、ガイド3の外周面には、上下両端を開口した円筒状の摺動部材20が装着されている。この摺動部材20に沿って摺動体としての円環状リング体8が昇降自在に取り付けられる。摺動部材20の材質については特に限定されないが、たとえば砲金(青銅の一種)で形成したり、砲金ベースの固体潤滑剤を埋設して形成したり、耐摩レジンで形成したりできる。さらに、前記円環状リング体8の内周面側にリニアガイド(図示せず)を設けることで、摺動部材20との間の摩擦力をより小さくすることもできる。また、前記円環状リング体8と同心状に大径リング体6が配置され、大小(外内)のリング体8と大径リング体6との間に跨って、一定の厚みを有する弾性体としてのゴムブッシュ(緩衝ゴム)9が設けられている。ゴムブッシュ9は、本例では内周側から外周側にかけて段階的に幅(高さ)を狭くした三層のゴムブッシュ部から形成され、各層のゴムブッシュ部9a〜9cも本例では前後に二分割されている。そして、二分割された大径リング体6をボルト13とナット14で一体に接合する際に、ゴムブッシュ部9a〜9cも突き合わされて、一つのゴムブッシュ9となる。なお、ゴムブッシュ9を構成する積層ゴムの構造や弾性材料や支持する方向によって変えることにより、台車の枕木方向と、レール方向とで、弾性力を自由に決定できるため、たとえば車輪の横圧や前後動に対して最適な弾性力を備えたゴムブッシュとすることが可能である。
【0035】
ガイド3は、図1(a)に示すように中空円筒体で、ガイド3の上端部付近に外向きのフランジ3aを一体に備え、台車枠2の側梁2aの下面2cに取付座3bを介在させて溶接により一体に固定され、下向きに突出している。また、ガイド3の下端には、リング体8のみまたはリング体8にゴムブッシュ9および軸ハリ5の基端側の大径リング体6を取り付けた状態で、円形のフランジ板7がボルト7aでネジ止めにより固定される。これにより、摺動部材20が摩損したときに、ボルト7aをフランジ板7とともに取り外し、簡単に交換することができる。軸ハリ5の基端部は、上下のフランジ3a・7間でガイド3に沿って昇降可能である。
【0036】
一方、軸ハリ5の先端部の軸箱4上には、逆T字形の下端にばね受け座11を備えた
バネ殺し機構12が円環板状の弾性板16を介して取り付けられている。ばね受け座11に対応する上部ばね受け座15が、図1(a)のように台車枠2の側梁2aの上面2bに円環板状の弾性体17を介して配置される。上部ばね受け座15の中心部には、バネ殺し機構12に対応するガイド孔部15aが開口され、このガイド孔部15aは着脱可能な蓋で塞がれている。上下のばね受け座11とばね受け座15間には、本例では内外二重のコイルスプリング18が縮装(圧縮状態で装着)されている。このようにして、軸ばね10が構成されている。
【0037】
この状態で、車輪31b(図4参照)を回転可能に支持する軸箱4を備えた軸ハリ5と台車枠2とのバランスが図られ、軸ハリ5は図1(a)のようにほぼ水平に保持される。
【0038】
以上のようにして構成される本発明の実施例1に係る軸箱支持装置1について、使用の態様を図1に基づいて説明する。
【0039】
上記の構成により、軸ハリ5は、基端側の円環状リング体8がフランジ3a・7間でガイド3に沿って昇降可能に案内される。このため、たとえば台車枠2が軸ハリ5(車輪31b)に対し相対的に下方へ変位すると、軸ばね10としてのコイルスプリング18が中心軸線に沿って圧縮される。
【0040】
また、台車枠2と軸ハリ5との間で前後方向あるいは左右方向に相対的に変位すると、ガイド3を介してゴムブッシュ9がその変位に抗する方向に圧縮され、ゴムブッシュ9が前後方向および左右方向の荷重を弾力的に支持する。なお、上下方向の相対的な変位については、ゴムブッシュ9はガイド3に沿って昇降し、圧縮されない。
【0041】
さらに、軸ばね10(コイルスプリング18)は、中心軸線に沿って圧縮・伸長され、いわゆる単純圧縮(伸長)されるので、コイルスプリング18が本来もつバネ定数のバネとして機能する。このため、適正なばね力が発揮され、鉄道車両としての乗り心地が向上する。また、コイルスプリング18が無理な変形をせず、ゴムブッシュ9についてもこじれたりするなどの無理な変形をしないので、長期にわたり安定した使用が可能となり、耐久性も向上する。
【実施例2】
【0042】
図2は本発明の軸ハリ式軸箱支持装置の第2実施例を示すもので、(a)は側面図で、(b)は図2(a)のA−A線断面図である。
【0043】
本実施例2の軸箱支持装置1−2では、図2(a)に示すようにガイド3の台車枠2の側梁2aに対する取付方法が、上記実施例1と相違している。すなわち、台車枠2の側梁2aの上下両面2b・2cに一連に貫通孔2d・2eが設けられ、これらの上下の貫通孔2d・2e内に上下両端を開口した中空円筒体状の支持筒21が溶接により固設される。ガイド3には、支持筒21内に挿入可能な長尺の中実円柱体22が使用される。この中実円柱体22の軸方向の中間位置よりやや下方に、外向きのフランジ23が一体に設けられている。ガイド3としての中実円柱体22を、支持筒21の下方から上向きに挿入してフランジ23を支持筒21の下端に当接させる。この状態で、中央部に貫通孔(図示せず)をあけた円形フランジ板24を支持筒21の上端に当接し、中実円柱体22の上端より一体に突出させたボルト28を円形フランジ板24の貫通孔から上方に突出させ、ナット27をボルト28の上方突出部に螺合して締め付けることにより、ガイド3としての中実円柱体22を台車枠2の側梁2aの下面2cに取り付けている。また、中実円柱体22の下部外周面に摺動部材20を下方から挿入し、この状態で、中央部に貫通孔をあけた別の円形フランジ板24を中実円柱体22の下端に当接し、ボルト26を円形フランジ板24の貫通孔から上方に挿入して中実円柱体22内の下部に形成した内部のネジ部に螺合させ、締め付けて固定している。
【0044】
本実施例の軸箱支持装置1−2では、ガイド3をボルト28とナット27を用いてネジ止めで固定しているので、ガイド3の交換が容易になるという利点があるが、その他の構成および使用態様は上記実施例1と共通するので、共通する構成部材を同一の符号を用いて図示し、説明を省略する。なお、ガイド3内に一体に設けたボルト28の代わりに頭部付きボルトを使用し、ガイド3内に設けたネジ部に螺合して緊締することで固定することもできる。
【実施例3】
【0045】
図3は本発明の軸ハリ式軸箱支持装置の第3実施例を示す側面図で、台車枠の側梁を二点鎖線で表している。
【0046】
本実施例3の軸箱支持装置1−3では、図3(a)に示すように軸ハリ5基端側の円環状リング体(摺動体)8とガイド3の摺動部材20との隙間s(図2(a))に、塵芥や鉄粉等が侵入しないようにカバー部材30で覆っている。このカバー部材30は本実施例では、上下両端を開口した円筒体形の蛇腹式カバーからなる上部カバー30aと下部カバー30bとで構成されている。上部カバー30aの上端開口縁部30cはフランジ3aの外周面上に、また下端開口縁部30dは大径リング体6(図3(b)参照)の上部外周面上にそれぞれ嵌め込まれて取着されている。
【0047】
また、下部カバー30bの上端開口縁部30eは、大径リング体6の上端外周部上に、また下端開口縁部30fはフランジ7’の外周面上にそれぞれ嵌め込まれて取着されている。このため、フランジ7’は外周縁部7cを図3(a)に示すように断面凹状に形成し、下端開口縁部3fが外周面上に確実に嵌め込まれるようにしている。なお、各開口縁部30c〜30fは取付状態で周囲を締付リングで締め付けて固定するようにしているが、締め付けるだけでなく接着剤を用いて接着するようにしてもよい。また、カバー部材30の材料については特に限定しないが、たとえば布材に樹脂やゴムなどの弾力性を具備する素材を含浸させたもの、あるいは全体がゴム製のもの、防雪カバーに使用されている布材からなるものを使用することができる。なお、図示は省略するが、ガイド3に沿って円環状リング体8がスムーズに摺動するように、ガイド3の周囲の摺動部材20にはグリースを塗布することが望ましい。
【0048】
上記に本発明の軸ハリ式軸箱支持装置について複数の実施例を説明したが、つぎのように実施することができる。
【0049】
・上記実施例では、軸箱4から基端方向に延びる軸ハリ(ガイドアーム)5の長さを長く形成している(図1・図2参照)が、軸ハリ5の長さを短くして小型軽量化を図ることができる。
【0050】
・ゴムブッシュ9は同一幅のリング体状にしたり、非分割の一体構造にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、軸箱を一体に備えた軸ハリ式の鉄道車両用軸箱支持装置として利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1・1−2・1−3 鉄道車両用軸箱支持装置(軸ハリ式軸箱支持装置)
2 台車枠
2a側梁
3 ガイド
3aフランジ
4 軸箱
5 軸ハリ
6 大径リング体
6b分割側半円筒リング体
6a軸ハリ本体5aの半円筒リング体
6c・6dフランジ部
7・7’円形のフランジ板
7aボルト
8 円環体状リング体(摺動体)
9 ゴムブッシュ(緩衝ゴム)
9a〜9c3層のゴムブッシュ部
10 軸ばね
11 ばね受け座
12 バネ殺し機構
13 ボルト
14 ナット
15 上部ばね受け座
15aガイド孔部
16・17 弾性板
18 コイルスプリング(軸ばね)
20 摺動部材
21 支持筒
22 中実円柱体
23 フランジ
24・25 円形フランジ板
26・28 ボルト
27 ナット
30 カバー部材
30a上部カバー
30b下部カバー
30c・30e上端開口縁部
30d・30f下端開口縁部
31 輪軸
31a車軸
31b車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪軸を回転可能に支持する軸箱から基端側に延びるガイドアームとしての軸ハリの基端部を、台車枠の側梁下面から下方へ突出させたガイドに沿った摺動部を介して昇降自在に支持するとともに、軸ハリ先端部の前記軸箱と前記台車枠の側梁上面との間に軸ばねを配置した鉄道車両用軸箱支持装置であって、
前記ガイドの周囲を前記軸ハリの基端部で取り囲み、この軸ハリ基端部内周面と前記ガイド周囲の前記摺動部との間に、ゴムブッシュを介在させたことを特徴とする鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項2】
前記ガイドが円筒体状または円柱体状のガイドであって、このガイドの外周面上に装着される円筒状の摺動部材と、この摺動部材に沿って上下方向に摺動可能に配置される円環状リング体からなる摺動体とから前記摺動部を構成し、
前記軸ハリ基端部内周部を前記円環状リング体と同心状の大径リング体に形成し、この大径リング体の内周面と前記円環状リング体との間に円環体状の前記ゴムブッシュを介在させたことを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項3】
前記摺動体がリニアガイドであることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項4】
前記軸ハリ基端部の前記大径リング体を前後に二分割して軸ハリ本体側半円筒状分割部と半円筒状分割部分とに分割し、
前記円環状リング体との間に前記ゴムブッシュを介在させて前記軸ハリ本体側半円筒状分割部と前記半円筒状分割部分で挟持することにより、軸ハリ基端部の前記大径リング体をボルトで一体に結合できるように構成した請求項2または3記載の鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項5】
前記ガイドを前記台車枠の側梁下面に溶接により一体に固定した請求項1〜4のいずれか記載の鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項6】
前記ガイドを円筒体状または円柱体状とし、前記台車枠の側梁の上面と下面との間に中空円筒体状の支持筒を嵌着し、この支持筒内の上端より一連に連続するガイドの下部を下方へ突出させ、前記ガイドをフランジを介してボルトまたはボルトとナットにより一体に締め付けて固定した請求項1〜4のいずれか記載の鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項7】
前記軸ばねがコイルスプリングを備え、このコイルスプリングの上下両面にばね受け座を介在させて、前記軸ハリの前記軸箱と前記台車枠の側梁の上面との間に設けた請求項1〜6のいずれか記載の鉄道車両用軸箱支持装置。
【請求項8】
前記ガイドの周囲の前記摺動部材と前記摺動体との摺動部位を覆うカバー部材を装着した請求項1〜7のいずれか記載の鉄道車両用軸箱支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−208571(P2010−208571A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59263(P2009−59263)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】