説明

鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法

【課題】鉛合金スラブと鉛合金箔(合金リボン)の強度が向上したため圧延による接合性が低下するとともに、表面上の凹凸による接合面の剥離層ができ、エキスパンド加工時の網目状展開部の断線などが発生する。格子におけるこの部位が選択的に腐食されることで鉛蓄電池の寿命特性が短くなるという課題があった。
【解決手段】エキスパンド格子用鉛合金シートの製造工程において、前記スラブの表面が冷却水で一様に濡れた状態で鉛合金箔と重ね合わせて第1圧延段階を実施することで、鉛蓄電池の寿命特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池における格子用鉛合金シートの製造方法の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用鉛蓄電池は自己放電が少なく、使用中の減液特性を向上させるためカルシウム系鉛合金を格子に用いるメンテナンスフリー電池の需要が拡大している。これらの鉛蓄電池の格子は、薄型、軽量化を図るため鉛合金の連続鋳造体(以下スラブと云う)を多段のローラーで圧延した薄板の鉛合金シートを作成し、その後に機械的に網目状にエキスパンド加工したエキスパンド格子が多く採用されている。
【0003】
さらに自動車のエレクトロニクス化が急速に発展しているのとともに交通渋滞も発生したりしており、電源となる鉛蓄電池には大きな負荷が増大したり、高温状態のエンジンルーム内で使用され、従来よりも深い充放電の繰り返しの増加や高温下における信頼性の向上が要求されている。
【0004】
これらの電池特性の改良を目的として、格子の耐食性を向上させるために母材であるスラブの錫含有量の調整、このスラブと一体化させて格子表面の特性を改質させるためスラブと異なる組成の薄い鉛合金箔(以下リボン箔と云う)の錫、アンチモンの含有量の変更や最近では銀の添加等が実施されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
この両者を一体化は多段のローラーで圧延して鉛合金シートを製造する段階で、母材となるスラブとは組成の異なる薄いリボン箔をスラブに重ね合わせ、圧延ローラーで圧着し鉛合金シートを製造する技術が開示されている。この圧延加工により一体化されたスラブとリボン箔との界面で延展性の違いなどから接合性が悪くなり、界面での剥離やエキスパンド加工時に網目状展開部が切断されるなどの新たな課題が発生した。
【0006】
スラブとリボン箔の一体化の際に、特許文献1は温度差をコントロールして圧延する方法が、特許文献2にはスラブ表面を平滑化することで両者を良好な状態で一体化する技術が記載されている。
【0007】
上記の課題を解決するため、特許文献1ではスラブとリボン箔との温度差が150℃以下で圧延する段階を含むことで界面の接合性を高める方法が、特許文献2ではスラブの表面に平滑化処理を行った後に鉛合金箔を重ね合わせて接合性を高めることで、接合面での剥離を抑制し、格子として耐食性を向上させるとともに鉛蓄電池の高温耐久寿命を向上させる手段が示されている。
【特許文献1】特開平5−13084号公報
【特許文献2】特開平5−325976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、格子強度高めるためスラブの錫含有量が増加して1.0〜2.0質量%になるとともにリボン箔が錫、アンチモンの含有以外に銀等の新たな元素を添加された鉛合金箔では強度が向上することでそれぞれの延展性が変化しその差が大きくなると、鉛シートの製造に対し従来のスラブと鉛合金箔との温度差が150℃以下で圧延する段階を含むだけでは十分な接合性を得ることが出来ない。またスラブの硬質化により平滑化処理のみでは不十分となり、凹凸が残った接合面にエアが巻き込まれることで剥離層ができ、エ
キスパンド加工時の網目状展開部の断線などが発生する。この部分の格子が選択的に腐食されることで鉛蓄電池の寿命特性が短くなるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、鉛合金の連続鋳造体(スラブ)表面に任意の鉛合金箔(合金リボン)を重ね合わせ、多段に圧着圧延により任意の合金層を表面に形成するエキスパンド格子用鉛合金シートの製造工程において、前記スラブの表面がスラブ作成時の冷却水により濡れた状態で鉛合金箔と重ね合わせて第1段の圧着圧延を実施することを特徴とした鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法を示すものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、鉛、カルシウム、錫系合金がカルシウムを0.03〜0.1質量%、錫を1.0〜2.0質量%、残部を鉛とする合金を母材とし、その片面あるいは両面に任意の鉛合金箔を重ね合わせたことを特徴とした請求項1の鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法を示すものである。
【0011】
本発明の請求項3に係る発明は、鉛合金箔はアンチモンを0.8〜50質量%、錫を1.0〜2.0質量%、銀を0.01〜0.5質量%、残部を鉛とする合金であることを特徴とする請求項1または2の鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法を示すものである。
【0012】
さらに、請求項4に係る発明は、第1段の圧着圧延工程で、前期連続鋳造体と鉛合金箔の温度差が150℃以下で圧延することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法を示すものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、カルシウム、錫、鉛合金のスラブとアンチモン、錫、銀、の鉛合金からなるリボン箔を一体化された鉛合金シートを用いてエキスパンド加工した格子を用いることで、自己放電が少なく、減液特性に優れるメンテナンスフリー電池の性能が維持されるとともに加工時の剥離層の存在を減少させることができ、網目状展開部の断線を抑制させることにより格子の耐食性向上がなされ、高温雰囲気中にお鉛蓄電池の充放電寿命特性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明によるスラブ表面に合金リボンを圧着圧延する概略図である。
【0015】
鉛蓄電池のエキスパンド格子を作成する工程で用いる連続鋳造体(スラブ)1はカルシウム錫系の鉛合金を用い、カルシウムは0.03〜0.1質量%で、錫は1.0〜2.0質量%の鉛合金を用いた。通常エキスパンド加工する際は良好な延展性を得るために錫の含有量を1.0質量%以下で用いる場合が多いが、本発明は電池特性の向上のために1.0%以上にする一方、2.0%以上では延展性が急速に劣り、実質エキスパン加工できなかった。今回のスラブ1は、上記の含有量のカルシウム0.05質量%、錫1.5質量%残部鉛の合金を溶融釜にて融解し、連続鋳造により厚さ10mm、幅90mmの連続鋳造体(スラブ)1を作製した。
【0016】
鋳造直後はスラブ1の表面温度は200℃以上と高く、次の鉛合金箔(合金リボン)2との一体化工程でそれぞれに大きな温度差が存在すると電池の実使用時に一体化部分からの剥離を生じるため、冷却水にてスラブ1の表面を150℃以下にすることで解消する。スラブ表面の冷却水は圧縮空気などで吹き飛ばすことなく、スラブ表面に残留させる。
【0017】
合金リボン2は、電池で必要とされる特性に合わせアンチモン、錫、銀、鉛の合金組成や厚さを決定され、冷間圧延の際に圧延ローラー3によりスラブ1に重ね合わせて一体化シート4が作成される。さらにその後に続く圧延ローラー(図示はしていない)にて徐々に圧延されさらに薄いシートが作成される。
【0018】
本発明では、連続鋳造された直後のスラブ1を冷却する際に用いた冷却水5を除去せずそのままの状態でスラブ1の表面に残留させておき、その上から合金リボン2とともに圧延ローラー3への圧延化工程に入る。スラブ1と合金リボン2の間に冷却水5が存在することで、スラブ1と合金リボン2とのそれぞれの延展性に差を有していても水の介在により少なくなった摩擦係数で両者間の密着を均一にすることができると考えられる。さらに、スラブ1と合金リボン2が水の存在により表面の濡れ性が良く接合効果を増加することができる一方、圧延時に冷却水5はスラブ1と合金リボン2との間に巻き込まれることなく排出され、シート内には残留しない。
【0019】
シートのベースに相当するスラブ1はカルシウム錫系の鉛合金で厚みは10mm、合金リボン2の厚みは0.05mmを用い、第1段目の圧延は圧延ローラー3にて行ってスラブ1と合金リボンとを一体化させる。最終的な圧延シートは、数段の圧延を重ねることで最終的に厚さ0.9mmの圧延シートを作成し、少なくとも片面にはベースと異なる合金層を有したシートを作成することができ、今回はこれをエキスパンド格子に供した。
【実施例】
【0020】
本実施例により、本発明の効果を説明する。
カルシウム0.05質量%、錫1.5質量%の鉛合金を連続鋳造により厚さ10mm、幅90mmで作成したスラブ1の表面上に、アンチモン5.0質量%、錫2.0質量%、銀0.2質量%の鉛合金で厚みが0.05mmの鉛合金箔(合金リボン)2を重ね合わせ、圧延ローラー3で冷間圧延を行い表面に異種合金層を有する厚さ0.9mmの圧延した一体化シート4を作った。この際、スラブ表面の状態を冷却させた後にエアで表面上の水分を除去する従来工法と、スラブ表面が濡れている本発明によるものを作成した。
【0021】
スラブ1と合金リボン2との接合性を検証するため、本発明による圧延一体化シート4と従来工法による鉛シートを用い、生産数量を2000mエキスパンド加工した際に生じた網目状展開部での骨切れ発生回数と剥離の回数をそれぞれ測定し、この結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
従来工法による鉛シートを用いた場合、骨切れの発生頻度は63m/回であったが、本発明によれば骨切れの発生頻度は667m/回と大幅に骨切れにいたるまで連続して流すことができた。また剥離は従来品では発生頻度は222m/回であったが、本発明では評価中に発生することは皆無となった。
【0024】
今回不良になった原因を調査した結果、スラブ1と合金リボン2との間に生じた空隙に
よるものであった。圧延時の両者間における延展性の差と接触時の摩擦で十分に滑らなかったことによるものと推測された。
【0025】
次に、電池を作成し特性評価を行いその結果について説明する。本試験に供した鉛蓄電池の説明図を第2図に示した。供試電池は12V55AhのJIS80D26形を用い、電池の組立ておよび作成条件は以下の手順で行った。
【0026】
正極板6および負極板7はカルシウム錫系の鉛合金の鉛シートをエキスパンド加工した格子に定法の鉛粉、水、硫酸、さらに負極の場合には添加剤も加えて練合したペースト状の活物質を充填し、熟成乾燥を行った未化成の極板を用いた。
【0027】
正極板6の格子に相当するシートには、実施例1と同様にカルシウム0.05質量%、錫1.5質量%の鉛合金をベースに用い、表面にはアンチモン5.0質量%、錫2.0質量%、銀0.2質量%の鉛合金リボンを一体化した0.9mm厚のシートを用いた。
【0028】
負極板は腐食等を考慮することもなく、シート表面への合金リボンを付与する必要はなく、通常の方法でエキスパンド加工を実施した。
【0029】
セル構成は、正極板および負極板が各7枚、メカシールにより袋状にしたポリエチレン製のセパレータ8に負極板を挿入し、正極板と負極板が交互となるように配置させ、同じ極性の極板をストラップ9で一体化することで極板群を得る。
【0030】
この極板群を電槽10に収納した後、従来と同様に各セル間の隔壁11を介して抵抗溶接により連結し、そして電槽上部に蓋12を熱溶着にて接合させて組み立て電池を得る。
【0031】
電槽化成は、組み立て電池に20℃での密度が1.170g/cmの電解液を注液した後、10Aで16時間の通電を行った。通電後に電解液の排出と高密度の電解液を注入し、20℃での密度が1.285g/cmになるように調整した。最後に液口部に液栓13を取り付け供試電池とした。
【0032】
特性評価方法は、供試電池を75℃の雰囲気中において充電は低電圧14.8Vで10分間、放電25Aで2分間を1サイクルとし、480回ごとに582Aで判定放電を行う軽負荷寿命試験を行った。その結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
本発明品は従来の構成と比較して最大で20%の寿命サイクル数を向上されており、寿命に至った状況を分解調査したところ、エキスパンド格子の網目部を構成する格子骨の断線の発生頻度が直接寿命に繋がったと考えられた。このように高温下における寿命特性の改善に対しても有効である。
【0035】
ここではカルシウム0.05質量%、錫1.5質量%の鉛合金のスラブをベースに用い、表面にはアンチモン5.0質量%、錫2.0質量%、銀0.2質量%の鉛合金リボンを一体化した0.9mm厚のシートを用いてエキスパンド格子を作成したが、本発明によればスラブと合金リボンを圧延一体化する際の滑りを改善できるものであるので、特に含有量に拘るものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の電池は、エキスパンド格子の作成の際に電池特性の改良を図るため格子骨表面の改質を図るべく、鉛合金スラブと鉛合金箔(リボン)との一体化を従来の装置にて容易に行うことができるとともに鉛蓄電池の特に高温雰囲気中での寿命向上を図ることができ、その工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明によるスラブ表面に合金リボンを圧着圧延する概略図
【図2】図1の部分拡大図
【符号の説明】
【0038】
1 連続鋳造体(スラブ)
2 鉛合金箔(合金リボン)
3 圧延ローラー
4 一体化シート
5 冷却水
6 正極板
7 負極板
8 セパレータ
9 ストラップ
10 電槽
11 隔壁
12 蓋
13 液栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛合金の連続鋳造体表面に任意の鉛合金箔を重ね合わせ、多段に圧着圧延により任意の合金層を表面に形成するエキスパンド格子用鉛合金シートの製造工程において、前記スラブの表面がスラブ作成時の冷却水により濡れた状態で鉛合金箔と重ね合わせて第1段の圧着圧延を実施することを特徴とした鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法。
【請求項2】
連続鋳造体はカルシウムを0.03〜0.1質量%、錫を1.0〜2.0質量%含む鉛合金であり、その片面あるいは両面に任意の鉛合金箔を圧着圧延することを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法。
【請求項3】
鉛合金箔は、アンチモンを0.8〜50質量%、錫を1.0〜10質量%、銀を0.01〜0.5質量%、残部を鉛とする合金であることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法。
【請求項4】
第1段の圧着圧延工程で、前期連続鋳造体と鉛合金箔の温度差が150℃以下で圧延することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の鉛蓄電池の格子用鉛合金シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−43585(P2009−43585A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207596(P2007−207596)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】