説明

銅または銅合金用エッチング液

【課題】 銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金をエッチングする工程において、使用時の泡立ちが少なく、銅または銅合金のエッチングを高選択的に行うことができるエッチング液を提供することを目的とする。
【解決手段】 銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金を選択的にエッチングする工程用のエッチング液であって、鎖状アルカノールアミン(A)、酸基を分子内に有するキレート剤(B)、および過酸化水素(C)を必須成分とする銅または銅合金用エッチング液を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子基板から銅または銅合金をエッチングするエッチング液に関するものであって、特に銅または銅合金とニッケルからなる電極(バンプ)を有する電子基板から銅または銅合金を選択的にエッチングするエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは性能向上のため素子の微細化、高密度化が進んでいるが、特に半導体デバイスでは微細化技術が限界に近づきつつある。高密度化の技術として従来のワイヤボンディング、フリップチップやバンプを用いて3次元構造のデバイスが実用化されているが、さらなる高密度化が望まれている。そこでシリコンを貫通している細いビアを作成し、銅などの導電体を充填し電極を作成する技術(TSV技術)の開発が進んでいる(非特許文献1)。
【0003】
一般的にTSV技術において銅を電極とする場合、シリコン基板に孔を空け、孔の内壁にシリコン酸化膜、チタン等のバリヤメタル層を作成した後、有機金属気相成長法や物理的気相成長法により銅のシード層を作成する(図1)。次に電極を形成する部位以外の銅のシード層の上にレジスト樹脂により保護膜を形成する(図2)。さらに保護膜が形成されていない部分に銅などの金属を埋め込み、バンプの形成が行われる。しかし、銅のままであると表面酸化現象などで接続信頼性が劣るため、一般的にニッケル層と金や錫および銀の合金からなる半田層がそれぞれ積層される(図3)。このあとレジスト樹脂を除去することでバンプが形成される(図4)。
【0004】
ところで銅のシード層とバリヤメタル層はシリコン基板の孔の内部だけでなくシリコン基板表面にも形成されており、レジストを除去した後も残ったままである。このため、エッチング液により除去しなければならない(図5)。
【0005】
このうち銅のシード層をウェットエッチングする方法として、硫酸と過酸化水素混合液などの酸と酸化剤からなるエッチング液を用いた方法が広く用いられている(特許文献1)。また、塩化第二銅や塩化第二鉄を含むエッチング液を用いた方法も広く知られている(特許文献2)。また、硫酸と過酸化水素、ポリエチレングリコール誘導体である界面活性剤からなるエッチング液を用いた方法も広く知られている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら特許文献1〜3のようなエッチング方法では、電子基板に形成された銅のシード層をバンプ形成後にエッチングする場合、バンプ形成のために使用したニッケルもエッチングしてしまうため、バンプが変形するという問題があった。
【0007】
また、現在のエッチング装置では、薬液のバッファ槽の液面をセンサーで検知、管理しているため、エッチング液の泡の発生はセンサーを誤作動させてしまう。また、エッチング液はポンプで循環させているため、泡はポンプがエアをかむため、送液に不具合を起こす。このため特許文献3のようなエッチング方法では、泡が発生してしまい作業性に欠けるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「三次元実装のためのTSV技術」(傳田精一著、2009年、工業調査会発行)の12〜16頁
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−286531号公報
【特許文献2】特開2008−285720号公報
【特許文献3】特開2009−120870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金をエッチングする工程において、使用時の泡立ちが少なく、銅または銅合金のエッチングを高選択的に行うことができるエッチング液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金を選択的にエッチングする工程用のエッチング液であって、鎖状アルカノールアミン(A)、酸基を分子内に有するキレート剤(B)、および過酸化水素(C)を必須成分とする銅または銅合金用エッチング液;並びにこのエッチング液を用いて、銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から選択的に銅または銅合金をエッチングする工程を含むことを特徴とする電子基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金をエッチングする工程において、銅または銅合金のエッチングを高選択的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、シリコン基板に孔を空け、孔の内壁にシリコン酸化膜、チタン層、銅シード層の各層が積層されている断面図である。
【図2】図2は、図1のシリコン基板の上にレジスト樹脂を塗布し保護膜を形成した後の断面図である。
【図3】図3は、図2のシリコン基板にさらに、ニッケルと金の金属を積層した後の断面図である。
【図4】図4は、図3のシリコン基板からレジスト樹脂を除去した後の断面図である。
【図5】図5は、図4のシリコン基板から銅シード層を除去した後の断面図である。
【図6】図6は、図5のシリコン基板からバリヤメタル(チタン)層を除去した後の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の銅または銅合金用エッチング液は、使用時の泡立ちが少なく、銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金を選択的にエッチングする工程用のエッチング液であって、鎖状アルカノールアミン(A)、酸基を分子内に有するキレート剤(B)、および過酸化水素(C)を必須成分とする。
【0015】
本発明において、エッチングされる銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板としては、半導体、フラットパネルディスプレーに使用されるものが挙げられ、銅としては化学気相成長法(CVD法)、物理的気相成長法(PVD法)、原子層堆積法(ALD法)、めっきで形成されたもの等が挙げられる。また、ニッケルも上記の方法で形成されたもの等が挙げられる。
【0016】
本発明の銅または銅合金用エッチング液の第1の必須成分である鎖状アルカノールアミン(A)としては、水酸基および1個または2個以上の窒素原子を含み、脂環または複素環を含まない脂肪族のアルカノールアミンであり、具体的には下記一般式(1)で表される鎖状アルカノールモノアミン(A1)または下記一般式(2)で表される鎖状アルカノールポリアミン(A2)などが挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。但し、R〜R3のうち少なくとも1つは水酸基で置換されているアルキル基である。]
【0019】
【化2】

【0020】
[式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。但し、R〜Rのうち少なくとも1つは水酸基で置換されているアルキル基である。YとYはそれぞれ独立して炭素数1〜4個のアルキレン基を示す。nは0または1〜4の整数を示す。]
【0021】
一般式(1)で表される鎖状アルカノールモノアミン(A1)において、R〜Rは、 水素原子、アルキル基、一部が水酸基で置換されているアルキル基で、それぞれが同種でも異種であってもよいが、R〜R3のうち少なくとも1つは水酸基で置換されているアルキル基でなければならない。
【0022】
アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のものが挙げられる。具体的には、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基などが挙げられる。
【0023】
一部が水酸基で置換されているアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状または分枝状のものが挙げられる。
このような一部が水酸基で置換されているアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシイソプロピル基、2−ヒドロキシイソプロピル基、ジヒドロキシメチル基、1,1−ジヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基、2、3−ジヒドロキシプロピル基、1,2,3−トリヒドロキシプロピル基などが挙げられる。
【0024】
一般式(2)で表される鎖状ポリアミン(A2)において、R〜Rは、水素原子、アルキル基、一部が水酸基で置換されているアルキル基で、それぞれが同種でも異種であってもよいが、R〜Rのうち少なくとも1つは水酸基で置換されているアルキル基でなければならない。
【0025】
アルキル基および一部が水酸基で置換されているアルキル基は、前記のR〜Rで示されるアルキル基および一部が水酸基で置換されているアルキル基と同様のものである。
【0026】
一般式(2)中のY1及びY2で示されるアルキレン基としては、炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキレン基が挙げられる。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、2,2−ジメチルプロピレン基、2−エチルプロピレン基などが挙げられる。
及びYで示されるアルキレン基の炭素数は、エッチング液の泡立ち抑制等の観点から、1〜4が好ましく、さらに好ましくは1〜3、特に好ましくは2である。
【0027】
一般式(2)中のnは0または1〜4の整数であり、好ましくは0または1〜2である。n個の[―Y―N(―R)―]はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0028】
一般式(1)および(2)で表される鎖状アルカノールアミン(A)はエッチング液の泡立ち抑制等の観点から、HLBが12〜45であるものが好ましい。
【0029】
ここでの「HLB」とは、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
HLB値は有機化合物の有機性の値と無機性の値との比率から計算することができる。
HLB≒10×無機性/有機性
HLBを導き出すための有機性の値及び無機性の値については前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0030】
鎖状アルカノールモノアミン(A1)としては、モノエタノールアミン、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−(イソプロピルアミノ)エタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−(ジメチルアミノ)エタノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン及び3−(ジエチルアミノ)−1−プロパノール等が挙げられる。
【0031】
鎖状アルカノールポリアミン(A2)としては、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、2−[メチル[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]エタノール、2、2’−(エチレンビスイミノ)ビスエタノール、N−(2−ヒドロキシエチル)‐N’−(2−アミノエチル)エチレンジアミン、N−(3−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、2、2’−(2−アミノエチルイミノ)ジエタノール、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(2−アミノエチル)エチレンジアミン、2−[ビス(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、1−[2−[(2−アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ−2−プロパノール、3,3’、3’’,3’’’−[3−ヒドロキシプロピルイミノビス(エチレンニトリロ)]テトラキス(1−プロパノール)、N、N、N’、N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N、N、N’、N’、N’’−ペンタキス(2−ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミンN、N、N’、N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)トリメチレンジアミン、N、N−ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1、N4−ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N、N、N’、N’、N’’−ペンタキス(2−ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミン、N1−(2−ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N4−(2−ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン等が挙げられる。
【0032】
本発明のエッチング剤は、必要に応じてさらに水で希釈して使用してもよいが、鎖状アルカノールアミン(A)の含有量は、銅または銅合金とニッケルのエッチング速度比の観点から、使用時のエッチング液の合計重量に基づいて、0.05〜6重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜3重量%、特に好ましくは0.2〜1.5重量%である。
【0033】
本発明の第2の必須成分である酸基を分子内に有するキレート剤(B)は銅または銅合金のエッチング速度を高める作用がある。
本発明のおける酸基を分子内に有するキレート剤(B)は、キレート効果を有するための官能基を2個以上有するものであって、そのうちの1個以上が酸基であれば、他の官能基はアルコール性水酸基、フェノール性水酸基、二トリル基、チオール基、アミノ基などでもよい。
本発明のおけるキレート剤(B)中の酸基としては、カルボキシル基、ホスホン基、スルホン基、リン酸基、硫酸基、硝酸基、ホウ酸基などが挙げられる。
なお、キレート剤(B)は、エッチング液中で塩の形で含有してもよい。
【0034】
本発明のキレート剤(B)またはその塩としては、酸基としてカルボキシル基を2個以上含む有機酸またはその塩(B1)、酸基としてホスホン酸基を2個以上含む有機酸またはその塩(B2)、酸基としてスルホン酸基を2個以上含む有機酸またはその塩(B3)、酸基としてカルボキシル基とホスホン酸基をそれぞれ1個以上含む有機酸またはその塩(B4)などが挙げられる。
また、酸基を分子内に有するキレート剤(B)としては、キレート効果を示す水酸基を分子内に有するものであれば、酸基としてカルボキシル基、ホスホン酸基またはスルホン酸基を1個だけ含むキレート剤(B5)であっても差しつかえない。
【0035】
酸基としてカルボキシル基を2個以上含む有機酸またはその塩(B1)としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(塩)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(塩)、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸(塩)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(塩)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(塩)、ニトリロ酸酢酸(塩)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(塩)、β−アラニンジ酢酸(塩)、アスパラギン酸ジ酢酸(塩)、メチルグリシンジ酢酸(塩)、イミノジコハク酸(塩)、セリンジ酢酸(塩)、ヒドロキシイミノジコハク酸(塩)、酒石酸(塩)、クエン酸(塩)、ピロメリット酸(塩)、ベンゾポリカルボン酸(塩)、シクロペンタンテトラカルボン酸(塩)などが挙げられる。
【0036】
酸基としてホスホン酸基を2個以上含む有機酸またはその塩(B2)としては、メチルジホスホン酸(塩)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(塩)、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸(塩)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(塩)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(塩)、プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(塩)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(塩)、トリエチレンテトラミンヘキサ(メチレンホスホン酸)(塩)、トリアミノトリエチルアミンヘキサ(メチレンホスホン酸)(塩)、トランス−1、2−シクロヘキサンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(塩)、グリコールエーテルジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(塩)、テトラエチレンペンタミンヘプタ(メチレンホスホン酸)(塩)等が挙げられる。
【0037】
酸基としてスルホン酸基を2個以上含む有機酸またはその塩(B3)としては、メタンジスルホン酸(塩)、エタンジスルホン酸(塩)、フェノールジスルホン酸(塩)、ナフタレンジスルホン酸(塩)、ピペラジン−1、4−ビス(2−エタンスルホン酸)(塩)等が挙げられる。
【0038】
酸基としてカルボキシル基とホスホン酸基をそれぞれ1個以上含む有機酸またはその塩(B4)としては、ホスホノ酢酸(塩)、2−ヒドロキシ−2−ホスホノ酢酸(塩)、カルボキシホスホン酸(塩)、3−ホスホノプロピオン酸(塩)、4−(3−ホスホノプロピル)−2−ピペラジンカルボン酸(塩)等が挙げられる。
【0039】
水酸基と酸基としてカルボキシル基、ホスホン酸基またはスルホン酸基を1個だけ含むキレート剤(B5)としては、乳酸(塩)、サリチル酸(塩)、没食子酸(塩)、2−ヒドロキシエチルホスホン酸(塩)、2−ヒドロキシエタンスルホン酸(塩)等が挙げられる。
【0040】
本発明のキレート剤(B)のうち、銅または銅合金のエッチング速度の観点から好ましいものは、上記の(B1)、(B2)、(B3)であり、さらに好ましいのは(B2)である。
【0041】
酸基を分子内に有するキレート剤(B)は単独または2つ以上を同時に併用することができる。
【0042】
酸基を分子内に有するキレート剤(B)含有量は銅または銅合金のエッチング速度の観点から、使用時のエッチング液の合計重量に基づいて、0.1〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜30重量%、特に好ましくは1〜20重量%である。
【0043】
本発明の第3の必須成分である過酸化水素(C)はエッチング速度を高める作用がある。過酸化水素(C)としては過酸化水素の水溶液を使用することができる。
【0044】
過酸化水素(C)含有量は、エッチング速度の観点から、使用時のエッチング液の合計重量に基づいて、純分換算で0.05〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.2〜5重量%である。
【0045】
本発明の鎖状アルカノールアミン(A)と酸基を分子内に有するキレート剤(B)の重量比(B)/(A)は、銅または銅合金とニッケルのエッチング速度比と泡立ちの観点から、通常1〜100、好ましくは2〜50、さらに好ましくは5〜30である。
【0046】
本発明の酸基を分子内に有するキレート剤(B)と過酸化水素(C)の重量比(B)/(C)は、銅または銅合金のエッチング速度の観点から、通常1〜30、好ましくは2〜20、さらに好ましくは3〜10である。
【0047】
本発明のエッチング液は(A)、(B)、(C)、および必要により溶剤と混合して使用することが望ましい。その溶剤としては水、アルコール、グリコールエーテル、エーテル、エステル、ケトン、カーボネート、アミド等が挙げられる。
エッチング液の溶剤として取り扱いやすさの観点から好ましいのは水である。
【0048】
本発明のエッチング液は配線金属の保護の目的で必要に応じてトリアゾール類、イミダゾール類、チオール化合物、糖アルコール類などの腐食防止剤を添加することができる。
【0049】
本発明のエッチング液は配線金属の保護の目的で必要に応じて酸化防止剤を添加することができる。
酸化防止剤としては、カテキン、トコフェロール、カテコール、メチルカテコール、エチルカテコール、tert−ブチルカテコール、没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸プロピル等のフェノール類、3−ヒドロキシフラボン、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0050】
本発明のエッチング液には、pH調整の目的で塩基性化合物または酸性化合物を添加することができる。
その目的で添加する塩基性化合物は、アンモニア、アミンまたはテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、含窒素複素環式化合物である。アミンとしては、脂肪族アミン、アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、グアニジンなどが挙げられる。
また、その目的で添加する酸性化合物は、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸などの無機酸、酢酸などの有機酸である。
【0051】
また、エッチング速度を安定化する目的で、無機酸またはその塩を添加することが有効である。このような無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸などが好ましい。
【0052】
本発明のエッチング液は配線金属の保護の目的で必要に応じて消泡剤を添加することができる。
消泡剤としては、シリコーン消泡剤、長鎖アルコール消泡剤、脂肪酸エステル消泡剤及び金属セッケン消泡剤等が挙げられる。エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体も消泡剤として使用することができる。
【0053】
本発明のエッチング液を用いて、銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から選択的に銅または銅合金をエッチング処理する工程を経て電子基板を製造することができる。
【0054】
本発明において、銅または銅合金のエッチング処理方法としては、浸漬式エッチングや枚葉式エッチングなどが挙げられる。
【0055】
本発明のエッチング液は通常10〜100℃の範囲、好ましくは20℃〜80℃の温度条件で使用する。10℃以上であればエッチング速度の点で好ましく、100℃以下の温度であればエッチング速度にバラツキが生じない点で好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0057】
<実施例1〜7および比較例1〜6>
表1に記載した鎖状アルカノールアミン(A)、酸基を分子内に有するキレート剤(B)、過酸化水素(C)、および水をポリプロピレン製の容器中で混合して、本発明のエッチング液と比較のためのエッチング液を得た。
【0058】
【表1】

【0059】
なお、表中の記号は以下の化合物を表す。
(A−1):トリエタノールアミン
(A−2):2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール
(A−3):1、2−ビス[ジ(ヒドロキシエチル)アミノ]エタン(三洋化成工業(株)製、商品名「サンニックス NE−240」)
(A’−1):ラウリルアルコールのEO9モル付加物
(B−1):クエン酸
(B−2):60%1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の水溶液
(B−3):1,2−エタンジスルホン酸二水和物
(B−4):ニトリロトリスメチレンホスホン酸
(B’−1):エチレンジアミン
(C−1):35%過酸化水素水
【0060】
性能評価として、抑泡性、銅のエッチング時間、およびニッケルのエッチング性能(ニッケル/銅のエッチングレート比)を以下の方法で行った。
【0061】
<抑泡性>
抑泡性はロス・マイルス試験[JISK3362(1998)]に準じて測定することができ、本JISで定める装置、また試験液として超純水を用いて調整したエッチング剤を用いた試験により、全ての試験液を流出した直後の泡の高さ(mm)を目視にて測定し、下記の判定基準で抑泡性を評価した。
○:50mm未満
×:50mm以上
【0062】
<銅のエッチング時間>
銅のエッチング時間を、以下の操作方法で銅シード層の光沢が消失するまでの時間(分)で評価した。
(1)シリコン基板に加工を加えて図4の状態まで作成したウエハ(銅シード層の厚み1μm)を15mm角の正方形に切断してテストピースを作成した。
なお、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製S−4800)でウエハを1cm各に切断したテストピースの断面を観察したところ、バンプの幅は約30μm、バンプの高さは約8μmであった。銅シード層の厚みは1μmであった。
(2)エッチング液をポリプロピレン製の容器に入れて、この中に上記のテストピースを浸漬し、マグネチックスターラーで撹拌した。
(3)撹拌しながら液中に浸漬した状態でテストピースの表面を目視で観察し、銅シード層の全面の銅の光沢が消失する(図5の3:チタン層の全面が見える状態)までの時間を測定した。
この目的で使用されるエッチング液においては、銅光沢の消失時間が10分以内であることが好ましい。
なお、60分で光沢が消失しなかったものは、60分で浸漬を中止し、表1中には「>60」と表記した。
【0063】
<ニッケルのエッチング量およびニッケル/銅のエッチングレート比>
ニッケルのエッチング量およびニッケル/銅のエッチングレート比を、以下の操作方法で測定し、評価した。
(1)シリコン基板に加工を加えて図4の状態まで作成したウエハ(銅シード層の厚み1μm)を15mm角の正方形に切断してテストピースを作成した。
(2)エッチング液をポリプロピレン製の容器に入れて、この中に上記のテストピースを1分間浸漬してマグネチックスターラーで撹拌した後、取り出した。
(3)走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製S−4800)で、浸漬前のテストピースと浸漬後のテストピースのそれぞれニッケル層の浸食の程度とその幅が確認できる側面の写真撮影をした。そして、写真画像から、浸漬前のテストピースのニッケル層(図4の7)の幅A(μm)と、浸漬後のテストピースのニッケル層(図5の7)の幅A(μm)を測定した。
(4)ニッケルのエッチング量として、下記数式(1)で算出される浸漬前後のテストピースのニッケル層の幅の変化(差)ΔANiを算出した。
【0064】
【数1】

【0065】
下記の判定基準で評価する。
○:1μm未満
×:1μm以上
(5)読み取った2つの値及び銅のエッチング時間を下記数式(2)に代入しニッケル/銅のエッチングレート比を算出した。
【0066】
【数2】

【0067】
Cu:銅のエッチング時間(分)
Ni:ニッケルのエッチング時間で、本評価法では1分
Cu:銅シード層の厚みで、本評価法では1μm
【0068】
上記数式(2)で算出したニッケル/銅のエッチングレート比から、下記の判定基準で評価した。
○:0.5未満
×:0.5以上
【0069】
表1から明らかなように、実施例1〜7では、泡立ちには問題が無く、銅シード層のエッチングが速く、その反面、ニッケル部分のエッチングが認められず、高選択的に銅シード層をエッチングすることができた。
【0070】
一方、過酸化水素水を含んでいない比較例1、および酸基を分子内に有するキレート剤を含んでいない比較例2では銅シード層もニッケルもエッチングしない。
鎖状アルカノールアミンを含んでいない比較例3では、銅シード層のエッチングは速いものの、ニッケルをエッチングしてしまい、高選択的に銅シード層をエッチングできない。
鎖状アルカノールアミン(A)の代わりにラウリルアルコールのEO9モル付加物(A’−1)を使用した比較例4では、高選択的に銅シード層をエッチングするが、泡立ちは多くなってしまう。
酸基を分子内に有しないキレート剤(B’−1)を使用した比較例5についても銅シード層のエッチングは遅い。
また、キレート剤の代わりに硫酸を使用した比較例6についてはニッケルをエッチングしてしまう。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の銅または銅合金用エッチング液は、銅または銅合金とニッケルを同時に有する物品に対して、使用時の泡立ちが少なく、銅または銅合金のエッチングを高選択的に行うことができるという点で優れているため、プリント配線基板、フラットパネルディスプレー、MEMS、半導体装置などの電子基板製造時の工程用薬剤として有用である。
【符号の説明】
【0072】
図1〜図6中の数字1〜9は、以下を表す。
1: シリコン基板
2: シリコン酸化膜
3: チタン層
4: 銅シード層
5: レジスト樹脂
6: 銅めっき層
7: ニッケルめっき層
8: 金めっき層
9: バンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から銅または銅合金を選択的にエッチングする工程用のエッチング液であって、鎖状アルカノールアミン(A)、酸基を分子内に有するキレート剤(B)、および過酸化水素(C)を必須成分とすることを特徴とする銅または銅合金用エッチング液。
【請求項2】
該鎖状アルカノールアミン(A)が下記一般式(1)で表される鎖状アルカノールモノアミン(A1)または下記一般式(2)で表される鎖状アルカノールポリアミン(A2)である請求項1記載のエッチング液。
【化1】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。但し、R〜R3のうち少なくとも1つは水酸基で置換されているアルキル基である。]
【化2】

[式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。但し、R〜Rのうち少なくとも1つは水酸基で置換されているアルキル基である。YとYはそれぞれ独立して炭素数1〜4個のアルキレン基を示す。nは0または1〜4の整数を示す。]
【請求項3】
該鎖状アルカノールアミン(A)のHLBが12〜45である請求項1または2記載のエッチング液。
【請求項4】
該キレート剤(B)が、ホスホン酸基および/またはスルホン酸基を分子内に合計2個以上有する有機酸である請求項1〜3いずれか記載のエッチング液。
【請求項5】
該キレート剤(B)がカルボキシル基を分子内に2個以上有する有機酸である請求項1〜3いずれか記載のエッチング液。
【請求項6】
該鎖状アルカノールアミン(A)と該キレート剤(B)の重量比(B)/(A)が1〜100である請求項1〜5いずれか記載のエッチング液。
【請求項7】
該キレート剤(B)と過酸化水素(C)の重量比(B)/(C)が1〜30である請求項1〜6いずれか記載のエッチング液。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の銅または銅合金用エッチング液を用いて、銅または銅合金とニッケルを同時に有する電子基板から選択的に銅または銅合金をエッチングする工程を含むことを特徴とする電子基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76119(P2013−76119A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215885(P2011−215885)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(599006351)アドバンスド テクノロジー マテリアルズ,インコーポレイテッド (141)
【Fターム(参考)】