説明

銅合金から製造した導電線のための材料

Cuが90原子%より大である銅合金から製造した導電線のための材料に関する。該材料は、0.5〜10原子%のCa、Sr、Ba、Sc、Y、ランタニド、Cr、Ti、Zr、Hf、Siからなる群から選択した1種又は複数の元素および0〜5原子%のMg、V、Nb、Ta、Mo、W、Ag、Au、Fe、Bからなる群から選択した1種又は複数の元素を含む。この材料は、低い電気抵抗、ガラス基材に対する良好な接着性、酸化に対する充分な抵抗性および低いエレクトロマイグレーション速度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅(Cu)が90原子%を超える銅合金から製造した導電線のための材料および該材料を堆積させるためのスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
導電線システムは、マイクロエレクトロニック素子の基本的な構成要素を代表するものであり、基材に適用した1種又は複数の導電線を含み、各種のコーティングプロセス、例えばPVD又はCVDを使用できる。例えばTFT−LCDのためのゲート電極の如く、必要な応答時間が一段と短くなり、かつマイクロエレクトロニック素子が大型化されてきているため、導電線のために選択される材料の導電率に対する要求が増大している。従って、充分に高い導電率を有する材料、例えばアルミニウム又は耐熱金属およびそれらの合金のみが、導電線として使用されている。
【0003】
導電率と材料コストの面からいえば、銅は理想的な材料と言える。しかし銅は、ガラスの上に堆積させた場合、接着性に乏しい。その上、酸化に対する抵抗性が充分ではない。更に、銅はエレクトロマイグレーションに対する抵抗性が低い。エレクトロマイグレーションは、電界が等方的熱拡散と重畳した際に起こり、この結果電子の流れる方向に材料の正味の流れが生じる。別の問題は、銅が周辺の薄膜中に拡散する速度が高いことである。合金を用いる際、導電率の損失を可能な限り小さくすることが重要である。更に、層の材料は、エッチング不能な微細構造の構成成分を一切含まないことが極めて重要である。それは、この種構成成分があると、欠陥の無い電子部品を生産することが一段と困難になるからである。このことが、合金の選択においては更なる大きな制約となる。ULSI構造に銅合金を使用すべく、多大な努力が重ねられてきた。例えば米国特許第5023698号明細書は、Al、Be、Cr、Fe、Mg、Ni、Si、SnおよびZnからなる群から選択した少なくとも1種の元素を含むCu合金を開示する。Cr含量は0.01〜0.3重量%、Si含量は0.01〜0.2重量%に制限されている。
【0004】
米国特許第5077005号明細書は、In,Cd、Sb、Bi、Ti、Ag、Sn、Pb、Zrからなる群から選択した少なくとも1種の元素を0.0003〜0.01重量%の量で含む銅合金を開示する。しかしそれら合金の何れも、充分な耐酸化性とエレクトロマイグレーションに対する抵抗性と併せて、ガラス基材に対する充分な接着性を有していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、例えば低い電気抵抗性、ガラス基材への良好な接着性、優れた耐酸化性および低いエレクトロマイグレーション速度等、課せられた要求を広い範囲で満足させる、銅をベースとした導電線のための材料と、該材料を堆積させるためのスパッタリングターゲットとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、この課題を、請求項1に記載の導電線のための材料により解決する。この材料は、0.5〜10原子%のCa、Sr、Ba、Sc、Y、ランタニド、Ti、Zr、Hf、CrおよびSiからなる群から選択した1種又は複数の元素を含む。上記の濃度範囲で、これら元素は、ガラス基材上に堆積された層の接着強度と、耐酸化性の両方を向上させることを発見した。このことは、より低い濃度では何らの改良も生じない元素(Cr、Si、Ti)においてさえあてはまる。Cu含量が90原子%を超え、それに加えて合金化元素がCuに不溶性であるために、導電率は、現在使用されているAlおよび耐熱金属合金の導電率よりも高い。
【0007】
この合金に、0〜5原子%のMg、V、Nb、Ta、Mo、W、Ag、Au、Fe、Bからなる群から選択した1種又は複数の元素を添加しても層の接着性には実質上何の影響も与えないが、低温における耐酸化性を更に向上させ得る。更に、本発明による合金は、第2相の析出部分を含み、このためエレクトロマイグレーションに対する抵抗性が充分に高くなる。この第2相は、堆積プロセス自体の間に早くも形成しても或いはそれに続くPECVDプロセスの間に施す加熱処理の際に形成してもよい。
【0008】
材料が、Sc、Y、ランタニド、CrおよびSiからなる群から選択した1種又は複数の元素を0.5〜10原子%、特に1〜7原子%含んでいると、最適な層接着性と耐酸化性が得られる。層接着性と酸化に関して優れた結果は、0.5〜5原子%のSc、Y、ランタニドからなる群から選択した1種又は複数の元素と、0.5〜5原子%のCrおよび/又はSiとを組合せて使用すると得られ、更に1〜4原子%のSc、Y、ランタニドからなる群から選択した1種又は複数の元素と、0.5〜3原子%のCrとを組合せて使用すると、特に良好な結果が得られる。
【0009】
合金に0.1〜3原子%のMg、Agおよび/又はAuを添加することで、耐酸化性を更に改良できる。
【0010】
層の材料と実質的に同じ化学組成を有するスパッタリングターゲットを、前記層の製造に使用する。本発明によるスパッタリングターゲットを、粉末冶金プロセスで製造すると好ましい。その際使用可能な圧密化技術として、加圧/焼結法、高温加圧法、熱間静水圧圧縮法、更には溶浸法等が挙げられる。更に、それに続けて、例えば圧延、押出し又は鍛造のような変形工程を用いると好都合である。
【0011】
結晶粒サイズを500μm未満とするとよい。変形技術の手段を用いて製造したスパッタリングターゲットの場合、好都合な結晶粒サイズは200μm未満であるが、該サイズは、圧延又は押出し製品の場合なら横方向の検鏡試片についての測定に関連し、鍛造製品の場合なら材料の流れの方向に対して横方向の同等の測定に関連する。更に、スパッタリングターゲットの密度は、理論密度の、好適には97%以上、更に好ましくは98.5%以上であり、変形させたスパッタリングターゲットの場合なら99.8%より大とする。以下に実施例により、本発明を更に詳しく説明する。
【0012】
実施例
結晶粒サイズが130μmの銅の粉末を、拡散ミキサーで合金化すべき各粉末と混合した。粉末混合物を純鉄製の容器内に入れ、脱ガス処理を実施してから、容器を真空にし、気密が保てるように密封した。
【0013】
HIP設備中で、形成すべき銅合金のそれぞれの固相線温度よりも100〜200℃低い温度と2000×105Paの圧力下で、加熱圧密化を実施した。各種の合金の全てにおいて、密度は、理論密度の98%よりも高く、結晶粒サイズは500μm未満であった。300×150×10mm3の寸法を持つスパッタリングターゲットと、50×50×2mm3の寸法を有する酸化用サンプルとを、熱間静水圧圧縮したブロックから機械加工により切り出した。次いで、マグネトロンスパッタリングの手法で、ガラス基材(LCDガラス)上に0.5μmの厚みを有する層を堆積させ、該層の接着性を、粘着テープ試験により定性的に求め、評価した(1:純Cuの場合よりも顕著に良好な接着性、2:純Cuよりも良好な接着性、3:純Cuと同等の接着性)。酸化に関する性質は、空気中、温度200℃、試験時間1000時間で求め、サンプルを以下の如く分類した。グレードC(重量増:0.2mg/cm2より大)、B(重量増:0.2mg/cm2〜0.1mg/cm2)、A(重量増:0.1mg/cm2未満)。サンプル番号1〜23は本発明によるものの試験結果、サンプル番号24〜26は従来技術によるものの試験結果をそれぞれ表す。結果を次の表にまとめた。
【0014】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuが90原子%より大である銅合金から製造した導電線のための材料であって、該材料は0.5〜10原子%のCa、Sr、Ba、Sc、Y、ランタニド、Cr、Ti、Zr、Hf、Siからなる群から選択した1種又は複数の元素と、0〜5原子%のMg、V、Nb、Ta、Mo、W、Ag、Au、Fe、Bからなる群から選択した1種又は複数の元素とを含むことを特徴とする材料。
【請求項2】
0.5〜10原子%のSc、Y、ランタニド、CrおよびSiからなる群から選択した1種又は複数の元素を含むことを特徴とする請求項1記載の材料。
【請求項3】
1〜7原子%の、Sc、Y、ランタニド、CrおよびSiからなる群から選択した1種又は複数の元素を含むことを特徴とする請求項2記載の材料。
【請求項4】
0.5〜5原子%のSc、Y、ランタニドからなる群から選択した1種又は複数の元素と、0.5〜5原子%のCrおよび/又はSiとを含むことを特徴とする請求項1〜3の1つに記載の材料。
【請求項5】
1〜4原子%のSc、Y、ランタニドからなる群から選択した1種又は複数の元素と、0.5〜3原子%のCrとを含むことを特徴とする請求項1〜4の1つに記載の材料。
【請求項6】
0.1〜3原子%のAg、AuおよびMgからなる群から選択した1種又は複数の元素を含むことを特徴とする請求項2〜5の1つに記載の材料。
【請求項7】
ターゲットが粉末冶金法により製造されたことを特徴とする請求項1〜6の1つに記載の導電線を堆積させるためのスパッタリングターゲット。
【請求項8】
スプレー圧密化法により製造されたことを特徴とする請求項7記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
97%より高い密度を有することを特徴とする請求項7又は8記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
500μmより小の結晶粒サイズを有することを特徴とする請求項7〜9の1つに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
圧延法により変形されたことを特徴とする請求項7又は8記載のスパッタリングターゲット。
【請求項12】
99.8%より高い密度を有することを特徴とする請求項11記載のスパッタリングターゲット。
【請求項13】
200μmより小の結晶粒サイズを有することを特徴とする請求項11又は12記載のスパッタリングターゲット。
【請求項14】
フラットスクリーンのための導電線を堆積させるための請求項7〜13の1つに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項15】
LCDTFTフラットスクリーンのための導電線を堆積させるための請求項14記載のスパッタリングターゲット。

【公表番号】特表2008−506040(P2008−506040A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520614(P2007−520614)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【国際出願番号】PCT/AT2005/000262
【国際公開番号】WO2006/005095
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(390040486)プランゼー エスエー (25)
【Fターム(参考)】