説明

銅微粒子分散水溶液の製造方法、及び銅微粒子分散水溶液の保管方法

【課題】基材上に配置して乾燥後、比較的低温で焼成しても導電性に優れ、不純物の少ない導電部材を得ることが可能な分散性の高い銅微粒子分散水溶液を提供する。
【解決手段】一次粒子の平均粒径1〜150nmの銅微粒子が少なくともその表面の一部が分散剤で覆われて水溶液中に分散されている、銅微粒子分散水溶液の製造方法であって、(i)銅イオンを分散剤の存在下で、pH調整剤によりpH9.2以上に調整したアンモニア水溶液中でアンモニアとの反応により、水溶性の銅アンミン錯体を得る工程(工程1)、(ii)前記工程1で得られた銅アンミン錯体を含む還元反応水溶液中において、電解還元反応により、少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた銅微粒子を形成する工程(工程2)、を含み、前記還元反応の系において、銅、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物を含まないことを特徴とする、銅微粒子分散水溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの銅微粒子が水溶液中に分散されている銅微粒子分散水溶液の製造方法、及び該銅微粒子分散水溶液の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ(粒径が1μm以下)の金属、合金等の微粒子は、バルク材料にはない様々な特異な特性を持つことが知られている。そしてこの特性を生かした様々な工学的応用が、現在、エレクトロニクス、バイオ、エネルギー等の各分野で、大いに期待されている。
【0003】
中でも、銅及びその合金からなるナノサイズの微粒子は、導電回路、バンプ、ビア、パッド等の実装部品の形成材料、高密度磁気記憶媒体やアンテナ用の磁性素子、ガス改質フィルタや燃料電池電極用の触媒材料として、大いに期待されている。
【0004】
また、最近では、銅微粒子を含有するインクを使用して、配線パターンをインクジェットプリンタ法により形成し、焼成して配線を形成する技術が注目されている。しかし、インクジェットプリンタ法に使用するインクとして、銅微粒子を含有するインクを使用する場合、インク中において分散性が長期間保たれることが重要である。そのため、インク中において銅微粒子分散性を長期間保つ銅微粒子分散溶液、及び該銅微粒子分散溶液の製造方法が提案されている。
【0005】
特許文献1では、銅の酸化物、水酸化物または塩をポリエチレングリコールまたは1,2−エタンジオール(エチレングリコール)溶液中で、核生成のためのパラジウムイオンと、分散剤としてのポリエチレンイミンを添加して、加熱還元することにより、液相中で銅微粒子を合成する方法が提案されている。
また、特許文献2では、アルキルアミンを分散剤に使用して、アミン化合物で覆われた金属微粒子を製造する方法及び該金属微粒子分散溶液が提案されている。また、特許文献3には、セルロース誘導体を含む水溶液中で金属イオンを還元することにより、セルロース誘導体で覆われた金属微粒子を製造する方法及び該微粒子分散溶液が提案されている。
【0006】
一方、上述のインクジェット回路形成技術のように金属微粒子の焼成により導電性の金属部材を形成する場合や、微粒子焼成体をガス改質フィルタに使用する場合などには、焼成後の粒子焼成体において、微粒子自体が表面に露出して粒子同士が直接接合している必要がある。そのため、これらの技術に使用される微粒子については、その表面に存在する分散剤等が、熱処理時に容易に分解除去される必要がある。
尚、下記特許文献4には、酸化銅を原料として、分散剤、pH調製溶液、及び還元剤を添加してpHを10以上とした後に、加熱還流して銅微粒子を析出する方法が開示されている。
下記特許文献5には、銅イオン含有水溶液とアルカリ溶液とを反応させて水酸化銅スラリーとし、該水酸化銅スラリーに還元剤を添加して第一還元処理で亜酸化銅スラリーとし、該亜酸化銅スラリーを回収、洗浄して得た亜酸化銅スラリーに還元剤を添加して第二還元処理で銅粉を得る銅粉製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−330552号公報
【特許文献2】特開2002−121606号公報
【特許文献3】特開2001−093414号公報
【特許文献4】特開2006−022394号公報
【特許文献5】特開2007−254846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、金属微粒子分散インクのパターニングと焼成とにより、導電性配線パターンやフィルタ等を形成する場合、分散性を考慮した溶媒を選択する必要があり、また分散性向上のために使用した分散剤が熱処理時に容易に分解除去される必要がある。
しかしながら、上述の分散剤で覆われた金属微粒子では250℃以上の高温で熱処理をしなければ、分散剤を分解除去して導電性の良好な導電性配線等を得ることができないという問題点があった。
また、上記したような高温での熱処理を行うと、金属微粒子をパターニングした基板(例えば、汎用樹脂基板)に設置されている他の部品が壊れたり、更に基板自体が溶融もしくは変形したりしてしまうという問題点もあった。
【0009】
一方、金属微粒子が分散剤で覆われていない、金属微粒子分散溶液を使用した場合、分散溶液中で互いに凝集した金属微粒子がインクジェットプリンタのノズルを閉塞させるという問題があった。また、焼結時に金属微粒子同士が不均一に凝集して焼結性が不均一になるという問題があった。
また、焼結時にパターニングされた銅微粒子分散水溶液中に、銅イオンを形成する化合物、分散剤、及びpH調整剤に、銅元素、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物が含まれていると容易に分解除去されず、得られる焼結体の導電性が低下し、またはワレ等が発生し易いという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決し、還元反応終了後の還元反応水溶液をそのまま、又は更に一部の水分等の除去による濃縮操作により得られる、分散性の高い銅微粒子分散水溶液を基材上にパターニング、配置等して乾燥後、250℃以下の比較的低温で焼成しても導電性に優れ、不純物の少ない導電部材を得ることが可能であり、更に、焼成の際に水素ガス等の還元性雰囲気下を必ずしも必要とせず、不活性ガス雰囲気下で焼成が可能である銅微粒子分散水溶液の製造方法、及び該銅微粒子分散水溶液の保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上述した従来の問題点について鋭意研究を重ねた結果、分散剤及びpH調整剤を添加した、銅アミン錯体を含み、かつ銅、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物を含まない水溶液中で、銅イオンを電解還元して得られる銅微粒子分散水溶液は、分散水溶液中での銅微粒子の分散性が良好であり、かつ250℃以下の比較的低温で焼成しても導電性に優れ、不純物の少ない導電部材を得ることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の(1)ないし(12)に記載する発明に関する。
(1)一次粒子の平均粒径1〜150nmの銅微粒子が少なくともその表面の一部が分散剤で覆われて水溶液中に分散されている、銅微粒子分散水溶液の製造方法であって、
(i)銅イオンを、分散剤の存在下でpH調整剤によりpH9.2以上に調整したアンモニア水溶液中でアンモニアと下記反応をさせ、水溶性の銅アンミン錯体を得る工程(工程1)、
Cu2++4NH → [Cu(NH2+
又は Cu2++4NH(OH) → [Cu(NH2+ +4H
(ii)前記工程1で得られた銅アンミン錯体を含む還元反応水溶液において、下記の銅アンミン錯体の電解還元反応により、少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた銅微粒子を形成する工程(工程2)、
Cu(NH2++2e → Cu+2NH
又は Cu(NH2++2e+2HO→ Cu+2NH(OH)
を含み、前記還元反応の系において、銅元素、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物を含まないことを特徴とする、銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【0013】
(2)前記工程2において、還元反応水溶液中に設けられたアノードとカソード間に電位を加えることによりカソード表面付近に銅微粒子を析出させることを特徴とする、前記(1)に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(3)前記pH調整剤が酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、プロピオンアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウムから選択された1種又は2種以上である、前記(1)又は(2)に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(4)前記銅イオンが、水酸化銅、硝酸銅、亜硝酸塩、酢酸銅、蟻酸銅、クエン酸銅、シュウ酸銅、グルコン酸銅、安息香酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン銅から選択された1種又は2種以上から得られたものである、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(5)前記分散剤が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上の有機化合物であることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(6)前記分散剤の添加量が、銅イオン100重量部に対して0.1〜500重量部であることを特徴とする、前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(7)前記銅微粒子分散水溶液から、銅微粒子を遠心分離、濾過、圧搾分離、浮上分離、又は沈降分離より回収した後、該回収した銅微粒子をpHが9〜14の範囲のアルカリ水溶液中に分散させて銅微粒子分散水溶液を得ることを特徴とする、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(8)前記(1)ないし(6)に記載の銅微粒子分散水溶液、又は前記(7)に記載の回収した銅微粒子を分散させて得られる銅微粒子分散水溶液に、炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上からなる有機溶媒が1〜30質量%含まれていることを特徴とする、前記(1)ないし(7)のいずれかに記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【0014】
(9)前記炭素数が3〜8のアルコールが1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル2−プロパノールから選択された1種又は2種以上であり、
前記分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコールが、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロ−ル、トレイトレイトール、エリトリト−ル、ペンタエリスリト−ル、ペンチト−ル、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシト−ル、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセリンアルデ、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコ−ス、フルクト−ス、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクト−ス、キシロ−ス、アラビノ−ス、イソマルト−ス、グルコヘプト−ス、ヘプト−ス、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上であり、
並びに、前記アルカノールアミンが、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、及びN−n−ブチルジエタノールアミンの中から選択される1種又は2種以上である、(8)に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(10)前記(1)ないし(6)のいずれかで得られた銅微粒子分散水溶液に超音波照射、逆浸透膜によるろ過、限外ろ過膜によるろ過、真空脱水、又は凍結乾燥により、微粒子分散溶液中の水分、又は銅微粒子分散水溶液に存在する水分を除去して、水溶液中の銅微粒子濃度が1〜60質量%の分散水溶液を得ることを特徴とする、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(11)前記(8)又は(9)で得られた銅微粒子分散水溶液に超音波照射、逆浸透膜によるろ過、限外ろ過膜によるろ過、真空脱水、又は凍結乾燥により、銅微粒子分散水溶液に存在する水分と、炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上の一部を除去して、水溶液中の銅微粒子濃度が1〜60質量%の分散水溶液を得ることを特徴とする、前記(8)又は(9)に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
(12)前記(1)ないし(11)のいずれかで得られた銅微粒子分散水溶液が入った保管容器へ、乾燥状態の不活性ガスを充填して気密封止することを特徴とする、銅微粒子分散水溶液の保管方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた分散性の高い銅微粒子の分散水溶液を得ることができる。本発明において、還元反応はpHが9.2以上に保たれるので、銅イオンの酸化反応によるCuO及びCuOの生成が抑制され、更に還元反応系において銅元素、並びに、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物は添加されないので、本発明の製造方法で得られる銅微粒子分散水溶液を基材上に配置して乾燥後、250℃以下の比較的低温で焼成しても導電性に優れ、不純物の少ない導電部材を得ることができる。更に、焼成の際に水素ガス等の還元性雰囲気下を必ずしも必要とせず、不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが可能である。
また、本発明の製造方法で得られる銅微粒子分散水溶液の保管方法は、銅微粒子分散水溶液が入った保管容器へ乾燥状態の不活性ガスを充填して気密封止するので、還元反応後においても、銅微粒子分散水溶液中の銅が酸化されてCuO及びCuOが生成することはないので、保存の安定性を確保することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔1〕「銅微粒子分散水溶液の製造方法」について
本発明の「銅微粒子分散水溶液の製造方法」は、
一次粒子の平均粒径1〜150nmの銅微粒子が少なくともその表面の一部が分散剤で覆われて水溶液中に分散されている、銅微粒子分散水溶液の製造方法であって、
(i)銅イオンを、分散剤の存在下でpH調整剤によりpH9.2以上に調整したアンモニア水溶液中でアンモニアと下記反応をさせ、水溶性の銅アンミン錯体を得る工程(工程1)、
Cu2++4NH → [Cu(NH2+
又は Cu2++4NH(OH) → [Cu(NH2+ +4H
(ii)前記工程1で得られた銅アンミン錯体を含む還元反応水溶液において、下記の銅アンミン錯体の電解還元反応により、少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた銅微粒子を形成する工程(工程2)、
Cu(NH2++2e → Cu+2NH
又は Cu(NH2++2e+2HO→ Cu+2NH(OH)
を含み、前記還元反応の系において、銅元素、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物を含まないことを特徴とする。
【0017】
(1)銅微粒子、分散剤、及び銅微粒子分散水溶液
(イ)銅微粒子
本発明の「銅微粒子分散水溶液の製造方法」で得られる銅微粒子は、一次粒子の平均粒径1〜150nmの微粒子である。
ここで、一次粒子の平均粒径とは、二次粒子を構成する銅微粒子の一次粒子の直径の意味である。該一次粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。また、平均粒径とは、一次粒子の数平均粒径を意味する。微粒子の一次粒子の平均粒径は、1〜150nmであるが、製造と取り扱い等の実用的な面からは、1〜100nmの微粒子が好ましい。
【0018】
(ロ)分散水溶液における銅微粒子の分散
本発明において、銅微粒子は少なくともその表面の一部が分散剤に覆われた状態で水溶液中に分散している。分散剤は、水溶液中で銅微粒子の凝集を防止して分散性を良好に維持する作用を有する。尚、この場合の「分散剤が銅微粒子の表面を覆うように存在」における「覆う」は、当該技術分野において、「被覆され」、「囲まれた」、「保護された」等の記載表現が使用されることもある。
また、上記「分散剤が銅微粒子の表面を覆う」とは、銅微粒子の全表面が分散剤で覆われていなくとも、その一部が覆われていても分散効果は顕著に発揮される。
このような分散剤が銅微粒子を分散させるメカニズムは完全に解明されてはいないが、例えば分散剤に存在する官能基の非共有電子対を有する原子部分が銅微粒子の表面に吸着して、分子層を形成し、互いに銅微粒子同士の接近をさせない、斥力が発生していることが予想される。
【0019】
(ハ)分散剤
本発明において、還元反応により銅微粒子を形成する際に、分散剤を使用する。
分散剤は、水に対して溶解性を有していると共に、反応系中で析出した銅微粒子の少なくともその表面の一部を覆うように存在して、銅微粒子の凝集を防止して分散性を良好に維持する作用を有する。本発明の分散剤は上記作用を有し、かつ水溶液中で上記作用を奏するものであれば、特に制限されるものではない。
分散剤としては、その化学構造にもよるが数平均分子量が100〜100,000程度の、水に対して溶解性を有し、かつ水溶液で銅イオンから還元反応で析出した銅微粒子を良好に分散させることが可能なもので、かつ炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子から選択された2種以上の原子からなる化合物(高分子化合物も含む)の分散剤であればいずれも使用可能である。
【0020】
上記分散剤として好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等のアミン系の高分子;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、更にはデンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上である。
上記例示した分散剤の具体例として、ポリビニルピロリドン(分子量:1000〜500、000)、ポリエチレンイミン(分子量:100〜100,000)、カルボキシメチルセルロース(アルカリセルロースのヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、分子量:1000〜100,000)、ポリアクリルアミド(分子量:100〜6,000,000)、ポリビニルアルコール(分子量:1000〜100,000)、ポリエチレングリコール(分子量:100〜50,000)、ポリエチレンオキシド(分子量:50,000〜900,000)、ゼラチン(平均分子量:61,000〜67,000)、水溶性のデンプン等が挙げられる。
【0021】
上記かっこ内にそれぞれの分散剤の数平均分子量を示すが、このような分子量範囲にあるものは水溶性を有するので、本発明において好適に使用できる。尚、これらの2種以上を混合して使用することもできる。
また、分散剤の添加量は、還元反応水溶液から生成する銅微粒子の濃度にもよるが、該銅原子100重量部に対して、0.1〜500重量部が好ましく、0.5〜100重量部がより好ましい。分散剤の添加量が前記0.1未満では凝集を抑制する効果が十分に得られない場合があり、一方、前記500重量部を超える場合には、分散上に支障がなくとも、銅微粒子分散水溶液を塗布後、乾燥・焼成時に、過剰の分散剤が、銅微粒子の焼結を阻害して、膜質の緻密さを低下させる場合があると共に、分散剤の焼成残渣が、金属被膜中に残存して、導電性を低下させるおそれがある。
【0022】
尚、銅微粒子分散水溶液中において前記分散剤と生成した銅微粒子の重量比が(分散剤/銅微粒子)0.001〜5の範囲であることが好ましい。この重量比については、銅微粒子分散水溶液から、分散剤で覆われた銅微粒子を遠心分離等の操作により回収して定量分析により、確認することが可能である。
その具体的例として、銅微粒子分散水溶液をサンプリングして、遠心分離操作により分散剤で覆われた銅微粒子を分析用サンプルとして回収し、酸化性の溶液中で、分散剤が反応しない条件下で銅微粒子を溶解した溶液を調製し、該溶液を液体クロマトグラフィー等により定量分析すれば、重量比(分散剤/銅微粒子)を測定することができる。
また、前記銅微粒子分析用サンプルを、銅微粒子から分散剤を溶剤中に抽出した後に、必要がある場合には蒸発等の濃縮操作を行い、液体クロマトグラフィー、又は分散剤中の特定の元素(窒素、イオウ等)をX線光電子分光(XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy))、オージェ電子分光分析(AES(Auger Electron Spectroscopy))等の分析により、重量比(分散剤/銅微粒子)の測定を行うことが可能である。
【0023】
(ニ)銅微粒子分散水溶液
前記銅微粒子分散水溶液には、炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上からなる有機溶媒を0〜30質量%含有させることができる。
銅微粒子分散水溶液にこのような有機溶媒が含有されていると、該銅微粒子分散水溶液をそのまま又は濃縮後にパターニングして焼成する際に還元作用を発揮するので、電気抵抗値の低い焼結体を得ることができる。
尚、「炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上からなる有機溶媒」は、還元反応開始前に還元反応水溶液に添加されていてもよく、還元反応終了後に分散水溶液(還元反応終了後に銅微粒子分散水溶液から銅微粒子を回収し、その後該銅微粒子を分散する分散水溶液を含む)に添加されていてもよく、又、還元反応終了後に分散水溶液の一部を除去して銅微粒子濃度が高められた分散水溶液に添加されていてもよい。
前記炭素数が3〜8のアルコールは、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル2−プロパノールから選択された1種又は2種以上が例示でき、
分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコールは、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロ−ル、トレイトレイトール、エリトリト−ル、ペンタエリスリト−ル、ペンチト−ル、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシト−ル、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセリンアルデ、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコ−ス、フルクト−ス、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクト−ス、アラビノ−ス、イソマルト−ス、グルコヘプト−ス、ヘプト−ス、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上が例示でき、
並びに、アルカノールアミンは、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、及びN−n−ブチルジエタノールアミンの中から選択される1種又は2種以上が例示できる。
【0024】
(2)工程1
工程1は、銅イオンを分散剤の存在下で、pH調整剤によりpH9.2以上に調整したアンモニア水溶液中でアンモニアとの下記反応により、水溶性の銅アンミン錯体を得る工程である。
Cu2++4NH → [Cu(NH2+
又は Cu2++4NH(OH) → [Cu(NH2+ +4H
(イ)銅イオン
工程1で使用する「銅イオン」を形成する化合物は、銅元素、並びに炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子から選択された2種以上の原子からなる化合物であり、具体的には水酸化銅、硝酸銅、亜硝酸塩、酢酸銅、蟻酸銅、クエン酸銅、しゅう酸銅、グルコン酸銅、安息香酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン銅から選択された1種又は2種以上の使用が好ましい。
(ロ)pH調整剤
工程1で使用するpH調整剤は、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子から選択された2種以上の原子からなる化合物が好ましく、このような化合物として、具体的には酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、プロピオンアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウムから選択された1種又は2種以上の使用が好ましい。
【0025】
(ハ)工程1における銅アンミン錯体の生成
銅イオンを分散剤の存在下、アンモニア水溶液中でアンモニア(又は水酸化アンモニウム)との上記反応により、水溶性の銅アンミン錯体を得る場合に、pH調整剤によりpH9.2以上に調整される。このようなアルカリ性の水溶液においては酸化反応が抑制されて銅原子にアンモニアイオンが配位し、水溶性の銅アンミン錯体が形成される。
この場合、pHは9.2以上が好ましく、11以上が更に好ましい。
pHが9.2未満であると、水酸化物イオン(OH)濃度が低くなる結果、銅アンミン錯体が生成しづらくなり、また銅微粒子表面での酸化反応が進行し易くなる結果、酸化銅が形成されるので好ましくない。
工程1における反応は、アンモニアが溶解している、pHが調整された水溶液に、前記銅イオンを含む水溶液を連続的に滴下してもよく、一度に添加してもよい。
前記銅イオンを含む水溶液中の好ましい銅イオン濃度は、実用上0.01〜1モル/L(リットル)程度であり、アンモニアが溶解している水溶液中の好ましいアンモニア濃度は0.0001〜10モル/L程度である。
【0026】
(3)工程2
工程2は、前記銅アンミン錯体を、電解還元により下記の還元反応により、分散液中で少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた状態で銅微粒子を形成する工程である。
Cu(NH2++2e → Cu+2NH
又は Cu(NH2++2e+2HO→ Cu+2NH(OH)
すなわち、工程1で形成された銅アンミン錯体が溶解している水溶液中に電極を存在させて、電解還元反応により銅微粒子を形成する工程である。還元反応により生成した一次粒子の粒子径が1〜150nm程度の銅微粒子は、分散剤の作用により、二次凝集が抑制されて水溶液中に均一に分散される。
(イ)電極(陽極と陰極)材料等
陰極は、白金、カーボン等が好ましく、陽極は、Cu、Cu−Sn合金、カーボン、白金等が好ましい。尚、陰極表面付近に析出した粒子を脱離、回収するために陰極に超音波振動等の揺動を与えることが可能な構造とすることもできる。
【0027】
(ロ)電解還元反応
電解還元反応のpHは、好ましくは9〜14、より好ましくは9.5〜13.5の範囲に調整する。pHが9未満では還元反応による銅が析出するのを妨げるなどの悪影響を与える場合があり、pHが14を超えると電流密度範囲が狭くなり、電流効率が低下する場合がある。
電流密度は好ましくは0.3〜10A/dm、より好ましくは0.5〜6A/dm程度である。還元温度は、10〜70℃が好ましく、高温になるほど還元反応速度は速くなり、低温になるほど析出する粒子の粒径は小さくなる傾向がある。
尚、銅微粒子の一次粒子の平均粒径の制御は、銅イオン、分散剤等の選択、及び電流、電圧、還元温度、時間、pH等の調整により行うことが可能である。
【0028】
(ハ)還元反応水溶液から銅微粒子を回収後、該銅微粒子分散水溶液への分散
還元反応水溶液中には未反応の銅イオンが残存する場合があるので、未還元銅イオンを銅微粒子分散水溶液中に存在させたくない場合、以下の方法により銅イオンが除去された銅微粒子分散水溶液を得ることができる。
電解還元反応終了後に、電極表面に付着した銅微粒子を電極から脱離・回収する。該脱離方法としては、電極の洗浄、電極に逆電流を流して電極表面に付着した銅微粒子の脱離、また上記したように陰極に超音波振動等の揺動を与える脱離等を行うことができる。
電極から脱離した銅微粒子を遠心分離、濾過、圧搾分離、浮上分離、又は沈降分離より回収した後、該回収した銅微粒子をpHが9〜14の範囲のアルカリ水溶液中に分散させて銅微粒子分散水溶液を得ることがきる。
尚、銅微粒子をpHが9〜14のアルカリ水溶液中に分散させるのは、該水溶液において銅微粒子の酸化反応を抑制するためである。
【0029】
(4)銅微粒子分散水溶液の撹拌による分散性の向上
かくして得られた銅微粒子分散水溶液中には、一次粒子の平均粒径1〜150nmの銅微粒子が少なくともその表面の一部が分散剤で覆われて水溶液中に、二次凝集性が少ない状態で分散されているが、更に撹拌して分散性を向上することが望ましい。
銅微粒子分散水溶液の撹拌方法としては、公知の撹拌方法を採用することができるが、超音波照射方法を採用するのが好ましい。
上記超音波照射時間は、特に制限はなく任意に選択することが可能である。例えば、超音波照射時間を5〜60分間の間で任意に設定すると照射時間が長い方が、平均二次凝集サイズが小さくなる傾向にある。
【0030】
(5)銅微粒子分散水溶液の濃縮方法
上記工程2で得られた微粒子分散水溶液は必要に応じて、水分を除去することにより濃縮して、使用することができる。このような濃縮操作としては超音波照射、逆浸透膜、限外ろ過膜、真空脱水、及び凍結乾燥、更にこれらの2種以上の同時利用等の操作が挙げられる。
尚、前記銅微粒子分散水溶液に、炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上からなる有機溶媒が1〜30質量%含まれている場合には、水分を加熱除去する際に共沸現象を利用して、効率よく水分除去を行うことが可能になる。このような場合には、水分及び前記有機溶媒についても、前記濃縮操作によって、除去することが可能である。
このような濃縮操作により、水溶液中の銅微粒子濃度が0.01〜5質量%の分散水溶液中の水分の一部を除去して、水溶液中の銅微粒子濃度が1〜60質量%の分散溶液を得ることが可能である。
【0031】
(6)銅微粒子分散水溶液の焼結
本発明の製造方法により得られる微粒子分散水溶液は、分散性と保存安定性に優れているので、インクジェット用インク、エッチングレジスト、ソルダーレジスト、誘電体パターン、電極(導体回路)パターン、電子部品の配線パターン、導電性ペースト、導電性インク、導電フィルム等に広く用いることができる。特に、本発明の銅微粒子分散水溶液は、例えば、インクジェット法等により基材上に配置して、乾燥後、焼成して金属含有薄膜又は金属含有細線等の導電部材として使用するのに適している。
本発明の銅微粒子分散水溶液を使用すると、従来よりも低い焼成温度、例えば250℃以下、更に220℃以下の比較的低温でも焼成することが可能となり、また、水素ガス等の還元性ガスを必ずしも使用する必要がなく、不活性ガス中における焼成を採用しても、導電性と基板密着性に優れる導電部材を形成することが可能となる。上記基材は特に制限はなく使用目的等により、ガラス、ポリイミド等が使用でき、乾燥と焼成は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0032】
〔2〕銅微粒子分散水溶液の保管方法
本発明の製造方法で得られた銅微粒子分散水溶液は、銅微粒子分散水溶液が入った保管容器へ、乾燥状態の不活性ガスを充填して気密封止して保管することが望ましい。このことにより、銅微粒子分散水溶液中の銅が酸化するのを防ぎ、少なくとも3カ月間は保存安定性を確保することが出来る。
【実施例】
【0033】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)銅微粒子分散水溶液の調製
水酸化銅(Cu(OH))0.2gを濃度0.5mol/Lのアンモニア水50mlに溶解させ、さらに0.5mol/Lの酢酸アンモニウムを添加してpHを10に調整し、銅アンミン錯体を含む溶液とした。次に、この溶液にポリビニルピロリドン0.5gを添加して攪拌溶解させた後、溶液中で白金板陰極(カソード電極)(片面16mm)と白金板陽極(アノード電極)との間を25℃で1分間通電し還元反応を行った。この時、印加した電流密度は25mA/mm以下とした。以上のようにして、銅微粒子が水溶液中に分散した銅微粒子分散水溶液を得た。
(2)銅微粒子分散水溶液の濃縮
この銅微粒子分散水溶液を、30℃において、1.6MHz、12Wの超音波を液面下から気相に向かって1時間照射して銅微粒子の濃縮を行い、銅微粒子濃度が10質量%の銅微粒子分散水溶液を得た。該銅微粒子分散水溶液を超音波照射装置((株)エスエムテー製、型式:UH−600S)を用いて、40分間撹拌を行った。
【0034】
(3)焼成膜の作製
上記濃縮して得られた銅微粒子分散水溶液を撹拌終了後、15分経過してから、インクジェット用ヘッド(メクト社製:MICROJET(登録商標) Model MJ−040)に入れ、幅が700mm、厚みが100μmの透明なポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)フィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、品番;Q51)上に微粒子分散水溶液で格子状パターンを形成した。このときの格子状パターンは、線の幅が10μmであり、線間のピッチが100μmとなるように形成した。
形成した配線パターンを、アルゴンガス雰囲気中において、約150℃で30分間保持して塗膜を乾燥させた後、さらに窒素雰囲気中、200℃で1時間熱処理を行った。その後熱処理炉中でゆっくりと室温まで炉冷し、配線回路パターンを得た。
(4)焼結膜の導電性評価
直流四端子法(使用測定機:ケースレー社製、デジタルマルチメータDMM2000型(四端子電気抵抗測定モード))を用いて、焼結して得られた上記配線回路パターンの配線の電気抵抗を測定した。測定値は、5.6×10−5(Ω・cm)であった。
【0035】
[実施例2]
実施例1で使用したと同様の水酸化銅0.2gを濃度1mol/Lのアンモニア水50mlに溶解させ、さらに1mol/Lの炭酸アンモニウムを添加してpHを11に調整し、銅アンミン錯体を含む溶液を調製した。
次に、この溶液にポリビニルピロリドン0.5gを添加して攪拌溶解させた後、溶液中で白金板陰極(カソード電極)(片面16mm)と白金板陽極(アノード電極)と間を25℃で1分間通電し還元反応を行った。この時、印加した電流密度は25mA/mm以下とした。以上のようにして、銅微粒子が水溶液中に分散した銅微粒子分散水溶液を得た。
この銅微粒子分散水溶液を、30℃において、1.6MHz、12Wの超音波を液面下から気相に向かって1時間照射して銅微粒子の濃縮を行い、銅微粒子濃度が10質量%の銅微粒子分散水溶液を得た。この銅微粒子分散水溶液を実施例1で行ったと同様の撹拌を行った後、実施例1と同じ方法で配線回路パターンを形成し、その配線の電気抵抗を測定した。測定値は、4.6×10−5(Ω・cm)であった。
【0036】
[実施例3]
実施例1(1)に記載したのと同様の方法で調製した銅微粒子分散水溶液に、エチレングリコール濃度が20質量%となるようにエチレングリコールを添加した。この銅微粒子分散水溶液を、30℃において、1.6MHz、12Wの超音波を液面下から気相に向かって40分間照射して銅微粒子の濃縮を行い、銅微粒子濃度が10質量%の銅微粒子分散水溶液を得た。
この銅微粒子分散水溶液を実施例1で行ったと同様の撹拌を行った後、実施例1と同じ方法で配線回路パターンを形成し、その配線の電気抵抗を測定した。測定値は、2.3×10−5(Ω・cm)であった。
【0037】
[実施例4]
実施例1に記載したのと同様の方法で調製した銅微粒子濃度が10質量%の銅微粒子分散水溶液10mlに、エチレングリコール2.8mlを添加して、銅微粒子濃度が8質量%の銅微粒子分散水溶液12.8mlを得た。この銅微粒子分散水溶液を実施例1で行ったと同様の撹拌を行った後、実施例1と同じ方法で配線回路パターンを形成し、その配線の電気抵抗を測定した。測定値は、1.1×10−5(Ω・cm)であった。
【0038】
[実施例5]
実施例1(1)に記載したのと同様の方法で調製した銅微粒子分散水溶液を、遠心分離処理機を使用して銅微粒子を回収した。回収した該銅微粒子を、濃度0.5mol/Lのアンモニア水50mlに0.5mol/Lの酢酸アンモニウムを添加してpHを10に調整したアルカリ水溶液中に分散させた。
その後は、実施例1(2)〜(4)に記載したと同様にして作製した配線回路パターンの配線の電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定値は、5.9×10−5(Ω・cm)であった。
【0039】
[比較例1]
比較用の銅微粒子分散水溶液として、(株)アルバック製、銅ナノ粒子分散液(商品名:Cuナノメタルインク「Cu1T」)を用いた。この銅ナノ粒子分散液を、実施例1と同様の条件でPENフィルム上に格子状パターンを形成したが、パターン形成後、インクが基板を溶解することにより線が滲んで線の幅が10μmから50μmまで広がり、所望の微細な配線回路パターンを得ることができなかった。
【0040】
[比較例2]
1mol/Lの炭酸アンモニウムの代わりに1mol/Lのイオウ化合物である硫酸アンモニウムを添加してpHを11に調整した以外は実施例2に記載したのと同じ方法で銅微粒子分散水溶液を調製し、配線回路パターンを形成した。
得られた配線回路パターンについて、実施例1と同様に配線の電気抵抗を測定したところ、導電性を示さなかった。
上記のように、実施例1、2で形成した配線回路は、200℃での熱処理により良好な電気伝導性を示すことが確認された。一方、還元反応の系にイオウ化合物を含む比較例2で形成した配線回路は、導電性を示さなかった。
【0041】
[実施例6]
実施例1に記載したのと同様の方法で銅微粒子分散水溶液を調製し、調製した銅微粒子分散水溶液を、ゴム栓付きのブローバッグ内に移し、乾燥窒素ガスを充填して気密封止した。この状態で銅微粒子分散水溶液を30日間保管した後、実施例1に記載したのと同様の方法で配線回路パターンを形成した。配線回路パターン形成の際には、シリコンゴム管のついた注射針をブローバッグのゴム栓に刺してインクを吸出し、インクジェットカートリッジへの充填を行うことで、銅微粒子分散水溶液を大気に晒さずにインクジェットカートリッジに移送した。このようにして得られた配線回路パターンについて、実施例1と同様に配線の電気抵抗を測定した。測定値は、2.3×10−5(Ω・cm)であった。
【0042】
[比較例3]
実施例1に記載したのと同様の方法で銅微粒子分散水溶液を調製し、調製した銅微粒子分散水溶液をガラスビンに入れ、大気中で1時間静置した後、実施例1に記載したのと同様の方法で配線回路パターンを形成した。得られた配線回路パターンについて、実施例1と同様に配線の電気抵抗を測定した。測定値は、2.2×10−3(Ω・cm)であった。
【0043】
[比較例4]
実施例1に記載したのと同様の方法で銅微粒子分散水溶液を調製し、調製した銅微粒子分散水溶液をガラスビンに入れ、大気中で30日間保管した。30日後に銅微粒子分散水溶液を観察すると、ガラスビンの底に沈殿物が生じていた。この銅微粒子分散水溶液をインクジェットカートリッジに充填し、配線回路パターン形成を試みたが、インクジェットヘッド内でインク詰まりが発生し、配線回路パターンは形成できなかった。
実施例6のように、銅微粒子分散水溶液が入った保管容器へ、乾燥状態の不活性ガスを充填して気密封止して保管した銅微粒子分散水溶液から形成した配線回路は、200℃での熱処理により良好な電気伝導性を示すことが確認された。一方、比較例3のように銅微粒子分散水溶液を大気に晒して保管した場合は、銅微粒子分散水溶液から形成した配線回路の導電性が低く、さらに、比較例4のように、銅微粒子分散水溶液を長期間大気中に晒して保管した場合は、銅微粒子分散水溶液が変質し、保存安定性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の平均粒径1〜150nmの銅微粒子が少なくともその表面の一部が分散剤で覆われて水溶液中に分散されている、銅微粒子分散水溶液の製造方法であって、
(i)銅イオンを、分散剤の存在下でpH調整剤によりpH9.2以上に調整したアンモニア水溶液中でアンモニアと下記反応をさせ、水溶性の銅アンミン錯体を得る工程(工程1)、
Cu2++4NH → [Cu(NH2+
又は Cu2++4NH(OH) → [Cu(NH2+ +4H
(ii)前記工程1で得られた銅アンミン錯体を含む還元反応水溶液において、下記の銅アンミン錯体の電解還元反応により、少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた銅微粒子を形成する工程(工程2)、
Cu(NH2++2e → Cu+2NH
又は Cu(NH2++2e+2HO→ Cu+2NH(OH)
を含み、前記還元反応の系において、銅元素、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子以外の原子を含む化合物を含まないことを特徴とする、銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記工程2において、還元反応水溶液中に設けられたアノードとカソード間に電位を加えることによりカソード表面付近に銅微粒子を析出させることを特徴とする、請求項1に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記pH調整剤が酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、プロピオンアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウムから選択された1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記銅イオンが、水酸化銅、硝酸銅、亜硝酸塩、酢酸銅、蟻酸銅、クエン酸銅、シュウ酸銅、グルコン酸銅、安息香酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン銅から選択された1種又は2種以上から得られたものである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記分散剤が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上の有機化合物であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記分散剤の添加量が、銅イオン100重量部に対して0.1〜500重量部であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記銅微粒子分散水溶液から、銅微粒子を遠心分離、濾過、圧搾分離、浮上分離、又は沈降分離より回収した後、該回収した銅微粒子をpHが9〜14の範囲のアルカリ水溶液中に分散させて銅微粒子分散水溶液を得ることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6に記載の銅微粒子分散水溶液、又は請求項7に記載の回収した銅微粒子を分散させて得られる銅微粒子分散水溶液に、炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上からなる有機溶媒が1〜30質量%含まれていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記炭素数が3〜8のアルコールが1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル2−プロパノールから選択された1種又は2種以上であり、
前記分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコールが、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロ−ル、トレイトレイトール、エリトリト−ル、ペンタエリスリト−ル、ペンチト−ル、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシト−ル、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセリンアルデ、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコ−ス、フルクト−ス、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクト−ス、キシロ−ス、アラビノ−ス、イソマルト−ス、グルコヘプト−ス、ヘプト−ス、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上であり、
並びに、前記アルカノールアミンが、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、及びN−n−ブチルジエタノールアミンの中から選択される1種又は2種以上である、請求項8に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項10】
前記請求項1ないし6のいずれかで得られた銅微粒子分散水溶液に超音波照射、逆浸透膜によるろ過、限外ろ過膜によるろ過、真空脱水、又は凍結乾燥により、銅微粒子分散溶液中の水分を除去して、水溶液中の銅微粒子濃度が1〜60質量%の分散水溶液を得ることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項11】
前記請求項8又は9で得られた銅微粒子分散水溶液に超音波照射、逆浸透膜によるろ過、限外ろ過膜によるろ過、真空脱水、又は凍結乾燥により、銅微粒子分散水溶液に存在する水分と、炭素数が3〜8のアルコール、分子中に2以上の水酸基を有する多価アルコール、アルカノールアミンから選択される1種又は二種以上の一部を除去して、水溶液中の銅微粒子濃度が1〜60質量%の分散水溶液を得ることを特徴とする、請求項8又は9に記載の銅微粒子分散水溶液の製造方法。
【請求項12】
前記請求項1ないし11のいずれかで得られた銅微粒子分散水溶液が入った保管容器へ、乾燥状態の不活性ガスを充填して気密封止することを特徴とする、銅微粒子分散水溶液の保管方法。

【公開番号】特開2010−133015(P2010−133015A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246552(P2009−246552)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】