説明

銅箔及び銅箔製造方法

【課題】樹脂基材等への密着性を確保できる銅箔及び銅箔製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る銅箔1は、一方の表面に第1の凹部15を有する銅箔材10と、第1の凹部15の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部25を、第1の凹部15に対応する位置に有して一方の表面上に設けられる銅めっき層20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔及び銅箔製造方法に関する。特に、本発明は、プリント基板等に用いる銅箔及び銅箔製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅膜を形成した樹脂基材は、Copper Clad Laminate(CCL)と呼ばれる。そして、フレキシブルプリント基板(FPC)用のCCLとして、接着剤を介して銅箔と樹脂基材とを貼り合わせる3層CCL、及び接着剤を介さずに銅箔と樹脂基材とを貼り合わせる2層CCL等が知られている。CCLに用いられる銅箔は、樹脂基材に対する密着性を向上させることを目的として、銅箔表面に粗化処理が施される。
【0003】
従来、凹凸を有する圧延銅箔の表面に、銅めっき層が設けられているプリント配線板用圧延銅箔が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のプリント配線板用圧延銅箔は、圧延銅箔表面の凹凸を銅めっきにより消失させるので、粗化処理において電流が局部的に集中することがなく、いわゆる粗化コブが圧延銅箔表面に均一に形成される。これにより、特許文献1に記載のプリント配線板用圧延銅箔によれば、圧延銅箔の表面上に形成する粗化コブのばらつきを小さくすることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−340635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のプリント配線板用圧延銅箔は、圧延銅箔表面の凹凸を銅めっきにより消失させているので、圧延銅箔の表面粗さが小さくなり、圧延銅箔と樹脂基材との密着性が低下する場合がある。また、圧延銅箔に粗化処理を施すと、圧延銅箔表面の凹部にめっき層が形成されないクレータと呼ばれる欠陥が発生する場合がある。クレータのサイズが大きくなると、圧延銅箔への樹脂基材の貼り付け時、及び/又は塗布時に圧延銅箔と樹脂基材との間に気泡が残存する場合がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、樹脂基材等への密着性を確保できる銅箔及び銅箔製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材と、第1の凹部の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部を、第1の凹部に対応する位置に有して一方の表面上に設けられる銅めっき層とを備える銅箔が提供される。
【0008】
また、上記銅箔は、銅箔材は、電解銅箔又は圧延銅箔であってもよい。また、第1の凹部は、銅箔材の表面に対して第1の傾斜角度を有する第1の斜面を含み、第2の凹部は、銅箔材の表面に対して第2の傾斜角度を有する第2の斜面を含み、第2の傾斜角度の平均値は、第1の傾斜角度の平均値より小さくてもよい。また、第2の傾斜角度の平均値は、1度以上10度以下であってもよい。
【0009】
また、上記銅箔は、第2の凹部の深さの平均値は、0.1μm以上0.7μm以下であってもよく、銅めっき層は、0.1μm以上1μm以下の厚さを有していてもよい。また、銅めっき層上に設けられる粗化処理層を更に備え、粗化処理層は、複数の構造物を含み、一方の表面に略水平な銅めっき層の表面と、少なくとも一部の第2の凹部の表面とに形成されてもよい。そして、粗化処理層は、銅又は銅合金から形成され、0.5μm以上3μm以下の表面粗さ(Rz)を有していてもよい。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達するため、銅箔材を準備する銅箔材準備工程と、銅箔材の表面に、限界電流密度未満の電流密度で銅めっき層を形成する銅めっき工程とを備える銅箔製造方法が提供される。
【0011】
また、上記銅箔製造方法は、銅箔材準備工程は、一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材を準備し、銅めっき工程は、第1の凹部の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部を、第1の凹部に対応する位置に有する銅めっき層を形成してもよい。銅めっき層の表面に粗化処理層を形成する粗化処理工程を更に備え、粗化処理工程は、限界電流密度以上の電流密度で電解処理する第1処理工程と、第1処理工程後、限界電流密度未満の電流密度でめっき処理する第2処理工程とを含んでもよい。
【0012】
また、上記銅箔製造方法は、銅めっき工程は、5A/dm以上30A/dm未満の電流密度で銅めっき層を形成してもよい。銅めっき工程は、メルカプト基を有する有機硫黄化合物、界面活性剤、及び塩化物イオンを含むめっき液を用いて銅めっき層を形成してもよい。
【0013】
また、本発明は、上記目的を達するため、一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材と、第1の凹部に対応する位置に第2の凹部を有して一方の表面上に設けられる銅めっき層とを備え、第1の凹部は、銅箔材の表面に対して第1の傾斜角度を有する第1の斜面を含み、第2の凹部は、銅箔材の表面に対して第2の傾斜角度を有する第2の斜面を含み、第2の傾斜角度の平均値は、第1の傾斜角度の平均値より小さい銅箔が提供される。
【0014】
また、上記銅箔は、銅めっき層は、0.1μm以上1μm以下の厚さを有していてもよい。
【0015】
また、本発明は、上記目的を達するため、一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材と、第1の凹部の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部を、第1の凹部に対応する位置に有して一方の表面上に設けられ、0.1μm以上1μm以下の厚さを有する銅めっき層とを備える銅箔が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る銅箔及び銅箔製造方法によれば、樹脂基材等への密着性を確保できる銅箔及び銅箔製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る銅箔の断面の概要を示す。
【0018】
(銅箔1の構造)
本実施の形態に係る銅箔1は、一方の表面に第1の凹部15を有する銅箔材10と、一方の表面を覆って設けられ、第1の凹部15に対応する位置に第2の凹部25を有する銅めっき層20と、銅めっき層20の表面に形成される粗化処理層30とを備える。すなわち、銅箔1は、銅箔材10と銅めっき層20と粗化処理層30とを含んで形成される積層構造を備える。なお、図示しないが、粗化処理層30上に、所定の樹脂基材に対する銅箔1の密着性を更に向上させることを目的として、ニッケル−コバルト合金めっき層、亜鉛めっき層、クロメート処理層、及びシランカップリング処理層を形成することができる。
【0019】
銅箔材10は、所定の厚さを有すると共に、銅を含んで形成される。また、銅箔材10は、一方の表面に複数の第1の凹部15を有する。複数の第1の凹部15はそれぞれ、銅箔材10の表面10aに対して第1の傾斜角度としての所定の角度を有して形成される斜面15aを含む。なお、本実施の形態において、複数の斜面15aの表面10aに対する角度の平均値をθaと表わす。また、複数の第1の凹部15のそれぞれは所定の深さを有しており、本実施の形態において、複数の第1の凹部15の深さの平均値をDaと表わす。
【0020】
また、銅箔材10は、電解銅箔又は圧延銅箔から形成される。本実施の形態に係る銅箔1を形成する場合において、銅箔材10の表面の平坦性を確保すると共に、銅箔1に優れた折り曲げ性を付与することを目的とする場合、銅箔材10を圧延銅箔から形成することができる。また、銅箔材10は、純銅、又は銅合金材料から形成することもできる。なお、本実施の形態において、銅箔材10を純銅から形成する場合に、純銅に不可避的に含まれる不純物は排除されない。
【0021】
銅めっき層20は、銅箔材10の一方の表面上に、複数の第1の凹部15のそれぞれを埋めて形成される。そして、銅めっき層20は、複数の第1の凹部15のそれぞれに対応する位置、すなわち、複数の第1の凹部15のそれぞれの上方に第2の凹部25をそれぞれ有する。複数の第2の凹部25はそれぞれ、銅箔材10の表面10a(又は、銅めっき層20の表面20a)に対して第2の傾斜角度としての所定の角度を有して形成される斜面25aを含む。
【0022】
本実施の形態において、複数の斜面25aの表面10aに対する角度の平均値をθbと表わす。また、第2の凹部25は、対応する第1の凹部15の深さより浅い深さを有して形成される。そして、本実施の形態においては、θaとθbとの関係は、θa>θbとなり、DaとDbとの関係は、Da>Dbとなる。そして、本実施の形態においては、θbの値は、実施可能な範囲に設定すると共に、クレータの発生を抑制しやすい範囲に設定される。例えば、θbは、1度以上10度以下の範囲であることが好ましい。また、複数の第2の凹部25のそれぞれは所定の深さを有しており、本実施の形態において複数の第2の凹部25の深さの平均値をDbと表わす。そして、本実施の形態においては、Dbは、0.1μm以上0.7μm以下であることが好ましい。
【0023】
なお、銅めっき層20は、少なくとも一部の第2の凹部25が有意な深さとなる厚さを有して銅箔材10上に形成される。例えば、銅めっき層20は、銅箔材10上に0.1μm以上1μm以下の厚さを有して形成されることが好ましい。
【0024】
粗化処理層30は、複数の構造物35が銅めっき層20の表面20aに形成されることにより、銅めっき層20上に設けられる。複数の構造物35は、銅箔材10の一方の表面に略水平な銅めっき層20の表面と、少なくとも一部の第2の凹部25の表面(すなわち、第2の凹部25の斜面25aの表面)とに形成される。また、構造物35は、表面20aと斜面25aとの境目上に形成されてもよい。複数の構造物35はそれぞれ、めっき処理により銅を含んで形成される。そして、複数の構造物35はそれぞれ、コブ形状を有して形成される。そして、本実施の形態に係る粗化処理層30は、樹脂との密着性を確保することができる0.5μm以上の表面粗さ(Rz)を有すると共に、樹脂との貼り合わせ時にボイドの発生を抑制できる3μm以下の表面粗さ(Rz)を有する。なお、本実施の形態に係る粗化処理層30は、複数の構造物35それぞれの先端を結んだ仮想的な線を考えると、当該線が、有意の凹凸形状を有することとなる。
【0025】
(第1の凹部15及び第2の凹部25の詳細)
図2は、本発明の実施の形態に係る第1の凹部及び第2の凹部の深さの評価の概要を示す。
【0026】
銅箔材10が有する第1の凹部15の深さは、銅箔材10の表面10aから第1の凹部15の底部までの距離で表わされる。例えば、図2において一の第1の凹部15の深さは、Da1で表わされ、一の第1の凹部15に隣接する他の第1の凹部15の深さは、Da2で表わされる。同様にして、銅めっき層20が有する第2の凹部25の深さは、銅めっき層20の表面20aから第2の凹部25の底部までの距離で表わされる。例えば、一の第2の凹部25の深さは、Db1で表わされ、一の第2の凹部25に隣接する他の第2の凹部25の深さは、Db2で表わされる。なお、複数の第1の凹部15の深さの平均値Da及び複数の第2の凹部25の深さの平均値Dbはそれぞれ、所定数の各凹部の深さを測定して、その算術平均を算出することにより求めることができる。
【0027】
図3は、本発明の実施の形態に係る第1の凹部の斜面及び第2の凹部の斜面の傾斜の評価の概要を示す。
【0028】
銅箔材10が有する第1の凹部15の斜面15aの表面10aに対する傾斜は、角度θa1で表わされる。例えば、図3において一の第1の凹部15の斜面15aの傾斜は、θa1で表わされ、一の第1の凹部15に隣接する他の第1の凹部15の斜面15aの傾斜は、θa2で表わされる。同様にして、銅めっき層20が有する第2の凹部25の斜面25aの傾斜は、θb1で表わされる。例えば、一の第2の凹部25の斜面25aの傾斜は、θb1で表わされ、一の第2の凹部25に隣接する他の第2の凹部25の斜面25aの傾斜は、θb2で表わされる。なお、複数の第1の凹部15の斜面15aの傾斜の平均値θa及び複数の第2の凹部25の斜面25aの傾斜の平均値θbはそれぞれ、所定数の各凹部の斜面の傾斜を測定して、その算術平均を算出することにより求めることができる。
【0029】
(銅箔1の製造方法)
図4は、本発明の実施の形態に係る銅箔の製造工程の一例を示す。
【0030】
(銅箔準備工程)
まず、所定の形状、所定厚、及び所定の表面粗さを有する電解銅箔又は圧延銅箔からなり、一方の表面に複数の第1の凹部15を有する銅箔材1を準備する(ステップ100(以下、ステップを「S」と略す))。
【0031】
(電解脱脂工程)
次に、銅箔材1の少なくとも一方の表面を清浄化する(S110)。具体的に、銅箔材1の表面に電解脱脂を施すことにより表面を清浄化する。例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を用い、陰極電解脱脂を銅箔材1の表面に施すことにより、銅箔材1の表面を電解脱脂する。
【0032】
(酸洗処理工程)
次に、銅箔材1の表面に残存しているアルカリ溶液の中和、及び銅箔材1の表面の酸化膜を除去することを目的として、銅箔材1の表面に酸洗処理を施す(S120)。例えば、硫酸等の酸性の水溶液に銅箔材1を浸漬することにより、銅箔材1の表面に酸洗処理を施す。なお、酸性の水溶液として、銅エッチング液を用いることもできる。
【0033】
(銅めっき工程)
次に、硫酸銅及び硫酸を主成分とした酸性の銅めっき浴を準備する。そして、当該銅めっき浴に銅箔材1を陰極として浸す。この状態で、銅箔材1に電流を供給して、銅箔材1の一方の表面に電解処理を施すことにより、当該表面に銅めっき層20を形成する(S130)。具体的には、第1の凹部15の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部25を、第1の凹部15に対応する位置に有する銅めっき層を形成する。
【0034】
電解処理は、所定の液組成を有する銅めっき浴を用い、所定の液温下で限界電流密度未満の電流密度で所定の時間、実施する。銅めっき層20は、例えば、0.1μm以上1μm以下の厚さに形成する。また、銅めっき浴を用いた電解処理は、一例として、以下の条件で実施できる。
硫酸銅五水和物:20g/dm以上300g/dm以下
硫酸:10g/dm以上200g/dm以下
液温:20℃以上50℃以下
めっき電流密度:5A/dm以上30A/dm未満(限界電流密度未満)
めっき時間:1秒以上20秒以下
【0035】
また、銅めっき層20を形成する電解処理において、銅めっき層20の表面を平滑化することを目的として、所定の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、例えば、塩素、3−メルカプト−1−スルホン酸又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド等のメルカプト基を持つ有機硫黄化合物、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール等の界面活性剤、及び塩化物イオン等からなる群から選択される少なくとも1つの物質を用いることができる。
【0036】
また、プリント配線板等の製造に用いられる各種の銅めっき用添加剤を用いることもできる。銅めっき用添加剤としては、例えば、CU−BRITE TH−RIII(荏原ユージライト社製)、トップルチナLS(奥野製薬社製)、カパーグリームCLX(メルテックス社製)、スルカップEUC(上村工業社製)等を用いることができる。
【0037】
めっき電流密度は、銅めっき層20の表面20aの凹凸の程度を抑制することを目的として、限界電流密度未満の電流密度に設定する。また、生産性を向上させることを目的として、めっき電流密度を所定値以上の値に設定すると共に、銅めっき層20の表面を平滑にすることを目的としてめっき電流密度を所定値以下の値に設定する。一例として、めっき電流密度は5A/dm以上30A/dm未満に設定する。
【0038】
(粗化処理工程:第1処理工程)
続いて、銅めっき層20上に樹枝状銅めっき層を形成する(S140)。具体的には、硫酸銅及び硫酸を主成分として含む酸性の銅めっき浴を準備する。そして、この銅めっき浴に、銅めっき層20を有する銅箔材10を浸す。次に、当該銅箔材10を陰極として、所定の液温下で、銅めっき浴の限界電流密度以上の電流密度の電流を当該銅箔材10に供給する。これにより、銅めっき層20上に樹枝状の銅めっき層を形成する。なお、樹枝状の銅めっき層の大きさは、一例として、高さが0.2μm以上1.0μm以下程度であり、幅が0.2μm以上0.5μm以下程度である。
【0039】
樹枝状の銅めっき層を形成する場合における銅めっき浴、及び銅めっきの条件は、例えば、以下の条件を用いることができる。なお、樹枝状の銅めっき層を形成する場合には、例えば、銅を除く金属元素(モリブデン、鉄、又はコバルト等)を添加することもできる。なお、添加する金属元素としてモリブデンを用いた場合、形成される樹枝状の銅めっき層の断面形状に丸みを持たせること、及び銅めっき層20の特定の部分に樹枝状の銅めっき層が異常成長することを抑制できる。
硫酸銅五水和物:20g/dm以上300g/dm以下
硫酸:10g/dm以上200g/dm以下
液温:20℃以上50℃以下
めっき電流密度:30A/dm以上100A/dm以下(限界電流密度以上)
めっき時間:1秒以上10秒以下
【0040】
(粗化処理工程:第2処理工程)
次に、樹枝状銅めっき層からコブ状銅めっき層を形成する(S150)。具体的には、硫酸銅及び硫酸を主成分として含む酸性の銅めっき浴を準備する。そして、この銅めっき浴に、樹枝状銅めっき層を有する銅箔材10を浸す。次に、当該銅箔材10を陰極として、所定の液温下で、銅めっき浴の限界電流密度未満の電流密度の電流を当該銅箔材10に供給する。これにより、樹枝状銅めっき層の表面に、平滑な表面を有するコブ状の銅めっき層(被せめっき)が形成される。これにより、樹枝状銅めっき層に所定厚の銅めっき層が被覆され、コブ状銅めっき層が形成される。本実施の形態に係る粗化処理層30が形成される。
【0041】
コブ状銅めっき層を形成する場合における銅めっき浴、及び銅めっきの条件は、例えば、以下の条件を用いることができる。
硫酸銅五水和物:20g/dm以上300g/dm以下
硫酸:10g/dm以上200g/dm以下
液温:20℃以上50℃以下
めっき電流密度:1A/dm以上20A/dm以下(限界電流密度未満)
めっき時間:1秒以上20秒以下
【0042】
(後処理めっき工程)
本実施の形態に係る銅箔1の製造方法においては、コブ状銅めっき層を設けた後に、所定の特性を銅箔1に備えさせることを目的として、後処理めっき膜を粗化処理層30の上に形成することができる。まず、粗化処理層30等を構成する銅の拡散を防止することを目的として、粗化処理層30上にニッケルめっき層(又はニッケル合金めっき層)を形成する(S160)。
【0043】
次に、銅箔1の耐熱性を向上させることを目的として、亜鉛めっき層(又は亜鉛合金めっき層)を、ニッケルめっき層の上に形成する(S170)。更に、銅箔1の樹脂基材に対する密着性を向上させることを目的として、化成処理皮膜としてのシランカップリング処理層を、亜鉛めっき層の上に形成する(S180)。
【0044】
以上の工程を経て、本実施の形態に係る銅箔1が製造される。本実施の形態に係る銅箔1は、例えば、プリント配線基板、プラズマディスプレイ用電磁波シールド、ICカードが備えるアンテナ等に適用できる。
【0045】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態によれば、銅箔材10上に薄い膜厚の銅めっき層20を形成した後に粗化処理を施すことにより、表面粗さが小さいと共に、高い屈曲性を有した銅箔1を提供できる。これにより、本実施の形態に係る銅箔1によれば、極めて薄い銅めっき層20を形成した後に、表面に粗化処理層30を形成するだけで、樹脂基材に対する密着性を確保できると共に、銅箔1にエッチング処理を施して微細配線を形成する場合に、微細配線下にアンダーカットが発生することを抑制できる。
【0046】
すなわち、本発明の実施の形態によれば、例えば、小型化が要求される電子機器に用いられるフレキシブルプリント基板(FPC)等のプリント配線基板において、銅配線からなる配線ピッチを微細化した場合であっても、微細化した銅配線の底部がエッチングにより除去されることを抑制できる。また、粗化処理を銅箔1に施した場合に、銅箔1の表面におけるクレータの発生を大幅に抑制することもでき、CCL作製時におけるボイド不良を低減できる。
【0047】
[実施例]
図5は、本発明の実施例に係る銅箔の断面の概要を示す。
【0048】
本発明の実施例1〜8においては、所定の銅箔材10に銅めっき層20を施した後、銅めっき層20上に粗化処理層30を形成した。この場合において、銅箔材10の第1の凹部15に対応する第2の凹部25の一部において、第2の凹部25の表面に粗化処理層30が形成されない部分があった。この粗化処理層30が形成されない部分をクレータ40とした。ここで、本実施例に係る粗化処理層30は、樹枝状銅めっき層36とコブ状銅めっき層37とから形成される。
【実施例1】
【0049】
本発明の実施例1においては、銅箔材10として厚さが17μmの圧延銅箔を用いた。そして、この圧延銅箔の表面を電解脱脂処理、及び酸洗処理を施すことにより清浄化した。なお、電解脱脂処理は、水酸化ナトリウム40g/dm、及び炭酸ナトリウム20g/dmを含む水溶液中で温度を40℃に設定すると共に、電流密度を5A/dmに設定して、10秒間、実施した。また、酸洗処理は、硫酸150g/dmを含む水溶液で温度を25℃に設定して、5秒間、実施した。酸洗処理後、銅箔材10を流水により水洗した。
【0050】
次に、銅箔材10の表面に銅めっき層20をめっきにより形成した。具体的に、0.11μmの厚さを有する銅めっき層20を銅箔材10の表面に形成した。銅めっき液は、硫酸銅五水和物180g/dm、及び硫酸100g/dmを含む水溶液を用いた。銅めっきの条件は、めっき液の液温を45℃に設定すると共に、めっき電流密度を20A/dmに設定して、めっき時間は2秒間とした。
【0051】
次に、銅めっき層20が形成された銅箔材10を水洗した。そして、硫酸銅五水和物75g/dm、硫酸150g/dm、硫酸鉄七水和物20g/dm、及びモリブデン酸ナトリウム1g/dmを含むめっき浴を調整した。そして、当該めっき浴の液温を30℃に設定すると共に、電流密度を40A/dmに設定して、5秒間の電解処理を銅めっき層20に施すことにより、銅めっき層20上に樹枝状銅めっき層36を形成した。
【0052】
次に、樹枝状銅めっき層36が形成された銅箔材10を水洗した。そして、硫酸銅五水和物150g/dm、及び硫酸100g/dmを含むめっき液を調整した。このめっき液の液温を40℃に調整すると共に、電流密度を10A/dmに設定して、10秒間の電解処理を樹枝状銅めっき層36に施すことにより、樹枝状銅めっき層36からコブ状銅めっき層37を形成した。
【0053】
続いて、硫酸ニッケル六水和物300g/dm、塩化ニッケル45g/dm、及び硼酸50g/dmを含むめっき液を調整した。このめっき液の液温を50℃に設定すると共に、電流密度を2A/dmに設定して、5秒間の電解処理をコブ状銅めっき層37が形成された銅箔材10に施した。これにより、コブ状銅めっき層37上に、l0μg/cmのニッケルめっき層を形成した。
【0054】
次に、ニッケルめっき層が形成された銅箔材10を水洗した。そして、硫酸亜鉛90g/dm、及び硫酸ナトリウム70g/dmを含むめっき液を調整した。このめっき液の液温を30℃に設定すると共に、電流密度を1.5A/dmに設定して、4秒間の電解処理をニッケルメッキ層が形成された銅箔材10に施した。これにより、ニッケルメッキ層上に、l.0μg/cmの亜鉛めっき層を形成した。
【0055】
更に、亜鉛めっき層が形成された銅箔材10を水洗した。そして、3−アミノプロピルトリメトキシシラン10%のシランカップリング液に、当該銅箔材10を室温下で10秒間、浸漬した後、直ちに100℃の温度で当該銅箔材10を乾燥させた。これにより、亜鉛めっき層上にシランカップリング処理層が形成され、実施例1に係る銅箔1が得られた。
【実施例2】
【0056】
本発明の実施例2に係る銅箔1は、0.42μm厚の銅めっき層20を銅箔材10上に形成した点以外は、実施例1に係る銅箔1と同様の方法で製造した。
【実施例3】
【0057】
本発明の実施例3に係る銅箔1は、0.71μm厚の銅めっき層20を銅箔材10上に形成した点以外は、実施例1に係る銅箔1と同様の方法で製造した。
【実施例4】
【0058】
本発明の実施例4に係る銅箔1は、銅めっき層20の形成に用いた銅めっき液に所定の添加剤を添加した点と銅めっき層20を形成する電流密度を5A/dmに設定して、8秒間の電解処理とした点以外は、実施例1に係る銅箔1と同様の方法で製造した。添加した添加剤は以下のとおりである。すなわち、硫酸銅五水和物180g/dm、硫酸100g/dm、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドを50mg/dm、ポリエチレングリコール3000を200mg/dm、及び塩化物イオンを50mg/dm含む水溶液を添加剤として用いた。
【実施例5】
【0059】
本発明の実施例5に係る銅箔1は、0.42μm厚の銅めっき層20を銅箔材10上に形成した点と銅めっき層20を形成する電流密度を20A/dmに設定して、7.5秒間の電解処理とした点以外は、実施例4に係る銅箔1と同様の方法で製造した。
【実施例6】
【0060】
本発明の実施例6に係る銅箔1は、0.71μm厚の銅めっき層20を銅箔材10上に形成した点と銅めっき層20を形成する電流密度を30A/dmに設定して、8.7秒間の電解処理とした点以外は、実施例4に係る銅箔1と同様の方法で製造した。
【実施例7】
【0061】
本発明の実施例7に係る銅箔1は、樹枝状銅めっき層を形成する時の電流密度を変更した点以外は、実施例1に係る銅箔1と同様の方法で製造した。すなわち、実施例7においては、樹枝状銅めっき層を形成する時の電流密度を45A/dmに設定すると共に、めっき時間を10秒間とした。
【実施例8】
【0062】
本発明の実施例8に係る銅箔1は、1.2μm厚の銅めっき層20を銅箔材10上に形成した点以外は、実施例1に係る銅箔1と同様の方法で製造した。
【0063】
(比較例1)
比較例1に係る銅箔は、銅箔材10上に銅めっき層を形成しない点を除き、本発明の実施例1と同様の方法で製造した。
【0064】
(比較例2)
比較例2に係る銅箔は、銅箔材10上に銅めっき層を形成するときの電流密度を35A/dmとした点を除き、本発明の実施例1と同様の方法で製造した。
【0065】
以上のようにして製造した実施例1〜8に係る銅箔1と、比較例1〜2に係る銅箔とのそれぞれについてその特性を評価した。
【0066】
なお、銅箔材10上に形成された銅めっき層の厚さは、Foucused Ion Beamを用いて銅箔に加工を施して、加工後の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより求めた。また、銅箔の表面の凹部の形状(凹部の斜面、及び斜面の傾斜)は、原子間力顕微鏡(AFM SPM−9500J、島津製作所社製)を用いて評価した。
【0067】
具体的には、銅めっき層を形成する前後において、銅箔材及び銅めっき層の表面を250μm×250μmの領域をAFMで走査して、走査した領域内の凹部の深さの平均値(Da及びDb)と、凹部の斜面の銅箔の表面に対する角度の平均値(θa及びθb)とを測定した。すなわち、本発明の実施の形態の図2及び図3において説明したのと同様に、Da及びDb、並びにθa及びθbを算出した。なお、実施例1〜8、及び比較例1〜2においてはそれぞれ、銅箔材表面の100か所の凹部、及び銅めっき層表面の100か所の凹部のそれぞれについて凹部の深さ及び斜面の角度を測定した。そして、測定結果から凹部の深さの平均値及び斜面の角度の平均値を算出した。
【0068】
また、粗化処理層を形成した後の銅箔の表面粗さは、JIS B0601−1994によるRzにより評価した。表面粗さは、表面粗さ測定機(SE500表面粗さ測定機、小坂研究所社製)を用いて評価した。
【0069】
図6は、銅箔の屈曲特性の評価方法の概要を示す。
【0070】
銅箔の屈曲特性の評価には、図6に示す屈曲特性を調べることのできる試験機を用いた。試験機は、振動発生源としての振動発生装置100と、振動発生装置100によって発生した振動を銅箔1に伝達して付与する振動付加部110と、銅箔1を所定の位置に固定する導体固定部130a乃至130dと、振動発生装置100を所定の台に固定する支持部120a及び120bとを備える。
【0071】
具体的に、銅箔1の一方の端部付近を導体固定部130aと130cとで固定して、銅箔1の他方の端部付近を導体固定部130bと130dとで固定すると共に、銅箔1の中央部に振動付加部110を接触させることにより、銅箔1を逆Wの字形状に保持した。なお、実施例1〜8、及び比較例1〜2に係る銅箔のそれぞれを、試験片の採取方向を圧延方向として、幅12.7mm、長さ200mmのテープ形状のサンプルにして屈曲特性を評価した。屈曲特性の測定は、曲率半径を2.5mm、ストロークを10mm、及び屈曲速度を1500回/分に設定したときの、サンプル破断時の屈曲回数を屈曲寿命として評価した。
【0072】
また、クレータ密度は、実施例及び比較例に係る銅箔表面の3mm×3mmの領域を光学顕微鏡を用いて撮影した光学顕微鏡写真中のクレータ数から求めた。
【0073】
以上のような手法を用いて、実施例及び比較例に係る銅箔の特性を評価した結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果から、実施例1〜8においては、銅箔材10の表面に銅めっき層20を形成してDa及びDb、並びにθa及びθbを減少させることにより、クレータ密度を比較例より低減させることができ、クレータ等の欠陥が少なく屈曲性の高い銅箔が形成できることが示された。
【0076】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態に係る銅箔の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る第1の凹部及び第2の凹部の深さの評価方法の概要図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る第1の凹部の斜面及び第2の凹部の斜面の傾斜の評価方法の概要図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る銅箔の製造工程のフローを示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る銅箔の断面図である。
【図6】銅箔の屈曲特性の評価方法の概要図である。
【符号の説明】
【0078】
1 銅箔
10 銅箔材
10a 表面
15 第1の凹部
15a 斜面
20 銅めっき層
20a 表面
25 第2の凹部
25a 斜面
30 粗化処理層
35 構造物
40 クレータ
100 振動発生装置
110 振動付加部
120a、120b 支持部
130a、130b、130c、130d 導体固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材と、
前記第1の凹部の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部を、前記第1の凹部に対応する位置に有して前記一方の表面上に設けられる銅めっき層と
を備える銅箔。
【請求項2】
前記銅箔材は、電解銅箔又は圧延銅箔である
請求項1に記載の銅箔。
【請求項3】
前記第1の凹部は、前記銅箔材の表面に対して第1の傾斜角度を有する第1の斜面を含み、
前記第2の凹部は、前記銅箔材の表面に対して第2の傾斜角度を有する第2の斜面を含み、
前記第2の傾斜角度の平均値は、前記第1の傾斜角度の平均値より小さい
請求項2に記載の銅箔。
【請求項4】
前記第2の傾斜角度の平均値は、1度以上10度以下である
請求項3に記載の銅箔。
【請求項5】
前記第2の凹部の深さの平均値は、0.1μm以上0.7μm以下である
請求項4に記載の銅箔。
【請求項6】
前記銅めっき層は、0.1μm以上1μm以下の厚さを有する
請求項5に記載の銅箔。
【請求項7】
前記銅めっき層上に設けられる粗化処理層
を更に備え、
前記粗化処理層は、複数の構造物を含み、前記一方の表面に略水平な前記銅めっき層の表面と、少なくとも一部の前記第2の凹部の表面とに形成される
請求項6に記載の銅箔。
【請求項8】
前記粗化処理層は、銅又は銅合金から形成され、0.5μm以上3μm以下の表面粗さ(Rz)を有する
請求項7に記載の銅箔。
【請求項9】
銅箔材を準備する銅箔材準備工程と、
前記銅箔材の表面に、限界電流密度未満の電流密度で銅めっき層を形成する銅めっき工程と
を備える銅箔製造方法。
【請求項10】
前記銅箔材準備工程は、一方の表面に第1の凹部を有する前記銅箔材を準備し、
前記銅めっき工程は、前記第1の凹部の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部を、前記第1の凹部に対応する位置に有する前記銅めっき層を形成する
請求項9に記載の銅箔製造方法。
【請求項11】
前記銅めっき層の表面に粗化処理層を形成する粗化処理工程
を更に備え、
前記粗化処理工程は、
前記限界電流密度以上の電流密度で電解処理する第1処理工程と、
前記第1処理工程後、前記限界電流密度未満の電流密度でめっき処理する第2処理工程と
を含む請求項10に記載の銅箔製造方法。
【請求項12】
前記銅めっき工程は、5A/dm以上30A/dm未満の電流密度で前記銅めっき層を形成する
請求項11に記載の銅箔製造方法。
【請求項13】
前記銅めっき工程は、メルカプト基を有する有機硫黄化合物、界面活性剤、及び塩化物イオンを含むめっき液を用いて前記銅めっき層を形成する
請求項12に記載の銅箔製造方法。
【請求項14】
一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材と、
前記第1の凹部に対応する位置に第2の凹部を有して前記一方の表面上に設けられる銅めっき層と
を備え、
前記第1の凹部は、前記銅箔材の表面に対して第1の傾斜角度を有する第1の斜面を含み、
前記第2の凹部は、前記銅箔材の表面に対して第2の傾斜角度を有する第2の斜面を含み、
前記第2の傾斜角度の平均値は、前記第1の傾斜角度の平均値より小さい銅箔。
【請求項15】
前記銅めっき層は、0.1μm以上1μm以下の厚さを有する
請求項14に記載の銅箔。
【請求項16】
一方の表面に第1の凹部を有する銅箔材と、
前記第1の凹部の深さの平均値より小さい深さの平均値を有する第2の凹部を、前記第1の凹部に対応する位置に有して前記一方の表面上に設けられ、0.1μm以上1μm以下の厚さを有する銅めっき層と
を備える銅箔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−37585(P2010−37585A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200073(P2008−200073)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】