説明

鋼板のレーザ溶接方法およびその装置

【課題】スパッタによる光学部品損傷の防止、および被溶接材へのスパッタの付着を防止することができるレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】複数の結晶体から構成される発振機11から放出され、光ファイバ12により伝送され、光学系14で集光されたレーザビームを用いて突き合わされた鋼板を溶接する方法であって、光学系と鋼板との間に、レーザビームの照射により形成される溶融池Cから飛散するスパッタに向け、横方向から、前記溶融池に直接あたらないように気体を噴射する第1の気体噴射手段17を配置し、該第1の気体噴射手段の噴射口の下端に沿う延長線Aと溶融池との垂直距離が3mm以下の範囲となるように溶融池の直上を横切って気体を噴射しながらレーザビームを照射して溶接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板のレーザ溶接方法およびその装置に関し、詳しくは溶接時に発生するスパッタが被溶接材表面に付着することによる溶接品質の低下や、レーザ光学部品に付着することによるレーザ光学部品の損傷を抑制することができる鋼板のレーザ溶接方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、高密度エネルギ光線であるレーザビームを光学部品により集光し、被溶接材に照射して被溶接材を溶融させる溶接法である。レーザ溶接は、アーク溶接などの他の溶接法に比べ、高速溶接が可能であり、かつ、その熱影響範囲が小さいという特徴を有する。
【0003】
レーザ溶接は、このような特徴を活かし、例えば、自動車の組み立て溶接やテーラードブランク溶接などの部材溶接への適用例が見られる。そのほか、鋼板を連続処理する例えば酸洗ラインや冷間圧延ラインなどの連続ラインにおいて、途切れることなく鋼板を連続ラインへ供給するために、先行する鋼板である溶接材の端面と、後行する鋼板である溶接材の端面とを接続する、いわゆるコイル継ぎ溶接工程に適用される例が見られる。
【0004】
しかし、一方で高密度エネルギを照射するが故に急激な金属の溶融を伴い、形成された溶融池から溶融金属が飛散することがある。これは、溶接部の品質を確保する上で問題となることがある。この飛散する溶融金属をスパッタという。
【0005】
例えば、部材組み立て溶接において、溶接部に外観品質が要求される場合、このスパッタが溶接部近傍に付着することにより著しく外観品質を損ねる。また、上記したようなコイル継ぎ溶接で溶接部周辺に付着したスパッタは、例えば、次の圧延工程でロールにより圧延されるが、このとき、スパッタにより圧延ロールに凹み傷を生じる。すると、以後の圧延において鋼板表面にロールからこの凹み傷が転写され、製品の外観品質を損なう。または、鋼板表面に付着したスパッタが鋼板内に押し込まれ、圧延工程における溶接部破断の要因となる。
このように、被溶接材に付着したスパッタは、溶接部の品質を低下させるため、研削等の必要が生じ、生産効率の阻害要因となっている。
【0006】
さらに、スパッタによる光学部品(保護ガラスやレンズ)への該スパッタの付着も溶接品質を維持する上で問題になることが多い。上述したように、レーザ溶接は、光学部品により集光した光を溶接熱源として用いる。そのため、集光レンズや保護ガラスの表面に付着したスパッタは、レーザ光を吸収することになり、被溶接材へのレーザ照射量を減じ、溶接不良の発生要因なる。さらに、レーザ光を吸収したスパッタは、高温となり、集光レンズや保護ガラスの破損を生じる虞がある。
【0007】
このような、溶接時に発生するスパッタの付着に対する対策として特許文献1〜5が開示されている。特許文献1にはスパッタ遮蔽板と高速気流によるスパッタの付着防止方法が開示されている。これによれば遮蔽板によりスパッタを遮蔽し、遮蔽板中の通光孔を通過するスパッタは高速気流により吹き飛ばすことができる。特許文献2には、レーザ加工ヘッドの先端を二重管状のノズルとし、外側のノズルで遮蔽カーテンを形成することが開示されている。特許文献3には、センターコーンから供給されるガス圧に対して0.6〜1.2倍のガス圧力のガスをサイドに設けたノズルから鋭角上方より噴射してスパッタを飛散させる方法が開示されている。これによれば、溶融池から飛散したスパッタに対し、離脱直後にサイドガス流により方向性を与え、レーザヘッド内に侵入するスパッタ量を低減させることができる。
【0008】
特許文献4には、保護ガラスによる保護に加え、加工ヘッド内に超音波ガスを流すことと、加工ノズル先端を漏斗形状とすることで、ノズル先端部の孔からスパッタを吸い込む能力を向上させ、加工ノズル内部で飛散するスパッタを効率良く吹き飛ばすことが開示されている。特許文献5には管の円周溶接を対象としてレーザ加工ノズルと被溶接材との間に横方向から流体を噴射する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2667769号公報
【特許文献2】特開平11−123578号公報
【特許文献3】特開平10−328876号公報
【特許文献4】特開平9−164495号公報
【特許文献5】特開2003−334686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の溶接では溶融池から放射状に発生するというスパッタの性質が考慮されておらず、特に被溶接材へのスパッタの付着を防止することが必ずしもできなかった。また、特許文献4に記載の溶接では、超音速のガス流により発生する吸引力が肝要となるが、溶融池から放射状に飛散するスパッタを吸引力だけで全てノズル内に引き込むには、当然、大きな吸引力が必要となり、この吸引力は、溶融池にも影響を及ぼし、溶接欠陥を生じる可能性が高いという問題があった。
【0011】
特許文献5に記載の溶接では、特にレーザ出力が大きい場合、スパッタ飛散量が多くなるため、加工ヘッドへのスパッタの付着が問題となる。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、スパッタによる光学部品損傷の防止、および被溶接材へのスパッタの付着を防止することができるレーザ溶接方法およびその装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、鋭意検討の結果、以下の知見を得て発明を完成させた。
(1)スパッタの飛散方向に対して横の方向から気体(不活性ガス、空気、その混合ガス)を吹き付けることにより、溶融金属は気体の噴射方向に吹き飛ばされる。これによりスパッタが鋼板表面に付着するまでの飛散時間が長くなるためスパッタの表面が十分に冷却され、また溶融池からより離れた鋼板温度が低い場所に飛散するため、鋼板表面への固着が防止され、鋼板表面への付着に伴う溶接品質欠陥の発生を防止することができる。
(2)スパッタは溶融池から放射状に飛散するため、鋼板表面に近い位置で気体を吹き付けることにより効果的にスパッタ付着を防止することができる。
(3)溶融池直上の噴射速度が大きいと、溶融池から溶融金属が流出し、スパッタが増加する。したがって、例えば、幅方向に二つの噴射口を有するノズルから気体を噴射し、溶融池直上に比べその周囲の噴射速度を高くすることにより、気体の吹き付けに伴う溶融池からの溶融金属の流出が抑制され、溶接品質の低下を防止できる。
【0014】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0015】
請求項1に記載の発明は、複数の結晶体から構成される発振機(11)から放出され、光ファイバ(12)により伝送され、光学系(14)で集光されたレーザビームを用いて突き合わされた鋼板を溶接する方法であって、光学系と鋼板との間に、レーザビームの照射により形成される溶融池(C)から飛散するスパッタに向け、横方向から、溶融池に直接あたらないように気体を噴射する第1の気体噴射手段(17)を配置し、該第1の気体噴射手段の噴射口の下端に沿う延長線(A)と溶融池との垂直距離が3mm以下の範囲となるように溶融池の直上を横切って気体を噴射しながらレーザビームを照射して溶接することを特徴とする鋼板のレーザ溶接方法を提供することにより前記課題を解決する。
【0016】
ここで、第1の気体噴射手段における「噴射口の下端に沿う延長線」とは、噴射口の下端形状により決まり、例えば噴射口の下端が、図1に示した例のように、鋼板1の上面に対して平行であれば、その延長線Aも鋼板1に平行となる。また、例えば噴射口の下端が末広がり状となっている場合には、該末広がり状の下端を延長するように延長線が形成される。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鋼板のレーザ溶接方法における気体が溶接進行方向に噴射されることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の鋼板のレーザ溶接方法における第1の気体噴射手段(27)から噴射する気体の速度分布が、鋼板表面に平行な断面において、噴射の方向の中央部で遅くなり、当該遅くなる部分が溶融池の真上を通過することを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼板のレーザ溶接方法における光学系(14)と第1の気体噴射手段(17)との間にスパッタに横方向から気体を噴射する第2の気体噴射手段(37)を配置し、該第2の気体噴射手段から第1の気体噴射手段の気体噴射範囲より上方に気体を噴射しながらレーザビームを照射して溶接することを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明は、鋼板の端部を突き合わせ、該突き合わせ部にレーザを照射して溶接する鋼板のレーザ溶接装置(10、30、40)であって、複数の結晶体から構成される発振機(11)と、該発振機から放出されるレーザビームを伝送する光ファイバ(12)と、光ファイバが接続され、コリメートレンズ(15)および集光レンズ(16)を有する光学系(14)と、レーザビームの照射により形成される溶融池(C)から飛散するスパッタに向け、横方向から、溶融池に直接あたらないように気体を噴射する第1の気体噴射手段(17)と、を備え、第1の気体噴射手段は、該第1の気体噴射手段の噴射口の下端に沿う延長線と溶融池との垂直距離が3mm以下の範囲となるように溶融池の直上を横切って気体を噴射可能に配置されることを特徴とする鋼板のレーザ溶接装置を提供することにより前記課題を解決する。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の鋼板のレーザ溶接装置における第1の気体噴射手段(27)は、鋼板に平行に並列される複数の噴射口を有するノズルを具備することを特徴とする。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の鋼板のレーザ溶接装置における第1の気体噴射手段(17、27)と鋼板との距離を調整する高さ調整手段(48)を備えることを特徴とする。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか一項に記載の鋼板のレーザ溶接装置における光学系(14)と第1の気体噴射手段(17、27)との間に、スパッタに横方向から、かつ第1の気体噴射手段の気体噴射範囲より上方に気体を噴射する第2の気体噴射手段(37)を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項5〜8のいずれか一項に記載の鋼板のレーザ溶接装置における発振機(11)は、並列に配置された複数のファイバ状またはディスク状の結晶体から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、レーザ溶接において、被溶接材や光学部品にスパッタが付着することを抑制することができ、被溶接材の品質の向上、及び光学部品の保護をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第一実施形態にかかる本発明の溶接装置の各構成を模式的に示した図である。
【図2】ノズル及び噴流が上向き又は下向きに傾けられた例を示す図である。
【図3】第二実施形態にかかる本発明の溶接装置に備えられるノズルを説明するための図である。
【図4】第三実施形態にかかる本発明の溶接装置のノズルの配置を説明するための図である。
【図5】第三実施形態にかかる本発明の溶接装置の各構成を模式的に示した図である。
【図6】第四実施形態にかかる本発明の溶接装置の各構成を模式的に示した図である。
【図7】第二実施形態にかかる本発明の溶接方法における噴流の速度分布と溶融池との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の上記した作用および利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0028】
始めに、本発明のレーザ溶接方法に供される装置の形態例について説明する。図1は第一実施形態にかかる本発明のレーザ溶接装置10に備えられる各構成を模式的に示した図である。溶接装置10は、レーザ発振機11、光ファイバ12、溶接ヘッド14、及びノズル17を備えている。また、溶接ヘッド14は、光学系として機能し、コリメートレンズ15、集光レンズ16を備える集光系を含むものである。以下に各構成について説明する。
【0029】
レーザ発振機11は、溶接熱源となるレーザを発振する装置である。溶接装置10でレーザ溶接に用いるレーザの種類は、光ファイバ12で伝送可能であれば特に限定されず、そのようなレーザを発振することができればよい。これには例えば、YAGレーザ、ディスクレーザ、ファイバレーザなどの発振機を挙げることができる。このように光ファイバで伝送することができるとともに、高出力を得ることが可能なレーザの使用により効率よく溶接をすることができる。レーザ出力は特に限定されるものではないが、高出力であるほど本発明の効果が顕著となる。
【0030】
光ファイバ12は、レーザ発振機11から溶接ヘッド14にレーザを伝送する手段である。光ファイバの適用により容易にレーザを伝送することができ、維持も容易な溶接装置10を提供できる。光ファイバ12の径は特に限定されるものではないが、通常1.0mm以下のものが用いられ、集光光学系のサイズとエネルギ密度の観点から径は小さい方がよく、0.6mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.2mm以下である。
【0031】
溶接ヘッド14は、光ファイバ12の出力端13に接続され、伝送されたレーザを導入し、該レーザを溶接に適するように制御して溶接部に出射する手段である。溶接ヘッド14にはコリメートレンズ15と集光レンズ16とが含まれ、上述した光ファイバ12の径、および両レンズの焦点距離の比により焦点径が決まる。例えば、光ファイバ12の径を小さくするとともに、コリメートレンズの焦点距離に対して集光レンズの焦点距離を小さくすることにより焦点径を小さくすることができる。詳しくは、ファイバ径をDfiber、コリメートレンズの焦点距離をF1、集光レンズの焦点距離をF2としたときに、焦点位置におけるスポット径Dは、D=Dfiber・(F2/F1)で表される。
【0032】
ノズル17はいわゆる噴射口を備える通常のノズルであり、その噴射口から気体を所定の方向に向けて噴射することができるものである。ここでノズルの種類は特に限定されるものではなく、あらゆる形態のノズルを適用することが可能である。これには例えば矩形の噴射口を有するフラットノズルや円管による丸管ノズル等を挙げることができる。
【0033】
図1にAで示した破線はノズル17の気体噴射方向の軸線、Bで示した点線で囲まれた部位は噴流が流れる領域を示している。Aはノズル17の噴射口の下端に沿う延長線を示し、Bで示した噴流の流れる領域の下端と概ね一致する。また、Cで示した部位は被溶接材である鋼板1における溶融池Cが形成される部位である。このように、溶接装置10では、ノズル17の軸線Aおよび延長線Aが溶融池Cの真上を通るように構成されるとともに、該軸線Aおよび延長線Aが鋼板1の上面に略平行である。当該軸線Aおよび延長線Aと溶接方向とは必ずしも一致する必要はないが、より効率的なスパッタの付着防止のため、軸線Aおよび延長線Aと溶接方向とは一致することが好ましい。また、図1に示したノズル17のように延長線Aが鋼板1の上面に平行になるように配置する場合の他、図2にノズル17’、延長線A’、又はノズル17’’、延長線A’’で示したように配置しても良い。すなわち、ノズル17’は延長線A’が延長線Aに対して上向きにθ’傾いており、ノズル17’’は延長線A’’が延長線Aに対して下向きにθ’’傾くように配置されている。このようなノズルの配置でも本発明の溶接装置とすることができる。ここでθ’、θ’’の大きさは特に限定されるものではないが、ノズルの配置等の観点からθ’、θ’’ともに0度〜30度であることが好ましく、特にθ’’は0度〜20度であることがさらに好ましい。
【0034】
ノズル17の幅(溶接進行方向と鋼板の板厚方向に直交する方向の噴射口幅)は、溶融池Cを覆うことのできるように、鋼板1表面位置における溶融池Cの幅の1倍程度以上とする。好ましくは3倍以上である。ノズルの厚さ(幅に直角方向の噴射口寸法)は、噴射流量や噴射圧力により適宜設定される。
【0035】
ノズル17の高さ方向(図1、図2の紙面上下方向)位置は、後述するようにノズル17の噴射口の下端に沿う延長線A、A’、A’’と、溶融池Cとの垂直距離(図1、図2にDで示した距離)が3mm以下となるように調整される。
【0036】
図3は、第二実施形態に係る本発明の溶接装置に備えられるノズル27を説明するための図である。第二実施形態の溶接装置では、ノズル27以外の各構成は溶接装置10に共通なので、ここでは説明を省略する。図3(a)はノズル27を噴射口側から見た図、図3(b)は、ノズル27が溶接装置に取り付けられた姿勢で上面側から見た図で、軸線や噴流を模式的に表している。
【0037】
ノズル27は、基部27aに2つの並列する噴射口27b、27cを有していることが特徴である。従ってノズル27は2つの軸線A2、A3を有する2つの噴流B2、B3を出射することが可能である。ここでノズル27の溶接装置への配置は、各噴射口27b、27cが被溶接材の面から同じ高さ位置となるように配置される。また、2つの軸線A2、A3の中間線であるA4が溶融部の真上を通るように設置される。そしてこの場合にもノズル27の噴射口27b、27cの下端に沿う延長線と、溶融池との垂直距離は3mm以下となるように調整される。
【0038】
図3(a)において、Liで示した噴射口の内側の間隔は、溶融池幅に対し狭くなり過ぎると、溶融池直上の噴射速度が大きく、溶融池から溶融金属が流出してスパッタが増加し、逆に溶融池幅よりも広いと、溶融池から飛散するスパッタを吹き飛ばすことができないため、溶融池幅に対し0.5倍以上1倍以下とすることが好ましい。また、Loで示した噴射口の外側の間隔は溶融池を覆うことのできるように、溶融池幅の1倍以上で、好ましくは3倍以上である。
【0039】
図4、図5は第三実施形態に係る本発明の溶接装置30を説明するための模式図で、特
に溶接装置30に備えられる第1の気体噴射手段のノズル17、第2の気体噴射手段のノズル37の配置に注目した図である。図4は鋼板1’、2’のレーザが照射される面側から溶接装置30を見たときにノズル17、37がどのように配置されているかを模式的に表している。図5は溶接装置30を正面側から見た図で、各構成を模式的に表した図である。図4、図5からわかるように、溶接装置30では、溶接装置10の構成に加えてさらにもう1つのノズル37が備えられていることが特徴である。溶接装置30におけるノズル37以外の各構成については溶接装置10と共通するのでここでは説明を省略する。図4にEで示した線はノズル37の軸線を、Fで示した領域は噴流が通る範囲をそれぞれ表すものである。
【0040】
図4、図5では、ノズル37は、ノズル17の軸線Aとノズル37の軸線Eとが角度φのねじれの位置となる関係を有するように配置されている。しかし、必ずしもねじれの位置となる関係を有するように配置される必要はなく、軸線Aと軸線Eとが同じ方向となるように配置されてもよい。角度φは、50度以内とするのが好ましい。
ノズル37の噴流がノズル17の噴流に干渉すると、ノズル17によるスパッタ吹き飛ばし効果が低下するため、ノズル37の噴流がノズル17の噴流と干渉しない距離Gを選定するのがよい。ここで、Eは、ノズル37の噴射口の下端の延長線である。具体的には、ノズル37の距離Gはノズル17の噴射口の上端の軸線に平行な延長線の高さ以上とすることが望ましい。上限は特に限定されないが、実質的には集光レンズにスパッタが付着しないように、ノズル37は集光レンズ16より下方に設置する。なお、図4、図5では、ノズル37を1個設ける例を示したが、この例に限定されるものでなく複数個のノズルを配置しても良い。
【0041】
また、ノズル37もノズル17と同様、その噴射口の下端に沿う延長線Eが溶融池Cの真上を通るように構成されるとともに、該延長線Eが鋼板1’の上面に略平行である。しかし、これに限定されることはなく、ノズル37もノズル17’、17’’のように、ノズル噴射口の下端に沿う延長線が鋼板の上面に対して角度を有して配置されてもよい。なお、ノズル37は、その水平方向の噴射口の幅が溶融池の幅以上で集光レンズの径以下とするのがよい。ノズル37の噴射口厚さは、噴射流量や噴射圧力とにより適宜設定される。
【0042】
図6は第四実施形態に係る溶接装置40を説明するための図である。溶接装置40では溶接装置10の構成に加えてさらに、ノズル高さ調整手段48が備えられている。ノズル高さ調整手段48以外の構成については溶接装置10の各構成と共通するのでここでは説明を省略する。
【0043】
ノズル高さ調整手段48は、ノズル高さ方向(図6の紙面上下方向)位置を変更させる手段である。これによれば、例えば溶接部に照射されるスポットを焦点位置からずらす(デフォーカス)、又はデフォーカスの量を変更するに伴い、ノズル17の高さを変更する必要に応じて容易にノズルの位置を変更させることができる。当該ノズル高さ調整手段48は、図6に示したように、光学系14に組み込み、一体化された構造であってもよい。
【0044】
ノズル高さ調整手段48の高さ調整のために備えられる機構等は特に限定されるものではない。例えば機械的に構成された機構であってもよいし、電気的に位置を検出して予め記憶させておいたプログラム位置に自動に移動するように構成されていてもよい。
【0045】
以上説明したような溶接装置10、30、40等により、スパッタによる光学部品損傷の防止、および被溶接材へのスパッタの付着を防止することができる。
【0046】
次に、本発明の溶接方法について説明する。わかりやすさのため、ここでは上記した溶接装置を用いて溶接することを説明するが、本発明の溶接方法はこれに限定されることはなく、本発明の効果を奏するあらゆる装置を用いることができる。
【0047】
第一実施形態にかかる本発明の溶接方法M1は、例えば溶接装置10を用いて溶接されることによりおこなわれる。すなわち図1に表れているように、突き合わせられた鋼板1、2をレーザビームを用いて溶接する場合において、ノズル17の噴射口下端に沿う延長線Aと、溶融池Cとの垂直距離(図1にDで示した距離)が3mm以内とされる。好ましくは2mm以内である。
【0048】
これにより、スパッタとして飛散した溶融金属は噴流の下流方向に吹き飛ばされる。そしてスパッタが鋼板表面に付着するまでの飛散時間が長くなるためスパッタの表面が十分に冷却され、また溶融池からより離れた鋼板温度が低い場所に飛散するため、鋼板表面への固着が防止される。これにより、鋼板表面への付着に伴う溶接品欠陥の発生を防止することができる。同様に光学機器への付着も抑制することが可能となる。
【0049】
また、ノズルの下端に沿う延長線と、溶融池との垂直距離を3mm以内と小さくすることで溶融池から上方に放射状に飛散するスパッタに対して当該放射状であるうちのまだあまり広がっていない段階で噴流を当てることができ、効率よくスパッタ付着を防止することができる。
【0050】
噴流は、溶融池の上面に対して水平であることが好ましいが、これに限定されることはなく、溶融池の上面に対して離れる、または近づく方向に角度を有してもよい。当該角度は特に限定されるものではないが、噴流が直接に溶融池に当たると該溶融池から溶融金属が流れ出すことがあることから、図2に示したθ’、θ’’において、θ’、θ’’ともに0度〜30度であることが好ましく、特にθ’’は0度〜20度であることが好ましい。
【0051】
噴射される気体の種類は特に限定されるものではないが、圧縮空気や不活性ガス、酸素、窒素等を用いることができる。噴流の条件としては例えば圧縮空気で圧力0.3MPa〜0.7Mpaで流量100L/分〜300L/分であることが望ましい。
【0052】
第二実施形態に係る本発明の溶接方法M2は例えば第二実施形態に係る溶接装置を用いて行われる。すなわち溶接方法M2では、溶接方法M1に加えて噴流の速度分布に特徴がある。具体的には、図7に示したように、その流速分布が中央部で遅くなる。そして当該速度分布において、中央の遅くなる部分が溶融池の真上を通過するように溶接される。これにより溶融池への噴流の直接的な影響を減じることが可能となる。従って、噴流をより溶融池に近づけることが可能となり、さらに効率よくスパッタの付着を防止することができる。
【0053】
第三実施形態にかかる本発明の溶接方法M3は例えば溶接装置30を用いて行われる。すなわち、溶接方法M1又は溶接方法M2において供給される第1の噴流に加え、光学機器に近い側の高さ位置に第2の噴流が噴射されつつ溶接が行われる。当該第2の噴流は図5に表れるノズル37等により供給され、噴流の配置等については上記した通りである。これによれば、光学機器に近い側にも噴流が備えられるので、光学機器へのスパッタの付着をさらに抑制することが可能となる。
【0054】
以上説明したような溶接方法M1〜M3等により、スパッタによる光学部品損傷の防止、および被溶接材へのスパッタの付着を防止することができる。なおここまで被溶接材として鋼材を例に説明したが、これに限定されることはなく、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム等の他の金属の板材にも適用可能である。
【実施例】
【0055】
次に実施例によりさらに詳しく説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例では、様々な条件下で鋼板の突き合わせ溶接をおこない、その時のスパッタ付着状況を評価した。以下に詳しく説明する。
【0057】
<条件>
各例における共通の条件は次の通りである。
・供試鋼板:低炭素鋼(C:0.02質量%)、板厚6.0mm
・レーザ発振機:ファイバレーザ発振機、出力10kW
・コリメートレンズ:焦点距離125mm
・集光レンズ:焦点距離200mm
・スポット条件:デフォーカス量5mm
・溶接速度:3.4m/分
【0058】
その他の条件を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
ここで、第1の噴射ノズルとして、フラットノズル又は丸管隣接ノズルを用いた。フラットであるノズル形状では、噴流の横断面において概ね均一な速度分布を得ることができる。一方、丸管隣接ノズルは、内径4mm、外径6mmの丸管2本を水平方向に隣接したノズルを用い、これにより図7に示したような、噴流の横断面において中央の速度が遅い速度分布を得ることができる。いずれのノズルもノズル先端位置がレーザ光路より12mm離れた位置に配置し、圧力0.5MPa、100L/分の圧縮空気を噴射した。
【0061】
第2の噴射ノズルとして、幅50mmのフラットノズルを用い、被溶接材表面から50mmの高さで、その軸線が第1の噴射ノズルの軸線と同じ方向になるように配置し、圧力0.5MPaの圧縮空気を300L/分で噴射した。
【0062】
ノズルの高さ方向位置は、ノズルの噴射口下端に沿う延長線と、溶融池との垂直距離で定義される。
【0063】
噴射角度(垂直角)は、鋼板表面に平行な線に対する上下方向の傾きを意味し、No.7、8はそれぞれ下向きに15°、40°である。噴射角度(水平角)のうち前向きとは、溶接進行方向に噴射をすることを意味し、その角度は被溶接材の上面に平行な面内における溶接進行方向に対する角度である。また、後向きとは、溶接進行方向とは反対に噴射をすることを意味する。第2の噴流のノズルは、いずれの例でも噴射角度(垂直角)は0°、噴射角度(水平角)は前向きに0°である。
【0064】
<評価>
溶接の評価は、スパッタの飛散高さおよび被溶接材へのスパッタ付着個数で行った。スパッタの飛散高さは、溶接部直上に飛散するスパッタを目視し、被溶接材表面から100mmを越える場合には「高」、50mmを越える場合には「中」、それ以下を「低」として、3水準にて判定した。そして、「中」および「低」を光学系レンズへのスパッタ付着がなく良好とした。被溶接材へのスパッタ付着個数は溶接長100mmあたりに付着しているスパッタの個数を数え、5個以下を良好とした。また、これらの評価から、スパッタ付着としての総合判定を行い、◎、○、×の3水準で評価し、前から順に、特に良好、良好、不良とした。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2からわかるように、本発明例の溶接によれば、いずれも被溶接材へのスパッタ付着個数を少なく抑えることができた。総合判定も良好以上である。一方、比較例の溶接によれば、No.1、2のように、被溶接材へのスパッタ付着が20個以上と多くなった。また、No.6では第1の噴射ノズルの噴射口下端の軸線に平行な延長線と溶融池との垂直距離が高さが4mmであり、4mm以下の大粒のスパッタが被溶接材表面に10個以上付着した。
【0067】
以上、現時点において最も実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、レーザ溶接方法、およびその装置も本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0068】
1 被溶接材
2 被溶接材
10 レーザ溶接装置
11 レーザ発振機
12 光ファイバ
14 溶接ヘッド(光学系)
15 コリメートレンズ
16 集光レンズ
17、27 ノズル(第1の気体噴射手段)
37 ノズル(第2の気体噴射手段)
48 高さ調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の結晶体から構成される発振機から放出され、光ファイバにより伝送され、光学系で集光されたレーザビームを用いて突き合わされた鋼板を溶接する方法であって、
前記光学系と前記鋼板との間に、前記レーザビームの照射により形成される溶融池から飛散するスパッタに向け、横方向から、前記溶融池に直接あたらないように気体を噴射する第1の気体噴射手段を配置し、
該第1の気体噴射手段の噴射口の下端に沿う延長線と前記溶融池との垂直距離が3mm以下の範囲となるように前記溶融池の直上を横切って前記気体を噴射しながらレーザビームを照射して溶接することを特徴とする鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記気体が溶接進行方向に噴射されることを特徴とする請求項1に記載の鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記第1の気体噴射手段から噴射する気体の速度分布が、前記鋼板表面に平行な断面において、前記噴射の方向の中央部で遅くなり、当該遅くなる部分が前記溶融池の真上を通過することを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記光学系と前記第1の気体噴射手段との間に前記スパッタに横方向から気体を噴射する第2の気体噴射手段を配置し、
該第2の気体噴射手段から前記第1の気体噴射手段の気体噴射範囲より上方に気体を噴射しながらレーザビームを照射して溶接する請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項5】
鋼板の端部を突き合わせ、該突き合わせ部にレーザを照射して溶接する鋼板のレーザ溶接装置であって、
複数の結晶体から構成される発振機と、
該発振機から放出されるレーザビームを伝送する光ファイバと、
前記光ファイバが接続され、コリメートレンズおよび集光レンズを有する光学系と、
前記レーザビームの照射により形成される溶融池から飛散するスパッタに向け、横方向から、前記溶融池に直接あたらないように気体を噴射する第1の気体噴射手段と、を備え、
前記第1の気体噴射手段は、該第1の気体噴射手段の噴射口の下端に沿う延長線と前記溶融池との垂直距離が3mm以下の範囲となるように前記溶融池の直上を横切って前記気体を噴射可能に配置されることを特徴とする鋼板のレーザ溶接装置。
【請求項6】
前記第1の気体噴射手段は、前記鋼板に平行に並列される複数の噴射口を有するノズルを具備することを特徴とする請求項5に記載の鋼板のレーザ溶接装置。
【請求項7】
前記第1の気体噴射手段と前記鋼板との距離を調整する高さ調整手段を備える請求項5又は6に記載の鋼板のレーザ溶接装置。
【請求項8】
前記光学系と前記第1の気体噴射手段との間に、前記スパッタに横方向から、かつ前記第1の気体噴射手段の気体噴射範囲より上方に気体を噴射する第2の気体噴射手段を備えることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の鋼板のレーザ溶接装置。
【請求項9】
前記発振機は、並列に配置された複数のファイバ状またはディスク状の結晶体から構成される請求項5〜8のいずれか一項に記載の鋼板のレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−192457(P2012−192457A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151611(P2012−151611)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2008−3619(P2008−3619)の分割
【原出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】