説明

鋼組成物および鍛造型によって鍛造された部品

重量%で以下の成分:C:0.12−0.45、Si:0.10−1.00、Mn:0.50−1.95、S:0.005−0.060、Al:0.004−0.050、Ti:0.004−0.050、Cr:0−0.60、Ni:0−0.60、Co:0−0.60、W:0−0.60、B:0−0.01、Mo:0−0.60、Cu:0−0.60、Nb:0−0.050、V:0.10−0.40、N:0.015−0.040、残部:Feおよび不可避不純物、ただし、1)重量%V x 重量%N=0.0021から0.0120、2)1.6x重量%S + 1.5x重量%Al + 2.4x重量%Nb + 1.2x重量%Ti=0.035から0.140、3)1.2x重量%Mn + 1.4x重量%Cr + 1.0x重量%Ni + 1.1x重量%Cu + 1.8x重量%Mo=1.00から3.50を含むことを特徴とする鋼組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の鋼組成物、それから製造されたダイ成形品、そのダイ成形品を製造する方法、および乗用車および商用車のシャシー部品としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の鍛造されたシャシー構成部品は、高度の強度とは別に、高度の靭性(例えば、破断時の伸び、破断時の収縮、ノッチ付衝撃強さの特性値によって特徴付けられる)が要求される安全に関わる部品である。それゆえ、1980年代に入るまで、これらの構成品は、殆ど例外なく、熱間成形後に、高価および/または面倒な最終的な熱処理(焼入れおよび焼戻し)が行われていた。1980年代では、“析出硬化フェライト-パーライト鋼”("Ausscheidungshartende Ferritisch-Perlitische Stahle", AFP-Stahle)が開発され、特徴的な強度値が、フェライト-パーライト鋼マトリックスにおけるカルボニトリド類の析出によって最終的な熱処理無しに達成された。今日、乗用車用のシャシー部品の鍛造鋼構成部品については、これらの鋼の使用が通例である。これらの鋼の処理において、鋼のコンバーションとカルボニトリド類の析出が互いに最適に適合するように温度コントロールを調節することが重要である。
【0003】
商用車では、アクスルレッグ(axle legs)のような、安全に関連性のあるシャシー部品が、今日に至るまで、焼入れおよび焼戻しされた鋼から、すなわち、高価および/または面倒な最終的な熱処理を用いて、ほぼ独占的に製造されている。これには以下の理由が挙げられるかもしれない:
【0004】
商用車部品に対するより高いひずみ、それゆえ、より高度の特定の強度、これと同時にその材料のより高度に要求される靭性。特に、保証されるべきノッチ付衝撃強さを含む、規格の達成がしばしば必要とされる。これは、今日市場にある対応強度の析出硬化フェライト-パーライト鋼では不可能である。
【0005】
その顕著に多い重量から、商用車部品は、乗用車部品とは明らかに相違する方式で、熱間成形温度から冷却される。温度コントロールは達成可能な機械的特性値(上記参照)に重大な影響を有することから、今日利用できる析出硬化フェライト-パーライト鋼では、乗用車用部品に通常見られるようなより低い機械特性値でさえ、商用車用部品にはほとんど実現不可能である。
【0006】
過去数年で求められてきた商用車部門における材料開発の方向は、後で焼戻しすることなく変形熱から低炭素鋼を直接焼入れおよび焼戻しすることによって、ベイナイト構造条件を達成し、かつ、高価な最終的な焼入れおよび焼戻しを節約することを目的としていた(DE-PS3628264A1、DE-PS4124704A1、US-PS5,660,648参照)。しかしながら、この技術では、低弾性率、比較的低い耐クリープ性、および特性の不均等性、並びに歪み増加傾向が、問題となる。商用車用の安全に関するシャシー部品の領域ではそれ自身確立されてはいない。
【0007】
フェライト-パーライト構造を有する析出硬化“AFP”-鋼の分野では、商用車のシャシーの分野でもこの群の鋼を用いることができるように、靭性を改善する目的で多くの開発研究が行われた(Hertogs,J.A.,Ravenhorst,H; Richter,K.E.; Wolff,J.: Neuere Anwendungen der ausscheidungshartenden ferritisch-perlitischen Stahle fur geschmiedete Bauteile im Motor und Fahrwerk, Conference "Stahl im Automobilbau",Wurzburg,24-26 Sep.1990;およびHuchtemann,B.;Schuler,V.:Entwicklungsstand der ausscheidungshartenden ferritisch-perlitischen (AFP-)Stahle mit Vanadium.Stahl 2/1992,p.36-41参照)。かくして、例えば成形温度を低減することにより、僅かな改善が達成された。しかしながら、鋳型鋳込み特性が、低減された成形温度では明らかに劣っており、工具摩耗が大幅に増加することから、このような変更は事業上の用途に適していなかった。
【0008】
さらなる変更は、結晶粒微細化、およびそれ故、靭性改善のためのチタン合金添加剤に着目するものであった。ここでの課題は、結晶粒微細化が窒化チタンによって達成されることである。靭性増加に必要な窒素が結合形態であり、かくして利用可能ではない。この結果、焼入れおよび焼戻しされた鋼と比較してはるかに劣る靭性となることであった。
【特許文献1】DE-PS3628264A1
【特許文献2】DE-PS4124704A1
【特許文献3】US-PS5,660,648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ、本発明の主要な課題は、ダイ成形品の製造のための析出硬化フェライト-パーライト鋼の鋼組成物であって、さらなる熱処理を伴わずに、高度の強度を示すと同時に構成部品において高度の靭性を示し、かくして商用車のシャシー部品としても使用可能な鋼組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、重量%で示した以下の成分を含む鋼組成物によって解決される:
C: 0.12−0.45
Si: 0.10−1.00
Mn: 0.50−1.95
S: 0.005−0.060
Al: 0.004−0.050
Ti: 0.004−0.050
Cr: 0−0.60
Ni: 0−0.60
Co: 0−0.60
W: 0−0.60
B: 0−0.01
Mo: 0−0.60
Cu: 0−0.60
Nb: 0−0.050
V: 0.10−0.40
N: 0.015−0.040
残り:Feおよび不可避不純物
ただし、
1)重量%V x 重量%N=0.0021から0.0120
2)1.6x重量%S + 1.5x重量%Al + 2.4x重量%Nb + 1.2x重量%Ti=0.035から0.140
3)1.2x重量%Mn + 1.4x重量%Cr + 1.0x重量%Ni + 1.1x重量%Cu + 1.8x重量%Mo=1.00から3.50。
【0011】
本発明の要点は、所定レベルの強度において、鋼の炭素濃度を今日の通常用いられる濃度と比較して低減することにより、必要とされる靭性の改善が達成されることである。従来技術では係る測定に期待される強度の損失が、本発明によれば、完全に解消されるだけでなく、残りの成分の特定の組み合わせにより過補償すらされるのである。
【0012】
低い炭素含量にもよらず高い強度とするのに重要な必須のファクターは、特に以下の通りである。
−0.10重量%から0.40重量%のバナジウム含量、および0.015重量%から0.040重量%の窒素含量、ここで以下の条件が本発明に従って満たされるべきである:重量%V x 重量%N=0.0021から0.0120;
好ましくは重量%V x 重量%N=0.0028から0.0060。
−微量合金元素Ti、AlおよびNbと硫黄のバランスのとれた比率、ここで以下の条件が本発明に従って満たされるべきである:
1.6x重量%S + 1.5x重量%Al + 2.4x重量%Nb + 1.2x重量%Ti=0.035から0.140;
好ましくは1.6x重量%S + 1.5x重量%Al + 2.4x重量%Nb + 1.2x重量%Ti=0.040から0.080。
−混晶の強度を増加する合金元素のバランスのとれた比率、ここで以下の条件が本発明に従って満たされるべきである:
1.2x重量%Mn + 1.4x重量%Cr + 1.0x重量%Ni + 1.1x重量%Cu + 1.8x重量%Mo=1.00から3.50;
好ましくは、1.2x重量%Mn + 1.4x重量%Cr + 1.0x重量%Ni + 1.1x重量%Cu + 1.8x重量%Mo=1.65から2.80。
【0013】
上記鋼組成物は、乗用車または商用車のアクスルレッグのようなシャシー部品として使用できるダイ成形品の製造に極めて適している。
【0014】
本発明に係るダイ成形品は以下の工程を含む方法によって製造される:
(a)上記鋼組成物からなるインゴーイング材料を1000から1300℃の温度まで加熱する工程;
(b)鍛造により工程(a)のインゴーイング材料を成形する工程;
(c)工程(b)で得られたダイ成形品を室温まで冷却する工程であって、ここで冷却速度は580℃まで降下する温度範囲で少なくとも0.2℃/sである工程。
【0015】
本発明に係る製造方法を、以下において個々の製造工程に関してより詳細に記載する。
【0016】
最初に、工程(a)において、例えば長い鋼のような、商業的に入手可能な形状寸法の本発明に係る鋼組成物から製造されたインゴーイング材料を1000から1300℃まで加熱する。この材料を、少なくとも均質なオーステナイト構造が形成されるまでこの温度範囲に維持する。通常は、この継続時間は5から10分である。このダイ成形品が商用車のシャシー部品として用いられる場合には、インゴーイング材料が15kgより大きい重量を有することが好ましい。乗用車のシャシー部品として用いられるダイ成形品の場合には、5から14kgの重量のインゴーイング材料が通常用いられる。
【0017】
工程(b)では、インゴーイング材料は、通常の成形方法において、一以上の成形工程で所望の形状に鍛造することによって成形される。好ましくは、工程(b)の成形方法は、インゴーイング材料が成形中に950から1250℃の範囲の温度を有するように、工程(a)におけるインゴーイング材料の加熱の直後に行われる。
【0018】
工程(c)では、工程(b)で得られたダイ成形品を室温まで冷却する。ここで、冷却速度は、580℃の温度まで少なくとも0.2℃/sである。
【0019】
冷却速度によって、ダイ成形品の機械特性が、要求に沿って決められる方式で調節できる。
【0020】
本発明に係る鋼からなるダイ成形品の580℃までの冷却時の冷却速度は、好ましくは0.2から6℃/sの範囲で選択される。より好ましくは、冷却速度は、0.2から0.6℃/sの範囲である。これは、静止空気中の重い商用車部品の冷却に対応する。これは、工程(b)の商用車のダイ成形品が単に空気中に放置することにより冷却できるという利点を有する。
【0021】
商用車のシャシーに必要とされる特に高い強度および靭性の値を達成する場合、580℃まで0.7℃/sから6℃/sの冷却速度とすることが特に好ましい。15kgより多い重量の商用車用部品についてこの範囲内に冷却速度を設定することは、例えば、アクティブな水ノズルの数およびその方向、並びに圧力および流速に関して柔軟な水冷ストレッチの手段によって達成される。
【0022】
本発明に係る鋼からなる軽い乗用車部品の場合には、冷却速度と特性との間に同じ関係が適用される。乗用車部品のより低い重量のため、加速冷却は、商用車部品に比べて、冷却速度が所定の範囲の上半分にある場合に、冷却速度を設定することのみに必要とされる。約0.7から約2.0℃/sの冷却速度は、静止空気中で単に冷却することで自動的に行われる。
【0023】
580℃より低いところでの冷却速度は、任意に選択することができ、得られたダイ成形品の強度および靭性に何ら影響しない。
【0024】
本発明に従って製造されたダイ成形品は、成形熱からの冷却後に以下の機械特性を示す:
−室温におけるDIN EN 10002に従う引張り試験:
オフセット降伏強さ:Rp0.2≧540MPa、好ましくは540−850MPa
引張り強さ:Rm≧700MPa、好ましくは700−1100MPa
破断時の伸び:A5≧10%、好ましくは10−16%
破断時の収縮:Z≧20%、好ましくは20−50%
−DIN EN 50115に従うISO-Uサンプルに対する衝撃試験:
切欠き棒衝撃効果:Av(RT)≧30J、好ましくは30−70J
切欠き棒衝撃効果:Av(−20℃)≧10J、好ましくは10−25J
【0025】
特に好ましい方法に従って製造されたダイ成形品は、選択された冷却速度に依存して、以下の機械特性値を示す:
Rp0.2=580−680MPa
Rm=800−900MPa
A5=14−16%
Z=35−50%
Av(RT)=30−40J
Av(−20℃)=10−20J
【0026】
同様に、特に好ましい方法によれば、以下の特性を有するダイ成形品を製造することができる:
Rp0.2=800−850MPa
Rm=1050−1100MPa
A5=10−12%
Z=20−30%
【0027】
上記特性は、本発明に係るダイ成形品が、従来技術と比較して、成形熱からの冷却後に、高度の強度を示すと同時に高度の靭性をも同時に示すことを明示する。それゆえ、本発明に係るダイ成形品は、乗用車、さらには商用車のアクスルレッグのような安全に関するシャシー構成部品として用いることができる。
【0028】
本発明を、以下の実施例を用いてより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
実施例1
以下の化学組成を有する鋼の使用
C: 0.14重量%
Si: 0.40重量%
Mn: 1.00重量%
S: 0.020重量%
Al: 0.035重量%
Ti: 0.015重量%
Nb: 0.005重量%
Cr: 0.45重量%
Ni: 0.10重量%
Cu: 0.15重量%
Mo: 0.10重量%
V: 0.25重量%
N: 0.030重量%
【0030】
140mmの断面積を有する棒鋼を1250℃まで誘導加熱し、この温度で10分間鋼を維持する。
【0031】
予備据込み操作、二回の仕上げ成形操作、およびトリミング操作において角棒材料を30kgの重量のアクスルレッグへと鍛造する。成形処理の最後におけるアクスルレッグの温度は1100℃である。
【0032】
3.9℃/sの冷却速度で冷却ストレッチ上で1100℃から580℃までアクスルレッグを冷却する。
【0033】
このアクスルレッグは、室温においてDIN EN 10002およびDIN EN 50115に従って測定して、以下の機械特性を示した。
Rp0.2=580MPa
Rm=750MPa
A5=16%
Z=55%
Av(室温)=50J
Av(−20℃)=20J
【0034】
実施例2
以下の化学組成を有する鋼の使用
C: 0.37重量%
Si: 0.40重量%
Mn: 0.90重量%
S: 0.035重量%
Al: 0.015重量%
Ti: 0.035重量%
Nb: 0.010重量%
Cr: 0.10重量%
Ni: 0.50重量%
Cu: 0.20重量%
Mo: 0.10重量%
V: 0.28重量%
N: 0.032重量%
【0035】
140mmの断面積を有する棒鋼を1250℃まで誘導加熱し、この温度に10分間鋼を維持する。
【0036】
予備据込み操作、二回の仕上げ成形操作、およびトリミング操作において角棒材料を38kgの重量のアクスルレッグへと鍛造する。成形処理の最後におけるアクスルレッグの温度は1150℃である。
【0037】
0.5℃/sの冷却速度で静止空気中で1150℃から580℃までアクスルレッグを冷却する。
【0038】
このアクスルレッグは、室温においてDIN EN 10002に従って測定して、以下の機械特性を示した。
Rp0.2=700MPa
Rm=1000MPa
A5=12%
Z=30%
【0039】
実施例3
実施例2に記載の鋼の使用。
実施例2に従って、38kgのアクスルレッグを加熱および成形。
1.8℃/sの冷却速度で冷却ストレッチ上で1150℃から580℃までアクスルレッグを冷却。
【0040】
このアクスルレッグは、室温においてDIN EN 10002に従って測定して、以下の機械特性を示した。
Rp0.2=820MPa
Rm=1080MPa
A5=10%
Z=20%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で以下の成分:
C: 0.12−0.45
Si: 0.10−1.00
Mn: 0.50−1.95
S: 0.005−0.060
Al: 0.004−0.050
Ti: 0.004−0.050
Cr: 0−0.60
Ni: 0−0.60
Co: 0−0.60
W: 0−0.60
B: 0−0.01
Mo: 0−0.60
Cu: 0−0.60
Nb: 0−0.050
V: 0.10−0.40
N: 0.015−0.040
残部:Feおよび不可避不純物
ただし、
1)重量%V x 重量%N=0.0021から0.0120
2)1.6x重量%S + 1.5x重量%Al + 2.4x重量%Nb + 1.2x重量%Ti=0.035から0.140
3)1.2x重量%Mn + 1.4x重量%Cr + 1.0x重量%Ni + 1.1x重量%Cu + 1.8x重量%Mo=1.00から3.50
を含むことを特徴とする鋼組成物。
【請求項2】
鋼が請求項1記載の組成を有することを特徴とする、鋼からなるダイ成形品。
【請求項3】
以下の工程:
(a)1000から1300℃の温度まで請求項1記載の鋼組成物からなるインゴーイング材料を加熱する工程;
(b)鍛造により工程(a)のインゴーイング材料を成形する工程;
(c)工程(b)で得られたダイ成形品を室温まで冷却する工程であって、ここで580℃までの温度範囲の冷却速度が少なくとも0.2℃/sである工程
を含む、請求項2記載のダイ成形品を製造する方法。
【請求項4】
580℃の温度まで0.2℃/sから0.6℃/sの冷却速度で工程(c)の冷却を行うことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
580℃の温度まで0.7℃/sから6℃/sの冷却速度で工程(c)の冷却を行うことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
商用車のシャシー部品としての、請求項3ないし5のいずれか一項に記載の方法によって得られるダイ成形品の使用。
【請求項7】
乗用車のシャシー部品としての、請求項5記載の方法によって得られるダイ成形品の使用。

【公表番号】特表2006−500474(P2006−500474A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540590(P2004−540590)
【出願日】平成15年9月5日(2003.9.5)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009893
【国際公開番号】WO2004/031428
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505110572)ツェーデーペー・バーラート・フォルゲ・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】