説明

鍛造用金型装置

【課題】 多段鍛造の場合の工程数の削減や鍛造成形荷重の低減を図り、プレス能力の小さなプレス機械においても従来と同等以上の加工精度で機械部品を製造することが可能な鍛造用金型装置を提供する。
【解決手段】 鍛造用金型装置1は、油圧シリンダ50の油圧を上げてフローティング型81を押し上げて保持した状態で、上型90をフローティング型81に近づけて素材101を押圧して1段目の段差を形成し、油圧シリンダ51の油圧を逃がしてフローティング型81の下面を下段型86の上面に当接させた状態で、上型90をフローティング型81に近づけて素材101を押圧して2段目の段差を形成し、引き続き上型90をフローティング型81に近づけて素材101をさらに押圧し、上型90の下面とフローティング型81の上面とで形成された隙間に素材101の材料の一部を分流させてフランジを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造用金型装置に関し、特に素材を押圧し所定形状に成形する据込み鍛造用金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、産業機械等に用いられる機械部品の製造方法として、型鍛造が知られている。型鍛造は、対をなす金型(ダイス)同士、つまり上型及び下型を、ダイセットを介してプレス機に取り付けて、金属素材(ビレット)がセットされた金型同士を相対運動させ、金型内のパンチやスライダによって金属素材(以下、素材という)に圧力を加え(押圧し)塑性流動させて成形する方法である。型鍛造は、鍛流線 (fiber flow) が連続することで組織が緻密になることから、鋳造に比べて強靭な機械部品をつくることができる。
【0003】
これら機械部品を製造するに際して、生産コストの低減と付加価値の向上を目指した努力が継続して行われている。その一例として、複動プレスによる機械部品の成形がある。そして、例えば、自動車のトランスミッションシャフトは、その軸の段数に応じた多工程成形用のトランスファープレスにて多段鍛造が実施されている。また、例えば、CVTシャフト(CVT: Continuously Variable Transmission)やベアリングレースは、その軸方向と垂直な方向の外径が大きいことから、鍛造成形荷重を大きくして対応している。
【0004】
型鍛造の方法としては、閉塞鍛造と据込み鍛造とが一般に知られている。本明細書では、上型と下型とが合わさったキャビティ内に素材を完全に密閉した状態で素材を押圧する方法を閉塞鍛造と定義し、また、上型と下型とに隙間があって素材を完全に密閉しない状態で素材の一部を押圧する方法を据込み鍛造と定義して、両者を区別している。ここで、据込み鍛造において、素材を押圧するとは、素材の一部を、圧縮する、押し出す、しごく等の加工を施すことを指している。上述の閉塞鍛造では、据込み鍛造に比べて素材に圧力を加える面積が大きくなるため、より大きな成形荷重が必要であり、したがって、より大きなプレス能力のプレス機械が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3758102号公報
【特許文献2】特許第4007503号公報
【特許文献3】特開2002−239675号公報
【特許文献4】特開2007−887号公報
【特許文献5】特開2009−119481号公報
【0006】
特許文献1には、上型と下型とが合わさったキャビティ内が素材で充満される直前に背圧を除去することで成形初期には高い加圧力で素材を歯形成形部へと流動させ、かつ、キャビティ内に素材が充満されて全密閉されて成形荷重が急増する直前には上下ピンの背圧を除去して上下ピンを上下パンチの加圧方向と逆の方向へ移動できるようにすることで、初期背圧で成形された凹状の捨て穴部分と外周部の未充填部分に素材が流動しながら最終形状の厚みになるまで押し込むことができ、これによって、大きな成形荷重を必要とせずにギヤの成形が可能となり、金型に作用する面圧が小さくなるため、金型の寿命が向上すると共に、小型のプレスでギヤの鍛造が可能になることが記載されている。
【0007】
特許文献2には、パンチを保持するラムおよび当該ラムを駆動する推力発生手段を備えるフレームとダイを保持するベッドとをタイロッドによって連結した構造を有するタイロッド方式のフレームを採用した多段横型鍛造機において、金型の駆動反力を受ける部位に設けられた負荷検出手段によって、鍛造中の金型の駆動反力を監視し、当該負荷検出手段により過負荷が検出されたときに、前記負荷除去手段によって前記駆動反力を受ける部位を金型の推力発生手段の荷重伝達系統から機械的に切り離し、過負荷を瞬時に開放することが記載されている。
【0008】
特許文献3には、上閉塞ダイに閉塞荷重を設定する閉塞荷重発生手段を設けると共に、閉塞荷重発生手段に上下閉塞ダイの下降速度を制御する圧力制御手段を設けた構成により、複雑な形状の成形品や異形成形品などを成形する際、圧力制御手段により閉塞荷重発生手段の圧力を制御して素材の流動を制御することにより、精度の高い成形が可能になると同時に欠肉などのない品質の良好な成形品が得られるようになるとの記述がある。
【0009】
特許文献4には、第1ダイホルダには、第1ダイを第2ダイに対し型締めさせるダイ駆動手段と、第1パンチを両ダイ間の成形空間に押し込むパンチ駆動手段とを設ける一方、第2ダイホルダには、第2パンチと連結したピストンを内設した油圧室を設け、第2段階の鍛造に際し、第2ダイホルダの油圧室を閉じた状態で第1パンチをワークに圧入し、このパンチのワークに対する圧入量が所定値に達した段階で油圧室内の油を開放するようにした構成により、第2段階の鍛造開始に際し、第1パンチがワークに圧入されると、これによるワーク押圧力が第2ダイホルダ側の第2パンチとピストンを介して油圧室に伝達され、この油圧室で受け止められ、第1パンチのワークに対する圧入量が所定値に達すると、油圧室内の油が開放され、ピストンが第1パンチによるワーク押圧力を受けて降下し、第2パンチが第2ダイ内に没入し、その際、第1パンチの圧入部分にせん断力が作用し、ワークが打ち抜かれるとの記述がある。
【0010】
特許文献5には、成形機構を閉塞機構とは独立して駆動することにより、上下パンチでの鍛造加工中に閉塞用シリンダを動かす必要が無く、閉塞力が安定するとの記述がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、既知の型鍛造においては、依然として未解決の問題が多々ある。例えば、自動車のトランスミッション用シャフトでは、その軸の段数に応じた多工程成形用のトランスファープレスでの多段鍛造が実施されており、その軸の段数が増えることで工程数が増加し金型コストが増大することや金型数の増加に応じてプレス能力の大きなプレス機械が必要となって設備コストが増大することが問題視されている。また、CVTシャフトやベアリングレース等の外径が大きな部品を成形するためには、鍛造成形荷重を大きくしたプレス能力の大きなプレス機械が必要となって設備コストが増大する。特許文献1−5記載の鍛造方式は、いずれも、上型と下型とが合わさったキャビティ内に素材を完全に密閉した状態で素材を押圧する方法(本願では閉塞鍛造と定義している方式)であり、この点からもプレス能力の大きなプレス機械が必要となる。
【0012】
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、多段鍛造の場合の工程数の削減や鍛造成形荷重の低減を図り、プレス能力の小さなプレス機械においても従来と同等以上の加工精度で機械部品を製造することが可能な鍛造用金型装置を提供するものである。
【0013】
本発明の鍛造用金型装置は、上型と下型と油圧シリンダを備えた据込み鍛造用金型装置であって、プレス機に取り付けて使用され、前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型が前記下型に備わっているか、又は前記油圧シリンダの油圧にて押し下げるセンターパンチが前記上型に備わっており、前記油圧シリンダの油圧を上げた状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げた状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形することを特徴とする。
【0014】
本発明では、前記油圧シリンダの油圧を上げた状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、次に、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げた状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形する。例えば、前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型が前記下型に備わっている装置構成では、前記フローティング型を押し上げた状態で素材を押圧して一次成形し、前記フローティング型が押し下げられる状態で素材を押圧して二次成形することによって、ひとつの金型で複数工程を受け持つことができる。例えば、前記油圧シリンダの油圧にて押し下げるセンターパンチが前記上型に備わっている装置構成では、前記センターパンチを押し下げた状態で素材を押圧して一次成形し、前記センターパンチが押し上げられる状態で素材を押圧して二次成形することによって、素材の成形完了直前に前記センターパンチに加わる集中荷重(圧縮応力)の上昇を回避することができる。よって、本発明によれば、素材の成形完了までに要する既知の成形荷重よりも小さな荷重で所望の形状が得られる。
【0015】
前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型が前記下型に備わっている装置構成の場合は、前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型と当該フローティング型の下方に配された下段型が前記下型に備わっており、前記油圧シリンダの油圧を上げて前記フローティング型を押し上げて下段型と離した状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げて前記フローティング型と下段型とを接しさせた状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形することを特徴とする。
【0016】
本発明では、前記素材を軸方向に押圧することから、一次成形に要する成形荷重よりも二次成形に要する成形荷重のほうが成形に必要な荷重力が大きくなる。本発明によれば、前記油圧シリンダの油圧を上げて前記フローティング型を押し上げて下段型と離した状態で一次成形を行い、前記油圧シリンダの油圧を下げて前記フローティング型と下段型とを接しさせた状態で二次成形を行うことによって前記油圧シリンダの油圧力の上昇を抑えることができる。
【0017】
前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型が前記下型に備わっている装置構成の場合は、前記フローティング型と下段型とが接した状態で、前記素材を保持する内径が上方から下方に向かって段階的に小さく設定されており、前記素材を押圧して二次成形し前記素材に複数の段差を形成することが好ましい。
【0018】
本発明によれば、前記油圧シリンダの油圧を上げて前記フローティング型を押し上げて下段型と離した状態で前記上型と下型とを近づけて素材を軸方向に押圧して前記フローティング型の上方から下方に向かって段階的に小さく設定された内径にて前記素材の側面をしごいて段差(1段目の段差)を形成する一次成形を行い、前記油圧シリンダの油圧を下げて前記フローティング型と下段型とを接しさせた状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して前記下段型の上方から下方に向かって段階的に小さく設定された内径にて前記素材の側面をしごいて段差(2段目の段差)を形成する二次成形を行うこととなり、連続した金型の動作で前記素材に複数段を形成することができる。そして、前記二次成形に引き続いて、前記素材を押圧して三次成形し前記上型と下型とで前記素材にフランジを形成することによって、金型の一連の動作で前記素材からトランスミッションシャフトを製造することとなる。
【0019】
本発明は、前記油圧シリンダの油圧にて押し下げるセンターパンチが前記上型に備わっている装置構成の場合は、前記油圧シリンダの油圧にて押し下げるセンターパンチと当該センターパンチの外側に配されたリング状パンチが前記上型に備わっており、前記センターパンチとリング状パンチを押し下げた状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げて前記センターパンチを上方に動かせる状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形することを特徴とする。
【0020】
本発明では、前記素材を軸方向に押圧することから、一次成形に要する成形荷重よりも二次成形に要する成形荷重のほうが成形に必要な荷重力が大きくなる。本発明によれば、前記センターパンチとリング状パンチを押し下げた状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形を行い、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げて前記センターパンチを上方に動かせる状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形を行うことによって前記油圧シリンダの油圧力の上昇を抑えることができる。つまり、前記上型が設定位置となったところで前記油圧シリンダの油圧を抜くことで前記センターパンチが前記素材を押圧する荷重の上昇を抑えつつ、前記素材の一部に材料を分流させて二次成形することとなる。例えば、前記上型が設定位置となったところで前記油圧シリンダの油圧を抜いてその分の油圧力を前記リングパンチに振り分けることで、前記リングパンチの下面にて前記素材の上面を押圧し平坦にする二次成形を行うことができ、従来よりもプレス能力の小さなプレス機械においても従来と同等以上の加工精度で前記素材からベアリングレース等のカップ形状やリング形状の機械部品を製造することが容易である。
【0021】
本発明は、前記油圧シリンダがダイセットに内蔵されていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、前記油圧シリンダがダイセットに内蔵されていることによって、前記フローティング型又はセンターパンチと前記油圧シリンダとの距離が最短で設定され、油圧の伝達ロスが抑えられる。
【0023】
本発明では、前記上型の位置を非接触で検知するセンサを前記ダイセットに取り付けることによって、前記上型とセンサとの距離を短く設定でき、前記上型と下型との設定間隔や前記上型の設定位置を精度良く制御することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、素材の成形完了までに要する既知の成形荷重よりも小さな成形荷重で所望の形状が得られる。本発明によれば、ひとつの金型で複数工程を受け持つことで鍛造の工程数を削減でき、前記素材からトランスミッションシャフトを1つの金型で製造することができる。また、本発明によれば、従来よりもプレス能力の小さなプレス機械においても従来と同等以上の加工精度で前記素材からトランスミッションシャフトや、CVTシャフトや、ベアリングレース等のカップ形状やリング形状の機械部品を精度よく製造することが容易である。
【0025】
これら本発明によって、多段鍛造の工程数の削減や鍛造成形荷重の低減を図り、プレス能力の小さなプレス機械においても従来と同等以上の加工精度で機械部品を製造することができる鍛造用金型装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用した第1の実施形態の鍛造用金型装置を側面側から示す構造図であり、素材をセットした状態の図である。
【図2】上記構造図において、素材に1段目絞り加工(一次成形)を施した状態の図である。
【図3】上記構造図において、素材に2段目絞り加工(二次成形)を施した状態の図である。
【図4】上記構造図において、素材にフランジ加工(三次成形)を施した状態の図である。
【図5】本発明を適用した第2の実施形態の鍛造用金型装置を側面側から示す構造図であり、素材に加工を施した状態の図である。
【図6】本発明を適用した第3の実施形態の鍛造用金型装置を側面側から示す構造図であり、素材に加工を施した状態の図である。
【図7】本発明を適用した鍛造用金型装置における工程手順を示す工程フロー図である。
【図8】鍛造加工を行う機械部品を例示する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための最良の形態を以下に説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
本発明を適用した第1の実施形態の鍛造用金型装置を側面側から示す構造図を図1から図4に示す。本実施形態の鍛造用金型装置1は、上型ホルダ30と下型ホルダ40と油圧シリンダ50がダイセット60に内蔵された構成であり、プレス機200に取り付けて使用される。本実施形態では、ダイセット60の下側62がボルスタ202に取り付けられ、ダイセット60の上側61がスライド201に取り付けられている。本実施形態の鍛造用金型装置1は、円柱形状の鉄素材101からトランスミッション用シャフトを製造するために素材101を押圧し、素材101の側面をしごいて複数段付き加工を施す。
【0029】
前記上型ホルダ30には、素材101の上部を挿入させて絞り加工を施すための上型90が下向きに配されている。符号210は、素材101の上面を押すピンである。上型90には、上方から下方に向かって内径が大きくなる段差が形成されており、この段差に素材101を押し込むことで素材101の上側の側面に段差を形成する(図2等)。
【0030】
前記下型ホルダ40には、素材101の下部を挿入させて絞り加工を施すための可動フローティング型81が上向きに配されており、下型ホルダ40の下方には油圧シリンダ50がダイセット60の下側62に内蔵されている。符号208は、素材101の下面を押すカウンタパンチ2であり、カウンタパンチ208の下方には成形後の素材101を突き上げるためのノックアウトピン209が配されている。前記油圧シリンダ50は、油圧エネルギをシリンダ力に変換し、上下方向の直線運動する構成であり、リング形状のシリンダ本体にピン53が所定間隔で立設してフローティング型81を持ち上げている(図1等)。本実施形態では、4本ないし12本のピン53が等間隔で立設して配される。本実施形態によれば、前記油圧シリンダ50がダイセット60に内蔵されていることによって、フローティング型81との距離が最短で設定され、油圧の伝達ロスが抑えられる。
【0031】
本実施形態では、前記フローティング型81と下段型86とが中間ブロック84を介して接続され、フローティング型81と下段型86とが上下に分割配置されている。つまり、円筒状の中間ブロック84の上部にフローティング型81の外周が固定されており、円筒状の中間ブロック84の内周に上下にスライド可能に下段型86の外周が挿入されている。そして、フローティング型81の内径が下段型86の内径よりも大きく設定されている(図1等)。前記フローティング型81と下段型86とには、それぞれ下方から上方に向かって順に内径が大きくなる段差が形成されており、これらの段差に素材101を押し込むことで素材101の下側の側面に複数の段差を形成する(図4等)。
【0032】
図7は、本発明を適用した鍛造用金型装置における鍛造加工の工程手順を示す工程フロー図である。本実施形態の鍛造加工の工程手順は、素材101をセットする工程(符号S1)と、油圧シリンダ50の油圧を上げた状態での一次成形(符号S2)と、油圧シリンダ50の油圧を下げた状態での二次成形(符号S3)と、油圧シリンダ50の油圧を下げた状態での三次成形(符号S4)とからなる。本実施形態の鍛造加工の工程手順を図7に示す工程フロー図に沿って、以下に説明する。
【0033】
素材101をセットする工程(図7の符号S1)では、図8(a)に示す円柱形状の鉄素材101を鍛造用金型装置1にセットする。図1は、素材101をセットした状態(待機状態)であり、待機状態では、油圧シリンダ51の油圧は低圧でフローティング型81を押し上げて保持しており、前記フローティング型81と下段型86とが離されて、隙間(空間)B1が形成される。ここで、符号D1は、上型90の下面からボルスタ202の上面までの距離を表しており、符号C1は、上型90の下面からフローティング型81の上面までの距離を表している。符号B1は、フローティング型81の下面から下段型86の上面までの距離(隙間)を表しており、符号A1は、中間ブロック84の下面から下段型86の下面までの距離(隙間)を表している(図1)。このとき、隙間A1と隙間B1との大きさは等しく設定される(A1=B1)。
【0034】
素材101をセットすると、油圧シリンダ50の油圧を上げた状態で一次成形を行い(図7のS2)、図8(b)に示す1段目絞り加工を施す。図2は、素材101に1段目絞り加工を施した一次成形の状態図であり、一次成形では、油圧シリンダ51の油圧は高圧でフローティング型81を押し上げて保持しており、前記上型90をフローティング型81に近づけて(符号C2<C1)、素材101を軸方向に押圧し、上型90の段差に素材101を押し込むことで素材101の上側の側面に段差を形成し、フローティング型81の段差に素材101を押し込むことで素材101の下側の側面に1段目絞り加工を施す。このとき、隙間A2と隙間B2との大きさは等しく設定される(A2=B2)。
【0035】
素材101に一次成形を行うと、油圧シリンダ50の油圧を下げた状態で二次成形を行い(図7のS3)、図8(c)に示す2段目絞り加工を施す。図3は、素材101に2段目絞り加工を施した二次成形の状態図であり、二次成形では、油圧シリンダ51の油圧を逃がし低圧としてフローティング型81をフリーにさせ、前記上型90をフローティング型81に近づけて(符号C3<C2)フローティング型81の下面を下段型86の上面に当接させ、素材101を軸方向に押圧し、下段型86の段差に素材101を押し込むことで素材101の下側の側面に2段目絞り加工を施す。このとき、隙間A3と隙間B3との大きさはゼロである(A3=B3=0)。
【0036】
素材101に二次成形を行うと、油圧シリンダ50の油圧を下げた状態で三次成形を行い(図7のS4)、図8(d)に示すフランジ加工を施す。図4は、素材101にフランジ成形加工を施した三次成形の状態図であり、三次成形では、油圧シリンダ51の油圧を逃がし低圧としてフローティング型81を下段型86の上面に当接させた状態で、前記上型90をフローティング型81に近づけて(符号C4<C3)、素材101をさらに押圧し、上型90の下面とフローティング型81の上面とで形成された隙間(符号C4)に前記素材101の材料の一部を分流させてフランジ(鍔)を形成する。このとき、隙間A4と隙間B4との大きさはゼロである(A4=B4=0)。
【0037】
既知の型鍛造においては、トランスファープレスでの多段鍛造が実施され、一次成形と二次成形と三次成形では、それぞれ別個の金型を使用している。本実施形態によれば、一次成形(1段目絞り加工)と二次成形(2段目絞り加工)と三次成形(フランジ加工)をひとつの金型にて実施できるので工程数が削減され、金型数の削減によって、従来よりも小型のプレス機での鍛造成形が可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
本発明を適用した第2の実施形態の鍛造用金型装置を側面側から示す構造図を図5に示す。本実施形態の鍛造用金型装置1は、上型90、下型80、上パンチ20、下パンチ208及び油圧シリンダ50がダイセット60に内蔵された構成であり、プレス機200に取り付けて使用される。本実施形態の鍛造用金型装置1は、円柱形状の鉄素材102からCVTシャフトを製造する。なお、上述した実施形態と同じ機能の構成部品については同一符号を付与し、その説明を一部省略している。
【0039】
本実施形態では、プレス機200に取り付けた上型90を下型80に近づけながら油圧シリンダ50の油圧を上げてセンターパンチ20を下型80の方向に押し下げて、素材102を軸方向に押圧して、上型90が下死点手前数mm(手前1〜5mm程度)となるまで加工し、次に、上型90の下面が設定位置となったところで油圧シリンダ50の油圧を抜くことでセンターパンチ20が素材102を押圧する荷重の上昇を抑えつつ、素材102の上方向に素材の逃げ空間を作り、この逃げ空間に素材102の一部を逃がしつつ、素材102の材料の一部を分流させてフランジ(鍔)を成形する(図5)。
【0040】
本実施形態によれば、前記センターパンチ20を押し下げた状態で素材102を押圧して一次成形(1段目絞り加工)し、上型90と下型80との間隔が設定間隔となったところで油圧シリンダ50の油圧を抜いて前記センターパンチ20が押し上げられる状態とし、引き続き素材102を押圧して二次成形(フランジ加工)するので、素材102の成形完了直前に前記センターパンチ20に加わる集中荷重(圧縮応力)の上昇を回避することができる。したがって、本実施形態によれば、素材102の成形完了までに要する既知の成形荷重よりも小さな荷重で所望の形状が得られる。
【0041】
また、本実施形態では、上型ホルダ30に取り付けられた上型90の下面の高さ位置を非接触で検知する近接センサ99が、下型80の上面側に配されている。これによって、上型90の下面と下型80の上面との設定間隔の大きさや上型90の下面の高さ位置を精度良く制御することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
本発明を適用した第3の実施形態の鍛造用金型装置を側面側から示す構造図を図6に示す。本実施形態の鍛造用金型装置1は、上型ホルダ30と下型ホルダ40と第1の油圧シリンダ(分流シリンダ)50と第2の油圧シリンダ(背圧シリンダ)52とが一体的にダイセット60に配置された構成であり、プレス機200に取り付けて使用される。前記上型ホルダ30には、円筒状の上型92が固定され、上型92の内側にはセンターパンチ21が配されており、上型92の外側にはリング状パンチ22が配されている(図6)。本実施形態の鍛造用金型装置1は、円柱形状の鉄素材103からベアリングレース等のカップ形状やリング形状の機械部品を製造する。なお、上述した実施形態と同じ機能の構成部品については同一符号を付与し、その説明を一部省略している。
【0043】
本実施形態では、プレス機200に取り付けた上型92を下型80に近づけながら分流シリンダ50の油圧を上げてセンターパンチ20を下型80の方向に押し下げて、カウンタパンチ208とで素材103を軸方向に押圧して、上型92が下死点の直前となるまで加工し、次に、上型92の下面が設定位置となったところで分流シリンダ50の油圧を抜くことでセンターパンチ20が素材103中央側の上面(窪み面)を押圧するために要する荷重の上昇を抑えつつ、前記分流シリンダ51から抜いた分の油圧力を背圧シリンダ52に振り充てて、前記リング状パンチ22の下面にて素材103の外周側の上面を押圧し平坦にする(図6)。
【0044】
本実施形態によれば、従来よりもプレス能力の小さなプレス機械においても従来と同等以上の加工精度で前記素材からベアリングレース等のカップ形状やリング形状の機械部品を製造することが容易である。
【0045】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。前記ダイセットに複数の油圧シリンダを備えて複数の油圧回路を構成することもできる。複数の油圧シリンダを備えることで、例えば前記素材に三段以上の段差を形成する等、前記素材にさらに複雑な加工を施すことが可能となる。また、前記上型と下型の位置関係は相対的なものであり、前記上型の位置は、上下左右のいずれの位置とすることが可能である。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1 鍛造用金型装置、
20 パンチ(センターパンチ)、
30 上型ホルダ、
40 下型ホルダ、
50、51 油圧シリンダ、
60 ダイセット、
70 マニホールド、
80 下型、
81 フローティング型(下型)、
86 下段型、
90、92 上型、
100 素材(ワーク)、
200 プレス機、
201 スライド、
202 ボルスタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型と油圧シリンダを備えた据込み鍛造用金型装置であって、プレス機に取り付けて使用され、前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型が前記下型に備わっているか、又は前記油圧シリンダの油圧にて押し下げるセンターパンチが前記上型に備わっており、前記油圧シリンダの油圧を上げた状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げた状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形することを特徴とする鍛造用金型装置。
【請求項2】
前記油圧シリンダの油圧にて押し上げるフローティング型と当該フローティング型の下方に配された下段型が前記下型に備わっており、前記油圧シリンダの油圧を上げて前記フローティング型を押し上げて下段型と離した状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げて前記フローティング型と下段型とを接しさせた状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形することを特徴とする請求項1記載の鍛造用金型装置。
【請求項3】
前記フローティング型と下段型とが接した状態で、前記素材を保持する内径が上方から下方に向かって段階的に小さく設定されており、前記素材を押圧して二次成形し前記素材に複数の段差を形成することを特徴とする請求項2記載の鍛造用金型装置。
【請求項4】
前記二次成形に引き続いて、前記素材を押圧して三次成形し前記上型と下型とで前記素材にフランジを形成することを特徴とする請求項3記載の鍛造用金型装置。
【請求項5】
前記油圧シリンダの油圧にて押し下げるセンターパンチと当該センターパンチの外側に配されたリング状パンチが前記上型に備わっており、前記センターパンチとリング状パンチを押し下げた状態で前記上型と下型とを近づけて素材を押圧して一次成形し、前記上型と下型との間隔が設定値となったところで前記油圧シリンダの油圧を下げて前記センターパンチを上方に動かせる状態で前記上型と下型とをさらに近づけて前記素材を押圧して二次成形することを特徴とする請求項1記載の鍛造用金型装置。
【請求項6】
前記油圧シリンダがダイセットに内蔵されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の鍛造用金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−24838(P2012−24838A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168717(P2010−168717)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(510205881)株式会社イフカム (1)
【Fターム(参考)】